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未来を置き去りにしてバイトをする
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79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/06(火) 03:07:53.03 ID:tHueZodT0
>>78
のような良いガキは嫌いだよ
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/06(火) 03:11:51.71 ID:tHueZodT0
途中送信してしまいました
2の処理を行います
「あ,いえ.もう少しで着くようなので,頑張ります」
「ふふ,なら道すがら,私がしゃべっていますから,聞き流してください.
相槌もいりませんから」
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/06(火) 04:27:15.16 ID:tHueZodT0
「IOT製品に対するサイバー犯罪と聞いて,なにを想像しますか.
仮にそのPAIならば,個人情報の抜き取りと遠隔操作でしょうか.
よくニュースで報道されるのは,金銭的な被害やプライバシーの侵害です.
ですが,犯罪がより高度化すると,異なる様相を呈します.
例えば,個人情報は企業にとって喉から手が出るほど欲しいものです.
ユーザーの個人情報を収集することで,企業が提供するサービスや商品をより洗練されるでしょう.
それは莫大な利益を生む一方で,ユーザーの知られたくない個人情報にまで足を踏み入れる.
実際,多くの企業は法が整備されてもなお,罰金を払いながら,個人情報を不正に得ていました.
おっしゃりたいことは分かります.これは百地さんが生まれる前のことです.
今は政府の開発した人知を超えた人工知能Gungnirがそういった事態をコントロールしています.
一度接触しましたが私ごときが表現するのも恐れ多い,ずぬけた賢知をもった正真正銘の予言者です,彼はね」
男仁さんは,真顔でそう賞賛した.ひきつった頬が,その恐ろしさを表しているのかもしれない.
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/06(火) 04:53:56.61 ID:tHueZodT0
「企業による組織的犯罪はGungnirがしきる形でひと段落つきました.
彼が情報収集を一手に引き受けて,企業に情報を渡す.不正な情報の抜き取りは検知され,止められる.
はたからみると遅々とした動きでしたが,気づけば,彼に従わざる負えなくなっていたのですから,恐ろしい.
さて,そんな彼でも無数の個人による犯罪に関しては手を焼いていまして,同時に被害者でもあります.
それが,遠隔操作によるDDoS攻撃への加担です.
DDoS攻撃とは,大量のマシンを用いて,対象のウェブサービスに過剰な負荷を掛けて,サービスを妨害することです.
これは2000年代初期にも行われていたものですが,IOT製品が拡大するにつれて被害も大きくなりました.
簡単に言えば,自宅の電灯が,政府の人工知能であるGungnirに対するDDoS攻撃に加担していた,なんてことが
現実に起こりました.
公共機関は全てGungnirによって守られていますが,もしそれを破られればガス電力水道がすべて犯罪者の手に渡ります.
つまり,誇張無しに彼は毎日,日本の存亡と戦っているといえます.
とはいえ,これが個人へ向けられたとしても,対処しがたい.過剰な負荷を掛けられれば例えば,車が止まってしまうことがあります.
エレベーターが止まってしまうことだってあります.
それで死亡事故が起きたとき,百地さん,あなたが犯人扱いされる危険性があるのですよ.
実行犯であるPAIはあくまで人口知能ですから,捕らえることはできません.破壊することはありますがね」
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/06(火) 05:07:28.22 ID:tHueZodT0
今日は終わりです
推理コメントすごく嬉しかったです
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 01:09:11.00 ID:93Us6h4j0
ユウマ: PAI,質問がある
PAI: なんでしょうか
ユウマ: PAIは男仁さんが言ったような事態になる確率は,どれくらいだと思う?
PAI: 現在は,限りなく低いです.また今後は段階的にセキュリティのアップグレードをします
ユウマ: よろしく頼む
PAIとはなんだかんだ半年以上共に過ごしている.信頼がないわけでは,なかった.
だから,僕は男仁さんにこう相槌を打った.
「お話し,ありがとうございます.これから,PAIもセキュリティに注力してくれるみたいなので,様子を見てみます」
「そうですね,被害が出てからでは遅い.未来を見据えて動かないと後悔ばかりです」
男仁さんは,肩の筋肉を盛り上げた.
どうも彼は未来を見据えた結果,筋トレをするべきだという判断を下したようだ.
それがなんだか羨ましくて,僕は思わずため息をこぼした.
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 01:36:16.54 ID:93Us6h4j0
中心部のコンクリートジャングルを外れて,郊外をえっちらおっちら歩いていると,人通りが減っていくのが分かった.
代わりに,雑木林を道路の両脇にちらほら見かけるようになる.
男仁さんが相変わらず周囲を見回しながら,言った.
「この辺りは,開発から取り残されているのです.駅も近くにありませんし,ショッピングモールもない.
土地に染みついた陰気な気配を人は敏感に感じ取ってしまうのでしょうね」
言われてみると,樹木の間に,雨泥にさらされ黒ずんだ墓がいくつも立っていた.
墓はいくつかのグループに別れているようで,綺麗な大理石で戒名が刻まれた集団から,吹けば飛びそうな集団まであった.
印象的なものとして,豪奢に装飾された白い十字架の集団を見かけた.
異国で,骨を埋める覚悟とはどんなものだろう.僕も,両親と同じ墓に入れられるのは御免だが,一人は少し,寂しくもある.
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 02:06:24.42 ID:93Us6h4j0
男仁さんはそんな僕を見て,呟いた.
「不気味ですか?」
「いいえ.夜にこの通りは歩くのは遠慮したいですが」
「今日は,夜までかからないはずです.それに,二人なら襲われてもなんとかなるでしょう」
僕はともかく男仁さんを襲おうとする奴は,そういないだろう.
「もし私が相手の立場なら,どちらかといえばアウトローなのは百地さんですから,警戒しますね」
「履歴書の特技欄に農耕機を扱えると書いた男は,アウトローなのですか」
男仁さんは,口を開けて横隔膜を振動させた.笑っているのだと気づいたのは,しばらくしてからだった.
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 02:22:57.93 ID:93Us6h4j0
さて,とうとう最初の目的地であう昇天斎場が現れた.
体育館程度の大きさのそれは.灰褐色のブロックを適当に積み上げたらできたような歪な造形だった.
上下左右に無理やり部屋を加えたような箇所があって,微妙に色が変わっているのが分かる.何度か増築しているのかもしれない.
「私たちは,従業員入口から入ります」
男仁さんの後を追って,建物を大きく一周し,裏へと回る.
男仁さんは,黒色の扉の前に立ち,今はてんで見かけなくなったインターフォンを鳴らす.
すると,甲高い電子音が鳴り,錠が解除される音がした.ひとりでに,扉が開く.
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 02:39:57.66 ID:93Us6h4j0
扉の奥にいたのは,車いすに座った一人の少女だった.
一文字に揃えられた前髪の下で,薄い琥珀色の瞳が瞬く.
「こんにちは,おにさん」
男仁さんは,屈んで視線を合わせて,言う,
「こんにちは」
少女は小首を傾げた.
「おにさんが遅刻するなんて,めずらしいです」
「すみません.今日はバイトの新人を連れていまして,私が話に夢中になってしまったのです」
こちらが,新人の百地悠真君」
立ちすくんでいた僕は,慌てて頭を下げた.
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 02:45:09.88 ID:93Us6h4j0
少女は,小さく息を呑みこんでから,喉を震わせる.
「しつれいしました.わたしは,昇天斎場の納棺師を,つとめています.猿山鈴音と,もうします,
…どうか,この目のことは,お気になさらないでください」
その間,少女の瞳の焦点は,宙をさまよっている.僕が初めて出会った,盲目の子だった.
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 02:55:08.29 ID:93Us6h4j0
自己紹介のあと,猿山さんはおぼつかない手つきで低い位置で,壁からつりさげられている紐付きカードを二つ手に取った.
「入館中は,この入館許可証を身に付けて下さい」
少女がおずおずと差し出したそれを,受け取る.
受け取った入館許可証はハガキ一枚ほどの大きさで,黒く不気味な光沢を放っている.
それを僕たちがつけたことを確認してから,猿山さんが廊下にそって車いすを静々と進めた.
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 03:25:50.32 ID:93Us6h4j0
一面灰色の廊下では,天井に取り付けられたLED光は調整されており,厳かな雰囲気を保っているのが分かる.
そして,奥に進むにつれて,アルコール消毒液とお香が混ざった匂いが鼻孔をくすぐる.
前を進む,猿山さんは気にも留めていない様子だ.
僕は,背後からそれとなく,猿山さんを観察する.
上下ともに黒色で,七分袖のワンピースにロングスカートである,申し訳程度にジャケットを羽織っているのは,冷房の効いたこの建物にいるからだろう.
服装に対比するように,手足は雪のように白くてか細い.そして朧げに宙を眺める瞳と,筆でさっと引いたような薄い唇はどこか現世離れした雰囲気を醸し出す.
そんな彼女も耳元には,一見イヤホンのような小型のPAIを取り付けている.恐らく,障碍者用の高価なものだ
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 03:37:01.77 ID:93Us6h4j0
ふと,男仁さんは思い出したようにその猿山さんへ,声を掛けた.
「鈴音さん,まず百地君を休ませてあげたいのですが,何か良い場所はありますか?」
鈴音さんは顔を持ち上げて,答える.
「えっと,今は使われていない,事務室がこの先にあります.ですが,パイプ椅子くらいしか,なかったと思います」
「ええ,それで十分です.百地君をそこに待機させてから,作業をしましょう.」
疲れているから,作業をしなくてもよいという気遣いはありがたい.
けれど,もし頑張ればなにか情報を得られるかもしれない.
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/18(日) 03:38:32.43 ID:93Us6h4j0
安価直下で男仁さんへの返答を1,2のどちらかを選んでください
1 「分かりました,休ませてもらいます」
2 「僕もその作業を手伝います」
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/18(日) 04:16:25.63 ID:HCgHMfN4o
2
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/03/18(日) 14:31:23.84 ID:bSf3Smmn0
2しかねーよな
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/20(火) 06:39:08.66 ID:NAPZo2aD0
2の処理を行います
「僕もその作業を手伝います」
男仁さんは静かに言った.
「気持ちだけ受け取っておきます.
百地さんにしてもらうのはあくまで運送です.それ以外は含まれていませんから.それでももし,興味があるなら...ウチの会社に就職してからですね」
そういえば,余計な詮索をするなというようなことを言われていたのだった.尋ね方が露骨だったかもしれない.
「すみません」
「いいえ,実のところウチの会社に百地君が来てくれると助かりますので,もしその気になりましたら,私に連絡をください」
僕は男仁さんから名刺を受け取った.いつか,路頭に迷ったらこの名刺に頼ることもあるかもしれない.
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/20(火) 07:03:11.51 ID:NAPZo2aD0
猿山さんに案内されたのは,閑散とした事務室だった.
何脚かのパイプ椅子と長テーブルがあり,棚にはファイルや本が詰められている.
どことなく埃っぽいが,贅沢は言うまい.
僕はアタッシュケースを渡してから,腕の強張った筋肉をさする.
微かな達成感と疲労が,肩にのしかかる.
男仁さんは,僕に椅子を勧めてから,軽々とアタッシュケースを4荷持ち上げて言った.
「さて,それでは私も作業を開始しましょう.およそ一時間程度で済むと思いますので,それまでここで休憩していてください」
僕は,男仁さんと猿山さんが部屋から出ていくのを見送った.
今ならこの事務室で,探索できるだろう.
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/20(火) 07:08:31.06 ID:NAPZo2aD0
1 猿山さんについて
2 本棚に立ててある本を開いてみる
3 昇天斎場について
直下のコンマ00〜80で1,2,3全てを行います.
81〜90で1,2を行います.
91〜99で1のみを行います.
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/20(火) 08:45:05.91 ID:S7eFgFnLo
よ
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/20(火) 17:48:19.55 ID:4fGj4WkDO
通例通りなら高コンマが良い結果をもたらすものだが、情報不足はおっかないものがあるな
しかしここは勝手の分からない場所でもあるし、もし監視カメラでもあろうものなら詮索しているのも筒抜けになるしなぁ
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/20(火) 20:15:23.42 ID:NAPZo2aD0
1の処理を行います
猿山さんについて,考えてみよう.
ユウマ: そういえば,彼女は納棺師であると言っていた.どんな職業なんだろう?
PAI: 遺族や参列者が対面できるように,遺体の状態を管理しつつ,見栄えを整えるのが納棺師の役割です.
具体的には,ドライアイスで身体全体を冷やし,腐敗の進行を抑えたり,顔剃りや化粧等を行います.
ユウマ: それって,その,目が見えなくてもできるのか
PAI: 盲の度合いと,彼女の持つPAIの性能次第でしょう.直接尋ねたほうがよいかもしれません.
ユウマ: それは失礼だと思ったんだ
PAI: 尋ね方を工夫すれば,大丈夫だと思われます.また,彼女もそういう質問を経験されているでしょう
ユウマ: そういうものかな...
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/20(火) 20:33:45.52 ID:NAPZo2aD0
しばらくして,部屋に男仁さんと猿山さん,そしてスーツ姿で真面目そうな男がやってきた.
猿山さんと.スーツ姿の男はどこか浮かない様子である.
・・・情報不足のため,スーツ姿の男について,思い当たることはなかった.また話しかける雰囲気ではない.
そして,アルコール消毒液の匂いに隠れるようにして,その三人からどこかで嗅いだ匂いが漂ってくることに気づいた.
例えるなら,腐った生ごみと錆びた鉄の混ぜ合わさったような臭い.
一度気づいてしまえば,生理的嫌悪で身の毛がよだつほどである.
こんな臭いを僕は一体どこで嗅いだのだろう...?
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/20(火) 20:38:43.13 ID:NAPZo2aD0
安価直下でお答えください
ユウマが今までにその臭いを感じた場所はどこだと考えられるだろうか?
1 田中ITコンサルティング
2 斎場までの道中
3 いや,気のせいだ
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/20(火) 21:06:00.64 ID:AwKBvAw6o
3
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/22(木) 11:27:14.18 ID:v5T5lOXDO
鈍感力が試されるな
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/23(金) 22:49:40.28 ID:aN8X74Oh0
3の処理を行います
僕はその臭いを振り払うように,かぶりを振った.
考えすぎなのだ,この仕事を滑らかに終えるには,男仁さんが言っていたように僕はロボットになるべきだ.
男仁さんから,すこし重くなったアタッシュケースを2つ受け取り,出発の準備をする.
その間に一つ印象的だったことがある.車いすのひじ掛けに置かれた猿山さんの手は,スーツ姿の男によって握りしめていた.厳しい表情の男に対する彼女の
憐れむような表情.あるいはどうにもならないのだと諭しているような雰囲気が,彼女らをこの場から孤立化させている.
それから,彼女らに付き添われて,さきほどの従業員用出入り口へ向かった.
形式ばった礼を言って,立ち去ろうとした男仁さんに,スーツ姿の男は威圧するように言った.
「例え,あなたができなくても,他の方でできるという人はいるんだ.
もう協力することはないと思ってほしい」
男仁さんは,肩を竦めた.
「構いません.ですが,勢い余って彼女の命を縮めることにならないよう,ご考慮ください」
意味を成さない喚き声を上げた男だったが,隣にいる猿山さんを気遣ってかそれ以上は何も言わなかった.
一方で猿山さんは最初に会った時と同じ調子で,別れを告げた.
「おにさん,ももちさん.どうかお元気で」
急かすように男が彼女を扉の奥へ運ぶ前に,彼女がこちらを見て唇を動かした.
即座にPAIが読み取ってくれる.
PAI: 『SADに気を付けて』,誰に向けられた言葉なのかは,分かりかねます
ユウマ: SADって何を指しているんだろう?
PAI:いくつか候補は考えられますが,情報不足です.情報が出そろい次第,報告いたします
ユウマ: 頼む
午後から天気が崩れるとPAIは言っていた.それまでに終わればいいのだが.
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/23(金) 23:08:41.44 ID:aN8X74Oh0
斎場から歩いて数分のところに,寂れた公園があった.
危険性のある遊具はすでに撤去されて,地面は雑草による浸食がすすみつつある.
男仁さんが.斎場から頂いたという弁当を受け取り,もそもそと箸を進める.
先ほどのこともあって,沈黙は苦痛である.
とりあえず,話題を振ることにした.
直下のコンマ00〜80で1,2,3,4を行います.
81〜90で1,2,3を行います.
91〜99で1,2を行います.
1 昇天斎場について
2 これから向かう港区の大倉庫について
3 「すごい剣幕でしたね.あの人」
4 どうせだからSADについても聞いてみよう
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/24(土) 00:15:43.02 ID:RQ9IlSOL0
すみません自分でとります
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/24(土) 00:18:32.94 ID:RQ9IlSOL0
1,2,3,4の処理を順に行います
1昇天斎場について
「昇天斎場って,結構大きいんですね」
男仁さんは,周りの建物から二歩も三歩も高い昇天斎場を眺めて,答える.
「この辺の斎場では.一番大きいです.なにせ代々から続いているので,地域に根付いているのが要因のようですね.特に最近は裾を広げることに力を入れて
いて,外国の方から無縁仏まで受け入れるようになったそうです」
そういえば,来るときにそれらの墓を見たことを思い出す.
「私が,ここに葬られるのは勘弁願いたいところです.仕事先ではおちおち眠れないですから」
皮肉っぽく,付け加えた.
ついさっきまで,仕事を打ち切られそうな雰囲気だったのに気にしていない様子だ.
それは,自信の裏返しなのだろうか.
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/24(土) 00:25:57.08 ID:RQ9IlSOL0
2 港区の大倉庫について
「行ったことがないのですが港区の大倉庫とは,海岸沿いにクレーンが設置されていて,コンテナが積んである場所ですか」
PAIの資料を眇めつつ話しかける.
「ええ,その通りです.あそこは潮の香りがなんともきつくて苦手です」
顔をしかめる男仁さんに,多少驚く.
そういうのを気にしない人物だと勝手に思っていた.
「とはいえ,あそこはこの都市における玄関です.よく見ていると,面白いものが船から出てきますよ.それにあそこに勤めているのは大半がアンドロイドで
すから,ちょっとした感銘を受けると思います」
僕の活動範囲ではアンドロイドの集団というのは,見かけない.
心がわずかに浮き立つのを感じた,
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/24(土) 01:54:41.85 ID:RQ9IlSOL0
3 「先ほどの方,すごい剣幕でしたね」
男仁さんはこちらをちらりと見てから,答えた.
「こちらの仕事に満足していただけなかったようですね.驚かせてしまい,すみません」
「いえ,それは大丈夫だったのですが…」
僕が気になっているのはむしろ,男仁さんが発した『勢い余って彼女の命を縮めることにならないよう,ご考慮ください』という言葉だった.
しかし,それを聞くと,秘密に立ち入ってしまう.だから口をもごもごと動かすしかできないのだった.
男仁さんは.なにかを察した様子で箸をおいた.
「もし,気になるなら,彼女に直接尋ねてみることです.私の口からは,なにも話せません」
仰るとおりで,男仁さんには個人情報を守る義務がある.
嫌でも実感することだが僕は,こういう場面で頭が回らないんだ.理屈ではなく,感情で行動してしまう.
だから,僕は不手際をごまかそうと口からぽろっとこぼしてしまった.
「いや,そのSADというのが気になってしまって…」
言ってしまっては後の祭りである.
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/24(土) 02:33:34.93 ID:RQ9IlSOL0
瞬間,男仁さんの周りの温度が数度下がった気がした.
彼の全身の筋肉が硬直し,強張る.弁当を傍らにおいて両腕が自由になり,脚が土を踏みしめる.
敵意というには婉曲に過ぎて憚れるほどの,殺意が僕に向けられている.
「百地さん,誰からその名前を聞きました.そして,なぜ,今会話にだしたのです?」
「さ,猿山さんが呟いたのを見たんです.それで,不思議に思って」
「呟いたのを見た…ああ,そのPAIで読唇したのですね.なるほど部分的には憎いほどに高性能に,不正にカスタマイズされている」
男仁さんがゆっくりと手をこちらへ伸ばす.視界が埋まるほど,大きな掌が広がっていく.
触れる直前で,PAIが耳障りな警告音を発した.
対暴漢用のシステムでこの状態でもし,PAIに触れれば,強力な光を前面に発射し,視界を奪うだろう.
男仁さんはそこで手を止めた.
「確かに,彼女はそう言いました.ですが,それを部外者が不正に入手して,理解するのはまずいのです.
また,他にどんな機能がついているのか,分かったものではありません.それはきっと貴方も同じことです,そうでなければこんな迂闊な発言はしないでしょう,
これからの貴方の安全を守るために言います.この仕事の最中は,私にそれを預けて下さい」
男仁さんは,話している間,つとめて冷静であろうとしているようだった.
嘘をついている様子は見受けられない,
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/24(土) 02:36:38.98 ID:RQ9IlSOL0
安価直下でお答えください
1 男仁を信用できないので預けない
2 預ける
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/24(土) 12:50:46.64 ID:feIRQ3OFo
うわ、難しいな…PAIを取るか男を取るか
壊されたりしたら後々詰みそうだしな
安価下
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/24(土) 14:52:47.04 ID:+HDAHkEsO
おにさんが信じられないわけではないがPAIの忠犬っぷり見てると渡しづらいな
安価下
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/24(土) 14:53:42.90 ID:Wjr6PI3WO
2
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/27(火) 20:00:56.57 ID:zuaD20bY0
2の処理を行います
男仁さんの要求は、筋は通っているように思える。
猿山さんの言葉が男仁さんに向けられたのならば、盗み聞くような真似はするべきではなかった。
それで、彼がPAIを信用できないと言うのは当然だろう。
そしてPAIの数々の機能を便利なものだとしか今まで考えていなかったのだから、責任は僕にある。
僕は謝罪すると同時に、PAIを男仁さんに引き渡した。
これから、今日一日、探索する気分にはならないだろう。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/27(火) 20:05:38.47 ID:zuaD20bY0
男仁さんはどこからともなく取り出した小さなケースに、PAIをしまった。
「すみません。仕事にししよ」
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/03/27(火) 20:23:08.85 ID:zuaD20bY0
男仁さんはどこからともなく取り出した小さなケースに、PAIをしまった。
「こちらこそ、申し訳ありません。仕事が終わり次第に返却致します」
男仁さんにPAIをどうこうする気はないようだ。
少しだけ安心する。
それからしばらく弁当を食してから、一路港区の大倉庫へ向かった。
会話相手にPAIがいないのは、どことなく落ち着くことがてきなかった。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/11(水) 00:28:50.86 ID:fXM3dj5i0
灰色の霞がかった曇りが,空に広がる.
それを気象衛星が察知し,当該地域の気温と湿度を鑑みて,天候を予測する.
その情報は,街に瞬く間に広がり,様々な反応を示す.
ビルやマンションの屋外に設置された空調機があわただしく稼働し始めたり,横断歩道に設置された信号機の灯器表示の時間間隔がわずかに変化したりする.
街の息遣いとでもいうのだろうか,街が生き物のように感じられるこの瞬間はついに慣れることができなかった.
ラーメン屋のバイト仲間曰く,この街に住む人々とこの街は鏡であるそうだ.
市民にとってこの街は理想郷であるのに対して
弱者である僕にとってこの街は市民としての権利を行使できない暗黒郷である.
だから,僕が慣れ親しむことができないのは当然なのだとアイツは麺を茹でながら笑った.
それを思い出すと,街にとっての僕は心が通じない異物なのだと,一層強く感じてしまうのだった.
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 01:15:58.45 ID:etJYgP1F0
大倉庫への道のりは,居心地の悪い静寂に包まれていた.
時折脇を通るトラックは電気を消費して走っているのでガソリンを燃やすようなことはしていない.さらに,歩けば歩くほど人通りは少なくなっている.
大倉庫のある湾岸部周辺は,無機質な工場とその駐車場に占領されつつあった.
そして,その工場から出てくるのは,どれも人型に近いアンドロイドだ.そのどれも頭部には顔が描かれておらず,黒色のカバーによって覆われている.その
カバー越しに,ランプが点灯して,作業をこなしている.移動の中核を担う脚部は正座をしているかのように折りたたまれており,見たところ両脇に取り付け
られた車輪で移動しているようだった.
思わず目を奪われていた僕に,気づいた男仁さんが声を掛けた.
「彼らは,人間より遥かに頑丈で力強いです.ただ,自分で考えることはできないので,そこは人間の出番ですね」
「あのロボットたちは,AIを搭載していないんですか?」
男仁さんは首を振って,答えた.
「彼らは,弱いAIです.命令を聞き,決められた答えしか返せない.かのPCにあたる前世代の遺物ですが,今の産業にそれ以上は望まれていません.
なにせ今の時代人権というものが真らしく囁かれているものですから,燻っている火種は敬遠されがちです」
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/28(土) 15:04:52.46 ID:6Az4MCq0O
乙
ゆっくり読んでたが追いついてしまった。続きが気になる
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/05/16(水) 04:01:31.66 ID:Wnz2PVY60
曖昧な微笑みを返す僕に,男仁さんが人差し指を挙げて説明してくれる.
「簡単に言えば,こうです.我々は自分らと同等,あるいはそれ以上の知能を持つ存在とどう接するべきか悩んでいるのですよ.敬意を払うべきという方もい
ますし,あくまで人類が創造主なのだから,被創造物に『遠慮』は必要ないという方もいる.ただ彼らに共通しているのは,それが人類に仇なす存在になった
ときを恐れているということです」
朝,PAIにそんな話を聞かされた気がする.PAIの意見では,人工知能が人類に反逆する可能性があると言っていたが,実際人類側は誰にも分かっていないよう
だ.そして誰も未来への責任はとれないでいる.それも当然なのだと思う.一人で背負うには重すぎるから,みんなで考えて背負う必要があるのだ.
「そういった事情を踏まえればこれから向かう大倉庫の管理者は非常な変わり者です.
なんと.彼はそこで働くロボットに知能を与えることを許可したのです.だから.大倉庫へ着いたら,百地さんも頭に入れておいてください.一見彼らの振る
舞いは人間的ですが,AIであるということを」
PAIみたいなことを言うのだな,と僕は思った.
PAIを始めとして一般的な人工知能は知性が備わっていて,感情があるように見せているだけだ.
出会った当初,PAIは自身のことをそう表現した.それが原因で僕はPAIに名前を付けなかったのだが,今思い出すと
なんだか胸がムカムカしてくる.この苛立ちにも似た不快な感情の原因を今のPAIは説明できるのだろうか?
もしできるなら,所詮機械だったはずのPAIが,僕よりも百地悠真のことを理解していることになる.
僕はすこしだけ,愉快な気持ちになった.
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/05/17(木) 04:04:42.90 ID:aS5DfyA80
そんなことにほくそ笑む自分に嫌気が刺してきたころ,数基のガントリークレーンがその首を天高く持ち上げているのが見えてきた.丁度,貨物船に載せられ
たコンテナを港へ運び入れているらしく,コンテナがゆっくりとスライドしながら船上から現れるのが分かる.
「これまでは人間が.ガントリークレーンに乗り込んで高度数十メートルから操作していたそうですよ.今では,画像認識の技術が発展して,砂漠の中から蟻
を見つけ出すことさえ可能になったのでAIが代わりにやっているはずです」
赤と白で交互に塗られた巨大なガントリークレーンのどこかに,AIが備わっているのだろう.これがもし故障して,暴れたら大変だなと他人事のように思った.
目的の大倉庫はガントリークレーンからすぐ近くの埠頭にそって立ち並んでいた.
三角屋根にしっかりとした構えで,その口は長方形の扉で閉ざされている.
男仁さんは無警戒に,道路から外れ大倉庫の敷地へ入っていく.
慌てて,僕もついていく.ガントリークレーンのある方向からのコンテナを運ぶ雑音に紛れて,倉庫内でなにか重いモノが移動する音がする.
大男である男仁さんの二倍以上の高さをもつ扉の前に立った,男仁さんが辺りを見回す.
「さて,ここで待ち合わせの予定なのですが...姿が見えませんね」
確かに,目に入るものと言ったら敷地の隅に置かれたフォークリフトくらいだ.
「ほっほっほっ,ここにおる」
鈴の転がるようなハスキーボイスが,すぐそばから聞こえた.
ぎょっとして背後を振り返ると,扉の奥から茶目っ気たっぷりな咳払いが聞こえた.
「開けてやるから,ちょっと下がっておれ」
ゴゴゴという重低音と共に,扉がスライドして横に移動する.
そこから,現れたのは一人の美しく若い女性だった.
燃えるようなブロンドの髪と,白いワイシャツ越しにでも分かる豊満な胸.
そして,黒色のスカート越しに覗く肉付きのよい太腿が僕から言葉を奪った.
呆気に取られていた僕の手をとって,彼女は目を細めて,人懐っこい笑顔を浮かべた.
「初めまして,ここの港湾管理者である犬井剛子じゃ」
今この瞬間,僕の身にカルチャーショックが起きた.PAIがいたならば,即AEDを勧めていただろう.
なんだこの可愛い生物は.
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/23(水) 19:37:38.69 ID:Lqd5uF5Ho
良いスレを見つけた
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/05/27(日) 23:30:56.29 ID:0DxDewO/0
呆然としていた僕ににっこり笑いかけてから犬井さんはくるりと振り返り,男仁さんに手を振る.
「今時,珍しくウブな子を連れてくるものだ,男仁よ.感謝するぞ」
男仁さんは肩を竦めた.
「百地くんはバイトで入ってくれているんですよ.貴方へのお土産ではありませんから,そのところをご理解願います」
「わかった,わかった.今朝,お前に耳にたこができるほど聞かされた.百地悠真は儂の玩具ではない」
犬井さんはそう頷きながらも,僕の手をしっかりと握ったままである.
彼女の手はマシュマロのように柔らかくて,温かい.それに包まれていると,なんだか幸せな気分になる.いつぶりだろうか,誰かと握手をしたのは.
一方で,犬井さんは顎をもう片方の手で撫でながら,僕の方をまじまじと眺める..
「ここを案内しようにも,その手に持っているブツはいささか邪魔じゃな.それに儂の家にふさわしくもない」
「その通りです.そもそも,ここには仕事で伺ったのですから,お願いいたします.」
男仁さんの口調に疲れがうっすらと現れていた.
犬井さんが,ふっと口端を吊り上げて,自分が出てきた扉の隙間を指さした.ちょうど成人女性一人分の幅しかない.
「中へ入るとよい.ただし我が家に段差はないが,敷居は高いのでな.男仁は頑張るように」
「もっと大きく開けられないのですか」
「この扉を管理している悟の仕業じゃ.文句があるなら,奴に言え」
犬井さんはくっと上を向いた.
数十メートル上空に点のようなものがいつの間にか現れ,ぶぅーんと低く唸りながら,こちらの様子をじっと眺めていた.
「あれはドローンです.こうした大きな工場で異常があればすぐ気づけるように,工場内を飛び回っているのですよ」
男仁さんはドローンへ手を振った.しかしドローンは何も言わずに,去って行ってしまった.
「今日は天中殺でしょう」
男仁さんはときどき僕の知らない単語をぼやく.
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/05/28(月) 04:11:22.10 ID:S11ZuKiX0
「やれやれ,ひどい目に遭いました」
ワイシャツ姿になってやっととこさ通り抜けた男仁さんは,スーツを羽織った.
その姿を横目で見ながら,犬井さんは歯切れ悪くも僕に説明してくれる.
「悟は男仁のことを良く思っておらぬのじゃ.なにより,この仕事を引き受けること自体やつは反対なのじゃろうな」
一体全体,その悟と呼ばれる者は何者なのだろう.
港湾管理者であるらしい犬井さんを差し置いてこんな真似ができるなんて,只者ではないことは確かだろう.だが,今の僕には詮索する気はなくなっていた.
ベルトコンベアーがコンテナを運び,そのコンテナの中に荷物を積み込んでいく産業用ロボットたち.彼らは地上に一本足でつながっており,そこから分岐し
たいくつかのハンドがカメラを搭載した頭部のAIによって,制御されているようだ.というのは黒いカバーの付いた頭部を傾げて,運ぶ荷物を認識しているの
が分かったからだ.
それでも彼らの作業スピードは早く,人間ならば持てないような大きさのものでも素早く持ち手を見つけ,軽々と持ち上げてみせているのだから,凄まじい.
「あれでも,スピードは抑えているほうじゃよ.奴らはとんでもなく熱を吐くからの,夏場は空調を効かせたうえで,作業させなければ,すぐにオーバーヒー
トしてしまう.もし今,空調がなかったら,ここは一瞬でサウナじゃ.くっはっは」
「とんでもないですね...」
僕も,犬井さんと握っている手がオーバーヒートしそうだ.男仁さんは,それを見て見ぬふりをしているし,かなり恥ずかしいのは事実.
しかし振り払うわけにもいかず,ぐいぐいとと引っ張られているのだった.
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/23(土) 22:30:55.32 ID:1XKYnlun0
倉庫内を巡るベルトコンベアーに沿って,どんどん奥へ向かっていく
「と,ところで,僕たちはどこへ向かっているのでしょうか?」
犬井さんは,僕の持っているスーツケースを顎でしゃくってみせる.
「男仁はそれらを引き渡しに行くのじゃ.もう先方は待っておるからのう.その間ぬしは,ちと儂と戯れようか」
どうやら,昇天斎場のときと同じく僕は現場にはいられないようだ.その間犬井さんが付いてくれていることが先ほどと違う点だろう.
「家には,儂以外に二人住んでいる.が,こちらのことを気に介する暇もないほど忙しいだろうて」
面白くもなさそうに,犬井さんは付け加えた.
それから入口とは反対に位置する倉庫の勝手口の前で,男仁さんと別れることになった.
男仁さんへスーツケースを渡すとき,唇をほとんど動かさず告げた.
「時間はとらないと思いますから,ここで待っていてください.」
男仁さんが立ち去ったのを見届けてから,犬井さんが大きく背伸びをする.
白のワイシャツから胸部がくっきりと浮かびあがる様子をまんじりと見てしまう.
今だけはPAIがいないことを,感謝しなければならない.
「さて厄介な荷物も失せたところで,儂の家へ招待しよう!」
一気に華やぐ彼女にとって,ついさっきの男仁さんの言葉など風の前の塵にすぎないようだ.
僕は
1 「ありがたい話ですが,ここで待つように指示されているので,遠慮させて頂きます」
2 「ぜひ,お願いいたします」(男仁さんの言葉を裏切ることになるかもしれない・・・)
3 「なぜ,犬井さんは僕にそんな親切にしてくれるのですか」(危険な問いだ.だけど,これは僕が一番知りたいことなんだろう)
安価直下
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/23(土) 22:44:58.80 ID:mj6EiPJwo
3
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 01:20:14.13 ID:UcaOh9Zb0
「なぜ,僕にそんな親切にしてくれるのですか」
溜まっていた疑問は口を衝いて,出てきた.
言ってからの後悔は,頬を赤面させるのに十分だった.自意識過剰かもしれない
当の本人の犬井さんはからりと笑って,目を細める.
「好きだからじゃ」
握っていた手をぱっと放して,僕と正面から向き直る.
「想像たくましく悩み,いかなる行為にも理由を求める.
それが意味のないことだとしてもせずにはおられぬ」
その一つ一つの言葉たちは,彼女から僕への仕返し.
「他にどんな理由があると思っていた?」
僕は絶句するよりほかない.
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 01:20:45.31 ID:UcaOh9Zb0
しばらく沈黙が流れたのち,犬井さんは肩を落とした.
「この話題はお主の反応を見るにあまり受けてないのじゃな.ざんねんな結果になってしまった」
「え?」
「ちなみにこれ,昨年流行ったAI LOVE HUMANという映画でのヒロインの台詞なのじゃ.いままで,最高の反応を引き出していただけに,この選択のミスは
痛いの.ただお主,すこしばかり世俗に疎いのじゃ」
犬井さんは,人差し指の腹で僕の額をつんと突いた.
「ちょ,ちょっと待ってください.どういうことですか,僕には,なにがなんだがさっぱりで」
『はい,対象者が異常を認知したことを確認したため,実験シューリョー.I-TAKEKOは即時撤収しなさい.最後にばらさなければ,セカンドステージもあった
のに.最後まで諦めないことねI-TAKEKO』
倉庫のどこかにスピーカーがあるのだろうか,どこか気の強そうな印象を受ける音声が倉庫内に鳴り響く.
犬井さんが失態じゃ…失態じゃ…と頭を抱えて,勝手口から出ていく.
狼狽していた僕は彼女を追いかけようとするが,勝手口の扉はロックされているのか,開かない.
『あんたはそこにいなさいよ.男仁からの指示があったんでしょ』
その指摘は半分正しいが,半分間違っている.
特に,スピーカーの向こうにいるやつに,指図されることじゃない!
「おい.犬井さんをどこにやった?」
『あんたには関係がない.ちなみにこれ,男仁も了承済みの話だから.文句は男仁に言いなさい.あと,このバイトで高い給料出てるのは私のおかげだから,
感謝はなさいよね』
.
「僕を使って,無断で実験をしていたんだな」
『そう,TAKEKO(剛子)がロボットだって知っていたら,意味がないもの.でも,実際に話していたあんたも違和感がなかったのよね?』
「違和感ならあった!変な口調だし!」
『それが狙いなのよ.会話はわざと不完全な状態にしたほうが見分けにくいと思ってね.自分でも驚くくらい,素晴らしい案だったわ.今度はノムリッシュに
でもしてみようかしら』
冷静な口調が逆に癪にさわった.
「大体お前は一体何なんだよ.何者だ?」
『港湾管理者がTAKEKOであることは事実よ.私はそれのメンテナンスと管理をしている開発者といったところかしら.ロボットは背中の痒いところは,アーム
を伸ばせば掻くことはできるけれど,自分の中身を掻っ捌いて脳を取り出して自分の悪いところを見ることはできないの』
スピーカー向こうにいる相手はまったく悪びれる様子もなく,あっさりと白状した
それもご丁寧な説明を加えて.
さて,僕はどうしようか.
1 怒りに任せ,ここから出ていく.バイトなんて知ったことか.
2 男仁さんを待つ.その間,この相手とは不快だから喋らない.
3 男仁さんを待つ.その間,この相手から事情を聴こう.
安価直下
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/24(日) 01:29:20.31 ID:CPRUz3Aio
3
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/10(火) 02:42:23.52 ID:NAcE1XbF0
深呼吸をして,落ち着きを取り戻そうとする.
とりあえず,スピーカーの向こうにいる相手から事情を聞き出したい.このむしゃくしゃが収まるなら,今は熱くなってしまった頭を冷却しようじゃないか.
「それで,僕を実験に使ったわけだけど,結果は上手くいかなかったみたいだね」
皮肉っぽくなってしまったのは.僕が人間である証だ.
「弱い頭ね.要は反復と修正が大切なの.これは失敗だけれど,次につながる失敗なんだから.ピンぼけした焦点が徐々に合うように,会話の精度も高まって
いる.もしかしたら,世界で初めて彼女は独立したアンドロイドになれるかもしれないんだから」
「???」
「あんたの表情を見る限り同情するくらい,すっからかんなのね・・・一般常識の範疇なんだけれど,男仁はどこから,こんな天然記念物を連れてこれるのか
しら.電気も通ってないような山奥?それとも例のロボットとの接触を禁じられた宗教団体の一味?」
「・・・さぁ?」それらを一般常識だと思っている彼女の方こそ,乖離した環境にあるとは思ったが,口には出さなかった.
「ま.あんたのことなんてどうでもいいわ.とにかく私は自分の家を見知らぬ人間にうろうろされたくないの.そこで待ってなさい」
スピーカの向こうの相手はぴしゃりと会話を打ち切った.
「待ってくれ,まだ聞きたいことはあるんだ」
「今度でいいわよね」
「これが最後だ.そうすれば,僕は借りてきた猫みたく大人しく待っていると約束する」
「私だったら,そのこぶし大の脳味噌を,にゃーとしか言わないAIと置き換えるんだけど?」
「それが君の目指すAIならそうすればいい.犬井さんなら似合いそうなものだ,名前は合ってないけれど」
「・・・私への侮辱もそうだけれど,今度,TAKEKOを馬鹿にしたら,絞め殺すわ」
彼女は低く唸るように宣言する.
ラーメン屋のアイツ然り,科学者というのは,被創造物を嘲笑されることに耐えられないらしい.それは被創造物が,自身の弱い部分を表したものだからかもしれない.
ナイスバディで,人懐っこい犬井さんは,あるいは….今はよそう.
さて,なにについて尋ねようか.
1,スピーカの向こうの相手の名前
2.犬井さんについて
3,『独立したアンドロイド』について
直下のコンマ00〜80で1,2,3全てを行います.
81〜90で1,2を行います.
91〜99で1のみを行います.
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/10(火) 03:42:18.43 ID:YV58rk29o
ほい
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/10(火) 14:17:11.54 ID:wxT8H7uy0
高確率で全部の質問しちゃうのは、主人公の知能が高くないから?
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/10(火) 23:57:54.73 ID:NAcE1XbF0
>>135
主な理由はそれです.彼は不自然なほどロボットについて知りません,それで知りたいと思って,家を出て,絶縁状態になりました.
質問をしなければ,彼はロボットについて道端の石程度の知識しかありません.質問をすることは今の彼にとって,恥ではないのです
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/13(金) 04:36:24.04 ID:vX9epH5+0
1
「まず聞きたいのは,名前だ」
「あんたが私の名前を知って.サジェクト汚染,ストーカー,吐き気のするあだ名をつける,一体どれをするつもり?却下」
「そんなことはしない.ただ,名前を知らないままなのはやりづらいんだ」
「あのね,実験対象に必要もないのに名前を教えて交流する研究者はいないわ.もしそれで下らない感情に振り回されることなんてあったらごめんだもの.そ
れに私も同意見.これまでも,これからもね」
その傲慢ともとれる態度はPAIに名前を付けなかった僕も,同じなのだろうか.
彼女に聞くときがくるとすれば,僕がPAIに名前を付けたときだろう.
じっと押し黙った僕を見て,名も知らぬ相手はねむそうにあくびを漏らした
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/13(金) 04:39:12.52 ID:vX9epH5+0
2
「犬井さんは,本当にロボットなのか」
「あのレベルの外見は見かけることはあるでしょうに,なにを気にしてるわけ?」
「なんというか,初めて会った時の犬井さんの笑顔が,本物に近いと言うか,久々に見た癒しだった」
この数か月,天使も凍りつく様な邪悪な笑みなら幾度となく見たが,それとはまるで別種だ.
「あんたの言うことも一理あるわ.笑顔は表情筋を始めとして様々な筋肉が複雑に作用して,作られてる.何度もシミュレートしても,不気味の谷に落ちてしまうことだって有るわ.笑顔が,一番作りにくい表情って,笑える話よね」
彼女は乾いた笑い声をあげた,そこから彼女の苦労がにじみ出ているようだ.すこし意外だった,
「君のことをすこし勘違いしてた.ただの性格の悪い科学者じゃないんだな」
「その糞みたいな同情をやめないと,殴るわよ.数百kgを支えながら動いてる背後のアームで」
「悪かった,本当に」
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/13(金) 04:40:17.62 ID:vX9epH5+0
3
「犬井さんが目指してる,独立したロボットってなんだ?」
「質問は一つまで,あんたが言ったことだわ,責任を持ちなさい」
「男仁さんが来るまでまだかかりそうなんだ,頼む」
「理論的じゃないわね.私は,そういうのが通らない相手だって気づいてるでしょう」
「確かに」
かなりの頑固者のようだ.
「それであんたが不満を持つのは,私でも分かる,次の実験がおわったら,答えてあげるから,絶対来なさい」
「は?」
「己惚れないで.あんたの価値は白紙で何も染まっていない,なにもないことなんだから.急に知識をあんまりつけると,ひどいことになるわよ」
ぶつっと音が切れた.
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/13(金) 04:43:59.27 ID:vX9epH5+0
気づけば4か月間を無為に過ごしました
おやすみなさい
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/13(金) 04:47:42.02 ID:Rt1oNBPVo
起きろ
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/13(金) 09:13:24.01 ID:5SfkUAnno
乙
地味にラーメン屋にいた科学者が重要な人物なんじゃないかという気がする
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 16:23:56.34 ID:lLMyajg8O
忠告にせよ酷い言い種だった。
中身がないのが価値だと彼女は言う。
それが正しいというなら、僕は空のリュックサックにも等しく、軽いのだけが取り柄のようだ。
はっきりと気分が落ち込む。
自分よりも明らかに上の立場、あるいは優れた人物に貶されることほど、自尊心を傷つけられることはない。
劣等感が毒となり体内を駆け廻るのを男仁が来るまでただ耐えていた。
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/29(日) 09:37:27.28 ID:2Z/zGywUO
男仁さんが戻ってきたとき、一瞬僕はどういう顔をすればいいのか判らなかった。
僕が騙されたという形にはなったが、実害があったわけではなく、気分を悪いものにしたのは主にスピーカーの向こうの相手である。
それゆえにひどく罰の悪い顔で、出迎えたわけだが彼はそれを気にしている余裕は無さそうだった。
何かに気を取られている、いやとりつかれているとさえ言える表情で彼は戻ってきた。
交渉相手とよほどのことがあったのだろうかと勘繰ったが斎場の件を考慮すると、その可能性も薄い。
男仁さんは中身を運ぶ役目を終えて軽くなったスーツケースを二つ僕に手渡して、その場を後にした。
慌てて僕はその背中を追いかけた。
いつの間にか、鉛のような曇り空が僕たちの頭上を覆っていた。雨がそろそろ降りだしそうだ。
イベント
危険の予兆の察知 PAIがいないため自動失敗
自由安価直下
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/29(日) 09:39:05.95 ID:2Z/zGywUO
帰り道にできることでお願いします
考え事、耳をすませる、等
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/29(日) 10:52:32.95 ID:d9cwb9gZo
鈴音さんについて考える
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/08/01(水) 13:40:34.45 ID:2YJgKdt60
鈴音さんについて
今日、会った中で最も繊細な印象を受けた子だった。
それは彼女が盲目である故に纏う雰囲気、そして取り巻く環境がそう感じさせる。
彼女の世界はあの斎場で完結している。
斎場で働く所以は、家族関係入れて貰えたのかもしれないし、
障害者支援法によって枠があり雇われたのかもしれない。
どちらにせよ彼女は居場所を見つけたのだ。
一つに障害者が働くことを国は推奨する。
同様にIOTチップを取り付けた人が働くことを推奨する。
逆は支援を受けられない、ぼんやりと否定される。
彼女はようやく日向に当てられた側の人間で、僕は日陰者。
羨ましいなんて口が裂けても言えないが
ともすればこうやって考え込んでしまうくらいに彼女のことが気になっている。
理由は彼女と僕は対比であり、ある意味では似ている。
鏡にうつった正反対の彼女を、僕は見ているのだ。
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