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【ガルパン】 杏「西住ちゃん」
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69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:20:42.48 ID:TFTrCpujO
その後、会長は
「ごめん西住ちゃん。・・・もう帰るわ」
そう言い残して、生徒会室から去っていきました。
足取りにはいつものような力強さはなく、今にも倒れそうな感じで。
腕を引っ張ればいつでも呼び止められたと思うけど・・・。
その姿があまりに悲しくて、かわいそうで、切なくて。
わたしは会長がいなくなった後も、しばらく椅子から立ち上がることもできませんでした。
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:21:32.48 ID:TFTrCpujO
しばらくして、わたしも帰ろうと思ったけど、机の上に置かれたコーヒーが目に入りました。
せっかく会長が淹れた美味しいコーヒーなのに、会長が飲まないで帰っちゃうなんて・・・。
なんだか胸の奥がきゅうっと締め付けられる思いがして、わたしはそれを一気に飲み干しました。
さっきまでいい匂いをさせていたコーヒーはすっかり冷めてしまっていて。
とっても美味しいはずなのに、とっても悲しい味に思えて。
なんだか涙が出そうになったわたしは、コーヒーカップを片付けて、逃げるように生徒会室を後にしました。
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:22:20.74 ID:TFTrCpujO
「会長、一体どうしちゃったんだろう・・・」
ベッドの上でボコのぬいぐるみを抱きしめながら、わたしはずっと考えていました。
河嶋先輩にメールで報告しようと思ったけど、なんだか会長を追い詰める気がして、それもできなかった。
結果として、わたしは誰にも相談することができませんでした。
・・・あれ?
誰にも、できないのかな。
大洗の人以外なら・・・。
会長をおいつめることにも、ならないのかもしれない。
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:23:05.46 ID:TFTrCpujO
「えっと、携帯は・・・」
机に置いていた携帯を掴んで、ある番号をコールします。
かつての、わたしの相談相手。
「こんな時間だけど、出てくれるかな・・・」
幸いにして、その人はすぐ電話に出てくれました。
『もしもし? なによ、こんな時間に・・・』
声は、とっても不機嫌そうだったけど。
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:23:39.60 ID:TFTrCpujO
「ごめんねエリカさん、こんな遅くに」
『全く、勘弁してほしいわよ・・・。で、どうしたの?』
怒りながらも、話は聞いてくれるんだ。
エリカさんは、なんだかんだやっぱり優しいな。
「あのね、エリカさんに相談があるの」
『相談? 無限軌道杯の戦略なら教えないわよ』
「あはは・・・、そうじゃなくって。実は・・・」
エリカさんに、今日のことを話しました。
会長がそうなってるってことは、明言しなかったけど。
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:25:42.98 ID:TFTrCpujO
「そんなことがあって、わたしなんだかよくわからなくて・・・。エリカさんはどう思う?」
全てを話し終わった後、エリカさんはしばらく黙っていました。
『・・・ねえ。ちょっと確認したいことがあるんだけど』
「どうしたの?」
『最近、その人について何か感じたこととかはなかった?』
『例えば、そうね。いやに目が合いやすいとか・・・』
「え・・・?」
そう言われれば・・・。
確かに、あの日の後から、やけに会長と目があった気が、する。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:26:26.51 ID:TFTrCpujO
「う、うん・・・。あったかも」
『なるほどね・・・』
それを聞いて、エリカさんは何かに気付いたみたいです。
「エリカさん? なにか分かったの?」
なにかわかったのなら、教えてほしいな。
だけどエリカさんは、なんだか迷っているようでした。
『・・・これって、あなたに言ってもいいものなのかしら』
「どうして?」
『いや、だって・・・』
「エリカさん、お願い。教えて!」
わたしが必死になってお願いすると、エリカさんはやっぱり迷ったみたいでしたが、
『・・・はあ。わかったわよ』
しぶしぶといった感じで、折れてくれました。
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:27:23.01 ID:TFTrCpujO
「ありがとう、エリカさん!」
『先に言っとくけど、あくまでもわたしの推測だからね?』
「いいよ。エリカさんの推測なら、きっと正確だろうから」
『・・・あなたのそういうところのせいよ』
「え?」
一体、どういうことなんだろう・・・。
そう思ったわたしに、エリカさんは、とんでもない言葉を投げかけました。
『だから、その人はあなたのことが好きなのよ。・・・いろんな仕事に集中できないくらいね』
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:28:02.44 ID:TFTrCpujO
「・・・え」
ええええええええええ!!!?
「え、エリカさん? あの、その人ってえと、女の人で・・・」
『そんなことわかってるわよ。男で戦車道やってるのなんて、あの理事長ぐらいじゃない』
「だって、その、すすす、好きって・・・。あ、友達として? だよね」
『アホか。どうして友達として好きってだけで仕事が手につかなくなるのよ。恋よ、恋』
こ、恋!?
突然そんなことを言われたわたしは、とっても混乱して
「だ、だって・・・。会長が、わたしのことを好きなんて! ・・・あ」
思わず、名前を出してしまいました。
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:29:04.36 ID:TFTrCpujO
『・・・ふーん。誰かと思ったらあの生徒会長さんだったのね。まあ、なんとなくそう思ってたけど』
会長、ごめんなさい・・・。
「あ、あうう・・・。エリカさん、その、このことは・・・」
『わかってる。誰にも言わないわよ』
「あ、ありがとう・・・」
その後も、混乱したわたしは、いろんなことを口走ってエリカさんに迷惑をかけたみたいだけど、
あんまり覚えてません。
しばらくしてようやく落ち着いてきたわたしは、
「・・・でも、女同士でそんなことってあるの?」
そんな疑問をぶつけてしまいました。
すると、エリカさんは少し黙った後。
『・・・ええ、あるわよ。少なくとも、わたしはよく知ってる』
小さな声で、吐き捨てるように言いました。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:29:46.72 ID:TFTrCpujO
「そうなんだ・・・」
『そういうときってね、なかなか想いも伝えられないのよ。・・・どれだけ強く想っていてもね』
「エリカさん・・・?」
『最初はただの憧れのように思っていても、だんだんそれが憧れじゃないって気づいていくの。・・・それが憧れのままだったら、どれだけ幸せなんでしょうね』
「・・・」
『憧れてるだけなら、その人が欲しいなんて思わない。だけど、恋は違う。その人が自分以外を見ていると嫉妬もするし、自分を見てると顔と体が熱くなる。・・・非生産的な恋だとわかっていても、恋心を止めることなんてできないのよ』
エリカさん、もしかして・・・。
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:31:45.88 ID:TFTrCpujO
「エリカさん、あの・・・」
『・・・そうよ。わたしだって、あなたのところの生徒会長と同じ』
『・・・隊長のことを、あなたのお姉さんのことを思うと、胸が張り裂けそうになる』
やっぱり、そうだったんだ。
「エリカさん・・・」
『・・・つまらない話しちゃったわね。妹のあなたに話すことでもなかったし』
「ううん、エリカさんが話してくれて、その。すごく嬉しかった。きっと、いつかお姉ちゃんにだって・・・」
『はい、わたしの話はここまでよ。・・・今大事なのは、あなたの話でしょ』
エリカさん・・・、ごめんね。
「う、うん・・・。わたし、どうしたらいいのかな」
『・・・そんなの、決まってるじゃない』
「・・・え?」
『あなたのしたいように、すればいいのよ』
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:32:34.33 ID:TFTrCpujO
「わたしのしたいように、かあ・・・」
電話を切った後も、エリカさんの言葉がずっと頭の中を駆け巡っていました。
わたしは、一体会長のことをどう思っているんだろう?
最初は、怖かった。
どうしてわたしに無理やり戦車道をさせるんだろうって思った。
ちょっとだけ恨めしく思ったこともあったっけ。
・・・でも、わたしたちが蝶野教官に褒められていた時、教官の後ろから笑いかけてくれた。
聖グロリアーナ戦の前、わたしの意見を聞いてくれた。
あんこう踊りを踊った時、一緒に踊ってくれた。
それで、ひょっとしてこの人は悪い人じゃないのかなって思って。
実は会長が、とっても大きいものを背負ってるって知った。
状況は絶望的だったけど、何とかしてあげたいって思った。
それから・・・。
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:33:10.98 ID:TFTrCpujO
そんな風に会長との思い出を思い返してみると、なんだかとっても胸の奥が温かくなってきました。
そっか、今のわたしがあるのは・・・。
会長が、ひっぱってくれたお陰だったんですね。
「会長・・・」
そう思うと、なんだか会長のことがひどくいとおしく思えてきて。
エリカさんの言ってたことが、分かるような気がして。
なんとなく、自分が何をすればいいのかわかりました。
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:33:54.70 ID:TFTrCpujO
明日になったら、河嶋先輩たちに頼んで、会長と二人にしてもらおう。
会長は、ひょっとして悩んでいるかも。結構抱え込んじゃう人だから。
また逃げ出そうとするかも? そしたらどうしよう。
・・・今度は、捕まえちゃおうかな?
会長、どんな顔するのかな・・・。
そんなことを考えてたら、なんだか楽しくなっちゃって。
明日が来るのがとっても楽しみになりました。
はやく、明日にならないかな・・・。
余計に眠れなくなっちゃったのは、内緒です!
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:34:51.80 ID:TFTrCpujO
〜〜〜〜〜〜
「・・・ははは」
生徒会室から逃げ出して、校門を出て、しばらく歩いて。
なんだか乾いた笑いが漏れてきちゃった。
だってさー、・・・あまりにもあんまりすぎるっしょ。
西住ちゃんのことが好き。
たったそれだけのことを認めるまでに、こんなに長い時間をかけてさ。
とっくに、気づいてたことなのに。
そのうえ、西住ちゃんにそれを伝えることもできずに逃げ出して。
「・・・馬鹿みたい」
心底そう思った。
なにやってんだか、ほんとにさ。
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:35:40.56 ID:TFTrCpujO
しばらく何も考えずに歩いて。
顔をあげたら、あたしの家があった。
放心状態っていうのはこういうことを言うんだろうね。
緩慢な動きで鍵を開けて、靴をそろえることもせずに家に上がって。
制服を脱ぐこともなく、布団に倒れこんだ。
「あ、仕事・・・」
そういえば、生徒会室にやりのこした仕事があったんだった。
・・・まあ、いいか。
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:36:27.06 ID:TFTrCpujO
仕事をやり残したまま帰るのは、会長になってから初めてだね。
汚れたままで布団に入るのも。
そのまま眠りにつくのも。
こんなに苦しいのなら。
こんなに傷つくのなら。
あの日、西住ちゃんに声なんかかけるんじゃなかった。
料理なんか、作るんじゃなかった。
弱みなんか、見せるんじゃなかった。
自分の想いになんか・・・、気づくんじゃなかった。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:37:08.88 ID:TFTrCpujO
枕に顔をうずめてたら、目のあたりがじんわり温かくなって、その後すぐに冷たくなってきて。
・・・それでもなんだか眠くなってきて、世界がぼやけてきて。
ああ・・・、このまま世界がなくなって。
明日なんて、来なければいいのに。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 21:38:34.36 ID:TFTrCpujO
今日は以上になります。
再び会長とみぽりんとの対比をお楽しみください。
明日完結予定です。
どうか最後までお付き合いください。
それでは、また。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/02(金) 22:29:39.17 ID:HGnPgCN6o
乙
90 :
らぐB
◆asJU3gh8ZA
[saga]:2018/03/04(日) 01:23:50.31 ID:w6jMaQ6XO
ドリームタンクマッチやってて気づいたらこの時間でした。
本日最後です。投下していきます。
91 :
らぐB
◆asJU3gh8ZA
[saga]:2018/03/04(日) 01:25:02.40 ID:w6jMaQ6XO
そんなあたしの願いもむなしく、やっぱり朝はやってくるんだよね。
・・・汚れた制服と、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔と枕を傍らに連れて。
ま、当然か。
一晩眠ったことで、少しだけ頭はすっきりしていた。
まだ時間も早いし、とりあえずお風呂に入ろっかな。
今のあたしの姿を見たら、百年の恋も冷めることは間違いないし。
百年の、恋も・・・。
・・・。
・・・訂正、恋はそんなに簡単に冷めない。
少なくとも、あたしの数週間の恋は冷めそうにない。
昨日あんなことがあって、あんなに懲りたはずなのに。
西住ちゃんのことをちょっとでも考えると、体が熱くなるんだから。
あ、でも冷めないのはあたしの恋だけで、他の人の恋は冷めんのかもね。
・・・何考えてんだろ、さっさとお風呂入ろっと。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:26:00.22 ID:w6jMaQ6XO
お風呂に入って、予備の制服に着替えたら、ようやく見れるようになった。
・・・ちょっと目は腫れてるけどね。
時間も時間だし、そろそろ学校行かないと。
朝からそど子に怒られるのも、御免だしね。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:26:29.88 ID:w6jMaQ6XO
「会長、おはようございます」
「わ、びっくりした。おはよ、河嶋」
学校に入って靴を履き替えていると、後ろからいきなり河嶋が声をかけてきた。
いつも先に生徒会室に入ってるのに、珍しい日もあるもんだね。
「会長、実はお願いしたいことが」
「んー? どしたの、言ってみ」
「昨日、他校からのスパイが格納庫に入ったようなのです。今回は少し物の配置がかわっていただけで何も被害はなかったのですが、顛末書の作成のために会長にも確認していただきたいと」
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:27:02.54 ID:w6jMaQ6XO
え、マジか。結構大事じゃん。
「わかった。それはいいけどさ、どこからのスパイか目星はついてんの?」
「え!? ・・・と、はい。お、おそらくはサンダースの者かと」
・・・ん?
「んじゃ、アリサちゃんの差し金だねえ。おケイはそんなこと絶対しないし」
「ええと、はい。全くそのとおりかと」
なんでさっき河嶋、動揺したんだろ。まあいっか。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:28:02.56 ID:w6jMaQ6XO
「んじゃ、見てくるわ。先、生徒会室行っといて」
「はっ」
あとで、おケイに報告しとかないと。
そんな風に思いながら格納庫に行ったあたしを待っていたのは、戦車だけじゃなかった。
またもや、意外な人物・・・。
「会長・・・」
・・・いや、そんなことないか。
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:28:52.61 ID:w6jMaQ6XO
ほんとは、河嶋の態度がおかしかった時点で気づいてた。
「西住ちゃん」
きっと、西住ちゃんに頼まれたんだろうなって。
それでも、あたしは格納庫まで来た。
わざと騙されたんだ。
なんでかって? 決まってんじゃん
・・・西住ちゃんに、会いたかったからだよ。
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:29:24.00 ID:w6jMaQ6XO
「どうしたのさ、西住ちゃん。こんなところで」
「会長、その・・・。実は、スパイは」
「西住ちゃんがここにいる時点でわかるって。んで、何の用?」
鼓動が早くなる。
落ち着け・・・。これじゃ、昨日の二の舞になっちゃうよ。
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:29:51.11 ID:w6jMaQ6XO
「あの、会長に伝えたいことがあって・・・」
伝えたいこと?
なんだろう。
その内容をなんとなく推測して。
鼓動がもっと早くなる。
・・・あたし、死ぬとしたら心臓病で死ぬのかな。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:30:24.94 ID:w6jMaQ6XO
「んー? 何?」
昨日みたいに、声が震えそうになるのを必死で抑えて声を絞り出した。
「会長・・・」
落ち着け。
昨日みたいに、誤魔化さないで。
昨日みたいに、逃げないで。
西住ちゃんに、向き合おう。
そして、できたらこの気持ちを・・・。
そんな風に考えてたあたしの覚悟を、西住ちゃんは
「ごめんなさい!」
一瞬で、叩き折った。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:30:55.35 ID:w6jMaQ6XO
「・・・ははは」
いつかみたいに、乾いた笑いが口から洩れた。
いつかと違うのは、涙も一緒にこぼれてるってこと。
そうだよね。
気持ち、悪いよね。
そりゃ、そーだ。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:31:29.57 ID:w6jMaQ6XO
「え、会長・・・?」
西住ちゃんが何か言った気がしたけど、あたしの頭には入らなかった。
もう、この場を離れることだけで頭はいっぱいで。
涙を隠すこともせずに。
踵を返して。
めいっぱい、駆け出した。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:32:33.84 ID:w6jMaQ6XO
・・・つもりだったんだけど。
あたしの想定とは違って、なんだか全然前に進まなかった。
それから、なんだか思ってたよりも腕が痛い。引っ張られてるみたいな感じがする。
「会長・・・」
見ると、西住ちゃんがあたしの腕を掴んでいた。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:33:17.22 ID:w6jMaQ6XO
「離して! 離してよ西住ちゃん!!」
頭の中は冷静に今の状況を見てるのに。
あたしの体は、そんなことを叫びながら腕を振りほどこうとしてる。
いてて、そんなに無理に振りほどこうとしたら痛いじゃん。
自分の体なんだからもっと大切にしなって。
だけどあたしは、腕を振りほどこうとし続けたし、泣き叫ぶのもやめなかった。
すると、西住ちゃんの表情が、困った顔から戦車に乗ってるときの顔に一変して。
なんだか、あたしの体がぐらりと動いて。
柔らかい感触がして。
気が付くと、あたしは壁と西住ちゃんに挟まれていた。
もっと正確に言うと、体の大半は西住ちゃんに包まれていて。
抱きしめられたまま、壁に押し付けられてるんだと気づいた。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:33:54.57 ID:w6jMaQ6XO
「西住、ちゃん?」
あたしは、ようやく静かになった。
どうして西住ちゃんがあたしを抱きしめてるんだろう。
これじゃ、まるで――――
「会長・・・、勘違いしないでください。あたしが謝ったのは、会長を拒絶するためじゃありません」
「・・・え?」
「ただ、会長の気持ちに全然気づいてあげられなかったことを謝りたかったんです。・・・苦しんでた会長の力になれなかったことを、謝りたくって」
「西住ちゃん・・・」
なんだ、あたしの早とちりだったんだ。
いやあ、西住ちゃんには迷惑かけたねえ。
・・・ん?
え、と。
じゃあ、この状況は・・・。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:34:34.39 ID:w6jMaQ6XO
「会長、あたしもあの後考えて、気づいたんです」
あたしを抱きしめてた西住ちゃんが、少し離れてあたしの顔を覗き込んできた。
・・・かわいい。
けど真っ赤じゃん。なんだかかっこ悪う。
あ。
それはあたしもか。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:36:03.03 ID:w6jMaQ6XO
「会長、その。わたしでよければ―――」
さっきの西住ちゃんの言葉で、せっかちなあたしは泣き叫んだ。
最後まで聞きもせず、勝手に早とちりして、ね。
そして今、また西住ちゃんの言葉で。
やっぱり、まだ西住ちゃんは言い終わってないのに。
あたしの目から、さっきとは違う涙が零れ落ちる。
・・・まあ、いいよね。
あたし、せっかちなんだしさ。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:36:41.71 ID:w6jMaQ6XO
その後、泣きじゃくるあたしを、西住ちゃんはやっぱり抱きしめてくれて。
頭をなでてくれて。
いつかこんなことがあったよね。
西住ちゃんの家にお邪魔した日。
昨日のあたしが、恨んだあの日。
確かにあの日はそんないい日じゃなかったかもね。・・・だってさ。
今みたいに、幸せな気持ちじゃなかったもんね。
でもまあ、今最高に幸せだから、それでいっか。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/04(日) 01:37:09.91 ID:w6jMaQ6XO
あたしは、秋が嫌いだ。
あたしの誕生日は一月一日で冬だし、あたしの名前にもなってる植物の杏が実をつけるのは初夏のころ。杏の花に至っては春に咲き誇る。
・・・でも、今年からは、秋も悪くないかなって思うようになった。
秋にいいことがあったからね。それも、飛び切りいいことが。
・・・待てよ、あたしはあの日のことでこれからずっとからかわれるのかな。
あたしの、一番大切な人に。
やっぱ嫌だ。あたしの威厳が台無しになる。
やっぱりあたしは、秋が嫌いだ。
完
109 :
らぐB
◆asJU3gh8ZA
[saga]:2018/03/04(日) 01:38:20.11 ID:w6jMaQ6XO
以上で本編終了になります。
短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました。
この後、後日談を二つ投下させていただきます。
110 :
らぐB
◆asJU3gh8ZA
[saga]:2018/03/04(日) 01:39:17.80 ID:w6jMaQ6XO
後日談その1
「うわっ、もうこんな時間! やっばあ」
このままじゃ、そど子に怒られちゃうじゃん。早く学校行かないと。
生徒会を五十鈴ちゃんたちに引き継いだあたしは、なんだかちょっとずぼらになっていた。
気が抜けちゃったからね。
だけど、今日からは無限軌道杯に向けた練習も始まるんだから、気を引き締めないとね。
河嶋の大学進学のために。
うーん、今までの戦いよりも目的がしょぼいせいか、いまいち気が引き締まらないなあ・・・。
家を出たあたしをまっていたのは
「杏さん、おはようございます」
あたしの、最愛の人。
「西住ちゃん」
111 :
らぐB
◆asJU3gh8ZA
[saga]:2018/03/04(日) 01:39:59.53 ID:w6jMaQ6XO
「もー会長、だからわたしのことは・・・、あ」
「西住ちゃんだって、あたしのこと名前で呼べてないじゃん」
「それでもだめです。呼んでください」
「えー? わ、わあったよ・・・。み、みほ」
「はい、杏さん♪」
やば。鼻血出そう。
「えへへ・・・。あ! 杏さん、このままじゃ遅刻です! ほら、あそこに麻子さんが・・・」
「うわ! やっば! 冷泉ちゃん抱えて全力で走るよ、西住ちゃん!」
「はい! って、またその呼び方で・・・」
「パンツァーフォー!」
「杏さんもそれ、言ってみたかったんですね・・・」
あたしの大洗での生活ももういくらもないけど。
かつて西住ちゃんが言ったみたいに、後悔の無いように全力で駆け抜けようと思う。
それが、あたしと西住ちゃんの戦車道だからね。
112 :
らぐB
◆asJU3gh8ZA
[saga]:2018/03/04(日) 01:40:55.40 ID:w6jMaQ6XO
後日談その2
『へー。じゃあ、うまくいったのね』
「うん! エリカさんのおかげだよ。ありがとう!」
『この借りは高くつくわよ』
「お、お手柔らかにお願いします・・・」
『冗談よ。それじゃ』
エリカさんとの電話を切ったわたしは、今日のことについて思い返していました。
会長、やっぱり逃げようとしたなあ。
あの時の会長、泣き叫んでたけど・・・。かわいかったなあ。
その後のしおらしくなった会長もかわいかったなあ。
でも、会長もそろそろ会長じゃなくなるんだよね。
いつまでも会長って呼び続けるのも変だし・・・。
そうだ、明日会長に提案してみよう。
杏さんって呼んでもいいですか? って。
ううん、やっぱり明日も楽しみです!
113 :
らぐB
◆asJU3gh8ZA
[saga]:2018/03/04(日) 01:42:22.08 ID:w6jMaQ6XO
以上になります。
時系列的には、本編→後日談2→後日談1って感じになります。
あくまでも杏が主役なので、こんな順番にしてみました。
わかりにくいですね。
以上で完結となります。
それでは、また。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/04(日) 04:34:42.83 ID:yB/UkHano
乙
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/04(日) 08:11:21.14 ID:tUFISi1EO
乙、みほ杏はいいぞっ
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/05(月) 08:56:02.54 ID:AmOqV7z3O
良かった
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/10(土) 02:57:18.50 ID:avBdkG6H0
よきよき
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/05(木) 19:48:20.46 ID:aj4rsH5cO
乙
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