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星梨花「帰りの電車にて」【ミリマス】
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1 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:00:14.89 ID:XtsaYpZt0
「ごめん、星梨花! どうしてもこっちが立て込んでいて迎えに行けそうにないんだ」
一仕事終え、そろそろかなーとお迎えを待っているときに、プロデューサーさんから掛かってきた電話を嬉々としてとると、それはちょっぴり残念な内容でした。
とりあえずお返事をします。
「えっと……大丈夫です。プロデューサーさんがその……お忙しいのは分かってますから」
「ごめんな星梨花。実は……」
プロデューサーさんのお話を聞いていると、どうやら向こうで機材のトラブルが起きて時間が押してしまい、どうしてもその場を離れられないみたいです。
まぁ……仕方ないですよね。プロデューサーさんはわたしだけのプロデューサーさんではないのですから。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1519059614
2 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:01:17.70 ID:XtsaYpZt0
「ならどうやって帰りましょう……」
「そうだな……タクシーか電車を使うか、申し訳ないが親御さんに頼むぐらいしか」
「……そうですね。そのあたりの方法で」
「もちろん交通費はあとで落ちるからな。あとは星梨花に任せるぞ、本当にごめんな。」
追われるようにプロデューサーさんは電話を切りました。
忙しいんだろうなぁ……。
さて、わたしはどうやって帰りましょう。人差し指を頬に添えて首をかしげながら考えます。
3 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:02:37.70 ID:XtsaYpZt0
まず確実に迷わないのはタクシーです。
ただ、その分割高なのは知っています。
この前プロデューサーさんと乗った時に金額のメーターが上がっていくのをこうなっているんだ、おもしろいなぁって眺めていたわたしと対照的にプロデューサーさんの顔は青ざめてましたから。
パパに迎えにきてもらうのもどうでしょう。
うーん、パパならぜったいに飛んでくるように迎えに来てくれるでしょうが、お家からここまではそこそこの距離があります。
明日も平日でパパも忙しいでしょうし、今回は自分で帰ろうと思います。いつまでも親に頼るのはその……あんまりよくないです。
頼みこんでアイドルをさせてもらってますから。
バスは……そもそもバス停がどこにあるのかが分かりません。お家に近くにバス停ありましたっけ。
4 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:03:57.31 ID:XtsaYpZt0
消去法で考えると、電車でしょうか。お家の近くに駅はあります。
プロデューサーさんに電車で帰ること、着いたら伝えることをメールしてと……
よしっ電車で帰ろ!
そう決意したわたしは、座っていた椅子から少し反動をつけて立ち上がりました。
5 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:05:03.64 ID:XtsaYpZt0
えっと、電車で帰るってことは、いろんな人に会うってことだよね?
じゃあ……変装でもしてみよっか。
わたしの目立つ部分といえば……自分の視界にも入りますこのツインテール。
お外で下ろしたままも落ち着かないですから、とりあえず1つ結びにしておきましょうか。
あとはもしものときに持っていた帽子を目深にかぶって……じゃん、どうでしょう!
ってどうでしょう、なんて言っても応えてくれる相手は今は居ませんよね。
変装もできたし、スマホで駅の場所も確認して……準備完了です!
6 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:05:57.58 ID:XtsaYpZt0
建物から外に出るとすっかり辺りも暗くなって冷たい風がびゅっってわたしに向かって吹いてきました。
うう……2月ですものね。寒いです。
自分の肩を抱いてとぼとぼと歩きだしました。かっこわるい出発です。
なんとなくこっちかなぁって歩いていると、なんだか急に不安になってきました。
地図アプリを開いて自分の位置と方角を確認してみます。
アプリを開くと自分の向いている方向が矢印で示されています。
これって当たっているんだよ……ね?
画面とにらめっこしながらその場でグルグルと回っていると……うん、こっちで合ってます。
一息つきながら顔を上げると、なんだか冷ややかな視線が。
うう……恥ずかしい。そうですよね。端から見るとわたし、街中でピボットターンをしている変な人です。
7 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:07:07.03 ID:XtsaYpZt0
暗い道はこわいので大通りを選びながら、戦々恐々と人の流れに乗って歩いていくと……駅が見つかりました!
切符の買い方は前に桃子ちゃんに教わったのですが……どこをどう行けばいいか、分かりません!
どうしようかとキョロキョロとしていると、駅員のお姉さんが「お嬢ちゃんどうしたの」、と声を掛けてくれました。
駅員さんはいろんなことを知っていて、しかも説明も上手ですごい! ってなったんですが、子どもに話しかけるようにお話されるとちょっと落ち込みます。
これってけっこうあるあるだと思うんですよね。大人っぽい人は店員さんや係の人に大人扱いされて、まだまだ子どもな人は子どもに話すように話しかけられます。
もちろん気持ちはうれしいんですが、ちょっと複雑ですよね。
説明された通りに構内を歩いていくと、なんとか目的のホームにが見えてき……って電車が近づいてきてます。急がないと……。寒い中待つのはちょっとやです。
8 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:08:19.57 ID:XtsaYpZt0
なんとか電車に乗り込むと、暖房が効いていてほっと一息つきました。
みなさんが帰宅されるころかなって思いましたが、思ったより混んでいないですし、あの席に座りましょう。
これは余談なんですがわたしは椅子に座るとき手を太ももに敷いて座ってしまうのが癖なんです。
手があったかいんですよね。
乗って少し経つと電車が発車しました。
電車がガタンゴトンと出発したときはおおって感じはしたんですけど、走り始めると案外手持ち無沙汰なものです。
どうしよかなって思って、ふと外の景色をみると、明かりのついた家やビルがどんどん流れていきます。
いろんな人があそこにいるんですよねと当たり前のことを思いました。
9 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:09:41.44 ID:XtsaYpZt0
なんとなく視線を少し手前に戻し窓を見つめ、ふと、はぁっ……と息を吹きかけます。
こうすると窓が曇って指で文字が書けるようになります。
何を書こうかなと窓を指でなぞりながら考え、自分のサインを書いてみました。
うんっバランスよく書けたかもとちょっとした満足感を得ましたが、ハッとして手をパーにしてぐしゃぐしゃーって消します。
窓に字を書くのは子どもっぽいですし、プロデューサーさんが自分のサインは安売りしちゃダメだよって教えてくれましたから。
10 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:11:43.93 ID:XtsaYpZt0
窓から目線を外し、車内を眺めると、わたし以外の乗客も何人かいます。
わたし、人を観察していろいろ考えるのがけっこう好きなんです。
自分が率先して前に立つタイプではなく、後ろの方でこの人はこんなこと考えてるだろうなーとか、この人たちはこう思い合ってるんだろうなーだとか考えています。
だからちょっと気が付いちゃうこともあって、星梨花は優しいだとかいい子ね、って言われることも何度かありました。
もちろん人をあーだこーだと邪推するのがよい趣味だとは思いませんが。
11 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:14:50.35 ID:XtsaYpZt0
あそこにいる同い年ぐらいの2人組の女の子は部活帰りでしょうか。
手にはそれぞれトランペットケースとあれは……ユーフォのケースでしょう。
わたしはバイオリンをするので楽器の心得は多少ありますが、彼女らはおろらく吹部なのでバイオリンの出番はないでしょうね。
あの子たちが通う学校にはオーケストラ部はあるのかな?
あまりよくはないですが楽器はわたしも好きなので、こっそり聞き耳たてちゃいます。
「次いつ合わせる?」
「木曜日とか?」
「なんだかんだ吹部も体育会系だよね」
「そういやあの先輩ってかっこよくない?」
12 :
◆z80pHM8khRJd
[saga]:2018/02/20(火) 02:16:32.15 ID:XtsaYpZt0
よく言いますよね。こういう楽器やってる人あるあるってなんだか面白くって顔がほころんじゃいます。
あの子たちを見てふと思います。……わたしがアイドルをやっていなかったらあんな生活があったのかなって。
授業が終わって、急いでお仕事に行くのではなく、
部活に入って仲間たちとコンクールで賞を目指して、日々トレーニングをしたり、笑い合ったり、ときには恋をしてみんなが過ごすような当たり前の日々を過ごすのです。
アイドルの活動でたくさんのことを学びましたが、こういう当たり前の日々は過ごせないんですよね。
いつか後悔するような日がくるんでしょうか。
プロデューサーさんも、当たり前の日々を奪ってるんだよなと遠い目をしてつぶやいているのをこの前見ました。
どちらの生活が上、だとかはないです。どの道後悔はあるかもだけど、ただ自分が選んだ道を全力で進むだけです。
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