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物真似師「私は物真似師。他人のものまねをして生きている」
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37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/18(日) 21:43:03.03 ID:FDHFhtG4o
「あの綱渡りはすごかったなぁ」
「俺、あれ以上ってなると気になるよな」
「やるならみにいきてえなぁ」
物真似師「これで大道芸の発表は終了ですね。おめでとうございます。大成功と言ってもいいでしょう」
芸人「お前、最後の挨拶は誰のものまねなんだよ」
物真似師「はい?」
芸人「どうしてあんなこと言っちまったんだ。やりにくくなるだろ」
物真似師「申し訳ありません。ですが、ものまねでしかない芸は本物ではないので、それを伝えておきたかったのです」
芸人「余計なことばっかしやがってよ……」
物真似師「……」
少女「お父さん! 物真似師様にお礼いわなきゃ!!」
芸人「おま……」
女性「全部見ていたわ。物真似師様、夫のことを助けていただき、ありがとうございます。感謝しかありません」
物真似師「ものまねの依頼をこなしただけです。深く感謝される覚えはありません」
女性「とんでもありません。本当に、ありがとうございます」
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/18(日) 21:47:10.44 ID:FDHFhtG4o
>>37
訂正
「俺、あれ以上ってなると気になるよな」
↓
「あれ以上ってなると気になるよな」
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/18(日) 21:51:06.42 ID:FDHFhtG4o
少女「お父さんもお礼!」
芸人「むぅ……」
物真似師「――礼の言葉なんかいるかよぉ。礼なら、お前の芸で返してくれよな」
芸人「……」
物真似師「それが芸人ってもんだろぉ?」
芸人「だなっ!! ハッハッハッハ」
物真似師「ハッハッハッハッハ」
少女「もう……」
芸人「復活したら絶対に招待してやるからな。てめえがそのとき、病気になってようが、足が砕けてようが、俺ぁ引き摺ってでも連れていくからな!!」
物真似師「望むところだ、糞野郎!!」
女性「行きましょう」
芸人「なんで戻ってきたんだよ。俺は独りでもやっていけるんだぜ!」
女性「はいはい」
少女「物真似師様!! 貴方に依頼して良かったです!! それでは!!」
物真似師「さようなら」
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/18(日) 21:55:59.44 ID:FDHFhtG4o
―城下町―
ガヤガヤ……ワイワイ……
物真似師「……」
物真似師(お祭りだけあって、人が多い……。早く家に帰ろう)
物真似師(依頼料、こんなにもらちゃったけど……よかったのかな……。もらい過ぎな気も……)
「やすいよ、やすいよー! お! そこの兄ちゃん!! みてってよ!! 良い物そろってんだぁ」
物真似師「私ですか」
「お? 嬢ちゃん、か? まぁ、どっちでもいいや。ほら、みてくれよ。このアクセサリーとか、どうだい?」
物真似師「んー……。興味ないです」
「そんなこというなって。こっちなんてどうだ? 似合うとおもうぜぇ」
物真似師「いりません」
ドンッ!!
物真似師「いたっ」
大男「ってなぁ、このやろう。気を付けろ」
物真似師「すみません」
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/18(日) 22:00:22.05 ID:FDHFhtG4o
大男「けっ。腰抜けが」
物真似師(怖い人……。離れよう……)
「準備ができました」
大男「そうか。すぐに行く」
「始まりますね」
大男「焦るなよ。見つかったら終わりだからな」
物真似師「……」
物真似師(家で寝たい……)
「おーい!! そこのお嬢さぁーん! 貴方に似合う、可愛い服、どうだい?」
物真似師「私ですか」
「あ、あれ? おとこ……? じゃないよね、さぁ、これ! んー、とっても似合うわぁ!」
物真似師「いりません」
「もっと似合う服もあるから、みていきなさいよぉ」
物真似師「服はたくさんあるので」
「今日は祭りなんだからいいじゃない、ほらほらぁ」
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/18(日) 22:20:47.30 ID:FDHFhtG4o
―ものまね小屋―
物真似師「ただいま……」
物真似師「つかれた……ほんとうにきょうはもうねよう……」バタッ
物真似師「……」
物真似師(久しぶりに楽しい仕事だった気がする……)
物真似師(いつもは……嫌な仕事が多いから……)
物真似師「……」
物真似師(あの人たちがもっと大きな場所で芸を披露するなら……私も見に行きたい……)
物真似師(次は観客として……あの芸を楽しんでみたい……)
物真似師「ふぅー……」
物真似師(でも、もう一度……綱渡り……しても……)
物真似師「……」
物真似師(あ……いしきが……)
物真似師(あしたは……いいことが……あります……よう……に……)
物真似師「すぅ……すぅ……」
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/18(日) 22:55:44.55 ID:FDHFhtG4o
―翌朝―
物真似師「すぅ……すぅ……」
『郵便でーす』ガチャンッ
物真似師「うぅん……なにかきた……?」
物真似師「なんだろう……」ゴソゴソ
物真似師「……」
物真似師(依頼状……差出人は……いつものひと……)
物真似師へ。
本日、北の村に出向いて欲しい。村の位置を記した地図を同封しておく。
その村に今回の依頼人がいる。
この手紙を見せれば、分かってもらえるはずだ。
物真似師「……」
物真似師「きがえなきゃ……」
物真似師「やだな……はたらきたくないなぁ……」
物真似師「はぁ……」
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/19(月) 05:20:15.65 ID:w2mbYKTiO
面白い
某ものまね士と同じで性別不詳?
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/19(月) 19:49:43.17 ID:HjmM6du1o
おつー
どうしても午後でイメージしてしまう
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/28(水) 20:12:01.14 ID:emigqC3/o
―北の村―
物真似師「……」キョロキョロ
「お前か?」
物真似師「あ、はい? もしかして、この手紙……」
「この服を着て、俺の声色を真似てみろ」
物真似師「はい……」ゴソゴソ
物真似師「――これでいいのか?」
「すげえな。気持ち悪いぐらいだぜ。んじゃ、この荷物をもって、夜11時に城下町の酒場にいる男に手渡してくれ。その男は目印に分厚い本をテーブルに広げずに置いているはずだ」
物真似師「わかりました」
「あと、荷物の中身は絶対に見るんじゃねえぞ」
物真似師「はい」
「それじゃあな。報酬はその男からもらってくれ」
物真似師「了解です」
物真似師「……」
物真似師(お仕事は夜か……。折角、早起きしたのになぁ……)
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/28(水) 20:20:46.03 ID:emigqC3/o
物真似師(眠いし、帰ろう……。お昼寝でもしようかなぁ……)
『ふざけんじゃねえぞ!!!』
物真似師「……!?」ビクッ
『こんなものが商品になるわけねえだろ!!! ばかやろうぉ!!!』
物真似師(なんか騒いでる……。どうでもいいか、早く家に帰ろう)
ガシャーン!!!
物真似師「……!?」ビクッ
弟子「どうして……!! どうして認めてくれないんですか!! 師匠!!!」
鍛冶師「認めるだぁ!? 一人前を気取るにゃあ50年はええだよ!!」
弟子「くっ……!!」ダダッ
物真似師「おぉ」
弟子「あ、す、すみません……。お、俺、急いでいるので……!」ダダダッ
物真似師(大変そう)
鍛冶師「どうして……。どうしてわからねえんだよ……バカ弟子がぁ……はぁ……。すみません、うちの弟子が失礼なことをしたようで」
物真似師「いえ。私は気にしません」
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/28(水) 20:30:02.45 ID:emigqC3/o
鍛冶師「そうはいかないようです。その持っている服、どうやら弟子が汚していったみたいですよ」
物真似師「え? あ、ほんとだ」
鍛冶師「さっきまで鉄を打ってたからあいつの手、かなり汚れていたはずです。それでぶつかったときに付いてしまったんでしょう」
物真似師「洗濯しないと」
鍛冶師「よければ俺に洗わせてくれませんか」
物真似師「え? いいです」
鍛冶師「そうおっしゃらずに。この村の住人じゃない人は皆、客人。客人に無礼などご法度です」
物真似師「本当に気にしてません」
鍛冶師「俺が気にするんです。どうか、俺の気持ちを落ち着かせるために、その服を洗わせてください」
物真似師「……わかりました」
鍛冶師「ありがとうございます。中にどうぞ」
物真似師「お邪魔します」
物真似師(帰りたかったのになぁ)
鍛冶師「今、菓子と飲み物を持ってきます」
物真似師「お構いなく」
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/28(水) 20:40:00.05 ID:emigqC3/o
鍛冶師「よいしょ、よいしょ」ゴシゴシ
物真似師「……」
物真似師(初めて会った人間にここまで優しくできるなんて、ちょっと変わってるなぁ……)
鍛冶師「なんとか汚れは落ちそうだな」
物真似師(刃物がたくさんある……)
鍛冶師「刃物に興味あります?」
物真似師「別にないです」
鍛冶師「はっきりいいますね」
物真似師「料理人は包丁にすごい拘りがあったりするのは知ってますけど、普通は切れたら十分じゃないのですか」
鍛冶師「まぁ、そうですね。包丁にしろ、斧にしろ、剣にしろ、拘るのは切ることを仕事にしている者たちと、その作り手ぐらいですから」
鍛冶師「故にこういう場所も少なくなってきました……。今ではなんでも型にはめて、冷まして、ちょっと研いで出来上がり。打つ工程が大事だってのに、そういう粗製乱造された粗悪品ばっかりになってしまって……」
物真似師(お昼ご飯は何にしよう……)
鍛冶師「すみません。愚痴ってしまって」
物真似師「大丈夫です。聞いてなかったので」
鍛冶師「あっはっは。なら、いいですか。ほら、汚れは綺麗に落ちましたよ。干しておきますね。今日の天気なら昼過ぎには乾くでしょう」
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/28(水) 20:46:54.15 ID:emigqC3/o
物真似師(このお菓子、美味しい)
物真似師「はむっ」
鍛冶師「貴方は今日はどんな用事でこんな辺鄙な村へ?」
物真似師「仕事です」
鍛冶師「仕事……。うーん……。商人には見えないし、かといって同業者にも……」
物真似師「私は物真似師です」
鍛冶師「もの……まね……」
物真似師「はい。依頼人がこの村にいたので、来ました」
鍛冶師「他人の生業を盗みとる、あの……?」
物真似師「はい」
鍛冶師「……」
物真似師「気分を害したのなら謝罪します。服はまたあとで取りに来ますので。失礼します。お菓子、美味しかったです。では」
物真似師(天気良いし、外でお昼寝でもしよう)
鍛冶師「待ってください。その……俺の依頼をきいてはもらえないですか……?」
物真似師「え? 依頼、ですか」
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/28(水) 22:32:15.11 ID:emigqC3/o
鍛冶師「噂でしか知らないですが、物真似師は絶対に本人を越えられないとか……」
物真似師「はい。どうしても劣ってしまいます。見よう見真似をするだけなので、中身が伴わないのです」
鍛冶師「噂は本当なのですか」
物真似師「他人の技術を完璧に盗み取ることなど、できはしません。それがものまねです」
鍛冶師「それなら尚の事、貴方に頼みたいことがあります」
物真似師「はぁ……」
鍛冶師「弟子の目を覚まさせてやってほしいんです」
物真似師「どうやって?」
鍛冶師「あいつ、この世界に入って丸五年になるんですけどね。最近、そろそろ独り立ちしたいって言いだして」
物真似師「良いことですね」
鍛冶師「それは自分の育てたやつが看板掲げて、一人の職人として生きていこうとするのは嬉しいです。でも、まだ完璧じゃない」
鍛冶師「奴は俺の真似をしているだけなんです。あいつの打った鉄には熱さがない」
物真似師「真似……」
鍛冶師「こういうと弟子バカと思われるでしょうけど、あいつは天才です。たった五年で俺の真似ができるようになったんですから。でも、だからこそ、俺を越えて本物になってほしいんです」
物真似師「本物……」
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/28(水) 22:58:46.31 ID:emigqC3/o
鍛冶師「そこで、思い知らせてやりたいんです。自分の打ったものがどれだけ鈍らなのかを」
鍛冶師「貴方が俺の真似をして鉄を打つ。それはおそらく、弟子とほぼ同等のものとなるでしょう」
物真似師「お弟子さんも真似をしているだけ、というのであればその通りです」
鍛冶師「お前のやってることなんて昨日今日、鎚を持ち上げた人間にだってできるんだって思わせるんです」
鍛冶師「そしたら、あいつも少しは謙虚になってくれるかと思うんですがね」
物真似師「なるほど。でも、お互いが作ったものの優劣はどのように測るんですか」
鍛冶師「さっきあいつが作ったモノがあります。これをあなたにも作って欲しいんです」
物真似師「これはナイフ……?」
鍛冶師「依頼された果物ナイフなんですがね。これじゃあ商品にならないと言ってやりました」
物真似師「良いナイフだと思いますけど」
鍛冶師「俺も良いナイフだと思ってます」
物真似師「でも、これはあなたの真似でしかないと」
鍛冶師「弟子ってのは師匠よりも上に行かないといけない。俺はそう考えてしまう古い人間なんですよ」
物真似師「……」
鍛冶師「物真似師さん。手伝ってください。依頼料はきちんと払います」
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 12:31:51.58 ID:b7/+Vj3vO
物真似師マイペースだなw
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