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緒方智絵里「らびっとぱにっく」
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1 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:38:01.86 ID:oMgPCNNI0
モバマスより緒方智絵里(うさぎ)と小日向美穂(たぬき)などのSSです。
独自解釈、ファンタジー要素、一部アイドルの人外設定などありますためご注意ください。
前作です↓
鷹富士茄子「神様風邪を引きまして」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516519841/
小日向美穂「丸出し尻尾と不思議なお菓子の夜」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517926569/
最初のです↓
小日向美穂「こひなたぬき」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1508431385/
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1518709081
2 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:40:10.73 ID:oMgPCNNI0
街で兎が増殖している。
原因はまったく不明である。
とにもかくにも、あちこちにいるのだ。兎が。マジでどこにでも。
道路、信号機の上、進入禁止の標識、双子のスミスのトレーナー、デイリーニュースの表紙……。
そこらじゅうを闊歩しているものから、何かの絵図に紛れ込んでいるものまで、三次二次なんでも種別を問わず街中にうさぎうさぎうさぎ。
もちろん、うちの事務所も例外ではなく――――
3 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:42:09.28 ID:oMgPCNNI0
P「………………うーーーーーむ」
兎A(フスフスフス)
兎B(フンフンフンフンフン)
兎C(ピスピスピス)
兎D(フハフハフハ)
兎E(グデー)
兎F(フワフワフワフワ)
智絵里「うん……うん。そうなんだ……。えっ、ほんとに……?」
兎G(ピクピクピク)
智絵里「うん……わかった。ありがとう」ナデナデ
兎G(フンス)
P「どうだって?」
智絵里「あの……やっぱり、『どこから来たのか覚えてない』って言ってます」
智絵里「『いつの間にか生まれてた』って……」
P「そうか……てっきりどっかの動物園から脱走したもんかと思ったが」
ちひろ「というレベルではありませんものね」
ちひろ「にしても困りましたね。このままだとお仕事もできませんよ?」
P「……事務所今こんなんですからね」
兎×いっぱい(モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ)
4 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:43:05.36 ID:oMgPCNNI0
P「智絵里の兎時代の知り合いってわけじゃないんだよな?」
智絵里「は、はい。どの子も初めて見ます……」
ポンッ!
智絵里(シュバシュババッ、ササッ、シュビビ)ウサギ
兎(?)
ポンッ!
智絵里「神使ジェスチャーも通じなくて……」
P(神使ジェスチャーって何……?)
ちひろ「茄子さんがまた体調を崩されたわけでもないんですよね?」
茄子「私は健康そのものですよ〜♪」
P「ふーむ。このままじゃ困るし、一体どうしたもんやら……ん?」
プルルルル プルルルル
P「もしもし」ピッ
みく『Pチャン大変にゃあ! み、みく達の寮がぁ!』
5 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:43:57.25 ID:oMgPCNNI0
―― アイドル女子寮
周子「……紗枝ちゃん」
紗枝「はいな」
周子「これ夢?」
紗枝「さてぇ、どうどすやろか……」ムギュー
周子「あ痛(いふぁ)っ痛い痛い、よーくわかったごめんありがと」
蘭子「はわわわわわわわ……!!」
芳乃「ほほー……」
美穂「こ、こ、これってまさか、全部……」
美穂「全部、うさぎさん!?」
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
6 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:45:24.29 ID:oMgPCNNI0
「ぼーっとしてないで早くドア閉めるにゃあ! 美穂チャン、つっかえ棒持ってきて!」
みくちゃんが慌てて寮の玄関扉を閉め、私も急いで言う通りにします。
事の発端は……というほど前兆があったわけじゃありませんでした。
ただ普通に朝起きて、みんな学校または事務所に行こうと玄関を開けた途端、目の前にまっしろな海が広がっていたのです。
それは、表通りを埋め尽くすうさぎさんの大行列でした。
「だ、だから寮の前にうさチャンがいっぱい……ってそっちも!? Pチャン大丈夫!?」
スマホ片手のみくちゃんは、プロデューサーさんと電話してるみたい。
このままじゃ出るに出られない私達は、今いるみんなでリビングに集まってひとまず状況を確かめることにしました。
「うっわ、街中に溢れてんだって」
テレビを点けた周子ちゃんが眉をひそめます。
「つ、ツイッターのトレンドも『うさぎ』とか、『うさぎ 大量発生』とかばっかり……」
小梅ちゃんがスマホ画面を見ながら呟きます。
7 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:47:49.87 ID:oMgPCNNI0
とりあえずわかったことは幾つか。
突然、街中にうさぎさんが溢れかえった。
たぶん都内のどこかから発生し、そこから爆発的に増えて拡散しまくっている。
原因は一切不明。
寮の周りだけじゃなく事務所にもいっぱいいて、しかも中にもいるみたい。
事務所はおっきなビルの高層階にあるから、そんなにたくさん入られてはいないみたいだけど……。
今は都内の一部だけに留まってるけど、もし仮に、更に増え続けたりなんかしちゃったら……。
このままじゃ都市機能がマヒしちゃって大変だってニュースでコメンテーターさんが言ってます。
身支度をする余裕さえなかったのか、彼のカツラは逆さまでした。
チャンネルを変えるとまた別のニュースで、うさぎさんを満載したまま立ち往生する中央線が映っていました。
8 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:49:10.57 ID:oMgPCNNI0
―― 事務所
P「……わかった。とにかくそっちは寮で待機。みんなをしっかりまとめてくれ、寮長」
みく『任せときにゃ! それで、Pチャンはどうするの?』
P「とりあえずは事務所待機かな。原因がわからないんじゃどうにも動きようがない」
P「本当の天変地異か社外のトラブルかもしれんし……。ちひろさん、自宅にいる組にも待機の連絡入れておいてください」
ちひろ「わかりました」
P「すまんが智絵里、できる限る聞き込みを続けて――」
智絵里「!!」ピンッ
P(ツインテが立った!!)
ちひろ(うさみみ!?)
智絵里「………………」フムフムフムフム
P(な、何かを聞いている……)
ちひろ(やっぱり耳なんだわ……)
みく『Pチャン? Pぃーチャーン? どうしたの?』
P「あ、ああ。どうも、智絵里が……」
智絵里「あ……あの」
智絵里「うさぎさんの発生源……わかるかも、です」
9 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:50:59.06 ID:oMgPCNNI0
―― アイドル女子寮
「よしっ」
通話を切ってみくちゃんはフンスと鼻息を吹きます。
「プロデューサーさん、何か仰ってましたか〜?」
「智絵里チャンなら原因がわかるかもって。それ探してみるって言ってたにゃ」
「おぉ、まさに神使の祝福……!」
「お外に出るってこと? だ、大丈夫かなぁ」
「まあ、あんなとこに出てくってのは……ちょっと心配かもね」
周子ちゃんが窓の外をちらと見ます。
もふもふ、まっしろ。うごうご蠢いていて、路上そのものがうさぎさんの和毛(にこげ)みたい。
「…………ていうか増えてません?」
「響子はんもそない思わはります? なんや、さっきより厚みが増してへんかなぁ」
「ま、まるで雨後のキノコ……もといタケノコ……おのれタケノコ……」
「も、モンスターパニックみたい……」
かりかりかりかりかりかりかりかり。
窓にくっついたうさぎさん達が、鼻をぴすぴすさせながらガラスや壁を掻いています。
な、中に入りたがってるみたいだけど……。
「――ちょっと待っててっ」
と、みくちゃんがリビングから飛び出て、物置の方で何やらどちゃがちゃやり始めました。
10 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:52:09.68 ID:oMgPCNNI0
戻ってきたみくちゃんは、鍋蓋の盾にモップの矛、バケツの兜にガムテープやら虫取り網やら、
荷物くくり用のヒモとか伸縮自在のつっぱり棒などで完全武装していました。
「みんな聞いてっ! みく達はこの寮を守らなきゃいけないと思うの!」
「おぉ、フルアーマーみくにゃん……」
「なんや鎧武者みたいどすなぁ」
「外はきっとPチャン達がなんとかしてくれるにゃ。となると、みく達のやるべきことは拠点防衛!」
もふもふもふ、かりかりかり、ふすふすふす。
窓に殺到するうさぎさん達は、中の会話を知ってか知らずか好き放題うごうごしています。
「窓も勝手口も閉め切って、とにかくうさチャン達を一匹も入れないこと! それが大事にゃ!」
「ほー。今日のみくさんはー、常より気迫に満ち満ちているのでしてー」
「寮長だからねっ。Pチャンに任された以上、がっかりさせるわけにはいかないのにゃ!」
そう、うちの寮長はみくちゃん。
女子寮組では芳乃ちゃんの次に所属歴が長い彼女は、持ち前の責任感の強さから自らリーダーを買って出てくれたのです。
11 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:52:44.41 ID:oMgPCNNI0
「けど、うさぎさんってそんなに危ないでしょうか〜?」
菜帆ちゃんがほんにゃりと疑問を呈します。
確かに、私もそれにはちょっと同意かも。
大きい動物じゃないし静かだし、誰かに危害を加えるほど凶暴じゃないし……。
「其は犯さざる無垢の魂、敢えて魔結界の内へと誘うもまた一興……あの、えと、一匹くらい……」
……蘭子ちゃんはなでなでしたくてうずうずしちゃってるし。
その疑問はまったくもって無理からぬこと、というようにみくちゃんは大きく頷いて、
だけど毅然とした態度で窓の外を指差しました。
「それお向かいさん見て同じことが言えるかにゃ?」
12 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:53:27.13 ID:oMgPCNNI0
道路を挟んだお向かいは単身者用の二階建てアパートで、その外観はリビングの窓から見ることができます。
…………訂正。見えません。
や、屋根から下までうさぎさんに埋め尽くされて、ただただ真っ白な塊なのです!!
「うっわ、エッッッグ…………」
「よーーーく見れば、あちこちの窓が開いたり割れてるのが見えるにゃ。隙間からは……」
あとからあとから兎さんが入っては出たり、溢れ出てぽろぽろ転がり落ちたり。
この調子だと、中の様子はお察しというか……か、考えるのが怖い……!
「ぴえぇえ……!?」
「もう蘭子チャンもみんなもわかったと思うの。これは、かわいいうさチャンの大行進なんてものじゃない……」
くわっ!!
目を見開き、みくちゃんはきっぱり断言したのです。
「うさチャン達とみく達との、ナワバリバトルなのにゃあ!!」
13 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:54:19.29 ID:oMgPCNNI0
みく「それじゃ番号! いーち!」
芳乃「にー、でしてー」
美穂「さ、3っ!」
蘭子「W!」
紗枝「ごぉ♪」
周子「ろくー」
菜帆「7〜♪」
響子「8です!」
小梅「きゅ、きゅう……」
輝子「フヒ、10……」
みく「智絵里チャンはPチャンと一緒、イヴチャンとこずえチャンは遠くでロケだから、これでひとまず全員にゃ!」
みく「まずは手分けして窓を閉めるにゃ。鍵のかけ忘れなんてもってのほか!」
響子「場合によっては補強しなきゃいけないかもですね……!」
みく「そうにゃ! 断固抵抗の意思を持って防備を固めるのにゃあ!!」
一同「おーっ!!」
14 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:55:58.11 ID:oMgPCNNI0
―― うさぎだらけの街中
足の踏み場もないっつーか、車なんて一センチも進まないっつーか、交通機関そのものがマヒしている。
当然街は大パニックだった。
人と兎でごった返す中、俺と智絵里は徒歩で進み続ける。
「智絵里、大丈夫か? はぐれるから手を離さないようにな!」
「は、はい……っ」
道々、なんとなくわかったことがまたある。
兎はどうもリアルな生き物じゃないということだ。
これだけもふもふだらけだと車に轢かれたり踏んづけられたりする兎も決して少なくはなく、
必然として街並みはなかなかハードなグロ画像になる筈だが、さにあらず。
どうも何かのダメージを受けたり、びっくりしたりを引き金に、煙のようにポンッと消えるのだ。
あちこちで兎がポンポン消えて、それ以上のペースで増殖しての繰り返しだった。
とにかく、対抗手段がないわけではない……一匹一匹を消してどうなるという話ではあれ。
この件はみくやちひろさんにも連絡して共有しておこう。
「ってことです。ちひろさん、そっちの方は頼みます」
『はいはい、事務処理の方も出来ることから片付けてますよ。まったくまた人外魔境に飛び込んで……』
「好きでやってるんじゃないですよ!」
ちなみにもしやと思い楓さんにも電話してみたが、昨日しこたま飲んだらしく二日酔いでくたばっていた。
大天狗を飲み負かすような人間がそんな体たらくということは、昨夜は志乃さんとでも飲んでいたのか。
今日はあの人には頼れそうにないな……。
15 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:57:34.65 ID:oMgPCNNI0
「それで、どっちに行けばいい?」
「え……と、こっちです。多分……」
「そういえばちゃんと聞いてなかったな。発生源がわかるかもってのは、どうして?」
智絵里は細い指で俺のスーツの袖をきゅっとつまみながら、ぽつぽつ語る。
「声が……聞こえるんです」
「声? 兎の?」
「はい。あの子達には、『親』がいるって……兎を生み出した、誰かが……。
だから、親の話題を出してるうさぎさんを追えば、きっと居場所がわかるかなって」
智絵里のツインテは風も無いのにゆらゆら揺れ、時折ぴくぴく何かに反応していた。
どうもそれが人間モード時のうさみみ代わりらしい。かわいいんだかヘンテコなんだか。
「じゃあ、その親とやらが今もどんどん兎を生み続けてるのかな?」
「それは……違うと思います。いくらなんでも、こんなペースでなんて……ちょっと、おかしいです」
と。
俺達は、目の前で二匹の兎が見つめ合っていることに気付いた。
16 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:58:30.46 ID:oMgPCNNI0
「あ、カップル……」
「えっオスメスなのこの二匹」
「はい。こんなとこで、何を……?」
(クンクンクンクン)
(スリスリスリ)
(ハフハフハフハフ)
「あ」
「智絵里?」
「あ、あ、あ……っ」
(♡)
(♡)
「だっ、だめですプロデューサーさん、見ちゃ……見ないでぇっ!」
((アーン♡))
※マイルドな表現
17 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 00:59:20.14 ID:oMgPCNNI0
詳しい描写は省く。
元気な赤ちゃんが産まれました。
秒で。
マジで?
「ふえぇぇえぇええぇぇっ」
真っ赤になってうずくまってしまう智絵里。
それをよそに兎大増殖のからくりを知った俺は、摩訶不思議の生態に奇妙な感動すら覚えていた。
「そ、そうか! 兎は万年発情期とも呼ばれる動物! 被食者であるが故に、常に交尾可能、排卵可能……!
更に多産ッ! オスとメスを引き合わせれば、本能に従い数が増えるは必然……!
そこにファンタジー的なアレが合わさって、交尾即妊娠即出産即成長のお手軽繁殖を実現しているんだ!!」
「あぅぅうぅ……」
「どうした智絵里!? 大丈夫か!?」
「だ、だいじょうぶじゃないかもです……」
「何!? そりゃまずい! さあ俺に捕まって!」
「ひゃあぁ!? やや、やっぱり大丈夫ですからっ、いま触っちゃだめです!!」
「ナンデ!?」
急に避けられ始めた!?
18 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:00:24.43 ID:oMgPCNNI0
というのはともかく、そりゃ増えるわなという事実がわかってしまった。
これじゃ倍々ゲーム、いやそれ以上の馬鹿げたペースで増えるばかりだ。
どうしたら止められるかさえも分からないが、「親」なるものが方法を知っていることを願うしかない。
「智絵里、どっちだ!?」
「ぅぅ……あ、あっち……です」
結局智絵里はなにやら腰砕けになってしまっていて、一人では立てなかった(恥ずかしすぎたらしい)。
仕方がないので俺がおんぶして走っている。
びっくりするほど軽いので辛くはないが、縮こまった体は全体的にぽかぽか熱い。
注意してみれば今まさにアレしている兎のつがいがあちこちで見受けられる。
このままじゃ、東京中が……いや関東一円が兎に埋め尽くされてしまう。
急がなければ……!
19 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:01:24.54 ID:oMgPCNNI0
―― どこか
??「ど……どうしよう……」
??「私、そんなつもりじゃ……なかったのに……」
??「なっ、なんとか……なんとかしなきゃ……っ」
??「え、あ、わぁあ……っ!?」
モフモフモフーーーーーーーーッ
20 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:07:15.28 ID:oMgPCNNI0
―― アイドル女子寮 リビングルーム
「みんな、戸締りは済んだ!?」
「ばっちりだよ、みくちゃん!」
「暗夜の護符にて編まれし魔結界、容易く破られるものではないわ!」
リビングはもちろん、食堂やおトイレや浴場、私達のお部屋から勝手口から屋上へ続く扉まで。
しっかり鍵までかけて、二階建ての女子寮はこれでぴっちり門扉を閉じたはずです。
「あとはなんとかなるのを待ちましょう〜」
菜帆ちゃんと響子ちゃんがひとまずお茶を淹れてきてくれました。
このままじっとしてれば、中は安全……なはず。
「……ふ、増え続けてる……ね」
「こ、このままだと、表面が埋め尽くされちゃう……な。菌糸みたいに……」
重さで寮がダメになるってことは流石にないと思いますけど、あんまりうさぎさんが積もると大変かも。
雪と同じで、一階部分が埋まっちゃったりとか……。
「ふむー」
これまで黙っていた芳乃ちゃんが、すっと立ち上がりました。
21 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:07:56.68 ID:oMgPCNNI0
「やはりこれは、なんとかせねばなりませぬー」
「おっ、芳乃ちゃんが本気出しちゃう? こう、喝っ! とか、ぶおおー! みたいなので一掃できたり?」
プロデューサーさんが言うには、うさぎさんの一匹一匹は何かあったらポンッと消えちゃうそうな。
芳乃ちゃんが法螺貝を持てば、これほど頼もしいことはありませんけど……。
「不可能ではございませぬがー。また更に増え続けるものと思いますので、焼け石に水ではないかとー」
「あらら、そうなんだ……」
「それにうさぎさん達はー、非道の一党ではありませぬゆえー。むやみに敵意を示しましては、義に悖りまするー」
「じゃ、じゃあどうするの?」
「わたくしからー、うさぎさん達にお話をしてみようかとー」
みんなびっくりしました。
芳乃ちゃんは単身で外に出て、うさぎさんの大群を説得しようというのです。
ここにいるのは人と狸と狐で、うさぎさんの言葉は誰にもわかりません。
けど、芳乃ちゃんなら会話できるかもしれないのです。
22 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:09:27.56 ID:oMgPCNNI0
「けどなぁ、危ない橋やないどすやろか? うさぎはんが応えてくれるやもわからへんし」
「芳乃チャンに何かあるかもって方が心配にゃ!」
「し、死亡フラグ、だと思う……よ」
「プロデューサーさんの連絡を待ちましょう?」
「そうですよ〜。お茶菓子でも頂いて、ゆっくりしましょう〜?」
「或いはヴァルハラへの飛翔……白き無垢なる魂達は、時に汝の身を蝕むやも知れぬ」
「よ、芳乃ちゃんだけ、危ないことをさせられないし、な……フヒ」
「せやねぇ。とりあえず現状問題ないんだから、もうちょい様子見でいいんじゃない?」
「芳乃ちゃん……」
「みなさまー。ご心配くださいまして、とても嬉しいのでしてー」
止めるみんなに一つ一つ頷き返し、芳乃ちゃんはだけど決意を翻しません。
「しかしながらー、誰かがやらねばならぬことなればー。今こそ、依田は芳乃におまかせくださいませー」
と、いつものように微笑んで。
玄関先のお掃除に出るみたいなノリで、止める声も聞かずに出ていくのでした。
23 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:10:43.21 ID:oMgPCNNI0
玄関先の様子はリビングの窓からも見ることができます。
私達は窓にかぶりつきで見守るしかできませんでした。
ついてきてはいけないのでしてー、と本人から固辞されたのです。
そうだ。芳乃ちゃんはふんわりのんびりした子だけど、こうと決めたことは曲げない頑固さも秘めていて。
だからこそ不思議と頼れる、そんな女の子なのでした。
「――みなみなさまー。どうぞ、この依田の呼びかけに耳をお傾けくださいませー」
無数のうさぎさんを前に、彼女がついに口火を切ります。
24 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:11:37.83 ID:oMgPCNNI0
「なにゆえ、かくも荒ぶられまするかー」
「生まれし場所こそ違えどもー、我らは同じ生きとし生けるものー」
「いま一度ー、人界との関わり、互いが幸せになる道をー、模索し合わねばなりませぬー」
「まずは対話をばー。それでこそー、共生へのもふゎぷ」モフッ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
「でーーーしーーーーーてーーーーーーーーーーーーーーー」
モフーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ
「あああっ!? よ、芳乃ちゃんが流されちゃったーっ!!?」
「うっそ!? こゆとき一番頼りになる子が即オチ!?」
「芳乃ちゃーーーーーんっ!!!」
「ああっ蘭子ちゃんダメにゃ! 飛び出しちゃったら二の舞にゃあ!!」
25 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:13:26.49 ID:oMgPCNNI0
…………リビングルームはお通夜の空気でした。
「わ、私がもっと強く止めてれば……」
「芳乃ちゃん…………」
「そんな……今夜は芳乃ちゃんの大好きなきいこん(地鶏の煮しめ)にしようって……」
「フヒ、フ……む、無茶しやがって……」
外はうさうさ祭りで、芳乃ちゃんがどこへ行ってしまったのかなんて逆立ちしたってわかりそうにありません。
どうしてこんなことに……。
「大丈夫ですよ〜」
――と。
淹れ直したあつあつのお茶を差し出してくれるのは、菜帆ちゃん。
「芳乃ちゃんならぜったい無事です〜。だって、あんなに頼れる子じゃありませんか〜。元気に帰ってきますよ〜!」
「そう……そうにゃ。芳乃チャンは大丈夫。そう信じるしかないにゃ」
差し出されたお茶をふーふーふーふーふーふーして(猫舌らしいです)ぐいっと飲み干し、気合を入れ直すみくちゃん。
「だからこそ、みく達はここを守り通さないといけないのにゃ! 芳乃チャン達が安心して帰るためにっ!!」
……そうか。
そうかも。
少なくとも、落ち込んでばかりじゃ芳乃ちゃんの為にもならない……!
26 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:14:37.98 ID:oMgPCNNI0
「……あれ……?」
小梅ちゃんが小さく声を上げました。
視線の先にはつけっぱなしのテレビ。これは陰謀いやいや誰かのミスはたまた天罰今こそ政権交代、
と口角泡を飛ばして激論するスタジオの隅に、いつの間にかうさぎさんが一匹。
わりと好き放題動き回ってるのに、スタジオの人達は誰も気付いてないみたい。
固唾を呑んで見守る私達と、そのうさぎさんとで目が合いました。
向こうは、画面を通じて「私達」を見ていたのです。
「げ……っ!?」
「あらぁ、なんやこっちを見てはるような……」
最初に目が合ったのは周子ちゃん。
うさぎさんは順々に私達を認識したようで、急に足をこっちへ向けました。
「こっちに来てませんか〜?」
「か、カメラさんは気付いてないんでしょうか……!?」
そして、とうとう画面いっぱいがうさぎさんの顔で埋まり――――
ずるっ。
27 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:15:44.85 ID:oMgPCNNI0
「ひょわぁぁぁああああーーーーっ!?」
「んに゙ゃーーーーーーーーーーっ!?」
みくちゃんと蘭子ちゃんの絶叫が響き渡り、リビングは騒然となりました、
なんと、画面の中からうさぎさんが飛び出してきたのです!!
「わぁぁぁ……! 貞子みたい……!!」
そして喜ぶ小梅ちゃん。
「わぁあっ、ど、どんどん出てくるよぉ!!」
「こ、これじゃキリがないにゃあ! 撤退! 撤退ーっ!!」
一匹出てきたらもうだめです。
堰を切ったようにもう一匹、更に二匹、あっというまに十匹二十匹……!
テレビから鉄砲水みたいに溢れるうさぎさんの群れをどうすることもできず、私達は大慌てでリビングの外に出ます。
28 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:17:33.83 ID:oMgPCNNI0
ばたんっ!!
扉を固く閉めて、廊下に出られることだけはなんとか阻止。
「出てこられちゃかなわんわ、そこらにあるものでバリケード作ろ」
「うぅ……悔しいけど、リビングは放棄するしかないにゃあ……!」
「あ、――――あ、ああぁぁぁああぁっ!!!」
突然でした。
輝子ちゃんが、何かに気付いて叫び出したのです!
「輝子ちゃん!? ど、どうしたの!?」
「しめじくん! エリンギくん!! ヒラタケくん!!! みんな……みんながぁ!!」
あ……!!
私達は、リビングの隅がキノコ栽培場であることを思い出しました。
そこには輝子ちゃんが日夜大事に霧吹きしていた、数々のキノコさん達が……!
29 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:18:54.35 ID:oMgPCNNI0
弾丸のように扉に飛びつく輝子ちゃんを、私とみくちゃんで慌てて羽交い絞めにします。
「離してくれ!! トモダチがッ!! トモダチが中にいるんだァッ!!」
「ダメにゃ輝子チャン! 今ドアを開けたら……あっ!」
「フヒーッ!!」
小さな体のどこにそんな力があるのか、輝子ちゃんは一気に手を振りほどいて……!
「……………………あ、これゾンビ映画でよくあるやつやわ」
「さ、さすが輝子ちゃん、わかってるぅ……っ!」
「そんなこと言ってる場合じゃ、ああっ輝子ちゃん! 待っ――」
「マイフレーーーーーーーンズッッ!!!!」
ばぁんッ!!
扉が開け放たれ、同時に飛び出すうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎ
うさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎ!!!
30 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:21:22.94 ID:oMgPCNNI0
輝子ちゃんと小梅ちゃんの姿が消えました。
私達は、視界を埋め尽くすうさぎさんとの直接対峙を余儀なくされます。
ついに寮内への侵入を許し、女子寮ナワバリバトルは、地獄の第二段階へと移行するのでした……。
ぷ、プロデューサーさん、たすけてぇ……。
31 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:23:00.98 ID:oMgPCNNI0
―― うさぎだらけの街
「くそっ、全然進めない……!」
兎の数はいよいよ増して、多い場所だと大人の身長ほどもうずたかく積み上がっていたりする。
いっそ今からでも車を引っ張り出して、兎をぽんぽん消しながら進むか?
いや、ダメだ。兎はそれで対処できても、それ以外のものに衝突しちまったらおしまいだ。
「智絵里、親の情報は集まってるか?」
「は、はい。でもやっぱりまだ遠そうで……いつそこに行けるのか……」
いかんせん移動力が乏しすぎる。
普段一駅分は歩くなどという小賢しい健康法を実践していようとも、人間には乗り物がなきゃやっぱ駄目だ。
もたもたしていると、わけもわからず兎が増え続けていくだけだ……。
『プロデューサーちゃまーーーーーーっ!!』
32 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:24:01.73 ID:oMgPCNNI0
突然、拡声器で増幅された聞き覚えのある声が。
同時に強い風と、ばたばたうるさいローターの回転音が降り注いだ。
「桃華か!?」
見上げると、薔薇のエンブレムが施された小型ヘリが降下してくるところだった。
そして拡声器を持って身を乗り出す、一番小さな飛行服(それでもぶかぶか)の桃華の姿が。
『ここにいらしたのですね! ちひろさんからお話は伺っておりますわ! さ、お乗りくださいまし!』
言うなり、長い縄梯子が蜘蛛の糸のように垂らされた。
「助かる!」
「へ、へ、へりこぷたー……!?」
「大丈夫だ智絵里、桃華もうちのアイドルなんだ」
おっかなびっくり続く智絵里に手を貸しながら、えっちらおっちら機内へ。
……いや、ていうか勢いでやったけど俺もヘリ乗るの初めて。
33 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:26:43.12 ID:oMgPCNNI0
「驚きましたわ。朝起きたら大変なことになっていたんですもの」
「みんなそうさ。にしてもよくヘリなんて飛ばせたな?」
「緊急事態でしたので。今回の件、どう考えても只事ではありませんわ」
ぶかぶか飛行服の姿でも、桃華はエレガントだった。
そして操縦席には彼女が「じいや」と呼ばわる執事風の紳士が。こ、この人ヘリの操縦もできたのか……。
「うさぎさんの智絵里さんには、親の居場所がおわかりになるとのことでしたが……?」
「あ……はい。まだちょっと大雑把ですけど……」
答えつつ、智絵里は地上を見下ろす。
街は真っ白だった。
もうなんか、兎で大陸が出来上がるんじゃないだろうか。
大通りを行進している兎の大河、建物の上に積もり上がる兎の山。
ファンタジーな存在にしても、ここまでくるとやり過ぎ感がある。
「だけど、うさぎさんの声は今も聞こえます。きっと、一番よく集まってるところ……」
「兎密度(って何だ)の一番高い場所を探すのが確実か……」
地上を注意深く観察しながら、俺は機内にいるもう一人に声をかける。
「奏はどう思う?」
34 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:28:39.51 ID:oMgPCNNI0
同じく飛行服を着こなした奏は、足を組んで何やら黙考しているようだった。
「状況によるわね」
「状況?」
「その、『親』の。こうまで野放図に兎の増殖が広がっているなら、そもそも源が無事かどうかの確証もない」
「何か命に関わるような状況は勘弁願いたいところだけどな……」
「それか、親に何らかの悪意があるとか。どっちの場合も厄介だし、できる対処がまるで違う」
そうか。親がなにやら超常的な存在か、それとも人かでも変わってくるわけだしな。
なるほどなるほど。
……ところでそろそろ聞いてもいいだろうか。
「なんで奏も普通にヘリ乗ってんだっけ?」
「あら。乗ってちゃいけない?」
「いけないわけじゃないけど。いや、今俺普通にびっくりしてるんだが」
「驚くほどのことじゃないでしょう? だって私、桃華ちゃんのお友達だもの」
そっかー。友達なら仕方ないな。
「ご協力を仰ぎましたの。奏さんは……」
「桃華ちゃん?」
「っと、失敬。忘れてくださいまし♪」
え、なにこわい。
俺、普通に街で奏をスカウトした筈なんだけど……。
35 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:31:40.69 ID:oMgPCNNI0
「あっ……」
智絵里が声を上げた。
「みなさん、あそこ……!」
指差す先は、ピラミッド状の兎山。ちょっとしたビルくらいの全高あるんじゃないの怖っ。
元の地形と照らし合わせるとあそこは大きな運動公園であって、何の建物もない筈だ。
土台となる建物がないということは、兎だけであれだけ高く積もるほど集まっていることになる。
それほどの密度となると……。
「行きましょう。執事さん、機体をあれの真上に寄せてくれる?」
涼やかに告げる奏。
おじさまはサムズアップで返して、華麗な操縦で目的座標ぴったりにヘリを寄せる。
「……この中心にいると思うか?」
「少なくとも、ひときわ異常な密度なのがここよね」
「おとうさん、おかあさん……って言ってます」
「皆様、参りますわよ!」
身を乗り出す桃華は目をキラキラさせていた。
36 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:33:05.53 ID:oMgPCNNI0
「よし、じゃあ降ろしてもらって……」
「飛び降りますの」
「は?」
「ダイビングですのっ」
も、桃華さん?
「大丈夫ですわ。下にはあれほどうさぎさんがおりますし、ぽぽぽんっと消えてしまっても十分クッションになりましてよ!」
やりたくてしょうがないと顔いっぱいに書いてある。
いや、でも飛び降りるわけだろ、パラシュートとか無しで。しかも下は普通の地面。
危ないどころの話じゃないってどう考えても。
「だけど、降りた後であれだけの兎を改めてかき分けるのは骨よ?」
「そりゃそうかもしれないけど、ファンタジーの兎をアテにして飛び降りるってのは……!」
「大丈夫です」
断言したのは智絵里だった。
彼女は、うごうご蠢く兎山の中心を見すえていた。
ツインテもぴくぴく動いていた。
「たぶん、それが一番早いと思うから……うさぎさんに、受け止めてもらいます」
37 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:33:59.39 ID:oMgPCNNI0
「えいっ」
「おおおい!!?」
智絵里が飛び降りて。
追いかけた俺も思わず飛び出して。
「紐なしバンジーですわ! 一度やってみたかったんですの! ――爺や、あとはよしなにっ!」
「恋に落ちるのもこういう感覚なのかしら――――」
ふんすふんすしながら桃華が、なんか言いながら奏も宙に躍り出て。
落ちる先には、白一色――――
38 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:38:09.79 ID:oMgPCNNI0
ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽんっ!!!
ぶつかる、もふる、消える、ふわつく。
それを何十何百匹分も重ね、兎のもふもふクッションに落下の勢いを殺されていく。
……なんか、こういうのガキの頃やったことあるな。
なんだっけあの、ボールプール?
というとりとめもない回想はどうでもよく――
俺達は、まるで羽毛が落ちるようなふわっと接地で地表に転がっていた。
三角形の兎ピラミッドはその頂点から底に至るまで綺麗に穴が開いて、まるで白い井戸の底にいるようだった。
39 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:47:50.15 ID:oMgPCNNI0
もふぁぁぁあっ、と衝撃でピラミッドが形を崩していく。
その中心でノビているのは、驚くほど小柄で幼い女の子だった。
胸には、一冊のスケッチブックを大事そうに抱えていて……。
「――おーい。もしもーし。生きてるかー?」
「ん……ぅ……ぁう……」
「お、起きてくださいっ。お話を、しましょう……っ」
何度目かの呼びかけでその子は目覚めた。
ふんわりしたショートヘアに泣きぼくろが特徴的な、優しそうな少女。
彼女は俺達の顔を順に見比べて、両手両足で一気に後ずさった。
「ごっごめっ、ごめんなさいっ! わた、わたしそんなつもりじゃ……っ!!」
そうか。
こういう反応をしたってことは、やっぱり心当たりがあるわけだな。
「落ち着いて。何も君を捕まえに来たわけじゃない」
「で、でも、でもっわたしっ、こんなこと……」
泣きそうだ。……参ったなぁ。
けど、わかったことがある。
この事態の原因がこの子だとして、彼女はそれをひどく不本意に思っている。
つまり何かの過失になるわけだが……。
40 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:48:53.13 ID:oMgPCNNI0
「わたくし達は、あなたを助けに参ったんですの」
「大丈夫よ。誰もあなたを責めたりなんてしないわ」
「うさぎさん達のこと、知ってるんですよね? みんなで、なんとかしましょう……?」
なだめるうちに彼女は落ち着いてきたようだった。
スケッチブックを抱きしめたまま、こっくり、と頷く。
「それじゃ、簡単な話から聞かせてもらっていいか?」
「……はい……」
「まずは、君の名前を教えてくれるかな。俺はP、このツインテの子は緒方智絵里、金髪の子は櫻井桃華。蒼いのは速水奏っていうんだ」
「ちょっと」
「すまん他に簡単な形容が思いつかなかった」
「P……さん。ちえりさん……ももかさん……かなで、さん……」
「わたし……私は、由愛。成宮由愛…………です」
41 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 01:50:01.97 ID:oMgPCNNI0
一旦切ります。
明日か明後日中には終わると思います。
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/16(金) 06:54:34.78 ID:hcpXWPrYo
SS史上類を見ない程のもふもふっぷり
これは期待
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/16(金) 09:08:31.37 ID:CfBpnO8D0
こいつは臭え、獣の臭いがプンプンするぜッー!
44 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 17:48:59.94 ID:oMgPCNNI0
―― アイドル女子寮 食堂
「…………点呼を取るにゃ。いーち」
「にぃ……」
「さ、さん……」
「よぉん」
「ごー」
「ろくです〜」
「なな、です……」
「みく、美穂チャン、蘭子チャン、紗枝チャン、周子チャン、菜帆チャン、響子チャン……」
「まさか三人も犠牲が出るなんてね……」
「ま……まだにゃ。芳乃チャンも輝子チャンも小梅チャンも無事の筈にゃ……!」
私達はうさぎさんを締め出し、なんとか食堂に立てこもることに成功しました。
もう窓全部がうさぎさんで塞がれていて、外の様子は全然わかりません。
ガムテープを貼ったり家具を積み上げたりしてバリケードにしたから、夜のように電気をつけないと真っ暗なのでした。
生き残った七人ともが、疲労困憊の体を休めています。
「ま、でも食堂に入れたのは不幸中の幸いやったね。食糧はあるわけだし……」
周子ちゃんの言う通り。食堂はダイニングキッチンの形になってるから、冷蔵庫もあります。
長期戦になるとしても、ひとまずお腹が空くということは避けられる筈です……っ。
45 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 17:50:40.87 ID:oMgPCNNI0
「…………ん、ぅ。…………んゅ……」
ところで、さっきから蘭子ちゃんがそわそわしてるような……?
食卓の椅子に座ったまま、ふとももをすりすり擦り合わせて……。
「……蘭子ちゃん、どうしたの?」
小声で呼びかけると、蘭子ちゃんは何故か顔を赤くしました。
ぽしょぽしょ耳打ちするに曰く――
「お、おしっこがしたい!?」
「ふぁあっ、こ、声……!」
「あ、ごめん……!!」
慌てて口を塞いだ時にはもう手遅れでした。
食堂にいるみんなが、蘭子ちゃんが今直面している緊急事態を知ってしまったのです。
46 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 17:51:33.06 ID:oMgPCNNI0
……いずれ必ず向き合うべき事でした。誰しも時間の問題だったのです。
考えてみれば蘭子ちゃんは、リビングで出されたお茶を繰り返しおかわりしていたように思います。
気を落ち着かせる為か、何杯も……。
「わ……私のせいでしょうか〜。私がお茶を出したばっかりに〜……」
「蘭子はんも菜帆はんも悪ぅありまへん。入れたもんが出ていくいうんは自然の仕組みどす」
「けど、トイレ行くには一回廊下に出なきゃだし……」
「蘭子チャン、我慢できそうにないにゃ……?」
蘭子ちゃんは迷って、迷って迷って、こくん……と頷きます。
「は、方舟がアララトの頂に座し、遍く地表を裁きの洪水が……」
だ、だめっぽい……!
うんうん考え込んでいた響子ちゃんが思い立ってキッチンまで走り、
「そ、そうだ! このペットボト」
「それだけはいやぁっ!!!」
蘭子ちゃんはもう半泣きでした。
47 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/02/16(金) 17:53:53.96 ID:oMgPCNNI0
「……わかった。おトイレに行こう、蘭子ちゃん……!」
「美穂チャン!?」
立ち上がる私を、みくちゃんが唖然と見上げます。
「わかってるにゃ!? 今や廊下までうさチャンの群れ……! ここから出るだけでも危険なの!」
「大丈夫。おトイレのドアもちゃんと閉めてたし、今うさぎさんがいるのは廊下までだよ」
ここからおトイレまではそう遠くない。
ぱっと出てさっと移動すれば、危険なのは廊下間の移動のみ……!
「私も行きます〜。蘭子ちゃんのおしっこ問題には、私の責任もありますから〜!」
ここで、チームは二つに分かれました。
おトイレ突撃隊が私、蘭子ちゃん、菜帆ちゃん。
食堂防衛隊がみくちゃん、周子ちゃん、紗枝ちゃん、響子ちゃん。
私達が飛び出るのと同時に扉を閉め、防衛隊はうさぎさんの侵入を防いで私達を待つ。
突撃隊はそのままおトイレに飛び込んで、用を足して素早く戻る。
「それじゃあ、開けるね……」
「うん。響子ちゃん、お願い……!」
「グッドラックにゃ、三人とも……!」
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