ロールシャッハ「嵐を呼ぶ、救いのヒーローたち」

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102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:51:26.79 ID:RLpWKJmJ0

マカオ「ところで」

ぶりぶりざえもん「」ビクッ

ジョマ「いったいなにが不満だというのかしら?
     アタシたちが人間を支配すればこの世はもっと良くなるのよ? 多分ね」

ぶりぶりざえもん「証拠を出せ証拠を!」

マカオ「やってみれば、そのときわかるわ」


ぶりぶりざえもん「不満ならまだある!」

ぶりぶりざえもん「この私がお前たちより立場が低いのは我慢ならん!」


ジョマ「ん〜、どうすればいいの〜?」

ズボンを下ろし、尻を突き出すぶりぶりざえもん。


ぶりぶりざえもん「……私の尻にキスをしろ。ひとり左右一回ずつ全員な」

マホ「はあ!? できるかそんなもん!」

ハブ「よく考えろ。あれは実体じゃない」

パラダイスキング「……そーいう問題か?」


マカオ・ジョマ「しょうがないわねえん」

迫るオカマ魔女の唇!


ぶりぶりざえもん「……いややっぱりいい」

マカオ「遠慮しないでえーん」

ジョマ「んー、そうよ。オシリが腫れるくらいしてあげる」

アナコンダ「わしの代わりにアレクサンダー(ヘビ)の口でもいいかね?」

ぶりぶりざえもん「やめろと言ったぞ貴様ら!」


パラダイスキング「……こんな奴らが世界を左右するなんざ泣けてくるぜ」



広間の隅、座ったまま無言のヘクソン。
不意に立ち上がる。

ハブ「……どこへ行く?」

ヘクソン「……お前には関係ない」

ハブ「あの、ロールシャッハのマスクの男か?」

ヘクソン「だとしたらどうする」

ハブ「……死体を取りに行かせるなよ」


ヘクソン「…………」

ヘクソン「……オカマども。人形を借りるぞ」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:54:06.71 ID:RLpWKJmJ0




ロールシャッハ(取り戻すべきものが二つ)

         (しんのすけと、“ぶりぶりざえもん”)

         (道中、子供たちからその品の詳細を聞いた)

         (電子生命体とも呼ぶべきそれは、自らの意志によって行動する、
          制御不能の代物だという)

         (だがそれは悪い報せではなかった)

         (子供たちによれば、初代の“ぶりぶりざえもん”は
          しんのすけの導きにより倫理を得、そののちに消失)

         (だが新たな“ぶりぶりざえもん”にも、その信念は受け継がれている……
          かすかな接触でしかないが、そう思われるという)


         (易々と敵に従うことはまずない、とのことだ)


         (問題が去ったわけではない)


         (奴が自由にならなければ、いずれにしろ世界に終末は訪れるのだ)



104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:56:28.64 ID:RLpWKJmJ0

カスカベ座


日は沈み、夜。市内には赤色灯が瞬いている。
周囲の建物に跳ね返った光が、わずかにカスカベ座に差し込んでいる。



ロールシャッハ「……全員いるか?」

風間「番号!」
   「1!」
ネネ 「2!」
マサオ「3!」
ボー 「4!」
ひまわり「た」
シロ  「アン!」


むさえ「はいはい、いるいる全員いるー」


ひろし「ここは……カスカベ座?」
みさえ「なんでここなのよ?」


ロールシャッハ「カスカベの“穴”ともいえる場所だ。暴徒どもはまいた」

ロールシャッハ「全員中に入れ。ルル。中を頼む」


ルル「はい。さあ皆さん、こっちへ……」


ひろし「また映画の中入ったりしねーだろうな……」

みさえ「これ以上変なこと起きたらたまったもんじゃないわよ」



よね「何度も聞くようだけど、これからどうする?」

ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ「俺はロビーで待機し、奴らに備える」

ロールシャッハ「今一度襲いに来るだろう」


よね「……ブツは向こうに渡ったんじゃないの?」


ロールシャッハ「偽のニュースがいい証拠だ。ありがたいことに、
        連中は俺を脅威と見なしているらしい」

ロールシャッハ「死体を確認しない限りは、追跡を止めないだろう」

ロールシャッハ「……たとえ世界を手にしても、それを覆す者があると思っている……」


105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:58:52.24 ID:RLpWKJmJ0

カスカベ座 シアター内


暗がりの中、ルルが懐中電灯で即席の証明を作る。

むさえ「こんなホコリくさいとこでカンヅメになるの?」

むさえ「大体なんでこんなとこまだ残ってんのよー?」


みさえ「うるっさいわね静かにして! あんただって部屋にいればよかったじゃない!」

みさえ「そうじゃなくても、今しんのすけが危ないのよ!?」

むさえ「うう……ゴメン」


風間「でも……大丈夫だと思います、きっと」

ひろし「風間くん……」

風間「ぶりぶりざえもんがいっしょですから! ほら、大袋博士の」


ひろし・みさえ「! 大袋博士のぶりぶりざえもん……」


ひろし・みさえ「……すっげー不安……」



スンノケシ「ルル、他のみんなは大丈夫?」

ルル「それが……外と連絡が取れない状態です」

ひろし「え!?」

ルル「おそらくは電波ジャックの影響でしょう」

ひろし「うわ、携帯が圏外だ……一応市内なのに」


ルル「念のため、ここからの逃走経路も確保しておきましょう」

スンノケシ「皆さんだけでも、なんとか安全に家に帰れればいいのですが――」


風間「……僕たちは大丈夫です! しんのすけが心配だもん」

ネネ「ネネも同じよ!」

マサオ「怖いけど、あのおじさんがいればなんとかなるよね、きっと!」

ボー「ボー! 僕たち、カスカベ防衛隊!」

ひろし「……みんな!」

むさえ「えー私はもう帰りたいけど、別にできることないしー」

一同「「「アアン!!??」」」

むさえ「う、うそうそ、冗談!」


ひまわり「……たや?」

ひまわり「!」

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:51:01.15 ID:RLpWKJmJ0




カスカベ座 ロビー


ロールシャッハ「ガリ、ガリ、ガリ……」


ロールシャッハ(……体力の消耗が激しい)

ロールシャッハ(……抑えていた痛みがよみがえってきた)

ロールシャッハ(……限界が近づいている)



よね「ねえ」

ロールシャッハ「……なんだ」

よね「あんたさっき、坊主の子にヒーローだって言われてたよね?」

ロールシャッハ「それがどうした」

よね「私もそうなりたかったんだよなー、って思って」


よね「一時はねっ? 私もうまくやれた、近づけたって思ったの」

よね「でも、いつまでも同じ速度で走れなくて」

よね「そうなることより、そうあり続けることが本当に難しいんだと思った」



ロールシャッハ「……もう終わったか?」

よね「なんだよ、人がせっかくマジな話をしてるってのに!」


ロールシャッハ「……ヒーローは誰でもなれる」

よね「……?」

ロールシャッハ「誰もがなることができ、」
        「そしてまた、誰もがなることができない」

よね「……ヒーローってなんだと思う? あんたなら知ってるんでしょ?」

ロールシャッハ「……あのニュースは、本当は間違いではない」


ロールシャッハ「俺はこのカスカベに混乱をもたらしたし、
        警察に追われることはこれが初めてじゃない」

ロールシャッハ「たとえ世界のすべてが敵に回ろうと、
        なにひとつ報われなくとも屈するな」


ロールシャッハ「……ヒーローとは……」


立ち上がり、窓の外を見る。


ロールシャッハ「最後まで、真実の側に立つ者だ」


107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:52:46.96 ID:RLpWKJmJ0

よねもまた外を見る。

よね「!」

カスカベ座の周りを、無数の等身大の人形が取り囲んでいる。
無感情の兵たちだ。

よね「……なにあれ。全然動かないけど」

ロールシャッハ「HURM.妙だな……」

ロールシャッハ「奥に向かうぞ。連中を裏から逃がす」

と、後方から銃声。シアター内だ。

ロールシャッハ「!」

扉を開けると、中にヘクソンがいる。
ルルの首を絞め、持ち上げている。

ロールシャッハ「貴様……!」

        (……ヘクソン)

        (なんという早さだ)

        (他の者たちが硬直している……声も出さずに……)

ロールシャッハ(俺たちに気づかれぬためか。おそらくこれもこいつの能力のひとつ……)


ヘクソン「……場所を探るのに少々手こずった」


よね「表の人形は!? あんたのオモチャ!?」


ヘクソン「奴らとともに急襲するつもりだったが、どうしたわけかあの人形たちはここへ入れぬようだ」

ヘクソン「……感じるぞ。この建物自体に、なにか大きな力が働いているな」


ロールシャッハ「……その女を放せ」

ヘクソン「ならばそうしよう」

ルルの体を放り投げるヘクソン。
ロールシャッハが受け止め、荒っぽくよねにあずける。
その間に床に落ちた銃を拾い上げ、引き金を引くヘクソン。
ロールシャッハは走り、そのあとを追うように壁に弾痕が残る。

ロールシャッハ(威嚇か。当てようと思えばできるものを)

ライトに銃弾が当たり吹き飛ぶ。シアター内が暗転。

同時に、他の者の金縛りが解ける。

ひろし「う、動ける! みんな早く外へ!」

おびえた子供たちを抱えて走り出すひろし

よね「野原さん! 待って今外は――」

と、ヘクソンが弾切れの拳銃をよねの額に投げる。
よねが倒れるとともに、ひろしたちは入り口へ。


ロールシャッハ(……クソ!)

ロールシャッハ(銃声と暗闇で彼らをおびえさせ、外へ出すとは)

ロールシャッハ(……やられた……!)

ヘクソン「襲撃には慣れていると思ったが、期待外れのようだな」

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:53:57.91 ID:RLpWKJmJ0


ロールシャッハ(せめて、せめてこの男だけは)

ロールシャッハ「RRAAAALLL!!」

攻め立てるロールシャッハ。
当然、拳はかすりもせずに空を切る。

ヘクソン「勝算もなくただ闇雲に突っ込むとは……」

ヘクソン「失望したぞ」

ロールシャッハは追撃するがやはり平然といなされ、
重い蹴りを腹に入れられて崩れ落ちる。
ヘクソンは彼を後にし、外へ出る。

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:54:51.16 ID:RLpWKJmJ0

ひろしたちを人形が取り囲み、拘束する。

ひろし「わ、なんだなんだおい!」

ルル「放せ! その人たちは関係ない!」

ヘクソン「そこの子供たち」

風間・ネネ・マサオ・ボー「「「「!」」」」

ヘクソン「先ほどは逃がしてやったが……まだ首を突っ込むならただでは済まさん」

風間「……し、」

風間「しんのすけを返せ!」

ひろし「またお前かよ! くすぐりに弱いくせしてカッコつけてんじゃねえ!」

ひろし「もっかいやったるぞ! 口が裂けるほど笑わしたる!」

ヘクソン「ほう。野原ひろし。お前の頭の中には今でも」
みさえ「ああん?」

ひろし「うるせー言わせねえよ!!」


110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:57:06.67 ID:RLpWKJmJ0

ロールシャッハ、よろめきながら彼らの前へ這い出す。
マスクの下では吐血している。
身体が、限界に近いようだ。


ロールシャッハ「UUK……」


ヘクソン「……なぜまだ立ち上がる?」

    「この街を見ろ。なにもわからぬ者たちが愚かにうめいている」

    「そして世界はさらに広く、かつ、この街よりよほど醜い」

    「お前もわかっているはずだ。この世界には終末が必要なのだと」


ヘクソン「その出来の悪い世界のために、なぜまだ闘える?」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「……二度と失わないためだ」


ヘクソン、ロールシャッハに手をかざす。

ロールシャッハ「なんの真似だ……俺にも金縛りを……」

ロールシャッハ(!)

        (違う。そんな生易しいものではない)

        (心を読むその力で……俺の方へ侵蝕している!)



        (……俺は……)

        (……俺……)

        (…………)

ロールシャッハ、その場に力尽きる。

111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:57:58.23 ID:RLpWKJmJ0

ヘクソン「……」

ヘクソン「……おい。そこの家族とガキどもを連れていけ」

ルル「待て!」

言葉ののちに、野原家とカスカベ防衛隊を連れた人形が姿を消す。


ロールシャッハ「――――」

ヘクソン「……この男もだ」

ロールシャッハの身体に人形がまとわりつく。

ロールシャッハはぐったりとしたまま、もう動かない。

よね、銃を構えて飛び出す。額から血を流している。

よね「ロールシャッハ!」

走りながら手を伸ばす。
だがその指先は届かずに、ロールシャッハの姿がこの世から消えていく。

よね「……そんな……!」



ヘクソン「……お前たちは残しておいてやる」

ヘクソン「……終末を楽しむがいい」

ヘクソンの姿も消え失せる。

よね「……」
ルル「……」
スンノケシ「……」



むさえ「え、なに? どうなったの?」

112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:05:32.72 ID:Lz8qDcvo0


ヘンダー城 どこかの部屋


しんのすけ、後ろ手に縛られた縄を解こうと身をよじる。

しんのすけ「ふんっ! ふんっ! はー……ムリだゾ……」

アクション仮面「がんばれ、しんのすけ君! あと少しだ!」

トッペマ(しんちゃんの縄が解ければ……)

トッペマ(奪ったスゲーナスゴイデスのトランプを渡せる……!)



――扉が開く。


パラダイスキング「……おーい?」

アクション仮面「!」

しんのすけ「爆発頭!」

パラダイスキング「よかったなあボウズ? ほらまたアクション仮面に逢えただろ?」

しんのすけ「ヒキョー者! おまえなんかすぐにぐっちゃぐちゃの
       ぎったんぎったんのけっちょんちょんの……」


パラダイスキング「ったく、口の減らねえガキだな!」

アクション仮面「おい、その子にはなにもするな!」

パラダイスキング「……ハハハ! 俺はなにもしねーよ?」

        「ほかの奴はどうだか知らねえがな」

パラダイスキング「オカマどもが呼んでるぜ。お前ら全員こっちに来い」

113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:06:52.98 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダー城 広間


マカオとジョマの座る、玉座の前に並べられるしんのすけたち。

広間の左右に、彼らの部下となった者たちと、人形たち。


アナコンダ「んんん? また逢ったねえボク?」

しんのすけ「おじさん誰だっけ……?」

アナコンダ「んんんんんんん〜? フフフ」

しんのすけ「……白うんこ!」

アナコンダ「返す返す思うのは」

アナコンダ「キミがあのときコミヤエツコのサインを欲しがったことだ」


アナコンダ「そのせいで、ワシはまたキミを痛めつけなくてはならなくなったよ……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:07:46.57 ID:Lz8qDcvo0

と、それをまったく無視し、いつのまにかケツだけ歩きで
マホの元へ向かっているしんのすけ。


しんのすけ「はーいおねいさんこんなところで逢うなんて奇遇だね〜」

しんのすけ「これからオラとアクション仮面の逆転劇見ながらお茶しな〜い?」


アクション仮面(……しんのすけくん……)
トッペマ(……しんちゃん……)

アナコンダ「……」

ハブ「おい、黙らせろ」

マホ「〜〜〜〜〜ッ」

ポカァン!

げんこつ。再度並べられるしんのすけ。

しんのすけ「……軽いジョークだゾ」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:09:07.63 ID:Lz8qDcvo0

と、そこへ、ロールシャッハたちを連れたヘクソンと人形の群れが現れる。
ロールシャッハは意識を失ったままだ。
しんのすけたちとともに一ヵ所に固められる。


マカオ「あらお帰りなさい」
ジョマ「早かったのねえ?」


ヘクソン「…………」

ハブ「……ほう。なかなかやるな」

ヘクソン「……お前が使えんだけだ」

ハブ「……お前とも、いずれ決着をつけねばな」


ひろし「しんのすけ!」
みさえ「しんちゃん!」


しんのすけ「おおー! 父ちゃん母ちゃんひまわりシロ!」


ひろし「くっそまたお前らか! あとお前とかお前とか!
     あ、あとそちらのお姉さんとか」


みさえ・ひまわり「……けっ!」


風間「しんのすけ!」

しんのすけ「あれ風間くんたちも……」


しんのすけ「なんだみんなつかまっちゃったのか……」
      「はーやれやれ、困ったもんですな」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:10:21.28 ID:Lz8qDcvo0

ひろし「おいオカマども! さっさとうちの子を返してどっか行け!」

ひろし「そしたら今日のところは許してやる!」

ジョマ「返せと言われて返すわけないでしょーん」

マカオ「それにあなた方親子、各方面からずいぶんと恨みを買ってるみたいね」

みさえ「それはあんたたちが悪いことしてるからでしょ! 巻き込まれる方の身にもなりなさい!」


ジョマ「……ンフフ」
マカオ「……ンフフ」
アナコンダ「……グフフ……」
ハブ「……ククク……」

含み笑いが悪の中に伝染し、やがて大きな高笑いへと変わっていく。

117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:11:22.77 ID:Lz8qDcvo0

マカオ「……ぶりぶりざえもーん? いつまで隠れてるの、出てらっしゃーい?」

人形たちの中から一人が前に出る。
手の上にぶりぶりざえもんを乗せている。

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」

しんのすけ「このうらぎりものー! オラのこと覚えてたんじゃなかったのかー!」


ぶりぶりざえもん「あきらめろと言っただけだこの私も妥協するくらいのことはある!」

ぶりぶりざえもん「大体山奥のあんなチンケな機材しかないところで
          コンピュータ・ウィルスになにができるというのだこの野郎!」


マカオ「ちょっと黙りなさいぶりぶりざえもん」

ジョマ「なんでこのコたちを連れてきたと思うー?」

ぶりぶりざえもん「……人質か」

ジョマ「理解が早くていいわー、賢い子は好きよ、あ・た・し」

ぶりぶりざえもん「……」

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:15:11.11 ID:Lz8qDcvo0

ぶりぶりざえもん「……」

ぶりぶりざえもん「……」

ぶりぶりざえもん「……笑わせるなこのオカマども!」

ぶりぶりざえもん「仮にもこの世界最高峰のプログラムである私が人質程度で心が揺らぐと思ったか!」

         「大体にしてお前らそんな手を使わねば
           世界征服できないような連中に手を貸すほど私は安くないぞ!」


ジョマ「じゃあこのコたち、消しちゃっていいのね」


ぶりぶりざえもん「それも待て!」

ぶりぶりざえもん「私からひとつ提案がある!」

マカオ「なーによー?」


ぶりぶりざえもん「私は常に強い者の味方だ」

ぶりぶりざえもん「ところがここにいる者たちはそろいもそろって
          たかが五歳児のしんのすけとそのファミリーに敗北しているというではないか」

ぶりぶりざえもん「ならばお前たち、もう一度しんのすけたちとフェアに勝負して勝ってみろ!
          お前たちが強い者だと私に証明してみせろ!」



ぶりぶりざえもん「勝負方法は!?」

         「ダンス!?」
         「ババ抜き!?」
         「追いかけっこ!?」
         「いや!」
         「バトルロイヤル!!」


ジョマ「……いいわね」
マカオ「ステキ……」


ぶりぶりざえもん「……決まりだな。勝者に対して従おう」

ぶりぶりざえもん「私は常に強い者の味方だ!」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:16:41.06 ID:Lz8qDcvo0

すると、しんのすけたちの縄や鎖が砕け散る。
さらに広間の床が変形して壁になり、しんのすけたちを取り囲み、歪な箱になる。


マカオ・ジョマ「!?」

ジョマ「……ちょっとなんの真似?」


ぶりぶりざえもん「このヘンダー城は勝手がいい」

         「私はMk-2だぞ。大袋博士はこうした超常現象にも対応できるようアップグレードしている」

ぶりぶりざえもん「この城も私にとってはデータのようなものだ」
         「そんで大体なんとなく仕組みは理解した!」
         「私を乗せているこの人形も今は私の操作下にある!」


ジョマ「……人間ってタフねえ」
マカオ「そうね。これが終わったらしっかり滅ぼさなきゃいけないわ」


ぶりぶりざえもん「時間を決めるぞ。午前〇時になったら始めてよし!」


城の外、上空に巨大な砂時計が現れる。


ぶりぶりざえもん「その間しんのすけたちには準備の時間を与える!」


ジョマ「大盤振る舞いねえ」

マカオ「今その箱ごと消しちゃってもいいんだけど?」


ぶりぶりざえもん「下がれオカマども! お前たちにもこの時間にひとつサービスを与えてやる」

マカオ「あらそう」
ジョマ「どのみちずっとサービスしてもらうことになるけどね」

しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」


しんのすけたちを閉じ込めた箱は子供の落書きのようなロケットに変形し、
展開した天井から飛び出して、夜空に消えていく。

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 19:17:33.20 ID:Lz8qDcvo0



ぶりぶりざえもん「……あ、出口をつけるのを忘れた」


ぶりぶりざえもん「……この作戦は失敗だ」


121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 20:48:30.78 ID:Lz8qDcvo0

カスカベ市内 カスカベ座


よね「……」
ルル「……」
スンノケシ「……」


むさえ「え、どーすんの? そんで?」

よね「……あんたはもう帰っていいわ」


ルル「……彼らを信じて待つしかないでしょうか?」

ルル「もはや、手出しができません」

よね「信じていいのかな。あいつ、もうまともに生きてるかもわからないし……」


スンノケシ「僕らはとりあえず、本隊と合流しましょう」

スンノケシ「今後も敵がなにかを仕掛けてくることは間違いありませんから」

むさえ「しんのすけの顔でそんな真面目なこと言われると笑えてきちゃうなー」

ルル「無礼な!」

むさえ「ウソウソ、ゴメン!」

むさえ「てゆーかねえ、さっきのあれはなに? 魔法? ねーちゃんたちどこいっちゃったの?」


よね「……そうだ!」

ルル「どうしました? なにか……」

よね「知り合いに元・魔人がいる!」


ルル「しかし、携帯が使えません」

よね「なら公衆電話ってもんがある!」

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:10:38.56 ID:Lz8qDcvo0

都内 スウィングボール


プルルル
サタケ「はい、お電話ありがとうございま―-」

よね「もしもし聞こえる!? 私よ私!」

サタケ「……ねーちゃん、詐欺ならよそでやんな」

よね「私よ! 東松山よね! ナリタ東西署の刑事!」

サタケ「お前か! いったいなんの……」

よね「そこにジャークいるでしょ! ジャーク! 緊急事態!」

サタケ「待ってろ。おいジャーク、電話だ!」

サタケ「なんかわからんが、ヘッポコ刑事がきんきゅーじたいだとよ!」


ジャーク「ほらみなさいあんたたち! 魔人の勘が当たったじゃないの!」

ローズ「えー、でもあのコが言ってるんでしょ〜?」

ラベンダー「ただの勘違いかもしれないわね」

レモン「大体あんたに用って、なにを頼ることがあんのよ?」

ジャーク「うるさいわねっ!」

サタケ「いーからはよ代われ!」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:11:59.09 ID:Lz8qDcvo0

ジャーク「ハァーイもしもし、ジャークですぅー」

よね「あんた腐っても魔人よね? あんたの力あとちょっとでいいから使えない?」

ジャーク「えー……なに、そんなこと? できたらもうなんかしらやってるわよ」

よね「そこをどうにかしてしぼり出せない?」

よね「ヘクソンがまた悪いことしてんの! そこの三兄弟も無関係じゃないって伝え」ブツッ

ツーツーツー


ローズ「なんだったのよ?」

ジャーク「途中で切れちゃったけど、」

ジャーク「ヘクソンが股を悪くしたとかなんとか……」

ジャーク「こないだカスカベの方で逃亡中ってニュースで見たけどねえ」


一同「「「「なにィッ!」」」」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:13:17.18 ID:Lz8qDcvo0

ローズ「あんたなんでそれを早く言わないのよ!」

ジャーク「だってあいつ怖いから関わりたくないんだもん」

レモン「急いで準備しておにいたまっ」

ラベンダー「途中で切れたなら、マジにヤバイ状況みたいね」


サタケ「……お客様。申し訳ありませんが本日はただいまをもって閉店とさせていただきます」

客「はあ? なんだ急に!」


サタケ「おそらく世界の危機ですので」ゴキゴキ

客「あ、はい……」

客「しょ、しょーがねーな、世界の危機じゃな……」

サタケ「またのご利用お待ちしております!」ニッコリ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:14:58.23 ID:Lz8qDcvo0

カスカベ市内

暴動はやや落ち着いたものの、まだ警官が多く警備にあたっている。

よね、公衆電話に向かって叫ぶ。

よね「もしもし、もしもーしッ!」


よね「……切れちゃった」

と同時に、カスカベ全域が停電状態に。

よね「……停電!?」


ルル「……おそらくただの停電ではなさそうです」

ルル「…………来ました」


路地裏から這い出して来る人形たち。

人形「「「」」」カタカタカタカタ


人形の群れが、カスカベ市内を襲い始める。
どこで銃声がし、おさまったかに見えたパニックは、再度広がっていく。

126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:17:08.69 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 湖の上


ぶりぶりざえもんのつくった即席のロケットが、徐々に高度を落としていく。


一同「うわあああああああああああ!!!」

速度が落ち、やがて着水する。

しんのすけ、ロケットの窓越しに外を見る。
窓の向こうでは水面が徐々に上がっていく。


しんのすけ「ふう」

しんのすけ「これで安心ですな」


ひろし・みさえ「ふう……」

ひろし・みさえ「なわけねーだろ!」


ひろし「おいおいおいこれ沈んでねーか!?」

トッペマ「……今から天井に穴をあけるわ。みんな準備して」

    「トッペマ・マペット!」

天井が砕け散り、水が流れこんでくる。


アクション仮面「みんな! つかまれ!」

子供たちを外へ出すアクション仮面。

しんのすけ「おじさんがまだ中にいるゾ!」

アクション仮面「なんだと!?」

沈んでいくロケット。
アクション仮面はひとり潜り、意識のないままのロールシャッハに手を伸ばす。


アクション仮面(反応がない……生きているのか?)

アクション仮面、ロールシャッハの身体を抱え、引っ張り出す。
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:22:05.39 ID:Lz8qDcvo0


波打ち際にたどり着く一行。


トッペマ「その人、大丈夫?」

アクション仮面「大丈夫だ、呼吸はしている……」


ひろし・みさえ「しんのすけええええ!!」

しんのすけ「大げさだゾ二人とも」


ネネ「ここどこ? ヘンダーランドみたいだけど」

風間「……遊園地とはずいぶん違うね」

マサオ「なんか空に砂時計が浮いてるし」

ボー「とにかく、異次元」



トッペマ「そうね、説明すれば長くなるけど……」


トッペマ「トッペマ・マペット!」

トッペマの手元に紙芝居が出現する。


トッペマ「状況の説明とここまでのお話、はじまりはじまり〜」

カスカベ防衛隊「わー!」パチパチ


ひろし・みさえ「」ポカーン

トッペマ「ごめんなさいね。ふざけてるわけじゃなくて、この方が緊張もほぐれるでしょ?」

128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:28:07.72 ID:Lz8qDcvo0

……紙芝居の絵が動く。


トッペマ「オカマ魔女の二人が復活して、またヘンダーランドを攻め落としてしまったの」

     「ここがそのヘンダーランド。
      遊園地じゃなくて、あなたたちの住むところとは別の世界。
      でも、今はオカマ魔女たちに征服されてしまってるわ」


トッペマ「それどころか今度はほかの悪者もたくさん仲間にしてるからさあ大変!」

     「おまけにあなたたちの世界を征服するために“ぶりぶりざえもん”も手に入れてしまった」

     「けど、このぶりぶりざえもんはどうやら私たちの味方をしてくれているみたい」

     「オカマ魔女たちもうまく扱えなくて困ってるところ」

     「そしてオカマ魔女たちは彼の提案を飲んで、私たちにチャンスをくれた」

     「時刻は今夜の〇時。あそこに見える砂時計の砂が落ちきるまで」

     「それまでになんとか勝つ方法を見つけないと、
      ヘンダーランドもあなたたちの世界も、完全に征服されてしまうの!」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:29:55.98 ID:Lz8qDcvo0

ひろし「……んーなにがなんだかよくわかんねえが、」

みさえ「もういちどあいつらをやっつけないとならないのね」

しんのすけ「そーゆーこと! わかった!?」

ひろし・みさえ「おめーはわかってんのかよ!!」


アクション仮面「なにか作戦はあるのか? オカマ魔女の弱点とか……」


しんのすけ「スゲーナスゴイデスのトランプは?」

ひろし「そうだよ! あれがあるじゃねえか!」


トッペマ「そう。スゲーナスゴイデスのトランプ」

トッペマ、カードを取り出す。


トッペマ「私が使っても大した力はないけれど、あなたたち生きた人間ならすごい力になる」

トッペマ「だけど、ここにあるのはたったの四枚」

トッペマ「私が封印していたんだけど、残りはオカマ魔女に奪われてしまったの。
      オカマ魔女の弱点はこのトランプのジョーカーだけど、
      これもあいつらが持ってるわ」

みさえ「じゃあ勝ち目なんてないじゃない……」


トッペマ「カードはゼロではないわ。このわずかなトランプでも、
      本当に強いハートの持ち主ならば、
      なんとか奴らに近づければ大きなダメージを与えられるはず……」

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:31:22.89 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「……よおおおしっ!」


しんのすけ「マサオくん! 君しかいない!」

マサオ「待ってよなんでそうなるのー!」

ボー「マサオくん!」

ネネ「世界の運命がかかってるのよ、なんとかしなさいよ!」

風間「少なくともマサオくんではないだろう……」


アクション仮面「とにかく、場所を移動しよう。
         敵が時間を守るような律儀な奴かどうかわからない」

トッペマ「そうね。あそこの、見張り塔まで行きましょう」
     「あそこなら、もし敵が来てもすぐにわかるわ」

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:35:03.68 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 見張り塔



ひろし「郷さん、そいつ、平気ですか?」

ロールシャッハをひろしが顎で指す。

アクション仮面「……わかりません。
        私は医者ではないのでくわしくはなんとも言えないが、
        多分、非常に危険な状態かと」


ひろし「でも……そいつのせいで、しんのすけも俺たちもここにいるんですよ?」

みさえ「そんな心配しなくたって。大体にして何者なんだか」


アクション仮面「……彼は悪者ではないと思っています」

アクション仮面「ステージの上で、奴らと闘っていましたから」


ひろし「けどそれだけじゃなんともなあ……」

アクション仮面「無理もないでしょう」

        「ただ私には、どうも彼が悪人とは思えないのです。
         長く、この仕事をしてるからですかね……」

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:36:45.99 ID:Lz8qDcvo0

ひまわり「たや、たやい」

トッペマ「あら、あなたとは初めましてね」

しんのすけ「妹のひまわりだゾ。こっちはシロ!」

シロ「アン!」

トッペマ「ふーん、しんちゃん、お兄ちゃんになったんだ」

しんのすけ「そうだゾ。もう手がかかって大変だゾ」

みさえ「手がかかるのはあんたもでしょーが!」


トッペマ「守ってあげなきゃね?」

しんのすけ「もっちろん!」


風間「あ、あのう」

トッペマ「風間くんだったかしら? しんちゃんのお友達ね?」

風間「あの、個人的な興味なんですがね、魔法というのはどういう仕組みなんでしょうか?
    いやその後学のためにというかなんというか」


しんのすけ「かーざーまーくん」

風間「な、なんだよ!」

しんのすけ「……惚れたね?」

風間「なにを言うんだよ急に!」


しんのすけ「もう隠さなくたっていいのに。
      風間くんがマリーちゃんももえPも好きなの、みんな知ってるゾ」

ボー「魔法を使う、女の子の人形、そんなの、好きになって当たり前」

風間「だとしても僕は大っぴらにそういうスタンスは取りたくないの!」

133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:38:11.16 ID:Lz8qDcvo0

ネネ「でも魔法なんて憧れちゃうわね」

マサオ「一度くらい使ってみたいよね」

しんのすけ「マサオくん、やっぱり君しかいない!」

マサオ「蒸し返さないでよ!」

トッペマ「あはは!」

     「でもね、魔法なんてそんなにいいものじゃないの」

     「魔法も行き過ぎると、オカマ魔女みたいに悪い心の持ち主を生んでしまうわ」

トッペマ「本当はそんなもの、存在しない方がいいのよ」


トッペマ「……作戦を考えないとね」


アクション仮面「カードが四枚、子供は危険な目に合わせられない」
        「ここにいる大人は、彼を含めて四人……」

アクション仮面「効果を試す余裕はないな……」


トッペマ「……そうね」

アクション仮面「……さあ、子供たちは眠っていなさい」

しんのすけ「えーっ!!」

アクション仮面「よく眠らない子は強くなれないぞ」

ひろし「そうだぞみんな。あとは俺たちに任せとけって」

しんのすけ「不安〜……」

ネネ「しんちゃんのパパじゃねえ……」

ひろし「うう……」

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:42:19.13 ID:Lz8qDcvo0

――――大停電のカスカベ市内


四方で悲鳴が飛び交っている。
人形たちは人間をとらえるとそのまま包み込み、まるで吸収するようにその身に閉じ込めていく。


路地裏から通りをうかがうよねたち。

よね「ちっくしょー……数が多すぎる……」

よね「あいつらもうやられちゃったのかな……」


スンノケシ「……それは、まだだと思います」

スンノケシ「それほど強力なコンピュータ・ウィルスを使うなら、
       こんなやり方ではなく、ミサイルでも撃ちあげてしまうでしょう。
       そのための脅迫もしてくるはずです」

ルル「そうです、まだウィルスは完全に敵の手に渡ったわけではないでしょう」


よね「とは言っても……」

よね「!」


路上で、ひとりの人間が襲われている。
よね、飛び出す。

ルル「待って!」


よね「あんた大丈夫―-」

人形「「」」カタカタカタカタ

人形「「」」クル

二体の人形が同時にこちらを向く。
襲われていた方も人形だ。

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:43:47.83 ID:Lz8qDcvo0

よね「! しまっ――――」

そのとき、大柄な身体が人形に体当たりを浴びせて吹き飛ばす。

サタケ「うおらァッ!」

ローズ「ひょー、やるう!」

ラベンダー「あら、刑事さん」

レモン「あんたたち大丈夫?」

ジャーク「来たわよーっ! ちょっとどうなってんのこれ?」



よね「ははっ……おっせーよ!」

むさえ「なんかオカマがいっぱい出てきた……」

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:46:52.23 ID:Lz8qDcvo0

よね、状況を説明する。

よね「……というわけで、」

よね「ジャーク! あんたの力でそいつらの世界に行けない!?」


ジャーク「ムリ」

ジャーク「ムリムリムリムリ、ム・リ。ムーリー」


ジャーク「賞味期限切れてるって言ったでしょ? あ・た・し」


一同(……このオカマ……)イラッ


スンノケシ「……でも、本当に不可能ならここへ来ませんよね」

スンノケシ「危険だけど、できないことはないのではありませんか?」


ローズ「なにこのコしんちゃんにソックリだけどかしこーい!」

ラベンダー「知的な魅力があるわね」

レモン「将来マジでいい男になるわあ」

ルル「お前たち王子に近づくな!」


サタケ「で、どうなんだお前」

ジャーク「んー……ま、NOと言ったらウソになるわね」


一同「「「……テメエエエ!」」」

一同がジャークに襲いかかり、フクロにしかける。

137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:51:27.20 ID:Lz8qDcvo0

ジャーク「待って待って今から教えるからちょっと待ってってばねえ!」


ジャーク「人形がその異次元から出てくるんでしょう?
     簡単よ出口の反対は入口だもの。
     そっから向こうに入っちゃえばいいのよっ」

ルル「しかし、奴らはほとんど一瞬で出てきます」

ルル「そのような隙があるとは思えません」

ジャーク「そこであたしので・ば・ん。
      そのゲートをしばらく出したままにしとけばいいの」

ジャーク「でもそうなると、」
     「あたしはほぼ間違いなくあの人形に取り込まれちゃうわねえ……」

ルル「あれに取り込まれると?」

ジャーク「だいじょーぶよ死にゃーしないわ、ただ奴隷になるってだけ」

ジャーク「そのあとどうなるかはわかんないけど、一生コキ使われるんじゃない?」


ジャーク「あれ操ってるやつ、相当性格悪いわよ」

よね「やっつけるには?」


ジャーク「それも簡単、操ってるやつをやっつければいいの」

ジャーク「あんたたちがなんとか勝ってくんないと、
      あたしも未来永劫人形のまま」

ジャーク「けれど多分、あの人形二十万相手にするよりヤバイけどね」

138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:53:13.74 ID:Lz8qDcvo0

ジャーク「どうする? それでも行く? 勝算あんの?
     あ、ちなみに行けるのは時間的にひとりだけよ」

サタケ「俺が行こう!」

ジャーク「あんたの図体で通れるわけないでしょこのゴリラ!」

サタケ「ううう……」

よね「私が行くわ!」

ローズ「あんたが行ってどうすんのよー」

よね「なんだとコラ!」

ルル「……私が行きます」

スンノケシ「ルル!」

ラベンダー「あなた、軍人さんよね?
      私たちより腕は立つみたいだけど」

レモン「じゃ、このコは私たちがあずかっておくわ」

ルル「王子に変なことをしたらただじゃおきませんよ……」


サタケ、スンノケシを持ち上げてむさえに渡す。

サタケ「ねーちゃん、しばらくこのコを頼む」

むさえ「え、あのちょっと」

むさえ(すげー筋肉……)



サタケ「ッしゃ行くぞおらあああッ!!!」

一同「おらあああッ!!!」

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:55:42.90 ID:Lz8qDcvo0

路上へ飛び出す面々。その間も人形は続々と湧き出している。

襲い来る無数の人形を殴り飛ばす三兄弟とサタケ。

よね「来たわ! こっち!」

空間が歪み、人形が一体新たに姿を見せる。

つかみかかる人形を警棒で押さえるよね。
人形はまだ半身をのぞかせているだけだ。

ジャーク「いいわよ引き抜いて!」

手をかざすジャーク。歪みが、徐々に大きくなる。
ルルが飛び込もうと構える。
が次の瞬間、よねを襲っていた人形が急旋回しルルに飛び掛かる。

ルル「ちィッ……!」

ジャークもまた別の人形に捕まり、身動きが取れなくなる。


ジャーク「やばいやばいやばい!」

ジャーク「あーんもうあんたでいいわ! さっさと行きなさい!」


よね「え、ちょ、ぅわあッ!!」

よね、ヤケクソのジャークに突き飛ばされる。
異次元の扉が閉じる。


ルル「くっ……」

ローズ「ちょっとねえどうなったの!」

ラベンダー「あの刑事さんが行っちゃったわけ?」

ルル「ええ……私としたことが……」

レモン「なんでもいいけどこっちもやばいわよ!」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 21:57:40.06 ID:Lz8qDcvo0

――押し寄せる人形の群れ。


むさえ「やばいよこっちからも来た!」

サタケ「クソ……これまでか……」


と、そこへ軽トラックが突っ込んでくる。


竜子「あんたたち、こっちだ!」

車体には“21世紀博”の文字。
荷台に、紅さそり隊の面々。

お銀「うわ、どういうメンツだ? なんかオカマばっかじゃねーか」
マリー「ジャガイモ小僧もいるし……」


ルル「! あなた、喫茶店の……」

竜子「フフフ。ふかづめ」
お銀「やってる場合じゃないよリーダー!」

竜子「ああそうだッ、ほら早く乗って!」

マリー「向こうの、21世紀博ってとこが避難所になってるんスよ。
    あそこなら何人でも入れますんで」

お銀「あたいらはまあ、ボランティアっス」

竜子「そ、そういうことだ!」

サタケ「助かったぜ美少女ども!」

ローズ「あらあんたやっぱりロリコンなの?」

サタケ「違う!」

竜子・お銀・マリー(このおっさんすげー筋肉……)


ラベンダー「でも大丈夫かしら、あの刑事さん」

レモン「ジャークはつかまっちゃったし……」

スンノケシ「……今度こそ、信じて待つしかありません」

ルル「王子……」


むさえ「こんな形でまた21世紀博に行くとは思わなかったなー……」

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:11:03.33 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 上空


よね(っ……ここは……)

よね「って、うわあああああああああ!!!!!」


よね、空中に放り出され、落下していく。

そのとき、トッペマが飛来して手をかざす。

トッペマ「トッペマ・マペット!」

よね「あれ、浮いてる……?」

よね「……あー、死ぬかと思った……」

トッペマ「あなたは? 見たところ人間のようだけど」

よね「ってあんたは……人形がしゃべってる?」


トッペマ「私のことはいいわ。オカマ魔女の手下?」

よね「確かにオカマの手は借りたけど……仲間が捕まってるから助けに来たんだよ!」

トッペマ「その仲間たちが誰か、言いなさい」


よね「ええと、野原しんのすけと、その家族と、友達と、あとロールシャッハ!」

よね「連れてってくれればわかる!」

トッペマ「……みんなはあそこの見張り塔にいるわ」

よね「あのショーの、アクション仮面も?」

トッペマ「ええ。彼も知ってるなら、ずっと追いかけてくれてたみたいね」

トッペマ「ごめんなさいね、疑ったりして」


よね「いーんだよ、そんなの」

よね「それより、ここは……」


トッペマ(……そりゃそーいう反応するわよねー)

トッペマ「……もう色んな人に説明したから、大分かいつまんで話すわね」

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:13:10.84 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド  午前〇時、五分前の見張り塔


子供たちは眠ってしまっている。
床に並べたスゲーナスゴイデスのトランプ。
外を見つめるアクション仮面。



アクション仮面「……戻ってきた!」

ひろし「敵もですか!?」

アクション仮面「いや……あれは、敵ではなさそうです」


宙を浮かんでくるトッペマとよね。

よね「おおーい、野原さーん!!」

ひろし・みさえ「…………」


アクション仮面「野原さん、お知り合いですか?」

ひろし「いやなんていうか……」

みさえ「戦力には数えなくてもいいわ、あのコ……」

よね「どういう意味だよ!」


トッペマ「とにかく、もう約束の時間が近づいています」

よね、ロールシャッハに近づく。

よね「ロールシャッハ!」

トッペマ「彼はいったい……?」

よね「肩書はあるにはあるけど……うーん」

よね「具体的にはやたらタフな、口の悪いおっさん?」


トッペマ「死んではいないみたいだけど、もうずっと目を覚まさないわ」

よね「でも奴らと闘うなら、この人は絶対必要になるよ」

よね「あんたの魔法でなんとかならないの?」

トッペマ「今の私では、してあげられることはないわ」



ひろし「おい、そんなことより時間がやべえぞ!――」

143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:14:52.03 ID:Lz8qDcvo0

午前〇時。

すべての砂が落ちる。

城の鐘が、ヘンダーランドに響き渡る。




ヘンダー城 広間

ぶりぶりざえもん「……時間だ!!」

寝ぼけ顔でやってくるパラダイスキング
他の者は広間に集まっている。

パラダイスキング「よーおっしゃあ、待ちくたびれたぜえ!」

マホ「あー。あんた先行ってな」

パラダイスキング「……なんだテンション低いなオメー」

マホ「睡眠不足は肌に悪いんだよ! けっ!」

パラダイスキング「そーかよ、んじゃ俺は勝手にいくぜ」

マカオ「待ちなさい!」

パラダイスキング「ああん?」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:17:23.78 ID:Lz8qDcvo0

ジョマ「あんたバカね。順番に行って順番にやられるのはヒーローもののお約束じゃない」

マカオ「アクション仮面好きなのにそんなこともわかんないのー?」

ジョマ「どうせここに来るしかないんだから、それまで待っていればいいわ」


マホ「だとよ。私は引き続き仮眠させてもらうぜ」


アナコンダ「しかし、退屈で死にそうだな」

ハブ「はははアナコンダ様。魔人の身体でどう死ぬと言うのですか」

アナコンダ「不死身ジョークだよぬはははははは」

アナコンダ「だが、退屈しのぎのショーくらい用意してくれているのだろう?」

ジョマ「あたり」

マカオ「ぶーりぶりざえもーん?」


ぶりぶりざえもん「……これが最後のサービスだぞ」

と、ヘンダー城のいたるところにモニターが出現する。

モニターには、人形に襲われるカスカベ各地の映像。

145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:19:03.54 ID:Lz8qDcvo0

ハブ「市内の監視カメラの映像か……」

パラダイスキング「ほー、なんかやべえことになってんな?」


アナコンダ「ふははははは、ほら逃げろ逃げろ……ああ、惜しいなあ」

パラダイスキング「なあ賭けようぜ。次に映る奴が逃げ切れるかどうか」

アナコンダ「なかなかの名案だな」

ハブ「では私は、あのペアルックのカップルが逃げ切れる方に20万」

パラダイスキング「あー? そりゃ大穴じゃねえか?」

ヘクソン「…………」

146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:20:04.21 ID:Lz8qDcvo0

映像が切り替わる。
21世紀博のホールに籠城した市民たち。


ジョマ「市民の大部分はここにいるわ」

マカオ「奴らが来る直前に、こちらの光景をお届けしちゃうわよ」

ジョマ「ぶりぶりざえもん?」

マカオ「あんたも一緒に、救いのヒーローが一度に全滅するのを見て―-」

マカオ・ジョマ「絶望するといいわ」


147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:21:35.92 ID:Lz8qDcvo0

椅子に座り込んで、瞑想したままのヘクソン。


立ち上がり、玉座の前に歩み出る。


ヘクソン「……オカマども。俺はこんな余興に興味はない」

ヘクソン「俺は先に行くぞ」

ヘクソン「……あのコートの男と、野原しんのすけと勝負がしたい」


マカオ「しょーがないわねえん」

ジョマ「いいわ。捕まえてきたご褒美ね」

パラダイスキング「なんだよ、ずりーなあ」


ヘクソン、他の者をにらむ。

ヘクソン「手を出せば俺が相手になる」

ヘクソン「もうひとつ。スゲーナスゴイデスのカードを一枚よこせ」

ジョマ「贅沢ね」

マカオ「ンでもあんたいい男だからあげちゃーう」

ジョマ「どうせあなたじゃ使えないだろうけどね」


宙に浮くカードの束。一枚がヘクソンの元へ飛ぶ。

マカオ・ジョマ「行ってらっしゃい」

広間から姿を消すヘクソン。



ジョマ「四枚、カードが足りないわね」

マカオ「あら気づいたー? またあの人形がくすねたみたいよ」

ジョマ「けれどこの方が面白いわね。牙のない獣を狩っても仕方がないもの」

マカオ・ジョマ「ククククククククク」

148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:24:32.44 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 見張り塔


ひろし「……誰もこねーな……」

みさえ「こっちから行くわけにはいかないの?」

トッペマ「そうですね。この、ロールシャッハさんが
      目を覚ましてくれればその際に動くべきなのですが……」


よね「……みんな、来るよッ!」

ひろし「な、なにィッ!」

子供たちが目を覚ます。

ヘクソン、ヘンダーランドの建物の間を飛び越えてやってくる。


アクション仮面、タイミングを合わせ、窓に飛び込む瞬間に拳を放つも
あっさりとかわされ、逆に顎を打ち抜かれる。

アクション仮面「うぐっ!」

しんのすけ「……お?」

しんのすけ「アクション仮面!」

飛び起きるしんのすけ。

しんのすけ「おいお前! アクション仮面になにすんだ!」

ヘクソン「…………」

トッペマ「トッペマ・マペット!」

ヘクソンが手をかざす。
トッペマの手からはなにも出ない。

トッペマ「魔法が……効かないっ!?」

ヘクソン、距離を詰めて蹴り飛ばす。

トッペマ「くっ……!」

ヘクソン「落ち着け。お前たちにはなにもしない」

149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:25:11.70 ID:Lz8qDcvo0

よね「……?」

ヘクソン、ロールシャッハに歩み寄る。

ヘクソン「用があるのはこの男だけだ」

トッペマ「そ……その人はまだ意識が戻らないわ、なにをしようというの?」

ヘクソン「……この男の精神を見る」

ヘクソン「野原しんのすけ」

しんのすけ「」ビクッ

ヘクソン「俺と勝負だ」

しんのすけ「……う、受けて立つゾ!」

みさえ「ダメよしんちゃん!」

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:26:47.47 ID:Lz8qDcvo0
ヘクソン「この男は今、記憶に紡がれた夢を見ている」

     「俺はこれから、この男の精神を破壊しにかかる」

     「それが勝負だ。お前とこの男の記憶とを繋ぐ。夢を共有するのだ」

ヘクソン「その中でこの男を捜し、救い出せ」


しんのすけ「う〜ん???」


ヘクソン「問題ない。行けばおのずとわかる」

しんのすけ「……わかったゾ!」


トッペマ「精神の中だなんて、いったいどうやって……」

ヘクソン、胸元からカードを取り出す。

トッペマ「……スゲーナスゴイデスのトランプ!」

トッペマ「私利私欲のためでは、その力は使えないわ!」


ヘクソン「そんな下らぬことではない」

ヘクソン「……スゲーナ・スゴイデス」


次の瞬間、カードから黒い触手が次々と伸び、ヘクソンとしんのすけを包み込む。

その塊はロールシャッハの身体に吸い込まれるように消えていく。

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:28:42.05 ID:Lz8qDcvo0



ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――――――)


ロールシャッハ(――――――ここは、)


ロールシャッハ(俺は、どうなったのだ)


ロールシャッハ(魂が、身体を離れていく感触があった)



目を開く。


ロールシャッハ(!)
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:29:17.32 ID:Lz8qDcvo0

――――ニューヨークの街。



ロールシャッハ(……ここがあの世か?)

ロールシャッハ(それとも再度、新たな地に飛んだのか?)

ロールシャッハ(…………日誌はある)


153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:33:16.23 ID:Lz8qDcvo0

「ロールシャッハ!」


誰かが呼ぶ声がする。


振り向くロールシャッハ。
そこにいるのは、二人の不良だ。


「ロールシャッハ!」



「おめえに言ってんだよこのチビ!」

「なんとか言えよこの馬鹿!」


ロールシャッハ「……」

        「…………」
        「…………」
        「…………」
        「…………」
        「…………」

        「…………で、でも俺……」
        「……買い物に行かないと……」



――ウォルター「母ちゃんのお使いで……」


いつのまにか彼の姿は、赤毛でそばかすの、十歳の少年となっている。


154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:34:19.68 ID:Lz8qDcvo0

タバコの不良(リッチー)「おめえの母ちゃんの欲しがるモノなら知ってるぜ!」

帽子の不良「マジでおめえの母ちゃん淫売なのか?」

ウォルター「どいてよ、行かないと……」

帽子「どこにも行かせねえぜ、これでもくらいな」

ウォルターの顔面へ押しつけられる、かじりかけの果実。
少年の顔が、怒りに染まっていく。

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:37:11.99 ID:Lz8qDcvo0

――ニューヨークの街路で、目を覚ますしんのすけ。


しんのすけ「お?」

しんのすけ「ここどこ? カスカベ?」

しんのすけ「うーん、なんか大事なことがあったような……??」

しんのすけ「うーん、うーん」

しんのすけ「……おお?」


156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:39:10.74 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「ねえねえなにしてんの? カツアゲ?」



帽子「あーん?」
タバコ「んだァこのガキ……」


しんのすけ「オラ知ってるゾ、こうやるんだよね」グイッ
      「『いーもんもんじゃんじょん』」

しんのすけ「ねえねえ、されてる方はどんな気持ち? ねえ今どんな気持ち?」


ウォルター「えっ……どうって……」

しんのすけ「髪の毛赤いけど、キミも不良?」

ウォルター「いや……違……」

しんのすけ「んもーう、率直な意見を述べられないと将来苦労するゾ。とーちゃんいつも言ってるゾ」


帽子「おいおい、急に割り込んできてなんのつもりだよ?」

しんのすけ「世知辛いおじさんたちの社会の観察をしようと思いまして」

タバコ「おじっ……俺はまだ15だ! クソガキ!」

しんのすけ「うっそー、その顔で15歳!? やだーサバ読むにも無理がありますわよねー奥さん」

ウォルター「奥さん……俺?」


タバコ「うるっせーな、どうでも俺はまだ15だ!」

しんのすけ「でもタバコ吸ってるゾ」

タバコ「タバコがなんだよ、ガキじゃねーンだ俺たちゃ」


しんのすけ「じゃあやっぱりおじさんじゃん」

タバコ「……このガキィ!」

157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:40:36.86 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「おおっといけない! 時間に遅れる」

帽子「んだあ、時計持ってるなんざ金持ちのガキか?」

しんのすけ「いいでしょー。ロレックスって言うんだぞ」

帽子「……サインペンで描いただけじゃねえか」


しんのすけ「じゃ、そういうことで」

タバコ「待てよ、さんざんおちょくりやがって……」

しんのすけ「えー、でもオラ、大事な人を捜してるからおじさんたちにかまっていられませんので」

タバコ「どこも行かせねえよ、二人まとめて……」


警官「お前ら、そこでなにしてる?」

帽子「やべえポリだ、逃げろ!」

警官「待て、おい!」

タバコ「置いてくなよ!」「走れ!」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:42:08.12 ID:Lz8qDcvo0
しんのすけ「ほうほう……大人はオマワリさんに追いかけられると」

しんのすけ「……将来不安だなあ」


しんのすけ「さてと、長居は無用ですな」

ウォルター「ま、待ってよ」

しんのすけ「え、なに? もしかしてオラのサイン欲しいの?」

ウォルター「いや、そうじゃなくて……あ、ありがとう、助かったよ……」

しんのすけ「礼ならいらない、アメなら欲しい」


ウォルター、ポケットを探る。

ウォルター「……ごめん、なんにもあげられないや」

ウォルター「……人を捜してるの? さっき言ってた、お父さん?」


しんのすけ「おお、そうだった」

      「んーとねー、シャッちゃんっていう人。
        茶色のコート着て、しましまのマスク被ってるの」


ウォルター「……変わった人を捜してるんだね」

しんのすけ「ほんとほんと、もう信じられないくらい変な人」


ウォルター「キミが言うってことは、すごく変なんだろうね」

ウォルター「……ごめん、でも俺、そんな人知らないんだ」

しんのすけ「ほおほお、じゃ、そういうことで」

159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:44:19.97 ID:Lz8qDcvo0


しんのすけ「……」


しんのすけ「なんでついてくるの?」

ウォルター「……いや、キミってすごいなあと思って」

しんのすけ「どこらへんが?」キリッ

ウォルター「うーん……なんだかわかんないけど、なんとなくすごい」

しんのすけ「いやァ、それほどでもォ」

ウォルター「……」


しんのすけ「オラ野原しんのすけ。あんただれ」

ウォルター「俺?」

      「俺は……」


ウォルター「ウォルター……ジョセフ・コバック……ス」


しんのすけ「ずいぶん長いお名前ですなあ」

ウォルター「……そうかな?」


しんのすけ「んー……ウォーちゃんとジョーちゃんとコバちゃん、どれがいい?」

ウォルター「え? ああ、ニックネームか……」

ウォルター(考えたことも……なかった)


しんのすけ「どれがいい?」

ウォルター「……なんでもいいよ」

しんのすけ「じゃあ決まり、フーちゃん」

ウォルター「全然違うじゃんか!」

しんのすけ「なんでもいいって言ったゾ」

ウォルター「言ったけども……」

しんのすけ「ジョセ、フゥ〜、から取ったんだゾ」

しんのすけ「なんだかステディな感じがしない? ジョセ、フゥ〜、ちゃん」


しんのすけ「オラのことは特別にしんちゃん、って呼んでもいいよ」

ウォルター「あ、ありがとう、しんちゃん……」

しんのすけ「フーちゃん!」

ウォルター「……しんちゃん」

160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:45:32.46 ID:Lz8qDcvo0

陽が沈んでいく。


ウォルター(あれ?)


土手を歩く二人のシルエット。


河川が真っ赤に染まっている。


川は二つの街を分断している。

一方にはニューヨーク。一方にはカスカベ。


ウォルター(俺、今どこにいるんだろう?)


しんのすけ「うーん、なんか大事なことを忘れてるような……」


      「よーしこーなったら!」


      「わすれよお〜っと」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:52:19.02 ID:Lz8qDcvo0
しんのすけ「……かーえろっと」


ウォルター「帰るの?」

ウォルター「どこへ?」


しんのすけ「どこってキミィ、自分んちに決まってるでしょ」


ウォルター「そうか……そうだよね」


ウォルター「じゃあね、しんちゃん」

しんのすけ「バイバーイ」


しばらく歩き、ふと振り向くしんのすけ。

しんのすけ「……お?」


引き返す。その先で、ウォルターが立ったまま動かずにいる。


しんのすけ「……どしたの?」


ウォルター「なんだか……帰りたくないんだ、家に……」

しんのすけ「おお!?」

しんのすけ「いけないよ、オラたち、まだ知り合ったばかりじゃないか……!」

ウォルター「え?」


しんのすけ「でもキミがどうしてもって言うなら……オラ……オラ……」

162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:55:15.30 ID:Lz8qDcvo0

ヘンダーランド 見張り塔


全員が、静止したロールシャッハの身体を見守る。


よね「……どうなったの……?」

トッペマ「わからない……」

みさえ「しんのすけ、どこに行ったのよ!?」


トッペマ「この方の精神の中にいることは間違いありません。
      でも、こんなカードの使い方は私も見たことがない」

トッペマ「それができたのは、あの男が超能力者であることと
      関係あるのかもしれません」

トッペマ「……あの男も、悪い意味で非常に強いハートの持ち主でした」


ひろし「そんなことよりどーなるんだよお!」

ひろし「しんのすけが夢の中で人探しだと?
     絶対無理に決まってんだろそんなもん!」


アクション仮面「精神を壊すと言っていたな。
         もしかすると、しんのすけくん自身も危ないかもしれん」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:00:29.57 ID:Lz8qDcvo0

トッペマ「……同じように、彼の精神に入ることができれば……
      手助けができるかもしれません」


よね「……私が行く。カードの使い方を教えて」

トッペマ「ダメよ。本当にできるかどうか確証がない」

風間「そのトランプも、四枚しかないんですよね?」

よね「それでも彼がいなければ、絶対に勝てないわ!」


トッペマ「……使い方は簡単よ。カードを手にして、スゲーナ・スゴイデスと唱えればいいだけ」

トッペマ「でも、本当にカードの力を信じる心がなければ効果は全くないわ」


トッペマ「上辺だけで信じると願っても意味はないのよ」
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:04:17.66 ID:Lz8qDcvo0

アクション仮面「……そうとも。私もいまだ、完全に信じる気にはなれていない」

アクション仮面「テレビの中とは違うのだという気持ちが先走っている……」



よね「アクション仮面……さん?」

   「彼はね、こう言ってたわ」

   「ヒーローとは、最後まで真実の側に立つ者だ、って」

よね「私は信じるよ。ほかに道がないならね」


よね、カードを手に取る。深く息を吸う。


よね「…………スゲーナ・スゴイデスッ……!!!」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:06:39.98 ID:Lz8qDcvo0


――――野原家

しんのすけ「おっかえりー!」

しんのすけ「なんだか、ずいぶん久しぶりな気がしますな」


みさえ「……ただいま、でしょ! あれ? その子は?」

しんのすけ「フーちゃん! カツアゲにあってたところをオラが助けたの」

みさえ「コラ、あんたって子は、またそんな危ないことして!」

しんのすけ「終わりよければすべてよし、情けは人のダメテラス」

みさえ「ためならずよ」

しんのすけ「そうともいうー」



しんのすけ(んー……まだなんか大事なこと忘れてるような……)

しんのすけ「はっ、アクション仮面!」

しんのすけ「そーそー! アクション仮面はじまっちゃう!」


ウォルター「あ、あの、えと……」

みさえ「えーと、ずいぶんお兄さんのお友達ができたのね」

みさえ(こう言っちゃなんだけど……なんだか汚い格好だし……
    あんまり健康そうに見えないわ)

みさえ(家出……とかなのかしら)

ウォルター「ええと、その……」

みさえ「よそのうちに入るときは、『おじゃまします!』よ」

ウォルター「お、おじゃ、おじゃまします」

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:08:02.41 ID:Lz8qDcvo0

ひまわり「た」

ウォルター「赤ちゃん……」

ひまわり「むー……んっ!」プィッ

ウォルター「……」

しんのすけ「あー、こら、ひまわり!」

      「お客さんに失礼な真似しちゃダメッ」ボソッ



みさえ「しんのすけー、シロに餌あげたの?」

しんのすけ「あとでー、アクション仮面がはじまるの!」

みさえ「ほんと、アクション仮面となるとああなんだから……」


シロ「……クゥン」

ウォルター「……」ジィー

シロ「ン! アンン……」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:09:00.44 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「アクション仮面、観るでしょ?」

ウォルター「……アクション仮面?」

しんのすけ「もしかして、アクション仮面知らないの?」

ウォルター「え……う、うん」

しんのすけ「よし、じゃあ今日からキミもファンになりたまえ」ピッ


アークショーンかーめーん
せいぎのかーめーんー
ゴッゴッゴー レッツゴー!


ウォルター(アクション仮面……)

ウォルター(スーパーマンとか、ナイトオウルみたいなものかな)

アクション仮面「正義は勝つ! ワーッハッハッハ!」
ミミ子「ワーッハッハッハ!」

しんのすけ「ワーッハッハッハ!」

しんのすけ「ほら、君も一緒にやりたまえ」

しんのすけ「ワーッハッハッハ!」


ウォルター「…………ワーッハッハ」

ウォルター「ワァーッハッハッハ!」

168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:10:57.42 ID:Lz8qDcvo0

みさえ「あなた、お夕飯食べてく?」

ウォルター「いや、でも」

みさえ「いいのよ、遠慮しないで。なんなら泊まってってもいいけど」

    「そのときはお家にお電話だけ入れときなさい」




電話の前に立つウォルター。

「…………」カチャ

「………………」ガチャリ

みさえ「あら、終わった? お家の人、いいって?」

ウォルター「…………はい」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:13:10.02 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「ハンバーグの中にタマネギとピーマン入れるなんて卑怯だゾ!」

みさえ「好き嫌い言う子がいけないの! フーちゃんを見なさい!」

しんのすけ「フーちゃんはオラよりお兄さんだからいいんだもーん」

ウォルター(ハンバーグ……おいしいな……)

みさえ「そんなこと言うんだったら、フーちゃんにうちの子になってもらおうかしらー」

しんのすけ「ええーっ!」

みさえ「言うことの聞けない子はママの子じゃありませんー!」


――ダァン!

しんのすけ「」ビクッ
みさえ「え?」


テーブルを叩いたウォルター。

しんのすけ「ふ、フーちゃん……?」

ウォルター「……」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:14:06.65 ID:Lz8qDcvo0

ひまわり「……えっ、えっ……」

ひまわり「うええええええん!」


みさえ「ちょっと、いきなりどうしたの?」

ウォルター「え……や……」
      「なんでも、ないです…………」


みさえ「あーよしよし泣かないで、いい子だから」

ひまわり「ええええん、ええええん!」


みさえ「おどかさないで、ひまわりはまだ小さいんだから……」

ウォルター(赤ちゃん……)

しんのすけ「もう、母ちゃんはひまわりが泣くとすぐこうなんだから」

みさえ「あんたもあたしもこうだったの! あんたのアクション仮面とはわけが違うのよ」


ウォルター(しんちゃんも……しんちゃんの母ちゃんも……)

ウォルター(……俺も……)


ひまわり「ひっ、ひっ、ひっ……」

ひまわり「……たあい」

ウォルター(あの子……笑った)

171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:15:58.34 ID:Lz8qDcvo0


みさえ「――えー、遅くなるって? はい、はいはい、わかったわよ。
     ああ、ええと、今しんのすけの友達が遊びに来てるんだけど……」

みさえ「どうも複雑な家庭の子みたい……ううん、なにもおおごとにしたいわけじゃないの。
     でも、年頃の子みたいだから……」

みさえ「あなたに、話を聞いてもらいたかったんだけど……」




――ウォルターとしんのすけ、チラシの裏に絵を描いている。


しんのすけ「それなんの絵?」

白紙の一面に、黒の対称形。


ウォルター「……ん? なんだろう。描いてるときは覚えてたような……」

ウォルター「……なんだと思う? なんに見える?」

しんのすけ「ただの染みにしか見えないゾ」


ウォルター「そう……なんだけど……なにか、別なものを描いていたような」

ウォルター「なんでもいいんだ。なにか、似ている形はない?」

しんのすけ「うーん……」

しんのすけ「うーん……うーんうーん!」


ウォルター「ごめん……無理して考えなくてもいいよ」

しんのすけ「はー、頭使わせないでよまったくもう」


ウォルター「しんちゃんのそれは……? ブタ?」

しんのすけ「ブタじゃないよ。ぶりぶりざえもん」

ウォルター「なに、ぶりぶりざえもんって?」

しんのすけ「ぶりぶりざえもんは、救いのヒーローなんだよ」

172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:17:22.80 ID:Lz8qDcvo0
ウォルター「ヒーロー?」

ウォルター「それって……アクション仮面みたいな?」


しんのすけ「うーん……多分ね」

ウォルター「アクション仮面と、どっちが強いの? カンタムより強いの?」


しんのすけ「うーんうーん……うーん……」

しんのすけ「一番弱いゾ」

ウォルター「弱いのにヒーローなの?」

しんのすけ「ぶりぶりざえもんはよわっちいけど、
      アクション仮面もカンタムロボもどうにもならないとき、
      みんなをお助けしてくれるんだゾ」

しんのすけ「だから弱くても、救いのヒーローなの」

ウォルター「……変なの」


しんのすけ「むかーしむかし」

ウォルター「え?」

しんのすけ「オラが考えた、ぶりぶりざえもんの物語」

しんのすけ「むかーしむかーし、
       おじいさんとおばあさんがあちこちにいましたが、
       ぶりぶりざえもんというブタは、一匹しかおりませんでした――」

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:18:40.20 ID:Lz8qDcvo0


みさえ「……ちゃんとよく洗いなさいよー」


風呂場


ウォルター(お風呂は……なんだか好きじゃないな)

しんのすけ「さっき、なんで怒ったの?」

ウォルター「だって……しんちゃんの母ちゃんが……
       しんちゃんをいらないって……」

しんのすけ「はあーやれやれ。子供だなあキミは」

しんのすけ「本気で言ってるわけないでしょー。あれはただのし・つ・け」

しんのすけ「つきあってあげるのも大変なんだゾ」


ウォルター「……」

ウォルター「……俺の母ちゃんは、本気で言うよ」


しんのすけ「またまたー」

ウォルター「……」
しんのすけ「……」


しんのすけ「……マジ?」

ウォルター「うん。だからお父さんは、母ちゃんに追い出されちゃったんだ」

しんのすけ「……ほお、ほお……」

ウォルター「でもお父さんはすごい人なんだ。国のために闘った、立派なお父さんさ」


しんのすけ「うちの父ちゃんは全然立派じゃないよ。すぐ酔っぱらうし足は臭いし」

しんのすけ「母ちゃんだってげんこつ! も、ぐりぐり! もするし」

しんのすけ「でもオラは父ちゃんも母ちゃんも、ひまわりもシロもみんな大好きだゾ」


ウォルター「……うらやましいな、しんちゃん」

しんのすけ「フーちゃんは、フーちゃんの母ちゃんのこと嫌い?」

ウォルター「…………」

      「わからない」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:19:30.39 ID:Lz8qDcvo0

みさえ「あら、上がったの? ごめんね、うちあなたくらいの子がいないから、
     パジャマ、パパのでいいかしら?」


ウォルター「あ……ありがとう……ございます……」


ウォルター、パジャマを顔に当てる。

ウォルター(……お父さん……)

しんのすけ「……くさくない?」

ウォルター「ううん」

      「とても、いい匂いだよ」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:21:19.75 ID:Lz8qDcvo0

寝室


ウォルター「しんちゃん」

しんのすけ「なあに、フーちゃん」


ウォルター「また、しんちゃんのうちに来てもいいかな……?」

しんのすけ「いつでもOKだゾ」


しんのすけ「今度、アクション仮面の映画観ようね。
       オラがアクション仮面をお助けした話、してあげる」

ウォルター「アクション仮面を助けたの? ホントに?」

しんのすけ「……もしかして疑ってる?」

ウォルター「んー……ちょっとね!」

しんのすけ「それだけじゃないゾ、オラだって、カスカベ防衛隊の一員だもん、
       救いのヒーローだもん、何度も、何度も、世界を、お助けしたんだゾ」

ウォルター「……すごいや」


しんのすけ「フーちゃんも、カスカベ防衛隊に入りたい?」

ウォルター「カスカベ防衛隊は、なにをするの?」

しんのすけ「カスカベの安全をお守り……ふわァ……するんだゾ」

ウォルター「俺はできないよ、そういうの」

しんのすけ「できるゾ。オラたち、ほんとに、何度も……世界の危機を救ったんだゾ」

しんのすけ「ほんとにほんと、ほんと……だゾ……Zz」

ウォルター「しんちゃん……」

しんのすけ「……Zzzzzzz」


ウォルター「ほんとに……キミはすごいな」

176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:23:12.49 ID:Lz8qDcvo0


ひろし「――たーだいまー」

みさえ「あら、ホントに遅かったのね」

ひろし「いやー、ほんと今日は疲れた。ん、この靴……例の、しんのすけの友達のか?」

ひろし「ぼろぼろのズックだなー。そういや、俺も昔こんなの履いてたっけ……」

ひろし「んでー、その子は?」

みさえ「それが……」


しんのすけ「Zzzzzz……」
ウォルター「Zzzzzz……」


ひろし「ははは。もうすっかり寝ちゃってるか。でもしんのすけの友達にしちゃ、確かに大きいな」

    「どっちかっつうと、兄弟だな」

    「俺が俺の親父になって……ガキの俺を見てるみたいだ」


みさえ「でもホントにこの子、虐待を受けてるとかなら」

ひろし「そりゃいくらなんでも、考えすぎじゃないのか?」

みさえ「万が一ってこともあるじゃない」

ひろし「……俺は未だに、望まれずに生まれる子供ってのが信じられねえよ」


シロ「アン! アン!」

みさえ「あれ、シロ……ゴハンはちゃんとあげたのに」

そのとき居間のガラス戸が割れる。
侵入してくる、ネグリジェの大女。


「……ウォオオオルタアアアアアアア」


ウォルター「……」ピク
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:31:21.11 ID:Lz8qDcvo0

ひろし「え、おお、おいなんだあんた急に!」

みさえ「なんなのよ人んちのガラス壊したりして!」

シルビア・コバックス「ウォルタアアアア! どこ!」

しんのすけ「……お」ムニャ

起き上がるウォルター。よろよろと居間へ歩く。


ウォルター「……」

ウォルター「か、母ちゃん……」


ひろし「母ちゃん?」

シルビア「ウォルター! この、この、クソガキがあああ」

しんのすけ「……なになにー?」


みさえ「しんちゃん出てきちゃダメ!」

ひろし「おー、おいあんた! 人んちに上がり込むのみならず自分の子だなあ!」

ひろし「お? なんだ、やるのか? 俺はこう見えて卓球やってたんだぞ卓球!」         
    「みんなからは人間凶器のひろちゃんとをろあッ!」


しんのすけ「おお、父ちゃん弱い……」

178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:33:47.11 ID:Lz8qDcvo0


ウォルターは立ち尽くしたまま動けずにいる。
“母ちゃん、ごめんよ”
そう言おうとしたが、顎は震えて言葉にならない。


シルビア「ウォルター! ウォルター! ウォルター? クソガキ?
      クソガキクソガキクソガキいいいいいいいいい、
      生むんじゃなかった? 生むんじゃなかった!
     “さっさと殺しておくんだったよ”!」


ウォルターに迫るシルビア。
そこへ割り込むひろし。

ひろし「キミ、危なーっひでぶ!」
殴られるひろし。

ひろし「ちっくしょー、これでどうだ!」
靴下を手にはめるひろし。
殴られるひろし。

ひろし「うわわわわわ! き、効かねー!」

しんのすけ「父ちゃん!」

ひろし「父ちゃんは平気だ! 引っ込んでろあわびゅっ!」
殴られるひろし。

しんのすけ「かっこ悪いゾ」

ひろし「ど、どうせ俺はカッコ悪い親父さ……」


ウォルター「とう……ちゃん」


みさえ「しんちゃん! 警察呼んで! 110番よ、わかるでしょ!」

しんのすけ「ぶ、ぶっ、ラジャー!」


そのとき、窓から二人目の女が突っ込み――


よね「警察ならここだあ! おらおらおらおらあああ!」


シルビア・コバックスへ当て身を喰らわせる。
倒れ込むシルビア。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:35:56.55 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「おお、なにしてんのこんなとこで!」

よね「あんたこそなにやってんのよ! 夢の中でさらに寝てどうすんの!」


しんのすけ「お?……お……おおおお! そうだった!」

しんのすけ「くうー! オラとしたことが!」


シルビア「クソガキ、クソガキ、クソガキイイイイイイイ」

シルビアの体中の関節が、ぐしゃぐしゃとメチャクチャな方向へ暴れている。

ひろし「うえ、なんだこいつ! 人形か!?」


よね「バケモノめ!」

よね、銃を撃つが、やはり誰にも当たらない。

よね「ちっ、ほらさっさと行くよ! あんたまで戻れなくなる!」


しんのすけ「でも父ちゃんと母ちゃんが!」

よね「夢の中だけよ! みんなあんたの心の幻!
    帰ったら、すぐにまた逢えるから!」

180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:37:49.11 ID:Lz8qDcvo0

シルビア「クソガ、クソ、クソガキキキキキキキキキキ」グルングルングルン

シルビアの振り回す腕がウォルターに、向かっていく。


ウォルター(母ちゃん、母ちゃん、俺……本当は)

ウォルター「かあ……」


しんのすけ「フーちゃん!」

しんのすけ、ウォルターの手を引く。


よね「その子は!?」

しんのすけ「この子も一緒に行くの! ちゃんと本物のオラのうちにご招待するんだゾ!」


よね「とにかくあんたは肩につかまんな!」

しんのすけ「ほっほーい!」


よねにおぶさるしんのすけ。よねはウォルターの手を握る。

よね「キミ、走れる?」

ウォルター「うん」
      「お姉……さんは?」


よね「ふふーん」

よね「ナリタ東西署の正義の味方! グロリアこと東松山よね!」

よね(決まった……)

ウォルター(正義の、味方……)
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:38:41.11 ID:Lz8qDcvo0


よね「って、やべ、こうしちゃいられない、走って!」


シルビア「のおおおおおうナナナしいしいしい」グルグルグルグル

シルビア「自分がなにしたたたゴゲベガガキキキキキキたたたた」


ウォルター(母ちゃん)


走り出す三人。


ひろし「しんのすけ!」

みさえ「しんちゃん!」


しんのすけ「父ちゃん母ちゃん、オラ大事な用事思い出したから行ってくるね!」

しんのすけ「ちゃんと帰るから、ひまわりとシロにもよろしく!」



しんのすけ「じゃ、そういうことで!」

182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:41:34.13 ID:Lz8qDcvo0

カスカベの街、その向こうにニューヨークの摩天楼。
そのあいだに樹々のように生え始める、ヘンダーランドの建造物。


よね「まずい……どんどんメチャクチャに……」


しんのすけ「で、おじさんは?」

よね「あんたが捜してたんじゃないの!?」


しんのすけ「……」

      「あちゃー」

よね「あちゃーって、おい!」

よね「きっとまだ……どこかに……」


しんのすけ「そういえばさー、フーちゃんちってどこ?」

しんのすけ「最初にいた、あそこのビルのどれか?」


ウォルター「……わかんない……」


よね「最初にいた……?」

よね「それってどこよ!?」

しんのすけ「うーんとねー」

しんのすけ「あのへん」


摩天楼を差すしんのすけ。


よね「クソ、あんな遠くかよ、クッソ!」

シルビア「クソガキイイイイイイイ」

よね「くっ……」

   「しつこいぞコラ!」

よね、シルビアの人形の顔面へ鉄拳を見舞う。
壊れた顔面へ、続けて警棒を突き刺す。


よね「いってえー! 固いっての」


シルビア「壊れちゃう壊れちゃう壊れれれれ」カタタタタ


ウォルター(母ちゃん?)


しんのすけ「また来るゾ!」

後方から、人形の行進が来る。
ヘンダー君の着ぐるみが先頭に立ち、指揮を執っている。


ヘンダー「ヘンだヘンだよ、ヘエエンダアアアラアンドオオオオ」
人形「」「」「」カタタタタタタタタタ
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:43:04.44 ID:Lz8qDcvo0

よね「ちっくしょー! もう、なんでもいいからどうにかしてよ!」

しんのすけ「前前前!」

前方から車が突っ込んでくる。運転席には人形。

よね「しめた!」

銃を構える。

よね「リラックス!」

しんのすけ「ほい!」フゥ

よね「あ、ああん」ダァン!

銃弾は、人形の額の中心を正確につらぬく。

よね「よしッ!」
しんのすけとウォルターを抱えて、よねは横転。

車は追っ手の人形の隊列を跳ね飛ばし、そして止まる。


よね「乗るわよ!」

車に乗り込む三人。飛びかかる人形。
よねはUターンさせて人形を振り払い、摩天楼へ向けて走らせる。

184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:44:19.76 ID:Lz8qDcvo0

よね「ひとまずは安心、と……夢の中だとうまくいくのねー……
    これマジにやったら強盗に殺人にひき逃げか……」


しんのすけ「でもさー、なんでカスカベにヘンダーランドも
       あんな高いビルもあるの? 夢の中だから?」

よね「かもね。あのトッペマって子が言ってたわ。夢の中というか、記憶の中みたいな。
    で、あんたたち二人の記憶が絡み合ってるとかなんとか」

しんのすけ「なんでおねいさんの街は出てこないの?
       あんまりいい思い出がないとか?
       学生時代に初恋の人に手ひどく振られて――」

よね「私のことはどーでもいいわッ!」

185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:45:45.08 ID:Lz8qDcvo0

ウォルターは窓を見つめている。

窓の外と、窓に映る自分の顔を交互に見ている。


(母ちゃん)

(あの母ちゃんは?)

(人形?)

(俺の、本当の母ちゃんは……)


(…………………………)


(……そうだ。母ちゃん、あのね)

(母ちゃんじゃない、母ちゃんに逢ったよ)

(ハンバーグ、おいしかった)


(母ちゃんに抱えられて、赤ちゃんが泣きやんで)

(笑ったんだ。魔法みたいだった)

(赤ちゃんは、すごくきらきらしてたよ)


(俺に吼えてこない犬もいたんだ)

(俺、怖くて触れなかったけど、今度は絶対触れるようになるよ)


(父ちゃんの匂いもかいだよ)

(いい匂いだった)

(俺の家にはない匂いだったよ)


(父ちゃんって、すごくかっこいいんだ)

(何度も俺を守ってくれたんだよ)

(でも俺のお父さんはきっと、もっともっとかっこいいよね)


(なんでって、友達ができたんだ)

(すっごく変な子なんだ)

(でも、すっごい子なんだよ)



(それでね、母ちゃん)

(一番すごいのはここからなんだ)

(俺、ヒーローを見たんだ)

(ひとりじゃないんだよ)

186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:46:25.86 ID:Lz8qDcvo0

書き割りのような夜空に、月とヘンダー城の尖塔のシルエットが映っている。
城はみるみる規模を増し、摩天楼がその下で、地下茎のように埋もれている。


(母ちゃん)

(母ちゃん)

(母ちゃん……帰らなくちゃ)


(でも俺、今、どこへ……)

(…………どこ?)


(どこ……どこ、じゃない)

(ここは……あの光景は)



ウォルター「止めて。止めてくれ」

よね「は? あんた一体――」

ウォルター、車から飛び降りて走り出す。

187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:48:07.88 ID:Lz8qDcvo0

裸足のまま、混沌のニューヨークを駆け抜けるウォルター。


廃墟になりゆく街の中で、人々が言葉を交わしている。


人形かどうか定かではない。

顔は見えない。

声だけが聴こえる。



「俺ァ、しがない新聞売りだがよ……」
「だからこそ情報にゃコト欠かねえのさ。その上で言ってんだぞ」
「やるなら今しかねえ!」

「ちっ、雨かよ。おっさん、その帽子貸してくれよ。濡れちまう」
「馬鹿を言うな。人にものを貸さないのが、俺の哲学なんだ」


(母ちゃん)


「では、ウォルター、言ってくれ。そのカードの絵が……」
「なんに見えるか」

「わからねえ……教えてくれよ」
「誰か教えてくれよ!」

「好きにしやがれ、くそったれ」
「全部お前に任すからな」

「俺は俺だ。仕事じゃねえ。いいから止めろ」

「ああ、私ひとりで……」
「世界を相手にするのさ」



188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:49:04.47 ID:Lz8qDcvo0

(世界は)


「かよわくて……傷つきやすいの……」

「そこに、そのスノーボールがあったのよ」
「まるでガラスに閉じ込められた……別世界みたいに思えた」
「あの中はきっと、時間の流れが違うんだと思った」


(偶然の塊だ)


「これから、未だかつてない輝かしい時代が幕を開けるんだ」
「アホくせえんだよ、なにもかも!」


(虚無から生まれ)


「どうせ30年もしねえうちに、水爆がなにもかも燃やしちまうんだ」
「それまでは俺たちの手で社会を守るしかねえ」

「守るって……なにから守ると言うんだ?」


(人生という拷問に歯を喰い縛って耐えてから)


「誰かがなんとかしなきゃならないのに……」
「誰かが世界を救わなきゃ、大変なことに……」


(また虚無に戻る)


「こんな世の中だからこそ、互いに助け合わなければ……生きる意味がなくなってしまう」
「お願いだ、わかってくれ」

189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:50:29.89 ID:Lz8qDcvo0

(ここは、そうだ)


(帰らなくちゃ)


「この世に正義はねえのかよ?」
「あのスーパー野郎たちは、少なくとも俺たちを守ろうとしてたよな」

「誰かが魔法でパっと片付けてくれたらって……」
「でも、そんな人はいないのよね」

「最近じゃ、スーパー・ヒーローものはさっぱりだ」

「あのテの腐れ超人どもァムカついてたまんねえ……」

「そこに、そのスノーボールがあったのよ」
「……中身はただの水だったわ」


(ごめんよ、母ちゃん、俺……)


「あなたも昔の衣装、着たりする?」
「いや、男がそんな真似をすればお笑い草だ」
「近所の子供たちはみんな、来週のハロウィンに向けて仮装の準備をしているから、
 私も浮かれて古着を掘り出すかも知れんがね」

「そうね、人生を正しく導く人の存在はとても重要だわ」
「でも、私にはそんな人がいなかったから……」

「うっかり親切もできやしねえ」


(母ちゃん)




「帽子……ありがとよ」

「なあおっさん、あんたも気ィつけてな」

190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:51:23.01 ID:Lz8qDcvo0

(帰らなくちゃ)


「生きてることって凄いことなのね」
「本当に素敵なのね」
「……生きてるうちに、私を愛して」


(俺の街へ)


「船を出そうとでも思っていたのかな。まったく僕って奴は……」
「……本物のヒーローと直接逢って」
「彼の仲間に……後継者になるんだと思うと……身震いがした」


(さよなら)

(俺の街へ)

(俺の街へ)


(俺の)






「で、おめえ、名前は?」


「なんでここに来る?」

191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:53:47.15 ID:Lz8qDcvo0

――アパートの中庭。


部屋にはいくつも灯りがともっており、窓を、ベランダを、非常階段を、
無数の人形たちが埋め尽くしている。
人形たちは互いに話すかのように、虚無の顔を向け合っている。


人形
「」カタタタタ「」カタカタカタ「」カタ「」「」カタタタタタタタタカカカカ
「」カタカタタタタ「」カタカタカタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタ
「」カタカタカタ「」タ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカカカカ
「」カタタタタタタタ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタカタカタ
「」カタタ「」カタカタカタ「」カタ「」カタカタタタタ「」タ「」カカカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカタ「」カタタ「」カタカタカタカタタ
「」タタタタタ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタ「」カタカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカタ「」カタタタタタタタ「」カカカカ
「」タ「」カカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタタタタタタタカカ
「」カタカタカタカタカタ「」カタ「」「」カタタタタタタタ「」カタカタカタ
「」カタカタカタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタタタタ「」カタカタ
「」カタ「」「」カタタタタタタタ「」カタ「」カタカタタタタ「」カタカ
「」カタカタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタカタタタタ「」カタカタカタカカ
「」タ「」カカカ「」カタカタカタカタカタ「」カカカ「」カタタタタカタカタ
「」カタタ「」カタカタカタ「」カタ「」カタカタタタタ「」カタタタタカカカ
「」カタタタタタタタ「」カタカタカタカタカ「」カタカタカタカタカタ「」カタタ



立ち止まるウォルター・ジョセフ・コバックス。
素顔のまま、彼らすべてをにらみつける。

192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:55:29.80 ID:Lz8qDcvo0


“――――”

“――――ダニエル”


“この街のどこかで、お前ともう一度逢えるだろうか”

“お前がヒーローとなったわけを、俺も少しだけ実感できたようだ”


“俺の父と母”

“ブラウン管とコミック・ブック”

“そして俺のそばに、誰か、ヒーローがいてくれたなら、俺は俺でなかっただろうか”


“いや――”

“それでもお前と、肩を並べただろう”


“叶うならば伝えたい”

“たとえそれが幻でも”


中庭の中心、ヘンダー君が立っている。
手に、犬の鎖を持っている。四つんばいの人形が繋がれている。

ヘンダー「ヘンだ、ヘンだよ、ヘンダーランド」

人形がこちらを向く。

その人形は、顔の砕けたシルビアだ。

ヘンダー「ウソだと、思うなら」「ちょいと」「おいで」「おいで」


人形は――少女の靴を引っかけた骨をくわえている。

それを見つめる無数の人形たちが、今なおささやき合っている。



“だが、もう俺はウォルターじゃない”

“足跡を消すことはできない”

“新たに歩くこともできない”

“そのどちらも、今の俺は望まない”


“俺は――――”



“俺は、ロールシャッハだからだ”
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:57:28.81 ID:Lz8qDcvo0


しんのすけ「フーちゃああああん!」

よね「返事して!」


よね「ったく、本当はそれどころじゃ……」

よね「…………」


よね「……!……」

ふと向けた、よねの視線の先――


――――ロールシャッハが歩いてくる。


その奥に、無数の人形の残骸が散らばっている。


しんのすけ「……おじさん!」

よね「待って、人形かも……」



ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「ここを抜けるぞ。もたもたするな」


しんのすけ「うわー、やっと逢えたのにあの感じ」

よね「……まさにあいつね」

よね「…………やった!」


よね、ロールシャッハにしがみつく。

よね「やったやったあ!」

ロールシャッハ「……」

よね「あ……」

よね「……ごめん……なさい」

しんのすけ「なんで謝るの?」

よね「い、いいんだよ!」


ロールシャッハ「……グロリア」

よね「え、えーと……」

よね「説明すると長くなるけど、ここは」

ロールシャッハ「わかっている」
        「すべては幻だろう」


よね「ええと、まあ、そんなところかな……はは」


よね「しっくりくるけど、なーんか納得いかないなー……」

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:59:31.54 ID:Lz8qDcvo0

しんのすけ「フーちゃああああん! フーちゃああああん」


ロールシャッハ「……なにをしている」

ロールシャッハ「時はもう無駄にできない」

よね「わかった、わかったってば!」

しんのすけ「フーちゃんは?」

よね「……でも、今はそんなことより――」

しんのすけ「そんなことじゃないゾ!」

ロールシャッハ「…………」


しんのすけ「オラ約束したんだもん! アクション仮面の映画、一緒に観るんだもん!」

しんのすけ「オラがアクション仮面をかっこよくお助けしたこともお話しするんだもん!」


しんのすけ「スンちゃんとルルのことだって、
       吹雪丸のことだって、
       トッペマのことだって、
       オカマのお坊さんたちのことだって、
       おっきなロボットのことだって、
       父ちゃんと母ちゃんを取り返したことだって、
       おまたのおじさんのことだって、
       つばきちゃんのことだって、
       ぶりぶりざえもんのことだって、
       幼稚園のみんなのことだって、
       もっともっといっぱい、
       まだいっぱいお話しすることがあるんだもん!」

よね「……でも……」

しんのすけ「でもじゃないゾ!」

しんのすけ「フーちゃんは母ちゃんが嫌いで、父ちゃんにも逢えないんだゾ!
       アクション仮面も知らなかったんだゾ!
       オラより年上のクセにうじうじしていて、
       カツアゲもされちゃうんだゾ!
       だからオラが、いっぱい楽しいお話聞かせてあげるんだもん!」

195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 00:00:59.40 ID:e8929ruk0
ロールシャッハ「……シンノスケ」

しんのすけ「なに!」

ロールシャッハ「……そいつは……赤い毛のガキのことか」

しんのすけ「そうだゾ!」

ロールシャッハ「ウォルターは、もう家に帰った」

よね「…………」

しんのすけ「なんでわかるの!」


ロールシャッハ「………………」


ロールシャッハ「 “しんちゃん”に伝えてくれと、そう言われたからだ」


しんのすけ「……」

しんのすけ「おじさんは、フーちゃんの家知ってるの?」


ロールシャッハ「ああ」

ロールシャッハ「知っているとも」


ロールシャッハ「遊ぶのはまた今度だ。今は、お前がお前の家に――」

        「帰らなくちゃ……」


ロールシャッハの染みが、少年の絵になる。

196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 13:51:28.14 ID:szZ1LMvLO
死んだと思って居た友人にまた会えたような喜び
一生続きは読めないもんだと思ってた
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 18:31:28.58 ID:e8929ruk0
>>196なんかすごいこと言っていただきありがとうございます。
前スレが落ちたときに「まあ完結したらでいいや」と思ってそのまま熱が冷めていました。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 18:58:16.51 ID:e8929ruk0


ロールシャッハ「――それで、出口はどこだ」

よね「あんたが知ってるんじゃないの? あんたを捜してここまで来たのよ!」

ロールシャッハ「俺は知らん」

よね「あああ、クソ! ったくどいつもこいつも」


ハイウェイを突っ走る車。


ロールシャッハ(ここは文字どおりの悪夢だ)

        (ニューヨークの街並みは俺……)

        (カスカベの街並みはシンノスケ……)

        (珍奇な城と人形の怪物は、そこに踏み入る侵略者か)

        (いつか記憶を覗かれた、あれを何千倍にもしたようなものだろうか)


よね「ああもうクソ! スゲーナスゴイデス、スゲーナスゴイデス!
    もしもーし! トッペマー! 聞こえるー!?」


ロールシャッハ(……グロリアは狂ったのか?)

        (無理もない。俺ですら狂いかねん)

        (……グロリア……)

        (……あの女に似ている)

        (今度こそはきっと)

        (……そうだ。シンノスケもそうだ)

        (“必ず無事に連れ戻す”)


ロールシャッハ(シンノスケは……)


ロールシャッハ(他の誰にも似ていない)

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 19:55:42.34 ID:e8929ruk0

摩天楼がヘンダー城につぶされ始め、倒壊していく。
あとに残るのは底のない暗闇と、廃墟のようなヘンダー城。


ボロボロの車で走りながら、それらを眺める三人。

よね「あっちはもうダメね。カスカベ側に引き返すしかなさそうだけど……」


窓に手をついて、外を見るしんのすけ。

しんのすけ(フーちゃん……)

しんのすけ「…………」

しんのすけ「お?」

しんのすけ「……ヘクソンだゾ!」

よね「なにィッ!」キキッ


しんのすけの指さす先、暗闇に浮かぶ尖塔にヘクソンが立っている。

宙に浮く尖塔を飛び越えながら、こちらへ接近している。


ロールシャッハ「……俺が行こう。お前たちは先に行け」

よね「なんで!? せっかく逢えたのに! あんたを連れ戻すのに……」

ロールシャッハ「すぐに戻る。約束する。三……」

ロールシャッハ「……いや、四人で、必ず帰還する」


ドアを蹴破り、飛び出すロールシャッハ。
フック銃を抜いた。

200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:28:15.53 ID:e8929ruk0



――尖塔の上で対峙するヘクソンとロールシャッハ。


ヘクソン「お前の心を初めて読んだときにわかった」

ヘクソン「お前は一度、終末を味わっているな」

ロールシャッハ「…………それがどうした」

ヘクソン、答えを返さずに周囲を見る。

ヘクソン「……これがそれを経たお前の心象風景というわけだ」

     「……まるで、」
    
     「まるで廃墟の街ではないか」


ロールシャッハ「…………」


ヘクソン「……一部始終、見させてもらった」

ロールシャッハ「どうだ。感想のほどは」

ヘクソン「…………」


ヘクソンが拳を作り、ゆっくりと構える。

ヘクソン「これがそうだ」

ヘクソン「安心しろ。今この空間で、互いの能力に意味はない」

ヘクソン「どの道、使えたとて変わりないがな」


ロールシャッハ「…………HURM.」

ロールシャッハ「…………いいだろう」


にらみ合うロールシャッハとヘクソン。

周囲では、ヘンダー城と摩天楼が音を立てて崩れている。

砕けて、その下の暗闇に消えていく。



201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:29:04.38 ID:e8929ruk0


ロールシャッハ「…………」

ヘクソン「…………」

ヘクソン「…………」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「…………」ヘクソン「…………」

ヘクソン「…………」ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「……………………」ヘクソン「……………………」

ヘクソン「……………………」ロールシャッハ「……………………」

ロールシャッハ「…………………………………………」ヘクソン


202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:31:43.24 ID:e8929ruk0


『!』

刹那、同時に突きだされる拳。
互いの拳が互いの胸を突き、そのどちらもが手首までをめり込ませている。

ヘクソンの唇から血が流れる。
ロールシャッハのマスクの下、痣のように血がにじんでいく。


ロールシャッハ「……MMMM…………」

        「UK,UU…………AAK」


拳を引き抜くロールシャッハ。
手袋は血に染まっている。


ロールシャッハ「KUFF,KUFF」


ロールシャッハ、膝をつく。
マスクから漏れたおびただしい血が首筋へ流れる。

ヘクソン「……それが、俺とお前との差だ。ウォルター……」

    「いや、ロールシャッハ」

ロールシャッハを見下ろすヘクソン。

ヘクソン「やはり、拳ひとつでは足りなかったか」


「俺たちは互いに絶望した。自らの立つ世界に」

「崖へ飛び込んだのだ。俺は抵抗しなかった。深淵へ向かって」

「お前は飛んだが、しかし落ちなかった。
 切り立った岩に刻まれながら、しがみついていた」

「その傷では登ることはできない。だがお前は落ちることもしない」


ヘクソン「ただじっと、俺の居場所をにらみつけている」


ヘクソンの胸には、風穴が開いている。


203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:33:10.21 ID:e8929ruk0
ヘクソン「……お前の姿を再び見たときからわかっていた。俺は、お前には勝てぬと」

ヘクソン「その鋼鉄の心を、俺は壊したかった」

ヘクソン「……いや違うな。確かめたかったと言おう」


ロールシャッハ「……なにが言いたい」


ヘクソン「それがすべてだ」

ヘクソン「俺は一足先に離脱するとしよう」


縁に足をかけるヘクソン。
二人の立つ尖塔はすでに崩壊が進み、大きく揺れ動いている。

ロールシャッハ「待て、どこへ……」

ヘクソン「俺はこの先、ただお前の行く末を見るにとどまる。
      野望がついえるのは初めてでもない」

ロールシャッハ「待て、ヘクソン……UUMMM」

ロールシャッハ「出口はどこだ? どうしたら現実に戻れる?」


ヘクソン「俺は答えではない」

ヘクソンの足元、縁にヒビが入る。

ヘクソン「この崩壊はお前の精神が引き起こしている」

ヘクソン「お前は世界を変えようとするが……
      いずれせよ世界は救えないのだと思っている」

ヘクソン「だから崩れる」

足場が崩れ、ヘクソンは落ちて行く。

ヘクソン「お前がまだ、崖へしがみつくならば早く行け」

ヘクソン「出口が崩れてしまわぬうちに」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「HOO…………HURM……」

204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:37:53.27 ID:e8929ruk0


よね「――ちょっとなんか、どんどん壊れてってない?」

よね「やばいやばいやばい、走れるとこほとんどないって!」

ガタン!
ボンネットに着地するロールシャッハ。
車へ乗り込む。


よね「!」

しんのすけ「おじさん!」

ロールシャッハ「待たせた」

よね「って早! ほんとにすぐ来たのね!」

ロールシャッハ「カタはついた」

よね「それはいいけど、どんどん周りが壊れてくんだけど」

よね「あの城がにょろにょろ伸びたら……なんだか腐ったみたいに、ぼろぼろー、って」

しんのすけ「後ろの方、もう道がなくなっちゃったゾ」

よね「げえっ!」

ロールシャッハ(俺の出口……)

ロールシャッハ(ニューヨークの街へは引き返せん)

205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:39:26.39 ID:e8929ruk0


しんのすけ「あーっ! オラんち!」

倒壊した野原家の前を通る。

しんのすけ「父ちゃーん! 母ちゃーん! ひまわりーっ! シローっ!」

ロールシャッハ「無駄だ。このカスカベもお前の精神の表れでしかない」


しんのすけ「じゃあなんで壊れてくの?
       オラ、カスカベにこんな風になってほしいなんて少しも思ってないゾ!」

しんのすけ「おじさん! おじさんってば!」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「……シンノスケ」

ロールシャッハ「……俺が原因のようだ」

よね「はあ!?」

ロールシャッハ「ヘクソンが去り際に言った……俺が引き起こしたと」


ロールシャッハ(記憶のせいだ)

(ニューヨークの、300万の亡者の記憶)

(その廃墟にしがみつけと?)

(……ダメだ。今、救うべき世界があるのに)

(…………日誌か?)

(……ここにあるのが、ニューヨークに置いてきた日誌ならば……)

(そこになにか手がかりが……)


ロールシャッハ(2000年6月……違う。ダメか。ここにあるのも、新しい日誌だ)

206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:42:15.78 ID:e8929ruk0


よね「あーん、もうこうなったら!」

よね「しんのすけ! あんたが頼りよ!」

よね「なんかこう、こう、楽しいこととか想像してみて!」

しんのすけ「それでどうにかなるの?」

よね「知らねーよ! でも、やるだけやって! お願い!」


しんのすけ「んー……んー……」

(こういうとき、救いのヒーローが現れてくれるんだゾ)

(アクション仮面……カンタムロボ……ぶりぶりざえもん……)


しんのすけ(…………)

しんのすけ(……フーちゃん)

207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:44:35.35 ID:e8929ruk0



――しんちゃん、しんちゃん、聞こえる?

しんのすけ(……え、だれ?)


――あたしよ、つばき。もしかして忘れちゃった?

しんのすけ(……つばき……ちゃん?)

しんのすけ(……忘れるわけないゾ!)

しんのすけ(どこ!? どこにいるの?)



――……いい、しんちゃん、よく聞いて。
  ここはあの映画の中とおんなじ、お話の中だよ。
  しんちゃんの街と、お友達の街のお話。
  でも、ハッピーエンドじゃないみたい。


――しんちゃん、そんなところにいちゃダメ。
  お友達と一緒に、早くお家に帰らなくちゃ。
  パパとママも、みんなみんな、お外で大変なことになってるよ。
  
  早く、急いで。
  本当の世界のハッピーエンドに間に合わないよ。


しんのすけ「……わかったゾ、つばきちゃん!」

しんのすけ「カスカベ座! そこだゾ、きっと!」

ロールシャッハ「!」


よね「カスカベ座ってあのわかんないとこの……もう崩れてるんじゃ……」

しんのすけ「そんなことないゾ、このおバカ!」

ロールシャッハ「……他に向かえる先はないな」

208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:45:34.48 ID:e8929ruk0


――瓦礫の中のカスカベ座



よね「――残ってる! しかもこれだけしっかりくっきり……」

よね「でもまあ……確かに元から異次元にあるような建物ってゆーか」


ロールシャッハ(謎の多い建物だったが)

ロールシャッハ(なるほどな。おそらくここにも、誰かの念が込められていたのだろう……)

ロールシャッハ(きっとなにか、強い愛の念が)



スクリーンへ向かう三人。

しんのすけ「こっちこっち!」


古ぼけたスクリーンへ向けて、映写機が光を当てている。
スクリーンには真っ白な光の他、なにも映っていない。

よね「……上映してる?」

ロールシャッハ「!」

        (……光が……はね返って……)
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 20:57:36.42 ID:e8929ruk0
――――――


ロールシャッハ「なんだ……なにもない……空間……?」

つばき「――こっち、こっちでーす」

しんのすけ「……!」

よね「……ええと」

ロールシャッハ「……HURM.」

しんのすけ「……つばきちゃーん!」

つばき「しんちゃーん!」

よね「なに、知り合い? どうなってんの?」

しんのすけ「わかってないなー。愛の奇跡、って奴」

よね「たかが五歳児がなに言ってんだか……」



しんのすけ「つばきちゃん、また逢えたね」

つばき「しんちゃんが、あたしのこと覚えていてくれたおかげだよ」

しんのすけ「やだなー。忘れるわけないゾ。つばきちゃんのこと!」

しんのすけ「いやーそれにしてもピンチのときに助けてくれるなんて、
       つばきちゃん、男心わかってるうー」

つばき「あはは。ありがとう。ずうっとここから見てたんだよ。
     でも、なかなか声が届かなかったの」


ロールシャッハ「……ここはなんだ? 本当に、あの幻覚の出口なのか?」

つばき「ええと、あたしも……詳しくはわからないんですが、
     多分それで合ってると思います。じきに、元の世界へ帰れるはずですよ」


しんのすけ「……オラ帰りたくない、ずっとここにいたーい」

つばき「ダメだよ。しんちゃんはちゃんと、しんちゃんの世界を生きなくちゃ」


ロールシャッハ「そうだ。いつまでもここにいるわけにはいかん」

210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:00:32.93 ID:e8929ruk0

しんのすけ「……つばきちゃん、さみしくない?」

つばき「……う、うん、さみしくはないよ、オケガワさんや……
     クリスさんたちもいるし……そう、たまにこうやって、
     カスカベ座のことを覚えていてくれる人が来てくれるもの」

しんのすけ「」ポワーン

つばき「……でも! しんちゃんがいないのは、ちょっとさみしいな!」

しんのすけ「そ、そーでしょそーでしょ、うん!」

しんのすけ「…………つばきちゃん、また逢える?」

つばき「……逢えるよ、きっと」


しんのすけ「あれ、でもそーいえばおじさんが四人で帰るって……そうだ、フーちゃん!」

しんのすけ「つばきちゃんつばきちゃん、もう一度向こうに戻して! 友達待たせてるんだゾ」


つばき「友達? 友達って――もしかして、赤い髪の男の子?」

しんのすけ「うん。おじさんは家に帰ったって言ってたけど、
       でもホントは急にいなくなっちゃったんだよ」

つばき「…………」

ロールシャッハ「…………」

よね「?……どうしたの、二人とも」

つばき「いえ、なんでもありません」

211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:01:39.37 ID:e8929ruk0

しんのすけ「もしかして……つばきちゃんみたいに……」

つばき「ううん、その子はね」

しんのすけ「あーっ、でもダメ! つばきちゃんにはオラの方が似合ってるゾ!」

頭を抱えるしんのすけを見て、ほほ笑むつばき。


つばき「安心して。その子はちゃんと、お家に帰れたから」

つばき「おじさんの言ったことは本当だよ。だから大丈夫」


しんのすけ「じゃ、また逢えるの?」

つばき「もちろん! あたしとしんちゃんだって、こうやって逢えたじゃない」

しんのすけ「じゃあ、アクション仮面に頼んで、カスカベ座でもっかい映画やってもらおーっと。
       約束したんだ。フーちゃんと一緒にアクション仮面の映画観るって」

つばき「…………ありがとう。それじゃ、ここで待ってるよ」

212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:03:27.79 ID:e8929ruk0


つばき「……」

つばき「あの……」

ロールシャッハ「なんだ」

つばき「お願いがあるんです……難しいかも知れませんが……
     しんちゃんに、あなたのことを教えてあげてくれませんか」

つばき「無理にとは言いません。
     でも、あたしはしんちゃんのところへは行けないから……」


ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「…………約束しよう」


ロールシャッハ「俺から最後に、もうひとつ聞きたい」

ロールシャッハ、日誌から栞に使っていた写真を見せる。

ロールシャッハ「この少女……よく似ているが、お前か?」

つばき「わあ、嬉しい……そうです。まだ、残っていたんですね!」

ロールシャッハ「そうか……なら、こいつはお前に渡そう」


つばき「いいえ、大切にしていただいてるみたいで、とても嬉しいです」

つばき「それはあなたが持っていてください」

    「あたしがここに……いえ、しんちゃんやあなたたちと逢えたのは、
    そのカードが呼んだ奇跡かも知れませんから」


ロールシャッハ「………………」

ロールシャッハ「…………ああ」


栞をはさむロールシャッハ。

213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:04:44.06 ID:e8929ruk0


つばき「……そろそろ、お時間のようです」

よね「うわ、またなんか光が……」

ロールシャッハ「……出口の光のようだな」

しんのすけ「よーし」

しんのすけ「ふん! ふん!」

自らの頬を張るしんのすけ。

しんのすけ「オラのカスカベを、お助けに行くゾ!」


振り返り、手を振るしんのすけ。三人の姿が消えていく。


しんのすけ「じゃあねー! つばきちゃん! きっとまた来るからね!」

つばき「……うん、また逢おうね!」



つばき「……がんばってね、しんちゃん」



214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:11:46.20 ID:e8929ruk0


ヘンダーランド 見張り塔


ロールシャッハの身体が震え、光とともにしんのすけとよねが飛び出してくる。

アクション仮面に受け止められるしんのすけ。

アクション仮面「しんのすけ君!」

トッペマ「しんちゃん!」

よね、飛び出したまま壁にぶち当たる。

よね「いってえ!」

ひろし「うまくいったのか!?」

よね「……ヘクソンは!?」

アクション仮面「キミたちより先に、飛び出していった光があった。
         おそらくそれだろう」


マサオ「おじさん……」

ロールシャッハ「…………UMM……」

ロールシャッハ「KUFF,KUFF」


ロールシャッハ、周囲を見渡す。

ロールシャッハ「HURM.まだ異次元とはな……」

よね「ああいや、なんていうかそうじゃなくて――」

215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:16:19.68 ID:e8929ruk0

――日付不明 ロールシャッハ記


詳細な経緯を書き留めておく余裕はない。
事態が収束するまで、おそらくこれが最後の手記となるだろう。
更新されるかどうか、今の俺にはわからない。

俺たちは、あの混沌の世界を抜け出すことに成功した。

あの少女はそれを奇跡と呼んだ。


いいや。違う。

空の上に神はいない。
あの少女は天使なんかじゃないし、奇跡など起きようはずもない。
あれは奇跡ではない。
俺たちの残したなにもかもが、集束して生まれた在るべき結果だ。


価値はある。そうだ、この世界には――
救うというだけの、途方もない価値が。


216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:25:43.06 ID:e8929ruk0



ロールシャッハ「あんたがアクション仮面か……ショーにいた奴だな?」


アクション仮面「ん? あ、ああ、そうだとも」

スッ

アクション仮面(ん? 手? 握手か?)
ギュッ

ロールシャッハ「……」

アクション仮面「……そろそろ放してくれないか?」

ロールシャッハ「ああ」

アクション仮面(……なんだ今のは……)



217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:28:21.32 ID:e8929ruk0

21世紀博 ホール

避難しているカスカベ市民。外ではまだ人形の歩く音がする。
ホールの中は、予備電源によってかろうじて灯りが保たれている。

停電は復旧しない。
電波も届かない。
不安だけが蔓延している。


「ねえ、どうなってるの?」
「警察は? 自衛隊は?」
「そういや俺、なんか外国の軍隊みたいなの見たぞ」
「あ、あたしもあたしも」
「怖いよう怖いよう」「お母さん」


むさえ「いやー、あちーね。冷房行きわたってないよねこれ絶対」

むさえ「ちょっと、筋肉の人もっと向こう行ってよー」

ルル「あなた、ずいぶん能天気ですね」

むさえ「だって心配してもしょうがないじゃん?」

スンノケシ「しんちゃんたちのことも、ですか?」

むさえ「んー、心配してないと言ったら、別にそんなことないよ?」

    「でもさ、しんのすけっていつも、なんだかんだどうにかしちゃうっていうか」

    「変な話、かえって安心してんだよね」

    「だって、そんな気がしない?」

ローズ「……そうね、しんちゃんなら」

ラベンダー「ジャークを復活させたときはどうなるかと思ったけど」

レモン「あれも結局、笑って終わったしねー」

サタケ(ひまわりちゃん、大丈夫かな……)


むさえ「ね? 信じて待つって、そういうことじゃない?」
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:39:41.70 ID:e8929ruk0


「あのロールなんとかいう犯罪者、どうなったんだ?」
「ここに紛れ込んでるんじゃない?」
「バーカ、あいつがやったに決まってんだろ」
「なにをだよ?」
「全部だよ、これ全部。決まってんじゃねえか」


ふと、子供がひとり泣き出す。

「おいうるせえぞ、黙らせろよ!」

サタケ「子供に黙れとはなんだこの野郎!」

さらにたくさんの子供が泣き出す。

ローズ「あーあ。悪化させちゃった」
サタケ「ぐぬぬ」

「もうイヤ! 早くおうちに帰して!」
「そうだ! ここにいても仕方ないだろ!」
「みんなで出ようぜ!」
「おい待てよ、開けたら入ってくるだろ!」


徐々にざわめきが広まっていく。

スンノケシ「……サタケさん、お願いがあります」

サタケ「ん……?」

ルル「王子……?」

219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:54:26.50 ID:e8929ruk0


サタケの肩に乗り、ステージの上に上がるスンノケシ。


「ああん?」
「なんだなんだ?」
「あらあの人いい筋肉ねえん、ステキだわあ」


スンノケシ「皆さん、よく聞いてください!」

スンノケシ「今ここで僕たちにできることはありません!」

「なんだあ、あのガキ……」


スンノケシ「でも考えてみてください、外の人形は、まだここへは入ってきません」
      「なにか目的があるのかもしれません!」
      「なにかはわかりませんが、すぐに襲ってこないことは確かです!」


さらにざわめく市民。
「だからなんだ!」

サタケ「おお、黙って聞けえいッ!」

スンノケシ「今、僕たちのために闘ってくれている人たちがいます!」

スンノケシ「今は、彼らを信じましょう! ここで騒ぎを起こせば、きっと敵の思うツボです!」

「誰が、」
「誰が闘ってるんだよ!?」
「そうだ! それを言え!」

スンノケシ「皆さんに凶悪犯と誤解されている、ロールシャッハさんという―-」

「はあ? 何言ってんだよ?」
「お前もあいつの仲間じゃないのか!?」

サタケ「おい、黙ってろっつったぞ!」
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:55:52.59 ID:e8929ruk0


園長「――あれ? しんのすけ君じゃーないですか!」

立ち上がる園長。

スンノケシ(……全然知らない人だ……)
      (……でも、合わせておこう)

スンノケシ「ほ、ほっほほーい!」


園長「皆さん! あのコは私の幼稚園の園児ですよ!」
   「幼稚園児がこんな立派なことを言ってるんです!」
   「我々大人がしっかりしなくてどうするんですか?」

よしなが「しんちゃん……なんていい子に……」グス

まつざか「あれほんとにしんのすけ君?」

上尾「いいですねっ、あの、王族みたいな服!」


ローズ「いいわよーしんちゃん!」

ラベンダー「おにいたま、あの子は――」

レモン「いいのよ、今はしんちゃんで!」


チータ「うわマジだ、しんのすけ!」

北本「あらやだほんと!」

ロベルト「オー、ナンカわからんが、すごいぞチンノスケ!」

竜子・お銀・マリー(知り合いからすると衝撃の方がつええな……)

あい「真面目なしん様……素敵ッ……」クラッ

黒磯「お嬢様、お気を確かに!」


徐々に徐々に、しんのすけの名前を呼ぶ声で埋まっていく。

スンノケシ(……すごいな、しんちゃん)

スンノケシ(こんなにたくさんの友達がいるんだ……!)

221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 21:56:56.53 ID:e8929ruk0


ルル「王子……」ホロリ

サタケ「あんたのとこの王子、子供なのに手がかからなそうだな」

サタケ「それはそれで、さみしくねえか?」

ルル「いいえ、ちっとも」

ルル「私たちの、自慢の王子ですよ」


222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:01:19.84 ID:e8929ruk0


ヘンダーランド 見張り塔


ロールシャッハ(トッペマという人形から経緯を聞いた)

ロールシャッハ(敵はまだ城内にいる)

ロールシャッハ(俺たちが来るのを待ち構えているのだろう)


ロールシャッハ(そして、スゲーナ・スゴイデスというカード)

        (これが切り札となる)

        (戦力から見て、他に方法はない)


ロールシャッハ「残りが三枚か……」

ロールシャッハ「城内でこの三枚を使ったとしても―-」

トッペマ「ただ使うだけではまったく意味がないでしょう」


トッペマ「ゼロ距離で、カードの力すべてをオカマ魔女たちに叩き込む」

トッペマ「おそらく、それしかありません」

ロールシャッハ「HURM……」


風間「あの、僕たちにもできることありませんか?」

ネネ「ネネも闘う!ここまで来たんだもん!」

マサオ「き、気を散らすくらいできるよねっ」

ボー「隙を、つくる!」


アクション仮面「子供たちも含めて大丈夫か?」

よね「カードを持たせておけばいい。きっと大人よりうまく使えるよ」

トッペマ「私の魔法は弱いけど、みなさんを守るくらいはできます」

ひろし「あーもう、やりゃいいんだろやりゃあ!」

みさえ「そうよ、それしかないんだから!」

ひまわり「た!」

シロ「アン!」

しんのすけ「みんなで行くゾ、おじさん!」

ロールシャッハ「……HURM……」


223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:03:05.33 ID:e8929ruk0


ヘンダー城 城門前


夜霧の線路の上に、一直線に並ぶ一同。

しんのすけ、ロールシャッハ、アクション仮面、よね、
ひろし、みさえ、風間、ネネ、マサオ、ボー、ひまわりを乗せたシロ。

しんのすけの前方、宙を舞うトッペマ。

空は群青色。わずかに明るくなりつつある。


224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:06:08.29 ID:e8929ruk0

トッペマ「――いい? いくわよ」

トッペマ「トッペマ・マペット!」


城門が開き、線路へつながる。


しんのすけ「カスカベ防衛隊……………………ファイヤー!!!」


一同「「「ファイヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」





一同(劇画)「「「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」」」


225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:07:24.69 ID:e8929ruk0

ヘンダー城 広間


ジョマ「来たわね」
マカオ「ほーんと待ちくたびれちゃったわ」

ジョマ「何の考えもなく特攻かしら?」
マカオ「悪あがきするのも素敵ね」



ジョマ「……ぶりぶりざえもん?」

ぶりぶりざえもん「……フン」



226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:11:31.91 ID:e8929ruk0



21世紀博 ホール


突然、ステージ上のスクリーンに映像が映る。
だけでなく、各所のモニター、市民たちの携帯電話にも同じ映像。


マカオ「聞こえるかしらー? カスカベ市民のみなさん?」
ジョマ「あたしたちがその人形の主人よ、よろしくね」

すると、人形たちがホールの窓にまで押し寄せてくる。
窓に張り付く無数の人形。

マカオ「さーて今こちらではァん、」
ジョマ「あなた方愚民どものために戦ってくれてる救いのヒーローたちがいるわ」

走り抜けるしんのすけたちが映る。


一同(劇画) 「「「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」」」


「あれ……あの、ロールシャッハとかいうの!」


227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:12:27.22 ID:e8929ruk0

組長「? しんのすけくんが二人!? こっちにいるのは……?」
よしなが「風間くんたちも!」
まつざか「あそこ、ヘンダーランドじゃない?」
上尾(……行きたかったなー、ヘンダーランド)


ローズ「あら、あのコ頑張ってるじゃない!」
ラベンダー「あれでも一応刑事だもの」
レモン「ガッツは人一倍あるものね」

サタケ「ひまわりちゃーん、気をつけて―!!」

むさえ「あれ、ねーちゃんと義兄さんまで……」


「あ、アクション仮面だ!」
「郷さん? 本人?」
「がんばれえええええアクション仮面!!」
「郷さんあたしファンなんです!」


スンノケシ「しんちゃん……!! がんばれ……!」

228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:15:19.36 ID:e8929ruk0
――ヘンダー城


ジョマ「――なかなか反応がいいわね」
マカオ「――その期待をぶち壊しちゃうのが楽しみだわ」



パラダイスキング「おいお前ら、アクション仮面は俺の獲物だからな」

ハブ「……ヘクソンはどうした?」

マホ「いねーってことはやられたんだろうよ」

ハブ「……ならば楽しめるか」

アナコンダ「グフフフ。久々に魔人の力が使える……」


229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:17:30.59 ID:e8929ruk0


トッペマ「トッペマ・マペット!」

城の扉が開く。

人形の群れが押し寄せる。

走りながら突き飛ばすロールシャッハたち、子供たちは足の隙間を潜り抜けていく。


ハブ、ガントレットの爪を伸ばしてロールシャッハへ飛び掛かる。

フック銃を抜いて防ぐロールシャッハ。


ハブ「……ヘクソンを倒したのはお前だな」

ロールシャッハ「……だったらどうした」

ハブ「光栄に思え。お前は俺が殺してやる」


パラダイスキング「ようアクション仮面! 俺の相手はお前しかいないぜ」

パラダイスキング「またオーディエンスの中で散ってくれよ」

アクション仮面「ジャングルでは、散ったのは自分の方だと忘れたか?」

パラダイスキング「……ほざけェッ!!」

230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:19:18.27 ID:e8929ruk0


マホ「なんだい、あたしの相手は雑魚刑事さんか」

よね「負けたときの言い訳、考えときなよ!」

よね、引き金を引く。

マホ「オメーの弾なんか当たるわけねえだろクソ雑魚がッ!」

トッペマ「トッペマ・マペット!」

マホ(なにっ……軌道を変えた!?)

リボンで弾丸を落とすマホ。

マホ「ッちィ……ふざけやがってェエ!」


231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:20:34.41 ID:e8929ruk0


みさえ「おらおら邪魔だ邪魔だ!」
ひろし「人間凶器のひろちゃんを舐めんなよ!」

勢いだけで人形と渡り合う野原夫妻。



風間「マサオくん、パス!」

マサオ「うわあっと、とと、ボーちゃん、パス!」

ボー「ボー、ネネちゃん!」

ネネ「しんちゃん、パス!」

しんのすけ「ほい!」

しんのすけ「ひまとシロ、パス!」

ひまわり「たい!」
シロ「アン!」

一枚のカードをパスしながら、足元を駆け抜けていく六人と一匹。

232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:23:51.62 ID:e8929ruk0


アナコンダ「……ふむ」

ジョマ「あらなに、あなたまで参戦しちゃうの?」
マカオ「すぐに終わっちゃうんじゃなーい?」

アナコンダ「仲間外れはさみしくてね……フフフ」


しんのすけ「お!?」

姿を変えていくアナコンダ。
ヘビと一体化し、天井にまで届きそうな魔人の姿になる。


よね「ッ! おいおい、あんなのがいるのかよ……!」

トッペマ「よそ見しないで!」

トッペマ「くっ……」

よね「トッペマ!」

マホ「おらおらおらおらっ!」

ひろし「あ、ありゃ勝てんぜ……うっわ、なんか急に勢いが冷めたッ!」

みさえ「あなた、もっと眉間にしわ寄せて! 顔怖くすれば勢いが出るわッ!」

233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:26:50.85 ID:e8929ruk0

魔人アナコンダ「ンフフフ、フフフ」

一同を襲う魔人の腕。逃げ遅れた人形たちを巻き込んで、握りつぶしていく。


腕のヘビに追われるしんのすけ。

しんのすけ「おわっと、おわあっと!」


視線の先に、ぶりぶりざえもんを乗せた人形。


しんのすけ「ぶりぶりざえもん!」

しんのすけ「助けて、ぶりぶりざえもん!」

ぶりぶりざえもん「…………」


アナコンダの指がしんのすけをつかむ。

魔人アナコンダ「捕まえたぞボクうううう」

ひろし「しんのすけ!」
みさえ「しんちゃん!」

234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:27:52.42 ID:e8929ruk0


ハブ「……アナコンダ様が出てきた時点でお前たちの負けだ」

ロールシャッハ(ダメだ……間に合わない!)


アクション仮面「しんのすけくん!」

パラダイスキング「こっち見ろォッ!!」ボッ

アクション仮面「ぐっ!」


235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:29:11.71 ID:e8929ruk0


しんのすけ「放せ放せこのおバカー!」

ぶりぶりざえもん「……お助け料ひゃくおくまんえん、ローンも可」

しんのすけ「!」

そのとき、ぶりぶりざえもんを乗せた人形のまわりに、
ほかの人形がぞろぞろと集まっていく。

人形の塊はやがて魔人とほぼ同じサイズとなり、
そのシルエットは大きく変わっていく。

しんのすけ「……カンタムロボ!!」

しんのすけ「すごいゾぶりぶりざえもん!」

ぶりぶりざえもん「フン。このくらい朝メシ前だ」

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:30:43.83 ID:e8929ruk0


ジョマ「ちょっとあんたあ?」
マカオ「なにしてるのかしら、いけない子ね」


ぶりぶりざえもん「言っただろう。フェアな闘いだと」


「お前たちへのサービスは充分してやった」

「そんでこいつらは私の力を借りずにここまで来たのだ」

「このくらいのお助けのサービスをしてやるのが人情ってもんだろうが!!」

237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:31:51.35 ID:e8929ruk0

人形から生み出されたカンタムロボ、魔人へ拳を叩き込む。
しかし、アナコンダは倒れない。



魔人アナコンダ「グフフフ。少し驚いたよ」
        「だが、馬力が足りんのではないかね?」

ぶりぶりざえもん「ぬおっ……」


マカオ「いーわよアナコンダ。そのデカいのもいっしょに粉にしてあげなさい」

魔人アナコンダ「お安い御用だ……」


ぶりぶりざえもん「バカ! この、やめないかこのおバカ!」

しんのすけ「んんんっ、ぬぬぬぬっ!」

238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 22:34:49.36 ID:e8929ruk0


ネネ「マサオくん、パス!」
マサオ「はいッ!」

スゲーナスゴイデスのトランプを手にしたマサオ。
玉座の前に来る。

ジョマ「あらかわいらしいオニギリ坊やね」

マカオ「そのトランプの力であたしたちを倒そうというの? そんなハートの強い子には見えないけど?」

ジョマ「そうね、ヒーローって顔じゃないわ」


ジョマ「そのカードこっちに渡しなさい」
マカオ「そしたら君だけは許してあげるわ」


マサオ「…………」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:31:17.82 ID:e8929ruk0



マサオ「……そうだよ、僕はハートなんか強くない」


マサオ「ヒーローになれなくても、」

マサオ「でも手助けならできるんだッ!」

手を伸ばすジョマ。

が、マサオの背後をシロが駆け抜け――

ひまわり「た!」

ひまわりの手にカードが渡る。

風間「ひまわりちゃん!」

さらに、風間が受け取る。

風間(そうだ。僕も同じだ)

風間(たとえ魔法が使えても、世界を救えはしないだろう)

風間(でも魔法が使えなくても、)

風間(世界を救う手助けはできる)

風間「しんのすけ!」

魔人アナコンダ「フフフ、握りつぶしてくれる……」


風間「スゲーナ・スゴイデス!」

放たれた光が、しんのすけを突き刺す。



240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:35:07.98 ID:e8929ruk0

直後、アナコンダの指が切り落とされる。

魔人アナコンダ「なにッ……!?」



ひろし「しんのすけ……なのか!?」
みさえ「やだ、なにあの格好!」


紫と青の頭巾。赤の褌。その体躯は大人のもの。
その手には刀。


しんのすけ「ほほーいっ」

しんのすけ「大人しんちゃん、参上ッ!」



※雲黒斎の野望参照
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:44:29.69 ID:e8929ruk0

トッペマ「しんちゃん!」


しんのすけ「オラ負けないゾ!」

しんのすけ「今のオラはすんんんんんごく、強い!」

しんのすけ「絶対に!」


しんのすけ、すさまじい速さでマホへと迫り、リボンを切り裂く。

マホ「くッ!」

よね「相手はこっちだろ!」

よね、警棒で締め上げる。


ついで、パラダイスキングへ迫るしんのすけ。

しんのすけ「アクション仮面!」

パラダイスキング「邪魔すんじゃねえ!」


アクション仮面「ありがとうしんのすけくん、助かった!」

しんのすけ「アクション仮面、オラに任せて!」

しんのすけ「お前はオラが倒す!」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:46:01.32 ID:e8929ruk0


ぶりぶりざえもん「おいコラアクション仮面ヒマになったならこっち手伝えっての!」

アクション仮面「おう!」

アクション仮面、カンタムロボの身体を駆け上がり、魔人の顔面を殴る蹴る。

アクション仮面「このっこのっ、このこのこの!」

魔人アナコンダ「こざかしい!」


しんのすけ、パラダイスキングへ切りかかる。
ブーツで刀と応戦するパラダイスキング。

パラダイスキング「すっこんでろ、このクソガキ!」

しんのすけ「ガキじゃないぞ、オラ野原しんのすけだ!」

刀が一閃、パラダイスキングのアフロを切り裂く。

パラダイスキング「!」

パラダイスキング「あ、ああああー! お前これお前!」

パラダイスキング「くっそおおお、もう許さねえ!」

トッペマ「トッペマ・マペット!!」

パラダイスキング「邪魔すんな!」


ネネ「しんちゃん、危ない!」

ボー「ボ――――!」

ハブの爪がしんのすけを狙う。
しんのすけ、刀でガード。

ハブ「……あまり調子に乗るなよ」

しんのすけ「お前もな!」

しんのすけ「おじさん!」


ロールシャッハ「KUFF,KUFF」

ロールシャッハ、マスクの端から血を流して立ち上がる。



ロールシャッハ(シンノスケには助けられたが……)


ロールシャッハ(……このままでは玉座に近づけない……)
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:47:29.42 ID:e8929ruk0


ぶりぶりざえもん「……早くなんとかしろアクション仮面。
          このカンタムはもうそれほど持たん!」

アクション仮面「なんとかしろと言っても……!」

ぶりぶりざえもん「このままではあいつらがオカマどもを倒せんぞ!」


アクション仮面(トランプは残り二枚だ……!)

アクション仮面(私が、本当にこのカードの力を引き出せなければ……)


ぶりぶりざえもん「おいなにをさぼっている! 所詮お前は特撮番組の絵空事か!?」


アクション仮面(違う。あのときパラダイスキングの前で、
        しんのすけくんの声援を受けて立ち上がったとき)

アクション仮面(私は本当にヒーローだった)


アクション仮面(ロールシャッハ君とも、きっと同じように)


アクション仮面(そうだ。もう一度……)

アクション仮面(……もう一度、本物のヒーローになろう)

244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:48:50.17 ID:e8929ruk0


アクション仮面「……ぶりぶりざえもん! 少し離れろ!」

ぶりぶりざえもん「あ、ハイ」ビクッ

アクション仮面「……スゲーナ・スゴイデス……」


アクション仮面の拳が、強く輝きはじめる。



アクション仮面「アクション…………」

魔人アナコンダ「!?」


アクション仮面「……ビィイイイ―――――-ムッッッ!!!!!」


アナコンダが顔面を焼かれ、膝をつく。


魔人アナコンダ「……クソオオオオオオオ子供だましの分際でええええ!!!」


ハブ「アナコンダ様!」

気を取られたハブの顔面に、ロールシャッハの渾身の蹴りが炸裂する。

ハブ「ぬぐっ……」

しんのすけ「やったゾ!」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:50:51.67 ID:e8929ruk0


トッペマ「アクション仮面、加勢するわ!」
     「トッペマ・マペット!!」

トッペマの魔法が、アクションビームを増幅していく。

魔人アナコンダ「ぐ、くうううう……」


ぶりぶりざえもん「あの、ちょっとえーと」


アクション仮面「アクションビィーム!!」
トッペマ「トッペマ・マペット、トッペマ・マペット!!」


ぶりぶりざえもん「…………」

ぶりぶりざえもん「……ええい私のも喰らえ!」


ボロボロになったカンタムロボが、右ストレートを叩き込む。
同時に限界を超えて、砕けていくその右腕。
壁を突き破り、倒れるアナコンダ。


トッペマ「――今よ!」



一直線にがら空きになった玉座へ向けて、フック銃を放つロールシャッハ。



ロールシャッハ「――行くぞ、シンノスケ」

しんのすけ「おう!」


ワイヤーが一瞬で距離を詰める。

246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:52:04.95 ID:e8929ruk0

ジョマ「……あらあらまさか」
マカオ「私たちが出ることになるとはねェ」


オカマ魔女、立ち上がり、すさまじい速度の蹴りを放つ。


しんのすけ「うっ……」
ロールシャッハ「AAK!」


吹き飛ばされるロールシャッハ。
しんのすけはカードの効果が切れ、子供の姿に戻る。
失神したしんのすけの襟首をつまみ、持ち上げるマカオ。


マカオ「ハーイ、ざーんねん」
ジョマ「なかなかうまくはいかないものね……」


ロールシャッハ「…………UUMMM」
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:53:04.68 ID:e8929ruk0


アクションビームの効果も切れる。
トッペマも力尽き、床に落ちる。
対岸でアナコンダが立ち上がる。

アナコンダに叩き落されるトッペマ、アクション仮面、ぶりぶりざえもん。


魔人アナコンダ「ゲームオーバーのようだな……」

パラダイスキング「ったくどうすんだこのアフロ!」

マホ「さっきの調子はどこいったんだよ? え?」

よね「……ロール……シャッハ……」

よねを締め上げるマホ。


ハブ「……お前たちはよくやった。それは誉めてやろう」

鼻血を拭い、ひろしとみさえに爪を向けるハブ。


残った人形たちに捕まったカスカベ防衛隊、ひまわりとシロ。


248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:54:47.70 ID:e8929ruk0

ジョマ「聞こえるかしら? カスカベのみなさん?」
マカオ「面白かったでしょう? ヒーローが勝てないというのもたまにはね」


城内のモニターに映る、21世紀博の避難所。
絶望の声が聞こえる。


スンノケシ「……しんちゃん!」


広間に声が響く。


スンノケシ「僕だよ、覚えてる!?」

      「また逢おうって約束したよね!」

      「ボク逢いに来たんだよ!」

スンノケシ「だから起きて、しんちゃん!」


その声は再び、しんのすけを呼ぶ声を広げていく。


ひろし「そうだぞしんのすけ、目を覚ませ!」
みさえ「もういくら寝坊してもいいから、今だけは起きて!」


トッペマ「しんちゃん!」
よね「しんのすけ!」
風間「しんのすけ!」
マサオ「しんちゃん!」
ネネ「しんちゃんってば!」
ボー「しん、ちゃん!」
ひまわり「たやー!」
シロ「アン!」
アクション仮面「しんのすけくん!」
ぶりぶりざえもん「おいしんのすけ!!」


しんのすけ「…………お……?」

しんのすけ「…………眠いゾ……」


ロールシャッハ「……シンノスケ」


しんのすけ「……はっ!」
      「シャッハのおじさん!」


ロールシャッハ「ああ」
        「……家に帰ろう」



249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:55:53.91 ID:e8929ruk0

ジョマ「感動のお目覚めね」
マカオ「なんの意味もないんだけどねえ」


ジョマ「……あなた、まだトランプを隠し持ってるわね」
マカオ「……渡さないと、罪なき市民が犠牲になるわよ」


ロールシャッハ、日誌を開く。


しんのすけ「ダメだゾ! 最後の一枚――!」


ジョマ「子供は正直ね」
マカオ「残酷なほどね」

250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 23:58:10.25 ID:e8929ruk0



ロールシャッハ「……HEH.」

         「こんな紙切れ」

         「……欲しけりゃくれてやる」



ピン、と指でカードを弾くロールシャッハ。

そいつは天井に届きそうなほどに宙を駆け上り――――



一同「「「「「「「「「「「「 !!! 」」」」」」」」」」」」



そして降りてくる――


ジョマ「これであなたたちは、」
マカオ「本当に詰みよ」





カードの絵柄は――――古い映画の写真――





マカオ・ジョマ「――――!」







そこに写る少女が――




――――つばきが、ウィンクする。



251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:00:29.39 ID:LP5lnj2b0




ロールシャッハ、いちばん新しいページを開く/
そしてそこから、本当のトランプを取り出す/
マカオとジョマの手が、トランプに伸びる/
しんのすけが束縛を振りほどき飛び出す/



カードを差し出すロールシャッハ/その端に触れるしんのすけの指。




ロールシャッハ「 スゲーナ / スゴイデス !」しんのすけ




とてつもない光があふれ――すべてをつらぬく。




252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:01:50.00 ID:LP5lnj2b0

――21世紀博


「……どうなったんだ……?」



真っ白な画面となった、21世紀博のスクリーン。


やや時間があって、ぶりぶりざえもんの絵と、一枚のロゴが出る。



『 嵐を呼ぶ! 救いのヒーローたち
   〜しかし、誰が世界を救うのか〜 』

        『終』




「……なんだ? 映画だったのか?」
「大規模なドッキリだったんじゃない?」
「いや、でも……」



カスカベ市内の人形が、次々と崩れていく。
そのあとに、取り込まれた人々の姿が。


ヨシリン「ミッチいいいい!」
ミッチー「ヨシリいいいン!」




ジャーク「……あ、あら……??」


253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:02:33.12 ID:LP5lnj2b0



サタケ「……やったのか?」

ローズ「あんたいったいなに見てたのよ!」

ラベンダー「完全勝利に決まってるでしょおバカじゃないの!」

レモン「おのんきに映画見てたわけじゃないのよ!」

サタケ「うう、うるせー!」

むさえ「ほーらね? だから言ったっしょ?」



254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:03:25.72 ID:LP5lnj2b0


園長「いやあしかし本当にしんのすけくんに似てますねえ」ナデリナデリ

スンノケシ「あの、ちょっと!」

ルル「王子に触らないでください!」


よしなが「このいい子さをしんちゃんにも少し分けてあげてほしいわ……」グス

まつざか「あら頑張ってたじゃない、本物のしんのすけくんも」

上尾「よしなが先生、号泣でしたよねあのとき」

よしなが「いいじゃないの、でもほんとに良かったあああああーん!」


あい「あの、しん様とはどういうご関係ですの?」

スンノケシ「ええと、友達だけど、顔が似ていることは別に……」

ルル「お嬢さん。我が国の王子に色目を使うのはやめていただけますか?」

黒磯「色目とはなんだ! お嬢様、こちらへ!」


ルル「……」黒磯「……」

ルル・黒磯「フンッ」


255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:03:56.35 ID:LP5lnj2b0



北本「災難だったねえロベルト」
ロベルト「でも、チンノスケのカッコいいトコロが見れたヨ!」



竜子「よーしお前ら、朝メシでも喰ってくか!」
お銀「お、リーダーのオゴリ?」
マリー「この状況で営業してんのー?」



スンノケシ「でも、ルル、」

スンノケシ「みんな、ちゃんと戻ってこれたかな?」

ルル「そうですね……やはり、あの場所に行ってみるのがよろしいかと」




256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:04:58.90 ID:LP5lnj2b0



――光の中の、ヘンダーランド




ロールシャッハ(光が……俺たちを粉々に吹き飛ばす)



トッペマ(こんな……すごい力だなんて……)

トッペマ(……笑っちゃうくらいね……)

しんのすけ「ほっほおおおおお!」

ぶりぶりざえもん「おい精密機器に強い光を当てるな!」

ひろし「しんのすけ! みさえ!」
みさえ「ひまわり! シロ!」
ひろし「風間くん、ネネちゃん」
みさえ「マサオくん、ボーちゃん!」
アクション仮面「みんなつかまれ!固まるんだ!」

よね「……ロールシャッハ!……」


声をかき消すような光の嵐。



257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:06:11.98 ID:LP5lnj2b0

しんのすけ「――トッペマ!」

トッペマ「大丈夫、もうすぐおさまるわ」

しんのすけ「……やりすぎた?」

トッペマ「んー、ちょっとね!」


トッペマ「でも、ありがとう」


風間「トッペマ……!」

トッペマ「風間くんたちもありがとう」


トッペマ「……みんな、みんな、とてもカッコよかったわ」


メモリ・ミモリ「……救いのヒーローたち……」


トッペマ、メモリ・ミモリの姿となり、やがて消えていく。


258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:07:55.66 ID:LP5lnj2b0



ロールシャッハ(――この感覚を、俺は知っている)


(Dr.マンハッタンに、南極で消されたときだ)


(俺はあのとき、この顔を脱ぎ捨てた)


(ウォルター・ジョセフ・コバックスとして死に――)


(奴に、ロールシャッハを殺させないために)



(あの幻の中で、俺は、俺の知らぬ故郷の姿を見た)


(そして確信した)


(白と黒の対称形は、あの地にまだ生きている)


ロールシャッハ(――ほんのわずかな一滴でも)



      「いや、その……」
      「すまない、忘れてくれ」
      「いいんだ」



ロールシャッハ(……ダニエル)

ロールシャッハ(……本当に、別れるべきときが来たようだ)


259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:10:51.46 ID:LP5lnj2b0


――カスカベ座 シアター内



目を覚ます一行。

しんのすけ「……お?」

みさえ「ここは……」

ひろし「…………帰ってきたんだ!」

ひろし・みさえ「やーったやったやった!」

風間「よかったー!」

マサオ「ふうう、ホントに死ぬかと思ったー……」

ネネ「でも、私も魔法使ってみたかったなー」

ボー「けれどぼくたち、すごい冒険、した!」

260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:11:54.28 ID:LP5lnj2b0

風間「……トッペマ……」

しんのすけ「どーしたの風間くん。トッペマとお別れしたのがさみしいの?」

風間「そんなんじゃない!」

風間「お前だって、前にここに来たときにはおんなじ感じだったじゃないか!」


しんのすけ「つばきちゃんにはまた逢えたもーん」

風間「え、どうやって!?」


しんのすけ「ナ・イ・ショ!」

しんのすけ「だからトッペマにもまたすぐ逢えるゾ!」

風間「根拠のないこと言うなよー!」



みさえ「なーんか、」

ひろし「やっと日常に戻ったって感じだな!」

ひまわり「た!」
シロ「アン!」

261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:12:47.69 ID:LP5lnj2b0


ロールシャッハ「……UU……MMM」

よね「……起きた?」


ロールシャッハ「ここは……」

よね「どこって、カスカベ座に決まってんじゃない!」


ロールシャッハ「HURM.」

ロールシャッハ「……また死んだのかと思った」

よね「はあ?」











ロールシャッハ「……ぶりぶりざえもんはどうした?」





よね「あ――――――――――!!!!」


一同「「「!!!!!!!!!!!!!」」」


ロールシャッハ(NO!)

262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:14:14.26 ID:LP5lnj2b0




アクション仮面「――それなら、ここにいるよ」


コスチュームのポケットから、ディスクを取り出すアクション仮面。


しんのすけ「アクション仮面! スッテキー!」

アクション仮面「ははは、私を助けてくれたときの君は、もっと素敵だったぞ」

しんのすけ「いやあそれほどでもお!」


よね「あー、マジでよかったァー……」


ぶりぶりざえもん「私を差し置いて盛り上がるなコラ!」

みさえ「やーだ、最近のオモチャはこんな高性能なのね」

ぶりぶりざえもん「オモチャじゃない!
           お前いったい今までなに見てたんだ!」


アクション仮面「……これで、君の期待には応えられたかな?」


ロールシャッハ「……ああ」

         「感謝する、アクション仮面」

263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:15:30.28 ID:LP5lnj2b0



スンノケシ「しんちゃ――ん!!」

しんのすけ「スンちゃ――ん!!」

風間「へえ、本当にしんのすけとそっくりだな!」

ネネ「でもしんちゃんよりかっこよくない?」

マサオ「兄弟みたいだよね」

ボー「兄弟というより、分身!」



ひろし「ん、んっ」(咳払い
ひろし「やあルルさん、相変わらずお美しい」

ポカァン!
みさえ「ごめんなさいねえうちのが……ホホホ」

ルル「ハハハ……野原さんたちもお変わりないようで。ご無事でなによりです」



ローズ「あんた観てたわよーやるじゃないのもう!」グリグリ
ラベンダー「銃の腕前は相変わらずだけどッ」グリグリ
レモン「結構戦力になってたじゃない!」グリグリ

よね「ちょ、ちょっと、いてえよ!……ハハッ!」



サタケ「ひ〜まわりちゃ〜ん!」

ひまわり「た! たあい!」

サタケ「こわかったでちゅね〜でもがんばりまちたね〜エライエライ!」

ジャーク「はあ〜、見ちゃいらんないわ……」

264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:18:08.67 ID:LP5lnj2b0


ロールシャッハ「……ルル……」

ルル「わかっています。壺のことですね」

ロールシャッハ「そうだ。あれは戻っていない」

ルル「また、彼らやあのような者たちが現れると思いますか?」

ロールシャッハ「ああ」

ロールシャッハ「何度もな。だが、何度でも叩き潰す」

ルル「……我々も同じです」



ひろし「おー、そうだ、あんた!」

ロールシャッハ「……?」

ひろし「あんたのこと、俺は完全に許したわけじゃないからな!」

みさえ「あなた、ちょっと! しんのすけが帰ってきたんだから、それでいいじゃない!」

ひろし「俺の家族を危険な目に合わせたんだ、だから俺はあんたを絶対に許さん」


ロールシャッハ「……」


ひろし「だが、しんのすけを連れ戻すって約束を果たしたことには感謝する!」

ひろし「……ありがとう!」

頭を深く下げるひろし。

みさえ「あのー、ごめんなさいね? うちの人こういうとこ素直じゃなくて」


ロールシャッハ「……」

ロールシャッハ「……深く、受け止めておく」


265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:19:44.78 ID:LP5lnj2b0



ミミ子「お帰りなさい、アクション仮面!」

メケメケZ「これでおあずけになっていた勝負の続きができるな」

ミミ子「もう、今はショーでも撮影でもないんだから!」

アクション仮面「いやあ、もうホントに大変でした」


しんのすけ「大丈夫だゾ、正義は勝つ!」


しんのすけ「ワーッハッハッハ!」
アクション仮面「ワーッハッハッハ!」

男の子一同+ミミ子「「「ワーハッハッハ!」」」

ルル「……なにかの宗教でしょうか?」




よね「あんた、やんなくていいの?」


ロールシャッハ「HEH.」






ロールシャッハ「……WAH……ハハハ……」





















むさえ「みんなー、写真撮るよー!――――」


266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:21:04.16 ID:LP5lnj2b0



市内 どこかのビルの屋上



ヘクソン「……なんの用だ」


パラダイスキング「――あんたは帰って来れたんだな?」

パラダイスキング「どうだ? 最後に一戦、俺とやらねえか?」


ヘクソン「……くだらん」

ヘクソン「お前はおそらく、永遠に郷剛太郎にも勝てんだろう」


ヘクソン、ビルを飛び越えて消えていく。


パラダイスキング「あー、逃げやがったなあいつ」

マホ「で、あんたどーすんだい、これから。お互い、追われる身だろ」


パラダイスキング「そーさなあ……とりあえずこの髪の毛をどうにかする。それからもっかい南でも行くかァ」

マホ「お前あのアフロ似合うって本気で思ってたのかよ? 今の方がまだいいぜ」

パラダイスキング「どーせオンナにゃわかんねェーよ!!」


267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:25:36.10 ID:LP5lnj2b0


カスカベ市内 某レンタルビデオ屋



マイク水野「いらっしゃいませェー」

マイク水野「……!」


ロールシャッハ「あんたはカスカベ随一のシネフィルと聞いた」

ロールシャッハ「この映画がなにか、わかるか?」


ロールシャッハ、日誌の栞を取り出す。


マイク水野「……これは……!」

       「……これは、完成しなかった映画なんですよ」

       「間近でお蔵入りになっちゃったらしくてね、未完成のフィルムはあるみたいですが」

       「これは宣材のスチール写真でしょう」

マイク水野「いやー残念ながら、この映画を観ることはできないんです」


ロールシャッハ「……結末はどうなる?」

ロールシャッハ「知っているのだろう?」


マイク水野「……そりゃあなた、
       ハッピーエンドで終わるんですよ。
       そうとも、そうでなきゃね」


ロールシャッハ「……そうか」

ロールシャッハ「邪魔したな」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:28:01.94 ID:LP5lnj2b0

マイク水野「あのー、お客さん」

ロールシャッハ「?」


マイク水野「あなた、こないだ21世紀博のスクリーンに出てた人でしょう?
       ああやっぱりそうだ」

マイク水野「最近来る人来る人、あの映画はないか、って聞いてくるんですよ。
       映画じゃないのにね。“嵐を呼ぶ! 救いのヒーローたち”っていうアレ」


ロールシャッハ(そうか……あのブタが気を利かせたな)


マイク水野「古い映画にもいいのはたーくさんあるんですがねえ、
       若い人は全然です」

マイク水野「その映画を知ってるってのはなかなかですよ」


ロールシャッハ「……もういいか」

マイク水野「あ、あのー、サイン……って、もらえます?」


ロールシャッハ、差し出されたノートに書き記し、店を去る。


マイク水野「ありがとうございましたー!」



水野、ノートを見る。


“.┓┏. ”


マイク水野「……?」

269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:29:40.98 ID:LP5lnj2b0


市内 大袋博士の秘密(違法)研究所



ロールシャッハ(Dr.オオブクロの行方がわかった)


(助手とともにブリブリ王国を渡航中、痴漢で捕まり拘留されていたという)

(そのような男の肩に世界が乗っていたかと思うと吐き気がする)

(ただし、件の報復装置が破壊できることは間違いない)


(協会へはなにも報告していない)

(使用許可などない)

(無論、そんなものなくとも俺はやる)


ロールシャッハ(……ぶりぶりざえもん)


(こいつが味方でなければ勝てなかった)

(それはまた、シンノスケがいなくては成り立たなかったのだ)


ロールシャッハ(HEH……救いのヒーロー、か……)


270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:31:50.28 ID:LP5lnj2b0



コンピュータの前に座る大袋博士。隣にアンジェラ青梅。


それを囲むロールシャッハ、よね、ルル、スンノケシとしんのすけ。


大袋「ええと、マジでやっちゃってええかの?」

ロールシャッハ「構わん。どうせ俺にこの手の機械は使いこなせんからな」


大袋「ひとつ注意しておくと、こいつは複製もできなれば操作もできんよ。
    呼んでも戻らん。そこんところ、わかっとるね?」

ロールシャッハ「ああ」


しんのすけ「でもなんでまたぶりぶりざえもん作ったの?」

アンジェラ「もーったいなかったのよう、だってあんなにすごい電子生命体なのよ」

アンジェラ「もちろんSMLにはナ・イ・ショ」


よね「でもこれ、実際はサイバーテロだよな……」

アンジェラ「バレてもわかってくれるわよんきっと!」


大袋「またというより復活させたといった方が正しいのう」

大袋「しんのすけくん。キミのこともちゃあんと覚えとったじゃろ?」

しんのすけ「ほうほう」

271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:33:29.66 ID:LP5lnj2b0


ルル「……なぜここに保管していたのですか?」

大袋「怖かったんじゃようわしひとりでアップロードするの」

大袋「あんたらみたいなのが来るのを待っとったんじゃ」

よね「……そんな理由で……なんかアホらし……」


大袋「もうひとつ、理由はあるぞ」

大袋「最後は、しんのすけくんに送り出してもらわんとな」


スンノケシ「しんちゃん。キミが世界を変えるんだね!」

しんのすけ「いやあ照れますなあー」


大袋「ぶりぶりざえもんはこのコンピュータから
    この国のネットワークに侵入し、
    各国の回線や電子機器を勝手に経由して進んでいく。
    時間は正確にはわからんよ。
    そのほーふく装置の作動には間に合わんかもしれん」


ロールシャッハ「……最大限、急いでくれ」

ぶりぶりざえもん、モニターから飛び出す。

ぶりぶりざえもん「いいだろう。だがお助け料ひゃくおくまんえん」

ロールシャッハ「ローンも可だろう」

ぶりぶりざえもん「先に言うな!」


272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:34:43.29 ID:LP5lnj2b0

しんのすけ「ぶりぶりざえもん、」

しんのすけ「怖くない?」


ぶりぶりざえもん「……少しな」

ぶりぶりざえもん「だが案ずるな。こないだもこの街を救ったのだ」


しんのすけ「オラたち、また逢えるよね?」

ぶりぶりざえもん「……どうかな」

スンノケシ「逢えるよ! ボクたちだってそうじゃないか!」

ぶりぶりざえもん「……ものすごくヒマになったら、お前の家のテレビから出てきてやる」

しんのすけ「なんかホラーだゾ……」

ぶりぶりざえもん「おいせっかくいいこと言ったのにぶち壊すな!」


273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:35:35.55 ID:LP5lnj2b0


ロールシャッハ「ぶりぶりざえもん」

ロールシャッハ「装置を止められるのはお前だけだ」

ロールシャッハ「全部、お前に託すからな」


ぶりぶりざえもん「……わかってるっつーのッ! 子供扱いするな!」


大袋「さあ、しんのすけくん」

大袋「準備は整った。このキーを押してくれ」


しんのすけ「ほい!」


ぶりぶりざえもん「……じゃあな。元気でやれよ」

しんのすけ「……お前もな!」




しんのすけ、小さな指でキーを押す。


274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:41:09.61 ID:LP5lnj2b0



日誌 ロールシャッハ記


2000年7月1日


電子生命体“ぶりぶりざえもん”の奪還と、その送信は終わった。
これで、東ゴルドーの報復装置は破壊できる――まだ核は落ちていない。


カスカベの混乱は去った。
俺が来たときのように、すでに奇妙な住人たちが活気づいている……
俺のことすらも忘れているかのように。


つくづく奇妙なのは、この街はやはりあの映画館と同様に、
時間の流れから取り残されていると思えることだ。
八秒後も、八世紀後も同じく動いているかもしれない。
ほんの子供がその一瞬に、なんども世界を救うように。

Dr.マンハッタンがこの街を見たら、なんと言うのだろうか。
しかし、ここが終末に最も遠い街であることは間違いない……


カスカベはもはや俺を必要としていない。
――――ここを発とう。


終末は核だけによりもたらされるわけではない。
蟻どもは依然として健在だ。無論、それだけでもない。


この身が砕け散るまで、

…………俺が、俺の救えなかったニューヨークの魂と同じく、
廃墟の街の一部となるまで、俺には闘い続ける義務がある。


275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:42:47.45 ID:LP5lnj2b0




カスカベのどこか――――




ロールシャッハ、土手を歩いている。
よねとしんのすけがそのあとをついてくる。



しんのすけ「ねーねー、シャッハのおじさん、フーちゃんどこに行ったの?」


ロールシャッハ「……」


しんのすけ「おうち知ってるんじゃないの?」


ロールシャッハ「……」


しんのすけ「アクション仮面の映画観るって約束したんだゾ」


ロールシャッハ「……」


しんのすけ「……無視ですか」


276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:44:49.13 ID:LP5lnj2b0


よね「さてと、私は逃げてった奴ら追っかけなくっちゃなあ……」

   「これが最後になるかな……」

   「あんた、これからどうすんの?」


ロールシャッハ「……この国を出る」

よね「もう、二度と来ないの?」

ロールシャッハ「……今度のようなことでもなければな」

よね「……あっそ!」


ロールシャッハ「グロリア」

        「次に逢うことがあれば……」

        「……願わくばそのときは、
         もう少し役に立つようになっていてほしいものだ」


よね「……あんたも、その口の悪さ直しとけよな」

よね「……じゃあなっ」

ロールシャッハ「……HEH.」


しんのすけ「……行っちゃったゾ」

しんのすけ「いいのー? ほっといて?」

ロールシャッハ「……俺になんの関係がある……」

しんのすけ「……んー……さみしくない?」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ、振り返る。
彼女の姿はもう見えない。


277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:45:42.22 ID:LP5lnj2b0


ロールシャッハ「……シンノスケ」


ロールシャッハ「俺の顔がなんに見える?」


ロールシャッハの顔は、もう一度少年の絵になる。


しんのすけ「んーと、んーと、んー……」


ロールシャッハ「……見えたものを言ってみろ」


しんのすけ「アクション仮面!」


ロールシャッハ「……」


しんのすけ「とカンタムロボと、ぶりぶりざえもん!」



ロールシャッハ(!……)

ロールシャッハ「……HURM.」

278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:47:42.11 ID:LP5lnj2b0


しんのすけ「まだあるゾ!」


「オラの父ちゃんと母ちゃんにも見えるし、ひまわりとシロにも見えるゾ」

「じいちゃんとばあちゃんたちも、カスカベ防衛隊も、幼稚園のみんなも!」

「まわりの白いとこは師匠たちに見えるし、」

「ななこおねいさんにも見えるし、すごくキレイなチョウチョにも見えるゾ」


「フーちゃんにも、」

「おじさんにも見えるゾ!」


「たくさんいろんなものがあって、」

「オラ、ひとつに決められない」


しんのすけ「ああもう、また形が変わったゾ!……今度はねえ、……」


ロールシャッハ「……もう、充分だ」


しんのすけ「お?」


ロールシャッハ、帽子を脱ぎ、マスクを取り去る。


ロールシャッハ「……この顔は、どう見える?」


しんのすけ「?……」


しんのすけ「……!」

279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:51:32.45 ID:LP5lnj2b0




日誌 ロールシャッハ記


2000年7月1日 

追記



必ずまた逢える。
子供たちはそう繰り返していた。

だが俺には必要な言葉じゃない。
ただ彼らの記憶に、俺は浅からぬ爪跡をつけただろう。
それだけで、この俺には充分だ。


鏡を見る。


俺の顔が無限に変わっていく。
幾多の白と黒の対称形がそこにある。

その中に、俺は罰すべき幾多の者と、救うべき幾多の者を見る……
そしてまた、二度と現れない姿も。






――――今夜、この世界から終末がひとつ遠ざかる。





赤毛の少年は死んだ。
ウォルター・ジョセフ・コバックスは死んだ。



ロールシャッハは、まだここに生きている。



.┓┏.



280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 00:53:00.47 ID:LP5lnj2b0



ふたば幼稚園――



よしなが「しんちゃん、その絵はなに?」

しんのすけ「やれやれ、そんなこともわからないのかみどり」

よしなが「よしなが先生、でしょ!」


ネネ「ウサギ?」

マサオ「怪獣?」

ボー「……石……?」


風間「違うよ、みんな!」


風間「えー……っと、……この絵は、なんだろう?」



しんのすけ「やだなーみんな、決まってるでしょー」



しんのすけ「嵐を呼ぶ、救いのヒーローたちだゾ!」







281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 01:18:44.62 ID:LP5lnj2b0

4年越しに完結しました。自分でも驚く長さになりました。
本当はもっと出したいキャラクターがいたのですが(特に堂ヶ島少佐とか)
また完結しなくなりそうなので止めました。

お待たせした分、楽しんでいただけるものになっていたらいいなと思います。
ただこんな変則的なクロスでしたので、
これを楽しめる方は相当限られるのではないかとも思います。

ロールシャッハですが、最近DCコミックスで二代目(?)が登場したり、
ウォッチメンのテレビシリーズが始まるそうだったりで、まだまだ人気は衰えないようです。
テレビシリーズでは、私がウォッチメンで二番目に好きなキャラクターである
マルコム・ロングの扱いを映画よりもよくしてほしいなと期待しています。

補足ですが、>>187-190の「」内の台詞はウォッチメンの原作から、
個人的に好きなものや印象的なものを抜粋しています。
本書をお持ちの方は探してみるのも一興かと。
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 08:23:46.44 ID:Qv1GWig4O
くれしんのssは書き切ってあればとても面白いのが多いから
完結させたよって始まりにはとても期待したよ
期待して損なかったよ
とても良かった 乙
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/25(日) 18:02:14.35 ID:4e+xanpY0
所々のセリフが本物の劇場版並みに心に突き刺さる名作SSだった。
ロールシャッハの原作は読んだことないけれど、こういう良二次創作を見ると原作から読んでみたくなる。
お疲れ様でした。
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 04:39:36.37 ID:vI16C1ti0
完結乙!
まさか完結してくれるなんて!
ロールシャッハとクレしんがここまでベストマッチするなんて……
また前々作からとWATCHMENを読み直そうかな
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/09/01(火) 02:48:08.16 ID:XV+LJK570
作者様のロールシャッハの新作SSが待ち遠しいです
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