ギャルゲーMasque:Rade まゆ√

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1 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:09:10.81 ID:SS0yY0zJ0

これはモバマスssです

ギャルゲーMasque:Rade 加蓮√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514899399/
ギャルゲーMasque:Rade 美穂√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516469052/
ギャルゲーMasque:Rade 智絵里√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517466864/
の別√となっております
共通部分(加蓮√81レス目まで)は上記の方で読んで頂ければと思います
また、今回はまゆ√なので分岐での選択肢で3を選んだという体で投稿させて頂きます


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1518286150
2 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:11:17.59 ID:SS0yY0zJ0



P「うちで鍋をやったんだ」

加蓮「いいなー、私も誘ってくれれば良かったのに」

P「体調悪かったんだろ? あと俺、北条の連絡先しらないし」

加蓮「あ、そっか。それじゃHR終わったらライン交換しよ」

P「だな、連絡相手は多い方が良いぞ」

加蓮「で、誰と鍋やったの?」

P「いつもの二人……李衣菜と美穂。あと智絵里ちゃんとまゆと文香姉さんの六人」

加蓮「……まゆ?」

P「ん?友達だったのか?」

加蓮「まゆって確か、あのリボン着けてポワポワしてそうなのだよね?」

P「多分そうだと思う」

ポワポワかどうかは分からないが、リボンは着けてるな。

一応あれ校則違反なんだけど。

加蓮「……後で、少し話聞かせて貰っていい?」

P「あぁ。……そう言えば、金曜の事なんだけどさ」

加蓮「あー、あれ?上手かったでしょ、アタシの演技」

P「演技でキスまでするか普通……」

それに、確かあのラブレターは。

俺の見間違いでなければ……
3 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:11:46.15 ID:SS0yY0zJ0



加蓮「……ま、お互いの思い出って事で。別に忘れても良いけど」

P「……なぁ、北条。本当に……」

加蓮「もう……後ででいい?私、保健室にマスク貰いに行きたいから」

P「あいよ。こんな場所で立ち話する様な事でも無いか」

加蓮「放課後は時間ある?」

P「あ、悪い……放課後は予定が入っちゃってるんだ」

加蓮「誰?」

気温が一瞬にして0を下回った気がする。

おかしい、さっきまで楽しく談笑出来ていた筈なのに。

いきなり異世界あたりにワープしたりしてないだろうか。

GPS情報を確認しても、別にここはシベリアになっていたりはしなかった。

加蓮「……ねぇ、誰?」

P「……ヒ・ミ・ツ!」

加蓮「は?」

P「ちえ……緒方さんです」

震えてなんていない。

もし震えていたとしたら、それは寒いせいだ。

加蓮「……ふーん、何?また告白の練習に付き合ってとか言われたの?」

P「いや、単純に来れたら来てって言われただけだけどさ」

加蓮「そ。なら断っても問題ないよね」

……いや、その理論はどうなんだろう。

文的には間違ってないが人間的に色々とアレな気がする。

キーン、コーン、カーン、コーン

加蓮「……私が保健室に行ってる事、先生に伝えておいてね」

P「任せろ、帰ったって言っとくから」

加蓮「土に還らせるよ?」

P「物騒過ぎるだろ」


4 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:12:12.55 ID:SS0yY0zJ0

予鈴が鳴る前に、ギリギリ教室に滑り込めた。

北条の件を千川先生に伝えて席に着く。

智絵里「おはようございます……Pくん」

P「おはよう、智絵里ちゃん」

智絵里「……えへへ……」

挨拶しただけなのに、智絵里ちゃんは微笑んだ。

なんだろう、今日のラッキーアイテムは男子からの挨拶だったのだろうか。

智絵里「……Pくん……その、ライン……見てくれましたか……?」

P「ん、あー……後ででいいか?」

智絵里「……はい…………」

まゆ「智絵里ちゃん、Pさんと仲良しさんですね」

美穂「ふふ、仲が良いのは素敵な事だと思います」

この教室、外より気圧が高過ぎないだろうか。

肩と心にかかる重圧にプレスされそうだ。

ちひろ「特に連絡事項はありません。夕方は雨らしいので、傘を忘れた子は事務室で借りられますから利用して下さいね」

HRが終わり、千川先生が教室を出て行く。

北条は未だに、教室に戻って来ていなかった。

P「ふぅ……トイレ行くか」

なんとなく教室に居づらくなって、俺はトイレに向かう。

やっぱり大して時間は稼げなかった。

手を洗いながら、鏡の中の自分を覗き込む。

……美穂と、まゆ。

俺は、どちらを……
5 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:12:53.17 ID:SS0yY0zJ0


加蓮「やっほー鷺沢。鏡の自分と睨めっこ?」

P「よう北条、もうちょっとで鏡の自分に勝てそうだから待っててくれ」

トイレの前に、北条が居た。

加蓮「一生待たされる事にならない?」

P「よし勝った。待たせたな、何だ?」

加蓮「勝てたの?!」

P「鏡は同じ動きをするから、俺が笑えばあいつも笑うんだよ」

加蓮「引き分けじゃん」

P「光の往復時間分、鏡の中の俺の方が遅いから」

加蓮「あんたの方が先に笑ってるじゃん」

P「ほんとだ……」

どうやら俺は負けていたらしい。

加蓮「……で、放課後空いてないって言うなら……今、さっきの話の続きをさせて貰うけど」

P「ん、あぁ……」

ガラガラ

美穂「Pくん。今お話を……あ、お話中でしたか?」

P「ん、あぁ。少し待っててくれるか?」

教室から美穂が出て来た。

美穂「あれ?えっと……北条さん?」

加蓮「そうだけど、どちら様?」

美穂「小日向美穂です。Pくんとは一年生の時から……お友達なんです」

お友達の前に、少しだけ空白が空いた。

加蓮「……ふーん、成る程ね」

美穂「Pくん、わたし達以外にもお友達いたんですねっ!」

P「残念だったな、もう片手じゃ数えられなくなる日も近い」

加蓮「そんな誇らしげに言える事じゃないじゃん。へー、あんたも友達少ないんだ」

P「そんな悲しいところで親近感を覚えるなよ」

美穂「だ、大事なのは数より質ですから!」
6 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:13:31.18 ID:SS0yY0zJ0


加蓮「……仲、良いんだ」

P「な、なんだよ北条」

加蓮「別にー、よろしくね美穂。あ、加蓮でいいよ?」

美穂「よろしくお願いします、加蓮ちゃん」

加蓮「加蓮ちゃん……うん、いい響き。鷺沢も加蓮ちゃんって呼んでいいよ」

P「加蓮ちゃん」

加蓮「キモっ。ちゃん付けないで」

その流れは酷いんじゃないだろうか。

P「じゃあ加蓮で」

加蓮「よろしい。それで、美穂は何を話しにきたの?」

美穂「あれ?加蓮ちゃんはお話終わったんですか?」

加蓮「……うん、私は……もう良いかな」

P「……そうか」

美穂「あ、もう大丈夫ですか?ねえPくん、放課後時間ありませんか?」

P「あー悪い、放課後は智絵里ちゃんに呼ばれちゃっててさ」

美穂「あ……そうでしたか」

加蓮「……ねぇ鷺沢、その子に呼ばれたのってなんで?」

美穂「……告白の練習、なのかな?」

P「あ、美穂も智絵里ちゃんから聞いてるのか」

美穂「こないだ李衣菜ちゃんと三人でPくんの部屋で遊んでる時に聞いたんです」

P「あぁ、だから悪いけど放課後は空いてないんだ」

加蓮「練習、ね……ふーん……鷺沢を練習相手に……」

P「ん?何かあったのか?」
7 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:13:57.57 ID:SS0yY0zJ0



加蓮「しょうがないね……うん、代わりに私が行っておいてあげる」

P「……え?」

加蓮「鷺沢の代わりに、私がその子の告白の練習に付き合う。何も問題は無いよね?」

何も問題はない……のか?

加蓮「私はほら、こないだあの子のラブレター読んだし、それなりにアドバイスも出来るんじゃない?」

P「本人に言ってやるなよ?……ん?」

確か、あのラブレターって……

加蓮「よし、決まりだね。鷺沢は美穂の方に付き合ってあげて。その子には私から言っておくから」

美穂「ありがとう、加蓮ちゃん」

加蓮「別に、私今日は放課後何も予定無かったし」

美穂「……本当に、良いんですか?」

加蓮「何の事?」

美穂「……ううん、なんでもありません」

加蓮「あ、あと鷺沢」

P「なんだ?」

加蓮「放課後の事は貸しにしとくから。今度、一緒に遊びに行こ?」

P「おう、いつでもライン送ってくれ」

加蓮「なら良し。あと美穂も、今度みんなで鍋やるなら私も誘ってね?」

美穂「はい、もちろんです!」


8 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:14:29.36 ID:SS0yY0zJ0


放課後、智絵里ちゃんとの件は加蓮に任せて俺は下駄箱に向かった。

美穂「あ、Pくん。待ってましたっ」

P「お待たせ。さて、帰るか」

美穂「えっと……良かったら、少し回り道しませんか?」

P「構わないけど、何か食べに行くのか?」

美穂「大した用事じゃないんですけど……ノート、何冊か足りなくなっちゃって」

P「お、なら俺も買っとくか。何冊あっても困るもんじゃないしな」

美穂「イタズラで隠される用ですか?」

P「俺がイジメられてる前提で話すのやめよ?」

並んで歩き、いつも通りの会話をする。

なんだか落ち着くな、美穂と二人で話していると。

商店街に着くと、何やら行列が出来ていた。

P「ん、何やってるんだろ」

美穂「福引きですね。500円買い物をすると、1回回せるんです」

P「なるほどなー。なら500円分買って挑むか!」

美穂「はいっ!目指せハワイ旅行です!」

いや、見た所景品にハワイ旅行は無いけどな?

文房具屋でノート数冊とシャー芯を買って、ピッタリ税抜き500円。

美穂もノートを数冊買って、二人で福引きの行列に並んだ。

美穂「一等賞、二人共当てられると良いですねっ!」

P「そうだな、一等賞は一個しか入ってないみたいだけど」

一等賞は掃除機……いらねぇ……

二等賞は扇風機って……

絶対売れ残り処分じゃん。

P「割と現実的にハズレのポケットティッシュが当たりなんじゃないかな」

美穂「あ、でもPくん。三等を見てみて下さい」

P「ん、三等は温泉旅行のペアチケットか」

三等の数は二十個だから、そこそこ狙えそうな気がする。

美穂「当ててみせますっ!」

グルグルグルグルッ!と美穂がガラガラを回す。

勢い良く飛び出た球の色は金。

金色は……三等?!

9 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:15:01.56 ID:SS0yY0zJ0



商店街の人「カランカランカラーン!おめでとうございます!!」

美穂「えっ、うそっ?!本当に当たっちゃいました!!」

P「マジか、凄いな美穂!!」

テンションが上がりすぎて、思わず手を握って振り回す。

P「っと、次は俺か。ポケットティッシュ欲しいな」

美穂「……えへへ……これで、Pくんと二人で温泉旅行に……」

グルグルグルグルッ!コロッ

商店街の人「カランカランカラーン!おめでとうございます!!」

P「……うっそだろ……」

美穂「……え……」

なんと、二連続で三等だった。

金色の玉が二つ……何も言うまい。

商店街の人「景品はこちらになります」

俺と美穂が、それぞれ温泉旅行のペアチケットを渡される。

色々と凄すぎて若干上の空になりつつ、二人で商店街を後にした。

空には雲が掛かってきて、今にも雨が降りそうだ。

確か千川先生、夕方ごろに雨降るって言ってたなぁ。

P「で、どこ行く?」

美穂「取り敢えず、Pくんの家で大丈夫ですか?」

P「もちろん。にしても……こんな幸運あるんだな」

のんびり歩きながら、俺の家へ向かう。

美穂「わたしからしたら、全然幸運じゃない……」

P「なんでさ」

美穂「二人っきりが良かったのにな……」

P「でもほら、高校生が二人だと色々不安だろ。これなら文香姉さんに付き添って貰えるし」
10 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:15:28.90 ID:SS0yY0zJ0


ポツリ、と。

遂に雨が降って来てしまった。

美穂「……あ、雨降ってきましたね」

P「傘二本あるぞ、使うか?」

折り畳みと普通の傘持って来てて良かった。

美穂「大丈夫です、わたしも折り畳みを持ち歩いてますから……あ」

P「ん?」

美穂「なければ、相合傘してくれましたか?」

P「二本あるって言ったじゃん」

ところで、これいつ行けば良いんだろ。

美穂「あ、ゴールデンウィークの土日ですね。一泊二日、割引券です」

P「なるほどなー、ゴールデンウィークの土日か」

美穂「ですね、その割引券です」

P「割引券なー……ん?」

割引券……?

P「……割引券?」

美穂「割引券です」

P「……なんか……しょぼくない?」

美穂「で、でも半額です!」

P「ちょっと待っててくれ、そこの宿代調べるから」

スマホで宿の名前を調べて、二人部屋一泊二日、と……

P「……元の値段が四万って……たけ……」

美穂「半額で二万円ですね……」

一人当たり一万円か。高校生がポンと出せる金額ではない。

P「流石に高過ぎるな……」

美穂「アルバイトしなきゃ……今からで間に合うかな」

この際、文香姉さんに全部払ってもらうか……?

いや無理だろうな、あの文香姉さんだし。
11 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:16:01.03 ID:SS0yY0zJ0


P「……ん?」

美穂と会話しながら歩いていると、横断歩道の反対側に傘を差したまゆが居た。

まゆも商店街に買い物だろうか。

まゆ「あ、Pさんに美穂ちゃん。こんにちは」

美穂「さっきぶり、まゆちゃん」

P「よっ」

まゆ「もう、酷いじゃないですかぁ。Pさん、放課後に用事があるからってまゆのお誘いを断ったのに」

P「すまん、用事を加蓮に代わって貰っちゃってさ」

まゆ「今からでも、三人で遊びませんかぁ?」

美穂「わたしは構いませんよ。まゆちゃんとも、一度きちんとお話したかったですから」

まゆが、横断歩道を渡って此方へ向かってくる。

その時だった。

P「おいっ!まゆストップ!」

美穂「……あっ!まゆちゃん!」

まゆ「……え?」

横から走ってきた自転車が、まゆの方に突っ込もうとしいた。

傘差し運転でまゆの姿が見えてなかったんだろう。

まゆもまた、傘を差している為近付いている自転車に気付けずにいる。

まゆ「……あ……」

ようやく気付いた時には、自転車はまゆのかなり近くまで来ていて。

足がすくんだのか、その場から動けずにいた。
12 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:16:26.25 ID:SS0yY0zJ0


P「っっ!!」

傘も荷物も放り投げて、まゆへと駆け出して。

まゆにタックルして無理やり自転車の軌道からズラす。

どんっ!

まゆ「きゃっ!」

P「いっってぇっ!!」

道のど真ん中に倒れ込んで、何とか自転車とはぶつからずに済んだ。

俺の足の直ぐ近くを、自転車が走り去って行く。

P「っぶなかった……大丈夫か、まゆ」

まゆ「……は、はい……でも……」

まゆの背に片手を回して、もう片手を地面に着いたは良いが。

……あぁ、右腕がとても痛い。

美穂「大丈夫ですかっ!まゆちゃん、Pくんっ!」

P「あぁ、まゆに怪我は無いっぽい!」

まゆ「そうじゃなくて……!Pさんは……!」

P「ん?あぁ、腕が痛いだけだから」

冷静ぶってはいるけど、とんでもなく痛い。

けどまぁ、まゆが轢かれ無くて良かった。

まゆ「うぁ……ぁ……ごめんなさい……まゆ……」

P「大丈夫だって!多分捻っただけだから、そんな泣く様な事じゃ無いって!」

車の邪魔にならない様、さっさと歩道まで戻る。

まゆ「ごめんなさい……ごめんなさい……」

美穂「本当に大丈夫なんですか?病院に行きませんか?」

P「だな、何もなければみんな安心出来るし」

13 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:16:53.18 ID:SS0yY0zJ0



まゆ「ごめんなさい……まゆ、どうすれば……」

P「……いや、本当に大丈夫だから」

骨折だった。

どうやら人間の骨は割と簡単に折れるらしい。

ギプスを嵌められて首から下げられた右腕は、動かそうとするととても痛い。

別に動かさなくてもまだ痛い。

レントゲンももう少し気の利いた嘘を吐いてくれれば良かったものを。

……良くないな、早くカルシウム沢山摂取して治そう。

美穂「文香さんには連絡しておきました。すぐ、保険証を持って来てくれるそうです」

まゆ「……利き腕、ですよね?」

P「だな、これを期に両利き目指すか」

まゆ「……本当に、ごめんなさい……」

P「そんな凹むなって。ほら、このギプスかっこ良くないか?刃物防げる硬さだぞこれ」

美穂「……文字通り転んでもタダでは起きない姿勢、今は多分まゆちゃんを傷付けちゃうだけですよ?」

P「……なら、そうだな。まゆ」

まゆ「……はい……」

P「ごめんなさいじゃなくて、ありがとうの方が嬉しいかな」

まゆ「……ありがとうございました。Pさんに助けて貰ってなかったら、まゆは……」

P「暗い顔もやめよ、な?俺に左利きのコツとか教えてくれよ」
14 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:17:26.37 ID:SS0yY0zJ0


ウィィィン

病院の自動ドアが開いて、文香姉さんが入って来た。

文香「……P君」

P「あ、姉さん」

文香「……はぁ、ふぅ……全く……」

呆れたように、溜息をつく文香姉さん。

P「手間かけさせちゃってごめん。保険証、持ち歩くべきだったなぁ」

文香「……っ!……巫山戯ないで下さい……!」

P「……え?」

そんな文香姉さんは。

珍しく息を切らせていて、表情はとても辛そうだった。

文香「……心配しない訳、無いじゃないですか……もし、P君が保険証を持っていたとして……それなら、私は来なかったと……本気で思っているんですか……?」

文香姉さんは、傘を持っていなかった。

長い髪も、服も、顔も、雨に濡れてしまっている。

……走って来てくれたのか。

文香「美穂さんから『自転車に轢かれそうになって』と連絡を受けた時……私が……どんな気持ちで……!どれ程、心配したと思っているんですか……!!」

P「……ごめん、姉さん。心配掛けて」

文香「P君が自分に無頓着な事は知っています……他の人を優先しようとして、他の人を気遣って、明るく振舞う事も分かっています……ですが……」

貴方の事を大切に思っている人の気持ちも、考えて下さい、と。

そうポツリと呟く文香姉さんの頬が濡れているのは、きっと雨のせいじゃなくて。

その言葉は、俺に深く突き刺さった。

P「……ほんとにごめん」

文香「……支払い手続きは私が済ませておきます。P君は、後でお説教です……きちんと、家で安静に待機していて下さい」

まゆ「あ、あの……Pさんは……」

文香「佐久間さんにも、後でお話があります」

まゆ「……はい……本当に、申し訳ありません……」

……ここまで憤ってる文香姉さんは初めて見た。

いや、それ程に俺を心配してくれていたという事か。

P「悪いな、美穂。この後はちょっと無理っぽいわ」

美穂「分かってます。ほんとに、Pくんは自分の事も大切にしてあげて下さいね?」

呆れられてしまった。

正直今もまだ痛いけど、女の子の前でカッコ悪いとこは見せたくないしなぁ。

P「それじゃ、まゆ。悪いけど、来て貰ってもいいか?」

まゆ「はい……もちろんです」

15 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:17:57.60 ID:SS0yY0zJ0




文香「……先程は、お見苦しいところをお見せして……その……失礼致しました」

P「いや、俺こそちょっと気配りが出来てなかったって言うか……ごめん」

まゆ「その……全部、まゆが原因ですから……本当に申し訳ありませんでした……」

文香「いえ……私も、少し八つ当たり気味だったので……申し訳ありません……」

まゆ「八つ当たりなんかじゃありません……本当に、まゆのせいですから……」

我が家のリビングでは、現在謝罪大会が開催されていた。

文香姉さんの顔は真っ赤で、思い返して相当恥ずかしくなっているらしい。

まゆは未だに、俺以上に辛そうな顔をしている。

俺はとても腕が痛い。動かさなければそこそこ痛い。

文香「それで……詳しい話を教えて頂けますか?」

P「あぁ、うん」

事の顛末的なものを話す。

P「まぁ今思い返せば、もう少し安全な助け方もあったのかもしれないな」

まゆ「まゆは……驚いて、足が動かなくなっちゃって……」

P「実際仕方ない。焦ると本当に身体も頭も働かなくなるよな」

文香「仕方ない……?」

P「あぁいや、仕方ないって言うかしょうがないって言うか……まぁ、兎に角まゆは全く悪くないから」

まゆ「でも……それでPさんが骨折してしまったのは、紛れもなく事実ですから……」

文香「傘差し運転していた人物に関しては、今からでは探しようがありませんが……」

P「にしても困ったなぁ……食事作るの割としんどいぞこれ」

起きてしまった事はもうどうしようもないとして。

現実的な問題、利き腕が骨折というのは日常生活にかなり支障をきたしてしまう。

特にシャーペンや箸が使えないのはデカ過ぎる。

文香「……しばらくは、私が食事を」
16 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 03:18:26.61 ID:SS0yY0zJ0


まゆ「でしたら……」

文香姉さんの言葉を遮って。

まゆ「まゆが、食事を作りに来ます。いえ、作らせて下さい……!」

そう、まゆが提案してきた。

まゆ「他にもPさんが片腕で困る事があれば、まゆが全てサポートします」

P「いやいや、流石に悪いって」

まゆ「……させて下さい。じゃないと、まゆは……自分を許せないから」

P「ほんとに、そんな気負わなくても良いんだぞ?」

文香「……佐久間さんに、そこまでして頂かなくても……」

まゆ「これくらいで済ませる気はありませんが……せめて、少しでも……まゆに、お詫びをさせて貰えませんか?」

まゆの意志は固そうだ。

そこまでして貰うと逆にこっちが申し訳なくなってくるが……

P「……だったら、お願い出来るか?」

まゆ「……はい……!まゆに、任せて下さい」

文香「……家では私がみれますが……学校では、そうもいかないので……学校に居る間だけでも、お願い出来ますか?」

まゆ「学校だけと言わず、おはようからおやすみまで万全サポート致しますよぉ!」

あぁ、良かった。少しずつまゆがいつもの調子に戻ってきた。

おやすみまでは逆に問題な気がするけど。

P「それじゃ、無理のない範囲で頼めるか?」

まゆ「はい、まゆに任せて下さい」

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/11(日) 03:46:06.48 ID:NT/Nard60
キター!待ってたよ
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/11(日) 06:57:14.94 ID:3qLzXZw/0
待ってた!
無理せずに頑張って
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/11(日) 09:10:51.79 ID:WTkColve0
もう4人目か……
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/11(日) 09:39:21.44 ID:dsu50RN+o
筆が速い、素晴らしい
ついにまゆルートまで来たか…
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/11(日) 10:35:35.89 ID:SezVkZAMO
期待
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/11(日) 11:29:06.74 ID:3EX4SGAYO
これどうやって李衣菜ルート入るんだろ
23 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:26:13.17 ID:6XeH2JN0O


ピピピピッ、ピピピピッ

P「うぅーん……朝か……」

朝が来てしまった。

何故、朝はくるんだろう。

毎朝朝がくるんだから、偶には夜のまま朝を迎えたっていい筈なのに。

まゆ「もう、変な事考えてないで起きて下さい」

P「おう……ん?」

天使の様な声が聞こえた。お迎えだろうか。

目を開ける、エプロン姿の天使がいた。まゆだった。

P「……?おはよう、まゆ」

取り敢えず鳴り続けているアラームを止めようと、スマホに手を伸ばそうとして……

P「いてっ?!」

まゆ「あっ!Pさん……その……」

P「……そうか、俺は……昨日の戦いで、片腕を……」

まゆ「失ってはいませんから……本当に、ごめんなさい……」

そんなまゆの目は、メイクで誤魔化しているんだろうが腫れていて。

もしかしたら、昨晩泣いてしまっていたのかもしれない。

P「すまんすまんすまん!俺もちょっと朝でアホな事言っちゃってただけだから!」

そうだった。いつも利き手をスマホに伸ばすが、今は骨が折れているんだ。

慣れるまで、と言うか癖で利き腕を使わない様にするまでにかなりかかりそうだなぁ……
24 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:26:39.63 ID:6XeH2JN0O



まゆ「あ、そうでした。朝ご飯出来てますよぉ。早く着替えて降りてきて下さい」

P「まじか、ありがと」

まゆ「一人でお着替え出来ますか?よければまゆがお手伝いしますよぉ?」

P「まじか、ありがと」

まゆ「……ぅ……じょ、冗談だったんですが……そう、ですよね……Pさんが日常生活を支障なく送れる様にサポートするのが、まゆの役目ですから……」

P「あぁいや、すまん寝ぼけてた。着替えは割と何とかなるから大丈夫だよ」

まゆ「まだ寝ぼけている様でしたら……まゆが、おはようのキスでもしてあげますよぉ?」

P「もう少し寝てたいからいいや」

まゆ「もう……早く起きて下さい。朝ご飯冷めちゃいますから」

ちょっと怒ったまゆも可愛いなぁ。

っとそうじゃないそうじゃない。

まゆに先に下に行ってて貰い、パパッと……とはいかないがさっさと着替える。

利き腕骨折ライフ一日目は、そんなまゆとのやりとりから始まった。

25 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:27:06.27 ID:6XeH2JN0O


文香「……おはようございます、P君」

P「おはよう姉さん。うぉお、朝から豪華だな」

食卓には、沢山の料理がズラリ。

多分残った分を昼と夜に回すのだろう。

まゆ「腕によりを掛けて作らせて頂きました」

P「ありがとな、まゆ……さて」

その料理の多くが、スプーンで食べやすいものばかりだ。

パンも直接手で掴んで食べられる。

利き腕ではない方では上手く箸を使えないからと、気を使ってくれたのだろう。

P「それじゃ、いただきます」

慣れない動きで左手でスプーンを動かし、少しずつスープを掬う。

……想像を絶するめんどくささだ。

P「……んん、美味しい」

まゆ「ふぅ、良かったです」

P「とはいえ、これ多分左手でも箸を練習した方が良いかもなぁ」

文香「それは、時間の無い朝にすべき事では無いと思いますが……」

まゆ「でしたら、夜はお米を炊きましょうか」

P「悪いな、色々と手間かけて」

まゆ「……いえ……」

P「おっとストップ。まゆが本気で申し訳ないと思ってるのは分かったが、それ以上に俺が感謝してるって事も分かってくれよ?」

まゆ「……はい、ありがとうございます」

それから、少し時間を掛けながらも朝食を平らげる。

かなり量があったはずだが、美味しすぎて殆ど残らなかった。

P「ごちそうさまでした」

まゆ「お粗末様でした。ではPさん、玄関で待っていて下さい」

P「あいよ」
26 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:27:47.94 ID:6XeH2JN0O


言われた通りに玄関で待つ。

……うーん、昨晩雨が降ったからかかなり寒い。

まゆ「お待たせしましたぁ」

P「待ってないよ、今来たとこ」

まゆ「ご存知ですよぉ」

後片付けまでしてくれたまゆが、エプロンを外して駆け寄って来た。

まゆ「鞄、お待ちしますよ?」

P「いや、それは大丈夫だよ。左手は使えるし」

まゆ「左手しか使えないから、ですよぉ」

P「ん?」

どういう事だ?

取り敢えず鞄をまゆに渡してみる。

まゆ「まゆが言える事ではありませんが、Pさんはきっと……昨日みたいな事があったら、危険でも構わず飛び込んでしまうと思うんです」

P「うーん……どうだろ?それはまゆだったからな気がするけど」

まゆ「…………ありがとうございます」

あ、照れた。顔真っ赤なまゆも可愛いな。

……多分、俺も顔が赤くなっているだろう。

言った言葉を思い返して、割と恥ずかしくなった。

まゆ「それは兎も角として、です。そんな時、勝手に何処かへ行ってしまわない様に……まゆが、きちんと捕まえていてあげなきゃいけないと思った訳です」

P「なるほど、飼い犬の首輪とかリード的な」

まゆ「……そういうのが趣味なんですかぁ……?」

P「いや例えだよ?例えだからな?」

まゆ「ごほんっ!ですから!まゆが!その……手を繋いで、Pさんを見守ってあげないとと思った訳で……」

あぁなるほど、だから左手に鞄を持ってたらダメな訳だ。

それにしても、かなり恥ずかしがってるなぁ。
27 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:28:21.25 ID:6XeH2JN0O


P「前はもっとナチュラルに手を繋いできてなかったっけ?」

まゆ「前は前、今は今です。まゆは今に生きる女ですから」

P「……かっこいい」

まゆ「えへん、佐クール間まゆですよぉ」

P「……そんなにかっこよく無くなった」

まゆ「ネーミングセンスはこれから磨いてゆきますよぉ……」

P「ま、手も冷えちゃうしな」

まゆ「……あ、少し待って頂けますかぁ?」

何かするのだろうか。

まゆ「すー……はー……ふー……よし、今です」

P「スナイパーか?」

まゆ「深呼吸してる人全員がスナイパーなら、ラジオ体操は戦場ですねぇ」

P「新しい朝を迎えた喜びはさぞかし大きいんだろうな」

まゆ「希望の朝の重みが増しますねぇ」

P「青空仰いじゃったりするんだぜ」

まゆ「敵に見つけてくれと言ってる様なものなんですけどねぇ」
28 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:28:55.88 ID:6XeH2JN0O


P「……で、繋いでいいんだよな?」

まゆ「勿論ですよぉ」

まゆと手を繋ぐ。前みたいに指を絡ませてくる事なく、普通の手繋ぎだった。

まゆ「……負い目を感じている、というのもあるんです」

P「……負い目?」

まゆ「Pさんにも……美穂ちゃんにも。昨日、本当は美穂ちゃんと二人きりでお話をする予定だったんですよね?」

P「あぁ、まぁな」

まゆ「まゆの誘いを素気無く断っておいて、美穂ちゃんと二人きりでお話をする予定だったんですよねぇ?」

P「……ま、まぁ……うん」

まゆ「それなのに、まゆのせいで予定を潰してしまって……なのに、まゆはこうして、Pさんに近付こうとしてるなんて……」

……あぁ、まゆの恋愛観って。

きっと普通以上に、普通に優しいんだろうな。

P「……前だったら、多分ナチュラルに指絡めてきてたもんな」

まゆ「あ、それはまた別の理由もあります」

P「なんだ?」

まゆ「ええとですねぇ……あの時は、気分が高揚し過ぎていたので……冷静に考えて、少しどころじゃなく距離感が近過ぎました」

P「嬉しかったけどな」

まゆ「でしたら、まゆも嬉しいです」

P「今は?」

まゆ「Pさんとこうして学園生活を過ごし始めて、朝起こしたり、一緒にお食事したりするうちに……より一層、好きになってしまったので……」

P「……そうか……」

とても照れるな。

まゆ「……おそらくまゆは……今恋人繋ぎなんてしたら、喜びに心が耐えられません」

P「まじか」

まゆ「まじですよぉ」

そう言われると試してみたくなってしまう。

繋いだ手の指を絡めて、恋人繋ぎにしてみる。

まゆ「…………Pさん」

P「どうした?」

まゆ「……来世は……一緒に、お弁当を食べたかったです……」

P「まゆ……?っまゆぅぅぅぅぅっ!!」

遅刻した。

29 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:30:10.73 ID:6XeH2JN0O



加蓮「おっはー鷺沢……鷺沢……?っ鷺沢ぁぁぁぁぁっ!!」

P「朝から元気だなぁ……」

まゆ「さっき、Pさんも同じ様な言葉を言ってましたよねぇ?」

教室に入ると、物凄いテンションの加蓮が駆け寄って来た。

加蓮「え、何?誰にやられたの?ソレ?その隣の奴?」

まゆ「まゆがPさんに危害を加える訳が……うぅ……ぁ……」

P「な訳ないだろ。自転車に撥ねられそうになっただけだよ」

加蓮「よし、一緒に地上から自転車を滅ぼそ?」

李衣菜「思考が過激派」

P「自転車通学してる全校生徒に謝れ」

加蓮「冗談だって。自転車良いよね、タイヤ二つあるし」

まゆ「褒め方が雑ですねぇ」

食レポ下手そうだな、加蓮。

このポテト凄くジャガイモとか言いそう。

美穂「直接的な原因はコンクリートですよね?」

加蓮「ならコンクリートを消すしか無いね」

P「文明を壊すな」

李衣菜「で、美穂ちゃんから聞いてたけど……大丈夫なの?P」

P「まぁ別に、骨折だから一ヶ月位あれば治るだろ」

智絵里「えっと……本当に、大丈夫なんですか……?」

P「あぁ、今は動かさなければ痛みも無いしな」

智絵里「……良かった……」

心配されるっていうのも、なかなかこそばゆいな。

何時もだったら『何?高二にもなって厨二病?』とか誰かが言って来そうなものなのに。

……よく無いな、この思考は。

文香姉さんの言葉を思い出して、口にするのは思い止まった。

加蓮「いつ怪我したの?」

P「昨日の帰り道でな」

加蓮「って事は……」

美穂「……ごめんね、加蓮ちゃん。そういう事です……」

取り敢えずトイレ行くか。

まゆ「お供しますよぉ?」

P「結構です。いやマジで」

トイレに入って、また気付きを得た。

昨日も思ったけど、ズボンのジッパーって完全に右利き用に出来てたんだな。

世界は左利きに厳し過ぎる。
30 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:30:46.51 ID:6XeH2JN0O


智絵里「……Pくん。えっと……」

P「……ん、智絵里ちゃん」

教室に戻ろうとすると、扉の前に智絵里ちゃんが立っていた。

P「あ、ごめんな?昨日は加蓮に行って貰っちゃって」

智絵里「……いえ、その……改めて、頑張ろうって決意する良い機会になりましたから……」

P「告白か?」

智絵里「はい。次は、練習じゃなくって……ホントの気持ちを、きちんと伝えます」

P「そっか……頑張れよ、智絵里ちゃん」

智絵里「だから……Pくん」

P「ん?どうした?」

智絵里「……今日の放課後。もう一度、屋上に来て貰えませんか……?」

P「……それは……」

今、このタイミングで俺にそれを言うという事は。

智絵里ちゃんが好意を向ける相手は……

智絵里「……待ってますから」

そう言って、智絵里ちゃんは教室へ戻って行った。

俺は一人、誰も居ない廊下に溜息を吐く。
31 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:31:27.83 ID:6XeH2JN0O


まゆ「……行くんですか?」

P「うぉっ?!」

一人じゃなかった、背後にまゆが立っていた。

まゆもお手洗い帰りだろうか。

P「……聞いてたのか?」

まゆ「はい、聞こえちゃいました。それで……Pさんは、智絵里ちゃんの告白を受けるんですか?」

P「……なぁ、まゆ」

まゆ「まゆは、Pさんを止めません。それでPさんがどんなお返事をしたとしても、きちんと受け入れて……」

P「くれるのか?」

まゆ「……無理でしょうねぇ。おそらく、見苦しく悪足掻きをすると思います」

……まゆのそんな姿は見たくないなぁ。

なんて、言ってられないのも確かだけど。

まゆ「……行かないで下さい、って……そう言うのはとても簡単です。いえ、簡単だった筈でした。でも……まゆは……」

これ以上、Pさんに迷惑を掛けたくないから。

そう呟くまゆは、とても悲しそうで。

俺が思っている以上に、本気で昨日の件を思い悩んでいた。

P「……大丈夫だよ、まゆ」

まゆ「え……?」

そんな風に、俺の事を一番に。

俺以上に、俺の事を考えてくれて。

自分の恋愛すらふいにしてしまうかもしれないのに、それでも想いを飲み込めるまゆに。

俺は、きっと……

P「ま、夕飯には遅れないように帰るからさ」

まゆ「……でしたら。まゆは、校門の前で待っています」

安心したように、一息ついて微笑むまゆ。

あぁ、良かった。

やっぱりまゆには、笑っていて欲しい。

P「あと、お昼にでも来世の願いを叶えようぜ」

まゆ「……心中ですか?」

P「来世に行く訳じゃないから」

一緒にお弁当食べるんじゃ無かったのかよ。

まゆ「……本当に、良いんですか?」

P「まだ負い目を感じてる様なら、腕が完治した後にちゃんと伝えるよ」

まゆ「……ふふ、楽しみにお待ちしていますよぉ」

そんな風に、まゆと楽しく会話して。

こんな時間を、これからも続けてゆきたいと思った。

32 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:32:11.90 ID:6XeH2JN0O


放課後、俺は屋上へ続く階段を登る。

前と違って、足取りは非常に重い。

でも、きっと。

俺以上に、智絵里ちゃんも悩んで苦しんで決意して、登った筈だから。

屋上の扉を開けると、微笑んで智絵里ちゃんが出迎えてくれた。

智絵里「……えへへ……その……来てくれるって、信じてました」

P「……さっきぶり、智絵里ちゃん」

智絵里「はい。さっきぶりです、Pくん」

智絵里ちゃんって、こんなに素敵な表情で笑う子だったんだな。

思わず此方も微笑んでしまいそうになる。

智絵里「……昨日の事。わたし、ほんとはちょっとだけ怒ってます……」

P「……ごめん、智絵里ちゃん」

智絵里「……でも、加蓮ちゃんとお話し出来て良かったです。そうじゃなかったら……わたしはきっと、ずっと逃げてたかもだから」

P「……どんな話をしたんだ?」

智絵里「開口一番、『アンタには無理だから諦めたら?』でした」

加蓮……

智絵里「つい、わたしも言っちゃったんです……『でも、加蓮ちゃんも逃げたんですよね?』って」

智絵里ちゃん……
33 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:33:03.55 ID:6XeH2JN0O



智絵里「……美穂ちゃんも、Pくんの事が好きだったんですね」

P「……あぁ。そう、言われた」

智絵里「美穂ちゃんは、真っ直ぐに……想いを、打ち明けられたんですね」

P「……あぁ」

智絵里「そんな風に、真正面から向き合える子と……わたしみたいな、逃げたり保険を掛けちゃう様な子だったら……どっちを応援したいかなんて、わたしにも分かります」

P「でも、智絵里ちゃん。今は、こうして向き合ってるじゃないか」

智絵里「……加蓮ちゃんと……えっと、加蓮ちゃんは……先週の金曜日に、わたしの告白、全部聞いてたみたいです」

先週の金曜日、智絵里ちゃんの告白の練習。

読み上げられたラブレターには、『好き』としか書かれていなくて。

それは、つまり。

あの時の告白は……

智絵里「『その想いを、ちゃんと伝えれば?』って……そう、言ってくれたんです」

P「……そうだったんだな」

智絵里「その後に、『どうせアンタには無理だろうけどね』って言われちゃいました」

P「……加蓮……」

智絵里「……ブーメランがお上手な人ですよね」

智絵里ちゃん、なかなかユニークだな……

智絵里「それからは……もう、言いたい事を言うだけの口論になっちゃって……わたし、初めて……誰かと言い合いになりました」

P「それは、まぁ……良い経験かもな」

智絵里「いつもは逃げてたけど……Pくんの事だけは……本気で、その……」

P「……ありがとう、智絵里ちゃん」
34 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:33:30.31 ID:6XeH2JN0O


智絵里「……ねぇ、Pくん。覚えてますか?入学式の日に、わたしに優しくしてくれた事……」

P「……俺、何か感謝される様な事したっけ?」

入学式の日に、誰かを助ける様な事をした覚えがない。

テロリストが襲って来てそれをカッコよく倒す妄想ならした事はあるが、それが現実になった覚えもないし。

智絵里「……覚えて、無いんですね……」

P「……すまん。正直、めっちゃ女子多いじゃん肩身狭って感じたくらいしか……」

あの時は本当に李衣菜しか友達いなかったしな。

智絵里「……そっか」

P「ごめん……」

智絵里「いえ……それを聞けて、ちょっと嬉しいです……」

なんでだ?

俺、失礼どころか失望されかねない事を言ってる気がするけど。

智絵里「……あの日、わたしもとっても不安で……誰とも仲良くなれなかったらどうしよう、って……」

P「分かる。それは俺もだわ」

智絵里「緊張しちゃって、なかなか学校に行けなくて……そしたら、遅刻しちゃったんです……」

入学式、高校生活初日に遅刻は心が折れるよな……

智絵里「それで……教室が何処か分からなくって、先生を探しても見つからなくて……きっと、見つけても話し掛けられなかったと思うけど……」

P「入学式だからなぁ、先生達ほぼ全員体育館にいたと思う」

智絵里「やっと教室に着いた時には、もう誰も居なくって……」
35 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:34:02.13 ID:6XeH2JN0O



P「……っあー!!」

智絵里「……はい、その時でした。Pくんが、『どうしたんだ?早く体育館行こうぜ』って……」

そうだ、あの日俺は教室の居心地が悪くてトイレ行ってて。

その間にクラスメイト全員が体育館に移動しちゃってて、教室戻ったら殆どみんな居なくなってたんだ。

そして、教室で一人あたふたしてる女の子を見かけて……

智絵里「Pくんが、案内してくれたんです……遅れて体育館に入った時も、先生に列の場所聞きに行ってくれて……」

一年前の事で、完全に忘れていた。

そうだ、だから智絵里ちゃんがクラスメイトだったって事だけは覚えてたんだ。

それ以降は殆ど話す機会が無くて、そもそもクラスメイトでも李衣菜と美穂以外と交流する機会がほぼ無かったから忘れてたけど。

智絵里「……あの時は、緊張しちゃって全然お話出来なかったけど……とっても、嬉しかったんです」

P「嬉しかった……?」

智絵里「……最初の日に、優しい人に出会えて……」

P「優しい、か……そう言われると恥ずかしいし、申し訳ないな」

俺自身が覚えてなかった訳だし。

というか、割と当たり前の事をしただけな気もする。

智絵里「いえ……だから、嬉しいです。Pくんにとって……忘れちゃう様な、当たり前の事だとしたら……」

えへへ、と。

はにかみながら、言葉を続ける智絵里ちゃん。

智絵里「……それは……Pくんが、とっても優しい人だって事ですから」

P「……そうなのかなぁ」

俺が照れているのは、その言葉が擽ったいからか、それとも智絵里ちゃんの笑顔が眩しいからか。

それに、智絵里ちゃんがそう思うのは。

きっと、智絵里ちゃんがとても優しい子だからだろう。
36 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:34:38.35 ID:6XeH2JN0O


智絵里「……Pくんにとっては当たり前の事かもしれないけど……落としちゃったシャーペンを何も言わずに拾ってくれたり、ルーズリーフ分けてくれたり……そんな優しさが積み重なって……わたしは……」

好きに、なっちゃったんです。

そう、頬を赤く染めて呟いた。

こう、なんだろう……真正面からそんな事を言われた事が無かったからかな。

凄く照れるし、凄く嬉しい。

智絵里「……そんな優しさを……もっと、わたしに向けてくれたら嬉しいな……わたしに対してだけじゃなくっても、誰かに優しいPくんのことを……ずっと見つめていられたら嬉しいな、って……」

だから、と。

智絵里ちゃんは、言葉を続けた。

きっと今まで言えなかった、本当の気持ちを。

智絵里「……Pくん。わたしと……付き合って下さい」

ここで頷いても、首を横に振っても。

結局は、誰かを悲しませてしまうなら。

どうしても、これ以上。

まゆの辛そうな顔なんて、見たくないから。

俺も、俺の気持ちに正直に答えよう。

P「……ごめん、智絵里ちゃん。俺、他に好きな人がいるから」

智絵里「……まゆちゃんですか?」

P「……あぁ。だから……」

自分勝手な、酷い事だと分かっている。

それでも、俺は……

P「……俺は、智絵里ちゃんとは友達でいたい」
37 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/11(日) 19:35:25.12 ID:6XeH2JN0O


智絵里「そう、ですか……なら」

一瞬涙を零しそうになって。

それでも、堪えて。

智絵里「……優しくしてあげて下さいね?」

そう、言ってくれた。

P「……あぁ。ありがとう、智絵里ちゃん」

智絵里「……智絵里、って……そう呼んでくれたら、嬉しいな……」

P「智絵里」

智絵里「……はい」

P「……っ、ごめん……っ!」

智絵里「……ぅぁっ……っ、はい……っ」

真正面から向けられた好意を、真正面から断るのは。

こんなにも、苦しかったんだな。

どうせなら、こんな日にこそ。

雨が降ってくれていれば良かったのに。


38 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:33:17.43 ID:5QNT3VNwO

P「……お待たせ、まゆ」

まゆ「……お疲れ様です、Pさん」

校門前で待ってくれていたまゆと合流して、帰路に着く。

雲ひとつない青空に輝く太陽が、今は恨めしかった。

まゆ「……断ったんですか?」

P「あぁ」

まゆ「智絵里ちゃんは……きちんと、諦めてくれたんですか?」

P「……あぁ。これからも、友達で……」

ほんの数分前のやり取りを思い出して、また心が苦しくなる。

まゆ「……ごめんなさい……」

P「まゆが謝る事じゃない。断るって決めたのは俺なんだから」

まゆ「まゆは、Pさんに迷惑だけは掛けない様にって……そう、思ってたんです」

P「恋愛において、全く迷惑を掛けないっていうのは難しいんじゃないかな」

まゆ「みたいですねぇ……少し、想定が甘かったかもしれません」

P「ま、それは仕方ない事だと割り切るしか無いんじゃないか?」

まゆ「……難しいですねぇ」

P「難しいな」

それからは特に会話もなく、家に到着した。

P「ただいまー姉さん」

美穂「お帰りなさい、Pくん」

ん?文香姉さん髪切った?声変えた?

まゆ「あら。こんにちは、美穂ちゃん」

美穂「あれ?こんにちは、まゆちゃん」

文香「お帰りなさい、P君……いらっしゃいませ、佐久間さん」

P「どうしたんだ、美穂。何か俺に用事でもあった?」

美穂「えっと、昨日の福引で当てた温泉旅行のお話をしようと思って……」

あ、そういえばそんな物を当てた気がする。

一泊二日のペアチケット割引券が二枚。

そう、割引券だ。

まゆ「そんな素敵な物を当てたんですねぇ。Pさんは誰を誘うんですか?」

P「割引券なんだよ。半額とはいえ高校生にはなかなかな大金でさ」

美穂「売っちゃうのは勿体無いから、どうしようかなって」

P「日雇いのバイトでもするかなぁ……」

確かゴールデンウィークの土日だったから、まだ後半月はある。

不可能じゃ無いが、うーん……
39 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:33:44.55 ID:5QNT3VNwO


文香「温泉旅行、ですか……?」

P「あ、姉さんには話してなかったっけ」

昨日福引で、温泉旅行のペアチケットを二枚当てた事。

それが割引券で、どうしようか悩んでいる事を伝えてみた。

文香「なるほど……それで、行く方は既に決まっているんですか?」

P「俺は姉さんを誘おうと思ってたけど」

美穂「わたしは……あ、まゆちゃんはどうですか?」

まゆ「まゆですか?金銭面は多少は大丈夫ですけど……いいんですか?」

美穂「もちろんです!……とは言っても、わたしがお金が……」

文香「……でしたら、鷺沢古書店で働いてみませんか?」

P・美穂・まゆ「「「え?」」」

文香「実は、大学の友達の宮本さんにパリ旅行に誘われていたのですが……店を空ける訳にはいかず、断っていたんです」

P「え、姉さん友達いたの?!」

文香「……残念ながら、P君とは違うんです。ごほんっ、それでですが……」
40 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:34:14.29 ID:5QNT3VNwO


美穂「文香さんが居ない間に、わたし達が代わりに店番をするって事ですか?」

まゆ「まゆは元から、Pさんを看る為に来る予定でしたが……」

美穂「……え?」

文香「はい、お願い出来ますか……?来週の金曜日からその翌週の月曜日まで、計四日間になりますが」

P「えっと……金曜日が創立記念日で、土日挟んで昭和の日の振替で月曜も休みか」

文香「丁度三人とも、学校はお休みな筈です。P君がこの状態なので、出来ればお二人にお願いしたいのですが……」

美穂「でも、何をすればいいのか……」

文香「レジで本を読むお仕事です」

それで良いのか文香姉さん。

いや実際、文香姉さんも本並べる時以外いつも本読んでたけどさ。

文香「大まかな事は、それまでに伝えます。それで……如何でしょうか?バイト代は……そうですね、これくらいになります」

文香姉さんがメモ帳にパパッと算出する。

まゆ「……あらあらあらあら」

美穂「……えっ、こんなに貰っちゃって良いんですか?!」

文香「はい。ゴールデンウィーク前半という事で、その分の出勤手当も含みます」

P「……あれ、姉さん。俺は?」

文香「……自動販売機の下を漁ると、きっと小銭が手に入りますよ」

……しょうがない、最近使わなくなった音楽プレイヤーでも売るか。

文香「……まぁ、知り合いの仕事のお手伝い、程度の気持ちで大丈夫です。あとはそうですね……暇を持て余したP君とお喋りしてあげて下さい」

美穂「ま、任せて下さいっ!」

まゆ「完璧にこなしてみせますよぉ」


41 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:34:40.50 ID:5QNT3VNwO



P「大丈夫か?勢いで返事しちゃって」

美穂「はい!温泉旅行もアルバイトも、とっても楽しみです」

P「俺も頑張って出来る限り腕を治さないとな」

温泉旅行まで三週間弱あるし、ある程度は治っているだろう。

まゆ「さっきも言いましたけど、まゆは元々Pさんの家に通う予定でしたから」

美穂「あ、それについて聞こうと思っていたんですけど……どういう事ですか?」

P「まゆがさ、俺が片腕で不自由だからってその間色々サポートしてくれてるんだよ」

まゆ「といっても、食事を用意するくらいしか出来る事はありませんけどねぇ……」

美穂「……そうなんだ。優しいね、まゆちゃん」

まゆ「元はと言えば、まゆのせいですから」

P「まぁそれは兎も角として、来週からよろしくな?まぁそれまでに何回か、業務を教える為に来てもらう事になっちゃうかもしれないけど」

まゆ「古書店で働くなんて、なかなか貴重な経験ですねぇ」

美穂「不束者ですけど……その、よろしくお願いしますっ!」

P「おう。美穂とまゆがうちで働いてるって知ったら絶対李衣菜冷やかしに来るよな」

コンコン

部屋の扉がノックされた。

文香「お取り込み中すみません。佐久間さん、申し訳ありませんが……荷物が送られて来たので、運ぶのお願い出来ますか?」

まゆ「かしこまりましたよぉ」

美穂「あ、ならわたしも手伝います」

P「いいのか?」

美穂「はい、少しでも早くお仕事を覚えたいですから」

文香「……ふふっ。でしたら、美穂さんは私に着いて来て下さい。大まかな配置と値段をお教えしますので」

42 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:35:43.38 ID:5QNT3VNwO



美穂「それじゃ、また明日ね」

P「またな」

まゆ「ばいばい、美穂ちゃん」

一仕事終えて、美穂が帰って行った。

さて、夕飯でも作るか。

まゆ「Pさんは座って待っていて下さい。まゆが全部やりますから」

P「いや、流石に全部任せちゃうのは悪いから。出来る事は手伝うよ」

利き手は使えないが、食器を運ぶ事くらいなら出来る。

にしても……今朝も思ったけど、まゆ完璧に調理器具の位置把握してるんだな。

まゆ「大切な人の為にする事ですから。努力は惜しみません」

P「ところで、こう聞くとあれだけど土日は来るのか?」

まゆ「はい、もちろんですよぉ」

P「読モの仕事とかは?」

まゆ「オールキャンセルです。今後声を掛けて貰えなくなっても、別にもう構いませんから」

P「いやいやいや、流石にそれは悪いって」

まゆ「だってもう、続ける必要も無くなっちゃいましたから」

P「そうなのか……?それにしても、勿体無い気がするけどなぁ」

まゆ「……Pさんは、まゆに読モを続けて欲しいですか?」

P「無理にとは言わないさ。まゆがやりたいなら、続けた方が良いんじゃないかなってだけで」

まゆ「……前向きに検討しますよぉ」

そんな会話をしているうちに、夕飯が出来上がった。

文香「とても、美味しそうですね」

さて、左手の練習だ。

P「いただきます」

左手で箸を持つ。あ、これ無理なやつだ。

取り敢えずご飯を掬うが……めちゃくちゃ食べ辛い。

まゆ「まゆが食べさせてあげましょうか?」

P「いや、もう少し頑張ってみる」

お味噌汁の具材を掴む。掴めなかった。

こんにゃくは……あまりよろしくないが刺して食べよう。

木綿豆腐は……ん、案外食べやすい。大きくて軽い物はいけるな。

四苦八苦しながら左手だけで食事を終える頃には、かなり遅い時間になってしまった。
43 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:36:11.76 ID:5QNT3VNwO



P「悪いな、時間掛かって」

まゆ「いえ、大丈夫ですよぉ」

P「寮の門限もあるだろ、送ってくよ。片付けは後で俺がやっとくから」

文香「……いえ、片付けは私が済ませておきます。P君は、佐久間さんを送って来てあげて下さい」

まゆ「ありがとうございます、文香さん」

文香「美味しいお料理を振舞って下さったのですから……これくらいは、此方で済ませます」

P「それじゃ行って来る」

四月夜の風は寒い。

コート羽織ってくれば良かった。

まゆも制服で寒そうだ。

P「……手、冷えるな」

まゆ「ですねぇ」

P「手、繋ぐか?」

まゆ「ですねぇ」

P「……?」

まゆ「……あ、すみません。Pさん、今なんて言いましたか?」

P「手が冷えちゃうし、繋がないか?って」

まゆ「……夢じゃないですよね?」

P「いや現実だけど」

まゆ「夢でしたから」

これは夢だったのか。

だとしたら、誰の夢なんだろう。

まゆ「いえ、まゆの夢だったという事です」

P「手を繋ぐのが?」

まゆ「それを、Pさんの方から言ってもらうのが、です」

P「なるほど」

まゆ「はい」

……なんか、会話が脳死してるなぁ。
44 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:36:49.44 ID:5QNT3VNwO



P「……繋ぐぞ?」

まゆ「はい、喜んで」

手を繋ぐ。

まだ冷たいが、そのうち温かくなるだろう。

まゆ「……今日は、ありがとうございました」

P「こちらこそ、食事作ってくれて凄く助かるよ」

まゆ「いえ、そうではなくて……智絵里ちゃんの事です」

P「……あぁ」

まゆ「……苦しかったですよね?」

P「まぁな。でもそれ以上に、まゆの辛い顔を見たくなかったから」

まゆ「そう言って貰えると、とても嬉しいです」

P「……俺さ、まゆの笑顔が好きだから。出来れば、まゆにはずっと笑顔でいて欲しいんだ」

まゆ「ふふ、そうですか。今のまゆはどうですか?」

P「今は、可愛いよ」

まゆ「……前にも、その方が可愛いって……誰かさんに言って貰ったんです」

P「さっきまでは、なんだか悩んでる感じだったのにな」

まゆ「……そう、ですねぇ……」

P「何かあったら相談してくれよ?」

まゆ「……いえ、大丈夫です。これ以上Pさんに迷惑は掛けられませんから」

P「迷惑じゃないさ。俺がそうしたいってだけだから」

まゆ「……優しいですね、Pさんは」

P「優しい、か……」

あぁ、ダメだ。

智絵里の言葉を思い出してしまう。

まゆの前で、まゆを悩ませる様な顔にはなりたくないのに。

P「まぁ俺の身体の120%は優しさで構成されてるからな」

まゆ「優しさがはみ出してますよぉ」

ふふっ、と。

やっと、自然な微笑みが漏れた。

P「なら、まゆにお裾分けしないとな」

まゆ「ありがとうございます、Pさん」

気が付けば、寮の前まで着いていた。

楽しく会話をしているとあっという間だな。

P「それじゃまた明日な、まゆ」

まゆ「はい、また明日」

まゆと別れて、家まで走る。

夜の風は、来た時以上に冷たく感じた。


45 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:37:19.55 ID:5QNT3VNwO


李衣菜「え、美穂ちゃんとまゆちゃん、鷺沢古書店でバイトするの?!」

美穂「はい、四日間だけですけど頑張ります!」

翌日、学校で美穂が昨日の事を李衣菜に話していた。

李衣菜「へー……あのお店ってお客さん来るっけ?」

P「分かんない……」

李衣菜「冷やかしに行ってあげよっか?」

P「うちは冷やかしはお断りだよ」

まゆ「ドレスコードも設けますかぁ?」

P「ドレスコードのある古書店ってなんか凄いな」

李衣菜「来週の金曜日からだっけ?」

美穂「はい、それまでに何回か行って色々と教えて貰いますけど」

李衣菜「文香さんみたいにエプロン着けるの?」

美穂「その予定ですけど……」

うちの店の制服、メイド服って事にならないかな。

ならないだろうな。

まゆ「エプロン姿で悩殺しちゃいますよぉ」

P「まゆのエプロン姿は昨日一昨日とずっと見てるけどな」

李衣菜「え?同棲してるの?」

P「今朝も同伴出勤だぞ」

美穂「同伴通学ですよね?」

李衣菜「お客さん相手にちゃんと接客出来る?まゆちゃんは余裕そうだけど、美穂ちゃん恥ずかしがっちゃわない?」

美穂「……か、完璧です!……多分……」

P「ま、何とかなるよ。困った時は俺も側に居るし大丈夫だろ」
46 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:37:55.52 ID:5QNT3VNwO


ガラガラ

教室の扉が開いて、智絵里が入って来た。

P「……おはよう智絵里」

智絵里「……あ……えへへ。おはようございます、Pくん」

P「……あぁ。おはよう、智絵里」

智絵里「はい……おはようございますっ!」

あぁ、本当に良かった。

智絵里が、前までと同じ様に接してくれて。

まゆ「……ふぅ」

美穂「どうしたんですか?まゆちゃん」

まゆ「いえ、何でもありませんよぉ」

ガラガラ

再び教室の扉が開いて、今度は加蓮が入って来た。

P「おはよう、加蓮」

加蓮「……あ……おはよ、鷺沢」

めっちゃ元気無いなこいつ。

変なもんでも拾って食ったんだろうか。

P「大丈夫か?」

加蓮「ダメ、無理。夜更かしし過ぎて眠気ヤバいんだけど」

P「寝ろ。日付変わる前に就寝を心掛けろ」

加蓮「でも深夜のテレビとかラジオって楽しいじゃん?」

P「それは分かる。よく分かんない通販番組とかついつい見ちゃうよな」

加蓮「え、ごめんそれは分かんない。ううん、よく分かんない」

智絵里「え、えっと……わたしは分かります。ついつい見続けて、必要無い高圧水洗浄機とか欲しくなっちゃったりしますよね……?」
47 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/02/13(火) 19:38:22.37 ID:5QNT3VNwO



P「どうだ加蓮。二対一で俺達の勝ちだぞ」

加蓮「ふん、智絵里がそっちに着いたところで大して戦力差は変わらないし」

智絵里「元から絶望的に……加蓮ちゃんの方が、負けてましたからね」

加蓮「は?」

智絵里「……何か、反論でもあるんですか……?」

加蓮「高圧的だね。高圧水洗浄機だね」

加蓮と智絵里、仲良いな。

まゆ「下らない事で言い合ってないで、加蓮ちゃんは早く席に戻ったらどうですかぁ?」

加蓮「まゆはどっちの味方なの?」

まゆ「Pさんの味方ですよぉ」

智絵里「高圧水洗浄機派閥が三人になりました……!」

まゆ「いえ、高圧水洗浄機はどうでもいいんですが……」

ガラガラ

三度教室の扉が開いて、千川先生が入って来た。

ちひろ「うるさいですよ、鷺沢君」

何故か俺だけ怒られた。

世界は理不尽に満ちている。

加蓮「早く席に戻りなよ」

P「ここ俺の席だから」

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/15(木) 15:45:30.88 ID:263NykZy0
李衣菜ルートは流石にあるんだろうけどふみふみ隠しルートはあるのだろうか
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