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ギャルゲーMasque:Rade 智絵里√
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1 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:34:24.83 ID:Zw2GoZ6SO
これはモバマスssです
ギャルゲーMasque:Rade 加蓮√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514899399/
ギャルゲーMasque:Rade 美穂√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516469052/
の別√となっております
共通部分(加蓮√81レス目まで)は上記の方で読んで頂ければと思います
また、今回は智絵里√なので分岐での選択肢で1を選んだという体で投稿させて頂きます
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1517466864
2 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:35:35.20 ID:Zw2GoZ6SO
P「ってそうじゃなくて、金曜の事なんだけどさ……」
加蓮「……あれ、鷺沢の事だからもっとはぐらかそうとすると思ってたんだけど」
P「はぐらかして良い事だったのか?」
加蓮「まさか、このまま言い出してくれなかったらポイント失効どころか会員永年追放だったよ」
危ないところだった。
そして。
北条はけらけらと笑いながら言ってはいるが。
それは、つまり……
加蓮「……何?もう一回キスして欲しいの?」
P「……いや、やけに明るいなぁって」
加蓮「アンタの性格は分かりやすいからね」
P「自分じゃどうか分からんけど、そうなのか?」
加蓮「どうせ『あいつさては俺に気が……いや待てよ? ドッキリの可能性やその場の雰囲気に流さてた場合も考慮すべきだ……取り敢えず次会った時確認しよ』って考えだったんでしょ?」
お見事過ぎて何も言い返せない。
加蓮「……はぁ。それに……ふーん、へー……」
P「なんだ、日本語で話さないと伝わらないぞ」
加蓮「だよね、言葉にしないと伝わらないよね」
……こいつ、どこまで分かってるんだ?
加蓮「まぁいいけど。放課後は時間ある?」
P「あ、悪い……放課後は予定が入っちゃってるんだ」
加蓮「誰?」
気温が一瞬にして0を下回った気がする。
おかしい、さっきまで楽しく談笑出来ていた筈なのに。
いきなり異世界あたりにワープしたりしてないだろうか。
GPS情報を確認しても、別にここはシベリアになっていたりはしなかった。
加蓮「……ねぇ、誰?」
P「……ヒ・ミ・ツ!」
加蓮「は?」
P「ちえ……緒方さんです」
震えてなんていない。
もし震えていたとしたら、それは寒いせいだ。
加蓮「……ふーん、何?また告白の練習に付き合ってとか言われたの?」
P「いや、単純に来れたら来てって言われただけだけどさ」
加蓮「そ。なら断っても問題ないよね」
……いや、その理論はどうなんだろう。
文的には間違ってないが人間的に色々とアレな気がする。
キーン、コーン、カーン、コーン
加蓮「……続きは教室で話そっか」
P「俺知ってるぞ、俺だけ千川先生に怒られるやつだ」
3 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:36:03.54 ID:Zw2GoZ6SO
教室に俺と北条が遅刻して入る。
一斉に向けられる大量の視線が痛い。
特に、まゆと美穂。
なんでお前北条と登校してるの?的なオーラを感じる。
ちひろ「まったく鷺沢君……二年生になって気がたるんでるんじゃないですか?」
P「気は張り詰めてるつもりなんですけどね……」
当然北条はお咎めなし、と。
さっさと窓側の席に座って俺をニヤニヤと眺めてやがる。
俺はと言えばこの後美穂とまゆと智絵里ちゃんに囲まれなきゃいけないっていうのに。
智絵里「……Pくん……その、ライン……見てくれましたか……?」
P「ん、あー……後ででいいか?」
智絵里「……はい…………」
まゆ「智絵里ちゃん、Pさんと仲良しさんですね」
美穂「ふふ、仲が良いのは素敵な事だと思います」
この教室、外より気圧が高過ぎないだろうか。
肩と心にかかる重圧にプレスされそうだ。
ちひろ「特に連絡事項はありません。夕方は雨らしいので、傘を忘れた子は事務室で借りられますから利用して下さいね」
HRが終わり、千川先生が教室を出て行く。
それと同時、北条が俺の席まで来た。
加蓮「さて、鷺沢。私と一緒に一時間目サボってみたりしない?」
P「流石にそれは遠慮させて貰おうかな」
美穂「えっと……貴女は……?」
まゆ「彼女は北条加蓮ちゃんです。先週のPさんの用事の原因ですよぉ」
加蓮「……ん、アンタは確か……」
まゆ「佐久間まゆ、です。まゆは加蓮ちゃんの事をよく知っていますから、自己紹介は結構です」
加蓮「アンタの趣味が覗き見なのは知ってるよ」
まゆ「それはお互い様なんじゃないですか?」
……逃げ出したい。
胃が痛くなって来た気がする。
保健室でサボタージュ、悪くないんじゃないだろうか。
美穂「えっと……加蓮ちゃんとまゆちゃんは知り合いだったんですか?」
加蓮「先週の金曜日に偶々会っただけ」
まゆ「偶々、ですか……ふふっ」
加蓮「ところで鷺沢。私が保健室に行きたいのは本当なんだけど、付き添ってくれない?」
P「ん、それなら構わないけど」
まゆ「でしたらまゆがお付き合いしましょうか?」
加蓮「体調が悪化しそうだから遠慮しとこうかな」
4 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:36:48.22 ID:Zw2GoZ6SO
北条と一緒に教室から出て……
P「……ふぅー……はぁー……酸素が美味しい」
思いっきり息を吸い込んだ。
加蓮「おすすめの酸素マスク教えよっか?」
P「酸素マスクが必要にならない状況の作り方を教えてほしいよ」
加蓮「簡単じゃん。私と付き合えば良いだけ」
P「わぁすごい、インスタントラーメンよりお手軽!」
……なわけないだろ。
普段滅多にインスタントラーメン作らないけど。
P「そういや、まだ結局体調悪かったのか?」
加蓮「治ってはいるんだけどね。マスク忘れちゃったから、保健室で貰っとこうかなって」
P「大変だよなぁ、身体弱いって」
加蓮「なにそれ他人事みたいに」
P「他人事だからな。俺はバカだから、風邪ひいても気付かないんだよ」
保健室に着き、北条はマスクを持って出て来た。
サボっちゃおっかなーと言っていたが、流石にそれは止める。
加蓮「……で、放課後の話。屋上行くの?」
1.P「まぁ、その予定だけど……」
2.P「あぁ、先約だからな」
5 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:37:20.97 ID:Zw2GoZ6SO
今回は智絵里√なのでここの選択肢は2を選んだという体で進めさせて頂きます
6 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:38:34.62 ID:Zw2GoZ6SO
P「あぁ、先約だからな」
加蓮「……ま、そういう奴だよね。鷺沢は」
P「ん、あっさり引き下がるな」
加蓮「寧ろ約束を破ろうとしたら逆に見損なってたかも」
P「破らせようとしてたのはどこのどいつだよ」
まぁ、まだきちんと約束をしている訳じゃないが。
加蓮「でも……そうだね、うん。もし、その後時間が作れそうなら……その後でいいから、鷺沢と遊びに行きたいな」
P「そんなに時間が掛かるとは思えないけど」
加蓮「掛かるよ、絶対……まぁ、鷺沢次第だけど」
俺は果たして事故にでも会うのだろうか。
そう言えば、夕方は雨と千川先生が言っていたな。
P「まぁ、行けるよう心掛けるよ」
加蓮「うん、よろしい……それじゃ、教室戻ろっか」
P「帰ったらあいつらから色々言われるんだろうな」
加蓮「それは鷺沢がなんとかするべき問題でしょ」
P「まったくもってその通りだ、返す言葉もない」
二人並んで、階段を登る。
美穂「おかえりなさい」
まゆ「Pさん」
素敵な笑顔のお出迎えが待っていた。
7 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:39:14.92 ID:Zw2GoZ6SO
帰りのHRが終わった後、さっさと荷物を持って屋上へ上がる。
あの金曜日と同じ様に、空は今にも降り出しそうだった。
智絵里「あ……Pくん。来てくれて、ありがとうございます」
咲くような笑顔で駆け寄ってくる智絵里ちゃん。
相変わらず儚くも可憐なその姿に、俺はまた目を奪われた。
P「構わないよ。それで智絵里ちゃん、今日も練習?」
智絵里「……今日は、その……あの時言えなかった言葉を……」
あの時、それはきっと先週の金曜日の事だろう。
智絵里「それを、えっと……練習じゃなくって……」
P「……練習じゃない?」
それはつまり、本番と言う事で。
……想い人に告白するのを見守って欲しい、と言う事だろうか。
ちょっと酷過ぎませんかね智絵里ちゃん。
P「うまく立ち会えるかな……」
もし相手がクズ男だったら、一発くらい殴っても許されるだろう。
智絵里「……あの、それで……えっと……」
P「それで、その智絵里ちゃんが告白する相手っていうのはいつくるの?」
智絵里「一分くらい前に……」
時間軸に囚われない系男子か、殴るのに苦労しそうだ。
智絵里「……此処に、来てます……」
なるほど、バカには見えない男子か。
……いやいやいや、幾ら何でもあり得ないだろう。
だとすると……
智絵里「……Pくん。わたしが告白するのは……Pくん、です……っ!」
8 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:40:19.00 ID:Zw2GoZ6SO
いつの間にか俺はタイムトラベラーで透明人間になっていたようだ。
なんて、流石にふざけていられない。
いくら察しの悪い俺でも、もう理解している。
こんなにも真剣な表情で見つめられて、気付けない訳がない。
智絵里「Pくん……!わたし、貴方の事が好きです……っ!!」
屋上に智絵里ちゃんの言葉が響く。
彼女は精一杯の声で、想いを打ち明ける。
智絵里「練習なんかじゃないです……ずっと……入学式のあの日からずっと……!Pくんの事が好きでした!授業中に先生の話を聞かずに本を読んでる、そんな横顔も。体育の時に女の子にカッコ良い所を見せようとして転んじゃう、そんな姿も……わたしは、大好きなんです……!」
その言葉は、あの時の同じ。
けれど今は練習なんかじゃなくて、智絵里ちゃんにとっての本心で。
智絵里「貴方は、相手が誰でも優しく分け隔てなく仲良くしてくれる人で、大きな優しさで包み込んでくれる様な人で……こんなわたしにも、声を掛けてくれて。とっても、嬉しかったです……!」
ポツリと、屋上に雨粒が落ちてくる。
それでも目の前の女の子は、言葉を止めない。
智絵里「一緒にご飯食べて……一緒に遊園地で遊んで……名前で呼んでくれて……一緒に、二人で学校から帰って……わたし、とっても幸せでした……っ!これからも、ずっと。一緒に……わたしと一緒にいて欲しくって!だからっ!!」
雨粒はどんどん大きくなる。彼女の顔は雨に濡れていた。
もしかしたら、涙が混じっているのかもしれない。
なのに、こんなに頑張って。想いを、言葉を届けてくれている。
智絵里「……Pくん!わたしと……わたしと!付き合って下さい……っ!」
智絵里ちゃんの言葉が、全てを伝え切った。
きっと、凄く勇気が必要だっただろう。
自分の想いを伝えるのは、とんでもなく難しいから。
そして、俺は。
俺の気持ちは……
1.P「……ありがとう、智絵里ちゃん」
2.P「……ごめん」
9 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:40:44.71 ID:Zw2GoZ6SO
今回は智絵里√なのでここの選択肢は1を選んだという体で進めさせて頂きます
10 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:41:45.59 ID:Zw2GoZ6SO
P「……ありがとう、智絵里ちゃん」
智絵里「……そっ、それって……っ!!」
智絵里ちゃんの顔が、パァァァッと明るくなる。
え、あー……ええっと。
ありがとう、気持ちは嬉しいよ。でもすぐにお返事する事は出来ないんだ。
って、そう言おうと思ってたんだが……
智絵里「ふ、ふつつか者ですが……よ、よろしくお願いします……っ!」
P「あ、あぇ……ええっと……ち、智絵里ちゃん」
智絵里「はっ、はいっ?!な……なんですか……?」
P「その、だな……」
智絵里「Pくんのお願いなら……わ、わたしは……何でも……」
P「まじでっ?!」
いやそうじゃない、そうじゃないだろ俺。
智絵里「Pくんの事……ずっと、ずっと好きでしたから……」
P「えっっと…………」
智絵里「やっと、結ばれる事が出来て……でも、もっと強く結ばれたいですから……」
P「…………」
……言い出し辛い。
でも、多分今言わないとより智絵里ちゃんを傷付けてしまうから。
P「……智絵里ちゃん。ほんっとごめん、俺を殴りながら聞いてくれ」
智絵里「……殴って、欲しいんですか……?」
一瞬ドン引きした様な目で俺を見てくる智絵里ちゃん。
俺にそんな趣味は無い、本当に。
11 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:42:46.62 ID:Zw2GoZ6SO
P「今のありがとは、そういう意味じゃなくてだな……」
誤解を招くような受け答えをして本当に申し訳なかった。
心をすり減らしながら、今の言葉の意味をきちんと伝える。
まゆと、美穂と、加蓮。
三人の女子からも、返事を求められているという事。
未だに、心が決まらず誰にも返事を返せていないという事。
だから、すぐにはお返事を出来ないという事。
智絵里「……そ、そう……だよね……わたしが告白したところで、すぐに頷いて貰える訳ないよね……うぁぅぅぅぅ………っ」
P「ほんっとうにごめん!俺が馬鹿だった」
涙を流しながら俯く智絵里ちゃん。
完全に此方に非がある為、心から申し訳なくなる。
P「そ、それで……お詫びと言うにはなんだけど、この後良かったら遊びに行かないか?」
何かを奢って済ませるつもりじゃないけど、何もしない訳にもいかない。
智絵里「……だ、だったら……えっと、Pくんのお家に……」
P「俺んち?前も来た事あるだろうけど、ほんと本しかないぞ」
ほんと本って、めっちゃ本がありそうだな。
実際大量に本あるけど。
P「……ん」
そういえば北条が、時間あったら遊びに行きたいって言ってたな。
P「とりあえず校舎内入るか。雨どんどん強くなってきてるし」
智絵里「そ、そうですね……」
教室に戻ると、誰も残っていなかった。
……まぁ、もう雨降ってるし帰ったんだろうな。
北条に『悪い、また今度遊ぼうぜ』とラインを送って、下駄箱で靴を履き替えて。
12 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:43:23.90 ID:Zw2GoZ6SO
智絵里「……あ……え、えっと……わたし、傘忘れちゃった……」
P「ん、なら俺折り畳みも持ってるから。はい」
鞄から折り畳み傘を取り出して、智絵里ちゃんに渡す。
デキる男は常に二本傘を持ち歩くのだ。
智絵里「……け、結構です……」
P「なんでさ」
その場で返却された。
折り畳み傘は宗教上の理由で使えない、とかだろうか。
智絵里「い、一本あれば……じゅ、充分だと思いませんか……?」
P「……あっ」
そういう事か。
……まぁ、いいか。
P「それじゃ、はい。入って入って」
智絵里「……は、はいっ」
智絵里ちゃんが、俺の差した傘に入ってくる。
かなり肩の距離が近くなるが、そんな事よりも濡れてしまう方が大変だ。
智絵里「……あ、相合傘……ですね……」
P「……だな」
意識しない様にしてたのに。
なんて話しながら校門を抜ける。
P「……なあ、智絵里ちゃん」
智絵里「な、なんですか……?」
P「……いや、なんでもない」
色々と聞きたい事はあったが、まぁそれは家に着いてからでいいだろう。
どのみち、もう少しで俺の家に着くんだから。
13 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:44:02.20 ID:Zw2GoZ6SO
そして、家の前の横断歩道を渡ろうとした時だった。
P「……っ!っぶなっ!」
智絵里「きゃっ!!」
反対側から走ってきた自転車が、智絵里ちゃんの方に突っ込もうとしいた。
傘差し運転で此方の姿が見えてなかったんだろう。
ギリギリのところで傘を放り投げ、智絵里ちゃんを抱き寄せる。
なんとか正面衝突は避けたが、真横を通り過ぎて行ったタイヤが水溜りで水飛沫を吹き上げた。
P「大丈夫か?智絵里っ!!」
智絵里「はっ、はい……」
智絵里ちゃんの制服は、水でビチャビチャになってしまっていた。
俺もズボンやられたし……
P「ったく……まぁ良かったよ、怪我だけはしなくて」
智絵里「……あ、ありがとう……ございます……」
びっくりして、まだ俺の制服を強く掴んでいる智絵里ちゃん。
今のはかなり怖いよな……ぶつかったら怪我じゃ済まなかっただろうし。
智絵里「……い、今……智絵里、って……」
P「んあ、済まん。焦ってつい」
智絵里「い、いえ……えっと、呼び捨ての方が……嬉しいかなって……」
P「そう?なら、そう呼ばせて貰うよ」
14 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:44:32.65 ID:Zw2GoZ6SO
ようやく、家に着いた。
さて……智絵里の服をなんとかしないと。
P「ただいまー姉さん」
文香「おかえりなさい……あら?」
智絵里「お、お邪魔します……」
P「姉さん、智絵里に服貸してあげてくれないか?」
文香「構いません。少し、サイズが合わないかもしれませんが……」
文香姉さんが、服を取りに行ってくれた。
智絵里「……えっ?あ、あの……」
P「濡れたままだと風邪ひいちゃうだろ。あ、シャワーも浴びるか?」
智絵里「え、えっと……いいですか?」
P「もちろん。制服も姉さんに頼んで乾かしといて貰おう」
智絵里「……色々と、ありがとうございます……」
文香「……着替えとバスタオルは、洗面所に置いてあります」
P「それじゃ、俺部屋に居るから。風呂場の場所は……姉さん、お願い出来る?」
文香「はい……では、緒方さん。此方です」
智絵里「はっ、はい……っ!」
智絵里が、文香姉さんに連れられて風呂場の方へ向かった。
その間に俺は着替えて部屋を片す。
見られて困る物は特に無いが。
正確には、見える場所には無い、だが。
ラインを開いて、誰かから連絡が来てないか確認する。
誰からも来てなかった、寂しい。
北条へ送ったラインは、既読だけが付いて返信は無かった。
15 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:45:05.59 ID:Zw2GoZ6SO
P「……明日、ちゃんと謝るか」
コンコン
部屋の扉がノックされた。
P「ん、どーぞー」
智絵里「お、お風呂……あがりました……」
文香姉さんのセーターとスカートを身に纏った智絵里が、部屋へ入って来た。
風呂上がりで上気していて、尚且つサイズが合わず胸元が開いているのが……ごほんっ!
……髪下ろしてるの、めちゃくちゃ可愛いな。
P「……ま、まぁ座布団どうぞ」
智絵里「……あ、ありがとうございます」
……会話が、続かない。
何を話せばいいんだろう。
良い天気ですね?雨降ってるわ。
雨は好きだけど。好きだけどそうじゃないだろう。
P「そういえば、本当に俺の家で良かったのか?」
智絵里「はい……わたしが、来たかったので……」
P「まぁ確かにこの雨じゃ行ける場所は限られてるけど……」
智絵里「Pくんと……その……二人っきりで、お話したくて……」
そう言われるとなんだか恥ずかしいな。
そして今、何を話せばいいのか分からないナウ。
16 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:45:40.25 ID:Zw2GoZ6SO
P「……あ、そうだ。すっごく失礼な事聞いていい?」
智絵里「……え?そ、それは……内容によりますけど……」
P「それと、多分謝らなきゃいけないんだけど……その、告白の時にさ」
智絵里「え、あ……」
超デリケートな話題だけど。
それでも、とても気になっていたから。
P「……入学式の日から、って言ってたけど……俺、何か目立つような事したっけ?」
入学式の日に、誰かを助ける様な事をした覚えがない。
テロリストが襲って来てそれをカッコよく倒す妄想ならした事はあるが、それが現実になった覚えもないし。
智絵里「……覚えて、無いんですね……」
P「……すまん。正直、めっちゃ女子多いじゃん肩身狭って感じたくらいしか……」
あの時は本当に李衣菜しか友達いなかったしな。
智絵里「……そっか」
P「ごめん……」
智絵里「いえ……それを聞けて、ちょっと嬉しいです……」
なんでだ?
俺、失礼どころか失望されかねない事を言ってる気がするけど。
17 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:46:08.69 ID:Zw2GoZ6SO
智絵里「……あの日、わたしもとっても不安で……誰とも仲良くなれなかったらどうしよう、って……」
P「分かる。それは俺もだわ」
智絵里「緊張しちゃって、なかなか学校に行けなくて……そしたら、遅刻しちゃったんです……」
入学式、高校生活初日に遅刻は心が折れるよな……
智絵里「それで……教室が何処か分からなくって、先生を探しても見つからなくて……きっと、見つけても話し掛けられなかったと思うけど……」
P「入学式だからなぁ、先生達ほぼ全員体育館にいたと思う」
智絵里「やっと教室に着いた時には、もう誰も居なくって……」
P「……っあー!!」
智絵里「……はい、その時でした。Pくんが、『どうしたんだ?早く体育館行こうぜ』って……」
そうだ、あの日俺は教室の居心地が悪くてトイレ行ってて。
その間にクラスメイト全員が体育館に移動しちゃってて、教室戻ったら殆どみんな居なくなってたんだ。
そして、教室で一人あたふたしてる女の子を見かけて……
智絵里「Pくんが、案内してくれたんです……遅れて体育館に入った時も、先生に列の場所聞きに行ってくれて……」
一年前の事で、完全に忘れていた。
そうだ、だから智絵里がクラスメイトだったって事だけは覚えてたんだ。
それ以降は殆ど話す機会が無くて、そもそもクラスメイトでも李衣菜と美穂以外と交流する機会がほぼ無かったから忘れてたけど。
18 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:46:34.21 ID:Zw2GoZ6SO
智絵里「……あの時は、緊張しちゃって全然お話出来なかったけど……とっても、嬉しかったんです」
P「嬉しかった……?」
智絵里「……最初の日に、優しい人に出会えて……」
P「優しい、か……そう言われると恥ずかしいし、申し訳ないな」
俺自身が覚えてなかった訳だし。
というか、割と当たり前の事をしただけな気もする。
智絵里「いえ……だから、嬉しいです。Pくんにとって……忘れちゃう様な、当たり前の事だとしたら……」
えへへ、と。
はにかみながら、言葉を続ける智絵里。
智絵里「……それは……Pくんが、とっても優しい人だって事ですから」
P「……そうなのかなぁ」
俺が照れているのは、その言葉が擽ったいからか、それとも智絵里の笑顔が眩しいからか。
それに、智絵里がそう思うのは。
きっと、智絵里がとても優しい子だからだろう。
智絵里「……Pくんにとっては当たり前の事かもしれないけど……落としちゃったシャーペンを何も言わずに拾ってくれたり、ルーズリーフ分けてくれたり……そんな優しさが積み重なって……わたしは……」
好きに、なっちゃったんです。
そう、頬を赤く染めて呟いた。
こう、なんだろう……真正面からそんな事を言われた事が無かったからかな。
凄く照れるし、凄く嬉しい。
19 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:47:02.96 ID:Zw2GoZ6SO
智絵里「今日も、自転車にぶつかりそうになっちゃった時……Pくんが助けてくれて……」
P「そりゃ、危なかったからな」
智絵里「……Pくんの、そんな優しさを……そんな眩しさを。もっと近くで、もっと側で見てたくて……」
P「えっと……あ、ありがとう」
智絵里「……そんな優しさを……もっと、わたしに向けてくれたら嬉しいな……わたしに対してだけじゃなくっても、誰かに優しいPくんのことを……ずっと見つめていられたら嬉しいな、って……」
そんなストレートな智絵里の言葉が。
とても、嬉しく感じて。
そんな優しい智絵里の言葉に。
俺は、本気で……惚れたんだと思う。
智絵里「だから、自信は無かったけど……思い切って、踏み出してみたんです……」
P「……なぁ、智絵里」
智絵里「……はい、なんでしょうか……?」
P「……その、俺さ。もしかしたら、智絵里が思ってる程優しい人じゃないかもしれないけど……」
智絵里「……そんな事はありません。そう思ってるんだとしたら……きっと、自分では気付いてないだけだと思います」
P「……だとしたら、さ」
智絵里「……だとしたら……?」
20 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:47:30.48 ID:Zw2GoZ6SO
P「これから、もっと。智絵里が教えてくれないか?」
智絵里「………………え?」
キョトンとした表情で、首を傾げる智絵里。
P「……だから、智絵里にさ。側に居て欲しい」
智絵里「……そ、それは……えっと……!」
P「……うん、まぁ……そういう事って言うか……えっと、そうだな……」
大きく息を吸い込んで。
思った事を、想いを、思うままに口にしようとして。
P「智絵里に、これからも……こう、なんだ……」
心をそのまま言葉にするのは、思った以上に難しくて。
こんな思いを、智絵里はしてきたんだな……
……だとしたら、尚更。
俺ももっと、勇気を出さないと。
P「……俺、智絵里の事が好きだ。だから……俺と、付き合ってくれないか?」
智絵里「……っ!はい……っ!」
智絵里は、首を縦に振ってくれた。
それだけで、一気に気持ちが楽になる。
21 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:48:00.18 ID:Zw2GoZ6SO
P「っふぅぅぅぅ……緊張したー……」
智絵里「……あの、Pくん」
なんだ?と。
そう、聞き返そうとした俺の唇は。
智絵里「んっ……」
抱き着いてきた智絵里の唇に塞がれた。
しばらくそのまま、抱き着かれたままで。
ようやく離れる頃には、お互いに顔が真っ赤になっていた。
智絵里「……え、ええええっと………っ!!!」
P「……せ、積極的だな……」
智絵里「……え……い、嫌でしたか…………?」
泣きそうな目でこちらを見るな。めっちゃ可愛い。
嬉しいに決まってるだろ。
P「あー、えっと……すげー嬉しい」
智絵里「……よ、良かった……です……っ!」
そんな智絵里の目からは。
ボロボロと、涙が溢れ落ちていた。
P「だ、大丈夫か?えっと……本当に嬉しいからな?冗談とかじゃなくて……!」
智絵里「……ぅうぅっ!ち、違うんです……っ!か、勝手に……涙が……っ!ぅぁぁぁぁあぅっ!」
智絵里ちゃんが、再び強く抱き着いてくる。
俺も応える様に背中に手を回すと、細過ぎて今にも折れてしまいそうな身体は震えていた。
22 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:48:54.76 ID:Zw2GoZ6SO
智絵里「うっ、嬉しいんですっ!嬉しくって……でも……ずっと、不安だったから……っ!悔しかったから……っ!わたしは、弱いから……っ!練習なんて言葉で、自分の想いを誤魔化して……そんなわたしを、許せなくて……っ!」
あの時から、練習という体で屋上でやりとりした時から、ずっと。
智絵里は、そんな想いをしていたのか。
智絵里「だからっ!やっと……やっと!あの日から言えなかった想いを言えて……Pくんに言えて!受け止めてくれてっ!ぅぁぁぁっ!!」
P「……ありがとう、智絵里。そんな想いを俺に向けてくれて……言葉で、伝えてくれて」
智絵里「わっ、わたしこそ……っ!ありがとう、Pくんっ!わ、わたし……ずっと、弱虫で……っ!いつも、すぐ泣いちゃってたけど……今は、嬉しくて泣いてて……っ!っうぁぁっ!ほんとにっ、良かった……っ!」
震える智絵里の身体を抱き締めて、背中をさする。
しばらくの間、智絵里は肩を震わせて。
ようやく少しずつ、智絵里は落ち着きを取り戻してきた。
智絵里「……ごめん、なさい……迷惑かけちゃって……」
P「迷惑なんかじゃないさ。俺としても、頼って貰えて嬉しいよ。それって信頼されてるって事だろ?」
智絵里「……えへへ……や、やっぱり……優しいですね」
P「……そう言って貰えて嬉しいな。これからも、もっと言って貰える様に頑張らないと」
智絵里「……あ、あの……Pくん」
P「なんだ?」
智絵里「その…………もう一回……今度は、Pくんから……き、キス…………して、欲しいです」
……うおおおおおおっ!
顔を真っ赤にして上目遣いに見つめてくる智絵里が、可愛過ぎて叫びそうになった。
P「もっ、もちろん!」
声が裏返った。
いや、嬉しいんだけど。
自分からキスをするのは、とんでもなく緊張する。
23 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:49:20.88 ID:Zw2GoZ6SO
P「……す、するぞ……?」
智絵里「……ふぁ、ふぁゃいっ!」
噛んだ……可愛いなぁ、ほんと。
少しずつ、少しずつ顔の距離を近づけて。
智絵里「んっ……」
ちゅ、っと。
唇が重なるだけの、優しいキスをした。
智絵里「…………ぁ、ありがとう……ございます……」
P「……お、おう……」
……恥っずかしいな、うん。
でも、それ以上に。
なんだか、心が温かかった。
智絵里「……こ、これからも……その……もっと、して貰える様に……わたし、頑張ります」
P「お、俺も頑張るから」
智絵里「……よ、よろしくお願いします」
P「こちらこそ、よろしくお願いします」
……なんだ?この会話。
付き合いたてのカップルかよ。
付き合いたてのカップルだったわ。
智絵里「……えへへ……えっと……幸せ、です……」
P「……あぁ、俺もだ」
そんな感じで、そんな風に。
幸せな時間を楽しんで。
幸せ過ぎたからこそ頭から抜け落ちていた事を、今になって思い出した。
他の三人の想いを、きちんと断らなければいけないという事を。
P「……本当に、頑張らないとな」
全てを話して、諦めて貰わなければならない。
それはきっと、俺以上に彼女達の方が辛い想いをする事で。
それを分かった上で、俺も話さないといけない。
智絵里「……Pくん」
P「ん?」
智絵里「わたしは……その……何があっても、Pくんを応援しますから」
P「……あぁ、ありがとう」
そうだ。
だからと言って、俺は気持ちに嘘を吐きたくないから。
智絵里を裏切りたくないから。
みんなに、ちゃんと伝えよう。
俺は、智絵里の事が好きなんだ、って。
24 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:49:46.25 ID:Zw2GoZ6SO
智絵里「お邪魔しました……」
文香「はい……また、いらして下さいね」
夜、智絵里を家まで送る為に俺も家を出た。
四月の夜風は冷たく、暖房の効いた部屋との落差に手が痛くなる。
けれど、そんな夜風なんてどこ吹く風。
P「……その、なんだ……改めて、これからもよろしくな」
智絵里「……は、はい……っ!」
二人きりで並んで歩いた距離はまだほんの数歩分だというのに、もう心は温かくなっていた。
ふいに、小指に何かが触れた。
ちょん、ちょんと断続的に、その感覚は訪れる。
ん?と思って其方に視線をやると、その感覚の正体は智絵里の指で。
片手で口元をもじもじとしながら、もう一方の手を俺の手に伸ばしていて。
P「…………」
そんないじらしい仕草が、ヤバイほどに可愛い。
だからこそ、少し意地悪してみたくなる。
P「……ん?どうした、智絵里」
敢えて気付かない振りをしてみたり。
両手をぐぐっと上に伸ばして、身体を伸ばしつつ手と手の距離を広げる。
25 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:50:14.21 ID:Zw2GoZ6SO
智絵里「……あっ……え、えっと……」
P「ん?」
智絵里「……そ、その……っ!手が……冷たいな、って……」
P「……」
言葉の後半は尻すぼみに、夜風に流れて消えていった。
言い出せずにシュンとしてしまう、そんなころころと変わる智絵里の表情が可愛い過ぎて。
P「……手、繋ぐか?」
耐えきれず、結局俺から言い出してしまった。
智絵里「……はい……っ!」
智絵里の手に指を絡める様に繋ぐ。
俗に言う恋人繋ぎは、お互いの体温以上に熱くて火傷しそうだった。
智絵里「……えへへ……」
顔を赤く染めつつも、微笑む智絵里。
本当に、よく表情の変わる女の子だ。
智絵里「……Pくん。えっと……絶対、離さないで下さいね……?」
P「いや、智絵里の家に着いたら流石に離すぞ?」
智絵里「……っうぅ……」
P「ごめんごめんごめん冗談だから!」
意地悪はやめておこう。泣かせたい訳じゃないし。
P「……俺も、離したくないな」
智絵里「……あっ…………ありがとう、Pくん」
そんな話をしているうちに、智絵里の家の前に着いていた。
智絵里「幸せな時間って、あっという間ですね……」
P「だな」
智絵里「……いつもは一人でいる事が多くって、慣れてたのに……今は、Pくんと離れるのが嫌なんです……」
P「俺もだ……ま、仕方ないさ。また明日学校で」
智絵里「そう、ですね……また明日ね、Pくん」
智絵里と手を離して、お別れをする。
まだ温もりの残っている手が冷めないうちに、走って帰ろう。
帰り道は、来た時よりも寒く感じた。
26 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/01(木) 15:53:53.60 ID:Zw2GoZ6SO
取り敢えずここまで
ちなみにですが、智絵里の告白に対して2を選ぶと、校門前で待っていた加蓮と会えて加蓮√に入ります
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/02/01(木) 16:46:59.95 ID:BdxjKapR0
智絵里√来たのか
応援してます
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/01(木) 18:14:13.15 ID:7nd6tioso
チエリエル√か、期待
追加ディスクで文香姉さんや千川先生√が出そう
29 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 14:22:36.73 ID:pDmW2i0zO
翌日、起きると部屋にまゆが居た。
……なんで?
まゆ「おはようございます、Pさん」
P「おはよう、まゆ……」
まずい、会話の繋げ方が分からない。
俺は今までどんな風に会話していただろう。
まゆ「朝ごはん出来てますよ。美穂ちゃんと李衣菜ちゃんも来てますから」
P「あー……えっとだな、まゆ。その……」
言わなければ。
俺は智絵里と付き合ってるから、と。
そう伝えなければ。
とはいえ寝起きでまだ頭も回らないし、髪もボサボサだし後でにしようか……
まゆ「……そうですか」
P「……え?」
まゆ「……智絵里ちゃんと、お付き合いを始めたんですね……?」
察されてしまったようだ。
それでもきちんと自分の口から、自分の言葉で言わないと。
P「……まぁ、うん。だから……俺は、まゆの気持ちに応えられない」
まゆ「……そう、ですか……」
空気が重い。
朝食をわざわざ作りに来てくれた子に、こんな事を今言うべきでは無かったのかもしれない。
まゆ「……智絵里ちゃん、きちんと告白出来たんですね」
P「……あぁ」
まゆ「Pさんは、それを……智絵里ちゃんの気持ちを、受け止めたんですね」
P「そうだ。俺も……智絵里を好きになったから」
彼女と一緒に学園生活を送りたいと、これからも側に居て欲しいと。
そう、本気で思ったから。
30 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 14:23:08.03 ID:pDmW2i0zO
まゆ「なら、もう……まゆは何も言えませんね」
P「……すまん」
まゆ「謝らないで下さい。それに、まゆは諦めませんから」
にこりと微笑んで。
まゆ「まゆの想いは……たった一度の失恋程度でベクトルの向きが変わる程、弱くはありません」
P「……そう、か……」
まゆ「今は、Pさんが智絵里ちゃんの事が好きなのは分かりました。でも……いつか必ず。貴方に私のことが大好きだって、言わせてみせますから」
こんなにも優しくて強い子に。
俺はきちんと、諦めて貰わなきゃいけないのか。
まゆ「さ、Pさん。早く来ないと冷めちゃいますよ」
P「あぁ、ありがとう」
まゆが下に降りていった後、パパッと着替えて支度を済ます。
リビングに着けば、既に皆食べ始めていた。
李衣菜「遅いよP。待ってたら遅刻しちゃうところだったじゃん」
ならなんでうちに来るんだろうか。
美穂「おはようございます、Pくん」
P「おはよう美穂」
文香「……んぐっ……おはようございます、P君」
P「姉さん……おはよう」
まゆ「Pさんの分も準備してありますから」
李衣菜「まゆちゃん、ほんと料理上手いよね。手早くこんなに美味しいの作れるなんて」
美穂「わ、わたしも女子力を鍛えないと……」
まゆ「ふふ、ありがとうございます」
P「うん、美味しい」
李衣菜「Pももっと料理頑張って!」
P「まゆと競うのは無理があるだろ……」
美穂「が、頑張って下さい!」
P「よしやったるぞ!一人暮らしの男の料理ってやつを見せてやる!」
文香「……あの……」
まゆ「まゆは負けませんよぉ。ところで申し訳ないですけど、先生にHR前に用事を頼まれてるんです。李衣菜ちゃん、付き合って貰えませんか?」
李衣菜「ん、おっけー。なら私達は先に行こっか」
まゆ「はい、お願いします。Pさん……後、お願いしますね?」
……本当に感謝しかないな、まゆには。
美穂「でしたら、後片付けはわたしも手伝います!」
P「ん、いやいいよ。玄関で待っててくれるか?」
美穂「は、はいっ」
31 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 14:23:36.35 ID:pDmW2i0zO
片付けを終えて家を出る。
四月の朝はまだ寒い。
女子はスカートだからもっと寒いんだろうな。
P「お待たせ、それじゃ行こうか」
美穂「はい。えっと……Pくん」
P「ん、なんだ?」
美穂「わたし、Pくんとこうして歩くのが大好きでした。こうやって、ありふれた毎日を過ごすのが幸せでした」
P「あぁ、俺も美穂と一緒に過ごす時間は好きだよ。なんだか心地良いし」
美穂「そう言ってくれると、とっても嬉しいです」
並んで歩く美穂の声は、どことなく暗い。
もしかしたら何かを察したのだろうか。
美穂「もしかしたら……でも、そうじゃなければ良いな、って。そう願ってて……だから、これからわたしが話すのは、独り言だと思って下さい」
冷たい風が街を吹き抜ける。
美穂の声は、ギリギリ聞き取れるくらいだった。
美穂「もっとPくんの側に、もっと近くにいられたら。それは、とっても幸せな事です。でも……もし、Pくんの側にいられなくなったら……それは、わたしにとって凄く辛い事なんです」
消え入りそうな、泣き出しそうな声。
美穂にそんな思いをさせてしまった事が、本当に辛くて。
だけど、それを俺が遮る訳にはいかなくて。
美穂「だからもし君に、他に好きな人が出来たんだとしても……わたしの想いを、受け入れる事が出来なかったとしても……恋人になる事が叶わないんだとしても……っ!」
独り言を言い訳に仮定を重ねる美穂の声は、泣きそうなほど震えていて。
だけど、最後まで此方を見つめていた。
独り言の、その言葉の瞬間まで。
32 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 14:24:03.35 ID:pDmW2i0zO
美穂「これからもずっと!変わらないままでいてほしいのっ……!」
校門が近付いてきた。
そろそろ予鈴が鳴る時間だろう。
それでも、今。
きちんと俺から、全部を伝えなきゃいけないと思った。
P「……俺は、智絵里の事が好きだ。だから……美穂と付き合う事は出来ない」
美穂「……まゆちゃんが、Pくんと二人きりの時間を作ってくれたって事は……そんな気はしていました」
P「すまん……」
美穂「……智絵里ちゃんも、Pくんの事が好きだったんですね」
P「一年生の頃から、そう思ってくれてたらしい」
美穂「そう、なんだ……だったら……わたしは、智絵里ちゃんを応援しないと」
涙を溢しそうになりながらも、微笑んで、そう呟いて。
それもきっと、美穂の独り言で。
P「……ありがとう、美穂」
そんな美穂の優しさが嬉しくて。
そんな優しい美穂に諦めて貰わなきゃいけないのが苦しくて。
そして……
P「……なぁ、美穂」
予鈴が鳴り響いた。
それでもまだ、校門を抜ける前に言うべき事がある。
P「……凄く自分勝手な事を言うけど、俺は美穂と一緒に高校生活を送れて凄く楽しかったよ。俺からしたら、それはとても大切な時間だから……」
美穂「……ほんと、ズルいですよね。Pくんって」
P「うん、だからさ。これからも……美穂とは、友達でいたい」
美穂「…………はい」
身勝手が過ぎる俺の想いを、きちんと全て伝えた。
美穂の声は震えている。
美穂「……ごめんなさい。千川先生に、小日向は体調悪くて保健室行きましたって伝えておいてください」
P「……あぁ、分かった」
校門を抜け、下駄箱で別れる。
保健室へ向かう彼女を抱きしめたくなる気持ちを抑えて、俺は教室へと向かった
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/02(金) 14:24:35.68 ID:bRZOztwx0
あ
34 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 14:24:36.72 ID:pDmW2i0zO
ちひろ「……鷺沢君、連日遅刻記録の更新でも狙ってるんですか?」
P「すみません、小日向が体調悪かったみたいで保健室に送ってきました」
ちひろ「あら、そうですか。分かりました」
教室に入って、席に着く。
ちらりと加蓮と目が合うが、すぐさま逸らされてしまった。
……嫌われてしまったんだろうか。
P「はぁ……」
少しだけ不安になってため息と共に席に着く。
まゆ「きちんと伝えられましたか?Pさん」
P「あぁ、うん。ありがとな、まゆ」
千川先生が何か連絡事項を述べている。
話を聞こうと前を向いた所で、右側から視線を感じた。
P「おはよう、智絵里」
智絵里「おはようございます、Pくん」
笑顔で返事が返ってくる。
P「……お、おはよう。智絵里」
智絵里「えっと……おはようございます、Pくん」
P「……おはよう、智絵里」
智絵里「……えへへ……おはようございます、Pくん……!」
何話せばいいのか分かんないけど、何故だか幸せだった。
35 :
◆TDuorh6/aM
[saga sage]:2018/02/02(金) 14:25:26.34 ID:pDmW2i0zO
一時間目が始まるまでまだ時間あるし、トイレ行こう。
そう思って教室から出たところで。
加蓮「……おはよ、鷺沢……ケホッ……」
北条に話し掛けられた。
マスクをしていて、体調が悪そうだ。
P「悪いな、北条。昨日は結局行けなくて」
加蓮「……あの子に告白されたんでしょ?」
北条は分かってたのか。
俺が屋上に呼び出された、その理由を。
P「……あぁ」
加蓮「で、あんたはオッケーしたんだ」
P「……あぁ、そうだ」
加蓮「随分尻と頭が軽いね」
何も言い返せない。
……いや、頭が軽いに関してはただの暴言なんじゃないだろうか。
P「……ごめん、北条」
加蓮「……なんてね、冗談だよ。おめでと、鷺沢」
くすっと笑いながら、振り返って教室に戻ろうとする北条。
加蓮「私の事は気にしなくていいよ。なんだったら、あの時のキスも演技って事にしていいから」
P「……なあ、北条」
加蓮「あれって鷺沢のファーストキスだった?だったら悪い事しちゃったね」
P「まあ、そうだけど……」
加蓮「ま、私もファーストキスだったからおあいこって事で」
そんな北条の表情は、俺の位置からでは見えないけど。
きっと……
36 :
◆TDuorh6/aM
[saga sage]:2018/02/02(金) 14:26:03.27 ID:pDmW2i0zO
P「……ごめん」
加蓮「謝らなくて良いってば……そろそろ、一時間目始まるんじゃない?」
P「……そうだな」
加蓮「……やっぱり私、体調悪いし保健室行こっかな。先生に伝えといてくれる?」
P「大丈夫なのか?体調」
加蓮「大丈夫じゃないっぽい。でも、そうだね……うん」
一呼吸置いて。
寂しそうに、呟く北条。
加蓮「体調が治ったら……今度こそ、遊びに行こ?」
P「……あぁ。早く治せよ」
加蓮「あんたも、頭早く治しなよ」
P「でもほら、馬鹿は死んでも治らないって言うだろ?……いや、死んだら治るのかな」
加蓮「早く治しなよ」
P「おっとぉ?」
手を振って、保健室に向かって行く北条。
P「……結局、トイレ行けなかったな」
教室へ戻ると、李衣菜が詰め寄ってきた。
珍しく、その表情に笑顔は無い。
李衣菜「ねぇP、色々と聞きたい事があるんだけど」
P「……美穂の事か?」
李衣菜「美穂ちゃん今朝は体調悪くなかったよね?」
P「その話、昼休みでいいか?」
李衣菜「……そうだね、今教室でするような話じゃなさそうだし」
非常に胃が痛くなる。
保健室って胃薬とかあっただろうか。
……いや、今保健室行くほうがマズイ。
はぁ……と心の中に溜息を重ねる。
午前中の授業の内容は、まったく耳に入って来ない。
結局美穂も北条も、四時間目が終わっても戻って来なかった。
37 :
◆TDuorh6/aM
[saga sage]:2018/02/02(金) 14:27:01.50 ID:pDmW2i0zO
李衣菜「で、何があったの?」
昼休み、李衣菜と二人で屋上に出る。
ここ最近、屋上に来るたびに曇り空だ。
P「……俺、美穂に告白されててさ」
李衣菜「えっ、美穂ちゃん勇気出したんだ……!」
P「今朝、断ったんだよ」
李衣菜「……え?なんで断ったの?!」
李衣菜の声が屋上に響く。
李衣菜は美穂と、一年生からずっと仲が良いから。
もしかしたら、前から美穂は李衣菜に想いを打ち明けてたのかもしれないから。
こんなにも李衣菜は、怒ってるのかもしれない。
P「……俺、他に好きな人がいてさ。そいつと、付き合ってるから」
李衣菜「誰?」
P「智絵里と」
李衣菜「……成る程ね、そっか。そっかー……」
李衣菜は、納得してくれただろうか。
こんな俺と、今後も仲良くしてくれるだろうか。
P「それでも美穂は、これからも友達でいたいって言ってくれてさ。でもやっぱり、きっと……」
美穂にとっては、ショックだっただろう。
分かっている、それが全部俺のせいだって事くらい。
38 :
◆TDuorh6/aM
[saga sage]:2018/02/02(金) 14:27:45.68 ID:pDmW2i0zO
李衣菜「……Pは、智絵里ちゃんの事が本気で好きなの?告白されたからオッケーしとくか、みたいなノリじゃない?」
P「あぁ、本気で俺は智絵里と付き合ってる。それが他の誰かを傷付ける事になるのも……分かってる」
李衣菜「……ならもう、これ以上私はとやかく言える立場じゃないね。私は、二人を応援するよ」
P「ありがとう、李衣菜」
李衣菜「別に。でも美穂ちゃんみたいな良い子を振るなんて、Pは勿体無い事したね」
P「あんなに気の回る美穂こそ、俺には勿体無いさ」
李衣菜「……話してくれてありがと。それじゃ教室戻ろっか、お昼食べる時間なくなっちゃうからさ」
李衣菜と一緒に教室に戻る。
智絵里「あ……お帰りなさい、Pくん」
まゆ「お帰りなさい、Pさん、李衣菜ちゃん。お話は済みましたか?」
李衣菜「ただいままゆちゃん。うん、色々聞かせてもらってたとこ」
まゆ「Pさんの気持ちは堅そうですからねぇ」
P「今の俺の心ならダイヤモンドだって砕けそうだ」
智絵里「……えへへ……Pくん」
李衣菜「砕かないでプレゼントしてあげなよ……」
まゆ「お小遣い三ヶ月分ですかぁ?」
P「そんなんじゃ買えないだろうな……」
李衣菜「ってそうじゃなくて!はやくお弁当食べないと!」
P「あ、俺作って来てないから購買行って来るわ」
智絵里「……あ、Pくん……えっと……その……っ!」
もごもごしながら、智絵里が鞄から何かを取り出した。
箱状で、可愛らしい風呂敷に包まれた……
39 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 14:28:26.00 ID:pDmW2i0zO
智絵里「……お弁当、作ってきたんです……っ!」
お弁当を作ってきてくれた……
恋人が、俺の為に、お弁当を作ってきてくれた……
P「……俺、今日死ぬかもしれない」
まゆ「良かったですねぇ、馬鹿が治るかもしれませんよぉ」
智絵里「その……あんまり時間が無くて、冷凍食品も少し使っちゃいましたけど……」
李衣菜「へー、凄いじゃん。P、早く開けてみてよ」
P「え、本当に開けていいのか?大丈夫?俺の心喜びに耐えられる?」
まゆ「ダイヤモンドよりも硬いんじゃないんですかぁ?」
李衣菜「そしたら智絵里ちゃんのお弁当はダイヤモンドカッターだね」
智絵里「わたし、研削といし取替試運転作業者と貴金属装身具製作技能士の資格を取得します……っ!」
P「すげぇ!俺の恋人がなんかよく分かんない資格取ろうとしてる!」
智絵里「こ、恋人……えっと……う、嬉しいですっ!」
李衣菜「このお弁当箱、なんか砂糖漏れ出してない?」
まゆ「きちんと蓋が閉まってないみたいですねぇ」
P「……よし、開けるぞ」
智絵里「はっ、はい……その……どうぞ……っ!」
風呂敷を外して、蓋を開けた。
40 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 14:28:51.38 ID:pDmW2i0zO
P「うぉぉぉぉ……」
その先には、宝石が敷き詰められていた。
いや、普通に可愛らしいお弁当なのだが、今の俺には宝石に見えた。
なんちゃら者となんちゃら士の資格、持ってるんじゃないか……
P「食べても良いんだよな……?」
智絵里「えっと……もちろんです。お口に合うと嬉しいな」
一口、食用宝石を口に運ぶ。
P「……智絵里」
智絵里「……えっと……美味しく、無かったですか……?」
P「毎日作って欲しい」
智絵里「……れ、冷凍で良ければ……」
まゆ「李衣菜ちゃんどうですか?まゆのお気に入りのパン屋さんのサンドイッチです」
李衣菜「ありがとまゆちゃん。うん、美味しい!しょっぱくて凄く美味しい。角砂糖が入ってないところが良いね」
ガラガラガラ
教室に北条と美穂が入って来た。
加蓮「ただいまー鷺沢」
美穂「戻りました。もう大丈夫です」
P「……おかえり、美穂。あと北条も」
美穂「ごめんね李衣菜ちゃん、心配かけちゃって」
李衣菜「いいよいいよ、気にしないで」
いつもの空気が帰って来た事に安堵する。
五・六時間目は、頭を空っぽに気楽に過ごすことが出来た。
41 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:16:26.21 ID:pDmW2i0zO
P「……ん?明日?」
智絵里「はい……その……もし、空いてたら……」
金曜日の放課後。
俺は智絵里に、そう話し掛けられた。
P「もちろん空いてるぞ」
何がもちろんだよ。
言ってて悲しくなってくる。
智絵里「良かったら……一緒に、お出かけしてくれませんか……?」
P「それは……」
つまり、要するに、イコールで。
俗に言うデートのお誘いというやつなんじゃないだろうか。
P「おっけ!何時に迎えに行けばいいんだ?!」
おっと、テンションが上がりすぎた。
落ち着け、もっとクールに振る舞わないと。
智絵里「じゃあ……えっと……十二時に、わたしがPくんの家に行きますから」
P「あいよ」
李衣菜「積極的だね」
美穂「恋愛街道急行列車ですね」
まゆ「意味がわかりませんよぉ」
加蓮「ねぇ美穂、この後カラオケでも行かない?」
李衣菜「あ、私も行っていい?」
まゆ「まゆもご一緒していいですかぁ?」
美穂「あ、ごめんなさい……今日は、ちょっと用事があるから」
加蓮「おっけ、なら今度行こっか」
智絵里「それじゃあ……その……また、明日……」
P「あぁ、また明日な」
智絵里と手を振って別れる。
……明日、楽しみだな。
42 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:17:05.46 ID:pDmW2i0zO
P「……明日!楽しみだなぁ!」
加蓮「鷺沢うるさい」
まゆ「まゆもご一緒していいですかぁ?」
李衣菜「いやダメでしょ」
美穂「線路上にいたら轢かれちゃいますよ」
まゆ「ではこの後!この後まゆとデートに行きませんか?!」
加蓮「私も行っていい?」
美穂「あ、ならわたしも用事が無くなった気がしますっ!」
加蓮「美穂……」
P「悪い、この後店の作業手伝わないといけないからさ」
加蓮「そっか、ならまた今度だね」
美穂「それじゃ、わたしも用事があるので帰りますね」
李衣菜「じゃあねー美穂ちゃん」
まゆ「では、まゆも失礼します。また来週ですね、Pさん」
加蓮「私も帰ろっかな。またね、鷺沢」
P「じゃあなー」
43 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:17:36.26 ID:pDmW2i0zO
みんなと別れて、家に帰る。
文香「おかえりなさい、P君」
P「ただいま姉さん。俺明日デートなんだ」
文香「……春、ですね……」
P「もう四月だからな」
文香「P君の頭の事ですが……」
P「ひっでぇ……でもま、明日デートだからな」
文香「……はぁ」
ため息連打で二酸化炭素を増やし続ける文香姉さん。
幸せが逃げるぞ。そしてデートは幸せだ。
つまりため息の対義語はデートって事になる。
文香「いえ、ならないと思いますが……さて。着替えたら、彼方の荷物をお願いします」
P「おっけ。だって明日はデートだからな」
文香「脈絡が……」
その後は荷物を運びながら、明日のデートに思いを馳せた。
人生初めてのデートだ。
絶対に初デートにしてみせる。
44 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:18:06.94 ID:pDmW2i0zO
翌日、俺は窓から外をずっと眺めていた。
そろそろ約束の十二時になろうとしている。
まだかまだかと首を伸ばして窓から落ちそうになった。
P「……っ!!」
智絵里が、やってきた。
ピンク色の可愛らしいセーターにスカート姿の智絵里は、この距離からでも十分に分かるほど可愛い。
智絵里「……うぅ……」
家の扉に向かう智絵里の歩幅が、少しずつ短くなって。
そんな緊張がこっちにも伝わってきて、俺も緊張してしまう。
智絵里「すー……はー……」
智絵里が、インターフォンに指を添えて……離す。
添えて……離す。押さない。押してくれない。
……可愛いなぁ!
俺は荷物を持って、扉へと向かった。
インターフォンを押されたら、すぐに扉を開けられるように。
文香「……何をしているんですか、P君」
P「デート」
文香「玄関の鍵と、ですか?」
P「げ、俺の初デートは玄関の鍵とかよ……」
45 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:18:33.26 ID:pDmW2i0zO
それから、一分ほど経ってようやく。
ピンポーンと、家のインターフォンの音が響く。
そのポの部分で、扉の前でスタンばっていた俺は扉を開けた。
P「こんにちは、智絵里」
智絵里「……あ、えっと……こんにちは、Pくん」
何が、十分に分かるほど可愛いだ。
……俺は智絵里の可愛さなんて、全然理解出来ていなかった。
目の前で、この距離で見てようやく分かった。
指をモジモジとさせながら、照れた表情で此方を見てくる。
そんな智絵里自身のいじらしさがあって、ようやく智絵里の本当の可愛さなんだ。
智絵里「きょ、今日は……その……よろしくお願いします」
P「あぁ。楽しもうな、智絵里」
ん、そう言えば。
智絵里が何処に行くつもりだったのか聞いてなかった。
P「それで、どっか行きたい場所とかあるのか?」
智絵里「それは……えっと……着いてからのお楽しみです」
P「マジか!楽しみだなぁ!!」
智絵里「それで、その……わたしが連れてってあげたいから……」
すっ、と。
此方に手を伸ばしてくる智絵里。
智絵里「……手、繋ぎませんか……?」
……なんて可愛いんだ。
俺は今日という一日を耐えられるだろうか。
P「……あぁ、もちろん。寧ろ俺からお願いしようと思ってたところだ」
智絵里の小さな手を、俺は優しく握る。
指を絡ませたその手は、四月だというのにとても熱かった。
P「それじゃ、行こっか」
智絵里「はい……!」
46 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:19:34.51 ID:pDmW2i0zO
広がる緑、周りは緑、地面も緑、空以外の全てが緑に包まれた場所。
俺たちは、一駅離れた自然公園に来ていた。
P「こんな広い自然公園があったんだな」
智絵里「たまに、一人で来るんです……でも、今日はPくんと……その……一緒に来たくて……」
P「ありがと、智絵里。それで……どうする?二人だけど鬼ごっこでもする?」
智絵里「……それなら、手繋ぎ鬼がいいです……」
P「……もう、繋いじゃってるけどな」
智絵里「なら……ずっと、捕まえてて下さい」
P「離さないぞ?」
智絵里「わ、わたしだって……!」
なんて幸せな会話なんだろう。
とはいえ、話が進まないのも確かだ。
P「とまぁそれは置いといてさ」
智絵里「……わたし……置いて行かれちゃうんですか……?」
P「置いてかないけど。なんならおぶってくけど」
智絵里「……抱っこがいいな……あっ、え、えっと……!今のは、えっと……聞かなかった事にして貰えませんか……?」
P「お、おう!」
智絵里「えっと……わたしと一緒に、探して欲しいんです……」
P「探す……?何をだ?」
智絵里「……その……幸せを……」
P「…………プロポーズ?」
智絵里「……あっ、ぇぁ……そ、そうじゃなくって……そ、そうです……!あ、その……そうじゃないです……!!」
あたふたと手を振る智絵里。
俺にとっての幸せは、この空間そのものなんだけどな。
47 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:20:03.69 ID:pDmW2i0zO
智絵里「……四つ葉の、クローバーです」
P「なるほど、四つ葉のクローバーを探すのか」
智絵里「……はい。一緒に……探してくれますか?」
P「もちろん。この自然公園から四つ葉を狩り尽くせばいいんだな?」
智絵里「そ、そんなには……」
P「……ところで、四つ葉ってどんなところに生えてるんだ?」
手当たり次第に探すのもいいが、それだと効率が悪過ぎるだろう。
智絵里「えっと……日陰や水辺です。一株見つければ、その周りにもある筈ですから」
P「よし、おっけ。なら早速探すか」
デカい木の陰になっている場所で、俺は膝をついて四つ葉を探す。
三つ葉、三つ葉、たんぽぽ、三つ葉、これは名前が分からない。
分かってはいたが、そう簡単に見つかるものでは無さそうだ。
智絵里も俺の隣に膝をついて探し始めた。
幸せの象徴である四つ葉を真剣に探す、そんな智絵里の表情を俺は初めて見た。
真剣に探している為、智絵里は俺の視線に気付かない。
智絵里「……Pくん、見つかりましたか……?」
P「すまん、まだだ。幸せなら見つかったんだけどな」
智絵里「……?」
キョトンとした表情で首を傾げる智絵里。
あ、また幸せが増えた。
幸せの繁殖力って凄いな、ミント以上だ。
48 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:20:29.25 ID:pDmW2i0zO
P「……んー、この辺りは無いな……」
智絵里「こっちも……見当たりません……」
場所を移動して四つ葉探しを再開する。
時間を忘れて四つ葉を探して、真剣な智絵里を時折眺めて。
特に会話は無いけれど、そんな時間がとても心地良かった。
P「……ん?」
智絵里「見つかったんですか……っ?」
P「いや、すまん。何でもない」
何でもなくは無かった。
四つん這いになっている智絵里のスカートの後ろ側は、裾の位置が高くなっていて。
ギリッギリその内側は見えないけど、こう……危ない。
言い辛い。とても伝え辛い。
P「……」
智絵里「……何か、ありましたか……?」
P「……こう、四つん這いなるとさ……」
智絵里「……四つん這いなると……?」
P「……幸せの象徴が見えちゃいそうだな、って」
智絵里「……四つん這い……きゃっ!」
ようやく気付いた様で、慌ててスカートを後ろから手で押さえる。
そのまま顔を赤らめて、ジト目をこっちに向ける智絵里。
智絵里「…………えっち」
あ、今の録音したい。
P「大丈夫大丈夫、ほんと見てないから!たまたま気付いただけだから!!」
智絵里「……ほんと、ですか?」
P「あぁ。本気で見ようと思ってたなら伝え無いって」
智絵里「……信じます。Pくんが、そう言うなら……」
49 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:20:55.29 ID:pDmW2i0zO
P「にしても、なかなか見つからないもんだな」
智絵里「ですね。でも……えへへ……」
微笑む智絵里。
何かあったんだろうか。
P「どうした?見つかった?」
智絵里「いえ……でも、見つからなくても良いかな、って……」
P「……?」
智絵里「と、ところで……その……お腹空いてたりしてませんか……?」
P「割と空いてる。あ、もう十五時回ってるのか」
本当にあっという間に時間が過ぎてったんだな。
智絵里「わたし、お弁当作ってきたんです……だから……一緒に、食べませんか?」
P「まじで?!食べる!智絵里が作ってくれたものなら、なんだって食べたいな!」
智絵里「えへへ……一回休憩して、ベンチを探しませんか?」
P「おっけ。ベンチって何処にあるんだ?水辺とか日陰か?」
智絵里「ベンチは四つ葉のクローバーじゃないですけど……」
休憩がてら、今度はベンチを探す。
この公園の中央にはデカい池があるし、その付近にあるだろう。
P「ふぅ……四つ葉探しって、割と体力使うんだな」
ベンチに座ると、どっと疲れが押し寄せてきた。
よくよく考えれば、二時間弱もぶっ通しで探してたんだもんな。
50 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/02/02(金) 19:21:22.48 ID:pDmW2i0zO
智絵里「……えっと……お口に合うといいな」
そう言って、智絵里はバスケットを膝の上に乗せた。
P「おぉ……」
その蓋を開けると、綺麗に並べられたサンドイッチがずらり。
智絵里「今日は時間があったから……全部、自分で作ってみたんです……!」
P「ありがとう、智絵里」
智絵里「……お礼は、大丈夫です。わたしが、作ってあげたかったから……」
P「それじゃ、早速一つ……」
サンドイッチに手を伸ばす。
するとその分、バスケットが遠ざかった。
P「……?」
手を伸ばす、その分遠ざかる。
なんだこれは、蜃気楼か?
P「なぁ智絵里、このバスケットって実物だよな?」
智絵里「当たり前、です……」
P「なんかさ、バスケットが俺から逃げてくんだけど」
智絵里「当たり前、です……だって、わたしが遠ざけているんですから」
P「……智絵里は、蜃気楼だった……?」
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