森久保乃々「さよなら、森久保」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:22:56.32 ID:QxgIwWOp0
「常に人に見られていると思って行動しなさい」

 それが母の口癖でした。母は私を品行方正な人間へと育てたかったようで、
 私に物心がついたときから、その言葉を繰り返していました。
 
 当時の私は幼く、言葉の意味もちゃんと理解は出来なかったのですが、
 母がその言葉を言うたびに「はい」ときちんと返事をしました。私が大きな声で返事をすると、

「乃々はいい子ね」
 
 と母はいつも私の頭を撫でてくれました。
 
 母の笑顔が全てだった幼少の頃の私は、
 人に見られていると思って行動すれば、母は私のことを褒めてくれる、見てくれる、と本能的に理解しました。


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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:26:18.22 ID:QxgIwWOp0

 それから月日は流れ、私はとてもいい子へと成長しました。
 塾に通い、母が望んだ私立の中学に見事入学を果たしました。

 合格が決まった日、母は「おめでとう乃々、あなたは私の自慢の娘よ」と私を抱きしめました。

 今になって思うと、母は常に近所の奥さん達の視線を気にしているようでした。

 母の目が届かない学校でも、私は母の言いつけを守りました。
 髪の乱れやスカートの裾、言葉遣いにも十分気を配り、成績も上位を保ち続けました。

 先生もクラスメイトも「森久保さんはとてもいい子だ」と私のことをよく褒めてくれました。母はますます上機嫌になりました。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:31:24.29 ID:QxgIwWOp0
 
 中学一年の夏でした。
 移動教室から戻るときに、私はスカートの裾がほつれていることに気づきました。
 すぐに近くの女子トイレに入り、ポーチから小さなハサミを取り出して、糸を切りました。

 ついでにと、そのまま用を足していたら、扉が開く音とともに、聞き慣れたクラスメイトの声が入ってきました。

「あいつうざくね?」

 教室のときと変わらぬ無邪気な口調で、クラスメイトは言いました。

「わかる」
「うざいうざい」

 どうやら三人いるようでした。私は個室の扉越しに、三人の顔をそれぞれ思い浮かべながら、
 それこそサバンナで生き抜く小動物のように、じっと気配を隠しました。

 話を聞いていると、あいつとは三人が所属しているグループの一人の女の子を指しているようでした。
 才色兼備で人当たりもよく、成績も優秀な子でした。私には全くうざい理由がわからない。
 それどころか憧れの女の子でした。

 三人は機関銃のように、女の子の悪口を繰り返しました。
 うざいといった弾丸は徐々に具体性を帯びていき、最終的には、

「あいつはぶりっ子だ。がり勉だ」

 と私が尊敬しているところさえも攻撃し、トイレから去っていきました。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:35:37.36 ID:QxgIwWOp0
 
 嵐が静まったのを確認してから、私は、私の心が震えていることに気づきました。

 身体は熱く、息が苦しい。
 何度も深呼吸を繰り返し、鍵に手をかけるのですが、なかなか扉を開けられない。
 
 腕時計を確認すると、授業開始五分前になっていたので、心臓の音は収まっていませんが、
 このままでは授業に遅れてしまうと、自分に鞭を撃ち、震える手で扉を開けました。

 足早に廊下を歩き、なんとか間に合ったと教室に飛び込むと、先ほどの三人が目に入りました。

 彼女たちは笑っていました。笑顔の横には悪口の対象になっていた優等生の女の子がいました。

 三人は先ほどトイレで話していた声と同じ無邪気な声で
「うける」や「わかる」といった言葉を繰り返していました。

 その光景は今でも私の脳裏から離れません。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:38:28.12 ID:QxgIwWOp0

 始業のチャイムがなり、先生が現れました。現代文の授業でした。
 先生はチョークをこんこんと鳴らしながら、黒板に教科書の文章を書いていきました。
 
 私は黒板のその文字をノートに書き写していきます。
 こんこんこん。かりかりかり。書いているうちに、私はこれまでに覚えたことのない感情に囚われました。

 それは恐怖でした。そのとき私は席替えのくじ運が悪く、人目につきやすい最前列の席に座っていました。

 その私の背中を、後ろのクラスメイト達が、見ているような気がする。見ている。見られている。
 私に聞こえないように意地の悪い言葉を投げつけ、にやにやと笑っている。

 思い出されたのは、トイレで聞いた無邪気な声と、教室で談笑していた彼女たちの笑顔でした。
 その二つはぐるぐると頭の中で回り始め、私の頭を掻き乱しました。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:41:26.09 ID:QxgIwWOp0
 
 振り返って、彼女たちの顔を確かめたい。そんな衝動に駆られました。
 しかし私の理性と恐怖が、金縛りのように身体を締め付け、私はまさに蛇に睨まれた蛙のようになっていました。

 ここで振り向いたら、それこそ私は、変な人だと笑われてしまう。本当に笑われていたらどうしよう。
 鼓動は激しさを増していきました。身体は嫌な熱を帯びていき、息は苦しく、頭の中では、無邪気な声と笑顔が回り続けていました。

 意識しないようにとすればするほど、視線を感じ、呼吸を整えようとすればするほど、呼吸は乱れ、
 果てには、私の心臓の音や呼吸の変化さえも、見抜かれ、笑われている。

 私の意識はそこで途絶えました。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:45:00.22 ID:QxgIwWOp0

 目を覚ますと、白の天井。周りはカーテンに覆われていました。私は保健室に運ばれたようでした。
 恐る恐るカーテンを引き、ベッドから出ると、先生と母が私に気づいて駆け寄ってきました。
 
 熱を測り、風邪の症状チェックのようなものもされましたが、
 私の身体に特に異常は見当たらなかったようで、先生も母も首をひねりました。

「ねぇ、乃々何か心当たりある?」
 
 母が私の顔を覗き込んできました。その母の顔が何とも恐ろしくて、私は思わず、母から顔を背けました。

「少しだけ頭が痛いです」

 何とか母へと顔を向け直して、私は嘘を言いました。
 先ほど覚えた恐怖と不安が、私の心をきりきりと締め付けていました。

 母の顔が、笑っていたクラスメイトの顔と重なって見えました。

 人の視線が怖くて倒れたのだと告げてしまうと、心配そうに私を見つめている母の仮面が、
 ぼろぼろと崩れ落ちて、何か恐ろしいものが出てくるような気がしたのです。



8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:48:07.15 ID:QxgIwWOp0

 その日から私は「いい子」ではなくなってしまいました。
 正確には、いい子でありたいと願っていたのですが、いい子であることを保つことが出来なくなりました。
 
 私は常に、人の視線に怯えるようになりました。
 
 学校ではクラスメイトの針のような視線。
 私の背中に大きなシールや埃が付いていて、それに気づいていない私を笑っている。
 
 授業中にさりげなく伸びを装って、背中に手を伸ばしてみたり、
 窓ガラス越しに、自分の臆病な姿を確認する機会が増えました。そして、

「森久保さんはいい子ね」

 と言う、笑顔。
 
 私には、その言葉が皮肉やお世辞のように聞こえ、笑顔や言葉の裏が見えてしまいそうで、怖くて仕方なくなりました。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:50:20.66 ID:QxgIwWOp0

『常に人に見られていると思って行動しなさい』

 放課後の帰り道、一人、歩いていると、誰かが後ろからつけてきている。振り返ると、誰もいません。

 数秒ほど辺りを見つめ、誰もいないことを確認し、私は再び歩き始めるのですが、
 落ち着かなくて、ゆくゆくは走り出してしまうということもありました。

 住宅街の誰もいないはずの窓からは、誰かが覗いている気がして、
 交通安全の看板や街路樹が人に見えることもありました。

 世界中のいたるところにカメラが植えつけられていて、そこに映る私の映像を、
 誰かが見て、笑っている。

 私が心から落ち着ける場所は自分の部屋だけになりました。
 部屋に引きこもり、小説や漫画を読んだりすることが私の唯一の楽しみになりました。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:51:41.06 ID:QxgIwWOp0

 私はどんどんひねくれた子供になっていきました。
 それはクラスメイトの三人の心が伝染したのか、人間としての本質的な黒さだったのかはわかりません。
 
 私は人と目を合わせることが出来なくなり、人の発言や行動の奥を疑うようになりました。

「でも……」や「なんで、どうして」と考えてしまうことが増えました。
 
 私は人というものがわからなくなり、人を信じられなくなりました。



11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:52:15.05 ID:QxgIwWOp0

 しかしながら皮肉なことに、このひねくれた性格こそが、
 私の、人に対する不安や恐怖への対抗策になることが後々にわかりました。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:54:41.52 ID:QxgIwWOp0

 中学一年の冬でした。空には鈍色が広がっていました。体育の授業でした。
 体育館は他のクラスが使っているということで、私たちのクラスはマラソンになりました。

 冷たい風が肌に突き刺さるこの時期に、殺風景なグラウンドを走りたいと思うのはよっぽどの少数派で、
 多くのクラスメイトは「寒い」や「やだ」を繰り返し、そして私も例に漏れませんでした。
 
 私は小声で、
「寒いんですけど……。めんどくさいんですけど……。早く帰りたいんですけど……」と呟きました。
 
 私の言葉遣いは、いい子であった頃の名残とひねくれが混ざって、とても独特なものへと変化していました。
(といってもこの頃は話す機会も少なく、いざ他の人と話すとなると、怯えながらに丁寧語を徹底していましたが)

 ひねくれた私は、よく一人きりのときに、その妙な言葉遣いで、
 弱音のような励ましのような言葉を自分へとかけ続けていました。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 18:58:30.00 ID:QxgIwWOp0
「今言ったの森久保さん?」

 声をかけられ、しまった、と振り返ると、
 クラスメイトの一人が驚いたように、私を見ていました。
 私が吐きだした言葉はどうやら思っていたよりも大きかったようでした。

 私はこの場を乗り切る解決策を頭の中をかきわけ必死に探しましたが、それはすぐに見つかるものではありませんでした。

 あぁ、品行方正だったはずの森久保さんが実は根が悪い人だったなんて。

 私は、その事実がクラス内ひいては日本中へと広がり、
 人々の嫌な笑顔や陰口の種となり肥料となることを想像しました。
 
 それこそまさしく、鬼に見つかったような気持ちでした。

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/23(火) 19:00:16.73 ID:QxgIwWOp0

 しかし、私の絶望のような思いとは裏腹に、

「森久保さんって実は面白い人だったんだね」

 クラスメイトは声を漏らしながら笑いました。
 すると、まるで寒さから逃れるように、他のクラスメイトたちも、私の元に引き寄せられてきました。

「どうしたの?」「森久保さんが面白くて」
「どういう風に?」「森久保さん、さっきの言葉もう一回言って見て」

 クラスメイトたちは期待の眼差しを私に向けました。
 私はその目を見ることができず、右斜め下の、土と白線へと視線を流しながら、

「寒いんですけど……。マラソンなんかしたくないんですけど」

 クラスメイトたちは声をあげて大笑いしました。普段はあまり笑わない先生も笑っていました。

「森久保さんおもしろーい」

 クラスメイト達が口を揃えて言いました。そのとき私は不思議な感覚に襲われました。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:02:27.13 ID:QxgIwWOp0

 みんなが私を見て笑っている。

 それは、常に私が怯えている感覚と、
 文字だけで見れば違いはありませんが、そこには確かに違いがありました。

 彼女たちは私自身を笑っているのではなく、私のひねくれを笑っている。
 彼女たちが笑っている間、私に対しての視線や言葉も全て笑いに変えられる。
 誰も私に危害を与えない。誰も私自身を見ていない。

 鬼の目にも笑顔と言うのでしょうか。私はまだ幼く、
 これらの感覚を正確に表すことが出来たとはこれっぽっちも思っていませんが、
 私はこのとき、目の前で笑っている人々に対してわずかな光を覚えました。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:03:55.22 ID:QxgIwWOp0

 それから私はひねくれキャラを演じるようになりました。クラスメイトたちは私のことを大変気にいってくれました。

「乃々ちゃんは面白いね」

 言われるたびに、私は、

「森久保は面白くなんかありません……」

 と、ひねくれた言葉で返事をしました。そのころに私は、一人称を私から森久保へと変えました。

『森久保』というのは言ってしまえば、私が他者と関わるためのピエロの仮面のようなものでした。
 私が自分のことを『森久保』と言うと、クラスメイトたちはさもおかしいように笑いました。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:05:25.91 ID:QxgIwWOp0

 ですが、私の森久保は、
 他者に対する万能のアイテムではありませんでした。

 先ほども書きましたが、この森久保はキャラであり、仮面でした。

 たとえば、機嫌が悪そうな先生やクラスメイト、
 母の前では、森久保の仮面を捨て、いい子を演じなければいけません。

 そしてまた、森久保の仮面を被っているときでも、
 私は、クラスメイトの一挙一動、私の一言一句に気を張り巡らせていました。

 ひねくれた言葉を言いたい放題言っているように見せかけて、仮面の下では怯えている。

 とりあえず笑わせておけばいい。ひねくれておけばいい。
 私が森久保でいる間は、人々は私自身を見つめない。

 それはある意味、私から他人へと出来る精一杯のサービスであり、命綱でもありました。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:11:31.64 ID:QxgIwWOp0

 私と森久保の日々に転機が訪れたのは私が十四歳になったときの夏休みでした。
 
 私は夏の照り付ける日差しがどうも苦手、という体にして、
 特に外出することもなく部屋に引きこもり、本を読んで過ごしていました。

 その日も私は自室のベッドに横たわり、
 隣の家の庭の大きな木に止まる蝉の声を聞きながら、漫画を読んでいました。

 ピンポンと来客を知らせるチャイムの音が鳴りました。
 リビングに母がいることは知っていたので、私は何もせずじっとしていました。

 すると、しばらくしてから「乃々」と母が私を呼ぶ声がしました。

 リビングへと下りていくと、
 そこでは叔父が麦茶を飲み、タオルで汗を拭いながら、私のことを待っていました。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:14:29.13 ID:QxgIwWOp0

 叔父は私に、自身が雑誌の編集者をやっていること、
 今回の撮影で子役を用意していたのだが、その子が風邪で倒れてしまい、私に代役を頼みに来たことを伝えました。
 私はすぐさま首を振りました。

「無理です」

 私は自分ではそこそこの見栄えだと思っていましたが、他の人が私をどう思っているかは全く見当がつきません。
 それに、見栄え以前に、撮影の方が耐えられそうにありませんでした。
 
 叔父は、写真をとるだけだ、乃々ちゃんが演技をしたり、何か準備がいるようなことは一つもないと説得を続けました。
 私は首を横に振り続けました。

 撮影というものはそれこそまさしく、人に見られる仕事でした。
 それにもし、万が一、私の写真がクラスメイトの目に留まったら。考えるだけで私の心に暗雲が立ち込めてきました。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:17:28.36 ID:QxgIwWOp0

「そうかぁ。どうしてもだめかぁ」

 叔父はがっくりとため息を吐きました。
 叔父のその姿を見て、私は、何も悪いことをしていない、無理なものを無理と言っただけなのに、
 私が叔父を傷つけたような気持ちになり、申し訳なさでいっぱいになりました。
 
 叔父はここぞのタイミングで、まるで私の申し訳なさを見抜いたかのように、頭を下げました。

「もう一度だけ。もう一度だけ考えてくれないか。このとおり」

 私が困った反応を示しても、叔父は顔を上げてくれませんでした。
 深く下げられた頭は、こうすることがベストな選択だとわかっていて、
 下へと向けられた目は、私の心の弱さを見透かしているようでした。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:18:33.48 ID:QxgIwWOp0

「乃々? おじさんもこんなに頼んでいるんだから協力してあげたら?」

 横で母が言いました。母は優しそうに笑っていました。
 母の笑顔を見た叔父が、計画通りに事が運んでいることを、にやりと笑った気がしました。

 多くの人の目には、私は、嫌よ嫌よも好きのうちに見えているようで、
 私が本当に困っているとは、露ほども思っていないようでした。

 もしくは、彼らは私がどう思っているのかをそもそも考えてすらいなくて、自分の事でいっぱいいっぱいなのかもしれません。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:20:04.01 ID:QxgIwWOp0

 そしてこれは私の非常によろしくない性質なのですが、
 私は自分から人に対して何かをお願いするようなことは決してできませんが、
 ものごとを真剣に頼まれると断ることが出来ません。

 先述の申し訳なさもそうなのですが、断ったことによって、
 私、森久保乃々が断ったという事実が相手の心と頭に記憶されるのが苦手なのです。

 彼らは私が断った事実を心のどこか一ページに書き込み、そのページを開きながら、私と接している気がするのです。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:22:08.44 ID:QxgIwWOp0

 さらに私は未来のことを考えるのも苦手でした。

 ここで断ることによって生じる苦痛と後で生じる苦痛。
 どちらがより私に刺さるのかまったく判断がつきません。

 それに私は痛みが後になって返ってくることがわかっていても、その場しのぎのように逃げてしまうところがあります。

 クラスメイトたちのことはばれてから考えよう。

 そうです。世間から見れば、私は二つの選択を強いられ、どちらか一つを選んだように見えているかもしれませんが、
 私からすれば選択肢はなかったのです。
 
 叔父がこの家に入ってきて、母が私の名を呼んだときから結果は一つしかありませんでした。

「わかりました」

 私は代役の申し出を受け入れました。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:24:04.83 ID:QxgIwWOp0

 次の日、さっそく私は撮影現場へと連れてこられました。
 初めて見る撮影現場は慌ただしく、誰もがみな忙しそうに撮影の準備をしていました。

 叔父はその人たちの動きを一度中断させ、
(私には大きな声を出し、他の人の動きをとめることなどとても恐れ多くてできません)
 私のことを紹介しました。

 紹介が終わると大人たちは一斉に、まるで品物を吟味するような目で私を見ました。
 私は誰とも目を合わすことが出来ず、ぎこちない笑顔を浮かべました。

 森久保の笑顔とでもいうのでしょうか。
 私はいつからか、瞳を横に逸らし、涙目の、ぎこちない笑顔しかできなくなっていました。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:26:12.67 ID:QxgIwWOp0

 そのぎこちない笑顔を浮かべて、
 心の中で、「むーりぃー」と大人たちの視線と戦っている間に、
 カメラは二、三回フラッシュをたき、撮影は終わりました。

 私が素人だから期待されていなかったのか、
 服を撮りたいだけでモデルはどうでも良かったのか、それはわかりません。
 着替え終わった私は、スタジオの端に設けられた椅子に座り、叔父の仕事が終わるのを待っていました。

「君ちょっといいかな?」

 突然かけられた声に、びくりと背筋を正しました。
 スタジオの人達は既に私には目もくれず、誰もが機材の片づけを熱心にしていたので、
 声をかけてくる人なんていないと私は気を緩めていたのです。
 嫌な汗をかきながら振り返ると、スーツ姿の若い男性が心配そうに私を見ていました。

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:28:32.88 ID:QxgIwWOp0

「ごめん。驚かせた?」
「いえ……。森久保が少し、ぼーっとしていただけです」
「そうか。ならよかった」

 男性は安心したように、ほっと一息吐いて、にっこり笑いました。

「ありがとう。今日はうちの子の代わりに出てくれて。助かったよ」

 どうやら本来この撮影を受ける予定だった子のマネージャーさんのようでした。
 
 私は不思議とその人の笑顔に惹かれました。
 今まで何人もの笑顔を見てきましたが、この男性の笑顔は今まで見てきたものと全く異なるものでした。

 
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:30:10.73 ID:QxgIwWOp0

 ただ笑っていたのです。
 これまでの短い人生の間に、私は数人ほどただ笑っているだけの笑顔を持つ人に出会ってきました。

 しかし、その人達は表と裏の区別がない、言ってしまえば何も考えていないような単純な人達でした。
 
 ですが、この男性の笑顔は違いました。
 仮面やその裏に隠された恐ろしい何かを匂わせることなく、
 ただただ笑っているだけなのですが、私にはこの人が単純な人には思えない。

 何かを考えているのでしょうけど、そこから恐ろしさというものが全く見えてこなかったのです。

「いえ、そんな、森久保なんて」

 森久保が首を振ると、男性は笑顔をやめ、私の顔や身体をまじまじと見つめました。
 それはもちろん品定めだったのですが、
 その見つめ方は先ほど私が受けたじろじろ、じめじめといったものではなく、もっと清潔なものでした。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:31:29.97 ID:QxgIwWOp0

「君、アイドルにならない?」

 その言葉はあまりにも突然、かけられました。晴れの日に落ちてくる雷のような衝撃でした。
 私は一瞬、何を言われたか理解できなくて、その男性の言葉を小さく繰り返しました。  

 あいどる。あいどる。アイドル。

「えっ……。アイドル? 森久保が……ですか?」

 男性は頷いて、名刺を私へと手渡しました。
 そこにはシンデレラプロダクション・プロデューサーと書かれていました。

「どうかな? 君ならいいアイドルになれると思うんだけど?」

 首を少し傾けて笑うその表情からは、やはり男性の考えのようなものは見えてきませんでした。
 それでも私は首を振り続けました。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:33:10.28 ID:QxgIwWOp0

「無理です。私がアイドルなんて……」

 私の神経は、たった数枚の写真をとる仕事だけでも、すさまじくすり減っていました。
 このような経験を毎日なんて私には耐えられるはずがありません。

「本当に無理?」

 その人が聞きました。私は、

「ほ、本当にむーりぃー」

 と強く答えました。

「本当に、本当に無理?」

 笑顔は消え、頼み込むような、覗きこむような、真剣な表情で私に聞いてきました。

 あぁ、いけない。そんな目で私を見ないでください。そんなに私に期待しないでください。
 このパターンはいつもと同じ、流されてしまうパターンでした。

「そ、そうですね。本当に、本当に……。森久保はアイドルに向いていませんし……」

 覚悟を決め、男性の真剣な眼差しを振り払う思いで、そう答えました。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:35:19.02 ID:QxgIwWOp0

「お聞きしたいんですけど……どうして森久保をアイドルにしようと思ったんですか?」
 
 男性は手を顎に当て、考える表情になり、それから少しして、

「勘かな」
「勘……ですか。勘で森久保を巻き込まないでほしいんですけど。それにその勘は間違っていると思うんですけど」

「俺の勘は結構当たるって評判なんだよ」
「どこでの評判何ですかそれ……」

「自分だけど」
「全然だめじゃないですか……」

 得意のひねくれで、話題を何とか変えようと森久保が試行錯誤しているところに、
 帰る支度を終えた叔父が混ざってきて、

「どうかしましたか?」

 と男性に訊ねました。男性は叔父に私をアイドルにスカウトしたいと思っているということを告げました。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:37:17.70 ID:QxgIwWOp0

「いいじゃないか、アイドル。自分からアイドルになりたくてもアイドルになれない子もいっぱいいるのに。
 それに乃々ちゃんは少し人見知りなところがあるから、改善のためにもアイドルやってみたらどうだ?」

 二人の大人は私の顔を見ました。

 一人はまるで、
 この場面で私を見ることが映画の台本や社会のルールで決まっている、とでも言いたげな表情で見ていました。
 裏ではおそらく、さも興味のなさそうな表情であくびをしているに違いません。

 もう一人は、ただ真剣な目つきで私を見つめていました。
 何度見ても、その清潔のような、潔癖のような表情からは、仮面のようなものが見えてきません。

 森久保はしぶしぶといった風に、でも自分から選んだという風な雰囲気を出して、

「わかりました……。アイドルやってみます……」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 19:38:48.48 ID:QxgIwWOp0

 私はこうしてアイドルとしてスカウトされました。

 これは今でも確信をもって言えることなのですが、私はアイドルになりたかったわけではありません。

 代役の子が風邪をひき、叔父が私のことを思い出し、
 プロデューサーさんの目に留まってしまったからこそ、私はアイドルにならざるをえないのでした。   
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:00:44.45 ID:QxgIwWOp0

 それからはとんとん拍子で話が決まっていきました。
 私は一人、今まで住んでいた名古屋の街を離れ、東京へと向かうことになりました。
 私がアイドルになると告げると、母は喜び、クラスメイト達は悲しみました。

「乃々ちゃんがいなくなると寂しいな」

 東京へと向かう日、夏休みだというのにわざわざ開いてくれたお別れ会が終わると、
 クラスメイトの何人もが、そう言って涙を流しました。

 しかし私には、その友情の証とでもいうべきクラスメイトの涙が、
 クラスメイト自身は関係ないのにどうして泣けたものかと、演技の涙のように見えてしまって仕方ありませんでした。
 
 名残惜しそうに落ちていくその涙から逃げるように、私は学校を後にしました。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:03:29.78 ID:QxgIwWOp0
 
 部屋へと戻り、荷物の確認をしているとチャイムがなり、母が私を呼びました。
 私はポエムを書き綴ったノートなど、どうしても人に見せられない物の最終確認をしてから下りていきました。

 リビングではプロデューサーさんと母が話をしていて、
 私の姿を確認すると、そろそろいこうか、と腰をあげました。

 玄関先に出ると、見計らったかのように、

「乃々をお願いします」

 と母が言い、

「乃々さんをとても立派なアイドルにしてみせます」

 とプロデューサーさんが答え、二人は深々と頭を下げ合いました。熱い一日でした。
 隣の家から蝉の声が聞こえてきて、アスファルトから立ち込める蜃気楼が私の行く末を揺らしていました。

「乃々ちゃん? お母さんとは当分会えなくなるかもしれないけど、何か言わなくていいの?」
 
「お母さん今までありがとう……」

 森久保は少し恥ずかしそうに、そう呟きました。

35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:05:12.89 ID:QxgIwWOp0

「乃々、これを持っていきなさい」

 母は笑って、私の頭を撫でると、エプロンのポケットの中からラッピングされた袋を取り出し、私に渡しました。丁寧に包装を解いてみると、そこにはシンプルな水色のピアスが入っていました。

「アイドルをやるんだから、少しはおしゃれにね。
 つらいことがあったらこれをお母さんだと思って。お母さんはいつでも乃々のことを見ているから」

 母はピアスを私の耳につけてくれました。マグネット式とのことで耳に痛みはありませんでした。

 しかし、そのピアスの感触は、ずしりと私に深く残り続けました。森久保は精一杯の笑顔を作ってみせ、

「お母さんありがとう」

 ともう一度言いました。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:08:01.48 ID:QxgIwWOp0

 私とプロデューサーさんは二人並んで、駅へと歩き始めました。
 夏休みだからか人通りが多く、たくさんの人とすれ違いました。

 すれ違う人々は私自身ではなく、私とプロデューサーさん、

(傍から見れば、それはアイドルとプロデューサーというより、内気な妹を引っ張っていく仲睦まじい兄妹に見えていたでしょう)
 
 もしくは、ピアスを見ているような気がしました。

 一人で歩いているときよりも、ピアスをつけているときの方が、
 他の誰かと歩いているときの方が、私は視線を少しだけ気にしなくなるのだとわかりました。

 それは私の気がプロデューサーさんやピアスに少なからず向いていて、
 ピアスやプロデューサーさんもまた、私に向けられる視線を吸ってくれているからなのでしょう。

「そのピアス似合っている」

 電車が走り始めると、横の席に座ったプロデューサーさんが私に言いました。森久保は少し返事に困ってから、

「ありがとうございます」

 と答えました。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:09:41.09 ID:QxgIwWOp0

 母から貰ったピアス。
 私自身へと向けられる視線を少し吸収してくれるピアス。

 窓ガラスに映る自分の姿を見てみると、
 確かに私自身よりも、シンプルな水色のピアスに目が惹きつけられる気がしました。

 しかし、このピアスは私にとって、
 視線の緩和剤ではあっても、母の愛の象徴ではありませんでした。

『これをお母さんだと思って、いつでも乃々のことを見ているから』

『常に人に見られていると思って行動しなさい』

 私の頭にはこれらの言葉が渦巻いていました。
 ピアスをつけている間、私は、この言葉たちを思い出し、そして、このピアスを外すことは出来ない。
 
 このピアスは、私にとって、決して外すことのできない呪いのピアスなのでした。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:27:43.63 ID:QxgIwWOp0

 東京という街は人の多い街でした。
 ホームに降りてから見渡す限りの、ひと。ひと。ひと。
 私はこんな街でこれから過ごしていけるのかと、すぐさまアイドルになったことを後悔しました。

 ターミナルでタクシーを拾い、私とプロデューサーさんは、私が入る予定の寮へと向かいました。
 
 プロデューサーさんは、寮にはアイドルと他数名の女性従業員しか住んでいない、いわゆる男子禁制であることと
、明日から通うことになる事務所の場所を改めて私に告げました。

 事務所は寮から歩ける距離の場所にあり、電車に乗る必要がないのが唯一の救いでした。
 私には朝の満員電車に乗ることなんて、とても恐ろしくて出来そうにありません。

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:30:57.24 ID:QxgIwWOp0

「じゃあまた明日、事務所でな」

 タクシーが寮へと着くと、
 プロデューサーさんは私の荷物をトランクから玄関まで軽々と運び、事務所の方へと歩いて行きました。

 エントランスで入寮の注意事項を寮母さんから聞き、部屋の鍵を受け取り、
 私は大きなリュックとボストンバッグを担いで、自分の部屋を目指し始めたのですが、
 すぐに、寮生活というものはなかなか厄介なものだと悟りました。

 母の目がないことは確かですが、かわりに私と同年代か少しばかり年上のアイドル達の視線。
 みんな、新人である私のことをどんなものかと品定めするように見ている気がしました。

 アイドルになるような人達の大半は、
 自分が一番だ、一番になりたい、と思っているような人だと私は考えているので、
 そういった我の強い人たちの視線に入らないように、目立たないようにと、
 変わるわけでもない壁の模様を見つめながら、廊下の隅を歩きました。

 やっと思いで自分の部屋へとたどり着くと、
 私はすぐさまピアスを外して、荷物を解き、部屋の整理を始めました。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:32:02.07 ID:QxgIwWOp0

 整理をしながら、それでも私は、
 東京の街に来たことを、一人で寮暮らしを始めたことを、まだ楽しみに感じていました。

 母の目もなければ、クラスメイトの目もありません。
 それに、寮の中にはアイドルしかいません。
 
 アイドルをやっていることが当たり前なのです。
 アイドルだからと特別な目で見られることは、この寮の中ではありません。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:34:01.13 ID:QxgIwWOp0

 また、東京で私を知っている人なんて、それこそプロデューサーさんくらいでした。

 ですから、仕事の予定が入っている日以外は、部屋に引きこもり、漫画や本を読んで暮らしていよう。
 そう決心し、整理を終えると、私は早速ベッドの上で漫画を読み始めました。

 読み始めてすぐ、私のお腹がぐぅーと鳴りました。
 私は自分が仮にも成長期であること、人間は食べないと生きていけないことを思い出しました。

 部屋にキッチンはなく、当たり前ですが、引っ越し初日の冷蔵庫には何も入っていません。
 何かをお腹に入れるには寮の一角にある食堂を利用するしかありません。

 私は片付けたばかりの水色のピアスを取り出し、それを耳につけては、
 廊下の隅を、ぶつからないよう、見つからないよう、祈りながら、食堂を目指すのでした。
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:35:17.67 ID:QxgIwWOp0

 次の日からアイドルとしての本格的な生活が始まりました。

 私は、レッスンやプロデューサーさんとの会議の十分前には、
 レッスン室の前や会議室の前に設けられたソファに座るよう心掛けていたのですが、
 この待ち時間というものが、どうも苦手でした。

 手持無沙汰にならないようにと部屋から持ってきた、
 人目に晒しても何もおかしくない無難な本を読むのですが、集中できない。
 全くもって本の世界に入りこめないのです。

 あぁ、誰かに見られていると思いながら、私はぼんやりと本のページをめくるふりをするのでした。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:36:18.60 ID:QxgIwWOp0

 肝心のレッスンは、幸いにも私の担当となったトレーナーさんが裏表もなく、
 天使のように優しい人だったので、気が楽でした。

 トレーナーさんが難しいステップを踏んで、それを見た森久保が、

「むーりぃー」

 と首を振る。その森久保をトレーナーさんが笑いながら励ます。
 それは二人の中でのお決まりのパターンのようになっていきました。

 意外にも思われるかもしれませんが、私は運動が得意というわけではありませんが、嫌いではないのです。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:38:06.20 ID:QxgIwWOp0

 しかしそれは、個人として見た場合のみでした。
 
 月に何回か合同練習といって、他のアイドルたちと一緒に練習をする機会があったのですが、
 隣で踊るアイドルとの距離感、タイミングというものが
 どうにもつかめなくて、私は全くと言っていいほど踊れなくなるのでした。

「乃々ちゃん、いつもはもっと踊れるのに。緊張しているのかな?」

 優しく心配してくれるトレーナーさんに、私は罪悪感のような申し訳なさを覚えながら、

「むーりぃー」

 と小声で返事をするのでした。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:40:12.02 ID:QxgIwWOp0
「色々考えた結果、グループデビューではなく、ソロでデビューさせることにしたぞ!森久保ォ!」
 
 会議室でプロデューサーさんは私にそう告げました。
 
 出会った頃は乃々ちゃん呼びだったプロデューサーさんも、
 私のひねくれにあてられたのか、すっかり森久保呼びが定着しました。

「むーりぃー」

 と森久保が言うと、

「じゃあユニットでデビューするか?」

 と聞きました。

「ユニットはもっとむーりぃー」

 距離感やタイミングに気を配り続けるのもそうですが、相方に迷惑をかけるというのが、
 気にしてないよと言う笑顔の裏に、足を引っ張らないでという思いが見え隠れしているのが、
 私にはもっとむーりぃーなのでした。

46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:41:33.03 ID:QxgIwWOp0
「あの……デビューしないという手はないんでしょうか? 
 森久保はデビューしたいなんて一言も言ってないんですけど……」

「デビューしないアイドルなんて見たことあるか?」
「ないですけど……」

「そういうことだ。ところで森久保、今日のレッスンはキャンセルだ」
「帰っていいってことですか?」

 プロデューサーさんは首を振りました。

「会わせたい子がいるんだ」

 連れてこられたのは、いつもプロデューサーさんがデスク仕事をしている部屋でした。
 みんな出払っているのか、他には誰も見当たりませんでした。

 プロデューサーさんは迷いなく部屋奥の自分のデスクへと進んでいきました。
 忘れ物でもしたのかと部屋の入り口で待っていると、

「森久保こっちだ」

 デスクの方に私を呼びました。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:52:04.25 ID:QxgIwWOp0
「ほら、覗いてみろ」

 プロデューサーさんが机の下を指さすので、私はおばけか猫でもいるのかと、恐る恐る机の下を覗き込みました。
 そこには銀髪の、私と同年代くらいの女の子がいました。

「ど、どうした……親友」

 声は小さく、覇気がありません。
 親友とはプロデューサーさんのことを指しているようですが、とても親友同士には見えませんでした。
 どう見てもアイドルとプロデューサーでした。

「輝子、ちょっと出てきてくれ。新人アイドルの森久保乃々だ。俺の新しい担当アイドル。
 森久保、こっちは星輝子。ほら、以前名古屋で撮影かわってもらっただろ? あの時、出る予定だった子だ」

「あぁ……あのとき変わってもらった……。その説は……どうも助かったフフ……」
 
 輝子さんは机からのそのそと出てくると、私に軽く頭を下げました。
 長い銀髪にはところどころ寝癖がついていて、着ている服は、奇抜なデザインと色調でした。

 黄緑色の下地にたくさんのキノコがプリントされたTシャツがどこで売っているのか、私には想像もつきません。

 彼女が出てきた机の下には小さなプランターがあって、
 そこでは見たこともない様々な色のキノコが育てられていました。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:53:36.34 ID:QxgIwWOp0

 私はこのとき人生で初めて、親近感のような感情を覚えました。
 輝子さんが内気だったから親近感を覚えたというわけではありません。

 私の短い人生にも何人か内気な人は登場してきましたが、
 その人たちに、いわゆる、同族の臭いを感じたことはありませんでした。

 おそらく、輝子さんは内気なだけではなくて、何かを持っている。
 その何かが私をここまで安心させているのだと私は考えました。
 
 しかし、その何かが見当もつきませんでした。
 目の前の輝子さんは、私には、一風変わったキノコ好きのアイドルにしか見えませんでした。

「輝子、仕事の時間だから迎えに来た。撮影の仕事だ。
 今日は森久保にも仕事を見てもらいたいから連れていく。森久保、そういうことだから」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 20:54:34.69 ID:QxgIwWOp0
「わかりました」

 と私は答え、輝子さんの観察を続けました。輝子さんは、

「撮影か、嫌だな……」

 と呟くと、それきりでした。髪を整える気も着替える気もないようでした。
 どうやらそのままの姿で撮影会場へと向かうようでした。

 輝子さんは時間直前まで霧吹きをキノコにかけたりして、机の下の世界を世話していました。
 
 輝子さんの何にそこまで惹かれたのだろう。私はますます首をひねりました。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 21:29:04.39 ID:QxgIwWOp0

 向かった先は、以前、私が写真をとった場所と同じようなつくりのスタジオでした。プロデューサーさんが元気よく、

「今日はよろしくお願いします」

 と頭を下げ、それに続いて輝子さんも頭を下げました。
 
 フラッシュが一斉にたかれると、輝子さんは笑顔をひきつらせました。ポーズもどこかぎこちない。

 私の撮影もあんな感じだったのかと、以前の撮影の悲惨な様子を思い出すと、
 自分はどうして笑うことすらできないのだろうと私はまた、辛い気持ちになるのでした。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:06:53.61 ID:QxgIwWOp0

「ううう、そんな風に……光を当てられると……私……怖いから……」

 輝子さんが目を細め、うめきました。
 光が怖いと言っていますが、
 輝子さんもおそらく私と同じで(程度はわかりませんが)人の視線が怖いようでした。

 案の定といいますか、撮影は滞り、スタッフさんは少し困った様子で輝子さんを見ました。
 私の苦手な、今にもため息が聞こえてきそうな顔でした。
 
 その光景を見るに耐えられなくなって、
 私は横にいたプロデューサーさんに、助けなくていいのかと尋ねました。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:10:50.92 ID:QxgIwWOp0

「大丈夫だ。もうすぐだから」
 
 何のことかさっぱりわからず、
 私は、仲間を助けたくても助けられないサバンナの小動物のような惨めさを覚えながら、
 ただ輝子さんを見つめました。
 
 輝子さんのちっちゃな身体はさらに小さくなっていき、やがて、細かく震え始めました。
 
 あぁ、限界がきたのだと、私は嘆き、
 目の前で起こっている惨劇からついに目を背けると、プロデューサーさんが、

「森久保よく見ておけ」

 と言いました。
 
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:13:18.37 ID:QxgIwWOp0
 
 私は、なんてこの人は残酷な人なのだと思いながらも、おずおずと輝子さんに視線を戻しました。
 
 すると、細くなっていた輝子さんの目は次第に大きく見開いていき、真っ黒だった瞳は色が抜けていきました。
 そして、瞳の色が黒からグレーへと完全に変化したとき、輝子さんは変身しました。

「フフ……フヒヒ……ヒャッハー!!」

 輝子さんの甲高い叫び声がスタジオに響きました。さっきまでとはまるで別人でした。
 私とスタッフさんは、輝子さんのあまりの変貌ぶりに声を失くし、プロデューサーさんだけがいつもどおりでした。

「アーハハハハハッ! 撮れよォッ! ブラッディィィィ・ショット!!」

 カメラさんは写真を撮り始めました。

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:14:58.94 ID:QxgIwWOp0

 再開された輝子さんの撮影を眺めながら、プロデューサーさんは輝子さんの説明をしました。
 曰く、基本あがり症だけど、極度に緊張するとメタルな輝子さんが出るとのことでした。

 プロデューサーさんの説明を聞いて、
 撮影が始まる前に感じていた輝子さんへの何かがふっと胸に落ちたのを私は感じました。

 輝子さんのメタルと私の森久保。
 
 それは種類こそ違いますが、実質のところは同じ、
 他人の目に対する極めて変わった必死のアプローチ、弱い自分を守るための仮面でした。

 だから私はこんなにも、輝子さんに親近感のようなものを覚えたのです。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:16:06.88 ID:QxgIwWOp0

 それから私と輝子さんはとても仲良くなりました。
 私にとって輝子さんは同志でした。私は輝子さんの視線が全く気になりませんでした。
 
 輝子さんも私に親近感を覚えてくれたのか、
 私たちはお互いに敬意をこめて、ボノノさん、キノコさんと呼び合う仲になりました。

 以下、キノコさんと書いていきます。


56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:21:24.16 ID:QxgIwWOp0

 キノコさんと仲良くなったことにより、
 私のアイドル生活は今までと比べ物にならないくらい楽なものになりました。

 学校でも事務所でも寮でも、私たちは時間さえあれば二人一緒に過ごしました。

 大抵の時間、キノコさんはキノコの世話をし、私は本を読んでいました。
 一緒にいるといっても、仲睦まじく話をするわけではなく、ただお互い、傍にいるだけでした。
 
 ですが、その時間は私たちにとって、とても平和な時間でした。
 
 私たちはお互いを、盾やクッションだと認識することで、他人の目を和らげて過ごしました。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:23:24.57 ID:QxgIwWOp0

 また、キノコさんのお気に入りの場所である、
 プロデューサーさんの机の下というのも、なかなかの盲点でした。

 その世界に入ってしまえば、キノコさんとプロデューサーさんの視線以外は届きません。
 多くの人は、私が机の下に入っていることにすら気づかない。
 気づいたとしても変な人、変わった人だ(森久保らしい)と見るだけです。

 キノコさんがいない日でも、私はプロデューサーさんの机の下で過ごすようになりました。
 プロデューサーさんはそんな私の様子を見て、

「輝子とは仲良くなれそうだと思っていたから、仲良くしている光景は微笑ましいけど、
 まさか輝子と同じように机の下に住むようになるとはなぁ。これは狭くてかなわん」

 と苦笑しました。私が本格的な机の下暮らしを始めると、それから数日後に、
 何故かプロデューサーさんの隣の机が空き机となって、その机に私は移りました。
 
 私とキノコさんは一人一台、お隣さんということになりました。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:28:48.32 ID:QxgIwWOp0

 プロデューサーさんは私とキノコさんにお揃いの仕事を持ってくるようになりました。
 
 歌番組やグルメレポは私たちにはまだ早いと判断したのか、
 ラジオや写真撮影といった比較的優しい仕事がほとんどでした。

 撮影現場では、先輩というのもあってか、キノコさんが私のリードをしてくれました。
 写真を撮るのもキノコさんが先で、
 ラジオでもキノコさんが慣れないながらに会話を回し、私に話を振ってくれました。

 私はそれこそキノコにつく胞子のように、キノコさんの動きや会話に合わせるだけでいいのでした。

 そうして私は少しずつアイドルの仕事を理解していきました。
(理解したからといって、慣れるということはなく、いつもからくりのようにぎこちない動きを繰り返していましたが)
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:33:23.30 ID:QxgIwWOp0

 そして、これは想定外というか、想像すらしていなかったのですが、
 私の森久保というキャラは、世間に受けました。

 私の森久保は、キノコさんのメタルと違い、他人がいるところでは常時発動しているようなものでした。
 また、メタルほど変化がわかりやすいものでもありません。

 ようするに、私と森久保の境界は曖昧で、私自身、今が、
「私か森久保か」と聞かれると、正確に答えることができません。

 ですから、例えばラジオ番組の撮影で、キノコさんは普段のままでも、私は森久保として、

「森久保は」とサービスをしてしまい、それを聞いた視聴者が、以前のクラスメイト達と同じように、

「乃々ちゃんは面白い」と反応するのでした。
 
 他者の視線への対抗策であるはずの森久保が、私を有名にするのはなんとも皮肉なことでしたが、
 同志を得てもやはり、私には他者との関わりがどうすればいいかわからず、
 ピアスをつけ、森久保を演じ続けるしかないのでした。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:36:25.47 ID:QxgIwWOp0

 冬の始まりのころでした。草木が枯れていた記憶があります。

「ソロライブの時期が決まったぞ!森久保ォ!」

 死刑宣告、でした。それは以前言われたときよりも具体性が増していて、
 企画書には、森久保乃々、ソロライブデビュー! と恐ろしい文字が書かれていました。

「ソロライブなんてむーりぃー」
「じゃあグループでデビューするか?」
「グループはもっとむーりぃー。キノコさん、キノコさんと一緒ではダメなんですか?」
「輝子はもうデビューしているしなぁ。このライブは初ライブの子しか出せないんだ」
 
 プロデューサーさんは一つずつ説明をしていきました。時期は三月の末。三か月以上先の事でした。
 その間、仕事の量は減らし、空いた時間をレッスンに充てる。
 プロデューサーさんも出来る限り同席し、様子を確認する。私はもう一度首を振りました。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:39:05.90 ID:QxgIwWOp0

「むーりぃー」

 動作こそ小さいですが、心の中では大きな悲鳴があがっていました。
 プロデューサーさんは一瞬困った表情を見せるも、すぐにひたむきな表情へと変わりました。

「なぁ森久保聞いてくれ。ライブが出来ないってなると、アイドルではいられない。
 つまり実家に帰ることになるし、輝子とも会えなくなる。お母さんも輝子も悲しむと思うんだ」
 
 キノコさんのことも寂しく思いましたが、それよりも、実家と聞いて、私は頭を抱えました。

 アイドルをやめて実家に戻ったとしたら、
 母に、叔父に、クラスメイトは、私を受け入れてくれるでしょうか。

 アイドルを目指したが、アイドルになれなかった。
 いわゆる、出来そこないの烙印を押されるのではないでしょうか。

 考えるだけでピアスがじんと痛みました。
 私はあの人達の期待を裏切るような真似は、絶対にしてはいけません。出来ません。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:41:52.87 ID:QxgIwWOp0

「いいか、森久保。俺は誰にでもこういうことを言うわけじゃないんだ。
 森久保も輝子も、アイドルになれると思ったから俺はスカウトしたし、今もプロデュースしているんだ。
 それに森久保は新人アイドルとしては異例なほど知名度があるじゃないか」
 
 私は、例の森久保によってか、
 新人の中ではそこそこ名の売れた、いわゆる期待のアイドルという立場になっていました。

「だから森久保。すぐに嫌だと首を振らず、少しだけ頑張ってみないか?」
 
 プロデューサーさんは、私の目を覗き込みました。真っすぐな瞳でした。他の色は見えません。
 私は途方にくれました。プロデューサーさんも間違いなく、私に期待をしていました。

 色の見えないその期待が、他の人たちが私に抱く期待と、
 どのように違うものなのか、私には相変わらず見抜けませんが、
 お気づきのとおり、私にはこの期待を振り払うだけの強さはありません。

「そこまでいうのなら……。森久保少しだけやってみますけど……」

 私にはそう答えるしかありませんでした。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:44:27.38 ID:QxgIwWOp0

 それからは文字通り、レッスン漬けの日々でした。
 内容は今までの基礎的なものに応用も加わるようになり、よりハードなものになりました。

 プロデューサーさんは宣言通り、極力私のレッスンへと顔を見せました。
 部屋の隅からレッスンの様子を観察し、休憩時間になると、
 トレーナーさんと進行状況の確認や、どこがよかった、ここがいまいちだ、と話しました。
 
 その指摘はもっともなことが多かったので、
 どうやら私がプロデューサーさんに会ったときから感じている直感は正しく、この人は単純な人ではないようでした。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:48:25.66 ID:QxgIwWOp0

 私はレッスンに必死についていきました。
 レッスンを頑張るのは自分のためでもあり、相手のためでもありました。

 私は、踊りが上手になりたいと、これっぽっちも思ったことはありませんが、
 私が踊れないと、イベントに一緒に出演するアイドル達に迷惑をかけてしまう。
 トレーナーさんやプロデューサーさんの評価をさげてしまう。

 私は他人に迷惑をかけるわけにも、他人から失望されるわけにもいきませんでした。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:50:01.94 ID:QxgIwWOp0

 しかしながら、レッスンを終え、床に倒れながら、大げさに空気を身体にかきこむ。
 
 そんな日々を一ヵ月ほど続けていると、私は、
 こんなレッスンを毎日やるのかと、このままでは運動嫌いになってしまう、
 それにレッスンをしたところで待っているのは恐ろしいデビューライブではないかと、
 それこそ地獄の苦行のような気がしてきて、レッスン前日の夜から気が滅入るほどには、レッスン自体が嫌いになっていきました。
 
 そこで考えたのが、かくれんぼでした。
 
 これは私とトレーナーさんとプロデューサーさんの仲が、
 そこそこ進展してきたと判断できたからこそ出来る、私の逃避かつ主張の手段でした。
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