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ギャルゲーMasque:Rade 美穂√
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58 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/24(水) 20:25:07.03 ID:z6RN/Ii90
美穂「……思えば……わたしはまだPくんに、ちゃんと気持ちを伝えて無かったと思うんです」
そう言えば、そうだったかもしれない。
観覧車で美穂が口にした言葉は、『ずっと前から……わたしの心は、決まってますから』だった。
美穂「あの時はズルしちゃって、後ろめたかったですけど……今回は本当に福引で当てて、アルバイトして稼いで……もう、迷いはありません」
P「あぁ、俺ももう……迷いなんてない」
美穂「……ねえ、Pくん」
すぅ……と、深呼吸して。
美穂は、想いを言葉にした。
美穂「わたし……Pくんの事が、大好きです!出会った時からずっと、Pくんの事を見つめる度にドキドキして、目が合う度に運命なんじゃないかな?って思っちゃって……っ!」
美穂の声が大きく響く。
けれどそれを聞いているのは俺だけで、俺だけに向けられた言葉で。
美穂「気付いて欲しくて……でも、気付かれたくなくって……っ!今の関係が壊れちゃったらどうしよう、友達でいられなくなっちゃったらどうしようって……不安で、言いたくて、言えなくて……!!」
美穂の言葉は止まらない。
止めどなく溢れる想いを抑えられず、次々と言葉が紡がれる。
美穂「Pくんが笑顔を向けるのが、わたしだけじゃなくても良いんです……怖いのは、わたしに笑顔を向けてくれなくなっちゃう事で……側に居られなくなっちゃう事で……っ!」
組んだ腕が強く引き寄せられる。
美穂の声は、少しずつ震えていって。
それでも、独白の様な告白は続く。
美穂「でも……Pくんが、他の子と結ばれちゃったら……壊れちゃうから!わたしは……嫌だから!離れたくないから!Pくんの側に居たいからっ!だから!一歩、踏み出したんです……っ!」
溢れる涙なんかに歪まず。
美穂はただ、俺の目だけを真っ直ぐに見つめて。
美穂「Pくんっ!お願いだから……お願いだからっ!ずっと!わたしの側にいて下さいっ!!」
そう、最後まで言葉にした。
美穂の気持ちが此処まで強いものだったと、今初めて知った。
美穂の悩みが此処まで大きいものだったと、今漸く気付けた。
けれど、それに対して。
俺が返すべき言葉なんて、もう決まっている。
59 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/24(水) 20:25:43.86 ID:z6RN/Ii90
P「……何があっても、俺は美穂の側を離れたりしないよ」
美穂「……っ!……ほんと、ですか……?」
P「あぁ。俺は……美穂の事が好きだ」
ずっと自覚がなかったままだっただけで。
俺も、美穂の事が大好きだった。
P「だから、もし美穂が離れたくなっても……離さないからな?」
美穂「……うっ……ぅぁあぁぁぁっっ!!!!」
抱き付いて、涙を流す美穂。
それを俺は、優しく抱き締めた。
P「……な、なんて……流石にクサ過ぎたか?」
美穂「ううんっ……!嬉しいんですっ!っ!嬉しいけどっ、っうぁぁっ!!」
しばらく美穂が落ち着くまでこうしていよう。
背中をさすりながら、頭を撫でる。
美穂「とってもっ、不安だったんです……っ!キスをした日から……壊れちゃうんじゃないかな、嫌われちゃうんじゃないかなって……っ!」
P「俺が美穂を嫌う訳無いだろ」
美穂「Pくんが優しい人だって、分かってたのに……っ!古書店でキスして、Pくんがわたしの事を想ってくれてるって感じてから……尚更、今の幸せを失うのが怖くてっ!!」
P「……なぁ、美穂」
美穂「……は、はい……っ?!」
美穂を少し強く抱き寄せて。
俺は、自分から唇を重ねた。
P「……っふぅ……自分からするのってめちゃくちゃ緊張するな」
美穂「あ……え、えっと……あの……」
顔を真っ赤にして、プルプル震える美穂。
あぁ、ほんと可愛いな。
P「美穂が不安な時は、いつだって側に居るから。なんなら不安じゃなくたって側に居るし、俺は側に居たいし、更にキスのおまけ付きだ!」
美穂「その……あ、ありがとうございますっ!」
P「だから、今が幸せなら……失くす事が怖いなんて思う暇も無いくらい、もっと幸せになろう」
美穂「……うん。ありがと、Pくん」
P「……こっちこそありがとう。これからもよろしくな?」
60 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/24(水) 20:26:14.11 ID:z6RN/Ii90
ようやくお互い、全てを言葉に出来た。
もう、悩みも不安も無い。
美穂「……Pくん!」
P「なんだ?」
美穂「いっ、今!わたしはとっても不安ですっ!」
P「え、この流れで?!」
美穂「だ、だから……き、キスして下さいっ!」
P「お、おう!」
唇を重ねようとする。
P「っ?!」
重なった瞬間、美穂の唇が開いた。
当然俺の口も開き、そのまま舌が絡み合う。
美穂「んっ、んちゅ……っちゅぅ……んむっ、っちゅっ……っ」
なすがままに流され、俺も美穂とのキスを堪能する。
美穂「っんっ、ぷぁ……えへへ。し、しちゃいました……大人なキス」
上目遣いに、頬を染める美穂。
……反則だろ、なんだこの可愛い俺の恋人。
あ、俺の恋人だ。
P「……まだ不安か?」
美穂「わたしが不安なら……また、キス出来ますか?」
P「俺としては、不安じゃない美穂とキスがしたいんだけどな」
美穂「い、今!わたしはとっても安心してます……っ!」
P「よし、キスだ!」
再び、ディープなキスをする。
なんか色々と流れがあれな気はするが……
……まぁ、美穂が笑顔ならそれでいいか。
61 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/24(水) 20:26:41.45 ID:z6RN/Ii90
李衣菜「遅いよ二人共。もうお腹ペコペコなんだけど」
文香「いえ……?怒ってはおりませんが……?空腹に苛立つなんて、それこそ文学少女らしくありませんから……?」
部屋に戻ると、呆れた李衣菜と般若と化した文香姉さんが待っていた。
既に料理は並べられ、後は小鍋に火を掛けるだけとなっている。
P「えっと……申し訳ありません、遅くなりました」
美穂「え、えへへ……」
李衣菜「……P、その腕にへばり付いてるのは?」
P「紹介します。俺の恋人です」
美穂「しょ、紹介されちゃいました……っ!恋人ですって紹介されちゃいました……っ!!」
李衣菜「……えぇ……」
美穂「あ、申し遅れました!Pくんの恋人の小日向美穂ですっ!」
李衣菜「いや、美穂ちゃんの事は前から知ってるけどさ……」
文香「……み、美穂さん……?」
なんと言うか、うん。
美穂、幸せそうだな。
美穂「ね?Pくんっ!わたし達恋人ですよねっ?」
P「お、おう……まぁ、そういう事です」
美穂「えへへ……Pくん……」
李衣菜「良かったね、美穂ちゃん。恋が成就して……うん、聞いてなさそう」
文香「では、お祝いに夕飯を食べましょう」
P「……なぁ美穂。ほら、夕飯食べるぞ」
美穂「っ!あっ、あわわわわ……わ、わたし、すっごく恥ずかしい事言って……っ!」
P「……恋って、怖いな」
李衣菜「人を変えるんだね」
美穂「で、でもっ!わたしの想いは変わりませんからっ!」
文香「……人が変わる、その最たる例の様な光景を………私たちは現在進行形で見ているのですが……」
P「まあ、可愛いからオッケー」
美穂「か、可愛いなんて……っ!簡単に言わないで下さいっ!」
P「ダメなのか?」
美穂「ダメじゃありませんっ!」
P「可愛い」
美穂「や、やっぱりダメッ!」
李衣菜「あ、この塩美味しい」
文香「露天風呂のお湯も、お砂糖が効いてて美味しそうですね」
P「あの……なんか、ごめん」
62 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/24(水) 20:27:40.34 ID:z6RN/Ii90
食後、なんとか美穂を剥がして部屋に帰って貰った。
怒涛のライン通知ラッシュを少しだけ無視させて貰って、布団に寝っ転がる。
P「ふぅ……」
文香「……お疲れ様です、P君」
P「ごめんな、姉さん。なんと言うか……色々と」
文香「いえ……とても、楽しい旅行だと思います」
P「なら良かった」
文香「P君も……彼女を幸せにしてあげて下さいね?」
P「もちろん」
文香「……私と美穂さん、交代しましょうか?」
P「いや、いいよ。流石にこう……把握されてる状態でってのはな」
文香「……ふふっ、そうですか」
P「それじゃ、おやすみ」
文香「おやすみなさい。ところでP君……ラインの方は、よいのですか?」
P「……」
スマホを開く。
わぁ、通知がいっぱい。全部美穂。
あ、一件だけ李衣菜。
P「……一回向こうの部屋行ってくる」
文香「李衣菜さんには、迷惑を掛けないであげて下さいね……」
63 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:46:06.29 ID:IEKb2xN80
P「あー……眠い」
ゴールデンウィーク明け最初の学校は、とんでもなく眠かった。
昨日もずっと美穂とラインして、気付けば夜が明け掛けていて。
そしてその美穂といえば、現在進行形で眠っている。
凄いな、朝のHRで机に突っ伏して今四時間目終わったとこだぞ。
美穂「寝てません……寝てま……っ、Pくん……寝てません……」
まゆ「……美穂ちゃん、幸せそうな寝顔ですねぇ」
P「もう直ぐ中間テストなんだが、大丈夫なのかな」
美穂「……んっ、Pくん……そこは……んぅ……」
P「…………」
まゆ「……Pさん、今のは……」
P「いや、まだ何もしてないから。マジで」
加蓮「ねぇ、鷺沢。何かお土産無いの?」
P「美穂が持って来てる筈だぞ」
智絵里「……え?Pくん……美穂ちゃんと温泉旅行に行ったんですか……?」
李衣菜「私と文香さんも一緒にね」
智絵里「……そっか。良かった……」
まゆ「で、美穂ちゃんはずっと眠っていますねぇ」
加蓮「まぁお土産は後ででいいや。お昼食べない?」
P「あ、俺今日弁当作って来てないから食堂行ってくるわ」
まゆ「お供しますよぉ」
智絵里「わ、わたしも……っ!」
李衣菜「私は美穂ちゃんを起こしてから行こっかな」
加蓮「……多分起きないんじゃない?一緒に教室で食べよ、李衣菜」
李衣菜「うん、そんな気はしてる」
64 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:46:36.51 ID:IEKb2xN80
P「あー、食堂使うの久しぶりな気がするわ」
まゆ「まゆも、普段はお弁当ですからねぇ」
智絵里「わ、わたしは時々来ますけど……」
P「……混んでるな」
まゆ「ですねぇ」
学食は、混んでいた。
溢れかえるほどの女子生徒が右往左往している。
四月は気合い入れて弁当作ってた生徒が、大体この時期にめんどくさくなって学食使い出すんだよな。
P「取り敢えず席取って、その後食券買うか」
智絵里「席、空いてるかな……」
三人分空いてるテーブルを探すが、中々見つからない。
まゆ「あっ、向こうにありますよぉ!」
まゆが指差す先には、まるまる空いた四人席のテーブル。
まゆ「まゆが確保しておきますから、先に買って来て下さい」
智絵里「ありがとう、まゆちゃん」
P「助かる、すぐ戻って来るから」
まゆ「……待ってますよぉ、まゆは……二度と戻って来ない貴方の事を……」
P「勝手に殺すな」
智絵里ちゃんと二人で、券売機に向かう。
当然ながら券売機もかなり並んでいた。
中々前に進まず、進むときも殆ど摺り状態での移動になる。
智絵里「……お昼休み終わるまでに、食べられるといいですね……」
P「だな……これ食券買った後にカウンターも行かなきゃいけないし」
そっちもかなりの行列だ。
65 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:47:02.94 ID:IEKb2xN80
智絵里「きゃっ!」
更に別のクラスの授業が終わったのか、また人口密度が跳ね上がる。
満員電車の様に周りの生徒に押されて、智絵里ちゃんがこっちに倒れそうになっていた。
P「大丈夫か?」
その肩を横から支えて、何とか倒れるの阻止する。
智絵里「えっ、あっ……あ、ありがとうございます……」
P「危ないな……食堂もう一個作ればいいのに」
智絵里「ふ、普通に広くすればいいんじゃないかな……」
ギュウギュウ詰め状態で、少しずつ前に進む。
智絵里ちゃんとかなり密着してしまっているが、今はそんな事気にしてられる状態じゃない。
ようやく定食を手に入れて席に戻る頃には、お互いクタクタになっていた。
P「ふぅ……疲れた。まゆもあの人間密林にどうぞ」
まゆ「あ、まゆは普通にお弁当があるので大丈夫ですよぉ」
智絵里「な、何で着いてきたんですか……?」
まゆ「それはもちろん……」
智絵里「……も、もちろん?」
まゆ「久しぶりに食堂で食べたいテンションだったからです」
P「何となく分かる」
智絵里「……そうですか」
うん、定食美味しい。特に味噌汁。
案外自分で出汁とってちゃんと作ろうとすると大変なんだよな。
P「あー……そろそろ中間かぁ」
まゆ「修学旅行前の関門ですねぇ」
智絵里「そうですね……参考書買いに行かないと……」
P「あ、なら放課後うち来ない?色々あるから見てったらどうだ?」
智絵里「えっ?……そ、そうします……っ!」
まゆ「密林がオススメですよぉ」
P「おい」
まゆ「くっ……まゆの読モのお仕事が入ってる日に……っ!」
智絵里「……えへへ。二人っきりです」
まゆ「……」
ん?味噌汁冷めた?
なんか食堂全体が冷たくなった気がする。
P「いや、まぁ文香姉さんいると思うけどさ」
智絵里「……」
……さらに冷たくなった。
冷房はまだ早いと思うんだけど。
P「さて、教室戻るか」
まゆ「ですねぇ。そろそろ美穂ちゃんがお腹を空かせて起きるんじゃないですかぁ?」
智絵里「……あ、お味噌汁に茶柱が」
まゆ「立つわけないじゃないですか」
66 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:47:52.07 ID:IEKb2xN80
美穂「っ!ダメッ!そ、そこはフォッサマグナだからっ!」
李衣菜「……おはよう、美穂ちゃん」
加蓮「……どんな夢見てたの、美穂……」
美穂「……えぁ、ええと……ね、寝言だから覚えてないです……っ!」
加蓮「お昼休み終わっちゃうよ、早く食べたら?」
美穂「ねぇ、加蓮ちゃん。わたしがどんな夢を見てたか気になりませんか?」
加蓮「いや、全然」
美穂「ですよねっ!す、少しだけ教えてあげますっ!」
加蓮「会話して?」
李衣菜「覚えてなかったんじゃないの?」
美穂「実は……んんん〜〜っ!言えませんっ!」
加蓮「李衣菜、ワサビ持ってない?」
李衣菜「ワサビ携帯するJKってどうなの?」
美穂「ね、Pくんっ!」
李衣菜「……いや、P居ないけど」
加蓮「まゆ達と食堂行ったよ」
美穂「……………………」
李衣菜「美穂ちゃんステイ、一回座ろう」
加蓮「あっれ、美穂ってこんなキャラだった?」
李衣菜「一昨日に返事貰ってから、ずっとこんな感じかな」
加蓮「……ふーん」
美穂「……ふぅ。ええと、何の話でしたっけ?」
加蓮「鷺沢が食堂」
李衣菜「美穂ちゃん待って、まだ食堂を営業し始めたっていう可能性を信じて」
美穂「……ずっと側に居るって約束したのに……」
李衣菜「日常生活を送る上で、かなり難しいんじゃないかなぁ」
美穂「なんて、えへへっ。ちょっと悪ノリしてみました」
加蓮「……目、笑ってなかったけど」
李衣菜「何処から悪ノリなのかによるよね」
67 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:48:41.49 ID:IEKb2xN80
美穂「Pくんが側に居られない時用の……じゃんっ!P君ですっ!」
加蓮「……クマのヌイグルミだよね?それ、鷺沢の魂を閉じ込めてるとかそういうのじゃ無いよね?」
李衣菜「……あ、前にUFOキャッチャーってPに貰ったやつ?」
美穂「はい、P君って呼んでるんです」
加蓮「それが美穂の精神安定剤なんだ」
李衣菜「言い方」
美穂「一晩中『スキ』って囁き続けてるんですっ!」
李衣菜「呪詛かな?」
加蓮「……なんか、後々曰く付きのヌイグルミになりそうだね」
美穂「時々、ちゃんとお返事してくれるんですっ!」
李衣菜「ヤバイヤバイヤバイヤバイ」
美穂「……あの、冗談ですよ?」
加蓮「…………」
李衣菜「…………」
美穂「ひ、酷いっ!」
加蓮「まぁ、今の美穂見てるとね……」
李衣菜「さ、喋ってないでお弁当食べたら?」
美穂「もう、二人とも……」
ガラガラ
P「ただいまー」
美穂「あっ、お帰りなさいっ!」
智絵里「Pくん、その……放課後、楽しみにしてますから」
まゆ「いいですねぇ、まゆも行きたかったです」
美穂「……………………」
李衣菜「美穂ちゃんヌイグルミ放そ?!なんか首苦しそうだから!」
加蓮「ヌイグルミに『なんで?』って呟き続けるのは普通に怖いって!」
68 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:50:05.68 ID:IEKb2xN80
P「ただいまー姉さん」
智絵里「お、お邪魔します……」
文香「お帰りなさいなさい、P君。お久しぶりです、緒方さん」
美穂も来るかなと思っていたが、修学旅行へ向けての買い物の約束を李衣菜としていたらしい。
とびっきりの笑顔に冷たい視線でお別れしたのを覚えている。
P「さて、智絵里ちゃん。どの辺りの教科が必要なんだ?科学系か?」
智絵里「えっと……保健体育だったり……」
P「……そこによく分かる国民皆保険制度って本ならあるけど」
智絵里「な、なんて……う、嘘ですよ?化学と数です」
P「なら確か向こうの本棚だな」
確かこの辺りに……あったあったチャート系。
智絵里「あっ、ありがとうございます」
P「あとは……化学か」
智絵里ちゃんに確認しようと、そちらを向いて。
智絵里「……あっ」
P「うおっ」
思った以上に智絵里ちゃんの顔が近くにあって驚いた。
智絵里ちゃんもまた、顔を真っ赤にしている。
智絵里「ごめんなさい……その……真面目なPくんって珍しくって……つい……」
P「いや、こっちこそ変に驚いてすまん。あと俺はいつでも真面目だからな?」
智絵里「そうですよね……っ!えっと……Pくんはいつも真面目で優しくて、素敵な男の子だと思いますっ!」
P「そこまで言われると逆に恥ずかしいな……」
智絵里「ほ、ほんとの事ですから……」
P「えーっと、ありがとう」
嬉しいっちゃ嬉しいけど、なんか恥ずかしいな。
褒められるのに慣れてないからだろうか。
智絵里「……あの、Pくん」
えっと、化学化学……
智絵里「……Pくんって……その、好きな人とかって……」
P「あ、あったあった化学のエッセンス。すまん、なんだ?」
探すのに集中していて聞いていなかった。
智絵里「……い、いえ。なんでもないです……」
P「さて、あと何か必要なものはあるか?」
智絵里「大丈夫です……えっと、ありがとうございました」
文香「P君、すみませんが……その、荷物を運ぶのを手伝って頂けないでしょうか」
P「あ、おっけー姉さん」
智絵里「な、なら……わたしは、今日は帰りますね」
P「あいよ。また明日な、智絵里ちゃん」
智絵里「……はい……っ!また明日ね、Pくん!」
69 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:51:41.19 ID:IEKb2xN80
作業を終えて一人で『本』を読む。
……やっぱこの表紙のイラスト、美穂に似てるよな。
……良いな、うん。
美穂がこんな風に……ごほんっ!
P「……セメられたいな」
美穂「……セメられたいんですか?」
P「うん、良くない?」
美穂「わたしに同意を求めないで下さい……」
P「だよなぁ……」
美穂に聞く訳にはいかないよなぁ、うん。
……美穂に…………?
P「……よう、美穂」
美穂「さっきぶりです、Pくん」
P「あぁ、さっきぶり。さ、送ってくよ」
立ち上がろうとする。
肩を押さえつけられて、再び椅子に座らせられた。
美穂「そんな慌てなくてもいいじゃないですか。もうちょっと、わたしとお喋りしませんか?」
わぁ、声が平坦。
物凄く低いトーンで、まったくブレずに。
P「……あ、あぁ。そうだな。中間試験に向けて勉強してるか?」
美穂「まだです。Pくんは……保健体育の勉強に熱心ですね」
P「えっと……理数の科目を重点的に勉強しようと思っていたところです」
美穂「その本で出来るんですか?」
P「この本では出来ません」
美穂「じゃあ、なんでそんな本を読んでいたんですか?」
P「それは……えっと……き、気分転換に……」
美穂「気分転換に、Pくんは、恋人そっくりのイラストで、保健体育を学習するんですね」
P「……あの、ごめんなさい」
と言うか、いつの間に来たんだ。
70 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:52:29.36 ID:IEKb2xN80
美穂「……あ、わたしに構わず他の本も読んでお勉強して下さい」
P「い、いえ。これ一冊しか所持していません。俺は美穂一筋だからな」
美穂「えっ、あっ、そ、そうですか……えへへ……いえ、この本の登場人物はわたしではありませんけど……」
P「いや、でもこの展開は憧れ……ないです、はい、ないです。ちょっと普通の会話しようぜ」
美穂「……憧れ、なんですか?」
P「いや、あの、ほんと勘弁して」
美穂「……したいですか?」
P「めっちゃした……いや、別に俺はそういうの目的で付き合ってる訳じゃないんで」
美穂「え…………し、したくないんですか……?」
なんでそこでそんなに凹むんだ。
美穂「……わたし、魅力ないのかな……」
P「……したいけどさ。めっちゃ魅力的だし、二人っきりになったら我慢出来なくなっちゃうかもしれないけどさ」
ついつい言ってしまった。
いや、もうこれ以上口が滑るとマズイしやめよう。
美穂「……今、二人っきりですね」
……って、考えていたのに。
美穂のその言葉に、俺はかなりグッときた。
P「……だな」
美穂「……我慢、出来なくなっちゃうんじゃないんですか?」
P「……きょ、今日は我慢出来そうかな!」
美穂「が、我慢は身体に毒ですっ!」
P「マジか!我慢やめるわ!」
美穂「……さ、さぁ……!どうぞっ!」
ガバッと両腕を開く美穂。
そんな美穂を抱き寄せて、俺は少し無理やり唇を奪った。
美穂「んっ!……んちゅっ……んぅ、ちゅぅ……くちゅ……んっ」
唇を絡ませ合い、お互いにキスを堪能する。
美穂「……っ、んぅっ……んちゅ、っちゅぅ……っ!」
お互いの身体はかなり密着している。
そんな状態で美穂は、身体を捩らせて擦り付けてきた。
美穂「んっ!んんっ……っちゅ、くちゅ……んむっ……っっ!!」
貪る様に激しいキスをする美穂。
俺の手は、自然と美穂の胸に伸びて…………
71 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/26(金) 02:52:55.67 ID:IEKb2xN80
コンコンッ
P「うぉっ?!」
美穂「え、あっ……!」
ノック音に驚いて飛び上がり、美穂と少し離れる。
ガチャ
李衣菜「おーい美穂ちゃん、走って置いてかないで……………あ」
P「よ、よう李衣菜」
美穂「…………李衣菜ちゃん」
李衣菜「……もしかして、邪魔しちゃった?」
P「いや、むしろ助かったわ」
李衣菜が来てくれて良かった。
若干どころじゃなく、流れに流されてた。
李衣菜「……で、P。その本は……えっとー……」
P「……あ」
机の上には、美穂そっくりのイラストが表紙に描かれた『本』。
P「……理数科目の参考書だ」
李衣菜「チャートとエッセンスに謝ろ?」
美穂「わ、わたしがエッセンスって事にっ!」
李衣菜「ならないで!」
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/27(土) 00:56:11.01 ID:19ClDgs50
化学のエッセンスって懐かしいけどなんか違和感と思ってたら物理か
73 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:28:58.30 ID:XIizMTPvO
P「……飛行機って、なんで飛ぶんですかね」
ちひろ「飛行機だからだと思いますけど……航空力学的なお話をご所望ですか?」
P「……陸地や海を走る飛行機があっても良いと思うんです」
ちひろ「それほんとに飛行機ですか?」
修学旅行一日目。
当然ながら一番最初のアトラクションは飛行機による空中ツアーで。
この飛行機のチケットが天国への片道切符にならないことを祈りつつ、俺は気圧差の耳キーンに耐えていた。
ちひろ「飛行機での事故発生率は車より圧倒的に低いから大丈夫ですよ、鷺沢君」
隣の席は千川先生だった。
男女別々に出席番号順だった為、俺が一番先頭だったからだ。
おかげで隠し持って来たスマホで音楽を聴くことも叶わない。
数少ない友達が近くにいないからトランプも出来ない。
ちひろ「沖縄まで二時間程しかかかりませんから」
P「事故が起きるのに二時間も必要ありません。一瞬ですよ一瞬」
ちひろ「鷺沢君は自分の不安を煽りたいんですか?」
とはいえ、着いてからの事が楽しみ過ぎて仕方ないのも本音だ。
沖縄なんて行ったことがない。
本当にシーサーやシークァーサーが沢山居るのだろうか。
カヌーも漕いだ事ないし、サメも実物を見た事ないし。
P「……そう言えば、沖縄そばとソーキそばって何が違うんですか?」
ちひろ「乗ってるお肉の違いだった気がします」
P「へー」
ちひろ「あの、尋ねたならもう少し興味持ちませんか?」
P「にしても部屋俺一人とか寂し過ぎませんかね。朝には冷たくなってるかもしれませんよ」
ちひろ「うさぎですか鷺沢君は……」
千川先生との会話もなかなか面白い。
あっという間に、飛行機は着陸に向かい始めていた。
P「……俺、無事着陸出来たら沖縄そばとソーキそばの違いについて解き明かしたいです」
ちひろ「さっき教えたのできちんと着陸して下さい」
74 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:29:25.64 ID:XIizMTPvO
特に事故が起きる事なく、飛行機は那覇空港に着いた。
飛行機を降りたクラスメイト達は半分くらいが疲れ切っている。
加蓮「……うぇぇ……二度と乗んない……」
P「俺も乗りたくない……でも乗らないと帰れないらしいぞ……」
美穂「Pくん……何か元気が出そうな言葉を掛けて下さい……」
P「……しんどそうな顔も可愛いぞ」
美穂「えへへっ……あっ!なら喜んじゃダメじゃないですか!」
P「喜んでる顔も可愛いぞ」
美穂「ねえ李衣菜ちゃん、聞きましたか?!Pくんがっ!わたしにっ!可愛い、って!!」
……美穂、元気だなぁ。
李衣菜「はいはい、バスに移動するよー」
まゆ「お待たせしましたぁ」
智絵里ちゃんとまゆも、少し遅れて追いついて来た。
まぁ休む暇なくすぐにバスまで移動だけど。
智絵里「ごめんなさい……荷物探すのに、時間がかかっちゃって……」
加蓮「バスの席自由らしいよ」
まゆ「Pさん!早く二人で一番前を陣取りますよぉ!」
智絵里「わ、わたしは補助席で良いから……っ!」
美穂「Pくん」
P「よし、一番奥の五人がけにするか!」
75 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:29:52.41 ID:XIizMTPvO
P「うぉー……」
大きく息を吐いて、俺はベッドに倒れ込んだ。
修学旅行一日目は、ひたすら暑いだけだった。
日本の歴史の事を聞くのは嫌いじゃないが、建物内エアコン付いてなかったし。
あのお婆さんずっと戦死した夫の惚気話しかしなかったし、その夫生きてたらしいし、最後ご本人登場したし。
調子乗って夕飯に唐揚げを食べ過ぎて胃も重く、もう動くのがだるい。
P「……シャワー浴びて寝るか」
ピロンッ
誰かからラインが来た。
P「……ん、美穂か」
『まだ起きてますか?』
『起きてるぞ。そろそろシャワー浴びて寝ようと思ってたけど』
『よかったら、少しロビーのソファーでお喋りしませんか?』
『おっけ、シャワー浴びたら行くわ』
そうと決まれば男子は早い。
パパッとシャワーを浴びてハーフパンツとシャツだけ来て部屋を出た。
途中先生から『消灯時間には部屋に戻れよー』と釘を刺され、エレベーターで一階へ降りる。
流石に早過ぎたのか、まだ美穂は来ていなかった。
ちひろ「あれ?鷺沢君、どうしたんですか?」
ロビーのソファーでは、千川先生が予定表を片手にコーヒーを傾けていた。
P「まだ寝るには早いし、誰かと喋ろうかなーと」
ちひろ「……あっ、お部屋一人ですからね……さっきまで多田さん達が居たんですが、帰っちゃったみたいです」
P「この後美穂が来るそうなので。それまで何して待ってるかな……」
ちひろ「……あまり生徒には言いたく無かったんですが、あっちに無料でコーヒーが置いてありますので。良かったら利用して下さい」
ありがたい、のんびり飲んで待ってよう。
全員に教えると、絶対ふざけて飲みまくる奴とかでてくるしな。
コーヒー片手に一息吐いて、明日の予定を思い出す。
確か美ら海水族館とマングローブカヤックだったな、ちゃんと着替えも持ってこう。
76 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:30:32.82 ID:XIizMTPvO
美穂「あ、Pくんっ!」
まゆ「こんばんは、Pさん」
P「ん、まゆも来たのか」
まゆ「お部屋で一人お留守番は寂し過ぎますから」
美穂「ごめんね、Pくん。二人っきりになれなくて」
まゆ「Pさぁん、美穂ちゃんが酷いです……」
ちひろ「ごほんっ!」
背後の席の千川先生がわざとらしい咳をした。
……千川先生にバレるのも、絶対時間の問題だよな……
まゆ「明日はカヌーですね。雨、振らないといいんですけど……」
P「どうなんだろ、沖縄って急に雨降るイメージがあるからなぁ」
美穂「突然の雨……シャツが透けちゃって……Pくんに、し、下着を……っ!」
P「……おーい、帰ってこーい」
美穂「わ、わたしはいつ見られても大丈夫な様にっ!」
ちひろ「ごっほんっ!!」
……あぁ、うん。バレたな。
まゆ「……美穂ちゃん、ここまでその……こんな人物でしたっけ?」
美穂「Pくんの恋人ですからっ!」
P「俺の恋人になると変態になるみたいな言い方は良くない」
美穂「……嫌、ですか……?」
P「悪くないと思います」
むしろ積極的なのは非常によろしいとは思う、けど。
場所がね?他の人いるからね?
まゆ「……コーヒー、まゆも飲みたいです。Pさぁん、少し分けて頂けませんかぁ?」
P「ん、一口どうぞ」
ちひろ「あ、はい教員がいる場でそういうのは控えて下さい。佐久間さん、向こうにコーヒーがありますからそっちをご利用下さい」
まゆ「…………黄緑」
ちひろ「捨て台詞が色って斬新ですね……鷺沢君も、節度を持ってのお付き合いをして下さい」
美穂「そ、そうですっ!他の女の子と間接キスなんて……」
P「すまん、あんまりにも当たり前の様に言われたからつい……」
美穂「……つい、で言っちゃうようなPくんの口は……わ、わたしの唇で塞いじゃいますよ……?」
P「……永遠に蓋されたいな」
ちひろ「鷺沢君」
P「はい、何でもありません」
なんで俺ばっかり……まぁうん、今の美穂に何言っても聞きそうにないけど。
77 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:30:59.37 ID:XIizMTPvO
まゆ「ただいま戻りました……美穂ちゃん、なんでPさんの隣に腰掛けてるんですかぁ?」
美穂「正妻ポジションです」
まゆ「それは見れば分かりますよぉ」
美穂「わたしはPくんの将来の……お、お嫁さんですから……っ!」
P「……沖縄って、暑いな」
めちゃくちゃ嬉しいし可愛いけど。
こう……凄く恥ずかしい。
美穂「ね?Pくんっ!一緒のお墓に入るんですよねっ?!」
まゆ「……まゆなんかよりよっぽとヤンデレじみてませんか?」
P「……その話題はやめろ、やめて」
美穂「わ、わたしは……Pくんの為なら、肉食系ヤンデレにだって……」
P「お願いだからやめてくれ……」
美穂「Pくんの粗ビッキビキソーセージだって」
まゆ「アウトです、アウトですよ美穂ちゃん!」
美穂「……ごほんっ、取り乱しました……えっと、明日のカヌーのお話でしたよね?」
そこまで戻るのか。
P「俺は加蓮とペアなんだよな」
美穂「…………なんで、わたしじゃないんだろ……」
ちひろ「……ええと、クジで決めたからです……」
美穂「……千川先生。くじ引きのやり直し、今からでも間に合うと思いませんか?」
まゆ「……っ、冷房強くし過ぎじゃないですか?」
P「美穂ー、おーい美穂ー。先生に迷惑を掛けちゃダメだぞ」
まゆ「そんな悪い子、Pさんにキスして貰えなくなっちゃいますよ?」
美穂「……なんて、冗談ですっ!えへへ……ごめんなさい、千川先生」
ちひろ「……す、少し身の危険を感じたので私は部屋に戻ります。三人も、消灯時間までには戻って下さいね?」
そそくさと千川先生が部屋へ向かって行った。
美穂「…………なんで、加蓮ちゃんなのかな……」
まゆ「……やっぱり、絶対まゆよりヤンデレですよねぇ……」
P「ま、まぁこの程度なら普通だろ」
美穂「……Pくん、わたし!今日から北条加蓮って改名します!」
まゆ「カヌーのペアになる為に改名までする人は初めて見ましたねぇ」
P「……俺は美穂って名前がいいな」
美穂「なら、鷺沢美穂になりますっ!」
P「まだ小日向美穂がいいかなぁ!」
美穂「ならっ!小日向美穂って名乗ります!!」
まゆ「……やっぱり、お部屋で一人で待っていた方が良かったかもしれません」
78 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:32:27.20 ID:XIizMTPvO
修学旅行二日目は、微妙な天気だった。
空にはそこそこ雲がかかり、天気予報によると降水確率は40%。
眠い目を擦りながらバイキング形式の朝食をとる。
加蓮「……っ!出来たよ、ポテトタワー!」
李衣菜「ただのピラミットじゃん」
智絵里「ちゃ、ちゃんと食べ切れるんですか……?」
加蓮「私を誰だと思ってるの?」
智絵里「ジャガイモ……?」
李衣菜「いや、ジャガイモじゃないと思うけど……」
加蓮「せめて生物が良かったかな」
あいつら三人もかなり仲良いなぁ。
朝から元気な事で。
美穂「起きてません……うぅ……くじ引き……」
まゆ「美穂ちゃん、起きて下さい……」
P「昨晩もずっとラインしてたからな……」
まゆ「部屋に戻ってからも、ずっとスマホの画面を見てましたからねぇ……」
美穂「……えへへ……ちゅ、ちゅーっ……」
P「…………」
まゆ「…………起こしますよ」
まゆが美穂の肩をがくがくと揺らして無理やり起こした。
美穂「きゃっ!そんな、いきなりっ…………あ、あれ?」
P「……おはよう、美穂」
美穂「……あ、あわわわわわ……」
一体どんな夢を見ていたのか非常に気になるが、人前で言えるような事ではないだろうな。
今は赤面した美穂を眺めて楽しもう。
美穂「Pくんっ!今日は二人っきりでの水族館デート、楽しみですねっ!」
まゆ「あの」
79 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:33:08.79 ID:XIizMTPvO
P「……マナティー……」
俺はマナティーの水槽の前でポツリと呟いた。
三十分以上水槽前最前列の椅子に座っているが、一度たりともこっちを向きやしない。
美穂とまゆは何かのショーを見に行っている。
俺も行こうと思ったが、一度椅子に座ると立ち上がれなかった。
持って来たカメラをマナティーに向けてみる。
それでもマナティーはこっちを向いてくれなかった。
智絵里「……えっと、一人ですか……Pくん?」
P「あれ、智絵里ちゃん。李衣菜と加蓮は?」
智絵里「その、はぐれちゃって……隣良いですか……?」
P「良いよ。美穂とまゆは何かのショー見に行っちゃった」
智絵里「そうですか……マナティー、可愛いですね」
P「全然こっち向いてくれないんだよな……」
智絵里「あっ、シャッターチャンスですPくん……!」
そう智絵里ちゃんが指差す先では、さっきまで壁を凝視していたマナティーがこっちを向いていた。
野郎の視線は嬉しく無いってか、なんて現金な奴だ。
なんて思いながら、四十分越しにようやくマナティーの顔をカメラに収められた。
P「ありがとう智絵里ちゃん。このまま尻尾の写真しか撮れなかったからまゆや美穂に文句言われるところだったよ」
智絵里「えっと……わたしも撮ろっかな……」
P「あ、なら折角だし俺が撮ろうか?智絵里ちゃんとマナティーのツーショット」
智絵里「え……あ、お願いしていいですか?」
P「おう、任せろ」
智絵里ちゃんのカメラを受け取り、少し後ろに下がる。
マナティーは水槽のかなり手前まで寄ってきていた。
俺の時の反応全然違い過ぎないだろうか。
P「よし、撮るぞー」
智絵里「はい……っ!」
カシャリ
シャッターを切る。うん、可愛い。
なかなか良いのが撮れたんじゃないだろうか。
智絵里「ありがとうございます」
80 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:33:34.17 ID:XIizMTPvO
美穂「ただいま戻りましたー。Pくん、寂しかったですか?」
P「いや、別に」
美穂「寂しかったですよねっ?!」
P「あ、あぁ!孤独死するところだった!」
まゆ「あれ?智絵里ちゃん?」
P「班員とはぐれたんだってさ」
まゆ「なら、まゆ達と一緒にまわりませんか?」
智絵里「え、良いんですか……?」
P「もちろん。人数多い方が楽しいしな」
美穂「Pくんが言うと重みが違いますねっ!」
P「……とにかく行くぞ!サメだサメ!!」
四人でワイワイと、カメラを片手に水族館中を巡る。
美穂と智絵里ちゃんのツーショットも大量に撮った。
まゆの写真はそのまま何かの雑誌に載せられそうなレベルの可愛さだ。
P「ふぅ……百枚くらい撮ったんじゃないか?」
美穂「楽しかったですね!」
智絵里「お魚さんも……とっても楽しそうで、可愛かったです」
まゆ「まゆ達も泳げれば良かったんですけどね」
P「まだ六月だしな」
美穂「夏休み入ったら、みんなでプールに行きませんか?」
まゆ「良いですね。次こそまゆが生足魅惑のマーメイドになってみせますよぉ」
美穂「生足魅惑のマーメイドだったら上半身が魚だよ?まゆちゃん」
まゆ「えっと美穂ちゃん、そうじゃなくって……」
智絵里「……楽しみです、とっても」
P「さて、そろそろバス戻るか」
美穂「文香さんにお土産は良いんですか?」
P「三日目に食べ物買ってく方が喜ばれるかなって」
81 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:34:14.03 ID:XIizMTPvO
まゆ「さぁ、トップを狙いますよぉ!」
李衣菜「うっひょぉぉ!いっけぇぇぇえ!!」
マングローブカヤック開始と同時に、まゆ・李衣菜ペアが面白いくらいの速度で視界から消えて行った。
あいつら遊覧の意味分かってるのか?
智絵里「ふぅ……えへへ……」
美穂「わぁ……楽しいね、智絵里ちゃん!」
智絵里「すっごく、落ち着きますね……」
あぁ、あのペアを見てると癒されるな。
どちらもオールを漕ぐ力が全然ないからか、進行はかなりゆっくりだけど。
そして……
加蓮「あー……あっつい。あつくない?鷺沢」
P「陽が出てないだけマシとは言え……暑いな」
俺たちは、そこそこのスピードでマングローブのトンネルを進んでいた。
加蓮「なんとかしてよ」
P「なんとか出来る様な奴に、そんな風に頼むな」
加蓮「……でも、まぁ悪くないね。この揺れてる感じも、景色も」
P「癒されるよな。これで暑くなかったら完璧だった」
加蓮「どうせなら、美穂とペアだった方が嬉しかったじゃない?」
P「加蓮とだって楽しいぞ?俺、こんな風に会話できる友達少ないし」
加蓮「っ……そ。ならま、良かったんじゃない?話した事ない女子と組むよりは」
P「にしても……心が穏やかになるな」
ゆっくり、ゆっくりと景色が流れていく。
加蓮と下らない会話をしながら。
そんな時間も、悪くない。
82 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:34:47.26 ID:XIizMTPvO
加蓮「あー……この時間がずっと続けば良かったのに」
P「分かる」
加蓮「ほんとに分かってる?」
P「ごめん、分かってないかも」
加蓮「なにそれ、鷺沢みたい」
P「いや、俺鷺沢だけど……」
ケラケラと笑いながら、オールを漕ぐ加蓮。
なんだか、楽しそうだ。
P「……ん?」
少し先の方が、やけに白くなっている。
ズァァァァァッと何かが水面に叩き付けられている音が聞こえてきた。
まるでそこから先は雨が降っているかの様に……
P「ってうわ!スコールじゃん!」
ほんの数メートル進んだだけで、一気に豪雨が降ってきた。
こう言う時はどうすればいいんだろう。
P「取り敢えず陸地に上がるか!」
加蓮「鷺沢っ!」
P「なんだっ?!」
加蓮「スコールって強風って意味だから、大雨の意味は無いらしいよ!!」
P「絶対今必要な知識じゃない!!」
急いでカヌーを傍に寄せて陸地に上がる。
面白いくらいの速度でカヌーの底に水が溜まって行く。
まぁ多分十五分もすればやむだろう。
その間は木の陰で雨宿りをすればいい。
……マングローブじゃ大して雨は凌げなかった。
P「あー……体育着に着替えさせられたのってこれが理由でもあるのかもな」
加蓮「うわ、びちょびちょ……最っ悪」
P「凄い雨だな……」
お互い、雨に打たれて服も髪もびっちょびちょになっていた。
……うちの体育着、白いから割と透けるんだな。
加蓮「なにジロジロ見て……きゃっ、変態っ!」
P「見てないから大丈夫!しばらくの間目を瞑ってるから!」
……デカいな。はい、何でもありません。
兎も角、急いで目を瞑る。
83 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:36:59.69 ID:XIizMTPvO
加蓮「……本当に見てない?」
P「見てない、神に誓って」
加蓮「薄紫色に透けてたでしょ?」
P「いや、青だったけど」
加蓮「やっぱり見てたんじゃん!」
P「すまん、俺別に神様信じて無いんだ」
脇腹に軽い突きを連続で受ける。
目を瞑ってるから、割と普通に何処から攻撃が来るか分からなくて怖い。
加蓮「はぁ……これで鷺沢と恋人同士だったら、ちょっと良い感じのハプニングだったのに」
P「とんでもない前提条件だな」
加蓮「……だよね、あり得ないもんね。私がアンタと付き合うなんて」
酷い言われようだな、俺。
加蓮「……もしかしたら、そんな未来もあったのかな」
P「さぁ、未来の事なんて分かるわけ無いだろ」
加蓮「……ふふっ、鷺沢らしいね」
P「褒められてると信じたいな」
加蓮「褒めてないよ、だって……」
でも、なんとなくだけど。
加蓮の声は、いつもと違って少し寂しそうで。
加蓮「……鷺沢は、今の事だって分かって無いんだもん」
ペチンッ、とデコピンを受けて。
それと同時、頬に柔らかい何かが触る。
けれどすぐに、激しい雨にその感触は流されて。
加蓮「……ま、分からず屋の鷺沢にはバカみたいに真っ直ぐな美穂がお似合いだよね」
触れたものが何だったのかを、俺は知る事が出来なかった。
P「おいおい……俺は兎も角、美穂をバカ呼ばわりとはバチが当たるぞ」
加蓮「神様とか信じて無いんでしょ?」
何も言い返せない。
加蓮「はぁ……李衣菜に感謝してね」
P「なんでだ?いや、李衣菜には俺はずっと感謝しっぱなしだけど」
加蓮「今の私には李衣菜や、他にも友達がいるけど。もしいなかったら……鷺沢だけだったら、こうはいかなかったかもよ?」
それは、一体どういう事なんだろう。
加蓮「さ、雨止んだし行こ?」
P「ん、本当だ」
加蓮「あ、目は開けないでね」
P「川に落ちろと?」
加蓮「もう恋に溺れてるでしょ?」
P「あぁ、もはやダイビングだ」
加蓮「よかったら、良い酸素マスク紹介するけど?」
P「悪いな、一緒に酸欠になるって約束があるんだ」
84 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:37:38.04 ID:XIizMTPvO
美穂「……あれ?前の方、真っ白になってる」
智絵里「ほんとだ……」
美穂「スコールかな?」
智絵里「局所的大雨、又は集中豪雨ですね……」
前の方の人達、大丈夫かな?
Pくん、濡れてないといいけど……
……あれ?Pくん、加蓮ちゃんとペアなんだよね?
大雨……透けやすい体育着……
美穂「……だ、ダメッ!」
智絵里「っ?!み、美穂ちゃん……?」
美穂「あ、ごめんね?驚かせちゃって」
智絵里「だ、大丈夫です……この辺で、止むまで少し待ったほうが良いかもです……」
美穂「だね、少し休憩しよっか」
漕ぐのを止めて、ユラユラ揺られるだけになって。
智絵里ちゃんと二人で、のんびりお喋り。
美穂「そっちの班はどう?」
智絵里「……とっても、楽しいです。李衣菜ちゃんは優しくて、加蓮ちゃんは……面白い人だから……」
美穂「お、面白い人って……」
智絵里「み、美穂ちゃんはどう?そっちは楽しいですか……?」
美穂「もちろんっ!Pくんとまゆちゃんだもん!」
智絵里「……いいな……Pくんと同じ班で。わたしも、Pくんと同じ班が良かったです」
ドキッ、て。鼓動が跳ね上がりました。
今の智絵里ちゃんの言い方は、まるで……
智絵里「……あの、美穂ちゃん……」
美穂「……えっ?な、何かな……?」
智絵里「……わたしは……えっと……」
やめて、言わないで!
それ以上、わたしはその言葉の続きを聞きたくなくて……っ!
美穂「ね、ねぇ智絵里ちゃん!」
無理やり、話を逸らそうとします。
天気の話だって、明日の自由行動の話だって、晩御飯の話だって、何でもいいから。
兎に角、それより先を言わないで欲しかったのに。
85 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:38:05.51 ID:XIizMTPvO
智絵里「……わたし、Pくんの事が好きです」
心臓が、止まるかと思いました。
智絵里「……あの、美穂ちゃん……?」
美穂「……そ、そうなんだ!智絵里ちゃん、Pくんの事が好きなんだね!」
明るく振る舞って、早く次の話題に移ろうとしても。
智絵里「入学式の日からずっと……Pくんの事が好きなんです」
智絵里ちゃんは、その話題を続けます。
美穂「……ずっと、好きだったんだ……」
智絵里「告白は……まだ、出来てないけど……いつか、ちゃんと伝えたい……です……」
知りたくなかったです、そんな事。
だって……だって、わたしは……
美穂「……告白、するんだ……」
智絵里「はい……ねえ、美穂ちゃん」
美穂「な、何ですかっ?!」
智絵里「…………誤魔化さないで、教えて下さい」
すー、って。大きく息を吸って。
智絵里ちゃんは、わたしの目を見て言いました。
智絵里「……美穂ちゃんは……Pくんと、付き合ってるんですか?」
86 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:38:39.07 ID:XIizMTPvO
P「ゔぁー……」
めちゃくちゃ疲れた。
ホテルに戻って、シャワーを浴びた後夕食に向かう。
またもやバイキングだった。
沖縄らしいものを食べられるのは最終日の自由時間のみになりそうだ。
美穂は、来ていなかった。
P「まゆ、何か聞いてるか?」
まゆ「……食欲が無いそうです。疲れちゃってるのかもしれませんね」
P「そうか……ま、明日には元気になってるだろ」
まゆ「元気にするのは、Pさんのお仕事ですよ」
それもそうか。後でラインでも飛ばしておこう。
加蓮「……李衣菜ぁ……智絵里ぃ……」
李衣菜「か、加蓮ちゃん……?なんでそんなにしょげてるの?」
加蓮「ポテトタワーが建築法違反だったぁ……」
智絵里「先生に、食べ物で遊ぶなって怒られたみたいです……」
加蓮「良いじゃん!ちゃんと全部食べるんだし!!」
智絵里「加蓮ちゃん、食べ物で遊ばないで下さい。乾燥パセリにしちゃいますよ……?」
加蓮「……はい、ごめんなさい」
まゆ「ふふっ、無様ですねぇ」
加蓮「は?」
智絵里「二人とも……お食事中ですから……」
まゆ「……失礼しました」
加蓮「うわーん李衣菜ぁ!智絵里が強い……!」
李衣菜「間違った事言ってないからじゃないかな」
P「楽しそうだなぁ」
わいわいやいのやいの、騒がしくも楽しい食卓だ。
加蓮「もういいや、李衣菜で遊ぶ」
まゆ「ならまゆは加蓮ちゃんで遊びますよぉ」
李衣菜「なら、私がまゆで遊べばジャンケンだね」
加蓮「酷い李衣菜!私とは遊びだったんだ?!」
まゆ「騒がしいですねぇ負けヒロインさん」
加蓮「は?メインヒロインだし」
まゆ「らしくないですよぉ」
智絵里「……あの、Pくん」
P「ん?なんだ?」
智絵里「……この後、少しお話出来ませんか……?」
P「おっけ、食事終わったらロビーで」
87 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:39:15.53 ID:XIizMTPvO
一回部屋へ戻って、美穂にラインを飛ばした後ロビーに向かう。
既に智絵里ちゃんは、ソファーに座って待っていた。
P「すまん、お待たせ」
智絵里「だ、大丈夫です。今来たところですから」
そう言う智絵里ちゃんの手には、お茶が半分程減ったコップ。
智絵里「……えへへ……今の、憧れだったんです」
照れたようにはにかむ智絵里ちゃん。
可愛いな、うん。パジャマも破壊力高いし。
P「それで、話って?」
智絵里「……少し、外を歩きながらお話しませんか……?」
P「外出て良いんだっけ?」
智絵里「はい……さっき、千川先生にちゃんと許可を取りました」
P「なら良いか」
ドアを抜けて、ホテルの外へ出る。
夜の沖縄は、少し蒸し暑かった。
時折吹く風は、海の匂いがして心地よい。
まぁ、帰ったらもう一回シャワー浴びる事になりそうだな。
智絵里「……少し暑いですね」
P「六月でこれなら、八月とかどうなるんだろうな」
智絵里「肉まんになっちゃいそうですね……」
蒸し器的なニュアンスは伝わってくるけど、人間を肉まんに例えるのは中々凄いな。
智絵里「あ、あんまんの方が好きでしたか……?」
P「どっちも好きだけど、強いて言うならピザまんだな」
智絵里「ピザ……Pくん、本当に日本人ですか?」
P「肉まんの時点で中華料理だろ!」
智絵里「……えへへっ」
P「なんだ?この会話」
どちらからともなく、笑いが漏れる。
こうして一対一で会話する機会は少なかったけど、智絵里ちゃんかなり面白いな。
智絵里「……やっぱり、Pくんとお話してるいと……とっても楽しいです」
P「さては俺、遊ばれてるな?」
智絵里「酷いです……わたしとの関係は、遊びだったんですね……」
あぁ、加蓮と李衣菜と同じ部屋だもんな。教育に悪い。
智絵里「……もっと、Pくんと二人でお喋りしたいです」
P「割と暇だから、いつでもうちの店来てくれれば」
智絵里「……ねえ、Pくん」
夜風にツインテールを揺らして、微笑む智絵里ちゃん。
そんな彼女の声は、風に掻き消される事なく俺に届いた。
88 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:40:04.84 ID:XIizMTPvO
智絵里「……もし、あの告白の練習が……その……練習じゃなかったとしたら……なんてお返事をくれましたか……?」
P「……え?えっと……四月の時の、屋上の……?」
智絵里「はい。もし、あの時の告白が……わたしの、本当の気持ちだったら……Pくんは、わたしと付き合ってくれましたか……?」
それは……果たして、どうだっただろう。
まだよく知らない、おとなしいクラスメイトという認識だった、まだ緒方さん呼びだった智絵里ちゃんに告白されたとして。
俺は、首を縦に振っていただろうか。
智絵里「……なんて……もしものお話です」
P「……どうだっただろうな」
智絵里「きっと……Pくんは、首を横に振ってました……そうですよね……?」
P「…………」
俺は、何も言えない。
智絵里「だったら……今で良かったです」
P「今で……?」
智絵里「……例え今、Pくんに恋人がいたとしても……そんな理由での断られ方なら、わたしは諦めませんから」
P「……なぁ、智絵里ちゃん」
智絵里ちゃんは、俺と美穂の事を知ってるんだろうか。
そして、その上で、本当に俺の事が……
智絵里「……そろそろ、戻りませんか?」
P「……えっ?」
智絵里「実はPくんに、一つだけウソをついちゃってたんです……」
P「……ウソ?」
それは、智絵里ちゃんの想いの事だろうか。
それとも、あの告白の練習という前提が、だろうか。
智絵里「……先生に許可、取って無いんです……」
P「早く戻るぞっ!!」
えへへ、と笑う智絵里ちゃん。
うん、笑えない、絶対俺だけめっちゃ怒られるやつ。
智絵里「……いつか、きちんと……わたしの大切な気持ち、あなたに届けますから」
そんな智絵里ちゃんの言葉は。
あの日屋上に呼び出された時と違って、全てきちんと聞き取れてしまった。
P「……ごめん、智絵里ちゃん」
それでも、俺の気持ちは変わらない。
俺には、美穂が……
智絵里「……うん、良かった……」
なにが、だろうか。
智絵里「……やっぱり、諦めずに済みそうです」
89 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:40:50.36 ID:XIizMTPvO
部屋に戻って、またシャワーを浴びて一息吐く。
汗を流してサッパリした筈なのに、心は全く晴れそうに無い。
P「はぁ……」
ため息が一人部屋にこだまして消えてゆく。
寂しいな、一人部屋。
ピロンッ
スマホに通知が入った。
それと同時、ドアがノックされる。
先生の見回りだったらスマホ隠さないとな……
そう思って一応通知を確認すると、送り主は美穂だった。
『ドア、開けて下さい』
P「ん、じゃあ外に居るの美穂か……?」
ドアを開けると、パジャマ姿の美穂が俯いて立っていた。
P「おい美穂、先生に見つかったら怒られ……んっ?!」
突然部屋に押し戻され、唇を奪われた。
なにがあったのか聞こうにも、唇を離してくれない。
何とかドアを閉めたはいいが、未だに美穂に強く抱き着かれてドアの前から離れられなかった。
P「っふぅ……どうしたんだ、美穂」
美穂「……Pくん……わたし、どうしたらいいのかな……」
P「……とりあえず、座ったらどうだ?こんなドア前で話す事でもないだろ」
美穂をなだめながら、ベッドに横並びに腰掛ける。
P「……で、何があったんだ?」
美穂「……智絵里ちゃんと、色々あったんです……」
P「……智絵里ちゃんか。それって……」
美穂「……うそ……もう、告白されちゃったの……?」
そんな美穂の表情は。
今までに見た事ないくらい、悲しそうだった。
90 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:41:37.50 ID:XIizMTPvO
P「……いや、きちんとはされてない。いや、でも俺はちゃんと断るから……」
美穂「だ、ダメッ!」
美穂の声が響いた。
外に先生がいない事を祈ろう。
P「……ダメ、って……どういう事だ?」
美穂「……わたし……智絵里ちゃんに『お互い上手くいくといいね』って、応援しちゃって……なのに、わたしがPくんと付き合ってるなんて……」
P「……美穂は、智絵里ちゃんが誰が好きなのか、知ってたのか?」
美穂「さっき、初めて知りました……でも、そんな事関係無くって……っ!」
P「……きちんと、言えばいいじゃないか」
美穂「言える訳無いもんっ!もしかしたら、智絵里ちゃんは気付いてるかもしれないけど……わたし、友達を裏切るなんて……」
P「……でも、俺は美穂と別れたくないぞ」
美穂「わたしだって!Pくんと離れるなんて嫌だもんっ!もうあんな不安な思いなんてしたくないのに……なのに!智絵里ちゃんに『Pくんはわたしと付き合ってるから』って言えなくて……っ!」
P「……なぁ、美穂……いや、いいか」
それはきっと、今言うべき言葉では無い。
これ以上、美穂の不安を煽りたくないから。
それに、何があろうが。
俺が美穂の事を好きだという事実は変わらない。
美穂「Pくんなら、絶対に断ってくれるって信じてるんです。絶対にわたしを裏切らないでくれるって信じてるから……でも、それだと……わたし、智絵里ちゃんに……」
P「……美穂」
美穂「っ、ごめんなさい……わたし、自分勝手な事ばっかり言っちゃって……」
91 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:42:04.03 ID:XIizMTPvO
怒られたと勘違いした美穂が、ビクッと震えた。
そんな泣きそうな美穂を、俺は優しく抱き締める。
P「何があろうが、俺は絶対に美穂を選ぶ。大好きだし、離れたくないからな」
美穂「……っう……ありがとう、ございます……」
P「だから、さ……もし美穂も、離れたくないなら……こうやって抱き締め合う温もりを失いたくないなら……頼むから、俺を選んでくれ」
美穂「わたしだって……でも、それだと……」
P「……俺も、協力するから。一緒に、みんなで笑ってこれからも過ごせるように頑張るから。美穂も、もう少し自分に優しくなってくれよ……」
美穂「……自分に……優しく……?」
P「美穂が俺の事を好きなら……その気持ちに正直になってくれ。他の誰かなんて気にせず、その想いのままにさ」
美穂「……いいのかな……」
P「恋愛ってそういうもんじゃないか?それに『お互い上手くいくといいね』なら、美穂も上手くいかせなきゃ」
美穂「そっか……そうですよね。わたしも、自分の恋を……」
P「……なんとなく、決まったか?」
美穂「……はい。わたし……少しだけ、ワガママになろうと思います」
P「あとついでに俺の気持ちも考えてくれよ?恋人と友達なら、出来れば恋人を優先に考えて欲しかったぞ」
美穂「……ごめんなさい、Pくん……」
P「ま、そこが美穂の優しいところだからな。さて……」
92 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/27(土) 19:42:31.34 ID:XIizMTPvO
首をかしげる美穂。
そんな美穂の唇に、俺は自分の唇を重ねた。
美穂「んっ?!……んっ、ちゅ……んちぅ……んぅっ……」
P「……ふぅ……美穂。夜の男子の部屋に一人で来るなんて……随分と不用心だな」
美穂「えっ、あ…………も、もしかして……」
P「何されても文句言えないぞ?」
美穂「…………わ、わたし……これから……」
P「あぁ。ちゃんと部屋まで送るから」
美穂「Pくんに襲われちゃ…………え?」
P「……え?襲って欲しいの?」
顔を真っ赤に、首をブンブンふる美穂。
美穂「そ、そんな事っ!……Pくんに少し無理やり気味に襲われて初めてを奪われたいなんて、考えて……」
P「考えて……?」
美穂「……考えて、ました……」
……反則的過ぎるだろう。
そんな可愛過ぎる美穂に、俺はもう我慢出来そうになかった。
美穂「……ええと……Pくん……」
P「んっ?!な、なんだ?」
美穂「…………や、優しくして下さい……ね?」
93 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:44:46.35 ID:hw0GLBXPO
P「……あー」
朝起きてシャワーを浴びる。
スマホを開く、閉じる。カーテンを開ける、閉じる。冷蔵庫を開ける、閉じる。
修学旅行三日目の朝は身体が重く、そんな心ここに在らずな感じで迎えた。
P「あー……」
こいつ起きてからあーしか言ってないな。
そろそろ人間としての心と頭を取り戻すべきだろう。
P「……あぁ……」
結局あしか言えなかった。言語能力が著しく低下している。
昨晩の出来事を思い出してしまったからだ。
初めてを迎えた時のあの光景は、今でも鮮明に脳に焼き付いている。
P「まともに顔合わせられる気がしねぇ……」
あの後美穂を部屋に送ってから軽くシャワーを浴びて、気付けば眠ってしまってた様だ。
……さて、と。
P「……一応バスタオル敷いておいて良かった」
真っ赤になったバスタオルをビニール袋に入れて、後でゴミ箱に捨てる事にする。
ホテル側には申し訳ないが、これは返却される方が困るだろ。
ベッドのシーツが赤いのは、まぁ鼻血垂らしたという事にしよう。
朝食までまだ軽く時間はある。
美穂と顔を合わせた時に言う言葉くらいは決めておかないと。
緊張して喋れなくなるかもしれないから。
本日はお日柄も良く……違うな、うん。
……まぁ、自然体で、こう、ノリで。
何とかなってくれ。
94 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:45:17.18 ID:hw0GLBXPO
まゆ「おはようございます、Pさん」
P「おはよう、まゆ」
食堂へ行くと、まだ李衣菜達の班は来ていなかった。
まゆと美穂がのんびりお茶を飲んでいる。
美穂「……おっ、おはようございます……Pくん……」
P「……よ、よう……美穂……」
……なんだこれ、付き合いたてのカップルかよ。
思った以上に言葉が続かない。
まゆ「聞いてくださいPさぁん。昨日の夜、美穂ちゃんが一人で何処かに出掛けて行っちゃったんです」
P「へ、へぇ……そりゃ心配だったろ」
まゆ「一体、何処へ行っていたんでしょうねぇ?」
美穂「えぁ、えっと……まゆちゃん!今日はとってもかわいいね!」
まゆ「いつもと同じ制服ですよぉ」
P「うわぁ!めっちゃ制服!凄く制服だな!」
まゆ「馬鹿にしてませんかぁ?」
美穂「……えっと……Pくん……」
P「あぇ……あー……おはよう、美穂」
美穂「……おはよう、ございます……」
目を合わせるのが恥ずかしい。
喋ってるだけで、昨晩の事を思い出して顔が熱くなる。
P「……おはよう、美穂」
美穂「……えへへ……おはようございます」
P「……おはよう、美穂!」
美穂「は、はいっ!おはようございますっ!!」
まゆ「そろそろNPC同士の会話みたいなのはやめにして貰えませんかぁ?」
P「何言ってるんだまゆ。挨拶は大切だぞ」
美穂「おはよう、まゆちゃん」
まゆ「ブチギレますよぉ?」
P「さて、今日の朝食もバイキングなんだな。適当に取ってくるか」
美穂「……一緒の朝ご飯……なんだか、新婚さんみたいですね」
P「……やめろよ……反則的な可愛さだぞそれ」
美穂「……え、えへへ……」
P「めっちゃ可愛い。だめだ、トキメキで胸と大地が震え出す」
美穂「わ、わたしたち……震源地になっちゃいますね」
P「顔、マグマみたいに真っ赤だぞ」
美穂「……ふぉ、フォッサマグナですから……」
P「どっちかって言うとカルデラだろ」
美穂「そ、そうですよね……アツアツな溶岩も注ぎ込まれちゃいましたし……」
まゆ「あの、そろそろまゆの怒りが噴火しますよ?」
95 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:45:43.21 ID:hw0GLBXPO
なんて会話をしていたら、李衣菜達の班も起きて来た。
三人とも眠そうだ。
李衣菜「おはよー……眠い……」
智絵里「おはようございます……夜更かしし過ぎました……」
加蓮「おはよー鷺沢、美穂」
まゆ「佐久間さんを忘れてますよぉ」
加蓮「あ、ごめん。気付かなかった」
まゆ「狭い視野ですねぇ」
あっという間に騒がしい食卓の出来上がり。
あぁ、うん。楽しい。
まゆ「そちらの班は、夜通しガールズトークですか?」
李衣菜「うん、ずっと喋ってた」
智絵里「恋バナ、です……っ!」
加蓮「楽しくて、寝るタイミング逃しちゃってさ」
まゆ「羨ましいですねぇ。まゆは昨日、一人で寂しくお留守番でした」
加蓮「あれ?そっちの部屋って美穂も居るでしょ?」
美穂「わーわーわーわーっ!」
李衣菜「Pは夜何してたの?一人でしょ?」
P「お、一昨日はラインしたりしてたな」
李衣菜「昨日は?寝てたの?」
P「…………あぁ、寝たわ」
まゆ「間違ってはないですねぇ」
美穂「さ、さてっ!早く食べて国際通りに行きませんかっ?!」
P「だなっ!朝食食べたら後は帰りの飛行機まで自由なんだし!!」
李衣菜「…………あっ」
加蓮「…………ふーん」
智絵里「…………そうですか」
P「…………このお茶美味しいな」
まゆ「それ卵焼きですよぉ」
96 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:46:17.38 ID:hw0GLBXPO
P「……あっつい……」
まゆ「溶けそうですねぇ……」
美穂「うう……外にも冷房が欲しいな……」
修学旅行三日目は、物凄く暑かった。
六月でこの暑さなら、八月なんてもうマントルなんじゃないだろうか。
汗だっくだくになりながら太陽を睨み付け、眩し過ぎて目が眩むまでがワンセット。
色々巡る予定だったが、もうさっさと適当な店に入って涼みたかった。
まゆ「どうしますか?」
P「先に昼飯を……流石に早過ぎるよなぁ」
美穂「色々試食も出来るみたいですから、食べ歩きでもしませんか?」
P「……だな!もう思いっきり汗かいて楽しもう!」
替えのシャツはまだあと一枚残っている。
さて、何から食べようか。
P「ん、そうだ。文香姉さんにお土産買ってかないと」
まゆ「どんな物にしますか?」
P「食べ物とかかなぁ。あと定番のご当地キーホルダーとか」
何故か観光地に必ずある龍とか剣のキーホルダー、やたら魅力的に映るんだよなぁ。
少年心をガッチリ掴むラインナップは流石と言う他無い。
美穂「あ、ゲームセンターがありますよ!プリクラ撮りませんか?」
まゆ「それは戻ってからでも良いんじゃないですかぁ?」
美穂「Pくん!二人で撮りませんかっ?」
まゆ「お一人でどうぞ」
P「うぉお……すげえ、電気だ……電気が点いてる……」
まゆ「そろそろめんそーれしますよ?」
三人で適当に商店街を歩きながら、店先の試食を楽しむ。
文香姉さん用にサーターアンダギーの粉も沢山買い込んだ。
これ空港でヤバい粉だと間違われないだろうか。
美穂「あ、おっきなシーサー!」
まゆ「Pさん、写真撮って貰えませんか?」
P「おう、任せろ」
二人は大きなシーサーの石像に駆け寄って行った。
俺もカメラを構えてファインダーを覗く。
……汗でこう、透ける的な現象が起きてしまっている。
P「……はい!ポーズッ!!」
見なかった事にして、現像は文香姉さんに任せよう。
97 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:47:04.75 ID:hw0GLBXPO
まゆ「……ふふっ、どうでしたか?可愛く撮れましたか?」
P「んぇっ?!あ、あぁ!完璧だぞ多分」
まゆ「……あ……少し、透けちゃってますね……」
美穂「……わ、わたしは……Pくんなら……」
まゆ「ま、まゆはちょっと恥ずかしいですねぇ……」
珍しく、少し照れた様な表情をするまゆ。
こう……いいな、可愛い。
美穂「……Pくん、鼻の下伸びてます」
股の下が伸びてないだけセーフって事で……いや、言わないけど。
まゆ「……あ、あまり見ないで下さいね?」
P「お、おう……すまん」
美穂「……むー……Pくん、そんなに下着が好きなんですか?」
P「そこだけ聞くと完全に変態だからやめてくれ」
まゆ「下着以上のお付き合いをした二人が何を言ってるんですかねぇ」
美穂「………ぇぁ……」
P「…………あー……」
美穂「…………うぅ……」
P「……あついな、今日」
美穂「……暑い、ですね……」
まゆ「まゆのテンションは氷点下ですよぉ」
美穂「さて、そろそろ何処かで休憩しませんか?」
まゆ「そうですね……自由時間も、後一時間半しかありませんし」
P「んじゃ、近くの適当なソーキそば屋に入るか」
歩いて五分もしないうちに、沖縄料理店が姿を現した。
ドアをくぐると冷房が効いた冷たい空気が流れてくる。
ニライカナイは此処にあった。
98 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:47:30.90 ID:hw0GLBXPO
P「……涼しい」
美穂「文明の利器の素晴らしさを再認識しました……」
まゆ「地球冷房化計画とかありませんかねぇ」
メニューを捲れば、魅力的な料理がズラリ。
P「俺はソーキそばで」
美穂「わたしは沖縄そばにします」
まゆ「あ、ならまゆも沖縄そばにしますね」
二対一で俺が負けた。
美穂「お料理、写真撮って今SNSにアップしたら先生に怒られちゃうかな……」
P「かもな。多分先生達そういうのチェックしてるだろうし」
まゆ「気をつけるに越した事はありませんねぇ」
美穂「それにしても……修学旅行、楽しかったですねっ!」
P「ほんと、あっという間だったな」
まゆ「カヌーはまゆ達ペアが一位でしたよぉ」
P「ちゃんとマングローブ遊覧したのか?」
まゆ「勝つ為には何かを犠牲にしなければいけない世界ですから」
P「悲しい勝利だな……」
まゆ「Pさんは……楽しかったですか?」
P「あぁ、もちろん。仲の良い友達がいたおかげだな」
まゆ「ふふっ、感謝の証にペアリングなんてプレゼントしてくれても嬉しいんですよ?」
美穂「両手に着けるんですか?」
まゆ「悲し過ぎませんかねぇ」
店員「お待たせしましたー」
ソーキそばと沖縄そばが運ばれてきた。
うん、美味しそうだ。
P「よし、頂きます」
まゆ・美穂「頂きます」
99 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:48:05.18 ID:hw0GLBXPO
P「……帰って来てしまった……」
つい数十分前までさっさと着陸しろと祈りまくっていたのに、今ではもう着いちゃったのかと掌を半回転。
目の前の光景にシーサーもシークァーサーもなく、ただ見慣れた街だけが広がっていた。
帰るまでが遠足ですとは言うが、なら帰宅の直前までは遠足先の光景が広がっているべきだと思う。
美穂「……帰って来ちゃいましたね」
まゆ「ですねぇ……いつもの街並みです」
P「……終わっちゃったんだな……」
遠くに出掛けて帰って来た時の帰って来ちゃったんだな感は異常。
なんだか、物凄い虚無に包まれた気分だ。
美穂「……また、旅行に行きたいですね」
P「夏休み入ったらまたみんなで行くか」
まゆ「それでは、まゆと美穂ちゃんは寮の方ですから」
P「あぁ。また明後日、学校で」
美穂「じゃあね、Pくん」
まゆ「また来週ですね、Pさん」
それぞれ帰路に着く。
あー……だっる……
智絵里「……あ、Pくん」
P「ん、智絵里ちゃん。どうしたんだ?」
横断歩道で信号待ちをしていると、偶然隣で智絵里ちゃんも信号待ちをしていた。
智絵里「お疲れ様でした。とっても、楽しかったですね」
P「……良かったな、うん。俺もすげー楽しんだわ」
智絵里「……ねえ、Pくん」
P「ん?なんだ?」
智絵里「……なんでも、無いです……えへへ……」
信号が青に変わった。
智絵里ちゃんと並んで、横断歩道を渡る。
100 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:48:32.01 ID:hw0GLBXPO
P「……なぁ、智絵里ちゃん」
智絵里「……はい。なんですか……?」
P「……いや、いいや。すまん、なんでも無い」
美穂との事を聞こうと思ったが。
それは、また今度でいいだろう。
それこそ、もう少ししっかり美穂と話してからにするべきだ。
P「それじゃ、俺こっちの道だから」
智絵里「はい……またね、Pくん」
P「あぁ。また明後日、学校で」
智絵里ちゃんと別れて、道を歩く。
ついに姿を現した自宅は、本当に帰って来ちゃったんだな感を増させてくれる。
P「ただいまー姉さん」
文香「あ……おかえりなさい、P君」
文香姉さんにお土産を渡して、シャワーを浴びてベッドに寝っ転がる。
明日は日曜日だし、一日中寝て疲れを取ろう。
P「…………」
一人で寝っ転がっていると、昨晩の事を思い出してしまった。
……あぁぁー…………
P「……寝よう」
寝た。
101 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:49:20.63 ID:hw0GLBXPO
P「うぉー!!」
李衣菜「うっひょぉぉぉっ!!」
美穂「やっほーーっ!!」
まゆ「あの、ここ山じゃなくてプールですよぉ……他のお客さんもいますから……」
加蓮「流れるポテトがあるって聞いたんだけど!!」
智絵里「ぷ、プールを読み間違えたんじゃないかな……」
七月一日、日曜日。
天気は快晴。暑過ぎず、程よい気温に程よい風。
俺たちはいつもの遊園地のプールに来ていた。
今日からプール開きという事で、李衣菜がみんなを誘ったのだ。
李衣菜「それじゃ、みんな着替えてまた此処に集合で」
P「らじゃ」
男子は俺一人だけなので、一人で更衣室へ向かう。
まぁ実は家から既に水着を穿いて来ているから、ズボンとシャツを脱ぐだけなのだが。
コインロッカーに荷物を投げ込み、直ぐまた集合場所へ戻る。
P「……まぁ、女子は時間掛かるよな」
手持ち無沙汰で、準備体操なんてしてみたりする。
泳いでる時に足攣ったら大変だからな。
102 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:49:54.04 ID:hw0GLBXPO
李衣菜「おまたせーP」
加蓮「うんっ、日焼け出来そう!」
まゆ「お待たせしましたぁ。Pさん、どうですかぁ?」
李衣菜、加蓮、まゆが来た。
三人とも水着だ。当たり前だわ。
正式な名称は分からないけど、多分ビキニだと思う。
フリル付いててめっちゃ可愛い。正式な名称は分からないけど。
P「似合ってるぞ。やっぱりまゆはピンク色が似合うな」
加蓮「ちょっと鷺沢、私にも何か一言くらい言ったらどうなの?」
P「日焼け止めちゃんと塗っとけよ」
加蓮「水着!水着についてっ!」
P「すげー日焼けしそう」
加蓮「もういいっ!!」
P「すまんって……えっと、とても可愛らしいと思います」
加蓮「うん、素直でよろしい。胸元見てるとこも含めてね」
P「は、見てないし。虚空を見つめてただけだし」
加蓮「胸が無いって言いたいの?!」
P「いや、加蓮はかなりあると思うけど……」
加蓮「やっぱり見てるんじゃん」
これ以上はボロが出そうなのでやめよう。
……加蓮、結構あるんだな。
水色のフリル付きビキニが、実際かなり似合っていて可愛い。
李衣菜「はいはい、アホな会話してないで体ほぐしなよ」
P「美穂と智絵里ちゃんは?」
まゆ「二人は、恥ずかしがって少し時間が掛かってるみたいです」
正直、美穂の水着姿がめちゃくちゃ楽しみだったりする。
美穂の事だからかなり照れるだろうし、そんな表情も併せて楽しみたい。
103 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:50:28.50 ID:hw0GLBXPO
智絵里「……え、えっと……」
美穂「お、お待たせしました……」
来た。
水色のパレオに身を包んだ智絵里ちゃんと、オレンジ色の!ワンピースタイプの!美穂!!
P「……待ってないよ、今来たとこ」
李衣菜「……P、分かりやすいよね」
加蓮「鼻の下が伸び過ぎて地面に着きそう」
まゆ「ゾウさんもびっくりですねぇ」
美穂「……えっと、Pくん……どうですか?」
照れながら両手を前に伸ばして若干隠しつつも、こちらの反応を伺う美穂。
露出が多い訳じゃ無いけど、それがまた美穂らしくて可愛い。
俺の覚悟が甘かった。破壊力はソーラービームだ。
まるで太陽みたいに、直視すると目がやられる。
P「……遮光板が欲しくなるな」
智絵里「あ、あの……Pくん。わたしは……ど、どうですか……?」
モジモジしながら、恥ずかしそうに上目遣いの智絵里ちゃん。
P「……大丈夫!今来たとこ!」
加蓮「脳味噌を忘れて来ちゃった感じの発言だね」
李衣菜「照れ隠しが分かりやすいんだよね、ほんと」
まゆ「さて……泳ぎますよぉ!!」
P「おう!」
早くプールに入りたかった。
さもないと、気付かれたくない事に気付かれそうだから。
伸びてる事に気付かれたのが鼻だけで良かった。
ジャッパーン!!
プールに勢いよく飛び込んだ。
まだプール開き初日で、そこまで人の数は多くない。
ある程度は好き勝手泳いでもぶつからずに済みそうだ。
104 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:50:55.25 ID:hw0GLBXPO
加蓮「李衣菜!ビッグストリームウォータースライダー行くよっ!」
李衣菜「え゛。ここの遊園地のアトラクション結構ヤバいよ?」
加蓮「ふーん、余計気になるんだけど。早く行こっ!」
李衣菜「……み、美穂ちゃんも行かない?!」
美穂「ご、ごめんなさいっ!わたし、まだやり残してる事がいっぱいあるからっ!」
李衣菜「美穂ちゃんの薄情者ぉーー」
李衣菜が加蓮に拉致されて行った。
あぁ、無事精神を壊さずに帰って来れる事を祈ろう。
この遊園地はどんなアトラクションにも本気で、当然ウォータースライダーも例外じゃないからな。
まゆ「Pさぁん……何処ですかぁぁ……」
まゆが流れるプールに流されて行った。
智絵里「だ、大丈夫ですか?まゆちゃ……きゃっ!流れ、速過ぎて……Pくーんっ………っ!」
助けようとして智絵里ちゃんも流されて行った。
なんか……かわいいな、二人とも。
美穂「……みんな、行っちゃいましたね」
P「ここの流れるプール、洗濯機みたいな速さしてるもんな」
美穂「……えへへ、二人っきりですねっ!」
俺と美穂は波のプールで、のんびりぷかぷか揺られていた。
一定の周期で訪れる高い波に乗って、ふわふわと浮かぶような感覚を楽しむ。
ジャンプ出来ずに乗り損ねると、溺れそうになるくらいエグい波だけど。
美穂「楽しいですね」
P「あぁ……さっきはちゃんと言えなかったけど、凄く可愛いぞ。水着も……美穂も」
美穂「……ええと、ありがとうございます。悩んで選んだ甲斐がありました」
俺の為に悩んで選んだ、だと?
ならもっと凝視しないと、美穂に申し訳無いな。
105 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:51:38.96 ID:hw0GLBXPO
美穂「……そ、そんなに見られると……恥ずかしいです……」
照れた表情が、より一層可愛らしさを引き立てる。
なんて美穂の方を凝視していたら、いつの間にか次の波が来ていた。
P「うぉっ!波やっぱ高いな……っ!」
美穂「きゃっ!」
美穂が波に飲まれそうになる。
慌てて美穂を抱き寄せ、流されそうになっているのを引き止めた。
美穂「……あぅ……ありがとうございます……」
当然密着する事になり、水着一枚しか隔てられていない胸の感触が伝わって来た。
慌てて離れようとするが、美穂が抱き締めてきて離れられなかった。
P「お、おーい美穂……」
美穂「……ぎゅ、ぎゅーーっ!」
P「……胸。胸当たってるから……」
幸せだけど。
こう、うん。アレがね、うん。
美穂「あ、あああっ、あてっ、当ててるんです……っ!」
……叫びそうになった。
可愛さがギネスだ。ビールの方じゃなくて。
P「そ、そうか!なら仕方ないな!」
美穂「はっ、はいっ!!」
P「ご馳走様です!」
美穂「お、お粗末様ですっ!」
P「可愛いなぁ!」
美穂「ありがとうございます!」
……ナニとは言わないが、バレない事を祈ろう。
抱き締め合ったまま、波が来るたびにジャンプする。
押し寄せる幸せの波の方に溺れそうだけど。
美穂「……えへへ、幸せです」
P「あぁ、俺もだ」
美穂と、互の目を見つめ合う。
その距離が、少しずつ縮んでいって……
ジャパッッ!!
P「うぉっ!」
美穂「きゃっ!」
次の波に、思いっきり飲み込まれた。
強い水流に足を取られ、横倒れになる。
抱き合ったままでもがくと危険なので、波が去って水位が下がるまで水中で待った。
それからゆっくり立てば良い。
P「っん?!」
美穂に、キスをされた。
唇が重なり、水中でも柔らかい感触が伝わって来る。
P「っぷぁ!ふぅ……」
波が去って、足をつけば肩が出るくらいの水位になった。
106 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:52:07.16 ID:hw0GLBXPO
美穂「……え、えへへ……水中なら、誰も見てないかなって……」
P「危険だぞ、全く……」
美穂「一緒に、溺れられましたねっ!」
P「約束したけどさ!」
美穂「も、もう一回……溺れませんか?」
P「……つ、次の波が来たらな」
加蓮「やっほー!鷺沢ー!」
李衣菜「……二度と乗らない……」
加蓮と李衣菜がやって来てしまった。
残念ながらキスは出来そうにない。
加蓮「鷺沢達もやってきたら?ウォータースライダー」
P「いや、いいや……」
李衣菜「あれ?まゆちゃんと智絵里ちゃんは?」
P「流れるプールに流されてったぞ。そのうち一周して戻って来るんじゃないか?」
美穂「…………ねえ、Pくん。わたし達も流されに行きませんか?」
加蓮「あ、なら私も行こっかな」
李衣菜「ところでさ……二人とも、いつまで抱き合ってるの?」
P「……あ」
美穂「……え、永遠にですっ!」
加蓮「インフィニティ?」
李衣菜「アンリミテッド?」
P「エターナル」
美穂「……え、えっと……思い付かないので、わたしの負けです……」
素直に美穂は離れた。何だったんだ今の。
一旦プールから上がって、流れるプールに移動する。
……うん、やっぱりスピードおかしいわ。流しそうめんだってこんなに速くないぞ。
P「……俺から行くぞ」
ジャパッ!とプールに浸かる。
一瞬で三人とお別れする事になった。
107 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:52:34.76 ID:hw0GLBXPO
智絵里「……あ、お久しぶりです。Pくん」
P「ふぅ……やあ、智絵里ちゃん」
流れるプールを半周くらいしたところでなんとか這い上がると、智絵里ちゃんがベンチで休んでいた。
P「隣、いいか?」
智絵里「はっ、はいっ!ど、どうぞ……っ!」
横に座らせて貰う。
はぁ……流されただけなのに体力持ってかれるな。
しばらく待っていても美穂も李衣菜も加蓮も流れて来ない。
……あいつら、引き返して別のプールに行ったな?
P「ん?そう言えばまゆは?」
智絵里「まゆちゃんなら、一周してPくん達の場所に戻るって言ってました」
じゃあ丁度すれ違いになっちゃった感じか。
P「智絵里ちゃんは此処で休憩中?」
智絵里「はい、それに……」
少しだけ、距離を縮めて来る智絵里ちゃん。
肩が触れるか触れないかくらいの距離で、此方へ微笑んだ。
智絵里「……Pくんが来る様な気がしましたから」
何でだろう。心か未来が見えるんだろうか。
智絵里「……えへへ……ふ、二人っきりですね」
ん、なんか既視感。
ついさっき美穂に全く同じ様な事を言われた気がする。
P「……智絵里ちゃん、あのさ。心なし距離が近いんじゃないかなーって」
智絵里「……そう、ですか……?」
P「ほら、恋人がいる男子が、他の女子とこの距離ってのはな……」
智絵里「……わたしは、気にしません」
いや気にしてよ。
智絵里「そ、それに……触れ合ってる訳でもないですから」
P「ならセーフ……なのか?」
いやアウトな気がする。
少なくとも、この光景を美穂が見たら悲しむんじゃないかなぁ。
という訳で少し離れてみる。距離を詰められた。
これ以上離れようとするとベンチから落ちてしまう。
ベンチから立ち上がると、智絵里ちゃんも立ち上がった。
ベンチに座った。智絵里ちゃんも座った。
それが何だか楽しくなって何度もスクワットの様な動きを続けていたら、智絵里ちゃんがバテて座り込んでしまった。
P「……すまん、つい遊び過ぎた」
智絵里「はぁ……ふぅ……もう、立てません……」
P「悪かったって。ほら、次のプールに行こう」
手を伸ばして、立ち上がるのを手伝おうとする。
108 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:53:01.62 ID:hw0GLBXPO
智絵里「……うん、いいよね……」
俺の手を取って、立ち上がる智絵里ちゃん。
そしてそのまま、俺の手を引き寄せて……
P「っ?!」
智絵里「んっ……」
頬の、唇に触れるか触れないかくらいの場所に、軽いキスをされた。
智絵里「……き、キス……しちゃいました……」
P「……なぁ、智絵里ちゃん」
これは、流石に……
イタズラにしては度が過ぎるし、本気なのだとしたら既に断った筈だ。
智絵里「……意地悪された仕返しです。それと……お返事は、まだしないで下さい」
P「いやいや、だからさ……」
智絵里「……美穂ちゃんは……きっと、まだ迷ってると思いますから」
P「……え?」
それは、一体どういう事なんだろう。
そう聞き返す前に、智絵里ちゃんはまたプールに入っていってしまった。
智絵里「あっ、きゃっ!なっ、流れるプールでしたっ!た、助けてPくんっ……っ!」
そのまま高速で流されていった。
P「……な、なんだったんだ……?」
ポカンとしているうちに、智絵里ちゃんはもう遥か遠くまで流されていて。
俺は結局、何も理解する事が出来なかった。
109 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:53:29.82 ID:hw0GLBXPO
李衣菜「あー、遊んだね!」
加蓮「疲れたー……帰るのダルくない?」
まゆ「はぁ……折角Pさんと一緒に来たのに、悩殺アピールチャンスが全然ありませんでした……」
美穂「まゆちゃん」
まゆ「冗談ですよぉ」
智絵里「うぅ……身体が重いです……」
一日泳ぎ尽くして、体力が底を尽きそうな夏の夕方。
流石にみんな疲れたのか、そろそろ帰るムードになっていた。
一応十九時までは開いてるらしいが、既に人はかなりまばらだ。
P「人が少なくて良かったな。割と好き勝手泳げたし」
李衣菜「もう十七時まわったし、そろそろ帰る?」
まゆ「十七時でまだ少ししか空が赤くないのが、夏って感じがしますよねぇ」
加蓮「ねえ李衣菜、この後夕飯行かない?」
李衣菜「おっけー、取り敢えず着替えて出よっか」
智絵里「あっ、ご一緒して良いですか?」
李衣菜「もちろん。お昼食べる時間無かったからお腹ペコペコだよもう」
まゆ「まゆもご一緒しますよぉ。寮の門限があるので、途中で抜ける事になるかもしれませんが」
110 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/29(月) 17:53:57.25 ID:hw0GLBXPO
美穂「……あ、あれ?わたし、貴重品ロッカーの鍵無くしちゃった……?」
P「ん、まじで?係りの人に落ちてなかったか聞きに行くか」
美穂「そ、その前にPくん!い、一緒に探してくれませんか?」
P「構わないぞ」
まゆ「…………それでは、まゆ達は先に行ってますから。合流出来そうなら来てくださいね?」
そう言って、美穂以外がシャワールームに向かって行った。
P「んじゃ、探すか。それで見つからなかったら係りの人に何とかして貰おう」
美穂「……ごめんなさい。ええと……共有シャワールームの前で、待ってて貰えませんか?」
P「おっけー」
美穂に言われた通り、共有シャワールームに向かう。
更衣室にも一応シャワールームはあるが、こっちは子連れ等の複数人での使用を前提としている為そこそこ広い。
ロッカーの鍵の紛失って、確か罰金あったよな……
そんな事を考えていると、美穂が此方へ向かって来ていた。
美穂「お、お待たせしましたっ!」
そう言って顔を真っ赤にする美穂は、さっきとは違い白いビキニを身に付けていた。
P「……だ、大胆な水着だな……」
今日来た面子の誰よりも、一番大胆な水着な気がした。
真っ白なビキニって、良い。
美穂「その……本当は、鍵を失くしちゃったなんて嘘で……Pくんに、この水着姿を見て欲しくって……」
P「……凄く、良いと思う。可愛いぞ」
そんないじらしさも含めて、美穂が可愛かった。
美穂「恥ずかしくって、一応持ってきただけだったんですけど……やっぱり、見て欲しかったから……」
夕日に照らされて、より一層真っ赤になる美穂。
そんな表情が堪らなく愛おしい。
美穂「もう少しだけ……二人で、遊んで行きませんか?」
P「……おうっ!」
もう殆ど人の残っていないプールで。
俺たちは、思う存分夏を満喫した。
111 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:02:53.71 ID:r0nzCQQSO
それから大体一ヶ月と少し。
美穂の勉強に付き合い、期末テストを乗り越え。
模試を受けたり、文化祭の出し物を決めたり。
美穂とデートして、幸せな時間とか肌とか唇とか肌とかを重ねたりとかして。
忙しくも楽しい日常は、あっという間に流れーー
ちひろ「ーーなので、皆さん浮かれ過ぎない様に。タバコやお酒もぜっったい断って下さいね?」
七月下旬、最後のHR。
明日から楽しい毎日が待っている生徒達は、誰一人千川先生の話を聞いていなかった。
まぁ、小学生の頃から何度も聞かされた様な注意事項だし。
ちひろ「それでは、二学期に元気な皆さんと会える事を願って……はい、さようなら」
みんな「さようならー」
千川先生が教室から出て行く。 一学期が、完全に終わる。
……さあ、夏休みだ。
P「っしゃおらぁ!遊び行くぞ!!」
加蓮「夏!ポテト!海!ポテト!」
李衣菜「この後みんなでカラオケ行かない?」
美穂「良いですねっ!早速行きましょう!」
まゆ「まゆの美声を聞かせてあげますよぉ!」
みんなテンションマックスだ。
そりゃそうか、夏休みだし。
智絵里「えっと、この後用事があって……終わってから参加してもいいですか?」
李衣菜「ん?もちろん!着いたら部屋の番号ラインで送るから」
P「今は……十二時半か。それじゃみんな、十三時半くらいに駅前の時計のとこに集合で」
美穂「……はいっ!」
李衣菜「了解っ!」
加蓮「おっけー」
まゆ「かしこまりますよぉ」
誰一人配られた宿題の山に目を向けないのが実に高校生らしくて良い。
夏休み初日はこうでないと。
鞄に置き勉していた教科書を全部突っ込み、重たい荷物を引きずって家へと走る。
P「ただいまー姉さん」
文香「お帰りなさい、P君。随分と機嫌が……あぁ、夏休みでしたか」
大きく溜息を吐く文香姉さん。
そうか、大学生はまだ夏休み先か。
P「みんなとカラオケ行ってくるから」
文香「夜はどうしますか?」
P「多分二十時くらいには帰って来ると思う」
文香「では、私もそれくらいを目処に戻って来ます。それまでは大学生の図書室でレポートを書いていますので」
P「あいさ」
荷物を部屋に放り投げて、さっさと私服に着替える。
昼飯は……面倒だし抜いていいだろう。 そんなにお腹空いてないし。
そんな事より早く遊びに行きたかった。
112 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:03:24.49 ID:r0nzCQQSO
P「いってきまーす」
文香「羽目を外し過ぎないように、ですよ」
炎天下の中、暑さなんて気にせず駅へと走る。
吹き抜ける風が心地よい。
いや、暑い、めっちゃ暑い。
五分と経たず汗だっくだくになってくる。
なのに何故だか走るのを止める気にはならない。
替えのシャツ持って来てよかった。
P「っふぅー……早く着き過ぎた」
スマホの時計を確認すれば、まだ十三時前だった。
こっから三十分以上も外で立ってるのはしんどいし、かといって喫茶店で時間を潰すには短過ぎるな……
まゆ「あ、Pさん。早い到着ですね」
P「ん、まゆももう着いてたのか」
微笑みながら、此方に駆け寄ってくるまゆ。
正確な名称の分からない、ピンクの薄手のワンピースに身を包むまゆはとても可愛かった。
まゆ「楽しみで、ついつい急ぎ過ぎちゃいました」
P「分かる。俺もそんな感じだよ」
まゆ「……外で待つには、少し暑過ぎますね」
P「だなー……そこの喫茶店で待つ?」
まゆ「はい。そうしましょう」
駅前の時計が見える位置にある喫茶店に、二人で入る。
カランカランと鳴るベルと、空調の効いた冷たい風が心地良い。
店員「っしゃせー」
P「禁煙二人で。窓際の席って空いてますか?」
店員「しゃー」
店員に案内され、窓際の二人席に着く。
ふぅ……涼しい。
まゆ「Pさんは何にしますか?」
P「昼食べてこなかったし、サンドイッチとコーヒーのセットにしようかな」
まゆ「ふふっ、まゆと一緒ですね」
注文を終えて、一息吐く。
この先からなら待ち合わせの場所がよく見えるし、のんびりしていて大丈夫そうだ。
113 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:03:55.08 ID:r0nzCQQSO
まゆ「一学期……あっという間でしたね」
P「だなー。楽しかったから尚更早く感じたわ」
まゆ「最近、どうですか?」
P「どう、って……どういう事?」
まゆ「美穂ちゃんと、という事です。仲良く恋人生活を送れてますか?」
P「あー……まぁ、うん。多分、かなり」
ラブラブ恋愛生活を出来るぞ!なんて流石に言えないな。
まゆ「そうですか。なら、良かったです」
P「良かった……?」
まゆ「だって、Pさんと美穂ちゃんの仲が上手くいってなかったら……まゆ、横取りしたくなっちゃいますから」
P「残念ながら俺たちはファンデルワールス力よりも強い力で結ばれてるよ」
まゆ「それ、結合の中で一番脆い力ですよぉ……」
P「ん、違った。共有結合だ」
まゆ「カップルが言うと説得力が違いますねぇ」
P「SNSでカップル共有アカウントとか作るかな」
まゆ「既に廃れた文化ですが……」
ふぅ、と。
一息ついて、まゆは更に聞いてきた。
まゆ「なら……智絵里ちゃんとは、どうですか?」
P「ん?俺と智絵里ちゃん?」
時折距離が近いなと思う事はあるけど、それでも友達と言えるくらいの距離な気がする。
少なくとも、プールに行った時の様な事はされていない。
と、言うか。
そういう事にしておかないと、美穂を困らせてしまう。
P「……まぁ、友達だと思ってるよ」
まゆ「……いえ。美穂ちゃんと、智絵里ちゃんです」
P「そういえば、どうなんだろう」
あんまり二人が喋ってるところって見ない気がする。
俺と美穂、俺と智絵里ちゃんでそれぞれ話す事はあっても、三人で話す事は滅多に無いし。
美穂は結局、智絵里ちゃんに何て言ったのだろう。
特に相談されなかったけど、どうなったんだろうな。
114 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:04:32.05 ID:r0nzCQQSO
店員「お待たせしましたー」
注文したコーヒーとサンドイッチが届いた。
……うん、サンドイッチ美味い。
まゆ「Pさん、サンドイッチ好きですよね」
P「まぁな、昔はずっとパンばっか食べてたし。ほら、昔から朝食自分で作ってたんだけど、それだと米炊く時間無いんだよな」
まゆ「あ……ごめんなさい」
P「いいよいいよ。ふぅ……一回涼しい場所入ると、出るの億劫になるよな」
まゆ「このまま夜まで、二人でお話しするのも吝かではありませんが」
P「ま、今日はみんなではしゃごうよ。折角の夏休みなんだし」
まゆ「ふふっ、そうですね……Pさんはそう言う方ですから」
コーヒーカップを傾ける。
熱い、でもまゆの前だしカッコつけて優雅に飲む。
ピロンッ
『李衣菜ちゃんと一緒です。もう直ぐ着きます』
P「……ん、もうすぐ美穂達も着くっぽいな」
まゆ「ですねぇ。コーヒーを飲み終えたら、のんびり出ましょうか」
115 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:04:59.22 ID:r0nzCQQSO
駅前の時計の方を見る。
……ん、加蓮着いてるじゃん。
キョロキョロと他に誰か来てないか探してる様だ。
ピロンッ
『鷺沢、もう着いてる?』
『今喫茶店で時間潰してたとこ。直ぐ行くよ』
P「っし、行くか。会計は俺が持つからいいよ」
まゆ「お言葉に甘えさせて貰います。お礼に今度、みんなでPさんの家でお食事するときに腕を振るいますから」
会計を済ませて外に出る。
あっつ、めちゃくちゃあっつ。
P「おーい、加蓮」
水色のシャツに短過ぎる白いパンツ姿の加蓮は、こっちを向いて手を振って来た。
……大丈夫?そんなに肩出して足出して。日焼けするぞ?
ってかシャツ上の方なんか透けてない?そう言うデザイン?
加蓮「あ、やっほー鷺沢。隣のソレは何?」
まゆ「ソレじゃなくて連れですよぉ」
P「二人して早く着き過ぎちゃったから、そこの喫茶店で涼んでたんだ」
まゆ「アツアツでしたよぉ」
P「コーヒーがな。ってかやっぱバレてたか」
加蓮「随分楽しそうじゃん。美穂に言いつけちゃうよ?」
P「じゃあ楽しくなかった」
まゆ「あの」
P「で、多分そろそろ美穂達も来るはずなんだけど……」
李衣菜「おまたせーみんな」
美穂「お待たせしました、みなさん」
あぁ、美穂まで肩出して。
ピンク色のフリル付きとかめちゃくちゃ、めっっちゃくちゃ可愛いけど日焼けするぞ。
P「んじゃ、全員揃ったしカラオケ向かうか」
116 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:05:26.68 ID:r0nzCQQSO
美穂「ーーいつも、その笑顔を、ずっと!私だけに向けてねっ!」
李衣菜「……可愛いなぁ、美穂ちゃん」
美穂「ふぅ……どうでしたか?わたし、この歌がとっても好きなんですっ!」
P「うん、上手いしめっちゃ可愛いかったぞ」
美穂「え、えへへ……」
俺に向けての想いを歌に乗せたんだとしたら、もうとんでもなく可愛い。
可愛らしさに即死効果が付いているくらいだ。
李衣菜「さーて、何点かな?」
ピピピピピッ、と画面に数字が映し出された。
画面『百万ドルの笑顔です』
P「分かってるじゃないか、この採点機」
美穂「ひゃ、百万ドルって……」
まゆ「何百万点満点なんでしょうねぇ」
李衣菜「そもそも点数なの?これ」
加蓮「私何歌おっかなー」
まゆ「ラジオ体操第二なんてどうですか?」
加蓮「じゃあまゆ踊ってよ」
李衣菜「次の曲は……エヴリデイドリームだって。誰が歌うの?」
まゆ「まゆですよぉ。まゆの想いを込めて、全力で歌いますよぉぉ!」
気合い入ってるな。
117 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:05:53.37 ID:r0nzCQQSO
可愛らしいイントロが流れ出すのと同時、まゆがマイクを構える。
まゆ「大好きなあの人に向けて、心を込めて歌います。聞いてください……佐久間まゆで、エヴリデイドリーム」
加蓮「斬新。イントロをバックに語り出した」
李衣菜「新しいカラオケの楽しみ方だね」
歌詞が始まるのとピッタリに、まゆが前説を終える。
凄く完璧なタイミングで凄いけど、ずっとこっち見られると恥ずかしいし画面見ようよ。
歌詞は、とても可愛らしいラブソング。
アイシテルが片仮名なのが若干怖かったが、概ね恋する女の子の歌だった。
まゆ「私のこと……大好き、って……」
まゆは終始ずっとこっちを見て歌っていた。
歌詞全部暗記してるの凄いな。
あと美穂もずっとこっちガン見してた。
いや、違うからな?浮気とかじゃないからな?
まゆ「ふぅ……ご清聴、ありがとうございました」
美穂「とっても上手かったと思いますよ、まゆちゃん」
まゆ「面白いくらい声が平坦ですねぇ……どうでしたか?Pさん」
P「え、あぁうん。上手かったと思うよ、かなり」
美穂「加蓮ちゃん、早くラジオ体操第二を歌って空気を変えて下さい」
画面『高得点です。まるで本人の様な歌いっぷりでした』
P「……いや点数出せよ」
まゆ「Pさん、さっきはそんな事言ってなかったじゃないですかぁ……」
李衣菜「でも上の音程バー出てくるだけでも歌いやすいよね」
美穂「まゆちゃん一回も画面見てませんでしたけどね」
美穂、それを俺の方見ながら言わないでくれ……
118 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:06:20.38 ID:r0nzCQQSO
加蓮「さてと……それじゃ、私の番だね。いくよ、みんなっ!」
ラジオ体操第二の音楽が流れ始めた。
心の底から踊りたくねぇ……
P「……俺ドリンクバー行ってくるわ。誰かお代わり欲しかったら持ってくるけど」
美穂「あ、ならわたしは烏龍茶でお願いします」
李衣菜「私は麦茶で」
まゆ「なら、まゆもご一緒します」
加蓮「私メロンソーダとコーラとオレンジジュースで」
まゆ「全部混ぜればいいんですかぁ?」
加蓮「思考が小学生レベルだね、まゆは」
ドキっとする。
実は俺も同じ事考えてたから。
みんなのカップを持って、一旦部屋から出る。
ドリンクバーでは、うちの高校の制服の奴等が並んでいた。
P「やっぱみんな来るよなぁ」
まゆ「今日から長期休暇ですからねぇ」
P「楽しいなぁ……友達増えて」
ドリンクを注いでいると、智絵里ちゃんがやって来た。
智絵里「あ……お待たせしました」
P「お、もう用事は終わったの?」
智絵里「はい。他のみんなは……?」
まゆ「もう歌い始めてますよ。一緒に部屋に戻りましょうか」
部屋に戻ると、李衣菜がロックっぽい曲を熱唱していた。
119 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:06:48.18 ID:r0nzCQQSO
美穂「あ……こんにちは、智絵里ちゃん」
智絵里「……こんにちは、美穂ちゃん」
加蓮「……五人、揃っちゃったね……」
まゆ「……ですねぇ……」
美穂「ついに……この時が……!」
画面『69点。色々とブレてます』
李衣菜「えっ、私音程もっと合ってたってば!」
P「いや音程かなりSin波だったぞ……で、五人揃うと何かあるのか?」
加蓮「バスケが出来るね」
まゆ「まゆ達五人が力を合わせれば、向かう所敵なしですよぉ」
智絵里「えっと……五人しかいないなら敵がいないのは当たり前じゃ……」
美穂「と言うのは冗談で……最近女子高生の間で流行の、あの歌が丁度歌えるんです」
李衣菜「マイクは二個しかないけどね」
残念な事に、俺は女子高生の流行りに詳しくはない。
加蓮「よしっ、送信っと」
まゆ「まぁコレですよねぇ」
智絵里「あ……この曲、わたしもとっても好きです」
美穂「何度もMVを見てたら、振り付けまで少し覚えちゃいました」
李衣菜「この真ん中の無限記号がロックでカッコいいよね」
オシャレなイントロが流れ出す。
なんだか凄く火サスとか昼ドラで流れて来そうな曲調だ。
まゆ「聞いて下さい、Pさん。佐久間まゆで……」
加蓮「あ、私も歌うんだけど。北条加蓮で」
美穂「五人で歌うんですから、もっと上手く繋いで下さい。小日向美穂と……!」
李衣菜「あ、私もやる流れ?多田李衣菜と……!」
智絵里「え、えっと……緒方智絵里で……!」
「「「「「Love∞Destiny」」」」」
120 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:07:16.35 ID:r0nzCQQSO
加蓮「ふー……かなり歌ったね」
P「もう十九時か。そこそこいい時間だな」
李衣菜「みんなは夕飯どうするの?」
美穂「わたしは門限があるので……」
まゆ「まゆもそろそろ帰らないといけません」
加蓮「なら私も帰ろっかなー」
智絵里「わ、わたしはまだ時間はあるけど……」
李衣菜「なら、何処かで食べてかない?」
智絵里「え、李衣菜ちゃんが払ってくれるんですか……?!」
李衣菜「おっ、今日一のいい笑顔」
加蓮「え?李衣菜の奢り?ならまだ帰らなくていいかな」
李衣菜「ちょっとちょっと、私そんな手持ちないんだけど!ねぇP、どう?助けてくれたりしない?」
P「悪いな、俺は帰って夕飯作んないと」
文香姉さんにも帰るって伝えてあるし。
あ、食材も軽く買ってから帰るか。
P「んじゃ、また適当に集まって遊ぼうな」
加蓮「じゃあねー」
まゆ「ふふっ、お疲れ様でした」
カラオケから出て、それぞれバラバラに散って行く。
P「あ、俺夕飯の食材買ってから帰るから」
まゆ「それじゃ美穂ちゃん。二人で帰りましょうか」
美穂「うん。じゃあね、Pくん」
P「じゃあな、美穂、まゆ」
スーパーに入って、特売のものを買い込む。
お一人様二つまで……美穂とまゆに付き合って貰えば良かった。
121 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:07:43.42 ID:r0nzCQQSO
まゆ「今日は、とっても楽しかったですね」
美穂「そうだね……うん!またみんなで行こうね!」
まゆちゃんと二人で、夏の夜道を歩きます。
美穂「門限さえなければ、李衣菜ちゃん達とお夕飯一緒に食べられたんだけどな……」
……ううん、きっと、門限なんて無くても。
わたしは、行ってなかったと思います。
だって、その食事の場には……
まゆ「ねえ、美穂ちゃん。聞きたい事があるんですけど……」
美穂「え?なに?」
まゆ「……美穂ちゃんは、Pさんの事が好きですか?」
美穂「……え?急にどうしたの?」
まゆ「少し気になっちゃったんです。美穂ちゃんは、本当にPさんの事が好きなのかな?って」
そんな質問の答えなんて、決まり切ってます。
美穂「もちろん。わたしは、Pくんの事が大好きだよ?」
まゆ「……そう、ですか。そうですよね」
美穂「それが、どうかしたの?」
まゆ「いえ、Pさんも美穂ちゃんの事を好きだと言っていたので」
美穂「え、えへへ……て、照れちゃうな……」
まゆ「はい、だから」
これからも応援してくれるのかな、なんて。
そんな風に、気楽に考えてたから。
122 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:08:09.72 ID:r0nzCQQSO
まゆ「Pさんと、別れて下さい」
美穂「…………え?」
そんなまゆちゃんの言葉に、頭が空っぽになりました。
美穂「……わ、別れて、って……ど、どういう事?」
まゆ「そのまま言葉通りですよ?Pさんとのお付き合いを終わらせて下さい、という意味です」
美穂「な、なんで……そんな事……」
まゆちゃんは、わたしの事を応援してくれてたのに……
まゆ「本当は言いたく無かったんですけどね。美穂ちゃんから別れを告げるのが、きっと一番楽に済むでしょうから」
美穂「ま、待って!ど、どうしてそんな事言うの?!まゆちゃんは……まだPくんの事を……」
まゆ「はい、好きですよ。振られはしましたが、嫌われた訳ではありませんから。諦めないのは当然だと思いませんか?」
美穂「だ、だからって、そんな事言わないでよ……わたしたち」
まゆ「友達、ですか?そうですねぇ。美穂ちゃんならそう言うと思ってました」
美穂「…………まゆちゃんは、わたしの事を……」
……友達だと思ってくれてなかったの?
まゆ「大切な友達だと思ってますよ。だから素直に身を引きましたし、今まで応援してきた訳ですから」
美穂「なら……なんで?どうして今……」
まゆ「美穂ちゃん。まゆは、Pさんに迷惑を掛けたく無いんです。困らせたく無いんです……そして、Pさんを困らせる様な人に、Pさんの側に居て欲しく無いんです」
まゆ「それはもちろん……恋人の美穂ちゃんであっても、例外ではありません」
美穂「わ、わたしが……迷惑?そんな……わ、わたしだって、Pくんに迷惑掛けちゃう様な事はしたくないし、してないよ……?」
まゆ「……ねえ、美穂ちゃん」
まゆ「本当に……本気で、何も迷惑を掛けてないと思ってるんですか?」
123 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:08:51.93 ID:r0nzCQQSO
わたしは、何も言えませんでした。
後ろめたい事なんて全く無いって言えば、それは嘘になっちゃいますから。
まゆ「そうですね、では……智絵里ちゃんについて、お話を聞かせて貰います」
ドキッ、と。
心臓が跳ね上がりました。
ずっと避けて来た、ずっと逃げて来た部分に触れられそうになって。
美穂「ま、まゆちゃん!そのお話は今度にしませんかっ?」
まゆ「……美穂ちゃん、まゆを失望させないで下さい。奪うつもりなら、いつだって出来たんですよ?」
まゆ「それでもこうして真正面から切り出しているのは、美穂ちゃんとこれからもお友達でいたいからです」
まゆ「そもそも、どの道このまま何もせずにいたら……遠からず、終わっていた事なんですから」
美穂「……まゆちゃんは、何を知ってるの?」
まゆ「Pさんの事ならなんでも知ってるって、以前教えませんでしたか?」
まゆ「美穂ちゃんが智絵里ちゃんにきちんと伝えられていない事も。これからも出来るだけ避けて直接は伝えずに、なぁなぁにして流していくつもりだった事も。自分さえ我慢して、智絵里ちゃんがPさんに接触するのを見て見ぬ振りすれば、友達でいられると思っている事も」
まゆ「Pさんが智絵里ちゃんからの接触で内心困っている事も。それでも美穂ちゃんに止められているせいで本気では怒れずにいる事も。美穂ちゃんに確かめようにも美穂ちゃんが話を逸らすから、困らせない為に踏み込めずにいる事も」
まゆ「美穂ちゃんが恋人である自分を選んでくれると信じて、Pさんはずっと待っている事も……全部、把握しています」
Pくんはいつも笑ってたけど、内心では困ってたんだ……
そんな事に、大好きな人の事なのに、わたしは気付かなくって……
美穂「ど、どうしてそこまで……」
わたしですら、Pくんの考えてる事をそこまでは知らなかったのに。
まゆ「好きな人の為に本気で色々と行動するのは、おかしいことですか?それとも、美穂ちゃんにとって……恋人は普通の友達の少し延長程度だと思っているんですか?」
美穂「そ、そんな事ないもんっ!大好きだから離れたくないし、だから告白したんだもんっ!」
まゆ「……離れたくないから、ですか……まあ、知ってはいましたが」
124 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:09:37.73 ID:r0nzCQQSO
まゆ「……それ、友達でいいんじゃないですか?」
美穂「…………え?」
まゆ「だから、早く別れて下さい。そしたらまゆがPさんとお付き合いしますから」
まゆ「でしたらお約束しますよ。まゆとPさんが結ばれても、美穂ちゃんが以前と同じ距離の関係でいられる事を」
まゆ「美穂ちゃんがPさんとお話しするのを、美穂ちゃんがPさんの側に居ようとするのを、まゆは邪魔しません」
まゆ「……どうですか?美穂ちゃんのご要望に応えられていると思いますけど」
美穂「いやっ……そんなの……」
そんなの、頷ける筈が無いから。
わたしは、Pくんの事が大好きだから。
まゆ「はぁ……まゆに対してはきちんと言えているんですけどねぇ」
まゆ「他の女の子とお友達でいたいから、裏切る様な事はしたくないから。そんな理由で燻っているのは分かりますし、美穂ちゃんが悩んでいる事も分かりますが……」
まゆ「恋人と友達なんて、秤にかけるまでもなく……大切な方なんて、決まってるんじゃないですか?」
まゆ「なのにまだどちらにも傾いてないという事は、美穂ちゃんにとって……Pさんはただの友達って事じゃないんですか?」
まゆ「それとも、友達も恋人も重みは同じですか?その程度の想いなんですか?一人きりしかいない恋人なのに、その他大勢と同じ扱いですか?」
美穂「わ、わたしは……」
まゆ「さて、話を戻しましょうか。このまま続けられれば、きっと壊滅的な事が起きる日は来ない……そう考えているんですよね?」
まゆ「そしてそれは、おそらく智絵里ちゃんも同じです」
まゆ「美穂ちゃんが友達という枷によって動けずにいる事を、智絵里ちゃんも分かっています。友達以上恋人以下の関係を続けて、美穂ちゃんがPさんを諦める日を待っているんです」
まゆ「下手に距離を詰め過ぎると、流石にPさんも本気で拒絶するでしょうからねぇ」
まゆ「……どちらも許せません。Pさんに迷惑を掛けている事も……現状維持でこのままの関係を続けられると、本気で思っている事も」
125 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:10:18.23 ID:r0nzCQQSO
美穂「で、でも……わたしがPくんを諦める日なんて……」
まゆ「……やっぱり分かってたんですね。甘いです。有り得ません」
まゆ「……まゆが、そんな状態を見て何もしないと思うんですか?」
まゆ「そうでなくとも、この状態をずっと続けていればPさんはいずれ智絵里ちゃんを拒絶するでしょう」
まゆ「これ以上美穂ちゃんを困らせたくないから、と」
まゆ「でもそれは本来美穂ちゃんが言うべき事ですよね?そうでなくとも、美穂ちゃんがPさんに余計な事を言わなければとうに済んでいた事なのに」
まゆ「そして、美穂ちゃんが自分を優先してくれなかった事を引き摺ります。更にそれで智絵里ちゃんと美穂ちゃんの交友が途絶えてしまったら、より一層重く引き摺るでしょう」
まゆ「そんな思いを背負ったままの恋愛なんて、長くは続きません」
まゆ「きっと美穂ちゃんも、とっても辛いでしょうし」
まゆ「……それはよろしくありませんねぇ。Pさんが辛い思いをしてしまいます」
美穂「も、もし……わたしが、Pくんと別れたら……」
そんな未来を選びたくはないけど。
それでももし、そうするしかないとしたら……
まゆ「智絵里ちゃんはPさんに告白するでしょうね。そして振られます。智絵里ちゃんは一歩だけ踏み込み過ぎたんです……一瞬とは言え、本気で拒絶される様な事をしてしまっていますから」
まゆ「そもそも、自分と恋人の別れの原因になった女性と付き合えますか?」
まゆ「そしてそこで、まゆが告白すれば……きっと、まゆはPさんと付き合う事が出来たかもしれないんですが……」
まゆ「…………Pさんにとって一番辛いのは……美穂ちゃんと別れる事ですから……」
126 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/30(火) 19:11:37.21 ID:r0nzCQQSO
まゆ「……なあなあで、最終的に破滅を迎えるよりはましだと思ってはいますが、まゆが自分から選べる選択肢ではありませんでした」
美穂「まゆちゃんは……」
まゆ「……まゆは、美穂ちゃんと友達でいたい。それは紛れも無い本心です。本気で思っています。そして、Pさんの事も本気で想っているから、美穂ちゃんに嫌われるのを覚悟でこうして真正面から向き合っているんです」
まゆ「……ねえ、美穂ちゃん。Pさんの事が本気で好きなら……ちゃんと、選んであげて下さい。智絵里ちゃんと友達でい続ける事が出来ないと思っているなら……もう少し友達を信じてあげて下さい」
まゆ「それとも、信じる事が出来ない様な友達の為に恋人を選ばないんですか?」
まゆ「そんなの……まゆ、美穂ちゃんを許せなくなっちゃうから……」
そんなまゆちゃんの声は、震えていました。
美穂「……まゆちゃん……」
まゆ「……最後に、美穂ちゃんの為に……まゆがただの悪役になってあげます」
まゆ「このままでい続けるなら……美穂ちゃんとはもう友達ではいられません。そしてまゆからPさんに全てを伝えます。本気で美穂ちゃんからPさんを奪います。もし付き合えても、美穂ちゃんと会話なんてさせません」
まゆ「……さあ、美穂ちゃん。もうするべき事なんて、すぐに決まるんじゃないですか?」
まゆ「……まゆの想いを……まゆの覚悟を、決断を……お願いだから、無下にしないで下さい……」
そう言って、まゆちゃんは去って行きました。
まゆちゃんは、本気でぶつかってくれて。
わたしとPくんの為に、嫌われるのを覚悟で、背中を押してくれて。
……なのに、わたしはまだ迷ってるなんて……
それでも、智絵里ちゃんに全てを伝えるのが怖くて。
智絵里ちゃんとお友達でいられなくなっちゃうのが怖くて。
わたしは、ずっと立ち竦んでいました。
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/30(火) 20:12:48.55 ID:OynHQtXHO
これまゆ攻略順固定されてて最後にしか攻略できないヒロインな気がして来た
128 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:35:43.51 ID:s+Vwk4lp0
夏休みも数日が過ぎて、八月に入った。
ここ数日、何もせずに一日を溶かしている気がする。
美穂とデートに行ったりとか、他の誰かと遊びに行ったりとかせず、一日家で本を読んでいるだけ。
なんだか虚無過ぎる。
美穂からはあんまりラインが来ないし、それとなく誘ってみたデートの誘いも素気無く断られていた。
……俺、嫌われたりしてないよな?
P「……大丈夫だよな?」
ちょっと不安になる。
ブーン、とスマホに通知が入った。
……智絵里ちゃんからか。
最近は、智絵里ちゃんとラインで話す事が多い。
割と結構な頻度で向こうから話しかけてくる。
そんな智絵里ちゃんとの会話は楽しいっちゃ楽しいが、美穂の事を考えると若干後ろめたい気持ちになった。
『良かったら、明日のお祭り一緒に行きませんか?』
そう言えば、明日は神社の夏祭りか。
李衣菜や加蓮やまゆも一緒なのかな。
智絵里ちゃんには申し訳ないけど、一旦返事は保留させて貰って。
美穂に夏祭りの誘いを送ってみる。
『おーい美穂、明日暇だったら一緒にお祭り行かないか?』
けれど、しばらく既読は付かなかった。
まぁ、そんな時もあるか。
文香「すみません、P君……荷物を運びを手伝って頂けないでしょうか……?」
P「ん、おっけ」
本を運びながら、らしくもないが少し考えてみる。
美穂は、もしかしたら。
まだ、悩んでいるんだろうか。
文香「……心ここに在らず、といった表情ですね」
P「ちょっと考え事しててさ」
文香「……ふふ、らしくもないですね」
酷い。いや自分でもそう思うけど。
129 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:36:11.26 ID:s+Vwk4lp0
文香「……美穂さんとの事ですか?」
P「ん?分かるの?」
文香「……最近、来ていませんでしたから……何かあったのかと」
P「なんて言えば良いんだろうな……こう、人間関係って難しいなぁって」
文香「……そう、ですね……特に恋愛絡みとなると、より一層難しいと思いますが……」
P「姉さんはそういう経験あるの?」
文香「…………本での知識のみですが、何か?」
P「ごめん……」
文香「謝られる方が辛いのですが……」
ごほん、と。
文香姉さんはワザとらしい咳をついて。
文香「……取り敢えず、動いてみてはどうでしょうか?悩んだり考えたりするのは、それからでも遅くないと思います」
P「……そうだな、うん。一回きちんと話すか」
作業を終えて部屋に戻ると、美穂からラインが返ってきていた。
『誘ってくれてありがとうございます』
お、久し振りにデート出来そうだ。
智絵里ちゃんには悪いけど、そっちは断るか。
『十七時に神社前で大丈夫ですか?』
『あ、その前に時間あったりしない?』
『はい、大丈夫です。Pくんの家に行けばいいですか?』
『いやいいよ、十六時くらいにそっち行くから』
130 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:36:43.66 ID:s+Vwk4lp0
お祭り当日の十六時ジャスト、俺は寮の前に来ていた。
まゆ「あ、Pさん。こんにちは」
P「ん、ようまゆ。これからお祭りか?」
寮から出てきたまゆは、浴衣姿だった。
……いいな、浴衣って。
まゆ「Pさんは、美穂ちゃんと二人で行くんですよね?」
P「うん、その予定」
まゆ「そうですか。それは良かったです」
P「良かった……?」
まゆ「そう言えば、十八時くらいから雨が降るみたいですよぉ」
P「マジか、なら今日はそんな長くは遊べそうにないな」
まゆ「でも、明日も明後日もありますから」
P「財布の中身が保つかなぁ……」
まゆ「それでは、まゆは李衣菜ちゃん達との待ち合わせがありますから」
P「んじゃ、また神社で会ったら」
まゆ「はぁい。また後でお会いしましょう」
まゆが神社の方へ向かっていった。
……そういえば、浴衣の時もリボンは外さないんだな。
131 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:37:10.67 ID:s+Vwk4lp0
美穂「……お、お待たせしましたっ!」
P「お。久しぶり、美穂」
少しして、美穂も寮から出てきた。
……浴衣姿!浴衣!非常に良ろしい。
可愛いなぁ。うん、めっちゃ可愛い。
美穂「ど、どうでしょうか……っ?」
P「すげー可愛いと思うぞ!」
美穂「え、えへへ……ありがとうございます」
P「……それで、少し話したい事があるんだけどさ」
美穂「……ごめんなさい。その……最近は、全然会えなくて……」
P「いや、いいんだけどさ。いやよくないわ、すげー会いたかったんだぞ」
美穂「……あ、会いたかった……えへへ。う、嬉しいです……っ!」
恥ずかしそうに頬を染める美穂。
そんな仕草が、浴衣も相まってめちゃくちゃ可愛い。
P「だから、何かあったのかな、ってさ」
美穂「その……色々と、気持ちの整理がつかなかったので……」
P「気持ちの整理……?」
やっぱり、何か悩んでいたんだろうか。
美穂「で、でもっ!もう大丈夫です!」
P「そっか、なら良かったよ」
美穂「もう、決まりましたから。今日会ったら絶対に……ちゃんと言うんだ、って……」
P「……美穂がそう言うなら良いけど……何かあった時は相談してくれてもいいんだぞ?」
美穂「……はい、ありがとうございます。もう、大丈夫ですから」
何があったのかを、何を悩んでいたのかを。
結局俺は、聞くことが出来なかった。
まぁ大丈夫って言われてしまったんだから信頼するしか無いが。
P「んじゃ、行くか!」
美穂「はいっ!」
二人並んで神社に向かう。
繋いだ手は、とても熱かった。
132 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:37:43.09 ID:s+Vwk4lp0
P「うおー、凄い熱気だな」
美穂「す、凄いですね……」
神社は人で溢れかえっていた。
手を離して巡ったらすぐにでも逸れてしまいそうだ。
ずらりと並んだ屋台には、魅力的な食べ物と祭特有の高い値札。
そんな祭りの渦の中に飛び込もうと、鳥居を潜った時だった。
李衣菜「ん、やっほーP、美穂ちゃん」
加蓮「あ、鷺沢じゃん。元気してた?」
李衣菜達がこっちへ向かって来た。
美穂の表情が、一瞬険しくなる。
美穂「久し振り、李衣菜ちゃん達」
まゆ「Pさぁん!浴衣姿のまゆですよぉ!」
P「うん、さっき見たぞ」
加蓮「……ふっ」
まゆ「加蓮ちゃん、今笑いましたか?」
加蓮「え、何の事?」
李衣菜「はいはい、下らない事で喧嘩しないの」
加蓮「でもほら、祭りと喧嘩は江戸の花って言うじゃん?」
まゆ「ここは江戸ではありませんよぉ」
李衣菜「だからまゆちゃんも煽らないの」
騒がしい三人だなぁ。
そのまま三人はまた祭りの中へと戻って行った。
133 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:38:10.12 ID:s+Vwk4lp0
智絵里「あ……こんにちは、Pくん」
P「ごめんな智絵里ちゃん、誘ってくれたのに」
智絵里「……いえ、大丈夫です。それよりも、折角会えたから……その、一緒に遊びませんか?」
P「悪いけど、今日は」
美穂「ねえ、智絵里ちゃん」
俺の言葉は、美穂に遮られた。
珍しく、美穂がかなり真剣な口調になっている。
智絵里「……なんですか、美穂ちゃん」
智絵里ちゃんの声のトーンも、かなり低い。
美穂「……え、えっと……今日は、わたしとPくんの……二人でのデートだから……」
智絵里「……デート、なんですか?」
美穂「う、うん……だから、えっと……」
智絵里「……Pくんは、嫌ですか?わたしが、一緒に遊ぶのは……」
P「俺は……」
俺としては、今日は美穂と二人きりで遊びたかった。
嫌っていう訳じゃないけど、だから今日は……
美穂「……ち、智絵里ちゃんっ!」
智絵里「……なんですか?美穂ちゃん……わたしの邪魔をしないで下さい」
美穂「じゃ、邪魔なんて……そうじゃなくってね?今日はわたしとPくんの二人で」
智絵里「応援、してくれましたよね?」
美穂「……っ!で、でも!わたしは……」
P「二人とも落ち着けって。智絵里ちゃん、悪いけど今日は」
美穂「Pくん!それ以上言わないで下さいっ!」
再び、美穂に遮られた。
134 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:38:36.22 ID:s+Vwk4lp0
美穂「ちゃんと言うって決めたもん……わたしが、ちゃんと……」
智絵里「……ずっと逃げてたのに、ですか?」
美穂「で、でもっ!今日こそは、って……」
智絵里「わたしの事を避けてたのに、ですか?」
美穂「……わ、わたしは……」
智絵里「……もっと早くに、言ってくれれば良かったのに」
美穂「っ!」
P「お、おい美穂っ!」
美穂が走って道を戻って行った。
俺も走って追いかけようとして……
智絵里「……Pくん。追い掛けないでくれませんか……?」
智絵里ちゃんに、服の裾を掴まれた。
P「……ごめん、智絵里ちゃん」
智絵里「……そう、ですか……」
優しく振り解いて、俺は走った。
多分寮に帰ろうとしているんだろう。
全力で走って、美穂を追った。
135 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:39:19.18 ID:s+Vwk4lp0
寮の近くの信号を超えたところで、美穂の後ろ姿が目に入った。
そのまま全力で走って、ようやく肩に手が届いて。
少し強い力で肩を掴んで引き止める。
P「おい美穂、どうしたんだよ……」
美穂「……離して下さい……っ!」
息が上がっているのは、走ったからだけではないだろう。
震える声を聞いて、俺は我に帰った。
P「……すまん」
肩から手を離して、一歩下がる。
美穂「……ぁ……ごめんなさい……」
P「悪い、強く掴んじゃって」
美穂「だ、大丈夫です……」
P「……なぁ、何があったんだ?」
美穂「……言えません……Pくんには……」
……若干どころじゃなく凹むな、その言葉は。
美穂「……今日はもう、帰りませんか?」
P「……明日は、一緒にお祭り行けるか?」
美穂「……それは……」
P「俺は美穂と一緒にデートしたいからさ。よかったら……色々と聞かせてくれよ」
美穂「……ダメです。絶対に言えません」
P「…………まだ、迷ってるのか」
美穂「っ……!」
反応で、大体察した。
美穂はまだ、智絵里ちゃんにきちんとは伝えてなかったんだ。
そして、だからこそ。
まだ迷っている、という事実のせいで俺に話せずにいたんだ。
136 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:39:48.76 ID:s+Vwk4lp0
P「……なぁ、美穂」
美穂「ごめんなさい……っ!わ、わたし……Pくんの事が大好きなのに……なのにっ!」
P「……いいよ、もう。そんな事はさ」
俺と智絵里ちゃんの何方を選ぶか、なんて、そんなの間違ってる。
そもそも片方しか選べない訳じゃないんだから。
まぁ俺としては俺の事を優先して欲しかったりはするが。
そんな事よりも、ずっと。
美穂の悲しそうな顔を見ている方が、よっぽと辛かった。
P「……頼むよ、美穂。俺は何言われたって気にしない……いや気にはするけど何でも受け止めるから。だから、全部話してくれ」
美穂「で、でも……わたしは、Pくんの事を……」
P「美穂……頼む。何言われようが絶対嫌いになんてならないから。俺を……信じてくれ」
美穂「…………はい」
美穂は、少しずつ。
ようやく、話してくれた。
智絵里ちゃんに、ずっと言えなかった事。
これからも言わずに、この状況を続けようとしていた事。
智絵里ちゃんとは会わない様に避けていた事。
まゆと話して、今のままじゃダメだって気付いた事。
そして今日こそ、智絵里ちゃんにきちんと打ち明けようとしていた事。
137 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:40:31.92 ID:s+Vwk4lp0
美穂「智絵里ちゃんは、気付いてはいます。でも……わたしが言わなければ……それで、このままでいられるから……」
P「……でも、今日ちゃんと言おうとしてたんだろ?」
美穂「はい……そのつもりでした。でも……言えなくて……」
P「……そっか。ごめん、俺が余計な事を言おうとしちゃって」
美穂「い、いえ……Pくんは悪くありません……わたしがちゃんと伝えようって思って、なのに……」
P「……確かに俺悪くないな」
美穂「っぅ……うぅぁ……」
P「ごめんごめんごめん!いや誰が悪いとかじゃなくてさ!!」
美穂「わたし……っ!言えないよ……言える訳ないもんっ!言おうとしたのに言えなかったんだもんっ!!」
美穂「怖いよ……嫌われちゃったらどうしよう……友達でいられなくなっちゃったら!わたしはっ!」
美穂「……智絵里ちゃんと友達でいたいのに……っ!」
P「……成る程な」
美穂の気持ちは分かった。
どれほど悩んでいたか、どれほど不安だったか。
もっと早くに、無理やりにでも聞いておけば良かった。
そしたら、ここまで美穂が悩む事も無かったのに、
……さて。
P「なあ美穂。あのさ……もうちょっと、信じてみたらどうだ?」
美穂「Pくんの事を、ですか……?」
P「それもだけど……友達を、さ」
ぽつり、と。雨が降ってきた。
美穂の浴衣が濡れちゃうから、もうまどろっこしいのは無しだ。
思った事全部、真っ直ぐそのまま伝えよう。
138 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:41:07.80 ID:s+Vwk4lp0
P「智絵里ちゃんは傷付くかもしれないけどさ……それでも、友達でいてくれるって信じてみようよ」
美穂「友達で……?」
P「なにも、伝えたら嫌われちゃう、友達でいられなくなっちゃうって決まった訳じゃないだろ?」
美穂「……そうだけど……」
P「ならさ、全部伝えた上で。それでも友達でいて欲しいって、そう言えばいいさ」
美穂「……断られちゃったら……?」
P「ならその時考えればいい。少なくとも、何も言わずにいるよりはよっぽどいいだろ」
もしこのまま何も言わず、なあなあにして今の関係を維持したとして。
それで美穂が傷付いていくなんて、そんなの俺が嫌だった。
雨がどんどん強くなる。
でも、それでも。
今、きちんと美穂に伝えなければ、って。
そう、思ったから。
P「……それと、一人で言う必要は無いんだよ」
美穂「……え?」
P「俺からもちゃんと伝えるから。お願いするから。俺だって嫌だよ、折角出来た友達を失くすなんて。美穂が友達を、俺のせいで失くすなんて」
美穂「……いいの……?」
P「ダメな訳無いだろ!俺の大切な人が困ってるのに何もしないなんて、そんなの嫌に決まってるだろ!」
美穂「……ありがとうございます……」
P「だから……頼れよ。もっと頼ってくれよ。幸せだけじゃなくて、辛い事だって分け合おうよ」
美穂「……なら……お願いしても、いいですか?」
震える声で、泣きそうな表情で。
それでも真正面に、俺に向かう美穂。
P「……何をだ?ちゃんと、言ってくれ」
美穂「わ、わたしが……智絵里ちゃんに、きちんと伝えるから……」
美穂「Pくんと付き合ってるって事も。智絵里ちゃんと、これからも友達でいたいって事もっ!」
美穂「だから……Pくんもっ!一緒に側に居て下さい……っ!」
ようやく、言ってくれた。
それが、とても嬉しかった。
P「……ああ、もちろん」
美穂からのそんな言葉に。
俺も、目頭が熱くなった。
139 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:41:33.97 ID:s+Vwk4lp0
美穂「……っ、あ……あぁぁぁぁぁっ!ずっと、ずっと悩んでたんですっ!怖くて!決められなくて!覚悟が出来なくて!!」
美穂「ごめんね、Pくんっ!ちゃんと、もっと信頼して!きちんと話してれば……っ!」
美穂を抱き締めて、震える身体を撫でる。
頬が濡れているのは、雨のせいにしてあげよう。
P「……さ。明日は、一緒にお祭り行けそうか?」
美穂「……はい。その時に、必ず」
P「ならよし。風邪引くなよ、帰ってあったかくしとけよ」
よくよく考えたら、わざわざ寮の前で話す必要も無かったな。
P「それじゃ、また明日」
美穂「……はい。また明日ね、Pくん」
美穂と別れて、家まで走る。
かなり激しい雨に打たれているが、それもなんだか心地良かった。
P「ただいま、姉さん」
文香「……おかえりなさい、P君。海で泳いできたんですか?」
P「そんな感じ、ダイビングしてた」
文香「きちんと、服を脱いでから泳いで下さい……」
まぁ、恋のダイビングする時はちゃんと全裸だから。
いや言わないけどさ。
文香「……シャワーを浴びたら如何ですか?」
P「うん、そのつもり」
熱々のシャワーを浴びて、部屋に戻る。
濡れたカーテンとプリントがお出迎えしてくれた。
……窓、閉めてくの忘れてたなぁ……
掃除して、ベッドに寝っ転がる。
思った以上に色々と疲れてたのか、俺の意識はあっという間に薄れていった。
140 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:42:03.29 ID:s+Vwk4lp0
土曜日、お祭り二日目の正午。
俺は智絵里ちゃんにラインを送った。
今日、全てを伝える為に。
『今日お祭り行くよな?』
『はい、行きます』
『悪いんだけど、その前に話出来たりしない?』
『大丈夫です』
『十六時に鳥居前で』
『分かりました』
面白いほどの淡白なやり取りだ。
いや面白くは無いんだが。
あ、あとまゆにも会っておこう。
お礼とか色々と言いたいし。
『おーい、まゆー』
『まゆですよぉ』
『まじか』
『まじですよぉ』
『今暇だったりしない?』
『まひですよぉ』
『まひ?』
『ひまです。間違えました』
『んじゃ、そっち行くわ』
『まちますよぉ』
なんだこのやり取り。面白いな。
P「姉さん、出掛けてくるわ」
文香「……あら、どちらに?」
P「寮行ってくる」
文香「お祭りではないのですか?」
P「あ、もちろん。その後お祭り行くから、夕飯は作れないから」
文香「……外出禁止とさせて頂きます」
P「夕飯の食材無いよ?」
文香「鎖国は今より終わりです。さあ、P君……貿易をお願いします」
そんな会話をして、俺は寮へと向かった。
141 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:42:48.73 ID:s+Vwk4lp0
寮の前では、浴衣姿のまゆが待っていた。
P「よう、まゆ。昼から浴衣で暑くないのか?」
まゆ「こんにちは、Pさん。暑いです、褒めて下さい」
P「耐久力と忍耐力あるな」
まゆ「浴衣姿を、ですよぉ……」
P「……なあ、まゆ」
少し真面目に話そうとする。
それだけで、まゆは全てを察した様だ。
まゆ「……いえ、お礼なんて要りません」
P「いや、そう言うなって」
まゆ「でないと……まゆも、辛くなっちゃいますから」
P「……そうか、悪かったな」
まゆ「はぁ……まゆも、自分で選んだとは言え随分な貧乏くじを引きましたねぇ」
P「大凶か?」
まゆ「いえ、大吉ですよぉ。Pさんのお役に立てたんですから」
P「……明日はさ、みんなでお祭り楽しもうな」
まゆ「……はい、楽しみにしています」
P「それと、うん。浴衣似合ってるぞ。凄く綺麗で可愛い」
まゆ「……はぁ。まったく、Pさんは乙女心を分かっていませんねぇ」
P「悪いな、男なもんで」
142 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:43:14.56 ID:s+Vwk4lp0
まゆ「あ、Pさん。一つだけ、お聞きしていいですか?」
P「なんだ?」
すーっと息を吸い込んで。
最高の笑顔をこちらに向けて。
まゆ「まゆと、お付き合いしてくれませんか?」
あぁ、本当に。
まゆには頭が上がらないな。
P「出来ないな、俺は美穂の事が大好きだから。それでも、これからも友達でいてくれないか?」
まゆ「はい、もちろんです」
P「……簡単だけど、難しいなぁ」
まゆ「ですねぇ。さ、Pさん。これからも頑張って下さいね」
P「あぁ、また後でか明日な」
143 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:43:41.96 ID:s+Vwk4lp0
夏の十六時は、まだ明るい。
空の色は青く、眩しい太陽はまだまだ沈んでくれそうにない。
P「……どうだ?美穂」
美穂「……はい、大丈夫です。Pくんが、手を握ってくれていますから」
鳥居の前で、手を繋いだ美穂とそんなやり取りをする。
これから言わなきゃいけない事は、きっと凄く辛いし勇気がいると思うけど。
それでももう、美穂は震えていなかった。
智絵里「……こんにちは、Pくん、美穂ちゃん」
美穂「……来てくれてありがとう、智絵里ちゃん」
智絵里ちゃんが、来てくれた。
もう全部分かっているんだろうに、それでも来てくれた。
それが、本当に嬉しくて……辛かった。
智絵里「……二人で、待ってたんですね」
美穂「うん、だって……恋人だもん」
智絵里「……羨ましいです……とっても」
そんな智絵里ちゃんの目は、既に溢れそうなほど潤んでいて。
それでも、ここに居てくれて……
美穂「……ねえ、智絵里ちゃん」
智絵里「……はい、なんですか……?」
美穂「……ねぇ、智絵里ちゃん。わたし、謝らないといけないんだ」
智絵里「そう……ですか……」
美穂「……初めてPくんの家で遊んだ日の事。お互いの恋が上手くいくといいね、って。わたし、智絵里ちゃんの好きな人がPくんって知らなかったから」
美穂が、大きく息を吸って。
握り締めた手を、更に強くして。
そして、言葉にした。
144 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:44:19.29 ID:s+Vwk4lp0
美穂「……ごめんね、智絵里ちゃん……っ!わたしたち、付き合ってるんです……っ!!」
智絵里「……そう、ですよね……はい、知ってました」
美穂「応援したのに、わたしが……それを、謝りたかったの」
智絵里「……やっと、言われちゃったんですね」
美穂「うん……言っちゃった」
智絵里「ずっと、このまま……そんな風に思ってたのは、わたしだけだったのかな……」
美穂「このままじゃいられない、って……そう気付いたんだ」
智絵里「……そう、ですよね。美穂ちゃんからしたら……」
美穂「ううんっ!わたしだけじゃない!きっと、誰も幸せにはなれないからっ!!」
智絵里「……美穂ちゃんにとって……わたしは……」
美穂「智絵里ちゃんは……わたしにとって……っ!」
智絵里「迷惑、だったよね……もう、一緒に居たくないよね……」
美穂「大切なっ!お友達だからっ!!」
美穂の声が、大きく響いた。
智絵里ちゃんが驚いているのは、声の大きさか、それともその言葉にか。
美穂「ずっと言いたかった!言えなかった!だって、最初にこんな風にしちゃったのはわたしだからっ!わたしが、向き合おうとしなかったから!!」
智絵里「……ううん、美穂ちゃんだけじゃないです……」
美穂「逃げ続けて、本当にごめんね!わたしが、もっと……強かったら……っ!」
智絵里「……どうして、今日は……逃げてくれなかったんですか?」
美穂「大切な恋人の為だから!大切なお友達の為だから!!」
美穂「これ以上逃げてたら……きっとわたしは、どっちも失ってたと思うの」
美穂「そんなの嫌だもん!Pくんと恋人でいたい!でも、智絵里ちゃんと友達でいたい!どっちかなんて選びたくない!!」
美穂「したたかだと思うけど!ワガママだと思うけど!!それでも!わたしにとって、どっちも大切なものだから!!」
美穂「だから……っ!お願いだから!これからも!わたし達と友達でいて!いさせてっ!!」
145 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:44:59.09 ID:s+Vwk4lp0
智絵里「……美穂ちゃんは、強いね……」
美穂「強くなんかないよ。ずっと逃げてたんだもん、でも今は……こうして、支えてくれる人がいるから」
一瞬此方に視線を向ける美穂。
その瞳は、涙で潤みながらも強い視線を放っていた。
P「……智絵里ちゃん、俺からも頼む。これからも……俺たちと、友達でいてくれないか?」
智絵里「……振られ……ちゃったんですね……」
P「あぁ、恋人が既にいる。大切な人がもういる。そして……その上で、智絵里ちゃんとは友達でいたいんだ」
智絵里「……わたしにとって、美穂ちゃんとPくんは……とっても、大切なお友達です」
智絵里「……そんな二人に、そうやって頼まれちゃったら……」
智絵里「……断れる訳……無いじゃないですか」
美穂「……ありがとう、智絵里ちゃん」
智絵里「……本当は分かってたんです……美穂ちゃんが、とっても辛い思いをしてるの……それでも、諦められなくって」
智絵里「まだ大丈夫、これくらいなら大丈夫って……そんな風に、美穂ちゃんが何も言わないのをいい事に、わたしは……」
智絵里「……そんな、わたしなのに……友達でいても、いいんですか……?」
智絵里ちゃんは、今日呼び出されて。
友達でいられなくなるかもしれない、と。
そこまで、覚悟してたのか。
それでも止まれなかった程の強い想いだったのに、それでも来てくれた事が。
本当に、嬉しかった。
146 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:45:36.68 ID:s+Vwk4lp0
美穂「……ねえ、智絵里ちゃん」
智絵里「……っ……うぅ……ごめんね、美穂ちゃん……」
美穂「……良かった……うぁぁぁっ!本当にっ!ありがとうっ!うぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
智絵里「っうぅぁ……美穂ちゃん……っ!ごめんね……ほんとに、ごめんね……っ!」
美穂「怖かったよぉ!智絵里ちゃんに、に、嫌われちゃうなんてっ!本当に……っ!ずっと怖かったの!不安だったの!!」
智絵里「ごめんなさい……っ!わたしが……っ!ぁぅっ!」
美穂「もっと早くに言えればよかったのに!もっと信じればよかったのに!!わたしがっ、弱いせいで……っ!!」
智絵里「あぁぅぅぅぁっ!わたしもっ、弱いからっ!諦める勇気が無かったからっ!!」
美穂「っうぅぅぁぁぁんっ!ごめんねっ!遅くなってっ!向き合えなくってっ!!」
美穂が、智絵里ちゃんに抱き付いて泣きじゃくった。
智絵里ちゃんも、美穂を突き放す事なく泣き続けた。
ようやく二人とも向き合えて、本当に良かった。
李衣菜「……」
P「……ん?李衣菜?」
気付けば、鳥居の裏に李衣菜が立っていた。
そこは、美穂と智絵里ちゃんからは見えない位置で。
李衣菜「……そっか、うん。良かったね、全部済んだみたいで」
P「李衣菜は知ってたのか?」
李衣菜「私だって、全部じゃないけど気付いてたからね。美穂ちゃんが悩んでたのも、智絵里ちゃんが諦め切れなかったのも」
そう言えば、李衣菜は智絵里ちゃんと修学旅行の部屋が同じだったのか。
その時に、話を聞いていたのかもしれない。
李衣菜「ま、私は頼って貰えなかったんだけどね。そういうのは何も言われてない私が口出しするものじゃないし」
P「頼られた俺が羨ましいか?」
李衣菜「まさか、それこそPがやるべき事でしょ」
P「それもそうだな」
李衣菜「でも……良かった。私、一年生の時からずっと美穂ちゃんの事応援してたんだ」
P「そうだったのか」
李衣菜「そうだったんだよ。ま、そろそろ私は去らないとね。二人とも泣き止むんじゃない?」
P「……ありがとな、李衣菜」
李衣菜「お礼はいいから、美穂ちゃんの事ちゃんと幸せにしてあげてよ?」
P「もちろん。言われなくてもそのつもりだよ」
李衣菜が、二人からは見えないように離れて行った。
147 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:46:04.85 ID:s+Vwk4lp0
智絵里「……あの、Pくん……」
P「ん?なんだ?」
智絵里「……えっと……色々と迷惑かけちゃって、ごめんなさい……」
P「……俺こそ、ごめんな。凄く自分勝手な事言って」
智絵里「い、いえ……それでも、やっぱり……友達でいて欲しいって言われて、嬉しかったですから」
そんな智絵里ちゃんの表情は、既に笑顔に変わっていた。
涙の跡は、まだ残っているけれど。
それもすぐに、夏の暑さに消えてゆきそうで。
P「……明日は、みんなで一緒に遊ぼうな」
智絵里「……っ!……はい……っ!」
頷いて、また涙が溢れ落ちて。
それでも、笑顔で。
そんな智絵里ちゃんと、これからも友達でいられる事が嬉しかった。
智絵里「……また、明日。楽しみにしてますから」
そう言って、智絵里ちゃんは帰って行った。
P「……良かったな、美穂」
美穂「……うん。本当に、良かったです……」
抱き付いて、胸に顔を埋めてくる美穂。
148 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:46:36.35 ID:s+Vwk4lp0
そんな美穂の頭を撫でた所で、ようやく俺は気付いた。
まゆ「…………」
加蓮「…………」
まゆと加蓮が、物凄いジト目でこっちを見ている事に。
P「……な、なぁ美穂。少し離れてみたりしないか?」
美穂「……ダメ、です……離れたくないです。もうちょっとだけ、このままで……」
加蓮「……泣かせたの?」
まゆ「泣かせてますねぇ」
美穂「えっ?!加蓮ちゃん?!まゆちゃん?!」
美穂が飛び跳ねて、頭を俺の顎にぶつけた。
とても痛い。
まゆ「……見せつけてくれますねぇ」
加蓮「何があったの?喧嘩?痴話喧嘩?」
まゆ「加蓮ちゃんは喧嘩関連以外の単語を知らないんですかぁ?」
加蓮「思考が短絡的過ぎて言い返す気すら起きないんだけど」
まゆ「思考放棄してる加蓮ちゃんよりはマシですよぉ」
美穂「あ、あわわわわわ……だ、抱き付いてるところを見られちゃってたんですね……」
P「良いんじゃないか?今日は俺と美穂の二人きりでのデートなんだから」
美穂「で、ですよねっ!もう一回!もう一回抱き着こうと思いますっ!ぎゅ、ぎゅーーっ!!」
加蓮「……うぇ、早くしょっぱいポテト食べたい」
まゆ「お塩撒いてあげますよぉ。はい、鬼はー外、鬼はー外」
加蓮「なんでまゆは塩持ち歩いてるの?!」
まゆ「実はただの砂ですよぉ」
元気な二人だなぁ。
周りからの視線が痛い。
P「……美穂。やっぱりそろそろ離さない?」
美穂「一生離しませんっ!」
P「周りの人見てるから。みんなが見てるから。注目されてるから」
美穂「……Pくんが抱き締めて、わたしを隠して下さい」
P「俺だけ恥ずかしいやつじゃん」
まあ、それでも。
これで心置き無くお祭を楽しめる。
やっと、ようやく。
俺たち二人きりの夏祭りは始まった。
149 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:47:03.09 ID:s+Vwk4lp0
……筈だった。
加蓮「ねえ鷺沢!ポテト!ほら見てポテト!」
まゆ「Pさぁん!どこですかぁ?」
李衣菜「ひゃっほーう!見て見て!射的でギターのピック落としたんだ!」
P「……なんで着いてくるんだ」
美穂「ふ、二人っきりの筈だったのに……」
加蓮「あ、気にせずいちゃいちゃしてて良いよ。私達は冷やかすだけだから」
まゆ「Pさぁん!きゃっ、せっかく引いた大吉のおみくじを落としちゃいましたぁ……!」
李衣菜「まゆちゃーん!こっちこっち!」
……とても、五月蝿い。
俺と美穂が手を繋いで歩く、その1メートル程後ろがとても騒がしい。
そして、智絵里ちゃんは……
智絵里「……っ!……っ!」
ドンッ!ドンッ!!
神社の太鼓体験コーナーで、無表情で太鼓を叩いていた。
まるで鬱憤を晴らすかの様に激しい音が聞こえてくる。
時折とても良い笑顔で此方を見てくるのが非常にこう、うん。
美穂「せ、せっかくのデートが……」
P「ま、明日こそ二人っきりでさ」
李衣菜「ひゅーひゅー」
まゆ「させませんよぉ。明日はみんなで回る約束ですからねぇ」
150 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:47:34.72 ID:s+Vwk4lp0
P「……難しそうだな。仕方ない……っ!」
美穂「きゃっ!」
繋いだ手を少し強く引き、祭りの喧騒を駆け抜ける。
加蓮「あっ、逃げた!」
まゆ「まゆからは逃げられませんよぉ」
李衣菜「まゆちゃんそっちじゃない!逆逆そっちお手洗い!」
逃げるが勝ちだ、俺たちに静かにいちゃいちゃさせろ。
人混みをかき分けて、神社の境内に辿り着いた。
これでしばらくは見つからないだろう。
そして、ここなら……
美穂「……えへへ、二人っきりですね」
P「だな。あとそろそろな筈だけど……」
美穂「何がですか?」
美穂がそう言ったのと、ほぼ同時に。
ドンッ!と。
空に、大輪の花が打ち上がった。
P「ここなら、花火が見やすいからな」
美穂「わぁ……とっても綺麗……」
ぱちぱちと空に弾ける光に、美穂の顔が照らされる。
そんな美穂の横顔は、とても綺麗で……
151 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:48:42.01 ID:s+Vwk4lp0
美穂「っ?!」
どうしてもしたくなって、唇を軽く重ねるだけのキスをした。
美穂「……もう、Pくん……」
P「ごめん、あまりにも綺麗でさ」
美穂「花火が、ですか?」
P「美穂がだよ」
美穂「……あ、ありがとうございます……っ!」
ようやく、何かに悩むことなく恋に溺れられる。
頭を空っぽにして、美穂との日々を詰め込める。
美穂「……ねえ、Pくん」
P「ん?なんだ?」
そう聞き返そうとして。
ちゅっ、と。
俺の唇は、美穂の唇に塞がれた。
美穂「えへへ……ええと、これからもきっと、いっぱい迷惑かけちゃったり頼っちゃう事はあるかもだけど……」
P「どんと来い。それ以上に迷惑かけてやるから」
美穂「わたしの想い、受け止めて下さい!」
P「俺でよければ、いつだって」
美穂「はい……っ!Pくん!」
打ち上げられた花火なんて目に入らないくらい。
目の前の美穂の笑顔は、キラキラと輝いていた。
美穂「これからもずっと!わたしのこと、見てて下さいねっ!」
美穂√ 〜Fin〜
152 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/01/31(水) 02:49:09.62 ID:s+Vwk4lp0
以上です
お付き合い、ありがとうございました
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/01/31(水) 06:56:10.87 ID:esN/aDgy0
乙でした
残りの√も頑張ってください
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/31(水) 11:31:33.28 ID:LsHUcZFLO
乙
サブヒロインルートはちひろさんか文香か
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/31(水) 15:13:39.57 ID:myamFSq7o
投下終わったその日に限定SSRとはたまげたなぁ……
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/31(水) 21:18:07.93 ID:DIhnY8rSo
おつおつ
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/01(木) 01:33:38.62 ID:pWMW9UlV0
ルート終わったあとにLove∞Destiny聴いたら見えないはずのエンディングロールが見える……
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