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悪の魔導士「大魔王様の復活だー!!」地下アイドル「もえもえキュン☆」キラッ
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 17:35:05.78 ID:FypjaPq/o
――魔王城――
魔物「本当にできるのか」
「そんなのわかるわけねえだろ」
「しかし、やってもらなければ困る」
魔導士「静粛に。皆の不安も分かる。だが、私が大魔王様の復活を必ず成功させる」
魔導士「そして、我々魔族に未来永劫の繁栄を約束する!!」
「「オォォォォ!!!!」」
魔導士(古代の魔導書通りに復活の儀式を執り行い、術式も完璧に再現できている)
魔導士(古の時代、この世を支配したという大魔王様が復活さえすれば、大地を穢し、蹂躙する人間共を駆逐できるはず)
魔導士「さぁ!! 今こそ!! 大魔王様の復活だぁぁ!!!」
「「オオオォォォォ!!!!」」
魔導士「この世に新たなる闇を与えてくださいませー!!!」ゴォォォ
魔導士(こ、この反応……!! 間違いない!! 大魔王様が降臨される!!)
大魔王「――イエーイ!! 今日もたっくさーんもりあがっちゃおーねっ! せーのっ! もえもえぇぇ……キューン☆」
「「オ……オォォォォォォ!!!!!」」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1515918905
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 17:43:43.39 ID:FypjaPq/o
大魔王「ひっ!? え!? な、なにここ!? どこ!?」
魔導士「ご復活、おめでとうございます。大魔王様」
大魔王「え? え? な、なにが?」
魔導士「憎き人間共に大魔王様が封印され数千年の月日が経ち、魔族は衰退してしまいました」
魔導士「強大な力を失ったからとはいえ、誠にお恥ずかしい限りです」
大魔王「あの……ここライブハウスじゃあ……」
魔導士「しかし!!」
大魔王「ひぃ!?」
魔導士「今宵、貴方様がお目覚めになられた!! 大魔王様を復活させるべく、世界中を奔走し、散っていった同朋たちも浮かばれることでしょう!!」
大魔王「ス、スタッフさーん? いないのー?」
魔導士「皆の者!! 今日は大魔王様が復活を成し遂げられた日となった!! 今夜は騒ぎ、戯れよ!!」
「「オォォォォォォ!!!!」」
大魔王「ドッキリでしょ? ドッキリだよね?」
魔導士「さぁ、大魔王様。こちらの王座に腰を下ろしてください」
大魔王「あ、はい」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 17:50:04.93 ID:FypjaPq/o
魔導士「何かお食べになられますか」
大魔王「あのぉ、企画の意図を教えてはくれないんですか」
魔導士「企画? おぉ、これは申し訳ありません。そうですね。大魔王様は封じ込められてから年月が経ちすぎている。記憶が曖昧になり、現状に困惑されるのも当然でしょう」
大魔王「ええと……」
魔導士「数千年前のことです。魔族が人間共の戦いに敗れ――」
大魔王「そ、そうじゃなくて! 私、あの、ええと……」
魔導士「大魔王様?」
オーク「ぶひひひ。大魔王さまぁ、良いお酒がありますぶぅ」
大魔王「ひぃ!? 豚ぁ!?」
オーク「ぶふっ!? ぶ、ぶたぁ!? 俺様をぶただとぉ!! い、いくら、大魔王様でも言っていいことと悪いことがあるんだぶぅ!」
大魔王「ひぃぃ……」
魔導士「無礼だぞ!! 下がれ!!!」
オーク「ぶひぃ……」
ガイコツ「でも、豚じゃん」
ゾンビ「だよなぁ」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 17:58:44.37 ID:FypjaPq/o
大魔王(仮装……? けど、今日は普通のライブイベントの日だし、ハロウィンとか時季外れだし……)
大魔王(何がどうなってるの……わたしは確かに楽屋をでて、舞台袖で待機して……音楽が鳴り始めたからステージに向かって……)
魔導士「大魔王様。体調が優れないのですか」
大魔王「あ、あの、ですね……ここは……その……ライブハウスじゃあ……」
魔導士「ここは貴方様がかつて根城にされていた、魔王の城でございます」
大魔王「東京じゃないんですか」
魔導士「トーキョー? 初めて耳にする言葉ですが……」
大魔王「……」
ゾンビ「大魔王様って人間に近い形してんだな」
ドラゴン「バカ野郎。第一形態に決まってるだろ」
ゴーレム「変身できるのか」
ドラゴン「大魔王様は姿を小さくさせることで、本来の力を抑えているのさ。でないと、下級魔族たちが魔力に中てられて卒倒するからな」
オーク「そんなこともあるんだぶぅ」
ドラゴン「お前みたいなブタがそうなるんだよ」
オーク「ぶひー! 俺様は下級魔族じゃないぶぅ! 中級だぶぅー!!」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 18:29:43.96 ID:FypjaPq/o
大魔王「すっごく大きなトカゲまで……」
魔導士「世界中の魔族がこの日を待ちわびていたのです。各地から集まっております。まさか、ドラゴンまで来るとは私も思ってはおりませんでしたが」
ドラゴン「大魔王様の復活を見ずして、魔族とは言えないだろう」
ガイコツ「確かになぁ」
魔導士「本当ならば、もっと多くの種族がいたのですが人間たちの勢いを止めることができず、魔族の種も激減してしまったのです」
魔導士「ですが、大魔王様が復活されたのです。もう魔族が栄華を極めることは確定したと言っても過言ではないでしょう」
ソンビ「やったぜぇ」
グリフォン「コケー!!! コケコケコケー!!!」
ドラゴン「ガオー!!」
ガイコツ「カタカタカカタカタカタカタカタカタ!!!!!」
オーク「ブヒヒヒヒ!!!」
魔導士「大魔王様の復活に皆もこうして歓喜しております。これからは我らと共に……」
大魔王「あの……お家にかえしてください……」
魔導士「……いえ、ここが貴方の住み家なのですが?」
大魔王「わ、私は大魔王じゃないんです。ただのしがない地下アイドルで……メジャーデビューを夢見てただけの……ふつうの18……じゃなくて21歳で……」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/14(日) 18:44:12.86 ID:jgNv7/UQ0
妙にきつめな年齢がリアル
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 19:03:35.57 ID:FypjaPq/o
魔導士「は……?」
大魔王「わたしは……ふつう……うぅ……」
魔導士「大魔王様、どうしたというのですか」
ドラゴン「がおー? 様子がおかしいなぁ」
ガイコツ「大魔王様、何で泣いてるんだ」
オーク「ブヒぃ」
グリフォン「コケケケ? コケー」
ゾンビ「俺にきくなよぉ」
大魔王「うっ……ぐすっ……」
魔導士「うぅむ……」
ドラゴン「おい、どうなっているんだよ。大魔王様じゃないのか?」
魔導士「いや、復活の儀式は完璧だ。何度も見返したし、本番に備えての練習も何十時間と行った。失敗はまずありえない」
オーク「でも、困ってるみたいだぶぅ」
魔導士「恐らく、封印されていた月日が長すぎて、大魔王様の記憶が混濁してしまっているのだろう。仕方ない、宴は中止だ!!! 大魔王様はお休みになられる!! 部屋を用意しろ!!!」
大魔王(なにが……どうなってるの……)
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 19:15:06.09 ID:FypjaPq/o
――魔王の部屋――
魔獣少女「大魔王様。こちらがお部屋になります」
大魔王「ありがとう……」
魔獣少女「ゆっくりお休みになってください」
大魔王(コスプレしてる子みたいだけど……)
魔獣少女「なにか?」
大魔王(耳も爪も本物みたいだし、なにより足が太い……)
魔獣少女「もー、そんなに見つめないでください」
大魔王「ごめんなさい……」
魔獣少女「では、何かあれば呼んでください」
大魔王「は、はい」
大魔王「はぁ……」
大魔王「広い部屋……天井も高いし……ベッドも大きい……」
大魔王「……」
大魔王(これからどうなるんだろう……わたし……もう好きなスイーツも焼肉もラーメンも食べられないの……)
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 19:21:32.21 ID:FypjaPq/o
――宴会場――
「この料理、持って帰ってもいいのー?」
「いいよー」
ドラゴン「あ、自分の分も残しておいてくれると助かる」
「はいよー」
ドラゴン「我はドラゴンだから他のやつより多めに頼む」
「欲張りっすね」
ドラゴン「体がでかいからな」
魔導士「うぅむ。困ったな」
オーク「大魔王様、大丈ぶぅ?」
魔獣少女「やはり疲れているようでしたね。全然元気がなかったですし」
オーク「そっかぁ。寝起きで宴会だと、確かに疲れちゃうぶぅ」
魔獣少女「そうですねぇ」
オーク「ぶひひひ。き、きがあうねぇ、俺様たち。こ、このあと、あの、ぶひひ、いっしょに、ぶふっ、夜景でも見に行かないぶー?」
魔獣少女「ごめんなさい……オーク族とだけは付き合うなってお母さんに言われていて……」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 19:29:09.53 ID:FypjaPq/o
オーク「ぶっひぃぃぃぃ!!!!」
ゾンビ「豚じゃ無理だろ」
ガイコツ「俺でもあの子は落とせなかったからなぁ」
ゾンビ「ガイコツも無理だろ」
魔導士「疲れているだけならいいのだがな……」
魔獣少女「どういうことでしょう」
魔導士「いや、気にしても仕方のないこと。明日になれば分かるだろう」
ドラゴン「実は失敗して、違う何かを召喚してしまったという可能性はないだろうな」
魔導士「それだけは絶対にない。古文書の通りに術式を描いたのだからな」
ドラゴン「ならばいいがな」
魔導士「もし間違いがあるのだとすれば、この古文書自体が間違えていることになる。が、大魔王様を封印した者、つまり人間たちが『賢者』と呼ぶ者が作った書だ」
魔導士「封印の術式に欠陥があったとは考えにくい。欠陥があれば、大魔王様はすぐに復活できただろうからな」
ドラゴン「何にせよ、我はここに滞在することにする。大魔王様があの調子では、不安なのでな」
魔導士「こちらとしてもありがたい。竜族の力ほど頼りになるものもないからな」
魔獣少女「それじゃあ、私も残っていいですか?」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 19:39:14.46 ID:FypjaPq/o
魔導士「無理して残ることもないだろうに」
魔獣少女「いえ……その……」チラッ
ドラゴン「ガオー!!」ゴォォォ!!!!
「おぉー。上手く焼けた焼けたー」
ドラゴン「ふんっ。竜族の我ならば肉を焼くぐらい、鳥の雛の翼をもぎ取るようなものだ」
魔獣少女「ドラゴンさんが残るのなら……えへへ……」
魔導士「そうか?」
オーク「ぶふっ……! あ、あんなトカゲに……メスの顔になりやがって……!! クソビッチがぁ……!!」
ゾンビ「嫉妬、醜い」
ガイコツ「醜いのは外見だけにしとけよ」
グリフォン「コケケケ」
オーク「うるさいぶぅ!!」
魔導士「己の住処に戻るものは速やかに戻るように。帰ってみたら人間共に荒らされていた、なんてことにもなりかねないからな」
「それは困るべ」
「俺は帰るわ。また呼んでくれー」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 19:54:51.59 ID:FypjaPq/o
――魔王の部屋――
大魔王「はぁー……」
大魔王(私って、ただの地下アイドルだったよね……?)
大魔王(家族も学校のみんなも私のことを可愛いって言ってくれて……だから調子に乗って田舎から東京にいってみたけど……)
大魔王(私よりも可愛い子なんてたくさんいて……けど、それでも、いつかゴールデン番組にでてやるんだって、武道館でライブしてやるんだって……)
大魔王「……」
地下アイドル『みんなー!! 今日もたくさん盛り上がっちゃおうねー!!』
『オォォォォォ!!!!』
地下アイドル『いっけない! まず、ご挨拶が先だよねー。それじゃあ、せーのっ』
地下アイドル『もえもえぇぇ……キューン☆』キラッ
『もえもえキューン!!!』
地下アイドル『わー、ありがとー! それじゃあ、一曲目、いっくよー!』
『フゥーフゥー!!』
大魔王「半分、自棄でやってたところもあったなぁ……」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 20:10:52.74 ID:FypjaPq/o
大魔王「なんで……こんなところにいるんだろう……わたし……」
大魔王「かえりたい……見たいドラマだって……あるのに……お家に帰りたいよぉ……」
大魔王「うぅ……うぅぅ……」
魔導士『大魔王様』
大魔王「だ、だれですか……?」
魔導士『入ってもよろしいでしょうか』
大魔王「……一人にして」
魔導士『はっ。では、簡潔にお伝えしたいことだけを……』
大魔王「……」
魔導士『明日、体調が優れるようでしたら皆に大魔王様のお姿をお見せして頂きたいのです』
魔導士『大魔王様に相応しいお召し物もご用意いたしております』
大魔王「……」
魔導士『それでは、おやすみなさいませ』
大魔王「うぅ……」
大魔王「やっぱり……ドッキリでも夢でも……ないんだ……これ……」
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 20:23:37.44 ID:FypjaPq/o
――大広間――
ドラゴン「どうだった?」
魔導士「やはりまだ復調とまではいかないようだ」
ドラゴン「魔族の復古となる日だというのに、幸先が悪くないか」
魔導士「否定はしないが、予期せぬことが起こっても不思議はあるまい。何せ、大魔王様が封印されたのは数千年前のことだからな」
ドラゴン「それは言い訳にはならんぞ。魔導士よ」
魔導士「予定に変わりはない」
ドラゴン「大魔王様が自分を取り戻してくれることに期待させてもらうぞ」
魔導士「ああ……」
魔導士(ドラゴンが言ってた失敗……。『大魔王様でない何者かを召喚した』可能性……)
魔導士(いや、それだけはない。ないはずだ)
魔獣少女「ドラゴンさーん。このシーツを乾かしたいのですが」
ドラゴン「任せろ。我が翼が起こす風を見よ」バッサバッサ!!!
魔獣少女「わー!! すごーい!!」
ドラゴン「フハハハ!! 容易い!! 布切れ一枚など一度の扇ぎで十分だ!! フハハハハハ!!!」バッサバッサ!!!
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 20:30:57.57 ID:FypjaPq/o
――翌日 魔王の部屋――
大魔王「……」
大魔王「やっぱり、広い部屋だ……。1DKの部屋じゃない……」
大魔王「……」
魔獣少女『大魔王様ー。起きられていますかー? 朝ごはん、ご用意したのですけどー』
大魔王(食欲なんて……あるわけないよ……)
魔獣少女『起きてないのかなぁ』
ゾンビ『また時間を改めるか』
魔獣少女『そうですね……』
大魔王「……」
大魔王(事情を話せば、帰してもらえるのかな……?)
大魔王(そうだ。こうしていたって、きっと家には帰れない。だったら……)
大魔王「あ、あの!!」
大魔王「……あのー!!」
大魔王(もうどこかに行っちゃったのかな? 追いかけないと)
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 20:40:40.86 ID:FypjaPq/o
――廊下――
大魔王「迷った」
大魔王(ちょっと広すぎない、ここ。おかしいよ)
大魔王(武道館や東京ドームより広いんじゃないの)
ズゥン!! ズゥン!!
大魔王「ひぃ!?」
ドラゴン「ガオー!!!!」
大魔王(で、でかいトカゲさん……)
ドラゴン「よくねたー!!!」
ゴーレム「大きなあくびだな」
ドラゴン「これは恥ずかしいところを見られたな」
大魔王(今のがおーって、あくびだったの……)
ゴーレム「で、大魔王様は?」
ドラゴン「さぁな。よくわからん」
大魔王(私のこと、なんだよね……きっと……)
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 21:02:52.19 ID:FypjaPq/o
ゴーレム「俺は魔族として生を受けたことに疑問を感じたり、不満に思ったことはない」
ドラゴン「急になんだ?」
ゴーレム「人間に生まれたかった、と嘆く魔族も最近は多いと聞く」
ドラゴン「仕方あるまい。それだけ人間たちは大地の上に生きている」
ゴーレム「力だけならば、魔族の方が上だというのにな」
ドラゴン「我とて同じこと。竜族に勝る人間がいるとは思えない。が、数の問題だな」
大魔王(人間があんな怪物に勝てるわけ……)
ドラゴン「数多の人間に囲まれたら、流石に殺されてしまうだろう」
ゴーレム「俺もだ。だから、今までも何もできなかった。ただ指をくわえて、人間が住む場所を広げていくのを見ていることしかできなかった」
ゴーレム「しかし、そんな時代も終わる。大魔王様が復活してくれたのならな」
大魔王「……」
ゴーレム「我慢することはもうないのだ。数十万、数百万の人間が束になったところで大魔王様には敵うまい」
ドラゴン「かつての『勇者』や『賢者』と呼ばれた者も既に血は絶えたか、薄まっているとも聞いた。勝ち目は十分にあるだろうな。大魔王様が、本当に復活していればの話だが」
ゴーレム「我々の願い、必ずや成就させねば」
大魔王(何を勝手なことばっかり。私もその人間だし、なんで怪物たちのために戦わなきゃならないの。早く、お家に帰らなきゃ)
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 21:10:56.89 ID:FypjaPq/o
――大浴場――
大魔王「ここじゃない……」
大魔王「そもそもどこに行けば、あの人に会えるんだろう……」
大魔王「もう!!」
ゾンビ「おや。大魔王様もお風呂ですか?」
大魔王「ひぃぃぃ!?」
ゾンビ「何ですか。その気持ち悪いものを見たような反応は」
大魔王「だ、だって……あの……おなかが……」
ゾンビ「え? おぉ、これは失敬。また臓物がはみ出ていましたなぁ。直しておきます」グチュグチュ
大魔王「おぉぉ……」
ゾンビ「これでよしっと。大魔王様も一緒にお風呂、どうです?」
大魔王「け、けっこうです!!」ダダダッ
ゾンビ「あれぇ。どうしたんだ?」
ガイコツ「はやくこいよー」
ゾンビ「おぅ。わるいなぁ」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 21:18:18.59 ID:FypjaPq/o
――中庭――
大魔王「もうやだ……しにたい……」
魔導士「大魔王様?」
大魔王「あ!? さ、探していたんです!!」
魔導士「私をですか。光栄の極みです」
大魔王「あの!!」
魔導士「はい?」
大魔王「……やっぱり、お家に帰りたいんです」
魔導士「ですから、ここが大魔王様の……」
大魔王「私は、大魔王じゃないんです」
魔導士「は?」
大魔王「私は……ただの……ニンゲンです……」
魔導士「に、んげん?」
大魔王「はい。私がどういう場所で、どういうことをしていたのか、今から説明したいと思います」
魔導士「なにを……あなたは……大魔王様のはず……」
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 21:25:33.02 ID:FypjaPq/o
大魔王「――以上です」
魔導士「知らない単語ばかりで、正直、混乱しているのですが」
大魔王「嘘ではありません。私は人間だけが住む世界でアイドルをしていて、18と偽って、人気を保っていました」
魔導士「生きてきた年月を偽ることで大衆の支持を得られるのですか」
大魔王「若い方がいいんです」
魔導士「魔族は生きてきた年月が長いほど、感心を持たれますが……」
大魔王「それは価値観の違いだと思います」
魔導士「そうですか……」
大魔王「私はここにいる意味がないんです。何の力もないですから」
魔導士「しかし……」
大魔王「おねがいしますぅ」ギュゥゥ
魔導士「うぉ!?」
大魔王「おうちにかえしてくだぁぁい……」
魔導士「うぅむ……」
魔導士(大魔王様の復活は失敗している。このままこの者を残しておいても、意味がないどころか、内紛すら勃発し兼ねないか……)
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 21:31:21.03 ID:FypjaPq/o
魔導士「分かりました。今から用意しますので、しばし待っていてください」
大魔王「帰れるんですか!?」
魔導士「それしかないでしょう」
大魔王「わーいっ! ありがとうございます!!」
魔導士(大魔王様が人間だと分かれば、竜族やゴーレム族が暴れ出すかもしれないしな)
大魔王(優しい人でよかったぁ)
魔導士「帰還の儀式は夜に行いましょう。他の者の目に触れては問題になりますので」
大魔王「わかりました」
魔導士「それまでは部屋にいてください。誰が来ても応対はしないように」
大魔王「もっちろんです!」
魔導士「では、また夜に」
大魔王「はいっ」
魔導士(参った……。この先、どうしたら……)
大魔王「……あの、部屋まで案内してもらえませんか?」
魔導士「あぁ……了解です……」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 21:36:37.51 ID:FypjaPq/o
――大広間――
魔獣少女「結局、今日一日大魔王様は部屋から出てないみたいですね」
ゾンビ「一度、風呂まできてるのはみたぞ」
魔獣少女「そうなんですか?」
ドラゴン「何をしているのだ。決意表明をするのではなかったか」
魔導士「まだ体調が悪いそうだ」
ドラゴン「ちぃ……。治癒ぐらいできるだろう」
魔導士「生憎とその手の魔法は不得意だ」
魔獣少女「私が悪いところをペロペロしたら治ったりしないでしょうか?」
魔導士「怪我をしているわけじゃないからな」
オーク「ぶひっ。俺様もペロペロされたいぶぅ」
ゾンビ「その心が綺麗になるわけじゃないからなぁ」
ガイコツ「顔も直らねえよ」
オーク「オーク族をバカにするとおこるぶぅ!!」
魔導士(大魔王様が消えたとなればどうなるか。どこまで誤魔化せるかが問題だな)
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/14(日) 21:50:33.22 ID:FypjaPq/o
――深夜 中庭――
魔導士「これでいいはずだが……」
大魔王「あのー」
魔導士「来られましたか」
大魔王「ええと……帰ることができるんですよね……」
魔導士「はい。この古文書の通りに術式を用意したので、問題はないはずです」
魔導士「ただ……」
大魔王「ただ、なんですか」
魔導士「今から行う魔法は、『賢者』が大魔王様を封印する際に行ったとされるもの。つまり、封印の義」
大魔王「ふ、封印って……」
魔導士「転移させる魔法ではないため、貴方がいた世界に戻ることができるとは約束できません」
大魔王「そ、そんなのって!!」
魔導士「申し訳ありませんが、この日、この場での帰還を望まれるのであれば、そこは了承していただきたい」
大魔王「もし、帰れなかったら?」
魔導士「私にも分かりかねます。知らない世界へ行くのか、それとも何もない空間に閉じ込められてしまうのか」
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/15(月) 00:13:18.94 ID:Ly1ggnJPo
大魔王「問題ないって、言ったじゃないですか!!」
魔導士「術式に関しては問題ありません。問題なく、魔法は起動することでしょう」
魔導士「その後のことは保障できない、というだけです」
大魔王「うっ……」
魔導士「どうされますか?」
大魔王「どうされますかなんて言われても……」
魔導士「提案なのですが、貴方が無事に元の世界に戻ることができる方法を確立できるまでの間、大魔王として魔族を率いてはもらえないでしょうか」
大魔王「はぁ!?」
魔導士「手違いで貴方をここへ呼んでしまったことは、申し訳なく思います。故に無事に帰還してもらいたい」
大魔王「私は人間ですよ? 貴方達が敵視している」
魔導士「人間ではありますが、この世界の住人ではありません。謂わば、異世界人。敵意など持ち合わせておりません」
大魔王「けど……私は……」
魔導士「無論、貴方はずっと隠れ、私が帰還の方法を探す。という手段もありますが、大魔王様が不在のままでは、私も立場上自由に動けなくなります」
魔導士「貴方が表に立ってくれているほうが、はるかに探しやすくなりますし、探す時間も豊富に得られる。どうでしょうか」
大魔王「普通の人間ですよ? いきなり大魔王なんて言われたって……」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/15(月) 00:24:44.92 ID:yRH74FVSO
・スイーツ(笑)
・焼肉
・ラーメン
のチョイス
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/16(火) 07:53:29.82 ID:jqsYeaKyO
大作の予感 期待
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 16:26:25.21 ID:HJ5XVwofo
魔導士「全力で助力いたします」
大魔王「でもぉ」
魔導士「やはり、ここで戻られますか」
大魔王「絶対に戻れるわけじゃないんですよね……」
魔導士「残念ですが」
大魔王「……」
魔導士「……」
大魔王「約束、していただけますか。私、まだやり残したことがたくさんあるんですっ。だから、絶対に元の世界に戻すって約束してください」
魔導士「勿論です。お約束します」
大魔王「それじゃあ……帰還の方法がわかるまでの間だけなら……」
魔導士「感謝いたします。今宵、大魔王様は完全復活を遂げたことになりました」
大魔王「で、どうしたらいいんですか?」
魔導士「まずは改めて皆の前に出て、挨拶をしていただきたく思います」
大魔王「挨拶、ですか」
魔導士「大魔王様のために誂えた衣装も用意しております。どうぞ、こちらへ」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 16:30:34.74 ID:HJ5XVwofo
――謁見の間――
魔獣少女「大魔王様が挨拶してくれみたいですね」
ゴレーム「待ちわびたぞ」
ドラゴン「遂に目覚められたか」
オーク「ぶひぃ。楽しみだぶぅ」
ガイコツ「これで人間たちに対抗できるな」
ゾンビ「強い魔族が戻ってくるんだな」
魔導士「鎮まれ。これより、大魔王様から激励の言葉を頂戴する。大魔王様、どうぞ」
大魔王「……」ヨロヨロ
大魔王(衣装、めちゃくちゃ重いし……歩きにくいぃ……)
魔獣少女「キャー!! だいまおーさまー!!」
ドラゴン「ガオー!!!」
ゴーレム「オオォォォォ!!!!」
オーク「ぶっひぃぃぃぃ!!!」
大魔王「ひぃ!?」ビクッ
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 16:37:12.45 ID:HJ5XVwofo
魔導士「静粛に!!」バンッ
ゾンビ「ひっ」ビクッ
大魔王「あー……えーとですねー……そのぉ……」
大魔王(皆を扇動するような挨拶をって言われたけど……。どうしたらいいんだろう……ファンのみんなにやってたようなやり方しか知らないし……)
魔獣少女「やっぱりカリスマありますねぇ。オーラを感じますっ」
ドラゴン「全くだ。我らの長としの威厳が滲み出ている」
ゴーレム「大魔王様。この日を、どれだけ待ったことか」
大魔王「ご挨拶が遅れて、ごめんなさい。私が、復活した大魔王ですっ」
大魔王「みんなー! 人間が憎いかー!!」
「「オォォォォォ!!!」」
大魔王「人間が許せないかー!!」
「「オォォォォ!!!」」
大魔王「人間をやっつけたいかー!!」
「「オォォォォ!!!」
大魔王「よーし!! いい度胸だー!! みんなー!! 私につづけー!!」
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/21(日) 16:43:43.63 ID:HJ5XVwofo
>>28
訂正
ゴレーム「待ちわびたぞ」→ゴーレム「待ちわびたぞ」
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 16:45:32.78 ID:HJ5XVwofo
「「ウオォォォォォ!!!!!」」
ドラゴン「どこまでもついていくぞー!!! がおーん!!!」
ゴーレム「オォォォォ!!! オォォォォォ!!!!」
魔獣少女「大魔王様ー!! ステキー!!!」
オーク「ぶひぃぃ!!! 俺様もがんばるぶぅ!!!」
ガイコツ「カタカタカタカタカタカタカ!!!!」
ゾンビ「うっひょぉー!! テンションあがってきたー!!!」
グリフォン「コケコッコー!!!」
大魔王「おぉぉ……」
大魔王(すごい熱狂っぷり……。私のファンの人たちでもここまでじゃなったなぁ……)
大魔王「いいよー! みんなー! やる気、十分だねー!! みんなのそういうところだーいすきっ!」キラッ
「「オォォォォォォォォ!!!!!!」」
ドラゴン「大魔王様に好きだって言われたぞ!! ガオー!!!」
ゴーレム「ぬぅ……! 大魔王様は心を掌握する術をよくわかっている……」モジモジ
魔獣少女「私もだーいすきでーす!!」
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 16:51:25.24 ID:HJ5XVwofo
魔導士「大魔王様、そろそろ」
大魔王「あ、はい。それじゃあ、みんなー。私はこれから人間たちと戦うための準備に入るから、またねー! バイバーイ!!」
ドラゴン「ガオー!!!」
ゴーレム「オォォォォ!!!」
魔獣少女「はーい!!」
魔導士「お疲れ様でした。中々良い演説であったと思います」
大魔王「ああいう風にしかできないので……。大魔王らしかったですか?」
魔導士「さぁ。何分、大魔王様を知っている魔族は生き残っておりませんから」
大魔王「そうなんですか……」
魔導士「会議室に移動しましょう。これからの指針を決めなくてはなりませんから」
大魔王「はいっ。よろしくお願いします」
魔導士「こちらこそ」
魔導士(不安はあったが、『あいどる』という種族は大衆を上手く操る能力があるようだな。それを上手く利用できれば……あるいは……)
大魔王(すっごいドキドキしたけど、ステージの上で歌って踊るのとあんまり変わらない気もするなぁ)
大魔王(これぐらいでいいなら、やっていけそうだけど……)
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/21(日) 16:55:47.28 ID:6jzXtMIV0
さて、この大魔王はみすみす人間が殺されていくのを黙って見られるのか…
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/21(日) 16:56:31.88 ID:XcRV/eEW0
魔族が全員ドルオタかつ年齢キツめでもあざとさ全開でも構わん連中ならあるいは…
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 16:58:15.56 ID:HJ5XVwofo
オーク「大魔王様、人間寄りの姿だけど、可愛いぶぅ」
ガイコツ「もう少し肉がないほうが好みなんだがなぁ」
ゾンビ「俺はもう少し、肉に痛みが出ている方が好きだな」
ドラゴン「それにしても大魔王様は噂通り、恐ろしいな」
グリフォン「コケケ?」
ドラゴン「魔力を全く感じなかっただろうが」
ゴーレム「そういえば……」
魔獣少女「魔力がないんですかね」
ドラゴン「違うな。前にもいったが、大魔王様の放つ魔力は毒にもなる。下級の魔物がその魔力に中てられて死ぬこともある」
オーク「つまり、大魔王様はその魔力を極限まで抑えてくれているってことかぶぅ」
ドラゴン「それ以外になにがある。あれだけ抑え込まれている魔力……。正体を現したときに漏れ出す量は星すらも飲み込みかねないな」
ゴーレム「底が知れぬ、か」
ドラゴン「大魔王様が本気になるところを拝められないかもしれないな。本気になれば、大魔王様以外は死滅するかもしれないのだから」
魔獣少女「すごすぎるぅ」
ゾンビ「大魔王様が本気になるときは、きっと魔族が絶滅するときってことか。そうならないために俺たちもがんばらないとな」
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 17:07:38.96 ID:HJ5XVwofo
――会議室――
魔導士「ここです」
大魔王「広い……。私の知ってる会議室って、長テーブルが二つ並んでるだけの部屋なんだけど……」
魔導士「魔族が衰退する前は数多くの幹部がおり、各種族の長だけで100名はいました。かつての大魔王様は幹部と長をこの部屋に呼び、日々領地を広めるために会議をしていたと聞いています」
大魔王「真面目な人だったんですね」
魔導士「部下の意見もしっかり耳にいれる方ではあったようですね」
大魔王「部下がついてくるわけですね」
魔導士「そして、今は貴方がそうならなくてはならない」
大魔王「期間限定ですよね?」
魔導士「短期間といえど、不信感を抱かせてはなりません。内紛が勃発すれば、最悪貴方が殺されてしまうこともあります」
大魔王「うぅ……」
魔導士「そうならないように、私も務めますが」
大魔王「よろしくお願いします」
魔導士「大魔王様をお守りすることが私の役目です。ご安心を」
大魔王「はぁ……。それで、これからのことを話すって、具体的には何をしていくんですか……?」
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 17:15:41.76 ID:HJ5XVwofo
魔導士「魔族と人間が長きに渡り、争っていることは説明したはずです」
大魔王「やっぱり人間と戦うってことですか」
魔導士「無論です。魔族の復古、領地の奪還は我らの悲願なのです」
大魔王(戦争……ってことだよね……。いきなり言われても現実感ないんだけど……)
大魔王「私も、戦わないとダメ、なんでしょうか」
魔導士「いいえ。貴方がお城にいてくれて構いません。戦場に出るのは私たちで十分ですから」
大魔王「いいんですか?」
魔導士「何の力もない貴方が戦場に出ていけば、殺されますよ」
大魔王「で、ですよねー」
魔導士「殺されるのならまだしも、貴方が生け捕りにされてしまうこともありえますから」
大魔王「い、いけどりって……」
魔導士「想像を絶する拷問を受けることになるでしょう」
大魔王『やめて!! もうゆるして!! いやぁー!!』
『げへへ。こっちは嫌がってねえみたいだけどなぁ』
大魔王「それだけは嫌ぁ!! 私、そんなの耐えられない!!」
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 17:24:48.72 ID:HJ5XVwofo
魔導士「ですから、ここに留まっていてください」
大魔王「そうしますぅ」
魔導士「手足を?がれて口を割らないほど、貴方は強くないでしょうし」
大魔王「え? 拷問ってそっち系なんですか?」
魔導士「それでは、本題に入りましょう。まず、この地図を見て頂きたい」
大魔王「はい。世界地図ですか、これ」
魔導士「ええ」
大魔王(私の知ってる世界地図とは全然違うなぁ)
魔導士「この城がある場所は、ここになります」カキカキ
大魔王「周りには何もないんですか」
魔導士「広大な森林が広がっており、人間もここまではそう簡単に辿り着けません。結界も張っていますし。とはいえ、人間たちはこの辺りまで領土を広めています」カキカキ
大魔王「森林のすぐ外側ですか」
魔導士「はい。なので、必然的に最初に攻め落とすことになる人間たちの領地も決まります」
大魔王「森の周囲にある街とかですか?」
魔導士「ええ。幸い、森林の周囲に街と呼べるだけの集落はありません。十数人ほどの人間が集まり生活しているだけの村があるだけです。攻め落とすだけなら簡単でしょう」
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 17:35:04.95 ID:HJ5XVwofo
大魔王「どうして今まで攻めなかったんですか?」
魔導士「この城に駐在している魔族が少数ということもありますが、大きな問題は人間たちの報復に耐えるだけの兵力がないことです」
魔導士「反撃に対する準備なくして戦はできません」
大魔王「だったら、すぐには攻められないんじゃあ……」
魔導士「大魔王様が復活した今、魔族たちの士気は頂点に達しているといってもいいでしょう。また復活に伴い各地に散っていた魔族たちの結束も固まりつつあります」
魔導士「大規模な戦はまだ無理ですが、それでも大魔王の復活を人間に知らせる意味はあります」
大魔王「意味、ですか」
魔導士「人間共とて、大魔王の存在を無視することはできません。容易には手を出してこれないでしょう」
魔導士「大魔王との戦闘を想定し、時間をかけて兵力をかき集めるはず。我々はその間に、領地を広め、魔族の行動範囲を拡大させます」
魔導士「領地さえ確保できれば、魔法による罠も仕掛けられます。戦術の選択肢が増えるのです」
大魔王「そうなんですか。よくわかんないですけど」
魔導士「では、その旨を皆に伝えてもらえますか」
大魔王「はい?」
魔導士「人間共の集落を潰す、と」
大魔王「あー……。素朴な質問、なんですけども……その村に住んでいる人間たちは、生け捕りにするんですか?」
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 17:42:38.83 ID:HJ5XVwofo
魔導士「数名ならば人質として役に立ちそうではありますが、過半数の人間には死んでもらいます」
大魔王「えぇ……」
魔導士「人間たちが我々にしてきたことを考えれば、妥当でしょう。奴らは……我々魔族に……」
大魔王「えっと……別に殺すことはないんじゃないかって……」
魔導士「異世界の住人である貴方には分からないかもしれませんが、我々には人間を殺すだけの恨みも理由もあります」
大魔王(目が怖いよぉ)
魔導士「いくら貴方が大魔王様とはいえ、殺すなという命令には従えません」
大魔王「……」
魔導士「人間共は、確実に葬ります。見せしめにもなりますし」
大魔王「あのー」
魔導士「くどいですよ」
大魔王「みんなに命令しちゃっても、いいですか?」
魔導士「は?」
大魔王「人間を殺すのは禁止ーって」
魔導士「な……!? そんなことをしたら、暴動が起きます!!! やめてください!!」
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 17:50:04.26 ID:HJ5XVwofo
大魔王「だってぇ……」
魔導士「これは戦争なのです!! 我々魔族がどれだけ辛酸を舐めさせられたか……!! ここでその恨みが少しでも晴らすのです!!」
大魔王「けど、ほら、人間って割と丈夫だし、生かして魔族のために働かせるほうが、いいかなーなんて……」
魔導士「舐めている!!!」バンッ
大魔王「ひぃ!?」
魔導士「大魔王様が封印されてからというもの、魔族は理不尽に狩られ、不必要に虐殺されてきたのです」
魔導士「そんな人間たちのために労働の場を用意するなど、考えられない!!」
大魔王「あのぉ、大魔王がいた時代はぁ、魔族が同じことしてたとか……?」
魔導士「……」
大魔王「あ、やっぱり、してたんですか? だったら、お互いさまってことで……」
魔導士「そう簡単に割り切れるものではありません!!」
大魔王「うぇ……」
魔導士「ともかく、人間共を生かそうなどと考えないでください」
大魔王「一応、みんなの意見もきいたほうがいいと思うんですけど」
魔導士「結果は分かりきっています。おやめください」
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 17:54:41.06 ID:HJ5XVwofo
――謁見の間――
オーク「いきなり集められたけど、なんだぶぅ」
ガイコツ「早速、戦争するんじゃねえの?」
ゾンビ「腕がなるぜぇ」
魔獣少女「その腕、落ちてますよ」
ゾンビ「おっと、いけねえ」
ドラゴン「このタイミングで招集か。戦で間違いないな」
ゴーレム「ああ……。楽しみだ……」
魔導士「大魔王様がお見えになる。静粛に」
大魔王「ふぅ……ふぅ……」ヨロヨロ
大魔王(この正装、やめてほしい……)
ドラゴン「大魔王様、何用でしょうか」
大魔王「えっとですね。重大発表があります」
魔獣少女「なんだろー」
大魔王「――明日、私たちは人間たちが住んでいる場所を奪いにいこうとおもいますっ」キラッ
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 17:58:42.73 ID:HJ5XVwofo
「「オォォォォ!!!!」」
魔獣少女「やったぁー!!」
ドラゴン「待ってたぜ!! このときを!! ガオー!!!」
ゴーレム「にんげん……!! この手で頭をトマトのように握りつぶしてやるぅ……!!」
オーク「ぶひぃぃぃぃ!!!」
グリフォン「コケケケケ!!!!」
大魔王「でも、一つだけ、私と約束してほしいことがあるのっ」
ガイコツ「なんだなんだ?」
大魔王「人間を一人も殺さないようにしてねー!!」
「「……」」
大魔王「イエイっ☆」
「「……」」
大魔王「……」
大魔王(あれ……あれ……? 空気がおかしい……)
魔導士(だからやめてほしいと言ったんだ……。下手をしたら反大魔王派閥すら発足しかねないぞ)
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/21(日) 19:07:27.68 ID:O4GK1Fh90
乙おもしろい
ので
はよ
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/21(日) 19:23:12.62 ID:HJ5XVwofo
ドラゴン「大魔王様……。それはどういった理由で?」
大魔王「え?」
ゴーレム「魔族を数千年も虐げ、住む場所さえも奪ってきた人間を何故殺してはいけないのか」
オーク「わけがわかんないぶぅ」
魔獣少女「えぇー? 殺しちゃダメなんですかぁ」
大魔王「ほら、そんなやられたらやり返す、みたいなのは延々と繰り返しちゃいますし」
ガイコツ「しかし、今はもう大魔王様がいるじゃあないですか」
ゾンビ「そうだそうだ。大魔王様がいれば人間たちがやり返してきても平気じゃないか」
ドラゴン「奴らの反撃など恐れる必要すらない」
ゴーレム「大魔王様!! 人間たちは死んで当然だ!! 大魔王様だって封印され、悔しい思いをしてきたはず!!」
「んだぁ。大魔王様ぁ、やっちゃいましょうよぉ」
「ニンゲンなんて殺してしまえー!!」
「ニンゲン死すべき、慈悲はない」
大魔王「えぇと……あのぉ……」オロオロ
魔導士(そろそろ私が割って入るべきか。このまま組織が瓦解するのは望ましくない)
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