関裕美「0点の笑顔をあなたに」

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1 : ◆5AkoLefT7E [saga]:2018/01/12(金) 23:39:55.33 ID:rvz5aNSu0

みんな、夢を持って生まれてくる。
誰だって。
そして、いつのまにか、諦めている。

才能がない。お金がない。時間がない。環境がない。理解がない。
私たちが夢を叶えるには、この世界は足りないものばっかりだ。

それでも、夢を叶える人がいる。
そんな人たちの話は、それを語る眼差しは、私には眩しすぎて。
自分に足りないものを呪いながら、今日も微睡みの中へ意識を落とす。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1515767995
2 : ◆5AkoLefT7E [saga]:2018/01/12(金) 23:40:36.01 ID:rvz5aNSu0

〜〜〜〜〜

「……」

鏡に自分の顔が映ってる。
無愛想で、どこか不満気で。
これじゃあ初対面の相手に「怒ってる?」って聞かれることは減らないよね。なんて思いながら。
でも、今日はダメだ。笑わなきゃ。
無理やり口角を押し上げて、せいいっぱい、楽しかったことを思い出して。なんとか笑顔を作ってみるけど。

「……かわいくないなぁ」

誰に聞かせるわけでもない独り言は、私の周りをちょっとの間、ふわふわと漂って、いつの間にか消えてしまった。
時間はちょっとだけさかのぼって、先週のこと。
3 : ◆5AkoLefT7E [saga]:2018/01/12(金) 23:41:03.63 ID:rvz5aNSu0

その建物の前を通ったのは、本当に偶然だった。

休日だったからアクセサリーでも作ろうかなって思ったんだけど、材料が切れちゃってて。
そういえば、いつも行ってる雑貨屋さんは改装中とかなにかでお休みしてるんだっけ。と気が付いたから、いつもは降りない駅で降りたんだ。
買い物は問題なく終わって、むしろ普段は見ないような材料も買えたりしてラッキー、なんて思いながら駅まで歩いている最中。ふと横を見たら、大きな建物と。

1枚のポスター。
4 : ◆5AkoLefT7E [saga]:2018/01/12(金) 23:41:31.87 ID:rvz5aNSu0

行きにも通ったはずだけど、気が付かなかったな。まあ、お店を探すのに集中してたからだと思う。
いつもだったらこんなポスター、気にも留めないはずだった。だったんだけど。
そこに写っている女の子に、その笑顔に、私は見惚れてしまった。
どれくらいの間、見ていたんだろう。ほんの一瞬だけかもしれないし、何十分も目を奪われていたのかもしれない。
ようやくその女の子から目を離すと、その隣に印刷されている文字が突然、目に飛び込んできた。

「アイドル募集……?」

「じゃあ……ここは……」

どうやらここは、アイドル事務所みたいだ。いや、正しく言うと、『アイドル部門がある芸能事務所』なのかな?
まあどっちでもいっか。
5 : ◆5AkoLefT7E [saga]:2018/01/12(金) 23:42:29.24 ID:rvz5aNSu0

そこでふと、冷静になってみた。
アイドル事務所の前で、熱心にアイドル募集のポスターを見ている私……
……あれ?
こ、これじゃまるでアイドルになりたいみたいじゃない!
ま、周りにはそう見えてるのかも……
どんどん恥ずかしくなってきちゃった。そろそろ帰らなきゃ。
そう思って、最後にもう1度、写っている女の子の笑顔を見てみる。

「……かわいいなあ」

それに比べて私は……



「何を見てるの?」


6 : ◆5AkoLefT7E [saga]:2018/01/12(金) 23:44:44.13 ID:rvz5aNSu0

怪しい人だなって、思ったんだ。正直に言っちゃうと。

「わっ、び、びっくりした……」

だって、このご時世に、見知らぬ女の子に声をかけて来るなんて、不審者か、変質者か、よっぽどの変人なんじゃないかって。

「おっと、申し訳ない、怒らせるつもりはなかったんだけど」

そう言って、その男性は申し訳なさそうにしている。ああ、多分、また睨んじゃったんだ。

「ううん、大丈夫、怒ってるわけじゃ……ないから」

「それなら安心した。それで、何を見てたの?」

「何って……このポスターだけど」

「ポスター……なるほど。アイドルになりたいんだ?」

「の、載ってる女の子が可愛かったから見てただけ!」

「ふうん……?」

男性はポスターを、いや、そこに刻まれた『アイドル募集』の文字を見ている。そしてまた、こちらの顔を伺ってきた。
なんだか、心の中を見透かされているような気持ちになってしまう。そんな目だった。
7 : ◆5AkoLefT7E [saga]:2018/01/12(金) 23:45:13.71 ID:rvz5aNSu0

「ま、まあ……その……いいなって思った、けど。私にはなれないし……」

「なれない? ……どうして?」

どうして?

今この人、”どうして”って言ったの?
そんなの、答えるまでもないよ。私はこの女の子みたいに笑えない。顔が可愛いわけでもないし、髪型もこんなだし。性格も派手じゃないし。アイドルに向いてるなんて、どうやっても思えない。

「俺はなれないとは思わないけど」

信じられない。この人は私をからかっているんだ。きっと。

「……本心じゃないんでしょ?」

少し強い口調になってしまった。でも、しょうがないよね。笑えない冗談だよ。私がアイドルなんて……

「頑固だな……はい」

そう言いながら差し出されたのは、四角い、小さな……

「……名刺?」
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