魔法使い「フンッ! フンハッ!」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:09:07.92 ID:SpRwY0O20
誰もいない登山道に轟音が響く。雨は止まない。紙のように薄い、質の悪い外套では十分に風を防ぐことができないようだ。魔法使いの体温は徐々に奪われ、体力と気力が蝕まれていく。

(それでもおれは諦めないぞ。)

魔法使いの決意は岩のように固かった。元来、性格は頑固であった。それに、この男は今、並々ならぬ正義感にも突き動かされていた。

山の頂上には、かつての勇者が住んでいるという噂があった。

(噂はきっと本当だ。)

そうでなくてはならない。かつての勇者の元へ行き、教えを請うのだ。どうすれば自分は強くなれるのか。強さを求める理由がある。一月前、噂を嗅ぎつけ、すぐにこの山に旅立った。4年前、賞金首の山賊を退け、海賊たちを討ち、魔王を撃退した勇者の助力があれば、荒れ果てた故郷をもとに戻すことができるだろう。


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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:09:52.91 ID:SpRwY0O20
魔法使いの住む国では、長年の戦争により土地も人も疲弊していた。
昔は大国であったが、今は見る影もない。食糧不足。飢饉。国王の崩御。
国は徐々に崩壊に向かっている。それでも国民はかつての栄光にしがみつき、今も細々と暮らしている。

最近はよからぬ事件も頻繁に起こっていた。
国民を奴隷にするため、異国から賊が侵入してきたという。
国の兵力も最早雀の涙、完全に事件を鎮圧できてはいない。

この男、魔法使いは心を燃やし国のために立ち上がった。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:12:17.95 ID:SpRwY0O20
(おれには力が必要だ。)

(だが、俺の魔法では国を変えらない。だから、この山に頂きに住むという、かつての勇者に教えを請うんだ)

冷たい風が全身の熱を奪い、魔法使いの命を削っていく。
彼は戦士ほど体が丈夫ではないし、剣士のように体力があるわけでもない。
頬に脂汗がにじみ出る。慣れない登山と不十分な装備は命を落とす危険もある。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:18:19.76 ID:SpRwY0O20
(それに、先程から妙な気配を感じる)

遠くから微かに、だが確実に聞こえる息使い。
獣か? こちらの出方を伺っているのか?
ぎくりとして立ち止まり、振り返ったが、真っ白な雲が広がるだけで何もいない。

ならば、力尽きる前に、急がなくてはならない。

そうしているうちに一軒の庵が見えた。

魔法使いの心臓がどくりと撥ねる。

もしやと思い、庵に駆け寄った。窓のようなものはなく、質素な小屋だった。
戸口は簡単な装飾が施されているだけだ。

魔法使い「すみません」

魔法使いは控えめに戸を叩いた。
小屋から返事はなく、雨の音だけが聞こえる。もしや、留守か?
それとも、噂は嘘で、ここはただの廃屋なのか? どんどんと戸を叩く。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:19:29.54 ID:SpRwY0O20
魔法使い「すみません、どなたか!」

「入れ」

男の声がした。魔法使いは一瞬躊躇して、両手で押すようにそろそろと扉を開いた。

男「この天候で、ここまで登ってこれたか。悪くない」

男「旅人よ、こんな山奥に用事か」

魔法使い「あなたは……?」

小屋の奥にいたのは一人の男。

異様なのはその出で立ちだ。
男は半裸だった。
全身の筋肉を惜し気もなく晒している。

魔法使い「そうです。あなたは……勇者様ですか?」

男「そう言うお前は何者なのだ」

魔法使いは丁寧な動作で膝を折り、相手を見上げた。

魔法使い「私は王国の魔術師です。ですが、私がここにいることは国王は知りません。」

魔法使い「先程の無礼を詫びます。私にはわかる。
その圧倒的な力を拝見して確信を得ました。確かにあなた様は勇者だ。
私も魔術師の端くれ、これほどの力を読み間違えるはずがない。」

魔法使い「私はあなたに教えを請いに来たのです。力のつけ方を。
修行の仕方を。強さを手に入れ、国を救いたいのです。
どうか、お願いします。」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:20:39.75 ID:SpRwY0O20
男「なるほど、そうか。そうか、魔術師か。」

男は立ち上がった。

男「お前の願いはわかった。心配はいらぬ、お前は魔術師だが、素質はあるようだ。
華奢な体格は、これから鍛えればいい」

魔法使い「素質?」

男「勇者としての素質だ。ここに来る途中、彼らに出会ったろう?」

魔法使い「私には素質があるのですか。彼ら?」

男「私の仲間だ。おいで。」

男は魔法使いに手招きをした。
小屋の扉を開け、外に出ていった。
魔法使いは不思議に思ったが、黙ってその背中を追いかける。
ここに来る前に誰かと出会ったのか?
かつての勇者の仲間と? 魔法使いには心当たりがなかった。

そういえば、妙な気配は感じていた。

あれは人の息遣いだったのか?

いつの間にか雨は止んでいた。空は曇っているが、登ってきた時よりは幾分もマシだ。
まだびしょびしょのシャツが肌に貼り付いて不快感を覚える。

魔法使い(かつての勇者の他に、仲間が住んでいるのか?)
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:22:30.63 ID:SpRwY0O20
男は何かを探しているようだった。
唇に曲げた指を押し当て、指笛を鳴らす。
ピィという音が木々の間に吸い込まれていく。
そして、何かを確信したように頷いた。

男「杖は持っているか? これから試練を始める。
勇者になるための試練だ。用意しろ」

魔法使い「え、所持はしていますが。そんな急に。
……いえ、わかりました。今、杖を用意します。
……これです」ゴソゴソ
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:23:07.52 ID:SpRwY0O20
外套の内側から取り出したのは、ハルニレの枝を削ってつくられた上質な杖だ。
魔法使いはこれを焦点具として使う。
魔術の行使には欠かせない魔法使いの生命線だ。

男「杖などいらぬ!」バキッ

魔法使い「え、ちょ」

男の掌で杖が木っ端微塵に砕けた!

魔法使い「ちょ!? 杖がぁ!」

木々がざわめく。男の奇行に抗議しようと口を開いた瞬間である。
魔法使いは妙な気配を感じた。
この気配は……知っている! 山の中で感じた生き物の息遣いだ。
これはもしや、囲まれている!

魔法使いはおそるおそる周囲を見渡した。そして見つけた。
茂みの向こうから、てらてらと光る灰色の肌が見えた。
筋肉質の腕を地につけ、四足歩行で近づいてくる。

男「私はかつての勇者。そして彼らが私の仲間――」

マッチョ「フンハッフンハッ」

マッチョ「フンハァーーッ!」

光る汗。筋肉。大勢の筋肉たちに囲まれ、かつて勇者だった男が不敵に笑った。

男「――武闘家だ」

魔法使いをめがけて、四方から大勢のマッチョが飛びかかってきた!
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:24:40.95 ID:SpRwY0O20
魔法使い「ぎゃあああああ!」

マッチョ「フゥ!」ブオン

マッチョ「フンハッ」

マッチョが腕を伸ばす。間一髪、地面に伏せることで抱擁をかわした。
魔法使いは慌てて小屋に坂戻りし、戸口を蹴り破ると、中に体を押し入れた。
急いで閂をかけ、扉を背にする。
勢い良く扉にマッチョがぶつかり、振動が背に伝わる。

魔法使い「な、な、なァ!? なんだあいつらは!? なにあれ!?」

瞬間、目の前の床を突き破ってマッチョが飛び出してきた!
床板がはじけ飛び、筋肉が宙を舞った!

マッチョ「ンイハァ!」

一体だけではない。二体、三体、いやそれ以上!
外にいるマッチョと合わせれば、いったい何人がこの山に潜んでいたのだ。

マッチョが尻をこちらに向けた体勢のまま、じりじりとにじり寄ってくる。
魔法使いは混乱していた。わけが分からぬ。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:27:49.56 ID:SpRwY0O20
魔法使い「な、うわああああ!」

灰色の尻は今にも飛びかかってこんとばかりにピクピクと痙攣している!

男「狼狽えるな」

メリメリと音がした。小屋が揺れる。
鼓膜を破らんばかりの轟音とともに、壁がぶち抜かれ雪崩のようにマッチョが侵入してきた!
魔法使いは悲鳴を上げた。マッチョの群れにまたがり、歩み寄ってきたその男はかつての勇者だ。

男「紙のように脆い壁だな。少し触ってみただけでこれとは」

4足歩行で男を運んできたマッチョが身震いをする。
彼の尻に連結するように頭をくっつけているマッチョが一人、また一人。まるで筋肉の汽車だ。

魔法使い「この状況は……いや、この者たちは!?」

男「私は4年前、魔王を討った。しかし、それは決して一人だけの力ではない!
独善的な強さに頼る者は愚かだ。魔物と何も変わらぬ。
力とは何か、私はこう答えよう」

マッチョ「ンス……ンス……」

魔法使いは乱れた呼吸を整える。情けないが、うまく息が吸えず喉から空気が漏れる。
横から顔に尻が押し当てられ、筋肉のクッションに挟まれる。
汗で濡れている、固い肌の感触が直に伝わってくる。

マッチョ「フンッ」

男「仲間の存在だ。」

マッチョ「……ンンッ」

男「勇者は強大な力を持つ個であり、たった一人で悪を斬り伏せたと言う。」

マッチョの筋肉と魔法使いの体が震える。
男はマッチョの背中から降りて、魔法使いを見下ろした。その眼光の鋭いこと!
何たる気迫だ。マッチョたちが暑い吐息を耳元で吐き、魔法使いの頬を優しく撫でる。

男「くだらぬ噂話だ。4年前、私は多くを語らなかった。
勘違いした者たちが、理想の勇者像を作り上げただけに過ぎぬ。私は彼らと供に事を成した。」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:31:12.71 ID:SpRwY0O20
魔法使い「彼らは武闘家……あなたの仲間だったのか。」

魔法使いの表情は尻に囲まれてはっきりと見えない。

男「失望したか。」

魔法使いはマッチョの尻を掴んだ。

魔法使い「素晴らしいッッ!」

掌にじんわりと熱が篭る。尻を掴まれたマッチョが雄叫びを上げた。
魔法使いは腹の底から声を出し、男を賞賛した。
マッチョたちをかき分けるように男の前に這って進む。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:32:01.36 ID:SpRwY0O20
魔法使い「私は、魔導の力を極めることこそが、世を正しく導くのだと信じていました。
そのような答えには行き着かなかった。
確かに、一人の力でできることは限られているのだ。」

マッチョ「ンオオオオオ! オオン……」

男「そうか。然らばまずは、志を供にする仲間を探せ」

魔法使い「ありがとうございます。早速、私は命を供にする仲間を探すことにします」

魔法使いは立ち上がった。その心は義憤に燃えていた。
マッチョたちが魔法使いから退き、道を開ける。
かつて、聖なる者が杖の一振りで海を二つに割った、その神話を体現するかのごとく。
男は魔法使いを見て頷いた。

男「これからお前は二代目勇者を名乗れ。」

マッチョたちが祝福の声を上げた。この世にまた、人類の希望の光、勇者が現れたのだ。

――今、勇者の世直しの旅が始まる!
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 23:15:48.49 ID:9hPfzcbZ0
もしかしてこれの関連?
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