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【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】

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770 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:09:17.19 ID:ldf42oh6o

古鷹「あ」

 バッチィィィン!!

衣笠「いったああああああい!?」ブットビ

阿武隈「ひい!?」ビクッ

子日「なにあのでこぴん!? すっごい音したんだけど!?」

青葉「ちょっ、司令官!? なにするんですか!?」

古鷹「き、衣笠!? 大丈夫!?」

衣笠「んぎゅううう、痛ったああ……!」グスグス

提督「おい衣笠。俺たちの件はそれで手打ちにしてやるぜ。これ以上俺たちに謝るなよ?」

衣笠「……!」

X中佐「提督はそれでいいのかい?」

提督「形はどうあれ、やったことに対する罰が欲したかったんだろ。当事者に反撃されて、少しはすっきりしたんじゃねえの」

衣笠「……」パチクリ

阿武隈「あ、あの、なんでグーがなかったんですか?」

提督「げんこつは手加減できないんでな」
771 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:10:01.44 ID:ldf42oh6o

曙「じゃあパーはびんたしようってつもりだったの!?」

青葉「いえ、司令官の場合はアイアンクローでしょうねえ……」

提督「手加減はするぞ? さっきのでこぴんだって手加減したからな?」

古鷹「ねえ衣笠、大丈夫? 早く医務室に行こう?」

衣笠「……う、うん……あの、提督!」

提督「!」

衣笠「あ、あの……ありがとう、ございました」ペコリ

提督「おう。ちゃっちゃっと治せよ」

衣笠「は、はい!」

古鷹「提督! 私、衣笠を連れて行きますね!」

 扉<チャッ

ツバキ「おひけえなすって!!」バーン

衣笠「」オメメ

古鷹「」ミヒラキ

 ピカー

ツバキ「うおっ、まぶしっ」

提督「何やってんだ」

ツバキ「申し訳ありやせん、鉢合わせた古鷹の左目が眩しゅうて、面食らいましてん」
772 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:10:46.38 ID:ldf42oh6o

曙「あ! あんた、あの島にいた……!!」

ツバキ「おや、親分さんと一緒にいた艦娘は、こちらにおりんしたか」

ツバキ「改めまして、うちはカビンのメディウム、名をツバキとはっします。どちらさんも、よろしゅう頼んます!!」ズイッ

全員「「……」」ヒキッ

提督「まあ、堅気しかいねえからな。ツバキの口上こそ面食らうだろ」

ツバキ「大将さんところの艦娘の皆さんにゃア、受け入れてもらえたんですがねえ?」

X中佐(任侠ものの映画が好きだもんなあ、叔父さんは……)

ツバキ「ときに親分さん、恐れ入りやすが、この船の食堂までご足労願えやせんでしょうか」

早霜「墓場島へ攻め込んだ艦娘たちが、お詫びも兼ねて顔合わせのため集まっているの」

阿武隈「私たちもそうだったんだけど、先に提督さんにお会いしたくて……」

提督「面倒臭え……」

曙「まだ言うの!?」

雷「それじゃ、私がだっこして連れてっ」

提督「しょうがねえな、さっさと行くか」

雷「てあげようと思ってたのに!?」

提督「つうか、また食堂か? また比叡がカレー配ってるんじゃないよな?」

ツバキ「本日は、うちのメディウムどもが、甘味を振舞っておりやす」

提督「甘味……?」
773 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:11:31.85 ID:ldf42oh6o

 * 食堂 *

マーガレット「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

提督「……」

ツバキ「文字通り、西洋の甘味を振舞っておりやすな……」

阿武隈「なにこの惨劇……」

朧「秋月、しっかりして!」ユサユサ

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている秋月「」チーン

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている照月「」チーン

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている初月「」チーン

パンプキンヘッドを被って鼻血を出して倒れている涼月「」ゴーン

X中佐「ケーキがもったいない……」

セレスティア「申し訳ありません魔神様、マーガレットがまた粗相しまして……」

朧「3人とも、ケーキを滅多に食べたことがないから、ダウンしたらしいんです!」

提督「……うん、まあ、そりゃしょうがねえとしよう。けど、こっちのパンプキンマスクはロゼッタだよな?」

ロゼッタ「そうだよー! だって、その子があたしのじゃこたん見るなりカボチャの煮付け? とか、調理がどうこうってうるさくてさー!」
774 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:12:17.45 ID:ldf42oh6o

ロゼッタ「話聞かないからじゃこたん被せたら、おとなしくなったからそのままにしてるの!」プンプン!

提督「こいつはなんで鼻血噴いてんだ」

酒匂「涼月ちゃん、カボチャマニアだからじゃないかなあ……」

提督「被らされて喜ぶのかよ。よくわかんねえな」

W大佐「提督、騒々しくさせてすまないな」

提督「! あんたも来てたのか」

W大佐「ああ、前回顔見せできなかった、うちの艦娘も連れてきたんだ」

W鈴谷「あ、X中佐じゃーん! おっひさー! で、そっちが噂の魔神提督? ちーっす!」

W熊野「ごきげんよう、お待ちしておりましたわ。ケーキ、お先にいただいていますわよ」

W大佐「紹介しよう、最上型航空巡洋艦、鈴谷と熊野だ」

提督「最上型?」

W大佐「ああ。君のところに最上と三隈がいると聞いている。良かったら話ができればと思ってな」

W鈴谷「それなんだけどさー、鈴谷達の出る幕、ないみたいよ? ほら」

W日向「ふむ、君が最上か。良い目をしているな」ズイ

最上「そうかな?」キョトン
775 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:13:03.02 ID:ldf42oh6o

W日向「お近づきのしるしに特別な瑞雲を差し上げよう。どうだ、私たちと一緒に来ないか」ズズイ

三隈「ちょっと! 最上さんに近づきすぎですわ!!」シャーッ!

提督「……ありゃ、お前んとこの日向か」

W大佐「そうなんだが……」

ヴァージニア「先ほどから最上に絡んでいる。三隈がいい顔をしていないようだぞ」

レイラ「こちらの日向とはだいぶ雰囲気が違いますわね」

提督「ヴァージニアにレイラか? お前たちがわざわざこっちに足を運ぶなんて珍しいな」

レイラ「たまにはこうやって一緒にティータイムを楽しもうかと思いまして」

ヴァージニア「私は、私の前に跪かなかった者たちの顔を見に来ただけだ」

W熊野「ふふん、このわたくしに目をつけるなんて、メディウムにもなかなか見る目がある御仁がいるようですわね」

ヴァージニア「調子に乗るな、未熟者め」

W鈴谷「もー、張り合ってる場合じゃないっしょ? ほら、ケーキおいしいよー?」パク

ヴァージニア「……」

ヴァージニア(ふむ……先程から観察しているが、この鈴谷とかいう娘……)

ヴァージニア(口にものを含んでいる間は決して口を開かず、ケーキをフォークで切るときも一切物音を立てていない)

ヴァージニア(ティーカップを口へ運ぶしぐさも、飲んだ後にティーカップの縁を指で拭うしぐさも、気品を漂わせている……!)
776 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:13:47.24 ID:ldf42oh6o

ヴァージニア(最上と三隈も育ちの良さが窺い知れたが、熊野という娘ともども様になっているではないか……面白い者どもだ)

W熊野「ちょっとあなた。さっきから、何をじろじろ見てますの?」

ヴァージニア「……なるほど。我らの出会いは、偶然ではなかったということか……」フンゾリ

W熊野「は?」

ヴァージニア「貴様らもいつか私の前に跪かせてやろう!」ズビシィ!

W鈴谷「え!? なになに、どういうこと!?」

レイラ「ご安心を。彼女があなたたちのことを一目置いたという意味ですよ」ニコッ

W熊野「ふ〜ん……そういうことですの。悪い気はいたしませんわね」フフン

ヴァージニア「レイラ。勝手な解釈をするな」

レイラ「あら、間違ってましたか? ウフフ」

ヴァージニア「それより貴様はあの猫娘の相手をしていたらどうだ。あれはシルヴィアを魚に見立てて追い掛け回していただろう」

レイラ「ああ、それでしたら、彼女の妹君にお相手していただいていますわ」

ヴァージニア「なに?」

北上「うーりうり、猫じゃらしだよー」ミョインミョイン

W多摩「多摩は! 猫じゃ! ないにゃ! じゃらすな! ってばァ!」シャッ! シャッ!

提督「猫じゃねえか……」
777 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:14:32.00 ID:ldf42oh6o

W大佐「多摩はなにをしてるんだ」ガシッ

W多摩「うにゃあ……」エリクビツカマレ

北上「あ、提督きてたんだー。お疲れ様」ヒラヒラ

H大井「北上さん? こちらの方は……」

北上「んー、この人があたしらの提督だよー。魔神様っても呼ばれてるけど」

H大井「この人が……」

北上「提督、紹介するねえ。H大将の秘書艦、大井っちだよぉ」

H大井「重雷装巡洋艦、大井です。H大将の秘書艦を務めております」ペコリ

提督「おう。お前が北上の姉妹艦か」

北上「ついでに言うと、提督がこの前会食した球磨姉や、城塞鎮守府で会った木曾もうちらの姉妹だよー」

W多摩「多摩もそうだにゃ」

提督「……なんつうか、一癖ある奴ばっかりだな」

北上「ありゃ、意外と反応薄くない?」

提督「まあ、あのメディウム連中を見てりゃあな?」チラッ

北上「あー……」

レイラ「あら、どうしてこちらに視線が?」
778 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:15:31.54 ID:ldf42oh6o

ヴァージニア「あるじよ、どこを見ている?」

W鈴谷「無理もないよー、実際、レイラちゃんの見た目は派手っ派手だよねー?」

ヴァージニア「私が煌びやかではないと申すか!」ガタッ

提督「ヴァージニア、お前、面倒臭えから座ってろ……」ハァ

ヴァージニア「あきれたようにため息をつくな」グヌヌ…

北上「まあまあそれよりさ、大井っちのところの、H大将の艦娘も来てるから、ちょっと対応してあげてよ」

H大井「こちらです」

摩耶「お、やっと来やがったか」

提督「摩耶? 鳥海もいるのか」

鳥海「はい。こちらにいるのが高雄型の1番艦、2番艦にあたる、高雄姉さんと愛宕姉さんですが……」

H高雄「」ブルブル

H愛宕「」ビクビク

提督「……なんか、あからさまに怯えられてねえか?」

摩耶「メディウムに相当怖い目に遭わされたらしくて、ずっとこんな調子なんだよ」

提督「ん? 2人だけか?」
779 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:16:16.51 ID:ldf42oh6o

H大井「あの場には6名の艦娘を出撃させていただきましたが、そのうち金剛型の2人は収拾がつかなくなるほど騒々しくなるので欠席に」

H大井「長門型の2人……長門は放っておくと駆逐艦を口説きだすので欠席、陸奥はその長門を見張るため欠席としました」

H大井「H大将が同席すればおとなしくはなるのですが、今日は外せない用事があるので、私が代行として参上した次第です……」ハァ…

提督「……苦労してんだな」タラリ

H大井「とにかく、こちらの2人も私たちの艦隊の主力ですので、どうにか立ち直って欲しいという期待も込めて連れてきたんですが」

提督「うちのメディウムどもは何をやらかしたんだよ、くそが……」

ヒサメ「それなんじゃが、主にサムとジェニーが調子に乗ったようでのう?」カキゴオリシャクシャク

提督「ヴォルテックチェアとデルタホースか……精神的にもダメージでかい奴だな」

メアリーアン「んだ。そのあと、でっけぐなったマリッサに襲われかけてただよ」シャクシャク

提督「でっけぐ? ……ああ、でっかくなったってか。泊地棲姫の力を借りて巨大化してたって言ってた奴だな?」

メアリーアン「んだんだ!」

ヒサメ「戦は終わったのじゃ。そのように怖がらずとも良いというのにのう? ほれ、艦娘にこさえてもらったかき氷じゃ、食わぬかぇ?」

高雄「!」ビクッ

提督「ガタガタ震えてる相手に勧める食い物じゃねえと思うんだが……」
780 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:17:03.76 ID:ldf42oh6o

メアリーアン「ヒサメの好みだがら、しょうがねえだ。おらがあったかい飲み物、用意すっぺが?」

 厨房の扉<チャッ

ビスマルク「かき氷の追加ができたわよー!」

提督「注文に関係なく作ってんじゃねえよ……」アタマオサエ

X中佐「うちのビスマルクがごめんね……」

ビスマルク「あら、あなた、噂の魔神提督ね。私はビスマルク、X中佐艦隊所属の艦娘よ、よーく覚えておくのね!」

提督「ああ……そういや、X中佐の主力は海外艦と潜水艦だったか」

ビスマルク「ええ、そうよ。このかき氷も、つい先日、新しく入った艦娘が作ってくれたんだけど」

ウォースパイト「我が名はQueen Elizabeth Class ! Battleship Warspite ! かき氷作りなら任せて!!」バーン!

X中佐「何やってんのウォースパイト!?」

提督「……何者だ、ありゃ。クイーンエリザベスっつったらイギリスの女王じゃねえか。なんでクイーンがジャパニーズかき氷作ってんだよ」

ビスマルク「私も知らないわよ、そんなこと。突然、あの子が作るって言い出したんだもの」

ヴァージニア「クイーン!? 貴様も女王を名乗る気か!?」ガタガタッ

提督「話が面倒臭くなるからお前はおとなしくしてろ」

ヴァージニア「これが口を出さずにいられるか! あるじは下がっておれ!」

提督「……」ムゴンデアイアンクロー

ヴァージニア「うごっ!? ぶ、無礼者、なにを……あっ、ちょ、やめっ、いだだだだだ!?」メキメキメキ
781 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:17:46.43 ID:ldf42oh6o

W大佐「容赦がなさすぎる」タラリ

阿武隈「あれを衣笠さんにやろうとしてたんですか……」

ヒサメ「ヴァージニアの奴め、落ち着かせ役のサムがこの場におらぬせいで我儘三昧じゃな」

メアリーアン「暴君だっぺよー」

ヒサメ「まあ、じゃからと言ってサムの奴めを放逐すれば、誰彼構わず椅子に電気を流し始めるからのう」

メアリーアン「暴君だっぺな!」ウンウン

摩耶「どっちみち駄目なんじゃねえか!!」

提督「このカオスな状況で、何やったらいいんだよ……摩耶、鳥海、なんかいい方法あんのか?」

鳥海「そうですね、とりあえず司令官さんがお優しいところを見せて、メディウム恐怖症を克服できるよう……」

提督「そりゃ無理だな」

摩耶「諦めんの早すぎだろ!」

提督「そんなこと言ってもなあ。俺が優しくににこにこへらへらしてたら、薄気味悪いと思わねえか?」

摩耶「……それもそうだな?」

鳥海「摩耶!?」
782 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:18:31.61 ID:ldf42oh6o

提督「俺からは、無理に島に近づかなくていいぞ、ってレベルの話しかできねえと思うんだが……なあ大井、ちょっと教えてくれ」

H大井「はい? なんでしょう」

提督「H大将は、今後も継続して俺たちと接触する気なのか?」

H大井「今後、深海勢力との折衝を行うのは、X中佐やF提督が中心になると、私は認識しています」

H大井「なので、もし関わるにしても、私たちは他艦隊のバックアップに回るでしょうね」

H大井「もちろん、H大将や北上さんがこちらに用があるというのなら話は別ですが……」

H大井「H大将が個人的にあなたがたとお付き合いしたいかどうかは、私にはわかりません」

提督「んー……だとしたら、この場で無理にメディウムたちと和解というか、克服しなくてもいいんじゃねえか?」

H高雄「!」

H愛宕「!」

提督「摩耶たちが姉を立ち直らせたいというのはわかるが、落ち着くまでは距離を取ったほうがいいこともある」

提督「H大将たちの都合が許す限りは、俺たちと接触しないほうが、かえって気が楽になって回復も早まると思うんだが」

H大井「……かもしれませんね」

提督「とりあえず俺は、こっちに敵意を示さない限り、これ以上危害を加える気はないし」

提督「島に来るときに北上たちがいてくれりゃあ、攻撃はしないとも決めたからな」
783 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:19:16.81 ID:ldf42oh6o

H大井「H大将から、罠の化身を束ねる魔神と聞いていたから警戒していたのだけれど……信じていいんですね?」

提督「そういう約束を守らなきゃ、俺たちの安全も担保してもらえないだろ。せいぜいお前たちに信じてもらえるように動くさ」

H大井「……承知しました。良く取り計らいましょう」

提督「ああ、よろしく頼むぜ」

ヒサメ「なんじゃ、もう話は仕舞いか?」

提督「今のところはな」

北上「慌てて解決する必要もなさそうだしね〜」

ヒサメ「それはつまらんのう。折角の機会じゃ、そこな猫娘のように一悶着あっても良いでは……」

 ベシッ

ヒサメ「あいた!?」

初春「まったく、折角まとまりかけておったところを引っ掻き回してどうするんじゃ!」

ヒサメ「いたた……初春め、何をする? ほんの冗談じゃろう、本気にするでない」アタマサスリ

初春「メディウムならやりかねん。というか、ヒサメこそ調子に乗っておるのではないか?」

初春「炎を操るメディウムたちが遠慮して船内に入ってこないことをいいことに、のう?」ズイ

ヒサメ「さあて、どうだかのう?」プイス
784 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:20:16.99 ID:ldf42oh6o

提督「? なんで遠慮してんだ?」

初春「火災報知機があるじゃろう? ウーナのように松明を掲げておっては一発じゃ」

提督「ああ……そういうことか。下手すりゃスプリンクラーでびしょ濡れだもんな」

メアリーアン「濡れるのも勘弁だべ。おらの防寒具が水吸ったらば、重でくて動かんにぇぐなっちまうだあ」

ウォースパイト「……ねえビスマルク? 彼女、日本語を話しているのよね? フランス語ではないわよね?」ヒソヒソ

ビスマルク「訛りがすごいだけよ。私もよく聞き取れないくらいだけど」

ウォースパイト「Hmm... 興味深いわ。ねえ、彼女の罠がどんなものか、見せてもらってもいいかしら」

提督「やるなら外でな。こんな狭いところで雪玉召喚したら、軒並み巻き込んで収拾がつかなくなるぞ」

ビスマルク「雪玉?」

メアリーアン「んだ、おらあスノーボールのメディウムだぁ。でっけえ雪玉呼び出して、みんな雪さ埋めて転がしちまうだよ」

メアリーアン「んでば、おらだづ、魔神様ぁ守るため、こっちの2人と戦うごとになったんだけども……」

メアリーアン「せいぜい驚かして、逃げてもらうか、ちょっと動けなぐなってもらうか、そのっくらいにしたがったんだよぉ」

H高雄「あ……」

メアリーアン「おっかねえ目に遭わせちまって、ほんとにごめんなあ」ペコリ

H愛宕「え、ええ……」

ヒサメ「敵対してない艦娘とは仲良くしろと、こやつが言うからのう。まっこと、甘い男じゃ」ウンウン
785 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:21:15.74 ID:ldf42oh6o

ツバキ「親分さん、そろそろこちらにもご挨拶願えやせんでしょうか」

提督「ん? ああ……こっちには武蔵がいるのか?」

X中佐「僕の叔父さん、海軍大将の艦娘たちだね」

T武蔵「……貴様が提督か。ツノが生えたと聞いていたが……」

T霧島「見た目は普通の男性ですね?」

提督「ツノ……ああ、そういやいつの間にかどっかに行っちまったな」

T霧島「生えていたことは間違いないのですか?」

提督「ああ。意図して生やしたつもりはないが……」

T清霜「もしかして出し入れできるの!?」

T武蔵「こら、清霜!」

提督「出し入れ……できるかもしれねえな。まあ、また生えてくるようなことはないようにしたいもんだが」

T霧島「それはどういう意味です?」

提督「ツノが生えた、つまり俺が魔神に覚醒したのは、うちの艦娘たちや、長く一緒にいた妖精が人間どもに殺された怒りからだ」

提督「あの島の海底火山が噴火したのも、俺が覚醒したからだって認識してる」

T霧島「……そういうことですか」
786 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:22:01.65 ID:ldf42oh6o

T武蔵「阿武隈、お前たちは確か島に乗り込んで提督と会ったと聞いているが、今の話は本当なのか?」

阿武隈「……提督の艦娘たちが、K大佐たちに襲われたのは事実です」

提督「そういやお前もあいつらに両脚撃たれてたよな? 大丈夫なのか?」

阿武隈「え? あ、はい! それは大丈夫です!」

提督「そうか、ならいい。治療できなくて痕が残ったら最悪だ。うちの艦娘に、入渠させてもらえず傷が消えなくなった奴がいたからな」

阿武隈「うえぇ……」

T妙高「少尉は、そういった過酷な状況にあった艦娘の保護に、奔走されていたのですね?」

提督「さすがに奔走は過大評価だ。俺はあの島に流れ着いてきた艦娘を保護してきただけだ」

提督「その中でも、体に傷が残るほどひどい目に遭ったのはわずかだが……まあ、まともじゃねえ扱いを受けてきた艦娘ばかりだったな」

T武蔵「貴様の艦隊にも武蔵がいると聞いているが、そいつもひどい目に遭ったのか?」

提督「いや、うちの武蔵は建造艦だ。苦労させてはいるが、ひどい目には遭わせてないつもりだぞ? 多分」

曙「多分、って……アンタは朧じゃないでしょ」

提督「まあ、それよりそっちの2人のほうが」チラリ

T羽黒「ひっ!」ビクッ

T初風「ひっ!」ビクッ

提督「……マジで重症そうだな」
787 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:22:46.74 ID:ldf42oh6o

T妙高「そうですね……ふたりとも、提督に失礼ですよ?」

T羽黒「わわ、わ、わかってます、わかってますけど……」ヒシッ

T初風「ど、どうしても、その……」ヒシッ

提督「さっきの2人といい……なにがあったんだ、あの2人は」

ナンシー「それなんだけどぉ」ヒョコッ

ナンシー「このふたり、リサーナとルイゼットがお相手したみたいなの!」

提督「……てことは、サーキュラーソーとギロチンか? んじゃトラウマになっても仕方ねえな」

T清霜「あ! トゲトゲ天井のお姉さんだ!」

ナンシー「ノン・ノン! あたしはフォールニードル! の、ナンシーちゃんだよー!」

T武蔵「……なんとも軽いな」

ナンシー「それ、マスターのところの武蔵にも言われちゃったんだよねー。ねえマスター、あたしってそんなに軽いかな?」

提督「ノリは軽いと思われるかもしれねえな」

提督「けど、俺が辛気臭えからってのもあるが、お前みたいにポジティブな奴がいると雰囲気良くなるから嫌いじゃねえぞ?」

ナンシー「!」
788 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:23:32.40 ID:ldf42oh6o

提督「むしろ、場を弁えていれば長所だと思ってるが、お前は不満か?」

ナンシー「ううん、そんなことないよ! マスター、長所だって言ってくれるんだ! 嬉しー!」ダキツキー

T武蔵「ふぅむ……まあ、一理あるか」

提督「必要以上に剣呑な雰囲気にしなくてもいいだろ。少なくともこの場はナンシーくらいのノリで話せる奴がいたほうがいい」

ツバキ「せやったら、うちも少し明るく振舞ったほうがええんやろか」

T清霜「そっちのお姉さんは、今のまんまでいいと思うよー? 私はよくわかんないけど、武蔵さんと霧島さんが盛り上がってたもん」

T武蔵「き、清霜!?」ワタワタ

T霧島「その話は内密に!」アセアセ

ツバキ「……隠す意味が、ようけわかりゃんせんな?」クビカシゲ

X中佐(やっぱり任侠物が好きなんだ……)

提督「とにかくだ。そもそも俺はさっきからずっと言ってんだが、お前らは俺たちに謝るような立場にないと思ってる」

提督「落ち度があるとすりゃあ、J少将の企みそのものと、そいつの本性を見抜けなかった大将たちだろうよ」

提督「そっちの2人のケアは必要だが、それ以外は、お互い大変だったな、で済ませてしまいたい」

提督「もちろん、お前らが大将の指示に背いて、独断で俺たちを攻撃したって言うなら話は別だが、そうじゃねえよな?」

T武蔵「ああ。貴様たちが深海棲艦との共存を目指していたことを知っていたら、我々は協力を申し出ていたはずだ」
789 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:24:17.77 ID:ldf42oh6o

ツバキ「あの人間に、そのお役目が務まりますやろか?」

T霧島「私たちの提督は、いささか猪突猛進なきらいがありますので、実際の交渉については私たちが受け持つつもりでいました」

T武蔵「それか、それこそX中佐にお願いしなければならないかと……」

ツバキ「そういうんとちゃいます。あの人間、うちの親分さんが覚醒したときに腰を抜かしはったんどす」

提督「ツノが生えたの見て、ビビッて俺から逃げようとしてたよな」

T武蔵「それはいま初めて聞いたんだが……」

ツバキ「ついでに言うと、スパイクボールに巻き込まれそうになって気ぃやってもうてましたな?」

T妙高「え? H大将からは、K大佐たちに気絶させられたと聞いていたんですが……」

提督「H大将が気を利かせてくれたんだろうな……」

ナンシー「ぶっちゃけ見栄っ張りだよね、あの人間!」

H武蔵「いや、まあ、ある程度はわかっていたつもりだがな。割と後先考えずに理想論に走り、ゴリ押しで物事を進めるのが常だというのは」

H霧島「悪いアプローチではないんですよね。手段を選ばず目的を果たすと言うのは、君主論そのものですから」

H妙高「毎回、その後始末が大変ですけれど、うまくいっていたからこそ苦にしなかったというのもありますね」

X中佐「それで僕たちが呼び出されることも、たまにあったんだよね」トオイメ

H清霜「たまに?」クビカシゲ
790 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:25:16.52 ID:ldf42oh6o

ナンシー「こっちのおチビちゃんの反応からすると、常態化してるみたいよー?」

提督「やれやれ……それで俺を部下にしようと息巻いてたのかよ。こき使う気満々じゃねえか、くそが」

H妙高「ちなみに、提督は交渉の場で、私たちの提督……大将の部下になるおつもりはありましたか?」

提督「くそっくらえだ、冗談じゃねえ」

H妙高「……」

ツバキ「ま、当然ですやろなあ」

H武蔵「妙高、この答えは予想できていただろう。なんでそんなことを訊いたんだ……」

H妙高「いえ、もし提督が深海棲艦と共存する気なら、海軍に協力を仰いでいたのではないかと……」

提督「仰がねえよ、むしろ追っ払ってる。俺は人間を信用してねえ」

H武蔵「……」

H霧島「……」

提督「なんでそんな顔してんだよ。うちの艦娘を苦しめていたのは他でもない人間だぞ?」

提督「俺が連中を利用することはあっても、俺が連中に協力したいなんて、これっぽっちも思ってねえよ」

W大佐「つくづく、彼とあんな取引ができたのが奇跡のようだな」

X中佐「まあね……」
791 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:26:01.45 ID:ldf42oh6o

提督「そりゃお前が島を譲ると言ったから、その対価を返そうとしただけだ」

X中佐「……!」

提督「お前が裏切らねえ限りは、俺だってそう務めるつもりだ。お前は珍しく、艦娘に慕われてるみたいだからな」

提督「できれば、早いうちにあの場所を使わなくても深海棲艦と話し合えるようになって欲しいもんだが」

X中佐「……ありがとう」

ビスマルク「X提督? あなたはこっちの提督の信頼を得たみたいね? あなたの艦娘として鼻が高いわ」ニコニコ

ウォースパイト「お祝いにかき氷を作りますね!」

T武蔵「ちょっと待て、その手に持っているのはおろし金じゃないか」

ウォースパイト「ええ。これで氷を粉末にしているの。変かしら?」

T武蔵「普通ではないな……」タラリ

提督「まあ、削り氷(けずりひ)には違いねえか」タラリ



 * おまけ *

X中佐「そういえば紹介してなかったね、僕の秘書艦の祥鳳だ」

祥鳳「よろしくお願いしますね!」

提督「おう」

セレスティア「……なるほど、確かにツバキにに似ているかもしれませんね」

曙「……」

ツバキ「?」
792 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2023/02/05(日) 21:30:27.28 ID:ldf42oh6o
今回はここまで。
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/06(月) 08:07:49.78 ID:7qacf8550

摺り下ろせれば氷でも良いのか姫様ww
794 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:22:38.88 ID:AXFSIrLto
>793
声帯の妖精さんネタとしては、もはや鉄板ですねw

では続きです。
795 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:23:20.11 ID:AXFSIrLto

 * 1週間後 *

 * 墓場島 新埠頭倉庫内 仮設休憩スペース *

提督「順調だな」ペラリ

大和「はい。順調ですね」ニコニコ

提督「タチアナから渡されたダイヤの原石はとんでもねえ値段で売れた」

大和「木材購入や技師を雇うのに、十分な資金になりましたね」

提督「広い工廠、最新の入渠ドック3基、綺麗で大きな風呂、その電力を賄える深海謹製の地熱発電施設に、海軍の変電設備」

大和「海軍の紹介で島に来た技師たちが、地熱発電施設を調べさせてほしいと目を輝かせていましたね」

提督「どういう仕組みか知らないが、相当画期的だったらしいな?」

大和「応用できたら国内でも展開したいと言ってました。そのおかげか変電施設も短納期ながら不備のないよう相当入念にチェックしてましたね」

提督「食堂もきれいになったし、厨房は保冷庫も完備。外には新しいビニールハウスも新設して新しい土も入れたと」

大和「飲用水の確保は、島への来訪者に対しても必要です。水の濾過施設と浄化槽は深海棲艦たちが驚いていましたね」

提督「演劇もできそうなステージ付きのホールも、食堂とは別の棟に作ってもらったから、騒音の問題もなくなった」

大和「那珂さんが大喜びで駆け回ってましたよ。まるで体操選手の床の演技みたいに」

提督「ステージ上でバク宙決めてたもんな。あいつのアイドルの方向性、まるで一昔前の男性アイドルだぞ」
796 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:24:04.15 ID:AXFSIrLto

大和「なのに歌で特にお上手なのはバラード系ですから……微妙に?み合わないのが残念ですね」

提督「まったくだ……あとは、手ごろな広さの執務室と通信室と資料室。会議室と客間と休憩室も揃えられたし……」

大和「人型ではない深海棲艦が行き来できるよう、水路も新たに敷設。館内の適度な広さと複雑さは、メディウムたちからの評判も上々です」

提督「集積地棲姫は北の洞窟があった岩場に居を構えるらしいな?」

大和「正確には洞窟があった場所から少し鎮守府寄りの場所になりますね。彼女以外にも戦禍を逃れたい深海棲艦がそこに集まるようです」

提督「西の林も燃えてなくなったことで、鎮守府の近くの住居スペースも十二分に確保できたと。近く植林もするって話だな?」

大和「はい。そして離れに、一回り大きくなった特注のベッドが鎮座する提督のお屋敷も……」ポ

提督「そこはどうしてそうなった」アタマカカエ

大和「それはもちろん、提督と同衾できる機会が増えるようにと。バスルームも完備しましたし」ニコニコ

提督「お前ら毎日泊まる前提かよ」

大和「宿泊日程に関しては鋭意調整中です。ちゃんと調整しませんと、ほら」ユビサシ

軽巡棲姫「……提督……」ギュゥ…

大和「軽巡棲姫さんも提督の腰に抱き着いたまま離れませんので、どこかで彼女の不安も払拭してあげないといけませんよ?」

提督「ったく……しゃあねえな」ナデナデ

軽巡棲姫「アゥ……」ウットリ
797 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:24:50.47 ID:AXFSIrLto

大和「ところで提督? 先日、またメディウムの魔力槽に入ったと伺ったんですが……」

提督「ああ。今回はルミナに見てもらいながら入ったんだが……」

大和(見てもらいながら!?)

提督「なんとなく、感覚が鋭くなったような気がするっちゃあするんだよな。身体そのものはなんともねえんだが」

大和「感覚が、ですか……どのような感じなんですか?」

提督「ん−、人の気配? ……を感じるのが、なんとなく敏感になったっていうか……なんて表現したらいいんだ?」

ルミナ「やあやあ、魔神君! こんなところにいたんだね!」

提督「よう、何かわかったのか」

ルミナ「えーとねえ、この文献の……おそらくこれとこれだと思うんだけど。ちょっと実験したくてね?」

提督「実験?」

ルミナ「そう。魔神君は魔神として覚醒してそれなりに経つわけだけど、魂に関わる部分はまだ未覚醒でね」

ルミナ「おそらく今回、魔力槽に入ったおかげで、魔神としての感覚が戻りつつあると思うんだ」

提督「そういうもんか?」
798 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:25:35.14 ID:AXFSIrLto

ルミナ「少なくとも、感覚が鋭敏になったと聞いたから、この辺の能力が使えるかを試したいわけだよ……まずはこれがいいかな?」ペラリ

提督「何をするといいんだ?」

ルミナ「そうだねえ……それじゃあ、大和君をじっと見てごらん?」

大和「!?」

提督「? 見るだけでいいのか?」

ルミナ「そうそう」

提督「お前みたいに目からレーザー出したりしないだろうな?」

ルミナ「今はそこまでできないだろうから大丈夫だよ」

提督「今は、ってお前……」

ルミナ「私をむしゃむしゃと食べるなりして魔神君と一体化すれば、できると思っているよ?」

提督「そういう意味かよ……」

ルミナ「一体化する方法としてはもっと別の方法でもいいけどね」ニヒヒ

提督「とりあえず、大和を見ていればいいのか?」ジッ

大和「……」ドキドキ
799 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:26:20.73 ID:AXFSIrLto

ルミナ「そうそう。それで、見る位置というか眼の焦点を、大和君の『奥』というか『底』に合わせるような感じで、意識を集中させてごらん?」

提督「なんだそりゃ……んん?」

大和「て、提督? どうなさったんですか?」

提督「なんか、文字とか記号が見えてきた……なんか、上からの矢印にバツ印がついてる絵というか、マーク? が見えるぞ」

大和「えええ?」

ルミナ「お、見えてきたかい? その能力が『魔神の目』だね。見た相手の名前や能力、通用しない罠の種類を見抜く力だよ」

ルミナ「今の話を聞く限り、多分、大和君には上から降ってくるタイプの罠が通用しないということだね」

大和「た、確かに、ナンシーさんのフォールニードルを傘で受けたことはありますが……」

提督(なんか、プロフィールみたいな文章まで読めちまうぞ……人の秘密を覗き見しているみたいで、なんか嫌だな)

ルミナ「ほら魔神君、大和君だけじゃなく、私も見てくれたまえ」

提督「ん……お前は矢みたいなマークにバツ印がついてるな」

ルミナ「私の場合は飛んでくるタイプの罠が通用しないってことだね」

提督「体力っぽい数字も見えるな。大和と比べると低いのは、まあ、しょうがねえのか」

ルミナ「おやおや、そこまで見えるのか。うん、これなら問題なさそうだ」
800 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:27:05.65 ID:AXFSIrLto

ルミナ「ちなみにニコ君もその能力を備えていて、射程も長いんだよ。意識すればこの島に入った瞬間に見えるくらいにね」

提督「マジか……まるで千里眼だな?」

ルミナ「慣れれば魔神君も同じくらいの能力を備えられるはずさ。ここまでできるんならもう一つ試してみようか」

ルミナ「そこの軽巡棲姫君から『黒い気配』を『手から吸いだして』ごらんよ?」

軽巡棲姫「?」

大和「は?」

提督「なんだそりゃ……?」

ルミナ「魂を視ることができたから、第二段階として今度は触れる練習だ。軽巡棲姫君の頭に手を置いたまま、意識を集中させてごらん?」

提督「このままでか……?」ナデ

軽巡棲姫「アァ……」ウットリ

ルミナ「うん。目を閉じて、集中して……」

提督「……」

大和「……」

提督「黒い気配……これか?」
801 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:27:50.07 ID:AXFSIrLto

ルミナ「それを掴んで、引っ張り出すことはできるかい?」

提督「……」

 ズ…

軽巡棲姫「ア……ゥ!?」ビクッ

提督「……これ、吸えてるのか?」

ルミナ「大和君、軽巡棲姫君から黒い感じが抜けてきてないかな?」

大和「え? ええ、なんというか、少し血色が良くなったというか、雰囲気が神通さんに近く……あ、あら?」

提督「どうした?」

大和「あ、あの、少し透けて見えるんですけど……?」

ルミナ「え!? ま、魔神君、吸いすぎ!! 吸いすぎだよ!! そのまま吸いすぎたら軽巡棲姫君が消えてしまうよ!?」

提督「なに!? それを早く言え!!」

ルミナ「ほら、早く戻して! 今吸った分を吐き出すように!」

提督「わかったから焦らせんな!」

軽巡棲姫「アヒ……ハウ……!」ビクッビクッ

大和「だ、大丈夫なの……?」タラリ
802 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:28:35.49 ID:AXFSIrLto

 *

 (眠っている軽巡棲姫を提督が膝枕している)

軽巡棲姫「……」スヤァ…

提督「……一時はどうなることかと思ったぜ」ナデナデ

ルミナ「そうか、軽巡棲姫君は、思ったよりも深海棲艦の成分が濃かったというわけだね……ふむふむ」

提督「つうか、なんで吸い出せなんて言ったんだよ」

ルミナ「軽巡棲姫君は神通君だったかな? 彼女の面影を強く残していたから、深海棲艦の成分を吸い出しても形が残るかと思ったんだよ」

ルミナ「うまくすれば神通君に変化しないかを期待していたんだけどね……なかなかうまくいかないね」

大和「……彼女の中に、深海棲艦ではない部分があると?」

ルミナ「うん、魔神君と一緒に過ごしていれば、真っ黒ではないと思ったんだ」

提督「俺と一緒だと真っ黒じゃなくなるのか?」

ルミナ「私が黒い魂と呼んでいるのは、憎悪や悲嘆などの負の感情を抱えた魂のことさ。深海棲艦はそういう負の感情が強くてね」

ルミナ「その一方で、嬉しかったり楽しかったりすると、魂の色合いが明るくなるんだよ」

ルミナ「軽巡棲姫君は君と一緒だと本当に嬉しそうだから、いけるかと思ったんだけど……まあ、彼女が深海棲艦である以上、仕方ないかな?」

提督「軽巡棲姫は、人間に取っ捕まって弾丸なんかにされちまったからな。そういう意味じゃあ真っ黒でも仕方ねえさ」ナデ

大和「そう……ですね」
803 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:29:20.61 ID:AXFSIrLto

ルミナ「とにかく、これで魔神君も、先日ニコ君が余所の鎮守府の拷問部屋でやってみせた魂の回収ができるようになってるはずだね」

提督「……いいんだか悪いんだか。これじゃ迂闊にお前らに触れなくなるんじゃねえか?」

ルミナ「いやいや、そこまで尻込みすることはないと思うよ? ニコ君だってそれなりに集中しないと回収できないんだから」

提督「ならいいけどよ……」

大和「あの、提督? お体のほうは大丈夫ですか?」

提督「ん?」

大和「良く見知っている相手とはいえ、仮にも深海棲艦の魂を取り込むなんて、お体の負担になっていないか心配です」

提督「言われてみれば……今んとこなんともねえな? もともと俺の魂の半分が深海棲艦だから無事だってのもあると思うんだが」

ルミナ「そこは私の見つけたこの文献によるとだね」ペラリ

ルミナ「魔神君は、魂を蓄えて置ける巨大な貯蔵庫……タンクを持っているようなものなんだ。今ここにある肉体とは別の器としてね」

ルミナ「軽巡棲姫の魂もそちらへ入ったからこそ、魔神君の体に負担がかかっていない、と考えられる」

大和「そうなんですか……?」

ルミナ「うん。ニコ君も同じように魂のタンクを持っていて、自由に出し入れできるんだ。君もその力に目覚めたってことになるね」

提督「何に使うんだ、その力は」

ルミナ「私たちがメディウムとして力を使ったり、体を修復するためには魔力が必要なんだ」
804 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:30:06.99 ID:AXFSIrLto

ルミナ「その魔力は、私たちが仕留めた死者の魂から作られる。これまでは、ニコ君が管理していたわけだけども……」

提督「……今度は俺がそれをやる番だと?」

ルミナ「嫌だというなら、私たちへの魔力の供給はこれまでと同じくニコ君に一任となるだろうね」

ルミナ「ただ、罠の運用に関しては、魔神君の使い方がなかなか面白いと私個人としては感じていてね?」

ルミナ「次の機会にはぜひ、君の指示と力の下で働いてみたいと思っているよ」ニマー

提督「んー……」

ルミナ「ちなみにだけど、ニコ君は、魔神君の能力をサポートできる力も持っているはずなんだ」

ルミナ「例えば、いま君がどのくらい魂を保有しているかを可視化できるようにしたり」

ルミナ「その魂を、君の代わりに私たちの能力を発動させる魔力に変換することができたりするはずだよ」

提督「へえ……」

ルミナ「もちろん、それらの力を魔神君自身でコントロールできれば、それが一番いいんだけれど」

ルミナ「コントロールが危ういうちは、ニコ君に管理してもらいながら練習したほうがいいね」

提督「なるほど……ただまあ、今みたいに身内の魂を吸い取る能力なんて、そうそう使う必要がなさそうだな」

ルミナ「今は、こういうことができる、という知識だけ備えていればいいよ。必要になれば、いつでも使ってくれて構わないからね」
805 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:30:50.26 ID:AXFSIrLto

提督「ところで、魂の明るさの差ってのは、そのままポジティブな感情とネガティブな感情に反映されるって考えていいのか?」

ルミナ「その認識で良いと思うよ」

提督「もし、あいつらがそういうストレスから解放されて黒より白が濃くなったら、艦娘に変化するのか?」

ルミナ「仮にそうだとしたら、ル級君くらいは艦娘になってもいいと思うんだけどねえ?」クビカシゲ

大和「それはそうですね。鎮守府にいた時はいつも楽しそうににこにこしていましたし」

ルミナ「やっぱり何らかのトリガーが必要なのかな?」ウーン

提督「なんだそのやっぱりってのは」

ルミナ「泊地棲姫君から、深海棲艦が艦娘になるケースもあるらしい、と聞いていてね」

大和「え!? あるんですか!?」

ルミナ「なんでも、艦娘になった深海棲艦というのは、艦娘に撃沈されて海に消えた直後に艦娘になったと言うんだよ」

提督「は? ってことは、あいつらが死なないと変わらないってことか?」

ルミナ「状況的にはそういうことになるんだけど、どうしてそうなるのかの説明もうまくできなくて」

ルミナ「実験しようにも、どうしても轟沈が関わる実験になるからね。魔神君は、そういうのは嫌なんだろう?」

提督「まあな。これじゃ希望者募ったっていないだろうなぁ、沈んで消えてからひっくり返るなんてリスクが高すぎる」
806 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:31:35.33 ID:AXFSIrLto

提督「この話が艦娘も同じだってんなら、あの訓話も最低な話になるぞ」

ルミナ「訓話? というのは?」クビカシゲ

大和「轟沈して戻ってきた艦娘が、深海棲艦になって鎮守府を壊滅させた、というお話です」

大和「それがもとで、轟沈した艦娘をそのまま復帰させてはいけないという決まりができたんですよ」

提督「泊地棲姫の話だと、沈まない限り深海棲艦が艦娘になったりしない、って見解だよな?」

提督「逆も同じだって理屈なら、その訓話のときには、まさしく艦娘をその鎮守府で沈めた、って考えるしかねえじゃねえか」

大和「……やはり、そう考えるべきでしょうか」

提督「戻ってきたときの状況にもよるだろうな。切羽詰まった戦況だったとかで、負傷者をまともに相手してられる状況じゃなかったとか」

提督「戻ってきた奴の性格が最悪だったせいで、まともに看護したくないような状況だったとか、深海で何かあって性格が変わったとか」

提督「最悪、戻ってきた奴は実際には沈んでて最初から深海棲艦が擬態していたとか。でも、そうだったら最初からそうだって説明するか?」

ルミナ「隠す方が不自然だね」

提督「あとは……病み上がりで配慮してもらったのを、贔屓だのずるいだのとぎゃーぎゃー囃し立てるガキみたいなやつにブチ切れたとか?」

大和「……軍に所属するものとしては、あるまじき行為ですね」

提督「いくら軍人でも所詮は感情を持つ生き物だからな。数あるいじめの理由なんて、きっかけそのものは些細なもんだろう」

提督「で、その訓話の場合は理由はわからないにしても、その艦娘が命を落とす事態にまで及んだ、と」
807 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:32:35.22 ID:AXFSIrLto

ルミナ「考えうる限りの最悪の事態が起こった、と言いたいわけだね」

提督「だと思うんだけどなあ。そのくらい極端なことが起こったからこそ鎮守府も壊滅したんだろうしよ」

大和「海軍が公表するにも、あまりに恥ずべき事態だからこその隠蔽、だということですか」

提督「ま、俺の憶測だけどな。これまであの島に流れ着いて誰も深海化しなかったんだから、そうなんじゃねえか、ってだけだけどなぁ」

大和「理屈としては頷けるものだと思います」

大和「艦娘も一時の感情で簡単に深海棲艦になっていたのでは、もっと各地で大事になっているはずでしょうから」

提督「ただまあ、心配は心配なんだよな。深海棲艦にならなくても、深海棲艦みたいな雰囲気漂わせてるのはよろしくねえ」

ルミナ「そんな艦娘がいるのかい?」

提督「山雲がな……あいつ、空母棲姫に衝突されてんだ」

提督「巻き添えというかとばっちりに近いが、攻撃的な深海棲艦に激突されたせいか、ちょっと穏やかじゃねえ空気出すときがあるんだ」

提督「あいつがどのくらい大丈夫なのか、この力を使って診察してみたほうがいいかもしれねえな」

ルミナ「それはいいね!」

大和「そうですね! いいと思います!」

ルミナ「そうだ、さっきの感覚を忘れないうちに、大和君でも診察の練習したらいいんじゃないかな?」

大和「は!? や、大和がですか!?」
808 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:33:20.49 ID:AXFSIrLto

ルミナ「一般的な艦娘のいちサンプルとしても、見ておいたほうがいいと思うよ?」

提督「まあ、そうかもしれねえけど……大和、いいか?」

大和「あのっ、いえ、は、はいっ! どどど、どうぞ!」マエカガミ

提督「んじゃ、頭の上に手をのせるぞ……」メヲトジ

大和「……」ドキドキ

提督「……」

ルミナ「どんな感じかな?」

提督「……色で言うと、白系、だな。光が見える」

大和「!」

提督「光が明るくて、あたたかいっつうか……春と夏の間くらいの日差しみたいだな」

大和「……」セキメン

提督「……まあ、色彩的に黄色やピンク系の色が混ざっていたが、全体的に黒いものはないみたいだな」スッ

大和「そ、そうでしたか! ありがとうございます!」

ルミナ「なるほど……やっぱり健全な艦娘の魂は、相応に綺麗なわけだね?」

提督(奥の方にドロドロした紫色の沼みたいなのが渦巻いてたところがあったが……そこは触れないほうが良さそうだな)
809 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:34:05.57 ID:AXFSIrLto

ルミナ「うーん、やはりこの辺りが艦娘と深海棲艦の差なのかな?」

提督「とりあえず、この調子で山雲も診察してやりゃあいいのはわかったが……」

提督「もしその深海棲艦の成分が強いところが見つかったらどうすんだ? 診察はできても治療ができなきゃ見てもしょうがねえ」

ルミナ「やっぱり実験が必要だね!」パァッ

提督「目を輝かせんな」

大和「あの、例えばですけど、魂の暗い部分だけを提督が吸い取って、他の深海棲艦に移植する、というようなことはできるのでしょうか?」

ルミナ「魂の部分移植!? それもいいかもしれないね!」パァァッ

提督「だから目を輝かせんな」タラリ

ルミナ「いやあ、アイデアとしてはなかなか画期的だよ? 可能かどうかは別としてもね!」

提督「……やる気は起きねえけどな」

ルミナ「そうかい? それは個人的にちょっと残念だなあ」

大和「提督、私も残念というわけではありませんが、できるかどうかのテストくらいは行ったほうがいいかもしれませんよ?」

大和「提督が乗り気でないのは重々承知してるつもりですが、万が一の事態のことを考えますと……」

提督「……状況次第では、嫌だ嫌だで通せる話でもねえってか。仕方ねえな……」
810 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:35:05.28 ID:AXFSIrLto

ルミナ「とりあえず問題は、彼女たちから深海棲艦の要素の分の魂を引き?がして問題ないかどうか、だね」

ルミナ「例えば、その山雲君を構成する魂のうち、深海棲艦の要素が仮に1割だとしても、魂が欠ければ能力が低くなると思う」

ルミナ「それを補うのが、そちらでいう近代化改修だったかな? 艦娘の艤装と魂の力を、ほかの艦娘の魂の力に加えるという儀式だね」

提督「……そんなことやってたのか」

ルミナ「個人的な見解だけど、生まれたばかりの艦娘が本来の力を出せないのは、魂の欠落があるからだと推測しているんだ」

ルミナ「同じ艦娘が複数存在して性格も少し違うのも、大本の魂が分裂しているとか、魂の形が若干変わったからとか……」

提督「分霊化とは違うのか?」

ルミナ「似たようなものじゃないかな。言葉の意味をどう捉えるかだけど、それ自体にあまり違いはない気がするね」

ルミナ「いずれにせよ、なにかを生成するときに、何かが欠けたり不純物が混じったりというのは、往々にしてよくあることだよ」

ルミナ「完全完璧な生物が生まれてこないのと同じようにね」

提督「山雲から深海棲艦の要素を取り出したら、その分だけ艦娘の要素をどうにかして入れてやれ、ってことか」

ルミナ「そうだね。移植なんだから、引いたら引いた分だけ足してあげないと」

大和「欠けた魂は自然に元に戻らないんですか?」

ルミナ「実験してみないと正確なところは言えないけど、戻らないんじゃないかなあ?」

ルミナ「自然治癒とは理屈が違うし、魂が勝手に増えて補完するとは思えないね」
811 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:35:50.50 ID:AXFSIrLto

ルミナ「むしろ、生傷を治療せず放置したときみたいに、欠けたところからその辺の雑霊を取り込んで悪化する可能性もあるかもだよ?」

提督「……それ、見たことあるな。その辺の余計な魂取り込んで、悪霊みたいになったやつ」

大和「え」

ルミナ「だとすれば、放置しておくのは得策じゃないね。もっとも、強い思念を持つ魂は、たとえ欠けてなくても集まるものらしいけど」

提督「対策考えてやらねえと駄目か……」

ルミナ「まあ、厳密に魂の移植まで必要か、と言われれば、私は必要ないかもと思っているけどね?」

提督「ん? なんでだ?」

ルミナ「あの島の騒動で、君を庇って倒れた電君や吹雪君のことを思い出したまえよ」

提督「……?」

ルミナ「あの場に居合わせたツバキ君たちに聞いたけど、彼女たちは命を落としたにも関わらず、深海化しなかったそうだね?」

ルミナ「深海化した初春君や朧君も、深海棲艦から作られた弾丸を身に受けている間だけ深海化していたそうじゃないか」

大和「そ、そうなんですか?」

提督「あ、ああ……そういえばそうだった」

ルミナ「もし魔神君の心配が正しいとしたら、轟沈を経験している彼女たちも死んだ時点で、完全に深海化していたと思うんだけど?」

提督「……」
812 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:36:35.38 ID:AXFSIrLto

大和「それは……それこそ提督のおかげではないでしょうか?」

ルミナ「心当たりがあるのかな?」

大和「私たち艦娘は……戦争に赴く私たちの願いは、守ること。私たちが守りたいのは、私たちの帰りを待ってくれている、大切な人」

提督「……」

大和「これまで提督は、私たち艦娘のために……私たちの望みのために身を尽くしてくださいました」

大和「私たちは、そんな提督のもとで戦えることが嬉しかった。中には、前の鎮守府の心残りや、そこで抱いた無念を晴らせた艦娘もいます」

大和「そんなことがあったのですから、その時には、彼女たちが深海棲艦になってしまうような恨みが残っていなかったのではないでしょうか」

ルミナ「ふむ……私たちには理解しがたいけど、そういうものなのかな?」

大和「はい。それに、あの子たちは提督を庇って倒れたんですよね。ある意味では本望だったのではないか、と思っていますよ」

大和「かくいう私も、少しだけ羨ましいと思いました。提督はやめろと仰るかもしれませんけれど」フフッ

提督「ああ、やめてくれ。二度と御免だ」ハァ
813 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:37:20.90 ID:AXFSIrLto

ルミナ「ということは、やっぱり艦娘が深海棲艦になる現場か、その逆の現場を掴まないと、そのあたりは証明できなさそうだねえ」

提督「そういうことなら、泊地棲姫に詳しく話を聞きに行くか。軽巡棲姫も少しは話せるとありがたいんだけどな」ナデ

軽巡棲姫「ンフフ……」、ムニャァ…

ルミナ「……寝ながら笑ってるねえ」

大和(羨ましい……)

ルミナ「それにしても、その頭を撫でられる行為と言うのは、そんなに嬉しくなるものなのかな?」

大和「なりますよ?」

提督「即答かよ……」

大和「即答ですね」ニコー

ルミナ「……今度は、魔神君に頭を撫でられることで得られる効能の調査でもしようかな?」

提督「やらなくていいぞ。下手にお前が効果があるなんて結論を出しちまったら、面倒臭えことになりそうだ」

大和「提督の前に行列ができてしまいそうですね」フフッ

提督「ああ。さて、泊地棲姫はどこに行ったか知ってるか?」
814 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:38:38.41 ID:AXFSIrLto
というわけで今回はここまで。

次は深海側に関する動きのお話の予定。
815 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:43:13.49 ID:leJDf/pio
続きです。
816 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:44:34.37 ID:leJDf/pio

 * 島の南岸 *

 (溶岩で覆われた島の南岸に、小型船が座礁している)

提督「なんだこりゃ」

泊地棲姫「密航船ラシイワヨ?」

提督「密航船? この島にか?」

ニコ「人間の気配がプンプンしたからね。そういう船なんじゃないの?」

提督「ニコもこっちに来てたのか。泊地棲姫もそうだが、二人ともこっちにいたのはなんでだ?」

ニコ「ぼくは侵入者の撃退のつもりで来たんだけれど」

泊地棲姫「私ハ、知ッテル気配ヲ感ジタカラヨ。ホラ」ユビサシ

戦艦棲姫「……アラ、艦娘ニ……人間モ住ンデルノネェ……!?」ジロリ

大和「戦艦棲姫……!」

提督「戦艦? また姫級かよ……なあ泊地棲姫、こいつがこの島に来た理由はわかるか?」

泊地棲姫「エエ、ソレナラ……」

ル級「連レテキタワヨ……アラ、提督モ来テタノネ」
817 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:45:18.63 ID:leJDf/pio

集積地棲姫「オ、オマエモ来タノカ……戦艦棲姫」

戦艦棲姫「アア、集積地ッタラ、ココニイタノネ!」パァッ

提督「集積地棲姫、あの深海棲艦はお前の知り合いか?」

集積地棲姫「アア……ナントイウカ、気ニ入ラレタトイウカ……」

戦艦棲姫「泊地棲姫、コノ人間ガ集積地ヲ誑カシタノ……?」ゴゴゴ…

泊地棲姫「ソウジャナイ。集積地棲姫ハ、人間ノ襲撃カラ避難シタクテ、自分カラ、コノ島ヲ訪ネテキタノヨ」

戦艦棲姫「本当デショウネ?」ジトッ

提督「本当だよ。この島は……」


 * 説明中 *


戦艦棲姫「フーン……ツマリ、コノ島ナラ集積地ハ安全ダッテイウノネ?」

提督「取り決めの上ではな。もちろん、そういう約束を守ってくれる人間ばかりだとは微塵も思っちゃいねえ」

提督「どうせこの船も、そういう人間どもの船だってことなんだろ?」

ニコ「そうだと思うよ。武器だって残ってたし、あいつらがきみに攻撃したのは事実だよね?」
818 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:46:07.13 ID:leJDf/pio

戦艦棲姫「ソウネ。効カナイッテイウノニ、コバエミタイニ鬱陶シイカラ、沈メテアゲヨウト思ッタノヨ」

集積地棲姫「トコロデ、コノ船ノ中ニイル人間タチハ、ドウシタンダ? 妙ニ静カダゾ」

ニコ「それなら、ぼくたちが全員始末したよ」

大和「え」

提督「周りに艦娘はいなかったのか?」

ニコ「いなかったよね?」

戦艦棲姫「私ハ見テナイワ」

提督「そうか。ならいいや」

大和「……」アタマカカエ

泊地棲姫「ナンダ、ナニカ文句アルノカ」

大和「いいえ? こういうことが起こると予測出来てはいたけれど……それが実際に起こってしまって嘆いているだけよ」ハァ…

チェルシー(船の中から)「あ、キャプテンだ! おーい、キャプテーン!」フリフリ

イーファ「ご主人様ー!」

提督「うん? なんだ、お前たちもここに来てたのか」
819 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:46:48.84 ID:leJDf/pio

ニコ「人間の始末をしてもらったついでに、船内の荷物も改めさせてもらってたんだ」

チェルシー「そうそう! 見てよこれ!」

提督「つるはし? ……ああ、そういうことか。この船、盗掘目当ての密航船か」

コーネリア「そうみたいだね。船の中には、あたしの槍を括りつけたような機械も転がってたぜ」

提督「なんだ? 残虐系メディウムが多いな?」

コーネリア「あたしは戦いに飢えてるだけだよ」

チェルシー「私は船に乗りたかったんです!」

イーファ「ぼくは、ご主人様のお役に立ちたいな、って……」

提督「……ま、いいけどよ」

戦艦棲姫「ネエ、盗掘ッテ、ドウイウコト?」

提督「ついこの前、この島の北の海底火山が噴火したんだ。この溶岩の中に入ってる鉱石を狙ってきたんだろう」

戦艦棲姫「フーン」
820 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:47:33.12 ID:leJDf/pio

集積地棲姫「提督、コノ船ハドウスルンダ」

提督「ん? うーん、ぼろ船だしな。特に使い道もねえし、妖精に頼んでバラしてもらうか」

集積地棲姫「ソレナラ、私ニ解体サセテクレ」

提督「お前が?」

集積地棲姫「コノ船ニ使ワレテイル鉄ヤ残ッテイル燃料ヲ、引キ取ラセテホシイ」

提督「んー……わかった。じゃあ、任せていいか?」

集積地棲姫「イイノカ!? ヤッタ!」ガッツポ

大和「よろしいんですか?」

提督「戦艦棲姫に喧嘩売った奴らの船だ、その縁者が押収するのは成行き的にも悪くないと思うぜ?」

泊地棲姫「ナンダ、提督ノ決メタコトニ、艦娘ガ文句ヲ言ウノカ」

大和「私は、提督のお立場が悪くならないか心配なだけです」プー

コーネリア「フッ、人間どもの評判を気にしてるのか? そんなもの、犬にでも食わせておけ」

チェルシー「むしろ、もっと恐れを抱いてほしいよね! イフとイケイの念、ってやつをさ!」

イーファ「ぼくは、ご主人様がぼくたちに優しければ、それでいいよ?」

ル級「大和ハ、提督ガ万人ニ好カレルコトヲ望ンデルミタイダケド、提督ガソンナ気ジャナイモノネ」フフッ

大和「私は無暗に提督に敵ができることを疎んでいるだけです!」プクー
821 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:48:18.87 ID:leJDf/pio

提督「ああ、こっちから喧嘩を売るような真似はしねえよ。仕掛けてくる奴は徹底的に叩きのめすってだけだ」

大和「提督はそれでよろしいんでしょうけどぉ……」ムー

ニコ「ぼくは少し大和の気持ちがわかるよ」

チェルシー「えー?」

ニコ「魔神様は、ぼくたちのために人間の前に姿を現して、わざわざ追い払ったり、おびき寄せる役をしてくれたりしてる」

ニコ「そのせいで、魔神様に命の危険が及ぶのは気が気でないし、またあんなことになったら、お姉ちゃんとしては許せないよ?」

ル級「ソウネエ、死ニタガリナトコロハ、私モナントカシテホシイワネ?」

提督「なんだお前ら、寄ってたかって……」

軽巡棲姫「提督……」ヌッ

提督「うおっ!?」

軽巡棲姫「提督、ドコニ行ッテタノォォォ!」ガッシィ!

提督「だああ! お前いきなり後ろに現れて抱き着くな!」

ルミナ「ああ、ごめんごめん魔神君。彼女を介抱してたんだけど、目を覚ました途端に君を探し始めてさあ」

提督「依存症にもほどがあるだろ!?」

戦艦棲姫「……変ワッタ人間ネエ?」

ル級「マアネ〜」ウフフ
822 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:49:03.22 ID:leJDf/pio

 * *

提督「ってことは、艦娘が深海化するところは、誰も見たことないのか」

泊地棲姫「鹵獲シタコトハアッテモ、イタブッテカラ沈メヨウトシタダケダカラネエ。ワザワザ沈メタアト観察ナンカシナイシ」

戦艦棲姫「意図的ニ艦娘ヲ深海棲艦ニシヨウナンテ、考エタコトモナカッタワネ?」

集積地棲姫「ソウダナ。解体シテ資材ニデキナイカト考エタコトハ、アッタケド」

大和「……」

ル級「大和ガ、スゴイ顔シテルワ」

提督「まあ、大和に限らず艦娘には不愉快な話だろうさ」

軽巡棲姫「私ハマダ沈メテナイ」ドヤッ

提督「沈める気はあったんじゃねえか」

軽巡棲姫「ダッテ、アナタヲ撃ッタノヨ!?」

提督「……」

ル級「提督ガ、スゴイ顔シテルワ」

大和「提督? そこで微妙そうな顔をなさらないでください」

ニコ「そうだよ。魔神様のことを思って行動したのなら、むしろ褒めてあげないと」

提督「ニコはともかく大和もそういうこと言うのはどうなんだ」タラリ
823 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:49:50.01 ID:leJDf/pio

ルミナ「ふむ……とにかく、艦娘が深海棲艦になったり、その逆だったりという場面には、誰も遭遇してないということだね」

提督「そうみたいだな。まあ、沈めた相手を見送ることはあっても、見続けたりは普通しねえよな」

大和「そうですね……」

戦艦棲姫「ア、デモ……アイツナラ、沈メタ艦娘ヲ、シツコク観察シテソウジャナイ?」

集積地棲姫「……アア、アイツカ……」

提督「そんな奴がいるのか?」

戦艦棲姫「エエ。オ前タチガ、アイツヲドウ呼ンデルカ知ラナイケド」

集積地棲姫「長イ尻尾ヲ持ツ、戦艦クラスノ深海棲艦ダ。知ッテイルカ?」

提督「もしかして……レ級か?」

大和「レ級!?」

提督「特徴を聞く限りはな。それはいいとして、お前たちはそいつに今の話を確認することはできるか?」

戦艦棲姫「……難シインジャナイカシラ? アイツトハ、会話ガ成リ立ッタ記憶ガ、ナイノヨネ」

提督「そうなのか? じゃあ、訊かなくてもいいな。そこまで急いで調べたい話でもないし」

ルミナ「えー……」

提督「えーじゃねえよ。会話が成り立たないとか、情報収集以前の話じゃねえか」

泊地棲姫「私モ、アイツトハ、マトモナ会話ハデキナイト思ッテイルゾ?」
824 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:50:33.13 ID:leJDf/pio

集積地棲姫「アイツ、戦闘狂ダカラナ。私ハ、アイツガ誰カト喋ッテイルトコロヲ見タコトハナイゾ」

戦艦棲姫「挨拶代ワリニ噛ミ付イテクル個体モイルワヨネ」

コーネリア「へぇ……あたしと気が合いそうじゃないか。一度殺り合ってみたいもんだ」

チェルシー「コーネリアも戦闘狂だからね〜」

提督「それだけに情報収集には不向き、と」

ル級「近ヅクコトスラ危ウイ感ジネ?」

大和「話が通じなさそうですね……」

ルミナ「はぁぁぁ……」ガックリ

提督「そこまでがっかりすんな。気長に次の機会を待ちな」ナデナデ

ルミナ「……そうだね。そうするよ。けど……」

提督「?」

ルミナ「頭をなでられたときの効能は調べられそうだねえ」フフッ

提督「……」

イーファ「……いいなあ……」ボソッ

集積地棲姫「トリアエズ、コノ船ヲ曳航デキナイカ?」

戦艦棲姫「マカセテ!」パァッ

提督「大和、ル級、使って悪いがお前たちも手伝ってやれるか?」

大和「はい、お任せください!」

ル級「アナタノ頼ミナラ仕方ナイワネ」フフッ
825 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:51:18.30 ID:leJDf/pio

 * 一方、本営 *

曽大佐「H大将閣下! あなたともあろうお方が血迷ったのですか!?」

曽大佐「深海棲艦は我らの敵です! 世界中に恐怖と破壊をもたらす災いの権化です!」

曽大佐「人間をやめて深海棲艦を率いるような男と和平を結ぼうなど……深海棲艦の殲滅を誓ったあなたはどこへ消えたのですか!」

H大将「落ち着け。俺自身、まさかこんな身の振り方をするとは思ってもいなかった」

H大将「深海棲艦とは何の話も通じず、ただ人間を攻撃し殺戮する……そういう存在だからこそ、深海棲艦は危険な存在だと認識していた」

H大将「それが覆されたんだ。受け入れがたいだろうが、あの島とあの船の周辺の深海棲艦は攻撃してこない。今はそれが事実だ」

曽大佐「それこそ罠です! 閣下が話し合いをしているその男の下には、罠を模した連中もいるのでしょう!?」

曽大佐「自らが罠だと、そういう看板をぶら下げているというのに、閣下は何故、あの男を信じているのですか!!」

曽大佐「あの男の部下の艦娘に命を救われたことこそ、罠ではないのですか!!」

H大将「……」

曽大佐「目を覚ましてください、閣下! これまで深海棲艦の悪行を……蛮行を、我々は嫌と言うほど見て、味わってきたではありませんか!」

曽大佐「我々の無念をお忘れですか!? 我々の、これまでの犠牲をお忘れですか!!」

H大将「お前こそ少し頭を冷やせ、曽大佐。俺も深海棲艦による蛮行を許すつもりはないし、許したわけでもない」

H大将「だが、これから奴らが起こすかもしれない蛮行を食い止める方法が見えたのなら、それを見過ごすわけにもいかんのだ」
826 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:52:03.48 ID:leJDf/pio

H大将「これ以上の悲劇を繰り返さないために、力なり説得なりで、深海棲艦を抑え込もうとしている。それを今X中佐たちが……」

曽大佐「閣下は我々より、あんな小僧の世迷言を信じるというのですか!」

曽大佐「自分は、最早我慢なりません……! あの島に、忌々しい深海棲艦どもが集まっているのでしょう?」

曽大佐「姫級や鬼級といった連中も、あの島に来ているのでしょう!? 今すぐにも打って出るべきです!!」

H大将「……」

曽大佐「人類の敵となる深海棲艦が、人類を裏切った輩と手を組めば、人類の敵になる以外の未来は見えないはず! 違いますか!」

H大将「……仮にそうだとしても、戦う気のない連中に喧嘩を売れば、新たな遺恨と火種を生むだろう。二度と平和的な解決は……」

曽大佐「そのようなことであれば御心配には及びません。海軍最高の戦力を有する我が艦隊が、一隻残らず殲滅して御覧に入れましょう」

H大将「曽大佐……!」

曽大佐「H大将閣下、これまでのご指導、ありがとうございました。今後の深海棲艦との戦争は自分おに任せください」

H大将「おい、曽大佐!!」

 スタスタ…

H大将「曽大佐……!」
827 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:52:48.24 ID:leJDf/pio

 * 翌日 *

 * 墓場島沖 医療船内 X中佐私室 *

X中佐「……ということで、Wたちが危惧していた通りの事態が発生している」

提督「だから、なんでお前はそうやって俺に告げ口するんだよ。お前、そのうち裏切者扱いされるぞ?」

X中佐「裏切るも何も、僕は最初からこうだよ。深海棲艦と話がしたいって、ずっと主張してきたんだ」

提督「お前……本っ当に、よく今まで生きてこられたな?」

X中佐「……」

提督「大将の身内だからってのもあるんだろうが、そうじゃなきゃ今回の騒ぎでついでに消されてたかもしれねえんだぞ」

X中佐「……君は、本当に言うことに容赦がないね?」

提督「こういうことをオブラートに包んでどうするよ。良薬は口に苦ぇし忠言は耳に逆らうもんだ」

提督「事実、今回の事件で大将2人が殺されかけてる。F提督もそうだった。お前も主張を同じくするなら、もう少し危機感持てってんだよ」

X中佐「……そうかもしれない。けど、それで君たちが知らずに攻撃されたとあっては、僕たちの誠意も伝わらないだろう?」

X中佐「ようやくここまで漕ぎ着けたんだ、怖気づいてはいられないよ。君にとっても他人事ではないんだからね」

提督「……危険は承知の上、ってか? まあ、そこまで覚悟決めてんなら仕方ねえな……」

X中佐「心配してくれているんだね。ありがとう」

提督「俺は面倒を避けたいだけだ。礼を言われる筋合いはねえよ」
828 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:53:33.48 ID:leJDf/pio

提督「それよりもだ、曽大佐ってのはどんな奴なんだ? 深海棲艦に身内を殺されたとか、そういう手合いか?」

X中佐「そこは……そうだね。まあ、志願した大体の提督はそうなんだけど、曽大佐は特に恨みが深いみたいだ」

X中佐「同様にH大将の行動に納得していない提督たちが、曽大佐と一緒に離反する動きもある」

提督「ま、仕方ねえか。派閥の長のいきなりの方向転換だ、ついていけないから独自の派閥を作ろうってのも自然な流れではあるな」

提督「けどよ、そいつらは、どうしてH大将がそういう考えに至ったのか、ちゃんと話し合って納得したうえで別れたのか?」

X中佐「どうだろう? H大将からは、彼らは聞く耳を持たなかったって言ってたけど……」

提督「喧嘩別れっぽいってか。それならそれで好都合だ」

X中佐「……それはどういう意味だい?」

提督「気にすんな。それより今更訊くが、H大将が俺たちの話を聞いて方針を変えてくれたのは、なぜなんだ?」

提督「もともとは深海棲艦と繋がってるであろう俺をしょっ引くために島に来たんだろう?」

X中佐「中将閣下が教えてくれたんだけど、H大将が深海棲艦を撃滅しようと考えたのは、中将と何度も話し合った結果だって聞いてるよ」

X中佐「中将が深海棲艦に足首を触られて以来、その足を悪くして杖が要るようになったことは君も知ってるよね?」

提督「ああ。そういう相手だから、滅ぼすしかないって頭だったんじゃねえのか?」

X中佐「……以前はH大将も、人の姿をしていて言葉も話せるんだから、こちらの言葉も通じるんじゃないかと考えていたそうだ」
829 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:54:33.62 ID:leJDf/pio

X中佐「でも、艦娘という、人間の姿をして、人間の味方をする、人間ではない存在が確認できてしまった」

X中佐「だとすれば、人間の姿をした、人間ではない人間の敵がいることも、同じように認めないといけない、って」

提督「……」

X中佐「なにより、海軍は人間の……国民の命と財産を守ることが本分だ」

X中佐「言葉が伝わらず、深海棲艦に触わられた人間がただでは済まないとあっては、その本分を守り切ることができないと考えた」

X中佐「だからH大将は、深海棲艦を敵と見なして撃滅することを選んだんだ」

提督「……手前の考えより海軍の本分かよ。そりゃご苦労なこった」

X中佐「そこは君も同じじゃないか。自分の命より艦娘の未来を重んじていたんだろう?」

提督「……」

X中佐「とにかくH大将は、そういう理由で深海棲艦を殲滅しようと決めた。でも、その前提がひっくり返された……話ができるようになった」

X中佐「だから、H大将の行為は裏切りなんかじゃない。H大将は、人間を守るためにできることをやっているだけにすぎないんだ」

提督「……なんにせよ、それが曽大佐は気に入らなかったってこったな?」

X中佐「そこはその通りだ。残念だけどね」

提督「やれやれ、J少将には殺されかけて、今度は別の部下に見限られてるとか、ついてねえにも程があるな」
830 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:55:18.58 ID:leJDf/pio

提督「朧が一体なにをしたのかは知らねえが、死なずに済んだことくらいは、不幸中の幸いってことでいいよな?」

X中佐「そう思いたいね。ただ、もうひとつ頭が痛いのが、J少将のことなんだ」

X中佐「実は、J少将がH大将を暗殺しようとしたって話自体が、海軍の中でも結構衝撃的な話でね……」

提督「なんだそりゃ? J少将って、そんなに外面良かったのか?」

X中佐「評判は良かったと思うよ。深海棲艦の撃滅を主張してたけど、おおやけには和睦派にも理解を示すような発言があったというし」

X中佐「曽大佐たちのような過激派には、和睦派を責めるなとなだめつつ激励するような、バランス感覚と取れた人物だと聞いてたよ」

X中佐「だからこそ、J少将があの大佐と一緒にメディアの前に出ることを当時の本営が善しとしたわけだし」

X中佐「海を守る仕事を艦娘に奪われたことを嘆いてたことも、人間味があったと共感を買っている」

X中佐「それでいて艦娘を率いる『提督』になった人たちにも分け隔てなく接していたくらいだから」

X中佐「J少将を悪者にしたくないと思う人もそれなりにいて、H大将から距離を置こうとする者も増えているというわけなんだ」

提督「そいつは面倒臭えな……」

X中佐「……でも、大将2人の殺害を計画したことは間違いないんだ」

X中佐「それに、F提督たちの乗った船を襲った事件に、J少将が関わっていたという調査結果もある」
831 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:56:03.08 ID:leJDf/pio

X中佐「深海棲艦の撃滅という目標は同じはず。深海棲艦製の銃弾を使いたいからという理由だけで、こんなことをするだろうか?」

提督「……」

提督(まあ、かなり入念に猫をかぶってたんだろうなあ……だからこそ、青葉の写真に過剰反応した、ってことだろうな)

X中佐「そこを解明しないと、海軍内部が……っと、ごめん、この話は、いまの君には関係ないね」

提督「……そうだな。それはそっちで片付けてくれ」

提督「とにかく、曽大佐がH大将の下から抜けて、この島に攻めてくるかもしれねえ、って話だな?」

X中佐「うん。僕たちもWを通して可能な限り引き留めるけど……」

提督「前も言ったが、攻めてくるなら命の保証はしねえぞ。大目に見てやれるのは最初の一回きりだ」

提督「最初だからこそ、最悪の見せしめにしてやろうとも思ってるからな。曽大佐にはそんな感じで釘を刺しとけ」

X中佐「……わかった。できれば、お手柔らかに頼むよ……?」

提督「ああ。できる限り、手心は加えてやるよ」スクッ

 扉<チャッ パタン

廊下に出た提督「……悪いほうに、な」ポツリ
832 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/13(月) 00:00:56.37 ID:8rCJhShSo
今回はここまで。

三越modeで戦艦棲姫と集積地棲姫が仲良さそうにしてたので、
ここへ来た二人はそういう設定にしちゃいました。
833 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:15:47.77 ID:G/cakfhvo
続きです。
834 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:16:32.98 ID:G/cakfhvo

 * 墓場島 新埠頭倉庫内 仮設休憩スペース *

時雨「良かった、この島にもこんなスペースができてたんだね」

提督「仮設だけどな。とりあえずお前の言う通り人払いもしたし、ニコにも話はつけた。俺が話すまで動くなと釘も刺したしな」

時雨「知る限り、メディウムのみんなは提督の言うことに従順だしね。これなら安心して相談してもいいかな」

提督「……」

時雨「提督。これから僕が話すことを、疑わないで聞いてほしい」

時雨「僕が見てきた、この島から君がいなくなった後の未来のことを……」

提督「……わかった」

 * *

時雨「……僕はエフェメラの力で、あの溶岩で燃え盛る島に幽霊の姿で送られたんだ」

提督「……」

時雨「そして僕は、女神妖精さんの復活のために、ベリアナが持っていた魔法石を利用した」

時雨「そのあとは、君が不知火から聞いた通り。復活した妖精さんが、墓場島で眠っていた魂の力を呼び起こして、提督たちを脱出させた」

時雨「僕はその時、エフェメラに引っ張られて、燃える島から脱出するところを見届けられなかったんだけど……」

時雨「代わりにあの世の入口でのんきに寝ていた提督と無事邂逅できた、というわけだね」

提督「……」
835 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:17:16.93 ID:G/cakfhvo

時雨「僕が見てきた、この島から君がいなくなった後の未来と、僕が戻ってきてからの話は、そんな感じかな」

提督「……」

時雨「……」

提督「……」

時雨「提督? 聞いてる?」

提督「……情報量が多すぎる」

時雨「え?」

提督「ちょっと整理させろ……えーと、まずなんだ? ベリアナが俺たちを助けた場合、俺が如月たちと融合したんだって?」

時雨「うん」

提督「で、如月たちがメディウムに生まれ変わって、俺が上半身だけになって……?」

提督「俺を復活させるために、ニコたちが俺を向こうの世界へ連れてって……そっちの世界の人間を手当たり次第殺したと」

提督「で、いつの間にかこっちの世界の横浜の施設を乗っ取ってて、そっちでも人間を手当たり次第殺して?」

提督「そこで俺が、いろいろあって死んだ人間の魂に操られた魔神として復活して、艦娘たちを攻撃して」

提督「そいつをメディウムと艦娘が倒して俺を助け出して……そのまま俺と艦娘がまたニコたちの世界へ行って?」

提督「数年後には残っていたうちの艦娘がボロボロで……政権も変わって艦娘の立場が悪くなって……」

提督「で、俺がこの世界を潰しに帰ってきた……」
836 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:18:01.75 ID:G/cakfhvo

時雨「いくらか抜けてると思うけど、だいたいそんな感じかな」

提督「いやいやいや、なんだよそりゃあ……」アタマカカエ

時雨「提督? 大丈夫?」

提督「……あんまりよろしくねえな。とにかく、お前が見てきた向こうの俺は、艦娘たちを守れなかったんだな……?」

時雨「そうだね。少なくとも、いまと同じ姿を保ったままの艦娘は、あんまりいなかったよ」

提督「だからマジで世界を滅ぼす気になったってことだろうな……どうしようもねえな」ハァ…

時雨「それで、提督。ここまでの話で、なにか聞きたいことはあるかな?」

提督「ああ、とりあえず順番に聞くか。俺の体が艦娘と融合してたってのは、どういうことなんだ?」

時雨「うーん……多分だけれど、近代化改修に近いことが起こっていたんじゃないかな? 提督も半分は深海棲艦だからね」

時雨「みんな弱ってて死にかけていたというのも、その一因になってるのかも」

時雨「あとは……ブラックホールなんて珍しい空間内にいたからとか? 入ったことないから、どんな感じかわからないけど」

提督「だんだん人間離れしていくな……つうか、魔力槽に入った時点でそうなってたか」

時雨「あれ? 提督は、人間を辞めたかったんじゃなかったの?」

提督「辞めたいとは言ったが、そこまで常識はずれな存在になりたいわけじゃねえよ……」

時雨「贅沢だね」

提督「そう言うなよ。魔神としていろんな力を身に着けるのはいいが、いるだけで無意識に艦娘を傷つけるような能力は望んでねえ」
837 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:18:46.79 ID:G/cakfhvo

提督「ただでさえ積極的にくっついてくる艦娘が多いからな。如月とか大和とか金剛とかはっちゃんとか軽巡棲姫とか初雪とか……」ユビオリカゾエ

時雨「……くっついてくるのを拒否はしないんだ?」

提督「ちょっと拒否したところで聞かねえよ。悪化する奴もいるくらいだから諦めてる」トオイメ

時雨「……ふーん」

提督「それから、いまの話で聞いてて一番やべえと思ったのは横浜の研究施設だ」

提督「深海棲艦だけじゃなく、艦娘も研究とか言ってバラしてたんだって?」

時雨「うん。鹵獲した深海棲艦の調査から、どんな命令も聞く艦娘を作り出す研究や、艦娘から深海棲艦を作りだす研究をしてたみたい」

提督「艦娘から深海棲艦を作りだす……って、なんだそりゃ?」

時雨「おそらくだけど、J少将は、深海棲艦も艦娘も、海から排除するつもりでいたんだと思う」

時雨「J少将は、制海権……自分の仕事場である海を、艦娘と深海棲艦に奪われたことを嘆いていたそうだからね」

時雨「艦娘が、本当は恐ろしいもの……艦娘が深海棲艦になりうるものだと公表できれば……」

時雨「深海棲艦を滅ぼしたあとに艦娘を海から追い出すこともできると考えたんじゃないかな?」

提督「……」

時雨「それから、深海棲艦から武器を製造する研究も、ここで続けられてたようだよ」

提督「そうか……そいつらが、あの大佐たちの研究を引き継いでやがんのか。ってことは、深海棲艦の鹵獲も続けて……ん?」
838 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:19:31.92 ID:G/cakfhvo

提督「もしかして、深海棲艦の鹵獲じゃなくて、艦娘の深海化でそれをやろうってことか……?」

時雨「提督もそう思うのかい……?」

提督「ああ。H大将も言ってたな、深海棲艦の鹵獲はリスクがありすぎる、って」

提督「艦娘を建造するのはそれよりはるかに簡単なんだから、そいつを深海棲艦にしちまえば生産性も格段に変わる」

提督「もしかして榛名や那珂が言ってた養成所とか言う施設も、そこなんじゃねえだろうな……!」

時雨「かもしれないね……ねえ、提督はその施設をどうするつもり?」

提督「……どうする、っつっても……今はどうにもできそうにねえな」

時雨「弱気だね?」

提督「慎重と言えよ。そもそも片手間で始末できるような相手とは思えねえ」

提督「かといって放っておいていい相手でもねえと思うが、今はこの島の体制を整えるほうが先だな」

提督「そもそもその施設に関する情報が全然揃ってねえし、中途半端に動いて向こうに気取られるのも面白くねえ」

提督「やるんならちゃんと情報を揃えて、関わってる奴全員集めて一網打尽にしてやらねえと駄目だな」

時雨「確かにそのほうが良さそうだね」

提督「あと、そのほかに警戒しなきゃいけねえのは、父親に味方したほうのエフェメラだ。あいつがどこまでこっちに絡んでくるか……」

提督「俺たちに味方したエフェメラは、俺たちとかろうじてコンタクトできる状態だった」

提督「向こうのエフェメラには察知されてないと思いたいが、あくまで希望的観測と見ておいた方がいいよな?」

時雨「そこはなんとも言えないけど、慎重に動いた方がいいのは同感だね」
839 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:20:16.91 ID:G/cakfhvo

時雨「ただ、もともと提督を魔神の生贄にすることがあっちのエフェメラの目的の一つらしいからね。もしその目的が変わってないとしたら……」

時雨「僕たちを支援してくれたエフェメラの存在に関係なく、今後も提督を絶望させようとしたり、怒りを煽ったりする可能性は高いと思うよ」

提督「……くそ面倒臭え……!」

時雨「ただ、魔神に忠誠を誓ってるわけだから、仮に君が魔神として完全に覚醒すれば、跪いてくれるかもしれないよ?」

提督「それはそれでなんか嫌だな……」

時雨「嫌がらせされるよりはいいんじゃない?」

提督「かもしれねえけどよ……どうせなら俺は、俺たちを助けてくれたエフェメラこそ迎えてやりたいぜ」

時雨「……うん。それは、そうだね」

提督「ああ……あとは……」

時雨「?」

提督「時雨、ちょっとつらいことを訊くが……お前以外の、この島に埋葬された艦娘の魂がどうなったかは覚えてるか?」

時雨「僕以外の……?」

提督「ああ。俺を助けようとしたエフェメラが、どうしてお前を選んだのか考えてたんだが……」

提督「それは、俺だけじゃなく、例えば扶桑のように、お前が他の艦娘たちのことをずっと気にかけていたからじゃないか、と思ったんだ」

時雨「……」
840 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:21:01.80 ID:G/cakfhvo

提督「よくよく考えてみれば、お前以外はほぼ無縁仏なんだ」

提督「電が所属していたB提督の部下だった艦娘や、初春と同じ鎮守府で初春と同じように捨て艦にされた艦娘も、この島に流れ着いている」

提督「だが、俺たちはそいつらと直接話をしたわけじゃない。お前のように看取ったわけでもなければ、生前に言葉を交わしたわけでもない」

提督「そこへ行くとお前は、俺より扶桑や山城と付き合いがあったし、朝雲や五月雨とも話しただろ?」

時雨「うん……」

提督「だからお前が俺たちの……いや、扶桑たちのか。未来を見ることにつながったと思ってる。だからエフェメラにも声をかけられた」

時雨「そうかもしれないね……」

提督「この島に埋葬された艦娘は多い。いま、お前や早霜たち以外の艦娘の魂が、どこへ行こうとそいつらの自由ではあるんだが……」

提督「……できれば、望む通りのところに行きついて、穏やかでいてほしいもんだな。虫のいい話だけどよ……」

時雨「……」

提督「悪い。今の話は聞かなかったことにしてくれ。死んだ連中の話は、俺にはどうにもできねえからな」

時雨「……」

提督「時雨?」

時雨「……僕以外の、か……そういえば、あまり気にしてなかったというか、気にかけていられなかったよ」

時雨「提督は、心配性が過ぎるね。艦娘に好かれるわけだ」

提督「……そういうもんか?」
841 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:21:47.21 ID:G/cakfhvo

時雨「そういうものさ。自分がひどい目に遭ってるのに、艦娘のことを気にかけるんだもの」

時雨「僕たちだって、誰かのために……艦娘のために、自分が犠牲になることをいとわない人がいたら、好意を抱くのは当然さ」

時雨「かつての僕たちもそうだったんだからね。僕たちは、好きな人たちのために……好きな人たちの未来のために、命を懸けたんだ」

提督「……」

時雨「さてと。僕が伝えたいことは一通り伝えたかな」

提督「……ああ。ありがとな」

時雨「提督? どうしてそんな浮かない顔をしてるんだい?」

提督「……いや。なんでもねえ」

時雨「そういう思わせ振りな態度は良くないね。ちゃんと話してよ」ウデツカミ

提督「……っ、だからなんでもねえよ。俺はただ……」

時雨「ただ?」ズイ

提督「……ただ、その、好きってのが、いまいちわからねえってだけだ」

時雨「まだそんな寝ぼけたことを言ってるの? やれやれ、提督には失望したよ」カタスクメ

提督「……」

時雨「提督はそんなもの、もうとっくに理解していると思ったんだけど」
842 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:22:33.60 ID:G/cakfhvo

時雨「実際に、提督はここの艦娘たちから愛されてるじゃないか。僕は単純に、提督がそれを認めようとしないだけに見えるよ?」

提督「あ、愛され……そ、そんなわけねえだろ!?」

時雨「どうしてそんなに自己肯定感が低いのかな。あれだけの人数の艦娘がいて、みんなが君を認めているっていうのに」

提督「そ、そういうのは信頼ってやつで、好きとか愛とかとは違」

時雨「そうやって艦娘の気持ちを否定して蔑ろにするのはやめてくれないかな」ジロリ

提督「ぐ……」

時雨「提督がそうやって艦娘たちの好意を頑なに拒否し続けていたのは、最終的に提督が艦娘たちの前から後腐れなく消えるためだったよね」

時雨「それが今は、もう簡単に死んじゃいけない立場になってんだ。以前とは状況が違うんだよ? 自分でもそう言っていたじゃないか」

時雨「提督は、これから先ずっと艦娘たちと一緒なんだ。それを『契り』と呼ぶ以外になんて呼べばいいのさ?」

時雨「ずっと誰も受け入れないで、みんなには片思いを強いるくせに、みんなで仲良く暮らせって?」

時雨「不満の火種になっているのは君だっていうのに、まるで自分は部外者だと言わんばかりに他人事だ。呆れて物も言えないよ」

提督「……い、いや、そうじゃなくてだな、そういうのは普通一対一で」

時雨「だったら一人選びなよ。どうせ選べないくせに」

提督「……」

時雨「誰かを選んだら他の人が傷付くから選べない、なんて臆病者の情けない言い訳なんか聞きたくもないね」
843 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:23:16.71 ID:G/cakfhvo

時雨「そういう腑抜けた考えなんか捨てて、もう観念して全員と『契り』を結べばいいんだよ」

提督「んな……っ!?」

時雨「艦娘はジュウコンカッコカリくらい気にしないよ。一夫多妻制が認められている国だってあるんだし、そもそもこの島に男は君だけなんだ」

時雨「順番くらいは気にするかもしれないけど、この島で暮らそうって時点で不貞なんて最早存在すらしてないはずだよ?」

時雨「あ、メディウムや深海棲艦はそうでもないかな? だとしたら頑張って機嫌を取ってあげなきゃね」

提督「……」アッケ

時雨「ほら、提督。みんなで幸せになろうよ?」ニチャァ…

提督「どこまで本気なんだお前は……」

時雨「僕はどこまでも本気だよ?」ニコ

時雨「まあ、あとは提督がどこまで耐えられるかなんだけど……」

提督「……俺の精神がどこまで持つかってか? ったく、軽々しく言いやがって……」

時雨「ん? そうじゃないよ。精神じゃなくて、えっちに関しての話だよ」

提督「ブハッ!?」

時雨「……リアルに噴き出す人、初めて見たよ。っていうか、言ったじゃないか、『契り』って。何をカマトトぶってるのさ」

時雨「とはいえ、提督は性交渉に嫌悪感を持ってるみたいだから、どうやって克服してあげたらいいかな。荒療治で悪化させても問題だし」

提督「……」アタマカカエ
844 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:24:01.75 ID:G/cakfhvo

時雨「頭を抱えてないで、提督も真剣に考えてよ。どうして君のシモのお世話を僕が考えなきゃならないか、少しは自覚して」

提督「お、お、お前なあ」セキメン

時雨「提督がはっきりしないから僕がここまで言うんじゃないか。文句があるなら自分で何とかしてよ」

提督「……くそ。言い返せねえ」

時雨「とにかく、僕たち艦娘を大事だと思ってるんなら、態度で示しなよ。それが出来なきゃ、僕は提督のことをヘタレって呼び続けるよ」

提督「……」

時雨「なに? まだ悩んでるの?」

提督「……いや、そうじゃなくて……何をしてやったらいいかわからねえ」

時雨「は?」

提督「わかんねえんだよ。あいつらに何をしてやったらいいか!」

提督「俺はあいつらがにこにこ笑っていられりゃそれでいいんだ。それで足りないからと肉欲に走るのはどうなんだ?」

提督「愛情ってのはそんな短絡的なもんでいいのか? そういうのがわからねえのに体ばかり求めんのは間違ってるだろ……!」

時雨「……提督は本当に真面目だね」

提督「こちとら生憎と童貞なもんでな……そうでなくとも、あいつらをいたずらに弄びたくねえんだよ」

時雨「短絡的なんて言うけど、提督こそ難しく考えすぎだよ」

時雨「とにかく、君を慕う誰でもいいから、逃げずに真剣に向き合ってみなよ。相手が求めているものを、君は見落としてるかもしれないよ」

提督「……」
845 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:24:46.86 ID:G/cakfhvo

 * 執務室(家具なし) *

クレア「どうしたのまっさん? 元気ないね?」

提督「……お前のその個性的過ぎる俺の呼び方はどうなんだ。魔神だからまっさんか」

クレア「そだよー。てっさんのほうがいい?」

提督「あまり変な呼び方すんな。呼ばれたときに俺のことかどうかが判断できないから、反応できねえぞ」

クレア「そう? じゃあ、混乱しないように、これまで通りまっさんて呼ばせてもらうね!」

提督「……」

リサーナ「んもう、マスターったらノリが悪いぞぉ〜? もっと元気出して! ね?」ピョンピョン

提督「俺はいつもこんなもんだぞ」

ベリアナ「ええ〜? いつもより静かだってば〜。ほらぁ、こっち向いてぇ? 私をもっと見て元気になってぇ〜!」フワフワー

提督「……ふわふわ浮きながら脚おっ拡げてんじゃねえよ。少しは恥じらえ」

ベリアナ「やぁん、そんな石ころでも見るみたいな冷めた眼差し向けないでよぉ! 心が冷たくなっちゃうからぁ、温めてぇ〜」ピトッ

リサーナ「ベリアナばかりずるーい! ほらぁ〜、ウサギは寂しいと消えちゃうんだぞ〜?」ピトッ

提督「……」

ヴェロニカ「まったく……坊やが呆れてるじゃない。おこちゃまは引っ込んでなさい」

ベリアナ「おこちゃまってなによぉ〜! こぉんなカラダの持ち主を、おこちゃま呼ばわりするぅ〜?」
846 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:25:32.61 ID:G/cakfhvo

ヴェロニカ「図体ばかりで肝心のおつむが追い付いてないじゃない。エミルのほうがまだ大人の自覚がありそうね」

ベリアナ「むー! なによう!」プンスカ!

クレア「ちょ、ちょっとぉ、落ち着きなよ!」

ヴェロニカ「私は落ち着いてるわよ。だいたい、坊やも落ち着きたくてこの部屋に来たんでしょう」

ヴェロニカ「もっとも、くつろぐはずが椅子すら置いてないから、当てが外れたみたいだけど?」

提督「まあな。昔はここに執務用の机と椅子もあったし、ソファもあったからな」

提督「ぶらぶら歩いてもしょうがねえし、部屋の下見も兼ねて腰を落ち着けて一息入れて、考え事をしたくて足を運んだんだが……」

リサーナ「えっ? なになに? どんなお悩み? 可愛いバニーさんがお悩み聞いてあげちゃうぞっ?」

提督「……」アタマオサエ

ヴェロニカ「リサーナ、あなたもお呼びじゃないみたいよ」

リサーナ「むー! そんなことないったら!」プンスカ!

クレア「だ、だから落ち着いてってば! ほら、まっさんの悩みって、明るく話せるような内容じゃなさそうだし!」

リサーナ「私は別に茶化してるつもりもないんだけどぉー!?」

ヴェロニカ「そうねぇ……険しい顔も嫌いじゃないけど、少しはまともにこっちを見てほしいわね?」

ベリアナ「そうよ〜!? 私たちだって、ご主人様のことは心配してるんだからァん!」クネクネ
847 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:31:01.88 ID:G/cakfhvo

提督「……」

クレア「……うん、ベリアナはちょっとアレだね」

リサーナ「そうねぇ、ちょっとアレよねぇ?」

ベリアナ「アレってドレなの!? ナニなのお!?」

ヴェロニカ「言い回しがまさしくアレじゃない。解ってて言ってるわよね」

ベリアナ「ふふっ、やだぁ、どんなことかしらぁ? もしかしてぇ、ご主人様もそう思ってるぅ? 教えてほしいなぁ……!」

提督「面倒臭え……」

ベリアナ「めんどう!?」ガビーン

ヴェロニカ「……ねえ坊や、場所を変えたほうが良くないかしら。私が見ててあげるから、静かなところで……ゆっくりと、ね」

リサーナ「そう言って独り占めする気でしょ!?」ヒシッ

ベリアナ「抜け駆けは許さないんだからっ!!」ヒシッ

ヴェロニカ「あら、なんのことかしら」シレッ

提督「……わけわかんねえな」ハァ

クレア「えっ、なにが?」

提督「お前らが真面目に俺を心配してくれているかどうかは別にしてだ。そうやって俺にくっついてくるのはどうしてだ?」
848 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:31:49.63 ID:G/cakfhvo

提督「俺が魔神だからか?」

ベリアナ「それはそうねえ〜」

リサーナ「そこは大前提よね?」

ヴェロニカ「坊やが魔神じゃなかったら、こんなふうに付き合ってなんかいないわ」

クレア「うんうん! それは当然!」

提督「……そうか」

リサーナ「あ、でもぉ、こうやって甘えさせてくれるマスターだったってところは、予定外に嬉しい誤算かなっ!」

クレア「それはあるね! 私、ニコちゃんが言う魔神様ってどんな感じなのか、ぶっちゃけわかんなかったし、もっと怖いと思ってたから!」

提督「まあ……お前らがどんな連中かって考えれば、束ねる親玉もそうはなるか……」

リサーナ「聞いてた話と全然違うんだもの! 楽しくおしゃべりできるし、艦娘ちゃんたちも面白い子が多いし!」

ベリアナ「ニコちゃんが言ってたんだけどぉ、本当は魔神って、すっごくおっきくてぇ、とっても逞しいのよ〜?」

ヴェロニカ「ええ。私たちのことを片手で握り潰せる程度には、ね」

提督「んん? そういう意味の『でかい』なのか? それじゃまるで巨人じゃねえか」

ヴェロニカ「ええ。圧倒的な力で私たちを捻じ伏せ従わせる。それが私たちメディウムを統べる魔神という存在……と、聞いていたわ」

クレア「そういえばまっさん、魔神の腕を召喚したことあるでしょ? あれが本来の魔神の大きさだって!」

提督「あれがか……」フーム
849 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:32:32.10 ID:G/cakfhvo

リサーナ「あの巨体が、いまはこの体の中に納まってる、ってことになるのよね」ペタペタ

ベリアナ「うふふっ、いまのご主人様のカラダも……あん、こっちもすっごぉい……!」サワサワモミモミ

提督「……」ガシ

ベリアナ「えっ? やん、私の頭を、ちょっとごしゅじ……ふえっ、いっ、痛い痛いいたたたた!?」メキメキメキ

リサーナ「……わぁお。それが噂のアイアンクローね?」ヒキッ

ヴェロニカ「その気じゃないのにそんなとこ触ってたら、そうもなるわよ。呆れた」ハァ…

ベリアナ「んもう、ご主人様が難しい顔してるから、やわやわ〜ってして、緊張をほぐしてあげようと思っただけなのに〜」アタマサスリ

クレア「っていうか、そこは……うん、いろいろ間違ってない?」セキメン

ベリアナ「あ、そうよねぇ! アソコは揉んだら逆にカタくなっちゃ……」

提督「……」テノヒラワキワキ

ベリアナ「やぁんっ! 暴力反対っ! 女の子を泣かせていいのはベッドの上でだけなんだからっ!」ピュイッ

提督「逃げるくらいなら最初から言うなっての……それになんなんだ、そのベッドの上ってのは」

ベリアナ「んもう、ご主人様のニブチン! ムッツリ! こういうときは、余計な力を抜いて全部私たちに任せちゃえばいいのよぉ!」

ベリアナ「たまったものを吐き出して、スッキリしちゃえばいいのよ? 私がぜぇんぶ、悩みも一緒に綺麗に吸い取ってあげちゃうんだから!」

ヴェロニカ「……この子の言い方はともかく、坊やが悶々としてる様は、少し気にはなるわね」ズイ

提督「……!」
850 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:33:17.28 ID:G/cakfhvo

ヴェロニカ「何をそんなに憂いているのか……何をそんなに躊躇っているのか。少しは白状したらどう?」

提督「……」

ヴェロニカ「……」ジッ

提督「えらい心配してくれるな? お前らとはまだ付き合いも長くねえってのに……」

ヴェロニカ「それは坊やが魔神だからよ。あなたが私たちメディウムのあるじだから」

ヴェロニカ「メディウムは魔神にとって道具以外の何物でもない。坊やが私たちを使うのは、至極当然のこと」

ヴェロニカ「行けと命じれば行くし、死ねと命じれば死ぬ。それだけよ?」

提督「……」

ヴェロニカ「ただ……そうね。まさか坊やに使われてから、感謝されるとは思ってもなかったわね」

提督「!」

クレア「あ、それはそう! まっさんもただじゃすまなかったのに、それを怒らないで褒めてくれたの、びっくりしたよ!?」

リサーナ「そういえば、初めて艦娘のみんなと出撃したときも、頼む、なんてお願いされちゃった時も、胸の奥が熱くなったわね!」

ベリアナ「うふふっ、とっても熱烈なハ・ジ・メ・テ、だったわねぇ〜」

提督「普通だろ?」

クレア「普通なの!?」

ベリアナ「全然普通じゃないわよ〜? 私たちの関係からしたら、アブノーマルもいいところよぉ?」

提督「……」
851 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:34:03.33 ID:G/cakfhvo

ベリアナ「うふふ、だからこそ……ご主人様には、私のことをたくさん見てほしいな〜って……!」

クレア「ちょ、ちょっと!? なんで脱ごうとしてるの!?」ガシッ

ベリアナ「あん、なんで邪魔するのぉ?」

提督「やれやれ……野暮なこと訊いたな」アタマガリガリ

ヴェロニカ「それで? 坊やの悩みは、少しは解消したの?」

提督「……まあ、手掛かりにはなったかもな」

ヴェロニカ「そう。なら、今度お礼をもらいに行くわね?」

提督「……ああ。何を用意すればいいかわからねえが……」

リサーナ「むぅー! マスター!? 私にもお願いします〜!」

クレア「あっ、私にもお願い!」

提督「わかったわかった。後でな」

ベリアナ「やぁん、ご主人様どこに行くのぉ!?」

提督「散歩だよ。適当に歩かせてくれ」ガチャ

 扉<パタン

ベリアナ「ああん、ご主人様待ってぇ!」

ヴェロニカ「追わないほうがいいわよ」

クレア「な、なんで!?」

ヴェロニカ「あれでも、逃げようとしていないから、よ……ふふふ……はぁ」

ベリアナ「??」

クレア(なんで溜息ついてんだろ)

リサーナ(マスターを言いくるめて手籠めにするあてが外れたから、かしらねぇ……?)
852 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:35:16.70 ID:G/cakfhvo
というわけで今回はここまで。
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/04/02(日) 23:46:28.83 ID:QUpuzjZQ0
墓場島編から来ました 更新乙です
854 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:11:24.71 ID:CS8kn2M7o
引き続きフラグ回収の回ですが、
やべえくらい話が広がって収集つくのかこれ感が……。
あ、リシュリューとゴトランドは回収しました。

とりあえず続きです。
855 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:12:16.42 ID:CS8kn2M7o

 * その翌日 夜明け前 *

 * 墓場島沖 医療船 甲板上 *

(船尾の甲板上に溶接された長椅子に、毛布に身をくるんだ提督が座っている)

 コツコツ…

提督「!」

如月「司令官……?」

提督「よう、来たか。悪いな、こんな時間に呼び出して」

如月「それは構わないけど、司令官こそ大丈夫? お鼻の先が赤くなってるわ」

提督「寒いと言えば寒いが大丈夫だ。誰にも邪魔されたくなくてこんな時間にしたんだが、こんなに冷え込むとは思ってなかった」

提督「お前こそ寒いだろ? 俺の毛布で悪いが、ここに入って座ってくれ」ファサ

如月「ええ、そうするわね」コク

提督「……」

如月「……」

 ザザァ…
856 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:13:01.79 ID:CS8kn2M7o

提督「……なんか、嬉しそうだな?」

如月「そうね。こうやって、肩を並べてふたりで海を見るのなんて、初めてじゃないかしら」

提督「……そうだな」

如月「しかも、こうやって星空の下で、ふたりでひとつの毛布にくるまって……まるで恋人同士みたい。うふふっ」

提督「……」

如月「……司令官?」

提督「ん、ああ……恋人っていうのがどういうもんか、よくわかってなくてな。ちょっと考え込んじまった」

提督「けど、恋人か……こういうのを嬉しく思うのが、恋とか言うんだろうな」

如月「……ええ、そうよ。きっとそう」

提督「なあ、如月?」

如月「なあに? 司令官」

提督「少し、俺の独り言に付き合ってほしいんだ」

如月「……わかったわ。いくらでも付き合ってあげる」

提督「ありがとな……」

如月「うふふっ、いいのよ、司令官のお願いなんだもの。好きにお話ししていいから……ね?」
857 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:13:46.56 ID:CS8kn2M7o

提督「ああ」

如月「……」ジッ

提督「俺は……お前たちに幸せになってもらいたいと思ってる」

如月「ええ、知ってるわ」

提督「そのためには、俺がいたらいけないって考えてたのも、多分知ってるよな?」

如月「……ええ、知ってるわ」

提督「俺はちっちゃいころから親に否定されて……目に見えるありのままを伝えても、誰にも信じてもらえなくて……」

提督「俺は、みんなにとって……人にとって、一体何なんだろうな、って思ったことが何度もある」

提督「妖精たちは俺のことを理解してくれたが、その妖精たちのことは誰も信じてくれなくて」

提督「結局、俺は人間社会じゃ誰にも相手してもらえなかった。でも、妖精が間違ったことを言っているとも思えない」

提督「じゃあ、俺は一体なんなんだ? 俺は異質なのか? 人じゃないのか、って、疎外感を感じるようになって……」

提督「俺には『人』が信じられないものになってた」

如月「……」

提督「とどめになったのは、あの島で大勢の艦娘の亡骸を見た時だな。艦娘が、人間の言う通りに従った結果が、これか……って」

提督「『人じゃないもの』は、人間に関わったら幸せになんかなれない……ってよ。あのときは漠然とだが、そういうふうに思えたんだ」
858 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:14:31.46 ID:CS8kn2M7o

如月「……だから、司令官は私たちから離れようとしたのね?」

提督「ああ。俺は、お前たちを不幸にしたくない。あいつらを沈めた人間と同じになりたくない、って……嫌だったんだ、一緒に思われるのが」

提督「けど、俺はその逆も望んでた。あの島が溶岩に覆われて、俺たちが焼け死にそうになったときに口に出ちまったんだ」

提督「俺は、お前たちと普通の人間の生活がしたかった、って」

如月「……」

提督「俺だけじゃなく、お前たちも一緒に、普通の人間に生まれて、こんな戦争とは縁のない、普通の生活が送れたら……」

提督「無意識のうちに、俺はそういうのに憧れてたんだな、って……これでお前たちを幸せにできるのか、って、まあ、いろいろ考えてたんだ」

提督「人間の言う普通のただの何でもない人間になるかか、艦娘たちに普通の暮らしを提供できる人間以外の何かになるか……」

提督「そのどっちかになるのが、俺の望みだったのかって、今更ながら思ったんだ」

如月「……もし、司令官が普通の人だったら、私はここにいなかったわね?」

提督「ああ、そうだな。けど、それで良かった。俺に妖精が見えたのは、結果的には正解だったと思ってる」

如月「!」

提督「自分の正体を知った今だから言えるのかもしれないが……俺は最初から、人の世界の住人じゃなかったんだろうな」

提督「俺が誤って人間の世界に生まれてきたのを、妖精たちが見つけて連れ戻しに来たんじゃないか、って……ま、都合のいい解釈だけどな」フフッ

如月「司令官……!」
859 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:15:16.85 ID:CS8kn2M7o

提督「まあ、何でこんなことを考えてたか、って言うと……俺がお前たちと一緒にいて問題ない理由を探してただけなんだ」

提督「俺がこれからお前たちと一緒に過ごすんなら、ちゃんと向き合えって言われてな。お前に聞いて欲しかったんだ」

如月「そ、それって……」

提督「……なあ、如月?」ジッ

如月「っ!」ドキッ

提督「もうしばらくの間でいい。俺は、お前たちの近くにいたい」

如月「……!!」

提督「俺は、お前が誰かと楽しそうに笑っているのを見たり、俺を見つけて手を振ってくれるだけで、満ち足りた気分になってたんだ」

提督「この島に流れ着いたあの時と比べて、本当に見違えるようになったし……体の傷が消えたのも、本当に良かったと思ってる」

提督「お前たちのそういう姿を、俺は、もう少し眺めていたいんだ」

如月「な、眺めて、って……司令官は、それだけでいいの?」

提督「ん? ああ……あまり多くは望んでねえしな」

如月「ふぅん……もうちょっと踏み込んで欲しかったんだけど。ねえ、司令官?」

提督「なんだ?」

如月「この話をどうして私にしようと思ったの?」ズイ
860 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:16:01.28 ID:CS8kn2M7o

提督「んん? そ、そりゃあ、大事な話だと思ったし、それならまず最初にお前に聞いて欲しくて……」

如月「……それで、こんな時間に呼び出したの?」

提督「ま、まあ……話は、それだけじゃねえけどよ」セキメン

如月「えっ?」

提督「……」マッカ

如月「し、しれい、かん?」

提督「俺は、お前たちが幸せそうなら、それで良いんだ」

提督「けど、お前たちは……その、それ以上のことを、俺に望んでるわけだろ?」

如月「……!」

提督「その……俺がどこまで受け入れたらいいのか、つうか、お前がどこまでしたいのか、その、確認、したいというか、教えてほしくてな……」

提督「まあ、なんだ、その……ずっと一緒にいるって言うお前たちに、我慢させるのは、よくねえんだろ?」アセアセ

如月「……」

提督「い、言っとくけど、俺はよくわかってねえからな!? その、恋とか愛とか、そっち系の話は……」マッカ

如月「……」

提督「……」
861 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:16:46.33 ID:CS8kn2M7o

如月「……」テヲノバシ

提督「んん……?」ヒッパラレ

 チュー

提督「……!!」

如月「……」チュー…

提督「……」


 * *


提督「……」

如月「……」

提督「……その、きさら」

如月「司令官?」

提督「っ……!」

如月「ああいうときは、ちゃんと私を抱き寄せて支えてくれないと駄目よ?」

提督「……そういうのはする前に教えてくれ、っつうか、そうじゃなくてだな……でも、まあ、いいか」ダキヨセ

如月「!」
862 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:17:31.49 ID:CS8kn2M7o

提督「これまでそういうのを拒絶してきたからな。お叱りは甘んじて受けるようにする……」

提督「ただ、こっちはこういう駆け引きは初めてなんだ。ご期待に沿えるよう努力はするから、お手柔らかに頼むぜ……?」

如月「……もう……」

提督「? 如月……?」

如月「……もう……やっと、司令官が、私を見てくれた……!」ポロッ…

提督「お、おい、泣くほどか……!?」

如月「そうよ? これまでずーっと、あなたは私たちに背中を向けて……」

如月「庇ってくれたり、背負ってくれることはあっても、こっちを向いて抱きしめてくれることはなかったんだもの……!」

提督「……そう、だな。いずれ、出ていくつもりだったからな。まともに、向き合ってなかったのかもな……」

提督「ごめんな、如月」ダキヨセ

如月「司令官……っ!!」ヒシッ

 *

提督「……」ナデナデ

如月「〜♪」スリスリ

提督「如月。寒くないか? 大丈夫か?」
863 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:18:16.39 ID:CS8kn2M7o

如月「このままで大丈夫よ?」

提督「そうか」

如月「〜♪」

提督「……」

如月「ねえ、司令官?」

提督「ん?」

如月「司令官は……私のこと、好き?」

提督「ん゛ん゛っ!?」

如月「……司令官、私のことは、好きって言ってくれないの?」

提督「……」

如月「……」

提督「いや、その……好きかと聞かれれば、好きなんだが……」

如月「だが?」

提督「こう……面と向かって言うと思うと、すげえ恥ずかしいな」メソラシセキメン

如月「」キューン

如月「も、もう! 司令官ったら、可愛いんだから!」

提督「あまりからかってくれるなよ……」
864 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:19:02.18 ID:CS8kn2M7o

如月「うふふ……司令官、こっち向いて?」

提督「ん……?」

如月「」チュッ

提督「!?」

如月「うふふふ……!」

提督「……頼むから手加減してくれよ。あいつらが真似しだしたらたまったもんじゃねえ」

如月「そうねぇ……どうしようかしら?」

提督「せめて人前では勘弁してくれ……見られんの、恥ずかしいんだからよ」マッカ

如月「うふふっ……あ、見て。日の出よ……!」

提督「……」

如月「……」

提督「……そろそろ、戻るか。あいつらも起きてくるころだろうしな」

如月「ねえ、司令官?」

提督「ん?」

如月「私を最初に選んでくれて、ありがとう」

提督「一番苦労をかけたからな。これからも、よろしく頼むぜ」

如月「ええ!」ニコッ
865 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:19:46.41 ID:CS8kn2M7o

 * 朝 *

 * 医療船内 大会議室 *

提督「強情張ってたが、お前らに気苦労かけせちまうってんなら、みっともなくても変えたほうがいいだろ」

提督「メディウムの連中も、自分たちは魔神様の道具だなんて、この前までの俺みたいなこと言いやがるからな……」

提督「俺の悪いとこ見習わせるわけにはいかねえよ。今後は、そういう話は控えるようにする」

吹雪「司令官……!」パァッ

大和「やっとわかってくださったんですね!」パァッ

提督「ああ。ただ、俺も俺で守られっぱなしってわけにも」

朧「だからそういうのをやめてください」

電「司令官さんは危ないところに出てこないでほしいのです!」

時雨「そういうところは相変わらずだね?」

榛名「榛名は心配で大丈夫ではありません!」

提督「……お前らこそ過保護が過ぎねえか?」

霞「あんたはもう少し自分の立場を自覚しなさいよね。わかってない行動が多すぎるのよ」

如月「そうね、そこは司令官の日頃の行いの賜物よ?」
866 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:20:32.20 ID:CS8kn2M7o

提督「せめて如月くらいはフォロー入れてくれよ……」

如月「あら、ごめんなさい? うふふっ」

朝潮「ご安心ください! かくなる上は朝潮が司令官を全力でお守りします!」ビシッ!

山城「それはいいけど、結局何も変わらないんじゃないの? 提督自身の破滅的な言動が減るってだけでしょ」

提督「まあ、山城の言う通りだな。普段通り過ごす分には特に何も変わらねえ」

提督「何かあるたび抱き着いてくるのも、膝枕しろってのも、俺の布団に入ってくるのも、これまで通り受け入れるってだけだ」

初雪「うん……それなら、何も変わらない」

伊8「そこが変わってたら、はっちゃんブチ切れてました」

那智「さすがに一番最後はどうかと思うのだが?」

提督「そこは俺もそう思う」

大淀「そうは仰いますが、これまでもそれは許容してきたわけですし、無理に変えないほうがよろしいかと」

陸奥「そうね。それより、そこに深海棲艦たちも入ってくるわけでしょ? 提督と一緒にいたがる子、ますます増えるんじゃないの?」

提督「軽巡棲姫あたりはそうだろうな……ちゃんと言い聞かせてやらねえとなあ」

武蔵「是非そうしてくれ。あいつはお前たちが溶岩に飲まれて心中しようってときに、一人だけその場から追い出されたわけだからな?」

提督「わかってるよ……フォローはする」
867 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:21:18.63 ID:CS8kn2M7o

由良「提督さんは、そういう女性の細やかなところが理解できてないから心配よね」

敷波「でも、いいんじゃない? これからは気を付けるって言うんだから。司令官がおかしなこと言ったら注意していいって話だよね」

提督「まあ、そうだな……だからってあまり無理な要求されても困るが」

扶桑「そのあたりは大丈夫だと思いますよ。提督がかなえられないような無理なお願いを言うような人はいないでしょうから」

初春「提督が受け入れられるかどうかはまた別の話じゃがの?」ニヤニヤ

那珂「那珂ちゃん的には、コンサートホール建ててくれたのがびっくりしたけどなあ〜。提督さん、できないことないんじゃない?」

榛名「深海の皆さんと協力できるようになったから、ある程度のことは何でもできてしまいそうですね」

提督「まあ、極力お前たちが過ごしやすいように手配はするつもりだからな……設備面は頑張らせてもらうさ」

提督「それから最後にもうひとつ、お前たちが本当に島に残る上での心配事も伝えておきたい」

早霜「まだ心配事があるのですか……?」

提督「ああ。俺が今後あの島で生活するうえで避けて通れないのが人間と艦娘との戦いだ」

全員「「!」」

提督「あの島で死んだ海軍の人間の中にも、いい奴がいたかもしれないし、そうでなくてもそいつらにも家族がいただろう」

提督「ついこの前も、盗掘しに来た連中を全員始末した。そいつらの境遇を知れば、助けるべきだった奴もいるかもしれねえ」

提督「それに、深海棲艦やメディウムたちは、当然のように人間を殺す。俺も大佐たちを殺ると決めた時から、覚悟は決めたつもりだ」
868 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:22:31.93 ID:CS8kn2M7o

提督「正直に言えば、もともと国防のため、人を守るために生まれた艦の化身に、人殺しを受け入れろと言うのは俺もどうかと思ってる」

提督「で、そういう人殺しをやる以上、誰から恨みを買うかわからねえし、いい奴を殺したら罪の意識に苛まれることだって起こるはずだ」

提督「そして、自分と同じ顔をした艦娘とやり合う可能性もある。そこが一番心配だ」

全員「「……」」

提督「まあ、これから俺がやることに少しでも疑問を覚えたんなら、白露が言ってたみたいに、一度離れてもらうのもいいと思ってるんだ」

提督「留まるにしても離れるにしても、自分の意思が一番大事だからな。お前たちの気分のいいように過ごしてほしいというのは変わってねえ」

提督「俺が島に移るまでの間に、考えといてくれ。一度島に渡ってから出ようと思うと、外野がなんて言ってくるかわかんねえからな」

武蔵「ふむ……」

提督「多分、まだ悩んでんのは武蔵と那智あたりじゃねえか? お前たちはそこまで人間を恨めしく思ってないだろう?」

那智「確かにそうだが、余所に行くにしても当てがないからな。白露たちのように連絡員と言うのも考えたが、私の場合は練度が足りないだろう」

提督「まあ、確かになあ……」

那智「とにかく、私はもう少し考えさせてもらおう。幸いにも私にはまだ時間がある」

提督「ああ。それからここにはいないが、個人的に心配なのが金剛なんだ」

榛名「! と、仰いますと……?」

提督「あいつ、誰にでも優しいっつうか、博愛主義的だからな。俺と一緒にいて本当に大丈夫なのか、すげえ心配なんだよなぁ」

大和「そういえば、金剛さんも前の鎮守府に向かったんでしたね」
869 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:23:16.15 ID:CS8kn2M7o

提督「外泊許可下りるのが遅えんだよ。Q中将の墓参りくらいさっさとやらせてやれってのによぉ」

 扉<コンコン

提督「ん?」

隼鷹「隼鷹でーす! 提督、いるんでしょ? 入っていい?」

提督「おう、いいぞ」

隼鷹「失礼しまーす! うおぅ、いっぱいいる!」ガチャー

隼鷹「前の鎮守府とかに行った艦娘が多いんじゃなかったの?」

提督「戻る必要のない艦娘も多いからな。それより、隼鷹はもう本営から戻ってきたのか?」

隼鷹「まあね〜、いろいろお叱りは受けたけど、やっぱりやりすぎじゃないか、ってことで……」

飛鷹「失礼します」スッ

R提督「失礼いたします!」ケイレイ

隼鷹「紹介するよ。うちの提督、R提督と、あたしの姉妹艦の飛鷹だよ〜」

R提督「あなたが隼鷹を保護してくださった提督ですか……! 本当にありがとうございました!」

提督「そんなに畏まんなくていいぞ? 俺、どうせ海軍辞めんだし」

R提督「いやいや、重要なのはあなたが隼鷹を立ち直らせてくださったことです。言わば隼鷹の恩人!」
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