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【ガルパン】まほチョビの土日。
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1 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 19:46:37.68 ID:8VTblCYO0
※今更ながら、まほチョビ同棲ものです。キャラ崩壊注意。
※まほチョビ嫌いな方はごめんなさい
※お気に召さない表現があるかも知れません。むしろあると思いますが、ご容赦ください。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1514976397
2 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 19:48:19.95 ID:8VTblCYO0
※まとめサイト様へ。まほチョビは荒れるそうなので、もし載せて頂けるのならばこのあとの【オープニング】だけに留めて頂くか、然もなくば、まとめそのもののご遠慮をお願いいたします。
3 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 19:51:25.60 ID:8VTblCYO0
【オープニング】
アラームが鳴った。
もう、時間だ。
「時間だなあ」
名残惜しそうに彼女が言う。
4 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 19:52:53.50 ID:8VTblCYO0
済まない、としか言えなかった。
「何言ってんだ、お前の決めた道なんだろ。気にすんなよ」
もっともっと強くなって来いよ。
そう言って、彼女は私の背中を叩いた。
暫く、会えなくなる。
5 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 19:54:21.84 ID:8VTblCYO0
満面の笑みで手を振る彼女。
不意に、その笑顔がくしゃりと歪む。
両の手で顔を覆い、彼女がしゃがみ込んだ。
引き返し、抱き締めてやりたくなるのを堪える。
笑って見送ろうという彼女の想いを、無碍にはできない。
拳を握り、堪えた。
6 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 19:55:25.12 ID:8VTblCYO0
ふと、その手に感触が蘇る。
さっきまで繋いでいた手が、まだ、温かい。
彼女の手の感触。
私の手も、じわりと歪んだ。
また会おう。
絶対、また会おうな。
7 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 19:57:32.46 ID:8VTblCYO0
「あの」
ズズ、と茶を啜りながら話し掛ける声。
なんだ、居たのかダージリン。
「貴女達、毎朝こんなコントをやっているのかしら」
そんなわけ無いだろう。
せいぜい三日に一度だ。
【オープニング・おわり】
8 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 20:00:00.46 ID:8VTblCYO0
とりあえずここまで
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/03(水) 20:03:10.78 ID:gYEIB7E1o
なんか文の間に合いの手が合いそう
間にYoYoYoといれていいか?☺️
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/03(水) 20:08:10.57 ID:E1daPPSE0
まほチョビすき
11 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 20:26:34.74 ID:8VTblCYO0
>>9
確かに歌詞っぽいかも知れません
>>10
私もすき
12 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:13:49.33 ID:8VTblCYO0
【鉄鼠の檻の檻】
【まほ(前)】
『頼豪の霊鼠と化と、世に知る所也』
部屋の真ん中に置かれた読みかけの小説。開いてみると、そんな一文があった。ブックカバーが掛けられているので、表紙を確認する事は出来ない。
その一文に、一枚の絵が添えられている。
13 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:16:18.75 ID:8VTblCYO0
何匹ものネズミが描かれているのだが、絵の中心に居るネズミだけが一際大きい。そのネズミにだけ口髭や髪があり、何より服を着ている。人間とネズミの間のような姿をしているのだ。
どこかの有名キャラクターのような可愛いものではない。なかなか気味の悪い絵だ。
ネズミ達は巻物のようなものを広げており、中心のネズミが他のネズミ達に何かを指示しているように見える。よく見ると巻物は所々破れていて、ネズミ達が食い荒らしているのだと推測できる。
14 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:17:24.88 ID:8VTblCYO0
中心の大きいネズミが『頼豪の霊』なのだろうか。しかし、名前と思しき大きな文字は『鉄鼠』と読める。
テツネズミ、だろうか。そんな名前の戦車が黒森峰にあったなあ。
そこまで考えて、疲れて辞めた。短文と一枚の絵だけで、大した情報量だ。しかも一頁目である。
15 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:18:47.45 ID:8VTblCYO0
千代美の趣味は恋愛小説だった筈だが、最近はこんな難しい本を読んでいるのか。いや、この本も内容を追ってみれば恋愛小説なのかも知れないが、如何せん追う気になれない。
サイズは文庫なのだが、厚さがおかしい。週刊少年ナントカのような分厚さなのだ。これは文庫の厚さとして正しいのだろうか。文庫というものは、もうちょっと薄いというか、持ち運びに適しているものだと思っていた。
まあ、今回はその厚さが幸いしたというか、災いしたというか。
とりあえず、置かれた本はそのままにして、コートを羽織り家を出る。雪がちらついていた。
空を見上げ、もう冬だなあなどと当たり前の事を考えていると、そこに丁度千代美が帰ってきた。お帰り、と声を掛ける。
16 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:19:43.81 ID:8VTblCYO0
「なんだよ、出迎えなんて珍しいじゃないか。お腹空いたのか」
「いや、ちょっと本屋に買い物」
「うわ珍しっ。あ、だから雪が降ってきたのか」
そうかもな、と気の無い返事をする。読書は千代美の趣味で、私もそれに付き合って本は読むが、自分から進んで何かを読む事はあまり無い。読んでも雑誌が精々だ。
勿論、自分から本屋に行く事も滅多に無い。
今も正直言って、気乗りはしていない。用事が出来たから行くだけだ。
17 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:20:57.19 ID:8VTblCYO0
「それじゃ、私も付いていくぞ。ちょっと待っててくれ、荷物置いてくるから」
千代美がいそいそと玄関へ向かった。
暫し待つ。雪は彼女が荷物を置き戻ってくるまでの間にも、徐々に強くなる。
「お待たせー、と言いたい所だけどこりゃ本格的に降りそうだな」
私の髪や肩に薄く積もった雪をぱたぱたと払いながら、千代美は天気の心配をする。
ニットの帽子を私に手渡しつつも、本屋はまた今度にしよっか、と、残念そうに言った。まあ、実際に残念なのだろうが。
私が本屋に行くのがそんなに珍しいか。そんなような事を考えて、雪の勢いが増しつつある空を睨んだ。
18 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:22:02.20 ID:8VTblCYO0
「さ、うちに入ろう」
「ああ、いや」
「なんだよ」
どう、しようか。今はまずい。
私がその場に立ち尽くしていると、千代美がすうっと目を細め、低い声を出した。
「まほ」
「ん」
「言い訳は、中でゆっくり聞くから早く入れ」
あ、バレたのか。
まあ、それもそうか。千代美は本を部屋の真ん中に置いたりしない。況してや、置きっ放しになどする筈も無い。荷物を置きに家に入った時点で、それは目に入ったのだろう。
19 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:23:26.29 ID:8VTblCYO0
「ごめんなさい」
私は千代美さんの本で虫を潰しました。とても、非常に丁度良い厚さだったので、つい。
「よろしい」
とりあえずそれはいい、寒いんだから早く入れ。そう言って、千代美は私を家に引っ張り込んだ。
「お帰り」
ただいま。
【まほ(前)・おわり】
20 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:34:27.71 ID:8VTblCYO0
【まほ(後)】
買い物は雪のため中止。家に戻り、コーヒーの時間とする。
千代美の淹れたコーヒーは何故か美味い。私がやってもどうしても同じ味にならないのが不思議で仕方ない。粉と湯だけで何故こうも差がつくのか。
「で、代わりにこの本の新品を買いに行く所だったのか」
千代美の読みかけの小説。私は虫を潰す道具に、つい手元にあったそれを使ってしまった。
ブックカバーが掛けられていたので目立つ汚れにはならなかったが、それでも流石に申し訳ない。なので新しく同じ本を買って来ようと思ったのだが、残念ながら雪に阻まれた。
21 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:35:26.86 ID:8VTblCYO0
「謝ってくれりゃ許すよ、そんなの。それに知ってるだろ、私が痕跡本好きなの」
んん、と返事なのか相槌なのか我ながらよくわからない声を出した。
痕跡本。
文字通り、痕跡のある本。コーヒーの染みや、うっかり付いた折り目など、その本にしか無い痕跡が好きらしい。千代美にとって、読書の延長線上にある趣味だ。
痕跡そのものというよりも、自分の本に親しい人の痕跡が残る事が嬉しいのだとか。まあ、分からないでもない。
しかし、それでも限度というものがあると思う。虫を潰した本だぞ。
22 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:36:33.16 ID:8VTblCYO0
「汚れは拭けばいいんだよ。それに、読むのに支障が出るわけでもないしな」
まほが虫を潰すのに使った本だと思うと、笑っちゃうじゃないか。言って、千代美は本当に笑った。
そう言えばそれは恋愛小説なのか、と訊いてみる。千代美の趣味は恋愛小説だった筈だが、その本はどうにも恋愛小説に見えない。
「いや、これはミステリーものかな。恋愛小説はもちろん好きだけど、そればっかり読んでる訳じゃないぞ」
これは読書好きには結構有名なシリーズで、気になって買ってみたんだけど、内容が難しくてなかなか進まないんだ。そう言って今度は苦笑いをしたが、少し嬉しそうだ。
なんだかんだで面白いのだろう。惚気のようなものか、と解釈した。
23 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:37:41.63 ID:8VTblCYO0
「テツネズミ」
「ん、違う違う、これはテッソって読むんだ」
鉄鼠、テッソか。
さっき見た一頁目の短文や絵について思ったことを話してみる。私が珍しく本の内容なんかについて話すのを、千代美は嬉しそうに聞いてくれた。
「マウスみたいな名前だなと思ったよ」
「あはは、言い得て妙だな。でもまあ、鉄鼠と言うならマウスよりも」
そこまで言って、千代美は口を噤んだ。心なし、表情が暗い。
「いや、なんでもない」
何を言おうとしたのだろう。気になり少しつついてみたが、忘れてくれ、とまで言われた。
気にはなるが、そこまで言われてしまっては仕方ない。話題を変えるとしよう。
24 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:39:28.88 ID:8VTblCYO0
明日は本屋に行けるかな、と話す。
「本を買う必要も無くなったのに、まだ行きたいのか」
「行きたいと思っている訳じゃないが、行こうとして行けなかったのがどうにももやもやする」
不器用な奴だなあ、と呆れられた。仕方がないだろう、性分だ。
とは言え何を買おう。出来れば当初の目的通り、千代美に何か買ってあげたい。
「何か欲しい本はあるか」
「ええっ、急に言われてもなあ」
まあ、そうか。今そのテッソを読んでいる所だ。厚さを見る限り、読み終わるのは当分先だろう。
少し残念だ。
25 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:41:07.92 ID:8VTblCYO0
「うーん、あ、そうだ」
千代美は、ブックカバーをねだってくれた。ああ、今使っているやつは洗濯機に放り込んでしまったからな。
「誰かさんのせいでな」
ふふ、ごめんなあ。
「コーヒーおかわり」
「はいはい」
【まほ(後)・おわり】
26 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:42:25.80 ID:8VTblCYO0
明日は千代美ちゃん
27 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/03(水) 21:53:27.95 ID:8VTblCYO0
おまけ
まほが虫を潰すのに使った「厚い文庫」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/04(木) 01:07:18.70 ID:pd2XbH+Wo
思いのほか教養のいる話だった
29 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 12:15:57.75 ID:vmi3algl0
>>28
ハードル高いかも知れません、すみません…
30 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 12:16:53.91 ID:vmi3algl0
【千代美(前)】
「鉄鼠と言うならマウスよりも」
そこまで言って私は口を噤んだ。自分の軽口を反省する。
鉄鼠の絵に対するまほの解釈は大体正解だ。あれは、鉄鼠がネズミを引き連れて巻物を食い荒らしている絵。それ自体は間違いない。
ただ、そのシーンに至るまでの物語があるんだ。
『頼豪の霊鼠と化と、世に知る所也』
この短文が示す通り、『頼豪の霊』が鼠と化すまでの物語。
31 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 12:18:42.17 ID:vmi3algl0
ざっくり言えば
『人のために行動した頼豪という僧が』
『理不尽な仕打ちを受け』
『寺を追われ』
『鼠と化し』
『寺の経典を食い荒らす』
という話。
鉄鼠の絵は、そのラストの部分を描いたもの。ネズミ達が食ってる巻物は、寺の経典だ。
だから、鉄鼠を何かに喩えるのなら、マウスと言うよりも、マウスを食った方。
つまり。
なんて、言えないよな。
32 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 12:19:50.38 ID:vmi3algl0
反省が段々と自己嫌悪に変わる。ほんと、どうかしてるよ。まほと話してると、不思議と口が軽くなる。
普段言わないような事をぽろっと言いそうになるんだ。浮かれてるのかも知れない。
相変わらず口数は少ないものの、以前のような寡黙さが無くなったまほ。そんな彼女と毎日話せる事が嬉しくて仕方ない。彼女が本の話に付き合ってくれた時なんかもう、それだけで頬が緩む。
まあ、それにしたって言って良いことと悪いことってものがある。いい加減、慣れても良さそうなもんだ。
「何を言おうとしたんだ」
まほが脇腹をつついてきた。こういう悪戯っぽさが彼女に芽生えた事が、そしてそれを私に向けてくれる事が、堪らなく嬉しい。でも言えないってば、流石にさ。
33 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 12:20:47.72 ID:vmi3algl0
「忘れてくれ」
そう言うしか無かった。
少しの間だけ、気まずい沈黙が流れる。その時間を反省と自己嫌悪に充て、心の中で西住姉妹に謝った。
「明日は本屋に行けるかな」
気を遣ってか、話題を変えてくれるまほ。
少し驚いた。本を買う必要が無くなったのに、彼女はまだ本屋に行こうとしている。だけど、蓋を開けてみれば何の事はない。行こうとしたのに雪で行けなかったのが癪だったというのが理由。
本屋に行きたいという訳ではないらしい。全く、不器用な。
34 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 12:21:45.47 ID:vmi3algl0
まあでも、当初の予定通り私に何か買ってくれる気でいるらしい。それは嬉しいんだけど、どうしようか。今読んでる本は、読み終えるまで暫く掛かりそうだしなあ。
とはいえ、まほが残念そうにしているので何も頼まないというのも可哀想だ。少し悩んで、思い付いた。さっき洗濯機に放り込んだあれだ。
「じゃあさ、ブックカバー、買ってくれよ」
ブックカバーなら、ずっと使える。本を読み終えたら次の本に。それを読み終えたら、また次の本。いつでも一緒。
まほに買って貰ったブックカバーで本が読めたら、どんなに素敵だろう。内心うきうきしているが、平静を装った。
35 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 12:22:44.12 ID:vmi3algl0
「コーヒーおかわり」
「はいはい」
粉とお湯だけなのに、何故かまほはコーヒーを淹れるのが下手だ。いつの間にか、それは私の仕事になっていた。
砂糖は無し、ミルクは多め。それがまほの好み。二人だけの常識がこうやって、少しずつ増えていく。コーヒーを淹れるだけなのに顔が綻ぶ。
だけど、時間的にぼちぼち夕飯の支度もしないとな。時計は十八時を少し回ったところ。支度を始めるには遅いくらいだ。
まあ、ご飯はタイマーのお陰で炊けてるので、簡単なおかずを作るだけでいい。何にしようか。エプロンを着けながら考える。
36 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 12:24:32.12 ID:vmi3algl0
「何か食べたい物あるか」
「んん、魚」
「おっけー」
こういう時、絶対に『何でもいい』とは言わないのが有り難い。例え何でもよくても、まほはとりあえず明確に答えを出す。さて、魚か。
考えていると、インターホンが鳴った。あ、そっか。そう言えば今日だったな。
急いで玄関を開けると、見知った男の人が立っていた。えへへ、待ってたよ。
【千代美(前)・おわり】
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/04(木) 15:31:54.20 ID:99vaNSz4o
合いの手が入れ温くなっちった…
38 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:23:24.93 ID:vmi3algl0
>>37
すみません
39 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:24:17.41 ID:vmi3algl0
【千代美(後)】
時刻は十八時を少し回ったところ。さすが時間に正確だ。
「こんばんは、小包の再配達に伺いました」
伝票に判子を捺して荷物を受け取る。エプロンに突っ込んでおいたシポDを手渡し、いつもご苦労様ですと声を掛けた。
日中、私達は大抵留守にしているから、荷物は再配達してもらう事が多い。配達屋さんにとっては二度手間なのが申し訳ないところ。これくらいの労いがあってもいいよな。
シポDを受け取った配達屋さんは、済みませんいつもご馳走様ですと何度も頭を下げて、次の配達先へと向かった。頑張れよー。
40 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:25:15.83 ID:vmi3algl0
「荷物か」
「うん、ペパロニからだ。丁度いいや、今夜はこれにしよっか」
鮭だ。
食材探しで北海道に行っているらしく、丸ごと一匹を送って寄越した。
二人で消費するのは大変かもな。ダージリンにでもお裾分けしよう。うーん、どう切ろうかな。
「『鮭が余るから貰いに来てくれ』、と」
荷物と格闘している私の代わりにまほが連絡してくれた。
41 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:26:00.78 ID:vmi3algl0
箱を片付けようとして伝票が目に留まった。よく見たら宛名が『アン斎千代美様』になっている。何て書こうとしたのか容易に想像できて吹き出した。
この伝票、取っておこう。なんか勿体無くて捨てられないんだよな、こういうの。
私が笑ったのを見て、まほが何事かと覗き込んできたので伝票を見せてやる。それでまた、二人で笑った。
配達屋さんにとっちゃ、ここはややこしい家だろうな。判子は『西住』だし、受け取るのは安斎だし、宛名はこんなだし。
42 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:26:58.01 ID:vmi3algl0
「配達屋なあ」
「ほんと、雪の中よく来てくれたよ」
「ああいうのが好みなのか」
沈黙。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。まほも自身の口を手で覆って、しまったという顔をしている。
え、何、焼きもちですか。
あららら、私が配達屋さんに優しくしただけで、焼きもちですか、へえ、西住まほさん。
「うるさい」
まほの顔が、かあっと赤くなる。
か、可愛いっ。堪らなくなり抱き付いた。
43 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:28:07.51 ID:vmi3algl0
「や、やめろ、魚臭いぞ千代美」
「魚食べたいって言ってただろー」
「そういう意味じゃなくて、うわっ」
抱き付いてよろけた弾みで、どさりとソファに倒れ込む。まほが咄嗟に下になってくれたのが分かった。
彼女の胸に顔を埋め、はあっと息を吐く。
「ふふ」
「何だ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。嬉しい。
44 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:29:29.54 ID:vmi3algl0
「どこにも行かないから安心しろよ」
「分かってる」
「本当かなあ」
まほは軽口を叩いた私の頭を掴み、ぎゅうっと胸に押し付けた。んん、さすがに苦しい。
もがいていると、まほが一言。
「逃がさん」
その言葉を聞いて、ぞくぞくとしたものが背中を走り抜けた。今、私は、まほに閉じ込められている。
檻だ。
すごくすごく、幸せな檻だ。
誰が逃げるもんか。
45 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:30:38.78 ID:vmi3algl0
「しかし千代美、冗談じゃなく魚臭いぞ」
全く、雰囲気も何もあったもんじゃない。でも確かに、鮭いじってる途中だったもんな。言わせて貰うなら、まほも十分魚臭い。
「誰かさんのせいでな」
ふふ、ごめんなあ。じゃあ、先にお風呂にしよっか。
46 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2018/01/04(木) 17:32:35.79 ID:vmi3algl0
「あの」
声。まほのものでも、私のものでもない声。
はっとなり振り返ると、にやけ顔のダージリンが立っていた。あの、えっと、こんばんわ。
「今晩は」
勝手知ったる何とやら。いつの間にか自分でお茶まで淹れて啜っている。あの、いつからそこに。
「『ああいうのが好みなのか』辺りから。もしかしてと思って見守っていたけれど、とても良いものを見せて頂いたわ」
お隣って便利よね、と付け足した。まほは完全に固まってしまっている。
更にダージリンは、良いものを見せて頂いたあとで恐縮なのだけれど、と前置きをしてにやけ顔のまま言った。
「続きはその鮭を切り分けてからにして頂けるかしら」
あ、うん、そうする。
【千代美(後)・おわり】
【鉄鼠の檻の檻・おわり】
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