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【ミリマス】乙女嵐と初詣
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/03(水) 17:01:45.55 ID:SK37WLJIo
===
予定は遅れに遅れていた。
既に集合時間を一時間もオーバーしているのに、未だ待ち合わせ場所に待ち人たちは現れず、
これが初めてのデートだったなら、そろそろ「約束をすっぽかされたかな?」とか
「俺、もしかしてからかわれた?」なんて不安な気持ちになりだしちゃうような頃合いだ。
電話は不通、既読も無し、なんの為の連絡手段なのかとスマホに当たるも無駄なこと。
「うぅ、寒ぃ……!」
寒風さし込むコートの頼りなさは俺の首を縮こまらせ、
無機質な生き物のような冬の空から目の前の雑踏へと視線を戻して考える。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1514966505
2 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/03(水) 17:04:46.90 ID:SK37WLJIo
(まさかとは思うけど、アイツら事故にでもあったのか?)
とはいえ、それはあたらずといえども遠からず。
ほんの数時間前に年が明けたばかりの早朝の街は人で一杯。
交通量は普段の倍。雑踏の込み具合も倍、倍、倍。
それを見越して混雑するだろう駅から離れた場所で落ち合う約束を立てたのだが……
お生憎さま。新年めでたい元日じゃ、そんな小細工は通用せず。
見える範囲にはどよどよがややと人の群れ。
これを"事故"に例えて誰が怒ると言うものかよ。「どうしたもんかね」と時計を眺めた俺の横に、
後ろのコンビニから出て来た瑞希が「お待たせしました、プロデューサー」と並び立った。
「待っちゃいないさ、早かったな。用事の方ももういいのか?」
「はい、トイレもバッチリ。……あっ、それとですね」
ピースサインを見せた後で、彼女は左手に持っていた袋をガサゴソと鳴らし。
「こちら、温かいコーヒーをどうぞ。寒い駐車場に立ちっぱなしで、年明け早々風邪を引いてもいけませんから」
「サンキュ、瑞希」
「お礼なんて、別に。日頃からお世話になってますし……瑞希はできる女です」
3 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/03(水) 17:06:05.01 ID:SK37WLJIo
差し出された缶コーヒーを受け取ると、こっちのお礼に「ぶいっ♪」なんて両手を使ったダブルピース。
そのキュートな仕草とはちぐはぐな、彼女の澄まし顔に俺も思わず頬がほころんで。
「そうだな! 瑞希は気も利く実に良い女だ」
「えっ」
正直な想いを伝えると、虚をつかれ、
澄まし顔を赤く崩した瑞希は俺の方から目を逸らした。
……いかん、少々セクハラっぽかったかな?
そんな心の反省文に、開けたボトルコーヒーがカシュっと音を立て同調する。
「集合時間も遅れないし、他の連中も見習ってくれないかなぁ〜……ホント」
気まずい空気を誤魔化すよう、泣き言をこぼしながら感じるのは
冷たくなっていた両手に伝わる温もりと口に含んだ豆の苦み。
吐き出す息も白くなって、体が体温を思い出す。
「そもそもだ。遅れそうなら遅れるで、連絡の一つも入れるよう普段から言ってるってのに、
今日に限ってアイツらと来たら電話もメールも寄こさずに――なぁ瑞希。お前だってそうは思うだろう?」
そう言って、今度は無難な話を瑞希に振った。
彼女はちょうど自分の分のポタージュを袋から取り出したところであり、
「そうですね、プロデューサー」と相槌を一つうってから。
4 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/03(水) 17:08:25.85 ID:SK37WLJIo
「連絡は確かに大切です。ただ、彼女たちの性格を計算に入れてもよいのでは?」
「性格だって?」
「はい、例えばそう――普段インドアな人間が年始で混み合う街に出ると、
人波に翻弄されて連絡どころじゃなくなってしまう――とか」
瑞希はバーテンダーのようにポタージュ缶をシャカシャカと振り、
俺から外した視線をコンビニの駐車場のそのまた先。初詣に向かう群衆の川の方へ向けた。
「あっ」
そうして俺も見てしまった。いや、正確には見つけてしまったと言うべきか。
身に着けたコートや帽子を押さえながら、
人混みの流れに逆らうようにえっちらおっちら歩みを進める見知った顔。
さらには、だ。助けを求めるようなその顔と、
パクパクと開けられる口が聞こえない声でこう言ってる。
「プ、プロデューサーさぁ〜ん!」
「た……助け、て……!」
人波の中からこちらに向けて二人が必死に両手を振る。
俺も「百合子、杏奈! こっちだこっち」とそれに応えてやりながら。
「お前ら一時間の遅刻だぞ! 今日は仕事じゃないからいいものの――」
「プロデューサー。ここで手を振るよりも手を差し伸べに行った方が」
「……それもそうだな。待ってろー! 今、迎えに行ってやるー!」
5 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/03(水) 17:10:36.99 ID:SK37WLJIo
瑞希に促されるままに、俺たちは流れゆく百合子と杏奈を救出するため動き出した。
そも、道行く人の流れに逆らって歩くというのは実に大変なことであり、
増水した濁流もかくやといった激しい人混みに件の二人はてんやわんや。
一つ所に立ち止まっているのは難しく、押し寄せる人々を華麗なステップで避けるだけのスペースなんかももちろん無い。
それでもなんとかかんとかと、杏奈の手を引く百合子が俺へと向けて伸ばした右手を取ってやれば、
まるで釣り人が竿を立てるように二人を人波から引き抜いて――そのまま飛び出した百合子が勢いを殺せず俺の胸へと転がり込む。
「きゃあっ!?」
「いてぇ!」
「ごっ、ごめんなさいプロデューサーさん! 私、すぐ、どきますから!」
ついでに足だって思い切り踏んでくれちゃって。
平謝りする百合子の後ろでは、肩で息をする杏奈が死んだ目をして立っていた。
その表情には見覚えがある。
厳しいダンスレッスンの後でグロッキーになってる時の彼女とおんなじだ。
6 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/03(水) 17:13:06.87 ID:SK37WLJIo
おまけに二人のよれた晴れ着と崩れた髪が、
ここに来るまでの道のりがどれほど過酷な物であったかを雄弁と俺に語っていた。
「二人とも、だいぶ揉まれたみたいだな……」と同情するように呟くと、
百合子が「も、揉まれた……って、痴漢なんかには遭ってません!」なんて顔を真っ赤に否定してきたものだから。
「なに? 百合子みたいな美少女を痴漢しないヤツがいるだって!?」
「されなかったからいいんですよ! と、言うか美少女だなんてそんな褒め過ぎな――」
「許せん! 実に許せんなぁ……瑞希!」
「はい」
「とりあえず揉んどけ。遅刻に対する罰としてもな」
「ラジャー、了解。……わきわき」
わざとらしく彼女をからかった後で、
遅刻したことに対する制裁を瑞希に任せて百合子に下す。
次の瞬間、テクニシャン瑞希の指捌きで脇腹を責められた百合子は大笑い。
悲鳴混じりの笑い声に、杏奈の瞳に光が戻る。
7 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/03(水) 17:15:37.27 ID:SK37WLJIo
「あ……百合子さん初笑い」
「冷静、だね! 杏奈ふひゃん!! あひゃ、あふふ……助けてよぅっ!」
「――しかし七尾さん。果たしてその判断は正しいのか」
助けを求めて叫ぶ百合子。だが、間に瑞希が立ち塞がる。
「今のアナタは望月さんを護る騎士(ナイト)。ここでギブアップしてしまえば、私の魔の手はなんと彼女に」
「な、なんですって!? そんな、卑怯な!」
「ふっふっふ、卑怯で結構。悪役にとっては褒め言葉だぞ」
二人がお馬鹿なやり取りをする横で、我を取り戻した杏奈は俺の傍までやって来ると。
「プロデューサーさん……。明けましておめでとうございます」
「ああ、おめでとう。今年もよろしくな、杏奈」
「はい。……あと、遅れちゃってごめん……です」
年始の挨拶を交わしたあとで、杏奈は遅刻に対する謝罪を述べた。
どうも瑞希が言った通り、二人はここに来るまでの間、
こちらに連絡を寄こす余裕が一切生まれなかったらしい。
8 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/03(水) 17:18:02.53 ID:SK37WLJIo
「街も、電車も、凄い人で。……一度は、百合子さんとも離れちゃった」
泣きそうな顔をしてそう言うと、杏奈が俺のコートの袖を掴む。
「だから、今日は杏奈……。プロデューサーさんと手を繋ぎたい、です」
「手を? 杏奈と……俺が?」
訊き返せば、彼女はこくりと頷いて。
「迷子になると、怖いから……ダメ?」
うるうる瞳でお願いされちゃ、振りほどくことなんてできやしない。
第一大切なアイドルに頼られて、その思いに応えられないようじゃあ"プロデューサーとして"失格だ!
「おし、これもまぁ仕事のうち。……でも杏奈、俺の手はちょっと冷たいぞ」
「ん、平気。……だったら杏奈が温めるね」
左手をそっと差し出せば、彼女の右手がきゅっと包む。
杏奈の手は苦難の旅路のせいかほんのりと汗ばんでいた。
そしてまた、そんなお姫様杏奈をここまで連れてきた騎士はと言えば。
「ならば……くっ、殺せ!」
「ほう、敵ながら天晴れな忠義」
「例え笑い死ぬことになろうとも、それで姫が助かるなら……!」
いつの間にやらプチ劇場。ノリノリな百合子の姿に俺はとある話を思い出す。
9 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/03(水) 17:19:20.90 ID:SK37WLJIo
とりあえずこんな緩い感じでここまで。そんな長い話にもならないです
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/03(水) 20:10:48.33 ID:o/Phh6aeo
おつ、期待
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/04(木) 04:29:04.05 ID:q/WWtDfuO
乙
瑞希はさすがお姉さんだぞ
12 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/01/04(木) 14:55:49.33 ID:7oQv1+Txo
「そういえばだ。実際、世界には笑い死にした人ってのがいるらしいな」
「ホント? プロデューサーさん」
「ああ、稀によくある感じのアレだ。もしも今日ここで百合子が息絶えたとしたら、珍しさから歴史に名を残すことになるぞ」
すると杏奈は心配そうに眉をひそめ。
「でも、それ、瑞希さんが殺人者に……」
「おお!」
指摘された俺は思わずポンと手を打った。
しかし、人を笑い殺したというのもそれはそれで珍しい。
俺たちの不謹慎なやり取りが聞こえたのか、百合子をこちょばし続ける瑞希が言う。
「プロデューサー。すると、これが本当の愉快犯?」
「おっ、上手いな」
「……くすっ」
「上手くないし、笑える話でもありませーん!」
思わずにやけた俺たちに、百合子が抗議の叫びをあげて即興劇は閉幕した。
瑞希の魔の手から逃れると、彼女は乱れた服装を直しながら、
「はぁ、もう、一生この場所に辿り着けないかと思ってたのに……着いたら着いたでこんな仕打ち」
「見事に流されてたもんな」
「そうなんです! 歩けども歩けども私の前の道は開けず――あっ!」
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