ギャルゲーMasque:Rade 加蓮√

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2 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:25:52.29 ID:w5LZSvi60


ピピピピッ、ピピピピッ

P「うぅーん……朝か……」

朝が来てしまった。

何故、朝はくるんだろう。

そもそも、朝が来たら起きなきゃいけないと誰が決めたんだろう。

そうだ、別に朝が来たからって起きなきゃいけないわけじゃない。

もう一眠りしよう。

「おはよー」

……もう一眠りしよう。

「P、寝てるの?」

聞こえない、何も聞こえない。

何か声がしたような気もするが、きっと本の妖精とかだ。

うちは古書店だし、居たっておかしくないだろう。

「……よーし、それじゃ今のうちに顔に落書きを……」

P「待て待て待て!起きてる、起きてるから!」

目を開ければ、目の前にはクレヨンが構えられていた。

俺を絵画にでもするつもりか。

あとなんでクレヨン持ってるんだ、画家志望か。

李衣菜「あ、やっぱり起きてるじゃん。おはよ、P」

ちょっと涙で滲む目を擦れば、制服姿の李衣菜が笑っている。

まったく、こいつはいつも勝手に俺の部屋に……

P「……待てよ?李衣菜が居るって事はもう時間が……」

李衣菜「あ、それなら大丈夫。私もPの朝ご飯に肖りに来ただけだから」

そうか、それなら良かった。

いや、良くない。

よくよく考えれば、なぜこいつはいつも当たり前のように朝食をたかりに来ているんだ。

李衣菜「あと美穂ちゃんも来てるよ。Pがちゃんと起きられるか心配だ、って」

そうか……美穂も起きるの苦手なのに……

李衣菜「あと朝ご飯食べに、だってさ。Pは料理上手いからね」

感動が少し薄れた。

いやまぁ、期待してくれてるのは嬉しいけど。
3 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:28:32.74 ID:w5LZSvi60


P「そういえば姉さんは?もう起きてたのか?」

李衣菜「文香さんなら、起きて本の整理してたよ」

それじゃ、さっさと四人分のご飯を作るとしよう。

P「……着替えるから出てくれると嬉しいんだけど」

李衣菜「了解!それじゃー下で待ってるから」

バタン、どんどんどんどん。

李衣菜が降りていった音がする。

さて、俺もさっさと着替えないと。

今日は二年生になって初めての登校日だ。

クラス替えもあるし、そこそこピシッと決めて……

がちゃ

美穂「Pくん。ちゃんと起きてます……か……」

パンツ一丁の状態で、美穂と目が合う。

P「……おはよう、美穂」

美穂「……し、失礼しましたっ!!」

バタンッ!!ドンドンドントン!

……逆だったら嬉しかったのに。

そんなアホなことを考えながら、俺は着替えを終えて一階へと降りた。

4 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:29:59.08 ID:w5LZSvi60



文香「おはようございます、P君。さ、はやく朝食の準備をお願いします」

歯を磨いて顔を洗ってリビングへ行くと、文香姉さんが椅子に座って朝食をまだかまだかと待っていた。

従姉妹である文香姉さんが、下宿先としてこの古書店に来て一年。

つまり父さんが家を空けて一年経つわけだけど、そろそろ自分で朝食を作ってくれてもいい気がする。

それを話しちゃったせいで、李衣菜と美穂もうちに来るようになった訳だし。

寮に一人暮らしの美穂は分かるが、なんで李衣菜も……

P「はいはい。適当に卵焼きと味噌汁でいいよな」

美穂「あっ、わたし手伝います!」

そう言う美穂と目が合う。

……顔を赤らめて目を逸らされてしまった。

さっきの光景は早急に忘れて貰わないと。

P「いやいいよ。一応はお客様な訳だし」

李衣菜「あー、折角私も手伝おうと思ってたんだけど、Pがそう言うなら座って待ってようかな」

P「お前は手伝え」

李衣菜「ちょっとちょっと、美穂ちゃんと扱いが違い過ぎない?!」

それはまぁ付き合いの長さもあるし。

美穂と違って、李衣菜とは小学から一緒だからな。

文香「……私は、李衣菜さんの料理も大好きですよ?」

李衣菜「文香さんにそう言われちゃったら、私も頑張るしかないですね」

P「おい、俺と反応が違い過ぎないか?」

そんな会話をしつつ、李衣菜と朝食を作る。

実際、李衣菜もかなり料理がうまい。

いい家庭で育ったんだろうな、確か李衣菜の家ってそこそこ大きかった気もするし。

なんて考えている間に、朝食が完成した。
5 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:31:11.94 ID:w5LZSvi60


P「姉さん、食器並べて貰っていい?」

文香「……働かざる者食うべからず。労働を対価とした家族関係、と言うことですね……分かりました」

P「いやそこまで言うつもりはないけどさ……」

時折、文香姉さんが頭良いのか悪いのか分からなくなる。

少なくとも面白い人だと言うことは分かるが。

P「それじゃ」

美穂・李衣菜・文香・P「「いただきます」」

美穂「……美味しいです。Pくんは本当に料理が上手ですね」

李衣菜「うん、美味しいお味噌汁。これなら何処に婿に出しても恥ずかしくないね」

文香「……神に感謝致します」

P「いや俺に感謝してくれよ姉さん……」

わいわいがやがや、楽しい会話を交えつつ朝食をとる。

ほんの一年前だったら信じられない光景だ。

父さんと二人きりの食卓は、大して楽しいものじゃなかったし。

李衣菜「また三人で同じクラスだといいね」

美穂「ですね。折角二人と仲良くなれたんですから」

P「だな。せめてクラスに男子が何人かいるといいんだけど……」

うちの高校は去年から共学になった。

それまでは女子校で、現在もそこまで男子が多い訳じゃない。

去年クラスに男子が一人もいなかった時は良い感じに絶望した。

俺はなんでこの高校を選んでしまったんだろう、と。

まぁ自分の学力的に丁度なレベルだったし、李衣菜もいたからなんとかなったけど。
6 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:32:03.68 ID:w5LZSvi60


文香「……さて、すみません。私はそろそろ大学に向かいますので……」

P「食器は洗っとくからいいよ、姉さん」

文香「では、お言葉に甘えて」

文香姉さんが食器を流しに置いて、荷物を取りに自室へと消えてゆく。

李衣菜「それにしても、ほんと文香さん綺麗だよね。Pも良かったじゃん、あんな綺麗な人と二人で暮らせるなんて」

P「最初は驚いたけどな。まぁ一人で暮らすよりは楽しいよ、古書店も今は姉さんありきだし」

美穂「あっ、のんびりしてるけど時間大丈夫ですか?」

李衣菜「あ、あと10分くらいで出ないとまずいかも」

P「んじゃ、片付けは俺がやっとくから」

李衣菜「……P、あの時計合ってる?」

P「確か10分くらい遅れてるぞ」

美穂・李衣菜「……」

P「……はよ行け。俺は走ってくから」

李衣菜「サンキュー!また学校で!」

美穂「Pくん、このお礼は必ずしますからっ!」

どたどたと二人が荷物を持って出て行く。

さて、俺もさっさと片付けて家を出ないと。


7 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:33:08.36 ID:w5LZSvi60



P「はっ、はっ、ふぅ」

普通に時間がまずい事になっていた。

多分このペースで走ればギリギリ間に合うだろうが、新学年一日目に息を切らして教室にはいるのはそれなりに恥ずかしい。

これでまた女子しかいなくて李衣菜と美穂と別クラスだったら、今年一年俺の居場所はあるだろうか。

いざとなったら、また道で困っていた女の子を助けて遅れた事にしよう。

ドンッ!!

P「うわっ!」

「きゃっ?!」

なんて考えながら走っていたら、右から出てきた女の子にぶつかってしまった。

お互いバランスを崩し、その場に尻餅を着く。

運が悪い事に、女の子のカバンから荷物がばらまかれてしまっていた。

……よし、丁度いい。

遅刻の言い訳が出来た。

P「ごめんっ!大丈夫?」

彼女の荷物をパパッと集めて渡しながら、尻餅をついたままの彼女に手を差し伸べる。

それにしても、まさかこんな漫画みたいな出来事があるなんて。

今年一年で、なんか運命的なサムシングがあるといいなぁ。

「だ、大丈夫です……うふふっ」

どうやら女の子の方も怪我は無さそうだ。

制服を見れば、うちと同じ高校生。

見た目的に同学年だろうか。
8 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:35:15.52 ID:w5LZSvi60


P「ノートとか折れてないといいんだけど」

「大丈夫だと思いますよ。ありがとうございました」

P「にしても……同じ高校だよね?時間大丈夫?」

「はい、狙い通りですよぉ」

狙い通り、とはどういう事だろうか。

彼女もまた遅刻の理由を作りたがっていたのだろうか。

まぁともかく。俺も彼女も遅刻は確定だろうし、のんびり向かうとしよう。

P「君は何年生?」

「まゆは二年生です。貴方も、ですよね?」

P「ん、俺の事知ってるの?」

「何度か見かけた事はあります。そもそも、男子生徒が少ない学校ですから」

P「それもそっか。名前聞いてもいい?俺は鷺沢」

まゆ「鷺沢さん……私は、佐久間まゆです。末永くよろしくお願いしますね?」

佐久間さんとおしゃべりしながら、のんびり学校に向かう。

こんな可愛い女の子と登校とか夢みたいだ。確かうちの学校はリボンとか禁止だけど。
9 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:36:43.50 ID:w5LZSvi60


P「去年は何か部活とかやってたの?」

まゆ「いえ。まゆは読モをやってるんです」

まじか、強い。

怪我させなくて本当に良かったと内心ため息をつく。

モデルさんに怪我させたらどうなってしまってたんだろう。

代わりに俺が読モをやる事になっていたんだろうか。

まゆ「鷺沢さんは、何かやってるんですか?」

P「俺は家の仕事の手伝いがあったから。うち古書店なんだ」

まゆ「古書店……素敵です」

P「っと、そろそろ着くか。折角だし同じクラスになれると俺としては嬉しいんだけど」

まゆ「ですねぇ。まゆも、鷺沢さんともっと仲良くなりたいです」

結局、俺は校門で生活指導の先生に怒られた。

言い訳しようとしたが、別にそんなの関係なく遅刻は遅刻だった。

佐久間さんは上手く躱している。

そして、クラス分けのプリントを受け取る。

P「……よしっ!!」

二年B組の欄に、自分の名前と李衣菜と美穂と佐久間さんの名前を見つける。

まゆ「同じクラスでしたね。まゆ、嬉しいです」

P「改めて、今年一年よろしくな」

まゆ「はい」

10 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:38:27.00 ID:w5LZSvi60



李衣菜「やったじゃん、P。今年度もよろしくね」

美穂「よろしくお願いします、Pくん」

まゆ「……彼女達は……?」

P「去年からのクラスメイト。佐久間さんの前の席が小日向美穂で、なんか元気そうなのが多田李衣菜」

まゆ「私は佐久間まゆです。よろしくお願いしますね?」

李衣菜「……P、この短時間で遅刻しながらナンパしてたの?」

美穂「わぁ、可愛い……」

まゆ「ふふっ……まゆは、 鷺沢さんと運命的な出逢いを……席まで隣だなんて……」

P「担任は……千川先生か。文化祭はまた黒字確定だな」

時刻は8時30分。

既に教室の席は殆ど埋まっていた。

やっぱり全員女子だった、つらい。

女子が多いのは嬉しいけど限度がある、俺は三毛猫かよ。

ガラガラ

教室の全員の目が、開いたドアの方に集中する。

智絵里「す、すみません……遅刻しちゃいました……」

入って来たのは、先生ではなく女子生徒だった。

男子生徒だったら嬉しかったのに。

P「……ん、緒方さんか。まだ先生来てないから大丈夫だよ」

智絵里「……はい……」

遅刻してきたのは、緒方さんだった。

そんなに喋った事はないが、去年も同じクラスだったから苗字だけは覚えている。

そのまま視線を集めてしまった事に恥ずかしそうになりながら、緒方さんは俺の右側の席に着いた。
11 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:39:56.71 ID:w5LZSvi60


再び、教室のドアが開く。

ちひろ「おはようございます、B組のみなさん。今年一年あなた達の担任になった千川ちひろです。よろしくお願いしますね?」

両手を合わせて、可愛らしく挨拶する千川先生。

教室からちらほらとお願いしまーすの声が上がる。

ちひろ「それでは、早速体育館に向かいましょうか。校長先生のありがたいお言葉を聞きに行きます」

李衣菜「放送で済ませてくれればいいんですけどねー」

ちひろ「それは教員一同もきっと同じ気持ちで……ごほんっ!さ、早く廊下に並んで下さい」

P「あー、また俺が男子一人だから一番前かー……」

ちひろ「あ、鷺沢君は始業式が終わったらお話があります」

なんでさ。

P「え、遅刻者への処罰ですかっ?!」

ちひろ「……初日から遅刻したんですか?」

P「……千川先生、俺は今日先生より早く教室に居ましたよ」

ちひろ「私は今日、鷺沢君より早くこの学校に居ましたが」

P「お勤めご苦労様です」

ちひろ「……と、まぁ遅刻は関係ないお話ですから。貴方に心当たりさえなければ、特に何かの注意という訳ではありません」

そう言われても、なんとなく緊張してしまう。

唐突にこの学校を女子校に戻すから性転換しろとかだったらどうしよう。

俺はまだ男子でいたいのに。

ちひろ「では、静かに歩いて下さいね」

P「千川先生、歩くって漢字は少し止まるって書くらしいですよ」

ちひろ「その謎知識は今必要でしたか?」

美穂「し、静という漢字は青を争うですねっ!」

ちひろ「貴女は何を争ってるんですか?早く体育館に向かって下さい!」

12 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:41:06.45 ID:w5LZSvi60


美城校長のながったらしいポエミーな話を終え、教室に戻る。

そのまま教科書やプリント等を配布して、今日は終わりとなった。

クラスのみんなが帰って行く。

美穂と李衣菜は、二人でお昼を食べに行くらしい。

P「……で、俺は何を謝ればいいんでしょうか……」

ちひろ「その必要はありません。寧ろ、お願いをするのは此方なので」

……やっぱり性転換しろ、だろうか。

流石に断りたいが。

ちひろ「このあと、まだ時間はありますか?」

P「まぁ、はい。夕方までに帰れれば問題はありませんが」

ちひろ「そのですね……北条加蓮さんはご存知ですか?」

P「……確か、窓際の列の真ん中らへんの……それが何か?」

ちひろ「彼女、少し身体が弱くて去年一年殆ど学校に来れてないんです」

P「……それは……」

そう言えば、去年の一学期は教室の一席がずっと空席だった気がする。

その席も二学期からは消えていたが。

確かに、それは全員がいる前ではし辛い話だ。

ちひろ「なので、教室の案内や何か困ってる時は彼女をサポートしてあげて欲しいんです」

そして、唯一の男子である俺に頼んできた理由もなんとなく分かる。

女子に頼むなんて、かなりリスキーだからな。

P「構いませんよ」

ちひろ「では、今から早速お願いします」

P「え、今からですか」

がらがら、と一人の女子生徒が入ってくる。

恐らく彼女が北条さんなんだろう。

加蓮「……よろしく、お願いします」

P「……あぁ」

……目がめちゃくちゃ怖い。

いや頼んでないんだけど?と目が語っている。
13 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:42:22.52 ID:w5LZSvi60


P「……取り敢えず、授業で使う教室を案内するから」

千川先生は既に教室からいなくなっていた。

もんの凄く居心地が悪い状態で、北条さんと廊下へ出る。

P「えっと、体育で着替える時は女子はA組の教室を使う事になってるから」

加蓮「アタシどうせ体育は参加できないんだけどね」

早速心が折れそうだった。

P「んで、この丁度一個下が保健室になってる」

加蓮「知ってる、常連だったから」

保健室マイスターかな?

加蓮「結局、そもそも登校すら出来なくなっちゃってたけど」

口にしなくてよかった。

と言うか北条さん、俺の想像以上に身体が弱いらしい。

そのままコンピュータールームや化学室など、半分くらいの教室を案内する。

面白いくらい会話はなかった。

P「さて、次は……」

加蓮「あ、アタシ定期検診の時間だから。さよなら」

そう言って、北条さんは帰っていった。

俺は一人、食堂前に立ちすくむ。

……これは確かに、他の女子に頼まなくて正解ですよ千川先生。

P「……何か食べて帰ろ」

食堂の営業時間は終わっていた。

14 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:43:25.13 ID:w5LZSvi60




P「ん、佐久間さんじゃん。まだ帰って無かったの?」

まゆ「あ、鷺沢さん。お疲れ様です」

校門を出ると、佐久間さんが立っていた。

まゆ「折角ですから、一緒にお昼ご飯食べに行きませんか?」

P「ん、いいよ。近くのファミレスとかにする?」

まゆ「まゆは構いません。それでは、行きましょうか」

歩いて5分くらいの距離のファミレスへ向かう。

まゆ「ふふっ、デートみたいですね」

P「だな」

桜並木の下校道を、読モやってる女の子と並んで歩けるなんて。

……これ、料金発生したりしないだろうか。

ファミレスに入った瞬間にとんでもない額を請求されたらどうしよう。

手持ちで足りるといいんだけど。

ピポピポピポーン

ファミレスに入り、四人席に二人で着く。

請求書は出て来なかった、良かった。

P「佐久間さんは決まった?」

まゆ「まゆの心は既に決まっていますよぉ」

ファミレスのメニューにかなりの拘りを持った女の子なのだろうか。

P「メニュー見なくていいの?」

まゆ「下調べは鷺沢さんを待ってる間に済ませてありますから」

ファミレスのメニューを下調べしちゃう系女子なのか。
15 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:44:58.46 ID:w5LZSvi60


ピンポーン。

P「すみません、ペペロンチーノひとつ」

まゆ「それとミラノ風グラタンをひとつでお願いします」

店員「かしこまりましたー」

待っている間に、佐久間さんと色々話す。

P「去年確かそっちのクラスって体育祭1位だったよな」

まゆ「はい、まゆはあまり走るのは得意ではないですけど」

言ってはアレだがなんとなく想像通りだ。

まゆ「……想像通り、って顔してますよ?」

P「え、あ、そんな事ないよ!あれでしょ?走るのは得意じゃないけど障害物リレーは得意的なやつでしょ?!」

まゆ「確かに、まゆは障害物を取り除くのは得意ですよぉ。まゆのこと、よく分かってくれてるんですね。嬉しいです」

障害物リレーは障害物を取り除く競技だっただろうか。

障害物リレーは出場してなかったから知らなかった。

まゆ「鷺沢さんは運動は得意なんですよね?」

P「まぁそこそこね。人並みには動けると思うけど」

まゆ「今は、従姉妹の鷺沢文香さんと二人暮らしなんですね」

P「うん、父さんは一年前から『全国巡って古書集めてくる』って言って旅してる……らしい」
16 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:46:19.55 ID:w5LZSvi60


まゆ「普段は李衣菜ちゃんや美穂ちゃんと行動してて、特に李衣菜ちゃんとは小学校からの付き合いなんですよね」

P「佐久間さん副業で探偵とかやってるの?」

まゆ「名探偵佐久間……響きは悪くありませんが、外れです。まゆも、もうあのお二人ともう友達なんですよ」

P「俺が言うのはなんか変だけど、あいつらと仲良くしてくれると嬉しいな」

まゆ「ふふっ、もちろんです」

俺も、早速新しい友達が出来て良かった。

二年生にもなると既にグループ的な物が出来上がってるし、元クラスメイト以外に話し掛けるの難しいからなぁ。

俺以外全員女子だし特に。

店員「お待たせしましたー。ペペロンチーノとミラノ風グラタンになります」

P「お、きたきた」

まゆ「鷺沢さんは、ペペロンチーノが好きなんですかぁ?」

P「うん」

あと安いから。

とは、女の子の手前口にはしないけど。

楽しく食事をして、支払いは此方に任せて貰った。

まゆ「明日からもよろしくお願いしますね?」

P「あぁ。それじゃまた明日、佐久間さん」

まゆ「呼び捨てでもいいんですよ?」

P「んじゃ、佐久間で」

まゆ「まゆでお願いします」

P「そっち呼び捨てってなんか恥ずかしくない?」

まゆ「美穂ちゃんや李衣菜ちゃんは呼び捨てですよね?」

P「付き合い長いってのもあるけど……じゃ、また明日な、まゆ」

まゆ「……ふふっ。またね、Pさん」


17 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:48:20.85 ID:w5LZSvi60



家に帰ると、店が開いていた。

文香姉さんはもう帰って来ているようだ。

P「ただいまー」

文香「お帰りなさい、P君。お客さんが来てますよ」

誰だろう。

文香姉さんが名前を言わないと言うことは、李衣菜でも美穂でもないんだろう。

だとすると誰だ?

他に俺に客なんて来るだろうか。

……なんだか哀しくなってきた。

レジを抜けてリビングへ行くと、うちの制服を着た子が座っていた。

智絵里「あ……えっと……こんにちは、鷺沢くん」

P「ん、緒方さんじゃん。何かあった?忘れ物届けに来てくれたとか?」

智絵里「その……すー……ふぅー……」

そのまま大きく深呼吸。

なんだろう、彼女を怒らせるような事をしてしまっていただろうか。

だとしたら、きちんと謝らないと。

智絵里「あの……っ!わ、わたしと……つ、付き合って下さい!」

P「ごめんなさい!」

智絵里「え……ぁ……」

P「あ、えぇっとごめん!なんか悪い事しちゃってたのかなって!えっと、付き合う……?」

智絵里「その……わたしと、付き合って下さい……って、告白……」

え、付き合って、という告白?

それとも告白に付き合って、という事だろうか。

頭に大量の疑問符を浮かべる。

18 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:49:52.75 ID:w5LZSvi60


智絵里「……の、練習に……です」

俺の理解力の無さに呆れたのか、緒方さんは悲しそうな表情をした。

智絵里「……はぁ……」

P「なるほど。告白の練習ね」

泣いてはいない。

告白の練習、うん、確かに大事だとは思う。

確かにうちの高校は男子が少ないし、そんな事を頼める相手は限られているだろう。

ただし、頼まれた方の精神状況は考えないものとする。

P「構わないよ。うん、全く構わない」

智絵里「やった……えっと、なら……今週の金曜日に、6時間目が終わったら……屋上に来て下さい」

P「了解、必ず付き合うよ」

智絵里「……えへへ……」

P「あ、折角わざわざ来てもらっちゃったんだし何かお菓子でも」

智絵里「い、いえ……大丈夫、です。そこまでして貰わなくても……」

文香「……お話は、済みましたでしょうか……」

P「ん、どうしたの姉さん」

文香「丁度叔父さんから荷物が届けられたので、手伝って頂こうと……お邪魔してしまった様ですね」

智絵里「い、いえ。わたしは直ぐに帰りますから」

P「そっか。それじゃまた明日ね、緒方さん」

智絵里「はい……っ!」

そう言って、緒方さんは帰っていった。

さて、それじゃ俺は父さんから送られて来た本を運ばないと。

19 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:51:10.36 ID:w5LZSvi60


李衣菜「やっぱり学年上がりたては良いよね、授業無くて」

美穂「帰ってお昼寝出来る時間で終わるからね」

P「お疲れー、また明日な」

翌日も、授業説明等で午前中で終わった。

李衣菜「Pはこの後予定ある?」

美穂「Pくんも一緒にお昼ご飯どうですか?」

P「あ、悪い。ちょっと用事があるんだ」

李衣菜「そっかー、それじゃ行こっか。美穂ちゃんは何食べる?」

美穂「あ、それなら新しくできたカフェが気になってて……」

皆んなが教室を出ていった後、北条さんの元へ向かう。

物凄い仏頂面でスマホを弄っていた。

校舎内はスマホの使用禁止だぞ、と言える雰囲気ではない。

P「昨日案内できなかったとこ、案内するから」

加蓮「……行かなくて良かったの?折角の女の子からのお誘いだったのに」

P「先生から頼まれてるから」

加蓮「……ふーん」

そのまま、無言でついてくる北条さんを連れてプールや別の校舎を案内する。

P「あと科学はクラス分かれてて、多分北条さんは出席番号的にこっちの教室使うことになってると思うから」

加蓮「……」

P「……あと、この廊下の突き当たりが図書室。多分古文とか漢文やるとき使うことになるんじゃないかな」

加蓮「……本、ね。入院中にずっと読んでたかな」

空気が、重い。
20 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:52:07.34 ID:w5LZSvi60


P「……北条さん、本は今もよく読むのか?」

加蓮「は?別に今そんな事どうでもよくない?」

……怖い。

年頃の娘を持った父親は毎日これに耐えているのだろうか。

そんなことで睨まなくてもいいんじゃないかなあ。

P「いや、俺の家が古書店だからさ。もしよかったら図書室にない本もあるし、と思って」

加蓮「へー、古書店ね……」

……お?

なんだかここから話を広げられる気がする。

加蓮「でもま、今はあんまり読めてない。一年生の時の分の復習もあるし」

P「そっか。まぁなんか読みたくなったら来てくれよ。うちの図書室は貸し出し2冊までだし」

加蓮「……なんていうか、アレだね鷺沢は」

P「バカとでも言いたいのか?残念ながら大正解だぞ」

加蓮「自覚はあるんだ」

P「自覚ある意識高い系由緒正しいバカだ。そんじょそこらのバカとは一緒にするなよ」

加蓮「……ほんと、珍しいタイプのバカだね」

P「昼飯はどうする?ここの食堂結構美味しいぞ」

加蓮「ううん、いいや。アタシ今日も検診あるから」

P「そっか。んじゃまた明日な」

加蓮「……うん、また明日」

21 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:53:51.01 ID:w5LZSvi60



さて、まだ14時前だが正直そんなにお腹は空いていない。

夕飯の食材買って家で読書でもしてようか。

李衣菜「あれ、Pじゃん。何してるの?」

美穂「あ、もう用事は済んだんですか?」

P「ん、李衣菜に美穂か。用事終わったから買い物して帰ろうかなって」

李衣菜「だったら、一緒にゲームセンターでも行かない?」

美穂「さっきUFOキャッチャー1回無料券を貰ったんで、挑戦しに行くところなんです」

P「あ、ならそうしようかな。急いでるわけでもないし」

李衣菜と美穂に連れられ、三人でゲームセンターに向かう。

李衣菜「最近は案外三人で遊びに行く事なかったからね」

P「春休みは色々忙しかったからな。美穂も実家に戻ってたし」

美穂「すみません、わたしが居なかったせいで寂しい思いをさせちゃって……」

李衣菜「私達はペットか何かなの?!」

P「そんな深刻そうに俯かれると本気でそう思われてそう感でて辛いなぁ!」

美穂「ふふ、冗談です。わたしが居ない間に、二人きりで沢山春を満喫出来てましたもんね?」

李衣菜「美穂ちゃん美穂ちゃん、なんかキャラ違くない?」

P「でもま、満面の笑顔だし良しとしよう」

美穂「そうです、一々俯いてなんていられません!上を向いて歩こう対決です!」

李衣菜「歩きスマホ禁止を謳っていく!」

P「仰向きになれば最強だな!」

李衣菜「Pは仰向きで歩けるの?!」

22 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:54:49.95 ID:w5LZSvi60


アホな会話をしているうちに、気付けばゲームセンターに到着していた。

李衣菜「さーて、一丁獲りますか!」

美穂「李衣菜ちゃん、必ずゲットして下さいね?」

P「一回で取れるもんなのか?」

美穂「Pくんもどうですか?わたしの分の無料券がありますから」

P「ん、いやいいよ。それは美穂が使いなって。俺はちょっと両替してくるから」

両替機まで向かい、野口を小銭に交換する。

そして二人の元へと戻ると、二人とも死んだような表情をしていた。

李衣菜「掠りすらしなかった……」

美穂「きちんと引っかかった筈なのに……」

まぁ、UFOキャッチャーってそういうものだし。

P「よし、後は俺に任せろ」

500円を入れて6クレジット。

出来ればカッコよくこの6回でキメたい。

李衣菜「ファイトーPー!」

美穂「頑張って下さい、Pくん!」

P「よし、あと500円追加だ!」

李衣菜「もっと右右!」

美穂「あっ、引っかかったのに……!」

李衣菜「センスないなー」

美穂「あ、今髪の毛一本分くらい動きました!」

P「応援する気ないだろ二人とも」
23 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:55:31.63 ID:w5LZSvi60


結局、1500円かかってしまった。

取れたのはクマのぬいぐるみだ。

男子高生が何をムキになってクマのぬいぐるみを捕獲していたのだろう。

P「……美穂か李衣菜、いる?」

プレゼントするのが一番良いだろう。

持ち帰ったところで絶対押入れの肥やしにしかならない。

李衣菜「私は別にいいかな。美穂ちゃん貰っちゃえば?」

美穂「えっ、良いんですか?Pくん、クマのぬいぐるみ無くて大丈夫ですか?!」

P「えそんな必須アイテムなのか?クマのぬいぐるみって」

美穂「夜寝るとき、寂しくなったり……」

男子高校生が夜の寂しさをクマのぬいぐるみで紛らわすって、なかなかヤバイんじゃないだろうか。

美穂「なら、貰っちゃおうかな。ありがとうございます、Pくん!」

この笑顔で1500円は超お買い得だったと言えるだろう。

李衣菜「さーて、折角久しぶりに三人で遊んでるんだしプリクラでも撮ってく?」

美穂「え、Pくんとクマ君とわたしの三人でですか?!」

李衣菜「それを私が提案すると思う?!」

P「そもそもクマなのに人換算なのか」

結局、三人でプリクラを撮った。

なんやかんや、やっぱりこの二人と一緒にいると居心地が良い。

あっという間に時間が過ぎてしまう感じだ。

その後はゾンビを撃つゲームやエアホッケーをやって。

だから、夕方のバーゲンを逃してしまったのは仕方のない事だと言い訳させて貰おう。

24 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:56:38.14 ID:w5LZSvi60




文香「……と、言うと思っていたので、今日は私が買い物に行っておきました」

P「ありがと姉さん」

文香「こちらこそ、いつも買い物をして下さっていてありがとうございます」

……文香姉さんが優しい。

何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう。

文香「……はぁ。顔に出てますよ、P君」

P「え、ごめん」

文香「謝られる方が辛いのですが……ごほんっ、P君がまた彼女さんを連れてきた場合、私としても良き姉として振る舞いたいですから」

え、何その謎の心遣い。

P「……って言うか、また?俺に彼女……?」

文香「……違ったのですか?先日の、緒方さんと言う女の子は……」

P「あ、別に緒方さんとは付き合ってる訳じゃないから」

文香「……はぁ。早く夕飯の支度をお願いします」

検討違いだったからか、文香姉さんはため息をついた。

ちなみに買ってきてくれていた野菜は割と傷んでいた。



25 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:57:46.95 ID:w5LZSvi60




加蓮「で、学校案内も今日で終わりなんだよね」

P「あぁ、多分」

北条さんが検診で帰っていた為、結局学校案内は三日に及んでしまった。

加蓮「お疲れ様。アタシなんかを案内するなんて重労働、大変だったでしょ」

P「まぁな、その分やり甲斐はあったよ」

加蓮「せーせーするよ、折角の放課後の時間を無駄に過ごすのも終わりだからね」

P「まぁまぁ、それもお互い様って事で」

嫌味なんて知ったことか。

こっちもそこそこ本音で返させて貰おう。

加蓮「はぁ……アンタ相手になんかムキになるなんて、アタシの方がバカみたい」

P「ようこそバカの世界へ。俺は歓迎するぞ」

加蓮「……ねぇ、なんで?」

P「え、歓迎会はナンでしてほしいのか?」

加蓮「張っ倒すよ」

P「へいへい……ま、なんか分かんない事あってクラスに馴染めなかったら大変だろ?」

加蓮「バカみたい。アタシは別に、馴染むつもりなんて……」

P「友達はいた方がいいぞ、一人でもな。一人ぼっちってしんどくないか?」

加蓮「……そんなの、分かってるけど……」

P「ま、ただそれだけだよ。あとほら、人に親切して徳を積む的な。なんだ?裏か下心でもあるんじゃないかと勘繰ってたのか?」

加蓮「え、何?私警察呼んだ方がいい流れ?」

……北条さんも、バカな事言えるんじゃないか。
26 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:58:49.13 ID:w5LZSvi60


P「そんな下らない会話出来る相手って、とても大切なんじゃないかなって。その方が楽しいだろ?」

加蓮「今まで相手に恵まれなかったからね。そもそも友達になる程何度も会うのが難しかったし」

P「三回じゃ足りなかったか?」

加蓮「……え?」

P「……え、この三日で俺割と北条さんと仲良くなれたと思ってたんだけど。北条さん的にはまだ他人以上友達未満な感じ?」

加蓮「……まだ、足りないかな」

ダメだったか。

俺の友好関係は片思いだった様だ。

加蓮「そうだね……まず、さんは外す事。それから、これから私のお昼ご飯に付き合う事。そしたらきっと、友達にランクアップ出来るんじゃない?」

P「会員カードみたいなシステムだな」

加蓮「有効期限は最終利用日から三日間だよ」

P「連休挟んだら友好関係やり直しか……」

加蓮「届け出が出されてれば考慮してあげる」

P「忘れない様努力はするよ」

加蓮「……はぁ。私ほんと、何意地になってたんだろ。あーポテト食べたい!」

P「学食行こうぜ。ここのポテトあれだぞ、あのグルグルしてる北条の髪型みたいなやつ」

加蓮「アンタ誰?」

P「折角貯めた友好ポイントが!!」

27 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:00:07.80 ID:w5LZSvi60



そして、ついに金曜日がやってきた。

金曜日という事は。

李衣菜「……今日、6時間目まであるんだよね」

美穂「Zzz……」

P「帰りたい……午前中で終わりな昨日までに帰りたい……」

そう、6時間目まであるのだ。

帰って寝たい欲が非常に高まってきた。

……いや、そうではなくて。

李衣菜「本当に新学年始まったなーって感じするよね」

美穂「Zzz……」

まゆ「美穂ちゃん、1時間目からずっと寝てますねぇ……」

P「4時間目の終わり頃に空腹で起きるだろ」

美穂「……んん……寝てません……寝て……」

李衣菜「録音したくならない?」

P「後が怖いからやめとこ」

まゆ「本当に仲が良いんですねぇ、三人は」

智絵里「……あの、鷺沢く

ガラガラガラ

ちひろ「はい、現代社会の時間ですよ。最初の章は日本経済についてーー」

28 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:00:57.57 ID:w5LZSvi60


美穂「はっ!フォッサマグナ!!」

李衣菜「あ、美穂ちゃん起きた」

P「おはよう美穂。もう6時間目も終わったぞ」

まゆ「もうすぐ帰りのHRですよ」

美穂「そんな……あれ?なのにわたし、お腹すいてない……?」

李衣菜「寝てる間にまゆちゃんのサンドイッチ食べてたよ」

まゆ「小動物みたいで可愛かったです」

P「ほんと美味しかったよな、まゆのサンドイッチ」

まゆ「ふふっ、作ってきた甲斐がありました。さて……Pさん、一緒に帰りませんか?」

P「ん、あー……」

智絵里「……鷺沢くん、待ってますから」

ガラガラガラ

P「悪い、先約があってさ」

まゆ「そうですか……なら、仕方ありませんね」

加蓮「……」



29 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:01:56.99 ID:w5LZSvi60



屋上へ向かう。

そう言えば、天気予報で今日は夕方から雨となっていたが大丈夫だろうか。

ガラガラガラ

屋上の扉を開ける。

その先には緒方さんが一人で立っていた。

一瞬だけ、目を奪われる。

いつもは教室で一人静かに、特に誰かと話すわけでもなく過ごしている緒方さん。

そんな彼女の、当たり前ではあるが初めてみる……待ち焦がれている様な表情。

たった一人でこの広い屋上に立ち、待ち人に想いを馳せている様な、そんな顔。

こんなにも、儚そうな。

こんな可憐な少女だったんだな。

智絵里「……あ……来て、くれたんですね……Pくん」

P「待たせてごめん。四月とは言えまだ寒いよな」

智絵里「いえ……寒さなんて全然感じませんでした」

場違いと言うか、むしろ何を言っているんだとなりそうだが。

まるで本当に、想い人を待っていたような反応をする緒方さん。

30 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:02:45.55 ID:w5LZSvi60


智絵里「えっと……今日は、わたしに付き合ってくれてありがとうございます」

P「大切な事だからな。想いを伝えるのって」

彼女が頑張って勇気を出そうとしているのなら。

俺もしっかり練習に付き合ってあげたい。

ただし、俺の気持ちは考えないものとする。

智絵里「……緊張……しますね……」

分かる。

智絵里「いい、ですか……?」

P「あぁ、いつでもドンと来い」

智絵里「その……きっとどんなに考えてもその時になったら緊張して忘れちゃうかなって思って、ちゃんと手紙に書いて来たんです」

ラブレターか。

さながら推敲を兼ねた朗読会だ。

智絵里「では……伝えます……!」

ラブレターを広げ、息を吸い込む緒方さん。
31 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:04:06.86 ID:w5LZSvi60


智絵里「……鷺沢くん!わたし、入学式のあの日から……ずっと、貴方の事を想ってきたんです」

そう、綴った想いを言葉に、自分の口で伝えようとする緒方さんは。

真っ直ぐな目をして、俺を見つめて。

本気で、目を奪われた。

智絵里「授業中、先生の話を聞かずに本を読んでる、そんな横顔も。体育の時に女の子にカッコ良い所を見せようとして転んじゃう、そんな姿も。わたしは、ずっと……そんな貴方を、目で追ってました」

空はどんどん黒く分厚くなってゆく。

ゴロゴロと雲から重い音が響いてくる。

それでも、緒方さんは。

精一杯、言葉を届けようとしていて……

智絵里「貴方は、相手が誰でも優しく分け隔てなく仲良くしてくれる人で、大きな優しさで包み込んでくれる様な人で……こんなわたしにも、声を掛けてくれて!とっても、嬉しかったです……っ!」

……これは、この彼女のラブレターの相手は……

P「……なぁ、緒方さん。本当に練習なんだよな?」

智絵里「はい……今はまだ、練習です。そう言って、鷺沢くんに来て貰ってるから……」

風が強く吹き上手く聞き取れなかったが、気になっていた事は把握出来た。

良かった、変な勘違いで恥をかく前に確認出来て。

一瞬本気で自分の事だと思ってしまった。

だとしたら、彼女の手にしているラブレターは練習用のものという事か。
32 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:05:11.17 ID:w5LZSvi60


智絵里「いつか貴方に、きちんと伝えなきゃ、伝えなきゃ、って……でも、なかなか勇気が出せなくて……わたしの名前すら覚えてくれてなかったらどうしよう、って……」

ピシャァァァァン!と遠くで雷の音がした。

そろそろ、本当に雨が降って来そうだ。

智絵里「そのままクラス替えになっちゃって……でも、またおんなじクラスだったから……わたしも、決心したんです……!」

ぽつ、ぽつ。

雨が降り始めた。

でもそんな事なんて一瞬で思考から消えるくらい。

俺は、緒方さんの言葉に呑まれていた。

智絵里「……鷺沢くん!わたし、貴方のことが……えっと、その……貴方の……ことが……わたしは……」

そこで、緒方さんの言葉は痞えてしまった。

その先は、告白のメインとなる言葉なのだろう。

それを口にするのは、練習とは言えとても勇気が必要だという事は分かる。

彼女は必死に口にしようとして、止めようとしてはまた口を開いてを繰り返した。

P「……雨、強くなる前に戻ろう。また幾らでも付き合うからさ」

智絵里「……ごめんなさい……わたし、練習すら……ううん……練習だから……」

そう言って、俯いてしまう緒方さん。

P「大丈夫。ほら、濡れると風邪ひいちゃうぞ」

智絵里「……鷺沢くん……っ!」
33 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:06:37.43 ID:w5LZSvi60


加蓮「ねえ、鷺沢。屋上あるなら案内してくれても良かったんじゃない?」

ガラガラガラ、と。

屋上の扉が開いて、北条が姿を現した。

P「悪い北条、今取り込み中だから。あともう雨降ってるから出てこない方がいいぞ」

加蓮「……何してたの?何かの練習?」

智絵里「……っ!」

P「あっ!緒方さん!」

緒方さんが俺の横を駆け抜け、走って校舎内へ入って行ってしまった。

加蓮「……鷺沢が泣かせたの?」

P「いや、まぁ……色々あってな」

加蓮「それにしても、今日は私に案内してくれなかったけど。鷺沢にとっての友情は三日で終わってもうバイバイなの?」

P「いや、単純にこう……屋上まで案内する必要はないかなって。ってか昨日北条がこれで終わりって言ってただろ」

加蓮「そのあと三日じゃ足りないって訂正したよね?」

そう言いながら、北条がこちらに歩いてくる。

加蓮「あの子、何か落としてったみたい」

北条が、さっきまで緒方さんがいたところまで来て何かを拾い上げた。

雨に濡れてはいるが、それは……

加蓮「……ラブレター、ね。なになに……ふーん……」

P「あんま人のそう言うの覗くもんじゃないぞ。練習とはいえなぁ……」

加蓮「で、ちゃんと上手く出来てたの?」

P「緒方さんの尊厳のために黙秘させて貰うよ。ほら雨強くなって来てるし、さっさと校舎入るぞ」

加蓮「……練習用、ね。なら……私が読んでも良いよね?」

……いや、ダメだろう。

加蓮「ほら、鷺沢。もっとこっち来て雰囲気作って」

P「だから人のそういうのを読むもんじゃありません」

加蓮「大丈夫大丈夫、私アドリブとか得意だから」

そういう問題じゃないだろうに。
34 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:13:54.72 ID:w5LZSvi60


加蓮「……ねぇ、P」

P「ん、なんだ?急に俺の友好ポイントを貯めにきたのか?」

そんな、いつもあいつらとやっている様な。

友達同士のアホな会話をしようとして。

加蓮「足りないかな、全然。だから……」

いつの間にか、北条は俺の目の前にいて。

加蓮「……私と付き合って。私から離れないで……!」

彼女の唇が、俺の唇に触れた。

直前に目に入った緒方さんのラブレターには、好きとしか書かれていなかった。


35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/02(火) 23:34:41.97 ID:K0redlJq0
ギャルゲーって話ならゲーム形式でやってみたかったぞ
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 02:50:26.49 ID:aGfDrHfmo
ルートが決まってる方が自分的にはありがたい
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 06:34:50.36 ID:bUryXan5o
最高やん
進めて
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 07:41:15.18 ID:6+c+RW3zo
これは期待
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 10:04:12.85 ID:0QZ7Uax+O
これは当然他の√やってくれるんですよね?お願いしますなんでも島村
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 10:38:21.81 ID:DMyZv64fo
エロゲの方も投下すんの?
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 11:08:24.67 ID:aOQmL/KBo
なんか懐かしいノリだな
期待
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 13:00:17.37 ID:3zendnZmO
期待
43 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:26:34.44 ID:zjPlfDRA0


P「……」

李衣菜「……」

美穂「……ねぇ、李衣菜ちゃん」

李衣菜「……うん、美穂ちゃん」

美穂「……Pくん、どうしたのかな」

李衣菜「変なモノ食べたんじゃない?」

P「……」

昨日のあの出来事はなんだったのだろう。

思い返すと、鮮明に浮かぶあの唇の感触。

離した後の、北条の表情。

あれはどういうことだったんだろう。

そのままの意味で受け取っていいのだろうか。

それとも、場の雰囲気に流された的なやつだったのだろうか。

結局その後、北条は走って帰っていってしまった。

ラインを交換していなかった為、あいつとの連絡手段はない。

つまりまぁ、北条と次に会えるのは月曜日な訳で。

それまで俺は、この悶々とした気持ちを抱えて土日を過ごさなきゃいけなくて。

P「……李衣菜、美穂。恋って……難しいな」

あと何故この二人はナチュラルに俺の部屋にいるんだろう。

李衣菜「あ、帰ってきた」

美穂「心は此処にあらずみたいですけど……」

P「……春を迎えたかもしれない」

美穂「頭がですか?」

P「それは年中御花畑だから大丈夫」

李衣菜「まぁ今四月だからね。桜も咲いてるし」
44 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:27:31.30 ID:zjPlfDRA0


美穂「何かあったんですか?」

P「……会員カードがランクアップしたんだ」

李衣菜「この古書店って会員カードとかやってたっけ?」

文香「……そのようなシステムは導入しておりませんが……」

P「ん、姉さんどうかした?」

文香「P君、緒方さんがいらっしゃいましたよ」

李衣菜「え。緒方さんって、智絵里ちゃん?」

美穂「Pくん、お友達だったんですか?」

P「ま、色々とな」

店先まで出ると、可愛らしいモコモコなコートに身を包んだ緒方さんが立っていた。

先日は制服だったから初めて見る私服姿だが、緒方さんめっちゃ可愛いな。

智絵里「あ……こんにちは、鷺沢くん」

P「こんにちは、緒方さん」

智絵里「……昨日は、ごめんなさい……せっかく付き合ってもらったのに、失敗しちゃって……」

P「まぁまぁ、気にしなくて大丈夫だよ。上がってく?」

智絵里「えっ……い、いいんですか……?」

P「うん。まぁ多田と小日向もいるけど」

智絵里「…………はい」

45 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:28:34.39 ID:zjPlfDRA0



智絵里「お邪魔します……」

李衣菜「狭い部屋だけど寛いでいってね」

P「お前は俺の母さんかよ」

美穂「こんにちは、智絵里ちゃん」

智絵里「えっと……お二人は……」

P「李衣菜は小学の頃から、美穂は去年から割と入り浸ってる」

智絵里「ここが……鷺沢くんのお部屋……」

李衣菜「色々漫画とか小説とか揃ってるよ」

P「見ての通り古書店だからな。他には何もないけど」

美穂「そ、そんなことありませんっ!いいお部屋だと思いますっ!本しかないですけど……」

否定出来てないぞ。

美穂「それで、智絵里ちゃんはどうしたの?」

李衣菜「わざわざ貴重な土曜日を割いてPの家に来るなんてとんだ物好きだね」

P「おいお前ら」

美穂「ち、違います!わたしはお昼ご飯を食べに……」

P「うち古書店なんですよ」

美穂「ぞ、存じておりますっ!」

智絵里「……ふふ。とっても仲が良いんですね」

くすりと、緒方さんが微笑む。

なんだ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか。

46 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:29:47.62 ID:zjPlfDRA0


李衣菜「せっかく女子が三人も集まってるんだし、ガールズトークでもする?」

P「知ってるか?ここ俺の部屋なんだぜ」

李衣菜「知ってるよ」

分かってて始めようとする方がタチが悪かった。

P「あと、もう少ししたら俺買い物行かなきゃいけないんだけど」

李衣菜「夕飯の買い物?」

美穂「ご、御相伴に預からせていただきます!」

智絵里「わ、わたしも……っ!」

いつもの二人だけなら適当にあしらおうとおもっていたが、緒方さんもならまぁ良いか。

わざわざ土曜日に来てくれてるんだし。

李衣菜「買い物なら私も付き合うけど」

P「いや、いいよ別に」

ピロンッ

俺のスマホが震えた。

P「ん、誰からだろ」

李衣菜「Pに連絡なんて、私達以外からもあるんだね」

泣いてない。

決して泣いてなんてない。

P「ん……あー、ちょいと出て来るわ」

李衣菜「いってらっしゃい」

智絵里「え、あ、鷺沢くんが居ないのにわたしたちはいいんですか……?」

李衣菜「いーんじゃない?」

美穂「Pくん、無事に帰って来て下さいね」

P「おい美穂読んでる漫画のセリフを音読するな。次のページでその男子生徒事故に遭うやつだろ」


47 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:30:45.39 ID:zjPlfDRA0


コートを羽織って家を出る。

四月とはいえ、まだまだかなり寒い。

どうせなら手袋でも着けてくればよかった。

まゆ「あ。こんにちは、Pさん」

P「こんにちは、まゆ」

家の前には、俺を呼び出したまゆが立っていた。

読モをやっているだけあって、来ている服もとても可愛らしい。

まゆ「午前中はお仕事だったんですけど、その時のお洋服を頂けたので最初にPさんに見せたくなっちゃって」

P「俺はファッションに関しては全くだけど、似合ってると思うよ。めちゃくちゃ可愛い」

まゆ「ふふっ、来て良かったです」

天使のように微笑むまゆ。

近くにドッキリ成功的なカメラが隠されてたりしないだろうか。

まゆ「これからお買い物ですよねぇ?」

P「あ、うん。夕飯の買い物に行こうと思ってたところだけど」

まゆ「まゆもお付き合いしますよ?五人分となると結構大荷物ですよね?」

P「うん……うん?」

あれ?俺の家に李衣菜な美穂が居ると言っただろうか?

まぁそれに関してはまゆが李衣菜か美穂から聞いていたのならともかくとして。

緒方に関しては、ついさっき来たばかりだし……

……まぁ、いいか。
48 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:31:58.12 ID:zjPlfDRA0



P「でもなんか、クラスメイトに買い物付き合わせるなんて悪いしいいよ」

まゆ「では、こうしませんか?まゆ、夕ご飯をPさんに振る舞ってあげたいんです」

……良い子だな、まゆは。なんだこれ、本当に天使か。

二人並んで、スーパーに向かって歩く。

まゆ「まるで、新婚さんみたいですね」

P「まだ俺は年齢的に結婚出来ないけどな」

まゆ「あ……Pさん。手は冷たくないですか?」

P「割と。手袋着けてくれば良かったって後悔してる」

そう家を出る前の自分に恨みを飛ばしていると。

まゆが、自分の手袋を外した。

……流石にまゆの手袋はサイズ合わないと思うけど。

まゆ「一緒に、手を繋ぎませんか?」

……大丈夫?これオプション料金とか発生したりしない?

P「……今俺手持ちそんなないぞ」

まゆ「だったらまゆの手を持てばいいんです」

P「いいのか?」

まゆ「もちろんです。Pさんの手が冷えてしまったら大変ですから」

P「なら、遠慮なく」

まゆと普通に手を繋ごうとする。

まゆの指が一瞬で動いて恋人繋ぎになった。

まゆ「ふふっ、もう離しませんっ」

P「女の子と手を繋ぐなんて、昔に手繋ぎ鬼をやった時以来だな」

まゆ「なら、まゆで最後にしませんか?」

P「まぁこの歳以降で手繋ぎ鬼なんてする機会ないだろうしな」

まゆ「周りからはカップルって思われてるかもしれませんね」

P「俺じゃまゆとは釣り合ってないだろうなぁ」

まゆ「まゆからしたら、Pさんの方がとっても素敵な人だと思いますよ」

P「まゆにそう言って貰えるのは誇らしいな」

スーパーに到着。

まゆの分も含めて六人分の買い物はそこそこな量になる。

それでも。

誰かとカートを押して買い物をするのは、なんだか幸せだった。


49 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:33:40.13 ID:zjPlfDRA0


智絵里「……お二人は、いつも鷺沢くんと一緒に遊んでるんですか?」

李衣菜「うん。ほら、うちの高校って男子少ないでしょ?だからPは友達全然いないし」

美穂「そ、そんな事……あるかもしれませんけど……」

智絵里「……」

李衣菜「ま、Pは色々面白いからね。一緒にいて楽しいから」

美穂「……それで、智絵里ちゃんは?」

智絵里「……え?」

美穂「智絵里ちゃんはどうですか?Pくんと一緒にいて」

智絵里「えっと、その……わたし、まだあんまり鷺沢くんとお喋り出来てないけど……」

李衣菜「でも確か、去年からクラスは一緒だったよね」

智絵里「その時から……えっと……」

美穂「そう言えば、昨日は何かあったの?」

智絵里「……告白……」

李衣菜「え、告白?!」

美穂「告白したんですか?!」

智絵里「……その、練習に付き合って貰って……結局ダメだったけど……」

美穂「ねぇ、本当に練習?」

智絵里「れ、練習です……っ!練習でした……まだ……」

李衣菜「Pの事だから茶化しそうだけどね」

美穂「……ふーん、そっか。仲良くなれるといいね!」

智絵里「……はい……」

50 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:34:29.01 ID:zjPlfDRA0


李衣菜「ちなみに、どんな風に告白したの?」

智絵里「……な、ないしょです!」

美穂「かわいいね、智絵里ちゃん」

李衣菜「Pなら、声掛ければいつでも時間あけると思うよ」

智絵里「……なら、もっと遊びに誘ってみようかな……」

美穂「高頻度でわたし達もついてく事になるかもですけどね」

李衣菜「あ、なら折角だし明日私達4人で遊びに行かない?」

智絵里「……えっ、良いんですか?」

美穂「え、わたしとPくんとクマ君と智絵里ちゃんの4人で?」

李衣菜「だからそれを私が提案する訳ないでしょ?!」

「ただいまー!」

李衣菜「あ、帰ってきたみたい」

美穂「荷物運ぶの、手伝いましょうか」

李衣菜「いいよいいよ、美穂ちゃんと智絵里ちゃんは部屋で喋ってて」

バタンッ

美穂「……ねぇ。智絵里ちゃんも、誰かに恋してるの?」

智絵里「……あ……その……」

美穂「難しいよね、恋って。わたしも、いつも悩んでばっかりだもん」

智絵里「美穂ちゃんも……好きな男の子が……?」

美穂「うん、相手は……内緒。お互い上手くいくといいね」

智絵里「……はい……!」

ガチャ

李衣菜「Pが早めの夕飯にするって。降りといでよ」

美穂「はーい、すぐ行きますっ!」

智絵里「は、はい」


51 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:35:38.35 ID:zjPlfDRA0



美穂「あれ?まゆちゃん?」

まゆ「こんにちは、美穂ちゃん」

智絵里「……えっ」

まゆ「こんにちは、智絵里ちゃん」

智絵里「こっ、こんにちは……」

まゆ「どうかしましたか?智絵里ちゃん…………大丈夫ですよ、誰にも喋りませんから」

P「どうかしたのかー?」

智絵里「えっ……あ……なんでも、ないです……」

P「まだ夕飯には早いけど鍋やるぞー」

李衣菜「おっ、いいね鍋。まだ寒いし」

P「あと肉じゃがだ」

美穂「良いですよね、肉じゃが」

P「あとちらし寿司」

李衣菜「どれだけ作るつもりなの?!」

うん、多いよな。

六人で食べきれる量にはならないと思う。

まゆ「ふふっ……まゆ、ついつい買いすぎちゃって」

普段から重い荷物運ぶのになれてて良かった。

買い物袋六つとか初めてレベルの買い物量だったよ。

美穂「食材費くらいは出させて下さい」

智絵里「わ、わたしも……」

文香「いえ……大丈夫です、P君はそこそこ貯蓄がありますから」

P「いや全然ないけど」

文香「私が……P君の、ヘソクリや『本』の置き場を把握していないとでも?」

P「嘘ついてごめんなさいお願いだから内密に……」

文香「冗談です……みなさんは、気にしなくて大丈夫ですから」

……文香姉さんが、本当に良き姉的な振る舞いをしている。

文香「……賑やかになりましたね」

P「ごめんね、姉さん」

文香「いえ……食卓は、賑やかな方が美味しいですから」

P「俺とまゆで作るから、悪いけど手が空いてる人はテーブルの方の準備しといてくれ。多分姉さんが本積んでるだろうから」

まゆ「Pさん、本当にお姉さんと仲が良いんですね」

P「まぁな。さて、俺たちも準備するか」

まゆ「はい、二人で初めての共同作業ですね」


52 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:36:38.90 ID:zjPlfDRA0



P「それじゃ」

皆んな「「いただきます」」

まゆはとても手際が良く、あっという間に完成してしまった。

流石に肉じゃがはまだ煮込んでいるが。

ちらし寿司と鍋を取り分け、まずは薬味を使わずそのまま頂く。

P「……美味い」

李衣菜「うん、美味しいね」

文香「……美味しいです……とても……」

智絵里「……美味しい、です……」

美穂「あつっ!……うん、とっても美味しいよ、まゆちゃん」

まゆ「みなさんのお口に合うようで良かったです」

六人で鍋を取り囲みつつく。

美味しくて次々と食べてしまう。

うん、楽しい、美味しい。

まゆ「お鍋の食材が一旦なくなったら、その間に肉じゃがをお出ししますから」

智絵里「そ、そんなに食べられるかな……」

文香「……ご安心下さい」

P「まゆは普段から料理してるのか?」

まゆ「はい、今は寮で暮らしてますから」

李衣菜「寮で暮らしてるのに朝たかりにくる子もいるのにね」

美穂「そ、それは李衣菜ちゃんもですよね?」

李衣菜「私は実家暮らしだからセーフって事で」

P「本当にいいな、誰かの手料理を食べられるって」

まゆ「Pさんさえよろしければ、まゆはいつでも作りに来ますよ?」

P「流石に悪いからいいよ。またみんなで集まった時、一緒に作ってくれると嬉しいかな」

まゆ「ふふっ、まゆに任せて下さい」

智絵里「あっ……いつの間にか、もうお鍋が空に……」

文香「あら……不思議ですね」

P「姉さん……」

まゆ「はい、サクマ式肉じゃがですよぉ」

P「まゆ、それ肉じゃがちゃう!グラタンや!」

まゆ「食材が余ったので作っちゃいました」

文香「……素敵な女性ですね」

李衣菜「文香さんの判定基準って凄く分かりやすいですよね」

智絵里「……グラタンも、とっても美味しいです」

まゆ「ふふっ、良かったです」

P「あと最後にデザート用にロールケーキも買ってあるから」

美穂「……帰りは走って、運動しないと……」

53 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:37:30.01 ID:zjPlfDRA0



李衣菜「ふー……ご馳走様でした。ついつい食べ過ぎちゃったね」

美穂「まゆちゃん、本当に料理お上手なんですね」

智絵里「あっ……そろそろ、寮の門限が……」

美穂「えっ、もうそんな時間?」

P「んじゃ先四人で帰ったらどうだ?」

まゆ「まゆは後片付けをお手伝いします」

そこまでして貰わなくても……頭が上がらないな。

P「ありがと。ならまゆは後で俺が送ってくよ」

李衣菜「あ、P。明日空いてたらみんなで遊びに行かない?」

P「ん、俺は構わないけど」

まゆ「すみません。まゆは明日もお仕事があるので……」

美穂「そっか……それじゃ、また今度遊ぼうね?」

まゆ「はい、喜んで」

P「それじゃまた明日なー。時間とかは後で送ってくれ」

李衣菜「りょーかい。また明日ね」

美穂「お邪魔しました」

智絵里「あ……また明日、鷺沢くん。お邪魔しました……」

三人が出て行くと、さっきまで賑やかだった部屋が途端に静かに感じる。

文香「……佐久間さんは、門限は大丈夫なのですか?」

まゆ「はい、今日はお仕事で少し遅れると伝えてありますから」

P「何から何まで悪いな……」

まゆ「いえ、まゆがしたくてしている事ですから」

文香「……洗い物は、私がやっておきます」

え゛。

文香「はぁ……P君は、佐久間さんを送って行ってあげて下さい。きちんとお礼もお願いしますね……?」

まゆ「ありがとうございます、文香さん」

文香「私も……楽しい食卓を、本当にありがとうございました」

まゆ「また、来ても大丈夫ですか?」

文香「こちらこそ、喜んで……いつでもお待ちしております」

P「……ん、美穂あいつポーチ忘れてってるな。確か俺の部屋に取りに戻ってないよな」

文香「明日会うのでしたら、その時に渡してあげて下さい」

まゆ「同じ寮ですし、まゆが届けますよ?」

P「いやいいよ、どうせ明日会うし。スマホとかはポケットに入れてるだろうから大丈夫だろ……さ。送ってくよ、まゆ」

まゆ「ありがとうございます。それでは、おじゃましました」




54 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:41:03.20 ID:zjPlfDRA0



P「夜は昼以上に寒いな。手袋着けてきて大正解だ」

まゆ「まゆとしてはあまり美味しくないんですけどね」

二人並んで、夜の街を歩く。

時折夜風に乗って現れる桜の花びらが、なかなかに綺麗だった。

P「ほんとうに今日はありがとう、まゆ。とっても楽しかったよ」

まゆ「今度はPさんから誘ってくれても嬉しいですよ?」

P「是非そうさせて貰うよ。あ、ライン交換しておくか」

まゆ「……そうでしたね。はい、お願いします」

まゆとラインを交換する。

ラインの友達欄が増えた、嬉しい。

まゆ「……少し寒いですね」

P「四月だからなぁ」

まゆ「明日、まゆも参加出来れば良かったんですけどねぇ」

P「また誘うさ」
55 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:42:07.97 ID:zjPlfDRA0



まゆ「加蓮ちゃんとのキス、どうでしたか?」

P「めっちゃ驚い…………え?」

まゆ「嬉しかったですか?心地良かったですか?」

……ん?

は、え?

なんでまゆはその事を知ってるんだ?

その方がよっぽど驚きだ。

まゆ「好きな人のことは何でも把握していますよぉ」

にこりと笑うまゆ。

その表情は、確かに笑顔なのに。

さっきまで皆んなと過ごしていた時の笑顔とは、まったくの別物だった。

まゆ「……まぁ、加蓮ちゃんは雨で体調を崩してしまったみたいなので、月曜日に来れるかどうかは分かりませんが……」

何故まゆは、そこまで把握しているんだ?

まゆ「本人にも、確かめないといけませんねぇ」

P「……なぁ、まゆ」


56 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:43:03.60 ID:zjPlfDRA0


思わず立ち止まって、まゆの方に顔を向ける。

まゆもまた、俺の目をジッと見ていた。

まゆ「……まゆは、譲りませんよ」

一瞬足がすくんで、その場から動けなくなった。

そんな俺の方へ、まゆは距離を詰めて来て……

まゆ「お願い……まゆだけを見ていて……ずっと」

唇と唇が、重なった。

遠くで、誰かが走る足音が聞こえた。

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 14:28:21.36 ID:hGMgt8DYO
これは共通√がどこまでなのか気になるな
しかしなんだろこの地雷原でタップダンスしてる感覚
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 15:34:14.96 ID:XNRr/xWUo
>>56
たのむつづけてくれ
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 15:50:45.59 ID:Ls12gEdkO
手っ取り早く読みたいなら渋に加蓮√全部あるぞ
60 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:33:19.11 ID:en/Eym4GO


P「遊園地?」

美穂「はい。来る途中、商店街の福引で四人分当てたんです!」

李衣菜「すごいじゃん、美穂ちゃん」

美穂「普段の行いが良いからでしょうか?」

李衣菜「うーん、自分で言っちゃうとあれだよね」

日曜日の正午。

俺たちは集合場所の駅前で、美穂から遊園地の招待券を渡された。

P「ありがとう、美穂」

美穂「いっぱい楽しみましょう!」

李衣菜「あとは智絵里ちゃんが来るのを待つだけだね」

P「……あ。そうだ美穂、昨日うちにポーチ忘れてっただろ。はい」

美穂にポーチを渡す。

美穂「あ、ありがとうございます……すみません、お手数おかけして」

李衣菜「せっかくだから、まゆちゃんも来れればよかったんだけどね」

P「ま、仕方ないさ。また今度誘おう」

読モだし、仕事じゃ仕方ないか。

……まゆ、うん。

昨日、キスされたんだよな……

実はどっきりで、月曜日に話し掛けたら赤っ恥を……

いや、それは流石にないか。

だとしたら……うーん……
61 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:34:09.93 ID:en/Eym4GO


美穂「……」

李衣菜「……P、どうしたの?なんか考える人みたいなフリして」

P「いやまぁ、何も考えてないよ」

美穂「Pくんはいつでも頭空っぽですからね!」

P「つらい……何も言い返せないのがつらい……」

美穂「あ、いえ!Pくんってあんまり悩んだりしないですよね、って言いたかったんです!!」

李衣菜「Pって悩む事あるの?夕飯の献立とか?」

P「大体姉さんからリクエストくるからそれ作ってるよ。あとほら、レシピ本とかも家に沢山あるし」

美穂「Pくん、本当に色々な料理を作れますよね」

P「毎日同じじゃ飽きちゃうからな」

タッタッタッ

智絵里「ごめんなさい……っ、遅れちゃいました……」

李衣菜「あ、おはよう智絵里ちゃん。今ピッタリ12時だよ」

美穂「おはよう、智絵里ちゃん」

P「おはよう、緒方さん」

智絵里「……おはようございます……きょ、今日はえっと……お日柄もよく……」

お見合いかな?

モコモコのコートに身を包んだ緒方さんは、なんだかうさぎみたいだ。

白いベレー帽が凄く似合っている。

小動物的な感じがこう……かわいい。

智絵里「それで……今日は、何処に行くんですか……?」

P「美穂が福引で遊園地の招待券当てたから、四人で遊園地に行こうって話になってたとこ」

美穂「電車で30分くらいですね」

李衣菜「それじゃ向かおっか。飲み物とか食べ物は現地で買えばいいよね」



62 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:35:03.14 ID:en/Eym4GO



李衣菜「うっひょぉぉっ!!」

P「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

美穂「きゃーーーーーっ!!」

智絵里「……カエルさん……カエルさん……」

ガガガガガッ、ガッコン!

係員「お疲れ様でしたー」

亡霊のような顔をして、ジェットコースターから降りる。

間違いなく一番最初に乗るアトラクションではなかった。

なんだこのサイクロンツイスタータイフーンハリケーンとかいうコースターは。

胃袋が大嵐だ、この人を苦しめる機能しか搭載されてない悪マシンめ。

智絵里「凄かったです……」

美穂「速さと高さがギネスに登録されてるみたいですね」

李衣菜「あとでもう一回乗りたいなー」

P「俺はパスがいいかな……うん、下からお前らを見守ってるよ」

李衣菜「え、P怖がってるの?」

P「は、ちげーし超余裕だったし、何なら乗りながら般若心経のサビ暗唱してたくらいだぞ」

李衣菜「うん、正直隣に乗ってる私の方がそのせいで怖かったから」

智絵里「次は……もうすこしユックリなアトラクションがいいです」

美穂「ならお化け屋敷にしませんか?自分のペースで歩けますよ」

鬼だ、鬼がいる。

なんとか膝から手を離して、歩けるようになった。

李衣菜「せっかくだし、二組に分かれて入らない?」

智絵里「えっ……?!」

美穂「き、危険です二人きりだなんて!そんな少人数でクリア出来る難易度じゃないんです!」

P「確かここの遊園地、お化け屋敷も凄いらしいからな……8割くらいの客が途中で退出するらしいぞ」

というかこの遊園地、一つ一つのアトラクションが本気すぎる。

いったいアトラクション系で何件ギネスに登録されているんだろう。

独占禁止法を守ってくれ。
63 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:36:17.97 ID:en/Eym4GO


いよいよ現れた巨大な洋館は、明らかに子供の心を折りにきてる。

李衣菜「あ、そもそもこの戦慄ラビリンスって同時入場二人までだって」

P「んじゃ、グーとパーで別れるか」

美穂「Pくん、わたしはパーを出しますから!」

なにその心理戦。

智絵里「わ、わたしはグーを出します……!」

李衣菜「美穂ちゃんの勝ちだね!」

P「まぁグーとパーしかないからな」

そもそもそう言う話だっただろうか。

李衣菜「それじゃ。ジャンケンポン!」

P「……李衣菜と美穂がパー、緒方さんがグーか」

美穂「なんでPくんはチョキを出したんですか?」

P「いやほら、緒方さんの一人負けを防ぐ為にあいこにしたかったから……」

李衣菜「でもま、チョキはグーの元って言うし、Pは智絵里ちゃんと組んでね」

智絵里「よ、よろしくお願いします!」

P「お、おう」

なんだか緒方さんは物凄いやる気だ。

まぁ、気張ってかないと途中で心折れそうだしな……

李衣菜「それじゃ、並ぼっか」

P「……あいたたた、唐突に持病の腹痛で頭が痛い……」

美穂「……わ、わたしも家の決まりで、洋館に入る時はお祓いをして貰ってからじゃないと……」

智絵里「……わ、わたしは頑張ります……っ!」

P「……なんだか自分が情けなくなってきた」

美穂「ですね。お互い頑張りましょう、Pくん」

そこそこ長い列に加わる。

時折聞こえてくる悲鳴が、いい感じに恐怖を煽ってくる。

正直、四人で入れないか係員に掛け合いたいレベルだ。

でもまぁ、緒方さんの前だしかっこ悪い所は見せられないな。

今更感あるけど。
64 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:37:06.99 ID:en/Eym4GO


P「大丈夫だよ、緒方さん。いざとなったら中のスタッフがドン引きするレベルで俺が泣き叫ぶから」

李衣菜「大丈夫な要素ある?」

美穂「うぅ……少しずつ入り口が近付いてきた……」

智絵里「こ、この中に対魔師の資格を持った方はいませんか……!」

P「今からでも資格獲得間に合うかな……」

李衣菜「はいはい、もうそろそろだけどどっちが先に入る?」

んなばかな、早すぎるだろあんなに並んでたのに。

と思ったが、前に並んでたカップルが列から外れていった。

なるほど、みんな流石に怖くなってやめてくんだな。

心からそのムーブに便乗したい。

美穂「それじゃ李衣菜ちゃん。わたし達が先に入りませんか?」

李衣菜「おっけー。P達は後でいい?」

P「あぁ、逃げ出さないことを此処に宣言するよ」

李衣菜「逃げたら文香さんに教えてあげるから」

P「……逃げ出さないことを此処に誓うよ……くそ……」

ま、まぁ?

緒方さんの手前、見苦しい事をするかは元からさらさらないし?

係員「はい、此方の同意書にサインをお願いしまーす」

……文香姉さんに笑われる方がよっぽどマシな気がしてきた。

李衣菜「じゃ、また後でねー」

美穂「お先に行ってきます!」

そうして、二人が闇に飲まれてゆく。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

直後、二人の悲鳴が聞こえた。

手のひらが汗に塗れる。

こんな事なら、般若心経きちんとサビ以外も覚えてくればよかった。

隣を見れば、緒方さんも泣きそうな表情をしている。

……よし。

P「……手、繋ぐ?」

智絵里「……えっ……えっ?!」

P「いやほら、その方が少しは怖さも紛れるかなって」

智絵里「あ……えっと……お願いします……」

ぎゅ、と。

緒方さんの小さな手を握る。

それだけで、なんとなく心強い。

係員「はい、次のペアの方どうぞー」

P「……それじゃ、行こっか!せっかくだし思いっきり叫んで楽しもう!」

智絵里「は、はいっ!」

暗幕をくぐって洋館に突入する。

俺たちが悲鳴をあげるまでに、2秒と掛からなかったと思う。


65 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:38:11.16 ID:en/Eym4GO



李衣菜「お疲れ様ー」

美穂「お疲れ様です……二人とも……」

P「はぁ……あー、しんどかった」

智絵里「……怖かった……です……」

李衣菜「美穂ちゃんがずっと悲鳴あげてるから、面白くて怖さは薄れてたんだ」

美穂「そ、それは李衣菜ちゃんもですからね?!」

なんやかんや、正気は保てた。

文香姉さんの読み聞かせ(夏のホラースペシャル)である程度ホラー耐性がついていたらしい。

文香姉さん、めちゃくちゃ上手いからな。

それと……

李衣菜「智絵里ちゃん、さっきからずっとPにしがみついてるけど」

智絵里「……あっ、ご、ごめんなさい……」

緒方さんがずっと俺にしがみついて来るものだから、そっちの方が気が気じゃなかった。

女の子特有の柔かい感触がまだ腕に残っている。

離れた後、両手を胸に当たる緒方さん。

その顔は、ほんのり紅い。

……俺の手、汗凄かったかもしれない。

P「さて、なんかこの遊園地のトップ2みたいなアトラクションは乗ったけど次はどうする?」

李衣菜「フリーフォールとかコーヒーカーップとかあるけど、どっちがいい?」

美穂「つ、次はもう少し平和なアトラクションだと嬉しいんですけど……」

智絵里「……あ、メリーゴーランド!」

緒方さんが指差す先には、メリーゴーランドがあった。

メリーゴーランドか……男子高校生が乗っても大丈夫なんだろうか、光景的に。

美穂「あ、あれなら平和に楽しめる筈です!」

平和さを求められる遊園地ってどうなんだろう。

四人でメリーゴーランドを目指して歩く。

そんなに列は長くなく、次の回で乗れそうだ。
66 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:38:49.46 ID:en/Eym4GO


P「……なぁ、メリーゴーランドってさ……こんな速かったっけ?」

李衣菜「……た、楽しそうではあるよね」

美穂「平和って何なんでしょう」

智絵里「……白馬の王子さまが全力疾走してます……」

目の前で回転しているメリーゴーランドは、明らかに角速度がおかしかった。

なんだこれ、競馬かよ。

一体どの年齢層を狙ったアトラクションなんだ。

『メリーゴーランドでギネスを狙うロマンに挑戦しました!』じゃないんだよ煽り文。

メリーゴーランドにそんなロマンは求められてないんだ、いやロマンチックではあるけどさ。

乗り終えたカップルが、お互いを支え合いながら近くのベンチに座り込むのが目に入った。

P「……乗るか」

李衣菜「この速度のカボチャの馬車だったら、シンデレラももっと長くお城に居られただろうね」

出来るだけ負荷の少なそうな内側の馬に乗る。

流れている優雅なクラシックが場違いも甚だしい。

係員「きちんとシートベルトの着用をお願いしまーす」

そしていよいよ、メリーゴーランドが回り始めた。

P「おぉ、速い!」

李衣菜「うっひょぉぉっ!!」

美穂「いぇーい!」

智絵里「……なんとか……耐えられそうです……!」

あぁ、案外楽しい。

昔遊んだ公園の地球儀を思い出す。

なんだか童心に帰ったみたいだ。

他の三人もなんとか楽しめるレベルの角速度らしく、楽しそうに馬にしがみついていた。

前二つのアトラクションよりは、よっぽど楽しめたと思う。


67 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:39:36.83 ID:en/Eym4GO



その後も、色々なアトラクションを満喫した。

フリーフォール『スカイツリー』は落ちてる間に校歌の1番を歌い切れた。

ゴーカート『F1』は何度壁にぶつかったか分からない。

迷路『ラピュタ内部』で2時間かかり、再び乗ったジェットコースターでグロッキーになり。

西の空が赤くなるころには、みんなクタクタになっていた。

李衣菜「やー、かなり遊んだね」

美穂「ですね、とっても楽しかったです」

智絵里「わ、わたしも……今日は、とっても楽しかったです……!」

李衣菜「また来ようね」

P「あぁ。次はまゆも連れてきたいな」

李衣菜「まゆちゃん、ジェットコースター苦手そうだよね」

美穂「ふふっ、分かります」

智絵里「また、誘って下さい」

P「もちろん。さて……どうする?何か乗りたいアトラクション残ってるか?」

美穂「……あれ?智絵里ちゃん、今日ベレー帽被ってたよね?」

智絵里「……あれ?……あ……」

そういえば、集まった時は被っていた筈だ。

何処かで落としてしまったんだろうか。

美穂「フリーフォールに乗った時、係りの人に預けたんじゃなかったっけ?」

智絵里「そ、そうでした……」

李衣菜「忘れなくて良かったね。取りに行くの付き合うよ」

智絵里「ありがとうございます。取りに行ってきます……!」

俺も付き合うよ、と。

そう言おうとしたところで。

美穂に服の裾を引っ張られ、振り返っているうちに二人は行ってしまった。

P「……ゆっくりで良いぞー!俺たちは出口のとこで待ってるから!」

りょーかい!と李衣菜が返事をして、二人はフリーフォールの方へ向かって行く。

美穂「……ねぇ、Pくん」

P「ん?どうした?」

何かまだ乗りたいアトラクションがあったんだろうか。

ここからフリーフォールまでそこそこ離れてるから、一つくらいなら乗れそうだけど。

美穂「わたし、最後に乗りたいアトラクションがあるんです」

P「おっけー、付き合うよ」

美穂「……良かった。ありがとうございます」


68 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:40:21.83 ID:en/Eym4GO



ガコン、ガコン、ガシャン

美穂と二人で観覧車に乗り込む。

ゴンドラの扉が閉まれば、そこはまるで別世界だ。

少しずつ少しずつ、地面が遠ざかって行く。

観覧車なんて、最後に乗ったのはいつだっただろうか。

美穂「ありがとうございます。どうしても乗りたかったんです」

P「1周2.30分くらいか。この遊園地のアトラクションにしては割と普通なんだな」

美穂「楽しかったですか?今日は」

P「あぁ、もちろん。ありがとな、美穂のおかげだ」

美穂「良かった、えへへ……」

微笑む美穂。

相変わらずキュートに全振りされてるなほんと。

窓の外では、太陽が殆ど姿を隠していて。

それと交代する様に、園内のイルミネーションが一瞬にして広がった。

美穂「わぁ……綺麗……」

P「凄いな、ほんと……」

美穂「わたし、Pくんと一緒にこの光景を見れて良かったです」

しばらく、二人でその光景を堪能する。

ゴンドラは既に半分くらいの高さまで昇っていた。

美穂「……ねぇ、Pくんって……」

P「なんだ?」

美穂がイルミネーションから此方に向き直って口を開いた。

なんだろう、語彙力ないよねとか言われるのだろうか。

69 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:42:36.20 ID:en/Eym4GO


美穂「……まゆちゃんの事、好き……?」

P「……え?」

唐突な、思わぬ方向からの質問に一瞬戸惑ってしまう。

それと同時に昨晩の出来事を思い出し、また悩みが溢れかえった。

俺が、まゆのことを……

P「いやまぁ、嫌いじゃないさ。じゃなきゃ一緒に買い物なんてしないしな」

美穂「嫌いじゃない、じゃなくて。好きかどうかを教えて下さい」

P「え、えっと……なんでそんな事を聞くんだ……?」

自分でも答えが出ていない。

一晩中考えても自分の中で結論は出せなかった悩みだ。

けれど、それよりも。

見たこともない美穂の表情の方が、よっぽど今は……

美穂「……昨日、わたしがポーチをPくんの家に忘れちゃって……取りに戻ろうとしたんです」

そしたら、と。

美穂は続ける。

美穂「……まゆちゃんが、Pくんにキスしてて……」

P「それは……」

美穂「まゆちゃんはきっと……ううん、絶対。Pくんの事が好きなんだと思います」

そうなのだろうか……いや、そんな気はしてはいたが。

俺とまゆは出会ってまだ1週間も経っていないのに。

あんなに可愛い佐久間まゆが、こんなありきたりな男子高校生を好きになるなんてあり得るのだろうか。

美穂「……わたしは弱いから……今日一日、頑張ってPくんの前では笑顔でいようって頑張ってたけど……でも……」

観覧車は、既に頂上を超えて降り始めていた。

空は既に真っ暗で、イルミネーションがやけに眩しい。

美穂「……遊園地のチケット、福引で当てたなんて嘘なんです。本当は、自分で買ったもので……」

P「そうだったのか……」

美穂「Pくんとどうしても、二人きりで観覧車に乗りたかったから……ごめんなさい」

P「美穂がどんな事を考えてたんだとしても、楽しかった事には変わりないよ。きっと李衣菜と緒方さんも、それは一緒だと思う」

美穂「……優しいですね、Pくんは。でも、その優しさは……」

もしかしたら、美穂も……

いや、でも一年生の時からこの距離だったのに……

美穂「……わたしは、離れたくない……もっと、近づきたいんです。でもきっと、このままじゃそれは叶わないから……」

泣きそうに、けれど逸らさず此方の目を見つめる美穂。

ガコン、ガコン

少しずつ、ゴンドラの開く音が聞こえてきた。

そろそろメリーゴーランドは一周を終えるらしい。

美穂「……Pくんは、好きな人はいますか?」

P「えっ?!あ……」

バクンッ!と心臓が跳ねる。

ゴンドラの音なんて聞こえないくらい、胸の動悸が激しくなった。

その質問は……俺は……

70 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:43:35.05 ID:en/Eym4GO


ガコンッ!

丁度、俺たちの乗っているゴンドラの扉のロックが解除された。

そろそろ、降りなくてはいけない。

でも、俺はちゃんと美穂の言葉に返事をしないと……

美穂「……ごめんなさい……返事は、今度で大丈夫です」

P「そうか……分かった。それじゃ降りるか」

ブーン、ブーン

俺のスマホが震えた。

見れば、緒方さんから電話が来ている。

もう既に出口に着いてしまったのだろうか。

立ち上がって、通話に出ようとして。

美穂「……Pくん」

両腕を美穂に掴まれ……

美穂「ずっと前から……わたしの心は、決まってますから」

唇の距離が、ゼロになった。

コールが切れるまで、その距離は開かなかった。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 20:42:01.20 ID:o/Phh6aeo
共通ルート(?)でこれとは、このP死ぬな…
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 21:45:43.87 ID:M+6/RfeKo
共通でこれだと人生ハードモードだな…
命がいくつあっても足りないだろ
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 22:17:05.57 ID:GL6vUF/Yo
>>59
渋ってなんやねん
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 22:20:20.52 ID:0KYU2f+Qo
誰を選んでも選ばなかった奴に刺されそう
りーなだけが癒しやね
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 23:19:11.76 ID:/wGMJHCmo
もしや全員とキスするまでが共通√か……
76 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 00:54:19.95 ID:OjYrug8C0



ちひろ「……はい、出欠取れました。北条さんは体調不良でお休みです」

今までで、こんなに重い月曜日があっただろうか。

ここ三日間で、色々な事がありすぎた。

昨日は結局、美穂は先に一人で帰ってしまったし。

そしてその本人は今、俺の隣で楽しそうにまゆとお喋りしている。

ただ時折、二人の視線が此方に向くのが非常に居心地が悪い。

反対側に身体を向けると、一瞬緒方さんと目が合った。

……あぁ、教室の癒しだ。

いや、そうではない。

俺はさっさと、答えを出して伝えるべきなんだ。

P「……はぁ」

ため息は、今日で何度目だろうか。

迷っているという事自体が、本当に申し訳ない。

けれど直ぐに答えを出せるほど、俺の人生は恋愛慣れしていなかった。

気分転換も兼ねて、我慢していたトイレに向かう。

まゆ「どこに行くんですか?」

美穂「Pくん、少しお話が」

P「……ほんとごめん、その……」

二人に呼び止められる。

それでも、どうしても……

トイレを、済ませておきたかった。

P「トイレ済ませてからでいい?」

美穂「……あっ、ごめんなさい」

まゆ「ごゆっくり、どうぞ」

いや、本当に逃げるつもりとかではないんで。

トイレに着いた。

用を済ます。 30秒とかからなかった。

当然その一瞬で心が固まる訳はない。

手を洗いながら、俺は改めて考えた。

77 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 00:55:47.52 ID:OjYrug8C0


俺は、誰と一緒に居たい?

誰と一緒に、これからの学園生活を過ごしたい?

それも、友達以上の距離で、だ。

トイレを出て教室に向かうと、美穂とまゆが教室の前で待っていた。

まゆ「……うふふ」

美穂「さて、Pくん」

……一瞬、金剛力士像かな?と突っ込みたくなってしまった。

流石に口にはしないが。

まゆ「……まぁ、まゆは分かってはいますけどねぇ」

美穂「わたしも、勿論です。まゆちゃんより一年長く付き合ってるんですから」

……それは、もしかして……

まゆ「どうせ、まだ心が決まってないんですよね?」

美穂「良く言えば優しくて、悪く言えば……優柔不断、ですから」

はい。

その通りです。

P「……ほんとうに申し訳ない。その……」

まゆ「謝らないで下さい……まゆは、貴方の返事を待ちますから」

美穂「今すぐじゃなくて大丈夫です」

P「……ありがとう、二人とも」

まゆ「まだPさんは、まゆの事をよく知りませんから……これからもっと知ってもらってからでも」

美穂「付き合う前に、相手の事をきちんと知るのは大切ですからね」

まゆ「それに、いつになっても……まゆはPさんの事を想ってます」

美穂「わたしの心は……昨日も言いましたけど、ずっと前から決まってますから」

それに、と。

二人の声が重なった。

まゆ・美穂「「選んでくれるって、信じてますから」」


78 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 00:57:05.98 ID:OjYrug8C0


授業中も、頭の中はその事でいっぱいだった。

板書を写すのが遅れるのも構わず、普段使わない頭を全力でまわす。

それにしても美穂とまゆ、仲良いな。

さっき放課後遊びに行く約束してたのを耳に挟んだが、何というか……

それ以上考えるのはよそう。

それに関しては、俺は考慮するべきでは無い。

先ずは自分の心を決めるべきなんだ。

席を寄せ合って、まゆと李衣菜と美穂と緒方さんと弁当を食べる。

味なんて分からない。

いつの間にか、6時間目の授業の終わりのチャイムが鳴った。

帰りのHRなんて、ほんとに一瞬だった。

まゆと美穂は二人で遊びに行った。

李衣菜「まゆちゃんと美穂ちゃん、仲良いね」

P「だな。良い事だろ、友達が増えるって」

俺は友達全然いないし帰って本でも読もう。

……つら。

智絵里「あの……鷺沢くん。その……良かったら、一緒に帰りませんか……?」

P「ん?あぁ、良いよ。李衣菜はどうする?」

李衣菜「私は図書室で本借りてから帰ろっかなー」

P「あいよ、また明日な」

李衣菜「じゃあね、また明日」


79 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 00:58:02.23 ID:OjYrug8C0



智絵里「……寒い、ですね……」

P「なー、もう少しあったかくてもいいんだけどな」

二人並んで、帰路に着く。

緒方さんは寮暮らしだから、二つ先の信号でお別れだが。

智絵里「昨日は、ありがとうございました……わたし、本当にとっても楽しかったです」

P「そっか、緒方さんが楽しんでくれて良かったよ」

智絵里「わたし……あんまり、遊べる友達が少なくて……その……」

P「これからも皆んなで遊びたいな。緒方さんさえ良ければだけど」

智絵里「こ、こちらこそ……っ!それと、えっと、あの……」

P「ん?どうした?」

智絵里「……わ、わたしだけ苗字呼びは仲間はずれみたいだから……ちょっと、さみしいなって……」

P「あー、そうだな。んじゃ、智絵里ちゃんって呼んでいい?」

智絵里「……はい……っ!ありがとうございます、その……Pくん」

あっという間に二つ目の信号まで辿り着いた。

智絵里ちゃんと別れて、一人で道を歩く。

話している時は気付かなかったが、思った以上に今日は凄く寒かった。


80 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 01:00:34.38 ID:OjYrug8C0


翌日、起きると一件のラインが届いていた。

眠い目を擦って確認すると、送り主は智絵里ちゃんだった。

なんだろ……

『今日の放課後、屋上に来てくれると嬉しいです』

……果し合いだろうか。

んな訳ないだろ。 前回に引き続き、告白の練習だろう。

来て下さい、じゃなくて来てくれると嬉しいです、なあたり智絵里ちゃんっぽい。

にしても、送信時刻三時半って…… 智絵里ちゃん、割と夜遅くまで起きてる子なんだな。

……さて。

まゆ「朝ごはん、出来てますよぉ」

美穂「早く来ないと冷めちゃいますよ」

李衣菜「いやー、Pの家も賑やかになったね」

文香「……朝からこんな幸せが……ありがとうございます、佐久間さん」

増えた。 いや、失礼過ぎるか。

朝食をまゆが作りに来てくれていた。 朝早くから本当にありがたい。

着替えてさっさと支度を済ませ、食卓に着く。

P「朝から豪華だな」

まゆ「良妻ですから」

P「ありがとう、まゆ」

このまま甘える訳にはいかないが…… それにしても、美味しそうなご飯だ。

美穂「……わたしも、もっとお料理頑張らなきゃ」

李衣菜「それじゃ」

みんな「いただきます」

起きたら朝食が用意されてるって素晴らしい。

美味しく残さず全部頂いた。

P「さて……後片付けはやっとくから、三人は先に」

李衣菜「だねー。また時間ギリギリっぽいし」

美穂「ごちそうさまでした、まゆちゃん」

まゆ「片付け、よろしくお願いしますね。それと……Pさん、放課後よければ遊びに行けませんか?」

P「ん、すまん。ちょっと用事があるんだ」

まゆ「……そうですか、分かりました。では……行って来ます」

李衣菜「また教室でー」

美穂「お邪魔しました」

三人が家を出て行った。

俺もさっさと、片付けを終わらせちゃわないと。

文香「……P君。素敵なお友達に恵まれましたね」

P「……ほんと、心の底からそう思うよ」

文香「……私も、行って来ます」

P「食器運ぶの手伝ってくれると嬉しいかな姉さん」


81 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 01:04:28.00 ID:OjYrug8C0



走って学校へ向かう。

ギリッギリ、予鈴がなる直前に校門に滑り込めた。

P「ふー、セーフ!」

加蓮「……ん、鷺沢じゃん。おはよ」

下駄箱で北条に会った。

こいつも遅刻ギリギリか。

P「お、北条か。体調は良くなったのか?」

加蓮「そこそこ。私がいなくて寂しかった?」

P「そこそこ」

加蓮「あ、そう言えば三日経ったから友好ポイント失効だったね」

P「いなくて大変寂しゅうございました!」

加蓮「ふふ、よろしい。ところで……私がいない間に、何かあった?」



1.P「ってそうじゃなくて、金曜の事なんだけどさ……」

2.P「四人で遊園地に行ったんだよ」

3.P「うちで鍋をやったんだ」

82 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 01:06:08.12 ID:OjYrug8C0

共通√はここまでです
今回は加蓮√なのでここの選択肢は1を選んだという体で進めさせて頂きます
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 01:39:01.78 ID:U0KVdZmGO
ここまでが共通√なのか
李衣菜だけ少し出遅れる感じになるのかな
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 12:50:46.79 ID:/nwqMHBRO
りいなはあれだ、美穂とのルートで分岐があるパターンだ
85 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:33:46.57 ID:ehN4p5Qs0


P「ってそうじゃなくて、金曜の事なんだけどさ……」

加蓮「……あれ、鷺沢の事だからもっとはぐらかそうとすると思ってたんだけど」

P「はぐらかして良い事だったのか?」

加蓮「まさか、このまま言い出してくれなかったらポイント失効どころか会員永年追放だったよ」

危ないところだった。

そして。

北条はけらけらと笑いながら言ってはいるが。

それは、つまり……

加蓮「……何?もう一回キスして欲しいの?」

P「……いや、やけに明るいなぁって」

加蓮「アンタの性格は分かりやすいからね」

P「自分じゃどうか分からんけど、そうなのか?」

加蓮「どうせ『あいつさては俺に気が……いや待てよ? ドッキリの可能性やその場の雰囲気に流さてた場合も考慮すべきだ……取り敢えず次会った時確認しよ』って考えだったんでしょ?」

お見事過ぎて何も言い返せない。

加蓮「……はぁ。それに……ふーん、へー……」

P「なんだ、日本語で話さないと伝わらないぞ」

加蓮「だよね、言葉にしないと伝わらないよね」

……こいつ、どこまで分かってるんだ?

加蓮「まぁいいけど。放課後は時間ある?」

P「あ、悪い……放課後は予定が入っちゃってるんだ」

加蓮「誰?」

気温が一瞬にして0を下回った気がする。

おかしい、さっきまで楽しく談笑出来ていた筈なのに。

いきなり異世界あたりにワープしたりしてないだろうか。

GPS情報を確認しても、別にここはシベリアになっていたりはしなかった。

加蓮「……ねぇ、誰?」

P「……ヒ・ミ・ツ!」

加蓮「は?」

P「ちえ……緒方さんです」

震えてなんていない。

もし震えていたとしたら、それは寒いせいだ。

加蓮「……ふーん、何?また告白の練習に付き合ってとか言われたの?」

P「いや、単純に来れたら来てって言われただけだけどさ」

加蓮「そ。なら断っても問題ないよね」

……いや、その理論はどうなんだろう。

文的には間違ってないが人間的に色々とアレな気がする。

キーン、コーン、カーン、コーン

加蓮「……続きは教室で話そっか」

P「俺知ってるぞ、俺だけ千川先生に怒られるやつだ」

86 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:34:28.02 ID:ehN4p5Qs0


教室に俺と北条が遅刻して入る。

一斉に向けられる大量の視線が痛い。

特に、まゆと美穂。

なんでお前北条と登校してるの?的なオーラを感じる。

ちひろ「まったく鷺沢君……二年生になって気がたるんでるんじゃないですか?」

P「気は張り詰めてるつもりなんですけどね……」

当然北条はお咎めなし、と。

さっさと窓側の席に座って俺をニヤニヤと眺めてやがる。

俺はと言えばこの後美穂とまゆと智絵里ちゃんに囲まれなきゃいけないっていうのに。

智絵里「……Pくん……その、ライン……見てくれましたか……?」

P「ん、あー……後ででいいか?」

智絵里「……はい…………」

まゆ「智絵里ちゃん、Pさんと仲良しさんですね」

美穂「ふふ、仲が良いのは素敵な事だと思います」

この教室、外より気圧が高過ぎないだろうか。

肩と心にかかる重圧にプレスされそうだ。

ちひろ「特に連絡事項はありません。夕方は雨らしいので、傘を忘れた子は事務室で借りられますから利用して下さいね」

HRが終わり、千川先生が教室を出て行く。

それと同時、北条が俺の席まで来た。

加蓮「さて、鷺沢。私と一緒に一時間目サボってみたりしない?」

P「流石にそれは遠慮させて貰おうかな」

美穂「えっと……貴女は……?」

まゆ「彼女は北条加蓮ちゃんです。先週のPさんの用事の原因ですよぉ」

加蓮「……ん、アンタは確か……」

まゆ「佐久間まゆ、です。まゆは加蓮ちゃんの事をよく知っていますから、自己紹介は結構です」

加蓮「アンタの趣味が覗き見なのは知ってるよ」

まゆ「それはお互い様なんじゃないですか?」

……逃げ出したい。

胃が痛くなって来た気がする。

保健室でサボタージュ、悪くないんじゃないだろうか。

美穂「えっと……加蓮ちゃんとまゆちゃんは知り合いだったんですか?」

加蓮「先週の金曜日に偶々会っただけ」

まゆ「偶々、ですか……ふふっ」

加蓮「ところで鷺沢。私が保健室に行きたいのは本当なんだけど、付き添ってくれない?」

P「ん、それなら構わないけど」

まゆ「でしたらまゆがお付き合いしましょうか?」

加蓮「体調が悪化しそうだから遠慮しとこうかな」


87 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:38:13.06 ID:ehN4p5Qs0



北条と一緒に教室から出て……

P「……ふぅー……はぁー……酸素が美味しい」

思いっきり息を吸い込んだ。

加蓮「おすすめの酸素マスク教えよっか?」

P「酸素マスクが必要にならない状況の作り方を教えてほしいよ」

加蓮「簡単じゃん。私と付き合えば良いだけ」

P「わぁすごい、インスタントラーメンよりお手軽!」

……なわけないだろ。

普段滅多にインスタントラーメン作らないけど。

P「そういや、まだ結局体調悪かったのか?」

加蓮「治ってはいるんだけどね。マスク忘れちゃったから、保健室で貰っとこうかなって」

P「大変だよなぁ、身体弱いって」

加蓮「なにそれ他人事みたいに」

P「他人事だからな。俺はバカだから、風邪ひいても気付かないんだよ」

保健室に着き、北条はマスクを持って出て来た。

サボっちゃおっかなーと言っていたが、流石にそれは止める。

加蓮「……で、放課後の話。屋上行くの?」


1.P「まぁ、その予定だけど……」

2.P「あぁ、先約だからな」

88 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:38:44.78 ID:ehN4p5Qs0

今回は加蓮√なのでここの選択肢は1を選んだという体で進めさせて頂きます
89 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:41:57.65 ID:ehN4p5Qs0


P「まぁ、その予定だけど……」

加蓮「私が行かないで、って言ったら……行かないでくれる?」

P「……理由、聞いてもいいか?」

加蓮「鷺沢を取られたくないから」

立ち止まらず即答する北条。

そこに、さっきまでの明るい調子は無かった。

P「取られる……?」

加蓮「あの子が鷺沢にどんな想いを向けてるかなんて、一目見ればすぐ分かったから」

P「……どうなんだろうなぁ」

加蓮「ズルいとこあるよね、鷺沢って」

今北条が言うズルい、は。

きっと、弱いとイコールだろう。

俺は何も言い返せなかった。

加蓮「私さ、嬉しかったんだ。鷺沢みたいな優しいバカに出会えて」

北条は、高校一年生の時殆ど学校に来れていない。

きっと小学の頃も中学の頃も同じだったんだろう。

だとしたら、だ。

今の北条の言葉に、どれ程の思いが詰まっているんだろうか。

言ってて悲しくなるが、友達が全然いないのは俺も一緒だ。

母親がいなくて、家が古書店という事もあり本ばかり読んでて。

小学校の頃からクラスの男子と全然仲良くなれなくて、時にはイジメの的にされた事もあったけど。

そんな時に仲良くしてくれた、助けてくれた李衣菜に対し、俺は同じ嬉しさを感じていたから。

P「……褒められてると信じたいな」

加蓮「褒めてるつもりはないよ」

心をへし折るのがお早い事で。
90 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:43:01.12 ID:ehN4p5Qs0


そんなちょっとだけ凹んでいる俺に向かって、くるっと振り返り。

加蓮「だって……私みたいな、重ーい女の子を惚れさせちゃったんだもん」

照れたように笑う北条。

その笑顔に、俺は一瞬言葉を失った。

……なんだ、ほんとこいつは。そんな表情まで出来るのかよ。

加蓮「だから、私は鷺沢と離れたくない。誰かに取られちゃうのが怖いんだ……なーんて、自分勝手な理由なんだけどね」

P「……そうか」

加蓮「長々とごめんね。ほら、早く教室戻らないとまた怒られちゃうよ?」

P「帰ったらあいつらから色々言われるんだろうな」

加蓮「それは鷺沢がなんとかするべき問題でしょ」

P「まったくもってその通りだ、返す言葉もない」

二人並んで、階段を登る。一時間目開始のチャイムは既に鳴り始めていた。

でもきっと今を逃せば、俺はずっと弱いまま、甘えたままになってしまうだろう。

P「なぁ、北条」

加蓮「なに?まだ理由として不足?」

P「俺、悪いけど屋上行くわ」

加蓮「……そっか。うん、分かった」

P「それと……」

ふー、と息を吸い込んで。

心の弱さを、惚れた弱みに変える。

P「放課後、校門前で待っててくれ。雨が降る前に迎えに行くから」

加蓮「……やっぱりズルいよ、鷺沢は」


91 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:44:50.20 ID:ehN4p5Qs0

帰りのHRが終わった後、さっさと荷物を持って屋上へ上がる。

あの金曜日と同じ様に、空は今にも降り出しそうだった。

智絵里「あ……Pくん。来てくれて、ありがとうございます」

P「あぁ。ごめんな、智絵里ちゃん」

本当に申し訳ない事をしていたと思う。

もし、北条の言っていた事が本当だとしたら。

俺がこんな宙ぶらりんに、行ったり来たりを繰り返していたせいで。

智絵里「……今日は、その……あの時言えなかった言葉を……」

あの時、それはきっと先週の金曜日の事だろう。

智絵里「それを、えっと……練習じゃなくって……」

P「……なぁ、智絵里ちゃん」

その言葉を遮った。

俺の方から、きちんと言葉にしないといけないと思ったから。

P「……俺、好きな人が出来たんだ」

智絵里「…………え……?」

P「……凄く難しいな、自分のそういう思いを口にするのって」

ただ一言、好きな人が出来たんだ、と。

そう口にするのがこんなにも大変な事だったのか。

智絵里「……わ、わたし……」

智絵里ちゃんは、今にも泣きそうな表情をしている。

正直この場から逃げ出したい。

それでも、俺は。目を逸らさずに、きちんと……

P「だから、智絵里ちゃんがこれから口にしようとしてた言葉が……練習だったとしても、そうじゃなかったとしても。俺は、付き合えない」

自分の思いを、言葉にした。

遠くで部活の声が聞こえる。トラックの音やゴミを捨てる音も聞こえてくる。

それくらい静かな重い沈黙が、屋上を埋め尽くしていた。

智絵里「……誰……なんですか……?」

ようやく発された言葉は、消え入りそうなほど小さな声で。

智絵里「……Pくんが、好きな相手は……誰なんですか……?」

俺はそれも、伝えるべきなのだろう。

智絵里「まゆちゃん……?美穂ちゃん?それとも、李衣菜ちゃん……?」

P「……北条だよ、クラスメイトの」

智絵里「……誰……?そんな子……」

P「悪い、俺もう行かないと」

空の雲は分厚く黒い。

それが地面に降ってくる前に、ちゃんと約束を果たさないと。

智絵里「……っ!待って、下さい……っ!」

P「……ごめん、智絵里ちゃん」

ポツリと、屋上に雨粒が落ちてくる。マズい、早く向かわないと。

急いで屋上を後にする。

彼女の頬が濡れていたのは、決して雨のせいじゃない。

それを俺は、絶対に忘れちゃいけなかった。

92 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:45:42.86 ID:ehN4p5Qs0


P「悪い北条、遅くなって」

加蓮「……初回限定サービスって事で、セーフにしといてあげる」

校門前では、北条が一人で佇んでいた。

よかった、本格的に降り出す前に来れて。

P「どっか行きたい場所とかあったか?」

加蓮「うーん……ファミレス!」

P「よし、それじゃ初デートに適してないらしいイタリアンファミレスに行くか!」

加蓮「その誘い文句ってどうなの?」

そんな事言いながらも、笑ってついてきてくれる北条。

……って、こいつ傘持ってきてないのか。

加蓮「忘れちゃった、てへっ」

P「てへっじゃないだろ全く……ほら、俺二本持ってるから。良かったな、感謝しろよ」

加蓮「へし折るよ?」

P「何で?」

何だこいつ、傘をケミカルライトか何かだと思ってるのか?

残念ながら俺の折り畳み傘に発光機能は搭載されてないが。

加蓮「……そう言うところは本当にただのバカだよね、鷺沢って」

P「凄いな北条、この1週間で俺にバカって言った回数ベスト1だぞ」

加蓮「……はぁ。傘、一つで十分でしょって事!」

P「……俺に雨に打たれて歩けと?」

加蓮「本格的にそうしたくなってきたんだけど」

いや流石に気付いたけどさ。

なんだろう、こう……楽しいな、こういうやりとりって。

P「さっさと入れ、風邪引くぞ」

加蓮「何様のつもり?」

P「この傘が誰の傘か忘れないようにな」

そんな会話をしながら、北条が傘に入ってくる。

当然ながら、お互いの距離はかなり近くなった。

肩と肩が触れ合っては離れ、雨に濡れそうになりまたくっついてを繰り返す。

P「……さっさとファミレス行くか」

加蓮「……うん、そうだね……」

お互い、割と顔が真っ赤だ。

そんな感じで、不器用二人が寒さも忘れて歩き出した。
93 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:49:05.77 ID:ehN4p5Qs0

店員「っしゃーせー」

店員に案内され、奥の方の席に着く。

外はいい感じに大雨になっていた。多分夕立だから帰る頃には止むだろうけど。

P「注文どうする?」

加蓮「山盛りポテトと厚切りチップスで」

P「パスタとかピザとかドリアじゃないのか」

加蓮「あとハッシュドポテト」

P「お前さてはジャガイモ以外の炭水化物知らないな?」

取り敢えずジャガイモ類を注文する。

加蓮「……それで、改めて聞いておきたいんだけど……」

P「……あぁ」

……こう、あれだな。

改めてきちんと伝えようとすると、やっぱり緊張する。

アホな会話のノリで言っちゃえば良かった。

P「……北条」

加蓮「はいやり直し」

えぇ……

加蓮「さて鷺沢。私のフルネームはなんでしょう」

P「北条加蓮です」

加蓮「分かってるなら分かるでしょ?!」

何故俺はキレられてるんだろう。

あとそんな怒りながらポテトを摘むな、色々と雰囲気が台無しだ。

いやまぁ、そもそもファミレスで告白する時点でアレだとは思うけど。

P「……加蓮」

加蓮「……ふふ……こう、なんだろ。改まって呼ばれると照れるね」

P「俺にどうしろと言うんだ」

加蓮「あ、いいよ。続けて」

感情の起伏が激しい事で。さながら漁船の様だ。

P「俺と付き合ってくれ」

加蓮「えー、どーしよっかなー」

……これはあれか?照れてるのか? だとしたらもう一撃加えてみよう。

一撃加えて弱らせたところをもう一撃で仕留めると、蟹漁業の本に載ってた筈だ。

P「……加蓮、好きだ」

加蓮「っ……そんなありふれた言葉で私を落とせると思わないでね」

……顔真っ赤だぞ。ニヤケてるぞ。

これあれだ、多分俺も凄い赤くなってると思う。

P「これからもずっと、加蓮と一緒にいたい……とかか?」

加蓮「……ねえ、鷺沢」

P「なんだ?ってかそっちからは鷺沢呼びなんだな」

加蓮「ポテト食べ終わったら、家行っていい?」

P「構わないぞ。本しかない家だけど」

追加で、いつの間にか注文されてたポテトが3皿届いた。

ファミレスを出る頃には、雨は完全にあがっていた。
94 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:50:14.45 ID:ehN4p5Qs0


加蓮「おじゃましまーす」

文香「……初めまして。ええと……」

加蓮「北条加蓮、Pの彼女です」

文香「……あら……鷺沢文香、P君の従姉妹です」

P「姉さん、お願いだから一回座って。父さんに連絡しようとしてるでしょ」

文香「……いえ、そんなつもりは……家、開けた方がよろしいですか?」

加蓮「大丈夫です、そんなに長居するつもりはないから」

P「部屋開けるときは絶対ノックしてくれよ、姉さん」

文香「私は、貴方達が降りてくるまで此処で本を読んでいますから……」

二階に上がり、俺の部屋へ加蓮を招待する。

加蓮「うわー本当に本しかないんだね」

P「期待に添えたかな?」

加蓮「うーん、ザ・男の子の部屋!ってイメージとは程遠いけど……鷺沢はいつも此処で生活してるんだ」

早速部屋を物色される。

まぁ見られて困る物は見える範囲には置いてないし大丈夫だろう。

P「で、北じょ……加蓮。なんで俺の家来たいなんて言ってたんだ?」

加蓮「だってほら、いつも鷺沢と一緒にいる子達は来た事あるんでしょ?なのに私だけ無いとか許せるわけないじゃん」

そういうものなのだろうか。

そういうものなのだろうな。

加蓮「それと……人の視線が無いところで、きちんと言って欲しかったから。だって……」

P「もう一回言うよ。加蓮、好きだ。付き合ってくれないか?」

加蓮「一回しか言ってくれないの?」

P「何度だって言うよ。加蓮が望む分だけ」

加蓮「本当に?」

P「もちろん」

加蓮「もしかしたら、一生分要求するかもよ」

P「重いな……ま、俺も好きになっちゃったんだからしょうがないか」

加蓮「えー、そこでしょうがないとか言っちゃう?」

P「気の利く言葉が思いつかなかったんだよ。加蓮こそいいのか?こんな気の回らない男で」

加蓮「……うん。ねえ、鷺沢……」

なんだ?と。

そう尋ねる必要はなかった。

95 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:51:22.45 ID:ehN4p5Qs0


加蓮「……うぅっ……怖かったよ!鷺沢ぁぁっ……っ!」

真正面から、加蓮に抱き着かれた。

息は荒く、声は涙に揺れている。

加蓮「本当は、ねっ……!怖かったっ!不安だった……っ!もし振られちゃったらどうしよう、って……!折角出逢えたのに!初めて好きになったのに!!鷺沢が他の子の方に行っちゃったらって……不安で、仕方なくて!全然寝れなくてっ!」

抱き締められる力がどんどん強くなる。

それに応える様に、俺も両手を加蓮の背に回した。

こんなに華奢で今にも折れそうな身体で、そんな不安に耐えて来たのか。

加蓮「私にはっ!Pしかいないから!!離れたくない!ぜったいに……っ!だからっ、お願いだからっっ!……私と!ずっと一緒にいて!!」

P「……あぁ、約束する。ずっと側にいるよ、加蓮」

加蓮「……っあぁ……うわぁぁぁぁぁぁっっ!!」

ダムが決壊したように、泣き声をあげる加蓮。

俺も絶対加蓮を泣かせないと、心に決める。

あの金曜日のキスが、彼女にとってどれだけの覚悟が込められていたかよく理解した。

今日の朝俺に話し掛けて来た時、どれだけ不安に溢れていたかも理解した。

放課後屋上に行って欲しくないという言葉に、どれ程の願いが詰まっていたのかも理解した。

P「加蓮、こっちを向いてくれ」

加蓮「え……?」

此方に顔を向けた加蓮の唇に。

そっと、俺の唇を重ねた。

P「ありがとう、加蓮。これからも……ずっと、よろしくな」

加蓮「……うん……っ!うんっ!」

再び、唇を重ね合う。

三度目の口づけは、もう加蓮のことしか目に入らずに。

きっと、心も重なり合っていた。


96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 03:21:16.96 ID:Jou++iC+0
こういういいシーンでも胃のキリキリが止まらないのはなんででしょうね
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 09:14:43.81 ID:umtM16lKo
>>96
目からハイライトさんが逃げ出す人しか残ってないからかなぁ…
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 10:28:43.49 ID:AtqpXJ0JO
こうして見ると依存タイプが過半数を占めてるユニットなんだなぁと
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 14:29:42.61 ID:77tC9bpbo
りーなは癒し
100 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/06(土) 08:55:43.88 ID:XY/10z/n0


加蓮「おじゃましましたー」

文香「ふふ、またいらして下さいね」

加蓮を家まで送る為に、二人並んで夜道を歩く。

夕立のせいで道路は濡れていて、夜風はいつもより数段冷たい。

それでも、寒さなんて文字通り何処吹く風。

加蓮「ありがと、鷺沢」

隣に加蓮がいる。

それだけで、なんだか心も身体も暖かかった。

P「にしても、結局そっちからは鷺沢呼びなんだな」

加蓮「なんでだろ、そっちの方がしっくりくるんだよね」

P「なら俺も北条呼びにしようかな」

加蓮「え…………イヤ…………」

立ち止まって、凄く哀しそうな顔をする加蓮。

流石にオーバーリアクション過ぎやしないだろうか。

P「……じょ、冗談だって。ほら行くぞ加蓮」

加蓮「まったく……危うく心臓止まるところだったじゃん」

お前が言うと若干冗談に聞こえないからやめてくれ。

……冗談だよな?

P「にしてもなぁ……明日学校に行くのが怖いわ……」

加蓮「ちゃんときっちり伝えられる?」

P「……あぁ。まゆにも美穂にも、ちゃんと言うよ」

加蓮「うん、お願い。鷺沢からじゃないと、諦めてくれそうにないし」

そうだ。明日、まゆと美穂に言わなければならないんだ。

まゆとは、美穂とは付き合えないって。

俺は加蓮が好きで、加蓮と付き合ってるんだ、って。

加蓮「……腕、組んでいい?まだちょっと寒いかも」

そう言うが早いが、加蓮が腕を組んできた。

腕を組む、なんて行為にお互い慣れていないせいで、足取りまで覚束なくなる。

加蓮「あれ、結構歩きづらいね。ドラマとかだと簡単にやってたのに」

P「なら、これから慣れてけばいいさ」

加蓮「……うん、あったかい。ねぇ鷺沢。私、よく本を読んでたんだ」

P「どんな本を読んでたんだ?」

加蓮「えっとね、小さい頃読んでたのはお伽話。外で遊べなかった分、何度も何度もおんなじお伽話を捲ってた」

そういいながら夜空を見上げる加蓮。

その先には、沢山の星が煌めいていた。
101 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/06(土) 08:56:29.09 ID:XY/10z/n0


加蓮「3匹の子豚が建築士の資格を学ぶ話とか、おばあさんが毒リンゴを訪問販売する話とか」

P「そんな話だったか?」

なかなか商業に寄ったお伽話だなぁ。

加蓮「あと……女の子が、素敵な王子様と結ばれる話」

P「結構色々あると思うけど」

加蓮「うん。だから何度も読んだし……憧れてたし、夢だった。もちろんいつの間にか諦めて忘れてたけど」

ぎゅっと、腕を組む力が強くなる。

加蓮「でも今は、鷺沢が王子様で……私が、薄幸だった女の子。他の主役やヒロインは必要ないから」

P「あぁ、分かってる」

加蓮「……私だけを見てて。これ、割と本音だからね?」

P「約束するよ、加蓮」

加蓮「ならよろしい。信じてるからね、鷺沢」

いつの間にか、加蓮の家の前に着いていたらしい。

楽しい時間は、幸せな時間はあっという間だ。

P「なかなかデカい家なんだな。それじゃ、また明日」

加蓮「ちょっと待って、何か忘れてると思わない?」

なんだろう、俺の家に何か忘れてきてしまったのだろうか。

加蓮「鷺沢に問題。恋人同士が分かれる時に、必ず行わなければいけない行為はなんでしょう?」

P「……そんな行為があるのか?」

加蓮「ヒントあげる。好意だよ」

P「成る程、分かりやす過ぎるヒントだ」

組んだ腕を一度離し、背中に手を回して。

ちゅっ、と。

唇が重なるだけの軽いキスをする。

加蓮「……ありがと……」

P「また明日な、加蓮」

加蓮「……うん、また明日ね」



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