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【モバマス】P「■■、***、○○○○」
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◆77.oQo7m9oqt
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:47:57.96 ID:U5rAS9nW0
強い独自設定あり。
よろしくお願いします。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1514699277
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:48:38.04 ID:U5rAS9nW0
仮令、天が崩れようとも、
飛び出づる為の穴は在る筈である。
一縷の希望を通す穿孔が、きっと何処か。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:49:16.87 ID:U5rAS9nW0
◇
────深い夢を見ていた。
内容はなにひとつも覚えていないのに、しかしそう確信できるぐらいに、頭にうつろな残像が残っていた。夜だった。デスクを灯すスタンドライトの明かりだけを頼りに、辺りを見回した。
窓の外は見えない。暗い背景のガラスは鏡に変わり、映り込んだ私がこっちを見ている。しんと静まって、自らが立てる音以外は空調の音ぐらいしか聞こえない。
……何をやっていたんだったか。我ながら珍しいなと思った。就業時間中に寝落ちてしまうことなんて、これまでなかったのに。
突っ伏して枕の代用としてしまっていた書類に目を落とす。見たところ、記入欄はすべて埋まっている。雇用契約書だった。それも、三枚もある。履歴書と合わせて計六枚。こんなところに放っておいていいわけがない。
しかし、雇用にあたっての書類なんてものは一介のプロデューサーでしかない私の管理するところではなかった。ひとまず自デスク内に保管しておいて、明日事務員に渡そう。
それにしても、どうしてこんなところにこんなものがあるんだ。不思議でならない。誰のためのものだ?
────ああ、彼女たちのか。名前の辺りは夜の闇が紛れて見えなかったが、隅に貼られていた顔写真で認識できた。芸能事務所で勤める私が、現在プロデュースを担当している三人のアイドルのものだった。
覚えていないが、何か確認することでもあったのかもしれない。大切に鍵付きの抽斗にしまって、私はカバンを引っ掛け席を立った。
こうまで記憶が不確かになっていることを、奇っ怪なことにそのときの私はどうも思わなかった。
ただひとつ、袖口が湿っていることだけが私の中に引っかかったが、それも乾くのにつれて意識から薄れていった。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:50:16.74 ID:U5rAS9nW0
一.
雨が降った。梅雨前線のもたらす五月雨だった。出がけに無数の水滴が地表を叩く音が聞こえたので、ラバーソールの革靴を靴箱から取り出した。右手に傘を、左手にカバンを持つ。両手がふさがった状態で電車に乗るのは好きじゃないが、そうかといって濡れることを選択できるような小雨ではなかった。
通勤どきの車内で座れることはなかった。ぼうっと突っ立つ退屈な時間を乗り切って、事務所の最寄駅に降り立った。
どこか不気味な空だった。明るくも、暗くもなく、雲の厚さは不均一。東に雷でも鳴り出しそうなぐらい濃灰色になっているところがあれば、西に晴れ間が見えそうなところもある。
気を抜けば崩落しそうだ。芽生えた冗談混じりの不安は足の運びに現れ、私は普段よりほんのわずかだけ早く事務所についた。
オフィスの中は、雨が降ると静まって感じる。節電のために明かりを絞っていることもあって、太陽が出ていないと朝でも薄暗なところが原因のひとつなのだろう。
自身のデスクにつき、同僚の出勤を待って用件を済ませた。私のサポートをしてくれる事務員の方も、いぶかしげに首をかしげていた。
「はあ……まあ、預かっときますけど。なんでまたこんなもんを持ってたんです?」たずねられたが、応えようがないので曖昧に笑うしかなかった。
昨夜とは違って、意識の手綱はきっちり握れている。ホワイトボードに書き起こしてある彼女たちの予定を確認して、手帳を開く。
生来から几帳面と呼ばれる性格だった。しなければならないこと、すべきことは手元にも記しておいて、終わったところからチェックを付けるようにしている。
ふと思い立って、手帳の昨日の欄を見た。すみずみに目を走らせて、それからボールペンの尻でひたいを掻いた。
レ点は、すべての項目に丁寧に付いている。なぜ私が眠りに落ちるまで事務所にいて、なぜ私のデスクに彼女らの契約書があったのか。わからないという事実だけが浮き彫りになった。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:51:05.25 ID:U5rAS9nW0
「────プロデューサー! おはよーっ!」
背後から不意を突かれて肩が跳ねた。パッション溢れる明るい声が、思考に沈みかけた私の意識を引っ張り戻す。
「どうかしたのー? なんかむっつかしそーな顔してるけど……」
「ああ。いいや、なんでもない」取り繕い応えた。なんとなく、喉がいがらっぽかった。自分の声が自分の声じゃないみたいで、聞き取りづらくさえある。不調の兆しか。そんな私とは違って、
「おはよう、***。今日も元気だな」
「えっへへ、まあね!」
弾けるように笑うところが魅力的な子だった。小さな悩みなんて吹っ飛んでしまえ。そう言わんばかりの笑顔がショートカットの茶髪とよくなじんで、快活なイメージを強めている。
ぱくん、と手帳を閉じた。気になる。とはいえ今日は今日で仕事があるわけで、いつまでも昨日のことばかりに拘泥してはいられない。切り替えなければこの子と仕事に対して礼を欠く。
「***。予定通り、今日は営業に行くぞ。時間になったら車、回しておくから玄関の前で集合。オーケー?」
「んっ、オッケー!」
ぴっ、と敬礼のポーズをして、***はドレッシングルームの方へ駆けていった。
私の方も用意を整える必要がある。彼女のために作成したリングファイルを一度ぱらぱら確認して、バッグに詰めた。手っ取り早くテレビショーにでも出してあげられればいいのだが、高望みをしても仕方ない。
今日も地道に草の根を分けよう。
出がけに事務員さんから追加の業務を投げられ手帳を開き直すはめになったが、それ以外は問題なく、私と彼女は社用の軽バンに乗り込んだ。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:51:41.87 ID:U5rAS9nW0
雨足は依然変わらず、まだらな空も変わっていなかった。
「今日はどこ行くの?」せわしなく往復するワイパーに目を行ったり来たりさせながら、助手席の彼女がたずねてきた。
「言ってもわからないと思うが……」耳に馴染んだような有名なところへは行っていられない。地元のイベント下請け会社に、隣の市にある小さな自治体、それから最後、業務上の提携関係にある別事務所。行くことが決まっている今日の予定はとりあえずその三つで、あとは時間次第になる。
伝えてみたが、彼女の首は斜めに傾いだ。
「あはは、ほんとにわかんない。あっ、最後のとこはわかるけど」
「そこへは何度も行ってるからな」ひとつ頷く。「まあ、まだ新米なんだ。大きなところへ行けないのは仕方ないと思ってくれ」
「仕方ないかぁー」
うなだれそうになる彼女は、うちの事務所に所属してかれこれ一年ほどになる。大抵の社会人なら新人研修も完全に終わる頃合いだし、そろそろ、もっとと気持ちがはやるのも理解できる。
話題そらしに彼女の顔に意識を向けた。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:52:23.83 ID:U5rAS9nW0
「……ところで***、今日のメイクは自分でやったのか?」
「へ? あ、うん。そうだよ?」
「そうだよな」
「うん? ……あれっ、ウソ、もしかしてなんか変だった? 自分では会心の出来だったんだけど!」
「いいや、変じゃない。よくできてると思う。いつも以上に上手いから、ついにうちもお抱えのメイク担当でも雇ったのかと思って」
「あ、そゆこと? よかった〜」安堵にはにかんで、一転、彼女は得意げに言う。「まま、今の私にはお師匠様の教えがあるからね。ドヤ♪ って感じ?」
お師匠様の正体には思い当たる影があって私は小さく笑った。
「その割に不安げだったじゃないか。■■に言っといてやろう」
「むぐ。……や、だってさ。だってほら、■■姉って○○○○と違って結構イタズラ好きだし。もしかしてめちゃくちゃ教えられたかも? ……みたいなね?」
仲良くなったものだ、と思う。***に、■■、それから○○○○。三者三様に方向の違う個性と嗜好を持っていて、はじめはどうなることかとわずかばかり心配していた。
杞憂だった。振り返っておかしくなり、小さく鼻を鳴らした。
「あ、もー! 笑わないでよっ!」
「別に***を笑ったわけじゃない」
目的地までの時間は、もっぱら曲がりかけた彼女のヘソの向きを直すのに費やすことになった。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:53:02.94 ID:U5rAS9nW0
◇
私の営業方針は、基本的に狙い撃ちを良しとしていた。方々アンテナを張り巡らせて、需要のあるところにピンポイントで赴く。イベントの運営会社にせよ、隣市の自治体にせよ、近々に企画されている催しの情報を掴んだからこそ行動を起こした。
それが最も効率的だと考えているし、実際これまでも悪くない結果を出してこれた。有能を自称するのは行き過ぎだとして、しかしおそらく賢しいぐらいの形容は被っても許されよう、というのが自己評価だった。
「……どうですか? イベントのアシにうちの子を使ってみませんか。結構子供への受けもいいですし、ハツラツな感じもイメージに合うでしょう」
「んんー……そうですね。自分はあくまで責任者じゃないので、答えは出しかねるんですが」
「ああ、もちろんお返事は後日で結構です。こちら、私の名刺と***の資料はお渡ししておきますから、頭の隅にでもほんのちょっと、置いておいていただければ」
「あはは、わかりました。お預かりしておきますね」
職員は朗らかに笑って私の手から諸々を受け取った。よし、と内心で拳を握った。交渉に手応えはあったし、印象も悪いということはなさそうだ。期待できる。ダメ押しに彼女の肩を叩こうとして、
「ぜひ! よろしくお願いしますっ!」
その必要はなかったので手を引っ込めた。行儀よく頭を下げた彼女に続き、自らも腰を折る。慣れてくれたものだと、嬉しくて自然に口角も上がった。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:53:39.14 ID:U5rAS9nW0
「お疲れ、***」公民館を出てから、「はぁ〜」と深く息を吐いた彼女にねぎらいの言葉をかける。
「いっやあ、何回やってもお偉いさんとお話しするのは緊張するよねー。敬語も難しいし」
「そうだろうな。でも、だいぶ慣れてきたんじゃないか?」
手皿に受けた雨は勢いを弱めつつあった。それでも傘は持っているわけで、手癖のようにばさりと開く。
「最後も、自分から挨拶できてたろ。ちょっと前までガチガチで何も言えないぐらいだったのに」
「えへへ、まあまあ、ね」彼女は褒められると素直にはにかむ。「もっと言ってくれてもいいんだよ?」
「ちょっと前までほんとガッチガチで出来の悪い機械みたいだったのにな」
「ちょっ。そっちじゃないでしょ! しかもなんか酷くなってる!」
「冗談だ」
感情の発露が素直な子だった。だからつい、からかいたくもなる。もうっ、と頬を膨らませながら、彼女は私の差す傘の中に入ってきた。体ごとぐいぐい押され、陣地を奪われる。
「ほらほら、もっとそっち寄って。……からかったバツとして傘持ちを命じます。車まで、私を雨から守るよーに!」
大した命令でもなく、いっそ可愛らしくさえある罰には、私は黙って従った。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/31(日) 14:54:20.34 ID:U5rAS9nW0
二件の営業を終えて、時間は八つ時になった。どこかで軽く一服して、それから最後に行くか。それともこのまま休憩なしで最後まで回って、早くに帰るか。どちらがいい? とたずねると、彼女はノータイムで前者を選んだ。道沿いにあった全国チェーンの喫茶店に車をつける。
……チャージ料はいったいいくらだろうか。メニューに記載されている値段を見て疑問が浮かんだ。自分ひとりなら決して入らない店だが、彼女は嬉々としてオーダーを考えている。無粋なたわごとは噛み殺して「どれにする?」とたずねた。
ううん、とひと唸りして、「……チーズスフレか、モカチョコレートか。悩みどころ。ね、プロデューサー、はんぶんこしない?」彼女は上目を使う。
「べつに私に半分寄越さなくても。どっちも頼んで両方食べればいいじゃないか」
「えっ、いいの? ……って、ダメダメ。それ絶対太るじゃん!」
「レッスン厳しくやれば平気だろう。○○○○に付き合えばいい」
「それはイヤ……じゃないけどぉ」さっと彼女は目をそらした。「ままま、今日はひとつにしとこっかな」
「そうか。で、何にするんだ」
「うん、決めた。モカチョコ!」
「飲み物は?」
「ノンファットエキストラミルクラベンダーアールグレイティーラテをライトホットのトールで!」
「なんて?」
注文は彼女に済ませてもらった。
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