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492 :
>>491修正
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/06/29(金) 01:52:48.36 ID:XlCsDid20
【黙示録】大洗実況スレ part6【人類終了】?
273: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:32.23 ID:dk0utd44??
【悲報】てれ東、ゆーがたでいず!の放送を中止し深海棲艦に関する緊急特番を開始?
274: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:32.29 ID:bonsky01?
スレの流れはやすぎぃ!!?
275: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:33.48 ID:pp5astsw?
>>273
?
こマ??
276: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:33.50 ID:cdd582in?
>>273
?
ヒェッ?
277: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:34.58 ID:hi06ngbs?
>>273
?
非常事態対策の一環として、?
ご家庭内の目につく場所に貼ってご活用ください。?
*レベル6が、最高ランクです。?
レベル1:NHCが特番を開始。(注意報発令)?
レベル2:日チャン、NBS、富士、テレひのが特番を開始。(警報発令)?
レベル3:てれ東がテロップを入れる(避難勧告発令)?
レベル4:てれ東が通常放送を打ち切る (避難命令発令)?
レベル5:総理大臣、国民に向けて会見(非常事態宣言)?
レベル6:てれ東、アニメを放送途中に打ち切り緊急特番を開始する(地球滅亡。少なくとも日本の終わり)?
278: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:35.66 ID:tnk6kd29?
>>273
マジやん?
279: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.00 ID:mnayemna?
>>277
これを見に来た?
280: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.16 ID:yakoni89?
>>277
?
仕事早すぎて草?
281: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.59 ID:pplm82t?
>>273
?
マシソンじゃねえかwwwww?
282: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:38.60 ID:f0m0cb24?
お前ら落ち着け、減速しろ。?
283: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.01 ID:jminnanj?
>>277
?
これとウニのコピペほんすこ?
284: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.27 ID:jamwikip?
>>277
?
まだアニメじゃなくて通常番組だから(震え声)?
285: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.40 ID:nt94knkk?
16時15分からまた茂名官房長官の記者会見来るってよ?
286: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:40.03 ID:bam0tki3?
>>277
?
レベル4やんけ!まだいけるやん!!?
287: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:41.92 ID:mti55hdk?
>>277
?
絶対投下する瞬間待ち構えてたわこいつ?
288: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:43.08 ID:ynks1ma8?
>>285
今更何を話すねん
493 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/06/29(金) 01:55:14.84 ID:XlCsDid20
289: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:45.61 ID:pp5astsw
>>287
>>273
の書き込みから2秒強で
>>277
が貼られてて草生える
290: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.17 ID:sk1to1sm
どこの報道も似たり寄ったりで全然最新情報入らへんな
291: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.20 ID:kyztih00
>>285
どーせ殆ど真新しい情報出ないやろ、パニック起こすなーって定型文しゃべって終わりや
292: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.93 ID:9ks31y
避難勧告対象地域この短時間で拡大しまくってて草
293: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:04:47.25 ID:anotssg1
ワイ末っ子、酸で教師勤務のアッニと保安官勤務のアッネが心配で震える
294: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.22 ID:bkrm83sl
>>293
酸になんかあったら在日米軍黙ってないやろ。それよりまだ茨城県沖から逃げてる最中のプラ学がヤバい
つながり深い露は四方から深海棲艦迫ってるから独自に救援なんて回せる余裕ないだろうし
295: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.30 ID:0i4mfseik
>>292
太平洋側だけじゃなくてオホーツク方面から来てる深海棲艦おるからな。国後に住んでる従兄弟からさっき鎮守府からの避難勧告きたってLINE入ったわ
296: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.63 ID:k1nk2njc
亜細亜板覗いたらお祭り騒ぎの韓国のニュースコメントのレスわざわざ翻訳貼りして発狂しまくってて草
297: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:57.09 ID:tnk6kd29
>>294
一番ヤバいのは日本海側定期。ビゲン、ポンプルとかなんかあったらどうすんやろ
298: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:58.98 ID:mik1istl
>>296
や亜糞
まぁお祭り騒ぎしてる側にも流石に問題あるとは思うが
299: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:01.85 ID:emd00rai
>>297
さては竹島、尖閣、佐渡、対馬の4鎮守府の戦力知らんな?チビるで?
300: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:04.19 ID:iyki4810
>>293
サンダースは長崎やろ?第七艦隊は横須賀の方に出払ってる分差し引いても佐世保の司令府とかあるしなんか起きてもなんとかなるやろ
301: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:07.37 ID:1bsy5kri
>>297
「万一に備えて」の名目で対馬、尖閣、竹島、佐渡に実質対中・韓・北として配備された艦娘と海自の部隊いるで。呉も日本海側やしなんなら在韓米軍もおる。
302: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:08.19 ID:stgrw9i0
>>297
スナフキンのところ忘れるとか頭宝木かよ
303: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:10.10 ID:jb54zy91
群馬県民を海岸線に並べときゃ深海棲艦なんか余裕よ(鼻ホジー
494 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/06/29(金) 01:55:58.40 ID:XlCsDid20
304: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:14.63 ID:dDkK64Dkg
マジレスすると、大正義戦力で防衛されてるとはいえ人口密集地の東京やバリバリ沿岸都市の横須賀に動きがない限りはまだ慌てる時間じゃない。あんなおざなりの避難勧告が出ただけで自主避難任せにして放置されてるのはなんだかんだ言ってまだ政府とか自衛隊上層部は状況を打開できると踏んでるからやろ。あの辺り完全に止めたら日本経済死ぬし。
逆に、横須賀とか東京でそういった部分度外視した住民の強制ガチ避難が始まったらいよいよヤバい
495 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/06/29(金) 01:57:52.32 ID:XlCsDid20
今回分更新完了。ようやくまともなページ数更新できた…のに
>>491
の安価番号ミス誠に申し訳ない限りです
日本代表グループリーグ突破おめでとうございます。寝ます
496 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/29(金) 09:34:00.73 ID:t0c5f2YSO
板コピペのせいで
>>1
が狂ったと思った
497 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/29(金) 14:07:25.95 ID:p1UAN6GA0
おつです!
海軍きたあああ…となるけど、この期におよんで畜生共はw
…だいぶかかったけど、ようやくここまできたか
498 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/29(金) 14:19:10.55 ID:ziVffcrs0
乙!
大洗増援間に合った、のか?(疑心暗鬼
499 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/29(金) 21:47:27.91 ID:f1ScJWeG0
乙
500 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/06/30(土) 00:10:23.43 ID:3IFCTjmT0
僕が小学生の頃は、ちょうど例の光の巨人が怪獣達と戦うヒーローシリーズが平成の世になってから復活した時期でね。特撮オタクだった父親の影響を色濃く受けていた僕は、シリーズが放映される毎週末の夕方を心の底から楽しみにしていたよ。
特に、最終回が秀逸でね。超古代の眠りから蘇った闇の大怪獣に、一時光の巨人は倒されて石像化してしまう。だけど、希望を信じる世界中の人々の善なる心に反応し、その巨人は最強の姿にパワーアップしてついに闇の大怪獣を討ち果たすんだ。
僕は心の底から感動した。人間はなんて素晴らしいんだろうって。その頃にはもう世界中で大小様々な紛争が転がっていたけれど、いざ“本当の危機”が訪れたときは、きっと人類は手を取り合うことができるんだって思ったよ。
……そして僕は愚かにも、この若気の至りに等しい思想をつい最近まで捨てることができぬまま過ごしてきた。
501 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/06/30(土) 00:11:57.94 ID:3IFCTjmT0
提督に志願したのだって、最初は艦娘の皆と共に世界中の人々が融和の手を取り合う架け橋になれればと思ってのことだ。深海棲艦という共通の脅威に苦しむ人々が、自ら垣根を捨てて本質の“光”に気づき、大いなる“闇”を打ち払うきっかけになりたかった……我ながら、赤面するほど甘い考えだと今では思うよ。
現実はどうだ。滅亡寸前になった今も尚、人間は足の引っ張り合いを続けている。艦娘という、全てを人類の守護に捧げてくれる存在がありながら、彼らはその“献身”をさえ、意地汚く奪い合う。
人類は、生まれたての“雛”のような存在だ。隔てているのは壁ではなく“卵の殻”で、自らその殻を破る力もなくただ本能が赴くままに動くことしかできない幼稚で醜悪な“雛鳥”なんだ。そんな奴らに、この子のような艦娘やそれを率いる僕ら提督がどれほど献身したところで成長なんかするわけがない。自ら殻を破り手を取り合うなんて夢のまた夢だ。
だから我々は、彼女に“親鳥”になって貰うべきなんだ。彼女の献身に感謝し、その身を委ね、彼女の導きに従って殻を破り、真の融和を果たす。彼女の食べr
「ダメだ気色悪すぎて最後まで聞けねーわ。
とりあえず長ーよ死ね」
502 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/06/30(土) 00:14:27.16 ID:3IFCTjmT0
「いやほんっっっっっと長ーよ。お前絶対通信簿とかで先生になんかいろいろ書かれてたタイプだろ。もうなんつーか死ね。直球で死ね。
李牧に理不尽ワープ奇襲食らった麻鉱将軍みたいに死ね」
「要はアレだろ?てめえが勝手に中二病全開で地球人類を勝手に過大評価して勝手に失望しましたって言いたいんだろ?
お前漫画とか読んだことある?ジャンプどころかコロコロコミックで出てくるわその手の三下臭が凄い敵キャラ」
「しかも他人のエゴを散々批判しておきながら、一番エゴの塊なのもテメェ自身だしな。
いい年した大人が、自分たちでいろいろ解決すんの面倒だから艦娘たちを祭り上げて全部そいつらに任せて、自分たちは楽しますってニート宣言してるだけじゃねえか。
要はあの長ったらしいご高説は全部、“自分は艦娘のことを都合のいいお人形としか考えてません”って内容のクソみたいな自己紹介だ」
「………艦娘は、【艦娘】なんだよ。それ以上だのそれ以下だのはない。
こいつらにはこいつらそれぞれの感情があり、表情があり、思いがある。俺たち人間と何一つ変わらない。
ただ敵を殺すだけの兵器でもなければ、てめえの言う“献身”しかできないロボットでもない。ましてや、てめえの宗教ごっこに使われても何も感じないお人形じゃない。てめえが思うところの“人間の愚かさ”とやらを散々詰っておきながら、こいつらの……こいつのことを自分のエゴを実現する存在としか見られてねえてめえが一番醜悪だ」
503 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/06/30(土) 00:15:57.95 ID:3IFCTjmT0
( T)「お前に、こいつの提督である資格はない。
お精子からやり直せクソガキ」
504 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/30(土) 07:35:33.22 ID:rArN8Qv6o
お疲れ様です
505 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/30(土) 21:26:00.62 ID:y7MIPLFx0
おtu
506 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/01(日) 22:02:44.62 ID:2z8TBUqM0
随分と、古い夢。
起き抜けで中途半端にかき混ぜた溶き卵のようにはっきりしない状態の脳裏に、最初にぽつりと浮かんだのはそんな身も蓋もない感想だった。
この艦隊に加わる前、私が所属していた鎮守府の夢。そこで“あの人”に、今の私の提督に初めて会ったときの夢。これらがもう三年以上も前のことだと気づいて、一人密かに驚愕した。
それにしても、夢を見ること自体下手したら年単位で、本当に久しぶり。その久しぶりの夢の内容が、何故“アレ”だったのだろうか。
(正直、寝覚めはあんまりよくないなぁ……)
目玉焼きを作るためフライパンの上に割った卵の黄身が、着地と同時に崩れてしまったのを見たときのような、とでも言えばいいのかな。怒りと言うほどのもではないけれど、胸の内がもやもやしてすっきしない感じ。
心理学なんかでよく言われる、“現状の不満と過去への回帰願望”みたいな線は絶対にないと断言できる。今の提督との出会い自体は好ましいものではあるけど、その好ましい記憶は前の鎮守府での“忌まわしい記憶”とセットだ。ケーキを作る場に必ず用意される生卵と同じぐらい、切っても切れない関係。例えあの鎮守府にそのまま所属していれば「火の鳥の卵を料理する機会に恵まれる」と言われても、戻りたいとは思わない。
507 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/01(日) 22:04:13.22 ID:2z8TBUqM0
となると、他にあの頃を夢に見た理由はなんだろう。
私自身は乗り越えたつもりだけど、実は自分もあずかり知らぬ深層心理に未だ眠るトラウマの表出か。
予知夢の代わりに特に不快な内容の夢を見せることで、この後に起きるであろう深刻な不幸に対する警告か。
ただの悪夢の類いで、特に理由はないのか。
或いは────
《War-Hog-01より統合管制機【Hedwig】、指定ポイントへの空襲の効果は絶大。多数の轟沈艦・損傷艦を確認した》
《Gladiator-01より【Hedwig】、当編隊は反転攻撃に移る。01より編隊各機、一機でも多く沈めつつなるべく敵の火線を引きつけろ、Over》
《Bison-01, Engage. 01より全機、対地爆撃を開始》
《輸送部隊各位、戦闘空域到達まで30秒。突入フォーメーションを取れ》
或いはアレが走馬燈の一種だと言われたら、私は其方の方が信じられる。
何せ私たちは、「何時ものように」死地へと踏み込んでいる真っ最中なのだから。
508 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/01(日) 22:07:48.88 ID:2z8TBUqM0
ここは、“海軍”兵士のみんなが「オスプレイ」或いはV-22と呼んでいる兵員輸送用の回転翼機の中。私たちを含め30人ちょっとが詰め込まれて、お世辞にも空間に余裕があるとは言いがたい。
《統合管制機【Hedwig】より全輸送機へ。兵員の一部を自衛隊のF.O.Bへ合流させろ。展開地点はHyakuri-Airportだ、敵の空襲襲来に備え相応の対空火力もあることが望ましい》
《Cargo-02に利根改二が搭乗している、適任だ。Cargo-01よりCargo-10、F.O.Bへ向かえ》
《此方Cargo-10、命令を受諾した。指定地点に急行する》
《此方Gallop-01、当編隊は弾薬を使い果たした。補給のため一時戦域を離脱する、Over》
手狭な機内を、英語音声の無線通信がひっきりなしに飛び交っている。かなりの早口に加えて籠もっていたりぶつ切りだったりであまり聞き心地は良くないけれど、意味は難なく理解できた。
………提督から“マッスル英会話”とかいうバカげた英語学習を押しつけられたときは99式艦爆でぶっ飛ばしてやろうかと思ったのに、現実としてこのように結果はばっちり出てしまっている。正直、ありがたみよりも悔しさというか腹立たしい気持ちが先行する。買い置きしていた卵のパックの内一つをうっかり放置して、一個も使わずに賞味期限が切れてしまったときよりも悔しい。
《目標地点に到達》
《【Hedwig】より全部隊に通達、突入開始。
Good luck》
《Roger. Cargo-01 for All unit, follow me!!》
《Stork Team, Roger. Go go go!!》
《Taxi-01 for All team, Enemy Anti-Aircraft-Fire in coming!! Break, Break!!》
《Keep formation!!》
そんなことを暢気に考えていると、どうやら目的地である大洗町の上空に辿り着いたらしく無線でのやりとりが更に慌ただしいものに変わる。ドンッ、ドンッ、と大きな太鼓を渾身の力で叩いているみたいな低い音が機外で立て続けに響いて、床から身体に這い上るようにして震動が伝わってくる。
「……」
無言で傍らの丸窓から外を見る。ちょうど夕焼け空にあでやかな炎の花が咲き、直撃弾を受けた輸送機が電子レンジで温めた卵よろしく爆散した。
509 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/01(日) 22:35:17.87 ID:2z8TBUqM0
《Stork-11 lost!!》
《Mules-09 One hit!! Mayday, Mayday!!》
《【Hedwig】より各位、学園艦上から新たな艦載機の発艦を確認した》
《護衛航空隊が迎撃開始!抜けてくる敵機に注意しろ!》
《Stork-01、回避運動に移る!》
(,,#゚Д゚)「揺れるぞ!掴まれ!」
「うわっとっと!!」
「ぽいぃっ!?」
外から聞こえてくる対空砲火の炸裂音の間隔が短く、より連続的なものに変わる。操縦士からの報告直後に斜め前の席に座っていたギコさんが叫び、次の瞬間機内がぐらりと大きく傾ぐ。集中砲火を受けているらしい私たちの機体の回避運動に、右隣で驚いたような声が二つ同時に上がった。
「全く、いい加減“海軍”司令部は僕の扱いを考え直した方がいいと思うね!僕ほどの美少女なら空調の効いたリムジンにテレビとフルコース料理付きで送迎すべきさ!」
(,,゚Д゚)「なるほど貴重な意見だ!」
声の主の内の片方───時雨が、なおもぐらぐらと不規則な軌道を取り続ける中で不愉快そうに悪態をつく。それに応じるギコさんの声も、負けず劣らず不機嫌そうだ。
(,,#゚Д゚)「俺からも上層部に掛け合ってやるよ!そしたら邪神も真っ青の性格してるクソガキのお守りなんて二度と任されなくて済むからな!
序でにそのリムジンがル級の砲撃で吹っ飛ばされることも真剣に祈ってやるよ!」
「艦隊一の美少女を捕まえて邪神とはずいぶんな言いぐさじゃないか、お守りされる側のくせに!」
(,,#゚Д゚)「俺が知る限り人様のドタマくないでぶち抜きそうになることをお守りとは言わねえな!艦隊一の美少女名乗る前に艦隊一容量が少ないその頭をなんとかしやがれ!」
「僕が知る限り“ちょっとした運動”でくたくたになっちゃうようなクソ雑魚ナメクジ人間を助けてあげることは十分にお守りに分類されるはずだけどね!死ね!」
(,,#゚Д゚)「てめえが死ね!」
510 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/01(日) 23:08:29.20 ID:2z8TBUqM0
二人とも、機内外双方での騒音に負けぬよう全力で声を張り上げながら罵り合いを続けている。今にも生卵の投げつけ合いを始めそうな声の調子を聞く限り、割と本気で互いに嫌っていそうだ。
戦場を目前にしてそんなことに労力を使う二人はきっと、卵を入れろとレシピに書かれてたら割らずにぶち込むタイプなんだろうなと思う。
「というか、とうとう僕を金剛以下扱いしやがったな!絶対今度こそ臑蹴り割るからね!」
(,,#゚Д゚)「なんでてめえはそんなに俺の臑に対して頑ななんだ!それこそ金剛の一つ覚えじゃねえか!」
多分この二人は金剛から訴えられたら勝ち目がないと思う。
「………っぷい」
「………大丈夫ですか?」
(*;゚ー゚)「確かエチケット袋がその辺りに……」
見かねた江風が反対側の席から少し身を乗り出し、事態の収拾を図る。因みに右側のもう一人……夕立は、某魔法少女詐欺師のエイリアンみたいな声を上げて縮こまっている。
……顔色が青く頬の辺りがリスのように膨らんでいることから、どうも三半規管が深刻なダメージを負っているようだ。このまま行けば、彼女が朝に食べていた炒り卵が機内の床にぶちまけられる時もそう遠くはないだろう。幸い彼女の真向かいにいる不知火としぃさんが異変に気づいていろいろと対処しているようなので、それでなんとかなるよう祈るほかない。
────そして。
( T)「…………」
機内の最奥では、私たちの提督が座っている。
511 :
申し訳ない>>510訂正
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/01(日) 23:09:56.71 ID:2z8TBUqM0
二人とも、機内外双方での騒音に負けぬよう全力で声を張り上げながら罵り合いを続けている。今にも生卵の投げつけ合いを始めそうな声の調子を聞く限り、割と本気で互いに嫌っていそうだ。
戦場を目前にしてそんなことに労力を使う二人はきっと、卵を入れろとレシピに書かれてたら割らずにぶち込むタイプなんだろうなと思う。
「というか、とうとう僕を金剛以下扱いしやがったな!絶対今度こそ臑蹴り割るからね!」
(,,#゚Д゚)「なんでてめえはそんなに俺の臑に対して頑ななんだ!それこそ金剛の一つ覚えじゃねえか!」
多分この二人は金剛から訴えられたら勝ち目がないと思う。
「………っぷい」
「………大丈夫ですか?」
(*;゚ー゚)「確かエチケット袋がその辺りに……」
因みに右側のもう一人……夕立は、某魔法少女詐欺師のエイリアンみたいな声を上げて縮こまっている。
……顔色が青く頬の辺りがリスのように膨らんでいることから、どうも三半規管が深刻なダメージを負っているようだ。このまま行けば、彼女が朝に食べていた炒り卵が機内の床にぶちまけられる時もそう遠くはないだろう。幸い彼女の真向かいにいる不知火としぃさんが異変に気づいていろいろと対処しているようなので、それでなんとかなるよう祈るほかない。
────そして。
( T)「…………」
機内の最奥では、私たちの提督が座っている。
512 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/02(月) 11:15:40.01 ID:1SIxM3Mg0
更新乙です
マッスル鎮守府が百里基地経由で大洗へ向かう展開?
あと、地の文は誰のモノローグだろう
513 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/03(火) 13:47:05.08 ID:d0La2nsA0
おつおつ
…ってか瑞鳳って思考は良識的なん!?w
514 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/03(火) 21:21:31.84 ID:w4IM5ExD0
乙
515 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/04(水) 06:58:15.02 ID:U0d4PKLjO
乙
516 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/07(土) 23:00:53.92 ID:IzoT3soA0
身長、196cm。体重、118kg。彼が敬愛して止まない某ハリウッド俳優と(凄く気持ち悪いことに)ピッタリ一致した、日本人としては規格外の数値。彼はその大きな身体を少し窮屈そうに背もたれに預け、腕と足を組んで椅子に腰掛ける。
ただ大きなだけではなく、彼の身体は徹底的に鍛え抜かれたものだ。0.1tを越える体重の大半は筋肉とそれを維持する骨格で構成されており、数値以上の存在感が彼の巨?に付与された結果“日本人離れ”は“人間離れ”にランクアップした。
ギコさんをはじめ、艦娘が生まれる前から深海棲艦と生身で戦い、そして沈めてきた猛者が集う“海軍”。その世界最強の部隊が20人以上も寄り集まった機内にあっても、彼の巨?は一際異彩を放つ。ましてやそんな人物が無言で俯き座ったままぴくりとも動かないとなれば、彼のことをよく知っている私でも言い知れぬ威圧感を感じてしまう。
( T)「……………」
そう、無言。
提督は、横須賀でこの輸送機に乗り込んでから──正確にはその直前数分頃から──、一言も発していない。
別に彼はトラブルメーカーでもないし、奇っ怪な出来事に事欠かない我が鎮守府においてもなんだかんだ言って彼自身がその「奇っ怪な出来事」を起こしたことは殆どない。とはいえいざ異常事態が起きれば怪異を虐殺しつつ艦娘共々お祭り騒ぎに興ずる程度には、彼もまた喧しい性格をしている。
そんな、私のよく知る提督ならば、少なくとも時雨とギコさんの(醜い)罵り合いに嬉々として参戦するかどちらもプロレス技で沈めるぐらいのことはしているはずだ。また、たかが敵の対空砲火のまっただ中を突っ切る程度で「いつものノリ」を失うような柔な神経でもない。
スーパーで買った12個入りの卵のパックに何故かイースターエッグが一つだけ混じっているのような、得体の知れない違和感。その気持ち悪さに、ワケもなく身じろぎする。
「………」
「………」
いつもと様子の違う彼の姿に、私は斜向かいに座る古鷹に視線を向ける。彼女の方もちらりと提督を見やった後、少し不安そうに小首をかしげた。
517 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/07(土) 23:29:02.24 ID:IzoT3soA0
この中では一番の新顔であり提督と過ごした時間がまだ鎮守府の中では短い方の私に対し、古鷹は彼の指揮下としては古参の一人だ。その──本来提督の奇行には特に耐性がある方である筈の──彼女が困惑しているという事実が、彼の今の姿の異様さを表している。
「うわっ……本当によく揺れるね。ウチの妹が完全にダウンする前に早いとこ着陸して欲しいな」
(,,゚Д゚)「……空襲での敵艦隊排除が案外難航してるくせぇな、対空砲火がおさまらねぇ。こちとら早いところこのクソガキから離れてえってのに」
「は?」
(,,゚Д゚)「あ?」
……まぁ、“提督”になる前から彼と付き合いがあるギコさんやこと彼のことになるといろいろと敏感な時雨が特に意に介していないため、実際には大したことじゃないと見ることもできそうだけど。古鷹も提督に声をかけたそうな仕草を見せているが、自然体な二人の様子にそれほど心配すべき事なのかイマイチ判断しかねているらしい。
それでも心優しい彼女は、意を決し顔を上げ再び提督の方に視線を向ける。
「………あのっ、t!」
《Stork-01より全搭乗員に通達、後20秒で着陸する!総員戦闘用意!繰り返す、総員戦闘用意!》
「あう………」
──が、直後に操縦士からのアナウンスが機内に響き、かけるべき声を失った彼女はがっくりと頭を垂れる。元々私に“かける言葉”なんてない(ご飯に卵をかけるのは好き)けれど、それにしてもこの計ったような間の悪さは同情を禁じ得ない。
(,,#゚Д゚)「よし、戦闘用意だ!!敵は手強いぞ、心してかかれ!!」
「「「Sir, yes Sir!!」」」
「────んぇ」
因みに、端っこの席ではギコさんの大音声での檄を聞いて雲龍がようやく夢の世界から帰還した。……この騒音の中でというのもそうだし、流石にいつ撃墜されるか解らない状況下で安眠できるほど図太い艦娘は“海軍”全体でも両手の指におさまるぐらいの人数しかいないだろう。個性のサラダボールと化している我が鎮守府においても、彼女のメンタルの強靱さは群を抜いている。
518 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/07(土) 23:32:19.16 ID:IzoT3soA0
( T)「……」
自分の艤装を装着し異常がないか確認しながらちらりと提督の方を見ると、彼は既に戦闘用意を終えていた。相変わらずらしくない“無言”のままだけど、別に腑抜けた逆に気負っていたり調子が悪かったりという様子もない。少なくとも、見る限りは指揮や作戦行動に支障を来す状態ではなさそうだ。
(なら、今は提督を心配する必要はないかな)
様子がおかしいのは間違いないけど、それを戦場に持ち込むような人ではないことは知っているし、戦場で問題がないのなら私達も今は余計な雑念を持ち込むべきではない。
この任務がすむまでは、疑問は一先ず置いておこう。
「…………っ!?」
────そう決心した矢先に、私達の乗っている輸送機がぐらりと一際大きく揺れた。
519 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/07(土) 23:57:01.18 ID:IzoT3soA0
私は軽空母であり、本来は戦闘機を飛ばす側であって戦闘機や飛行機に乗る側ではない。加えて任務の巡り合わせから、空輸される経験自体実は指折り数えられるほど少なかったりする。
それでも、直感で解った。今の揺れは“ダメな揺れ方”だと。
《Shit, Stork-01 One hit!! One hit!!》
《Stork-01より管制機、敵高角砲弾頭が至近で起爆!右翼に甚大な損害、ローターが
脱落した!》
《姿勢制御……クソッ》
(,,;゚Д゚)そ「ぬぉっ…!?」
「あぐっ────」
赤いランプがけたたましいサイレンの音と共に明滅し、傾ぐどころか機体が一瞬逆さまになる。明らかに真っ直ぐ飛行できていないと察せる不規則なGが頻繁に方向を変えながら私達の身体を押し潰し、艦娘の艤装込み重量も支えられる特殊ベルトに締め付けられて古鷹が喉の奥からくぐもった悲鳴を上げる。
ふと、風圧で窓に顔を押しつけられた際に外の光景が視界に映る。磯風が、卵焼きを作ろうとしたときに発生するものと酷似した色合いの煙が吹き出していた。
私達が乗る輸送機の、翼から。
《Mayday, Mayday, Mayday!! This is Stork-01!! I'm going down!!》
《立て直せない………市街地に不時着する!!》
(,,;゚Д゚)「衝撃に備えろ!!!」
「もう!」
ギコさんの叫びと時雨の悪態に合わせて、世界がぐるぐると回り続ける中私は周りと同様椅子の上で胎児のように丸くなる。正直他に何のしようもない。艦娘としての耐久力とこの鎮守府での鍛錬の積み重ねが墜落のダメージに耐えうるものであることを祈るだけだ。
映画とかと違って、案外墜落までの時間は長く感じるんだな……そんな、場違いな感想がふと頭を過ぎり、
「っっ……!!」
直後に、今までに感じたことのない衝撃が轟音と共に私を襲う。
520 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/08(日) 00:46:03.24 ID:2S9GHnYJ0
怪奇現象に事欠かない私達の鎮守府においても、今のところ所謂“神”ないしそれに準ずる存在との邂逅はない。
一応イフリートは鎮守府の七輪に宿っている。ただ、関西弁である辺りパチモン臭が凄くどちらかというと他のしょーもない妖怪・怪異と同類と思われる。後は提督が“マッスルの神様”なるものに会ったと寝言をほざいt……信じがたいことを言っていたけど、仮に真実だとして剥きたてのゆで卵の如くはげ散らした頭が光っていたらしいので此方も多分妖怪の類いと見て間違いなさそうだ。
とりあえず、これだけ日々怪奇現象に見舞われながら一度も会ったことがないという点と、その他諸般の事情から私は神様の存在には懐疑的な立場をとっている。
「Shit………」
「ぼ、ぼぃいい………」
(*;メ゚ー゚)「いたた……ゆ、夕立ちゃん、大丈夫!?女の子が出しちゃダメな声で女の子がしちゃダメな顔色になってるけど!?」
「椎名少尉こそ大丈夫ですか?お怪我は」
「Jesus……!」
だから私は、あれほどの衝撃の中で私達艦娘のみならずギコさん達“海軍”部隊も殆どが無事であるという事実についても、神の奇跡だ等とは思わない。
唯々、墜落する直前まで職務に忠実であり続け、ほぼ完璧な機体姿勢での不時着を成し遂げた操縦士に敬意と感心を表するだけだ。
(#T)「ギコ、操縦士はどうした!?」
(,,メ;゚Д゚)「今確認して……クソッ、ダメだ!
脈を診るまでもねぇ、頭が潰れてやがる!もう一人も鉄骨にぶち抜かれてる!」
あと、哀悼も忘れずに。
521 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/08(日) 01:29:05.12 ID:2S9GHnYJ0
(#T)「椎名、部隊の死傷者は!」
(*;メ゚ー゚)「レリック二曹が上腕を骨折、戦闘行動は困難!それと阿南一曹も足をやられてます!私、猫山少尉、他は軽傷多数も戦闘に支障なし!」
(#T)「その二人は応急処置の後運び出せ!ギコ、救護要請は!?」
(,,#メ゚Д゚)「もう出したがいつ送られるかは解らん!それより俺たちの墜落地点がやばいぞ、内陸浸透中の敵艦隊の進路上だ!」
(#T)「統合管制機に最寄りの艦隊の規模と構成を確認しろ!
“地獄の血みどろマッスル鎮守府”、艦隊各位!点呼、並びに状況報告!!」
さっきまでの沈黙が嘘みたいに、また日頃の不熱心な仕事ぶりが冗談のように、提督は矢継ぎ早に指示を出していく。空を飛び交う弾丸や艦載機の風切り音、そしてそこかしこで炸裂する砲弾の轟音を凌駕する大音声での点呼に、私の背筋も針金を入れたみたいにピンッと伸びる。
「時雨、異状なし。そこのクソ雑魚じゃあるまいしあの程度じゃケガしないよ」
(,,メ゚Д゚)「は?」
「あ?」
「…………夕立、大丈夫っぽい」
いや、相変わらず顔色ピータンみたいな色なんだけど。大丈夫っぽくないんだけど。
「雲龍、無事よ」
「不知火、作戦行動に支障ありません」
「古鷹、艤装・身体共に異常なし!作戦継続可能です!」
次々と応じる時雨達に対し、私は“答える言葉”を持たない。
だから、あの日以来唯一発することが出来るその単語を、返答の代わりにする。
「たまご」
522 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 09:13:54.18 ID:/Ylumcfno
モノローグめっちゃ流暢やんけ……
523 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 10:36:50.71 ID:nfQJ4ON30
直前の回想も瑞鳳のか……マッ鎮作者の方でどんなぶっ飛んだ物を見せてくれるかと楽しみにしていたんだが
524 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 12:31:22.78 ID:Hi5RZQmA0
おつおつ…饒舌なんだなw
それにしても精鋭部隊でも蹴散らされるなあ…
525 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/08(日) 23:04:55.77 ID:2S9GHnYJ0
(,,メ゚Д゚)「レリックは一先ずこれで大丈夫だ!しぃ、阿南の方は!?」
(メ*;゚ー゚)「うん、固定したから運ぶだけなら………ひゃあっ!?」
私が返答(?)した直後、すぐ近くで砲弾の炸裂音が立て続けに二つ、三つと鳴り響く。……音の大きさから推察するに、落下した位置は20Mと離れていない。
明らかに私達を標的とした連続的な至近弾に、アスファルトで塗装された道路に半ばめり込んでいる機体がぐらぐらと小刻みに揺れる。手早く手際よく負傷兵を治療していたしぃさんが可愛い悲鳴を漏らし首を竦めた。
「Admiral、進軍中の敵艦隊より我々の墜落地点へ本格的な砲撃が開始されたと管制機から報告あり!」
(#T)「機外に離脱しろ、急げ!誘爆したら流石に看過できねえダメージになるぞ!」
無線機を操作していた“海軍”兵士の一人が叫び、それを受けた提督の指示に全員が拉げて口をだらしなく開けた後部ハッチへと向かう。その間にも砲撃の炸裂音は響き続け、徐々に激しさを増していく。
『『─────!!!!』』
「【Helm】 in coming!! Over 30!!」
(,,#゚Д゚)「夕……時雨!古鷹!!」
「了解です!」
「ったく、面倒くさいったらないね!!」
鶏の総排泄肛からひり出される卵のように機外に転がり出た直後、砲弾に代わって空から降ってきたのはあの耳障りな風切り音。上空500m程の位置から私達めがけて急降下してくる黒い点の群れに、ギコさんから指示を受けた時雨と古鷹が同時に機銃を構える。
因みに最初名前が挙がりかけた夕立は………うん。
彼女も私の大切な友人であり仲間だ。今夕立がどうなっているかについては、かつて【ソロモンの悪夢】と呼ばれた駆逐艦娘の名誉と威厳のために私の胸にしまってアイアンボトム・サウンドまで持って行こう。
526 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/08(日) 23:52:52.70 ID:2S9GHnYJ0
「僕が周りをやる!古鷹は中核の航空隊を!」
「解りました!────敵航空隊捕捉!射撃開始、射撃開始!」
空に向けられた二門の機銃が、火を噴く。古鷹の20mm連装機銃から吐き出された太い火線と、それにまとわりつくようにして放たれる時雨の7.7mm機銃の火線が敵航空隊を真っ向から迎え撃つ。
『!?!?』
『『『──────』』』
先鋒を行く一機が、反応が遅れて直撃弾により爆散する。だが、残りの機体は素早く統率の取れた動きで火線から逃れた。
敵ながら惚れ惚れしてしまうような、まるでフライパンの上に広がる目玉焼きのように美しい散開運動。対空砲火で迎撃しようにも的が絞りにくく、それでいて各機の射線はしっかりと開かれていて全方位からの弾幕射撃を問題なく敢行できる。
(,,#メ゚Д゚)「────“Circle”!!」
「「「Yes sir!!」」」
『『『!?!?!!?』』』
だが、その見事な編隊運動も読まれていれば意味を成さない。
「Enemy down!! Enemy down!!」
(*メ゚ー゚)「Keep fire!!」
「Reload, cover me!!」
古鷹たちの周囲で素早く円形に展開したギコさん達が、一斉に自動小銃────アメリカ軍で使われている、【M16カービン】とかいう銃の引き金を引く。四方八方に伸びた火線は、その尽くが正確無比な狙いを持って散開した敵機を貫いていく。
『!!?!?』
『『───……』』
深海棲艦側は、射撃を躱そうにも先ほどの急激な軌道変更が祟ってまだ思うように速度を出せない状態にある。一方的な“七面鳥撃ち”に晒されながらようやく一部が態勢を立て直したときには、無事な機体は1/3以下まで減っていた。
『『───ッ!!』』
「敵機、離脱を開始!」
(,,#メ゚Д゚)「弾薬再装填、陣形は崩すな!AT-4並びに白兵装備、準備急げ!!」
流石に彼我の実力差を理解したか、残りの機体は踵を返し空へと帰って行く。だけどその姿をいちいち見送るようなことはない。
『『『─────ォオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』
「Contact!!」
何せ、私達の戦闘はまだ始まったばかりだ。
527 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/09(月) 14:16:19.48 ID:xg02lXG00
更新乙です
いきなり撃墜からの参戦では目的地への到着も遅くなりそうですな
528 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/10(火) 01:21:20.38 ID:Zj4Z5XiE0
乙
529 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/10(火) 23:11:36.85 ID:rOfJumKu0
何百回も、散々、うんざりするほど奴らの声は耳にしてきた。だけど今でも、それを聞く度に私の卵肌は一瞬にして鳥肌に様変わりする。
『『『ォオアアアアアアアアアッ!!!』』』
奴らの、深海棲艦の咆哮を聞き飽きることがあっても、聞き慣れることは少なくとも私には永遠に来ないに違いない。
『『『ガァアアアアアアアアッ!!!』』』
(*メ#゚ー゚)「九時方向、二個艦隊を視認!内軽巡ホ級flagship1隻を認む!」
(,,#メ゚Д゚)「AT-4 Fire!!」
「「Roger!!」」
思ったより至近、右手400mほどの位置で瓦礫の山を蹴散らしながら敵艦隊が姿を現す。即座にギコさんが号令を下し、“海軍”兵士達が構える4門の携行砲がそれに応じて火を噴いた。
『ア゛ァ゛ッ!?』
出会い頭の砲撃に、回避や防御といった対応をする暇はない。4発の砲弾はそのまま、艦隊の中程を進んでいたホ級flagshipに突き刺さる。
火の玉が四つ、20mを誇る巨体の表面で膨らむ。1発はホ級の側頭部に直撃し、爆圧でお鍋を被ってるみたいな形状の奴の頭部が激しく右にぶれた。
『オォ………ガァアアッ!!!』
敵は、非ヒト型とはいえflagship。幾ら“海軍”でも、歩兵の携行火器数門の一斉射では倒せない。
ホ級は一瞬仰け反り蹌踉めいたが、すぐに態勢を立て直すと私達の方を向いて一声吠えた。背中の三段重ねの連装砲が、錆び付いた音を立てて私達の方に向けられる。
「────五月蠅いよ」
『グギェッ……』
『ア゛ア゛ッ!?』
だが、その時には既に、私達の下から放たれていた“五発目の弾丸”が距離を詰めている。
530 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/07/10(火) 23:43:12.37 ID:rOfJumKu0
砲が火を噴く直前に鳴り響く、乾いた破砕音。序で上がった呻き声に、ホ級flagshipはびくりと身体を震わせてその声が上がった方に顔を向けた。
恐らく旗艦であるホ級の周囲を固めていた、数隻の駆逐二級後期型。その内一隻の前面装甲に、蜘蛛の巣の如く無数の細かいヒビが入る。エッグスタンドに入ったゆで卵のように縦長のシルエットがグラグラと左右に揺れた後力尽きたように崩れ落ちる。
倒れた個体のヒビの中心に突き刺さるのは、砲弾ではない。奴らの装甲表皮と全く同じ色合いの、一本の“くない”だ。
「っふ!!」
『ゴォアッ………ギィッ!?』
二級の屍を踏み台に、奴らに肉薄した“弾丸”が───時雨が、空中に身を躍らせる。身体をねじって勢いをつけながら新たに投擲された二本の“くない”は頭部を狙って投げ下ろされたが、ホ級はこれを咄嗟に腕で受けた。
『ガッ……グゥッ……!!』
「ちぇっ」
腕の肉を深々とえぐり、骨にまで達したであろう一撃。青い体液が傷口からぼたりぼたりとしたたり落ち、ホ級flagshipは苦痛の呻きを漏らしつつも反撃に転じる。旗艦の轟沈を逃した時雨は、着地点に振り下ろされたホ級の左拳を不愉快そうな舌打ちと共にバックステップで回避する。
『ガァアアッ───ギッ』
「だから五月蠅いって」
すぐに、背後から瓦礫の山を突き破ってイ級が猟犬の如く飛びかかる。が、時雨が振り向きもせずに後ろ蹴りを繰り出すと、まるで厚さ何十メートルもある特殊カーボンの壁に全速力で衝突したみたいにイ級の身体が半ばまで拉げて潰れた。
『『オ───ォオオオオッ!!!』』
「おっと」
別個体のイ級と、軽巡ヘ級が時雨を2方向から同時に砲撃する。だけど砲弾が炸裂したときには、既に彼女の影は駆けだしていてその場にない。
『ガギッ……』
『………ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』
「遅いね」
ホ級のすぐ傍で、二級がまた一隻倒れた。水色の眼球をくないに貫かれ、そこを基点に真っ二つにへし折られた友軍艦の姿に激高したホ級が機銃掃射を行うが、時雨はその屍を勢いよく蹴って掃射地点から飛び下がった。
『オアッ!?』
「────覇ッ!」
『ギグッ………』
着地した場所は、さっき時雨を撃とうとしたイ級の頭頂部。すぐさま打ち下ろされた拳が装甲を粉砕し、右腕が肘の辺りまで埋まる。
「うぇっ……気色悪っ」
いかにもイヤそうに舌を出しつつ、時雨がイ級の頭から腕を抜き出す。事切れたイ級の頭部穴からはさながら間歇泉の如く青い体液が噴出し、周囲の瓦礫を染め上げた。
531 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/11(水) 00:34:35.99 ID:tmN4keD20
投下乙!
532 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/11(水) 21:38:20.68 ID:M10v23D80
おつ
533 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/12(木) 01:40:10.99 ID:BdadLwv1O
何ヶ月ガルパンキャラ出してないんだ?
534 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/07/13(金) 23:10:49.36 ID:s0ujgYNM0
奴らと接敵してからイ級の頭部が瓦割りされるまで、恐らく一分程度しか経っていないだろう。だけどその60秒前後で、敵艦隊は私達マッスル鎮守府の“番犬”の実力を正確に理解したらしい。
『ォオオオ……ギィッ!!』
『アァアアアア……』
「ははっ」
イ級の屍から飛び降りた時雨を半円形の陣を組んで取り巻きつつ、ホ級flagship達は口々に警戒の唸りを漏らして身構える。明らかに気圧されているその動きを見て、時雨は嘲笑と共に敵に向かって中指を突き立てた。
「揃いも揃ってクトゥルフ神話の怪物みたいにおどろおどろしい外見してるくせに、ちょっとやられたぐらいでこんな美少女相手にビビっちゃうんだ。ホントクソ雑魚だよね、やめたら?深海棲艦」
(………うわぁ)
流石は、邪神の申し子(命名:某海軍少尉)。或いは、口先から生まれたケルベロス(命名:Y.N海上自衛隊一等海曹)。深海棲艦相手でも煽りを忘れない絶口調ぶりには感心せざるを得ない。
『『『………ッ!!!』』』
非ヒト型の深海棲艦でも人語を解するかどうかについては、“海軍”所属の研究者達の間でも意見が分かれていると聞く。だがもし時雨の言葉を理解できなかったとしても、表情や動作を見れば自分たちが彼女に侮辱されていることは容易に推察できるだろう。
『『『グガァアアアアアアアッ!!!!』』』
いつも無機質な奴らの鳴き声が、卵焼きを作るために油をひいたフライパンのように熱を帯びた。恐れや怯みが消え、変わって怒り────人類や艦娘全体に対するものではなく、目の前の駆逐艦・時雨という存在それ自体に向けられた怒りが露わになる。
『ア゛ア゛ア゛ッ!!!』
『『『ォアアアアアッ!!!!』』』
ホ級flagshipの咆哮と突貫を合図として、残りの随伴艦達も闘争心に満ちた絶叫と共にたった一隻の駆逐艦に殺到する。元の知能が低い故に、彼我の実力差の事など挑発一つで脳裏から消えてしまったようだ。
『────ギ、ァッ……!?』
「……えっ?」
そして、時雨以外の“敵”がこの場に存在するということも。
535 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/13(金) 23:14:52.85 ID:s0ujgYNM0
20mの巨躯が揺らぎ、後ろ向きに傾ぐ。時雨に振り下ろされているはずだった大きな握り拳から力が抜け、倒れ行く身体を支えようとでもしたか両の手が何度か宙を掴む。
『ゴ………ギッ……』
ズンッ、という低い音と共に地面が微かに揺れ、仰向けで倒れ込んだホ級flagshipの周囲で土煙が舞い上がる。束の間、自分の身に何が起きたのか確かめようとしているかのように眼孔のない頭部が力なく揺れていたが、やがてその動きもすぐに止まった。
『ア、アッ!?』
『オォオオオオッ……!?』
「むぅ……」
随伴艦達は、戸惑ったような鳴き声を上げながらホ級flagshipの屍を顧みる。時雨もまた、一度構えを解いてホ級を────正確には、屍の咽頭に深々と突き刺さった五本の真っ黒な矢を一瞥する。
「……あのさ瑞鳳、よりによって一番上等な獲物を横取りするのは節操がなさ過ぎじゃない?」
「たまご」
剥きたてのゆで卵よろしく頬を膨らませての抗議に、私は肩を竦めてみせる。彼女の抗議も尤もだが、それが“上官命令”だったのだからどうしようもない。
それにしても、いいのだろうか。
(#T)「ギコ、行くぞ!!」
(,,#メ゚Д゚)「了解だ“先輩”!!」
こっちに構ってなんかいると、それこそ“獲物”は全て取られることになるわけだけど。
「…えっ!?あっ、ちょっ、ふざけんな!?」
立ち尽くしていた時雨の両脇を、白兵装備を構えたギコさんと提督が風を巻いて駆け抜ける。慌てて制止する(間抜けな)白露型2番艦には目もくれず、二人は混乱の極致にある敵艦隊の直中に斬り込んだ。
536 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/13(金) 23:21:55.57 ID:s0ujgYNM0
『……アァッ!?』
最初に反応を見せたのは、軽巡へ級。向かってくるギコさんと提督に気づくと、ヘ級は面食らったような声を一つ上げて右手の艤装を二人に向けようとする。
だけどその動きは、肉薄する二人と比較して鈍重にも程があった。
(,,#メ゚Д゚)「ゴッルァアッ!!!」
『ギィッ!!?』
稼働したヘ級の単装砲が砲弾を吐き出す前に、ギコさんがその懐に弾丸のような速度で踏み込む。黒い刃が翻り、キンッという甲高い金属音が響く。ヘ級の陸上活動用多脚ユニットから、切断された脚が一本火花を散らして脱落する。
『オ、ォ、アアアアアアッ!!!』
(,,メ#゚Д゚)「ッらぁっ!!」
苦悶と怒りが入り交じった絶叫と共にヘ級は右腕を振り下ろすが、軌道上からその姿は既に消えている。前転でヘ級の一撃を回避した彼は、起き上がると同時に再度白兵用のブレイドを一閃した。
『〜〜〜〜〜ッッッッ!!!?』
澄んだ金属音が今度は三つ重なって響き、ヘ級が声にならない悲鳴を上げる。更に三本のユニットを根元から同時に断ち斬られ、脚の半分を失いバランスを失った身体ががくりと前のめりに崩れる。
(,,メ#゚Д゚)「行ったぞ先輩!!」
(#T)「見りゃわかるわバーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!」
『……ギッ!?』
ちょうど良い高さまで降りてきたヘ級の頭に提督が彼の得物を───5メートルを越える、巨大な漆黒の“矛”を渾身の力で振り下ろす。
(#T)「Wasshoi!!」
『ガッ』
巨大な破砕音が私達の耳朶を震わす。短い断末魔を残して、ヘ級の上半身がまるでプロレスラーに殴りつけられた生卵の如く惨めにぐしゃりと潰れた。
「Enemy down!!」
(*#メ゚ー゚)「Don't move!! Keep the position!!」
「…………Oh my god」
しぃさんをはじめ、この場にいるだいたいの“海軍”兵にとっては至って普通の光景のため反応は薄い。だが一人だけ、ルーキーなのか提督とギコさんの暴れぶりに呆然となっている隊員がいた。
うん、まぁ“生身の人間(?)が深海棲艦を瞬殺する光景”を初めて見た反応としては寧ろ驚きを抑えられてる方かな。尤も、アレの内面を知る側から言わせて貰えば、同じ神でも絶対に邪神の類いだけど。
身内が言うんだから間違いないよ、うん。
537 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/13(金) 23:25:26.90 ID:s0ujgYNM0
初見という面が大きいにしろ、味方にとってさえ信じがたいものとして映るギコさんと提督による────生身の人間による軽巡ヘ級の“白兵戦での”轟沈。
深海棲艦側から見れば、それこそ青天の霹靂という表現ですら足りないかも知れない。少なくとも、アクアファーム秩父が生み出した絶品卵【輝】で作った卵焼きを初めて口にしたときの私と同程度の驚きにはなったはずだ。
『『ギィ、ギィッ!』』
『『アァアア、ガァッ!!』』
(,,;メ゚Д゚)「うおっ!?」
( T)「ぉおう」
恐怖に駆られた鳴き声を上げて、残余全艦が一斉に艤装を展開。咄嗟にヘ級の屍の影に隠れた提督とギコさんに、幾条もの火線が束になって殺到する。
(,,メ゚Д゚)「……必死だねおい」
( T)「危なかった。流石にアレが全部当たってたら俺でも足首を挫きかねん」
(,,メ;゚Д゚)「いやアンタでも普通に死ぬ……えっ、死ぬよな?」
人間二人を(……少なくともギコさんの方は確実に)殺すには、過剰どころではない量の火力投射。明らかに、奴らは二人を時雨以上の脅威と見なして全力で消しに来ていた。
だが、只でさえ非ヒト型の劣った頭。それが更に恐怖に染まれば、最早まともには働かない。
(,,メ゚Д゚)「にしても、こうもハマってくれるといっそ清々しいな」
( T)「全くだ────瑞鳳!」
「たまご」
既に自分たちが詰んでいることに、気づかない。
或いは、気づいているが故の悪あがきだったのかも知れないけれど。
538 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/14(土) 06:08:31.26 ID:+iKLe4vGo
お疲れ様です
539 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/15(日) 00:30:57.71 ID:I9YzniyA0
おつおつ
暴れっぷりも凄いけど、実況がうますぎるなw
540 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/07/15(日) 23:09:09.90 ID:ulqy3qc40
“海軍”所属の艦娘達の多くが通常の艤装以外に専用の白兵ユニットを配布されているように、私や祥鳳、赤城、加賀といった所謂“弓射展開型”の空母には、艦載機射出用の他に“射撃用”の矢が配布されている。材質はギコさんが愛用するブレイドや提督の巨矛と同様に深海棲艦の装甲殻を特殊加工したもので、貫通力と丈夫さは折り紙付きだ。
無論、私達空母・軽空母の“本業”は艦載機を用いたアウトレンジ攻撃と敵艦載機隊の排除による航空優勢の確保。此方の矢はあくまで護身用のサブウェポンであり、他の艦種の艦娘達や“海軍”歩兵が使う白兵戦闘用装備と違いこれをメインに戦闘を行うことは本来想定されていない。
問題は、ここが“海軍”であるという点だ。強さと引き替えに理性や理屈がすっぽり抜け落ちた連中が集った軍集団である以上、“常識的に考えて”なんて概念は存在しない。丈夫さや取り回しの良さを気に入り、特に練度が高い艦娘の中で此方の“矢”を寧ろ好んで使う者も一定数存在した。
例えば、私とか。
『─────ガッ……?!』
一度に五本の矢を番え、放つ。唸りを上げてほぼ一直線に飛翔した漆黒の五矢が、束のまま駆逐ハ級の眼孔に突き刺さる。眼球が粉砕され、装甲殻を撃ち抜き、一気に矢羽の付け根付近までその身を埋める。
『ゴッ、ガッ、ギッ、ゲッ』
ウズラの卵よりも小さいであろう脳味噌でも、破壊されれば致命傷にはなるらしい。ハ級は不気味な呻き声を上げながらガクガクと痙攣を繰り返した後、やがてバタンと横倒しになり絶命した。
「たまご!」
はしたないと自覚しつつも、フンスと鼻から吐息が漏れる。
一射、五矢。提督のお気に入り漫画【キングダム】で、異民族“犬戎”と交戦した楊端和指揮下の騎馬隊が見せた弓の射法。
いかに貫通力は十分とはいえ、非ヒト型の大きな図体を一本ずつの射撃で仕留めようとすれば骨が折れる。ならば、数を増やせばいいだけの話だ。
とはいえ、訓練での練習は無し、さっき軽巡ホ級に対して行ったものを含めてこれが二度目。ぶっつけ本番でやってみたが、案外いけるものね。流石私。
因みにヤングジャンプで連載中の大人気バトル漫画【キングダム】の既刊コミックは全国書店で販売中。別に女房を質に入れる必要はないが、普通に面白いので買っておいて損はないと思う。
それよりも私が今欲しいのは、浅田農園が販売している【鳳凰の卵】だ。一個432円と破格の値段だがその絶品ぶりはテレビでも紹介され、一個あたりに通常の卵24個分の栄養が含まれているという点でも話題になっている。
【輝】とどちらが美味しいか比較するためにも、提督のB級映画コレクションを質に入れてでも手に入れる所存だ。
541 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/15(日) 23:18:24.40 ID:ulqy3qc40
私が“いつかダチョウの卵をまるまる一つ使って目玉焼きを作る”に次ぐ重要度の野望に燃えている間にも、状況は刻々と変化する。
『ゴァアッ!?』
『ギィッ、ギィッ!!』
(,,メ゚Д゚)「しぃ!!」
(*メ#゚ー゚)「了解!
All squad, weapon free!!」
ハ級の轟沈によって、弾幕にぽっかりと空いた穴。慌ててその穴を埋めようとして、敵の火線全体が揺らいで統率を失った。すかさず今度はギコさんが号令を下し、深海棲艦の包囲を終えたしぃさんたち“海軍”歩兵隊が一斉に瓦礫の山の陰から立ち上がる。
(*#メ゚ー゚)「Fire, Fire, Fire!!」
『ギィイッ!ガァッ!』
『キィイイイッ……!』
10を越えるアサルトライフルが同時に火を噴き、深海棲艦達に着弾する……が、幾ら“海軍”所属の兵士といえど何の変哲もない小銃射撃で深海棲艦に打撃を与えられるほど人間を辞めてる人は居ない。駆逐ロ級が一隻、鬱陶しげな鳴き声を上げて口を開き、弾丸が飛来する方向に単装砲を向けた。
「────AT-4, Fire!!」
『ゴァッ!?』
瞬間、別の方向で火を噴く4門の携行砲。寸分違わぬ狙いで放たれた砲弾が、開かれたロ級の口内に吸い込まれるようにして全弾飛び込む。
『カッ』
『ァアアッ!!?』
思わず閉じられた顎の中で立て続けに響く、くぐもった砲弾の炸裂音。直後にそれとは比べものにならない轟音が空気を震わせ、体内から吹き出した炎にロ級の身体が焼き尽くされる。真横にいたもう一隻のロ級が、爆風に煽られて姿勢を崩した。
(*#メ゚ー゚)「One more!!」
「Roger!!
────Fire!!」
機は逃さない。更に三発の砲弾が、蹌踉めいたロ級めがけて放たれる。
『ギッ………ア゛ッ』
あえてタイミングをずらして発射された最初の一発を食らい呻き声を上げた瞬間、残る二発がロ級の中へ。断末魔を上げる間すらなく、二つ目の火柱が天を焦がした。
542 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/15(日) 23:35:56.43 ID:ulqy3qc40
『『アァ……アァ……!?』』
『『ギィイ……ォアア……』』
連続で発生した軍艦二隻分の爆発に伴って、凄まじい量の砂塵が巻き上がり黒煙が濃く立ちこめる。残余戦力が四隻まで減ってもなお深海棲艦側は戦う姿勢を崩さないが、奪われた視界が反撃を妨げる。
私達が奴らの図体故に煙越しでも容易く動きを把握できるのに対し、深海棲艦側はこの煙と砂塵の量で自分より遙かに小さな物体を視認する必要がある。自然、敵艦隊は警戒から動きがますます鈍重になりざるを得ない。
『────ア゛ア゛ッ!!!』
らちが明かないとみたか、三隻目のロ級が咆哮と共に一歩踏み出す。どうやら此方に益々動きを把握されやすくなるリスクを踏んででも、煙の中から脱出して視界を確保するつもりらしい。
非ヒト型の小さなおつむにしては上出来な──ヒト型個体からの指示である可能性もあるが──、思い切った行動。英断と言って差し支えない大胆な戦術だ。
だが、遅きに失している。
「たまご」
『ピギッ………ギァアッ、アアアアッ!!?!?』
煙に紛れて肉薄を終えていた私は、真横から至近距離でロ級の目元に矢を撃つ。激痛のあまり仰け反ったイ級の、むき出しになった下腹部に今度は五本の矢をまとめて叩き込む。
『ゲアッ……アァッ……』
五つの鏃が皮膚を突き破り、肉を抉る。ぽっかりと空いた風穴から、まるでふわトロの卵焼きを箸で割った時みたいにロ級の体液が滴り落ちる。ロ級はよたりよたりと二、三歩揺れた後、私が身体の下から転げ出た直後膝から地面に崩れ落ちる。顎がハンマーのように地面にたたきつけられ、ズンッと音を立てて小さな揺れを起こした。
『ウォオオッ───ギッ!?』
「沈めッ…………!!!!」
僚艦の異変に、ロ級と最も近い位置にいた最後のイ級が私の方を振り向く。……が、その側面に不知火が飛びつき、逆手持ちのナイフを勢いよく突き立てる。
543 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/17(火) 10:24:38.32 ID:r6wLN4KK0
投下おつです
544 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/17(火) 15:44:19.03 ID:KNLarycA0
おつおつ
まさかの凸砂型なのかw
それにしても卵ライフを満喫してるw
あとキングダム最新刊も今週だったかな…
545 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/07/21(土) 23:03:06.59 ID:Ju5Lf/AP0
人間で言うなら恐らく側頭部に当たるだろう位置に深々と突き刺さった刃。だが不知火が扱うナイフの刃渡りはせいぜい20cm前後で、ギリギリ銃刀法違反に引っかかる程度の長さでしかない。
五メートルを超えるイ級の体躯と比してあまりにも浅く小さいその傷口は、本来なら致命傷となるものではないだろう。
あくまでも、彼女の刺突がその一撃“のみ”だった場合の話だけど。
「………つまらない」
『ィギッ─────』
吐き捨てるような呟きと共に不知火がナイフを抜き取る。同時に、イ級が弱々しい鳴き声を一つあげた後彼女とは反対側へ倒れた。
体表に口を開けるナイフの刺し傷から、青い体液が溢れ出る。……どう少なく見積もっても優に20は越えているだろう傷口からの出血量は尋常ではなく、たちまち不知火の足下には生臭い水たまりができあがる。
(相変わらず、速いなぁ……)
提督の指導の下修練を積んだ不知火のナイフ捌きは、かの青葉をして「目で追うことが難しい」と言わしめる程だ。まさに“神速”と呼ぶに足る手数は、彼女が扱う得物それ自体のリーチの短さと一撃辺りの威力の低さを補って余りある。
546 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/21(土) 23:05:57.24 ID:Ju5Lf/AP0
「………不知火に何か落ち度でも?」
「たまご……」
畏怖と敬意の念を持って見つめていると、それに気づいた不知火が低い声で訪ねてきた。10秒も浴びれば台湾の珍味【鉄卵】も独りでに割れること請け合いなその鋭い視線に、私もホールドアップを余儀なくされる。
眼だけで人を殺せるタイプだこの子。
「た、たまご」
「…………あの、別に怒っているわけではないのですが」
戦場のど真ん中で戦意喪失アピールを始めてしまった私に、不知火が困惑したような声色(と、益々鋭くなった目付き)で某睦月型のような台詞を口にする。うん、私もよく解ってるんだけどね、これは仕方ない。
例え調教した猛獣使いがすぐ近くに居たとしても、檻がない状態でライオンと至近距離で顔を付き合わせて怯えずにすむ人なんていないでしょ?同じ事よ。
「悪気がないのは解りますが、瑞鳳さんにそのような反応をされると少し傷つきますね……っと」
私と不知火の奇妙な──そして二人の練度を鑑みても流石に無防備な──膠着状態に終わりを告げたのは、少し離れた場所で立て続けに響いた地響き二つ。
直後、在日米軍の飛ばす対地攻撃機の編隊が爆弾を投下しながらすぐ近くの空を駆け抜けていく。
547 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/21(土) 23:08:18.01 ID:Ju5Lf/AP0
A-10攻撃機の通過に伴い巻き起こった突風で砂塵と黒煙が吹き散らされ、急速にクリアになる周囲の景色。
真っ先に視界に飛び込んできたのは、激しく損壊し物言わぬ骸と成った哀れな2隻の深海棲艦だった。
「ふぅ……準備運動にはちょうど良かったッぽい!」
十時方向には、まるでブツ切りにされた鶏肉のように黒い“何か”の山が堆く積もり、天辺には二本の黒い大振りな山刀が十字架を思わせる形で突き刺さっている。そしてその山の前では、ようやくヒコーキ酔いから蘇生したらしい夕立が満面の笑みを浮かべて額の汗を気持ちよさそうに拭っていた。
山の中に垣間見える装甲殻の破片や図太い腕の残骸、そして特徴的な(ただし、坂道で自転車から落としてしまった卵の如くぐちゃぐちゃに潰れた)三つの首の存在がなければ、私達でも“それ”を軽巡ト級の成れの果てだとは気づけなかったに違いない。
「………提督!」
一方、唐竹割りの要領で真っ二つにされ何かの記念碑の如く瓦礫の中に屹立している駆逐ハ級の前で佇む時雨は、ご機嫌な妹とは対照的にあからさまな膨れっ面で声を荒げる。まぁ、独り占めを目論んでいた獲物の大半を持って行かれた上に旗艦・副艦さえ自分のスコアにならなかったとなれば、人一倍どころか百倍は負けず嫌いな彼女の怒りは予想できたことだけど。
「僕一人でも十分どころか僕一人だったらもっと早く終わってたのに、何でわざわざスコアを減らしにかかるのさ!しかも副艦のヘ級はよりによってそいつと共同で沈めるし………痛っ!?」
(,,#゚Д゚)「作戦中に喧しいんじゃウォーモンガー!少し黙ってろ!」
早々に食ってかかったところに凄い勢いでギコさんのげんこつが落下し、“口先から生まれたケルベロス”も物理攻撃の前にあえなく大破轟沈で地面にしゃがみ込む。しかしロマさんといい提督といいギコさんといい、時雨と会話をすると著しく知能指数が下落するのはなんなのだろう。そういう特殊能力の持ち主なのだろうか彼女は。
548 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/21(土) 23:12:29.75 ID:Ju5Lf/AP0
「容赦なく艦隊一の美少女の頭ひっぱたくなよ野蛮人!」
(,,#゚Д゚)「美少女自称する前にその“海軍”一最悪なできの脳味噌直してこいやゴルァッ!」
(#T)「しぃ、古鷹、雲龍、総員前進!拠点構築急げ!確実に後続がくるぞ!」
(*;゚ー゚)「了か────11時方向、学園艦甲板上に発砲炎!!」
「うわっ!?」
背後で繰り広げられる低IQな会話には目もくれず、提督が後方で待機していた部隊に前進を合図する。古鷹達が立ち上がって私達の方に向かってこようとした瞬間、砲声が鳴り響き大洗女子学園の上でオレンジ色の光が瞬いた。
まだ駆逐しきっていなかった敵機による弾着観測射撃か、はたまた只の偶然か。風切り音と共に飛翔した二発の砲弾は私達の3メートル前で炸裂し、時雨が最初に仕留めた二級の屍を消し飛ばす。
初撃からの至近弾。弾着観測射撃だったとすれば、次の弾丸はほぼ確実に提督達を捉える筈だ。
( T)「………」
(*;゚ー゚)「同地点で更に発砲炎を視認!総員衝撃に備えて!」
(,,;゚Д゚)「クソッ!先輩、あんたも退避を……おいっ!?」
そしてそれを彼も理解しているはずなのに、この提督ときたら何を考えているのやら砲弾が飛来した方角を見上げたきり微動だにする気配がない。
( T)「ギコ……さっきのは流石に時雨に言いすぎやろ」
(,,;゚Д゚)そ「なんの話だ!?」
いや、ホント何考えてるの?脳味噌の大きさうずらの卵なの?
549 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/21(土) 23:14:50.72 ID:Ju5Lf/AP0
「提督、前を失礼いたします」
(,,;゚Д゚)「バカ言ってないで逃げろアホ───うおっ!?」
「っ、提督伏せ───っ!?」
回避するそぶりを全く見せない提督に、流石にけんかを中断したギコさんと時雨が焦りの色を浮かべて彼の袖を引こうとした。だがそれよりも先に人影が一つ────古鷹が、高速艦とはいえ陸上でのフル装備とは思えぬ身軽さで砲弾と提督の間にするりと身を滑り込ませる。
「っつ……!」
天に向かって掲げられる、だし巻き卵を20人前は一気に焼けそうな大きな盾。息つく間もなく表面で火花が散り、轟音が地を揺るがし爆炎が辺りを照らし出す。盾越しにかかる爆圧に一瞬古鷹の身体が揺れたけれど、“海軍”式の黒い盾は全ての炎と衝撃を防ぎきった。
『ォオアアアアアアッ!!!!』
「発砲炎、別位置にて確───ops!?」
「あっ、すみません大丈夫ですか!?」
沖合の方からも弾丸が襲来するが、今度のそれは起爆すらせず“盾”によって受け流される。自分の方に飛んできた──といっても20mは頭上だが──砲弾に報告の声を上げた“海軍”兵が尻餅を突き、はじき飛ばした張本人である古鷹はすまなそうにまなじりを下げ謝罪した。
だけど、その少し慌てたような声色とは裏腹に、彼女の身体は既に反撃の動作に移っている。
「左舷砲雷撃戦用意……撃てぇーっ!!」
550 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/21(土) 23:19:39.82 ID:Ju5Lf/AP0
右手で尚も盾を掲げつつ、左手に装着した主砲をその下から突き出し、構える。二号型20.3cm連装砲が轟と勇ましく唸り、砲弾が煤けた夕暮れの空に弧を描く。
『ゴァ゛ア゛ア゛ア゛ッ!!?』
少し間を挟んで、海の方から一際大きな爆発音が断末魔を伴って聞こえてきた。
《統合管制機【Hedwig】より【Fighter】古鷹、海上航行中の軽巡へ級flagshipに直撃弾。轟沈と随伴艦隊の後退を確認した。
一撃とは流石の腕前だな、Good kill》
「ふふっ、これが、重巡洋艦なんですよ♪」
統合管制機からの手放しの賞賛に、古鷹ははにかんだように笑う。よく磨かれた卵の殻のように白く美しい彼女の歯が、夕日を反射して輝いた。
( T)「統合管制機【Hedwig】、意見具申だ。速やかに当艦隊のコールサインを【Mus」
《【Hedwig】よりコールサイン“フ ァ イ タ ー”、意見具申を棄却する。尚、貴隊のコールサインはリクマ=スギウラ准将以下上層部での決定事項だ》
( T)「死ね」
まだ諦めてなかったのね、提督……。
( T)「はぁ、萎えるわ……もぅマジムリ……ロマ殺そ……」
(*メ;゚ー゚)そ「突然の反乱宣言!?」
( T)「慌てんな落ち着けマッスルジョークだ。……ギコ、ここは大洗町のどの辺りだ!?」
(,,メ゚Д゚)「東光台近郊だ、艦砲射撃で景色が大分変わっちまってるが解る!」
ギコさんとしぃさんは、表向きの顔である警備府付の護衛部隊として四年をこの町で過ごしている。地理は完全に頭に入っているようで、提督の問いにも打てば響くが如く答えが返ってきた。
(,,メ゚Д゚)「前方150mの半壊してるビルが大洗オーシャンビューだ、間違いない!……クソッ、予想以上に滅茶苦茶にされてんなオイ!」
551 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/21(土) 23:21:28.27 ID:Ju5Lf/AP0
ギコさんの言葉に、私も脳内で町の地図を広げる。
空母艦娘として、戦場となる町の地形は頭に叩き込んでいる。景観が事前情報から様変わりしていても、地名さえ解れば現在地の把握なんて片手で卵を割るより簡単だ。
(東光台というと………ちょうど鎮守府と私達の目的地の中間点ぐらいの位置か)
私達の本来の目的地であった、大洗シーサイドステーションからは北東に約2kmの位置。そして更に北に向かえば、2.5km程で鎮守府がある。
改めてみると、東光台は拠点としてかなり重い価値を持つ。大洗海岸通りとここを立て続けに失えば、鎮守府と港湾施設の連携が寸断されて私達は各個撃破の様相を呈する事になりかねない。そして海岸から6、700m離れているここまで深海棲艦が入り込んでいたことを考慮すると、海岸通りの防衛線は話に聞いていた以上の惨状と考えて良さそうだ。
(あぁ、そっか)
ここでようやく、私は合点がいった。何故彼が、ホ級flagship等を駆逐しきった時点ですぐに動こうとしなかったのかを。
(,,メ゚Д゚)「で、どうするよ提督閣下。かなり離れてるがひとっ走り行ってシーサイドステーションになんとか合流を───」
( T)「────いや」
何故、シーサイドステーションから離れた位置に墜落したと知りながら、提督がしぃさん達に“陣地構築”なんて命じたのかを。
( T)「ここで、“大炎”を起こすぞ」
彼の“本能”が、そうさせたのだ。
552 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/21(土) 23:35:04.84 ID:Ju5Lf/AP0
提督の呟きにまるで応じるように、戦場の彼方此方で次々と奴らの砲が吠える。海上から、学園艦から、港湾部から、実に10発以上の砲弾が唸りを上げて飛来する。
(;メ*゚ー゚)「敵艦砲撃!!少なくとも10!!」
「たまご」
(,,;メ゚Д゚)「総員衝撃に備えろ!!!!」
「提督……!?くぅっ!!」
彼の言う“大炎”の代わりに、炸裂した砲弾によって周囲で次々と小規模な火災が発生する。内直撃軌道だった一発は、古鷹がかろうじて盾ではじき飛ばした。
( T)「すまん鷹さん、そのまま防御と反撃を頼む!なるべく派手に、奴らの注意をこっちに貼り付けろ!!」
「了解しました!!」
言うが早いか、盾を足下に落として両手の20.3cm砲を同時に放つ。左右別々の方向で海上に炎をまとった水柱が上がり、2匹分の断末魔が重なって町に響き渡る。
「はっ!」
直後、また新たな方角より飛来した弾頭二発。右足で蹴り上げてキャッチした盾を振りかぶり、羽子板の板のように、或いは卵焼きをひっくり返すときのフライパンのように振るう。下方から殴りつけられた砲弾がくるくると回転しながら空に舞い上がり、季節外れの打ち上げ花火よろしく大洗の空に大輪の花を咲かせた。
「たーまやー……って、ね……」
ノリノリで口にした台詞は、半ばで古鷹が我に返ったため最後の方は殆ど聞こえなかった。
顔真っ赤にして照れるなら最初から言わなければいいのに。そもそも“たまご”しかしゃべれない私が言うのも何だけどさ。
( T)「【Muscle】より【Hedwig】、敵艦隊の、特に大洗シーサイドステーションと大洗鎮守府方面に殺到している奴らの動きを教えろ!」
《………。【Hedwig】より【Fighter】、大洗鎮守府方面からイ級2、ハ級1が其方に向かった以外は目立った動きは見られない》
(#T)「Muscleだっつってんだろうがオルァアッ!!!!」
(,,メ#゚Д゚)「言ってる場合かボケェエエエエエッ!!!!」
あと、提督はいい加減諦めなよ。
553 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/22(日) 00:20:48.68 ID:sSjhzCeV0
《【Hedwig】より【Fighter】、再度繰り返すが貴隊のコールサインは上層部による決定だ。各部隊の混乱を避けるためにも変更は認められない》
(#T)「これだから信用できねえんだよなぁ、あの糞眼鏡はよぉ!」
まともな方のコールサインを選択しただけで信用を左右されるロマさんもたまったもんじゃないと思う。
(#T)「わあったよムカつく糞雑魚ナメクジなコールサインについては後回しだ!
お次は航空戦だ!雲龍、派手にぶちかませ!」
「────了解」
それまで周りの騒ぎなどまるで意に介すことなくマイペースにぼんやりと立っていた雲龍の眼に、その命令を聞くや否や産地直送され鮮度抜群な卵の黄身の光沢を思わせる輝きが宿る。
バサリと足下に広がる、マットレスを模した飛行甲板。無数の白い型紙がさながら意思を持っているかのように渦巻く中、その中心に彼女が両足を揃えて立ち尽くす。
「雲龍型航空母艦、雲龍、参ります」
右手に持たれた錯杖が、トンッと甲板の中心を叩く。一際強い風が吹いて、型紙が益々激しく荒れ狂いながら淡い光を放つ。
「第一次攻撃隊、発艦はじめ」
型紙から変化した99式艦爆が、彼女の号令一過一斉に飛び立つ。発動機【金星】を獰猛に唸らせながら、30を越える機影が空へと駆け上がった。
『『『────………!!!?!?』』』
「たまご!!!」
突然現れた新手の航空隊を迎撃すべく、なんとかグラマンの猛攻を生き延びていた【カブトガニ】の残党が最後の力を振り絞って押し寄せた。……だがそれらの機影の背後に撃ち上げた私の矢が、零戦に姿を変えて敵編隊を捉え足止めする。
多少は数で劣ろうが、私の妖精さんは既に疲弊損耗した航空隊に不意まで打って遅れをとるような子達ではない。
軽空母だって、頑張れば活躍できるのよ?
554 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/22(日) 00:57:39.30 ID:sSjhzCeV0
零戦部隊の敵制空隊足止めが功を奏し、損害を出すことなくその防空網を突破した雲龍の艦爆部隊。高度2000程度の位置まで一息に駆け上がった爆撃隊は、そのまま完璧に統率の取られた軌道で一斉に四方へ散開する。
程なくして聞こえてくるのは、急降下爆撃時に99艦爆が奏でる“ジェリコのラッパ”とはまた違った音質の風切り音と爆発音、深海棲艦のくぐもった悲鳴。
《【Hedwig】より各隊、【Fighter】雲龍による空爆の効果は絶大》
そして無線通信を賑わせるのは、統合管制機のオペレーター達が上げる戦果報告の声だ。
《大洗シーサイドステーション正面港湾部、急降下爆撃によりホ級flagship2隻が大破轟沈。また随伴艦多数に損傷、一部艦隊が後退。同拠点に後方より艦娘部隊の合流を確認した》
《大貫町方面に浸透中の敵艦隊、計4隻の轟沈により進軍停止。【Hedwig】より【War-Hog】、追撃し戦果拡大を狙え》
《大洗鎮守府施設に上陸していた二級eliteが沈黙、軽巡ト級も大破撤退。現在同施設にて艦娘部隊が再編・反撃に転じている》
《Taxi-07を鎮守府内に降下させろ!阿賀野、由良を中核火力として上陸済みの敵艦隊を速やかに駆逐しろ!》
《大洗海岸通り方面の敵艦隊も一時後退!Cargo-22、予定を変更し海岸通りに降下!搭乗部隊は展開完了次第敵艦隊に艦砲射撃を!》
《ひたちなか市方面に航行中の敵艦隊、急降下爆撃により旗艦イ級flagshipが轟沈し混乱している模様。Stork-19、正面に回り込んで【Hound-Dog】を海上降下させろ!》
《自衛隊F.O.Bより入電。Cargo-10がHyakuri-Airportに到着、合流を完了》
《他の後方に割り振った増強部隊も順次合流中。また、自衛隊側も在日米軍並びに“海軍”の反攻に合わせて更なる後方戦力の投入を開始する模様!》
普段は卵の白身だけ取り出して作った唐揚げの衣のように淡泊で味気ない声でやり取りする“海軍”のオペレーター達も、声に僅かだが熱を帯びている。30機前後の旧式爆撃機で上げる戦果としてはかなり規格外なものなので、目が肥えている彼らも驚きと興奮を隠しきれないらしい。
555 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 09:33:43.63 ID:YRfzRo0g0
乙〜〜〜〜
556 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 00:51:28.70 ID:kuXWHJgA0
おつおつ
無双っぷりもさることながら、提督もしつこいな(笑)
557 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/29(日) 23:04:17.01 ID:RkgsELyS0
無論、“規格外の戦果”とはいっても敵艦隊を壊滅できたわけじゃない。大洗町とその正面海域、並びに大洗女子学園周辺や甲板上には未だ何百という深海棲艦が健在で、撃沈できたのはあくまで一部に過ぎない。
本来急降下爆撃は“点”に対する打撃力と正確性を追求した攻撃法であり、言うなれば空戦における“狙撃手”のような存在。妖精さんの練度によっては必殺に近い威力を発揮する反面対多数の制圧力には欠ける。
幾ら地獄と謳われる鎮守府の艦娘でも、点の攻撃で面を制圧しろというのは不可能に近い。たかだか30機程度の爆撃機でこの物量の敵艦隊をを殲滅しようとするのは、生卵を投げつけて津波を食い止めろと言われているのと同義になる。
尤も、そもそも戦況をひっくり返すに当たって、“殲滅”する必要自体皆無なわけだが。
《Cargo-01 for All unit, One more!!》
《Go go go!!》
《Enemy AAR incoming!!》
《Break!! Break!!》
管制機からの指示を受け、増援部隊を満載した輸送機群が動き出す。当然海上や地上からは凄まじい量の対空砲火が撃ち上げられるが、各機は先ほどまで一方的に追い散らされるだけだったそれらを巧みにすり抜け、躱していく。
雲龍は、爆撃の殆どをflagshipやeliteに集中しその大半を確実に撃沈した。辛うじて生き延びた個体も、恐らくは大破でまともに艤装も動かせない状態であり無力化されている。
単純な戦闘能力も通常種に比べて高い上に、ヒト型や姫級・鬼級からの指示を仲介して下位個体に伝える役割もしていると見られる非ヒト型の上位種。それが展開戦力の内半分以上も失われたとなれば、当然指揮系統は混乱するし単純な艦隊火力の大幅な低下も避け得ない。
勿論敵艦隊の母数が母数なので、“大幅に火力が下がった”としても弾幕量自体は相変わらず膨大だ。それでも、片翼を失って尚、機内に重体者一人すら出さず瓦礫だらけの市街地に軟着陸するような腕前のパイロット達が揃っている部隊にとっては、突破する隙としては十分すぎた。
558 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/07/29(日) 23:10:37.09 ID:RkgsELyS0
弾幕を突破した輸送機の編隊が、統率の取れた動きで高度を下げながら大洗町上空全域に散開する。敵の航空戦力は既に“海軍”基地航空隊のグラマンと私の零戦部隊が掃討を完了し、制空権は確保された。
対空砲火さえ切り抜ければ、後は増援部隊を脅かす存在はない。下ろされたロープを伝って、或いは直接着陸した機体のハッチから飛び出して、完全武装の“海軍”兵と艦娘部隊が次々と戦場に展開していく。
《Taxi-07, 大洗鎮守府敷地内に降下完了!【Bravo】、総員展開しろ!Good luck!!》
《Stork-16、大貫町の敵艦隊正面に降下!自衛隊が交戦中、部隊は援護に回れ!》
《此方【Echo】、【Fighter】に代わりシーサイドステーション前に着陸を完了!大淀、砲撃開始だ!目標は正面敵艦隊!》
( T)「だからマッスr」
(,,#メ゚Д゚)「ちょっと黙ってろ脳味噌筋肉!」
無線機に次々と飛び込んでくる、展開を終えた部隊からの通信報告。その内の一つに提督が抗議の声を上げようとしたけど、ギコさんがすかさず一喝して無理矢理終わらせる。
本当に、提督のこの頑固さは一体どこからくるのだろうか。キングダムとムカデ人間と筋肉に関わる事柄では、この人の頭は長時間鍋の底に放置され冷め切った茹で卵の黄身より固くなるのだ。
(,,#メ゚Д゚)「しぃ、友軍部隊の展開状況は?!」
(*メ;゚ー゚)「【Echo】、【Bravo】、【Spencer】、【Lycaon】、【White Socks】、【Diamond】……私達【Fighter】も含めて、艦娘が加わっている部隊でめぼしいところは概ね降下展開を完了しているみたい」
尤も、私達は“降下”というより“墜落”だけど、としぃさんは苦笑いしながら付け足す。
ただし笑っているのは口元だけ。冗談めかした言い方ながら、彼女の目付きは引き続き真剣そのものだ。
(*メ;゚ー゚)「自衛隊並びに鎮守府・警備府艦娘の残存戦力と合流完了した部隊も多数。だけど、深海棲艦の攻勢は未だ止んでない。
寧ろ海上に新手の艦影が更に浮上、一度後退した艦艇も戦列を再編・反転してきたって」
「うぇえ……」
報告を聞いた時雨が、本っっっ当に心の底から嫌気がさした表情になる。
ロマさんの姿を直接眼にしたときより不愉快そうな彼女の表情を見たのは、おそらくこれが初めてだわ。
因みにゴキブリとロマさんだとロマさんに対する視線の方が4割増しぐらいでキツい。
559 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/07/29(日) 23:14:13.91 ID:RkgsELyS0
まぁ、表情については多分私も似たり寄ったりだろうからあんまり時雨のことを言えない。私だって、フライパンの底に焦げ付いた卵のような深海棲艦のしつこさには辟易しているのだから。
《【Hedwig】より【Fighter】、先ほど報告したイ級2、ハ級1からなr( T)「古鷹」
「了解です」
提督が無造作に指差した方に、古鷹が20.3cm砲を向けて三回打ち鳴らす。三つの爆発音の後に一キロほど先から断末魔が重なり、統合管制機のオペレーターが呆れたような声色で《All Enemy down》の一言を告げた。
( T)「雲龍、偵察機の準備は?」
「二式艦上偵察機、全六機が既に高高度にて旋回中。弾着観測はいつでも可能」
( T)「上出来だ。
古鷹、時雨、不知火、夕立!“二式”と視界共有、弾着観測射撃!!」
(#T)「存分に、ぶち殺せ!!」
「古鷹、了解しました!指名各艦は個別に照準、自由射撃開始!弾種撤甲、撃ちぃ方ぁ始めぇっ!!」
「はいはい……全く、か弱い美少女が長くいていい場所じゃないねここは!」
「弾種撤甲、了解。駆逐艦不知火、砲撃開始します」
「夕立、撃つっぽい!ぽいぽーいっ!!」
限界ギリギリまで引き絞った矢を解き放つが如き、提督の号令。指名を受けた四人は、全ての艤装を展開し文字通り全方位に最大火力を投射する。
《大洗第五警備府正面、軽巡ト級が【Fighter】古鷹の砲撃により完全に沈黙》
《Hit, Hit!! 浮上した軽巡ヘ級、頭部を失い轟沈!隣にいた駆逐イ級eliteも中破損害!》
《【Fighter】不知火の砲撃、大貫町方面にてト級に弾着。夕立の砲撃、一発はロ級、一発はホ級eliteに弾着。何れも目標の沈黙を確認》
時間の拘束は緩い代わりに提督が直々に矛を振るうこともある濃密な訓練と、日々の合間に各艦娘が行う訓練内容の“個人的な”反復。そしてどこよりも豊富な実戦経験が練り上げた、威力と速度を兼ね揃える艦砲射撃。
そこに偵察機の視界共有による“精度”が加われば、ごらんの通り。
《【Fighter】時雨、イ級flagshipを撃沈。Nice kill, Nice kill》
「時雨より管制機、偵察機から見えてるよ。解りきっていることをいちいち報告するだけを“仕事”と言い張るならいない方がいいんじゃない?」
《褒めがいのない駆逐艦だな………古鷹、撃沈10隻目だ。Good job》
彼女たちの放つ砲弾は今、一発一発が必中必殺の“銀の弾丸”だ。
560 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/07/29(日) 23:19:46.85 ID:RkgsELyS0
《【Hedwig】より【Fighter】、既に当方の艦娘戦力も80%が市街地への展開を完了した。彼女らが貴隊偵察機へリンクすることは可能か?》
( T)「m(,,#メ゚Д゚)「此方Wild-Cat、【Fighter】提督は脳味噌の不調につき俺が一時返答を代理する!雲龍、視界共有は未だいけるか!?」
「問題ない、妖精さん達もまだまだ余裕があるし、足りなければもう三機ほど上げることも可能」
(,,メ゚Д゚)「Wild-CatよりHedwig、リンク可能!各艦の視界共有は大丈夫だ!」
《了解。統合管制機より現在展開中の全艦娘に通達、【Fighter】が二式艦偵を発艦させている。各艦は妖精と視界共有、弾着観測射撃にて敵艦隊を撃滅せよ》
一般論として、母艦の艦娘以外との視界共有は映像の質が落ちる上に妖精さん達への負担も激増するため緊急時以外には多用されるべきではないとされる。況してや艦隊外の艦娘と、それも一機辺りが十数人と一度に精神・視界リンクを行うなど普通に考えれば正気の沙汰じゃない。
だが、艦娘のみならず妖精さんも“筋肉印”はひと味違う。私と鳳翔さんが二人がかりで調理した卵焼きのように。
《【Bravo】霧島、視界共有並びにマイクチェック完了!これより湾外より接近する敵艦隊へ艦砲射撃を行う!》
《【Echo】響、鎮守府より距離800の海上に更なる敵艦の浮上を確認したよ。イ級3、ロ級2の艦影あり。これより該当艦隊に砲撃開始するよ》
《This is【Diamond】, Flagship-KONGOU!!
Enemy ship spotted!! Open fire!!》
(*メ゚ー゚)「各艦、弾着観測射撃にて遠距離並びに湾内海上の敵艦隊への攻撃を開始!戦果順調に拡大中!」
(,,メ゚Д゚)「雲龍、二式艦偵の妖精に異常は!?」
「問題は見られない、何れの妖精さんも健常。二式艦偵の増強の必要なし、各艦引き続き観測射撃を継続されたし」
私も雲龍の偵察機に視界をリンクさせているが、彼女の言うとおり妖精さんは平然としており疲労した様子は微塵も見られない。陸地側から伸びる砲火が深海棲艦を至るところで薙ぎ倒していく様が、最新の4Kテレビのような鮮やかさで私の脳裏に映し出される。
『『アァッ、ア゛ア゛ア゛ッ!?』』
『『ギ、ィ…………』』
ただでさえ、“海軍”には私達以外にもイカれた練度の艦娘・艦隊が揃っている。それらが数十人雁首を揃え、尽く抜群の性能で空から見下ろす“眼”を通して砲撃してくるとなれば、それは最早多少の「数的有利」如きでひっくり返せる差ではない。
561 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/07/29(日) 23:28:19.62 ID:RkgsELyS0
防衛線の戦況は完全に逆転した。一方的に、縁日の射的の景品よりも容易く撃ち抜かれ、深海棲艦の屍や残骸が凄まじい勢いで堆く折り重なっていく。
そして───これほどになって尚、戦闘というより只の射撃演習と表現した方が余程近い苦境になって尚、奴らはまだ攻勢の姿勢を崩そうとしない。
『『『ォオオオオオオオアアアアアアッ!!!!!!』』』
《【Hedwig】より【Fighter】、湾内複数地点にて合計20隻程度の敵艦隊の浮上を確認。全て非ヒト型だが内約半数がelite、或いはflagshipクラスだ。
尚、この艦隊は全て進路を大洗海岸通り方面に取っている。恐らく、上陸後は東光台方面に浸透するものと思われる》
《此方大洗鎮守府、【Bravo】霧島より【Fighter】!!当地点正面に展開中だった敵艦隊から10隻を越える艦が離脱、海上を南下中!予想上陸地点は敵艦隊の進路から大洗海岸通り付近と見られます!》
《【Echo】大淀より【Fighter】、海上の敵艦隊からホ級elite2、ハ級flagship3が進路を当地点より変更!貴隊展開方面へ最大速にて進軍中!
また、共闘中の自衛隊より陸路を通じて東光台に進軍する敵艦隊を確認したとの報告も複数あり!注意を!》
敵の旗艦は、分散しての“平押し”では最早戦況を再び打開することは不可能と踏んだらしい。まるで特売用にかき集められて半額シールを貼られて棚に並べられる卵パックのように、あらゆる方角から敵艦隊が私達の方へ集結しようとしている。
考え方としては、決して間違っていないと思う。さっき脳内の地図でも確認したとおり、私達が今いる“東光台”という地は大洗鎮守府と港湾部とを結ぶ中間点の一つ。ここに浸透攻勢をかけて大洗町全体を寸断し南北双方への側面攻撃をかけられれば、学園艦から未だ投射され続けている支援砲撃の火力と併せて再び全方面で押し込むこともできなくはない筈だ。
562 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/08/01(水) 12:15:50.85 ID:nkx3sFGUO
お誂え向きな事に、その重要拠点に最短距離の上陸地点である大洗海岸通りはがら空きだ。この地点を守っているはずの艦娘と自衛隊は、殲滅されたか退却したか姿がない。flagshipとeliteだけで併せて30に迫る戦力を水際で迎撃されることなく送り込める“隙”を、敵の旗艦が見逃す理由はない。
そして何より、この戦況の逆転は私達の本格的な交戦開始を境に発生した。勿論私達が全てお膳立てしたというほど自惚れはしないけれど、贔屓目抜きにして少なくとも親子丼に入れる溶き卵程度の貢献にはなるだろう。
勝負事の“流れ”という、非科学的で人間くさい存在を奴らが信じているかどうかは解らない。ただ、戦闘の潮目を変えた私達を要衝から駆逐し、再び奴らの“流れ”へ持ち込もうとしているのだとしたら───それも十分な理由として上げられるかもしれない。
そう。戦況を鑑みれば、深海棲艦達が総力を挙げてこの地の奪還を目指すことは至極自然。この町の地理さえ頭にあれば、せいぜい戦略ゲームを多少やったことがある程度の知識量でも奴らが東光台の制圧を狙う理由はいくらでも見つけることが出来る。
『『『ォアアアアアアアッ!!!!』』』
《HedwigよりFighter、敵の別動艦隊は大洗海岸通り正面に上陸中。数は現時点で貴隊艦隊戦力の4倍から5倍、更に後続部隊も接近中》
( T)「マッ……わかったよギコホントに我慢するから睨むな。
俺たちの方でも確認した、クソ雑魚ナメクジが群れなしてやがる」
無論、統合管制機のオペレーター達もその事を知っていた。だからこそ彼らは、あえて私達の下に(単に必要なかったというのもあるけれど)増援を送らなかった。
私達もまた、こうなることを知っていた。だからこそ私達は───私達の提督は。
《HedwigよりFighter、陽動を感謝する》
ここで、“大炎”を起こしたのだ。
《Ticket-01、Ticket-02、海域に突入。【Blizzard】、【Cubs】を敵艦隊後方に投下しろ》
《01, Roger》
《02, Roger》
563 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/01(水) 12:20:12.58 ID:nkx3sFGUO
管制機からの号令直後に、南の方から現れた二つの機影。30Mもないような海面スレスレの高度を、私達が乗ってきたのと同じ種類の機体───V-22B【オスプレイ】が駆け抜けていく。
それまで雲龍や私の航空隊を追い回していた敵の対空砲火が慌てて其方に指向するが、防空網は戦線の再編や発生した損害に伴い増援部隊主力の大挙着陸を許したとき以上に穴だらけだ。加えて急激な対象変更となれば当たるわけもなく、二機のオスプレイは悠々と空域に滑り込む。
《01、ポイントに到着!
All Ladies, Go go go!!》
《02ポイントに到達、ホバリングに移る。
敵砲火は疎らとはいえ長居は出来ない、速やかに降下しろ!敵は手強いぞ、しっかりぶちのめせ!!》
《了解です!》
《Yes sir!!》
鳥が卵を産むように、開かれた後部ハッチから“艦影”が眼下の海へと飛び降りる。限界ギリギリまで高度を下げたとはいえ、完全装備の艦娘を投下となればその重量と落下時の衝撃は凄まじい。彼女たちが着水する度に、砲撃の着弾と見紛うばかりの水しぶきが次々と上がった。
《【Blizzard】、全艦展開を完了しました!これより戦闘を開始します!》
《Fleet-Cubs, Arrival on point!! All unit, Weapon-Free!! Open Fire!!》
『『『ガァアアアアアアアアアッ!!!!????』』』
誘蛾灯に引き寄せられる虫けらの如く、深海棲艦達は提督の起こした“大炎”に眼を奪われ、前のめりに戦力を投入した。結果がら空きになった背後に降下した虎の子の“連合艦隊”からの砲撃が、容赦なく敵艦隊の背から降り注ぎ、撃ち抜き、薙ぎ払う。
《【Cubs】Flagship、Iowaより【Hedwig】!敵艦隊は混乱しているわ、一気に畳掛ける!
ヘイ、ブッキー!ぶちかますわよ!!》
《ブッキーってまさか私のことですか!?っていうかもう突撃開始してる!?
ぶ、【Blizzard】旗艦、吹雪!【Cubs】の援護に回りつつ突撃!!陸地側と敵艦隊を挟撃します!!》
水上打撃艦隊による、主砲一斉射からの肉薄突撃。陸地側から正確無比な砲火が間断なく飛来する中で死角から敢行されたそれに、対処する術を敵艦隊は持ち得ない。また吹雪、Iowaらが着水から瞬く間に完全な乱戦まで持ち込んだことで、学園艦上からの援護射撃も友軍相撃の危険性から目に見えて勢いを失っていた。
一方的な蹂躙が、虐殺が、始まる。
564 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/01(水) 12:27:17.35 ID:nkx3sFGUO
《【Hedwig】より【Blizzard】、戦闘開始直後に自衛隊が湾内で発見した潜水艦棲姫の存在がその後確認できていない、捜索し発見した場合最優先で撃沈しろ。
海上保安庁の巡視船【AKITSUSHIMA】を沈めた奴だ、警戒は怠るな》
《了解!五十鈴さん、対潜警戒を厳に!特に水探の反応に注意を!》
《解ったわ!対潜なら五十鈴にお任せよ!》
《【Cubs】、君たちは対潜能力に劣る、潜水艦棲姫がジャックポット狙いで其方へ奇襲をかける可能性g》
無線通信の音声が、分厚い布を暴風の中ではためかせているような音に遮られる。足下に影が射し、頭上をヘリが数機で編隊を組みながら通過する。
海軍のものでもないし、輸送ヘリでもない。アレは確か、陸軍……じゃなくて陸上自衛隊が使う戦闘用の回転翼機。私の記憶が正しければAH-64D【アパッチ】とかいう名前だったと思う。
戦場に現れた四、五個の【アパッチ】編隊は、一気に沿岸部まで押し出すと水際や湾内の敵艦隊に向かってロケット弾や機銃の雨を降らせる。四分五裂状態でまともな迎撃能力がない状況下での空襲は効果的を通り越して完全なオーバーキルであり、屍が増える速度が更に跳ね上がった。
『ォオオッ、オオオオオッ………』
大きさからflagshipクラスと思われるホ級が一体、大洗海岸通りの辺りに上陸しながら忌々しげに空を見上げる。が、たちまちその周囲にアパッチが群がり、四方からのミサイル掃射で瞬く間に沈黙させた。
《自衛隊F.O.Bより当機に入電。“海軍”並びに在日米軍部隊の合流に併せて、後方部隊が再編の上順次前線へと投入されている。
“海軍”各隊は自衛隊戦力並びに現地艦娘部隊と連携し敵艦隊を引き続き掃討、沿岸部の当面の安全、湾内の海上・航空優勢を確固たるものにせよとのことだ》
「………何さ」
管制機からの通信に対し、時雨が艤装を下ろしながらまた卵の如く頬を膨らませる。さっきのは只の茹で卵だったが、今度は大きさ的にダチョウの卵ぐらいにはなりそうだ。
そしてそれは、そのまま彼女の不満の大きさを表すものでもある。
565 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/01(水) 12:43:01.20 ID:nkx3sFGUO
「ズッタボロにされてたくせに今更しゃしゃり出てきて人の獲物を取るなんて、マナーが為ってないね」
(,,メ゚Д゚)「……」
ギコさんが、自分の前に出されたゲロをスクランブルエッグだと言い張られているかのような目付きで時雨を見た。「お前その口の悪さでよくも他人のマナーが云々言えたな」的な言葉がのど元まで出かかっていたんだろうけど、辛うじて飲み込んだようだ。
賢明な判断ね、もし我慢できず口にしていたら彼の膝小僧には致命的な一撃が叩き込まれていたに違いない。
「だいたい、あいつ等がウチの提督やあのクソ眼鏡の忠告を無視した結果がこの有様だってのにさ!」
声が少し大きくなったのは、単純に苛立ちからか、或いは迫ってくるヘリ部隊第二波のローター音に遮られるのをよしとしなかったからか。一直線に飛んでいったアパッチの群れは、私達の正面から接近しつつあった敵艦隊に雨のようにミサイルを浴びせ始める。
とりあえず、この調子ならあの東光台奪還部隊もすぐスクラップになりそうだ。私も、偵察機との視界共有を切り一応手に持っていた矢も腰元の筒にしまう。
……実際、時雨のこの怒り様は“またもや自分の獲物を横取りされた”事からくるものであり、言ってしまうなら完全な八つ当たりに過ぎない。無論提督の件があるので自衛隊やお上をよく思ってはいないだろう──尤もそれは私達の大半に当てはまる──けど、少なくともこの件については自衛隊や指揮下艦娘に対して本気で言葉通りにキレているわけじゃない……と思う。いや解んないなこの子夕立とは別ベクトルでおバカだし。
だけど、時雨の言葉に正直頷きざるを得ない部分はある。
強固な海上防衛線を擦り抜けるようにして現れた、深海棲艦による要所の強襲・占領。その手法自体は、開戦当初の東南アジア諸国に始まりキュラソー、リスボン、青ヶ島、ベルリン、北欧、そしてムルマンスクと幾度となく実行されてきたものではある。
だけどロマさんと私達の提督は、珍しく意見を一致させていた。
大洗女子学園が通信途絶に至るまでの経緯や敵の展開の仕方から、この件は“ムルマンスク”に近い、と。
566 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/01(水) 15:40:52.84 ID:YcxJ8UTD0
更新おつです
蝶野一尉たち戦車隊は助かったのか?
567 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/03(金) 14:49:36.09 ID:vJGxUYYA0
おつおつ
局面を一蹴するのは流石だけど、震源地はいかほどか…
568 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/06(月) 19:19:18.62 ID:QruJgrB/0
続きがいま一番気になるわ。待ってる
569 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/08/07(火) 22:59:27.34 ID:5Rjb8J6V0
ロシア連邦への内陸浸透こそ防いだものの、ロマさん自らが陣頭指揮に立つなど“海軍”が全力で支援して尚勝利には町一つ丸ごとを犠牲にしなければならなかったムルマンスク。
寄生体、幼体から変異した新型の駆逐艦種、鎮守府所属のロシア軍まで巻き込んだ町を挙げてのクーデター、そしてイスラーム勢力の介入………過去には無かった種類の事象が数多く絡んだことや、ある程度経緯を知っていたであろう同鎮守府の提督が戦死していたこともあって、大本営の方でも未だにその解析は進んでいない。
今回この町がもしムルマンスクと同様の事態に陥りつつあるとするなら、“海軍”の経験さえ役に立たない可能性が高くなる。故に二人は、早い段階から様々なルートを通じて自衛隊には「深海棲艦を刺激するべきではない、増援の到着まで動かない方がいい」という“意見具申”を繰り返していた。
恐らく日本艦娘艦隊の“元帥”や、この間鎮守府に来ていたデメキンを生卵でコーティングして光沢をつけたような顔面の総理大臣からも似たようなニュアンスで指示は出ていたと思う。にもかかわらず威力偵察という形で前線部隊は学園艦に接触し、深海棲艦の大規模な攻勢を招いた。
(まぁ、向こうにもいろいろあったとは思うけどね)
世界は、私達の提督のように脊髄と気分で動く単純なものではない。況してや自衛隊は、今や世界屈指の軍事組織である一方そもそも正式には軍隊ですらないという、筋金入りにややこしい存在だ。今回の“威力偵察”についても、向こうにのっぴきならない事情があったことやその内実は概ね予想がつく。
だが内実がどうあれ、その行動の“結果”が重く厳しいものであることには変わりが無い。
威力偵察による敵艦隊挑発の“結果”、その初動で大洗町防衛線は早くも甚大な打撃を受けた。
(どれぐらい、やられちゃったのかな)
町の惨状を、改めて眺める。ここに自衛隊や自衛隊付の艦娘が具体的にどれ程の兵力で展開していたのかは知らないが、広がる光景からどれ程の損害が出たのかについては想像に難くない。
そしてそれは恐らく、世界規模の侵攻によって国内外何れの地域からもこれ以上の増援・戦力補充は今しばらく見込めない現状にあっては、致命的という表現すら過言ではない事態のはずだ。
570 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/08/07(火) 23:01:15.79 ID:5Rjb8J6V0
当然深海棲艦側も無傷じゃない。私達が到着した段階で沿岸部や湾内に展開していた敵艦隊は、そのほぼ全てが今や海の底に沈むか、地上で穴だらけの骸を晒している。戦闘がほぼ終結し暇を持て余した時雨が提督へのカンチョーを企て、無事見つかり頭を鷲掴みにされていた。
「イダダダダダダダダ、美少女にしていい仕打ちじゃないよこれ!」
( T)「カンチョウは美少女に許されるアクションとでも言うつもりかよまた渋谷がパニックになるぞ」
(,,メ;゚Д゚)「あれアンタらが原因だったのかよ……雰囲気ヤバすぎてS.A.Tと陸自の出動が本気で議論されたんだぞ。つーか何がどうしたらあーなるんだ」
白露型駆逐艦の次女が宙づりにされながら卵の殻を破ったばかりの雛のように藻掻く横で、手空きなのを良いことに私もまた思考する。
(百数十隻規模の、それもeliteやflagshipが1/3以上も攻勢に含まれた艦隊の壊滅。リスボン沖で投入された戦力と同規模が全滅したと言い換えれば、普通なら再起不能の大打撃。
だけどその中には、“ヒト型”が1隻も含まれていない)
事前情報では湾内に居るはずの潜水艦棲姫は、【Blizzard】が捜索しているものの現時点で痕跡すら見つかっていない。沖合から盛んに砲弾を飛ばしてきていた大洗女子学園の敵主力艦隊も、重巡リ級の1隻さえついぞ寄越すことは無かった。更にいえば、【Blizzard】と【Cubs】が投入されてからも攻撃を中断して撤退する機会は幾らでもあったにもかかわらず、奴らは最後まで様々に手を変えて攻め寄せてきている。
推測だけど、形勢が定まった段階で敵の旗艦は攻勢艦隊を“威力偵察”として使い捨てることにしたのだと思う。内陸浸透自体は本気で考えているにしろ、少なくともさっきまでの攻勢に“全力”は注ぎ込まれていない……私としては、そういう結論に行き着きざるを得ない。
(逆に言えば、非ヒト型とはいえ20個強の艦隊をただの捨て駒扱いにしても困らない程度には、向こうはまだこの町に投入できる戦力を温存してるって事よね。
………かなり高い確率で、大洗女子学園甲板上の主力艦隊以外の戦力を)
“どうやって”の部分については、考えるだけ無駄なので省く。だが例えば、既に湾外かつ防衛線の内側の海域のどこかで敵の海中拠点のようなものが建設されていたとすれば………その物量差は、私たちが当初想像していたものの何倍にも、何十倍にもなり得る。いかに“海軍”艦隊といえど、練度で跳ね返せる物量差、戦力差は無限じゃない。
保有戦力が未知数で、その主力艦隊は温存され、湾外のどこかに根拠地を持つ可能性があり、しかも外洋からは新型の棲姫と膨大な後続戦力が押し寄せつつある敵艦隊。対する私達はほぼ現有戦力のみに限られ、その“限られた戦力”は初動段階で大損害を受け摩耗した状態だ。
判断材料を並べれば並べるほど、浮き彫りになる私達の不利、覆しようのない戦況。私は、思わず顔を覆ってしまう。
全く、ロマさんは私達になんて戦場を割り振ってしまったのだろう。
「………たまご」
、、、、、
なんて楽しい場所を、割り振ってくれたのだろう。
571 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/08/07(火) 23:04:06.77 ID:5Rjb8J6V0
口角が、思わず吊り上がる。鳳翔さんの作った絶品卵焼きを初めて食したときと同じ様な、歓喜と至福の笑みを浮かべてしまうのを止められない。
そしてそれは、私だけではなかった。
「………」
国語辞典の「マイペース」の項目に、関連単語としてその名前が載っていてもおかしくない雲龍も。
「まだまだ、新しい“遊び”、できるっぽい?」
「……えぇ、できるわ。まだまだ、沢山」
映画【ミスト】で絶叫し、【エイリアン】で号泣し、【プレデター】で不眠症になり、【キャビン】で卒倒し、【パラノーマルアクティビティ】はパッケージを眼にした瞬間粉砕を試み、【ムカデ人間】で深刻なトラウマを抱えた夕立も。
日頃は、提督からZ級映画講義を受けているときくらいしかまともに表情筋を動かさない──正直本当にあの趣味は理解できない──不知火も。
「っつー……駆逐艦の可愛いおふざけにアイアンクローなんてするかい普通?」
ついさっきまで、提督のお仕置きを受けていた時雨も。
( T)「一般的な“可愛い駆逐艦”とやらがマッチョの締まりのいいキツキツのケツ穴に指突っ込みたがるわけねえだろ」
「言い方!」
そして恐らくは、マスクの下の提督の顔も。
誰もが、私と同質の………或いは、私以上の、殺意と歓喜が浮かぶ笑顔で眼前の海を眺めている。古鷹だけは少し困ったようにまなじりを下げていたが、私達を咎めるようなことはない。
艦娘が正義の味方と信じる人々も、艦娘を前大戦の亡霊だと忌み嫌う奴らも、私達の様子を見ればきっと口を揃えてこう言うだろう。
何故、そんな表情(かお)が出来るの?と。
もしも本当にその質問をされる機会があったなら、私達は迷わずこう答える。
楽しいから、と。
572 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/07(火) 23:31:38.05 ID:5Rjb8J6V0
(,,メ゚Д゚)「……こういう時、相変わらずゾッとするような笑み浮かべるなお前等は」
「たまご」
どこか複雑な感情を抱えたギコさんの言葉に、返答代わりに肩を竦めてみせる。
自覚はある。深海棲艦から国を守り、人々を守るために造られた“平和の象徴”たる艦娘が、闘争と流血と硝煙を渇望して笑うのだ。どれ程歪かなんて、人に言われずとも理解している。
だが同時に、こうも思う。丁度良いじゃないかって。
全員ではないが、私達の多くは艦娘として一度死んだ……殺された身だ。裏切られ、陥れられ、利用され、捨てられ──まぁ、ごく一部は自業自得の罪だけど──、存在意義を否定されて、あの廃墟のような鎮守府へと流れ着いた。
ならば、“死人”がいつまでも生者の規則、生者の倫理観に則ってやる義理はない。私達は私達のやりたいようにやらせて貰う。
「……それで?この先のことについて、何か改めていうことはあるかい?提督」
( T)「んなもんはその時になったら言うわ脊髄で指示出してる人間に長期的戦略とか求めんな」
(,,メ゚Д゚)「仮にも佐官級の艦隊提督がお前……」
( T)「ただまぁ、そうだな。一応、今回の大まかな方針については改めて伝えとく。逆に言えば、これと轟沈しないって点さえ守るなら後は指示がない限り好きに暴れろ」
人類の希望だの、海の女神だの、正義の味方だの、平和の使者だの、そんな首筋に生卵でも垂らされたみたいにサブイボが立つ役割は、使命感に燃える普通の艦娘に任せればいい。
( T)「クソ雑魚共を皆殺しにしろ」
「「「「了解(っぽい)!」」」」
「たまご!!」
地獄に落ちた私達には、戦場で血みどろになりながら嗤う悪鬼の役の方が、よっぽどお似合いだ。
573 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/08(水) 14:42:09.94 ID:N68ha71G0
更新乙です
多勢に無勢で笑う娘たちでも、局地的な勝利はあっても大勢は引っくり返せないのでは…
574 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/08(水) 16:23:57.67 ID:T9TuXiqqo
居酒屋たくちゃんの回をずほ視点で書いてほしいくらい饒舌なモノローグやな……
575 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/09(木) 23:02:59.02 ID:54EtZSJI0
………ところで、少し話題を変えようと思う。
実は、【Blizzard】と【Cubs】の投入によって深海棲艦側にに致命的な混乱が生じ、現時点での戦況がほぼ確定した辺りから、私たち全員が意図的に視線を外していた“一角”がある。
「ウフ、ウフ、ウフフフフフフ」
( T)「猫山“海軍”少尉」
(,,゚Д゚)「何ですか提督閣下」
( T)「ウチの艦隊の笑顔がどうのこうの言う前にアレをなんとかしろや」
(,,゚Д゚)「すんません無理っす」
( T)「お前……即答ってお前……」
ギコさんの肩を掴み小声で囁きながら、提督がその“一角”を親指でさす。私もつられて、ちらりと其方を伺う。
::(* ¬ )::「イヒッ、ウフッ、フヒッ、ヒヒヒヒヒッ、ヒヒヒヒヒヒッ」
「たまご……っ!」
視界の端に“それ”が僅かに映った瞬間、すぐに自らの軽率さと好奇心を呪いつつ再び目をそらした。以前秋雲から都市伝説の“くねくね”について聞いたことがあるけど、実在するならきっとあんな動きなんだと思う。……というか、アレは人間の関節で為せる動きなのだろうか。
椎名美子。
日常においては朗らかで優しいお姉さんである一方、戦場においては聡明かつ勇敢な“海軍”少尉。ロマさんが陣頭指揮に立つときにはだいたい周辺警護を任されるなど、上層部からの信任も厚い。私たちとの共同作戦にも度々参加し、あの時雨でさえ懐く程度にはウチの鎮守府でも一目置かれている存在。
……序でに言うと、ナイスバディには程遠いがスレンダーな体型で背も高く、一般的に見て結構な美人でもある。
そんな彼女……しぃさんの、提督やギコさんから錬金術とまで称された壊滅的な料理の腕前と肩を並べる重大な欠点。それがこの、“逆境フリーク”ぶり。
単にウォーモンガーというだけなら私たちの方が余程重症だけど、しぃさんの場合「自分たちが追い詰められている・苦戦している戦場」という“ツボ”が存在する。
大洗町防衛線が置かれた状況は、言うまでもなく彼女にとってはビールの横に置かれたできたてほやほやの卵焼きに勝るとも劣らないベストマッチ。ど真ん中160kmストレート級のドストライクだろう。
576 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/09(木) 23:17:27.57 ID:54EtZSJI0
では、その“ドストライク”な戦場に立ち会ったとき、彼女に何が起こるのか。
:::(* ¬ ):::「ウブヘヘヘヘヘヘヘ」
答えはこれ。菜箸でかき混ぜた溶き卵よりも原形を留めないキャラ崩壊だ。
(*゚¬ )「ヒッ、ヒッ……タノシミダナァ……クヒヒ…ッ!」
「うわ……うわっ」
ホラー映画でだって滅多に耳にしないレベルの不気味な笑い声を上げながら、益々激しく身体をくねらせる──気配でわかるって相当だよ──しぃさん。宇宙の彼方からなんかの邪神を召喚するための儀式と間違われそうなその姿に、この状態は初めて見た雲龍が心の底から恐怖した様子で声を漏らしている。
不知火や弥生とはまた異なるベクトルであまり表情筋を動かさない雲龍が今どんな顔つきをしてあの声を出したのかは興味があるが、其方を振り返ると自動的に(元)しぃさんを視界に収めることになってしまうのでぐっと我慢。視界の端を掠めただけであのダメージだ、まともに眼にすれば1d10/1d100のSANチェックは免れないだろう。
雲龍以外の私を含む面々は初見じゃないけど、何度見ても慣れるものじゃないし今回の“崩壊”は何時もの数倍酷い。夕立などは完全に怯えきり、あと一回でも振り向いたら即座に死ぬ病にでも罹っているかの如く全身を強張らせて直立不動を維持し動こうとしない。古鷹の笑みもあからさまに強張り、不知火の顔色は【ソドムの市】とかいう映画の24時間耐久レースをやってたときよりも青ざめている。
唯一時雨はあまり反応していないように見えたが、よく目を懲らすと彼女の指先はまるではぐれまいとする幼子のように提督の服の裾をしっかりと摘まんでいた。……日頃の言動はニャルラトホテプも肩を竦めて宇宙へ帰るレベルのアレがあそこまで怯えるってしぃさん凄いな。
そういえば夕立ほど極端じゃないにしろ時雨もあんまりホラーは得意じゃないって叢雲が言ってたっけ。
577 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/09(木) 23:40:03.41 ID:54EtZSJI0
( T)「………えっ、なにきっしょ」
「五月蠅いな!ちょっと指が寒いんだよ!」
( T)「ピンポイントに右手の人差し指と中指と親指だけ寒くなるってどんな特殊症例だよ。しぃにビビりまくってるの丸わかrンゴフッ!!!」
時雨が伸ばした左手が提督の右乳房の先端を的確に捉え、思い切り捻り上げる。マスク越しに、くぐもった悲鳴を彼が漏らした。
あっ、また頭鷲掴みにされてる。
「ああああああああギブギブギブ頭割れる頭割れる!!」
( T)「おいギコ、いい加減マジメに止めろ。こいつですらここまでビビるって相当だぞ」
「だからビビってnイダダダダダダッ!!!」
(,,゚Д゚)「了解。……オラしぃ、いい加減戻ってこい」
(*;XーX)「痛っ!」
ギコさんがおもむろに近づくと、平手でしぃさんの頭に一撃。途端、しぃさんのくねくねが停止する。振り向けば、さっきまで半熟目玉焼きの黄身のように崩壊していたであろう顔面もすっかりいつもの優しげな風貌に元通りだ。
壊れたテレビに対する昭和の対処法みたいな治し方だけど、この辺りの機微は流石昔馴染みといったところか。
(*;゚ー゚)「あ、アレ?ギコ君?」
(,,゚Д゚)「いつまでトんでんだアホ。自衛隊の後続部隊が間もなく到着する、“海軍”の恥になる前に早いとこ正気に戻っとけ」
(*;゚ー゚)「あっ、はーい……ごめんなさい……」
( T)「あん?なんで今更自衛隊が来るんだよ」
(,,゚Д゚)「なぁ提督閣下、指揮官たるもの戦況把握のために無線にもう少し気を遣ってもバチは当たらんと思わねえか」
( T)「めんどい」
(,,゚Д゚)「死ね」
( T)「てめえが死ね」
(*;゚ー゚)「あの、二人とも……さっきまで錯乱してた私が言うのも何だけどここほぼ納まってるとはいえまだ戦闘中のエリアだから……」
ギコさんと提督がメンチを斬り合う中、私は無線を心持ち深く指で押し込み音声に耳を懲らす。
なるほど、内容をざっと聞いた限り、少なくとも現時点で湾内に存在した敵艦隊の掃討をほぼ終えたことによって自衛隊による防衛線の再構築が本格的に始まっているらしい。統合管制機に入った百里基地のF.O.Bからの報告によれば、この東光台にも陸自・海自・艦娘の連合部隊が急行中とのことだ。
578 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/10(金) 11:09:47.96 ID:Q9oV8/7A0
これはひどいww
普段優しい相手だけに対処のしようがねえww
579 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/11(土) 23:03:55.67 ID:uxo1vhXg0
《……なお、東光台に派遣された第一波はSBUとC.R.Rを主力とし、これに艦娘戦力として航空巡洋艦の鈴谷、駆逐艦の暁、電、それから航空戦艦の日向が加わっているとのことだ。この第一波は後1分ほどで其方に────》
(結構強力な戦力出してくるのねぇ)
【Hedwig】から送られてくる増援部隊の情報に、少しの驚きを覚える。
SBUにC.R.Rといえば、それぞれ海自と陸自の精鋭部隊だ。特に後者は東南アジア解放戦において私たち艦娘とも肩を並べて戦い、豊富な実戦経験を積んでいる。恐らく、国内の“人間”を主力とした部隊では最強の存在に違いない。
そこに更に艦娘が四人、内日向は“航空戦艦”だから改装済み。それもこの内容はあくまで“第一波”であって、今後続々と後続部隊が投入されるという。
まぁ重要拠点なので、戦力を投入して防衛線を補強すること自体は別段不思議ではない。ただ、既に空母を含む一個艦娘艦隊に+αの人員まで揃っている場所に送り込む戦力としては、些か過分と言わざるを得ない。
どうも百里基地F.O.Bからの“海軍”に対する信頼は、錦糸卵に使う卵焼きよりもぺらぺらなようだ。
(まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないか)
ギコさん達の様に“兼任”している隊員を除けば、元帥を始めこの組織の存在を知っている自衛隊の人間は上層部の一握りに過ぎない。アメリカ国防省が多分に歪曲を加えて存在を公表していたが、リアルに「こんなこともあろうかと」をされてもそんな得体の知れない組織を信じろというのはなかなかに無理難題よね。
580 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/11(土) 23:05:44.67 ID:uxo1vhXg0
そんなことをつらつらと考えていると、ふと、背後から聞こえる車のエンジン音に気付いた。コンクリート片をタイヤが踏み砕く「パキパキ」という乾いた音を伴ったそれは、猛烈な勢いで近づいてくる。
再び振り向くと、丁度迷彩柄の大型トラックが四台、瓦礫の山を蹴散らしながら私たちの方に向かってきていた。
「現地到着、現地到着!総員降車、総員降車!」
「車外展開後は陣地構築だ!迅速に行動しろ、1分後には深海棲艦の攻勢が再開されるかも解らん!」
「既に国連“海軍”部隊が展開を完了しているぞ!合流を急げ!」
四台は、乗せられているのが産地から運ばれる卵なら間違いなく全滅していたであろう荒々しい運転の下、雲龍の真後ろの辺りで次々と停車する。
【Hedwig】が言っていた増援の第一波なのだろう。後部の荷台には兵員が満載されているらしく、口々にがなり立てるような声と共に幌が揺れた。
「……ホント、随分な重役出勤じゃないか」
(,,゚Д゚)「現役としては耳が痛いな。
よし、Wild-Cat各位は自衛隊と合流、共同で陣地構築を行う!Fighterはここで待機を─────」
(;´_ゝ`)「クソッ、見事に町中壊滅しちまってるじゃないか!もっと早く俺たちも投入できなかったのか!?」
(´<_` )「上層部にもいろいろ事情があるんだろうさ。ぐちぐち言うな兄者、その姿じゃとても流石とは言えないぞ」
先陣を切って車内から飛び出したのは、どちらかが鏡に映した像なのではないかと疑うほどそっくりな顔をした二人の海自隊員。
(,,゚Д゚)「」
ギコさんの動きが、瞬間冷凍でもされたみたいにピタリと止まる。
581 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/11(土) 23:15:21.98 ID:uxo1vhXg0
本当に、鮮やかな移り変わりようだった。
(,,゚Д゚)(*゚ー゚)
(,,;゚Д゚)(*;゚ー゚)
(,,B゚Д゚)(*B゚ー゚)
肌色から、イースターエッグの配色として使われても違和感がないほど真っ青に、ついで剥きたてほやほやの茹で卵の表面の如く真っ白に。さながらアニメイション映画の登場人物のように二人の顔色が変化していく様はどこかコミカルで、二人には大変悪いと思いながら正直笑いをこらえるのに苦労した。
「少尉?えぇと、指示はどのように」
( T)「……おいギコ、どうした?」
(,,;゚Д゚)「いや、その……だな……」
(´<_` )「鈴谷、日向さん起こしてくれ!」
「チィーッス……ってうわっ!想像してた以上に滅茶苦茶じゃん……」
ギコさん達が硬直している間にも、自衛隊の増援は着々と戦力の展開を始める。双子と思われるその兵士達のすぐ後に鈴谷──勿論私たちの鎮守府とは別の子だ──が顔を出し、市街地の光景に眼を見開いた。
「七警があった方も煙上がってる……加賀さん、大丈夫かな……」
(´<_` )「大洗鎮守府からウチの加賀は無事保護されたと報告があった。小破状態であっちの明石から修繕を施されてる最中だそうだ、安心しろ」
( ´_ゝ`)「電ちゃんと暁ちゃんは対空警戒を厳に!敵機来襲時は俺たちや提督の指示を待たず速やかに射撃を開始するように!弟者、あちらさんの指揮官を叔父者のところに案内しといてくれ!」
「なのです!」
「了解……って、れでぃなんだからちゃん付けなんてしないでよ!」
(´<_` )「はいはい、れでぃれでぃ。
で、アレが噂の国連海軍………と……」
(゜<_゜ )
弟者と呼ばれた士官が此方を向き、指揮をしている人物を探そうとしたか私たちの列を見回す。その目線がギコさんとしぃさんのところに達したと同時に、糸のように細かった彼の両目が見開かれる。
手から89式小銃が滑り落ち、足下に落下してガチャンと音を立てた。
582 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/11(土) 23:19:39.19 ID:uxo1vhXg0
( ´_ゝ`)「狙撃班はどこか高さを取れる場所を探せ!それと携行砲の管理はしっかりしろよ、暴発でお釈迦になりましたなんて笑えないぞ!
──おい弟者、指揮官捜しにいつまでかかっ………て………」
「ねぇ、二人とも、司令部から通信入ってるけど。アレ?ギコさんじゃん、チィーッス!……はっ!?えっ!?ギコさん!!?なんでここにいんの!!?」
ついで私たちの方に駆け寄ってきた、“兄者”と呼ばれていた方も“弟者”と全く同じ感じで固まる。その背後からトランシーバーを掲げながらひょっこりと顔を出した鈴谷は、ギコさんの姿を見て一度自然な感じで手を上げかけた後素っ頓狂な叫び声を辺りに響かせた。
そういえば、彼としぃさんが自衛隊の方で活動しているときに、ムルマンスクへ派遣される前はこの町に勤務していたことを思い出す。
なるほど理解した、事情を知らない表の顔に対する「同僚」と鉢合わせをしてしまったというわけか。向こうも完全に予想外の出会いだったようで、立ち尽くしたまま微動だにしない。
「えっ!?えっ!?しぃさんもいるし!?ってか二人のその軍服何!?海自のじゃないよね?!なんで!?なんでそんな服着てんの!?てか、その人達国連の“海軍”だよね!?なんでギコさん達一緒に居るの!?」
逆に此方も顔見知りらしい鈴谷は、二人とは対照的に益々大騒ぎしている。タイムセールの卵のパックを奪い合うスーパーの主婦の群れだってここまで五月蠅くはできない。
まだこの子しか見ていないが、それでも概ね察する。どうやらギコさんとしぃさんの“表向きの職場”は、私たちの鎮守府に負けず劣らず愉快なところだったらしい。
(;´_ゝ`)「猫山に……椎名で、間違いないんだよな?」
(´<_`;)「お前等北方戦線に異動したはずじゃ……百歩譲って戻ってくるだけならともかく、なんで国連軍に……?」
(*;゚ー゚)「えっ、ええっとね……ぎ、ギコ君、どう説明したらいいかな……?」
(,,゚Д゚)「………」
583 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2018/08/11(土) 23:49:05.53 ID:uxo1vhXg0
ギコさんの口元が、突然尖る。彼はそのまま手元の白兵用ブレイドをまるで杖のように地面に突き立てると、その大きな眼を限界まで細めて老人のように腰を曲げて見せた。
(,,;=3=)「い、否。ここには猫山義古等という名の人物はおらん!せ、拙者、猫山ではなく、ライスボーラーパン蔵と申す!!」
( ´_ゝ`)「は?」
(´<_` )「えぇ……」
「無い」
(*゚ー゚)「ギコ君……」
( T)・'.。゜「ブブホゥwwwwwwwwwwww」
「グブフフヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒwwwwwwwwww」
どこから出したのかと首を捻りたくなるような高音声で放たれた台詞に、双子と鈴谷としぃさんが一瞬で真顔に戻る。提督がマスクを貫通して大量のつばをまき散らしながら崩れ落ち、時雨も明らかに自称美少女が出すものとしてはふさわしくない笑い声と共に腹を抱えて地面を転げ回る。
「……ッ、……ッッ!!」
「ポ、ポヒッ、ポヒヒッ……」
「ふっ……くっ……ふふっ……」
あと雲龍も無言で顔を押さえて膝をついているし、古鷹と夕立も精一杯の優しさでこらえながらもギコさんの方に視線を向けられていない。“海軍”兵士も大半は決壊寸前だ。
正直私もヤバかった。
(,,B Д )「…………殺してくれ誰か」
「たまご」
自己嫌悪で地面に崩れ落ちるギコさんの肩に、初めて一単語しか喋れない体質に感謝しながら慰めの意を込めて手をそっと置く。
きっとこれは、彼の人生全体を通して恐らく最大級の失策だったに違いない。
何せ、我が鎮守府が誇る邪神二人に、向こう5年は使える【鳳凰の卵】よりも美味しい極上のからかいネタを与えてしまったのだから。
( ´_ゝ`)「どうした、しっかりしろライスボーラーパン蔵」
(´<_` )「いろいろ説明を頼むライスボーラーパン蔵」
( T)「そう落ち込むなよライスボーラーパン蔵」
「元気出しなよライスボーラーパン蔵wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
(,,#;Д;)「お前等全員死ねゴルァアアアアアアアア!!!!」
とりあえずギコさんの当鎮守府における認識が、
「男梅に轢かれて気絶した上に公衆の面前で上官に犯されそうになった面白ヤンキー」
から
「“海軍”所属がバレそうになってテンパった挙げ句漫才コンビ流れ星のちゅ○えいに無駄に近いクオリティでライスボーラーパン蔵と名乗った面白ヤンキー」
に更新された瞬間だった。
.
584 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/12(日) 23:04:44.17 ID:GFXsSW1a0
在日米軍が到着した時点では、私は多少の安堵こそすれどまだ状況を楽観してはいない。
いかに世界最強の軍事組織でも、相手は深海棲艦。圧倒的な重武装と物量を誇る、“生きた戦艦”の大軍勢だ。例え米軍でも彼我の火力差は歴然で、真っ向からぶつかって上回ることは難しい。
それらを埋めうる艦娘戦力についても、サラトガとアイオワの2艦種だけでは“同一艦娘の複数編成不可”の原則も手伝って到底間に合わない。
もし米本土で先日新たに実装された3艦種が配備されていれば話も変わっただろうけど、彼女たちは欧州情勢の悪化に伴い西欧戦線への優先配備が決定。日本列島戦線への派遣は先送りにされている。
これらの事情から鑑みて、一気に戦況を覆せるとは端っから考えていない。勝てる可能性が一分にも満たなかったさっきまでの状況からは大いに盛り返しはするだろうが、せいぜい五分五分。敵側からの追加戦力次第では、それでも六分四分で此方が若干不利というのが私の弾いたソロバンだった。
勿論、“国連海軍”という本来嬉しい計算外の存在は認識していた。だけど、賭けてもいいけど私を含め誰一人として、ひょっとしたら行動を共にしていた米軍部隊さえ、そんなものは当てにしていなかったに違いない。
当たり前の話よ。
設立からさしたる時間も経たずに“前身”同様大国・先進国の都合で動く傀儡と成り果て、疾うの昔にその機能も威厳も存在意義さえ失っていた虚構の組織。そこから突然派遣された得体の知れないぽっと出の軍事組織に、一体何を期待しろと言うつもり?
艦娘戦力が含まれるという情報についても、せいぜいお飾りの駆逐艦が2、3隻含まれていればいい方。正直なところ、足手纏いにならなければ御の字────私にとっては、その程度の認識。
その程度の認識………“だった”。
585 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/12(日) 23:11:46.76 ID:GFXsSW1a0
深海棲艦の対空砲火を擦り抜けて私達のすぐ近くに降下した、二機のオスプレイ。そこから見たことの無い軍服を身につけた武装兵と共に現れた、10名ほどの艦娘。
彼女らが戦闘を開始した瞬間、私は思い知らされる。
自らの認識の甘さを。
“よくて五分五分”という懸念が、いかに無駄なものだったかを。
「…………て、敵艦隊、防衛線全域にて一時撤退を確認。な、なお、撃沈艦の数は膨大であり、現在戦果は確認中。
ただ、深海棲艦側の撤退は単なる離脱ではなく、“壊滅的損害”による敗走とみられます」
ノハ;メ゚听)「すっげ…………」
一瞬、とまでは言わない。だけど、感覚としてはそれに限りなく近いものがある。
あれほど重厚な陣容を以て押し寄せてきていた正面敵艦隊は、今やその大半が穴だらけの身体を陸地に横たわらせ、或いは海面にぷかぷかと浮かべ、無残な屍を晒している。討ち漏らしたほんの一握りも、私が目の届く範囲で見た限り中破以下の損傷で済んでいた艦は1隻として存在しない。
対して自称“国連海軍”側の艦娘達には、そもそも敵の攻撃が一発たりともまともに命中しなかった。
「Clear, Clear!!」
「【Lycaon】並びに【Echo】、戦闘態勢を解除し装備の点検に移れ!海上哨戒と敵艦隊の追跡は【Blizzard】と【Cubs】に任せるぞ!」
ノハ;メ゚听)「……蝶野一等陸尉、あの艦娘達、一部の奴ら白兵戦で深海棲艦殺してませんでした?」
「……乱戦でよく見えなかったけれど、そんな気はしたわね。正直、ベリーあり得なさすぎるから信じがたいけれど」
ノハメ;゚听)「いやどんな言葉遣いですかそれ。完全にルー大柴と化してるじゃないですか」
586 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/13(月) 00:47:58.62 ID:QVghaKhA0
おつおつ
色々とあれだけど、ギコさんが悲惨過ぎるw
587 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/08/13(月) 19:06:24.80 ID:yI1csy5UO
後少し早ければ、しぃのクネクネを流石兄弟は目撃していたのか(戦慄
588 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/14(火) 23:03:01.33 ID:7P9UOiPr0
大隈二曹からの問いかけにはふざけて答えたが、実際その光景は私もしっかりと眼にしている。
刀や槍、薙刀やハルバード、諸刃剣、変わり種のところではモーニングスター……時代錯誤も甚だしい形状の漆黒の武器が振るわれる度に、深海棲艦の装甲が砕け、肉が裂け、断末魔の合唱と共に屍体が増えていく様子を。
(………なんていうか、滅茶苦茶な光景だったわね)
白兵装備の存在自体には驚かない。天龍や龍田、改装前の叢雲等デフォルトで近接戦闘用の武器を持っている艦娘がいることは私も知っているし、海自の方でもその点に着目し護身用のナイフ程度は全艦娘に配備するべきではないかという意見が出ていると聞く。
実際に戦場で使用され撃沈に至った事例も、指折り数えられるほど少数かつ不明瞭な内容だが無くはない。材質についても、戦車道の特殊カーボンやAPFSDSに使われる合金など候補は2、3思い浮かぶ。
(そう、存在自体は別に不思議でも何でも無い。
問題は、彼女たちがそれを“主兵装”として扱っていた点)
実戦経験は今日が初めてでも、かつて名門戦車道家元の教えを受け入隊後は軍事組織の一員として何年も訓練を重ねてきた身だ。彼女たちの動きがいかに洗練されているかも理解出来ないなら私は自衛隊から去るべき人間だろう。
太刀筋の力強さ、踏み込みの速度、斬撃や刺突の軌道の正確さ。どれを取っても、一朝一夕では身につかない。何百回も何千回も繰り返し、修練し、身体に染みついた類いのもの。
本来艦娘たちもまた、深海棲艦と対を成す形で“生ける軍艦”としての力を持つ存在。その本分は、艦砲射撃や航空爆撃によるアウトレンジからの遠距離攻撃だ。巡洋艦や駆逐艦による雷撃戦にしても、肉薄する距離などたかが知れている。
だが目の前の彼女たちは、その本分とは逆行する近接戦闘を軽々と熟して見せた。
589 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/14(火) 23:11:14.54 ID:7P9UOiPr0
尤も、流石に全員が白兵戦に興じていたわけではない。
空母艦や戦艦、夕張、大淀といった軽巡でありながら重装備を可能とする艦などは後衛に下がり、若見屋交差点から合流した羽黒等海自の艦娘達と共に“本分”たる遠距離攻撃で此方も十二分な戦果を上げている。攻撃目標も徹底的に海上の敵後続戦力に集中し、前衛の増強を防ぐことで“白兵艦隊”の戦いやすさをより高めるという理想的なものだ。
自然な連携。だが故に、尚更確信せざるを得ない。
彼女達にとって、この戦術は“手慣れたこと”であると。その練度の高さは単に訓練だけではなく、幾十幾百の“実戦経験”に裏打ちされたものであると。
「アメリカと、我らが祖国も一枚噛んでそうね」
ノハメ゚听)「? 何の話ッスか?」
「……気にしないで、ただの独り言よ」
お飾り?足手纏いじゃなければ御の字?自分の認識の甘さに吐き気がする。国連なんて組織がいかに頼りにならないかは、何よりも日本政府が“艦娘三原則”の一件で散々に思い知っている。
少し考えれば解ることだったのだ。中でも特にその事をイヤというほど味わったあのブサメン首相と自衛隊首脳部が、端っからそんなものを引っ張り出してきて寄越すはずがないと。
この部隊は、正真正銘の“切り札”なのだろう。それも、本来盤に存在してはいけない三枚目のジョーカー。
「………大隈二曹。彼女達にはあまり気を許さないようになさい。手練れ揃いだけど、それだけに寝首を?かれるか解らないわ」
ノハメ;゚听)「えっ?いや、彼女達味方でしょ?」
「味方だからこそ、よ」
強力な戦力として、戦況打開の切り札として「信用」には値する。
だが、幾ら自分たちを救ってくれたとはいえ手放しで彼女達を「信頼」する気になれるほど、私は純真無垢な小娘ではない。
590 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/14(火) 23:51:08.04 ID:7P9UOiPr0
「────了解。現地部隊と共に戦力の再編、防御拠点の応急修復・強化に入る」
恩知らずとしか言い様がない私の思考など露知らず、一人の女性がどこかとの通信を終えて私達の方を振り向いた。カツン、カツンと、規則正しくアスファルトを踏みしめる靴音が真っ直ぐ此方へ近づいてくる。
ノハメ;゚听)「おおぅ……」
私たちの目の前で立ち止まった彼女の姿に、大隈二曹が少し気圧された様子で声を漏らした。
まぁ無理もない。170を少し越えているであろう長身に、少し筋肉質で広い肩幅、切れ長でよく研磨された刀の切っ先のように鋭い眼光、そんな女性がピンッと背筋を伸ばして直立不動になれば、威圧感を感じるなという方が難しい。
きっちりとサイドテールに纏められた長く美しい黒髪と、まるでおろし立ての新品のように皺一つ無い紫を基調とした艤装服も尚更その雰囲気を助長する。
私だって、同性からこれ程のプレッシャーを感じたのは10年以上前────初めて、西住しほに相対したとき以来だ。
ただ、彼女が背負う自身の身長ほどもある大太刀と、先ほどまで彼女が立っていた位置に転がる両断されたハ級の残骸が奇妙な違和感を生じさせていたけれど。
「貴官が、ここの拠点の指揮官か?」
「えぇ、現状はそうです」
外観同様の、凜とした響きの声。何の勝負かと問われても困るけど、なんとなく負けたくなくて私も心持ち声を張る。
「陸上自衛隊所属、蝶野亜美一等陸尉。搭乗車両は破壊されましたが、一○式戦車1号車車長。
………また、現在は原隊に復帰しておりますが大洗女子学園戦車道教官でもありました」
591 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2018/08/15(水) 00:23:43.61 ID:EJBxc0AV0
ノハメ;゚听)「あ、自分は陸上自衛隊二等陸曹、大隈瞳です!蝶野一等陸尉の車両にて砲手も担当しました!
………一尉、最後の部分付け加える意味ありました?」
私のすぐ後に自己紹介を続けた大隈二曹がヒソヒソ声で尋ねてきたが、小さく肩だけ竦めて返事に変える。
意味なんて無い。最後の紹介は、単に私の意地というか、拘りみたいなものの現れだ。
「大洗女子学園…………そうか、学園艦の、か」
目の前の女性は、私の言葉に振り返り、沖合で相変わらず黒煙を吹き上げる巨大な艦影を一瞥する。
何故か一瞬彼女が複雑そうな表情を浮かべたように思えたが、それが何故かは解らない。そして再び此方に向き直ったときには、元の凜とした顔つきに戻っていた。
「私たちの提督も間もなく合流する。敵の再侵攻まで恐らく時間も無いだろうし、速やかな戦力編成と作戦の摺り合わせを具申したい」
「えぇ、それは私達としても希望するところです。指揮系統の整理も必要ですし、何より時間が少ないという点は同感ですから」
「話が早くて助かります。我々も、統治の防衛戦力として粉骨砕身させていただく……あぁ、そういえば私自身の紹介が未だでした」
彼女はそう言って、勢いよく両足を揃え敬礼する。
完璧と言っても過言じゃない程美しい、【海軍式】の敬礼だった。
「妙高型重巡洋艦2番艦・那智。国連特別“海軍”所属。
コールサイン【Lycaon】の旗艦です。
よろしくお願いする、蝶野一等陸尉」
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