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佐久間まゆ「まゆもやるくぼですけど!!」
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1 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:02:38.70 ID:yFDg0/wv0
──あなたにとって『アイドル』とは?
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1514455358
2 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:06:14.15 ID:yFDg0/wv0
いまから一年ほど前のこと。
『佐久間まゆ、読者モデルを電撃引退! アイドル事務所に所属!』
表紙を飾ることもあった売り出し中の読者モデル、佐久間まゆの突然の移籍。
どうしてやめるの? 佐久間頼むから辞めないでくれ! まゆもう一度考えなおしてみたら?
仲の良かったモデル仲間やマネージャーさん、クラスメイトにパパやママ。いろいろな人から質問攻めにあったり、モデルを続けるようなんども説得されたりもした。
応援してくれていたファンからの反発もすごかったみたいで、うちにも苦情の電話や手紙が送られてきて大変だったんですよーと、ちひろさんに言われたこともありましたっけ。いつも通りニコニコの笑顔で。あれってもしかして怒ってたんでしょうか。
ともかく。私、佐久間まゆのアイドルへの転身はいろいろなところで話題になっていたみたい。
モデルのお仕事が嫌になったわけじゃない。カメラマンさんが撮ってくれた写真にはまるで別人のように綺麗な自分が写っていていつもわくわくしてたし、応援してますって送られてきたファンレターはいまも大事に引き出しにしまっている。
3 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:09:22.63 ID:yFDg0/wv0
アイドルになってからは大変なことばかり。
モデルで培ったビジュアルやもともと得意だったボーカルのレッスンははじめからそれなりにこなすことはできたけれど、もともと運動が得意じゃない私にとって、ダンスだけは鬼門だった。そもそも動きのキレ以前に踊りきる体力が足りなくて、毎朝の走り込みをして体力をつけることでなんとかレッスンについていけている、というのがいまの現状。
純粋に憧れてアイドルになったみんなと、アイドルそのものには興味の薄かった私とではモチベーションもぜんぜん違っているわけで、お仕事やライブに対する熱意に置いていかれそうになって慌てたこともありましたっけ。
とにかく、この一年間はとっても大変できつくて。弱音を吐きたいほどつらいこともたくさんあった。
4 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:12:15.19 ID:yFDg0/wv0
でも。それでも後悔だけはしていない。
アイドルになって、この事務所に居ることができて、ほんとに良かったって心の底から思う。
だって、運命に出会ってしまったんですもの。
プロデューサーさん。
私の、運命の人を見つけてしまったんだから。
プロデューサーさんはとっても素敵な人。いつでも一生懸命にお仕事をがんばってくれている大きな背中。いつもは真面目なのに時々どうしようもないいたずらをしちゃう子供っぽいところもあるお茶目でかわいい性格。そしてにこりと笑ったときのドキドキしちゃうあの笑顔。
しかもお若いのに(もちろん私のほうが年下ですけど)とっても優秀。どれくらいすごいかっていうと一年もしないうちに私をCMにも出れる売れっ子アイドルに育ててくれたっていえばわかってもらえるでしょうか。
そんなことをあの人に言ってみると、
「それは俺がすごいんじゃなくて、元々まゆが有名だったからだよ」
なんて謙遜していましたけれど。プロデューサーさんはほんとうにすごい人で尊敬しちゃう。
5 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:14:25.35 ID:yFDg0/wv0
プロデューサーさんに出会ったあのときから。
この人と歩んでいきたい……ううん、一緒にならなくちゃいけないんだって思ったんだから。
プロデューサーさんがいてくれたからがんばってこれた。
プロデューサーさんが傍にいてくれる。プロデューサーさんが私のことを見てくれている。
私にとって、それがいちばんの幸せだったから。
アイドルとして過ごしたこの一年間は、ほんとうに夢のような世界だった。
「まゆちゃん、落ち着いて聞いてください」
だから聞き間違いだと思った。そうであって欲しかった。
「今、連絡があって」
だって、幸せだったから。
6 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:15:22.58 ID:yFDg0/wv0
「プロデューサーさんが……病院に搬送されました」
いつまでもこの日々は続いていくんだって。そう信じていたかったんだから。
7 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:19:08.32 ID:yFDg0/wv0
🎀
それはどこにでもあるような一通の手紙だった。
アイドルとして佐久間まゆが売れ出しはじめたころ、事務所に送られてきたそれはプロデューサーさんの机の上にぽつんと置かれていた。
ファンからの贈り物は危険なものではないかチェックがされてから、ようやく私たちの手元にやってくる。俺が許可するまで勝手に中を開けるなよと散々注意されてきたし、これまでずっと守ってきた。あの人に嫌われたくありませんでしたから。
なのになぜでしょう。なぜかあのときはその手紙がどうしても気になって、プロデューサーさんが席を立ったすきにこっそりと手にとってしまった。
興味本位でプロデューサーさんとの約束を破ってしまった。だからきっとこれは神様からの罰なんだと思う。手紙を開くとでかでかと書かれた文字が視界に飛び込んできた。
『裏切者』
どうしてモデルをやめてアイドルになんかなったんだ! ふざけるな! いままで君を追いかけてきた俺の気持ちを考えてみろ!
一方的な罵倒の言葉が綴られていた。
手が震えてくしゃりと音が鳴った。そういえば、モデル辞めたことに怒っている人たちが掲示板にいろいろ書き込んでるみたいだけど大丈夫? と頼んでもないのに教えてくれた親切な人がいましたっけ。なんてことをいまさら思い出す。
8 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:23:23.05 ID:yFDg0/wv0
裏切者。
その言葉が頭のなかで繰り返される。
たぶん端から見ればなんて理不尽なんだってきっと思う。こんなの気にしちゃだめですって言ったかもしれない。
だけどこのとき、私は否定する言葉を見つけられなかった。
プロデューサーさんのためだけにモデルを辞めた。そのためにいろいろな人たちに迷惑をかけた。
それは間違いないたしかな事実で、裏切りと言われても仕方ないことだと思ってしまったから。
モデルの私を応援してくれていたファン。同僚だったモデルのみんなにマネージャーさんたち。
もしかしたらいまも、自分勝手だった私のことを恨んでいるんでしょうか。
9 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:26:39.36 ID:yFDg0/wv0
そんなことを思い出したのは、病室の机の上に置かれてある手紙を見たからかもしれない。
見舞いに来た人たちが置いていった手紙。中には見知った名前もあった。
もちろん中身は見ていない。それでもプロデューサーさんへの想いがそれぞれ綴られているだろうということだけは手に取るようにわかった。
ちょっとだけ嫉妬しちゃうけれど、みんなに愛され慕われている、この人がとても誇らしい。
……誰にも渡しませんけどね。
「ですよね、プロデューサーさん」
「………」
営業に向かう途中、階段から転げ落ちて意識不明の重体。
ちひろさんからそう伝えられたときは私も一緒に倒れるかと思った。幸い峠を越えて命に別状はなくなったものの、プロデューサーさんはいまだに目を覚まさない。
プロデューサーさんのあの優しい笑顔が見れなくなってから、もう三日が経つ。
10 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:31:52.59 ID:yFDg0/wv0
「……いろいろお疲れでしたもんね。ゆっくりお休みになってください」
脳に異常はないそうです。だからすぐに目を覚ましますよ。
慰めるようにちひろさんはそう言ってくれたけれど。
このまま目を覚まさないんじゃないか。もうあの笑顔を見れないんじゃないか。なんて嫌なことばかり考えてしまう。
そんなのいや。絶対にいやです。
左手首につけた赤いリボンを握りしめる。
あなたがくれたこのリボンに誓ったの。
運命の赤い糸で結ばれますように。これから先もずっとあなたの側にいられますようにって。
ねぇ、プロデューサーさん。お仕事はまゆがなんでもやります。あなたはなにもしなくていいです。
あなたのためならどんなにつらいことでもがんばりますから。
だから早く目を覚まして。がんばったら頭を撫でていっぱいほめて。いつものように楽しそうな笑顔を見せて。
「まゆ」ってあの優しい声で、また私の名前を呼んでください。
時計を見ると五時をまわろうとしている。もうすぐレッスンの時間。遅れるとトレーナーさんに怒られてしまう。
「今日はこれで失礼します。また明日も来ますね」
ぎゅっとプロデューサーさんの手を握ってから、病室を後にした。
11 :
◆GO.FUkF2N6
[saga]:2017/12/28(木) 19:37:28.51 ID:yFDg0/wv0
🎀
あの日から、私はとんでもなく忙しい日々を送っている。
だって、いままでプロデューサーさんがしてくれていたお仕事を、自分でやっていかないといけなくなったんですから。
営業のように私に出来ないお仕事はちひろさんや他のプロデューサーのみなさんが手を貸してくれている。
でも当然彼らにも自分たちの仕事があるわけで、私に負担の比重が重くなることは避けられなかった。
少しだけお仕事の量を減らしましょうか、というちひろさんの提案を断った。
そんなことをするとあの人が悲しむから。
みなさんの迷惑にならない限り、自分でできることは自分でやっていきたい。
そして帰ってきたプロデューサーがびっくりするくらいに輝いていていたいんです、って。
だけど、言うは易く行うは難し。いままで簡単そうに見えていたことがやってみるととても難しい。
特に大変だったのはスケジュール管理。
いままでは時間に余裕を持って臨むことができていたものの、それは車という交通手段があったからで、電車や自転車で行こうとするとぎりぎりになることが多かった。相手先との打ち合わせもダブルブッキングにならないかとか神経を使ってばかり。
そしてなによりアイドルである以前に学生。当然学校もある。
体も心もへとへとになる慌ただしい生活。それが一週間ほど続いたときのことだった。
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