【ミリマス群像劇】最上静香「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆17z5a1JMEs [sage saga]:2017/12/24(日) 02:53:23.18 ID:tCiOWLnR0
1 〜クリスマスから10日前〜

『皆さんは過去を見る方法を知っていますか?』

『それは映像資料のように現存するものに限られない、好きな時代の過去を見る方法なのです。』



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1514051602
2 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:54:12.76 ID:tCiOWLnR0
 誰にも見せずに大切に保管していた親の形見を、今度は自分の子に託すように、慈愛にあふれた声はデスクの上に置かれたノートパソコンから聞こえる。
Webラジオ「ラジオで765」
 夜8時から夜9時までの1時間。765プロダクションに所属するアイドルがそれぞれプログラムを考え、自分でプログラムのパーソナリティを務めることがこの番組の特徴だ。
今宵のパーソナリティは四条貴音。
「トップシークレットです」が口癖で、私生活が謎に包まれている彼女のラジオを聞けば、少しでもその謎が解けるかもしれない。そう思いラジオに耳を傾けているのは何も貴音のファンだけではない。同じ事務所に所属する彼女の後輩である春日未来、最上静香、伊吹翼の3人も仕事終わりに事務所に集まって、どんな秘密が飛び出すのかパソコンを前に期待に胸を膨らませていた。
3 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:54:53.39 ID:tCiOWLnR0
貴音『CMの後で世界の秘密を公開いたします』


『人気急上昇中!秋月律子のお悩み相談室!ラジオで765の枠を超え、まるまる1時間拡大放送決定――』


答えを焦らすかのようにお約束のCMが入る。

4 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:55:40.43 ID:tCiOWLnR0
翼「……貴音さんの私生活の秘密が聞けると思ってたら、まさか世界の秘密が飛び出すとは思わなかったね」

翼は貴音の秘密が聞けずに残念と口をとがらせつつも、その答えに興味を惹かれていた。

未来「だね。でも過去を見る方法ってなんだろ?タイムマシンかな?タイムマシンだよね!車型の!」

バックトゥザフューチャー!春日未来だけに!と未来は以前見た名作映画を思い出しながら興奮気味に声を弾ませる

翼「タイムマシンって、ふふっ、未来は子供だね〜」

まったくやれやれ、しょうがない子だな。いくつになってもまだ子供か、と翼は過去に親戚のおじさんに呆れられた情景を真似るように首を振る。

5 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:56:21.61 ID:tCiOWLnR0
未来「む〜。じゃあじゃあ、翼はなんだと思うの?」

翼「私はもっと現実的な手段が思いついたかな?」

未来「現実的?」

翼「うん。しかもとっても簡単だよ!」

未来「簡単?」

翼「なんと用意するものは勢いよく突っ込んでくる車だけ!」

未来「車?それって、バックトゥザフューチャーじゃ……」

違う違う、わかってないなと翼はかぶりをふって否定する

翼「勢いよく突っ込んでくる車。その車の正面に勢いよく飛び出すとあら不思議、自分の過去が頭の中を勢いよく駆け巡るのです!」

翼が荒唐無稽なことをくちにする。

未来「……はぁ〜やれやれだよ」

翼の自信満々の回答に対して、やれやれ困った子だ。まったく親はどこにいるんだ?と見知らぬ大人に呆れた過去を再現するように未来は、わざとらしく息を吐きだす。

翼「む〜、私の案のほうが未来のより現実的でしょ〜!」
6 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:57:00.83 ID:tCiOWLnR0
未来「翼。大事なのは想像力だよ。貴音さんがラジオで、『では、みなさんこれから車に突っ込んでください』なんて言うと思う?」

貴音の口ぶりを真似るように未来は誤りを指摘する。

翼「ふふっ、未来全然似てないよ〜。いや、『未来、全然似てはおりませんよ』」

翼も未来に対抗するように貴音の物まねをする。

未来「翼も似てないって〜。ねえ、静香ちゃんはどっちが似てると思う?」

静香に目を遣ると、彼女は思案しながら俯き気味に「過去を見る方法……」と呟いていた。静香の目線の先にあるリノリウムの床には、傷や汚れがにじんでいる。

7 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:57:39.30 ID:tCiOWLnR0
未来「静香ちゃん、聞いてる?いや、『聞いておりますか、静香?』」

静香「え!?ああ、どうしたの未来?誰かの真似?」

未来「も〜静香ちゃん、上の空だよ。どうしたの?」

静香「なんでもないわ、貴音さんの話が気になっちゃって。過去が見れるなんてすごいわよね」

静香ちゃんにしてはとってつけたような感想だ。
未来は何か引っ掛かりを覚えながらも、その思考は――

翼「あ、そろそろラジオが再開するよ?」

翼のひと声で頭の奥へと追いやられる。

8 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:58:08.36 ID:tCiOWLnR0
貴音『皆様、お待たせいたしました。過去を見る方法。お気づきになりましたでしょうか?』

貴音の問いかけに翼は「車に突っ込むのです」とまたもや真似をして応じる。

未来「だから、違うって……」

静香「ほら、2人とも、種明かしがはじまるわよ」

静香の制止を受け未来と翼はパソコンから聞こえる声にぐっと集中する。

貴音『その答えは』

未来・翼「「その答えは?」」

貴音『空にあります』

未来・翼「「え?空??」」

2人は予想から大きく離れた答えに、素っ頓狂な声を上げる。
9 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:58:38.32 ID:tCiOWLnR0
貴音『ラジオを聴いている皆様、そこから星が見えますか?』

未来「翼、がっかりだね。貴音さん、これからおとぎ話を始めるつもりだよ。絶対」

翼「そうだね〜。空はないよ。空は。現実的じゃないよ」

未来「うん。現実的じゃないよ現実的じゃ」

未来と翼は完全に興味を失っていた。

静香「まあまあ、まだおとぎ話と決めつけるのは早いわ。取り敢えず屋上に行ってみましょう。ね?」
せっかく3人で集まったのにこのまま解散するのは、勿体なく静香は感じていた。
未来と翼も同じように感じたのか――

未来「む〜、まあ静香ちゃんが言うなら」

翼「星とかロマンチックだしね〜」

仕方ないなと3人はコンクリート打ちの階段を昇って行った。
屋上への扉を開くと、満天の星空が広がっている――
10 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:59:18.29 ID:tCiOWLnR0
なんてことはない。

未来「星、少ししか見えないね〜」

翼「全然ロマンチックじゃな〜い」

静香「……そうね、周りのビルの灯りで見えないわね。」

東京の街の夜景は綺麗だけど、それは皆が残業してるおかげなんだ。という栄養ドリンクのCMを静香は思い出していた。

貴音『場所によっては星が見辛いかもしれません。』

静香が抱えているパソコンから、貴音の声が聞こえる

貴音『ここでは大抵の場所で見える星、つまり南の空に一番強く輝くシリウスを例にとって過去を見る方法を考えてみたいと思います。』

未来「シリウス?南?」

翼「瞳の中のシリウス?」

静香「違うわ、あれよあれ」

混乱している二人に静香は南の空に青白く輝くシリウスを指し示す

未来「ああ、見つけた!」

翼「どこっ!?ねえどこ!?静香ちゃん!」

静香「取り合えず、翼は一番輝く星を探しなさい?」

星の位置を示すのは難しい。

11 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 02:59:46.47 ID:tCiOWLnR0
貴音『地球からシリウスまでの距離は8.611光年と言われています。光年とは1年に光が進むことのできる距離です。そしてシリウスは自ら光を発する恒星です。では皆様が今見ているシリウスはいつのものでしょうか?』

未来「数学だよ翼、数学が来ちゃったよ!」

翼「おとぎ話のほうがまだマシだよね、未来!」

先ほどまであれほど現実的を追い求めていた2人は、揃って数学に対する悪態を垂れる

静香「……あなたたち、数学に親でも殺されたの?」

2人を置いておいて、静香は貴音の声に集中する

貴音『そうです皆様が見ているシリウスは、8.611年前のものになります。』

未来・翼「「へ〜数学ってすご〜い!!」」

違う、これは数学じゃなくてただの国語だ、小学生レベルの。と静香は言いかけたが、やめた。

静香「確かに過去のシリウスを見てはいるけど……」

自分たちの過去は見えない。
12 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 03:00:13.15 ID:tCiOWLnR0

貴音『安心してください。これで終わりではありません。私達の過去を見るにはどうすればよいか?それは逆の発想をすることが大切なのです。相手の立場に立って物事を考えなさい。そうしつけられて育てられた方は多いと思います。いまがその訓練の成果を試す時です』

翼「相手の立場?それってここでいうと……」

貴音『シリウスです。地球から見るシリウスは8.611年前のものになります。ではシリウスから見る地球はいつのものでしょう?もうお分かりですね?シリウスから見る地球も今から約8年前のものになるのです。』

静香はなるほど、と思った。今まで星をそのような観点で見たことがなかったから素直に感心した。

未来「へ〜面白いね、静香ちゃん、翼!」

翼「そうだね。なんかロマンチックかも!」

貴音『実際に地球からシリウスに行くには、宇宙工学や量子力学等の分野の何倍もの更なる発展が必要ですから、あまり現実的ではないのかもしれません。本当に過去を見る方法を期待されていた方がいらっしゃいましたら申し訳ございません』

未来「いえ、謝る必要なんてないです!」

翼「現実的かどうかなんて無粋ですよ!貴音さん!」

静香「無粋1号、2号が何を言ってるのよ……」

調子がいいのだ。この2人は

13 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 03:00:50.53 ID:tCiOWLnR0
貴音『ですが、私が皆様に知っていただきたいのは、いつも見ている星も予備知識を持って見ると“楽しい”ということです。星は綺麗なだけでなく、楽しめるものなのです。例えば――』

予備知識があると星は綺麗なだけでなく、楽しめるものになる、か。
考えたこともなかった。確かに静香は今シリウスを見て、以前よりも楽しいと感じている。
でも恐らく予備知識がついたから、ただそれだけじゃない。

未来「でへへ〜静香ちゃ〜ん!望遠鏡見つけてきたよ!」

望遠鏡を抱えた未来はとことこ、とこちらに駆け寄る

静香「え!?未来それどうしたの!?」

未来「??事務所に置いてあった、けど?」

静香「どこにあったか、じゃなくて、それ貴音さんのじゃないの!?勝手に使っちゃだめよ」

未来「大丈夫だって、静香ちゃんは心配性だな〜」

静香「第一、未来は機材の調節ができるの?」

未来「できるよ〜。ここをこうやってと」

ふむふむと頷きながらつまみを未来はいじくる

14 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 03:01:27.83 ID:tCiOWLnR0
翼「すごいよ、未来!意外な特技!じゃあさ、私あのシリウスの近くにある赤い星『ベテルギウス』を見たいで〜す!」

スマホの画面を見ながら翼はリクエストをする

静香「ベテルギウス?」

翼「うん。冬の大三角の一つで、625光年離れているんだって!それでそれで、星の色が赤いのはもう寿命が限界寸前の証拠なんだって」

静香「そうなの?でも今見てるのが、625年前のそのベテルギウスってことは……」

翼「もうとっくの昔に消えて、明日には見えなくなっているかもしれないし、今爆発して見えなくなるのが625年後かもしれないらしいよ。今見逃す手はないって!」

未来「よし!準備できたよ!」

翼「ナイス未来!」

翼は期待しながら接眼レンズを覗く。
一方未来は自分の顔にスマホの光を当てながら、翼のが覗く筒の反対側の対物レンズを覗く。

翼「うわあ!目!未来の目だあ!」

未来「でへへ、よく見える?」

翼が尻もちをつく。
未来は大爆笑をしている

静香「ふふっ、何やってるのよ未来」

翼「も〜!未来〜!!」
翼は全速力で未来にとびかかる
未来「ごめん翼〜!」

未来も捕まるものかと逃げに走る。
15 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 03:01:59.99 ID:tCiOWLnR0

静香「予備知識をもって星を見るのは実は楽しい、か。確かに楽しい。でもそれだけじゃなくて、この3人で見てるから、きっと楽しいのかもしれない。でもそれがかえって――」

私の胸を締め付けるのかもしれない。この時間は先へと進んでいずれ無くなってしまうものだから。
もう季節は冬だ。私がこの2人とアイドルをしていられる時間はあとどれくらいだろう。
過去を見る方法があると聞いた時、私には半分そんなものがあるはずないという気持ちと、もしあるなら今をずっと見ていたいという気持ちがあった。
静香は今朝の出来事を思い出す。朝食の食卓で父に次の公演のチケットを渡そうとした時のことだ

『静香、私はアイドルが好きではない。だからそのチケットは受け取らない』

ただそれだけで議論の余地はないと交渉はシャットアウトされた。
今回が初めてのことではない。繰り返し挑み、繰り返し失敗している。けどまた私は挑むのだろう。
16 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 03:02:38.39 ID:tCiOWLnR0
静香は空を見上げる。

東京の空にあるのは、シリウス、ベテルギウス、プロキオンの冬の大三角だ
もしベテルギウスが消えたら、冬の大三角はどうなるのだろうか。

星座とは空にある星を勝手に線で結び付けて、逸話と名前を与えただけのものだ。
そう考えると、ベテルギウスが消えても、次の大三角が生まれるのかもしれない

じゃあ、私がいなくなったら――

いや、まだそうと決まったわけじゃない。何を後ろ向きになっているんだと、静香はマイナス思考をかぶりをふって払しょくする
気を紛らわそうと静香は望遠鏡の接眼レンズに目を近づける。ベテルギウスを見ようと思ったからだ。だが――

静香「全然ピントが合ってないじゃない。未来」

望遠鏡の先はぼやけて何も見えなかった。
でへへ〜適当に合わせたんだ〜と笑う未来の顔が頭に浮かんだ
17 : ◆17z5a1JMEs [saga]:2017/12/24(日) 03:03:19.62 ID:tCiOWLnR0
2 〜クリスマスから1週間前〜



ロックンロールはどこにある?
164.33 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)