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【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】
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636 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:10:55.28 ID:sW82/1G70
『なりたい……私も……松永先生のような、立派な先生に……郷田先生のような、強い先生に……。私は……弱いから……』
「っ……」
『誉田先生に、相応しい、男になりたい……』
グリフにとって、その大人が見せる弱気な姿は、とても珍しいもので、衝撃的だった。大人とは皆強くて、心にしっかりとした志を持っていて、子どもである自分たちには及びもつかないような、すごい生き方をしているのだろうと思っていたからだ。
大人はきっと、自分たちとは違う。完成された存在なのだと、心のどこかで思っていたからだ。
「……そっか。先生も、そういう弱いところがあるんだね」
だからグリフは、胸に手を当てて、その既存の考えを上書きする。
「そうだよね。私だって、あと何年かしたら大人になるんだもん。そのときに、何もかも完ぺきで、自分に満足することなんて、きっとできないよね。先生たちだって、悩んで、考えて、苦しんで、生きているんだよね」
頭のいいユニコやドラゴは、きっとそんなこと百も承知だったのだろう。だから、ウバイトーレと対話するように、自分の気持ちを技に乗せて打つことができたのだ。
「……わたし、子どもだから、先生が何に悩んでるかわからないけど、皆井先生にもいいところ、たくさんあると思いますよ」
だから、グリフも、ウバイトーレに、皆井先生に、語りかけるように言葉をつむいだ。
「さっきドラゴも言ってたけど、皆井先生の時々空回りしちゃうところとか、すごく親近感が湧くし、口下手なところも、めぐみみたいでかわいいと思うし……」
ジロッ、と。ユニコの鋭い視線が飛ぶ。視線で謝りながら、グリフは続けた。
「……誰かに憧れて、近づきたいっていうのは、きっと素晴らしいことだと思います。でも、皆井先生は他の誰にもなれないですよ。なっちゃいけないんです。だってわたし、皆井先生がいなくなったら、寂しいです」
炎に巻かれて苦しんでいたウバイトーレの動きが止まった。グリフの言葉が、皆井先生の欲望に支配された心に、届いたのだ。
「だから、戻ってきてください。ううん。わたしが連れ戻します。このキュアグリフが、先生の心を解放してみせます」
グリフは薄紅色の光を纏う。
「勇気の光よ、この手に集え! カルテナ・グリフィン!」
その光が集約される右手に現れるのは伝説の剣、グリフィンを模したカルテナ・グリフィンだ。
「翼持つ勇猛なる獅子、グリフィンよ! プリキュアに力を!」
薄紅色の光が翼のように広がり、駆けだしたグリフに追随する。光を付き従えた伝説の戦士は、本物のグリフィンの如く、駆ける。まっすぐ、欲望に落ちた怪物へと。
「プリキュア・グリフィンスラッシュ!」
ウバイトーレと交錯する刹那、神速の斬撃が放たれた様を視認できたものはいない。交錯の直後、血を払うかのように、グリフが剣を振る。
『ウバッ……ウバアアアアアアアアアアアアアアア!!』
その瞬間、ウバイトーレは両断され、今度こそ宙に溶けて消えた。黒々とした欲望は、少しだけ皆井先生の元に向かい、その胸元にとけ込んだ。皆井先生は牢獄から解放され、その場に倒れた。
637 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:11:22.82 ID:sW82/1G70
「……っ」
ふらりと、身体中の力が抜ける気がして、グリフは膝をついた。周囲を見渡せば、ユニコとドラゴもまた、ひざまずいて、肩で息をしていた。全員が全力で必殺技を放ち、ようやくウバイトーレ一体を浄化することができたのだ。
もしも、この場にもう一体ウバイトーレが現れたら。
いや、今、自分たちが弱っているこの瞬間に、アンリミテッドの幹部が現れたら――、
「――三人しかいない現状で、よくあのウバイトーレを退けられたものだ」
「ッ……!」
「デザイア!」
恐れていた事態が、最悪のカタチを伴ってやってきた。消えたと思われたデザイアが、はるか頭上、校舎の屋上からプリキュアたちを見下ろしていた。そして、その傍に控えるのは、ゴーダーツ、ダッシュー、ゴドーの三幹部だ。
いま、この消耗しきった状態で、デザイアを含めたアンリミテッドの幹部と戦う余裕はない。疲れ果てた身体は、立ち上がることはおろか、カルテナを握ることすら難しいほどに消耗している。
「ふっ……。なんともまぁ、絶望に暮れるような顔をしているな。安心しろ。いま、我々は貴様らと戦う気はない」
デザイアが言う。その言葉に反応したのは、ダッシューだ。
「なぜです? いまこの場でプリキュアを倒してしまえば、すべて終わることでしょう?」
「ダッシュー!」
ゴーダーツのたしなめるような声が飛ぶ。しかし、ダッシューは構わず続けた。
「デザイア様の生み出したウバイトーレが弱らせたのでしょう? なら、今ここでデザイア様があの三人と妖精から紋章とブレスを奪い取れば、それで済む話ではありませんか」
「……なるほど。貴様の言い分ももっともだ」
デザイアが納得するように言う。
「しかし、“私はそうしたいとは思わない”。それだけだ」
「なっ……」
デザイアの言葉は、どこまでも淡泊だった。滅多なことでは感情を見せないダッシューが顔を歪め、腰につけたはさみに手を伸ばした。
「……やめておけ。我々で敵うお方ではないとわかっているはずだ」
「っ……」
その手をゴーダーツに掴まれて、ダッシューは平静さを取り戻したようだった。ゴーダーツの手を振り払い、そっぽを向いた。
638 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:11:50.24 ID:sW82/1G70
「……と、いうことだ。しかし安心するなよ、プリキュア諸君」
デザイアははるか頭上からプリキュアたちに言う。
「三幹部もウバイトーレの生み出し方を知った。今後は、ウバイトーレとの戦いが続くと思うのだな」
デザイアは仮面の奥で笑う。
「三人のまま戦い続ければ、いずれ貴様らは消耗して敗北する。三人のままでは、ウバイトーレには絶対に対抗しきれぬよ」
「っ……」
プリキュアたちは、その言葉に何も返すことができなかった。現状、プリキュアは誰一人、立ち上がることすらできないのだから。
「せいぜい、ウバイトーレとなるに足るだけの欲望を持つ者が現れぬことを祈るのだな」
デザイアはそう言い残すと、マントを翻し、宙に消えた。それに追随するように、ゴーダーツとゴドーも消える。そして、残されたダッシューがプリキュアを見下ろした。
「……命拾いしたね、プリキュア。しかし、これまでと同じだと思わない方がいい」
顔は普段通り、貼り付けたような不自然な笑みだ。けれど、声は今までにないくらいに冷たい。
「君たちがロイヤリティに与する限り、ぼくらアンリミテッドは君たちを絶対に許さない」
そう言い残すと、ダッシューもまた宙に溶けて消えた。
「……皆井先生を取り戻すことはできたけど、」
「課題ばかりが残る戦いだったわね」
「愛のプリキュア……。一体どこにいるんだろう……」
辛勝を得たプリキュアたちだが、その心は、不安に占拠されていた。
639 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:12:16.49 ID:sW82/1G70
…………………………
「よかった……」
彼女は、誰にも聞こえない声で、そう呟いた。
「皆井先生が無事で、よかった……」
640 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:12:43.95 ID:sW82/1G70
…………………………
朝の職員室は戦場だ。生徒の欠席連絡や教員からの服務事項の連絡で、電話線がパンクする勢いだ。そしてそんな朝の電話を取るのは、若手教諭の仕事だ。このダイアナ学園に若輩の教諭に電話番をやらせるような文化はないが、若手たちは年配の先生方に電話を取らせる気まずさを厭って、自ら率先して電話に手を伸ばす。
「……はぁ。今日電話取るの何件目だよ。つか、今日誰かいないな?」
いつもより電話を取る回数が多くて、勤務時間前の雑務が終わらない。松永先生は通話を終えて受話器を置くと、周囲を見回す。郷田先生、誉田先生は受話器相手に何事か会話をしている。その近くにいるはずの、皆井先生が見当たらない。と、
「……おはようございます、松永先生」
「ああ、皆井先生、おはようございます……って、どうしたんですか? すごい隈ですね」
「ああ……。昨日、全然寝られなくてね……」
「また悩み事ですか?」
皆井先生は自席に着くと、首を振った。
「いや、夢を見ていた……。嫌な夢だったな。自分が怪物になり、女の子たちに腹に穴を空けられ、燃やされ、両断された」
「……すげえ夢っすね」
「元は昨日の昼に見た白昼夢なのだけどね。夜にまったく同じ夢を見たんだ……」
そう言う皆井先生は、今にも倒れそうな様子で雑務を始めた。と、電話のベルが鳴る。慌てて受話器を取ろうとすると、皆井先生が先に受話器を取った。
「……遅れてきたのだから、少しくらいやらせてください」
受話器をふさいで、皆井先生は小声でそう言った。そのまま、耳に当てた。
「おはようございます。ダイアナ学園です」
そんな皆井先生を見て、松永先生は決して本人に聞こえないように、小さく呟いた。
「……そういうところがあるから、すごいと思うんだよな。この人」
直接言ったらすぐ調子に乗るから、絶対に本人には言わないけれど、それはまぎれもなく松永先生の本心だ。
何か落ち込むようなことがあっても、夢見が悪くて眠れていなくても、それでも自分にできることを一生懸命やろうとする。
そんなところが、松永先生が見習いたいと思う、皆井先生のいいところなのだ。
641 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:13:10.48 ID:sW82/1G70
…………………………
朝の学年の打ち合わせが終わり、皆井先生はHRに向かっていた。
昨日は本当にほぼ一睡もできていないのだ。
その上、昨日のショックがまだ残っている。
松永先生と誉田先生がどういう関係なのか、問いただす勇気もなくて、聞けてはいない。
たとえ、「ただの幼なじみ」という返答が返ってきたって、きっとふたりの気持ちはそれだけではないだろう。
ならば、皆井先生に割り込む余地などないのだ。
「……それでも、好きでいさせてもらうくらいは、いいだろうか」
呟いてから、いつの間にか2年B組の前まで来ていることに気がついた。皆井先生は両手でぱしんと頬を叩く。昨日の反省を生かさねばならない。生徒の前で、気落ちした姿を見せるのは、教員としてあるまじき姿だ。
「私のことなど生徒にとってはどうでもいいことだ」
そう。生徒にとって、教員は信頼できる大人でなければならない。それは、少なくとも、皆井先生にとっては、絶対のことだ。
生徒を不安がらせたり、ましてや生徒に心配されるようなことはあってはならない。だから、皆井先生はできるだけ普段通りの笑みを浮かべて、努めて明るく教室の戸を開けた。
「みんな、おはよう!」
『おはようございます!』
「うおっ……」
驚いた。普段ならば、始業のチャイムが鳴る前に生徒たちが着席していることなどない。なぜなら、皆井先生自身が、朝のHRに担任が来て、始業のチャイムが鳴ったら着席をしなさい、と指導しているからだ。
しかしどうだろう。この日は、全員が揃ってピシリと、姿勢正しく席に着いているではないか。その上、普段なら空回り気味の皆井先生のあいさつに、全員がそろってあいさつを返してくれたのだ。
「ん、えっと……みんな、どうしたんだ……?」
困惑しつつも、皆井先生は教壇に立つ。出席簿を教卓において、改めてクラスを眺める。今日は空いている席がないから、遅刻や欠席の生徒はいないようだ。不思議なのは、全員が皆井先生をまっすぐ見つめていることだ。
(な、なんだろう……。ひょっとして昨日の私の態度に怒っているのだろうか……)
皆井先生の胃がキリキリと痛み始めた頃、教室の一角がにわかに活気づき始めた。
「……ほら、いってらっしゃい、リエさん」
「で、でも。やっぱりこういうのって、会長が行った方が……」
「いいんだよ。リエさんが“何かをしてあげたい”と言ってやったことなのだから、リエさんが渡すべきだ」
話しているのは生徒会長の騎馬はじめと、大きなリボンが可愛らしい佐藤リエさんだ。やがて、はじめに促されて、リエさんが立ち上がった。その手には四角い板のようなものがある。リエさんがおずおずと近づいてきて、その板のようなものが色紙だとわかった。
「……あ、あの、皆井先生」
「あ、ああ。なんだい?」
元々、リエさんはおとなしいタイプの生徒だったはずだ。皆井先生はそのおとなしい生徒の突然の行動に戸惑いながらも、しっかりとリエさんと向き合った。
「これ、みんなで書いたんです。色紙は会長が買ってきて、みんなでお金を出し合いました」
リエさんはそう言うと、色紙を皆井先生に差し出した。皆井先生は賞状を受け取るように、両手でその色紙を受け取った。
何が起きているのか分からなかった。
その色紙の上に踊る、多くのメッセージを見てもまだ、現実感が湧かなかった。
642 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:13:38.17 ID:sW82/1G70
「ど、どうして……?」
皆井先生は、そんなつまらないことしか言えない自分を全力で呪いたい気分だが、そうとしか言えなかったのだ。
「昨日、浩二先生が、落ち込んでらっしゃるように見えたので……」
「みんなで相談して、会長が色紙に寄せ書きを書こうって提案をしてくださったんです」
「私たち、浩二先生が心配で、だから……」
「私たちにできることはないから、できるだけ良い子でいます。先生の迷惑にならないように、しっかりします」
「その色紙をもらって、先生が嬉しいかも、わかりません、でも……」
生徒たちは口々に言う。その言葉のひとつひとつだけで、皆井先生は倒れてしまいそうなくらい衝撃を受けていた。
「私たち、浩二先生のために何かをしてあげたかったんです」
ああ、そうか、と。
気づけば、両目から、涙がこぼれ落ちていた。その涙が色紙に落ちそうになって、慌ててスーツの袖で拭う。けれど涙は次々あふれてきて、生徒たちの目の前で、皆井先生は床に大粒の涙を床に落としていた。
「浩二先生……」
「……ごめん。みんな、本当に、ごめんなさい」
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「……昨日は、落ち込むような姿を見せてしまって、ごめんなさい……。少し、プライベートで、嫌なことがあって、それで、みんなにも気落ちしている姿を見せてしまいました……。ごめんなさい」
「あ、謝らないでください! わたしたちは、先生に謝ってもらうために寄せ書きをしたわけではありません!」
リエさんの言葉にハッとする。
「……そう。そうだ。ごめんより、言うことが、あるね」
皆井先生は、それ以上生徒に情けない姿を見せたくなかった。だから、ポケットからハンカチを取り出し、徹底的に涙を拭うと、目を真っ赤にしたまま、深々と頭を下げた。
「みんな、本当にありがとう」
すぐ傍のリエさんが笑った。クラス全体が笑顔で包まれた。そして、皆井先生は顔を上げ、寄せ書きに目を落とした。皆、思い思いの言葉で、皆井先生を励ましてくれている。その中で、ひとつ、簡素だが綺麗な字で書かれた一文が目にとまった。
『あんたが元気ないとつまらないから、早く元気になんなさいよ 後藤鈴蘭』
その名前がそこにあることが信じられなくて、皆井先生は顔を上げ、後方の鈴蘭を見つめた。
「な、何よ……」
「……散々手を焼かせてくれた後藤まで書いてくれるとは……」
「なっ……! そ、そんなことでまた泣き出すんじゃないわよ!」
鈴蘭の声に、教室中がどっとわいた。皆井先生はひとりひとりの寄せ書きに目を通しながら、もう一度、心の中で、言った。
(……本当にありがとう)
もう、何に悩んでいたのか思い出せないくらい、心は充足で満たされていた。
643 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:14:05.19 ID:sW82/1G70
…………………………
同日、夕方のこと。
この日の王野家は、久々にお母さんが家にいる日だ。ひかるはお母さんの背中が見えるリビングで、夕飯ができるのを待っていた。
「お母さん、もうお皿出しておく?」
「そうね。じゃあ、大きなお皿を一枚と、お椀を四つ持ってきてくれる?」
「はーい」
次姉のともえはお母さんにべったりで、楽しそうにお手伝いをしている。長姉のゆうきにお手伝いを頼まれると嫌そうな顔をするくせに、お母さんには頼まれなくてもお手伝いをしているのだ。ひかるの前では大人ぶったりするけれど、次姉はかなり子どもだ。
(……まぁ、ぼくも人のことは言えないけど)
次姉のように思い切り甘えるのは恥ずかしいけれど、こうやってお母さんの背中を見ていたいと思うのだ。ひかるもまた、まだまだ子どもだ。
と、電話のベルが鳴る。お母さんが振り返る。お母さんは元より、ともえも皿を出している最中で手が離せない。ひかるは自発的にソファを立って、電話に向かい、受話器を取った。
「もしもし」
『お忙しいところ失礼致します。王野さんのお宅でよろしいでしょうか?』
その澄ました声には聞き覚えがあった。
「……はじめさん?」
『ああ、声から察しはついていたが、やはりひかるくんか。それにしても、最初の「もしもし」は随分と可愛らしい声だったのに、私だとわかった途端に随分と怖い声になったな。君の変わり様にはまったく感服だ』
「姉ならまだ学校から帰っていませんよ。帰ったら折り返し電話をさせますね。では、失礼します」
『ちょっと待ちたまえ。まだ何も言っていないだろう』
はじめの声は慌てた様子だ。何も言っていないも何も、のっけから失礼極まりないことを言っただろう。
『お姉さんに用事があるのではない。君に用があって電話をしたんだ』
「……ぼくに?」
『そう嫌そうな声を出さないでくれ』
はじめが言った。
『……昨日は本当にありがとう。助かったよ。また今度お礼をさせてくれ』
「……なんだ。そんなことですか。お礼なら結構です。また熱を出されて倒れられても嫌なので」
『君は少し相手をいたわることを覚えたらどうだ?』
いたわるも何も、はじめの声は昨日高熱を出した人と同一人物とは思えないほどに元気だ。
「それだけですか? では、失礼します」
『いや、私からはこれだけなのだが……』
電話口ではじめが口ごもる。何事だといぶかしむひかるの耳朶を、別の声が叩いた。
『……もしもし? お電話を代わりました。騎馬はじめの母です』
「え……」
一瞬思考が止まった。
644 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:14:58.38 ID:sW82/1G70
「……はじめさんの、お母さん?」
『はい。王野ひかるさんですね?』
「は、はい……」
ふと思い出されるのは、先日、はじめの母と別れる前に言ったことだ。
――――『その他の愛情は、ぼくや、ぼくの姉が、責任を持って与えます』
今さらなことではあるけれど。
いくらなんでも、恥ずかしい啖呵を切りすぎた気がする。
自然と頬が熱くなるが、相手がそれを意に介するわけもない。
『昨日のお礼を、わたくしの口からも言っておきたくて、お電話を差し上げました』
「はぁ……」
『昨日はありがとうございました。はじめには体調が悪いときは無理をしないように言っておきました』
「……そうですか」
『それから……』
電話口の声の調子が変わる。
『あの子に、愛を与えてくださるのですよね?』
「……はい?」
それは、素のはじめとそっくりの、挑戦的な声だ。
『そう言ってくださいましたよね? はじめに、愛を与えてくれると』
「……言いましたけれども」
口から出てしまった言葉は取り消すことができない。
645 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:15:27.85 ID:sW82/1G70
『では、今後とも、娘をよろしくお願いします』
「それはぼくの姉に言うべきでは?」
『お姉さんはお姉さん。あなたはあなたでしょう』
正論にぐうの音も出ない。ひかるは嘆息して、頷いた。
「わかりました。はじめさんが望むなら、そうしますよ」
『はい、よろしくお願いします』
まるではじめがひかると今後も関わり続けることを予見しているような口ぶりだ。ひかるはまだ小学生で、どうしてはじめのお母さんがそんなことを言うのかわからない。
『では、宿題などでお忙しい時間帯にお時間をいただいてありがとうございました』
「宿題なんて帰ってすぐ終わらせましたよ」
『ふふ、そうですか。では、失礼致します』
「……はい。失礼します」
受話器を置いて、ひかるは思う。
はじめの気持ちも、はじめのお母さんの意志も分からない。
分からないけれど、分からないなりに、なんとなく、思う。
今度、はじめはどこに連れて行ってくれるのだろうか、なんて。
そんなことを考えてしまうあたり、自分もまた、はじめに会いたいなんて、考えているのだろうか、と。
646 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/06/24(日) 10:15:55.63 ID:sW82/1G70
次 回 予 告
めぐみ 「………………」
あきら 「……ねえ、ゆうき。なんでめぐみはあんなに不満そうな顔なの?」
ゆうき 「たぶん、自分の剣が相手に通用しきらなかったからじゃないかな」
あきら 「熱血だなぁ。少年漫画みたい」
めぐみ 「……剣の道は険しい。私はまだ未熟だわ」
ゆうき 「うん。本当にあの優等生がどこに向かっているのか知りたいね」
ゆうき 「ま、いいや。気を取り直して次回予告、いっちゃおう!」
あきら 「生徒会副会長、十条さんのために、生徒会が写生大会を企画することに!」
あきら 「けれどそんな十条さんに、アンリミテッドの魔の手が迫る!?」
ゆうき 「次回、ファーストプリキュア! 第二十話【芸術家みことの苦悩? みんなで写生大会!】」
ゆうき 「次回もお楽しみに!」
あきら 「また来週! ばいばーい!」
647 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2018/06/24(日) 10:16:35.47 ID:sW82/1G70
>>1
です。
お待たせしてしまってすみません。
また来週、よろしくお願いします。
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