【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】

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46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:03:06.39 ID:0m/dVbvg0

「ユニコ! 早く逃げて!」

「……大丈夫。なんとなく、やれる気がするの」

「えっ?」

 ユニコが身体を低く、構える。足下に力が入る。ザリッ、と。ユニコのブーツが大地を踏みしめる。そして、ユニコが跳んだ。まっすぐ、突っ込んでくるウバイトールへと。

「っはぁあああああああ!!」

 弾丸のように飛び出したユニコは、身体を一度ひねると、後ろ回し蹴りをウバイトールに放った。轟音が響きわたり、ウバイトールがきれいに放物線を描いて公園に落下する。

「ほらね?」

「す、すごい……――ッ!? ユニコ、後ろ!」

「……!?」

 華麗に着地したユニコの背後、迫る黒い影、ゴーダーツ。

「敵はウバイトールだけではないぞッ!」

「っ……! ブレイ、フレン、あなたたちは隠れてて!」

 大丈夫。やれる。

 自信なんてあるわけない。もとより鈍くさくて、ドジな自分だ。けれど、やれると信じなければ、やれないと思った。だからグリフも跳んだ。

「まずは一人目だ! 伝説の戦士!」

「っ……」

 着地したばかりのユニコは動けない。その後ろに迫るゴーダーツの魔手に、グリフが飛び込んだ。

「なに!?」

「あなたの相手も、ユニコひとりじゃない!」

「ぐっ……!?」

 誰かを殴ったことなんてない。一瞬のためらいの後、グリフはゴーダーツを突き飛ばした。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:04:14.64 ID:0m/dVbvg0

「ユニコ、大丈夫?」

「ええ。ありがとう、グリフ」 ユニコがふしぎそうな顔をする。「でもあなた、足の傷は……?」

「えっ? あ、消えてる!」

 痛みもまるでない。プリキュアに変身したことにより、傷が癒えたのだろうか。

「くっ、なんという力だ……これが、伝説の戦士プリキュアの力か」

 ゴーダーツがはるか後方で着地し、うめく。しかしダメージを負っているようには見えない。

「この事態をあの方に報告するのを優先すべきか……まぁいい。どうせ優しさの王女の居場所はいつでも分かる」

「!? 待ちなさい! 逃げるつもり!?」

「戦略的撤退だ。いずれ我らアンリミテッドの欲望を満たすための有意義な逃走と言ってもらおう」

 そう言うと、ゴーダーツは背を向け、

「それではまた会おう、勇気の王子、優しさの王女。そして、伝説の戦士プリキュアよ……!」

 色を失った世界に溶けるようにかき消えた。

「消えた……?」

「ともあれ、これで一安心――」


『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』


「――じゃない!」

「ボケてる場合じゃないわ。行くわよ、キュアグリフ」

「う、うん!」

 首謀者らしき敵は逃げたが、公園にはまだその首謀者が生み出したウバイトールがいる。グリフとユニコは頷き合い、公園へと突き進む。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:05:02.31 ID:0m/dVbvg0
『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 本来ならば電柱にあるはずのない邪悪な眼光がふたりを捉える。ウバイトールがプリキュアめがけて腕をふるう。

「くっ……」

 寸前のところで飛び上がり回避する。しかし直後、腕の先端から何かが伸びた。

「えっ!? で、電線!?」

「グリフ!」

 しまった、と思ったときにはもう遅かった。グリフは電線を足首に巻き付けられ、宙につり上げられてしまう。

「きゃああああああああああああああ!!」

 ウバイトールの邪悪な瞳が嗜虐的に歪む。はるか上方に振り上げられたグリフは、そのまま地面へと叩きつけられた。

「かはっ……」

 肺から空気が押し出される。一瞬の呼吸困難の後、ようやく空気を吸えたと思えばまた振り上げられる。

(だ、ダメ……)


「グリフ!」


 一陣の風が駆け抜けた。

「はぇ?」

 気づけば、グリフはユニコに抱えられ宙を舞っていた。風と間違えるくらいの速さで、ユニコはグリフのことをウバイトールから助けてくれたのだ。

「なに気の抜けた声を出してるのよ」

 ユニコはグリフをお姫様だっこしたまま、華麗に着地した。

「ごめん。ありがとう……」

「ううん。さ、行くわよ」

「うん!」

 助けられたままでは格好がつかない。ユニコの先導に乗るように、グリフも大地を蹴り飛ぶ。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「はぁあああああああああああ!!」

「とぉおおおおおおおおおおお!!」

 ユニコが上、グリフが下、それぞれ渾身の蹴りをウバイトールにたたき込む。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:05:56.14 ID:0m/dVbvg0

『ウバァアッ!』

 ふたりの蹴りに吹き飛ばされるウバイトールはしかし、耐えた。公園の砂地を削りながら、細い両足で踏ん張ったのだ。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「っ……しつこいわね。さて、どうしたものかしら」

 ふたりにジリジリと距離を詰めてくるウバイトール。グリフとユニコは目を合わせるが、何度殴っても蹴っても同じことの繰り返しのような気がした。

「このまま殴り続ければ倒せるのかしら」

「そもそもこいつって、一体なんなの?」

「グリフーーー! ユニコーーー!」

 甲高い大声。

「フレン……?」

「その怪物は、闇の欲望そのものニコ! 浄化しなきゃ倒せないニコ!」

「浄化? 浄化って、一体どうすればいいの?」

「それは……」

 口ごもるフレン。それを継ぐように、ブレイが口を開く

「昔、父上から聞いたことがあるグリ。欲望に支配された闇の力を解き放つのは、強い絆の力だって」

「絆……?」

「グリ。だから、わからないけど……グリフとユニコが力を合わせれば、きっと浄化できるはずグリ!」

「そんなことを言われても……」

「やれるよ。わたしたちなら、きっとできる」

 困った顔をするユニコに、グリフがそっと手を添えた。

「グリフ?」

「なんかわかんないけど、できる気がするんだ。ユニコと一緒なら!」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:06:33.89 ID:0m/dVbvg0

 ユニコはあきれ顔で。

「あなたねぇ……その自信はどこから湧いてくるの?」

「うーん……わかんない、かな」

 グリフの答えに、ユニコが呆れたとばかりにため息をつく。けれどすぐ、ニッと笑ってくれた。

「あなたと一緒にいると、悩んでることがばかばかしく思えてくるわ」

 ユニコがグリフの手をそっと、握り返す。

「なんだか、私までなんとかなるって気になってきちゃったじゃない」

 ふたりの戦士が向かい合い、笑顔で頷き合う。そしてまっすぐに、浄化するべき敵を見据える。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』



 その瞬間、激烈な光がふたりを包み込む。


51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:07:31.69 ID:0m/dVbvg0

「なに、これ……?」

「わからないけど……やろう! ユニコ!」

「……ええ!」

 ぎゅっと、ふたりはつないだ手に力を込める。

(なんだろう……力が、勇気が湧いてくる……!)

 ユニコと繋いだ手から力が溢れてくるようだった。



「翼持つ獅子よ!」



「角ある駿馬よ!」



 ふたりの頭の中に、明確なイメージが現れる。

 それは勇猛なる翼持つ獅子と、穏やかな一角獣。

 ふたつの清浄で強大な力が渦巻き、ふたりを包み込んでいく。


 動いたのは同時。空いている手をウバイトールに向け、かざす。

 ふたりから発せられる光が指向性を帯びた。

 そして――、


「「プリキュア・ロイヤルストレート!!」」


 ふたりの手から光の奔流がほとばしる。一路、プリキュアが見据える欲望に満ちた敵へと。

『ウバッ……ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 王者の誇り、戦士の絆、その光の力がウバイトールを貫いた。

『ウバ……アアアアアアア……!!』

 ウバイトールから黒い何かが飛び出した。それは苦しみもがきながら、光の中に溶けて、消えた。

 激烈な光はやがて収束し、グリフとユニコは手をかざした格好のまま、虚空を見つめていた。

「…………」

 世界は色と光で満ちていた。暗鬱なモノクロの世界ではなく、美しい色彩に溢れた、いつもの場所だ。

 普段、自分たちが何気なく日常を過ごしている世界のなんと美しいことか。いかに色に包まれ、光に祝福されていることか。それを再認識させられたような気分だった。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:08:21.22 ID:0m/dVbvg0

「あっ……」

 そして、やわらかい光がふたりの戦士を覆い尽くし、プリキュアの衣装が制服に戻る。装飾も髪型も、何もかも元通りだ。

 いっそのことすべて白昼夢だったと言われた方がよほど信じられる。けれどふたりの腕には、ロイヤルブレスが燦然と輝いていた。

「……終わった、の?」

「たぶん……」

 お互いに確認して、ようやく理解できた。

 終わったのだ。

「はふぅ……」

「ち、ちょっと王野さん?」

 ゆうきは脱力し、ぺたんとへたりこんでしまう。今さら、とてつもないことをしたのだと思えてきた。

「わたしたち、すごいね……」

「え?」

「倒しちゃったよ、あの怪物……ウバイトール、だっけ?」

「え、ええ……」

「やったね、大埜さん!」

「そうね……やったのね、私たち」

「うん!」

「ゆうきー!」

 笑顔でうなずくと同時、首もとに何かが飛びついてきた。ブレイだ。

「すごいグリ! 本当に、やってくれたグリね!!」

「うん! わたしやったよ、ブレイ!」

 ブレイを両手で抱えてくるくる回る。ブレイも両手をあげて喜んでいる。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:09:30.01 ID:0m/dVbvg0

「ありがとうグリ! 本当にありがとうグリ、ゆうき!」

「えへへー」

 ゆうきとブレイは、そんな自分たちを見つめる冷めた目線ふたつに気づかない。

「……まったく、単純なんだから」

「弱虫のくせに、こういうときばっかり調子がいいニコね」

 その目線ふたつが重なって、しばし見つめ合い、やがて可笑しくなって笑い出す。

「……とりあえず、ありがとうニコ、めぐみ。助かったニコ」

「どういたしまして。こちらこそ、ありがと、フレン」

 澄ました顔で笑うフレンを、めぐみがそっと抱き上げる。

「大丈夫? 怪我はない?」

「ふん、この “未来を守る優しさの王女” がそんなヤワなわけないニコ」

「そうね。あなたって、おてんばそうだものね」

「ニコっ……! ちょっと、めぐみ!」

「ふふ、ごめんなさい」

「謝りながら笑うなニコ!」

 わーわーぎゃーぎゃーと騒ぐフレンに、和やかに笑みを浮かべるめぐみ。

 と、

「ああっ!!」

「ニコっ、い、いきなり大声上げて、どうしたニコ!」

 素っ頓狂な声を上げためぐみに、フレンだけでなく、笑いながら回っていたゆうきとブレイも我に返る。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:11:04.54 ID:0m/dVbvg0

「どうかしたの? 大埜さん」

「早く学校に戻らないと! 先生に頼まれてた仕事、まだ途中だもの!」

「あっ……」

「あ……」

 少しだけ、現実に帰った気がした。

 思い起こされるほんの少し前のこと。めぐみの照れ隠しがゆうきを傷つけ、ゆうきが逃げてしまったときのこと。

 気まずくなって、無言で見つめ合う。けれど、あとは簡単だった。

「……改めて、さっきはごめんなさい」

「ううん。こちらこそごめんね」

 だって、もうすでに、めぐみは気持ちを伝えられたから。ゆうきはそれを受け取ったから。

 想いが通じて、気持ちが分かって、もう怖くないから。

「えっと、王野さん。家の用事があるって聞いたから、あとの仕事は私がやっておくわ。だから、今日は帰って」

「……じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせてもらうね。ありがとう、大埜さん!」

「ううん」

 人に気持ちを伝えるのはとても難しくて、すれ違ってしまうこともままある。

 けれど、お互いが優しさを伝えようとして、お互いが勇気を持ってそれに応えたなら、

「えへへ」

「ふふ……」

 きっと、一緒に笑い合うことができるから。



 光の世界、ロイヤリティの伝説が復活した。

 笑い合う少女たちの双肩に、全世界の命運がゆだねられた、その瞬間のことだった。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:12:17.33 ID:0m/dVbvg0

…………………………

「……なるほど」

 そこは黒い場所。光はある。けれど、全てが黒い、暗闇の場所。

「プリキュア……ロイヤリティに伝わる伝説は本当だったということか」

「申し訳ありません、デザイア様。私が勇気の王子、優しさの王女を侮ったばかりに……」

「……いや。伝説の戦士に関しては私も信じていたわけではない。不測の事態だったと言えるだろう。貴様だけの責任ではない」

 声に抑揚はない。闇そのものが放つようなその涼やかな声は、ゴーダーツをねぎらうでも、糾弾するでもなく、ただ事実を述べるだけだった。

「先ほど、私が呼び出したウバイトールの消滅を感じました。おそらくは、プリキュアが闇の欲望を解き放ったのかと」

「ふむ。ロイヤリティの伝説の戦士、予想以上に厄介なようだな」

「ええ。早々に排除すべきかと」

 ゴーダーツは深く低頭したまま、闇の言葉を待った。次は遅れを取るような無様な真似はしない。声の命令あらば今すぐにでもあの場に舞い戻り、プリキュアたちを叩きつぶす心づもり
だったのだ。

 しかし。

「……命令だ、ゴーダーツ」

「はっ」

「今すぐに、ダッシューとゴドーをこちらに召喚しろ。いずれ奴らの力も必要になる」

 声が放ったのは、ゴーダーツの予想を大きく外れた命令だった。

「お、お待ちください! 私に、もう一度チャンスをお与えください! 今度こそ、優しさのエスカッシャンを奪い取ってごらんに入れましょう!」

「勘違いをするな、ゴーダーツ。何も貴様を信用しないというわけではない」

 声はやはり、何の感情もみせることはない。

「情熱のエスカッシャン。そして愛のエスカッシャンは、ダッシューとゴドーが持っている。それを使って情熱の王女、そして愛の王女を探させるというだけのことだ」

「……はっ、なるほど。勇気の王子、優しさの王女がプリキュアを生み出したということは……」

「ああ。他のふたりの王女もまた、プリキュアを生み出すことができると考えるべきであろう。その前に、なんとしても王女たちを捕まえ、紋章を奪い取るのだ」

「……かしこまりました。ただちに、ダッシューとゴドーをこちらに呼び出す手配をいたします」

「後は頼んだ。私は少し出る」

「? どちらへ行かれるのですか?」

 言ってしまってから、己が愚を犯したことを悟った。声の主は無為に詮索されることを嫌うのだ。

「も、申し訳ありません! 私の知るところではございませんでした」

「……構わぬ。直にこの目で見ておきたいだけだ。いずれ我々が欲望の赴くままに食い尽くす、希望の世界 “ホーピッシュ” とやらをな」

 言葉を締めくくると同時、黒い暗闇を支配していた声の気配が消えた。冷えた声の余韻を感じながら、ゴーダーツは深く低頭したまま動けずいた。

「やはり恐ろしい。闇の欲望を支配される、暗黒騎士デザイア様」

 ようやく立ち上がったゴーダーツは決意も新たに歩き出した。

「次は無様な体たらくを晒すわけにはいかん。覚えていろ、伝説の戦士……!」

 その胸中に、打倒プリキュアの文字を刻みつけながら。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:12:57.11 ID:0m/dVbvg0

…………………………

 翌朝。

 何の変哲もない、いつも通りの朝。朝早く起きて、朝食の準備をして、起きてきた末弟のひかるに妹のともえを起こしてもらって、弟妹をきちんと送り出し、そして自分も学校へ向かう。

 そう。いつもと変わらない日常。普段通りの朝。

 けれど、ひとつだけ違うことがある。

「どう? 朝ご飯はあれだけで足りた? ブレイ」

「グリ! 美味しい物が食べられて満足グリ!」

「そう。ありがとう」

 男の子のような声。ゆうきの両手におさまってしまうサイズの、ぬいぐるみのような彼。自称勇気の王子、ブレイ。

「ゆうきは料理が上手なんだグリ」

「そうなのかな。でも、あれくらいなら誰でもできると思うよ?」

「そうグリ? でも、ブレイにはできないグリ」

「そりゃ、その身体じゃねえ……」

 彼の存在、そして腕のロイヤルブレスだけが、昨日の出来事を証明してくれている。

 突然襲いかかってきたゴーダーツ、ウバイトール。

 そして、伝説の戦士、プリキュア。

「……全部、ほんとのこと、なんだよね」

「? 何か言ったグリ?」

「ううん、何でもないよ」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:13:51.60 ID:0m/dVbvg0

「ゆうき〜〜〜〜〜〜〜〜!」

「わっ……!」

 背後から呼びかける声に、驚きで思わず飛び上がってしまった。ゆうきは慌ててブレイを鞄に入れた。

「グリっ!!」

(ごめんね、ブレイ)

 うめき声を上げるブレイに心の中で謝りながら振り返ると、ユキナが手を振りながら駆けてくるところだった。

「ユキナ、おはよう」

「うん、おはよ、ゆうき!」

 ユキナがゆうきの横に並ぶ。ふたり並んで歩き出しても、まだ心臓がばくばく言っていた。

「ねえゆうき、今なにか持ってなかった?」

「え!? な、何の話……?」

「おかしいなあ。なんか鞄に入れたように見えたんだけど……」

「き、気のせいだよ、きっと!」

「そっか。ゆうきがそう言うならそうなんだろうねー」

 友達に嘘をつくのは気が引けたが仕方が無い。喋るぬいぐるみなどユキナに見せたら、たちまち大騒ぎになってしまうだろう。

「ところでゆうき、昨日はどうだった?」

「え? き、昨日って……?」

 また心臓が嫌な音をたてる。どうしてユキナが昨日のことなど尋ねるのだろう。

「どうしたの? 変な顔しちゃって。もしかして、大埜さんとケンカでもしたの?」

 心配そうな顔をするユキナにようやく納得する。ユキナが訊いているのは、プリキュアの話ではなく、昨日の学級委員の居残りの話なのだ。

「あ、ああ……。うん。ちょっとだけケンカしちゃったけど、すぐに仲直りできたよ」

「本当にケンカしたんだ! うわぁ、めずらしいね、ゆうきがケンカするなんて」

「ケンカって言っても、そんなに大層なことじゃないけど。それに、すぐに仲直りできたし」

 ゆうきは昨日のことを思い出しながら。

「それに、大埜さんってすごく優しいんだよ。昨日も、わたしに用事があるからって、先に帰らせてくれたんだ」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:14:33.88 ID:0m/dVbvg0

「へぇ〜〜〜。意外意外意外! 大埜さんって、クールだからそういうこと絶対にしないと思ってた!」

「うーん、意外かぁ……」

 どうなのだろう、とは思う。たしかにゆうきにとっても、めぐみの第一印象は静かでクールな人、だった。けれど昨日の放課後の時間、少しだけ一緒に過ごしてみて、大きくその印象が変わっていた。めぐみは本当はとても優しくて、けれどとても素直じゃない女の子だと、今のゆうきはそう思っている。

「まぁ、ユキナも段々分かってくと思うよ。大埜さん、結構おもしろいひとなんだから」

「ふえー……うーん、想像ができない」

 うんうんと唸るユキナを笑いながら、ゆうきは心の中で思った。

(いつか、大埜さんの優しさを、クラスのみんなが知ってくれたらいいな)

「あ……! 大埜さん、おはよう」

 ユキナと一緒に学校に着くと、校門で手持ちぶさたに立ち尽くしているクラスメイトが目に入った。

「王野さん、おはよう。それから、更科さんも」

「お、おはよう、大埜さん」

 ぴくりとも笑っていない。そのクールな雰囲気に、ユキナが圧倒されるようにやっと挨拶を返す。

「ね、ねえ、あれのどこが素直じゃなくて優しい人なの?」

「……いつか分かるよ」

 こそこそと耳打ちするユキナに、ゆうきもこそこそと返す。いつか分かってもらえるか、ゆうきも少しだけ不安になっていた。

「王野さん、少しいいかしら。お話があるの」

「あ、うん。分かったよ」

 何の話かは、ある程度予想がつく。ゆうきはユキナに片手を立てた。

「ごめんね、ユキナ。ちょっと大埜さんとお話があるから、先に教室に行ってて」

「いいけど……ひょっとして、学級委員の話?」

「そ、そんなところかな」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:15:24.53 ID:0m/dVbvg0

「うん。分かった。じゃ、先に教室に行ってるねー」

 ユキナは元気にぱたぱたと駆けていった。ユキナはミーハーな面も強いが、こういうところはさっぱりしていて気持ちのいい友達だ。

「……じゃあ、ちょっと人のいないところに行きましょうか。中庭でいい?」

「そうだね。この時間なら、人もいないだろうし」

「いい加減、フレンを鞄から出してあげなくちゃ、可哀想だし」

「あ……ブレイもだ」

 言ってから、忘れてたの!? とばかりに鞄の中身がゴソゴソ動く。申し訳ないことをしてしまった。急いで校舎脇の中庭に向かうと、やはり人気はなかった。

「ごめんね、ブレイ。今出してあげるからね」

 ゆうきがジッパーを開けると、ぷはぁ、とブレイが顔を出した。

「ゆうき! ひどいグリ! 鞄の中に入れるなら入れるで、もっとゆっくりと入れてくれないと苦しいグリ!」

「ごめん! いきなりユキナが来てびっくりしちゃってさ」

 ブレイの顔は真っ赤だ。本当に苦しかったのかもしれない。

「今度はちゃんと入れる場所とか考えるから。ごめんね」

「グリ。頼むグリよ」

「偉そうニコね。運んでもらってる分際で何をわがままを言っているニコ」

 すとっ、と。中庭に華麗に降り立ったのは、薄いライトブルーのぬいぐるみ……のような自称優しさの王女、フレンである。

「フレンだって運んでもらってるグリ!!」

「あら、当たり前ニコよ。だってあたしは優しさの王女なのだからニコ」

「ブレイだって勇気の王子グリ!」

「でも “弱虫” ニコ」

「フレンだって優しくないグリ!」

「な、何ですって!?」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:16:06.40 ID:0m/dVbvg0

 呆れかえってものも言えない。昨日はあんな絆を見せてくれたというのに、もういがみ合っている。仲がいいのか悪いのか分かったものではない。ふと横に目をやると、めぐみもまた、ふたりの様子を見て呆れたような顔で笑っていた。

「なんか、仲がいいのか悪いのか分からないね」

「そうね。でも、これがふたりの関係なのかもしれないわね」

 先よりよほど、声にも暖かみがある。さっきはどうしてあんなにクールな様子だったのだろう、と疑問に思っていると、めぐみが手をパンパンと叩いた。

「はい、そこまで。ケンカはやめにして、私たちに話をしてちょうだい」

「話?」

 めぐみの言葉に、ゆうきは首をかしげた。話とは何だろう。

「あなたって、本当に天然というか、大物というか、なんというか……」

 ふしぎそうな顔をするゆうきに、めぐみが呆れたような顔をする。

「気にならないの? 昨日の男とか、怪物とか、この子たちとか……それから、プリキュアとか」

「あ、ああ……」

 ようやく、ゆうきの中で少しだけ合点がいった。

「そりゃあ、まぁ……気になるっていえば、気になるけど……」

「というか、その話をしてもらう気が無かったのなら、王野さんはどうして朝っぱらから私に呼び出されたと思っていたの?」

「え? いや、昨日のお話でもするのかと思ってたよ。あの怪物怖かったねー、とか。あの男の人、すぐ逃げちゃったねー、とか。プリキュアの衣装、かわいかったねー、とか……」

「思い出話レベル!? あなたってどういう神経してるの!?」

「いやぁ、そんなこと言われると照れちゃうよぅ……」

「褒めてない! 褒めてないわよ!!」

 やっぱり、めぐみの声が、今は暖かい。ゆうきに突っ込みを入れる様子も、なかなかに様になっている。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:18:18.36 ID:0m/dVbvg0

「まったく……あなたって、本当に天然ね……」

「ははは……」

 天然とは言われ慣れているが、実は天然と呼ばれるが所以がゆうきにはよく分からない。そういうこところが天然だと言われるのだが、それをゆうきが理解する日は当分来ないだろう。

「じゃあ、そろそろ話してもらっていいかしら? あなたたちのこと。そして、あなたたちが狙われている理由を」

 中庭のベンチに腰かける。まだHRまでは時間がある。ゆっくり話を聞くことができるだろう。

「そうニコね……何から話したらいいニコ?」

「……まずは、ブレイたちの住んでいた世界のことを話すグリ」

 ベンチとセットになっているテーブルの上。ぺたんと座り込んだふたりが話し始める。

「自己紹介でも話したけど、ブレイたちは光の世界ロイヤリティにある四つの王国、そのうちの二つの王子と王女なんだグリ」

「あたしが優しさの国の王女ニコ」

「そして、ブレイが勇気の国の王子グリ。あと、情熱の国と愛の国の王女もいるグリ」

「へえー」

 光の世界、ロイヤリティ。なんだか分からないが、とても素敵な世界なのだろうなと、ゆうきはなんとなく思った。

「ロイヤリティは光に満ちあふれ、みんなが笑って暮らしている、そんな世界だったグリ」

「だった?」

 めぐみがブレイの言葉に反応する。それに呼応するように、ブレイとフレンの表情が暗くなる。

「どういうこと……?」

「……飲み込まれてしまったグリ。奴らに」

 ブレイが悔しそうに声を絞り出した。その手は強く握られ、震えている。

「奴ら? それって、昨日のゴーダーツとかいう男?」

「あの男もその内のひとりニコ。奴らは、無限の欲望を持つ存在、“アンリミテッド” ニコ」

「アンリミテッド……」

「闇の欲望に墜ちた者たちグリ。何を得ても満足せず、永遠に何かを奪い続ける存在……それが、アンリミテッドなんだグリ」

「ロイヤリティは、アンリミテッドに飲み込まれてしまったニコ。そして、四つの王国に伝わる宝、エスカッシャンも、奴らに奪われてしまったニコ」

「ブレイたちはそのエスカッシャンを四つすべて取り戻して、ロイヤリティを復活させないといけないグリ。それが、ブレイたちがこの世界にやってきた意味、そして使命なんだグリ」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:19:04.80 ID:0m/dVbvg0

 ブレイとフレンは真剣そのものだった。自分の世界が飲み込まれ、消えてしまったというのに、その復活を信じているのだ。自分たちがそんな重い使命を背負っているというのに、それにまっすぐ向き合っているのだ。すごい、とただ純粋に思う。そして、だからこそ、その手助けをしてあげたいと思った。

「ねえ、ブレイ、フレン! わたしたちに何かできることってないかな? わたし、全力でふたりに協力するよ」

 しかし、感極まっているゆうきとは対照的に、ブレイとフレンは怪訝な顔をしている。

「ゆうきって……」

「え?」

「……ほんと、天然ニコね」

「え? え?」

「さすがに今のはないわよ、王野さん」

「え? え? え?」

 ゆうきには本当にわけが分からない。そして、なぜかめぐみまでもが呆れた顔をしている。

「ゆうきは面白いグリね。ゆうきはもう、十分僕たちに協力してくれているグリよ?」

「……どういうこと?」

「だって、ゆうきとめぐみはプリキュアになってくれたニコ」

「あ……」

「つまり、」 と、めぐみがブレイとフレンに向き直る。「私たちが変身した、伝説の戦士プリキュア。あれこそが、ロイヤリティを救うための鍵なのね?」

「その通りニコ。プリキュアは、ロイヤリティの伝説にも記されているニコ。ロイヤリティが闇に覆われたとき、伝説の戦士が現れ、ロイヤリティを救うだろう、って」

「ええ!? じゃあ、わたしたちがあなたたちの世界を救っちゃうの!? わたしたち、ただの中学生だよ!?」

「ただの中学生じゃないグリ! ゆうきは強い勇気を持っているし、めぐみは暖かい優しさを持っているグリ!」

「それも、伝説の戦士に選ばれるくらいの、ニコね」

 そう言われてもそう簡単に実感が湧くわけではない。見れば、めぐみも思案顔だ。本当に自分たちがそんな大層な役割を持ってしまっていいのだろうか。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:20:07.76 ID:0m/dVbvg0

「それに、これはもうふたりにとっても他人事じゃないグリ」

「え……? どういうこと?」

「さっきも言ったニコ。アンリミテッドは何を手に入れても決して満足することはないニコ。すべてを飲み干すそのときまで、アンリミテッドの欲望は止まらないニコ」

「……まさか、この世界も、アンリミテッドの標的だってこと?」

「その通りニコ。ここは、ロイヤリティでは希望の世界 “ホーピッシュ” と呼ばれていたニコ。このホーピッシュもまた、このままでは闇の欲望に飲み込まれてしまうニコ」

「そんな……」

 ゆうきはもちろんただの中学生で、世界が何かに飲み込まれる様子なんて想像もしようがない。けれど、自分の大切な人たち――家族、友達、たくさんのお世話になっている人々がいっ
ぺんにいなくなることを想像したら、一気に心が寒くなった。

「……それを阻止するためにも、戦わなくちゃならない。そういうことね」

 すぐ傍らからそんな力強い声が聞こえた。アンリミテッドの存在に恐れおののくゆうきのすぐ隣で、めぐみは毅然とした表情で、ブレイとフレンを見つめていた。

(……怖がってる場合じゃない。わたしたちは、この世界を守らなくちゃならない。そして、)

 ブレイとフレンを見つめる。たぶんこのふたりは、まだ小さな子どもだ。けれど、小さい身体で、この世界にやってきて、自分たちの世界を取り戻そうと必死になっている、ふたり。

「……そして、わたしたちがロイヤリティを取り戻す。約束するよ、ブレイ、フレン」

 そんなふたりを前にして、自分が怖がっていてどうする。勇気を買われたというのに、そんなていたらくでは、いけない。

「だから安心して。わたしたちが、あなたたちを守るから」

「ゆうき……」

「そうね。この子たちのことも、私たちが何とかしてあげなくちゃならないわね」

「めぐみ……」

 世界がどうなるかなんてわからない。想像することすら難しい。それでも、いま目の前で助けを求めているふたりを助けてあげたい。鈍くさくて、天然なんて言われる自分だけれど、力
になれるのならなってあげたい。

「わたし、ちゃんとプリキュアできるか分からないけど、精一杯がんばるから」

「私も、できる限りがんばるわ」

「ふたりとも、ありがとうグリ!」

 感極まったのか、ブレイがゆうきに飛びついてきた。ゆうきはそれを受け止めて、にこにこと笑い合う。

「ふ、ふん。感謝してあげないこともないけど……ありがとニコ」

「ふふ……」

 めぐみもまた、和やか顔をしてフレンの頭を撫でる。顔を赤くしながら、けれどフレンもまんざらではなさそうだ。



 ――そして、世界がモノクロに染まる。

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:20:47.96 ID:0m/dVbvg0

「な、なに……?」

「これってまさか……アンリミテッド!」

 ふと気づく。両手の上に座るブレイが、ガタガタと小刻みに震えていた。

「ど、どうしたの、ブレイ?」

「これは、だめグリ……邪悪な……とてつもなく邪悪な存在が、近づいているグリ……」

「フレン!」

 うめくブレイを胸に抱き、傍らに目をやると、フレンもまためぐみに飛びついて、その胸で震えていた。

「怖いニコ……とても、怖いものが、近くに来ているニコ……」

「あのゴーダーツって奴?」

「違うグリ……もっと、とてつもなく邪悪な……――」



「――ごきげんよう、勇気の王子ブレイ。そして、優しさの王女よ」



 背筋が凍り付くような、冷たい声だった。

 どうして今の今まで気づかなかったのだろう。テーブルの向こう、中庭の中心に、何者かが立っていた。

「だ、誰……?」

 それは、仮面をつけた、小柄な紳士のように見えた。マントを羽織り、身体中が黒ずくめの、紳士。笑っているような、怒っているような、表情をまるで窺い知ることができない仮面が、ふたりの背筋を寒くさせる。

(なに、これ……?)
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:22:08.64 ID:0m/dVbvg0

 まるで、そこだけ別の時間が流れているような、不思議な感覚。

 明らかな異質が、異常が、目の前にあるのに、ゆうきもめぐみもそれに気づくことができない。まるで、当たり前のことのように、それを意識しない。意識することができない。目の前に、圧倒的な存在がいるということが分かるのに、身体がどこか、その存在を受け入れているようだった。

「これが我々だ。分かるか? 伝説の戦士」

 まるでふたりの心の中を読み取るように、紳士が口を開いた。

「!? あなたは、一体……!」

 紳士が、手をかざした。身構えるゆうきとめぐみの前で、仮面の紳士はあくまで泰然としていた。

「な……!」

 瞬間的に周りが消滅した。校舎も、木々も、草も、ベンチも、テーブルも、何もかも。残ったのは四人と紳士だけだ。

「案ずるな。ただ我々の存在する位相をずらしただけのことだ」

「位相……?」

「世界とは、貴様らが想像するほど複雑なものではない。単純な網かけの場に、垂直に物があるというだけのこと。その網をたわませて窪みを作り、その窪みに我々だけを降ろしたという
だけのことだ」

「網? 窪み? 降ろした?」

「……そんなことはどうでもいいわ。あなたは一体何者? もしかして、あなたもあの男と同じ、アンリミテッドなのかしら?」

 理解が追いつかないゆうきだが、めぐみは性急に話を進めようとしていた。

「…… “暗黒騎士デザイア” グリ」

「えっ……?」

 ふるえが収まったわけではない。ブレイは未だにゆうきの手の中で震えている。そんな彼が、絞り出すようにして声を発したのだ。

「僕たちの世界を飲み込んだアンリミテッド……その、最高指令官にして、最強の騎士、デザイア……それがあいつグリ」

「アンリミテッドの最高指令官……」

「最強の騎士、デザイア……」

 黒ずくめの仮面の騎士はまだ動かない。まるで、ふたりの様子を見て、品定めをしているかのようだった。

「ふむ。貴様らが、ゴーダーツが召喚したウバイトールを消滅させたのか。おもしろい。貴様らはどうやら、我々アンリミテッドの一番の障害となるようだ」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:23:03.76 ID:0m/dVbvg0

「……最高指令官、ね。なら、あなたを倒せば、全部解決ってことじゃない」

「ほう? それはどういう意味だろうか」

 めぐみが眼光鋭くデザイアを睨み付ける。

「それくらいも分からないのかしら。あなたを倒せば、フレンたちの事情も、私たちの世界の危機も何もかも、簡単に解決するじゃないって、そう言ってるのよ」

「……面白いことを言う」

「冗談に聞こえたの?」

 めぐみは明確な敵意をデザイアにぶつけた。それに対し、デザイアはまるで幼子のわがままをいさめるように、ただ悠然と受け答えをするだけだ。

「……フレン」

「ニコぉ……」

「フレン、しっかりして。大丈夫。あなたは私たちが守るわ。だから、お願い。勇気を出して。私たちに力を貸して。あなたは、未来を守る優しさの王女、フレンでしょう?」

「…………」

 震えるフレンをギュッと抱きしめ、そっとささやく。その姿はとても温かくて、だからきっと、フレンもそんなめぐみから勇気をもらったのだろう。

「……わかったニコ。めぐみ、変身ニコ」

「ええ」

 未だ立ち尽くしているデザイアを見つめ、めぐみがそっと腕をかざす。その手に煌めくは、ライトブルーのロイヤルブレスだ。

「王野さんも、準備はいい?」

 めぐみの目がゆうきを向く。そう。他でもない、勇気の王子を抱え、腕に桃色のロイヤルブレスをつけた、ゆうきを。

「…………」

 それはきっと当たり前のこと。だって、ゆうきはめぐみの相棒で、昨日だって一緒に戦った仲間だから。

 けれど、

「……ちょっと待って、大埜さん。怖いよ」

「え……?」

「今の大埜さんは怖いよ」

 ゆうきはそう言い切ると、めぐみの腕を優しく下げさせた。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:23:53.47 ID:0m/dVbvg0

「ねえ、あなた。えっと……デザイアさん」

「…………」

 デザイアが自分に意識を向けたのが分かった。仮面の奥の双眸を感じながら、ゆうきは口を開いた。

「初めまして。わたしは、王野ゆうき。このダイアナ学園女子中等部の2年生です」

「…………」

 デザイアはなんとも言わない。代わりに口を開いたのは、傍らのめぐみだった。

「ち、ちょっと、王野さん! なんで敵に自己紹介してるのよ!」

「敵とか、そういう言い方よくないよ。さっきの大埜さん、怖かったよ?」

「なっ、なっ……何を言ってるのあなたは!!」

「わたしは、怖いのは嫌い。ただそれだけだよ」

 ゆうきはそう言い切ると、再びデザイアに向き直った。

「……そうだな。礼節は大事である」

 その視線に、デザイアが笑ったのが分かった。

「先ほど紹介にあずかった。我が名は暗黒騎士デザイア。アンリミテッドの最高司令官である」

「うん。ほら、大埜さんも自己紹介」

「な、なんで私がそんなこと!」

「仕方ないなぁ。この子はわたしのクラスメイトで、学級委員の相棒で、プリキュア仲間でもある、大埜めぐみさん。こんな風に素直じゃないけど、とっても優しい子なんだ」

「……ふむ」

「素直じゃないって何よ! って違う! そんなことじゃなくて!!」

 めぐみは混乱するように頭を振り乱して。

「なんで敵と仲良く話してるのよ!」

「だから、そういう風に言うの、よくないって」

 ゆうきはめぐみの前に立つと、まっすぐにデザイアを見つめた。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:25:05.01 ID:0m/dVbvg0

「ねえ、デザイアさん。あなたもエスカッシャンを持っているんでしょう?」

「……ああ」

「返して」

「…………」

「それはこの子たちの、そしてこの子たちが住んでいたロイヤリティの物だよ」

「……返してと言われて、素直に返すとでも思うのか?」

「うん」

 ゆうきの迷いのない言葉に、デザイアが虚を突かれたようだった。

「貴様、正気なのか?」

「正気だよ。じゃあ、どうしたら返してくれるの?」

「……これは我々アンリミテッドが奪い取ったもの 。すでに我々のものだ」

「そんなのおかしいよ」

「おかしいと思うのなら、奪い返すのだな。力尽くで」

「…………」

 デザイアの言葉に対し、ゆうきもまた答える言葉を持たなかった。お互いの主張は平行線をたどり、決して交わることはない。

「……王野さん、もういいわね? いくわよ」

「いや、今日はやめておこう。私はただ、このホーピッシュと貴様たちプリキュアの様子を見に来ただけだ」

 呆然とするゆうき、臨戦態勢に入るめぐみ。そんなふたりに対し、仮面の騎士デザイアはやはり悠然と、片手でめぐみを制した。

「逃げるっていうの?」

「言ったはずだぞ? 私はアンリミテッドの最高司令官だと」

 声は背後から聞こえた。理解と視覚が逆転した。背後から聞こえた声に、ようやく気づいたのだ。

 目の前にいたはずのデザイアが、いつの間にか背後に回っている。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:26:22.85 ID:0m/dVbvg0

「ど、どうやって……!?」

「先ほども言っていたはずだが? 私はアンリミテッド最強の騎士、デザイアだとな」

 デザイアの声には嘲弄する響きすらあった。それは、ふたりを敵とみなしてすらいない、そんな声色。

「断言しよう。貴様らでは私には勝てぬ。特に、」

 ふと、その目線がゆうきに集中する。たじろぐゆうきに、デザイアはやはりあざ笑うように。

「そんな腰抜けがいるのでは、貴様らに勝ち目はないであろうな」

「っ……」

「では、失礼する。また後ほど私の部下が貴様らを狙うだろう。そのときまでには、戦う覚悟くらいは決めておくのだな」

 デザイアがマントを翻すと同時、その身体がモノクロの世界に溶けるように消えた。そして世界は色を取り戻す。草木も校舎もその姿を取り戻し、どこか薄ら寒い静寂が、心地のよい中庭の自然音に満たされていく。

「消えた……本当に様子を見るだけのつもりだったのね」

「…………」

「それで? どういうつもりだったのかしら? 王野さん?」

「……わたしは、戦いなんてしたくない」

「さっき、フレンたちの力になってあげたいって言ってたのは、嘘なの?」

「嘘じゃないよ! 力になってあげたい! でも……」

 ゆうきは、訝しむような表情のめぐみに必死に訴えた。

「わたしは、相手に仲良くしたいって伝えもせずに戦うなんて、そんなことしたくない! 話し合えるなら、言葉が通じるなら、言葉をかけるべきだよ!」

「相手にそれを聞く気はないみたいだったけれど」

「それは……」

 めぐみの言葉に、ゆうきは返す言葉を持たない。デザイアがエスカッシャンを素直に返してくれることがありえないと、すでに分かっていたからだ。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:27:27.12 ID:0m/dVbvg0

「……弱虫」

 か細い声が放たれた。フレンが、めぐみの手の中から、声を絞り出していた。

「ゆうきの、弱虫!」

「…………」

「あいつは、ロイヤリティを滅ぼした張本人ニコ! 言葉なんか届くはずがないニコ……!」

 それは、泣きながら放つ小さな声だった。けれど、それがゆうきの心の奥底まで、深く突き刺さった。

「フレンだって怖かったニコ! でも、めぐみの言葉を聞いて、一緒に戦おうって思えたのに……あんたは、どうして戦ってくれないニコ!」

「……だって、わたしは……」

 フレンは大声を上げて泣き出した。フレンに胸を貸し、背中をなでさするめぐみが、ゆうきに冷めた目を向ける。

「……一日、考えなさい。あなたがどうしたいのか。どうなりたいのか。この子の涙も、あなたの考え方も、全部含めて、答えを出して」

 その声には先までの温かみは、なかった。

「使命感なんて持つ必要はないわ。私は……たとえひとりでも、この子たちと共に戦うから」

 めぐみはそれきり、何も言わなかった。フレンを慰めながら、行ってしまったからだ。

「わたし……」

「…………」

 ブレイはゆうきの手の中で、まだ震えていた。ひとり立ち尽くすゆうきに、声をかけてくれる者はいない。自分が何をしたのか、何をしてしまったのか、それすらも分からない。

「わたしは、弱虫……。わたしに、勇気なんてないのかな」

 腕にきらめく桃色のロイヤルブレス。それが、自分に似つかわしくないものに思えてくる。それをつける者は、どこか別にいるのではないだろうか。自分は、キュアグリフを騙るニセモノなのではないか。

 自分には、プリキュアになる資格などないのではないか。

 自分には、ブレイとフレンを助ける資格などないのではないか。

「…………」

 答えは出ない。何も分からない。

 ゆうきはゆっくりと鞄を取り、教室へ向かった。

「うぅ……っ……」

 手の中で震える、自分の居場所を奪われた、小さな小さな存在の、その体温を感じながら。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/31(日) 10:28:02.69 ID:0m/dVbvg0

    次    回    予    告

ゆうき 「わたしには、やっぱりプリキュアになる資格なんてないのかもしれない」

ゆうき 「戦うのは、怖い。悪意を向けられるのも、怖い。だってわたしは、勇敢でもなんでもないから」

ゆうき 「わたしは、臆病者の弱虫だから」

めぐみ 「悩むゆうき。何も言わず、ただ見守るめぐみ」

めぐみ 「けれど、そんなときにも敵は休みなくやってくる」

ゆうき 「次回、ファーストプリキュア」

ゆうき&めぐみ 「「ちょっと早すぎ! プリキュア解散!?」」



めぐみ 「……王野さん。私、あなたのことを信じてるから」

72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/31(日) 10:31:09.31 ID:0m/dVbvg0
第2話はここまでです。
見てくださった方、ありがとうございました。

また来週同じ時間に投下できると思います。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 23:03:37.72 ID:+ojLmIU+0
>>1です。
読んでくださっている方、ありがとうございます。
明日は所用で10時の投下ができません。
はっきりとは言えませんが、夕方頃の投下になると思います。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/01/07(日) 18:10:56.04 ID:ZtE3BbpK0

ゆうき 「ゆうきと、」  めぐみ 「めぐみの、」

ゆうき&めぐみ 「なぜなに、ふぁーすと!」

ブレイ 「わー!!」 パチパチパチ

フレン 「…………」

ブレイ 「? どうしたの、フレン?」

フレン 「いや、その……」

ブレイ 「? まさか、本編でゆうきに言い過ぎちゃったからって、気まずいの?」

フレン 「そっ、そんなことないわよ!!」

ブレイ (……わかりやすい)

ゆうき 「さてさて、今日もよい子のみんなの疑問に、」

めぐみ 「私たちプリキュアがガンガン答えていくわ!」

ゆうき 「本日のおたよりは、ほまれ町在住の、Y.O.さんから頂きました!」

ブレイ 「わー!」 パチパチパチ

フレン (質問が来ないから自作自演するしかないのね)

ゆうき 「『プリキュアの皆さん、それから、妖精の皆さん、こんにちは』」

ゆうき&めぐみ 「「こんにちは!」」

ブレイ 「こんにちはー! ……ほら、フレンも」

フレン 「……こ、こんにちは」

ゆうき 「『早速質問です。光の世界 “ロイヤリティ” というのは、どういう世界なのでしょう?』」

ゆうき 「『きっと素晴らしい世界なのだとは思うのですが、もっと詳しく知りたいです。教えてください』」

ゆうき 「……とのことだよ! Y.O.さん、おたよりありがとー!」

めぐみ 「じゃあ、今日もさくっと疑問に答えていくわよ!」

ゆうき 「でも、わたしたちはロイヤリティのことを詳しく知らないよ?」

めぐみ 「その通りね王野さん! と、いうことで、教えて! フレン!」

フレン 「!? そこであたしに振るの!?」 オホン 「し、仕方ないわね。特別に、このフレン様が教えてあげるわ」

ブレイ 「ちなみにフレンは顔を赤らめて手をモジモジさせてとても嬉しそうだよ!」

フレン 「ブレイは余計なことを言わなくていいの!」

フレン 「……えーっと、ロイヤリティの話だったわよね? ロイヤリティは、それはそれは素晴らしい世界なの」

フレン 「四季折々の花は咲き乱れ、人々は皆優雅で、気品溢れる生活をしていたの」

フレン 「勇気の国、優しさの国、情熱の国、愛の国という四つの国があって、それぞれ王様が治めていたの」

フレン 「……アンリミテッドが、ロイヤリティを飲み込むまでは」

フレン 「だからフレンたちは、そんなロイヤリティを奪ったアンリミテッドが許せない! 絶対に負けないんだから!」

めぐみ 「そうね。私も、精一杯フレンに力を貸すわ」

ゆうき 「…………」

ゆうき 「……と、いうことで、Y.O.さん、分かってくれたかなー?」

めぐみ 「それじゃあ本編、」

ゆうき 「スタート!!」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:11:40.48 ID:ZtE3BbpK0

 いけないことだとわかっていたけれど、授業中はずっと朝のことを考えていた。


 ――――『おかしいと思うのなら、奪い返すのだな。力尽くで』


 ゆうきは、デザイアの言葉を思い出す。ゆうきが奪い返すしかないのだろうか。


 ――――『そんな腰抜けがいるのでは、貴様らに勝ち目はないであろうな』


 ゆうきは、あのとき、めぐみと一緒に戦うべきだったのだろう。

 戦って、勝って、デザイアからエスカッシャンを奪い返すべきだったのだろう。

 けれど、それでいいのだろうかと、疑念が浮かんだのだ。

 ゴーダーツとの戦いは緊急だったから、そんなことを考える余裕はなかった。

 けれど、デザイアは話を聞いてくれた。だから、伝えることができた。

 返して、と。言うことができた。

 けれど、想いは踏みにじられた。

「…………」

 ゆうきにとって、世界とは、人とは、人との関わりとは、優しくて然るべきものだった。

 世界はゆうきを無下にしない。

 ゆうきは世界を無下にしない。

 人はゆうきに優しさを持つ。

 ゆうきは人に優しさを持つ。

 人と関わることは、楽しくて、嬉しくて、そういうドキドキがいっぱいつまった素敵なことのはずなのに。


 ――――『フレンだって怖かった! でも、めぐみの言葉を聞いて、一緒に戦おうって思えたのに……あんたは、どうして戦ってくれないの!』


(わたしは臆病者だ。きっと、わたしは……)

 ゆうきは、机の脇にかけてあるバッグに目を落とす。その中では、デザイアとの邂逅で疲れ果てたブレイが眠っている。

(わたしは……)
76 :>>75タイトルつけ忘れのため再投下 すみません [saga]:2018/01/07(日) 18:14:30.52 ID:ZtE3BbpK0
第三話 【ちょっと早すぎ! プリキュア解散!?】



 いけないことだとわかっていたけれど、授業中はずっと朝のことを考えていた。


 ――――『おかしいと思うのなら、奪い返すのだな。力尽くで』


 ゆうきは、デザイアの言葉を思い出す。ゆうきが奪い返すしかないのだろうか。


 ――――『そんな腰抜けがいるのでは、貴様らに勝ち目はないであろうな』


 ゆうきは、あのとき、めぐみと一緒に戦うべきだったのだろう。

 戦って、勝って、デザイアからエスカッシャンを奪い返すべきだったのだろう。

 けれど、それでいいのだろうかと、疑念が浮かんだのだ。

 ゴーダーツとの戦いは緊急だったから、そんなことを考える余裕はなかった。

 けれど、デザイアは話を聞いてくれた。だから、伝えることができた。

 返して、と。言うことができた。

 けれど、想いは踏みにじられた。

「…………」

 ゆうきにとって、世界とは、人とは、人との関わりとは、優しくて然るべきものだった。

 世界はゆうきを無下にしない。

 ゆうきは世界を無下にしない。

 人はゆうきに優しさを持つ。

 ゆうきは人に優しさを持つ。

 人と関わることは、楽しくて、嬉しくて、そういうドキドキがいっぱいつまった素敵なことのはずなのに。


 ――――『フレンだって怖かった! でも、めぐみの言葉を聞いて、一緒に戦おうって思えたのに……あんたは、どうして戦ってくれないの!』


(わたしは臆病者だ。きっと、わたしは……)

 ゆうきは、机の脇にかけてあるバッグに目を落とす。その中では、デザイアとの邂逅で疲れ果てたブレイが眠っている。

(わたしは……)
77 :>>75タイトルつけ忘れのため再投下 すみません [saga]:2018/01/07(日) 18:16:04.65 ID:ZtE3BbpK0

………………

 新学年が始まってすぐの授業は、午前中だけだ。お昼に帰りのホームルームが終わると、ゆうきはそのままカバンを持って中庭に向かった。

 教室を出る直前、一瞬だけめぐみと目が合った。けれど、ゆうきはそのまま、教室を後にした。

「……ねぇ、ブレイ」

「グリ?」

 人気のない中庭につくと、ゆうきは優しくブレイを起こして、膝の上においた。日差しは暖かく、ポカポカの陽気だ。世界は明るい。それを再確認したからこそ、今朝の恐怖と困惑が鮮明に蘇る。

 ともあれ、ふたりきりになれた今、ようやくブレイとまともに話すことができる。

「ブレイは、わたしを勇敢だって言ってくれたけど、」

 ゆうきは言った。

「わたし、やっぱり弱虫だよ。デザイアっていう人を前にして、戦おうとしなかった」

「…………」

「フレンにも怒られちゃった。そしてきっと、大埜さんにも」

「うーん……」 ブレイは考え込むようにしてから、ばつが悪そうに口を開いた。

「ごめんグリ。ブレイは実は、今朝のことをあんまり覚えていないグリ。デザイアが怖くて……」

「そう……」

「グリ。だから、少なくとも、ブレイはゆうきを弱虫なんて言ったりできないグリ」

 それは違う、とゆうきは思った。だって、めぐみは違ったから。めぐみは、怖がるフレンをなだめ、激励し、なんとかしようと懸命だった。そして実際、めぐみはフレンに戦う意志を持たせたのだ。それはゆうきには、王女を支える忠実な戦士のように見えて、それがプリキュアの正しいあり方なのだろうと思わされたのだ。

「……わたし、やっぱりプリキュアに向いてないのかな」

「そんなことはないグリ! だって、勇気のロイヤルブレス、そして勇気の紋章は、ゆうきがキュアグリフだって言ってるグリ!」

「でも、わたしは戦おうとしなかった。ブレイたちの世界を壊した、その張本人を目の前にしても、わたしは戦おうとしなかったんだよ?」

「でもそれは、“怖かったから” というわけじゃないグリ?」

 ブレイの純粋な瞳がゆうきに問いかける。

「それは、違うけど……」

 思い返す。ゆうきはデザイアのことを、怖いとかそういう風には思わなかった。ただ単純に、話し合うことはできないかと、そう思っただけだ。

 ならば今朝、デザイアと出会って感じた恐怖は、一体何だったのだろうか。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:17:23.84 ID:ZtE3BbpK0

「ゆうきにも考えがあってそうしたグリ? だったらブレイは、べつに怒らないグリ」

「ブレイ……」

 ブレイの言葉のおかげで、ゆうきは自分のことをもう一度考え直せる気がした。

(昨日……わたしは戦えた。怖かったけど、それでも、隣に大埜さんがいてくれたから、戦えた)

 ならば、今朝のことはどうだったのだろう。

(隣に大埜さんがいた。ブレイもフレンもいた。けれどわたしは……そっか)

 おかしいことなんて何もなかった。やはり、ゆうきは恐怖していたのだ。

「やっぱりわたし、プリキュアにはなれないよ。わたしに勇気なんてないもん。わたし、やっぱり怖かったんだよ」

「ゆうき……」

 ブレイには悪いと思う。できれば力になってあげたいとも思う。

「……ごめんね」

 ゆうきはおもむろに、腕のロイヤルブレスに触れた。パチッ、と小気味いい音がして、ロイヤルブレスは簡単に外れた。

「はい、これ、返すね。きっと、もっと “キュアグリフ” にふさわしい人がいると思うから、その人に渡して」

「ゆうき、でも、ブレイは……――」

「――ごめんね。大埜さんなら、きっと、ブレイたちのことを守ってくれるよ」

 笑って、頭を撫でる。これ以上この子をぬか喜びさせてはいけない。これ以上、この子たちの迷惑になってはいけない。

 ゆうきはそれきりブレイに話しかけることもなく、ブレイを抱えて、そっと中庭をあとにした。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:18:41.46 ID:ZtE3BbpK0

………………

「…………」

「……王野さん、帰って来ないわね」

「……ふん」

 この日は学期はじめのだから、午前授業で、その後はすぐに放課だった。めぐみはフレンとふたりきり、教室でゆっくりと話をしていた。

「ブレイったら、いやに静かだと思ったら、授業中はずっと寝てたニコね」

 フレンは憮然と言った。

「暢気なものニコ。自分のプリキュアが、やめてしまうかもしれないのに……」

「……フレン。今朝のこと、まだ怒ってるの?」

「…………」

「仕方ないわ。いきなり戦うなんて、誰にだってできることじゃないもの」

「……ゆうきは、プリキュアをやめちゃうニコ?」

「分からないわ」

「ニコぉ……」

 そのときだった。教室前方の引き戸が、力なく開かれたのだ。フレンは直立不動のぬいぐるみのフリ。めぐみは慌ててそちらに目を向ける。

「あれ……? 誰もいない?」

「いるグリ……」

 下の方から小さな声が聞こえた。誰もいないように見えた引き戸の向こう、ずっと下の方に小さなぬいぐるみのような姿がある。

「ブレイ!」

 ピョンとひととび、フレンは慌ててブレイの元に駆け寄った。落ち込んだ顔をするブレイは、フレンを認めた途端、泣きそうな表情をした。

「ど、どうしたニコ?」

「ゆうきが……」

「……王野さんがどうしたの?」

「他に、プリキュアにふさわしい人が、いるって……」

 その声はすでに、涙に震えていた。ブレイが差し出した手には、薄紅色のブレスレットがあった。

「これは、勇気のロイヤルブレスニコ!」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:19:34.22 ID:ZtE3BbpK0

「……そう。王野さんは、プリキュアをやめると言ったのね?」

「…………」

 すでに声も出せないのだろう。ブレイは涙で揺れる瞳で、所在なげにうなずいた。

「……分かったわ。なら、仕方ないわね。これ以上、王野さんを巻き込めないわ」

 めぐみは優しく、足下の小さな妖精たちに語りかけると、ふたりを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫。あなたたちは私が守るわ。私はプリキュアをやめたりしないから」

「ゆうき……!」

「フレン、悪く思ってはだめよ? 王野さんは、王野さんなりに考えて、そう決めたんだから」

「でも……!」

 言いかけて、けれどやっぱり、フレンは口をすぼめてうつむいてしまった。何をどう伝えたらいいのか分からないのだろう。フレンの心の中で色々な想いがうずまいて、きっと何を言いたいのか自分でも分かっていないのだ。

「ブレイ。王野さんはどこに行ったの?」

「行っちゃったグリ……ブレイをここまで連れてきて、ごめんねって、それだけ言って、行ってしまったグリ……」

「そう」

「ねえ、めぐみ」

「なぁに?」

 ブレイが泣きそうな顔のまま、問いかけた。

「勇気って何グリ? ブレイは、ゆうきに本当の勇気を見つけたグリ。だからゆうきはキュアグリフに変身できたグリ」

「……そうね」

「ブレイは勇気の王子グリ。けど、分からないグリ。ゆうきは本当に、弱虫だから、臆病だから、プリキュアをやめたグリ?」

 まっすぐな言葉。それはブレイの曇りのない純粋な心をそのまま代弁しているのだろう。だからめぐみもまた、真摯に答えなくてはいけないと思った。

「分からないわ。私は王野さんではないもの」

「グリ……」

「あなたが王野さんの気持ちを考えて、自分で判断するのよ」

「…………」

 人との関わりはとても難しい。だって人は、他の誰かの気持ちなんて、完全には分からないから。だからめぐみにも、ゆうきが何を想い、何を考え、プリキュアをやめようとしているのかは分からない。

「……さ、行きましょう。これからのこととか、話し合わなくちゃいけないしね」

 とにかくめぐみは、ふたりを安心させるために笑みを浮かべた。まだ小さいふたりは今まで色々な苦労をしてきたのだろう。その分、今は自分が安心させてあげなくてはならない。



 そのめぐみの優しさを、クラスメイトは知らない。みんな、クールで知的なめぐみしか、知らないからだ。

 そして、めぐみ自身も自分の優しさを、知らない。フレンやブレイを前にして、気丈に笑える自分の優しさに気づいていないからだ。

 その優しさを知っているのは、自らめぐみを “相棒” といった、あの勇気あふれる少女だけなのだから。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:21:06.34 ID:ZtE3BbpK0

………………

「……ゆうきっ」

 校門を出てすぐ、ゆうきは横から声をかけられた。

 前は見ていた。けれどうつろな目は、きっと何も捉えてはいなかったのだろう。

「あきら、どうしたの?」

 校門の横。校名のプレートによりかかるようにして、幼なじみでクラスメイトで幼なじみの美旗あきらが立っていた。

「ゆうき。一緒に帰ろ?」

「……うん。いいよ」

 ひとりで歩いていても、もっと気が滅入りそうだったから、あきらの申し出は素直に嬉しかった。並んで歩き出すと、少しだけ気持ちが温かくなる。

「もしかして、ずっとわたしを待っててくれたの?」

「……そういう、わけじゃ、ないけど。ゆうき、何か様子がおかしかったから……」

 あきらがゆっくりと答える。ゆうきの幼なじみは、あまりお喋りな方ではない。

「様子がおかしい? わたし、なんか変だったかな」

「うん」

 あきらは、眼鏡の奥の瞳でまっすぐにゆうきを見つめた。。

「朝からずっと、様子がおかしかったでしょ? わたし、ちゃんと気づいてたよ。授業中もボーッとしてたし、休み時間中も、何か考えてるみたいだったし」

「あー……」

「昔からそう。誰かとケンカしたりすると、ああやって少しだけ落ち込むんだよね。周りに心配をかけたくないから、表面は取り繕ってるけど、わたしには分かるよ。幼なじみだもん」

「あはは……」

 恐れ入る。やっぱりあきらはゆうきの親友で、きっとゆうきに隠し事なんてできないのだろう。

「誰かとケンカでもしたの?」

「ケンカっていうか……うーん……」

 いくら何でも、プリキュアのことをあきらに言うわけにはいかないだろう。少し逡巡した後、ゆうきは少しだけ、傍らの幼なじみに頼ってみることに決めた。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:21:44.12 ID:ZtE3BbpK0

「じゃあ、あきら、少しだけ相談してもいい?」

「もちろん。だってわたしは、ゆうきの親友だもん」

「でも、ちょっとわけがわからないというか、たとえ話みたいになっちゃうけど」

「とにかく話してみて。それだけで楽になるかもしれないでしょ?」

「……ありがと」

 ゆうきは意を決して口を開いた。

「たとえば、の話なんだけどさ」

「うん」

「友達が大切にしているものが無理矢理奪われてしまって、それを取り返すのに、暴力を振るってもいいと思う?」

「え……?」

 案の定、あきらは怪訝な顔をした。

「ごめん。よく分からないけど……先生に相談するか、警察に行った方がいいと思う」

 それはそうだ。しかしアンリミテッドのことなど、先生はおろか、警察に話してもどうしようもない気がする。

「うーん……もし、警察とかに頼れなくて、代わりに、自分に戦えるようなすごい力があるとしたら?」

「……警察がいない代わりに、自分に戦う力があるの?」

「うん。あと、その大切なものを奪った人たちは、その友達が持っている他の大事なものもほしがっていて、今も友達を脅かしているの」

「…………」

 あきらは黙りこくって考え込んでしまった。あきらは難しいことにぶち当たると、よくこうやって自分ひとりで考え込む。親友のゆうきはそれを知っているから、ゆっくりと、あきらが口を開くのを待った。

「……もし、そうだったら」

「だったら?」

「……わたしだったら、戦うと思うよ」

 やがておもむろに顔を上げたあきらは、ゆうきにはっきりとそう断言した。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:22:15.21 ID:ZtE3BbpK0

「怖くはないの?」

「怖いよ。きっと、とっても怖いことなんだと思う。それでも、戦う」

「でも、相手を傷つけてしまうかもしれないんだよ? 相手が自分に悪意を持って攻撃してくるんだよ?」

「それでも、ゆうきも戦うでしょう?」

「えっ……?」

 意外なことを口にしたあきらは、少しだけ笑っていた。

「どういうこと?」

「ゆうきのこと、もちろん全部は分からないけど、それでも分かるよ。ゆうきは戦う」

「どうしてそう思うの?」

 どうしても知りたかったから、ゆうきは真剣な顔をしてあきらに詰め寄った。けれど当のあきらはゆうきから目線を逸らし、どこか遠くを見た。そして、驚いたような顔をする。


「……あ! 近所の小学生がネコをいじめてる!!」


「なんですって!?」

 バッと急き込んで振り返る。しかし、そこには子どももネコもいない。キョロキョロと見回すが、そんな場面はどこにもなさそうだった。

「ふふっ、昔から、こういうのに引っかかりやすいんだから」

「あ……! あきら!! ふざけないで!」

「でも、分かったでしょ?」

「え?」

 あまりにも自信満々なあきらの顔に、怒る気さえ削がれてしまう。

「分かったでしょって、何が?」

「ゆうきは今、わたしが “小学生がネコをいじめてる!” って言ったのを聞いて、どうしようと思ったの?」

「それは、もちろんそれを止めて、ネコを助けて、小学生を叱るためだよ」

「でしょう? ゆうきは誰かを助けるだけじゃなくて、悪い方もしっかりと叱ってあげるつもりだったんだよね」

「え……?」

 ゆうきの親友。ずっと昔から一緒に遊んできたあきらは、にっこりと、きっとゆうき以外には見せない笑顔を浮かべた。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:22:50.42 ID:ZtE3BbpK0

「ゆうきは戦うよ、絶対。友達を守るために。それから、悪いことをしているひとを、叱ってあげるために」

「…………」

 目が開いた気がした。

 何かが自分の頭の中でカチリと当てはまった気がした。

 ずっと探していた最後のピースが入って、一枚の絵が完成したかのように。

 固く閉じられていた扉の鍵が、開いたかのように。


「そっか。そうだよね。わたしは、きっとそう……」


 はめこむべき最後のピースは、扉を開けるための鍵は、ずっと、ゆうきの手の中にあったのだ。

 ゆうきが戦うのは、ただ相手を倒すためじゃない。

 ゆうきが戦うのは、アンリミテッドからエスカッシャンを取り返すためだけじゃない。

「……あきら、ごめん。わたし、行かなくちゃ」

「え? 今からどこかに行くの?」

 あきらは少し意外そうな顔をして、けれどすぐに相好を崩してくれた。

「……うん。行ってらっしゃい、ゆうき」

 中学生の世界はいつもままならなくて、きっと、答えなんてない問題ばかりなのだろう。

 けれどその答えは、自分の中にあることだってある。

 そしてその答えのヒントを、友達に教えてもらうことだって、あるのだ。

「あ……!」

 走りだしたゆうきは、数歩先で立ち止まり、振り返った。

「ありがとう、あきら!」

「どういたしまして、ゆうき」

 小さい頃からずっと一緒だった親友。そんな人に助けてもらえることが、ただありがたかった。ゆうきはそして、走り出した。

(わたしは……そうだよ。ずっと、わたしは “王野ゆうき” だったんだから)

 自分にできること。自分がするべきこと。

 なんとなくだけれど、分かった気がしたのだ。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:23:48.39 ID:ZtE3BbpK0

………………

 そこは黒い場所。光はあれど、黒すぎて照り返さず、闇のように見える場所。

「……デザイア様」

「ゴーダーツか。首尾はどうだ?」

「はっ。ダッシュー、およびゴドーと連絡がつきました。一刻も早くこちらにはせ参じるように申しつけましたが、いかんせんあの者たちも一筋縄ではいかぬ故に……」

「まぁよい。奴らとてアンリミテッドの一員だ。妖精の持つ紋章がほしくないわけはあるまい」

「はっ」

 ゴーダーツは深く低頭したまま、何かを求めるように待ち続けた。デザイアは彼が何をしたいのか分かっていたから、そっと目をそらし、仮面の下で冷徹に笑った。

「……行きたくば、行け、ゴーダーツ。妖精から紋章を奪い取るのだ」

「は、はっ! ありがとうございます、デザイア様!」

 ゴーダーツは勢いよく立ち上がると、デザイアにまた深く頭を垂れた。

「妖精どもから紋章を奪い取り、戻ってまいります」

「ああ。安心しろ。貴様はあんな腰抜けに遅れは取らぬだろう」

 デザイアは今朝の様子を思い出し、笑った。


 ――――『返して』


 ――――『それはこの子たちの、そしてこの子たちが住んでいたロイヤリティの物だよ』


「片方のプリキュアに戦う意志はない。ゴーダーツ、貴様はもう片方のプリキュアを倒しさえすれば、紋章を手に入れることができるだろう」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:24:45.65 ID:ZtE3BbpK0

「左様ですか。ならば、なお簡単なこと……必ずや、紋章を持ち帰ってごらんにいれましょう」

 ゴーダーツはマントを翻し、デザイアに背を向けた。アンリミテッドの幹部としての自信に溢れるその姿に、迷いはない。

「……ああ、楽しみにしているぞ、ゴーダーツ」

 ロイヤリティがそうなったように、いずれホーピッシュも闇に墜ちる。アンリミテッドの欲望が食い尽くす。

 それを覆すことなど、たとえロイヤリティの伝説の戦士であったとしても、できはしない。


 ――――『初めまして。わたしは、王野ゆうき。このダイアナ学園女子中等部の2年生です』


「…………」

 しかし、である。

 王野ゆうきと名乗った、あの少女は、腰抜けで、弱虫で、臆病者でありながら、どこかデザイアの心の奥深くに引っかかっている。

 あの少女は、もしかしたら、アンリミテッド最大の障害となりえるかもしれない。

「それでは、デザイア様、行って参ります」

「…………」

 しかし、それをゴーダーツに伝える前に、彼は消え去った。ホーピッシュへ飛んだのだろう。

「……否。杞憂だろう。我々アンリミテッドは闇の欲望を統べるのだ。敗北などあり得ない」

 そこは黒い場所。

 光はあれど、闇の中にあるような、そんな場所。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:25:36.05 ID:ZtE3BbpK0

………………

 フレンにとって、アンリミテッドはただ憎むべき敵だった。

 住んでいた世界を飲み込まれ、知らない世界に放り出されたのだから当然だ。

 アンリミテッドが憎い。憎くてたまらない。アンリミテッドは、フレンの大切なものをあまりにも多く奪いすぎたのだ。

「ゆうきの、ばか……」

 やっぱり、当事者でなければ分からないのかもしれない。この悲しみ。この憎しみ。この、どうしようもないほど悔しい気持ちは。だからきっと、ゆうきも、怖くなって逃げたのだ。

「……ねえ、フレン。どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?」

 帰り道。ブレイと一緒に抱えられるようにして、フレンはめぐみの腕の中にいた。鞄に入れて運ぼうとするめぐみに、こうしてほしいと頼んだのだ。理由は恥ずかしくてもちろん言えないが、めぐみの体温を感じていないと不安だったからだ。

「だって、ゆうきが……」

「王野さんがプリキュアをやめてしまったから?」

 頭上から降ってくるめぐみの声は優しさそのものだ。

「……ニコ」

「そうね。王野さんがやめてしまって、少しさみしいわね」

「さ、さみしいなんて言ってないニコ!」

「あら、じゃあなんでそんなに悲しそうなの?」

「それは……プリキュアをやめるゆうきに怒ってるからニコ!」

「でも、怒ってるようには見えないわ」

 何をバカなことを、と怒ることもできなかった。めぐみの言っていることがまさしく本当のことだと、フレンにも分かっていたからだ。

「……でも、怒ってもいるニコ」

「ええ。それだけ、王野さんのことが好きだったのね」

「…………」

「助けてくれるって信じてたから。一緒に戦ってくれるって信じてたから。それだけ、王野さんのことを信じていたから、そんなにやるせないのよ」

「……そうかもしれないニコ」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:26:17.08 ID:ZtE3BbpK0

 フレンはたしかに見たのだ。

 昨日、ゆうきがフレンとブレイに逃げてとだけ短く告げて、今まさにウバイトールが襲いかかろうとしているめぐみの元へ駆けたとき。

 そのときに、見たのだ。

 ゆうきの背中に漂う、戦士の風格。勇気溢れるグリフィンの翼を。

「信じてたのに……」

「……ブレイは、まだ信じてるグリ」

「え……?」

 今の今で黙りこくっていた傍らのブレイ。彼が口を開いた。ブレイの目は遙か遠くを見据えていて、その決然とした目に、もう涙はなかった。

「信じてるって、何をニコ?」

「……ゆうきは戻ってきてくれるグリ。ブレイはゆうきを信じているグリ」

「どうして、そんなことが言えるニコ?」

「だって、ゆうきはプリキュアをやめるなんて一言も言ってないグリ」 ブレイはやっぱり、なぜか自信満々に。「それがブレイが考えた答えグリ。ブレイはゆうきを信じてるグリ」

「……そうニコ。勝手にすればいいニコ」

 もう、信じて裏切られるなんてまっぴらだ。きっと自分はゆうきのことを気に入っていたのだろう。だからこんなに空虚な気持ちになっているのだ。

「でも、大丈夫よ。どちらにしろ、あなたたちは私が守るから」

 ただ、今はゆうきを失ったさみしさを、めぐみの温かい腕と言葉で埋めておきたい。めぐみがかけてくれる優しい言葉がただただ心地いい。

「大丈夫。あなたたちは、私が絶対に守るからね」


「言葉だけならなんとでも言えるぞ? プリキュア」


「っ……!」

 それはやはり、唐突に現れた。ほまれ町を通るほまれ川、そこにかかる橋の中央に、彼は立っていた。

「ゴーダーツ……!」

 それは深く欲望に根ざした、アンリミテッド。闇の戦士、ゴーダーツだ。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:27:27.09 ID:ZtE3BbpK0

「ふん。名前くらいは覚えていたようだな、プリキュア」

「フレン、ブレイ、わたしの後ろに隠れて!」

「ニコ!」 「グリ!」

 フレンはブレイの手をひっつかみ、慌ててめぐみの腕から飛び降りた。身構えるめぐみの足下に隠れ、ゴーダーツの姿を陰から見つめる。

「今度はあなたなのね。デザイアとかいう人はどうかしたの?」

「うぬぼれるな。貴様らごとき、あのアンリミテッド最強の騎士が出撃されるまでもない」

 ゴーダーツは不敵に笑う。

「それにしても、デザイア様がおっしゃっていたことは本当だったようだな。くく……もうひとりのプリキュア、逃げ出したのか?」

「っ……」

 思わずうめき声が漏れる。考えないようにしていたのに、ゴーダーツの言葉でむりやりに思い起こされてしまう。

「とんだ腰抜けがプリキュアになったものだな。それも、勇気の王子が生み出したプリキュアであろう? くく……今の勇気の国の王族と同じか。連中は皆、腰抜けで弱虫だからな」

「弱虫なんかじゃないグリ! ブレイたち勇気の国の王族は、みんな勇敢な心の持ち主グリ!」

 めぐみの後ろから、ブレイが叫んだ。ブレイは誇り高い王族らしい王族だ。自分の家系が馬鹿にされれば、黙ってはいない。けれど、

「ほう? ならば剣を取って私と戦うか? 私は一向に構わんぞ?」

「うっ……」

 ブレイがガタガタと震え出す。ブレイは自分では決して認めようとはしないが、やっぱり臆病なのだ。

「……あなたの相手はこの私、でしょう? それとも、伝説の戦士が怖いのかしら?」

 めぐみがふたりを庇うように言葉を放つ。ゴーダーツは不快そうにめぐみをねめつけた。

「くだらん。貴様の相手は私だけではない」


 そして、世界が闇に沈む。


「出でよ、ウバイトール!!」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:27:54.30 ID:ZtE3BbpK0

 眼下の川が、両側の並木道が、目の先に連なる住宅街が、すべてモノクロに沈む。世界から色が消え失せ、そして、青空に亀裂が走る。

「まずい……! 逃げるわよ!」

 めぐみが慌ててフレンとブレイを抱えて橋の上から逃げる。なんとか道路までたどり着いたとき、地面が大きく揺れて、めぐみは大きくころげてしゃがみこんだ。
「めぐみ!」

「大丈夫よ。大丈夫だから」

 フレンの声に、めぐみが笑って返答する。

「あ……あわわわわ……」

 ブレイが橋の方を見て目を剥いている。フレンがその先に目を向けると、今まさに、橋が動き出すところだった。

「……電柱のときも驚いたけれど、これは……すごいわね」

 それはもはや橋でありながら橋ではなかった。目前で分断された橋と道路のアスファルト。巨人が目覚めるかのように、橋が身をもたげたのである。あるはずのない腕、あるはずのない足、そして、あるはずのない悪辣なる瞳に闇を宿して、橋が川の上に立ち上がる。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「ふははははは!! 守るというのなら、このウバイトールを倒して見せるのだな! 伝説の戦士プリキュア!」

 ウバイトールとなった橋の上から、ゴーダーツが嘲弄する。

「……めぐみ、変身ニコ!」

「ええ!」

 フレンの言葉にめぐみが素早く立ち上がる。そして、薄いブルーのロイヤルブレスをかざした。それはモノクロに墜ちた世界で、燦然と輝くような色の腕輪だ。

「受け取るニコ、めぐみ! 優しさの紋章ニコ!」

 フレンの身体から青い閃光が飛ぶ。それはめぐみの空いた手の中で輝き、やがて形を成す。

 清浄なる、角を持つ白馬の紋章。

 優しさを象徴する神獣、ユニコーンの力。

「……行くわよ!」

 めぐみは優しさの紋章を握りしめ、流れるような仕草でロイヤルブレスに差し込んだ。

 そして、声高らかに叫ぶ。


「プリキュア・エンブレムロード!」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:28:32.94 ID:ZtE3BbpK0

 激烈な光が、色が、めぐみの身体を包み込む。

 それは温かく優しい光。けれど苛烈で、たしかな力を感じる、圧倒的な力の光。

 めぐみの身体を取り巻くその光は、やがてめぐみをリボンのように覆っていき、衣装へと姿を変える。

 胸元のリボン。フリフリのフリルスカート。編み込みのブーツ。

 薄青の光が、めぐみの姿を変えていく。

 そして、その光が炸裂する。

 はるか上方より華麗に大地に舞い降りる。

 それはすでに、めぐみであってめぐみではなかった。



「守り抜く優しさの証! キュアユニコ!」



 清浄なる空色の光が舞い上がり、散った。

「とっても、きれいニコ……」

 フレンは心の底から誇らしく思うのだ。

 あんなに美しいプリキュアを生み出すことができた、自分自身を。

 そして、キュアユニコそのものを。

 自分のために戦ってくれる、優しいプリキュアを。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:29:03.93 ID:ZtE3BbpK0

「さっさと片をつけてやるんだから!」

 ユニコの心に迷いはない。戦うことが怖くないわけはない。

 けれど、守りたいから。

 自分の後ろにいる、か弱いふたりを。

「はあああああああああああああああああ!!」

 ユニコのブーツがアスファルトを踏みしめる。そして、跳んだ。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 今回のウバイトールは巨大だ。だからこそ、駿馬のごとく速いユニコを捉えきれるわけはなかった。

 一直線にウバイトールの眼前に迫ったユニコは、そのままウバイトールに跳び蹴りを加えた。プリキュアとしての力だろう。幾重にも増幅された蹴りは威力抜群で、ウバイトールはその巨体で後ろに倒れ込む。

『ウバアアアアアアア!!』

 川の水がしぶきを上げ、荒れる。ユニコはそのまま身を翻し、河原に着地した。

「ふん。なかなかやるな、キュアユニコ」

 低い声が響いた。堤防の上の遊歩道から、いつの間にか移動したゴーダーツがこちらを見下ろしていた。

「昨日のあなたのおかげでね。私も、だいぶプリキュアの力の扱い方に慣れることができたわ」

「吠えるな。ウバイトール!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 勢いよくウバイトールが立ち上がる。その巨体が身をもたげただけで、大地がごろごろと大きく地鳴りを起こす。

「思い上がったプリキュアを叩きつぶせ!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 ウバイトールはその巨体をぶるぶると震わせ、高く飛び上がった。

「なっ……」

 突然のことに呆気に取られたユニコだったが、すぐに飛び退った。ウバイトールの着地地点が、自分だと分かったからだ。

 ズドン! と。大地が揺れる。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:30:08.60 ID:ZtE3BbpK0

「っ……!」

 轟音を響かせて、巨大なウバイトールが河原に着地した。大地の揺れは収まらない。足下がおぼつかないためうずくまる。その一瞬の隙をつき、ウバイトールが長い腕をユニコに向け振るった。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

(まずい……!)

 心の中で危機を察するも、とっさのことに身体が動かない。ユニコはなんとか両腕でガードを作り、そしてそこにウバイトールの巨大な腕が激突する。

「きゃああああああああああああああああああああああ!!」

 吹き飛ばされ、身体が宙に浮く。悪辣なる欲望の化身は、相手が誰であろうと手加減などするつもりはないようだった。圧倒的な膂力に吹き飛ばされたユニコは、そのまま堤防に背中から叩きつけられた。

「ぐっ……」

 プリキュアの力のおかげだろう。痛みはあるが、致命的な怪我をした様子はなかった。しかしあまりの衝撃に身体に力が入らない。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 しかし、それでも敵は攻撃の手を緩めてくれはしない。地響きをたてながら、ウバイトールが目前に迫る。

「くく……いいざまだな、プリキュア。王者の下僕ともあろうものが、大地に這いずるのか」

 ゴーダーツがあざ笑うように言う。

「それがロイヤリティの王者などに仕えた者の末路だ、伝説の戦士。誇りというしがらみにとらわれた王族などに力を貸すから、そうなる。むりに戦わされ、気に入らなくなったらすぐに切り捨て、新しい家臣を徴用する。それがロイヤリティの王族のやり口だ」

「違うニコ! フレンはそんなことはしないニコ!」

 ゴーダーツの言葉に、フレンの言葉が被さる。しかし、ユニコにどちらが正しいのかを判断することはできない。ユニコは、ロイヤリティのことを知らないからだ。

「…………」

「どうした? 悔しくて声も出ないか?」 ゴーダーツの顔は見えない。しかしその顔にはユニコを見下す表情が浮かんでいるのだろう。「まぁ、私も鬼ではない。貴様だけなら助けてやらんこともないぞ?」

「…………」

「その腕にあるロイヤルブレス。そして優しさの紋章をおとなしく差し出すのだ。そうすれば、お前だけは見逃してやる」

「へぇ……」

「ユニコ! お願いニコ、フレンを信じてニコ!」

 目前には巨大なウバイトール。そして、その隣にはゴーダーツの申し出。そして、フレンの声。

 そんなの、迷うまでもなかった。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:31:23.48 ID:ZtE3BbpK0

「……くだらないわ」

「なにっ……?」

「私がそんな申し出を、受けるとでも思ったの?」

 手が震える。足が震える。けれど、大丈夫。手も足も、まだ動く。

「下僕? バカを言わないで。私はフレンとブレイの “友達” よ。私にはロイヤリティのことなんて分からない。知らないもの。けど、友達の言うことを信じことは、できる!」

「ユニコ……!」

「安心して、フレン、ブレイ。あなたたちは私が、絶対に守るから」

「……ふん。ならばこれでどうだ?」

 震える足で反応できるわけがなかった。ゴーダーツは瞬時に姿を消し、次の瞬間には、フレンとブレイを両手に握りしめていたのだ。

「ゆ、ユニコぉ……!」

「なっ……! ふたりを放しなさい!」

「断る。ウバイトール!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 目を離している間に、ウバイトールが再度、長い腕を振り上げていた。

「しまった……!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 真上から振り下ろされた腕に、なんとか耐える。圧倒的な重量がユニコを圧迫する。

「う……くっ……」

「ユニコ!」

「人の心配をしている場合か? 優しさの王女」

 ゴーダーツの声がどこか遠い。心配してくれている、フレンとブレイの声も、どこか、遠い。

 もしかしたらもう限界なのかもしれない。力が入らない。入らないものをむりやり出して、なんとかウバイトールの腕を支えているだけなのだ。

(だめ……動けない。だんだん力が、抜けていく……)

 ウバイトールの腕が段々と下がってくる。それに対し、ユニコはひざまつくように大地に足をついた。懸命に耐える腕も、徐々に下がってくる。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:34:59.03 ID:ZtE3BbpK0

「さて、プリキュアが始末できたら今度はお前たちの番だ。分かっているだろうな?」

「ユニコ……ユニコ!」

「っ……人の心配をしている場合かと言っている!」

「友達の心配をして何が悪いニコ!」

 遠く、その大切な友達の声が聞こえた。ユニコは最後の力を振り絞り、ウバイトールの怪力に対抗する。

「なんだと……?」

「ユニコはフレンの大切な友達ニコ! 心配して当たり前ニコ!」

「貴様……!」

「フレンの言うとおりグリ!」

「……何が言いたい、勇気の王子」

「友達を心配して何が悪いグリ! 友達を想って何が悪いグリ!」

「ッ……! 貴様ら……!」

 フレンとブレイの暖かい声が遠くなっていく。自分が負けたらどうなるのだろうか。フレンとブレイはどうなってしまうのだろうか。

「……私、フレンと約束、したのに……」

 悔しかった。このまま負けてしまうことが、たまらなく悔しい。

 なぜか、頭の中に、いつも笑顔でいる、“相棒” の顔が思い浮かんだ。

「王野、さん……」

 少しドジで、本人はよく分かっていないみたいだけれど、天然で、自分と違って、素直で明るい、そんな女の子。

「……ごめん、ね」


「――――ちょおおおっと待ったああああああああああああああああ!!」


「えっ……?」

 一気に、現実に引き戻された気がした。その声を聞いただけで、心が晴れ渡る気がした。少しだけ、力が湧いた。

「貴様は……」

「……最初は、自己紹介からさせてもらうね」

 その明るい声は、荒らぐ息をゆっくりと静めながら、朗らかに言った。ユニコは、自分が絶対絶命なのも忘れて、少しだけ、笑ってしまった。

「わたしの名前はゆうき。王野ゆうき。初めまして」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:35:38.16 ID:ZtE3BbpK0

………………

 最初から答えなんて決まっていた。

 王野ゆうきという自分自身が、何をどうすべきかなんて、ずっと前から決まっていたのだ。

「……何を言っている、貴様」

「まぁいいや。あんまり時間もないし、これ以上ユニコを苦しめたくないから」

 ゆうきはさばさばと続ける。

「ゆうき、どうして……?」

 ゴーダーツの手の中のフレンが小さく問うた。それに対し、ゆうきは優しく微笑んだ。

「ごめんね、フレン。わたし、分かったんだ」

「へ……?」

「ねえ、あなた。ゴーダーツさんって言ったよね? 優しさのエスカッシャンを、フレンに返して」

「……何を言っている」

「分からない? あなたがフレンの国から奪ったエスカッシャンを返してって言ってるの」

「……だから何を言っているのかと問うている!」

 ゴーダーツがいらいらしたように叫ぶ。それにともなって、ブレイとフレンを握りしめる手の力も強くなる。

「そう。あなたもデザイアと一緒なんだね、ゴーダーツ。分かったよ。なら……」

「ほう? ならどうすると言う? デザイア様が言っていたぞ? お前のことを腰抜けだと。プリキュアとしての戦いから逃げ出した弱虫だと」

「そうだね。わたしは弱いよ。弱虫だよ。腰抜けだよ。だって、怖いもん」

 ゆうきにとって、そんな言葉は意味をなさなかった。そんなこと、わざわざ言われなくたって、自分でもわかりきっていることだからだ。

「ゆうき……」

「でも、怖いのは怪物と戦うからじゃない。あなたたちアンリミテッドと戦うからでもない。あなたたちの悪意そのものが、怖いんだよ」

「なに……?」

「人と人は想い合って、助け合って生きていくことができるはずなんだよ。それなのに、最初から悪意しかないあなたたちは、怖いよ。そんなの、おかしいよ」

 ゆうきは続ける。

「そして、そんなあなたたちとユニコ――大埜さんが戦うのも、怖いよ。大埜さんはとっても優しいひとなのに、あなたたちアンリミテッドに対してはとっても怖いんだ。わたしはね、大好きな人が、誰かにあんな怖い顔をするなんて、そんなの見たくないんだ」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:36:04.13 ID:ZtE3BbpK0

「何を意味の分からぬことを。我々アンリミテッドの欲望がロイヤリティを飲み込んだのだぞ? 我々はロイヤリティの敵だ。つまり、貴様らロイヤリティ王族の下僕は、我々の敵だろう」

「……そうかもしれない。けど、わたしは、悪意に対してただ暴力で対抗するなんてしたくない」

「貴様、さっきから何を言っている……!」

 ゴーダーツが吠える。ゆうきはその悪意を、敵意を、身体中で感じながら、けれどもう臆さない。

 決めたからだ。

「わたしはもう、迷わない。あなたたちは悪いことをしている。だったら……」

 もう、決めたのだから。



「あなたたちアンリミテッドは、わたしが叱りつけて、改心させてやるんだから!」



 ビシッ! と指をつきつける。我ながら、決まったと思った。が、

「…………」

「…………」

「…………」

 ブレイ、フレン、ゴーダーツ、三者が静まりかえる。

(あ、あれ……? 外した……?)

 結局、考えが決まっても、カッコをつけてみても、ゆうきはゆうきで、天然だった。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:36:45.71 ID:ZtE3BbpK0

「よく、わかんないグリ……でも」

 そんな中、一番最初に我に返ったのは、ブレイだった。

「……とりあえず、受け取るグリ! 勇気のロイヤルブレスグリ!」

「!? しまっ……」

 そう。その瞬間こそ、まぎれもないチャンスだったのだ。ゴーダーツが慌てた声を上げるがもう遅い。ブレイが投げたロイヤルブレスは放物線を描き、再びそれを装着すべき人間の手に収まったのだ。

「……ごめんね、ブレイ」

「いいグリ。ブレイは、ゆうきを信じてたグリ」

 ロイヤルブレスを腕に装着する。ほんの一時間くらいつけていなかっただけなのに、なぜか懐かしい感じがした。心の底から、力が湧いてくるような気がした。

「受け取るグリ! 勇気の紋章グリ!」

 薄紅色の光がブレイから放たれる。その光はまっすぐにゆうきへと向かい、その空いた手に収まり、形を成す。

 勇壮なる、翼を持つ獅子。

 勇気を象徴する神獣、グリフィンの力。

「わたしはもう……迷わない!」

 流れるような動作で、勇気の紋章をロイヤルブレスへと差し込む。

 そして、ゆうきは叫んだ。


「プリキュア・エンブレムロード!」


 激烈な光が、色が、ゆうきの身体を包み込む。

 それは温かく優しい光。けれど苛烈で、たしかな力を感じる、圧倒的な力の光。

 ゆうきの身体を取り巻くその光は、やがてゆうきをリボンのように覆っていき、衣装へと姿を変える。

 胸元のリボン。フリフリのフリルスカート。ショートブーツ。

 薄紅の光が、ゆうきの姿を変えていく。

 そして、その光が炸裂する。

 はるか上方より轟音を立てて大地に降り立つ。

 それはすでに、ゆうきであってゆうきではなかった。


「立ち向かう勇気の証! キュアグリフ!」


 勇猛なる桃色の光が舞い上がり、散った。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:37:28.97 ID:ZtE3BbpK0

………………

「とっても、かっこいいグリ……」

 ブレイはその伝説の戦士の姿を見て、つぶやいた。

 ブレイは本当に、心の底から誇らしく思うのだ。

 あんなに勇敢なプリキュアを生み出すことができた、自分自身を。

 そして、自分のために戦ってくれる、誠実で勇敢なプリキュアを。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:38:26.31 ID:ZtE3BbpK0

「くっ……よくもやってくれたな、勇気の王子!」

「グリっ……!」

 けれど結局、ブレイは臆病で、ゴーダーツに怒鳴られるだけで萎縮してしまう。

 しかし、彼の生み出したプリキュアが、そんなチャンスを逃すはずがない。

「伝説の戦士の前でよそ見とは、」

「……!?」

「――いい度胸だね、ゴーダーツ!」

 キュアグリフは大地を踏みしめ、跳んだ。ゴーダーツが気づいたときには、すでに彼の眼前に迫り、目の前で笑みを浮かべてやる余裕すらあった。

 不思議だった。暴力は怖いけど、力が溢れてくる。

「はあああああああああああああ!!」

「ごっ……!?」

 腰を回し、全力の正拳を腹に放つ。衝撃によろめくゴーダーツから素早くブレイとフレンを奪い返し、そのままの勢いで河原へと飛び降りる。

「ちょっと揺れるかもだけど、我慢してね!」

「グリ!」 「ニコ!」

 河原に降りたその衝撃を利用して、グリフは先のユニコにも劣らぬスピードでウバイトールへと突っ込んだ。

「はあああああああああああああああああああああああああ!!」

『ウバッ……!?』

 背後から迫る脅威にウバイトールが気づいたようだったが、もう遅い。グリフは身体をひねり、強烈な回し蹴りを放つ。横からの衝撃によろめいたウバイトールの脇に着地し、へたり込んでいるユニコの元へと駆けつける。

「ユニコ、大丈夫!?」

 フレンとブレイを下ろし、尋ねる。しかし、ユニコはうつむいたままで、返事はない。

 グリフにはそれが、ユニコが怒っているように見えた。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:39:19.89 ID:ZtE3BbpK0

「……ごめん」

 無言のユニコに、グリフは大きく腰を折って謝った。自分勝手にプリキュアをやめようとしてしまったこと。またこうして都合良く戻ってきてしまったこと。ひとりで危険なことをさせてしまったこと。許してもらえるとは思わなかった。

 けれど。

「ふふっ……」 ユニコは笑っていた。「……まったくもう。遅いわよ、グリフ」

「え……?」

「それに何よ、さっきの。『あなたたちアンリミテッドは、わたしが叱りつけて、改心させてやるんだから!』って……ふふ」

「わ、笑わないでよ! 真剣なんだから……」

「ふふ……あなたって、本当に天然ね」

 その笑顔にユニコの気持ちが集約されている気がして、グリフは少しだけ心が安らぐ思いだった。

 やっぱり、ユニコは優しい。けれど、だからこそ、いつまでもその優しさに甘えていてはいけない。

「……ユニコ、ブレイとフレンのことをよろしくね」

「何を言ってるのよ、私だって戦うわよ」

「今は、任せて。ユニコ、疲れてるでしょう?」

「……でも」

「わたしなら大丈夫。もう、戦う理由も、意味も、しっかりと見つけたから」

 グリフはだから、笑った。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:42:09.11 ID:ZtE3BbpK0

『ウバ……ウバイトォォォオオオオオオオオオル!! 

 ウバイトールが興奮した様子で、ふたりに腕を振り下ろす。

 しかし。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 グリフが吼え、振り下ろされたウバイトールの腕を掴み、止める。

『ウバ……!?』

「っ……あああああああああああああああああ!!」

 そしてそのまま身体をひねり、力をこめる。

「なっ……!?」

 ユニコの驚く声が聞こえる。けれど、なぜかグリフには何も驚くことなどなかった。



 やれると分かっていたから。



 グリフの身体から桃色の光が立ち上る。それは勇猛果敢なる勇気の光。

 力強きグリフィンの力。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 ブウン!! と。風を切る轟音が鳴り響いた。

『ウバッ……ウバアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 それは、キュアグリフがウバイトールを投げ飛ばした音。

 小さな小さな伝説の戦士が、巨大な怪物を投げ飛ばした音。

 ウバイトールは投げ飛ばされ、轟音を立て大地に倒れ込んだ。

「う、そ……」

 見れば、ユニコとフレンが驚愕に目を見開いていた。ただひとり、ブレイだけは微妙に震えながら、けれど信頼の眼差しでグリフを見つめてくれていた。

「……それは、キュアグリフの “立ち向かう勇気の光” グリ。それがグリフに大いなる力を与えてくれたグリ」

「そ、それにしてもすごいわね。あんな大きいウバイトールを投げ飛ばしちゃうなんて……」

「えへへー、やっぱりすごい?」

「ねぇグリフ。今の私のセリフは褒めてる要素だけじゃないってことに気づいてね?」

 ユニコは呆れるように言うと、笑って立ち上がった。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:42:48.84 ID:ZtE3BbpK0

「あっ、立って大丈夫? ケガはない?」

「大丈夫よ。あなたが大丈夫なように、私も大丈夫なの」

 それは、頼もしい、ユニコの優しさの笑み。

「だって、今はグリフと一緒なんだもの」

「あ……う、うん!」

『ウバァ……ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「……やってくれたな、キュアグリフ」

 投げとばされたウバイトールが立ち上がる。その傍らに憤怒の形相を浮かべたゴーダーツが舞い降りた。

「貴様は腰抜けという話ではなかったのか……!?」

「……腰抜けだよ。勇気なんてないよ。ただの中学生だもん。とっても、怖いよ」

 グリフはゴーダーツをまっすぐに見据え、その憎悪のまなざしも何もかもを受け止めた。

「だって、もう決めたから。わたしは絶対に、ブレイとフレンの宝物と故郷を取り戻す。そして、あなたたちアンリミテッドを叱って、もう悪いことをしないようにさせるって」

「小癪なことを……! ウバイトール! 今度こそあの生意気な小娘を潰せ!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 立ち上がったウバイトールが、再びその邪悪な瞳をふたりへ向ける。

「……ユニコ」

「ええ」

 よろめくユニコを支えながら、ぎゅっとぎゅっと、力強く手を繋ぐ。お互いの体温を交換するように、ふたりの伝説の戦士の力が混じりあって溶けていく。

「……ごめんね、ユニコ」

「いいわよ。蒸し返さないの」 ユニコは茶化すように笑って。「それに、私も少しだけ恥ずかしいし」

「え? どうして?」

「ブレイに偉そうに言ったくせに、ブレイに教えてもらっちゃった。あなたっていう人間のことをね」

「え? え? な、何の話?」

「ヒミツ。さ、行くわよ」

「あ、う、うん!」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:43:35.01 ID:ZtE3BbpK0

 凄まじい光が弾けた。伝説の戦士プリキュアの力が集約する。それは、勇気と優しさの力。王者の誇り、戦士の絆。


 ――薄紅色と空色の光が、その場を埋め尽くす。


「翼持つ獅子よ!」

 薄紅色の勇気の光。

「角ある駿馬よ!」

 そして、空色の優しさの光。

「ぐっ……凄まじい光の力……ロイヤリティの光、そのもの……!」

 ゴーダーツの呻く声が遠く聞こえる。ふたりはなおも強くお互いの手を握り、そして、空いている手をかざす。

 闇の欲望に墜ちた、哀れな怪物へと。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』


「「プリキュア……――――」」


 ふたつの光が螺旋を描き、重なり合っていく。お互いを助け合うかのように、混じり合い、解け合っていく。

 ふたりの背中にイメージが現れる。

 それは、勇猛なる獅子。そして、優しき白馬の影。

 伝説の神獣がふたりに力を与えるかのように、吼え、嘶いた。

 そして――、



「「――――……ロイヤルストレート!!」」



 光が集約し、指向性を帯びてはじけ飛ぶ。ただまっすぐに、欲望に墜ちた怪物へと、向かう。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「ぐっ……この光は、まずい……!」

 薄紅と空色の光が到達する直前、ゴーダーツがかき消えた。遮る者がいなくなったウバイトールに、光が押し寄せる。

『ウバ……ウバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 瞬く間にウバイトールは光に飲み込まれる。もがき苦しみながら、黒々とした何かが這い出てくる。それはやはり光に苦しみながら、やがて霧散し、消滅した。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:44:03.51 ID:ZtE3BbpK0

 世界に光と色が戻る。何事もなかったかのように、橋も消え、元の場所にしっかりとかかっていた。

「……ふぅ」

「終わったようね」

 弾けるように、ふたりの衣装がかき消え、制服に戻る。繋ぎ合っていた手もゆっくりとはなし、はにかむように、照れ笑い。

「ゆうきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

「ブレイ!」

 駆け寄ってきたブレイがピョンと飛び立ち、あきらかにジャンプ力が足りずにコテンと河原に転がってしまう。ゆうきは涙目のブレイをそっと抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。

「……ごめんね、ブレイ」

「ううん、謝らないでほしいグリ。むしろ、お礼をいいたいグリ。ありがとう、ゆうき。戻ってきてくれて」

「……うん!」

 ブレイのもふもふとかわいらしくて温かい身体。その体温を身体いっぱいに感じながら、ゆうきはもう二度とこの友達の事情を投げ出したりはしないと心の中で誓った。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:44:47.55 ID:ZtE3BbpK0

「……まぁ、これで元通りって感じニコ?」

 そんなふたりを眺めながら、もう一組の王女と戦士も語り合う。

「プリキュアに変身したの、まだこれで2回目なのだけれどね」

「なんにせよ、ゆうきが戻ってきてくれてよかったニコ」

「ふふ……」

「何を笑ってるニコ?」

「少し妬けちゃうなぁ、と思ってね。フレンも王野さんのことが大好きなのね」

「なっ……! どうしてそういう話になるニコ!」

「ふふ。ごめんなさい」

「まっ、まったくもう……!」

 めぐみにからかわれたと分かったフレンは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。そして、小さな声で呟いた。

「……それに、フレンは……めぐみがいてくれるだけで、嬉しかったニコ」

「? 何か言ったかしら? 聞こえなかったのだけれど」

「!? な、何でもないニコ! 王女の言うことをいちいち詮索するのはマナー違反ニコ!」

「?」

 戦う理由は人それぞれ。心に秘めた想いだって、きっとばらばらだ。

 けれど、それでもひとは手と手を取り合うことができる。手を取り合って、ままならない事情に立ち向かうことができる。

 そして、一緒に笑い合うことができるのだ。

「ねえ、ブレイ」

「グリ?」

 お互いを支え合って、明日に向かっていくこともできるのだ。

「わたし、もっともっと、プリキュアがんばるからね!」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/07(日) 18:45:16.07 ID:ZtE3BbpK0

    次    回    予    告


ゆうき 「……とかなんとかで戻ってきたゆうきです! 心機一転がんばるよ!」

めぐみ 「単純ね。そんな簡単なことじゃないのよ? 敵はゴーダーツひとりだけではないし……」

ゆうき 「そうだね……恐ろしい怪物、ウバイトールもいるし……」

めぐみ 「いや、そうじゃなくて……いや、そうでもあるんだけど……」

ゆうき 「?」

めぐみ 「首をかしげないでちょうだい! デザイアのことだってあるでしょう!?」

ゆうき 「ああ、そういえば……」

めぐみ 「まったくもう。大埜さんは本当に天然ね」

ゆうき (うーん……わたしの前だとこんなに可愛いのになぁ、大埜さん)

めぐみ 「王野さん、何か失礼なことを考えてないかしら?」

ゆうき 「……と、いうわけで、次回、ファーストプリキュア!」

めぐみ 「ちょっと、人の話を聞きなさい」

ゆうき 「第四話 【おーのコンビは凸凹コンビ!? でもいいんじゃない?】」

めぐみ 「清々しいまでに無視するわね!?」

ゆうき 「次回もお楽しみに! ばいばーい!」

めぐみ 「ちょっと待ちなさい! 話はまだ終わってないわよ!」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/01/07(日) 18:51:34.31 ID:ZtE3BbpK0
>>1です。
見てくださった方、ありがとうございました。
我ながらこの話は状況描写も心情描写もあやふやで分かりにくいです。
読みにくいと思います。すみません。

もしもプリキュア好きの方が見てくださっていたら嬉しいので、
今まで2ch系の掲示板に投下したシリアス寄りのプリキュアSSを貼らせてください。

つぼみ 「帰ってきた希望の花! 新たなプリキュア誕生です!」
ttps://hibari.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1304049251/

舞 「ふたりはプリキュアSplash☆Star」 咲 「星空のともだち!」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1320287288/

めぐみ「ハピネスチャージプリキュア!」ひめ「誠司結婚!? お相手は女神様!?」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483459977/

来週も投下はできると思います。
時間は予定通り午前10時だと思いますが、今日のようにずれるかもしれません。
ありがとうございました。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/10(水) 20:55:55.91 ID:PCkoksF+o
乙乙
続きも期待してる
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/01/14(日) 10:06:33.04 ID:yUNpBkek0
>>1です。
いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。
本日は所用で10時の投下ができなくなりました。
はっきりとは言えませんが、夕方から夜頃の投下になると思います。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:06:33.26 ID:eQRkBpc+0
なぜなに☆ふぁーすと その3

ゆうき 「ゆうきと、」

めぐみ 「めぐみの、」

ゆうき&めぐみ 「「なぜなに☆ふぁーすと!」」

ゆうき 「あんまり話すこともなくなってきて早くもピンチだよ!」

ゆうき 「質問があるととっても嬉しいんだよね」

めぐみ 「開き直ってそんな圧力かけなくていいわよ王野さん」

ゆうき 「っていうことで早速お便りだよ! ペンネームY.O.さんから!」

めぐみ 「開き直りすぎよ王野さん。落ち着いて」

ゆうき 「『ダイアナ学園ってどんな学校なの?』とのことなので、大埜さん、よろしく!」

めぐみ 「はいはい、では、気合いを入れて質問に答えるわ」

めぐみ 「私立ダイアナ学園は、中高一貫の学校なの」

めぐみ 「私たちが在籍している中等部は女子生徒だけの、いわゆる女子校ね」

めぐみ 「高等部は外部進学の男子生徒もいるから、一応共学の扱いよ。男子生徒は少ないらしいけど」

ゆうき 「学力がそれなりに高いから受験に苦労したよ……」

めぐみ (私はそんなことなかったけど、言わない方が良さそうね)

めぐみ 「丘の上にある学校は英国の著名な建築家にお願いしたものらしく、とてもオシャレなの」

めぐみ 「先生方もやる気に満ちている、歴史と伝統を重んじる学校よ!」

めぐみ 「……といったところでいいかしら。それでは、本編、」

ゆうき 「スタート!」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:08:11.36 ID:eQRkBpc+0
第4話【プリキュアコンビは凸凹コンビ!? でもいいんじゃない?】


「ゆうき、あなた最近、少し変わった?」

「えっ?」

 ゆうきはお母さんの唐突な問いに首をかしげた。

「変わったって……どういうこと?」

「うーん、なんていうか……」 お母さんは少しだけ悩むように、「雰囲気が変わったというか、なんというか……ねえ、あなたたちもそう思わない?」

「私知らなーい」

「うーん……」

 時は夕食。父を除く家族みんなで晩ご飯を食べていたときのことだった。お母さんの問いに興味ないとばかりにご飯を食べ続ける妹のともえ、そして困ったような顔をする弟のひかるである。

「どうしたの、ひかる?」

「……うーん。これ、言っていいのかなぁ」

「なによ、もったいつけて。気になるじゃない。言いなさいよ」

「う、うん……」

 ともえの言葉に促されて、ひかるが乗り気ではなさそうに口を開いた。

「……なんていうか、おねえちゃん、少しだけおせっかいが減ったよね」

「お、おせっかい?」

 純粋な弟の言葉だけに、少しだけズキリとくる。

「あ、いや、だから、その、悪い意味じゃなくて……色々とやってくれることが減ったっていうか、少し忙しそうというか……」

「ああ……」

 慌ててそう付け足したひかるに悪意はないのだろう。ただ思ったことを口にしただけだ。たしかに忙しいというのはその通りかもしれない。元より朝に関しては完全にお母さん代わりをやっていることに加えて、学級委員にもなった。そして――



「グリ……」



「!?」

 これだ。

113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:08:42.45 ID:eQRkBpc+0

「? 今なにか声がした?」

 訝しげなお母さん、ともえ、ひかる。キョロキョロと見回す三人が発見する前に、リビングの戸の影に潜む小さなぬいぐるみに飛びついた。

「……なにやってるの、お姉ちゃん?」

 ひかるが不思議そうな顔で問う。

「あ、あはははは……」 三人の目が集中し、汗がだらだらと流れてくる。後ろ手に隠したブレイがもぞもぞと動いている。今ばかりは少しだけ憎らしい。「ち、ちょっと用事思い出した! すぐ戻るから!」

「あ、ゆうき、食事中に! お行儀悪いわよ!」

 お母さんの声に心の中で謝りながら、ブレイに問う

「どうしてリビングに来たの!?」

「……お腹へったグリ」

「ああ……もう少し我慢してて。後でお菓子か何か持って行くから」

「お腹へったグリ」


「…………」

 そう。

「はぁ……」

 何よりこの王子様のお世話が、一番忙しいかもしれない。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:09:39.86 ID:eQRkBpc+0

…………………………

「ねえねえねえゆうきぃ」

「なぁに、ユキナ?」

 とある休み時間。平常授業が始まって、休み時間は貴重な骨休みだ。次の時間の準備をして、机でゆっくりくつろいでいたそんなとき、ユキナが甘えるようにしなだれかかってきた。

「これ、クラスの掲示板に貼ってもいいかなぁ?」

 ユキナが上目遣いで差し出してきたのは、A4サイズの一枚の紙。

「なに、これ?」

「演劇部のポスターだよ。今度の新入生歓迎会で講演する演劇の告知なの」

「? 新入生歓迎会のポスターなのに、どうして二年生のうちのクラスに貼るのよ」

「新入生歓迎会は、二年生以上も自由に観に来ていいんだよ。だから、その告知のために貼りたいんだ」

 ゆうきの問いに答えたのは、少し低いボーイッシュな声。いつの間にか傍らに有紗が立っていた。有紗もユキナと同じ演劇部員なのだ。

「私からも頼む、ゆうき。クラスのみんなにも私たちの演劇を観てもらいたいんだ」

「うん、もちろん、そういうことならいいよ。でも、学級委員以外が教室の掲示物を勝手に変えちゃいけないから、これは先生に言ってから、わたしが貼っておくね」

「おお! さっすがゆうきぃ! 話が分かるね!」

「ち、ちょっと重いよユキナ!」

 ますます体重を預けてきたユキナにたまらず声を上げると、呆れたような顔をして有紗が引きはがしてくれる。

「あんたは、まったく……」

「えへへー、ごめん」

 腰に手を当てるお姉さんのような有紗と、反省しているのかしていないのか分からない妹のようなユキナ。そんな凸凹コンビを眺めていると、ふと視線を感じた。

「……?」

「…………」

(大埜さん?)

 数秒間だけ視線が交錯する。クラスでは無表情に徹している(ようにゆうきには見える)めぐみは、そのまま笑みを浮かべることもなく視線を逸らした。

(どうしたんだろ?)

「じゃ、頼んだねー、ゆうきっ」

「あ、うん。今日の放課後までには貼っておくよ」

「ありがとう。頼んだ」

 朗らかに頼むユキナと、丁寧にお辞儀までしてくれる有紗。そんな対照的なふたりだが、どこか馬が合うのだろう。

(まあ、よく考えたら、)

 と、ゆうきは、すでに次の時間の予習に没頭しているめぐみの方を眺めながら思った。

(わたしと大埜さんも、結構凸凹だよね)
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:10:48.54 ID:eQRkBpc+0

……………………

 そこは黒い場所。光はあるが、すべてが黒いために暗く見える、そんな場所。

「……申し訳ありません、デザイア様」

「…………」

 その闇――欲望の闇の主、暗黒騎士デザイア。小柄な紳士のような出で立ちの騎士は、仮面の下に隠された両目で、ひれ伏す部下を無言で眺めている。

「一度ならず二度までも、プリキュアに対し敗走を喫してしまいました。これは私のミスです。いかなる処罰も受ける所存でございます」

 部下――ゴーダーツは、低く低く頭を下げ、主の言葉を待った。相手は恐ろしい闇の主。アンリミテッド最高司令官にして最強の騎士であるデザイアだ。自分の生殺与奪の権利は、すべてあちらに握られていると考えるのが妥当であった。

「……よい」

「は……?」

 やがて、ゴーダーツにとって何時間とも思えるほどの時間が経った頃、デザイアが小さくつぶやきの声を上げた。

「よい。前回は敗走ではなく、私にプリキュアの誕生を伝えるための撤退であろう。そして今回は初の敗走。それも、私の誤った情報によって、貴様が混乱したことも否めない」

「い、いえ! 決して、そのようなことは……!」

「構わん。まさかあの腰抜けのキュアグリフが、再び伝説の戦士として舞い戻るとは、私も思っていなかった。今回の貴様の敗北は、私の無駄な情報によるところも大きい」

「……恐れながら、それに関しては、同意いたしかねます」

「…………」

 ゴーダーツは頭のてっぺんからつま先まで、冷や汗を流しながら、しかし思ったことをそのまま口にした。彼もまたアンリミテッドの一員。己が言わんとしていることを、飲み込むようなタマではないからだ。

「プリキュアがひとりであれ、ふたりであれ、私は勝利しなければならなかった……私が、私の責任で敗北したという事実は、どうであれ変わりようがありません」

「…………」

「申し訳ありません。敗北した身でありながら、デザイア様に失礼なことを申し上げました。お詫びのしようもございません」

「……構わぬ。それが貴様の欲望のあり方だというのなら、な」

 デザイアはそれだけ言うと、彼方を見つめるように上を向いた。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:11:20.76 ID:eQRkBpc+0

「それで、ダッシューとゴドーはまだ来ないのか?」

「は、それが、まだのようでして……」

「分かった。ならばよい」

 デザイアはふっと息をつくと、再びゴーダーツを見下ろした。

「デザイア様」

「ああ、行け、ゴーダーツ」

「はっ! ありがとうございます!」

 ゴーダーツは颯爽と立ち上がると、マントをたなびかせ身を翻した。

「では、行って参ります、デザイア様」

「ああ」

 ゴーダーツが瞬時に消え失せた。ホーピッシュヘ飛んだのだろう。

「……伝説の戦士、プリキュアか」

 ただひとりが残された闇の中で、デザイアはそっとつぶやいた。

「……どうやら、プリキュア攻略、および妖精の捕獲、そしてホーピッシュ攻略に向けて、本腰を入れる必要がありそうだな」

 アンリミテッド最強の騎士、デザイア。その仮面の下の表情は、誰も知らない。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:12:12.75 ID:eQRkBpc+0

…………………………

「王野さん」

「うん?」

 放課後、教室に残って作業をしようとしていたゆうきに声がかかる。涼やかでクールなその声は、学級委員の相棒、めぐみのものだ。

「何か用?」

「そうではないのだけれど……それは?」

「?」

 めぐみの目線の先は、ゆうきの机の上。広げられた書類に向いていた。

「ああ……演劇部、吹奏楽部、美術部、文芸部、それから運動部合同、それぞれのポスターだよ」

「何でこんなにたくさん……」 めぐみは不可解だと言わんばかりに。「王野さん、あなた、更科さんと栗原さんに頼まれただけだったんじゃないの?」

「うん、そうだったんだけど……」 ゆうきは少しだけ言葉を濁しながら。「実はあの後、他の部の子たちにも頼まれちゃって……」

「……呆れた。みんなあなたに頼んだのね」

「まぁ、学級委員じゃないと、クラスの掲示物を増やせないからね。仕方ないよ」

「…………」

 めぐみが何か物言いたげな目線をくれる。思い当たることを見つけ、少しだけバツが悪い思いで苦笑い。

「た、多分、みんなが大埜さんに頼まなかったのは、大埜さんが忙しそうだったからじゃないかなー」

「……いいわよ。変に気を遣わなくて」

 近くに誰もいないからだろう。めぐみはクールな装いもどこへやら、頬を膨らませて、子どもっぽくぷいとそっぽを向く。自分がアテにされないことが少し寂しいのだろう。ともあれ、である。

(そういうところをクラスのみんなの前で出していけば、すぐに色々と頼み事もされるようになると思うんだけどなぁ)

 それが良し悪しかはともかくとして。

 そう思いはするが、ゆうきにとってめぐみのように優秀になることが難しいように、めぐみにとってはその朗らかさを人前で出すことが難しいのかもしれない。

 ただ、そんなことは絶対にめぐみには言えないけれど、こう思う。

 その子どもっぽい朗らかさを自分の前だけで出してくれているという事実が、嬉しい、なんて。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:13:22.56 ID:eQRkBpc+0

「まぁ、仕方ないわ。私も手伝うから、さっさと貼ってしまいましょう」

「あ……で、でも、悪いよ。わたしが勝手に頼まれただけなんだから……」

「いいから貸しなさい。あなた、そうやって何でもかんでもやろうとするの、悪い癖よ」

「あぅ……」

 半ば無理矢理、机の上のポスター類をめぐみに奪われてしまう。けれどゆうきは、めぐみのその優しさには気づけても、めぐみが気づいているゆうき自身のことには気づかない。

 強引に奪い取られでもしない限り、ゆうきは自分に与えられた仕事を手伝ってもらうことすら拒否してしまうということを。

 人に頼られるのは大得意なのに、人に甘えることは苦手なことを。

 めぐみはそんなゆうきに気づいているから、無理にでも仕事を取り上げる。そうでもしないと、ゆうきは自分が頼まれた仕事を自分ひとりでやる癖をつけてしまうから。

(……なんだかんだで、この子も難儀な子よね)

 めぐみは思っても口にはしない。目の前の優しさが過ぎて天然ですらある相棒は、きっとそんなことを言っても信じることはないだろうから。

「これ、ここでいいかしら?」

「あ、先生が左の方の掲示物は全部剥がして良いって言ってたから、もっと下でも大丈夫かも」

「そう……じゃあ、ちょっと均等な配置を考えてくれるかしら? その通りに私が貼るわ」

「うんっ、りょうかーい」

 そう。きっとなんだかんだで、そんなふたりは凸凹で、けれどだからこそ良い相棒なのかもしれない。

 優しすぎて、少し自分を殺してしまいがちなゆうきと、優しいけれど、素直にそれを表現することが苦手なめぐみ。

 そんなふたりだから、きっと、そう――



「――……うまくいってるんだろうね、有紗」

「そうだね、ユキナ」

 教室の外、廊下からそんなふたりの様子をうかがっていたユキナと有紗が、複雑な顔で笑い合う。

「ゆうきったら、妬けちゃうなぁ。どんどん大埜さんと仲良くなっちゃって」

「いいことじゃないか。私も早く大埜さんと友達になりたい」

「はいはい。さ、いつまでも観てないで、部活行こー」

「ああ、分かったよ」

 真剣な顔でなにやら机と掲示板とにらめっこしているゆうきと、それを苦笑しながら眺めるめぐみ。そんなふたりを尻目に、ユキナと有紗は教室を離れた。

 おーのコンビは、なんだかんだですごいコンビなのかもしれないなと、少しだけ思いながら。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:14:42.55 ID:eQRkBpc+0

…………………………

「はふぅ……やっと終わったね」

「ええ」

 笑い合って見上げた先、教室後方の掲示板には整然とポスターが並んでいる。自分たちでやったことだが、よくできたと思う。

「じゃあ、フレンたちを迎えに行きましょう。きっと待っているわ」

「うんっ」

 教室を出て、向かう先は校舎脇の中庭だ。ふたりの足音を聞きつけたのか、ガサガサと草むらが揺れて、ヒョコッと小さな顔がふたつ、顔を出す。ゆうきはしゃがみ込み、愛らしい姿のふたりを迎えた、が。


「ゆうきぃー!」

「わふっ」

 その片方、茶色いずんぐりむっくり体型のぬいぐるみがゆうきの顔面めがけて突撃した。本人には攻撃する意志はおろか、勇気すらないだろうが、それでもやられた方はたまらない。

「お、王野さん!?」

 あまりの衝撃に後ろに倒れかかるゆうきをめぐみが支えてくれる。なんとか自分で持ち直すことができたゆうきは、そのままずるずるとすべって落ちたブレイを両手でキャッチする。

「……ブレイ、あなたねぇ」

「グリぃ〜〜〜……」

 ブレイにとっても思わぬ衝撃だったのだろう。体中を真っ赤にして目を回している。

「大埜さん、ごめんね。ありがとう」

「どういたしまして。それよりあなた、顔が真っ赤よ?」

「……だろうね」

 鼻血が出ていないことがまだ救いだろうか。

「まったく、これだから弱虫はだめニコ」

「フレン、そういうことを言うものではないわ」

 ゆっくりゆったりと草むらからやってくる、空色のぬいぐるみ。彼女の呆れるような声をたしなめるのは、めぐみの役目だ。しかし当のフレンは気にする様子もなく、ゆったりとめぐみの足下にすり寄る。

「本当のことを言ったまでニコ」

「あなたねえ……」

 ため息をつきながら、しかしめぐみはフレンを優しく抱き上げる。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:15:22.68 ID:eQRkBpc+0

「ブレイ、ブレイ。しっかりして」

「グリっ」

 ゆうきがブレイを揺すると、ようやくブレイは我に返ったようだった。かと思えばすぐに泣き出して、ゆうきを困らせる。

「グリぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「ち、ちょっとブレイ? 一体どうしたっていうの?」

「フレンがぁ〜〜〜フレンがいじめるグリぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「わかった! わかったからちょっと静かにして!」

 中庭に人影がないとはいえ、いつ誰がやってくるか分かったものではない。ゆうきは慌ててブレイをあやしはじめるが、ブレイは一向に泣き止もうとしない。

「フレン! ブレイに何をしたの!」

「何もしてないニコ。ちょっとからかって遊んでただけニコ」

「そういうのを何かしたって言うの!」

 フレンはめぐみの腕の中でそしらぬ顔。それ以上何を言っても意味はなさそうだ。

「まったくもう……あなたたちはどうしてそんなに仲が悪いの?」


「……べつに。仲が悪くなんてないニコ」

「グリ……」

 少し言いよどむように、フレンがそっぽを向いて呟く。ブレイも泣き疲れたのかピタリと泣き止み、フレンと逆方向を向く。少しおかしな雰囲気に、ゆうきとめぐみが顔を見合わせる。

 これではまるで、フレンとブレイが本当に仲が悪いみたいではないか。

「ブレイ……?」

「フレン?」

 世界はままならない。人と人の間には溝があって、それはどんなに仲がよくなろうと、変わらずそれは横たわっている。目を背けるフレン、目を伏せるブレイ、そのふたりの思うこと、考えること、それはゆうきとめぐみにはわからない。わかりようがない。人は、目と目で想いすべてが通じ合うほど便利にはできていないのだ。

「…………」

 けれど、それでも、だからこそ。ゆうきは思うのだ。

(わたし……もっとブレイとフレンのこと、知らなくちゃいけないんだ)
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:16:20.96 ID:eQRkBpc+0

…………………………

 ゴーダーツにとって敗北とは恥ずべきことでしかなかった。敗北とはそれ即ち敗北でしかない。敗北から得られるものなどなにもないからだ。

 闇の欲望、それを司る暗黒騎士デザイアに仕える戦士であるゴーダーツにとって、敗北とは己の欲望を達成することができなかったことに他ならない。闇の欲望そのものであるアンリミテッドにとって、欲望を達成できないということは、己の存在そのものを否定されることと同じなのだ。

「伝説の戦士プリキュア……」

 あの、薄紅色と空色をした少女の戦士ふたり。ロイヤリティの王族に仕える伝説の戦士。ある意味、ゴーダーツの対極に位置するといえる光の戦士。

「奴らの力の源はなんだ……私はなぜ、奴らに勝つことができんのだ」

 実際に力比べをしたわけではない。決闘をしたわけでもない。能力の優劣も分からない。しかし、ゴーダーツはなりたての戦士などに負ける自分自身が信じられなかった。


「奴らはまだ二回しか変身していないのだぞ? 戦士としては未熟もいいところのはず」

 ならばなぜ? そこまでの能力差がゴーダーツとプリキュアの間にあるというのか。

「……否」

 そんなことがあるはずがない。なぜなら、ゴーダーツは。

「そうだ。私は……」

 紡いだ言葉は途中で止まり、続きが洩れることはない。それはゴーダーツにとって、すでに消し去った己だからだ。

「……くだらん。私は、闇の欲望アンリミテッド、暗黒騎士デザイア様に仕える戦士、ゴーダーツだ。それ以外の何者でもない。それ以外の何者でもあってはいけない」

 時間は巻き戻らない。世界は元の在り様を覚えてはいない。時間は流れ、世界は刻一刻と変化していくからだ。そしてその時間と世界の上に乗る人も、また同じ。人は一度進んでしまったらもう戻れない。一度墜ちてしまったら、もう、戻れない。

「……私はもう戻れない。戻る気もない。私は、欲望の戦士ゴーダーツ以外の何者でもない」

 世界は光輝く美しいものばかりではない。ゴーダーツはそれを知っているから、闇の欲望に墜ちたのだ。世界は美しいものばかりではない。世界は嘘と欺瞞にあふれている。世界に、勇気や優しさなどという言葉は不要なのだ。

「私は己の欲望に従い、欲望のみによって、すべてを手に入れる……そう、決めたのだから」

 その言葉に答えてくれる者はいない。

 ゴーダーツはもう何も持っていないから、闇に墜ちたのだから。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:18:10.07 ID:eQRkBpc+0

…………………………

「ねえ、王野さん」

「うん?」

 空が赤く染まり始める夕方、とりとめのない話をしながらゆっくりと帰り道を歩いていると、めぐみが神妙な顔をして言った。ブレイとフレンは先ほどからずっと、それぞれ鞄の奥に引きこもってしまって、今はやわらかな寝息が聞こえてくる。

「どうしたの、そんな改まって」

「……フレンとブレイの話よ」

 めぐみは、その一言だけで通じると思ったのだろう。事実、ゆうきにはめぐみの言いたいことがすぐに頭に思い浮かんだ。

「……あのふたり、ってさ、」

「ええ」

「……仲、あんまりよくないのかな」

「…………」

 数呼吸分の沈黙。その間に、ブレイとフレンの小さな寝息がふたりの耳朶をたたく。小さな小さな、かわいらしい寝息のはずなのに、ふたりの耳にはやけに鮮明にその寝息が聞こえた。

「……分からないわ。だって、私たち、あの子たちのことをほとんど知らないじゃない」

「…………」

 言われてみればそのとおりなのだ。ゆうきは、そしてきっとめぐみも、ブレイとフレンを胸を張って友達だといえるだろう。けれど、その友達ふたりのことをよく知っているかと問われれば、はいとは答えられないだろう。

 ゆうきとめぐみは、フレンとブレイについて、知らないことが多すぎる。知っていることの方が、きっと少ない。

「どうしたらいいと思う?」

「そんなの、決まってるよ」

 迷うことなんてない。ゆうきとめぐみには、話すための口がある。伝えたい、想いがある。知りたいという気持ちを、ふたりに伝えることができるのだ。

「聞くしかないよ。わたしたち、もっとよくふたりのことを知らなくちゃいけないんだ。ロイヤリティのこと、アンリミテッドのこと……そして、ふたり自身のことを」

「……そうね。そのとおりだわ」 めぐみがふっと、小さく笑った。「だめね、私。やっぱり、あなたみたいにはなれないわ。ただ、友達に友達のことを聞くだけのことが、こんなにも怖い。あなたの言葉がなければ、直接聞くなんてこと、思い浮かびもしなかったと思う」

「そんなこと……」

「聞いたら迷惑なんじゃないかって、そんな風におもってしまって……けど、あなたと一緒でよかった。私ひとりだけじゃ、きっとフレンとブレイのこと、守ることしかできなかったと思うもの」

 めぐみの言葉には重みがあった。きっと本人が意図しているわけではないのだろう。けれど、それはまぎれもなく、めぐみ本人の葛藤でもあった。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:18:58.41 ID:eQRkBpc+0

「……大埜さんはさ」

「うん?」

「とっても優しいよね。けど、優しすぎるから、いろいろと考えすぎちゃって、だから、その優しさをあんまり表に出せないんじゃないかな」

 ゆうきは本人には天然という言葉はよくわからない。けれど、友達に対してお節介をしてしまうことが天然だというのなら、それはそれでいい気がした。

「きっと、想いを伝えて、迷惑だなって思われることはないと思う。相手のことを知りたいって思うことは、決して迷惑なんかじゃないと思う」

 ゆうきは笑って、続けた。

「だって、わたしは大埜さんに、もっとわたしのことを知ってもらいたいから」

「……王野さん」

 知ってほしい。知りたい。だって、友達だから。それはきっと、ブレイとフレンも変わりないと思うのだ。

「ふふっ……王野さんって、ほんと、お節介ね」

「えっ……」

 我ながら、なかなかいいことを言ったのではないかと思っていたから、そのめぐみの言葉はゆうきにとって少なからずショックであった。

「ああ、ごめんなさい。悪い意味ではないの。ほめ言葉よ、むしろ」

「……そうなの?」

「そうよ」

 にわかには信じられないが、めぐみの優しい笑顔を見て、うそをついていないということはわかった。

「私にはない優しさだもの。そんな風になれたら、私も……」

「?」

「……ごめんなさい。なんでもないわ」

 めぐみが何か、言葉を飲み込んだ。

 世界は勇気と優しさにあふれている。友達のことを知りたいという気持ち。自分の行いが迷惑なんじゃないかと不安になる優しさ。けれどそれを覚悟した上で相手に意見をする勇気。小さなちいさな、すぐにかき消えてしまいそうな想いだけれど、それはしっかりと心に息づき、育まれている。小さなちいさなその想いは、芽を出し、大きな勇気、大きな優しさとして誰かを救うのかもしれない。

「……家に帰ったら、一度ふたりと話してみなくちゃならないわね」

「うん!」

 世界はままならないことばかりだ。けれど、小さな勇気や優しさがひとを救うのなら、そんなままならない世界は、きっと美しいものでいっぱいになる。

 世界はきっとずっと、そうやって回ってきたのだ。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:20:11.04 ID:eQRkBpc+0

…………………………

「ねえ、お母さん」

「うん?」

 帰ってすぐ、ゆうきは着替えて居間に向かった。お母さんの背中を見たくなったのだ。ブレイはまだ寝ていたから、部屋のベッドで寝かせてある。話を聞くのはその後でいいだろう。

 王野家でゆっくりとお母さんと話せる時間は限られている。

「……どうかしたの、ゆうき」

 その背中はゆうきにとって見慣れたもので、優しい声に心が安らぐ。お母さんはお父さんと結婚する前からずっと、病院で忙しく働いていた。それはゆうきが生まれてからも変わらず、お母さんはきっと、今も病院でたくさんの人に笑顔を振りまいているのだろう。振り返ったお母さんは、やっぱり優しい笑顔で、普通の家庭とは少しだけ違うかもしれないけれど、お母さんはゆうきにとって、しっかりとお母さんなのだ。

「どうかしたって?」

「ゆうきがそんなに色々考えていそうな顔をするなんて、めずらしいから」

「お母さん、それ少し失礼だよ」

「ふふ。ごめんなさい」

 むくれるゆうきに、お母さんは優しく笑って、テーブルについた。

「話があるんじゃないの? 座ったら?」

「……うん」

 お母さんはなんでもお見通しだった。ゆうきは少しだけ改まった感に恥ずかしくなりながら、おもむろにお母さんの対面に腰掛けた。

「ひとつ、聞きたいことがあるの」

「なぁに?」

 どちからといえば、ゆうきはお父さんに似ている。それは外見だけの話ではなく、お母さんは自分と違ってしっかりしているし、そんなお母さんだからこそ、少し抜けたところのある、ゆうきに似ているお父さんを支えてくることができたのだろう。だからゆうきも、少しだけ甘えてみたくなった。

「朝の話なんだけど……」

「うん?」

 自分はひょっとしたらとても弱い人間なのかもしれない。そんな情けな想いが心の中で身をもたげるが、それでもいいだろう。どうせ王野ゆうきという自分は、弱虫でドジで天然な中学生なのだから。

「わたし、変わったのかなぁ?」

「あら、もしかして気にしてたの?」

 いたずらっぽく笑うお母さんの顔は、やっぱり自分にはあまり似ていない。そういう茶目っ気を強く引き継いだのは、お母さんに見た目も似ている妹のともえだ。わがままで傲岸不遜だが、なんだかんだで憎めない、そんな妹にそっくりで、ゆうきは少しだけ腹が立った。

「茶化さないでっ。気にしてたら悪い?」

「ふふ、ごめんなさい」

 謝っているわりには笑っている。憤慨したくもなるが、その前にお母さんが続けた。

「変わった、ね……ええ、私は変わったと思うわよ」

「今朝、ひかるが言ってたようなこと?」

「それもあるわ。ゆうき、あなた最近、私にお節介することも減ったじゃない」

「ま、またお節介って言われた……」

 落ち込みたくもなる。自分はやはりお節介なのだろうか。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:20:59.52 ID:eQRkBpc+0

「あら。私はお節介なゆうきも好きよ。でも、家のことばかりにかまけて、自分のことをおろそかにしてほしくはないの」

「えっ……?」

 だから、お母さんは憎めない。ずるい、と思う。唐突な笑顔、唐突な言葉、口調だって変わっている。お母さんは優しく、お母さんらしく笑って、ゆうきの手を優しく握ってくれたのだ。

「あなたはまじめでがんばり屋さんだもの。だから私もお父さんも、あなたにお家を任せてお仕事ができるのよ。でも、そのせいであなたに苦労をかけっぱなしだから、それが少し心苦しいの」

「そ、そんなの、大丈夫だよ。だって、お父さんもお母さんも、わたしたちのために働いてくれてるんだから」

「……うん。ありがとう、ゆうき」

 お母さんは小さく笑って、ゆうきの手に両手を添えた。

「お母さんはね、最近のゆうきの話を聞いていてとても嬉しいのよ。学級委員になって忙しいとか、新しいお友達がたくさんできたとか、ゆうきの、ゆうき自身のお話を聞くのが、私にとって何より嬉しいことなの」

「……よくわかんない」

「そうね。きっと今のゆうきにはわからないわ。けど、私はゆうきが変わっていってくれることが嬉しいの。……あんまり、お母さんらしいこと、してあげられていないけど、私はあなたのお母さんだから」

 お母さんの寂しげな表情の意味は、ゆうきにはよくわからない。ゆうきのお母さんはお母さん以外ありえない。少し普通のお母さんとは違うかもしれなけれど、お母さんをお母さんらしくないなんて思ったことは一度もない。

「……あのさ、お母さん」

「うん?」

「たとえばの話なんだけど……」

 ゆうきは言葉を紡ぐのは得意ではない。ただでさえドジな自分が、きちんと伝えたいことを伝えられるか、不安だった。

「大切な友達がいて、その友達が何かに悩んでいて、その悩みを教えてほしいって思うのは、お節介なのかな?」

「…………」

 お母さんは微笑んだまま、小さくうなずいた。

「……やっぱり」

「でもね、たとえお節介であったとしても、私だったら聞くわ」

「えっ?」

「もし、お母さんがゆうきの立場で、そのお友達というのがゆうきだったとしたら、私はゆうきにお節介と思われても、たとえ嫌われても、その悩みを教えてもらいたいと思うわ」

 ゆうきの目をまっすぐに見据えながら、お母さんは続けた。

「だって、私にとって、ゆうきはとっても大切な娘だから。そのお友達は、ゆうきにとってとても大切なお友達なんじゃないの?」

「…………」

 お母さんの言葉は簡潔で、言葉の意味がすんなりと頭の中に入ってきた。お節介と思われてしまうかもしれない。場合によっては嫌われるかもしれない。それでも、お母さんはゆうきのためになると思うことをしてくれると、そう言っているのだ。

「……ありがとう、お母さん」 だからゆうきは、笑うことができた。「うん。私、聞いてみる。もしかしたらお節介って思われちゃうかもしれないけど……それでも、友達のためにできることをしたいから」

「ええ。それでこそ、私の娘だわ」

 お母さんはそう言って、にっこりと笑った。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:21:48.86 ID:eQRkBpc+0

…………………………

 部屋に入ると、ブレイはすでに起きていた。窓枠に乗り、外の景色を眺めている。その後ろ姿が、さびしそうに見えたのは、ゆうきの見間違いではないだろう。

「……ブレイ」

「グリっ?」

 ゆうきが部屋に入ってきたことにすら、気づいていなかったのだろうか。ブレイは少し驚いたように振り返った。

「ゆうき? どうかしたグリ?」

「ねえ、ブレイ。わたし、あなたのことが知りたい」

「グリ……?」

「ねえ、ブレイ、教えて。あなたのこと、フレンのこと、アンリミテッドのこと。そして、ロイヤリティのこと」

「…………」

「わたしはブレイのこと、もっと知りたいの。だってわたしは、あなたの友達だから。あなたとフレンの友達だから」

「ゆうき……」

 生まれた世界は違う。姿形もまるっきり違う。けれど、ゆうきとブレイは話すことができる。お互いの想いを伝えあうことができる。

「ブレイとフレンがあまり話したがらないから、きっとわたしたちに話したくないんだろうな、って思ってた。けど、知りたいの。じゃないと、分からないよ。友達なのに分からないことだらけって、そんなのさみしいよ」

 想いは伝わる。ゆうきたちは、言葉を形作ることができるから。その想いを受け入れるかは、ブレイ次第だ。

「……グリ。分かったグリ。ブレイも、ゆうきにブレイたちのことを……ロイヤリティのことを知ってもらいたいグリ」

「……うん!」

 笑顔がはじける。ブレイに自分の気持ちが伝わって、とてもうれしかったからだ。
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:22:28.38 ID:eQRkBpc+0

「最初に少しだけ話したグリ。ロイヤリティのこと」

「そうだね。光にあふれ、四季折々の花が咲き乱れ、それはそれはきれいな世界だったって……」

「それは本当のことグリ。ロイヤリティは暖かく、明るく、とても過ごしやすい、楽園のような世界だったグリ」

「けど、そこにアンリミテッドがやってきて、すべて飲み込まれてしまったんだよね……」

「そうグリ……けど、その話には、途中に抜けている部分があったグリ」

 ブレイの顔がみるみる曇っていく。ゆうきに自分の住んでいた世界のことを知ってもらいたいという気持ちに偽りはないのだろう。けれど、同時に話したくないこともあるのだ。

「……安心して、ブレイ。どんな話でも、わたしは聞くよ。わたしはあなたの友達だから」

「……グリ」 ブレイの顔には迷いがあった。「本当は、こんなことをプリキュアに話したくはなかったグリ。そうしたらきっと、プリキュアはロイヤリティのために戦う気を失ってしまうから……」

「……それは、話を聞かないと分からないよ。けれど、わたしはロイヤリティのためだけに戦っているわけじゃない。ブレイとフレン……わたしの大切な友達のために戦っているんだから」

「……ありがとうグリ、ゆうき」

 やがて、ブレイは心を決めたように顔をあげた。観念したという様子ではなく、積極的に話すと決めた顔。かわいらしい顔に、真摯な表情を浮かべている。

「かつて、ロイヤリティに四つの国ができたグリ。それは、勇気の国、優しさの国、情熱の国、愛の国の四つの国グリ」

「うん。そして、ブレイが勇気の国の王子様、フレンが優しさの国の王女様なんだよね」

「そうグリ。四つの国は王族を中心としてお互いを助け合い、共に豊かに暮らしていたグリ……けれど、」

「?」

 ブレイが言葉を詰まらせた。悲しげな表情は口を開かない。よほど、言いたくないことなのだろう。けれどブレイは王子様で、一度言ったことを反故にするような卑怯なことはしなかった。

「……けれど、いつからか、四つの国は、お互いの国を疎んじるようになったグリ」

「えっ……? ど、どうして?」

「……記録にはこうあるグリ。“勇気の国の王族は、勇気をなくし臆病者になった。優しさの国の王族は、優しさをなくし冷血になった。情熱の国の王族は、情熱をなくし無気力になった。愛の国の王族は、愛をなくし何も信じなくなった。“ だから、ブレイたちはお互いを疎み、いがみ合うようになったグリ」

「そんな……」

「……、フレンやゴーダーツが言っていたことは正しいグリ。ブレイは、結局、“弱虫ブレイ”で……本当は、違うって、そう言いたいけど……やっぱりブレイたち勇気の国の王族は、臆病で、だから……――」



「――そんなこと、言わないで……っ」


128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:23:21.59 ID:eQRkBpc+0

 我慢など、できるはずがなかった。ゆうきはブレイのつぶらな両目からこぼれ落ちた涙をすくい、顔を上げたブレイを思い切り抱きしめた。

「グリ……」

「勇気の国のこととか、王族とか、わたしにはよくわからない。けれど、あなたは臆病者なんかじゃないよ、ブレイ」

「ゆうき……」

「だって、あなたはフレンを助けようとした。ひとり捕まろうとしていたフレンを逃がすまいと、必死だった。あなたたちは勇敢で、優しい王子様と王女様だよ。あなたを逃がそうとしたフレンの優しさ、そんなフレンの手を掴んだあなたの勇気……わたしは、それを知ってるもの」

 臆病とか、勇敢とか、勇気とか、そんな言葉、使ったことはないし、詳しい意味なんて分からない。どんなひとが勇敢で、どんなひとが臆病かも分からない。けれど、それでも、たとえなんであろうと、

「……わたしは、ブレイのことを臆病だなんて思わない。弱虫だなんて、絶対に思わない。わたしの知っているブレイは、勇敢な王子様だもん」

「ゆうき……っ」

 気づけば、ブレイはまた瞳に涙をいっぱい溜めていた。

「ふふ……でも、泣き虫かもね?」

「グリ!? な、泣き虫じゃないグリ!」

「泣き虫でも、いいんだよ」

 ゆうきはそっと笑った。

「いいんだよ。泣いたら、泣いた分だけ強くなれるよ。笑ったら、笑った分だけ優しくなれるよ。だから、泣いたら泣いた分だけ笑おう? そうすれば、ブレイはもっともっとすごい王子様になれるよ」

「……グリ!」 ブレイは涙をぬぐって、笑った。「ゆうき、お願いがあるグリ。ブレイは、フレンときちんと話したいグリ。ちゃんと話して、わかり合いたいグリ。今すぐに!」

「うん。じゃあ、大埜さんの家に行こうか」

「グリ!」

 人と人との関係はとても複雑で、だからこそ大変なこともたくさんある。それが、元々わだかまりのある関係だったのならなおさらだ。けれど、ブレイは自分からフレンと話したいと願った。

 きっと、人と人が仲良くなるのなんて、そんなちっぽけな願いだけで十分なのだ。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:24:53.84 ID:eQRkBpc+0

…………………………

 そして、そんな願いを持つ妖精が、もうひとり。

「ねえ、フレンはブレイと仲良くしたい?」

「それは……」

 めぐみとフレン、ふたりは今まさにゆうきの家に向かう途中だった。

「ねえ、どうなの?」

「……言いたくないニコ」

 めぐみの質問に、ぷいっと顔を背けるフレン。めぐみは苦笑しながら、けれど身につまされる思いだった。

(この子ほどじゃないだろうけど……私も、こんな感じなんだろうな)

 ゆうきや、その他多くの人から言われることだ。自分が、素直じゃないということ。

「ねえ、いいじゃない。いま、ここには私しかいないのよ?」

「…………」

 黙りこくったままのフレンに、めぐみは一計を案じた。

「……フレン。私はね、王野さんともっと仲良くなりたいな」

「ニコ?」

「こんなこと、本人の前じゃ恥ずかしくて言えないけど、いつか面と向かって言いたい。王野さんと、もっと仲良くなりたい」

「めぐみ……」

「フレンは違うの? たとえ、国同士の仲が悪くたって、あなたが仲良くしたいと思うのなら、ブレイと仲良くなるなんて簡単なことのはずよ?」

 めぐみの言葉に、フレンは肩を落として。

「……でも、フレンは昔から顔を合わせれば、ブレイのことをからかってばかりだったニコ。きっとブレイは、フレンのことなんか嫌ってるニコ」

「そうかしら? それも、聞いてみないと分からないわよ?」

「……怖いニコ」

「そうね。怖いわね」

 本当に、自分と話しているようだった。フレンと話していると、自分が思っていること、自分自身のこと、そんなものと、まっすぐに向き合える気がした。

「怖いけど、伝えないと伝わらない。想っているだけじゃ、その気持ちは伝わらない。私が今日、フレンにフレンのことを聞いたように、相手に想いを伝えないと」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:25:45.06 ID:eQRkBpc+0

「ニコ……」

「大丈夫。人はそう簡単に誰かを拒絶したりしないわ」

「でも、怖いニコ。フレンは昔から、人と仲良くするのが得意じゃなかったニコ……」

「……でも、ブレイはきっと、フレンと仲良くしてくれるわ」

「なんでそんなことが言えるニコ?」

「だって、」

 めぐみは言いながら、思わず笑ってしまった。

「ニコ?」

「……ふふ、ほら、あっちも同じ気持ちみたいだもの」

「えっ……?」

 めぐみの目線の先には、人影がひとつ。そして、その人影に抱きかかえられるようにしてやってくる、ぬいぐるみのような影が、ひとつ。

「ブレイ……」

「フレン……」

 ふたつの国の王子と王女が目を合わせる。バツが悪そうに目を逸らしあうふたりを、その守護者である少女ふたりが温かく見守っている。

「うまく話ができたみたいね、お互い」

「うん」

 ゆうきとめぐみは目配せし合い、それぞれが抱える妖精をそっと地面に下ろした。しばし不安そうに守護者を見上げていたブレイとフレンは、やがてゆうきとめぐみの視線に励まされるように、そっと一歩、前に進んだ。

「……フレン」

「……ニコ」

「勇気の国と、優しさの国は、たしかに、仲があまりよくなかったグリ。けれど、だからきっと、アンリミテッドにつけいる隙を与えてしまったグリ」

「ニコ」

 最初はためらうように、けれど段々と伝える言葉は強くなっていく。

「フレンもそう思うニコ。きっと、四つの国が手を取り合っていたから、かつてのロイヤリティは栄えていたニコ」

「だからきっと、ブレイたちが変えなきゃいけないグリ。ブレイたちが仲良くしなければ、ロイヤリティに未来はないグリ」

 ブレイは言い切ると、そっとフレンの手を取った。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:27:13.35 ID:eQRkBpc+0

「ニコ?」

「……でも、それは勇気の王子としての言葉グリ。ブレイは勇気の王子である前に、ブレイグリ」

「ブレイ?」

「ブレイは、フレンと仲良くしたいグリ。ロイヤリティとか、王族とか、そういうことを抜きにして、もっとフレンのことを知りたいグリ」

「…………」

 人と人との関係はとっても難しくて、それにそれぞれの立場が加われば、それはなおのことだ。けれど、それは簡単に乗り越えることができる。仲良くなりたいというただひとつも想いで、克服できるのだ。

「……ブレイ!」

「グリ?」

「フレンも、ブレイに言いたいことがあるニコ!」

 真っ赤な顔をして、フレンがブレイに詰め寄る。今を逃せば、もう言えない。そう思ったからだ。

「……ブレイ。フレンは、ブレイに……――」



「――――くだらんな。家臣ごっこの次は、仲良しごっこか?」



 暗く冷たい声が放たれた。夕暮れに沈む町並みに、明らかに異質な存在が紛れ込んでいた。

「この声は……!」

「どこ? どこにいるの!?」

「!? あ、あそこグリ!」

 ブレイが指を差す先。すぐとなりの家の屋根の上。

「ゴーダーツ!」

 そこに、ゴーダーツが悠然と立っていた。

「プリキュア、今日こそ決着をつけるぞ」

「あ、あのねえ! こっちはそれどころじゃないのよ!」

 頭上のゴーダーツに向け、めぐみが今にも噛みつかんばかりにわめく。

「せっかく素直じゃないフレンが想いのたけを口にできると思ったのに! タイミングが悪いのよ! 馬鹿!!」

「め、めぐみ! 恥ずかしいことを言うのはやめるニコ!」

 コントをやっている場合ではない。ゆうきは普段は絶対に見せてくれない子どもっぽいめぐみの調子に苦笑しながら、まっすぐにゴーダーツを見つめた。

「…………」

 ゴーダーツとはすでに二度戦った。しかし今日ばかりは、その雰囲気が少しばかり違うように感じられた。ゴーダーツは屋根の上から飛び降りると、当たり前のようにゆうきたちの前に着地した。

「……用意はいいな」

 身構えるゆうきとめぐみ。もう迷っている暇はない。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:28:14.25 ID:eQRkBpc+0

「っ……ブレイ!」

「フレン!」

「「変身よ!!」」

 夕日に赤く染まる世界が、暗くなりつつある。アンリミテッドの欲望が支配する位相へと変わっていくのだ。しかしそこに、光が生まれる。伝説の戦士プリキュアという名の、強大な光が。

「受け取るグリ!」

「プリキュアの紋章ニコ!」

 ブレイとフレンから薄紅と薄青の光が放たれる。それはゆうきとめぐみの手の中で形を成す。

 勇猛なる獅子と、清浄なる駿馬の紋章。そしてふたりは、流れるような動作で、紋章をロイヤルブレスへと差し込み、叫ぶ。


「「プリキュア・エンブレムロード!」」


 温かい光が生まれる。その光に包まれながら、ゆうきとめぐみは変身を遂げる。そして、空より舞い降りたふたりは、すでにゆうきとめぐみではなかった。


「立ち向かう勇気の証! キュアグリフ!」


「守り抜く優しさの証! キュアユニコ!」


 ふたりの伝説の戦士の背後に、明確な力がイメージとして映し出される。それは、翼持つ獅子と、角ある駿馬の像。



「「ファーストプリキュア!」」



 ――ロイヤリティの王族に祝福されたふたりの戦士が、欲望の戦士に立ち向かう。
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:30:05.44 ID:eQRkBpc+0

「……いいだろう。今日こそは、その紋章をいただいていく! ウバイトール!」

 ゴーダーツが手を掲げる。薄暗い空が割れ、そこから欲望の化身たるあやふやな存在が地に墜ちる。それはすぐそばの街灯に取り付き、そして欲望に満ちた怪物が誕生する。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 本来ならあるはずのない手、足、そして、悪辣な瞳。街灯から生み出されたウバイトールが、ふたりの伝説の戦士に向け明確な敵意を表す。

「なんだろう……よくわかんないけど、これ、いつも以上にすごい……」

「ええ。すごい敵意だわ……」

 思わず後じさる。しかし、それを見逃す敵ではなかった。

「臆したか、プリキュア。しかしもう遅い!」

 ウバイトールに気を取られていたふたりは、ゴーダーツの一瞬の挙動に追いつくことができなかった。ゴーダーツは大地を蹴り、一瞬でふたりに肉薄した。

「ッ……!」

「はぁあああああああああああああああああああ!!!」

 ゴーダーツの蹴りがユニコへ飛ぶ。ユニコはそれを両腕でいなし、続けて放たれた拳も避け、防戦一方ながらゴーダーツの動きに合わせ続ける。

「ユニコ!」

「グリフ! あなたはウバイトールを!」

 よそ見をできるような相手ではない。ユニコはそう叫ぶと、自らもゴーダーツに向け蹴りを放つ。ほんの一瞬だけゴーダーツが攻撃の手を緩めるが、その直後にすぐに攻撃が開始される。

「っ……ゴーダーツ! いい加減にしなさい! あなたは間違ってるわ!」

「なんだ? 貴様まで腰抜けになったか、キュアユニコ!」

「腰抜けと笑うのは自由にしなさい! けれど、グリフはあなたたちを止めようとしているのよ!」

「何をバカな。我々のことも知らずに、よくもまぁそんな無責任なことが言えたものだ!」

「っ……」

 その物言いに、ユニコは少しだけ頭に来た。だから少しくらい無茶でも、ゴーダーツの蹴りを真正面から受け止めた。

「ふざけてんじゃないわよ! 知ってほしいなら話しなさいよ! あんたには喋るための口があるでしょうが!!」

「な……! 貴様……」

 さすがに、痛い。けれど、ゴーダーツの動きを止めることはできた。

「あんたたちがどうしてこんなことをしているのかなんて知らない。知らないから、理解しようもない。私自身は、あんまり理解したいとも思わない」

 目の前には、生気の抜け落ちた男の顔があった。あまりにも陳腐な悪役の顔だ。それはユニコにとって、敵でしかない。だけど、

「……けど、グリフは助けたいのよ。あんたたちのことも。あんたたちのことを叱って、改心させたいって言ってるのよ。だから、私もあんたたちのことを、あきらめるわけにはいかないのよ!」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:31:02.12 ID:eQRkBpc+0

「ぐっ……黙れ……黙れぇええええええええええええええええ!!」

 ゴーダーツが掴まれた足に力をこめる。まずいと思ったときにはすでに、ユニコはゴーダーツの圧倒的な脚力によって吹き飛ばされていた。足を踏ん張り、道路を削ってなんとか止まる。

「……分かってもらう気などない! 私はもう、戻れないのだ!!」

 ゴーダーツが両手をユニコに向け掲げる。そこに、光が集約する。それはプリキュアの光とは似ても似つかない、悪辣な光だ。見ているだけで気が滅入るような、邪悪な感情がこれでもかと詰まっている。

「…… “戻れない” ね」 そんな危機的な状況だというのに、ユニコはどうとも思わなかった。ただそっと、誰にも聞こえない声で呟いた。「ってことは、戻りたいってことじゃない」

 とはいえゴーダーツの光は脅威である。あれが自分に向かって飛んできたら、避けられるだろうか。

「ユニコ!」

 そんな杞憂を吹き飛ばすように、ユニコの耳朶を甲高い声が叩いた。

「フレン!? 危ないじゃない! 隠れていなさい!」

「そんなことを言っている場合じゃないニコ! よく聞くニコ! この前の、河原での戦いを思い出すニコ!」

「河原での戦い? ああ、あのグリフが戻ってきたときの……」

「そうニコ! そのとき、グリフがとんでもない力を発揮したことを覚えているニコ?」

 そういえば、と思い出す。ウバイトールが自分とグリフに向け腕を振り下ろしたとき、薄紅色の光を纏ったグリフがその腕をつかみ、あまつさえウバイトールの巨体を投げ飛ばしさえしたのだ。あのときのグリフは、たしかにすさまじかった。

「あれがどうかしたの?」

「あれは、キュアグリフの “立ち向かう勇気の光” ニコ。そして、ユニコにはユニコの力があるニコ!」

「私の力……?」

「よそ見をするとは、大層な余裕だな! キュアユニコッ!!」

 集約した光が、轟音と共にゴーダーツの手を離れた。フレンを連れて逃げる余裕はない。

「ユニコの力…… “守り抜く優しさの光” を使うニコ!!」

「守り抜く、優しさの光……」

 ゴーダーツの放った光は道路を削り、生け垣をなぎ倒し、目前まで迫っている。圧倒的な圧力を内包するその光の弾丸に、しかしユニコはひるむことなく立ち向かう。

 フレンの言葉を信じていたから。そして、フレンを守らなければならないからだ。

(守り抜く優しさの光。あのときの、グリフのように、私も……)

 だからユニコは、光に対し手をかざした。できると、信じた。

(私も……グリフのように!)
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:32:30.72 ID:eQRkBpc+0

 瞬間、空色の光がユニコの周囲で爆ぜた。それはしなやかでなめらかで、しかし雄々しい激流のごとき光。ユニコは確信した。これこそが、自分が持つ優しさの力なのだと。

「……フレンは、私が守る!!」

「なにッ!?」

 ユニコの身体から発せられる青白い光が指向性を帯びた。それは壁となり、ユニコの前面を覆い尽くす。

 それは凄まじい守護の力だった。

 優しさのプリキュアが持つ、絶対防御の盾だ。

「……優しさは、その強さ故に、誰かを守ることができるニコ」

 そんなユニコの背中を頼もしく見つめながら、フレンは呟いた。

「ユニコの優しさが、苛烈な防御の力となって、フレンを守ってくれたニコ」

 ゴーダーツの放った光は、ユニコの防御の光の前に儚く砕け散った。ユニコの苛烈なる守護の光は、役目を終え、すっとかき消えた。

「……これが、私の “守り抜く優しさの光” 。ふふ、何か不思議だわ」

「ッ……キュア、ユニコ……!!」

「ごめんなさい、ゴーダーツ。あなたの覚悟も何もかも、私の知ったことではないの」

 そしてユニコは、フレンを抱え、かろやかな足取りで飛んだ。

「あなたにあなたの使命があるように、私には私の想いがあるの。だから、絶対に負けないわ!」

 ゴーダーツの頭上を飛び越え、着地する。そこには、往来の真ん中でウバイトールと格闘を繰り広げるキュアグリフの姿があった。

「――はぁあああああああああああああああ!!」

 ずどん、と空気が震える。その振動は空気を伝わりユニコの身体をも揺るがすほどで、ユニコは自身の目を疑った。

「す、すごい……」

 グリフの拳が、ウバイトールに正面からたたき込まれる。一瞬遅れて、まるで頂点から下るジェットコースターのように、ウバイトールが轟音を立てて吹き飛ばされる。グリフの拳、そして身体には、薄紅色の光が立ち上っていた。

「ふぅ。なんか、よく分からないけど、今日のウバイトールはそんなに強くないよ」

「い、いや……なんか、むしろあなたが強くなっているような気がするけれど……」

「? そうかな」

 そうよ! とよっぽど言ってやりたかったが、我慢しておいた。吹き飛ばされたウバイトールが、今まさに立ち上がろうとしていたからだ。

「グリフ、いくわよ!」

「うん!」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:33:59.06 ID:eQRkBpc+0

 ひとりではない。だから、戦える。ユニコはそっとフレンを下におろす。そして、ふたりは手を取り合い、頷き合う。

 薄紅色と空色の光が、その場を埋め尽くす。

「翼持つ獅子よ!」

「角ある駿馬よ!」

 明確に浮かび上がるは、勇壮なる神獣の姿。

 その名は、勇気と優しさの守り神、グリフィンとユニコーン。

 王者を守る神獣の力が、光が、ふたりの伝説の戦士に力を授ける。

 光が指向性を帯びた。そしてふたりが同時に手をかざし、その手から光の奔流が放たれる。



「「プリキュア・ロイヤルストレート!!」」



 戦士の絆だけではない。王者同士が手を取り合い、それによって戦士の力も高まっていく。

 手を取り合った勇気と優しさの力が、欲望の闇を打ち払う。

『ウバッ……ウバアアアアアアアアアアアアアアア……!!』

 欲望の化身は光に包まれ、その姿を消していく。最後に残ったかたまりが、もだえ苦しみ霧散する。残されたのは、何の変哲もない街灯だけだ。

「? なんだろ、今日のウバイトールはやけに弱かった気がするけど……」

「えっ?」

 グリフの言葉に、そういえばと思い直す。守り抜く優しさの光が使えたとはいえ、ユニコはあまりにも簡単にゴーダーツを突破することができた。あの抜け目のない男が、こうも容易くユニコにグリフの手を取らせるだろうか。と、

「――そこまでだ!! 動くな、プリキュア!!」

「!?」

 鋭い声が飛ぶ。思わず振り返った先に、目を疑いたくなるような光景があった。

「グリ……」

「ブレイ!!」

 フレンの甲高い声が響く。振り返った先、ゴーダーツの手の中にあるブレイの姿があった。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:35:17.38 ID:eQRkBpc+0

「グリぃ。ごめんグリ……」

「ブレイ……」

 申し訳なさそうなブレイの声に、力が抜けてしまう。本当に、鈍くさいったらない。

「そんなところは、誰かさんにそっくり、ってわけね」

「ちょっとユニコ。すごい失礼なこと言わなかった、今?」

 軽口をたたき合うが、状況は良くはない。ゴーダーツがその気になれば、ブレイの身体などすぐさま握りつぶされてしまうだろう。しかし思案するより早く、駆け出す姿があった。

「フレン……!?」

 ユニコは制止しようとするが、届かない。フレンは小さな足で、懸命にゴーダーツに向けて駆けている。

「っ……動くなと言ったはずだぞ!」

「動くなって言ったのはプリキュアに対してだけニコ!」

「うっ……ま、まぁ、たしかにそのとおりだが……ではない!! 貴様……!」

 ゴーダーツが片手をフレンに向ける。その手に、ユニコに撃ったものを小さくしたような光が生まれる。

「いけない……!!」

「フレン!!」

 動き出したのは同時だった。目配せし合ったわけでも、頷き合ったわけでもないのに、グリフとユニコはお互いが何を考えているのか、なぜか手に取るように分かった。

「なに……!?」

 ふたりは左右両側からゴーダーツに突撃した。片手でブレイを握りしめ、空いた手をフレンに向けているゴーダーツは、そのプリキュアの素早い行動に追いつくことができなかった。

「ばっ……ばかな!!」

「ばかはどっちよ! この卑怯者!!」

「ッ……!」

 グリフとユニコの蹴りがほぼ同時にゴーダーツに直撃する。よろけたゴーダーツの手から光がはじけ飛び、ブレイが衝撃で放り投げられるように飛び出す。

「ぐ、グリ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 落ちるグリ!!」

「ニコ! ブレイ!!」

 頭から真っ逆さまにアスファルトに落下するブレイの下に、フレンがすべりこむ。もふもふとやわらかいふたりの身体がお互いにバウンドしあうようにして、ブレイの落下の衝撃を小さくする。

「ぐ、グリ……フレン、ありがとうグリ……」

「べ、べつに……」 フレンはぐったりと横たわったまま、顔だけブレイから背けた。「優しさの王女にここまでさせたニコ。これは貸しニコ」

「グリ。いつか絶対に返すグリ!」

 微笑んでうなずくブレイに、けれどやっぱりフレンは顔を向けなかった。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:36:29.33 ID:eQRkBpc+0

「……さて」

「覚悟はいいかしら、ゴーダーツ」

「ぐっ……伝説の戦士、プリキュア……!!」

 ふたりの蹴りを防御もできず二発まともに浴びたのだ。ゴーダーツはもはやふらふらの様子だった。

「それでも、私は……欲望の戦士として、負けるわけにはいかないのだッ!!」

「そう。わかった」

 だからグリフとユニコは、そっと手を繋いだ。

「だったら、あんたのそのくだらない意地も何もかも、きれいさっぱり洗い流してあげる!!」


 世界が薄紅色と空色の光に埋まる。


「ぐっ……なぜだ。なぜお前たちプリキュアは、こんなにも強大な力を持っているのだ!!」

 ゴーダーツのうめき声が、遠く聞こえた。


「翼持つ獅子よ!」


「角ある駿馬よ!」


 それは、悪辣なる存在を浄化する、誇りと絆の一撃。



「「プリキュア・ロイヤルストレート!!」」



「私は……これで、終わりなのか……?」

 圧倒的なまでの光の奔流が、ゴーダーツに迫る。そして、

(これで……――――)




「――――……否。まだ貴様にはやってもらうことが山ほどある」


139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:38:09.33 ID:eQRkBpc+0

 ロイヤルストレートの光が、あまりにも呆気なくかき消される。それはまるで、排水溝に吸い込まれる水のように、あまりにも簡単に、何かに飲み込まれるようにかき消えたのだ。

「なっ……何が起きたの!?」

「う、うそ! ロイヤルストレートが……消えた!?」

「!?」

 光が消えた先、ふたりはようやく気が付いた。その場に、ゴーダーツとは違う人影があることに。

「で……で、で……ででで……!!」

「デザイア!?」

 そう、それは漆黒のマントを羽織り、仮面で顔を隠した、アンリミテッドの最高司令官にして、最強の騎士。

 暗黒騎士デザイア。

 グリフとユニコに対してまっすぐに伸ばした小さな手で、強大なロイヤルストレートをかき消したのだ。

「で、デザイア様……!?」

「ゴーダーツ。己の欲望を満たすことと、己のプライドを保つこと、それを混同するな。私は、紋章を持ち帰らぬ貴様に愛想を尽かしたりはしない。なぜなら、私は卑劣なるロイヤリティの王族とは違うからな」

「デザイア様……」

 ゴーダーツにはゴーダーツの事情があったのだろう。デザイアのその言葉に、どこか救われたような表情を見せる。しかし、そんなことはプリキュアたちのあずかり知ることではない。

「ちょっと! 勝手なこと言わないでよ! 何が、“卑劣なロイヤリティの王族” よ!」

「卑劣なのは、ロイヤリティを飲み込んだり、ブレイを人質にとったりするあんたたちの方でしょ!」

 激高するグリフとユニコに対し、しかしデザイアはあくまで泰然と返答する。

「……ふむ。前者についてはそれこそ我々の正当性しか分からぬが、後者については謝罪しよう。私の部下がすまないことをした」

「えっ……?」

「デザイア様?」

「ゴーダーツ。たしかに我々にはロイヤリティのくだらぬ慣習や誇りなどにはとらわれぬ。しかし、だからこそ欲望の戦士として、己の欲望に対して真摯であれ。もしそうでなくなれば、貴様は貴様が忌み嫌うロイヤリティと同等ということになるぞ? 欲しいものがあれば、真っ向から奪い取れ。人質を取るなどといった卑劣な真似は慎むべきであろう」

「デザイア様……申し訳ありません!!」

「……構わぬ」

 何の話をしているのか、さっぱりだった。けれど、そのデザイアの言葉にはっきりと浮かぶのは、ロイヤリティに対する憎しみだ。当惑するグリフとユニコはしかし、再び自分たちに向き直ったデザイアに対し、身構えるより仕方なかった。

(暗黒騎士デザイア……)

(ロイヤルストレートを簡単に吹き飛ばしてしまうような奴を相手に……勝てるの?)
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:39:12.95 ID:eQRkBpc+0

「ふっ……」

 どれくらいの時間、向き合っていたのだろう。やがてデザイアは小さく笑うような声を出すと、ふたりに背を向けた。

「言っただろう。私はまだ貴様らと戦う気はない。ゴーダーツを迎えに来ただけだ」

「ま、待つニコ! ロイヤリティの王族が卑劣って、どういうことニコ!」

「……待たぬよ、優しさの王女。もし興味があるのなら、父上か母上にでも聞いてみるといい。貴様ら王族の、卑劣なる所行の数々を、な」

「ニコ……」

 そのデザイアの言葉は、あまりにも真に迫りすぎていた。だからきっと、フレンは思わず信じてしまったのだろう。けれど、そんなフレンのすぐそばで、彼女を支える小さい影があった。温かく、優しい手が、そんなフレンをそっと支えた。

「ニコ?」

「あんな奴の言うこと、信じちゃだめグリ。優しさをなくしていたって、優しさの王族は優しかったグリ。だから――」


「――ふん。よくもまぁ、その口でそんなことがヌケヌケと言えたものだな、勇気の王子ブレイ」


「グリ!?」

 デザイアが、明らかな憎しみをもってブレイを向いた。表情はおろか、目線すら追えないが、しかしわかる。デザイアは強すぎるほどに、ブレイを憎んでいる。否、勇気の国を憎んでいる。

「ぶ、ぶぶぶ、ブレイが……ブレイたちが何をしたグリ!!」

 ブレイが震える声で問う。しかし、ブレイを見ることすらなく、マントを翻し、背を向けた。

「……全てを忘れてしまった貴様には糾弾の言葉すら生ぬるい」

 言葉を残し、ゴーダーツと闇に溶けるように消えた。

 世界に色と光が戻り、ゆうきとめぐみの姿も制服に戻る。

 アンリミテッドは撃退した。しかし、心の底から喜ぶことができない。

「……ゴーダーツとデザイア……一体どうして、ロイヤリティを憎んでいるの……?」

「お父様とお母様は、ロイヤリティとともに飲み込まれた。そんなふたりに、何を聞けって言うニコ……!」

「ブレイが何を忘れたっていうグリ……」

 答えは出ない。風が、夕暮れの街並みをさびしく駆け抜ける。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:40:03.82 ID:eQRkBpc+0

…………………………

「まぁ、深く考えても仕方ないよ。それに、まだお話が終わってないしね」

 しょぼくれるブレイとフレンに、ゆうきがそっと声をかけた。

「話……?」 首をかしげるめぐみだったが、すぐに察してくれたようだった。「ああ……フレン」

「ニコ?」

「さっき、ブレイに言いかけてたこと、言っちゃいなさい」

「ニコ!? 今さら言うニコ!?」

「もちろん。あなた、今言えなかったら一生言えないでしょ?」

「ニコぉ……」

「グリ?」

 フレンが渋々といった様子でブレイに向き直る。ブレイは不思議そうな顔で、そんなフレンを見つめる。

「……ブレイ。フレンは、ブレイに言いたいことがあるニコ」

「グリ?」

「……いつも、弱虫とか、臆病とか、悪口を言ってごめんなさいニコ」

「グリ?」

 きょとんと目を丸くしたブレイだったが、その直後に目を驚愕の色に染めて飛び上がった。

「グリぃぃいいいいいいいいいいいい!?」

「ニコ!? 驚かせないでほしいニコ!!」

「グリ!! フレンが謝った!? フレンが!?」

「う、うるさいニコ! 少し静かにするニコ!!」

「フレンが!! フレンが!!」

「だからうるさいニコ!! 弱虫ブレイ!!」

 騒ぎ回るブレイに、それを追いかけ回すフレン。やかましい光景だが、思わず微笑んでしまうくらい温かい。

「……また弱虫って言ってるし」

「でも、まぁ……悪意がないなら、ねぇ? 素直じゃない大埜さん?」

「そうね。天然でドジな王野さん?」

 ぐぬぬと視線をぶつけ合って、すぐさま笑い合う。友達同士、言っていいことと悪いことの判断くらい、簡単にできるのだ。

「グリ!! 素直じゃなくて優しくないフレンが!! ブレイに謝ったグリ!! 大変グリ!! 明日は雨が降るグリ!!」

「だからうるさぁあああああああああああああいニコ!!!」

 まだまだ、分からないことだらけだ。けれど、ブレイとフレンの気持ちはわかったし、ふたりのわだかまりを少しだけ解消することができた。だから、今はそれだけでいいだろう。

(光の世界ロイヤリティと、闇の欲望アンリミテッド……ふたつの間に、一体何があったんだろう……)

 答えはでない。ゆうきにはまだまだ分からないことばかりだ。

 それでも、今はこの気持ちだけで十分だろう。

 目の前のかけがえのない、小さな王子と姫を守りたいという気持ちだけで。

 そんな簡単な気持ちだけで、伝説の戦士を続けられる、そんな気がするのだ。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 17:40:40.56 ID:eQRkBpc+0

    次    回    予    告

ゆうき 「すごかったねえ……」

めぐみ 「ええ、すごかったわねえ……」

ゆうき 「まさかあんなに強いなんて……」

めぐみ 「ええ、私もびっくりしたわ……」

ゆうき 「……ユニコの、“守り抜く優しさの力”」

めぐみ 「ええ。暗黒騎士デザイア……――」

めぐみ 「――えっ?」

ゆうき 「えっ?」

めぐみ 「…………」

ゆうき 「…………」

めぐみ 「……と、いうわけで、次回、ファーストプリ――――」

ゆうき 「――――ちょっと待って大埜さん。しっかり話をしようよ。なんで今生暖かい目でわたしを見たの?」

めぐみ 「…………」

ゆうき 「ねえ、しっかりわたしの目を見て。天然じゃないよ? 普通だよ?」

めぐみ 「…………」

ゆうき 「今だって、ちょっとお互い思い違いしただけだよね? ねえねえ?」

めぐみ 「……次回! ファーストプリキュア!!」

ゆうき (強引に流された……)

めぐみ 「第五話 【新たな力! カルテナって、何!?】」

ゆうき 「? ねえ大埜さん、カルテナってなぁに?」

めぐみ 「……ええ。次回出てくるから、それまで良い子で待ちましょうね」

ゆうき 「えっ? なんでそんな幼稚園児に話しかけるみたいな感じなの?」

めぐみ 「……それじゃ、次回も楽しみにしててね。ばいばーい!」

ゆうき 「ねえねえ大埜さん。わたし何かおかしなこと言った? ねえねえねえわたしの目を見て?」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 17:42:35.31 ID:eQRkBpc+0
>>1です。
第四話はここまでです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
また来週日曜日、投下できると思います。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/21(日) 10:40:41.78 ID:agWmrLpM0
>>1です。
少々遅れましたが、今週の投下を始めます。
本日の「なぜなに☆ふぁーすと」はネタがないのでお休みします。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/21(日) 10:43:53.27 ID:agWmrLpM0

第四話 【新たな力! カルテナって、何!?】


 そこは、暗闇の世界。光はある。されど、すべてが黒いから光を返さない、そんな場所。

 そんなアンリミテッドが統べる場を、ゴーダーツは思案顔で歩いていた。


 ――――『ゴーダーツ。たしかに我々はロイヤリティのくだらぬ慣習や誇りなどにはとらわれぬ。しかし、だからこそ欲望の戦士として、己の欲望に対して真摯であれ。もしそうでなくなれば、貴様は貴様が忌み嫌うロイヤリティと同等ということになるぞ? 欲しいものがあれば、真っ向から奪い取れ。人質を取るなどといった卑劣な真似は慎むべきであろう』


 頭に浮かぶのは、デザイアの言葉。それはあまりにも深く、ゴーダーツの奥底に突き刺さっていた。

「己の欲望に対して真摯であれ、か」

 自分は必死になりすぎたのだろうか。その必死さで、まさか、上司であるデザイアの手を煩わせてしまうとは、思っていなかった。

「私は……――」

「――……やあ、ゴーダーツ。久しぶりだね」

 進む先、デザイアが待つ部屋の手前で、ゴーダーツを待ち構える影があった。上背はゴーダーツと同じか少し低いくらい。細身の身体に、それこそあのプリキュアたちともそう変わらぬ細腕の男。細い目にうさんくさい笑みを貼り付けて、彼はゴーダーツに笑いかけた。

「……ふん。ようやく召喚に応じたか。ダッシュー」

 彼の名はダッシュー。ゴーダーツの同志、アンリミテッドの欲望の戦士である。

「いやあ、遅くなって申し訳なかったね。その間、どうも君にがんばらせすぎてしまったようだ」

「……なんだと?」

 しかし、たとえ同志であろうとなんだろうと、必ずしも好意的な仲ではない。

「はは、そう怖い顔をしないでおくれよ。聞いたよ。先日、わざわざデザイア様に迎えに来させたんだって? 君も随分と偉くなったものだね、ゴーダーツ」

「っ……」

 目の前のひねくれた男の皮肉が事実であるからこそ、ゴーダーツはそれに返す言葉を持たなかった。

「まぁ、安心してくれていいよ。君がもう無様な体たらくを晒すことはない。だって、これから僕がプリキュアとやらを倒しに行くんだからね」

「なに?」

「おっと、だから怖い顔をしないでくれって。これはデザイア様のご命令だよ? 僕に、情熱の王女捕獲とプリキュア撃退をお命じになったんだ」

「ぐっ……」

 デザイアはゴーダーツのことを見限ったのだろうか。役立たずだから働くなと、そう暗に告げているのだろうか。

「まぁ、せいぜい休んでおきなよ。それじゃ、僕はホーピッシュヘ行く。ゆっくり養生してくれたまえ、ゴーダーツ」

 嘲弄するように告げて、ダッシューは消えた。ただ、ゴーダーツの脳裏には、未だダッシューの言葉が染みついている。

 デザイアはゴーダーツではなく、ダッシューにプリキュア討伐を命じたのだ。

「プリキュア……なぜ、私に倒すことが叶わなかったのだ……」



「決まっている。貴様の欲望の力が足りぬからであろう」

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