【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】

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376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:07:13.49 ID:uBlGke+q0

…………………………

「めぐみ」

 結果の放送がされた後のことはあまり覚えていない。

 めぐみは、気づけば人気のない体育館にいて、後から声をかけられていた。

 振り返ると、そこに立っていたのは、ゆうきだ。

「……負けちゃったわね」

 微笑みながらそう声をかける。それが、精一杯のめぐみの強がりだ。

「負けちゃったけど、がんばったニコ」

「そうグリ。めぐみもゆうきも、がんばったグリ」

 ヒョコッと、ゆうきの肩からフレンとブレイが顔を覗かせる。

「ふたりの言うとおりだよ。めぐみもわたしも、ユキナも有紗もがんばったよ」

 ゆうきも微笑む。けれど、その笑顔はすぐに、くしゃっと歪んでしまう。

「あ、あれ……。おかしいな……」

 ゆうきも戸惑っているようだった。必死で笑顔を作ろうとしているけれど、それは長続きしなかった。ゆうきの両目から、涙が溢れだした。

「めぐみぃ……」

「……まったくもう。あなたが泣いてどうするのよ」

 そっとゆうきに近づいて、ぎゅっと抱きしめる。ゆうきの嗚咽が響く。

「負けちゃったよぅ……」

「そうね。負けちゃったわね」

「めぐみぃ、でも、わたしたちがんばったよ……」

「そうね。がんばったわね」

 そう。自分たちは精一杯がんばった。学級委員の仕事をしながら、プリキュアをしながら、それでも、精一杯がんばった。みんなと一緒に、がんばったのだ。

「……そう。私たちは、がんばったのよ」

 ツーと、めぐみの頬を、涙が伝った。ゆうきの涙が呼び水になったようだった。めぐみの視界が歪み、涙がどんどんあふれ出した。それは、めぐみの奥底にしまわれた、悲しみの発露だ。
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:07:45.07 ID:uBlGke+q0

「でも、悔しいよぅ……。わたし、めぐみに生徒会長になってほしかったよぅ」

「……そうね。私も、とっても悔しいわ」

 悔しい。勝ちたかった。それは、きっと負の感情ではないと、めぐみには思えた。

「……ゆうき、でもね、私、本当に嬉しいの。私がこんなことをするなんて、全然思ってなかったから。だから、ありがとう。ゆうきがいてくれたから、私はここまで、がんばれたわ」

「わたしは何もしてないよ。ほんの少し、手伝っただけだよ」

「そんなことないわ。負けちゃったけれど、ゆうきのおかげでここまでがんばれたんだもの。すごいことよ」




「負けたら、何の意味もないと思うけどね」




 世界が闇に染まる。開けた体育館に、その声は響き渡った。

「一度負けたら、負けを知ってしまう。敵愾心が小さいから、『負けたけどよかった』なんて言葉が言えるんだ」

「ダッシュー!」

 舞台の上、壇上に立つ人影は、まぎれもなくアンリミテッドの闇の戦士、ダッシューだ。

「敗北して、それでもなおヘラヘラと笑っていられる君たちに、本当の敗北を教えてあげよう」

 ダッシューは壇上のマイクを手に取り、眺める。

「良い欲望の品だ。この学校で、様々な人間の想いの丈を受け続けてきたのだろう。これは、良いウバイトールの素材になる」

 それは、ゆうきが、ユキナが、有紗が、めぐみのために演説をしたマイク。めぐみが、めぐみとめぐみを応援してくれる皆から力をもらって演説をしたマイクだ。

「やめなさい! ダッシュー!」

「やめないよ。それはぼくの欲望ではないからね」

 ダッシューは虚空に向けて叫ぶ。

「出でよ! ウバイトール!」

 世界が割れる。宙空に現われた世界の裂け目から、黒々としたヘドロのような何かが落ちる。それはダッシューの持つマイクをその身体に取り込むと、世界を黒々と染め上げながら、その姿を変貌させる。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 巨大化したマイクのウバイトールだ。轟音を立てて体育館に降り立った怪物は、大声を上げゆうきとめぐみを威嚇する。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:08:24.45 ID:uBlGke+q0

「ッ……! 行くよ、めぐみ!」

「ええ! フレン!」

「受け取るニコ!」

「プリキュアの紋章グリ!」

 ブレイとフレンから光が放たれる。それは、まっすぐゆうきとめぐみの手に収まり、カタチを成す。勇気の紋章、そして優しさの紋章だ。ふたりはそれを確認すると、頷き合い、声高らかに叫んだ。

「「プリキュア・エンブレムロード!!」」

 世界は暗い。だからこそ、今まさにその高貴な輝きを示さんとするように。

 ふたりの少女は光の中で、厳かにその姿を変えた。

 そして、光溢れるふたりの戦士が、大地に舞い降りる。



「立ち向かう勇気の証! キュアグリフ!」



「守り抜く優しさの証! キュアユニコ!」



「行け! ウバイトール! プリキュアを倒し、ロイヤルブレスとプリキュアの紋章を奪い取れ!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 ウバイトールが舞台から飛び降りる。その勢いのまま、ふたりに向かい突っ込んでくる。

「わたしが止める! ユニコはダッシューを!」

「ええ!」

 キュアグリフが向かってくるウバイトールへ真正面から跳ぶ。マイクのウバイトールは重い頭をたくみに振り回し、キュアグリフの跳び蹴りを回避する。

「なっ……!?」

 ウバイトールの背後に着地したグリフだが、次の瞬間には何かに縛り付けられる。それは、ウバイトールのお尻から伸びるマイクのコードだ。ウバイトールの凶悪な目が嗜虐的に歪む。コードが大きくたわみ、次の瞬間には強大な膂力を持ってキュアグリフを振り回そうとコードを引く。
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:08:50.26 ID:uBlGke+q0

 しかし、ウバイトールが相対する勇気のプリキュアは、それを許すほどヤワではない。

『ウバッ……!?』

「ふふん。プリキュアになりたての頃、電柱のウバイトールに同じ事をされたけど、」

 キュアグリフは身体を縛り付けられながらも、コードを両手で握りしめ、ウバイトールの力に負けないように引っ張っていた。

「同じ手が通じると思わないでよね!」

『ウバッ……ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「負けないって、言ってるの!!」

 コードの引き合いはなかなか決着を見せそうにない。裂帛の表情とともにグリフの身体から“立ち向かう勇気の光”が立ちのぼる。
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:09:23.99 ID:uBlGke+q0

…………………………

「ふん。さすがは伝説の戦士といったところかな。あのウバイトールを相手に互角に戦えるとはね」

 目の前のダッシューは、どこか他人事のように、ウバイトールとキュアグリフとの戦いを眺めていた。

「ひとつ聞きたいことがあるわ」

 そして、キュアユニコは仲間を信じて、まっすぐにダッシューと相対した。

「なんだろう」

「さっきの言葉の意味よ」



 ――――『良い欲望の品だ。この学校で、様々な人間の想いの丈を受け続けてきたのだろう。これは、良いウバイトールの素材になる』



「あの言葉は、どういう意味。ウバイトールにするものによって、ウバイトールの強さは変わるの?」

「ああ、そんなことか」

 ダッシューはどうでもよさそうに言う。

「そうだよ。ぼくたちアンリミテッドは、モノに込められた人間の欲望を引き出し、ウバイトールとする。モノに込められた欲望が強ければ強いほど、ウバイトールは強く凶暴になる」

 目の前にユニコがいるというのに、ダッシューはキュアグリフとウバイトールの綱引きのような戦いに目を向ける。

「見てごらんよ。あのマイクは、今まで幾人もの教員、生徒、その他の様々な人々の欲望を一心に浴びてきたんだ。話を聞いてほしい、思いを伝えたい、気持ちをぶつけたい、そんな欲望をね。ああ、あと、生徒会長になりたい、なんて欲望もあったかもしれないね」

「…………」

 ダッシューの視線の先で、ウバイトールから黒々とした何かが立ちのぼる。それはグリフの放つ“立ち向かう勇気の光”の対極に位置するような、欲望の塊だ。

「見えるかい? あれが、君たち人間が作り出した欲望さ。生徒会長になりたいという欲望を叶えることができず敗北した君たちに、あのウバイトールに勝つことができるかな?」

「……ふふ」

「……? 何が可笑しい」

 怪訝な顔のダッシューに、ユニコは笑みを浮かべたまま答えた。

「ねえ、ダッシュー。私はたしかに負けたわ。生徒会長になりたかったし、それが叶わなかったのは本当に悔しいわ」

「……ふん。所詮君たちなんてその程度ということさ」

 ダッシューが虚空よりノコギリを取り出し、握る。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:09:49.87 ID:uBlGke+q0

「前生徒会長の後ろ盾もあった騎馬はじめに、最初から勝てるわけがなかったんだよ!」

 ダッシューはそのノコギリを手に、ユニコに向かい突撃する。振り上げられたノコギリはまっすぐユニコへ振り下ろされ――、

「――あら。随分と詳しいのね。まぁいいわ」

「ッ……!?」



「優しさの力よ、この手に集え! カルテナ・ユニコーン!」



 空色の光が集約し、ユニコの手にカルテナが握られる。その空色の刀身は、当たり前のようにダッシューの凶刃を受け止めていた。

「私ね、悔しいけど、満足よ」

「なに……?」

「だって、私は生徒会長にはなれなかったけど、それ以外のたくさんのものを手に入れることができたもの」

 キュアユニコが腕を振り、ダッシューのノコギリを弾く。ダッシューが体勢を立て直し、慌てた様子でノコギリを降る。

「私、本当に嬉しいのよ、ダッシュー」

「ぐっ……」

 歓喜の笑みを浮かべたまま、ユニコはノコギリの刃を避け続ける。

「ゆうきのことをたくさん知ることができたわ。すごく仲良くなれた。親友って呼べる相手ができたのよ」

「それが、どうしたッ!」

「それから、ユキナと有紗とも仲良くなれたわ。他のクラスメイトの皆とも話せるようになったわ。あと、騎馬さんとだって知り合いになれたもの」

 キュアユニコが空いた手をダッシューにかざす。とてつもない圧力が集約し、空色の光がの壁が現われる。

「ぐッ……!」

 現われた“守り抜く優しさの光”の壁が、ダッシューの身体ごと、凶刃を吹き飛ばす。

「……ねえ、ダッシュー。私、負けてしまったけれど、いま、とても満足な気持ちだわ」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:10:15.64 ID:uBlGke+q0

「た、たとえ、どうであろうと……」

 ダッシューはよろよろと立ち上がる。

「君たちは、あのウバイトールには勝てない。君たちの欲望も入ったあのウバイトールは、自分たちの欲望すら叶えることができない君たち程度に、勝てるはずがない」

「そうかしら?」

 その直後、体育館中に大音声が響き渡る。

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

『ウバッ……!?』

 薄紅色の光が弾けた。それは苛烈な勢いをもって、ウバイトールを圧倒していた。キュアグリフの“立ち向かう勇気の光”が爆発的な勢いで広がっていく。

「ばっ、バカな……!?」

 ダッシューが呻く。キュアグリフは今まさにその戒めから逃れようとしていた。ウバイトールのコードが今にも千切れそうなほど細くなっていく。

「はぁぁあああああ!!」

 そして、キュアグリフが気合いを入れた瞬間、コードがはじけ飛ぶ。

『ウバァアッ!!』

 引っ張るために力を入れていたウバイトールが後ろに倒れ込む。

 キュアグリフは追撃の手を緩めない。そのままウバイトールに近づき、千切れたコードを握ると、力一杯引っ張り、振り回しはじめた。

『ウバァアアアアアアア!?』

「はぁああああああああああああああああああああ!!」

 グルグルとウバイトールを振り回すキュアグリフと、一瞬目線が交錯する。その刹那にグリフの意志を読み取ったユニコは、厳かに頷いた。

「……ダッシュー。私たちは生徒会選挙には負けたけど、あなたたちには負けられないのよ」

「ッ……」

「ユニコ!」

「ええ! 来なさい! グリフ!」

 グリフが勢いをつけ、コードを放す。散々振り回され目を回しているウバイトールが、まっすぐ、ユニコに向け放たれる。

「角ある純白の駿馬、ユニコーンよ! プリキュアに力を!」

 ユニコは迫るウバイトールに向け駆け出した。“守り抜く優しさの光”がそれに追随し、神獣ユニコーンの姿を形作る。



「プリキュア・ユニコーンアサルト!」



 ウバイトールに向け放たれた神速の突きは、過つことなく欲望の闇を打ち貫く。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:10:41.52 ID:uBlGke+q0

『ウバッ……ウバァアアアアア……』

 ウバイトールはさらさらとそのカタチを崩していく。そして黒々とした欲望の塊は霧散し、世界に色が戻る。

「いずれ世界は闇に墜ちる。欲望に飲み込まれる。君たちがやっていることは、それを少しだけ先延ばしにしているだけに過ぎない」

 ダッシューが言う。

「欲望に抗うことはできない。人は、やりたいことしかできないのさ」

「私には、それがあなたの言い訳にしか聞こえないわ」

「っ……」

 ユニコの応えに、ダッシューは歯がみして、消えた。ユニコとグリフも変身を解き、元の姿に戻る。

「……ゆうき。話が途中だったわね」

「ん?」

 微笑む親友に、めぐみはそっと笑いかけた。

「あなたがいなければ、私は生徒会選挙に出ることもなかったでしょうし、こんなに選挙をがんばることもできなかったわ」

「だ、だから、そんなことないって……」

 恥ずかしそうにはにかむゆうき。その親友の姿がただただ愛おしくて、めぐみはおずおずと、ゆっくり、ゆうきに抱きついた

「これからも、私の親友でいてね。ゆうき」

「もちろんだよ! わたし、ずっとめぐみの大親友だよ!」

 ゆうきが、そんなめぐみに応えて、めぐみを抱きしめ返してくれたことが、何より嬉しかった。

 ふふ、えへへ、と笑い合う。

 ダッシューの言うようなことにはきっとならない。

 だって、この世界はこんなにも明るくて、色に溢れているのだから。



「――こんなところにいたのか。探したよ。大埜さん、王野さん」



「ひゃっ」

「きゃっ」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:11:11.83 ID:uBlGke+q0

 唐突にかけられた言葉に、めぐみとゆうきは慌てて離れる。

「……っと、ひょっとしてお邪魔だったかな」

「お、お邪魔って何!? って、騎馬さん?」

「いや、私の見間違いでなければ、抱き合っているように見えたから。すまない。他言はしない。恋愛に節度は必要だが、自由ではあるべきだ」

「どんな勘違いをしているのかしらないけど違うからね!?」

 体育館の入り口に、とても同い年とは思えない、大人びた少女が立っている。はじめは冗談だよ、と笑いながらふたりにゆっくり歩み寄る。

「ど、どうかしたの? 私たちを探していたみたいだけど……」

「先ほど、選挙管理委員会から、正式に得票数の内訳のデータを頂いた。君たちにも見せておきたくてね」

 はじめはめぐみとゆうきの前に立つ。

「まったく恥じ入るような気持ちだよ。前生徒会長の先輩の助力を得ながら、私の得票数と大埜さんの得票数にほとんど差が見られなかったのだからね。正式な政治の場であれば、ともすれば再投票になっていたかもしれないよ」

 はじめはやれやれと笑う。その顔は、少し悔しそうに、めぐみには見えた。

「実質的に私の負けのようなものだ。全く、悔しくて仕方ないよ。そして、君たちのすごさに感服するばかりだ」

「そんな、言い過ぎよ。騎馬さんが勝ったのだから、もっと誇るべきだわ」

「……うん。そう、そうなのだろうな。いや、すまない。ヘンな話をしてしまった。こんな話を、他の生徒会のメンバーや、クラスメイトの皆に話すわけにはいかなくてね。なんとも情けないことだ。私は君たちに甘えてばかりいるな」

「そんなことないと思うけど……」

 自分に厳しすぎはしないだろうかと訝しむめぐみをよそに、はじめは気が抜けたように笑う。

「なんにせよ、いい立ち会い演説会だった。ふたりとも、本当にいい演説だったよ」

「あ、ありがとう……」

 はじめが手を差し出す。めぐみはその手を握り返しながら、はじめの澄んだ真っ直ぐな目を見つめ返す。はじめはゆうきとも握手をすると、言った。




「そして、これからもよろしく頼むよ。大埜副会長」



「え……?」

 そのはじめの言葉の真意を計りかねて、めぐみが聞き返す。

「聞き間違えかしら? 副会長?」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:11:37.71 ID:uBlGke+q0

「ん? ひょっとして知らなかったのかい?」

 はじめが意外そうな顔をする。

「生徒会副会長はふたりいるんだ。毎年、ひとりは選挙で、もうひとりは新生徒会長が選任するんだ。そして、その選任枠は毎年、生徒会長選挙で落選した人になるのが慣例なんだ」

 そんなことはまったく知らない。誉田先生にも言われていないし、他の誰も教えてはくれなかった。

 はじめは真っ直ぐめぐみを見つめた。そして、おずおずと、めぐみの手を取った。

「もちろん私は君に副会長をお願いしたい。慣例ではあるけれど、それ以上に、私は君にやってもらいたいんだ。頼まれてくれるだろうか、大埜さん」

「え、あ、えーっと……」

 ついついゆうきの方を見てしまう。ゆうきは本当に嬉しそうな顔で、うんうんと頷いてくれた。

「……うん」

 めぐみはだから、安心してはじめの手を握り返すことができた。

「私からも、よろしくお願いします。精一杯がんばるわ」

「ああ。一緒にこの学校をより良くしていこう」

 はじめは今度はゆうきに向き直った。

「王野さん」

「は、はい!」

 唐突に目を向けられ、ゆうきがびくりと身体を震わせる。

「私には新生徒会の庶務2名の任命権もあるんだ。王野さんも生徒会に入らないかい?」

「へ?」

「生徒会の庶務を、君にお願いしたいんだ」

「わ、わたしが生徒会!?」

「ゆうきが!? 正気なの!?」

 ゆうきが驚きの声をあげ、それとほぼ同時、めぐみも大きな声を上げてしまう。直後、ゆうきがめぐみをじろりと見る。

「……めぐみ、今のはちょっと失礼じゃない?」

「あ、あははは……」

 めぐみは笑って誤魔化すしかない。
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:12:07.44 ID:uBlGke+q0

「王野さん、君のように、友達のことを考えて一所懸命がんばることができる人が、生徒会には必要だ」

 ふたりの様子を知ってか知らずか、はじめが熱く続ける。

「生徒会の一員として、学校のために一緒にがんばってほしいんだ」

「あー、でも、わたし、不器用だし、ドジだし、失敗ばっかりだよ?」

「それでも、君の様子を見ていれば、君が懸命にがんばることができる人だというのはわかる。私には、それだけで十分だよ」

「わ、わたしは……」

 ゆうきはまるで、やってはいけない理由を探しているようだった。

「さっきも言ったでしょ。あなたがいなければ、私はここまで来られなかったわ」

 だからめぐみは、そっとゆうきの肩を叩いた。

「私もあなたと一緒なら心強いわ」

「…………」

 ゆうきがめぐみの目を見る。めぐみは真っ直ぐにその目を見返して、頷いた。

「……うん。わたし、がんばるね。庶務、やらせて」

「本当かい!? 嬉しいよ。ありがとう!」

 はじめは本当に嬉しそうにめぐみとゆうきの手を取って、ぶんぶんと振る。年上にしか見えなかった少女が、今ばかりは、同い年の女の子に見える。それもまた、クラスメイトには見せられない、子どもっぽい素のはじめなのかもしれない。

(騎馬さんって、少し私と似てるかもしれないわね)
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:12:37.40 ID:uBlGke+q0

…………………………

 そんな三人の様子を、ラブリたちは物陰から見つめていた。

「負けたのに、めぐみもゆうきも嬉しそうレプ」

「負けても精一杯がんばったから、あんな風に笑えるグリ」

「レプ? がんばっても、負けたら意味がないレプ」

「ラブリにもいつか分かるニコ」

 ラブリは、確信に満ちたブレイとフレンの表情の意味がわからなかった。

 その答えを自分自身が持っていることに、まだラブリは気づいていないからだ。

(負けたら意味がない。それをわかっているのに、どうして……)

 ラブリは胸に手を当てた。

(どうして、こんなに胸がドキドキするレプ?)

 三人の人間の様子を見つめていると、胸が高鳴ることが、まったくもって、不可解だった。
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:13:04.24 ID:uBlGke+q0

…………………………

「……ふぅ」

 めぐみとゆうきと別れて、はじめは教室に戻る廊下の途中、周囲に誰もいないことを確かめてから、そっと息をついた。

「どうもあのふたりと一緒だと、ついつい甘えてしまうな……」

 家でも、学校でも、あんな自分を出したことがあっただろうか。少なくとも、中学生になってから、嬉しい気持ちをあんなに子どもっぽく発露したことはなかったように思う。

「私は騎馬家の跡取りなのだから、もっとしっかりしなければ……」

 それがはじめの矜持だから、はじめは気持ちをきゅっと引き締める。

 引き締めた、つもりなのだけれど。



「……おめでと」



 それは、教室に向かう廊下の途中でかけられた言葉だった。

「あ……鈴蘭」

「っ……」

 カバンを持ち、帰る途中だったのだろう。廊下の隅に立っていた鈴蘭は、恥ずかしそうに、悔しそうに、目を伏せた。

「……べつに、あんたにこれを言うために待ってたわけじゃないから」

「えっ、あっ……えーっと」

 はじめは、鈴蘭にかけられた言葉の意味を反すうする。

「……私に、おめでとうを言うために、待っててくれたのかい?」

「!? だ、だからそうじゃないって今言ったでしょ!?」

「あ、そ、そっか……」

 ゆっくりと浸透していくように、はじめの心の中に、鈴蘭の言葉の意味が入っていく。

「……ありがとう、鈴蘭」

「ふん。べつに、こういう社交辞令も必要だって、勉強しただけよ」

「それでも嬉しいよ」
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:13:30.44 ID:uBlGke+q0

 頭をよぎったのは、先ほど、めぐみとゆうきと話をする前。見つけたふたりが、抱き合っていた姿だ。

 はじめは周囲を見回す。大丈夫。誰もいない。少しくらい、いいだろう。

「……ねえ、鈴蘭」

「何よ」

 はじめは、ガバッ、と鈴蘭に抱きついて、頬ずりした。

「はぁ!? ち、ちょっとあんた、何すんのよ!?」

「ごめん。本当に、嬉しくて嬉しくて仕方ないんだ」

「せ、生徒会長になれたくらいで、そんなに喜ばなくてもいいでしょ!」

「それだけじゃないよ。鈴蘭が、わざわざ私を待っていてくれて、おめでとうって言ってくれたのが、すごく嬉しいんだ」

「はぁ!?」

「なんか、懐かなくて苦労した猫が、甘えてくれたような嬉しさが……」

「あんたあたしのことをなんだと思ってるわけ!?」

 鈴蘭の動揺する声に耳を傾けながらも、はじめは鈴蘭を放さなかった。
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:14:00.52 ID:uBlGke+q0

…………………………

「……し、仕方ないヤツね」

 彼女は、そんな同級生を突き飛ばすことも、引き剥がすこともしなかった。

(コイツ、格闘技かなんかやってるのね。こんなの、この姿じゃどうにもできないわ)

 その心の中の声は、ただの言い訳だ。けれど、その言い訳をいなければ、彼女は彼女でいられない。

 だって、そうだろう。

 ただのどうでもいい同級生に抱きつかれて、心がドキドキと高鳴るなんて。

 そんなの、彼女に認められるはずもないことだから。

 その胸の高鳴りを、心地良いと思っているなんて、認められるはずもないから。

「い、いつまでくっついてるつもりよ」

「うーん、もう少しだけ……」

「……ふん。ほんと、仕方ないヤツ! あんたみたいなのが生徒会長になるのね!」

「ごめん。でも、ありがとう」

 周囲からの尊敬を一身に浴びる彼女が、自分にだらけきった姿を見せていることが。

「ほんと、仕方ないんだから」


 嬉しい、なんて。


 そう思っているなんて、認められるわけが、ないから。
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:14:26.61 ID:uBlGke+q0

…………………………

 ゆうきが教室に戻ると、教室はほとんど空っぽだった。ひとりがボーッと席に座ったまま窓の外を眺めているくらいだ。そのひとりは、ゆうきが教室に入った瞬間、ゆっくりとこちらを向き、ゆうきを認めた瞬間、ホッとした顔で笑った。

「ゆうき」

「あきら? まだ帰ってなかったんだ」

「うん。ゆうきのカバンがまだ残ってたから……」

 ゆうきの幼なじみの美旗あきらだ。

「応援演説、ちゃんと聞いてたよ。すごかったね」

「わー、ありがとう! 嬉しいよ! 少し恥ずかしいけど……」

「昔のゆうきからは想像できないよ。変わったんだね、ゆうき」

 あきらは嬉しそうに、けれど少し寂しそうに言った。

「あきら……?」

「ううん。なんでもない。ねえ、ゆうき、一緒に帰らない?」

「えっ、あー、えーっと……」

 ゆうきが逡巡していると、めぐみが教室の入り口からヒョコッと顔を出した。

「ゆうき? 誰かいるの?」

「大埜さん……」
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:14:53.23 ID:uBlGke+q0

「美旗さん?」

 あきらが目を伏せる。ゆうきには、あきらがどうしてそんなに悲しそうな表情をするのか、わからなかった。

「ごめん、あきら。この後、めぐみの副会長就任のお祝いなの」

「そっか……。うん、わかった。また今度ね」

「うん。また今度ね、あきら」

 あきらはカバンを持つと、立ち上がった。そして、めぐみの前まで行くと、言った。

「大埜さん、選挙、お疲れ様でした。副会長、がんばってね」

「ありがとう、美旗さん。嬉しいわ」

「……それじゃ、また明日」

「ええ。また明日。さようなら」

「ゆうきも、また明日」

「うん。ばいばい」

 ハッとする。教室から去る瞬間、あきらの横顔、その目尻に、涙が見えた気がしたのだ。

「あきら……?」

「どうしたのかしら、美旗さん。あまり体調が良さそうに見えなかったけど……」

「うん……」

 めぐみと同様、ゆうきも心配だ。

「うーん……」

 ゆうきは、あきらが消えた教室の出口を見つめる。

「一緒に来る? って誘えばよかったな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:15:25.62 ID:uBlGke+q0

…………………………

 その日は、そのまままっすぐ家に帰った。

 本当は、久久にゆうきと色々なところに寄り道して帰りたかった。

 あきらは自室に入ると、そのままベッドに倒れ込んだ。

「あきら……?」

「ただいま」

 暗闇から響く声に応じる。声の主――ロイヤリティの情熱の王女、パーシーはベッドを歩いて近づいてくる。

「大丈夫ドラ……?」

「うん。大丈夫だよ」

「でも、なんか辛そう、ドラ。あきら、悲しいドラ……?」

「……どうかな。どうなんだろ。わかんないや」

 ぽふ、と。頭にやわらかい手が当たる。きっと撫でてくれているつもりなのだろう。

「あきら、一体どうしたドラ?」

「……ゆうきとね、一緒に帰りたかったの」

 あきらはポツポツと話し始めた。

「ドラ」

「でもね、断られちゃった。大埜さんと約束があるんだって」

「ドラ……」

 きゅっと、あきらの頭を抱きしめるように、小さな身体が密着する。

「どうしてだろう。日記とか詩ならいくらでも想いの丈を書けるのに、どうして口に出して言うことが、こんなに怖いんだろう」

 気づけば、情けなさと悲しさで、目がうるんでいた。

「わたし、ダメな子だよ。大埜さんに嫉妬してるんだ。ゆうきを取られたって、そんな風に思ってるんだ」

「あきらはダメな子なんかじゃないドラ。パーシーを守ってくれている優しい人ドラ」

 声はか細くて、今にもかき消えてしまいそうなほどだ。けれど、その優しさがただただ暖かい、そんな声だった。
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:15:52.12 ID:uBlGke+q0

「あきらの書く詩、大好きドラ。あきらがとても良い子で、優しいって、分かるドラ。あきらはすごいドラ」

「でも、わたしはまだ、情熱的な人を見つけられてないよ」

 それは、その小さな王女様との約束だった。けれど、その約束を、あきらはまだ果たせていない。

「……いいドラ。あきらにがんばってもらっても、きっと、無理なんだドラ」

 そんなこと言わないで、なんて、言うのは無責任だろうか。

 あきらはむくりと身をもたげ、震える小さな身体を抱きしめた。

 伝えたい言葉はたくさんある。それなのに、その言葉はなかなか口から出てこない。

 腕の中で震えるパーシーが何を考えているかなんて、あきらには分からない。

 気休めと分かっていて、それを伝えるのが正しいことかも分からない。

 きっと、ゆうきに対しても同じ事をしている。

 あきらが伝えなければ、ゆうきには伝わらない。ゆうきに伝わってほしい気持ちがたくさんあるのなら、それをカタチにしなければ、絶対にゆうきには伝わらないのに。

(でも、わたし、怖いよ……)

 あきらは小さな命をぎゅっと強く抱きしめる。その温かさが、ただただ心地良かった。

 そして。

「パーシーはあきらと一緒にいるドラ」

「……うん。ありがとう、パーシー」

 あきらは言った。

「わたしも、パーシーとずっと一緒にいるよ」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:16:18.04 ID:uBlGke+q0

…………………………

「ふふ。さてさて、プリキュアたちには散々煮え湯を飲まされたが、時は満ちたかな」

 美旗家の外、上空からそんなふたりを眺める影がひとつ。

「情熱の王女パーシー。紋章とブレスはぼくがいただく」

 世界は少しずつ闇に傾きつつある。小さな光が何度闇の欲望を倒そうと、希望の世界ホーピッシュは少しずつ確実に、闇に墜ちつつある。

 光の世界ロイヤリティは闇に墜ちた。

 アンリミテッドの欲望は、それでもなお、果てることはない。
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:16:44.39 ID:uBlGke+q0

…………………………

「それでは、大埜めぐみの副会長就任を祝って、かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」

 カンコンと、アイスティーのグラスが音を立てる。

「みんな、本当にありがとう」

 かんぱいの直後、めぐみが三人に頭を下げた。

「みんなのおかげで私はここまでやれたわ。得票数も騎馬さんに匹敵する数だったらしいわ」

「ふふふ、その通りだよめぐみクン。もっとあたしを敬うといいよ!」

「調子に乗るな、ユキナ」

「あ痛ぁ! ひどいよ有紗!」

 胸を張るユキナを、有紗が小さく小突く。

「私たちは友達のためにできることをしただけだよ。めぐみ、残念だったけど、それでも、副会長就任は、本当におめでとう」

「ええ。ありがとう」

 ユキナと有紗の言葉に、めぐみは笑ってお礼を言う。ユキナと有紗の前でも、素のめぐみが出ていることが、ゆうきにとっては嬉しいことだった。

「あら、めぐみちゃん、生徒会の副会長になったの?」

 四人がかけるテーブルに、ひなカフェの店長、ひなぎくさんが現われた。

「そうなんです。会長にはなれなかったけど……」

「でも、すごいことじゃない。じゃあ、お姉さんからもお祝いしなきゃね。このクッキー、試作品なのだけど、サービスしちゃうわね」

「わー! めちゃくちゃ美味しそー!」

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。ふふふ、ゆっくりしていってね」

 ひなぎくさんは焼きたてであろう、まだ湯気を立てるクッキーを置いて、にこやかに立ち去った。

 とても楽しい時間だけれど、ゆうきの心の中には、小さな棘が刺さったままだった。

(最近、あきらとあまり話してないなぁ。誘いも断ってばかりだし、せっかく同じクラスになれたのに、悪いことしてばかりだ)

「ゆうき? どうかした?」

「えっ? あ、ううん。なんでもないよ」

 不思議そうなめぐみにそう返すと、ゆうきはアイスティーを口に含んだ。

(……明日、遊びに行こうって誘おうかな。わたしもあきらとお喋りしたいことたくさんあるし)
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:17:11.02 ID:uBlGke+q0

…………………………

「ふふ。めぐみちゃん、いい顔で笑うようになったわね」

 彼女は、カフェの奥でひっそりと祝賀会を上げる少女たちを眺めながら、そっと呟いた。

「うちの鈴蘭ちゃんも、同じように笑ってくれると嬉しいのだけど」

 噂をすれば影、というわけではないのだろうけれど。

「あら……?」

 店のガラスの向こう、道を歩くダイアナ学園の女子生徒は、鈴蘭だ。裏から二階の自分の部屋に向かうのだろう。その顔は、困惑するような、嬉しそうな、どこかボーッとしたような、色々な感情がない交ぜになったような表情を浮かべていた。

「……鈴蘭ちゃんもあんな顔をするのね」

 彼女はだから、嬉しくて、笑った。

「良いお友達でもできたのかしら。今晩、聞いてみようかしら」

 ニッと笑う。その笑顔は、何の裏表もない、本物の笑みだ。




「大丈夫。鈴蘭ちゃん、あなたの抱える闇は、そんなものじゃないはずよ」




 その清々しい笑顔のまま、彼女はそう言った。

「ふふ。これからが楽しみだわ」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:18:03.22 ID:uBlGke+q0

 次 回 予 告

ゆうき 「と、いうことで、めぐみ、副会長就任おめでとう!」

めぐみ 「ありがとう。ゆうきも、庶務就任おめでとう!」

ゆうき 「うん! 精一杯がんばろうね! わたしも足を引っ張らないようにがんばるよ!」

めぐみ 「後ろ向きすぎないかしら!?」

ゆうき 「ファイル倒してめぐみに怒られないようにがんばるよ!」

めぐみ 「あなたひょっとして1話のことまだ根に持ってるの!?」

ブレイ 「……はぁ。まったく、最近あのふたりが次回予告で仕事をしないね」

フレン 「仕方ないわね。嬉しいんでしょ、色々と」

ラブリ 「まったく。理解しがたいがね」

ブレイ 「さて、次回のファーストプリキュア!」

フレン 「第13話【燃える情熱! それは紅蓮のプリキュア、キュアドラゴ!】」

ラブリ 「次回もお楽しみに」

フレン 「また来週! ばいばーい!」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:22:15.72 ID:uBlGke+q0
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございます。
来週は所用により投下できません。
また再来週、よろしくお願いします。
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 16:02:12.67 ID:NGct5ApJO
今さらだけどデザイアって女だったのか
あるいはひなぎくモードの時だけ女になってるとか
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 22:55:35.97 ID:qtVw83Ni0
次回追加戦士か
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:00:02.06 ID:TVNRAefO0

ゆうき 「ゆうきと、」

めぐみ 「めぐみの、」

ゆうき&めぐみ 「「なぜなに☆ふぁーすと!」」

めぐみ 「なんだかすごく久しぶりな気がするわね」

ゆうき 「気がするんじゃなくて本当に久しぶりなんだけどね……」

ゆうき 「まぁ、それはそれとして、気を取り直してやっていきましょう」

ゆうき 「『キャラクターが増えてきて把握するのが大変』、という声を頂きました!」

めぐみ 「と、いうことで、今までに登場したメインキャラクターの簡単な紹介をさせてもらうわね」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:00:37.51 ID:TVNRAefO0

☆希望の世界ホーピッシュ(人間界)

○王野(おうの)ゆうき
 勇気のプリキュア、キュアグリフに変身する。とてつもない怪力を発する“立ち向かう勇気の光”を持つ。おっちょこちょいでドジをやらかすことが多いけど、クラスメイトたちから頼られることが多い。家事全般大得意だけど、勉強や運動は苦手。生徒会選挙でのがんばりがはじめの目にとまり、生徒会庶務に専任される。

○大埜(おおの)めぐみ
 優しさのプリキュア・キュアユニコに変身する。“守り抜く優しさの光”を持つ。成績優秀で何でもできるが、人付き合いが苦手で、冷淡な性格だと勘違いされることが多い。口下手で、余計なことを言って悪気なく相手を傷つけてしまうことも。生徒会長には落選するが、はじめから副会長に任命される。

○栗原有紗(くりはらありさ)
 ゆうきたちのクラスメイト。演劇部。ユキナといつも一緒にいる。夢はドラマ・映画・舞台女優!

○更科(さらしな)ユキナ
 ゆうきたちのクラスメイト。演劇部。有紗といつも一緒にいる。夢は歌って踊れるアイドル女優!

○美旗(みはた)あきら
 ゆうきたちのクラスメイト。ゆうきの幼なじみ。ゆうきがアンリミテッドとの戦いに悩んでいたときにアドバイスをしたことがある。引っ込み思案で無口。知らない人と話をするのが苦手で、ゆうきが唯一の友達。ロイヤリティの情熱の国の王女、パーシーを人知れず保護している。

○騎馬(きば)はじめ
 ゆうきたちの隣のクラス、2年B組の生徒。名家騎馬家の跡取りで、自他共に認める文武両道の超人。新生徒会長で、選挙ではめぐみと票を争った。鈴蘭の唯一の友達。

○十条(じゅうじょう)みこと
 はじめのクラスの生徒。はじめの友達で、生徒会副会長。美術部に入っていて、絵を描くのが上手。

○後藤鈴蘭(ごとうすずらん)
 はじめのクラスに転入してきた少女。血色が悪く腕も足も細い。漆黒の瞳の眼光は鋭い。人付き合いをしようという気持ちが希薄で、クラス内でも少し浮いている。はじめが唯一の友達。

○誉田華(ほんだはな)先生
 ゆうきたちのクラスの担任。優しいが、厳しいときは厳しい先生。怒ると怖い。生徒たちから好かれているが、本人も生徒たちのことが大好き! 

○皆井浩二(みないこうじ)先生
 はじめたちのクラスの担任。

○郷田篤志(ごうだあつし)先生
 新しくダイアナ学園に赴任した体育の先生。筋骨隆々で厳めしい顔をした先生で、口数が少ない。

○蘭童シュウ(蘭童シュウ)
 新しくダイアナ学園に赴任した主事兼庭師。スマートなイケメンで、赴任して早々に女子生徒からの人気を獲得している。
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:01:06.18 ID:TVNRAefO0

☆光の世界ロイヤリティ

○ブレイ
 本名ブレイ・ブレイブリィ。光の世界ロイヤリティの勇気の国の王子様で、“未来へ導く勇気の王子”。モコモコの妖精。“弱虫ブレイ”というあだ名を持つが、勇敢になろうと日々がんばっている。

○フレン
 本名フレン・フレンドリィ。光の世界ロイヤリティの優しさの国の王女で、“未来を守る優しさの王女”。モコモコの妖精。冷血でヒステリックに見えるが、優しさをうまく表現できないだけで、心根は優しく温かい。

○ラブリ
 本名ラブリ・ラブリィ。光の世界ロイヤリティの愛の国の王女で、“未来を育む愛の王女”。モコモコの妖精。冷淡でブレイやフレンたちから苦手意識を持たれていたが、和解した。ゆうきたちと行動を共にしている。

○パーシー
 光の世界ロイヤリティの情熱の国の王女で、“未来を灯す情熱の王女”。ホーピッシュに降り立ったときにはすでにブレイたちとはぐれている。所在も安否も不明だったが、人知れずあきらに匿われている。



☆闇の欲望アンリミテッド

○暗黒騎士デザイア
 アンリミテッドの最高司令官にして最強の騎士。三幹部の上司にあたる。仮面をつけていて、その表情を窺い知ることはできない。単騎でプリキュアを圧倒し、必殺のロイヤルストレートをかき消すなど、凄まじい戦闘力を持つ。

○ゴーダーツ
 巨漢の幹部。プリキュアたちに敗北を繰り返したことにより、自身を見つめ直し、剣を用いて戦うようになる。凄まじい剣技でプリキュアを圧倒する。

○ダッシュー
 細身の男の姿をした幹部。姑息な手段を用いることを厭わず、奇襲や言葉による攪乱を平然と行う。剪定用のノコギリやハサミを投擲して戦う。

○ゴドー
 情緒不安定な少女の姿をした幹部。ヒステリックで気分屋で、アンリミテッドの誰より欲望に忠実。戦闘能力はそれなりだが、デザイア以上の闇を持つとされる。
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:01:32.07 ID:TVNRAefO0

ゆうき 「……っていうことで、一応今日のお話までで登場するキャラクターの紹介だよ!」

めぐみ 「多いわね」

ゆうき 「うん。端的にばっさり切り捨ててくれてありがとうめぐみ」

ゆうき 「キャラクターが多くて申し訳ないけど、このレスを参考にしてくれると嬉しいな」

ゆうき 「またキャラクターが増えたりキャラクターの立場が変わったりしたら更新するよ!」

めぐみ 「では、そんなところで、本編スタートよ!」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:02:01.98 ID:TVNRAefO0

ファーストプリキュア!
第十三話【燃える情熱! それは紅蓮のプリキュア、キュアドラゴ!】


 数週間前、ダイアナ学園、始業式の放課後のこと。

「はぁ……」

 あきらはあまり学校帰りに寄り道をするタイプの中学生ではない。しかしその日は、大好きな作家さんの新刊の発売日だ。本当なら幼なじみのゆうきと一緒に商店街を回って、一緒に本屋をめぐり、一緒にお茶でもして……なんて考えていたのだけれど、当のゆうきは学級委員に選ばれてしまい、放課後に早速仕事にかり出されてしまった。せっかく同じクラスになれたのに、と寂しい気持ちはあるが、仕方がないだろう。

 本を買って、商店街を後にする。自宅に歩を進めていると、ふと違和感が頭をよぎった。

「なんだろう。空が暗い……?」

 それはとても異様な光景だった。まるで、世界全体をモノクロに落としたようだった。極限までコントラストを落としたかのような世界は、人気をまるで感じない。まるで、ゴーストタウンにあきらひとり取り残されたかのようだった。

「な、なに……? これ、一体……」


『ウバイトォオ……オオ……オオオオル』


「へっ……?」

 遠くから、何かの雄叫びのような声が聞こえた。それは明らかに人間が発したような声ではなかった。遠く遠く、本当に遠くからの声だけれど、それを聞いて、あきらは真っ先に怪物という単語を思い浮かべた。ホラー小説は嫌いではないけれど、本当にホラーな状況に巻き込まれるわけにはいかない。あきらはどうしたものか考えながら、とにかく自宅へと急いだ。

 と――、

「――ドラァアア……!」

「ひぁ……!?」

 頭上からうめき声が聞こえた。それはどこか可愛らしい声だったのだけれど、状況を把握しきれていないあきらには、恐ろしい怪物の雄叫びと同じように、驚くべきものだった。

 コテン、と。

「ひゃっ!!」

「ドラっ!?」

 あきらの頭にポコンと何かやわらかいものが当たった。とっさにしゃがみ込み目をつむるあきらのすぐ近くに、ポコン、と、そのやわらかい何かは落ちたようだった。

「な、なになになに……。なんなの……?」

 涙目になりながら、そっと目を開く。目の前には、モコモコのぬいぐるみが落ちていた。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:02:33.82 ID:TVNRAefO0

 ぬいぐるみといえばホラー作品ではよく使われる舞台装置だ。あきらは叫び声を上げそうになるのを必死でこらえ――

「――た、助けて、ドラ」

「きゃっ、きゃああああ!!」

 こらえきれずにたまらず叫んでしまう。致し方ないことだろう。だって、ぬいぐるみが喋るなんて、誰に想像できようものだろうか。

「ど、ドラ。びっくり、させないで、ほしい、ドラ」

「こっ、こっちの台詞だよ。いきなり喋らないでよ」

 よく見て見れば、可愛らしいぬいぐるみだ。ホラー小説に出てくるようなぬいぐるみではなく、どちらかといえばローファンタジーにでも出てきそうなぬいぐるみだ。あきらは幾分か落ち着いて、そのぬいぐるみに歩み寄った。

「あ、あなた、喋れるの?」

「? もちろん、ドラ」

 ふわふわの身体に、もこもこの翼。頭に生えているのはトサカだろうか。口元から見え隠れする牙……というにはあまりにも可愛らしい、八重歯。あきらを見つめる目はくりくりと、少し怯えるように潤んでいる。

「あなた、名前は?」

「ドラ? パーシー、ドラ」

「パーシー……。わたしはあきら。美旗あきらっていうの」

「あきら、ドラ……」

「…………」

 それが、お互い口数の少ないふたりの出会いだった。
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:03:13.03 ID:TVNRAefO0

…………………………

 時は戻って、生徒会選挙翌日のこと。

「新生徒会会長、騎馬はじめだ。学級は2年B組。趣味は各種お稽古事と勉強だ。これから一年間、どうかよろしく頼む」

「生徒会副会長の十条みこと。騎馬さんと同じく2年B組。美術部に入っています。趣味は絵を描くこと。将来の夢は画家。これからよろしくお願いします」

「同じく生徒会副会長を会長信任枠でやることになりました、2年A組の大埜めぐみです。趣味……は、えっと、特にないです。勉強も運動も好きです。よろしくお願いします」

 生徒会選挙明くる日の朝が、初の生徒会活動だった。とはいえ、各自が簡単な自己紹介をするだけの顔合わせのようなものだけだ。会長、副会長二人に続いて、書記一人、会計一人と自己紹介を進めていく。やがて、庶務のゆうきの番になった。

「は、ははは、はじめまして! 王野ゆうきです! えっと、趣味って言えるかわからないけど、家事全般大得意です! 炊事家事洗濯掃除何でもござれです! 特技は……えっと、えーっと……あっ! 三枚おろし! です! よろしくお願いします!」

 我ながらなんと情けない自己紹介だろうか。めぐみは頭を抱えているし、ゆうきのことを知っているはじめはからからと気持ちよく笑ってくれるが、もうひとりの副会長――ボブカットに猫を思わせるつり目が特徴的な、十条みことは目をぱちくりさせてゆうきを見ているし、書記、会計担当の一年生たちは一様にどう反応したものか考えあぐねているようだった。ゆうきは真っ赤になって、すごすごとめぐみの後に隠れた。

「庶務がもうひとり必要なんだ」

 自己紹介が済んだところで、一同にはじめはそう言った。

「生徒会は書類作成の仕事が多い。後世に残る大切な資料だ。それをすべて手書きで作るのだけど、書記ひとりだけじゃ大変なんだ。だから、字が上手な子が望ましいんだけど……」

 はじめは妙に様になる仕草で肩をすくめた。ゆうきははじめほど肩をすくめる動作が様になる同学年の女子に会ったことはない。

「あいにく、心当たりは皆部活で忙しい子ばかりでね。どうだろうか、大埜さんと王野さんの知り合いに、字が上手な子はいないだろうか」

「話は分かったけど、字が上手な子ねぇ……」

 めぐみが唸る。

「みんな、上手といえば上手だけど、女の子っぽい丸字が多いのよね」

「有紗は達筆だけど、演劇部で大忙しだしなぁ」

 ゆうきも考える。

「部活に入っていなくて、字が上手な子……。うーん」

 ふと、字が上手という言葉に引っかかる何かがあった。

「……あ」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:03:41.02 ID:TVNRAefO0

「……? 心当たりがあるの、ゆうき?」

「心当たりって言っていいのかな」

 ゆうきははじめに向き直る。

「えっと、美旗あきらっていう、うちのクラスの子なんだけど……」

「ああ、美旗さんのことならよく知っているよ」

 はじめが言う。

「なにせ、一年の頃から、勝手に勉強のライバルに認定させてもらっているからね。もちろん、大埜さんもだけど」

「あ、わかるわ。私も騎馬さんと美旗さんに勝つのを目標に定期テストをがんばっているもの」

 勉強ができる人種というのは、みんなこういう感じなのだろうか。定期テストといえば毎回赤点を回避することを目標としているゆうきとしては辟易とするものだが、ともあれ、だ。

「知っているなら話が早いよ。あきらとは幼なじみなんだけど、本当に字が上手なの。小学校の頃は毛筆・硬筆両方とも地域の代表だったんだよ」

「それはすごい。それに王野さんの幼なじみなら、間違いないだろう。手間をかけるが、王野さん、ぜひ美旗さんを生徒会庶務に誘ってもらえないだろうか」

 あきらのことを考える。あまり人前に立つのは得意な子ではないが、生徒会庶務ならば、きっと快く引き受けてくれるに違いない。ふと、思い出す。このところ、あきらとすれ違ってばかりだったこと。それの埋め合わせというわけではないが、あきらと一緒にいられる時間が増えれば、ゆうきとしてもとても嬉しい。

「うん、わかったよ! 任せて!」

 ゆうきは胸をどんと叩いて承諾した。
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:04:33.77 ID:TVNRAefO0

…………………………

 自信満々にそう言い切ったものの、である。

「えー、今日はお家から連絡があって、美旗さんが体調不良でお休みだそうです」

 朝のホームルームの冒頭、誉田先生はそう言った。

「美旗さん以外はみんないるわね。誰か、明日美旗さんにノートを見せてあげてね」

 はーい! と元気よく返事をする良い子揃いのA組の面々の中、ゆうきだけは神妙な面持ちをしていた。

「あきらが休み……」

 休み時間、ゆうきが呟く。それを見て、めぐみが肩を叩いた。

「そんな渋い顔をしても仕方ないじゃない。生徒会に誘うのはまた明日にしましょう」

「いや、そうじゃなくてね」

 ゆうきが答える。

「あきら、あんまり学校を休む子じゃないんだよ。めがねをかけてて三つ編みでおとなしいから勘違いされがちだけど、小学校の遠足の山登りとか、毎回一番になっちゃうくらい体力があって、身体も丈夫なんだ」

「そ、そうなの? 意外ね」

「うん。あきらが体調を崩すなんて、わたし滅多に見たことないんだ」

 ゆうきは窓を見て。

「……心配だな。あきら、大丈夫かな」

「幼なじみなのよね。お家は近いの?」

「うん。なんてったって公園デビューからの付き合いだからね」

 ゆうきの返事を聞いて、めぐみが言った。

「じゃあ、午後、一緒にお見舞いに行くのはどう?」

「いいね! ついでにプリント類も持って行ってあげて、調子がそこまで悪くなさそうだったら、少し生徒会の話をさせてもらってもいいし」

「決まりね。今日の放課後は、ふたりで美旗さんのお宅に伺いましょう」

「うん!」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:05:08.34 ID:TVNRAefO0

…………………………

 ズル休みではない。朝起きたときは少しだけ熱があった。それはお母さんだって知っているし、だからこそ学校にお休みの電話もしてくれた。

「……暇だなぁ」

 とはいえ、元々微熱程度でどうとなるようなヤワな身体ではないし、昼前に計り直した時点で熱はしっかりと平熱に戻っていた。あきら自身も分かっている。ゆうきとめぐみに会うのが怖くて、微熱を理由に、学校を休んだのだ。

「これじゃあ、ズル休みみたいなものだよね」

「そんなこと、ないと、思うドラ……」

 ズル休みをしているという自責の念に耐えられなくて、あきらは制服に着替えた。そんなあきらを見て、パーシー――ドラゴンのカドをとことんまで落として、ふわふわにしたようなぬいぐるみにしか見えない王女様――が、心配そうに言う。

「学校、行くドラ?」

「うん。今からじゃ6時間目からの参加になっちゃうだろうけど、行くよ」

「ドラ……」

 その心配そうな顔をよしよしと撫でて、あきらはカバンを手に取った。

「……あ、そうだ」

「ドラ?」

「パーシー、ずっとお留守番じゃ退屈でしょ? 一緒に学校、行ってみない?」

「ドラ!?」

 パーシーは驚きで目をまん丸にした。

「ぱ、パーシーが学校にドラ……?」

「そんな怖いところじゃないよ。パーシー、わたしと会ってから、わたしの家から出てないでしょ? 運動不足になっちゃうよ」

「で、でも、ドラ……」

「あと、情熱的な人も探せるよ。学校、行こ?」

「ドラ……」

 パーシーはしばし逡巡するような顔をしたが、やがて顔を上げ、小さく不安げに頷いた。

「よろしく、お願いします、ドラ……」

「うん!」

 あきらはにこりと笑って頷いた。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:05:53.03 ID:TVNRAefO0

…………………………

 この世界の日差しは嫌いだ。

 ポカポカと暖かくて、昔のことを思い出してしまうから。

「ふぅ……今日はこのくらいでいいかな」

 このダイアナ学園の中庭は、しばらく専門の業者が入っていなかったというだけあって、彼が直すところばかりだった。彼が赴任して数週間が経って、ようやく彼の思うとおりの庭を作る、基礎ができてきた。

「ま、どうでもいいことだけどね」

 彼はそれだけ言うと、剪定のための道具一式を倉庫に片付けた。彼には今まさに、成さなければならないことがあるからだ。

「あら、今日はもう終わりなの?」

「っ……!?」

 背後から声がかけられる。慌てて振り返ると、そこにはとぼけた顔をした、質素な風体の女性が立っていた。質素な格好ではあるが、スタイルから顔立ちまで、恐ろしいほどに整っていて、どこか気品すら感じさせる女性だ。

「……ひなぎくさんでしたか。パンの販売ですか」

「ええ。今日から、自家製のクッキーと紅茶、コーヒーの販売もするわ。シュウくんもぜひ来てね」

「相変わらず商魂逞しいことですね」

 彼は片付けを終え、ひなぎくさんに向き直った。

「残念ですが、今日は午後から休暇を頂いているんです。少し、用事があるもので」

「そう?」

 彼女はにこりと笑う。すっと、彼に避ける暇も与えず近づき、耳元で囁く。



「焦ってはダメよ? しっかりとやりなさい」



 空気が変わったように彼には思えた。顔は笑ったままだが、声はどこまでも冷たい。それは、彼が恐れる上司そのものだ。

「……ふん。やはり、あなたはぼくの動向を把握していたのですね」

「ふふ。だって私はあなたの家主だもの。当然よ」

「あなたに言われるまでもない。後藤さんのようなヘマをするつもりはありません」

「そう。安心だわ」

 ひなぎくさんはゆっくりと彼から離れた。

「安心して。もしもゆうきちゃんたちが向かっても、私が止めるわ」

「……御自ら出撃されるのですか」

「全力を出すつもりはないわ。ただ足止めをするだけよ」

 ひなぎくさんはそう言うと、身を翻し、ひらひらと手を振った。

「それじゃ、がんばってね、シュウくん」

「……ええ。ひなぎくさんも、パンの販売、がんばってください。紅茶とクッキーも売れたらいいですね」

「ありがと」

 その姿は、本当にただの学校に出入りする業者さんだ。それでも、その内に内包する闇は、彼を遙かに凌駕する。

「……ふん。ただの腑抜けになったようではなくて、安心したよ」

 彼はニヤリと笑う。

「どういう風の吹き回しか分からないけど、協力してくれるというのなら、利用させてもらうだけさ」

 ドクン、と。胸に隠してあるエスカッシャンが胎動する。

「……おや、王女様はお出かけになるのかな。都合がいいことだ」
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:06:24.51 ID:TVNRAefO0

…………………………

「パーシー、大丈夫?」

「ドラ……」

 カバンの中に入っている王女様の返事は、いつも以上に元気がない。まだ外に出て数分だというのに、出会って以来出たことのないあきらの部屋の外の景色に気後れしているのだろう。

「しょうがないなぁ」

「ドラ?」

 ひょいと、パーシーをカバンから抱き上げる。周囲に人はいないし、いたとしてもぬいぐるみだと言えば大丈夫だろう。あきらはパーシーを胸元で抱きしめた。

「こうした方が外も見やすいでしょ? そんなに怖いところじゃないんだよ、この世界……えーっと……」

「ホーピッシュ、ドラ」

「そうそう、ホーピッシュ」

 パーシーは恐る恐るといった様子で、あきらに抱きかかえられたまま、周囲を見つめる。

「明るい世界ドラ……」

「そうなのかな。パーシーが住んでた世界は違うの?」

「よく、覚えていないドラ。でも、こんなに……自由な気持ちは、初めてドラ」

「自由?」

 パーシーは暗い表情を浮かべていた。

「……きっと、パーシーたちが、悪かった、ドラ。パーシーたちが、もっと、きちんとしていたら、ロイヤリティは、もっと自由な場所になっていた、ドラ。滅ぶこともきっと、なかったドラ……」

 あきらは、パーシーからロイヤリティがアンリミテッドに飲み込まれた話を聞いている。そして、ホーピッシュがいずれは、ロイヤリティと同様、アンリミテッドに飲み込まれるであろうということも、知っている。それを防ぐために、またロイヤリティを復活させるために、パーシーが情熱にあふれる人を探しているということも知っている。

「パーシー、きっと大丈夫だよ。情熱にあふれる人を探し出して、伝説の戦士になってもらおう?」

「ドラ……。パーシーには、無理ドラ。パーシーは情熱の、国の王女なのに、情熱のじの字もないドラ。喋るのが苦手で、人と話すのが怖くて、こんなパーシーじゃ、きっと伝説の戦士なんて、生み出すことはできないドラ……」

「パーシー……」

 パーシーはとことんまで自分に自信がないようだった。こんなとき、どんな言葉をかけてあげたらいいのだろうか。あきらにはすぐには思い浮かばない。思いついたとしても、なかなかその言葉を口にしてあげることができない。それが正しいことか、わからないからだ。

「……情熱にあふれる人って、どんな人かな」

 あきらは話を変えるために、そう聞いた。

「わからない、ドラ。でも、きっとパーシーとは正反対な人、ドラ」

「……きっと、わたしとも正反対な人だろうね」

 慰めるつもりが、自分までダウナーな気分になってくる。あきらは顔を上げて、恨めしい気持ちで空を見上げた。どこまでも高くどこまでも明るい。


 ――その空が、一瞬にしてモノクロに染まった。


「ひゃっ……!」

「ドラ!」
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:06:52.06 ID:TVNRAefO0

 周囲を見渡す。パーシーが明るく自由と評したホーピッシュが、その明るさを失っていた。人の気配もない。まるで、世界からあきらとパーシー以外の生き物が消え去ってしまったようだった。

「これ、見たことある……。パーシーと出会ったときと同じだ」

「ドラぁ……」

 胸に抱くパーシーが震え出す。

「どうしたの、パーシー。大丈夫?」

「アンリミテッド、ドラ……」

「え……?」

「アンリミテッドの気配、ドラ。この気配は、知っているドラ……」

 パーシーの震えが大きくなる。

「あの日。ロイヤリティが消えた、あの日……。情熱の国の王宮で、パーシーは……アイツに……追われて……」

「パーシー! パーシー、しっかりして!」

 パーシーは縮こまり、両手で頭を抱えた。よほど怖いのだろう。

「パーシー、アイツって……」

「……アンリミテッドの欲望の戦士、ドラ。情熱の国に攻めてきた、幹部、ダッシュー……」

「ダッシュー……――」




「――……おや、王女様。ぼくのことを覚えていてくださったのですね。光栄です」




「!?」

「ドラっ……」

 人が消え去ったと思っていた街に、ただひとり彼だけが立っていた。

 背が高いというよりは、細いという印象だ。笑みを浮かべてはいるが、それはどこか人を小馬鹿にしたような、うすら寒い笑みだ。

「あ、あなたは……」

「ドラ……! あきら、逃げる、ドラ……!」

「パーシー……?」

「あれが、ダッシュー、ドラ……。闇の欲望に墜ちた、恐ろしい戦士、ドラ……」
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:07:56.94 ID:TVNRAefO0

「ご紹介にあずかり光栄です。パーシー・パッション王女閣下」

 ダッシューと呼ばれた細面の男は、腰の前に手を当て、恭しく頭を下げた。

「そして、初めまして、お嬢さん。最近はぼくの姿を見ても怯えることなく立ち向かってくる子どもばかりを相手にしていたから、君のその怯えた顔はとても新鮮だ」

「お、怯えてなんか……」

「手が震えているね。足もだ。そして、歯の根もかみ合っていないように見える」

「っ……」

 ダッシューの言ったとおりだ。震えているのはパーシーだけではない。パーシーを抱きかかえるあきらの手が、足が、そして口元が、震える。目の前の男が怖くて仕方がない。色を失った世界が、怖くて仕方がない。

「怖がる必要はない。この世界もいずれは闇に墜ちる。ロイヤリティと同じようにね。そうすれば何も感じない。怖がる必要もない。痛みもない。悲しみもない。皆がただただ闇の中にたゆたう、素晴らしい世界が待っているんだよ」

「そ、そんなこと、させない、ドラ……!」

 あきらの胸元で震えていたパーシーが、声を上げた。

「パーシーは、それを防ぐため、に、ホーピッシュに、やってきた、ドラ……!」

「たとえどうであれ、それはもう、無理です」

 ダッシューはうすら笑いを浮かべたまま続けた。

「だって、王女閣下の持っていらっしゃるプリキュアの紋章も、ロイヤルブレスも、ぼくが今から、いただくのですから」

「ひゃっ……」

 ぞわっと、背筋が泡立つようだった。何もかもを馬鹿にするような表情をしていたダッシューが、その瞬間、明確な敵意をパーシーに向けたのだ。あきらはパーシーを抱えたまま、尻餅をついた。

「おや、かわいそうに。お嬢さん、その王女様を置いてお逃げなさい。君はただ、ロイヤリティの王族に利用されているだけだ。この世界もいずれは闇に墜ちるが、それは今じゃない。束の間ではあるだろうけど、もうしばらくは、このホーピッシュで幸せを謳歌したいだろう?」

 考えるまでもないことだ。ゆっくりと歩み寄るダッシューが恐ろしくて仕方ない。ダッシューの言うとおり、パーシーを置いていけば、きっとダッシューはあきらを追うようなことはしないだろう。

「……あきら」

 手の中でパーシーが震える。不安げな瞳は、涙でゆらゆらと揺れている。

 これもまた、わかりきっていることだ。

 あきらは、手の中の暖かな王女を、置いてなど、いけない。

「……パーシー、逃げるよ。しっかり掴まって」

「おや?」

 あきらはパーシーをカバンに入れ、立ち上がると、身を翻し、駆けだした。

「……まったく、この世界の人間は、聞き分けの悪いことだ」

 あきらはすでに背を向けていたから、気づかなかった。

 ダッシューが、まるで獲物を追うハンターのように、酷薄に笑ったことを。
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:08:23.48 ID:TVNRAefO0

…………………………

(ゆうき、ゆうき)

「ひゃうっ!?」

 それは、六時間目の授業中の出来事だった。唐突にかけられた声に、ゆうきは驚いて声を上げてしまう。

「……どうしました? 王野さん?」

「あ、いえ……」

 数学科の初老の晴田先生が、優しげな目をゆうきに向ける。

「すみません。ちょっと、寝ぼけちゃって……」

「ほほほ、私の授業は眠くなりそうと話題ですからね」

「……ごめんなさい」

 晴田先生はゆったりとしたしゃべり方で、一見して眠くなりそうだが、実際にはたくみな話術で生徒を数学の奥深い世界に導くと有名な出来る先生なのだ――というのはおいておくとして、だ。

(ちょっとブレイ! 授業中に話しかけないでよ!)

(それどころじゃないグリ! どこかにアンリミテッドが現われたグリ!)

「ええっ!?」

「……王野さん?」

 再び晴田先生の目線がゆうきを向く。大声を出したのだから当然だ。

「す、すみません。何でもないです。集中します」

「はい、そうしてください」

 めぐみが離れた席で頭を抱えるのが見える。それでこそゆうき、と言わんばかりの顔でこちらに親指を上げるユキナの姿も見える。有紗は我関せず、というよりは、数学のノートに何か書き殴っている。大方、いまのゆうきのボケが、次の演劇に使えると思ってメモをしているのだろう。基本的に演劇部凸凹コンビのふたりは、授業に対してはあまり真面目ではない。

(アンリミテッドって、本当なの……?)

(間違いないグリ! フレンとラブリも感じているはずグリ!)

 ふたりはいま、めぐみのカバンの中に入っている。ゆうきの席から様子を伺うことはできないが、めぐみも同じようにフレンとラブリとこっそり話しているかもしれない。

(でも、いまは授業中だから、授業が終わったらね)

(グリ……。授業は大事グリ。仕方ないグリ)

 アンリミテッドのことは心配だが、ゆうきもめぐみもプリキュアである前に、女子中学生だ。ゆうきは特に、数学が大の苦手なのだから、授業を抜けるわけにはいかない。

(うぅ〜、早く授業終わってよ〜!)

 晴田先生のゆったりとした聞き取りやすい口調が、今ばかりは焦りを助長するようだった。
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:08:51.09 ID:TVNRAefO0

…………………………

 あきらは、必死で逃げた。

 その努力をあざ笑うかのように、逃げる先逃げる先に、ダッシューは待ち受けていた。

「どうしてそんなにがんばれるんだい?」

 ダッシューはあきらにそう問うた。

「体力には自信があるから。そう簡単に、わたしを捕まえられると思わないでほしい、です」

「そういうことじゃないんだよなぁ……」

 ダッシューは笑いながら、そう言った。

「どうして、そんなちっぽけな王女様を抱えて、苦しい思いをして、逃げ回ることができるんだい? 君には関係ないことだろう?」

「……そんなこと、ない」

「へぇ?」

 あきらは走った。どこへ逃げてもダッシューはいる。それでも、簡単に諦められるはずがなかった。

「パーシーは大事な友達だから。置いていけるわけ、ない!」

「……ふぅん。さすがは希望の世界ホーピッシュの子ども、といったところだろうか。けど……」

 次の瞬間、目の前にダッシューの薄ら寒い笑みがあった。

「なっ……!?」

 あきらは、両肩をダッシューに掴まれて、その場に止められた。

「その王女様は、本当に君が守る価値がある、大事な友達なのかい?」

 そして、ダッシューはそう言ったのだ。
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:09:17.67 ID:TVNRAefO0

…………………………

「ようやく授業が終わったグリ! 急ぐグリ!」

「わ、わかってるよぅ。めぐみ、急ごう!」

「ええ」

 ゆうきとめぐみは、帰りのホームルームが終わった瞬間、誉田先生からあきらの分のプリントをもらうこともできず、教室を飛び出した。

「アンリミテッドがいるのはどっち!?」

「向こうグリ!」

「えーっ! うちの方向だよ!」

「余計なこと言ってないで、急ぐニコよ!」

「わ、わかってるよぅ」

 そんなことを言い合っている横で、ラブリはめぐみの肩に乗り、言った。

「何か、嫌な予感がするレプ」

「奇遇ね。私もよ。何か、とてつもない悪意が動いているような気がするわ。この胸騒ぎは一体……――」



「――なるほど。勘がいいことだな。キュアユニコ」



「ッ……!?」

 いつの間に現われたのだろう。

 否、いつの間に、世界はこんなにも真っ暗になったのだろう。

 他のアンリミテッドの幹部であれば、こんなことはありえない。ゆうきとめぐみが気づく前に、世界が真っ暗なアンリミテッドの領域に入ることなど、絶対にありえない。

 それはつまり、ふたりの認識が遅れるくらい速く、世界が一瞬にして切り替わったということに他ならない。

「デザイア……!」

 ふたりの進行方向に、ただひとりたたずむ黒衣の仮面の騎士。

 アンリミテッドの最高幹部にして、最強の騎士、デザイアだ。
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:09:44.15 ID:TVNRAefO0

「ふん。ゴドーから報告は受けていたが、プリキュアの庇護下に入ったのだな、ラブリ・ラブリィ王女」

「れ、レプ……!」

 名指しされ、ラブリはめぐみの肩の上でびくりと震える。

「プライドの高い貴様が、未だにプリキュアを生み出せていないという恥辱に耐えていることだけは、称賛に値することだな」

「っ……」

 嘲弄するような声に、ラブリの目線が鋭くなる。そんなラブリを、めぐみは優しく撫でた。

「見え見えの挑発よ。大丈夫。あなたは立派な愛の王女だもの。愛のプリキュアも、すぐに生み出すことができるわ」

「……レプ。ラブリとしたことが、向こうのペースに乗せられるところだったレプ」

 ラブリは落ち着いたようだった。

「ありがとうレプ、めぐみ」

「礼には及ばないわ」

「……ふふ。なるほど。しっかりと王族を助ける下僕らしくなってきたな、プリキュア。王族に利用されているとも知らず、全く健気で泣かせてくれる」

「そんな挑発になんか、乗らないんだから!」

 ゆうきがビシッとデザイアに宣言する。

「ところで! ひとつ聞きたいんだけど!」

「……調子が狂うものだな。なんだ、キュアグリフ」

「ブレイたちが言っていた、さっき現われたアンリミテッドって、あなたのこと?」

「……ふむ。しかし、思慮に欠けているわけではない、か」

 デザイアがどこか感心したように言う。

「正直に答えてやる義理もないが、貴様らのやる気を出すために、少しだけ教えてやろう」

「……?」

 デザイアは漆黒のマントを広げる。その手に握られているのは、細身の剣、レイピアだ。それを、まるで映画の中から飛び出てきた本物の騎士のように仮面の前にかかげる。

「ダッシューが情熱の国の王女を追い詰めている、と言ったら、どうする?」

「グリ!? パーシーが!?」

「その通りだ。臆病者の勇気の王子」

「グリ……」

 デザイアの仮面の下の鋭い視線が己に飛んだ瞬間、ブレイは縮こまる。

「もしも情熱の王女を助けに行きたいのなら、私を倒すことだ。私は積極的に戦う気はない。貴様らが情熱の王女を見捨てて退くというのならば、私もまた退こう」

「なっ……!」

 ブレイが震える身体で、叫んだ。

「そんなことできるわけないグリ! パーシーを見捨てることなんて、できるわけないグリ!」

「ほう。そうか。では、来い。勇気の国の王子、ブレイ・ブレイブリィ」

 デザイアの仮面の下の冷たい瞳が、ブレイを見据える。その瞳に込められているのは、明確な憎悪と敵意。それを受けて、ブレイの小さな身体は固まり、動けない。

「グリ……」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:10:12.97 ID:TVNRAefO0

「……ブレイ。偉かったね」

 ゆうきは、固まったままのブレイを、そっと抱きしめた。

「ゆうき……?」

 ブレイは、震える身体で、声で、情けなく縮こまりながら、それでも叫んだ。

 小さい身体で、恐ろしく強いデザイアを相手に、逃げないと言いきったのだ。

「ふん。くだらんな。所詮勇気をなくした王族か。プリキュアがいなければ何もできないのだな」

「こんな小さな子たちに戦えって言っているのなら、それこそナンセンスだわ」

「なに?」

 めぐみが言葉を紡ぐ。

「ロイヤルストレートすら吹き飛ばすあなたに、この子たちが勝てるわけないじゃない。アリの子どもにアフリカ象に立ち向かえって言ってるようなものだわ」

「あ、アリの子どもはひどいグリ……」

 ブレイが誰にも聞こえない声でぼそっとぼやく。

「そうだよ」

 頼もしい相棒の言葉を受けて、ゆうきもまた、口を開いた。

「ブレイは怖くても、震えていても、あなたに対して一歩も退かなかった。わたしたちプリキュアは、そんなブレイからたくさんの勇気をもらったよ。もちろん、フレンも、ラブリもだよ」

 ゆうきは手を前に掲げる。そこに燦然と輝くのは、薄紅色のロイヤルブレスだ。ゆうきとめぐみは目を見合わせ、頷いた。

「あなたの言っていることが本当なら、わたしたちは情熱の国の王女を助けに行かなくちゃならない」

「あなたはたしかに強いかもしれないわ。それでも、私たちが尻尾を巻いて逃げるわけにはいかないのよ」

「……なるほど」

 デザイアの仮面の下の表情はわからない。しかし、纏う雰囲気が変わるのがわかった。

「ゆうき、めぐみ、受け取るニコ!」

「ロイヤルブレス、行くグリ!」

 ふたりの妖精から放たれた光を受け取る。二体の神獣がかたどられた美しい紋章は、ふたりの少女に大いなる勇気と優しさを与えているようだった。



「「プリキュア・エンブレムロード!」」



 色を失った世界で、神々しいまでに明るい光が弾けた。

 その光の中で、ふたりの少女はお互いの手を取ったまま、戦士へと姿を変える。

 そして、美しいふたりの、伝説の戦士が大空より舞い降りる。



「立ち向かう勇気の証! キュアグリフ!」


「守り抜く優しさの証! キュアユニコ!」


「「ファーストプリキュア!」」



 変身したふたりの戦士を前に、仮面の騎士は、誰にも見えない表情を歪め、笑う。

「闇の欲望、アンリミテッド。最高司令官、暗黒騎士デザイア。参る!」

 デザイアは、レイピアを構え、ふたりのプリキュアに突撃する。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:10:49.02 ID:TVNRAefO0

…………………………

「っ……」

 掴まれた肩に痛みはない。ダッシューには、あきらを傷つける様子は微塵も感じられなかった。ダッシューは一見して優しげな笑みを浮かべて、とうとうと語る。

「ねえ、お嬢さん。君はその王女様の何を知っているんだい?」

「な、何を、って……」

「何も知らないんじゃないかい? いや、もちろん、ロイヤリティのこととか、情熱の国のこととか、ぼくらアンリミテッドのことくらいは聞いているかもしれないねぇ」

 けれど、と。ダッシューは酷薄に笑う。

「王女様をはじめとした王族が何をしたのか、それは聞いていないんじゃないかな。正直な話、君の誠実さと体力には、少しだけ敬意を表したいところなんだ。大方、すぐにぼくに王女様を差し出すか、もしくはすぐに疲れ果てて、ぼくに王女様を取られるか、そのどちらかだと思っていたからね」

「ど、ドラ……」

 パーシーがガタガタと震え出す。ダッシューはその様を見て、やはり嗜虐的に笑う。

「ねえ、王女閣下。あなたたちは卑怯だ。ホーピッシュの人間を利用するために、まるで自分たちは被害者だというような顔をする。あのとき、あの瞬間、あなたは情熱の国の臣民を見捨てて、王様やお后様と一緒に、情熱の国を逃げたというのに」

「ど、ドラ……! に、逃げた、わけじゃ、ない……ドラ……。パーシーたちは、エスカッシャンを、守るために……――」



「――その言い訳を、果たして闇に飲み込まれたロイヤリティの臣民は、聞いてくれますかねぇ」



「ドラ……」

「パーシー……」

 ダッシューは、あきらの肩から力が抜けたのを感じたのだろう。そっとあきらの肩を放すと、優しく話し始めた。

「さ、お嬢さん。王女様を渡してくれるかな。その王女様は、ロイヤリティを捨てて逃げ出した。そして、その事実を君に隠し、君を利用するために近づいたんだ」

「…………」

「君が守る必要なんてないんだ。だから、ほら、ぼくに、ちょうだい?」

 それは、ダッシューの最後通牒だったのだろう。言葉は優しげだが、ダッシューは、それを最後と決めているようだった。もしもあきらがそれを断れば、直接あきらに危害を加えるかもしれないと、暗に言っているようだった。

「……わたしは」

「うん」

 あきらは、震えるパーシーをぎゅっと抱きしめた。

「パーシーは、言わなかったんじゃないと、思う」

「……なに?」

 ダッシューの顔から笑みが消えた。それを恐ろしく思いながら、それでもあきらは、口から紡がれる言葉を止めることができなかった。

「パーシーの気持ち、わかるんだ。言いたいことは山ほどあっても、気持ちって、全然伝えられないし、伝えるのは、怖いし」

「…………」

「それを伝えた後、相手がどんな反応をするか、想像するのも怖い。考えるのも怖い。だから、人と話をしたくなくなるんだ」

「何が言いたい?」

「……それでも、想いを伝えなきゃ、想いは伝わらないんだ」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:11:41.08 ID:TVNRAefO0

 ダッシューが焦れているのがわかった。余裕の笑みが歪み、彼の内なる凶暴さが姿を見せているようだった。

「ねえ、パーシー」

「ドラ……?」

 あきらは胸に抱くパーシーを見下ろした。パーシーはその声を受けて、ビクビクと震えながら、それでもあきらを見上げてくれた。

「パーシー、いま、わたしが何を考えてるか、わかる?」

「ど、ドラ……。そんなの、わからないドラ……」

「そうだよね。そうなんだよ」

 人の気持ちは、きっと少しだけわかる。けど、わかるのは少しだけだ。目を見るだけで、何から何までわかるようなことは、きっと、どんなに仲が良くても、ない。

 だから人は、言葉をつむぎ、意志を伝えるのだ。

「人の気持ちを考えて、心を考えて、それで言葉を選ぶことは、大事だよ」

「ドラ……?」

「でも、それをやり過ぎて、人に気持ちを伝えることができなくなったら、逆にダメなんだよ」

 自分は、ゆうきに一緒にいたいという気持ちを伝えただろうか。

 自分は、ゆうきに寂しいという気持ちを伝えただろうか。

 自分は、ゆうきとめぐみに、仲間に入れてほしいという気持ちを伝えただろうか。

「わたし、恥ずかしいや。勝手に嫉妬して、勝手に仲間はずれにされたような気持ちになって、勝手に、恨んで……」

 あきらはだから、パーシーに言った。

「パーシー。わたし、あなたがどうしたいかは聞いてなかった気がするよ。あなたの使命、ロイヤリティのこと、アンリミテッドのこと、それは聞いたけど、あなたがどうしたいかは教えてもらってないよね」

「あきら……」

「……それを聞いて、どうするというんだい?」

 ダッシューが両手を広げる。顔に張り付いていた薄ら寒い笑みは、すでになくなっていた。

「意志なんて伝えてどうなる。想いをくみ取ってどうなる。君には何の力もない。それで、一体どうなるんだ」

「パーシーが何をしたいのか、知りたい。それだけだよ。それがわからなかったら、わたしにはどうしようもないもの」

「そうか。では、情熱の国の王女様。あなたはこう言うべきだ。“わたしを置いて逃げて”とね」

「ドラ……」

「これ以上、その純粋なお嬢さんを我々の事情に巻き込む気ですか?」

「……ねぇ、パーシー」

 あきらは、ダッシューの冷たい声を遮るように言った。

「わたしの気持ち、伝えるね。わたしは、パーシーを助けたいよ。パーシーの力になりたいよ。きっと、何の役にも立たないけど、それでも、パーシーのために、できることをしたいよ」

「ドラ……」
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:12:13.47 ID:TVNRAefO0

 あきらは想いを伝えた。その想いを、パーシーがどう受け取ったかなんて、あきらにはわからない。

「パーシー、は……」

 パーシーが口を開く。

「……王女様」

 想いを伝えることなど意味がないと言いきったダッシューが、何かに怯えるように口を開く。

「あなたがどういうことを言うべきか、あなたはしっかり分かっているはずだ」

「パーシー」

 あきらは、優しく口を開く。

「パーシーがどうしたいか、教えて。お願い」

「パーシーは……」

 パーシーが涙を拭う。あきらに抱きしめられたまま、それでもあきらを真っ直ぐに見上げ、言った。

「パーシーは、情熱のプリキュアを生み出し、世界を救いたいドラ。ロイヤリティを取り戻したいドラ。パーシーはきっと、迷惑ばっかりかけてしまうけど、それでも……」

 それは、パーシーの想いの発露に他ならなかった。



「……お願いドラ。パーシーを、助けてドラ!」



「ッ……」

 ダッシューが虚空からはさみを取り出し、あきらの喉元に突きつける。

「このはさみは、君の首程度なら簡単に切り飛ばせる。こんなスマートでない方法をとるとは思わなかったけど、君もこれで思い知っただろう。絶対的な力を前に、想いなんて伝えたところで、無力だ」

「…………」

 怖い。

 怖くて仕方がない。

 いまダッシューから示されているのは、明確な敵意、憎悪、そして、本気の殺意だ。ただの女子中学生のあきらに、それが怖くないはずがない。

「……ダッシューさん。あなたは、ひょっとして、あんまり悪い人じゃないのかな」

「ッ……!?」

 けれど、あきらは、その恐怖と同じくらい、言わなければならない気持ちがあった。

「どうしてわたしたちの話を聞いてくれたの? どうして、パーシーの言葉を誘導してまで、わたしを遠ざけようとしてくれたの?」

「何を……!」

 ダッシューが明確な動揺を見せた。ダッシューは空いた手であきらの肩を突き飛ばす。

「きゃっ……!」

 あきらは背中から倒れ込む。パーシーが手から離れ、コロコロと道に転がる。

「……ほら。ロイヤリティなんかを庇うから、そういう目に合うんだ」

 ダッシューは自分を落ち着かせるように言うと、パーシーを拾い上げた。

「さぁ、わがままはこれくらいに致しましょう、王女様。参りますよ」
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:12:40.91 ID:TVNRAefO0

…………………………

 デザイアがレイピアを振るう。その所作は、素早さ、身のこなし、何をとっても隙がないように思えた。

「少しは腕を上げたか、プリキュア!」

「っ……」

 身を翻すたび、デザイアのレイピアが急所を狙い、振るわれる。

「なら、見せてあげるわよ!」

 キュアユニコが距離を取り、右手を振るう。

「優しさの光よ、この手に集え! カルテナ・ユニコーン!」

 空色の清浄な光がユニコの右手に集約される。そこに現れるのは、伝説の戦士が王族より賜ったとされる伝説の剣、カルテナだ。

「ほぅ」

 デザイアはユニコをまっすぐに見据え、突撃する。

「ゴーダーツと渡り合い、少しは強くなったか?」

「ぐッ……!?」

 ゴーダーツの何倍も速い剣戟がユニコを襲う。

(速いだけじゃない……! ゴーダーツ以上に、一撃が重い……!)

 右手にカルテナを、左手に空色の“守り抜く優しさの光”の盾を作り出し、それでも防戦一方だ。

「ふッ……!」

「きゃっ……」

 デザイアのレイピアを防いだ瞬間、空いた腹にデザイアの蹴りが入れられる。ユニコは後ろに吹き飛ばされるも、かろうじて着地する。

「っ……」

「剣筋は素人同然。剣と盾を使う頭はあるようだが、それだけだ。私のレイピアを目で追うだけで手一杯。蹴りや拳が出たらどう対処するかもわからない。話にならんな。伝説の剣、カルテナを手に入れてもその程度か」

「……ふふ」

「何がおかしい?」

「そうね。私はまだまだ未熟だわ。でも、あなたの相手は、私ひとりじゃないわよ」

「なんだと……?」



「翼持つ勇猛なる獅子、グリフィンよ! プリキュアに力を!」



「ッ……!?」

 背後からの声に、デザイアが反転する。その目線の先にいるのは、薄紅色の翼をたたえ、カルテナ・グリフィンを構えた、勇気のプリキュアだ。
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:13:14.96 ID:TVNRAefO0

 そして――、


「角ある純白の駿馬、ユニコーンよ! プリキュアに力を!」


「何……!?」

 デザイアが首を回し、ユニコに目を向ける。その時にはすでに、ユニコは“守り抜く優しさの光”を身に纏い、ユニコーンの角のように、カルテナを構えていた。

「この距離で挟み撃ち! 絶対に外さないよ!」

 グリフが叫ぶ。

「なるほど。キュアユニコ、貴様は囮を買って出たわけか。私を挟撃するために」

「そういうことよ。あなたはとても強いって分かっているもの。頭くらい使うわよ」

 ユニコはグリフと目を合わせる。頷き合い、そして――、



「「プリキュア!」」



「グリフィンスラッシュ!!」



「ユニコーンアサルト!!」



 神速の斬撃と突撃が同時に放たれる。それを回避することは、アンリミテッド最強の騎士デザイアにすら叶わないことだった。
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:13:42.32 ID:TVNRAefO0

…………………………

 ああ、目の前で、友達がさらわれてしまう。

「っ……」

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 あきらは、目の前の男が、怖くて仕方がない。

 人に、なんのためらいもなくはさみを向けることができる彼が。

 はるかに年下であろうあきらを、突き飛ばせる彼が。

 怖い。

 怖くて仕方がない。



「それ、でも……!」



 あきらは、立ち上がった。

 身体中が痛い。暴力を振るわれた経験なんてない。心臓が嫌な音を立てている。

 ストレスで頭も痛い。きっと、胃も痛くなる。



「それでも!」



「……おや」

 パーシーを掴んだままのダッシューが、立ち上がったあきらに目を向ける。

「怖いだろうに。無理をする必要はないよ。君はある意味でぼくに勝ったんだ。君のような弱い存在に暴力なんて振るうつもりはなかったけれど、それをしなければ君から王女様を奪い取ることはできなかった。君はすごいよ。上出来だ。素晴らしい」

 その称賛の言葉にはしかし、馬鹿にするような響きしか含まれていなかった。

「さ、疾くお引き取りを、お嬢さん。もう君の出番は終わったんだ」

「……終わってなんか、ないよ」

「……?」
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:14:16.88 ID:TVNRAefO0

 ダッシューが怪訝な顔をする。パーシーがあきらに目を向ける。

「あ、きら……。ありがとう、ドラ。パーシーを守ってくれて、嬉しかったドラ」

 パーシーが弱々しい言葉を紡ぐ。

「あきらと出会えて良かったドラ。あきらに言われたことが、心に響いたドラ。あきらのおかげで、パーシーは自分の気持ちを、伝えることができたドラ。だから……――」



「――だからも、何も、ないよ!」



「ドラ……?」

 あきらは言った。

「パーシーは、わたしが落ち込んだり、悲しんだり、辛かったりするとき、ぎゅって、優しく頭を抱きしめてくれたよね。パーシーは、ゆうきのことで落ち込んだわたしを、何度も慰めてくれたよね。わたし、それが、とっても嬉しかったんだよ」

「あきら……」

「パーシーは、わたしにとって、とても大切な友達なんだよ」

 伝えたい言葉がある。

 あんなに、言葉にすることが難しかったことが、今はするすると頭から口へ流れていく。心の声が、具現化する。それは、あきらの心の発露に他ならなかった。

「わたしは、パーシーを助けたい。パーシーの力になりたいの!」

「……くだらない」

 ダッシューがはさみをあきらに向ける。巨大なはさみは、ギラリと凶悪にきらめく。

「邪魔だ。失せろ」

「……ねぇ、ダッシューさん」

 怖くても、立ち向かうと決めた。

 何の力がなくても、パーシーを助けると決めた。

 だから、あきらは、

「パーシーを返して……!」

「……そのお願いを、どうしてぼくが聞くと思う!」

 ダッシューが怒りをあらわにする。

「ぼくはアンリミテッドの戦士だ! 君たち希望の世界の人間が、ぼくに敵うはずがない! どうしてあきらめない!? どうしてぼくを、こんなにもイライラさせるんだ!」

「!? ど、ドラ! やめるドラ!」

 ダッシューがはさみを振りかぶる。間違いなく、その凶悪な刃をあきらに向けて投擲するつもりだろう。パーシーはそれを止めようと、ダッシューの手の中で暴れる。

「ッ……情熱の国の王女! あなたに情熱などはない! 情熱の国は、情熱をなくし無気力になっていた! あなたたち王族は、その最たる例だったはずだ! なのに、どうして……!」

「ドラ! パーシーは、たしかに無気力だったドラ! それでも! 大切な友達が傷つけられようとしているときに、黙って見ているなんて、できない、ドラ!」

 パーシーはそして、言った。

「パーシーは、あきらのことが大好きだから!」



 瞬間、光が爆ぜた。
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:14:44.64 ID:TVNRAefO0

…………………………

「……なるほど。これは、三幹部が苦戦をするのもうなずける話だな」

「う、うそでしょ……!」

「っ……」

 グリフがうめき声をあげる。それももっともだと、ユニコは思った。ユニコもまた、目の前の光景がにわかには信じられなかった。

 デザイアは、前屈みになり、背中でグリフの右腕を受け止め、左手でユニコの右腕を抱え込むように押さえていた。グリフの斬撃の威力は根元で殺され、ユニコの突撃は右腕ごときれいに受け止められていた。

「私たちの技を同時に見切ったって言うの……」

「回避することは叶わなかったが、な。さすがはロイヤリティの最秘奥、カルテナの力といったところか」

 デザイアは笑う。

「私はアンリミテッドの最高司令官にして、最強の騎士だと、貴様らも知っているはずであろう?」

「ッ……!」

 デザイアから不穏な雰囲気が漏れる。

 ユニコは何かを感じ取り、デザイアを振りほどき、離れる。グリフもまた、デザイアから離れ、カルテナを構える。

「やられっぱなしというのも性に合わぬな。大人げないかもしれぬが、少し、本気を見せておこう」

 デザイアがレイピアを鞘にしまう。しかし、柄に手を置いたままだ。デザイアの身体から黒い何かが立ちのぼる。それとともに放たれるのは凄まじい圧力を持った闘気だ。眼下によぎる影。それは、地面で固唾を呑んで戦いを見守る三人の妖精だ。まずいと思ったときにはすでに、ユニコは動いていた。同じ事を考えたのだろう。グリフもユニコと同様、妖精たちを庇うように前に立つ。

「グリフ! あなたはフレンたちを守って! 私は、“守り抜く優しさの光”でできる限り衝撃を防ぐわ!」

「わかったよ! でも、何をするかわからないけど、すごいのが来るよ!」

「ええ!」

 ユニコはカルテナを前に構え、その伝説の剣を中心に、“守り抜く優しさの光”を展開する。空色の光を幾重にも重ね、何が来ても必ず妖精たちを守り抜くと心に決める。

「ゴーダーツの剣戟ひとつ防げぬその軟弱な盾で、これが防げるか見物だな」

 デザイアが嘲弄するように言う。そして、その直後、デザイアがレイピアを鞘から抜いた。その所作は、ユニコにはまったく、見切ることはできなかった。



「この程度でやられてくれるなよ? プリキュア」



 瞬間、とてつもない衝撃がユニコを襲った。それが、ただデザイアがレイピアを引き抜いただけで生み出された衝撃とは、とても信じられなかった。抜刀の風圧によって、ユニコの“守り抜く優しさの光”が揺らいでいるのだ。

 ピシッ、と。

 ユニコの空色の光にヒビが入る。いけないと思った次の瞬間には、“守り抜く優しさの光”は、吹き飛ばされていた。

「ユニコ!」

 あまりの衝撃に背後に吹き飛ばされそうになっていたユニコは、グリフに支えられ、かろうじてその場にとどまる。しかし、消耗しきった力で、立つことも叶わず、その場にくずれ落ちた。

「……ふん。やはり、まだまだだな、プリキュア」

「そのまだまだなわたしたちだけど、しっかりとブレイたちを守ったよ!」

「そうだな。素晴らしいことだ」

 わざとらしくデザイアが手を叩く。

「ふたりきりでは、絶対に私には勝てぬ。もしも我々アンリミテッドに本気で対抗するつもりならば、早く残りのプリキュアを見つけるのだな」
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:15:16.39 ID:TVNRAefO0

「言われ、なくたって……!」

 ぜぇぜぇと肩で息をしながらも、ユニコはグリフに支えてもらいながら、立ち上がる。

「しかしお前たちがいかに努力しようと、肝心の王族がその体たらくではな」

 笑い声を上げるデザイア。その目線が向かうのは、プリキュアたちの背後でガタガタと震える妖精たちだ。

「愛の国の王女よ」

「れ、レプ……」

「貴様は愛を知らない。プライドと頭ばかりが大きくなり、もはや愛を知ることなど絶対に叶わないだろう」

「レプ……」

 デザイアの冷たい声に、ラブリがたじろぐ。

「ラブリをバカにしないで!」

「事実を述べているだけだ」

 デザイアは興味が失せたように、明後日の方向の空を見つめた。

「……目覚めた、か」

「えっ……?」

 その瞬間、デザイアが見つめる方向の空に、高く高く、火柱が上がった。

「なっ……!?」

「炎!? いや、あれは、光……?」

「……貴様らにとっては朗報だな。新たなプリキュアが生まれるぞ」

 デザイアは吐き捨てるように言った。

「ど、どういうこと!?」

「さてな。実際に行って確かめてみるといい」

「……どういうつもり?」

 デザイアの言葉に、ユニコが眉をひそめる。

「あなた、私たちを情熱の国の王女の元へ行かせないつもりだったのではないの?」

「その意味が失われたということだ」

 デザイアはそう言い残すと、レイピアを鞘に戻し、マントで身体を覆った。

「では、失礼する。三人の王子、王女、そして、未熟な伝説の戦士たちよ」

「ま、待ちなさい!」

 ユニコの言葉もむなしく、デザイアは宙に溶けるように消えた。デザイアの言葉の意味はわからないことばかりだ。しかし、今は他に優先するべきことがある。

「ユニコ! 今はあの光の方向に急ごう!」

「……そうね。デザイアとはどうせまた戦うことになるでしょうし」

 妖精たちを抱え上げ、ユニコとグリフは、光の方向へ急いだ。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:15:43.04 ID:TVNRAefO0

…………………………

「ッ……!?」

 それは、爆発的な光だ。赤い赤い、真紅の、紅蓮の、光。

 燃え上がる炎のような、熱い光。

 その光を発しているのは、パーシーとあきらだった。

「ぐっ……!」

 ダッシューがうめき、パーシーを取り落とす。パーシーは、情けなく地べたに落ちるようなことはなかった。しっかりと二本の足で着地すると、まっすぐ、あきらの元へ馳せた。

「な、何……? この光は……」

 あきらは困惑するばかりだ。モノクロに染まった世界で、まるで自分だけが色を持っているようだった。紅蓮の炎のような光は、今やあきらを覆い尽くさんばかりに広がり、空を貫くように高く高く、火柱のように立ちのぼる。

「あきら! 無理を承知で、お願いしたいドラ!」

「パーシー……?」

「パーシーは、今まさに、情熱にあふれる人を見つけたドラ! あきらが、情熱にあふれる人ドラ!」

「わ、わたしが!? 情熱にあふれる人!?」

 あきらは目をぱちくりさせて。

「だ、だって、わたし、引っ込み思案だし、唯一の友達に振られっぱなしなだけで落ち込んじゃうような中学生だよ?」

「違うドラ。あきらは、誰より熱い情熱を、内に秘めていたドラ。そして、その情熱を、心を、しっかりと伝えることができるようになったドラ。それは、誰より強い情熱の力ドラ」

 パーシーはまっすぐにあきらを見据える。その目に、もう迷う気配はなかった。

「だから、お願いドラ! あきらのその情熱の力を、パーシーに貸してほしいドラ! 伝説の戦士プリキュアとなって、ロイヤリティを救い出してほしいドラ!」

「わ、わたしが、伝説の戦士に……」

 あきらは手を握る。弱々しい自分自身の手だ。誰より自分が知っている、弱々しい手だ。

 この手で、一体何ができるだろう。

 戦士になったところで、何ができるだろうか。

「……うん」

 それでも、できることをしたいと思って、言ったのだ。

 パーシーのためにできることがあるというのなら、あきらは。

「わたし、やるよ。伝説の戦士なんてできるかわからないけど、パーシーの言うことなら信じられるよ」

「あきら……! とっても嬉しいドラ!」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:16:09.79 ID:TVNRAefO0

「この光は……ッ!」

 ダッシューが目を覆いながら、叫ぶ。

「憎らしい! 恨めしい! この光は、情熱の国の光! 情熱を表す紅蓮の光! 情熱を失ったロイヤリティの王族の分際で、どうしてこの光を持つことができるッ!」

「あきらがパーシーに教えてくれたからドラ! パーシーはもう迷わないドラ! パーシーは……ロイヤリティを救い出し、愛すべき臣民たちを取り戻すドラ!」

「臣民を捨て、逃げ出した分際で、何をッ!」

「ちゃんと謝るドラ! あなたに奪われたエスカッシャンも取り戻し、その上で、しっかりと説明するドラ! パーシーはもう、言葉を紡ぐことを、怖がらないドラ!」

 パーシーから光が放たれる。その光は、まっすぐあきらの左手へ向かう。そして、その紅蓮の光はあきらの左手首の上でカタチを成す。それは、真紅の美しい腕輪だ。

「それが情熱のロイヤルブレス、ドラ。そして、これも受け取るドラ! 情熱の紋章ドラ!」

「わっ……!」

 もうひとつ、パーシーから放たれた光を、あきらは右手で受け取った。熱いくらいに暖かいその光は、小さなプレートになる。

「これが、情熱の紋章……」

 それは、情熱を表す神獣ドラゴンをかたどった紋章だ。左手のロイヤルブレスと右手の紋章が、あきらの熱い心を、もっと熱くしてくれているようだった。

「っ……! 生まれるというのか、情熱のプリキュアが……!」

 ダッシューがうめく。しかし、ロイヤリティの光を直視できないのだろう。手で目を覆ったままだ。

「叫ぶドラ! 伝説の戦士の宣誓を!」

「……うん!」

 あきらは、まるで最初からわかっていたことのように、自然な動作で、ロイヤルブレスにプリキュアの紋章を差し込んだ。

 そして、やはり最初から知っていたことのように、戦士の宣誓を、叫ぶ。



「プリキュア・エンブレムロード!」



 天に届かんばかりに、紅蓮の光が炸裂した。その光の中にあって、熱いほどの光を浴びながら、あきらは自分自身が姿を変えていくのを感じた。炎は髪飾りとなり、耳飾りとなり、グローブとなり、衣装となる。

 そして、天高くから、まるで飛竜のように、伝説の戦士が舞い降りた。





 戦え。その情熱を示すために。

 戦え。世界に光を取り戻すために。

 戦え。誇りを取り戻すために。



 さあ、名乗れ。その名は――、



「燃え上がる情熱の証! キュアドラゴ!」



 炎が爆ぜ、情熱の戦士の誕生を祝福した。
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:16:37.02 ID:TVNRAefO0

 次 回 予 告

めぐみ 「ぐぬぬぬぬ……!」

ゆうき 「? めぐみ、なんで唸ってるんだろ?」

フレン 「たぶん、ゴーダーツにもデザイアにも剣で勝てなくて悔しいんじゃないかしら」

ゆうき 「わーお。熱血だぁ」

めぐみ 「……むー、これは、修行が必要ね」

ゆうき 「修行!? めちゃくちゃ少年漫画的だね!?」

めぐみ 「もう負けてられないわ。カルテナでゴーダーツにもデザイアにも勝てるようにしないと!」

ゆうき 「うーん、めぐみがどんどん熱血方向へ行ってしまう……」

めぐみ 「何を呆けているの、ゆうき! 今から筋トレに走り込みよ!」

ゆうき 「ええっ!? わたしもやるの!?」

めぐみ 「当然でしょ! ほら、腕立てから! よーい……」

ゆうき 「わ、わわわ、ちょっと待ってよぅ〜」

ラブリ 「………………」

ギリッ

ラブリ 「……私も、早くプリキュアを生み出さなければ」

ブレイ (うーん。誰も彼も、悩みは尽きないなぁ)

ブレイ 「と、いうことで、次回! ファーストプリキュア!」

ブレイ 「第十四話【同じ想い? あなたと友達になりたい!】」

ブレイ 「次回もお楽しみに! ばいばーい!」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 10:27:21.39 ID:TVNRAefO0
>>1です。
読んでくださっている方、ありがとうございます。
毎話開始のレスを一覧にしておきます。

第一話 >>4

第二話 >>43

第三話 >>74

第四話 >>111

第五話 >>145

第六話 >>176

第七話 >>203

第八話 >>236

第九話 >>265

第十話 >>297

第十一話 >>324

第十二話 >>364

第十三話 >>402

また来週、よろしくお願いします。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:00:08.35 ID:w9vsRS0p0

ファーストプリキュア!
第十四話 【同じ想い あなたと友達になりたい!】




「っ……! 生まれるというのか、情熱のプリキュアが……!」

 ダッシューは爆発的に広がるロイヤリティの光を直視することができずいた。

 しかし、明確にわかることは、目の前でとてつもない存在が生まれるということだ。

(情熱など……ッ!)



 ――――『わたくしは、あなたを愛しています』



「情熱などッ……!」

 遠い記憶。それは、ダッシューにももう思い出せない誰かの記憶。

 明確に覚えている、裏切られた己の情熱。

 愛。

 ロイヤリティの圧倒的な光は、そんなダッシューを許してはくれなかった。

 だからダッシューは、アンリミテッドに墜ちたのだ。

「情熱など、何にもならないッ! 愛など、無駄だッ! 人を傷つけ、悲しみをもらたらし、憎しみを生むだけのものだッ!」

 ダッシューは光から目を背けたまま、剪定用のはさみを投げた。目の前の圧倒的な脅威を、消し去らなければならないと思ったからだ。

 しかし。

「ッ……!」

 投げたはさみは、光に当たり、一瞬のうちに燃え尽きた。

 それは、ロイヤリティの光が持つ、凄まじいまでの力だ。
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:00:45.90 ID:w9vsRS0p0

「ロイヤリティ……!」

 世界はままならない。ダッシューはそれを知っている。

 かつて、もう記憶もないあの日、ロイヤリティに排斥されたあのとき、ダッシューは、ロイヤリティの光の強大さを知った。

 その圧倒的な高貴が、己を許さないということも知った。

 そう、だから、ダッシューは。

「……ぼくは、負けるわけにはいかないんだ」

 光を、まっすぐに見据える。

 目が焼け付くようだが、それでも、明確な敵意を持って。

 そして、その炎のように熱い光の奔流の中から現れた人影を、睨み付ける。



「燃え上がる情熱の証!」



 それは、紅蓮の炎を纏う伝説の戦士。

 情熱のプリキュア――、



「――――キュアドラゴ!」



「プリキュアが……ッ!」

 ダッシューは目の前の、ただの気弱な少女だったはずの戦士に、吼えた。
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:01:28.29 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 ゆっくりと目の前の光景を確認する。

 炎のような光は収束し、目の前に広がる世界は、相変わらずモノクロのままだ。

 そして、自分自身を見下ろす。

 赤と白を基調とした、かわいらしく勇ましい衣装を身につける、自分自身を。

「……えっ?」

 思わず疑問の声が洩れる。髪が伸びている。色は燃え上がるような赤だ。顔に手を当てる。眼鏡はそのままだが、少し形が変わっている。

「な、なにこれ!? わたし、どうなっちゃってるの!?」

「ドラ! それこそ、ロイヤリティの伝説の戦士プリキュア、“キュアドラゴ”の姿ドラ!」

「ええっ……えええええええええええ!?」

 驚きは冷めない。自分自身の姿が変わったのだから当然だ。しかし、暢気に驚いていられるのはそこまでだった。視界の隅で、何かが動いたのだ。

「あっ……危ない、パーシー!」

 ダッシューが大量のノコギリを取り出し、パーシーとキュアドラゴを狙い、放ったのだ。ドラゴはパーシー抱きかかえると、横に跳んだ。

「わっ……わわわわっ!」

「ドラぁ……!」

 少し横に跳んだだけだった。それなのに、道路の端まで、少なくとも五メートルは超える大ジャンプになってしまった。

「な、なにこれ……?」

「プリキュアは伝説の戦士ドラ! キュアドラゴはその中でも、最強の攻撃力を持つとされるドラ! だから、それくらい訳ないはずドラ!」

「こ、攻撃力は関係ないんじゃないかな……」

 興奮しているのか、パーシーは少し饒舌になっていた。

 ドラゴは体勢を崩しながらもなんとか着地し、パーシーを地面に下ろした。

「パーシーは危ないから離れていて」

「ドラ……! あきら!」

「うん?」

 ドラゴを見上げるパーシーが、ぐっと拳を握った。

「がんばって、ドラ!」

「うん!」
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:01:55.26 ID:w9vsRS0p0

 パーシーが走って逃げるのを見届けて、ドラゴは真っ直ぐにダッシューを見据えた。

「キュアドラゴ、か。まさか君が、伝説の戦士プリキュアになるとはね」

「さっきののこぎり、パーシーに当たるかもしれなかった。危ないとは思わないの?」

「ふん。この世界の基準や倫理観で物事を考えるのはやめた方がいい」

 ダッシューはとうとうと、ドラゴに語りかけるように。

「君はぼくとよく似ている。ぼくも、君と同じように、人に何かを伝えるのが嫌いだ。本心をさらけ出すなんて馬鹿げている」

 ダッシューは笑う。

「本心は隠してこそ、だ。傍から人が失敗するのを見て笑う。要領が悪い奴を見て笑う。それでいいじゃないか。情熱なんて持ったって、自分が周りから笑われる立場になるだけさ」

「…………」

「黙りこくったままでいいじゃないか。君は友達とトラブルになったんだろう? だったら、もう関わらなければいい。そうすれば何も起きない。君が傷つくこともない。友達を傷つけることもない。それでいいじゃないか」

「……わたしは」

「うん?」

 ダッシューの言っていることは、きっとある一面では正しい。人を傷つけるくらいなら、関わらない方がいい。傷つくだけなら、関わらない方がいい。それは、間違いないことだろう。

「人と関わるのが苦手だよ。怖いよ。だから、黙りこくって、うつむいて、じっとしていることも多いよ」

 一年生のとき、ずっと一緒だった小学校の友達と離れて、親友のゆうきとも別のクラスになって、ダイアナ学園でひとりきり、無為に時間を過ごすことが多かった。

 クラスメイトは何度も話しかけてきてくれたのに。

 あきらは、その優しさが痛くて、怖くて、逃げ出した。

 そして、大切な幼なじみの心からも逃げようとしている。

 そうすれば、たしかにあきらは傷つかないだろう。

 きっと誰も傷つかないだろう。

 しかし、それでも。

「でもね、わたしは……」

 心に灯ったこの炎を消したくない。

 せっかく生まれたこの情熱を、消したくない。

 だから――、



「わたしは誰かと一緒に生きていきたいよ。傷つくかもしれない。傷つけてしまうかもしれない。でも、そのたびに謝って、謝られて、そうやって、生きていきたいよ」
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:02:23.31 ID:w9vsRS0p0

「ッ……! 人の情熱は人を傷つける! 心と心がぶつかり合って炎が上がる! その炎は、君の心や友達の心を焼き尽くすぞ!」

 ダッシューが激昂する。

「けど、その炎はきっと、人の心を温める炎でもあるんだよ。その温かさが、きっと、人にたくさんの力をくれるんだよ。わたしは、もう、それから逃げたくないんだ」

 あきらの情熱はもう止まらない。

「怖いことだってたくさんあるよ。ゆうきとお話しするのも、今は少し怖いよ。それでも、わたしは、たくさんの情熱を持って、たくさんの人と一緒に生きていきたいんだ」

「……いっておくが、人との関わり程度を恐れる君に、プリキュアなど無理だよ。戦うのはもっと苦しいし、怖いよ。それでも、君は――」

「――戦うよ、わたしは、戦う。パーシーを守るために。パーシーの願いを叶えるために。そして、この世界を守るために」

「……わかった。なら、少し怖い思いをしてもらおうか」

 ダッシューが虚空から何かを引っ張り出す。それは、巨大なはさみと、巨大なノコギリだ。

「ぼくたちはアンリミテッドだ。己の欲望のためなら何でもするよ」

「っ……」

「怖いだろう? こののこぎりが、このはさみが、君の喉元に突き刺さるかもしれない。怖いだろう? ぼくは、人を傷つけることを何とも思わない」

 ダッシューの目はどこまでも本気だった。今や明確な敵意をドラゴに向けている。

 伝説の戦士に変身したって、怖いことに変わりはない。

 それでも、パーシーからもらった力は、ドラゴに勇気を与えてくれる。

「……怖いけど、わたしに戦う力があるなら。パーシーを守る力があるなら!」

「悪いが、君にまで強くなってもらっては困る。ここで仕留めさせてもらう」

 ダッシューは両手を空へ掲げ、叫んだ。

「出でよ! ウバイトール!」

「な、何……?」

 暗く濁る空が割れる。その隙間から漏れ出たのは、ヘドロのような黒い“何か”だ。その何かは大地に落ちると、そのまま雨水が染みこむように、アスファルトに消えた。



『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:02:52.04 ID:w9vsRS0p0

「何が起きてるの……?」

「闇の欲望の化身、ウバイトールさ。世界を闇に染めるための怪物だ」

 ダッシューが言う。

「道とは、人間の欲望そのものだ。もっと活動範囲を広げたい。世界を広げたい。その思いは明確な欲望だ。それは、大いなる闇の一助となる」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 怪物の雄叫びは直下から聞こえた。気づけば、アスファルトが真っ暗に染まっている。ドラゴの目の前に、凶悪な目が、口が、現れる。

「道路が怪物になったっていうの……!?」

「行け! ウバイトール! あの未熟なプリキュアをひねり潰すんだ!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 アスファルトから腕が伸びる。予想のできない動きに、反応が追いつかない。ドラゴはその腕に弾かれ、吹き飛ばされる。

「きゃぁああああああああああああああ!!」

 塀に叩きつけられ、頭がクラクラと揺れる。膝をつくが、それでも倒れるわけにはいかない。

「さぁ、どうする、キュアドラゴ。未熟な君にこのウバイトールが倒せるかな」

「っ……」

 どうしたらいいのか、皆目見当もつかない。先ほどの腕はすでにアスファルトの中に消えている。暗闇に墜ちたアスファルトには、色が変わった以外に何の変化も見られない。直後、ドラゴの真下から巨大な腕が伸び上がる。

「なっ……!?」

「道路すべてが君の敵だ!」

 真下からの攻撃に対応できず、ドラゴはそのまま直上へ吹き飛ばされる。そのまま真下へ急降下をはじめるが、着地を心配するドラゴの目に、別のものが飛び込んできた。

「ぱ、パーシー!?」

 パーシーが、アスファルトから生える小さな手に、追い回されているのが見えたのだ。

「っ……!」

 空中で身体を反転させる。まっすぐに、守りたい小さな命を見据える。そちらへ向かって加速するイメージで、ドラゴは宙を蹴った。

 ドラゴの足先から炎が爆ぜる。宙を蹴り、パーシーに向け加速する。

 それは、意識して行ったことではなかった。だから、ドラゴにも、それをどうやったかはわからない。

「パーシー!」

 今まさに黒い手に捕まりそうになっていたパーシーを抱え、地面を転がる。はるか上方から地面に向かい加速したドラゴは、身体中を痛めながら、それでも、大切な友達を守り切る。擦り傷だからけになりながら、それでも、大切な友達を守り切ったのだ。
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:03:20.34 ID:w9vsRS0p0

「目障りだな。なぜそんな王族のために命を危険にさらす。なぜそんなに傷ついてまで、その王女を守る」

「……何度も、言わせないで」

 ドラゴはパーシーを抱えたまま立ち上がった。全身の傷が痛い。衝撃で視界も揺れる。それでも、まっすぐ、こちらに歩み寄るダッシューを見据える。

「パーシーは大事な友達なの。だから、守るよ……」

「そうか。なら、君には何もできないということを、改めて教えてあげよう」

「な……」

 音もなく接近したダッシューが、ドラゴの喉元にノコギリを突きつける。

「っ……」

「痛いだろう? 怖いだろう? これが、本当の戦いだ」

 チクリと首が痛む。ツーと、血が垂れたのがわかった。

 思わず目を閉じ、敗北を覚悟する。その様を見て、ダッシューが高笑いする。

「やはりその程度か。ホーピッシュのぬるま湯に浸かった分際で、ぼくたちアンリミテッドに刃向かうからそうなる! 弱くて情けないロイヤリティの王族などを庇うから、そうなる!」

「弱く、ても……」

 それは、弱々しくて、小さな声だった。

「弱くても……戦う、ドラ……!」

 あきらの胸に抱かれたままではあったけれど、パーシーは、声を発し、身体を広げた。小さな小さな身体で、まるで、あきらを庇うように、両手を広げたのだ。

「キュアドラゴは、プリキュアは、世界の希望ドラ。ドラゴを傷つけるつもりなら、パーシーが守る、ドラ……!」

「っ……。力のない分際で、何が“守る”だ!」

 パーシーはダッシューの声に震えながらも、縮こまるようなことはしなかった。震える瞳で、それでも、毅然とダッシューを見返していた。

(わたしは……)

 ドラゴは、その胸に抱く暖かい友達の行為に、思い出す。ああ、そうだ。



 わたしはひとりじゃない。
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:03:52.15 ID:w9vsRS0p0

「伝説の戦士共々、ここで朽ち果てろ! 情熱の国の王女、パーシー!」

「ああああああああああああ!!」

 ドラゴは目を開いた。恐怖から目を背けていた己を叱咤するように、吼える。

 今まさに引かれようとしていたノコギリを、片手で掴む。激痛が走るが、それでも、放さない。手が震えるけれど、それでも、絶対に放さない。

「な、何を……」

「わたしはプリキュア! 伝説の戦士、キュアドラゴ!」

 頭の中に明確なイメージが生まれる。それは、伝説の神獣、ドラゴンの炎。

 そのイメージをそのまま、現出させるように。

 ドラゴはノコギリを掴む手に力を込めた。

「ばっ、バカな……!?」

 ドラゴの手から炎が噴出する。その炎は、瞬く間にダッシューのノコギリを覆い尽くし、燃やし尽くした。

「馬鹿な! 薄いとはいえ、金属の刃だぞ!? それを、一瞬で燃やし尽くしたというのか!?」

 ダッシューは柄を放し、燃え尽きるノコギリを見ていることしかできないようだった。

「これが、キュアドラゴの力……?」

「“燃え上がる情熱の光”ドラ……」

「えっ?」

 パーシーが言う。

「ロイヤリティの伝説に記されているドラ。キュアドラゴの持つ力、“燃え上がる情熱の光”。悪辣なるもの、邪悪なるもの、そのすべてを燃やし尽くす力ドラ」

 ドラゴは右手から発現するその炎を見つめる。それは、ドラゴの心の中の熱い情熱の炎そのものに違いなかった。その情熱の炎は、ドラゴに力を与えてくれていた。

「パーシー。しっかり掴まっていてね」

「ドラ!」

 パーシーはドラゴの肩に掴まる。ドラゴは熱い心を燃やし、左手にも炎を纏わせた。両拳に燃える炎を確認し、ドラゴは真っ直ぐにダッシューを見据えた。

「っ……! ウバイトール!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 ダッシューの声と共に、前方のアスファルトから巨大な腕が幾本も飛び出す。ドラゴに向かってくるその大量の腕を、ドラゴは両拳の炎で殴り、燃やし尽くす。

「なんて攻撃能力だ……! 今までのプリキュアとは段違いじゃないか!」

「ダッシュー!」

 ドラゴは足下を爆発させ、加速する。まっすぐ、ダッシューに向け跳ぶ。

「ウバイトール!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 ダッシューに届く前に、ウバイトールの腕に阻まれる。今までより数倍も大きい手が、ドラゴの行く手を阻む。

「ぐっ……は、離れない……!」

 その手にめり込んだ拳が抜けない。炎を強くするが、すぐには燃え尽きそうにない。
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:04:30.30 ID:w9vsRS0p0

「その大きさなら、すぐには燃やせないだろう。これで終わりだ」

 ダッシューが気取った仕草で指を鳴らす。アスファルトから、無数の巨大な腕が出現する。それは瞬く間にドラゴを取り囲み、ドラゴとパーシーを威嚇する。

「全方位からウバイトールの拳が飛ぶ。君がどうやって、その大事な友達を守り抜くのか、見物だね」

「っ……」

 言うが早いか、ダッシューが手を振り下ろす。それが合図となり、全方位からドラゴに向け、巨大な手が幾重にも重なり振り下ろされる。

 今度は、キュアドラゴは目をつむるようなことはしなかった。まっすぐ、己に振り下ろされる無数の拳を見て、ただ、パーシーを庇うように胸に抱いた。そして――、



「翼持つ勇猛なる獅子、グリフィンよ!」



「角ある純白の駿馬、ユニコーンよ!」



「「プリキュアに力を!」」



 ――天高くからふたりの人影が舞い降りる。

「ッ……! プリキュアかッ!」

 ダッシューの憎々しげな声が飛ぶ。



「プリキュア・グリフィンスラッシュ!!」



「プリキュア・ユニコーンアサルト!」



『ウバァアアアアアアアア!!』

「な、何……?」


 薄紅色の斬撃はアスファルトから伸びるすべての腕を両断した。


 空色の突撃は地面に向け放たれ、それ以上の腕の出現を阻害した。


 そして、そのふたりは、まるでドラゴを守るように、着地した。
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:05:03.48 ID:w9vsRS0p0

「あ、えっと、その……」

 そのふたりは、ドラゴと同じような格好をしていた。

「無事で良かった。あなたが新しいプリキュアだね」

「えっ……?」

 薄紅色の女の子が、嬉しそうに言った。

「真っ赤なプリキュア、かっこいいなぁ。それに髪も長くってきれいで、おとぎ話のお姫様みたいだよ」

「えっと、その……あ、ありがとう?」

「こら、グリフ。天然で相手を困らせるのも大概にしなさい」

 空色の女の子が呆れたように言う。

「はじめまして。私はキュアユニコ。優しさのプリキュアよ」

「わたしはキュアグリフ。勇気のプリキュアなんだ」

「あ、は、はじめまして。わたしは情熱のプリキュア、キュアドラゴです」

 ようやく事態を飲み込めてきたドラゴは、深々とそのふたりに頭を下げた。

「た、助けてくれて、ありがとう。わたし、プリキュアになったばかりで、何が何だか分からなくて……――」

「――パーシーグリ!!」

「ひゃあっ!」

 ふたりしかいないと思っていたのに、別の声が聞こえて面食らう。薄紅色のプリキュア――キュアグリフの肩から、ヒョコッと肩を出したのは、柔和な顔をしたもこもこのぬいぐるみだ。

「あっ……ブレイ、ドラ……?」

「フレンもいるニコ!」

「ラブリもレプ」

「ひぇっ」

 ヒョコヒョコッと、空色のプリキュア――キュアユニコの両肩からも、ぬいぐるみたちが顔を出す。

「あ、あれ、パーシーの知り合い……?」

「そう、ドラ。みんな、ロイヤリティの王子と王女、ドラ」

「へぇ……」
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:05:30.57 ID:w9vsRS0p0

 どの子ももふもふで可愛らしい。抱き心地を確かめたいところだが、真面目な顔をしたキュアユニコが、それを許してくれそうにない。

「聞きたいことは色々あるでしょうけど、話は後よ。とりあえず今は……」

 ユニコが目線を向けたのはダッシューだ。

「ダッシュー! あなた、生まれたてのプリキュアにここまでやることはないでしょう! こんな身体中ボロボロにさせて! 両手だって火傷しちゃってるじゃない!」

「あ、そ、それは……」

 ほとんど自分で負ったキズだと言い出せる雰囲気ではなかった。ユニコの言葉を受けて両手を見ると、たしかに、ひどい火傷を負っているように見える。間違いなくキュアドラゴの炎を使って戦った影響だろう。

「まったく、調子が狂う連中だ。しかし、いかに君たちでも、このウバイトールは倒せまい」

 ダッシューは笑う。直下のアスファルトが盛り上がり、手を形成する。ダッシューはアスファルトから伸びるウバイトールの手の上から、三人のプリキュアを見下ろす。

「うーん、さっきもあの腕を斬ったんだけどなぁ」

「道路に向けて放ったアサルトも、驚いてはいたけど決定打にはなっていないみたいね」

「あ、あの……」

 ふたりの先達のプリキュアに対して、気後れしつつもドラゴが口を挟む。

「ダッシューが、このあたりの道路ずべてをあの怪物にしたの。だから、どうしたらいいかわからなくて……」

「なるほど。有益な情報ね。ありがとう」

 ユニコが考え込むようにうんうんと唸る。しかしそれを待つ敵ではなかった。

「行け、ウバイトール! プリキュアも王族もまとめて叩きつぶせ!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「ああ、もう! こっちは考え事をしているのよ!」

 ユニコは片手をアゴに当てた考え事のポーズのまま、空いた手で剣を掲げる。その剣から空色の光が発せられ、ドームを形成する。目前まで迫っていたアスファルトから生える巨大な拳を、その光のドームがはじき返す。

「すごい……!」

「ま、まぁね……」

 ドラゴの感嘆の言葉に、ユニコが頬を染める。クールそうな見た目からは想像もつかない、可愛らしい仕草だ。

「防いでいるだけじゃ倒せないグリ!」

「そうニコ! どうすればこのウバイトールを倒せるニコ!?」

「ふ、ふたりとも落ち着くレプ。王族が慌てる姿を見せるなんて情けないレプ」

 三人の妖精がワイワイと騒ぎ出す。
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:05:57.13 ID:w9vsRS0p0

「あ、あの……」

 パーシーがそろそろと手を上げる。しかし、他の妖精たちは気づいていないようだった。

「じゃあラブリには何か考えがあるニコ!?」

「そ、それを今必死で考えているレプ!」

「さすがの天才様も今回はお手上げニコね!」

「なっ……! だ、誰も諦めたなんて言っていないレプ! 勝手なことを言うなレプ!」

「ふ、ふたりともケンカしないでグリ……」

「あ、うぅ……」

 パーシーはドラゴの手の中で縮こまる。そんなパーシーの様子を見て、きっと自分は、こんなことを繰り返してきたのだろうと、身につまされる思いだった。だから、ドラゴはそっと、パーシーの頭を撫でた。

「あ……ドラゴ……」

「大丈夫。情熱を持って。パーシーならちゃんと伝えられるよ。言いたいことがあるんでしょ?」

「……ドラ!」

 パーシーの目から不安げな色が消えた。パーシーは 三人の妖精の方を向き直った。

「ど、ドラ!」

「ニコ!?」

「レプ!?」

「ぐ、グリ!?」

 大きな声を上げたパーシーに、三人の妖精たちが驚いて動きを止める。ブレイにいたっては、驚きすぎてグリフの肩から墜ちそうになる。

「い、いきなり大声を出して、どうしたニコ。パーシー」

「み、みんなに思い出して、ほしい、ドラ……」

 パーシーは恥ずかしそうに、けれどしっかりと言葉を紡いだ。

「プリキュアが三人揃った、ドラ。伝説によれば、三人のプリキュアがそろうことによって、光の大爆発を放つことができる、とされるドラ……」

「グリ! そういえば、そんな話をお母様から聞いたことがあるグリ!」

「……レプ。試してみる価値はあるレプ」

「ニコ! やってみるニコ!」

 三人の妖精がドラゴに抱えられるパーシーを見る。たじろぐパーシーに、三人は言った。

「さすがパーシーグリ!」

「レプ。まぁ、よく思い出したレプ」

「教えてくれてありがとうニコ!」

「あっ……」

 パーシーは嬉しそうに笑った。

「み、みんなのおかげドラ……」

 パーシーはしっかりと意志を伝えることができた。それが、窮地を脱するヒントになることは、誰にも疑いようのないことだ。

「キュアグリフ、キュアユニコ。力を貸して」

 だからドラゴもまた、自分の意志を伝える。パーシーを肩に乗せ、ふたりのプリキュアに手を差し出す。

「もちろん」

「ええ。やりましょう。キュアドラゴ」

 グリフとユニコは、ドラゴの手を取った。そして、三人の戦士たちは、頷き合い、まっすぐ、ダッシューを見据えた。
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:06:34.90 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 場の空気が一変したことが、ダッシューにはすぐにわかった。

「っ……なんだ、この焦燥感は……」

 ウバイトールは今も、三人のプリキュアめがけ、拳を振り上げ続けている。このまま続ければ、間違いなくキュアユニコの“守り抜く優しさの光”を破り、攻撃が通るだろう。

 だというのに、頭の中から嫌な予感が消えなかった。

「ッ……! ウバイトール! 早くプリキュアを潰せ!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 アスファルトから幾本もの腕が生える。それがすべて拳を握り、一斉にプリキュアに殺到する。

 その瞬間、空色の光が猛烈な圧力を伴って膨張した。

「なに……!?」

“守り抜く優しさの光”が爆発するように広がり、幾本にも及ぶ腕をすべて吹き飛ばしたのだ。

「なるほど。だが……!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 腕はすぐに再生する。道路すべてを浄化されでもしない限り、ウバイトールは敗れない。腕がすぐに生えはじめる。そして、プリキュアに狙いを定め、拳を握る。

「今度こそ終わりだ!」

 はるか上方から三人のプリキュアを見下ろし、ダッシューは勝利を確信した。



「翼持つ獅子よ!」



 風が吹き荒れた。それは、薄紅色の光を伴い、どこまでも強く、周囲のすべてを吹き飛ばさんばかりに吹き荒れた。



「角ある駿馬よ!」



 光がカタチを成した。薄紅色の光は、雄々しい神獣グリフィンを、空色の光は、清浄なる神獣ユニコーンを、そして――、



「天翔る飛竜よ!」



 残る紅蓮の光は、荒々しい神獣ドラゴンを、カタチ作る。



「な、何が起きるというんだ……!」

 ダッシューが見下ろす前で、三人のプリキュアたちはその光の中心にたち、手をつないでいるだけだ。しかし圧倒的な高貴が、光が、その場を支配していた。

「滅んだはずのロイヤリティの光がここまで強くなるのか……! なぜ、なぜだ!?」

 身の危険を感じ、ダッシューはウバイトールの手から跳び、空に逃げた。
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:07:02.52 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 光がドラゴをとりまいている。それだけではない。ふたりのプリキュアから、熱が流れ込んでくるようだった。

「これは、一体……」

「大丈夫だよ。安心して」

 キュアグリフがにこりと笑う。

「わたしたち三人ならやれるよ」

「ええ。大丈夫。私たちを信じて」

 キュアユニコが微笑んだ。

「三人で、あのウバイトールを倒すのよ」

「…………」

 だから、キュアドラゴも笑うことができた。

「……うん! やろう! わたしたち三人で!」


「翼持つ獅子よ!」

「角持つ駿馬よ!」


 頭に明確に浮かび上がるフレーズ。それを、ドラゴはそのまま、叫んだ。


「天翔る飛竜よ!」


 光が爆発的に広がった。己の背後に、荒々しいドラゴンが浮かび上がっていることに、ドラゴは気づかなかった。

 ドラゴは前に両手をかざした。グリフもユニコも同様、前に手をかざしている。

 それがトリガーだった。

 ドラゴは、グリフは、ユニコは、己の心が命じるままに、それを唱えた。




「「「プリキュア・ロイヤルフラッシュ!!」」」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:08:08.48 ID:w9vsRS0p0

 光の奔流が指向性を持つことなく四方へ飛ぶ。それは、周囲全てを浄化するような、爆発的な光の広がりだった。

『ウバッ……ウバァアアアアアアアア!!』

 周辺をすべて埋め尽くしたその光は、道路となり広がったウバイトールを残らず浄化し尽くした。やがてその凄まじい光が消えた後には、色を取り戻した世界が広がっていた。アスファルトは、いつも通りのねずみ色に戻っている。

「な、なんて力だ……」

 上空からのうめき声に顔を上げる。ダッシューが苦々しげな顔をして、三人を見下ろしていた。

「ダッシュー!」

「三人目のプリキュア、キュドラゴ、か……」

 ドラゴの呼び声に耳を貸すことなく、ダッシューは言う。

「覚えておくといい。これで済むと思うなよ。絶対に、君たちを倒す……!」

 そう言い残すと、ダッシューは宙に溶けるように消えた。

「あっ……」

 怪物はいない。

 ダッシューも消えた。

 世界は色を取り戻した。

 緊張の糸が一気に切れたようだった。意識が少し遠のき、身体がふらりと揺らぐ。

「おっとっと……」

「大丈夫?」

 ふたりの先達の戦士たちはさすがだ。そんなドラゴを抱え、支えてくれるだけの余力が残っているのだから。

「ご、ごめんなさい……ちょっと気が抜けて」

「初めて変身したんだもんね。無理させてごめんね?」

「いえ……」

「あら、先輩気分ね、グリフ」

「ユニコだって、さっきまで頼れるお姉さん、みたいな顔してたくせにー」

「そ、そんな顔してないわよ!」

 ふたりの手を借りて、なんとか自立する。すると、三人の身体から光が弾け、伝説の戦士の衣装が制服に戻る。髪の色も何もかも、元通りだ。身体中に負ったキズも治っている。

「……へ?」

「あっ……」

「あー……」

 その瞬間、三者三様の顔をして、変身前の三人が顔を合わせた。

「あ、あきら!?」

「ゆうき!? それに、大埜さんも!?」

「美旗さんだったのね。驚いたわ」

 あきらは理解が追いつかない頭を抱えて、うんうんと唸った。

「ゆ、ゆうきが、キュアグリフ?」

「うん」

「大埜さんが、キュアユニコ?」

「ええ」

 混乱しているあきらは、そのまま思っていることを口に出す。

「で、わたしが、キュアドラゴ?」

「そうだね」

「そうみたいね」

「え……ええええええええええええええええええええええ!?」

 あまりにも膨大な情報量に、あきらは驚くことしかできなかった。
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:08:35.09 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 そこは黒い場所。光はあるがすべてが黒いために光が反射しない場所。

「っ……ハァ……ハァ……」

 ダッシューはそこに敗走した。希望あふれる世界ホーピッシュにおいて、目の前でむざむざ新たなプリキュアを誕生させてしまった。

 そして三人のプリキュア相手に敗北を喫し、逃げてきたのだ。

「情熱のプリキュア……――」



「――キュアドラゴ」



「っ……!?」

 いつの間にそこに現れたのだろう。漆黒の壁にもたれるように、仮面の騎士デザイアが立っていた。

「デザイア様……」

「私はしっかりと他のプリキュアたちの足止めをしていたぞ? 情熱のプリキュアが生まれる瞬間までは、な」

 ダッシューの責めるような目線に気づいたのだろう。デザイアが言った。

「情熱のプリキュアが生まれてしまった以上、あれ以上のプリキュアたちの足止めは無駄であろう?」

「……ええ。おっしゃるとおりですよ」

 ダッシューは歯がみしながら。

「では、どうします? むざむざプリキュアを生み出すのを許したぼくを、始末しますか?」

 その言葉に、デザイアは仮面をつけた顔をもたげた。まっすぐにこちらを向く仮面には、何の感情も見て取ることが出来ない。

「……馬鹿を申すな。貴様にはまだやってもらうことがある。貴様もまた、大切なアンリミテッドの同志であるからな」

 デザイアはそれだけ言うと、デザイアのみが入ることを許されている、漆黒の扉を開いた。その中は光のない真の闇。そこに何があるのか、それはデザイア以外誰も知らない。

「情熱のプリキュアが生まれてしまった以上、貴様もまた、真正面から戦って打ち倒すしかない」

 デザイアは背を向けたまま、言った。

「より強い力を求めるのだな。過去の己を、振り返ってでも」

 そしてデザイアは扉の中へ姿を消した。残された彼は、歯を噛みしめ、壁を殴りつけた。

「ッ……! ぼくは……!」

 そこはアンリミテッド。

 光はあれど、すべてが黒いから、闇のように見える場所。
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:09:02.48 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 翌早朝に登校したあきらは、同じく早く登校したゆうきとめぐみから、中庭でプリキュアやロイヤリティ、アンリミテッドについて説明を受けていた。

「はぁ……ゆうきたちは今まで、そんなことをしてたんだね」

 話があらかた終わっても、未だに信じられない。昨日の一件もあるから、信じるしかないのだけれど、それでも、簡単に納得できる話ではない。

「プリキュア、かぁ……」

 早朝の澄んだ空気の中、空を見上げる。かざした左手に煌めく、真紅の腕輪。ロイヤルブレス。それは、あきらの情熱を呼び覚ましてくれた宝物だ。

「……わたしにできるかな」

「できる、ドラ」

 あきらのひざの上で、パーシーが言った。

「あきらは初めての変身でも、必死でパーシーを守ってくれたドラ。パーシーはそれが嬉しかったドラ。だから、あきらには、絶対にできるドラ」

「パーシー……」

 嬉しくて、パーシーを持ち上げ、ぎゅっと抱きしめる。ふと、視線を感じて目を向ける。ゆうきとめぐみのひざの上から、こちらをまじまじと見つめるのは、三人の妖精だ。

「引っ込み思案のパーシーが……」

「あんなに喋ってるの……」

「初めて見たレプ……」

「ドラ……っ」

 パーシーは恥ずかしそうに顔を赤くすると、もぞもぞとあきらの腕の中に隠れるように身を縮こまらせた。

「うーん……まだ、ブレイたちとはうまく喋れないみたいだね」

「グリ?」

 ゆうきが困ったように、ブレイを抱え上げた。

「三人が一斉に話しかけたら、パーシーが驚くから、ひとりずつね」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:09:29.09 ID:w9vsRS0p0

「わかったグリ!」

 ブレイはゆうきの手の中からピョンと飛び降りると、テーブルに降り立ち、言った。

「パーシー! ブレイたちはみんな、パーシーが無事で嬉しかったグリ! これから、よろしくグリ!」

「ど、ドラ……」

 パーシーがあきらの腕の中から顔を出す。

「ぱ、パーシーも、みんなに会えて嬉しいドラ。みんなで、ロイヤリティを、復活させる、ドラ……」

「グリ!」

 パーシーは恥ずかしそうだけれど、それ以上に嬉しそうにはにかんだ。ブレイも、フレンも、ラブリも、それを受け入れるように頷いた。

「と、言うことで、わたしたちもこれからはプリキュア仲間だね! よろしく、あきら!」

「う、うん」

 ゆうきが差し出した手を握る。

「よろしく、ゆうき」

「っと……」

 ゆうきが小さく震える。何事かと思ったら、ゆうきは恥ずかしそうに目を伏せて、言った。

「もう夏も近いのに、朝は少し冷えるね……。ごめん、ちょっとお手洗い……」

「あ、ち、ちょっと、ゆうき……」

「みんなで少し話しててー!」

 そう言い残して、ゆうきはその場を足早に後にした。
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:09:55.35 ID:w9vsRS0p0

…………………………

「はふぅ……」

 お手洗いを済ませ、中庭に戻る。テーブルを挟んで、あきらとめぐみが向かい合っている様子が見て取れる。が、

「ん……?」

「…………」

「…………」

 遠目でも様子がおかしいのがわかる。あきらは顔を真っ赤にしてうつむいているし、めぐみは涼しい日陰だというのに汗をダラダラと流し、キョロキョロとせわしなく目を泳がせている。

「な、何をやってるんだろう……」

「あっ、ゆ、ゆうき!」

「ゆうき!」

 ふたりはゆうきを認めると、あからさまに安心したような顔をした。

「ど、どこまでいってたの……。すごく長かったよ……」

「えっ? いや、一番近いお手洗いだけど……。っていうか、五分も経ってないよね」

 あきらの不可解極まりない問いに、ゆうきは答えた。

「き、急にいなくなるから、どうしたらいいのかわからなかくて、焦ったわ……」

「えっ? いや、どういうこと?」

 非常にめずらしいことに、めぐみもよく分からないことを言っていた。

「…………」

「…………」

 ふたりは押し黙り、下を向いてしまった。

「?」

 本物の天然ボケと名高いゆうきに、そのふたりの心境をその場で察することなど、できようはずもなかった。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:10:28.57 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 ゆうきがいくら天然ぼけで鈍いとはいえ、その日のうちになんとなく、めぐみとあきらの不可解な言動の意味が分かってきた。

 たとえば三人で話しているとき、ゆうきだけが用事ではずそうとすると、なぜかふたりとも着いてくる。

「?」

 たとえばお昼ご飯を食べているとき、ユキナと有紗に呼ばれたとき、なぜかふたりとも着いてくる。

「? ? ?」

 たとえば休み時間にお手洗いに立つと、なぜかふたりとも着いてくる。

「!? いやちょっと個室に一緒に入ろうとするのはやめてよふたりとも!」

 尋常なことではない。うんうんと考えをめぐらせて、ゆうきはようやく結論にたどり着いた。

「……ふたりとも、人付き合い苦手だもんなぁ」

 つまり、めぐみとあきらはふたりになるとどうしたらいいか分からなくなるのだろう。めぐみはきっといつも通りのクールなめぐみになってしまうだろうし、あきらはゆうきがいなくなったら一言も喋らない可能性がある。

(由々しき事態だね、これは……)

 ゆうきはうんうんと唸る。

(どうしたものかなぁ……)

 このままではプリキュアの戦いにも影響が出るかもしれない。ゆうきはうんうんと唸り続ける。二度目のプリキュア解散の危機なんてことになったら目も当てられない。

「……? 王野さん? どうかしましたか?」

 時は授業中。ゆうきは気づかないが、頭をふりふり考え事をするゆうきは、悪目立ちをしていた。数学の晴田先生は、そんなゆうきを優しく咎める。

「王野さん? 体調でも悪いんですか?」

(うーん、ふたりが仲良くなってくれたら一番いいんだけどなぁ。ふたりとも頭いいし、気も合うと思うんだけど……)

「王野さん……」

(ふたりを仲良くする方法……うーん……あっ)

「わかった!!」

 パンと手を叩いて立ち上がる。が、

「そうですか。わかりましたか」

 目の前に、ニコニコ顔の晴田先生がいた。

「あ、えっと、その……」

「わかったようなので、解いてもらいましょうか。黒板の問題、お願いします」

「えっ、あっ……」

 ゆうきは数学の授業中だということを思いだし、顔を真っ赤にして、言った。

「す、すみません。わかりません……」

「はい」

 晴田先生の笑顔が、日に日に怖くなっていく気がして、ゆうきは汗をダラダラと流すのだった。
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:10:54.91 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 その日の放課後のこと。

「「明日、三人でお買い物?」」

 ハモり方を見るに、決してこのふたりは気が合わないということはなさそうだ。ゆうきはそんなことを考えながら頷いた。

「うん。夏物の服とか買いに行きたいんだよね。隣町のショッピングモールに行きたいんだけど、ふたりとも予定が空いてたらどうかなー、って」

 数学の時間に思いついたのは、ふたりの親睦を深めるためのお出かけだ。幸いにして明日は休日だ。しかし、急にどこかに行こうと言っても不審がられるだろうし、何よりふたりが気まずい思いをするかもしれない。買い物くらいなら、自由も利くしいいだろうという、ゆうきの気遣いだ。

「わ、私はいいけど……」

 めぐみは言葉を濁し、ちらりとあきらを見る。

「わたしも、大丈夫だけど……」

 あきらもめぐみを見る。ふたりはバッチリ目が合ったようで、慌てた様子でそっぽを向く。

「……なんだろう。数年前のともえの公園デビューの頃を思い出すよ」

 あの妹は妹で、小さい頃は人見知りをしたものだ。と、そんなことはおいておくとして。

「じゃあ決まりだね。明日、10時にショッピングモールに集合ね」

「う、うん……」

「わかったわ」

 頷いたふたりを見て、ゆうきは内心気合いを入れる。

(よーし、こうなったらわたしが人肌脱いで、ふたりを仲良しにさせちゃうんだから!)
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:11:21.37 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 翌日、あきらは久々のゆうきとのお出かけに胸を高鳴らせながらショッピングモールへやってきた。それに、もしかしたら、めぐみとも仲良くなれるかもしれないし、なんてことも考えながら、だ。

 ショッピングモールのエントランスについたのは9時30分。まだ誰も来ていないだろうと思い込んでいたあきらは、そこに立っていためぐみを見つけて驚いた。

「……大埜さん、おはよ。早いね」

「おはよう、美旗さん。ちょっと、朝早くに起きてしまったの」

「そうなんだ」

「ええ」

 隣に並ぶが、会話はそこで途絶えてしまった。

(こ、こここ、こういうとき、どうしたらいいの!?)

 あきらは戦々恐々と、時計を見つめる。ゆうきは昔から時間ギリギリにならないとやってこないタチだ。少なくともあと30分は、めぐみとふたりきりの時間が続くことになる。

「えっと、その……良い天気ね」

 めぐみが口を開いた。あきらはびくりと身体を震わせ、反応する。

「そ、そ、そうだね。空、すごく、青いね」

 何を言っているのだ己は。あきらは、誰もいなければきっと自分の頭を思い切り叩いていただろう。

「晴れて良かったよね。ま、まぁ、このショッピングモール、屋内型だから、あんまり関係ないけど……」

「そうね。関係ないけど、晴れて良かったわよね」

 冷静に聞いていれば、めぐみもおかしなことを口走っているのだが、現状あきらにそれを感じ取ることはできなかった。

「てっ、天気ってさ、」

 あきらは何を取り繕おうとしているのか自分でも分からないまま、口を開いた。

「不思議だよね。なんか、こう、最近は、天気予報、すごく当たるし……」

「ほんとね。雨雲の位置もわかるものね。すごいことね」

 めぐみが頷く。お互い、目を合わせないまま、不毛な会話は続く。

 天気から雨雲の話に移り、雨雲から水たまりの話に移り、延々と続く会話は、やがて世界情勢に至り、いつの間にか無言に収束した。

(き、気まずい……!)

 あきらは頭を抱えたいような気持ちだった。正常な女子中学生は、たぶんこんな不毛な会話は繰り広げない。どうしたものかと思案していると、ぽーん、と、10時を知らせるチャイムが鳴る。果たして、そこに駆け込む影があった。

 ゆうきかと期待するが、妙に身体が小さい。

「あれ……? ひかるくん?」
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:11:48.22 ID:w9vsRS0p0

「あっ、あきらさん。それから、えっと、お姉ちゃんのお友達の、めぐみさんですね?」

「え、ええ……」

「はじめまして。ぼくは王野ゆうきの弟のひかるです」

 現れたのは、ゆうきの弟のひかるだ。たしか小学校の中学年くらいだったはずだ。昔はゆうきと一緒によく遊んであげたものだ。ひかるは小学生とは思えないほど丁寧に頭を下げ、ふたりに向き直った。

「すみません。ぼくのもうひとりの姉のともえが、風邪を引いてしまって、姉が家を出られなくなりました。父は家にいませんし、母は仕事で家を空けているので、姉が看病していないといけないんです」

「えっ……?」

「それを伝えるために来ました。姉は、本当にごめん、と伝えてと言っていました」

「そ、そうなの……」

 あきらとめぐみはほとんど同じような顔をしていた。

 どうしよう、という顔だ。

「ひかるくん、わざわざありがとう。ともえちゃんにお大事にね、って伝えてもらえるかな」

「あと、ゆうきに、気にしないで、って伝えてほしいな」

「わかりました。姉たちにしっかり伝えます。それでは、ぼくはスーパーで買い物をして帰らないといけないので、これで失礼します」

 どこまで出来る弟くんだろうか。

 ふたりはそんなひかるを見送ると、お互い、ゆっくりと、驚かないように気をつけながら、目を合わせた。

「……ど、どうしようか?」

「そ、そう、だね。どうしようか……」

 このままめぐみと買い物をする?

 ふたりきりで?

 耐えられるだろうか。

 かといってこのまま別れる?

 ゆうきが来ないなら、ふたりでいても仕方ないね、って?

 無理だ。そんなこと言えるはずもないし、それは決してあきらの本意ではない。
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:12:15.54 ID:w9vsRS0p0

「……あきら」

 手元で声がした。バッグの中から、パーシーが顔を覗かせていた。

「あきらは、パーシーに想いの伝え方を教えてくれたドラ。だから大丈夫ドラ」

 そのパーシーの言葉が、あきらに勇気を与えてくれたようだった。

 そうだ。大丈夫。

 あきらはもう、自分の意志を、情熱を、伝えることをためらわないと決めたのだ。

「えっと、その……」

「?」

 めぐみの目がこちらを向く。今までずっと、冷たくてそっけないと思っていた視線だ。

 けれど、それが彼女の本質でないことは、今はなんとなくわかる。

「……わたし、せっかく大埜さんと一緒にここにいるんだから、ふたりで、ショッピングモール、回りたいな」

「えっ……?」

 めぐみの頬に朱がさした。それを見て、あきらは、自分の想像が間違いではないと悟った。

「で、でも……私と一緒にいても、たぶん、あんまり、楽しくないわよ……」

「そういうことじゃなくて、わたしが大埜さんと一緒にいたいんだよ。わたしの方こそ、あんまり楽しい人間じゃないけど、それでも……」

「……うん」

 めぐみが嬉しそうにはにかんで、頷いた。それを見て、あきらもまた、自然と笑みを浮かべていた。

「あのね、ともえちゃんのお見舞いにいかない? そのために、このショッピングモールでお見舞いのための何かを買うの」

「それ、名案だわ。ゆうきを驚かせて、ともえちゃんを喜ばせてあげましょう」

「うん!」

 ふたりは笑い合って、ショッピングモールへと入っていった。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:12:42.46 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 昨夜は本当の本当に、お出かけが楽しみで仕方なかったのだ。

 だって十年来の幼なじみと、最近知り合った親友を仲良くさせるなんて、どう考えたってわくわくするに決まっている。

 それなのに、だ。

「ゴホッ……ゲホッ、うぅ……」

「もうっ、体調悪いのに昨日遅くまで起きてるから……」

「うぅ……ごめん、なさい……ゴホッ……」

 ゆうきはともえの部屋で、清潔なタオルを冷水につけ、絞っていた。ベッドに横たわるともえは顔を真っ赤にして、本当につらそうな表情をしている。そんな顔を見てしまえば、妹想いの姉としては、それ以上何も言えなくなってしまう。

「ごめんねぇ、お姉ちゃん……」

「いいよ。謝らないで」

 涙すら流しそうな勢いのともえに言うと、ゆうきはよく絞ったタオルを優しくともえの額に乗せる。朝方、この普段は生意気極まりない妹は38度の高熱を出していた。解熱薬を飲んだとはいえ、まだ下がってはいないだろう。意識ももうろうとしているかもしれない。

「でも、お姉ちゃん、今日は、めぐ姉(ねえ)と、あきらちゃんと、お出かけだったんでしょ……」

「そうだけど……。って、あきらは幼なじみだからいいとして、めぐ姉って……」

 随分となついたものだ。まぁ、めぐみは姉妹喧嘩の仲裁をしてくれたこともある。ともえがなついていても不思議はない。

「ごめんねぇ……。せっかくのお出かけだったのに……うぅ……」

「ともえ、あんた、普段からそれくらい可愛かったらお姉ちゃんとっても嬉しいんだけどね」

 冗談めかして言うと、ゆうきは立ち上がった。

「じゃあ、お姉ちゃん、ちょっと洗濯物干してくるから、ゆっくり寝てなさい」

「えっ!? お姉ちゃん行っちゃうの!?」

 ともえがびくりと反応する。布団を蹴飛ばしかねない勢いに、ゆうきは慌てて屈む。

「せ、洗濯物干しに行くだけだよ」

「や、や〜あ〜! 一緒にいてよ〜! うわーーーーーん!」

 普段の生意気さがなければもっと可愛く思えるのだろうなぁ、なんて。どこか他人事に感じながら、それでもゆうきはお姉ちゃんで、甘える妹を無下にすることはできない。泣き出したともえの頭を撫で続けると、やがてともえは泣き止んだ。

「わかった。お姉ちゃんどこにも行かないから、目をつむって寝なさい」

「うん……。ねえ、お姉ちゃん」

「なぁに?」

「手、握って」

「……本当、動画に撮っておいて普段のあんたに見せてあげたいわ」

 言いながらも、ゆうきは布団から出てきたともえの手を握る。火照った手は、冷水で冷え切ったゆうきの手を、心地よさそうに握り返した。

「えへへ、お姉ちゃん、大好き」

「……知ってるよ」

 現金なものだと思いながら、ゆうきはそっと、微笑んだ。

(あっ……)

 ふと、念頭に浮かぶ、親友と幼なじみのこと。

(めぐみとあきら、大丈夫かな……?)

 心配は尽きない。コミュニケーション能力に問題が多いふたりのことだ。最悪、ケンカなんてことになっていないだろうか。それでなくともめぐみは誤解を生むようなことを口走ることが多いし、あきらは本当にゆうき以外の人相手には無口だ。

 ドキドキと、心臓がいやな音を立てる。

(だ、大丈夫、だよね……?)
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:13:09.17 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 めぐみとあきらは、ショッピングモールでスイーツを中心に色々と見て回った。

 めぐみは、ふとした会話や言動から、あきらの人となりを少し、知ることができた。

(美旗さんって、笑うとすごく可愛いのね……)

 今まであまり笑ったところを見たことがなかったから知らなかった。眼鏡の下の瞳はクリクリと大きくて、目鼻立ちもスッと整っている。めぐみはよく周囲から美人だと言われるが、自分などよりよほど親しみやすく可愛らしい、整った顔をしているのではないだろうか。

「大埜さん、どうかした?」

「え、あ、いや、なんでもないわ」

 そして、あきらは、口数は少ないものの、決してめぐみのように口下手なわけではないように思えた。よく言葉を選んで喋っているように見えるし、色々な気遣いも見て取れる。

「……じゃあ、このプリンと、このチョコケーキと、モンブランと……」

「チーズケーキ、ショートケーキ……で、いいかな」

 ショッピングモールのスイーツショップで、自分たちと王野兄弟の分のスイーツを買い、ショッピングモールを出る。ゆうきの家までなら、そう時間はかからないだろう。

「それにしても、ともえちゃん、心配ね」

「うん……。あんまり悪くないといいけど……」

 あきらが目を伏せる。本当にともえのことが心配なのだろう。

「美旗さんは、」

「うん?」

 あきらの目がめぐみを向く。

「ゆうきの、幼なじみ、なのよね」

「うん。そうだよ。公園デビューの頃からの付き合いなの」

「……ふふっ」

 あきらの言葉に、思わず笑みがこぼれる。あきらが不思議そうな顔でめぐみを見つめた。

「どうかした?」

「ごめんなさい。ゆうきとまったく同じ事を言うものだから、可笑しくて……」

「えっ……」

 あきらはカァ、と頬を赤くした。

「や、やだ、すごく恥ずかしい……」

「ごめんなさい。でも、美旗さんとゆうきは本当に仲良しなのね」

「……どうかな」

 あきらは遠くを見つめるように。

「去年、別のクラスになってからはあまり話をしなくなっちゃったし、今年も、全然お話できてなかったし……」

「あっ……」

 己はまた地雷を踏んでしまったのだと、めぐみは直感で理解した。
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:13:38.39 ID:w9vsRS0p0

「ご、ごめんなさい! 私、たぶん無神経なことを言ったわね。ごめんなさい」

「えっ? あ、いや……」

「本当にごめんなさい……。私、意図せず人を傷つけてばかりいるの。美旗さんに深いな思いをさせたなら、本当に謝っても謝りきれないわ」

「そんな、謝らないで。違うの。大埜さんは悪くないよ。わたしが勝手に……」

 あきらは恥ずかしそうに目を伏せた。しかし思い直すように、すぐに顔を上げて、めぐみの目を見つめた。

「……その、勝手に……大埜さんに、嫉妬してた、だけだから」

「えっ……? 嫉妬?」

 あきらは恥ずかしそうに続けた。

「わたしの方こそごめんなさい。わたし、大埜さんにゆうきが取られたって、勝手なこと思ってたんだ。ゆうきとせっかく一緒のクラスになれたのに、大埜さんとばかり一緒にいるから……」

「ああ……」

 ゆうきが何度かあきらの誘いを断っているのはめぐみも目にしていた。それを受けて、あきらはゆうきと一緒にいるめぐみに嫉妬していた、ということだろう。

「ごめんなさい。プリキュアのこととか、生徒会長選挙のこととかがあって、美旗さんとゆうきとの時間を、潰してしまっていたのね。本当にごめんなさい……」

「だっ、だから違うよ! 大埜さんは悪くないんだよ。悪いのはわたしだよ。大埜さんはゆうきと仲良くしてただけだもん。わたしは、仲間に入れて、とも言えなくて、勝手に嫉妬してただけだから……」

「でも、私、もっとゆうきに強く、美旗さんとの時間を作るように言ってればよかったわ」

「大埜さん……」

 あきらが立ち止まった。めぐみも立ち止まる。あきらは、立ち止まったまま、目いっぱいに涙を溜めていた。

「えっ!? み、美旗さん!? どうしたの!? わ、私、また何か気に障るようなことを言ってしまったかしら……?」

「っ……ちっ、違うの……わたし……嬉しくて……情けなくて……」

 あきらは、途切れ途切れの言葉を紡いだ。

「わたし、大埜さんが、こんなに優しいひとだって、知らなかった……。大埜さんの優しい、言葉が嬉しくて……でも、それ以上に、そんな人に嫉妬してた、自分が……情けなくて……」

「あっ、えっと……」

 こういうとき、どうしたらいいか、めぐみにはわからない。

 また、相手に嫌な思いをさせてしまうかもしれないと思うと、身体が動かない。

 きっと、今までだったら、そんな風に言い訳をして、何もできずいただろう。

 けど、今は。

 王野ゆうきという親友を得た今ならば。

 きっと、ゆうきなら、こうすると思える、今ならば。

「……美旗さん」

「あっ……」

 ぎゅっと、あきらの身体を包み込むように、抱きしめる。

「美旗さんは、感受性が豊かなのね。それって素敵なことだわ。美旗さんは情熱のプリキュアに選ばれるべくして選ばれたのね」

 ぽんぽんと背中を叩きながら、優しく抱きしめ続ける。

「情けなくなんかないわ。私だって嫉妬したりするもの。それって人間なら、誰だって一緒よ。だから、気にしないで。私は気にしてないから」

「大埜さん……」

 しばらく抱きしめると、やがてあきらは落ち着いたようだった。めぐみはそっとあきらを放すと、あきらの眼鏡の奥の目は少し赤いままだが、涙を流してはいなかった。
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:14:10.37 ID:w9vsRS0p0

「ごめんね、大埜さん。取り乱しちゃって……」

「いいのよ。お役に立てたなら嬉しいわ」

 ふたりは笑い合い、王野家に向けてまた歩き出した。

「……最近、ともえちゃんにも会ってないなぁ。大埜さんはともえちゃんには会ったことがあるんだっけ?」

 あきらが口を開いた。

「ええ。この前、ゆうきの家に伺ったときに会ったわ」

「そっか。大埜さんは、もうゆうきの家に行くくらい仲良しさんなんだよね。いいなぁ」

 涙を流して、色々と吹っ切れたようだった。あきらは茶化すように言う。

「あら。私には美旗さんの方がゆうきと仲良しに見えるわ。それに、私の知らない昔のゆうきも知っているでしょう? わたしはそれが羨ましい」

 それはまぎれもなくめぐみの本心だ。初めての親友の昔を知らないのが、めぐみにはとても口惜しいことだ。

「なんか、わたしたち、ゆうきの話ばっかりだね」

「本当ね。こんなこと本人に言うのは癪だけど、私たち、本当にゆうきのことが好きなのね」

「似たもの同士だね、わたしたち」

「ふふ……」

 ふたりは声を上げた笑った。それは不自然な笑いではない、まるで友達同士で笑い合うような、自然な笑顔だった。

 ふと、めぐみは思い出す。あきらに言わなければならなかったことを。

「あのね、美旗さん」

「なに?」

「生徒会でね、ゆうきが庶務になったの」

「あっ……そうなんだ」

 あきらが寂しそうな顔をする。きっと、またゆうきと一緒にいる時間が減ることを考えているのだろう。めぐみは続けた。

「でもね、庶務はもうひとり必要なの。ぜひ、あなたにも庶務をやってもらいたいのよ、美旗さん」

「えっ……」

 あきらが信じられないという顔をした。

「わ、わたしが生徒会!? 本気……?」

「もちろん本気よ。もし、美旗さんがいいのなら、だけど」

「わたしが、生徒会の庶務……」

 あきらは考え込んでいるようだった。やがてめぐみを見ると、おずおずと口を開いた。

「……わたしでいいのかな」

「ゆうきが、あなたの字が上手だって、会長の騎馬さんに推薦したのよ。ゆうきが、あなたに庶務になってもらいたいって言っていたのよ」
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:14:51.09 ID:w9vsRS0p0

「そっか。ゆうきが、わたしを……」

 あきらは笑って、頷いた。

「……わたし、やりたいな。生徒会の庶務」

「よかった。ありがとう、美旗さん」

「ううん。こちらこそ、誘ってくれてありがとう。大埜さん」

 笑顔が笑顔を呼んでいるようだった。ふたりは笑い合い、そして。



 男がふたりの目の前に立ちはだかった。



「久しぶりだな、キュアユニコ。そして、お初にお目にかかる。貴様がキュアドラゴだな」

「ッ……!?」

 世界が闇に染まる。それは、その男の登場によって現出した、アンリミテッドの闇だ。

「あ、あなたは、一体……」

 あきらが後ずさる。無理もない。あきらは知らない相手だ。めぐみはあきらをかばうように前に立つ。

「こんな休日にまでやってくるなんて!」

「そちらの都合など知らんな。まぁ、私は休日だからこそ出撃できたのだが」

「……?」

 男の言葉の意味は分からない。しかし、それを詮索している暇はない。

「我が名はゴーダーツ。アンリミテッドの戦士だ」

「アンリミテッド……!?」

 あきらがうろたえる。昨日ダッシューと戦ったばかりのあきらは、まだ戦いに不慣れだ。めぐみがサポートするのが筋だろう。めぐみは振り返り、言った。

「美旗さん、ゆうきはきっと戦えないわ。私たちふたりでやるしかないわ」

「……うん!」

 妖精たちを逃がし、ふたりはロイヤルブレスを掲げる。妖精たちよりもたらされた紋章をブレスに差し込み、戦士の宣誓を叫んだ。



「「プリキュア・エンブレムロード!」」



 ふたりの少女の姿が変わっていく。闇に染まった世界を救い出す戦士の姿だ。世界に色を、希望を、光を、取り戻すための力だ。


「守り抜く優しさの証! キュアユニコ!」


「燃え上がる情熱の証! キュアドラゴ!」


「「ファーストプリキュア!」」
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:15:18.28 ID:w9vsRS0p0

…………………………

「この感覚は……!」

 ぴょこん、とブレイが跳び上がる。

「アンリミテッドレプ!」

 ラブリも跳び上がる。しかし、

「しーっ、静かにしてっ。せっかく寝ついたともえが起きちゃうっ」

 小声のゆうきにたしなめられる。それでも、ブレイもラブリも引き下がらない。

「で、でも、ゆうき! アンリミテッドが現れた気配がしたグリ!」

「わ、わかってるよ。でも、ともえをひとりにできないよ。っていうか、手を掴まれたままだよ〜」

 寝ついたらともえの手を放し、洗濯物を干しに行く予定だったというのに。せっかく寝ついたともえは、ゆうきの手を万力のように掴んで放そうとはしないのだ。無理に引き抜こうとしたら、うんうんとうなって目覚めそうになったので、それ以上はやっていない。

「ど、どうしよう……」

「レプ……。どちらにしろ、体調の悪い子どもをひとりで家に置いていくわけにも行かないレプ。めぐみとあきらを信じるしかないレプ……」

 しかし、折良く階下の玄関が開く音がした。

「ただいまー」

「しめた。ひかるが帰ってきた」

 階下からの音に聞き耳を立てる。ひかるは手を洗い、買い物の荷物を冷蔵庫や戸棚にしまってくれているようだった。そしてそれが済むと、すぐに二階に上がってくる音がした。そして、程なくして、ゆっくりとともえの部屋のドアが開かれた。ブレイとラブリはすでにぬいぐるみのフリをして転がっている。

「あ、お姉ちゃん。ここにいたんだ。ただいま。頼まれてた伝言と、買い物は終わったよ」

「うん。ありがとう、ひかる。おかえりなさい」

 ゆうきは小声で応じた。

「ちょっと、近くに来て。いまね、ともえに手を掴まれて抜け出せないの」

「? ああ、ともえお姉ちゃん、強がりだけど寂しがり屋だもんね」

 ひかるは普段のともえが聞いたら怒り出しそうなことをさらっと言って、ゆうきのすぐ隣に座った。

「ひかる、ちょっと手を出して」

「……? いいけど……」

 ひかるが出した手を、空いている手で掴む。そして、ともえに掴まれている手を瞬間的に引き抜くと、ともえの手が寂しがる余裕すら与えず、間髪入れずにひかるの手を掴ませた。

「えっ? えっ? な、何事?」

「ふぅ。身代わり作戦成功」

「なっ、なんなの? 一体」

「ひかる。あんた、ともえお姉ちゃんのこと好きよね?」

「えっ……? うーん、まぁ、もう少し傍若無人で唯我独尊なところは直してほしいけど、好きだよ」

 素直だが、意外と言いたい放題の弟だ。
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:15:45.26 ID:w9vsRS0p0

「じゃあ、ともえお姉ちゃんが寂しがらないように、一緒にいて、手を握ってあげててね」

「いいけど……。お姉ちゃんは?」

「わたし? ねえ、ひかる、わたしのことも好きよね?」

「えっ? 一体何なの……?」

「す・き・よ・ね?」

「……時々強引になってお母さんぶるところは正直辟易してるけど、色々と世話を焼いてくれたりお母さん代わりをしてくれたり、苦労をかけてるのは事実だし、好きだよ」

「……少しは歯に衣着せてよ」

 少しだけ心にダメージを負うが、仕方ない。これくらいは想定の範囲内だ。

「じゃあ、わたしは、これからちょっと出かけます」

「えっ? 本気?」

「ちょっと急に用事ができちゃったの。本当に、外せない大事な用事なの。30分……長くても一時間で戻るわ。だから、お留守番、お願い」

「…………」

 ひかるは呆れるような顔をしていたが、やがてため息をついて、頷いた。

「……ぼくも、友達とサッカーの約束してたけど行けなくなったってこと、忘れないでね」

「もちろん、感謝してるよ、ひかる。ありがと」

「どういたしまして」

 本当に良く出来た弟だと思う。寝起きはボーッとしているが、ゆうきやともえ以上に頭が回る、自慢の弟だ。

「……あと」

「何?」

 ゆうきはブレイとラブリを拾い、ドアに向かいながら、言った。

「……洗濯物干せてないの。もしともえの手を振りほどけたら、よろしく、なんて……」

「…………」

 弟の目線がこれほどまでに痛かったことがあっただろうか。

「……いいよ。やっておくよ。いつもお姉ちゃんばっかりにやらせてるのもおかしいことだし」

「うぐっ……。ここでそういうマジな感じのこと言われると、少し胸が痛いよ」

「ともえお姉ちゃんがぼくを解放してくれたら、だけどね」

 ひかるはそう言って、笑った。

「行ってらっしゃい、お姉ちゃん。車に気をつけてね」

「うん。行ってきます!」

 ゆうきはそう答えて、急いで家を飛び出した。
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:16:12.24 ID:w9vsRS0p0

…………………………

「出でよ、ウバイトール!」

 ゴーダーツが手を掲げる。その声に応じるように、空が割れ、黒いヘドロのような固まりが落ちる。それはまっすぐふたりのプリキュアめがけて跳んだ。

「ドラゴ!」

 ユニコはドラゴの手を引き、かろうじて黒い固まりを回避する。

「ご、ごめん。ありがとう、ユニコ……」

「気にしないで。ドラゴにケガがなくてよかったわ」

「でも、お見舞いのケーキが……」

 黒い固まりはドラゴの手から、ケーキの入った紙箱を奪い取っていた。黒い固まりは紙箱の中に染みこんでいき、その真の姿をホーピッシュに現した。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「ああ!! ともえちゃんへのお見舞いが!」

 紙箱が巨大化したようなウバイトールが現れる。

「ゴーダーツ!」

「誰かに喜ばせたい、という気持ちだけではないな」

 ゴーダーツが笑う。

「自分たちも食べるためにケーキを買ったのだな。卑しいことだ」

「なっ……! こ、こちとら女子中学生よ!? ケーキが食べたくて何が悪いのよ!」

「悪いとは言わん。だが、その自分自身の欲望に勝てるか、プリキュア」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 ウバイトールが拳を振り下ろす。ユニコとドラゴは二手に分かれ、跳ぶ。ユニコは大地を蹴り、ウバイトールめがけて拳を放つ。

『ウバッ……?』

「なっ……!?」

 バコッ、と。ウバイトールの身体が凹む。しかし、手応えはない。ウバイトールの凶悪な瞳が歪む。

『ウバァ!!』

「ぐっ……」

 ユニコがひるんだ隙に、ウバイトールの拳が飛ぶ。ユニコは寸前で回避し、後退する。

「ドラゴ、気をつけて! このウバイトールは紙箱が元だから、殴ってもダメージを与えられないわ!」

「任せて!」

 ドラゴの声が上空から聞こえた。ドラゴは上方に跳び上がり、ウバイトールの正面に降り立った。まるで、ユニコを守るように両手を広げた。
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:16:39.97 ID:w9vsRS0p0

「情熱の炎を燃やす。あのとき、やれたみたいに」

「ドラゴ? 一体何を……?」

「ユニコを守りたい気持ち。ユニコと仲良くなりたい気持ち。そんな情熱を、拳に乗せて」

 ドラゴは目を見開き、拳を握った。その瞬間、ドラゴの両拳に炎が灯る。それは、何をも燃やし尽くすような、凄まじい熱気を持った炎だ。

「あれが、“燃え上がる情熱の光”……」

「はぁあああああああああ!!」

 感嘆するユニコをよそに、ドラゴが炎を手にウバイトールに迫る。

『ウバッ……!? ウバァアアアアアア!!』

 ウバイトールは巨体をよじらせてドラゴの拳を回避する。炎を恐れているようだった。

「ああ、元が紙箱だから、火は怖いのね……」

「感心している場合か、キュアユニコ」

 金属同士がこすれ合う音。前方でゴーダーツが剣を抜いた音だ。

「少しは強くなったか」

「……試してみたらいいわ」

 あの様子なら、ウバイトールはしばらくドラゴに任せて大丈夫だろう。ユニコは目の前のアンリミテッドの戦士を真っ直ぐに見据える。

「優しさの光よ、この手に集え! カルテナ・ユニコーン!」

“守り抜く優しさの光”がめぐみの手に収束し、カルテナが現れる。そして空いた手には“守り抜く優しさの光”で盾を作りだし、ゴーダーツと対峙する。

「デザイア様と刃を交えたと聞いた。よく生き残ることができたものだ」

「……たしかに、とんでもない実力の差を見せつけられたわ」

 ユニコは剣を構え、跳んだ。

「それでも、がんばって戦うしかないのよ!」

「心意気や良し。しかし、力がなければ何もできぬ!」

 カルテナの斬撃を、ゴーダーツは長大な漆黒の剣で受け止める。

「素人同然の剣で、何ができるというか!」

「剣は素人でも!」

 ユニコは心の中の想いを直接たたき込むように、カルテナに力を込める。ドラゴが拳に炎を纏わせるように、ユニコもまた、カルテナに“守り抜く優しさの光”を纏わせる。
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:17:06.56 ID:w9vsRS0p0

「ッ……!」

「応えて! カルテナ・ユニコーン!」

 空色の光が膨張する。それは明らかな圧力をもって、ゴーダーツの剣を揺るがす。

「ぐっ……! そんな小手先の技で、このゴーダーツがやられるか!」

「まだよ!」

 さしものゴーダーツも体勢が崩れたようだった。ユニコはがら空きのゴーダーツの胸元に、空いた手で掌底をたたき込む。空色の光が集約し、小さな爆発を起こす。

「がッ……!」

「……っ」

 ゴーダーツが後へ吹き飛ぶ。しかし、アンリミテッドの戦士は倒れない。アスファルトを両足で削りながら、留まる。胸元を押さえながら、未だに衰えぬ闘志を見せつけるように、キュアユニコを睨み付ける。

「……なるほど。認めよう。貴様は紛れもなく、伝説の戦士だ」

「ありがとう。嬉しいわ、とってもね」

 対するユニコは、膝をつく。身体中から力が抜けるようだった。

(キュアユニコの力は、本来防御に特化したものなのね。防御の力で打撃を行ったり、ユニコーンアサルトのようにカルテナに光を纏わせて突撃するだけならまだしも、“守り抜く優しさの光”を直接攻撃に使おうとすると、負荷が高い気がするわ……)

 伝説の戦士プリキュアには明確に役割が振られているのだろう。力はその役割に準じたこと以外にも使えるが、効率は明らかに悪いと考えるべきだろうか。

「ここまでか、キュアユニコ」

「……悔しいけど、今の私じゃ、あなたと一対一では勝てないようね」

「そうか。ならば、これで終わりだ」

 ゴーダーツがゆったりとユニコに迫る。そして、長大な漆黒の剣を振り上げ――、



「――ユニコ!!」



 その声は、熱い情熱をまとっていた。

「むッ……!?」

 ゴーダーツが何かに反応し、振り上げた剣を、そのまま横に逸らした。その直後、剣に紅く熱い火炎がたたき込まれる。背後を振り返ると、ドラゴが肩で息をしながら、拳を前に突き出していた。

「わたしの大切な友達を、傷つけさせない、から!」

「……ぐっ。キュアドラゴの力、これほどまでとはな」

 ゴーダーツの漆黒の剣が、赤く熱を帯びていた。キュアドラゴの炎を受けて、剣がダメージを受けたのだ。
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:17:33.93 ID:w9vsRS0p0

「ええい! ウバイトールは何をしている!」

「あっちにいるけど……」

 ドラゴが指をさす。

『ウバっ、ウバっ、ウバァっ……』

 その方向には、身体中を炎に包まれたウバイトールが、バタバタと手で自分の身体を叩き、必死で消火活動にいそしむ姿があった。

「なっ、情けない……私の生み出したウバイトールがあの体たらくとは……。キュアドラゴの炎で、剣にもダメージを与えてしまった。私もまだ修行が足りんようだな」

「ユニコ、大丈夫?」

 ゴーダーツが呻いているうちに、ドラゴがユニコに近づいて、ささやく。

「ええ。ありがとう。助かったわ」

 ユニコはドラゴの手を借りて立ち上がった。そして、呻くゴーダーツを尻目に、ドラゴの手をぎゅっと強く握った。

「あの、美旗さん」

「えっ? えっと、あの……何かな、大埜さん」

 顔をつきあわせ、お友達同士お喋りするように。

「あきら、って呼んでも、いいかしら?」

「えっ、あっ、えっ……ええっ!?」

「いや、嫌なら、アレだけど……」

「いやいやいや!」

「そ、そんなに嫌なのね……」

「ち、違うよ! 嫌じゃないよ! っていうか、呼んでほしいよ!」

 ドラゴは衣装と髪に負けないくらい、頬を真っ赤にして。

「わた、わたわた、わたしも……その、めぐみ、って、呼んでいい?」

「もちろん! 呼んでくれたら嬉しいわ!」

「あっ……う、うれしいな……め、めぐみ」

「うん。あきら」

 その瞬間、繋いだ手から光が噴出した。空色の清浄な光と、烈火の如く燃えさかる光が、ふたりの繋いだ手から噴き出し、瞬く間に周囲を埋め尽くした。

「これは、“守り抜く優しさの光”と……」

「“燃え上がる情熱の光”……」

 ふたりは顔を見合わせる。
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:18:16.10 ID:w9vsRS0p0

「キュアドラゴ! キュアユニコ!」

 そんなふたりに、大声で呼びかけるのは、フレンと一緒に物陰にかくれていたパーシーだ。

「優しさと情熱は、未来を守って、未来を灯す、大事なものドラ! 優しさと情熱が手を取り合えば……」

「勝てない相手なんて、いないニコー!」

 パーシーの言葉を継いで、フレンも大声を張り上げる。

「だから、行くニコ!」

「ふたりで、欲望に墜ちた敵を、浄化するドラ!」

 ユニコはドラゴを見つめた。ドラゴも、ユニコを見つめ返してくれる。ふたりは頷いて、お互いの手を、もっと強く、握った。



「角ある駿馬よ!」

「天翔る飛竜よ!」



 光が指向性を帯びた。炎のような光と、空色の光が絡み合い、渦となって、プリキュアたちの手に集約する。

「ぐっ……」

 ゴーダーツが上空へ待避する。

 そして、ふたりのプリキュアから、猛烈な光が放たれた。




「プリキュア・ロイヤルストレート!」



『ウバッ……!?』

 ロイヤルストレートは、まっすぐウバイトールへ向かい、その闇の怪物を包み込む。

『ウバァアアアアアアアアアアアアア……!』

 ウバイトールはロイヤリティの光に包まれ、消滅する。残されたのは、元通りきれいになったケーキの紙箱だ。

「……キュアユニコは確かな力をつけている。そして、キュアドラゴの炎は、明確な脅威だ」

 ゴーダーツは上空で言う。

「四人目のプリキュア復活は、絶対に阻止しなければ……!」

 ゴーダーツはそう言い残し、空に溶けるように消えた。
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:18:42.79 ID:w9vsRS0p0

「……ふぅ」

「はぁ〜」

 ふたりのプリキュアは光に包まれ、元の姿に戻る。

「やったわね、あきら」

「うん、めぐみ!」

 ふたりは笑い合い、パンと、ハイタッチした。



「わ、わたし、せっかく急いで来たのに……」



「へ?」

「ゆ、ゆうき!?」

 震える声に振り返ると、そこにはぜぇぜぇと息を切らすゆうきの姿があった。

「いつ来たの!?」

「今さっきだよぅ……」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:19:09.69 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 ゆうきは本当に、全速力で闇が広がる場所へと駆けつけたのだ。

(めぐみとあきらに任せるなんて、やっぱりダメだよ! ふたりはまだ仲良くなれてないんだから、わたしがサポートしないと、絶対ダメダメだよ!)

 ゆうきの中でそれは疑いようがないことだった。ゆうきはどうか無事でいてと祈りながら、とにかく走った。

 しかし、ようやくアンリミテッドの領域にたどり着いたとき、ゆうきの目に飛び込んできたのは、想像とはまったく別の光景だった。




「わたしの大切な友達を、傷つけさせない、から!」

 ドラゴが放った炎は、ゴーダーツの大剣を真っ赤にしていた。




 そして。

「あきら、って呼んでも、いいかしら?」

「わた、わたわた、わたしも……その、めぐみ、って、呼んでいい?」

 なぜアンリミテッドを前にもじもじと友情を確かめ合っているというのか。



 そんな風にゆうきが呆気に取られていると、ふたりのプリキュアはお互いに手を取り合い、凄まじいロイヤリティの光を放ち、瞬く間にウバイトールを浄化してしまったのだ。
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:20:00.55 ID:w9vsRS0p0

…………………………

「ふたりともいつの間にそんなに仲良くなったの……?」

 ゆうきは呆然とするような顔でそう言った。

「わたしの心配は必要なかったわけだね……。っていうか、わたし自身がもう必要ない感じだね……」

 そしてその答えを聞く前に、勝手に落ち込んだ。

 ゆうきはうなだれていたから気づかなかったけれど。

「……まったくもう」

「仕方ないね、ゆうきは」

 あきらとめぐみは目を合わせ、苦笑していた。そして頷き合い、両側から、ゆうきの腕を取った。

「ゆうきは必要だよ。だって、ねぇ、めぐみ?」

「ええ。私たちが仲良くなったのは、ゆうきのおかげだもの」

「「ねー?」」

「へ? へ? へ?」

 あきらはめぐみと声を合わせる。ただひとり、ふたりに挟まれたゆうきだけが何も理解していないようだった。

「どういうこと? 教えてよ〜!」

「内緒よ。ね、あきら?」

「うん。ふたりだけの秘密だね、めぐみ」

「なんかふたりともメチャクチャ仲良しになってるしー! ずるいよー!」

 ゆうきがジタバタと暴れるが、めぐみとあきらはゆうきの手を握ったまま、笑っている。

「今からあきらと一緒にゆうきの家に、ともえちゃんのお見舞いに行くところだったの」

「へ?」

「さ、行こう、ゆうき。ケーキも買ってあるよ」

「ほんと!? やったぁ! ありがとう、めぐみ、あきら!」

 ゆうきは意気揚々とご機嫌だ。するりとふたりの間から抜け出すと、ぴょんぴょんとスキップで前に行く。
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:20:26.79 ID:w9vsRS0p0

「ほら、ふたりとも早く行こう。ケーキだよ、ケーキ!」

「まったくもう。現金なんだから」

 めぐみが苦笑する。あきらも笑って、ゆうきを追いかけようと手を握り、

「痛っ……!?」

 ずきりと、手が痛む。

「……?」

 気のせいだろうか。

 あきらは両手を握って開いて、確認する。

「っ……」

 今度は明確な痛みを感じた。しかし、両手には何のキズもない。

(なんだろう、これ……?)

 しかし、その痛みは一時的なもののようだった。しばらく手をグーパーさせると、痛みはいつの間にか消えてなくなった。

(……なんだろう。切り傷みたいな痛みと、火傷みたいなジンジンする痛みだった……)

「あきら? どうかしたの?」

 先に歩いていたゆうきが振り返る。

「大丈夫?」

 めぐみも心配そうな顔だ。

「……ううん。なんでもない」

 あきらはそう答えて、ふたりに駆け寄った。

 今はもう、痛みはない。

 きっと戦いを通して、少し気分が高ぶっているせいだろう。

 あきらはそんな風に考えることにした。
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:20:52.99 ID:w9vsRS0p0

…………………………

 喫茶店、ひなカフェの裏から入れる二階は、寮のような宿舎になっている。

 彼は考え事をしながら、その二階の戸を開ける。広い入り口でくつばこに靴をしまい、廊下へ上がる。

「おかえりなさい、郷田先生」

 横から声がかかる。寮母のように世話をやいてくれる、この宿舎の管理人、ひなぎくさんだ。下のひなカフェを切り盛りしながら管理人もやっているのだから、日々忙しい人だ。

「先生はやめてください。ここでは私はただの店子です」

「難しい言葉を覚えたんですね。さすが、学校の先生です」

「体育科の教員ですがね」

 ひなぎくさんは嬉しそうな笑みを浮かべている。

「……シュウくんがね、申し訳ありませんでした、って謝りに来たの」

「……? 蘭童が?」

「ええ。新たな脅威をむざむざ生み出してしまった、って」

「ああ……」

 昨日の、美旗あきらのことを話しているのだとわかった。

「仕方がないことでしょう。それを言えば、わたしは王野ゆうきと大埜めぐみを目覚めさせました。奴の二倍の責任があるでしょう」

「そうね。私も、シュウくんには気にしないように言っておいたわ。彼のせいではないもの」

 そう言うと、ひなぎくさんはてくてくと彼に歩み寄った。

「ところで、大事な話があります」

 ひなぎくさんは、彼の目の前でそう言った。

「……なんです?」

「“郷田先生”がダメなら、私はあなたのことを何てお呼びしたらいいでしょうか?」

 深刻な話をされると思っていた彼は、気が抜けるような思いだった。

「お好きなように」

「うーん……そうね。じゃあ“篤志さん”って呼ぼうかしら」

「……御随意に」

 彼はそう答えると、ひなぎくさんの横を通り、自室へ向かった。

「ふふ」

 遠く、後から、ひなぎくさんの声が、かすかに聞こえた。



「……順調に育っているようですね。安心しました」



 それが何を指しているのか、彼には分からない。なぜなら、その瞬間に、とてつもない闇の発露を感じたからだ。

 振り返ることすら恐ろしくて、彼はそのまま、自室のドアを開け、逃げるように、入った。

「ふふ……ふふふふふ……」

 宿舎の二階には、その闇を帯びた笑い声が、しばらくの間響いていた。
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 10:21:36.91 ID:w9vsRS0p0

 次 回 予 告

めぐみ 「また負けたー!」

あきら 「ひっ……! い、いきなり何……!?」

ゆうき 「最近の恒例行事だから気にしないで、あきら」

ゆうき 「それより、ファーストプリキュア就任おめでとう! あと、生徒会庶務も!」

あきら 「あっ、ありがとう、ゆうき。えへへ、とっても嬉しいな」

ゆうき 「……まぁ、本当は、わたしがあきらを庶務に誘いたかったんだけどね」

ジロリ

めぐみ 「えっ」 ビクッ 「し、仕方ないじゃない。あなたが言わないんだもの」

ゆうき 「ちょっと忘れてただけだもん!」

ゆうき 「……ふん、だ。ふたりともわたしの知らないところで仲良くなってるしさ……。って、あきら?」

あきら 「…………」 ズーン……

あきら 「……わたし、ゆうきに忘れられてたんだ。庶務に誘うの、忘れられてたんだ……」

ゆうき 「わー! ど、どどど、どうしよう!? またあきらが闇墜ちモードに!?」

めぐみ 「自分でなんとかしなさいよ。幼なじみでしょう。まったく……」

ハァ

めぐみ 「……と、いうわけで、次回、ファーストプリキュア!!」

めぐみ 「第15話【がんばれゆうき! 居残りは初恋の香り?】」

ゆうき 「……えっ!? わたし居残り!? っていうか初恋!?」

めぐみ 「ということで、また来週! ばいばーい!」

ゆうき 「ち、ちょっとめぐみ!? 居残りと初恋って……――わ、あきら! 泣かないでー!」
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