【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:19:44.64 ID:LVapeV8q0

…………………………

 そこは、ロイヤリティでは感じたことのない、異質な地面が広がる土地だった。石張りの床によく似たその地面は、黒々とどこまでも広がっている。ホーピッシュは、異質だ。とても希望の世界とは思えないくらい、無機質だ。緑はあるにはあるが、あまり多いとは言えないし、何よりこの黒々として硬い異質な地面があまりにも広すぎる。この世界は、妖精の姿で歩き回るにはあまりにも厳しい。土とは違い、歩くだけで足が痛いし、お日様の照り返しも強い。体力もどんどん奪われていく気がする。

 愛の王女ラブリはそんな場所で、ひとりぼっちのまま愛のプリキュアを探していた。

「…………」

 ひとりは昔から慣れっこだった。

 ひとりでいるのが当たり前だったから、さみしいなんて思ったこともなかった。

 いつだって、ラブリはひとりぼっちだった。

「……関係ないレプ。ラブリが愛のプリキュアを生み出して、ロイヤリティを復活させればいいだけレプ」

 なんでそんなことを考えてしまったのだろう。考えたって仕方のないことだって知っているはずなのに。

「ブレイ……フレン……パーシー……」

 そういえば、とふと思い出す。自分以外の、たった三人のロイヤリティの生き残り。彼らは一体、どうしているだろうか。どこかで行き倒れしていないだろうか。敵に捕まってブレスと紋章を奪われてはいないだろうか。

「……関係ないレプ。ラブリには、関係ないことレプ」

 グゥ〜、と。その瞬間、とんでもない轟音が鳴り響いた。すわ敵襲かと身構えるラブリだが、すぐに気づく。自分の、お腹が鳴った音だ。

「そういえば、もうしばらく何も食べてないレプ……」

 ラブリはとうとう、道のすみに座り込んだ。

 ホーピッシュにつてなどはない。初めてやってきた土地で、さびしくさまよっているだけだ。それを「プリキュア探し」と言い張って、虚勢を張っているだけだ。四人の王子・王女の中で一番優秀だった己がこのていたらくなのだから、考えるまでもない。他の三人は、捕まるか、とっくに行き倒れているかのどちらかだろう。

「レプ……ッ」

 胸が痛む。

 関係ないはず、ないのだ。仲良くしていたわけではない。どちらかといえば、いがみ合ってばかりだった。それでも、容易に見捨てていい相手ではなかったはずだ。共に祖国を救うための使命を帯びた身の、仲間だったはずだ。そんな仲間たちを、自分は見捨ててしまったのだ。

「――ラブリ……?」

 おどおどとした声。少しだけなつかしい声。ああ、とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまった。愛の王女ともあろうものが情けない。

 こんなところで、勇気の王子の声など、聞けるはずがないというのに。

「やっぱり、ラブリグリ!」

 ただし、それは幻聴というには、あまりにもはっきりとしすぎていた。背後からのその声に、ラブリが振り返る。果たしてそこには、勇気の王子ブレイと、優しさの王女フレンが並んで立っていた。

「無事だったグリね! よかったグリ!」

「ふ、ふん。ラブリのことだから、心配ないと思ってたニコ」

 これはいったいどういうことだろうか。思考を巡らすことはできなかった。ふたりの姿を認めた瞬間、ラブリは何かが外れたように、道端に倒れ込んでしまったからだ。

「ラブリ!? ラブリ、しっかりするグリ!」

「めぐみたちを呼んでくるニコ!」

 意識が遠のいていく中、そんなふたりの声が、聞こえた気がした。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:20:11.60 ID:LVapeV8q0

…………………………

 ゴドーは物陰から、倒れる愛の王女と、走り去るふたりの王子と王女の姿を眺めていた。

 千載一遇の好機と言えよう。なにせ、探し求めていた愛の国の王女が、たったひとり目の前で倒れている。

「今なら、邪魔なプリキュアもいない……! 今なら!」

 そう。今ならば、プリキュアがいない今ならば、少なくとも弱り果てている愛の王女だけでも、アンリミテッドに連れて帰ることができるだろう。ゴドーははやる心のままに、倒れ伏す愛の王女に向け走り出した。しかし、唐突に目の前に現われる陰があった。

「待ちなよ。そう急ぐことでもない」

「なっ……」

 空から降りてきたダッシューは、通せんぼをするように、ゴドーの目の前で両腕を広げた。

「何の真似よ! 悪趣味な奴ね! ずっと空から見てたのね!」

「たまたまさ。ぼくはぼくの目的のために動いている。ただ、偶然にも君が、愚を犯そうとしているのを見かけたから、止めにきてあげただけさ」

「どういうことよ!」

 ゴドーの剣幕にも、ダッシューはひるむ様子もない。端からゴドーの相手など、本気でするつもりなどないのだ。

「考えてもみなよ。いま出て行ったところで、どうせすぐにプリキュアたちが現われる。そうなれば、どちらにしろ愛の紋章やブレスを手に入れることは不可能だ。違うかい?」

「っ……」

 それは確かにその通りかもしれない。勇気の王子と優しさの王女はプリキュアたちを呼びに行った。プリキュアたちはほどなくして現われるだろう。そうすれば、何の策もない現状であれば、ゴドーの敗北は必至だろう。

「でもこのまま待っていたって変わらないじゃない!」

「変わるさ」 ダッシューは酷薄に笑う。「忘れたのかい? 彼らロイヤリティの王族たちは、どこまでも仲が悪いんだよ?」

 ダッシューのその笑みに、ゴドーもようやく、彼の意図するところに気づいた。

「……それもそうね。ふふ。国を奪われてもなお仲違いをする王族。見物だわ」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:20:44.92 ID:LVapeV8q0

…………………………

 ほんの数日さまよっていただけだというのに、もう何年も当て所のない旅をしていたように思える。

 ラブリはようやくロイヤリティに帰ることができたのだ。

 暖かい陽気。やわらかな光。穏やかな笑い声。それらが織りなす優しい世界に、帰ってきたのだ。

 ラブリの故郷、愛の国は、やはり愛で溢れていた。臣民は皆、ラブリを笑顔で出迎えてくれた。

 そして、人々の向こう、ラブリの両親である愛の国の王とお后様が待ってくれてる。

 ああ、ようやく帰ってくることができた。

 きっと、お父様もお母様も、ラブリを温かく迎えてくれる。

 ラブリは走り出した。

 あと少し。あと少しで両親に手が届く。

 あと少しで、温かい笑顔を、声を、愛を――



 ――世界が反転した。



「……っ、あ……」

「グリ! ラブリが目を覚ましたグリ!」

「ほんとニコ!」

 視界がぼやける。そのぼやけた視界の中を、何かが動いた。

「大丈夫グリ?」

 それが、モコモコの身体をした王子だとわかると、ラブリは自分を怒鳴りつけたい気持ちになった。ラブリはすぐに状況を把握したのだ。つまり、己は道端で倒れ、ブレイとフレンのふたりに拾われたということだろう。ここはどこだろうか。屋内のようだが、妖精のラブリにとっては、何もかもが大きく映る。ホーピッシュの人間の家なのだろう。

「レプ……」

「あ、まだ起きない方がいいグリ!」

 起きようとすると、モコモコの王子が自分の身体を押す。ただでさえ弱っているラブリは、それだけで動けない。しかし、そのまま寝ていることは、ラブリの色々なものが許さない。

「……大丈夫レプ。ラブリは君たちに情けをかけられるほど落ちぶれていないレプ」

「なっ……! まだそんなことを言っているニコ!?」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:21:13.34 ID:LVapeV8q0

 予想していた通り、人の好い勇気の王子は首を傾げるだけだが、優しさの王女は顔を真っ赤にして憤慨のご様子だ。ラブリは今度こそ起き上がり、ふたりの王族を睥睨した。

「ブレイ、フレン、よく無事でいられたレプ。もうとっくに行き倒れていると思っていたレプ」

「行き倒れていたのはそっちニコ!」

 フレンがますます顔を真っ赤にする。

「せっかく助けてあげたのに、相変わらずひどい性格ニコ!」

 助けてあげた。ああ、そうかと納得する。それと同時にこみ上げてくるのは怒りとも後悔ともつかない嫌な感情だ。

 つまりは、この愛の王女が、勇気の王子と優しさの王女などに、助けられたということだ。

 そして、愛の王女である己が行き倒れのような状態になっていたというのに、このふたりの王子と王女は、そんな己を助けるだけの余力すらあったということだ。

「……助けてなんて頼んだ憶えはないレプ」

 口をついて出てきたのは、そんな力ない言葉だけだった。ラブリが何をどう考えても、その事実を消すことはできなかった。

「もう怒ったニコ! そんなに偉そうなことを言うなら、どこかで行き倒れたらいいニコ! 今すぐ出て行くニコ!」

「言われなくても、そうさせてもらうレプ」

 ラブリは何も言えずオロオロとするブレイを押しのけ、立ち上がった。

「フレン! ラブリ! ブレイたちは、こんなケンカをするためにホーピッシュに来たわけじゃないグリ!」

「……うるさいレプ。臆病者が、このラブリに意見する気レプ?」

 ブレイを睨みつけると、ブレイはびくりと身体を震わせて、目を逸らした。

「相変わらずレプ。優しさのカケラもないフレン。臆病者のブレイ。そんな風に、何もできない同士一緒にいるといいレプ」

「何もできない? ふん! よーく聞くといいニコ! フレンとブレイは、プリキュアを生み出したニコ!」

 立ち去ろうとしたラブリの背中に、その言葉がガツンと響く。

「プリキュアを……?」

「そうニコ! あんたはその様子じゃまだみたいニコね! どうニコ? 散々バカにしていたフレンたちに先を越された気分は!」

「……っ」

 それはあまりにも重い事実だった。考えないように目を逸らしていたが、当たり前のことだ。弱い妖精でしかないブレイとフレンが行き倒れることもなくしっかりと生きているというこは、ふたりを保護してくれたホーピッシュの人間がいるということだ。その保護者が、プリキュアである可能性は大いにある。

 それはつまり、天才と謳われ、天才であることを義務づけられたラブリが、ブレイとフレンにできたことを未だ達成できていないことに他ならない。

「ふ、フレン! 言い過ぎグリ!」

「……ふん! いつもフレンたちをバカにしていたんだから、お返しニコ!」

「ふん……」

 関係ない。そう思うことにして、ラブリはその場を後にした。
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:21:39.56 ID:LVapeV8q0

…………………………

「なんて女ニコ! せっかく助けてあげたのに!」

 憤慨するフレン。それも無理もないことかもしれない。道端で倒れたラブリを助けるため、下校中だっためぐみとゆうきを探して走り回っていたのだから。ブレイは、フレンの腹立たしい気持ちがわからないわけではない。けれど。

「……心配グリ」

「ニコ……?」

 ブレイの言葉に、フレンが顔を向ける。

「ブレイはあんな奴のことが心配ニコ?」

「もちろん、ブレイだってあの態度はひどいと思うグリ。でも、仕方がないことかもしれないグリ」

「仕方がないって何ニコ?」

 ブレイは考える。自分は臆病だ。だからこそ、昔からバカにされ続けてきたラブリの冷たい目線を見て、さっきだって何も言うことができなかった。それはきっと、仕方がないこと。もちろん、勇気の王子としてそのままでいいはずがないけれど、今はまだ、きっと、仕方がないことだ。

「……フレンは、ラブリに対して怒ってるグリ」

「当然ニコ! せっかく助けてあげたのに、あんなことを言われて、腹が立たないわけがないニコ!」

「そうグリ。それもきっと、仕方がないことグリ。ラブリもきっと、ブレイたちに助けられて、ああいう風に言うしかなかったグリ」

「ニコ……」

 フレンはブレイの言葉を受けて、少し考え込んでいるようだった。

「……そうかもしれないニコ」

 やがて顔を上げたフレンは、そっと口を開いた。

「ラブリはプライドも高いし、自分が天才だって自負もあるニコ。それに、本当になんでもできる、すごい王女だったニコ」

「そんなラブリが、ブレイたちにプリキュアを先に生み出されたと知って、ショックを受けないわけがないグリ」

「……それにしても、あんな態度はないと思うニコ」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:22:16.59 ID:LVapeV8q0

「それは、段々と直していくしかないグリ。ブレイも、もっと勇敢にならないといけないグリ。フレンも、もっと優しくならないとだめグリ?」

「ニコ……。痛いところをついてくるニコ」

 フレンはほぅ、とため息をつく。

「……フレンもさっきは言い過ぎたニコ。優しさの王女なら、優しくラブリを諭すべきだったニコ」

「そう思えるだけで、フレンは大した王女グリ。それに比べてブレイは、さっき何も言えなかったグリ」

「でも、いま言えてるニコ。フレンに、大事なことを気づかせてくれたニコ。ブレイも、きちんと勇気の王子をしてるニコ」

「そ、そうグリ……?」

 フレンが真正面から褒めてくれるなんて、少し前に想像ができただろうか。ブレイはこそばゆいような気持ちで、そっとフレンに向き直った。

「もう一度、ラブリを迎えに行くグリ。ブレイたちが力を合わせないと、ロイヤリティは蘇らないグリ」

「ニコ!」

「話はまとまったみたいね?」

 開きかけだった部屋のドアが、キィと開く。外から顔を覗かせるのは、ブレイとフレンの大切な仲間、ゆうきとめぐみだ。

「せっかく弱った愛の王女様のために、急いで甘い物を買ってきたんだから、」 ゆうきが買い物袋をぶら下げて笑う。「ちゃんと食べさせてあげなくちゃね」

「グリ!」

 ブレイとフレンは頼もしい相棒の肩に乗る。大切な友達を、迎えに行くために。
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:22:48.89 ID:LVapeV8q0

…………………………

 一度、“助かった”なんて、思ってしまったからだろう。

 身体は、先にも増して重いような気がする。

 何より、空腹が限界を超えて、もはやお腹が空いているのか空いていないのか、それすら判然としない。

 少し眠ることができたから、妙に頭が冴えている。

 ギラギラと照りつける日光と、黒い大地からの照り返しに、今にも倒れそうだ。

 ふと、倒れたらまた、ブレイとフレンが助けてくれるだろうか、なんて考えが頭をよぎった。

 なんて情けないことを考えているのだろう。

 それに、助けに来てくれるわけがないではないか。

 あんな、ひどい啖呵を切って飛び出してきたのだ。さしものお人好したちも、フレンに愛想を尽かしたことだろう。

 あんなの、ただの強がりだ。

 ブレイとフレンに助けられたことが情けなくて、ブレイとフレンが先にプリキュアを生み出していることが悔しくて、それで、あんなことを言ってしまっただけだ。

 愛の王女ともあろう者が、なんて情けないことをしてしまったのだろう。

「……愛。ああ、そうレプ。それは、ラブリには分からないものレプ」

 何が愛の王女だろう。今まで、一度だって誰かの愛に触れたことがあるだろうか。そんな己が、どうして愛の王女などを名乗れるだろうか。

 もはや、思考も判然としない。自信を打ち砕かれた天才王女は、そっとその場に跪いた。

 倒れるなと教えられた。媚びるなと教えられた。常に王族らしくあれと教えられた。

 その結果が、これだろうか。

 ラブリはそのまま、天を仰ぐように地面に転がった。

 どう考えたって終わりだ。これ以上歩く体力もない。気力もない。何もない。

「……これで終わりレプ。祖国はきっと、ブレイとフレンが救い出してくれるレプ」

 そう思うと、安心できる気がした。ラブリはすべてを放棄して、そのまま――




『ラブリ……』




「レプ……」
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:23:14.91 ID:LVapeV8q0

 遠く、声が聞こえた気がした。それは、聞こえるはずのない声。ロイヤリティが闇に飲まれ、消滅する直前。ラブリたちが、ホーピッシュヘと旅立つ直前。最後かもしれない、母と父の、己を呼ぶ声。

 両親にさしたる感慨があるわけではない。

 むしろ、公務で忙しく、放任主義の母と父は、厳しい言葉をかけてはくれるが、優しい言葉をかけてくれることは多くはなかった。

「……ラブリ、は……っ」

 倒れるわけにいかないだろう。ここで。王族としての、責務を真っ当せぬまま。朽ちていくわけにはいかないだろう。

「まだ、やらなければならないことが、あるレプ……」

 たとえ情けなくたって、なんだって、やらなければならないことがある。

 倒れている場合では、ない。

「お父様を、お母様を、臣民を……救わないといけないレプ……」

 けれど。



「救わないといけない? 救うべき臣民もいないのに、何を言っているのかしら」



「レプ……!」

 情けなく立ち上がったラブリを、冷たく見下ろす瞳がふたつ。思い起こされる、愛の国が滅ぼされたときのこと。燃え上がる愛の国の街並みを見下ろしながら、酷薄に笑う顔。忘れもしない。愛の国を滅ぼしたアンリミテッドの戦士――、

「ご、ゴドー……!」

「あら。名前を覚えていてくださったなんて、光栄ですわ。愛の王女、ラブリ・ラブリィ様」

 くすくすと、まるで普通の少女のように、黒衣の戦士は笑う。

「冷たい冷たい愛の国の王族ですもの。下々の者の名前なんて、すぐ忘れてしまうものと存じておりましたのに」

「も、紋章とブレスは渡さないレプ!」

「それをお決めになるのは、ラブリ様ではないのですよ」

 ゴドーは身をかがめると、恐怖と極度の疲労で動けないラブリを、なんでもないことのようにすくい上げた。

「は、はなすレプ!」

「紋章とブレスをいただければ、王女様に用はございません。はなして差し上げますよ?」

「渡せないレプ! これは、ロイヤリティを救う最後の希望レプ!」

「わがままな王族は臣民に嫌われましてよ? まぁ、もう手遅れですけれど」

 キリキリと、まるでラブリが苦しむ様を楽しむように、ゴドーの両手が少しずつラブリの身体を締め付ける。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:23:41.26 ID:LVapeV8q0

「さぁ、王女様? 闇に飲まれ消滅した亡国の王女様? 逃げ惑う臣民を見捨てて逃げ出した王女様?」

 ゴドーの声は嗜虐的にラブリを責め立てる。

「あなたに紋章とブレスを持つ資格はございません。わたくしめにお渡しくださいな」

 ああ、そうだ。その通りだ。ラブリは何もできず、逃げ出したのだ。

 必ず救うと誓って、このホーピッシュの地に降り立ったのだ。

 けれど、結局何もできていない。愛のプリキュアにふさわしい人物も見つからない。

 ゴドーの言うとおり、これではただ逃げ出しただけだ。闇に飲み込まれたロイヤリティから、逃げ出しただけの臆病者だ。

「――……レプっ」

「あら? 渡してくださる気になったのかしら」

 ラブリの声にならない声に、ゴドーの手が緩む。ラブリはだから、それを口にすることができた。

「……それでも、やり遂げることが、ある、レプ……!」

「っ……。それが無駄だと言っているのよ!」

「闇に身をやつした、アンリミテッドの者には、分からないレプ。ここで諦められないから、立ち上がるレプ。ここで潰えるわけにはいかないから、戦うレプ……!」

 ギリリ、と。今度は猛烈な力が込められた。憎しみがそのまま表層に表れたかのように、ゴドーの笑みが消え、怒りとも憎しみともつかない激烈な表情が浮かぶ。

「あんたによくそんなことが言えたものね……! あんたたちのせいで、あたしたちは……ッ!」

 こもった力に、ラブリは抜け出すことができない。それでも、ほとんど力の入らない両手に力をこめる。少しでもアンリミテッドの力に抗おうと、力をこめる。たとえ彼我の戦力差がどうであれ、ラブリがあきらめていい理由には、ならない。

「早くブレスと紋章を渡しなさいよ! あんたが持っていたって、もう意味のないものなのよ!」

「あきらめない、レプ……。救うレプ……。絶対に……絶対に、取り戻すレプ……!」



「「ラブリ!!」」


 ああ、どうしてだろう。

 さっき、あんなにもひどいことを言ってしまったというのに。

 どうして彼らは、自分の名を呼んでくれるのだろう。

 そして、どうして、こんなにも。

 こんなにも、自分は、この声を聞いて、安心してしまっているのだろう。

「プリキュア……!」

 ゴドーが震えた声を上げる。かすむ目で、ゴドーの目線の先を追う。

 そこには、勇気の王子と優しさの王女に伴われた、ふたりの少女の姿があった。
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:24:28.64 ID:LVapeV8q0

…………………………

「プリキュア……!」

 しまったと思ったときにはもおう遅かった。プリキュアたちはゴドーを目の前にして油断なく身構えている。

「っ……」

「早くアンリミテッドに連れて帰るべきだったね。君は本当に、激情家だから困るよ」

 先と同じように、虚空からダッシューが現われる。

「手伝ってあげよう。君は早く愛の王女を連れて逃げなよ」

「なっ……あたしに尻尾を巻いて逃げろって言うの!?」

「実利を取って欲しいと言っているだけだけどね。まぁ好きにしたらいい」

 それだけ言うと、ダッシューは両手を掲げ、叫ぶ。

「出でよ、ウバイトール!!」

 世界が闇に墜ちる。青かった空が真っ二つに割れ、その隙間から尋常ならざる何かが現われ、地に落ちる。

「そうだな……今日は、アレにしようか」

 ダッシューが指を差す。その先にあるのは、美しく立ち並ぶ街路樹のうちの一つだ。

「ウバイトールは物に込められた人間の欲望が具現化するものだ。だから、本来であれば自然物にウバイトールは宿らないが、人の欲望によって成り立つものならばその限りではない」

 闇の塊のような何かが、街路樹に取り付く。そして生まれるのは、闇の鼓動を持つ怪物、ウバイトールだ。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「木々を整えて美しくしたいという欲望。わからなくはない。利用させてもらおう」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:24:54.52 ID:LVapeV8q0

…………………………

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 唐突に現われたもうひとりのアンリミテッドの戦士がウバイトールを呼び出す。それに対してふたりの少女の行動は早かった。



「「プリキュア・エンブレムロード!」」



 世界を闇に染めようという怪異、それに立ち向かえる唯一の存在。

 伝説の戦士プリキュアが大地に降り立つ。



「立ち向かう勇気の証! キュアグリフ!」



「守り抜く優しさの証! キュアグリフ!」



(あれが、プリキュア……)

 夢現とも判断がつかないくらい消耗したラブリは、その光を温かいと感じた。

「ゴドー! ラブリを返してもらうよ!」

「ッ……!」

 ギリッ、と、己を戒める両手に力が込められる。痛みは感じなかった。ただただ、疲れ果てた身体に不思議な安心感が満ちていた。

(きっと、大丈夫レプ……)
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:25:21.43 ID:LVapeV8q0

…………………………

「ゴドー! ラブリを返してもらうよ!」

 キュアグリフはまっすぐゴドーに向かい跳ぶ。それを阻まんとウバイトールが立ちはだかる。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「邪魔、だ!」

 ズドン! と凄まじい音が響く。キュアグリフがウバイトールを殴りつけた音だ。

『ウバッ……ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「なっ……!?」

 しかし、その重い拳は、ウバイトールに響いてはいないようだった。街路樹のウバイトールは枝の両腕を振るい、目の前のキュアグリフを吹き飛ばす。

「ッ……! どうして!」

「加工前の生木は折れにくいし切りにくい。そして何より、衝撃に強いものさ」

 中空からダッシューが語りかける。

「君の拳程度じゃ、このウバイトールは倒せないよ」

「……ふん、だ。べつに今は倒さなくたっていいもん」

「なに……?」

 タッと、キュアグリフの脇を駆け抜ける影。優しさのプリキュア、キュアユニコだ。

「っ、行かせると思うか! ウバイトール!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「それは、」

 しかし、キュアグリフが、キュアユニコを迎撃しようと動くウバイトールの前に立ちはだかる。

「こっちの台詞だよ!」

『ウバッ……!』

 もう一度、鈍い音が響く。キュアグリフがウバイトールを真正面から殴り飛ばす音だ。キュアグリフから立ちのぼる薄紅色の光――それは、“立ち向かう勇気の光”。その光がキュアグリフにとてつもない力を与えているのは、誰の目から見ても明らかだった。そのまま、ウバイトールに反撃の暇すら与えず、グリフは拳を打ち付け続けた。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:27:03.16 ID:LVapeV8q0

「今は効かなくたっていい! ラブリが助けられれば、それでいい!」

「ッ……! キュアグリフ!」

 その間にキュアユニコがゴドーへ迫る。

「ゴドー! ラブリを返しなさい!」

「舐めんじゃないわよ! あたしだって……!」

 ゴドーは片手にラブリを握りしめたまま、向かってくるキュアユニコに相対する。

「悪いけど、ブレイとフレンの友達を連れ去らせるわけにはいかないから、本気を出すわよ」

「はん! 何が友達よ! いがみあってばかりの王族が友達なわけないでしょ!」

「そうかもしれない。ううん、そうだったかもしれない。けど、これからはきっと、大丈夫」

 キュアユニコは笑う。その不敵な笑みに、ゴドーは大地を蹴り、跳んだ。アンリミテッドの位相に逃げ込んでしまえば、さしものプリキュアも追ってはこれない。それは戦略的撤退だ。

「あんたが何を言ってるのかまるでわからないわ! どっちにしろ、これで終わりよ! 愛の王女はアンリミテッドがいただくわ!」

「本気を出すって、言ったわよね」

 ゾクッと、ゴドーは背筋が寒くなるのを感じた。それは、まぎれもなく、眼下を走る空色のプリキュアから放たれている、闘気のような何かだ。

「優しさの光よ、この手に集え!」

 空色の光がキュアユニコの手に集約する。そして現われるのは、ロイヤリティの伝説の戦士が携えるとされる伝説の剣――、

「――カルテナ・ユニコーン!」

「ッ……」

 その剣がとてつもない力を内包していることは火を見るより明らかだ。しかしゴドーはすでに飛び上がり、アンリミテッドへ消える準備は万端だ。何も心配する必要はない。

 そう。大丈夫。大丈夫なはずだ。

「角ある純白の駿馬、ユニコーンよ! プリキュアに力を!」

 しかし、その希望的観測はあまりにも容易く打ち崩された。




「プリキュア・ユニコーンアサルト!!」




「ッ……!?」

 空色の光を爆発させるように、キュアユニコが跳び上がる。まっすぐ、ゴドーに向かって、まるでロケットのようなアサルトを放ったのだ。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:28:13.73 ID:LVapeV8q0

 ゴドーはあまりの出来事に、目をつむり、事の推移を把握することを放棄した。心のどこかで、自分が敗北するのだと理解しながら。

 しかし、痛みはない。恐る恐る目を開けると、目の前にキュアユニコの姿はなかった。

「……?」

「……ラブリは返してもらったわよ」

 声は真下から聞こえた。今まさに着地したのだろう。屈んだ姿勢から立ち上がるキュアユニコが両手で優しく抱きかかえるのは、まぎれもなく愛の王女、ラブリだ。手に握っていたはずの王女は、いつの間にかキュアユニコに奪い取られていたのだ。

「……はぁ。形勢逆転かな。仕方ない。ここは退こう」

 ダッシューがゴドーに近寄り、言う。しかし、ゴドーの耳にその言葉は届いていなかった。

「アンタ……ッ!」

 その怒りの矛先は、眼下のキュアユニコに向けられていた。

「どうして、あたしを攻撃しなかったの」

「どうしてって……。わたしはラブリを助けたかっただけよ。あなたを傷つけたいわけではないもの」

「どこまでもッ! 人のことを舐めくさってんじゃないわよ!」

「その怒りはわからなくもない。けれど、今は退くよ、ゴドー」

 今にもキュアユニコに飛びかからんばかりのゴドーを留めながら、ダッシューが笑う。

「……しかし、ぼくからも言わせてもらおう。キュアユニコ、その慢心がいつか必ず命取りになる」

「べつに油断しているわけじゃないわ。あなたたちをいつか改心させるための行動よ」

「そうかい。それは殊勝なことだ」

 ダッシューはニヤリと笑う。

「……ゆめゆめ、その言葉を忘れないことだ。油断は、君たちの足下をすうくうことになる」

「……?」

 そう言い残すと、ダッシューはゴドーを伴って消えた。残されたのは、今まさにキュアグリフが応戦しているウバイトールだ。

「……ブレイ、フレン。ラブリをよろしく」

 手の中のラブリをふたりに任せ、キュアグリフの横に並ぶ。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:28:43.79 ID:LVapeV8q0

「お待たせ、グリフ。ラブリは無事助け出したわ」

「さっすがユニコ! うまくやると思ったよ」

 ふたりは笑みを交わすと、ぎゅっと手を握る。強く、強く、お互いの絆の分だけ、強く。

「……いくわよ、グリフ」

「うん! ユニコ!」


「翼持つ獅子よ!」


「角ある駿馬よ!」


「「プリキュア・ロイヤルストレート!!」」


 ふたりのプリキュアから放たれた激烈な光が、街路樹のウバイトールを直撃する。

『ウバッ……!! ウバァアアアアアアアアアア!!』

 そして、世界に広がっていた闇が晴れる。ウバイトールは街路樹に戻り、元の場所へと戻る。ふたりのプリキュアもまた、変身が解かれ、元の姿に戻る。

「ゆうき〜! めぐみ〜!」

「ブレイ……?」

 変身を解いて早々、遠くからブレイの呼び声がする。

「ラブリが苦しそうニコ! 早くお布団で寝かせてあげたいニコ!」

「そうね。王野さん、早く連れて行ってあげましょう」

「うん! 急ごう!」
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:29:15.12 ID:LVapeV8q0

…………………………

 また、夢を見た。

 それはそれは、怖い夢だった。

 ロイヤリティを脱出する瞬間の夢。

 本当はそんなもの見てはいないというのに、闇の欲望に飲み込まれ、消滅する様を見た。

 敬愛する父、母、臣民が一斉に飲み込まれる様を。

 怖い。

 恐ろしい。

 そして、自分だけがそんな中逃げ出したという罪悪感が生まれる。

 臣民を見捨て逃げ出したという罪悪感。

 それは消えない。

 それでも。

 その最悪の情景を吹き飛ばし、再びロイヤリティを取り戻すために、戦う。

 そう決めたのだ。

 だからラブリは、叫び声も上げず、目を背けることもせず、その惨状を目の当たりにしながらも、ただ、頷いた。

『いつか必ず戻るレプ。伝説の戦士、プリキュアを連れて、戻るレプ!』
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:29:42.05 ID:LVapeV8q0

…………………………

 目覚めると、目の前には心配そうな顔をしたブレイとフレンがいた。パチリと目を開けたラブリに対し、ふたりはバツが悪そうな顔をして、目を逸らした。

「……ラブリ」

「……何レプ」

 最初に口を開いたのは優しさの王女、フレンだった。

「さっきは悪かったニコ。言い過ぎたニコ。全然優しくない言い方をしてしまったニコ。だから、ごめんなさいニコ」

「…………」

 ラブリの無言をどう受け取ったのだろうか。フレンはそれだけ言うと、目線を落とした。

「ラブリ、ブレイも悪かったグリ」

 続いて口を開いたのはブレイだ。

「ラブリのことを分かっていたのに、口に出すことができなかったグリ。怖くて口をつぐんでしまったグリ。ブレイに勇気があれば、もっとうまくできていたかもしれないグリ。だから、ごめんなさいグリ」

 ラブリは、本当の本当に、心の底から驚いていた。

「……すごいレプ。ブレイとフレンが、プリキュアを生み出すことができた理由がわかった気がするレプ」

「ニコ……?」

 だからラブリは、その気持ちに逆らわず、従った。立ち上がり、頭を深く深く、下げた。

「申し訳ないことをしたレプ。ラブリは、ふたりに助けられたというのに、それを認めたくないから、あんなひどいことを言ってしまったレプ。ふたりが謝る必要なんてないレプ。ラブリが悪かったレプ。ごめんなさいレプ」

 そのラブリの行動に、ふたりが呆気に取られていることが、なんとなく伝わってきた。恐る恐る頭を上げると、やはりふたりは、開いた口が塞がらないとばかりに、あんぐりと口を開けて、まるで見たことのない光景を見つめるかのように、不気味そうにラブリを見つめていた。

「あ、あの高慢ちきなラブリが……」

「自分の非を認めて謝ったグリ……」

「わ、悪かったレプね。どうせラブリは高慢ちきな王女レプ」

 むくれてみせるが、すぐに頬は緩んでしまう。ともすれば悪口になってしまうような言葉が、どこかくすぐったかった。ふたりと、仲良くなれるような気がしたからだ。

「……ラブリ。ラブリさえよければ、フレンたちと一緒にいるニコ」

「そうするといいグリ。愛のプリキュアは、ブレイたちと一緒に探すグリ」

「……ああ。そうさせてもらうレプ。よろしくお願いしますレプ」

 ラブリはふたりの申し出にもう一度頭を下げた。自分のちゃちなプライドより何より、失われたロイヤリティを救い出すことが何より大事だと痛感したからだ。

 ぐぅ〜、と。

「あっ……」

 盛大な音が響く。その音のは、ラブリのお腹から発せられていた。

「……あの完ぺき超人のラブリが」

「腹の虫をならしたグリ」

「う、うるさいレプ! ラブリだっておなかくらい空くレプ!」

 まだ、どこかぎくしゃくはするけれど、それでも。

「ゆうき〜! めぐみ〜! ラブリが起きたグリ! 紹介するグリ!」

 きっとうまくいく。そんな、ラブリらしくない確証もない希望が、心地よかった。
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:30:08.07 ID:LVapeV8q0

…………………………

 ある、朝のこと。ダイアナ学園、2年B組の教室は、普段とは違うざわめきに包まれていた。

 そのざわめきの中、生徒会長候補のひとり、騎馬はじめは、自分のことを見失いつつあった。

 はじめは、今まで、自分で自分のことを正しく認識できていると思っていた。

 今まで、一度とて自分の考えや行動の理由がわからないことなどなかった。

 しかし、その日、その朝、それが初めて崩れた。

「――今日からこのクラスの仲間になる、後藤鈴蘭さんだ。みんな、仲良くするように」

 朝のホームルーム。唐突な転入生の紹介があった。ニコニコと体裁の良い笑顔を浮かべる、担任の皆井浩二先生。失礼な話ではあるが、黙っていればそれなりにイケメンなのに、口を開くと三枚目になると評判の先生だ。年頃の女子生徒たちから黄色い歓声こそ浴びることはないが、親しみと尊敬を込めて、浩二先生と呼ばれている。

「…………」

 そして、そんな皆井先生のすぐ隣で、不機嫌そうな顔を隠そうともしない、当の転入生。

 真っ黒な髪に、真っ黒な瞳。肌は病的なまでに白く、足も腕も細い。しかしその佇まいは、どことなく上品だ。

 意志の強そうなつり上がり気味の目は、クラス全体を睥睨しているようだった。口は硬く真一文字に結ばれ、にこりとする気もなさそうだ。

「では、後藤さん。簡単に自己紹介をしてくれるかな」

 そして顔立ちは整っているがどこかズレた担任、皆井先生はそんな転入生の様子に気づかない。鈴蘭はちらと面倒くさそうに皆井先生を見てから、諦めたように口を開いた。

「……後藤鈴蘭。よろしく」

「はい、じゃあみんな、拍手で迎えてあげよう!」

 きっと緊張しているだけだろう、と。人の良いクラスメイトたちは、皆井先生の音頭のとおり、手を叩く。もちろんはじめも手を叩いた。心から、彼女を歓迎する気持ちで。
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:30:34.54 ID:LVapeV8q0

 けれど、胸からわき上がる気持ちは、まったく別の属性を持っているようだった。

(私は、後藤さんを知っている?)

 そんなはずはない。彼女とは間違いなく初対面だ。それなのに、違和感がぬぐえない。まるで自分のことが分からない。どうして、会ったこともない彼女に、自分はこんなにも親近感を憶えている? どうして、彼女と早く仲良くなりたいと強く望んでいる?

「後藤さんの席はあそこだ。隣は生徒会副会長だから、なんでも聞くといい」

 皆井先生が示したのは、はじめの隣の空席だ。きっと、転入生のために事前に先生が運び入れておいたのだろう。はじめの隣に置いたのも、生徒会のはじめの近くなら後藤さんに都合がいいと判断したのだろう。こういった細かい気遣いができるあたり、皆井先生は不器用なだけで、決して悪い先生ではないと、はじめは思う。

 後藤さんが険しい顔をしたまま、その席の前までやってくる。すでに皆井先生はべつの話題に入ろうとしている。

「後藤さん。はじめまして。わたしは騎馬はじめ。困ったことがあったら、何でも言ってほしい」

 内心の動揺を隠して、はじめは笑顔で言った。転入生ははじめの顔を見て、少しだけ表情を変えた。それははじめには、驚いているように見えた。

「どうかしたかい?」

「……何でもないわ。よろしく」

「うん。よろしく!」

 ――どうしてかは、まるでわからない。

 自分でも理由がわからないなんて、今まで一度もなかったのに。

(私は後藤さんと仲良くなりたい)




 ホーピッシュはその名の通り、希望の世界だ。ロイヤリティにおいてそれは、希望溢れる人々の住まう場所という意味に他ならない。

 ロイヤリティは闇に飲み込まれ、消えた。そして、ホーピッシュまでもが、その闇に蝕まれつつある。

 しかし、その混迷の中にあるからこそ、その感情が光り輝く。

(後藤さんと友達になりたい) 
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/25(日) 22:31:01.46 ID:LVapeV8q0

 次 回 予 告

ラブリ 「ブレイとフレンには申し訳ないことをしてしまった。しっかりと謝らなきゃいけない」

ブレイ 「そんなのいいよ。ぼくは、ラブリと仲良くできるだけで嬉しいし」

フレン 「昔の高慢なラブリだったら、絶対そんなこと言わないものね」

ブレイ 「フレン、そういうこと言っちゃダメだよ」

ラブリ 「……そうだな。昔の冷血なフレンなら、私を許してはくれないだろうな」

ブレイ 「ら、ラブリまで……」

フレン 「…………」

ラブリ 「…………」

バヂバヂバヂバヂ

ブレイ 「……と、いうわけで、怖いふたりは放っておいて、次回予告だよ!」

ブレイ 「学校に忍び寄る影!? ウバイトールが校内に現われまくってゆうきとめぐみがさぁ大変!」

ブレイ 「次回、ファーストプリキュア! 【疲労困憊!? プリキュアは大忙し!】」

ブレイ 「次回もお楽しみに! ばいばーい!」

ラブリ 「…………」

フレン 「…………」

バヂバヂバヂバヂ

ブレイ 「ふ、ふたりとも、怖いからいい加減にしてよ……」 ガタガタ
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 22:33:17.53 ID:LVapeV8q0
>>1です。
今日は投下が遅くなり申し訳ないです。
第十話はここまでです。
また来週、日曜日に投下できると思います。
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:34:59.51 ID:NMs8LA5T0

>>1です。
遅くなりましたが、今週の投下を始めます。
今週のなぜなに☆ふぁーすと! はお休みします。
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:35:29.18 ID:NMs8LA5T0

ファーストプリキュア!

第十一話【疲労困憊!? プリキュアは大忙し!】




「全校集会?」

「ええ。なんでも、体育の先生と主事さん、それから購買の新しいパン屋さんの紹介があるそうよ」

 ある日の朝、ダイアナ学園はそんな話で持ちきりだった。

「元々体育の先生が足りていなかったらしいよ。むふふ」

 楽しそうに語るのは、そういった情報収集が大好きなユキナだ。

「三月で退職された先生の後任の先生、理事長のお眼鏡に適うひとがなかなか見つからなかったんだって。それがようやく見つかって、四月から遅れること一ヶ月ちょい、ようやく赴任することになったんだよ」

「ユキナ。毎回思うが、そういう情報は一体どこから仕入れてくるんだ……」

 情報通のユキナに呆れながらツッコミを入れるのは相棒の有紗だ。

「ふふふーん、蛇の道は蛇、ってやつだよ、有紗クン」

「主事の方は? たしか、お歳を召した方がいらしたはずだけれど……」

「ああ、あのおじいちゃんなら、『腰が限界』 って言い残して、少し前に辞めたんだって」

「あらら……」

 主事の方ならゆうきも何度か話したことがある。気さくで優しいおじいさんだったはずだ。

「それがね、これはトップシークレットなんだけど……」

「? なんだよ。やけにもったいぶるじゃないか」

 急に声をひそめるユキナ。にやりと笑うと、続けた。

「なんでも、新しい主事さん、とんでもないイケメンらしいよ」

「……はぁ」

「そうなんだ」

「ありゃりゃ」

 ゆうきとめぐみの反応に、ユキナが肩すかしとばかりによろけて見せた。
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:35:54.81 ID:NMs8LA5T0

「あんたたちねえ、お年頃の女子中学生にしては枯れすぎじゃない?」

「枯れすぎって言われてもなぁ」

 イケメンが来る、と言われてもいまいちピンとこない。元々アイドルなどにもさして興味はないし、ユキナのようなミーハーでもない。それはとなりのめぐみも同じようだ。ゆうきと同じように興味のなさそうな顔をしている。

「わたしもどうでもいいかな」

「有紗まで! せっかくのトップシークレットを流してあげたのに!」

「べつに話してくれなんて頼んでないだろ? というか、どうせすぐにわかることだ」

「むきー!」

 ユキナと有紗が普段通りのじゃれ合いを始めようかというその瞬間、教室の引き戸が開き、誉田先生が顔を覗かせた。

「みんなー、今日は朝のHRはなしです。そのかわり、全校集会があるので体育館へ速やかに移動してください」

 はーい、という返事を返し、ぞろぞろと生徒たちが廊下へ出る。その中にあって、ゆうきはふとユキナの言葉を思い出す。

「購買のパン屋さん、変わるのかあ」

 じゅるり、とヨダレが垂れそうになる。

「美味しいといいなぁ……」

「色気より食い気、かぁ。さすがゆうきだね〜」

 ユキナの呆れるような声は、パンの味に思いを馳せるゆうきの耳には届かなかった。
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:36:34.05 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「……あら、どうしたのよ。ガラにもなく緊張した顔ね」

 それは、嘲弄するような少女の声だ。長い真っ黒の髪に、切れ長の瞳が特徴的な少女だった。身につける制服は明るい色合いだが、その彩りすら飲み込むような、黒い印象を与える少女だった。

 そこはダイアナ学園の体育館にある控え室だ。本来講演会などを開く際に講師の待機所となる場所だ。

「黙っていろ。人前に出るのは得意ではないのだ」

 それに応じるのは、いかめしい顔をした若い男性だ。筋骨隆々とした身体に、暗い色のスーツがよく似合っている。その眼光は鋭く、少女を射貫くように睨み付ける。

「これから毎日人前に出ることになるのよ? そんなんで大丈夫?」

「だから黙っていろ。それが命令ならば、私はそれに従うまでだ」

「ふん。あたしはこんな命令、納得してないけどね」

「………………」

 少女が目を向けた先、壁により掛かるように立つ細身の男性がいる。黙りこくって、うつむき、目を閉じている。いまにも消えてしまいそうなくらい、儚い印象の青年だ。

「なによ、さっきから黙りこくっちゃって。あんたも緊張してるの?」

「べつに。どうでもいい。これも仕事なら、やりきるまでさ」

 青年は身じろぎもせずそれだけ言うと、また口を閉じて黙ってしまった。

「ふん。どいつもこいつも」

「はいはい、みんな緊張しいなのね」

 どんよりした空気を吹き飛ばすような、その場にふさわしくないくらいやわらかくやさしい女性の声が響いた。こざっぱりとした装いの、見目麗しい女性だ。若々しいが、落ち着いた雰囲気だ。

「鈴蘭ちゃんも、いつもより口数が多いわよ?」

「っ……」

 女性の声に、少女が歯がみする。図星をつかれたからだろう。

「そろそろ子どもたちが体育館に集まるみたいね。鈴蘭ちゃんもクラスに戻りなさい」

「……わかりました」

 少女は不満そうに答えると、部屋を後にした。

「では、我々も行きましょうか。子どもたちを待たせてしまっては悪いわ」

「はっ」

 女性の声に、スーツの男性が応じる。それはまるで、主君に応じる家臣のように、かっちりと型にはまっていた。
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:37:02.98 ID:NMs8LA5T0

「もうっ、郷田先生? そういうのはやめてくださいって言ったでしょう?」

「は、はぁ……」 男性は女性のたしなめるような言葉に戸惑うように。「し、しかしデ――ひなぎく、様……」

「様付けもやめてください。わたしは小紋ひなぎく。ただのカフェのオーナーです」

「……わかりました」

「ふん……」

 線の細い青年が小声で吐き捨てるように言う。

「……なんの茶番だ、これは」

「シュウくん? 聞こえてるわよ?」

「これは失礼」

 慇懃無礼な態度だが、それが女性にはかえって嬉しいことらしい。満足げに青年の生意気な態度を見つめている。

「何か?」

「ううん、ごめんなさい。シュウくんを見ていると、昔飼っていた猫を思い出して懐かしくなるの」

「ッ……」

 女性の言葉に、青年がたじろぐ。その様子に、スーツ姿の男性が小さく笑う。

「猫か。言い得て妙だな、蘭童」

「ふん。それならあなたははさしずめ犬ですね、郷田先生。躾をされ牙を抜かれた賢い忠犬だ」

「……ふん」

「ふふ。ふたりとも仲良しね」

 そんな男二人の険悪なやりとりを見て、やはり女性は嬉しそうに笑うのだった。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:37:28.78 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 全校集会は体育館で行われる。全校集会といっても、ダイアナ学園中等部と高等部が一堂に会することは少ない。今回は、その少ない方のようだった。

「この体育館さ」

「何?」

 めぐみがゆうきのつぶやきに答えた。

「中等部と高等部が全員入るには狭いよね」

「そんな無駄口を叩くんじゃないの。わたしたちは学級委員なのよ?」

「はーい」

 やはりめぐみは根が真面目だ。めぐみにいさめられたゆうきは、そっと壇上に目をやった。普段ならピアノが置いてあるだけの壇上に、パイプ椅子が三つと、演台がひとつ並んでいる。これから何が始まるかなんて、先ほどのユキナの発言を踏まえてみれば、分からないはずもない。

『皆さん、静粛に。本日、全校集会を開いたのは、ダイアナ学園に新しく赴任される方を紹介するためです』

 ほどなくして前でマイクを持った副校長先生が喋りはじめた。

『それでは、皆さん、温かい拍手でお迎えしましょう』

 生徒、教職員が手を叩き始める。壇上横から現われた人を見て、ゆうきは小さな声を上げてしまった。

「ひ、ひなぎくさん!?」

「しっ。声が大きいわよ、ゆうき」

 隣のめぐみにたしなめられて、慌てて口をつぐむ。めぐみも、驚いている様子だ。

「ひなぎくさんが体育の先生!?」

「そんなわけないでしょ」

 私語を慎め、と言うわりにゆうきのうめき声にツッコミを入れてくれるあたり、めぐみは本当に人が好い。

 ふと、ひなぎくの目がこちらを向く。ゆうきと目が合ったひなぎくさんは、ニコッと笑って、小さく手を振ってくれた。

「あっ、ひなぎくさん、わたしに気づいてくれたよ! めぐみ!」

「だから、声が大きいわよ!」

 学級委員だというのに、少し騒がしくしてしまったことで、後で少しだけ誉田先生に絞られたのは、また別のお話。
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:37:54.90 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「郷田先生」

「……なんだ?」

 全校集会で挨拶を済ませ、壇上を後にしてすぐのことだ。先を行くひなぎくから遠ざけるように、彼はシュウに呼び止められた

「これは、一体どういうことなのだろうね」

「これ、とは何のことだ」

「とぼけるなよ、郷田先生。あなただっておかしいと思っているんだろう? どうしてぼくたちが、こんなことをしなくちゃならないんだ?」

「……あの方にはあの方のお考えがあるのだろう」

「そう納得できるほど、ぼくはお人好しになれそうにない。たぶん、生徒として紛れ込んでいる彼女もね」

 シュウの顔が眼前に迫る。その目に浮かぶのは、明確な疑念と敵意だ。

「ならば去るか? 私はあまり勧めんぞ」

「そうだね。あの方の元を去ることも考えた。けど、とても得策とは思えない」

 シュウはそこでニコッと、まるで能面に笑顔を塗りつけたように笑う。

「だから、あの方に従いながら、好き勝手することにしたよ。きっと面白いことになる」

「……何をするつもりだ」

「さて、ね。なんにせよ、あの方のお役に立つことだけは確かだよ」

 シュウは彼を残し、ひなぎくさんの後を追った。その背中を睨み付けながら、彼は己の決心をもう一度なぞるのだった。

「私は私だ。成すべき事を成すだけだ」

 本人は気づかない。それはまるで、自分自身に言い聞かせるような言葉になっていた。
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:38:29.22 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 体育の郷田(ごうだ)篤志(あつし)先生、主事の蘭童(らんどう)シュウさん、購買のパン販売の小紋(こもん)ひなぎくさん。

 それぞれ壇上で校長先生から紹介されて、挨拶もしたようなのだが、ゆうきはよく覚えていない。ひなぎくさんがパン販売をするということで頭がいっぱいだったからだ。

 周囲は周囲で、精悍な顔をした郷田先生やスタイリッシュな蘭童さん、簡素な出で立ちでも美人さを隠しきれないひなぎくさんにキャーキャー言っていたのだけれど。

「でもびっくりだね。ひなカフェでパンを作り始めたんだね」

「あのねぇ……」

 その日の昼休み、いつも通り屋上でお昼を食べながらゆうきが言うと、めぐみは頭を抱えてため息をついた。

「ひなぎくさんが壇上で言っていたじゃない。近所のパン屋さんの代わりに自分が運んでくるんだ、って」

「はぇ? そうなの?」

「そうなの。パン屋さんのおじいちゃんが腰を痛めて配達ができないから、代わりにやるんだって。その代わり、学校でひなカフェの紅茶とコーヒーも売り出すんだそうよ」

 商魂たくましいわよね、ひなぎくさん、とめぐみは続けた。

「そうなのかぁ。残念。てっきりひなカフェのパンが食べられるんだと思ったのに」

「あなたねぇ。何一つ話を聞いていなかったのね」

「だってぇ」 ゆうきはブゥ垂れる。「ひなぎくさんが出てきて嬉しかったんだもん」

「急に知り合いに会ったくらいでその喜びよう、まるで小学生ね……」

「ふんだ。わたしはどうせちんちくりんの小学生ですよーだ」

「体型に関しては何も言ってないけど……」

 ゆうきはぷいとそっぽを向く。その瞬間、階下から大きな音が響いた。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「……えっ?」

「ええっ?」

 ゆうきとめぐみは目を見合わせ、叫んだ。

「「ええええええええええええっ!?」」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:38:55.14 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 昼休み、小紋ひなぎくを名乗る女性から持たされたお弁当を咀嚼しながら。

 話しかけるな、と暗に言っているような不機嫌顔を貼り付けて。

「美味しそうなお弁当だ。お母様が作ってくれるのかい?」

 それなのに、どうしてこの女は、己に話しかけてくるというのか。彼女は横のクラスメイトを睥睨して。

「……騎馬さん、だっけ?」

「うんっ」

 清々しい笑顔を、己などに向ける軽率な女。生徒会副会長だという騎馬はじめ。けれど、逆にその笑顔に毒気を抜かれてしまう。嫌味のひとつふたつ言ってやろうとしか悪意が、するするとしぼんでいく。

「……あたし、母親って知らないから」

「え……?」

「いないの。母親。いまは父親もいないけど」

「あっ……そ、そうなのか。すまない。つらいことを聞いてしまった」

「べつに」

 しめたものだ。事実を言っただけで、はじめは申し訳なさそうな顔をして押し黙ってしまった。

「じゃあ、そのお弁当は、自分で作ったのかい?」

 しかし敵も然る者。はじめはそれくらいで、自分とのコミュニケーションを諦めるつもりはないようだ。

「まさか。下宿先の管理人が作ってくれたのよ」

「そうなのか」

 まるで自分の一言一言を反すうするように応えるはじめに、彼女はイライラしながら。

「……はぁ」

 深いため息をついた瞬間のことだ。


『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』


「なっ……」
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:39:21.33 ID:NMs8LA5T0

 響いた声は、聞き間違いようもない。彼女のよく知るものだ。

「どうして……」

 幸いにして、周囲のクラスメイトたちが騒ぐ様子はない。位相の違う場所から聞こえた怪物の怒号は、どうやらまだこの世界に届いてはいないようだった。ただ、ひとりを除いては。

「……? なんだろう。後藤さん、いま何か、変な声が聞こえなかったかい?」

「っ……」

 少し前に自分との接触があったせいだろう、隣にいるはじめだけは、位相のずれをものともせず、怪物の声が聞こえているようだった。

「……さぁ。あたしには何も聞こえなかったけど」

 言いつつ、そっと席を立つ。

「後藤さん? どこかへ行くのかい?」

「あたしがどこへ行こうとあたしの勝手でしょ」

 彼女はそう言い残すと、教室を出た。

(あいつらの誰かが……? なんにせよ……)

 ギリッと、知らず知らずのうちに、歯がみしながら。

「潜入初日に、一体何をするつもり……?」
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:39:47.05 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「さっきの声、中庭から聞こえたわね?」

「たぶん!」

 めぐみとゆうきは、早歩きで校舎を進みながら、周囲の様子を見る。

「でも、誰も慌てている様子はないわね」

「当然レプ」

 ポーチからヒョコッと顔を出したのはラブリだ。

「まだこのホーピッシュはそこまで闇に侵食されていないレプ。だから、アンリミテッドが闇を作り出す際には、この世界から少し位相をずらした場所に落ちる必要があるレプ。アンリミテッドやロイヤリティと関わった人間にしか、アンリミテッドを感知することはできないレプ」

「ああ……。そういえば、デザイアがそんなようなことを言っていたわね」

「わたしには何がなんだか分からないけどね」

「同じくグリ……」

 顔を出したブレイとゆうきがうんうんと唸る。飼い主とペットのように、主従とは似るものなのだろうか。

「けど、このままアンリミテッドの浸食が進めば、やがてこの世界すべてが闇に墜ちるニコ」

「そうなれば、ホーピッシュの住人にもアンリミテッドが感知できるようになるレプ。つまり、アンリミテッドが直接、この世界に危害を加えることが可能になるレプ」

「でも、この前、わたしの妹がウバイトールに襲われたよ?」

 ゆうきが首を傾げる。

「それはおそらく、ゆうきの妹がブレイや、プリキュアとなったゆうきとの関わりが強かったからレプ。闇と光の両方の影響を強く受けてしまうレプ」

「なるほど……」

「なんにせよ、ウバイトールが現われたなら、早く浄化しないといけないニコ!」

 他の生徒たちに不自然に見られない程度に急いで中庭へ向かう。中庭に出ると、そこはすでに別の場所になってしまったようだった。

「っ……」

「いつもの感じね。空が暗い」

 さっきまで晴れていたはずだ。それだけではない。世界が不自然な色に塗りつぶされてしまったようだ。その場に、めぐみたちを見下ろすように、ウバイトールが悠然と立っている。以前見たものと同じ、木のウバイトールだ。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「妙レプ」

「どうかしたの、ラブリ?」

 ラブリが冷めた目でウバイトールを睥睨しながら、言う。

「アンリミテッドの姿がないレプ。気配もないレプ」

「どういうこと……? ウバイトールを作り出して、どこかへ行ったってこと?」

「不思議グリ。アンリミテッドがウバイトールを作り出すのは、ブレイたちから紋章とブレスを奪い取るためグリ。それなのに気配すらないなんて不思議グリ」

「いまは考えるより先にすることがあるわ。ゆうき、行くわよ!」

「うん!」

 めぐみはそっとブレスを構える。隣のゆうきと目を合わせ、頷き合う。


「「プリキュア・エンブレムロード!」」
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:40:13.13 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「どういうこと……?」

 彼女は中庭の隅の生け垣に隠れ、その様子を眺めていた。

「ウバイトールだけ……? あのウバイトールは、ダッシューが作り出したもののようだけど……」

「ご明察。そのとおりだよ」

 いつの間に立っていたのだろう。背後には、この学校に新しく主事としてやってきた、シュウが立っていた。

「……あんた。どういうつもり?」

「言葉遣いがよくないなぁ。君は生徒。ぼくは学校関係者。一応、礼節は重んじるべきだと思うけど?」

「ふん。ロイヤリティみたいなこと言わないでくれる? 不快だわ」

 彼女はシュウを睨み付ける。

「どういうつもり?」

「……ふふ。考えてもみたまえよ。この潜入は、滅多にないチャンスなんだ」

「チャンス?」

「プリキュアたちを弱らせるチャンス、さ。君も一枚噛まないかい?」

 シュウは酷薄に笑う。

「ぼくたちは常にプリキュアたちの傍にいられるんだ。それを利用して、ウバイトールでプリキュアたちに断続的に攻撃をさせる。プリキュアたちはウバイトールを無視するわけにはいかないだろう?」

「ただのウバイトールなんて、今のあいつらの敵じゃないわ」

「大した敵でなくたって、疲労はたまる。彼女たちが疲れたときが、ぼくらがプリキュアを狩るチャンスなのさ」

 彼女はダッシューの言葉の意味を理解した。つまり、プリキュアたちを疲れさせ、弱らせ、疲弊したときに、本腰を入れて戦うということだ。

「……悪くないわね。いいわ。あんたのウバイトールが倒されたら、次はあたしのウバイトールね」

「決まりだ。三時間おきくらいかな。学校にいる間、断続的に攻撃を加え続けるんだ」

「ふふ。楽しみだわ。あのプリキュアどもが、あたしたちに跪く様が見られるのね」

 くくく、ふふふ、と、ふたつの笑いがこだまする。

 その横で、ロイヤリティの光が吹き荒れ、ウバイトールが浄化される。空の闇が晴れ、ホーピッシュが元の色を取り戻す。

 どこか釈然としない顔をするプリキュアたちの顔をそっと盗み見て、彼女はニヤリと笑みを浮べるのだった。
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:40:39.61 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「あ……後藤さん!」

 その日放課後、はじめはそそくさと荷物をまとめて教室を後にしようとするクラスメイトを呼び止めた。

「なに?」

 相手――転校してきたばかりの後藤鈴蘭――は、面倒くさそうという顔を隠そうともせず、応える。

「いや、その……もしよかったら、一緒に学校を回らないかい? 案内するよ」

「案内?」

「転校したばっかりで分からない場所も多いだろう? もしよかったら、だけど……」

「じゃあ遠慮しておくわ。この後用事があるの」

「そ、そうか……」

 なぜか少しだけ胸が痛む。あまり経験したことがない痛みだ。

「呼び止めて悪かった。また明日」

「ええ。また明日。騎馬さん」

 はじめは、そのまま教室を後にする鈴蘭の後ろ姿を見つめ、キリキリと痛む胸を、不思議に思うのだった。

(わたしはどうして、あの子のことがこんなに気になるのだろう。どうして……)

 自分のことで頭がいっぱいだったからだろう。

 立ち去る寸前、鈴蘭の目が、そっと自分を見つめていたことに、はじめは気づかなかった。

 その鈴蘭の瞳が、どこか申し訳なさそうに揺れたことに、気づかなかった。
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:41:06.04 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「結局、アレはなんだったんだろうね」

「さて、ね。どっちにしろ、アンリミテッドのいないウバイトールなんて、わたしたちの敵じゃないわ」

「そうだけど……」

 放課後は、目前まで迫った生徒会選挙の準備だ。教室で推薦の原稿の読み合わせをするユキナと有紗の目を盗んでめぐみに耳打ちするが、やはり答えはでそうにない。

「不思議なのはわたしも同じよ。今は生徒会選挙の準備に集中しましょう」

「ま、それもそうだね」

「? ゆうき? めぐみ? どうかしたの?」

「なんでもないなんでもない」

 ユキナの不思議そうな目にそう返すと、ゆうきも準備に集中しようと思いなおす。

 と――、

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「なっ……!」

「うそでしょう……!?」

「? どうかしたのかい、ゆうき、めぐみ」

 突然大声を上げたゆうきとめぐみに、有紗が目を丸くしている。

「いや、あ、えーと……」

 ゆうきは勢いよく立ち上がって。

「そ、そうだ! 誉田先生に頼まれてた学級委員の仕事を忘れてた!」

「そ、そうだったわね、ゆうき! ごめんなさい、ユキナ、有紗。少しふたりで読み合わせをしていてちょうだい」

「それは構わないけど……」

「今日なんか頼まれたっけー?」

「ごめん!」

 不思議そうな顔をするユキナと有紗を残し、ゆうきとめぐみは急いで教室を後にした。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:41:32.02 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「翼持つ獅子よ!」

「角ある駿馬よ!」

「「プリキュア・ロイヤルストレート!」」

 ウバイトールは体育館裏に現われていた。高く跳びたいという欲望を体現した跳び箱のウバイトールに少々手こずりながらも、なんとか浄化する。やはりその場にアンリミテッドの姿はない。

「はぁ……はぁ……」

「一日に二回……こんなことって今まであったっけ?」

 肩で息をしながらユニコに問う。

「ないこともなかったけど、やっぱりおかしいわ。アンリミテッドがいないもの」

「うん……」

 頭の良いユニコでもわからないとなると、グリフもお手上げだ。

「レプ……。これは一体……」

 肩でラブリが呟く。ラブリにもわからないようだ。

「グリ! そんなことより、早く教室に戻るグリ! 友達を待たせちゃダメグリ!」

「そうだったー! ユキナと有紗を放ったままだー!」

「急ぎましょう! わたしのために色々としてもらっているのに、待たせては申し訳ないわ!」



…………………………

 彼女は変身を解いて走り出したゆうきとめぐみを物陰から見つめ、くすくすと笑う。

「ふふ。滑稽だわ、プリキュア。明日も同じようにやってあげるから、覚悟しなさい」
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:41:58.31 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「はぁ……なんか、今日は疲れたな……」

 帰宅し、ベッドにごろんと転がる。着替えてからでないとしわが寄るのは分かっているけれど、そんなことを考えられないほどに疲れ切っていた。

「ゆうき、大丈夫グリ?」

「うーん、大丈夫だよー」

 心配そうにやって来たブレイを優しく撫でる。

「……レプ。あとひとり、プリキュアがいれば、もう少し負担が軽減されるレプ」

 ラブリも心配そうだ。

「ラブリががんばって、愛のプリキュアを探さないと……」

「大丈夫だよー。焦らないで、ラブリ。ゆっくり探そう」

「レプ……」

 ずっと横になっていたいところだけれど、今日はお母さんが夜勤の日だ。晩ご飯は作ってくれているようだけれど、お洗濯だけはしておかなければなるまい。

「うぅ……」

 プリキュアだけならまだしも、授業や生徒会選挙の準備に家事もある。明日の朝も朝食とお弁当を作らなければならないから早い。ゆうきは重い身体を起こした。

「つらいけど、がんばらなくちゃ……。学校だって、プリキュアだって、生徒会選挙だって、自分で決めたことなんだから」



『わたし、大丈夫だよ。お家のこと手伝うよ! だからお父さん、海外に行っても、大丈夫だよ!』



 思い起こされる遠い昔のこと。まだ小学生中学年くらいだったときの、自分の言葉だ。海外の大学に赴任する打診をされたお父さんの背中を押したのは、まぎれもない、自分の言葉だったのだ。



『わたしね、ダイアナ学園に行きたい! あの素敵な学校なら、きっと素敵なことがたくさん勉強できると思うの!』



 ダイアナ学園は私立だから、当然学費がかかる。その他諸々のお金もかかる。それでも、そう言ったゆうきの背中を、今度は両親が押してくれた。幼なじみのあきらにたくさん勉強を教えてもらって、なんとか合格を勝ち取った、そんな学校なのだ。

「負けられないよ。これくらいで」

 ぐっと拳を握る。

「アンリミテッドめ……。来るなら何度だって来いってのよ!」
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:42:35.32 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 その日の夜。

 彼女は今日のことを思い出しながら、ニヤニヤと笑っていた。

「本当に面白いわ。今までのことがバカみたいね」

 思い起こされる苦い記憶。プリキュアの光に臆し、怯え、震えていたこと。

「もうあんな思いはしない。プリキュアを翻弄して、疲れ果てさせて、そして……」

 コンコンと、部屋のドアがノックされた。

「鈴蘭ちゃん。ちょっといいかしら?」

 その声は、この家の主であるひなぎくさんのものだ。

「……何か用ですか?」

 相手が相手だ。無視するわけにもいかず、ドアを開ける。ひなぎくさんは心配そうな顔で、彼女を見下ろしていた。

「どうかしら。ダイアナ学園に転入して数日経ったけど、学校には慣れた?」

「……あんな不自由なところ、到底慣れません。慣れたいとも思いませんけど」

「まぁ、そうよね」

 ひなぎくさんは困ったように笑って。

「お友達はできた?」

「そんなもの必要ありません。もう寝るので、そろそろよろしいですか?」

「え、ええ。ごめんなさい。あ、ひとつだけいいかしら?」

 はぁ、と。ため息を隠す気にもならず、彼女は応じた。

「なんです?」

「シュウくんがまだ帰らないの。何か知らない?」

「……あたしが知るわけないでしょう」

「そう……。そうよね」

 ひなぎくさんは心配そうに目を泳がせて。

「……遅くにごめんなさい。おやすみなさい。また明日」

「はい」

 ドアを閉め。嘆息する。

「……この変わり様は一体何? あの方は一体何をお考えなのかしら」

 考えても答えは出ない。あの方の考えが、今まで一度だって、分かったことなどないのだから。
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:43:01.14 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 ひなカフェの裏には、外から二階に上がることが出来る階段がある。その階段を上り、引き戸を開けると、簡易的な寮のような趣の宿舎の玄関が広がっている。ひなカフェのオーナー、ひなぎくが運営する寮のようなアパートだ。

「あら、おかえりなさい、シュウくん」

「……ただいま戻りました」

 まさか、帰ってすぐ、その宿舎の主と出くわすとは、思っていなかった。

「シュウくん、遅かったのね。こんな時間までお仕事?」

「ええ。造園の仕事がなかなかはかどらなくて」

「シュウくんが庭師として働くんだもの。きっとあのお庭はもっと素敵になるわね」

「だといいんですけどね」

 慇懃無礼に返しながら、彼は靴を脱いで宿舎に上がる。

「あ、シュウくん」

「なんです?」

 真っ直ぐ部屋に向かおうとする彼は、ひなぎくに呼び止められる。

「お仕事が忙しいのはわかるのだけど、これからは、遅くなるときは連絡をちょうだいね? 心配するし、ご飯も冷めちゃうから」

「……はぁ?」

「ご飯、リビングに置いてあるから、温めて食べてね。食器は流しに置いてくれればいいから」

 言うだけ言うと、ひなぎくさんは、おやすみなさい、と言い残して部屋へ行ってしまった。

「……なんなんだろうか」

 変だ。妙だ。けれど、それを本人にぶつけるのは、いくらなんでもリスキーすぎる。

「まぁいい。ぼくはぼくのやることをやるだけだ」
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:43:41.79 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 ――――『アンリミテッドめ……。来るなら何度だって来いってのよ!』

 前日にあんなことを言ってしまったからだろうか。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「うそでしょ!?」

 翌日早朝、校門前で生徒会選挙で大声を張り上げていたら、ウバイトールの声が聞こえた。体育館の方角だ。ゆうきとめぐみは顔を見合わせ、持っていた旗とプラカードをユキナと有紗に渡す。

「ごめん!」

「本当にごめんなさい!」

 首を傾げるふたりに後を任せ、体育館に向け、走る。

「ふふ……」

 そんなふたりを、ニヤニヤといやらしく見つめる目に、ふたりはやはり、気づくことはなかった。
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:44:12.68 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 昼休み。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「またぁ!?」

「もうやだ……」



 放課後。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「ああああ、もう!」



 帰宅途中。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「……なんなの」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:44:39.75 ID:NMs8LA5T0

……………………

 まるで、ふたりをあざ笑うようなウバイトールの猛攻に、精も根も尽き果てそうだった。ゆうきとめぐみは、日暮の河川敷にぐたっと大の字に横たわった。

「なんだっていうのー!」

「なんなのよー!」

 夕日に向けて叫ぶが、特に返答はない。

「……もう疲れたよ」

「わたしも、さすがにヘトヘトだわ」

「グリ……」

「ニコ……」

「レプ……」

 妖精たちがカバンから出てきて頭をポンポンしてくれるが、当分身体を動かしたくないくらいには疲れ果てていた。

「……明らかに、私たちを疲れさせようとしているわね」

「うん。でも、どうしたらいいのかな。このままじゃどうにかなっちゃうよ」

「そうね……」

 めぐみがうんうんと唸り出す。それと同じく、ラブリも唸る。妙案は頭の良いふたりをしても、なかなか浮かばないようだった。

 と――、

「大埜さん? と、王野さん?」

 コロン、と。妖精たちの行動は素早かった。すぐさまぬいぐるみのフリに移行すると、河川敷に転がったのだ。ゆうきとめぐみも、慌てて起き上がり、草を払って体裁を整える。

「き、騎馬さん?」

「奇遇だね。いま帰りかい?」

「ええ、そうなの。ちょっと夕日を眺めていたところよ」

 土手の上からふたりを見下ろすのは、長い髪に麗しい顔立ちの大和撫子。けれどハスキーボイスで紡がれる男らしい口調。堂に入った貫禄を持つ騎馬はじめだ。
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:45:05.36 ID:NMs8LA5T0

「最近、生徒会選挙の活動に精力的だね。私も負けていられないと、気を引き締め直しているところだよ」

「そうかしら? 現副会長にそう言ってもらえると嬉しいわ」

「いい生徒会選挙になりそうだ。私も本当に嬉しいよ」

「そ、そうね」

 ゆうきにはいい生徒会選挙と悪い生徒会選挙の違いがよくわからないが、わざわざ口を挟むようなことでもないだろう。ニコニコとめぐみの言葉に相づちを打つに留めた。

 そのまま立ち去るだろうと思われたはじめだったが、少し逡巡するような顔をした後、こう切り出した。

「あの……君たちにこんな話をするのは、筋違いかもしれないんだが……」

「? どうかしたの?」

「少し、話を聞いてもらいたいんだ。いや、相談したいことがあるんだ。いいかな?」

「相談……? 騎馬さんが!? わたしたちに!?」

「そ、そんな驚くようなことだろうか……」

 ゆうきの大声に、めぐみがしーっとたしなめる。

「ゆうき、失礼でしょ」

「あ、ごめんなさい……」

「いや、いいんだ。唐突に変なことを言った私も悪い」

 はじめは悲しそうな顔をしているように見えた。ゆうきが何かを言う前に、めぐみが先に口を開いた。

「もしよかったら、一緒に夕日を眺めていかない?」

 ニコッと笑うめぐみは、体面やメンツというものを取り払った、ゆうきと一緒にいるときの、優しいめぐみだ。ゆうきの大好きな、めぐみだ。

「大埜さん……」

「ほら」

 めぐみはそっと原っぱに座り込み、隣をぽんぽんと叩いた。

「騎馬さんは、あんまりこういうところに座るの、好きじゃないかもしれないけど」

「いや、ありがたい。お言葉に甘えるよ」

 はじめはめぐみの隣に座ると、ホッと息をついた。
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:45:35.59 ID:NMs8LA5T0

「なんだか不思議だ。学校ではいつも気をはっているんだ。君たちの前だと、不思議と落ち着けるよ。こんな姿はクラスメイトや生徒会の皆には見せられないな」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。それで、相談って何?」

「ああ……」

 はじめがうつむく。ゆうきはふたりを回り込み、はじめの逆隣に座り込んだ。

「実は、恥ずかしい話なんだが、友達になりたい人がいるんだ」

「……? 友達になりたい人?」

「うん。転校生の後藤さんなんだけど……」

 そういえば、と思い出す。いつだか誉田先生が、皆井先生のクラスに転入生がやって来たという話をしていた。

「不思議なんだ。こんなこと初めてなんだ。一目見たときから、初めて会った気がしなくて、彼女のことが知りたくてたまらないんだ。友達に、なりたいんだ。でも、彼女は私のことが苦手みたいなんだ……」

 はじめは恥ずかしそうに続けた。

「情けない話なのだが、私は、友達というものがよく分からない。だから、君たちに教えてもらいたいんだ。私の目には、君たちふたりはとても仲の良い親友同士のように見えるから」

「そ、そうかしら」

「えへへ、なんか嬉しいね」

 はじめを挟んで笑い合う。けれど、はじめの問いは難解だ。友達とは何か、友達になるにはどのようにしたらいいか、そんなこと、考えたこともない。

「私も、あなたと同じように悩むこと、多いわ。私も、友達というものがよく分からないから。変な強がりばっかり言って、呆れさせてしまうことも多いし……」

 めぐみが言った。

「けど、私はゆうきと友達になれた。それは、ゆうきがまっすぐ、勇気を持って、私に言葉をかけてくれたからよ」

「うん。それと、めぐみが、優しく応えてくれたからだよ」

 だから、とゆうきは続けた。

「騎馬さん、もう一回後藤さんに話しかけてみよう? 言葉はきっと通じるよ」

「でも、嫌がられはしないだろうか……」

「分からないわ。でも、きっとこれ以上話しかけなければそれまでよ。何も分からないまま、それできっと、おしまい。それでもいいの?」

「……いやだ」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:46:01.39 ID:NMs8LA5T0

「そうね。なら、少しだけ勇気を持って」

「きっと、想いは通じるよ!」

 両側からはじめの手を握る。驚いたような顔をするはじめだけど、嫌がる素振りはない。むしろ、顔を赤くして、照れているようだ。

「……ありがとう。生徒会選挙前に、こんなことを相談してしまって、情けないな、わたしも」

「いいと思うわ。騎馬さんだって人間だもの」

「ああ。そうだな……」

 はじめはスッと立ち上がると、夕日を真っ直ぐに見つめた。その瞳に、もう迷うような色はない。

「明日、もう一度後藤さんに声をかけてみるよ。それで嫌われるなら、それはそれ、だ」

「うまくいくことを祈ってるよ!」

「ええ。がんばってね、騎馬さん」

「ああ」

 ――結局、何一つ解決しないままだけれど。

 どこか清々しい気持ちで、ゆうきとめぐみは帰路についた。
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:46:27.12 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 その夜。

 ひなカフェ二階の下宿で、顔をつきあわせるのは、鈴蘭とシュウだ。

「明日の放課後、最後の仕上げといこうじゃないか」

「朝はあたし。昼はあんた。そして、放課後に……」

「そう。ぼくらふたりでウバイトールを呼び出し、弱ったところを叩く」

 ニヤリと笑みを交わす。

「明日こそがプリキュアの最後だ。そして、ブレスと紋章を一気に手に入れる」

「ふふふ……。明日が待ち遠しいわ」

 そんなふたりを、キッチンの奥から、心配そうに眺める目線があった。

「……あのふたり、大丈夫かしら。シュウくん、本当にちゃんと仕事をやっているのかしら。鈴蘭ちゃんは、お勉強についていけてるのかしら」

 はぁ、とため息をつく。下宿の管理人業も、一筋縄ではいかないのだ。
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:46:53.58 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 翌日、朝。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「出たわね!」

 出ると心構えができていれば、なんてことはない。もちろん朝から大立ち回りをして疲れることは疲れるが、心労はある程度抑えることが出来る。



 昼。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「今日のお弁当は今期最高傑作なの! 早く食べたいの!」

 ウバイトールを倒すテンポができつつある。カルテナを駆使すれば、それほど労力なく倒すことができるようだ。




 とはいえ、である。

「……めちゃくちゃ疲れた」

「私もよ。でも、授業中に寝たりしちゃダメよ」

「わかってるよぅ……」

 なんとか六時間目の授業まで持ちこたえて、帰りのホームルームが終わった瞬間、机に突っ伏す。

「なんかお疲れだけど大丈夫?」

「体調もよくなさそうだが……」

 ユキナと有紗が心配そうに言う。それに手をひらひらと返答しながら、頭をもたげる。

「今日はふたりは部活だよね。いってらっしゃい」

「ああ……」

「ゆうきとめぐみ、あんまり無理しないでね。生徒会選挙、部活の後なら手伝えるからね!」

「ありがとう。ふたりは優しいのね。本当に大丈夫だから、心配しないでいってらっしゃい」

「うん……」
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:47:19.33 ID:NMs8LA5T0

 何度も振り返りながら心配そうに教室を後にしたふたりを見送って、ゆうきとめぐみは同時にため息をついた。

「……そういえばさ」

「何かしら?」

「騎馬さん、うまくいったかな?」

「……どうかしらね。うまくいっているといいわね」

「うん」

 疲れ果ててはいるが、はじめの真摯な心を思うと、心配になると同時に、心が温かくなる。あんなに真面目で誠実な女の子に友達になりたいと言われて、嫌な気持ちになる子がいるとは到底思えない。

「あ……あの、ゆうき」

 横合いから声がかかる。振り向くと、幼なじみのあきらが、所在なげに立っていた。

「ああ、あきら。どうしたの?」

「も、もしよかったら、一緒に帰らない? この前言ってたオススメの喫茶店、連れてってほしいなー、なんて……」

「ああ……」

 そういえば、あきらにはひなカフェの話をしただけで、まだ一緒に行っていない。ゆうきとしてはその申し出は願ったり叶ったりだけれど、そうも言ってはいられない。

「ごめん。このあと、めぐみと生徒会選挙の準備をしなきゃいけないんだ。また今度、一緒に行こう?」

「あ……そ、そうなんだ……」 あきらは、視線を落とし、寂しそうに。「ううん。こちらこそ気を遣わせてごめんね。また今度ね」

「ゆうき、疲れているだろうし、美旗さんと行ってきたら? 準備は私ひとりでゆっくりやってもいいし……」

「そんなわけにはいかないよ!」

 めぐみの申し出に、自然と声が大きくなる。

「めぐみの推薦人を買って出たのはわたしだよ。そのわたしが、そんなことしちゃダメだよ」

「そ、そう?」 めぐみは嬉しそうにはにかんで。「嬉しいわ。ありがとう」

「うん!」

 だから、ゆうきは気づかなかった。あきらの寂しそうな瞳が揺れていたことに。

「……また、大埜さんなんだよね」
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:47:45.05 ID:NMs8LA5T0

「へ? あきら、何か言った?」

「ううん。なんでもないよ。それじゃ、また明日ね、ゆうき。大埜さん」

「あ、うん。また明日、あきら!」

「さようなら、美旗さん」

 あきらが教室を後にし、さぁ準備に取りかかろうとめぐみを見ると、あきらが消えた教室の戸を見つめていた。

「どうしたの、めぐみ?」

「……なんだか、すごく悲しそうだったわ。美旗さん、大丈夫かしら」

「そう? あきらは無口な子だからね。そう見えるだけじゃない?」

「うーん……そうは思えなかったけどな」

 めぐみの心配そうな顔に、ゆうきも少しだけ心配になってくる。そういえば、ここ最近は生徒会選挙やプリキュアのことばかりで、あきらと一緒に帰るどころか、ろくろく話もできていない。

「今度、わたしから一緒に帰ろうって誘ってみようかな」

「ええ。それがいいわ。幼なじみなんだものね」

「うん! 大切な幼なじみだよ! わたしがダイアナ学園に入れたのだって、あきらが勉強を教えてくれたからなんだから! めぐみと同じくらい勉強が得意なんだよ!」

「ええ。私も騎馬さんと美旗さんは勉強でライバルだと思っているわ。特に美旗さんは文系科目では一度も勝ったことがないもの。難敵よ」

「……あー、勉強の話はそれくらいにして、作業をしようか。わたしがいたたまれなくなってくるから」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:48:11.26 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 校舎裏。ほとんど人がよりつかないそこに、彼女は主事のシュウと一緒に立っていた。

「そろそろ仕上げといこうか」

「疲れ切っているところにあたしたちふたりのウバイトール……。ふふ、さしものプリキュアもこれで終わりね」

「まぁ、ぼくひとりでも問題ないとは思うけどね」

「……手柄を独り占めするつもり?」

「冗談だよ」

 シュウとふたりでプリキュアを倒す。そして、脅威となるものすべてがなくなったこのホーピッシュを制圧する。それで、終わり――、

「――ご、後藤さん!」

「っ……?」

 背後からの声に振り返ると、そこには肩で息をするクラスメイト――騎馬はじめが立っていた。

「騎馬さん……?」

「放課後、脇目も振らずにいなくなるものだから探したよ。こんなことならためらっていないで、昼休みにでも話しかければよかった。でも、見つかってよかった」

「何か用?」

 焦れる気持ちをおさえて、はじめに向き直る。かつて、別の姿で相対したときのように、気絶させてしまえばそれで終わりだ。しかし、今はかりそめであれ生徒の姿をしている。その姿でそんなことをすれば、後々の不審に繋がりかねない。

「……お友達は大切にした方がいい」

 笑いをこらえているのを隠そうともせず、シュウは小声で言う。

「ぼくは先に言っている。君が来なければ、先にプリキュアを倒しているが、悪く思わないでくれよ」

「なっ……」

 言うが早いか、シュウは校舎裏を後にした。

「ち、ちょっと待ちなさいよ!」

「ま、待ってくれ!」

 慌ててシュウを追いかけようとするも、その手をはじめに掴まれる。

「何よ!」

「すまない。だが、少しだけでいい、私の話を聞いてくれないか」

「っ……」

 ここで無理を通して話がこじれるのも面倒だ。聞くだけ聞いて、すぐにシュウの後を追えばいい。それだけだと自分に言い聞かせ、はやる心を抑えてはじめに向き直る。

「言うなら早くしてちょうだい」

「ああ。単刀直入に言う」

 いつの間にか、はじめから、躊躇うような雰囲気は消えていた。

「私は……君と、友達になりたい」
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:48:38.05 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「お、おおお、大埜さんは、ま、まま、まま、真面目で……――」

「――カット。噛みすぎよ、ゆうき」

「だって、大勢の前で話をするって想像すると、緊張しちゃって……」

 ゆうきとめぐみしかいない教室で立ち会い演説会の練習だ。他に妖精たち以外誰もいない教室でも、ゆうきは緊張してしまって噛み噛みだ。

「想像力が豊かなのも考え物ニコ」

 それだけではない。今さらながら、あきらの誘いを無下に断ってしまったことが、心にずしりとのしかかる。それが原稿の読み合わせを阻んでいることは明白だった。

「うぅ……あきら、怒ってるかなぁ。怒ってるよねぇ」

「もう、後悔するくらいなら、一緒に帰ったらよかったのに……」

「それもやだよー。そうしたらめぐみが怒っちゃうよ」

「怒らないわよ!」

 と、

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 教室のすぐ横、中庭からその雄叫びが聞こえた。

「……ねえ、ゆうき」

「うん。めぐみ」

「私、ちょっといい加減、頭に来てるのかもしれないわ」

「同感だよ。わたしも、ちょーっと、めずらしく怒ってるかも」

 ガッ、と。いつもなら手をつなぐところを、拳と拳をぶつけ合う。

「ブレイ」

「フレン」

「グリ……? て、手を繋がないグリ?」
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:49:04.58 ID:NMs8LA5T0

「必要ないよ。紋章、ちょうだい」

「ニコ……なんか、ふたりとも怖いニコ」

「怖くなんかないわ。ちょっとだけ、怒ってるだけよ」

 普段なら、手を繋いで変身するが、今日は、そういう気分ではないから。

 ふたりが仲違いをしているわけではない。むしろ、より強い何かで結ばれているからこそだろう。

 真正面から拳と拳を合わせたまま、唱える。そして、合わせたままの拳に紋章を持たせたまま、ブレスを紋章に横切らせる。



「「プリキュア・エンブレムロード!」」



「立ち向かう勇気の証! キュアグリフ!」



「守り抜く優しさの証! キュアユニコ!」



「「ファーストプリキュア!」」
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:49:44.90 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 中庭に降り立ったふたりのプリキュアを認めたとき、ダッシューは喜びに高笑いをしたい気分だった。彼が隠れているのは中庭の木の陰。プリキュアたちはここ数日のウバイトールのみとの戦いに慣れ、すぐ近くにアンリミテッドがいることを警戒していない。ウバイトールひとりにかかりきりになっているところに刃物を飛ばし、ひとりずつ確実に仕留めていく。本当ならゴドーのウバイトールも呼び出し、ゴドーとふたりがかりで当たればもっと確実だったかもしれないが、仕方ない。ゴドーがいてもいなくても、作戦の成功率にそう影響はない。

「ふふ。これで終わりだよ、プリキュア」

 ――決して、ダッシューの目が曇っていたわけではないだろう。

 それは、誰にも想像できることではなかったのだ。

「あんたちの都合は知らないけどね!」

「いい加減、頭に来てるんだから!」

「は……?」

「正義のヒーローにだって!」

「プライベートはある!」

 それは、悪夢を見ているような光景だった。

 正義のために戦う誇り高き戦士プリキュアが、怒りに身を任せ、ふたり同時の正拳突きをウバイトールに放ち、屋上を越え、ウバイトールを校舎裏まで吹き飛ばすなんて誰に想像できただろうか。

「……うそだろう」

 さしたる感慨も見せず、プリキュアたちは校舎裏へと飛ぶ。さっさと、ウバイトールを片付けようという義務感しか見られないその行動に、ダッシューは人知れず身震いした。

「……違う。ぼくたちは、プリキュアを疲れさせて追い詰めていたんじゃない」

 そこでダッシューは、ようやく己の失策を知った。

「ウバイトールを効率的に倒す方法を奴らに教えてしまっただけなんだ」

355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:50:10.88 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「は……? 友達?」

 最初、彼女は目の前の人気者のクラスメイトが何を言っているのかわからなかった。

 けれど、その意味がわかったとき、彼女の心に浮かんだのは、怒りだ。

「なにそれ? もしかして、哀れみ? お友達ができないあたしを心配してるフリ? お友達ができないあたしのお友達になってあげて、自分のことを褒めてあげたいの?」

「えっ? えっ? えっ?」

 波状的に質問攻めにする彼女に、はじめは困惑しているようだった。

「えっと、その……」

 図星だろう。彼女は答えを聞くまでもないと身を翻しかけ、

「……君が何を言っているかわからないけど、私はただ、君と友達になりたいだけだよ。恥ずかしい話だけど、初めて会った気がしないんだ。君とお話がしたくてたまらないんだ」

「は……?」

 今度こそ、どんなに考えても、彼女にははじめが何を言っているのかわからなかった。わからないけれど、意味だけは理解できる。意味が理解できるからこそ、はじめが何を言っているのかわからない。なぜそんなことを言うのか、わからない。

「なっ、あ、あんた……な、何を言っているのよ……!」

 顔が赤くなるのを抑えられない。見えない何かが、むりやりに彼女の顔を火照らせているようだった。

「ダメかな。私じゃ、君の友達になれないかな」

「だ、だから! あんたは一体、何を……――」

 ――ドォオン!! と。轟音が鳴り響く。次いで衝撃と風が彼女を襲う。もうもうとたちこめる砂煙が視界を覆い尽くす。

『ウバ……』

「げ……」

 その砂煙の中、凶悪な眼光が煌めく。よろよろと立ち上がったソレは、全長数メートルはあろうという、怪物だ。

「な、なんだ、これは……?」

 はじめが困惑した声を上げる。けれど、彼女にも何がなんだか分からない。どうしてこの“ウバイトール”が空から降ってくる?

『ウバ……ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「なっ……!」

 そして、怪物は活動を再開する。目の前にホーピッシュの住人がいるなら、それはもちろん、襲いかかるだろう。それがウバイトールの仕事だ。
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:50:38.02 ID:NMs8LA5T0

「ッ……あたしに襲いかかってどうするのよ! バカ!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 そう言った所でウバイトールが止まるはずもない。いまの彼女は、ただのダイアナ学園の生徒でしかないのだから。

「す、鈴蘭!」

 ウバイトールの突撃に動けずいた彼女の手を引いたのははじめだった。はじめはそのまま、彼女の手を掴んだまま走り出す。

「なっ、は、放しなさいよ! ひとりで逃げればいいでしょうが!」

「君だけ置いていけるか!」

「どうしてよ!」

「どうしてもこうしてもあるか! 友達を置いていけるわけないだろうが!」

「なっ……」 自然、また顔が赤くなる。「誰が友達よ!」

 このままはじめに連れて行かれれば、作戦がすべて台無しになる。本来の姿に戻り、ウバイトールを操らなければならない。

 はじめの手を振りほどき、校舎裏に戻らなければならない。

 それは、分かっているのだけれど。

(なんで……)

 彼女は、はじめに手を引かれながら、その手を振り払うことができずにいた。

 その手から感じられる熱を、心地良いと思ってしまっていた。

(あたし……どうかしてるわ)

 それを分かっていても、それ以上何もできず、彼女ははじめに手を引かれるまま、その場を後にした。
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:51:03.02 ID:NMs8LA5T0

…………………………

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 そのウバイトールの不幸は、何より、プリキュアの怒りを買ってしまったことだろう。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「ふふ。ごめんなさい。でも、今日ばかりは、怒りが抑えられないの」

「同感だよ」

 携えるカルテナは二振り。ふたりの伝説の戦士が、同時に構えを取る。薄紅色と空色の光が翼を成す。それはすなわち、ふたりのプリキュアの必殺技の前兆だ。

「同時に決めるよ」

「行きましょう、グリフ」



「翼持つ勇猛なる獅子、グリフィンよ! プリキュアに力を!」



「角ある純白の駿馬、ユニコーンよ! プリキュアに力を!」



 その場が薄紅色と空色の光で満たされる。それはロイヤリティの伝説の戦士、プリキュアが持つ勇気と優しさの光だ。

 その光が悪辣なる存在に対し向けられる。、




「「プリキュア!」」



「グリフィンスラッシュ!」



「ユニコーンアサルト!」




 神速の一刀両断と抜群の突貫力を持つ突きに、ウバイトールは瞬きをする間もなく、浄化された。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:51:55.46 ID:NMs8LA5T0

…………………………

 ひなカフェ二階の下宿には、共用のお風呂がある。同居人たちは年頃の少女である彼女に気を遣ってか、いつも一番風呂にしてくれる。

「……騎馬はじめ」



 ――――『君を置いていけるか!』



 ――――『友達を置いていけるわけないだろうが!』



 ――――『私は……君と、友達になりたい』



「ともだち……」

 どうしてだろう。きっと、お風呂の湯がいつもより熱いせいだ。そうに決まっている。

 そう言い聞かせながらも、やはり戸惑いは消えない。

「どうして……」

 そっと、胸に手を当てる。鼓動が高鳴る。ドキドキが、止まらない。

「どうしてこんなに、ドキドキするの……?」

 答えは出ない。

 それは、彼女が忘れてしまった感情だからだ。
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:52:43.36 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「……それで、お話とはなんでしょうか」

 下宿に帰宅してすぐ、彼は管理人であるひなぎくに呼び出され、彼女の部屋に赴いた。彼女らしからぬ、いや、らしいと言った方がいいのだろうか。簡素ながらも可愛らしい家具やぬいぐるみを置いた部屋だ。

「あのね、学校では、仕事に専念した方がいいと思うの」

「……?」

「学校はあなたにとって仕事場だわ。仕事場で、仕事以外のことばかりしているというのは、社会人としてよくないことだわ」

「はぁ。そうですか」

 何を言われるかと少なからず緊張していたが、そんな気の抜ける話だったとは。彼は袖の裏に隠していたナイフをそっと奥に戻す。

「それは命令ですか?」

「命令だなんてそんな。そうじゃなくて、あなたは社会人なの。しっかりとしなくちゃいけないわ。それだけよ」

 本当に、どうしたというのだろう。化けの皮を一枚被っただけで、この変わり様か。彼は呆れかえりながらも、ひなぎくの言葉に素直に首肯した。

「なるほど。わかりました。今後、学校での勝手な行動は慎みます」

 彼のその言葉に、ひなぎくさんは目に見えてホッとしたようだった。

「分かってくれたなら嬉しいわ。晩ご飯、いつも通り用意してあるから、たくさん食べてね。おやすみなさい」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

 部屋を後にして、ドアを閉める。酷薄な笑みは、自然と浮かぶ。

「……腑抜けになったのか? それとも演技か? どちらにしろ、ぼくをあまり甘く見ない方がいいと、思うけどね」

 ふと、リビングの灯りがついていることに気づく。覗き込むと、テーブルにはこれでもかと書類が広がり、その前でうんうんと唸っているガタイのいい男性がいる。

「……何をやっているんだい、郷田先生?」

 そういえばこのガタイのいい体育教師もダイアナ学園にいるはずなのに、しばらく姿を見かけていない。郷田先生は憔悴しきった顔を上げ、言った。

「ああ、蘭童か。家では先生をつけなくて構わんぞ。学校では同僚だが、家では同居人にすぎんからな」

「君はまったく、この世界に馴染みすぎだと思うけどね」

 彼は対面に座り、そっと書類を一枚取り上げる。

「……なんだいこれは」

「研究授業用の学習指導案だ。作ってみたのだが、指導教諭の先生にダメ出しをたくさんもらってしまった。今度の研究授業までに練り直さねばならん」

「仕事は職場でやったほうが良いと思うけどね」

「そうしたいのは山々だが、先日、高等部の部活動の指導も頼まれたのでな。学校では事務的な仕事をする時間がなかなか取れないのだ」

「……君は一体どこに向かっているんだ」

「与えられた使命である以上、潜入もしっかりとこなさねばならん。そのための授業力向上、それだけだ。生徒に半端な授業をするわけにはいかんからな」

「そうかい。真面目だねぇ」

 興味は失せた。彼はそっと立ち上がり、玄関に向かう。

「おい、こんな時間にどこへ行く」

「君の作業が終わるまで晩ご飯が食べられそうにないからね。ちょっと散歩だよ」

「あ……! す、すまん、すぐに片付けるから、ちょっと待っててくれ! 自室の机も書類でいっぱいなんだ!」

「構わないよ。好きなだけやってくれ」

 生真面目な同僚兼同居人とのやりとりに嫌気がさして、彼はそのまま外へ出る。

「……さて。今回の作戦は失敗したけど、今度ばかりは、失敗するわけにはいかないからね」

 酷薄に笑み、跳ぶ。彼には、そう。もうひとつ、ホーピッシュ侵攻の足がかりがある。
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:53:44.98 ID:NMs8LA5T0

…………………………

「はぁ……」

 小さいため息のつもりだった。その後で、想像よりよほど重いため息だったことに、自分で驚いた。

「ゆうき……」

 中学生の世界というのは、なんてままならないのだろう。これは、皆が感じているもどかしさなのだろうか。それとも、自分が特別臆病なだけなのだろうか。

 きっと、後者なのだろう。

 そっと書き綴る日記の中ならば、いくらでも想いを綴ることができるというのに。

 小学生の頃から書き続けている詩でも、想いの丈をぶつけることはできるのに。

 どうして己の口は、こんなにも不器用なのだ。

「どうしてだろ」

 話したいことはいくらでもある。口にしたい言葉がたくさんある。

 伝えたい想いが、胸の中に幾重にも積もっている。

 もしかしたら、積もり積もって、積もりすぎて、まるで降り積もった雪で開かなくなった戸のように、口を開くことがきないくらい重くなってしまっているのかもしれない。

 詮無い考えが頭の中を堂々巡り。窓の外から月明かりを眺めても、いつものようにきれいだと思う気持ちも湧いてこない。世界全部が色を変えてしまったようだった。

「……ううん。きっと、私が閉じこもってるだけ」

 分かっていても、変えられない。分かるだけで変えられるのなら、他に何もいらない。きっとお母さんやお父さん、先生、そんなおとなだったら笑ってしまうようなちっぽけな悩み。けれど、それが自分にとっては、すさまじく重く、大事な意味を持っているのだ。子どもの世界と子どもの時間は、たぶんおとなが思っているほど簡単ではない。と、いうよりは、おとなになると、その大事な世界や時間を忘れてしまうのかもしれない。

「どうか、した、ドラ……?」

 不意に暗い部屋の片隅から、声が聞こえた。彼女は悲しげな顔に柔らかな笑顔を貼り付けて、その声の主を振り返った。ベッドの奥、彼女がいつも寝ている枕の上。もぞもぞと小さな影が身をもたげる。

「ごめんね。起こしちゃった?」

「ちがう、ドラ……」

 それは真っ赤なぬいぐるみ――のようなずんぐりむっくりした小動物。背中に小さな翼が生えているが、少なくとも彼女は飛んでいるところを見たことはない。

「一緒に寝たい、から……待ってた、ドラ……」

「ふふ……」

 甘えたさんだ。彼女は悩みを頭の隅においやり、ペンを置いた。日記は書き終えた。悩んでいても仕方ないと、ベッドに寝転んだ。頭のすぐ横に、かわいらしい姿がある。
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:54:13.55 ID:NMs8LA5T0

「あ、あのね……」

「なぁに?」

「今日も……ギュッて、してほしい、ドラ……」

 真っ赤な顔をますます赤くする。その姿はもう、愛らしい以外の何ものでもない。

「うん」

「ドラぁ……」

 ギュッと抱きしめてあげると、それは愛くるしい安堵の声をつく。それが可愛くて、彼女は少し、抱きしめる力を強くした。

「……ごめんね。もう少し時間がかかりそうなの」

「いいドラ。どうせ……見つけること、なんてできない、ドラ……」

「あきらめちゃだめだよ。わたしも、できるだけがんばるから」

「……ドラ」

 彼女は急速に眠りに落ちていく自分を意識しながら、口を開いた。

「……おやすみ」

「ドラ。おやすみドラ、あきら」



 彼女の名は、美旗あきら。私立ダイアナ学園中等部の2年生。

 そしてあきらが自分の部屋にかくまう小動物こそが。



「……うん。また明日、パーシー」



 そう。

 光の世界ロイヤリティにある情熱の国の王女。

“未来を支える情熱の王女” パーシーなのであった。
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/04(日) 11:54:39.95 ID:NMs8LA5T0

 次 回 予 告

ゆうき 「うーん、パーシー見つからないねぇ」

めぐみ 「愛のプリキュアもだわ。どこにいるのかしら」

ゆうき 「まぁまぁそれは置いておくとして」

めぐみ 「置いておいていいものなのかしら……」

ゆうき 「次回はいよいよ待ちに待った生徒会選挙!」

ゆうき 「わたしたちのがんばりの集大成、ばばんと見せちゃうよ!」

めぐみ 「そんなにはりきって、本番で噛まないでよ、ゆうき」

ゆうき 「大丈夫! めぐみのためだもん! がんばるよ!」

めぐみ 「……ありがと、ゆうき。わたしも精一杯がんばるわ」

ゆうき 「えへへー」

めぐみ 「ふふ……」

ブレイ 「またふたりの世界に入っちゃったよ」

フレン 「仕方ないわね。次回、ファーストプリキュア!」

ラブリ 「第十二話【会長はどっち!? 生徒会選挙!】」

ブレイ 「次回もお楽しみに! ばいばーい!」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/04(日) 11:56:00.58 ID:NMs8LA5T0
>>1です。
今週はここまでです。
見てくださった方、ありがとうございました。

来週なのですが、所用で日曜日の投下ができません。
そのため、来週はお休みさせていただきます。
再来週日曜日には投下できると思います。

それではまた、よろしくお願いいたします。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 09:59:55.41 ID:uBlGke+q0

ファーストプリキュア!

第十二話【会長はどっち!? 生徒会選挙!】



「大埜めぐみに、清き一票を!」

「「よろしくお願いしまーす!」」

 ゆうきの声に呼応するように、ユキナと有紗が大きな声で続く。それに合わせて、めぐみは登校するひとりひとりの生徒に笑顔を向け、会釈する。その様は、この生徒会選挙を通して、段々と洗練されている。当初こそ緊張してろくに声を出せなかっためぐみや、噛み噛みのゆうきが目立っていたが、演劇部のユキナと有紗の助言もあり、自然と選挙活動をすることができるようになっていた。

「皆さんの清き一票を、どうか、大埜めぐみに!」

「「よろしくお願いしまーす!」」

(やるだけのことはやったわ)

 だからめぐみは、どこか清々しい気持ちで、その日を迎えていた。

(私には、騎馬さんのような実績はないし、生徒会に立候補するなんて初めての経験だけど、それでも、)

 そっと横を見る。朗らかに声を出すゆうきがいる。ゆうきの声に合わせて、演劇部らしく滑舌良く、聞き取りやすい声を出すユキナと有紗がいる。

 ゆうきというかけがえのない親友との仲をますます深くすることができた。

 ユキナと有紗という新しい、大切な友達もできた。

 クラスメイトとも、少しずつ気兼ねなく話せるようになってきた。

 おの生徒会選挙を通じて、自分自身がどんどん成長していることが分かる。

 これから、結果がどうなるかなんてわからない。それでも。

「……私、精一杯がんばります! だから、清き一票を、」

「「「よろしくお願いしまーす!」」」
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:00:33.93 ID:uBlGke+q0

…………………………

「生徒会選挙ねぇ……」

 掲示板に大きく張り出された、候補者告示の文字。その中に、彼のよく知る少女の名前もある。

 大埜めぐみ。

 何度も煮え湯を飲まされた相手だ。

「……蘭童。一体何を考えている」

 声に振り返る。厳めしい顔をした長身の同僚が目を眇める。

「おや、郷田先生。いらしていたんですか」

「わざとらしいことを言うな。白々しい」

 同僚もまた、掲示板を見上げた。

「職員室で他の先生方がおっしゃっていた。大埜めぐみに勝ち目はないだろう、と」

「へぇ。それはまた、なんというか……」

 彼は、めぐみたちが毎朝の挨拶運動やその他の生徒会選挙の準備をしていた様子を見ていた。彼にとって大した感慨のあることではない。ただ、彼女たちが努力をしている様を、黙って見ていただけだ。

「……不憫なものだね、プリキュアも。勝ち目のない戦いに無理矢理に引きずり出されているわけだ」

「私はそうは思わんがな」

 体育の教諭であり、高等部男子剣道部の顧問でもある同僚は、目を眇めて。

「奴は強いぞ。ひょっとすれば、ひょっとするかもしれんな」

「ふぅん。随分と優しさのプリキュアを買っているんだねぇ。ま、どちらにしろ、この学校の生徒会がどうなろうと、ぼくらには関係ないことだろう?」

「潜入している以上、潜入先の役職が変わるのなら問題だろう」

「……ああ、そうだったね。ここ最近の君は、ただの真面目くんになってしまったんだったね」

 興味は失せた。彼は同僚に背を向けて、歩き出す。

「どこへ行く」

「どこへ行くって、決まってるでしょう、郷田先生」

 振り返り、笑みを見せる。

「あの方に釘を刺されたばかりですから。真面目に、しっかりと仕事に励みにいくんですよ」

「……ふん。そうは見えぬがな」

 さりとて、彼とて仕事をしなければならないことは確かだ。生徒総会と生徒会選挙が同時に行われる今日、普段は授業で使っていて掃除ができない場所をすべて掃除しなければならないのだ。

「……ま、少しは真面目にやりますかね。べつに、掃除も嫌いではないし」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:01:05.24 ID:uBlGke+q0

…………………………

 ドキドキドキドキ。

「……はぁ」

「またため息?」

「あ、ご、ごめん。緊張しちゃって……」

 生徒総会が滞りなく終わり、前生徒会が解散した。少々の休憩時間をはさみ、すぐに生徒会選挙立ち会い演説会が始まる。選挙演説のトップバッターは、生徒会長候補であるめぐみの推薦人である、ゆうきだ。

「ああ、どうしてわたしが一番最初なの……」

「そんなの、ゆうきがめぐみのことを一番理解してるからに決まってるじゃん」

 事も無げにユキナが言う。

「最初だろうが二番目だろうが何番目だろうが、変わんないよ。どうせやるんだから、早くやっちゃった方がいいってもんじゃない?」

「ユキナは演劇部で前に立つの慣れっこだからそうだろうけどね……」

「はは、ゆうきはあがり症だなぁ。大丈夫。聴衆はみんなカボチャ、そう思い込めば緊張なんかどっかに言っちゃうよ」

 優しく元気づけてくれる有紗だが、そう簡単に事が運べば苦労はしない。

「カボチャは喋らないしわたしの話も聞かないよぅ……」

「まったく。めずらしく弱気ね」

 何かがゆうきの手を撫でる。直後、その何かがゆうきの手を、優しく包み込むように握った。めぐみの手だ。

「でも、安心して。ほら、感じるでしょ? 私の手の震え」

 ゆうきは、ハッとして横のめぐみの顔を見た。

 めぐみの声は、少し震えている。そして、その震える声が言うとおり、めぐみの手は、本当に細かく、震えている。それは、緊張から来る痺れのような、本物の震えだ。
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:01:30.83 ID:uBlGke+q0

「めぐみ……」

「私も緊張しているもの。ゆうきだって、緊張していいのよ」

 そしてめぐみは、ユキナと有紗のほうも向く。

「ふたりとも、ありがとう。ふたりがたくさん手伝ってくれたおかげで、私はここまで来ることができたわ。本当にありがとう」

「なんのなんの。あたしたちもたくさん勉強になったよ。ありがとね、めぐみ」

「その通り。それに、私たちはもう友達だろう? これくらい、友達だったらなんてことないさ」

「……嬉しい。私、何より、あなたたちという友達が得られたことが、嬉しくて仕方ないの」

「むっふっふ、嬉しいこと言ってくれるねぇ、めぐみクン」

「調子に乗るんじゃない、ユキナ」

「あいたぁ! もう、チョップ入れないでよ、有紗!」

 さすがは演劇部のエース二人組。まったく緊張する素振りすらみせず、普段通りだ。それはひょっとしたら、緊張しているゆうきとめぐみのために、わざと普段通りを演じてくれているのかもしれない。ユキナと有紗は、本当にすごい。

 それに比べて、と。ゆうきは反省しきりだった。ゆうきはそっと、めぐみの手を握り返す。

「……? どうかした、ゆうき?」

「めぐみも緊張してるのに、わたし、自分のことで精一杯で、恥ずかしいよ……」

「何言ってるのよ。そんなものよ」

「でも、生徒会長に立候補したのはめぐみで、一番緊張しているのはめぐみのはずなのに、わたしったら、じぶんのことばっかりで……本当に恥ずかしいよ」

「言いっこなしよ。そんなこといったら、あなたは私の選挙を手伝ってくれているんだから、私が気遣わなきゃいけないわ」

「……めぐみ」

「もう大丈夫ね。精一杯がんばりましょう、ゆうき」

「うん!」
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:02:13.45 ID:uBlGke+q0

…………………………

 たとえば、中等部の生徒が一同に会するこの生徒会選挙の会場に、ウバイトールを発生させたらどうなるだろうか、と。

 そんなことを彼女はふと考える。

 きっと面白いことになるだろう。このホーピッシュがどれくらい闇に近づいているのかわからないが、それを計るチャンスにもなるだろう。より多くの人間がウバイトールの存在を認知し、闇の存在を知れば、この世界はもっと闇に墜ちていく。彼女たちアンリミテッドは、そんな闇の循環を作り、世界を侵食し、飲み込んでいくのだ。

 けれど、なぜだかそれをする気にはなれなかった。

「っ……」

 頭の中に浮かぶ、絶望的な考えを振り払う。

 単純に、潜入中は潜入にできる限り集中するよう、あの方から言われたからだと、自分にいい聞かせる。決して、ウバイトールを出したくないなどと考えてはいないと言い聞かせる。



 勝手に友達面するクラスメイトの生徒会長候補の、晴れの舞台を邪魔したくないからなどではないと言い聞かせる。



「やってやるわよ。あの方の言うとおり、今は潜入任務に集中するだけのことよ」

 それこそ本当に言い聞かせるように、彼女はつぶやいた。

 そして、壇上の幕が引かれ、生徒会選挙が始まった。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:02:45.50 ID:uBlGke+q0

…………………………

 幕が開いたとき、初めてに近い壇上からの景色に、ゆうきは面食らう思いだった。中等部の生徒が一同に介した講堂は、とてつもない威圧感を持って、見下ろすゆうきを圧倒していた。

『ただいまより、第87回、ダイアナ学園中等部生徒会選挙を始めます』

 司会の選挙管理委員の声がマイクを通して響き渡る。

 ああ、手が震える。いまは座っているから大丈夫だけれど、立ったらきっと脚も震えるだろう。口がカラカラだ。ほんの少し前、めぐみから勇気をもらったばかりだというのに、緊張が身体をこわばらせる。

 それでも。やれると思った。やれると、確信があった。

(大丈夫。だってわたしは、自分のためじゃない、めぐみのために、ここにいるんだから)

『それでは、大埜めぐみさんの推薦人、王野ゆうきさん、更科ユキナさん、栗原有紗さんの応援演説です。よろしくお願いします』

 その声が響いたとき、すでにゆうきの気持ちは定まっていた。緊張はする。それでも、

 すぐ横に座る、めぐみを見る。めぐみも、ゆうきを見ていた。目を合わせたのは、ほんの数瞬の間。それでも、お互いの気持ちを確認するには十分な時間だった。ゆうきは席を立ち、ユキナと有紗を先導するように、背筋を伸ばして歩いた。演台までの距離がとても長く感じられる。それでも、ゆうきは演台の前に立ち、後ろにユキナと有紗が控える気配を感じ、落ち着いて、そっと口を開くことができた。

「大埜めぐみの推薦人、王野ゆうきです」

 ダイアナ学園の生徒たちは、静かにゆうきの言葉を聞いてくれているようだった。

「わたしは口下手で、ドジなので、あまりうまく伝えられるかわからないけど、できるだけ、大埜めぐみが……わたしの大切な友達のめぐみが、どういう人なのか、分かりやすく伝えられたらな、と思います」
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:03:11.65 ID:uBlGke+q0

…………………………

「……すごいな。原稿を持っていないのか」

 呟く声は、すぐ隣から。めぐみと同じく生徒会長に立候補しているライバル、騎馬はじめだ。

「丸暗記したわけでもない。大まかな原稿にアドリブを加えて喋っているようだ。すごいな。先生方みたいだ。少なくとも中学生がやることじゃない」

「……やるって、聞かなかったのよ」

 めぐみが小声で応じる。

「だってあの子、演劇部のユキナと有紗が台本を持って舞台に立つのは格好悪いって言うのを聞いて、ふたりがそうするならわたしもそうするって聞かないんだもの」

「……ふふ。なるほど」

 はじめは面白そうに小さく笑って。

「大埜さん、君は王野さんに愛されているんだね」

「あ、愛って……」

 生徒たちに向けはきはきと喋るゆうきの後ろ姿を見つめる。どれだけ練習してくれたのだろう。めぐみも一緒に練習をしたけれど、その練習の何倍もの時間、ひとりで練習したのではないだろうか。

「……ありがとう、ゆうき」

 だからめぐみは、誰にも聞こえない声で、頼もしい親友の背中に微笑んだ。
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:03:39.49 ID:uBlGke+q0

……………………

「めぐみは、自分自身を表すのが苦手です。だから、ひょっとしたら勘違いしている人も多いかもしれません」

 大まかな台本はある。それに即して、ゆうきは自分の言葉を肉付けして、口に出す。

「めぐみはとても優しいひとです。わたしと学級委員をやっているとき、わたしが困っているとき、いつでも助け船を出してくれます」

 ゆっくりと、聞き取りやすいように言葉を続ける。少しくらい言葉に詰まったっていい。落ち着いて、ただ、伝えたいことを、伝わるように、伝える。それだけのことだ。

「そう、めぐみはいつも、わたしを助けてくれるんです。学級委員の仕事が放課後にあったとき、早く家に帰らなきゃいけなかったわたしを気遣って、仕事をひとりでやってくれると言ってくれました。わたしが大事なことから逃げ出してしまったとき、わたしを信じて待っていてくれました。めぐみは、いつだって、わたしを信じてくれました。わたしにとって、かけがえのない友達です」

 思い起こされる、めぐみと過ごした、短いけれど密度の高い月日。もちろんプリキュアの話なんかはできないけれど、一緒に過ごした思い出がいくらでも湧いてくる。

「ケンカもしました。ケンカというか、わたしがひとりで怒って、めぐみにひどいことを言ってしまっただけですけど……。それでも、めぐみは優しく、わたしを諭して、助けてくれました」

 ああ、本当の本当に。



 わたしはめぐみのことが大好きなんだなぁ、と。



 ゆうきは、自分の応援演説で、改めてそう思わされた。

「……わたしは、そんなめぐみのことが大好きです。信頼しています。めぐみなら、絶対にいい生徒会長になると思います。だから、わたしは、そんな大埜めぐみのことを、心の底から、生徒会長に推薦します。大埜めぐみを、どうかよろしくお願いします」

 途中から、台本から少し逸れてしまったけれど。

 少なくとも、間違ったことは言っていないと思えた。

 だって、一礼して顔を上げると、大きな拍手が、ゆうきを包み込んでくれたから。

「わっ、わっ、わっ……」

 皆、真剣に、応援演説とも言いがたいような、ゆうきの言葉を聞いてくれたのだ。そして、明るい顔で、拍手をくれているのだ。何の気なしに、教職員の席を見る。嬉しそうな顔の誉田先生が頷きながら拍手をしてくれている。

「あーん、もう。まだあたしたちもいるのにー」

「仕方ないさ。ゆうきのめぐみ愛に溢れる演説には勝てないよ」

 ポン、と肩が叩かれる。ゆうきの後に控えていたユキナと有紗だ。

「じゃ、ゆうき。あとはあたしたちに任せるんだぜ、ってな」

「ゆうきが言い忘れたことも、捕捉しておくよ」

「あっ……ありがとう」

 ゆうきと代わり、マイクの前に、頼りになるふたりのクラスメイトが立つ。その後ろに控えながら、ゆうきはそっと、小さく、ガッツポーズをした。
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:04:25.90 ID:uBlGke+q0

…………………………

「ふっ。王野さんは、なんともおもしろい子ですね、郷田先生」

「……生徒の演説中だ。私語を慎め、蘭童」

「はいはい」

 隣の郷田先生にしか聞こえない声で話しかけるも、当の真面目な郷田先生は耳を貸す気もないようだ。壇上では、王野ゆうきに続き、演劇部だというふたりの少女が大勢の観衆に向けて、まったく臆することなく演説をしている。

「まったくいやになるものだ」

 誰にも聞こえないように、彼はそっと、口の中だけで言葉を紡ぐ。

「誰も彼も、光に染められて、まったく暢気なものだ。闇がすぐ近くに迫っていることにも気づかず、いつまでそう笑っていられるかな」

 世界は脆い。それを、彼は知っている。だって、ひとつの世界を、彼らは滅ぼしたのだから。
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:05:00.48 ID:uBlGke+q0

…………………………

『応援演説、ありがとうございました。続きまして、生徒会長候補、大埜めぐみさんの立候補演説です』

 選挙管理委員の声に、とうとう来たるべき時が来たと、めぐみは立ち上がった。応援席に座るゆうき、ユキナ、有紗と目を合わせる。小さく頷く三人に微笑みを返し、めぐみは登壇する。マイクの前に立ち、そっと、小さく深呼吸。そして、めぐみは、口を開いた。

「今回、生徒会長に立候補しました、大埜めぐみです。私は、現生徒会の一員ではありません。だからきっと、生徒会長になっても、最初は戸惑って、なかなかうまくできないと思います。それでも、それを挽回することはできると思います。自信があるかと言われれば、正直なところ、私にもわかりません。でも、自分ならできるって、思えるんです。それは、今、応援演説をしてくれた三人が、『めぐみならできる』って信じてくれているからです」

 そっと、心の中の言葉を、カタチにする。少し、台本とはずれてしまうけれど、内容に変わりはないはずだから。

「私の信じる三人が、私のことを信じてくれるなら、私も、私のことが信じられる気がするんです。私なら、絶対にできるって、思えるんです」

 ゆっくりと、分かりやすく、しっかりと。何度も練習したことを思い出す。ゆっくり体育館を見渡して、心を落ち着かせる。

「そして、もうひとつ。今、こうして私の拙い演説をしっかりと聴いてくれる皆さんがいるからです。応援演説も、私の演説も、決して、皆さんにとって楽しいものではないと思います。それでも、こうやって聴いてくれる、次の生徒会長を真剣に見定めてくれようとしている、そんな皆さんがいるから、私ならできると思うんです。私は、そんな皆さんがいるこの学校が、大好きです。わたしは、この大好きな学校の生徒会長として、この学校を、もっとよりよくしていきたいと思います」

 めぐみはそっと、胸に手を当てた。思い起こされる、生徒会長に立候補してから今までのこと。短い間の出来事だったけれど、それは本当に、めぐみにとってかけがえのない時間だ。ゆうきともっと仲良くなれた。ユキナや有紗と仲良くなれた。クラスメイトとだって、たくさん話すことができた。今なら心の底から言える。生徒会長に立候補してよかった。

「ご静聴ありがとうございました。私からは以上です。どうか、大埜めぐみをよろしくお願いします」

 拍手が鳴り響く中、めぐみはゆっくりと自分の席に戻る。はじめと目が合う。はじめは拍手をしながら、にこりと微笑み、ウインクをしてくれた。キザな所作があまりにも様になっていて、めぐみはそっと微笑んで、頷いた。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:06:04.29 ID:uBlGke+q0

…………………………

「……くだらない」

 誰にも聞こえない声でそっと呟く。

「何が大好きよ。何が信頼しているよ」

 どうせ、そんなもの、口先だけ、上っ面だけの言葉だ。それをさも上等なもののように、よく口が回るものだ。

 手が動く。今、この場でウバイトールを呼び出すことができれば、きっと。

 その上っ面だけの言葉を引き剥がすことができる。そして、このホーピッシュを闇の位相へと誘うことができる。

「いまなら……――」



『――応援演説、ありがとうございました。続きまして、生徒会長候補、騎馬はじめさんの立候補演説です』



「っ……」

 その名前が出た途端。動かそうとしていた手が止まる。今まさに、虚空より闇のカタマリを召喚しようとしていた手が、止まったのだ。

「どうして……」

 世界を一度滅ぼした己が、なぜそんなことを躊躇う。

 今まさに、世界を闇に堕とそうとしていたというのに、それをなぜ躊躇う。

 どうして、騎馬はじめという名が、気になって仕方がないというのか。 



 ――――『私は……君と、友達になりたい』



 なぜ、あの言葉が思い起こされるのか。

 どうして、その言葉を思い浮かべた途端、頬が熱くなり、胸がドキドキと高鳴るのか。

「ッ……」

 彼女には分からない。分からなくても、事実として、彼女はそのまま、ウバイトールを呼び出すこともなく、ただ座り続けるのだった。
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:06:30.48 ID:uBlGke+q0

…………………………

 生徒会副会長、会計、書記の立候補者たちの演説も終わり、生徒会選挙立ち会い演説会はつつがなく終了した。

 めぐみとゆうき、ユキナと有紗も2年A組の列に戻り、クラスメイトたちと一緒に教室に戻り、クラスの選挙管理委員が配布した投票用紙に記入をした。

 やることはすべてやった。後は野となれ山となれ、だ。

 めぐみはどこか清々しい気持ちで、集計の結果を待った。



『生徒会役員選挙の集計が終わりました。結果をお伝えします』



 教室の席で、ドキドキと放送を聞く。書記、会計、副会長の信任が発表される。そして、とうとう生徒会長の発表という段になった。



『生徒会長は、2年B組、騎馬はじめさんが当選しました』



 ああ、そうか、と。

 遠い場所の関係ないことのように、聞こえた。



 ああそうか、負けたのか、と。

 その実感が、少し遅れてやってきた。
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:07:13.49 ID:uBlGke+q0

…………………………

「めぐみ」

 結果の放送がされた後のことはあまり覚えていない。

 めぐみは、気づけば人気のない体育館にいて、後から声をかけられていた。

 振り返ると、そこに立っていたのは、ゆうきだ。

「……負けちゃったわね」

 微笑みながらそう声をかける。それが、精一杯のめぐみの強がりだ。

「負けちゃったけど、がんばったニコ」

「そうグリ。めぐみもゆうきも、がんばったグリ」

 ヒョコッと、ゆうきの肩からフレンとブレイが顔を覗かせる。

「ふたりの言うとおりだよ。めぐみもわたしも、ユキナも有紗もがんばったよ」

 ゆうきも微笑む。けれど、その笑顔はすぐに、くしゃっと歪んでしまう。

「あ、あれ……。おかしいな……」

 ゆうきも戸惑っているようだった。必死で笑顔を作ろうとしているけれど、それは長続きしなかった。ゆうきの両目から、涙が溢れだした。

「めぐみぃ……」

「……まったくもう。あなたが泣いてどうするのよ」

 そっとゆうきに近づいて、ぎゅっと抱きしめる。ゆうきの嗚咽が響く。

「負けちゃったよぅ……」

「そうね。負けちゃったわね」

「めぐみぃ、でも、わたしたちがんばったよ……」

「そうね。がんばったわね」

 そう。自分たちは精一杯がんばった。学級委員の仕事をしながら、プリキュアをしながら、それでも、精一杯がんばった。みんなと一緒に、がんばったのだ。

「……そう。私たちは、がんばったのよ」

 ツーと、めぐみの頬を、涙が伝った。ゆうきの涙が呼び水になったようだった。めぐみの視界が歪み、涙がどんどんあふれ出した。それは、めぐみの奥底にしまわれた、悲しみの発露だ。
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:07:45.07 ID:uBlGke+q0

「でも、悔しいよぅ……。わたし、めぐみに生徒会長になってほしかったよぅ」

「……そうね。私も、とっても悔しいわ」

 悔しい。勝ちたかった。それは、きっと負の感情ではないと、めぐみには思えた。

「……ゆうき、でもね、私、本当に嬉しいの。私がこんなことをするなんて、全然思ってなかったから。だから、ありがとう。ゆうきがいてくれたから、私はここまで、がんばれたわ」

「わたしは何もしてないよ。ほんの少し、手伝っただけだよ」

「そんなことないわ。負けちゃったけれど、ゆうきのおかげでここまでがんばれたんだもの。すごいことよ」




「負けたら、何の意味もないと思うけどね」




 世界が闇に染まる。開けた体育館に、その声は響き渡った。

「一度負けたら、負けを知ってしまう。敵愾心が小さいから、『負けたけどよかった』なんて言葉が言えるんだ」

「ダッシュー!」

 舞台の上、壇上に立つ人影は、まぎれもなくアンリミテッドの闇の戦士、ダッシューだ。

「敗北して、それでもなおヘラヘラと笑っていられる君たちに、本当の敗北を教えてあげよう」

 ダッシューは壇上のマイクを手に取り、眺める。

「良い欲望の品だ。この学校で、様々な人間の想いの丈を受け続けてきたのだろう。これは、良いウバイトールの素材になる」

 それは、ゆうきが、ユキナが、有紗が、めぐみのために演説をしたマイク。めぐみが、めぐみとめぐみを応援してくれる皆から力をもらって演説をしたマイクだ。

「やめなさい! ダッシュー!」

「やめないよ。それはぼくの欲望ではないからね」

 ダッシューは虚空に向けて叫ぶ。

「出でよ! ウバイトール!」

 世界が割れる。宙空に現われた世界の裂け目から、黒々としたヘドロのような何かが落ちる。それはダッシューの持つマイクをその身体に取り込むと、世界を黒々と染め上げながら、その姿を変貌させる。

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 巨大化したマイクのウバイトールだ。轟音を立てて体育館に降り立った怪物は、大声を上げゆうきとめぐみを威嚇する。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:08:24.45 ID:uBlGke+q0

「ッ……! 行くよ、めぐみ!」

「ええ! フレン!」

「受け取るニコ!」

「プリキュアの紋章グリ!」

 ブレイとフレンから光が放たれる。それは、まっすぐゆうきとめぐみの手に収まり、カタチを成す。勇気の紋章、そして優しさの紋章だ。ふたりはそれを確認すると、頷き合い、声高らかに叫んだ。

「「プリキュア・エンブレムロード!!」」

 世界は暗い。だからこそ、今まさにその高貴な輝きを示さんとするように。

 ふたりの少女は光の中で、厳かにその姿を変えた。

 そして、光溢れるふたりの戦士が、大地に舞い降りる。



「立ち向かう勇気の証! キュアグリフ!」



「守り抜く優しさの証! キュアユニコ!」



「行け! ウバイトール! プリキュアを倒し、ロイヤルブレスとプリキュアの紋章を奪い取れ!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 ウバイトールが舞台から飛び降りる。その勢いのまま、ふたりに向かい突っ込んでくる。

「わたしが止める! ユニコはダッシューを!」

「ええ!」

 キュアグリフが向かってくるウバイトールへ真正面から跳ぶ。マイクのウバイトールは重い頭をたくみに振り回し、キュアグリフの跳び蹴りを回避する。

「なっ……!?」

 ウバイトールの背後に着地したグリフだが、次の瞬間には何かに縛り付けられる。それは、ウバイトールのお尻から伸びるマイクのコードだ。ウバイトールの凶悪な目が嗜虐的に歪む。コードが大きくたわみ、次の瞬間には強大な膂力を持ってキュアグリフを振り回そうとコードを引く。
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:08:50.26 ID:uBlGke+q0

 しかし、ウバイトールが相対する勇気のプリキュアは、それを許すほどヤワではない。

『ウバッ……!?』

「ふふん。プリキュアになりたての頃、電柱のウバイトールに同じ事をされたけど、」

 キュアグリフは身体を縛り付けられながらも、コードを両手で握りしめ、ウバイトールの力に負けないように引っ張っていた。

「同じ手が通じると思わないでよね!」

『ウバッ……ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

「負けないって、言ってるの!!」

 コードの引き合いはなかなか決着を見せそうにない。裂帛の表情とともにグリフの身体から“立ち向かう勇気の光”が立ちのぼる。
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:09:23.99 ID:uBlGke+q0

…………………………

「ふん。さすがは伝説の戦士といったところかな。あのウバイトールを相手に互角に戦えるとはね」

 目の前のダッシューは、どこか他人事のように、ウバイトールとキュアグリフとの戦いを眺めていた。

「ひとつ聞きたいことがあるわ」

 そして、キュアユニコは仲間を信じて、まっすぐにダッシューと相対した。

「なんだろう」

「さっきの言葉の意味よ」



 ――――『良い欲望の品だ。この学校で、様々な人間の想いの丈を受け続けてきたのだろう。これは、良いウバイトールの素材になる』



「あの言葉は、どういう意味。ウバイトールにするものによって、ウバイトールの強さは変わるの?」

「ああ、そんなことか」

 ダッシューはどうでもよさそうに言う。

「そうだよ。ぼくたちアンリミテッドは、モノに込められた人間の欲望を引き出し、ウバイトールとする。モノに込められた欲望が強ければ強いほど、ウバイトールは強く凶暴になる」

 目の前にユニコがいるというのに、ダッシューはキュアグリフとウバイトールの綱引きのような戦いに目を向ける。

「見てごらんよ。あのマイクは、今まで幾人もの教員、生徒、その他の様々な人々の欲望を一心に浴びてきたんだ。話を聞いてほしい、思いを伝えたい、気持ちをぶつけたい、そんな欲望をね。ああ、あと、生徒会長になりたい、なんて欲望もあったかもしれないね」

「…………」

 ダッシューの視線の先で、ウバイトールから黒々とした何かが立ちのぼる。それはグリフの放つ“立ち向かう勇気の光”の対極に位置するような、欲望の塊だ。

「見えるかい? あれが、君たち人間が作り出した欲望さ。生徒会長になりたいという欲望を叶えることができず敗北した君たちに、あのウバイトールに勝つことができるかな?」

「……ふふ」

「……? 何が可笑しい」

 怪訝な顔のダッシューに、ユニコは笑みを浮かべたまま答えた。

「ねえ、ダッシュー。私はたしかに負けたわ。生徒会長になりたかったし、それが叶わなかったのは本当に悔しいわ」

「……ふん。所詮君たちなんてその程度ということさ」

 ダッシューが虚空よりノコギリを取り出し、握る。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:09:49.87 ID:uBlGke+q0

「前生徒会長の後ろ盾もあった騎馬はじめに、最初から勝てるわけがなかったんだよ!」

 ダッシューはそのノコギリを手に、ユニコに向かい突撃する。振り上げられたノコギリはまっすぐユニコへ振り下ろされ――、

「――あら。随分と詳しいのね。まぁいいわ」

「ッ……!?」



「優しさの力よ、この手に集え! カルテナ・ユニコーン!」



 空色の光が集約し、ユニコの手にカルテナが握られる。その空色の刀身は、当たり前のようにダッシューの凶刃を受け止めていた。

「私ね、悔しいけど、満足よ」

「なに……?」

「だって、私は生徒会長にはなれなかったけど、それ以外のたくさんのものを手に入れることができたもの」

 キュアユニコが腕を振り、ダッシューのノコギリを弾く。ダッシューが体勢を立て直し、慌てた様子でノコギリを降る。

「私、本当に嬉しいのよ、ダッシュー」

「ぐっ……」

 歓喜の笑みを浮かべたまま、ユニコはノコギリの刃を避け続ける。

「ゆうきのことをたくさん知ることができたわ。すごく仲良くなれた。親友って呼べる相手ができたのよ」

「それが、どうしたッ!」

「それから、ユキナと有紗とも仲良くなれたわ。他のクラスメイトの皆とも話せるようになったわ。あと、騎馬さんとだって知り合いになれたもの」

 キュアユニコが空いた手をダッシューにかざす。とてつもない圧力が集約し、空色の光がの壁が現われる。

「ぐッ……!」

 現われた“守り抜く優しさの光”の壁が、ダッシューの身体ごと、凶刃を吹き飛ばす。

「……ねえ、ダッシュー。私、負けてしまったけれど、いま、とても満足な気持ちだわ」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:10:15.64 ID:uBlGke+q0

「た、たとえ、どうであろうと……」

 ダッシューはよろよろと立ち上がる。

「君たちは、あのウバイトールには勝てない。君たちの欲望も入ったあのウバイトールは、自分たちの欲望すら叶えることができない君たち程度に、勝てるはずがない」

「そうかしら?」

 その直後、体育館中に大音声が響き渡る。

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

『ウバッ……!?』

 薄紅色の光が弾けた。それは苛烈な勢いをもって、ウバイトールを圧倒していた。キュアグリフの“立ち向かう勇気の光”が爆発的な勢いで広がっていく。

「ばっ、バカな……!?」

 ダッシューが呻く。キュアグリフは今まさにその戒めから逃れようとしていた。ウバイトールのコードが今にも千切れそうなほど細くなっていく。

「はぁぁあああああ!!」

 そして、キュアグリフが気合いを入れた瞬間、コードがはじけ飛ぶ。

『ウバァアッ!!』

 引っ張るために力を入れていたウバイトールが後ろに倒れ込む。

 キュアグリフは追撃の手を緩めない。そのままウバイトールに近づき、千切れたコードを握ると、力一杯引っ張り、振り回しはじめた。

『ウバァアアアアアアア!?』

「はぁああああああああああああああああああああ!!」

 グルグルとウバイトールを振り回すキュアグリフと、一瞬目線が交錯する。その刹那にグリフの意志を読み取ったユニコは、厳かに頷いた。

「……ダッシュー。私たちは生徒会選挙には負けたけど、あなたたちには負けられないのよ」

「ッ……」

「ユニコ!」

「ええ! 来なさい! グリフ!」

 グリフが勢いをつけ、コードを放す。散々振り回され目を回しているウバイトールが、まっすぐ、ユニコに向け放たれる。

「角ある純白の駿馬、ユニコーンよ! プリキュアに力を!」

 ユニコは迫るウバイトールに向け駆け出した。“守り抜く優しさの光”がそれに追随し、神獣ユニコーンの姿を形作る。



「プリキュア・ユニコーンアサルト!」



 ウバイトールに向け放たれた神速の突きは、過つことなく欲望の闇を打ち貫く。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:10:41.52 ID:uBlGke+q0

『ウバッ……ウバァアアアアア……』

 ウバイトールはさらさらとそのカタチを崩していく。そして黒々とした欲望の塊は霧散し、世界に色が戻る。

「いずれ世界は闇に墜ちる。欲望に飲み込まれる。君たちがやっていることは、それを少しだけ先延ばしにしているだけに過ぎない」

 ダッシューが言う。

「欲望に抗うことはできない。人は、やりたいことしかできないのさ」

「私には、それがあなたの言い訳にしか聞こえないわ」

「っ……」

 ユニコの応えに、ダッシューは歯がみして、消えた。ユニコとグリフも変身を解き、元の姿に戻る。

「……ゆうき。話が途中だったわね」

「ん?」

 微笑む親友に、めぐみはそっと笑いかけた。

「あなたがいなければ、私は生徒会選挙に出ることもなかったでしょうし、こんなに選挙をがんばることもできなかったわ」

「だ、だから、そんなことないって……」

 恥ずかしそうにはにかむゆうき。その親友の姿がただただ愛おしくて、めぐみはおずおずと、ゆっくり、ゆうきに抱きついた

「これからも、私の親友でいてね。ゆうき」

「もちろんだよ! わたし、ずっとめぐみの大親友だよ!」

 ゆうきが、そんなめぐみに応えて、めぐみを抱きしめ返してくれたことが、何より嬉しかった。

 ふふ、えへへ、と笑い合う。

 ダッシューの言うようなことにはきっとならない。

 だって、この世界はこんなにも明るくて、色に溢れているのだから。



「――こんなところにいたのか。探したよ。大埜さん、王野さん」



「ひゃっ」

「きゃっ」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:11:11.83 ID:uBlGke+q0

 唐突にかけられた言葉に、めぐみとゆうきは慌てて離れる。

「……っと、ひょっとしてお邪魔だったかな」

「お、お邪魔って何!? って、騎馬さん?」

「いや、私の見間違いでなければ、抱き合っているように見えたから。すまない。他言はしない。恋愛に節度は必要だが、自由ではあるべきだ」

「どんな勘違いをしているのかしらないけど違うからね!?」

 体育館の入り口に、とても同い年とは思えない、大人びた少女が立っている。はじめは冗談だよ、と笑いながらふたりにゆっくり歩み寄る。

「ど、どうかしたの? 私たちを探していたみたいだけど……」

「先ほど、選挙管理委員会から、正式に得票数の内訳のデータを頂いた。君たちにも見せておきたくてね」

 はじめはめぐみとゆうきの前に立つ。

「まったく恥じ入るような気持ちだよ。前生徒会長の先輩の助力を得ながら、私の得票数と大埜さんの得票数にほとんど差が見られなかったのだからね。正式な政治の場であれば、ともすれば再投票になっていたかもしれないよ」

 はじめはやれやれと笑う。その顔は、少し悔しそうに、めぐみには見えた。

「実質的に私の負けのようなものだ。全く、悔しくて仕方ないよ。そして、君たちのすごさに感服するばかりだ」

「そんな、言い過ぎよ。騎馬さんが勝ったのだから、もっと誇るべきだわ」

「……うん。そう、そうなのだろうな。いや、すまない。ヘンな話をしてしまった。こんな話を、他の生徒会のメンバーや、クラスメイトの皆に話すわけにはいかなくてね。なんとも情けないことだ。私は君たちに甘えてばかりいるな」

「そんなことないと思うけど……」

 自分に厳しすぎはしないだろうかと訝しむめぐみをよそに、はじめは気が抜けたように笑う。

「なんにせよ、いい立ち会い演説会だった。ふたりとも、本当にいい演説だったよ」

「あ、ありがとう……」

 はじめが手を差し出す。めぐみはその手を握り返しながら、はじめの澄んだ真っ直ぐな目を見つめ返す。はじめはゆうきとも握手をすると、言った。




「そして、これからもよろしく頼むよ。大埜副会長」



「え……?」

 そのはじめの言葉の真意を計りかねて、めぐみが聞き返す。

「聞き間違えかしら? 副会長?」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:11:37.71 ID:uBlGke+q0

「ん? ひょっとして知らなかったのかい?」

 はじめが意外そうな顔をする。

「生徒会副会長はふたりいるんだ。毎年、ひとりは選挙で、もうひとりは新生徒会長が選任するんだ。そして、その選任枠は毎年、生徒会長選挙で落選した人になるのが慣例なんだ」

 そんなことはまったく知らない。誉田先生にも言われていないし、他の誰も教えてはくれなかった。

 はじめは真っ直ぐめぐみを見つめた。そして、おずおずと、めぐみの手を取った。

「もちろん私は君に副会長をお願いしたい。慣例ではあるけれど、それ以上に、私は君にやってもらいたいんだ。頼まれてくれるだろうか、大埜さん」

「え、あ、えーっと……」

 ついついゆうきの方を見てしまう。ゆうきは本当に嬉しそうな顔で、うんうんと頷いてくれた。

「……うん」

 めぐみはだから、安心してはじめの手を握り返すことができた。

「私からも、よろしくお願いします。精一杯がんばるわ」

「ああ。一緒にこの学校をより良くしていこう」

 はじめは今度はゆうきに向き直った。

「王野さん」

「は、はい!」

 唐突に目を向けられ、ゆうきがびくりと身体を震わせる。

「私には新生徒会の庶務2名の任命権もあるんだ。王野さんも生徒会に入らないかい?」

「へ?」

「生徒会の庶務を、君にお願いしたいんだ」

「わ、わたしが生徒会!?」

「ゆうきが!? 正気なの!?」

 ゆうきが驚きの声をあげ、それとほぼ同時、めぐみも大きな声を上げてしまう。直後、ゆうきがめぐみをじろりと見る。

「……めぐみ、今のはちょっと失礼じゃない?」

「あ、あははは……」

 めぐみは笑って誤魔化すしかない。
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:12:07.44 ID:uBlGke+q0

「王野さん、君のように、友達のことを考えて一所懸命がんばることができる人が、生徒会には必要だ」

 ふたりの様子を知ってか知らずか、はじめが熱く続ける。

「生徒会の一員として、学校のために一緒にがんばってほしいんだ」

「あー、でも、わたし、不器用だし、ドジだし、失敗ばっかりだよ?」

「それでも、君の様子を見ていれば、君が懸命にがんばることができる人だというのはわかる。私には、それだけで十分だよ」

「わ、わたしは……」

 ゆうきはまるで、やってはいけない理由を探しているようだった。

「さっきも言ったでしょ。あなたがいなければ、私はここまで来られなかったわ」

 だからめぐみは、そっとゆうきの肩を叩いた。

「私もあなたと一緒なら心強いわ」

「…………」

 ゆうきがめぐみの目を見る。めぐみは真っ直ぐにその目を見返して、頷いた。

「……うん。わたし、がんばるね。庶務、やらせて」

「本当かい!? 嬉しいよ。ありがとう!」

 はじめは本当に嬉しそうにめぐみとゆうきの手を取って、ぶんぶんと振る。年上にしか見えなかった少女が、今ばかりは、同い年の女の子に見える。それもまた、クラスメイトには見せられない、子どもっぽい素のはじめなのかもしれない。

(騎馬さんって、少し私と似てるかもしれないわね)
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:12:37.40 ID:uBlGke+q0

…………………………

 そんな三人の様子を、ラブリたちは物陰から見つめていた。

「負けたのに、めぐみもゆうきも嬉しそうレプ」

「負けても精一杯がんばったから、あんな風に笑えるグリ」

「レプ? がんばっても、負けたら意味がないレプ」

「ラブリにもいつか分かるニコ」

 ラブリは、確信に満ちたブレイとフレンの表情の意味がわからなかった。

 その答えを自分自身が持っていることに、まだラブリは気づいていないからだ。

(負けたら意味がない。それをわかっているのに、どうして……)

 ラブリは胸に手を当てた。

(どうして、こんなに胸がドキドキするレプ?)

 三人の人間の様子を見つめていると、胸が高鳴ることが、まったくもって、不可解だった。
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:13:04.24 ID:uBlGke+q0

…………………………

「……ふぅ」

 めぐみとゆうきと別れて、はじめは教室に戻る廊下の途中、周囲に誰もいないことを確かめてから、そっと息をついた。

「どうもあのふたりと一緒だと、ついつい甘えてしまうな……」

 家でも、学校でも、あんな自分を出したことがあっただろうか。少なくとも、中学生になってから、嬉しい気持ちをあんなに子どもっぽく発露したことはなかったように思う。

「私は騎馬家の跡取りなのだから、もっとしっかりしなければ……」

 それがはじめの矜持だから、はじめは気持ちをきゅっと引き締める。

 引き締めた、つもりなのだけれど。



「……おめでと」



 それは、教室に向かう廊下の途中でかけられた言葉だった。

「あ……鈴蘭」

「っ……」

 カバンを持ち、帰る途中だったのだろう。廊下の隅に立っていた鈴蘭は、恥ずかしそうに、悔しそうに、目を伏せた。

「……べつに、あんたにこれを言うために待ってたわけじゃないから」

「えっ、あっ……えーっと」

 はじめは、鈴蘭にかけられた言葉の意味を反すうする。

「……私に、おめでとうを言うために、待っててくれたのかい?」

「!? だ、だからそうじゃないって今言ったでしょ!?」

「あ、そ、そっか……」

 ゆっくりと浸透していくように、はじめの心の中に、鈴蘭の言葉の意味が入っていく。

「……ありがとう、鈴蘭」

「ふん。べつに、こういう社交辞令も必要だって、勉強しただけよ」

「それでも嬉しいよ」
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:13:30.44 ID:uBlGke+q0

 頭をよぎったのは、先ほど、めぐみとゆうきと話をする前。見つけたふたりが、抱き合っていた姿だ。

 はじめは周囲を見回す。大丈夫。誰もいない。少しくらい、いいだろう。

「……ねえ、鈴蘭」

「何よ」

 はじめは、ガバッ、と鈴蘭に抱きついて、頬ずりした。

「はぁ!? ち、ちょっとあんた、何すんのよ!?」

「ごめん。本当に、嬉しくて嬉しくて仕方ないんだ」

「せ、生徒会長になれたくらいで、そんなに喜ばなくてもいいでしょ!」

「それだけじゃないよ。鈴蘭が、わざわざ私を待っていてくれて、おめでとうって言ってくれたのが、すごく嬉しいんだ」

「はぁ!?」

「なんか、懐かなくて苦労した猫が、甘えてくれたような嬉しさが……」

「あんたあたしのことをなんだと思ってるわけ!?」

 鈴蘭の動揺する声に耳を傾けながらも、はじめは鈴蘭を放さなかった。
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:14:00.52 ID:uBlGke+q0

…………………………

「……し、仕方ないヤツね」

 彼女は、そんな同級生を突き飛ばすことも、引き剥がすこともしなかった。

(コイツ、格闘技かなんかやってるのね。こんなの、この姿じゃどうにもできないわ)

 その心の中の声は、ただの言い訳だ。けれど、その言い訳をいなければ、彼女は彼女でいられない。

 だって、そうだろう。

 ただのどうでもいい同級生に抱きつかれて、心がドキドキと高鳴るなんて。

 そんなの、彼女に認められるはずもないことだから。

 その胸の高鳴りを、心地良いと思っているなんて、認められるはずもないから。

「い、いつまでくっついてるつもりよ」

「うーん、もう少しだけ……」

「……ふん。ほんと、仕方ないヤツ! あんたみたいなのが生徒会長になるのね!」

「ごめん。でも、ありがとう」

 周囲からの尊敬を一身に浴びる彼女が、自分にだらけきった姿を見せていることが。

「ほんと、仕方ないんだから」


 嬉しい、なんて。


 そう思っているなんて、認められるわけが、ないから。
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:14:26.61 ID:uBlGke+q0

…………………………

 ゆうきが教室に戻ると、教室はほとんど空っぽだった。ひとりがボーッと席に座ったまま窓の外を眺めているくらいだ。そのひとりは、ゆうきが教室に入った瞬間、ゆっくりとこちらを向き、ゆうきを認めた瞬間、ホッとした顔で笑った。

「ゆうき」

「あきら? まだ帰ってなかったんだ」

「うん。ゆうきのカバンがまだ残ってたから……」

 ゆうきの幼なじみの美旗あきらだ。

「応援演説、ちゃんと聞いてたよ。すごかったね」

「わー、ありがとう! 嬉しいよ! 少し恥ずかしいけど……」

「昔のゆうきからは想像できないよ。変わったんだね、ゆうき」

 あきらは嬉しそうに、けれど少し寂しそうに言った。

「あきら……?」

「ううん。なんでもない。ねえ、ゆうき、一緒に帰らない?」

「えっ、あー、えーっと……」

 ゆうきが逡巡していると、めぐみが教室の入り口からヒョコッと顔を出した。

「ゆうき? 誰かいるの?」

「大埜さん……」
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:14:53.23 ID:uBlGke+q0

「美旗さん?」

 あきらが目を伏せる。ゆうきには、あきらがどうしてそんなに悲しそうな表情をするのか、わからなかった。

「ごめん、あきら。この後、めぐみの副会長就任のお祝いなの」

「そっか……。うん、わかった。また今度ね」

「うん。また今度ね、あきら」

 あきらはカバンを持つと、立ち上がった。そして、めぐみの前まで行くと、言った。

「大埜さん、選挙、お疲れ様でした。副会長、がんばってね」

「ありがとう、美旗さん。嬉しいわ」

「……それじゃ、また明日」

「ええ。また明日。さようなら」

「ゆうきも、また明日」

「うん。ばいばい」

 ハッとする。教室から去る瞬間、あきらの横顔、その目尻に、涙が見えた気がしたのだ。

「あきら……?」

「どうしたのかしら、美旗さん。あまり体調が良さそうに見えなかったけど……」

「うん……」

 めぐみと同様、ゆうきも心配だ。

「うーん……」

 ゆうきは、あきらが消えた教室の出口を見つめる。

「一緒に来る? って誘えばよかったな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:15:25.62 ID:uBlGke+q0

…………………………

 その日は、そのまままっすぐ家に帰った。

 本当は、久久にゆうきと色々なところに寄り道して帰りたかった。

 あきらは自室に入ると、そのままベッドに倒れ込んだ。

「あきら……?」

「ただいま」

 暗闇から響く声に応じる。声の主――ロイヤリティの情熱の王女、パーシーはベッドを歩いて近づいてくる。

「大丈夫ドラ……?」

「うん。大丈夫だよ」

「でも、なんか辛そう、ドラ。あきら、悲しいドラ……?」

「……どうかな。どうなんだろ。わかんないや」

 ぽふ、と。頭にやわらかい手が当たる。きっと撫でてくれているつもりなのだろう。

「あきら、一体どうしたドラ?」

「……ゆうきとね、一緒に帰りたかったの」

 あきらはポツポツと話し始めた。

「ドラ」

「でもね、断られちゃった。大埜さんと約束があるんだって」

「ドラ……」

 きゅっと、あきらの頭を抱きしめるように、小さな身体が密着する。

「どうしてだろう。日記とか詩ならいくらでも想いの丈を書けるのに、どうして口に出して言うことが、こんなに怖いんだろう」

 気づけば、情けなさと悲しさで、目がうるんでいた。

「わたし、ダメな子だよ。大埜さんに嫉妬してるんだ。ゆうきを取られたって、そんな風に思ってるんだ」

「あきらはダメな子なんかじゃないドラ。パーシーを守ってくれている優しい人ドラ」

 声はか細くて、今にもかき消えてしまいそうなほどだ。けれど、その優しさがただただ暖かい、そんな声だった。
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:15:52.12 ID:uBlGke+q0

「あきらの書く詩、大好きドラ。あきらがとても良い子で、優しいって、分かるドラ。あきらはすごいドラ」

「でも、わたしはまだ、情熱的な人を見つけられてないよ」

 それは、その小さな王女様との約束だった。けれど、その約束を、あきらはまだ果たせていない。

「……いいドラ。あきらにがんばってもらっても、きっと、無理なんだドラ」

 そんなこと言わないで、なんて、言うのは無責任だろうか。

 あきらはむくりと身をもたげ、震える小さな身体を抱きしめた。

 伝えたい言葉はたくさんある。それなのに、その言葉はなかなか口から出てこない。

 腕の中で震えるパーシーが何を考えているかなんて、あきらには分からない。

 気休めと分かっていて、それを伝えるのが正しいことかも分からない。

 きっと、ゆうきに対しても同じ事をしている。

 あきらが伝えなければ、ゆうきには伝わらない。ゆうきに伝わってほしい気持ちがたくさんあるのなら、それをカタチにしなければ、絶対にゆうきには伝わらないのに。

(でも、わたし、怖いよ……)

 あきらは小さな命をぎゅっと強く抱きしめる。その温かさが、ただただ心地良かった。

 そして。

「パーシーはあきらと一緒にいるドラ」

「……うん。ありがとう、パーシー」

 あきらは言った。

「わたしも、パーシーとずっと一緒にいるよ」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:16:18.04 ID:uBlGke+q0

…………………………

「ふふ。さてさて、プリキュアたちには散々煮え湯を飲まされたが、時は満ちたかな」

 美旗家の外、上空からそんなふたりを眺める影がひとつ。

「情熱の王女パーシー。紋章とブレスはぼくがいただく」

 世界は少しずつ闇に傾きつつある。小さな光が何度闇の欲望を倒そうと、希望の世界ホーピッシュは少しずつ確実に、闇に墜ちつつある。

 光の世界ロイヤリティは闇に墜ちた。

 アンリミテッドの欲望は、それでもなお、果てることはない。
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:16:44.39 ID:uBlGke+q0

…………………………

「それでは、大埜めぐみの副会長就任を祝って、かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」

 カンコンと、アイスティーのグラスが音を立てる。

「みんな、本当にありがとう」

 かんぱいの直後、めぐみが三人に頭を下げた。

「みんなのおかげで私はここまでやれたわ。得票数も騎馬さんに匹敵する数だったらしいわ」

「ふふふ、その通りだよめぐみクン。もっとあたしを敬うといいよ!」

「調子に乗るな、ユキナ」

「あ痛ぁ! ひどいよ有紗!」

 胸を張るユキナを、有紗が小さく小突く。

「私たちは友達のためにできることをしただけだよ。めぐみ、残念だったけど、それでも、副会長就任は、本当におめでとう」

「ええ。ありがとう」

 ユキナと有紗の言葉に、めぐみは笑ってお礼を言う。ユキナと有紗の前でも、素のめぐみが出ていることが、ゆうきにとっては嬉しいことだった。

「あら、めぐみちゃん、生徒会の副会長になったの?」

 四人がかけるテーブルに、ひなカフェの店長、ひなぎくさんが現われた。

「そうなんです。会長にはなれなかったけど……」

「でも、すごいことじゃない。じゃあ、お姉さんからもお祝いしなきゃね。このクッキー、試作品なのだけど、サービスしちゃうわね」

「わー! めちゃくちゃ美味しそー!」

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。ふふふ、ゆっくりしていってね」

 ひなぎくさんは焼きたてであろう、まだ湯気を立てるクッキーを置いて、にこやかに立ち去った。

 とても楽しい時間だけれど、ゆうきの心の中には、小さな棘が刺さったままだった。

(最近、あきらとあまり話してないなぁ。誘いも断ってばかりだし、せっかく同じクラスになれたのに、悪いことしてばかりだ)

「ゆうき? どうかした?」

「えっ? あ、ううん。なんでもないよ」

 不思議そうなめぐみにそう返すと、ゆうきはアイスティーを口に含んだ。

(……明日、遊びに行こうって誘おうかな。わたしもあきらとお喋りしたいことたくさんあるし)
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:17:11.02 ID:uBlGke+q0

…………………………

「ふふ。めぐみちゃん、いい顔で笑うようになったわね」

 彼女は、カフェの奥でひっそりと祝賀会を上げる少女たちを眺めながら、そっと呟いた。

「うちの鈴蘭ちゃんも、同じように笑ってくれると嬉しいのだけど」

 噂をすれば影、というわけではないのだろうけれど。

「あら……?」

 店のガラスの向こう、道を歩くダイアナ学園の女子生徒は、鈴蘭だ。裏から二階の自分の部屋に向かうのだろう。その顔は、困惑するような、嬉しそうな、どこかボーッとしたような、色々な感情がない交ぜになったような表情を浮かべていた。

「……鈴蘭ちゃんもあんな顔をするのね」

 彼女はだから、嬉しくて、笑った。

「良いお友達でもできたのかしら。今晩、聞いてみようかしら」

 ニッと笑う。その笑顔は、何の裏表もない、本物の笑みだ。




「大丈夫。鈴蘭ちゃん、あなたの抱える闇は、そんなものじゃないはずよ」




 その清々しい笑顔のまま、彼女はそう言った。

「ふふ。これからが楽しみだわ」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:18:03.22 ID:uBlGke+q0

 次 回 予 告

ゆうき 「と、いうことで、めぐみ、副会長就任おめでとう!」

めぐみ 「ありがとう。ゆうきも、庶務就任おめでとう!」

ゆうき 「うん! 精一杯がんばろうね! わたしも足を引っ張らないようにがんばるよ!」

めぐみ 「後ろ向きすぎないかしら!?」

ゆうき 「ファイル倒してめぐみに怒られないようにがんばるよ!」

めぐみ 「あなたひょっとして1話のことまだ根に持ってるの!?」

ブレイ 「……はぁ。まったく、最近あのふたりが次回予告で仕事をしないね」

フレン 「仕方ないわね。嬉しいんでしょ、色々と」

ラブリ 「まったく。理解しがたいがね」

ブレイ 「さて、次回のファーストプリキュア!」

フレン 「第13話【燃える情熱! それは紅蓮のプリキュア、キュアドラゴ!】」

ラブリ 「次回もお楽しみに」

フレン 「また来週! ばいばーい!」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 10:22:15.72 ID:uBlGke+q0
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございます。
来週は所用により投下できません。
また再来週、よろしくお願いします。
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 16:02:12.67 ID:NGct5ApJO
今さらだけどデザイアって女だったのか
あるいはひなぎくモードの時だけ女になってるとか
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 22:55:35.97 ID:qtVw83Ni0
次回追加戦士か
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