【オリジナル】ファーストプリキュア!【プリキュア】

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 22:59:54.29 ID:3NMTT9P50
ゆうき「はじめまして、わたしは王野(おうの)ゆうき!」

ゆうき「私立ダイアナ学園に通う中学二年生なの」

ゆうき「新しい一年の始まりの日、ぬいぐるみみたいに可愛い妖精、ブレイと出会って、」

ゆうき「いつの間にやら伝説の戦士をやることに!?」

ゆうき「迫り来る闇の欲望『アンリミテッド』の魔の手からブレイたちを守り抜き、」

ゆうき「闇に飲み込まれ消滅した光の世界『ロイヤリティ』を復活させるために!」

ゆうき「勇気と誇りを胸に、精一杯がんばるよ!」


めぐみ「はじめまして。わたしは大埜(おおの)めぐみです」

めぐみ「私立ダイアナ学園に通っています」

めぐみ「新学年の始まりの日、王野さんを想った言ったことで、王野さんを傷つけてしまいました」

めぐみ「不器用で優しくないわたしにどこまでできるかわからないけど、」

めぐみ「妖精のフレンを守るため。光の世界『ロイヤリティ』を救うため」

めぐみ「そして、わたしたちの住まう人間の世界『ホーピッシュ』を守るため」

めぐみ「伝説の戦士としてがんばります!」




   「「プリキュア・エンブレムロード!」」


   「立ち向かう勇気の証! キュアグリフ!」


   「守り抜く優しさの証! キュアユニコ!」


   「「ファーストプリキュア!」」





ゆうき「……っていうことで、大埜さん、がんばろうね!」

めぐみ「ええ、王野さん。わたしたちにできることを精一杯やりましょう」

ブレイ 「ブレイもがんばるグリ!」

フレン 「フレンもニコ」




めぐみ「新番組、ファーストプリキュア!」

ゆうき「12月24日(日) 午前10時よりスタート!」

    「「お楽しみに!」」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513432793
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 23:01:09.64 ID:3NMTT9P50
・毎週日曜10時に更新する予定ですが、お休みをすることや、時間をずらすこともあると思います。

・感想・質問等、たくさんいただけると嬉しいです。更新中の書き込みも大歓迎です。

・スイートプリキュアの頃から書いていたものなので、他のプリキュアとの色々な被りは悪しからずご了承ください。
 (というかめぐみという名前がそもそも最初から被っています)

・キャラクターの容姿等、ご想像にお任せします。本編で描写はします。

・50話ほどで完結です。一年間お付き合いいただければ幸いです。

>>1の番宣もどきは台詞形式ですが、通常の話は小説形式です。

・プリキュア好きの方、その他の女児アニメ好きの方、見て頂けたらうれしいです。



来週からよろしくお願いします。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 00:04:10.32 ID:k8A6T+9F0
奈良来週立てろよ

期待
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:02:34.25 ID:3zYuh2uB0
【結成! 「おーのコンビ」はプリキュアコンビ!?】


★          ★          ★


 ジューッと。ベーコンの焼ける音が小気味良い。

「えっと、たまごは、っと……」

 フッとこうばしい香りがはじけて、頃合いだと分かった。冷蔵庫から取り出しておいたたまごを手に取る。室温で汗をかいたたまごは、キッチンに差し込む朝日に照らされて、キラキラと輝いている。

「……うんっ。きれいな目玉焼きにしてあげるからね」

 フライパンの縁でからを割る。少し力を入れて、片手でパカッ、と。

 ふと、頭上からりんりんとやかましい音が聞こえた。目覚まし時計がねぼすけをがなり立てているのだろう。時計に目を向けてみれば、もう七時だ。

「いっけない。トーストも焼いておかないと」

 たまごをさっさとフライパンに落とし、少し間を置いてから水を少々注いでフタをする。少しキッチンから身を乗り出すと、のろのろとやってきた小さい人影が見えた。

「あ、ひかる、ちょうどいいところにきた!」

「……?」

 寝ぼけまなこをこすりこすり、弟のひかるが自分を認めたようだった。

「あ……おはよ、お姉ちゃん」

「はい、おはよう、ひかる」 にこっと挨拶を返してから。「ごめんね、食パンをトースターで焼いておいて」

「あー……うん」

「まずは顔を洗ってからね」

「あー……」

 基本的に、寝起きはボーッとしている弟だった。のそのそと向かう先は、洗面台だろう。

「……それにしても、ともえが起きてこないなぁ」

 妹のともえが降りてこない。目覚まし時計も鳴りっぱなしだ。

 そんなことを考えていると、フライパンにかぶせておいたフタがカタコトと音を立て始めた。

「あ〜、黄身が固くなっちゃう」

 ――ただでさえドジばかりやる自分が、よくここまで家事をこなせるようになったものだ。

 どこか感慨深い思いで、ゆうきはふっと微笑んだ。



 王野 (おうの) ゆうき、13歳。

 今日から中学2年生だ。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:04:46.30 ID:3zYuh2uB0

☆          ★          ★


 結局、ともえはひかるが起こしにいくまでリビングに来ることはなかった。

「まったくもう。ともえ、もう小学6年生なんだから、自分で起きられるようにしなさい」

「はーい」

 まるっきりの生返事。反抗期というやつだろうか、最近この妹は自分の言うことをきかないことがままある。

「ちょっと、ともえっ」

「分かったってば。明日から気をつけるよ」

 少しつり上がったまなじりに、ぷるんと艶やかな唇、サラサラの亜麻色がかった髪、歯に衣着せぬ性格、何をとっても自分とは正反対の妹だ。

(それに比べてわたしは……)

 嫌になる。トロンと垂れたやる気のない目つき、リップをつけなければすぐ乾いてしまう薄い唇、しっかりリンスをしなければ翌日言うことを聞かない真っ黒の髪、天然と言われることが多いボケた性格。それが自分、王野ゆうきという姉だ。

「お姉ちゃん?」

 気づけばぼーっとしていたようだ。ひかるが自分の顔をのぞき込んでいる。その末弟もまた、ともえとは異質にせよよく整った美男子だ。

「あ……なんでもない。早く食べて学校行こ」

 少し気弱で優しい弟を心配させまいと、ゆうきは気丈に笑った。

 父は単身赴任中。母は看護師のお仕事の関係で夜と朝はいないことが多い。

(だから、わたしがしっかりお母さん代わりをやらなくちゃ)

 新しい1年の始まりの日。ゆうきは慌ただしく弟妹を見送って、自分も学校へと向かった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:07:15.80 ID:3zYuh2uB0

 私立ダイアナ学園女子中等部。

 長い伝統と格式を持つ中学校らしいが、ゆうきにはいまいちピンとこない。せいぜいが自分の通っている中学校は少し古い、といった程度の認識だ。

 まばらに自分と同じ制服を身につけた少女たちが目につくようになると、住宅街の向こうに校舎が見えてくる。友達は古くさいと言うが、ゆうきはオシャレな感じがして気に入っている。なんでも、英国の著名な建築家が設計したのだそうな。

「ゆうきぃー!」

 背後からの慌ただしい足音がふたつ。振り返る前に、両肩をパシパシと叩かれる。

「おっはよー、ゆうき」

「おはよう」

「もうっ、両側から挨拶しないでよ。どっちを向いて返せばいいの?」

 怒るポーズだけしてみせて、けれどすぐに顔がほころんでしまう。

「おはよ、ユキナ、有紗(ありさ)」

 当たり前だ。春休み中に何回かは会ったが、それでも登校途中で会うのは昨年度の三学期ぶりなのだから。

「ふふー、ゆうきは相変わらずかわゆいのうかわゆいのう」

 ゆうきにぐりぐりと顔を押しつける小柄な方が更科(さらしな)ユキナ。ハムスターのような少女で、栗色のボブカットがかわいい同級生。

「おっさんくさいぞ、ユキナ」

 それに呆れながら返すのが、背が高い栗原(くりはら)有紗。長い髪をひとつにまとめた大人っぽい美人だが、さばさばした男らしい同級生だ。

「ふたりも相変わらずだねぇ……ちょっとユキナ、暑苦しいよ」

「えへへー、ごめんごめん」

「謝るくらいなら離れなさい」

「ぐへぇ」

 見かねた有紗が引きはがしてくれて、ようやくユキナから解放された。

「うぅ〜、今日から新しいクラスかぁ。ドキドキしちゃうよねっ」

「そうだね……今年も、ふたりと一緒だと嬉しいけど」

 ユキナの言葉にそう返すと、突然がばっと両側から抱きつかれた。

「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。このこのー」

「このこのー」

「ちょっと、歩けない! 歩けないから!」

 友達ふたりを半ば引っ張るようにして、ゆうきは校門まで行くハメになった。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:08:18.81 ID:3zYuh2uB0

 そこは、黒い場所だった。

 光源はある。しかし暗い。一面が黒いからだ。

「……で、取り逃がした、と」

 響く涼やかな声。しかしそれは清涼感というよりは、荒涼とした大地を思わせる冷たい声だった。

「それで、奴らは人間の世界、『ホーピッシュ』に行ったのだな? それぞれの “ロイヤルブレス” と “紋章” を持って」

「申し訳ありません、デザイア様」 声の主に会釈程度に頭を下げるのは、たくましい身体つきの男だった。「しかし問題はありません。奴らの位置は割れています」

「ほう?」

「我々がロイヤリティから奪ったエスカッシャン……これらが奴らの紋章と反応しあっています。これを頼りに捜索すれば、見つかるのも時間の問題でしょう」

「……なるほど」

 涼やかな声は、男の言葉に納得したように。

「分かった。ならば任せよう。しかし事は急がねばならん。ロイヤリティにはとある伝説があるからな」

「伝説?」

「ああ。ロイヤリティから光が消えたとき、伝説の戦士が現れ、4人の王者を助けるだろう、と……」

 声の言葉に、男は目を丸くしていた。

「……まさか、デザイア様ともあろうお方が、そんなおとぎ話を信じていらっしゃるのですか?」

「さあ、な」 男の馬鹿にしたような言葉にも、声は何の感情も見せない。「しかし、くれぐれも侮ることはないように」

「分かっております。同じ愚は犯しません」

「ああ。では行くのだ、ゴーダーツ。ロイヤリティの腑抜けきった王族どもから、紋章を奪い取れ」

 声の言葉は決然と、男に申し渡した。

「それが我ら “アンリミテッド” の欲望だ。ゆめゆめ忘れるな、ゴーダーツ」

「はっ。我らアンリミテッドの欲望を満たす、ただそれだけのために」

 そして、ゴーダーツと呼ばれた男は、闇に溶けるようにかき消えた。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:11:09.55 ID:3zYuh2uB0

 自分たちの住まう場所に何かが迫っていても、女子中学生には関係ない。

「やったー! 今年も一緒だね、ゆうき!」

「ちょっと、私は?」

「もちろん有紗と一緒も嬉しいよ♪ 演劇部でずっと一緒だけど」

「まったく……調子がいいんだから」

「えへへー」

 クラス替えの結果。それほど女子中学生の心を揺さぶることがあるだろうか。

「…………」

 けれど、どうしてだろう。ゆうきは仲の良い友達ふたりと同じクラスになれたことも気にならないくらい、何かに気を取られていた。

(なに……?)

 わからない。いま、ほんの一瞬だけ、ぞわっと総毛立つような感覚に陥ったのだ。

(何か、来る……ううん、“来た” ?)

「……? ゆうき?」

「どうかしたの? 具合悪い?」

「えっ……?」

 ふたりの声でようやく我に返る。

「あ……な、なんでもないよ。ちょっとボーッとしちゃって」

 ゆうきの言い訳に、ユキナと有紗は顔を見合わせ、深いため息をついた。

「まったく」

「ゆうきは相変わらず天然だねー」

「てっ……天然じゃないよー!」

 憤慨して言い返す。ようやく自分の日常に戻れた気がした。

 ふっ、と。頭の隅を何かがよぎった。

「えっ……?」

「……?」

 目を向けた先、女子中等部の制服を整然と着こなす、伸びやかな背筋が印象的な少女。そして何より、その少女もまた、驚いたような顔で、自分を見つめていることが印象に残った。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:11:53.95 ID:3zYuh2uB0
「……何か?」

 少女が切れ長の目で自分を射抜く。

「えっ、あっ、いや……」 ゆうきはしどろもどろになりながら。「な、なんでも、ない、です……」

「……そう。私も。ごめんなさい」

「う、ううん。こちらこそ」

 少女はそれだけ言うと、小さく会釈をしてゆうきに背を向けた。げた箱へ向かうのだろう。

「? どうしたの、ゆうき?」

「……わかんない」

「今の、大埜(おおの)さんじゃない。ゆうき、知り合いなの?」

「大埜さん?」

 有紗の問いに反応する。あの少女の名前だろう。

「うん。去年となりのクラスだったけど……あ、今年は同じクラスだね」

「大埜……大埜さん……」

 ふしぎと引っかかる。なんだろう。考えてみても答えはでそうにない。もう一度クラス替えの発表を見る。王野ゆうきのすぐ後ろ、大埜めぐみ。

「なんでも、勉強もスポーツもできるすごい子らしいよ」

「なにそれなにそれ! 文武両道ってこと!?」

「……大埜、めぐみさん」

 有紗とユキナの言葉がどこか遠く感じられた。心のわだかまりは、消えそうにない。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:12:26.27 ID:3zYuh2uB0

「――グリ!」

 ひとりめ。こてん、ころんころん、と。まるでゴム鞠のようによくはねた。

「ニコっ……」

 ふたりめ。少しバランスを崩しながら、けれどしっかりと着地した。

「……レプ」

 さんにんめ。何か問題がある? とばかりに澄まし顔で両足そろえてきれいに着地した。

「…………」

 よにんめ。落ちてこない。

「……グリ? パーシーはどこグリ?」

「知らないニコ」

「はぐれたレプ?」

 どこかギスギスした3人。

「じゃあ、探しに行かなくちゃグリ!」

「どこへニコ?」

「ナンセンスレプ」

 どこか歯車のズレた3人。

「じゃあどうするグリ!」

「知らないニコ!」

「……パーシーも情熱の王女レプ。自分でなんとかするレプ」

 どこかおかしい、3人

「そんなのおかしいグリ! ブレイはパーシーを探しに行くグリ!」

 ひとりめは、何のアテもないのに、消えたよにんめを探しに行く。

「ち、ちょっと待つニコ! “弱虫ブレイ” !」

 ふたりめは、ひとりめに反発しながらも、ひとりめについていく。

「……ふん。勝手にすればいいレプ。ラブリはラブリで勝手にやらせてもらうレプ」

 澄まし顔のさんにんめが、やっぱり澄ました顔で、そう言った。ふたりについていく気は、ない。

「せいぜい、アンリミテッドの連中に紋章を奪われないように気をつけるレプ」

「言われなくたって気をつけるグリ!」

 そうして、3人は別れた。たった4人の仲間だというのに、ひとりははぐれ、ひとりはケンカ別れ。

 もう、バラバラだった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:14:34.85 ID:3zYuh2uB0

 新学期のHR。心機一転がんばるぞ、と意気込むゆうきだった、が。

「…………」

 気づけば、学級委員に任命されていた。

 2年A組、ゆうきが所属する新しいクラスの代表だ。

「な、なんで……?」

 教壇の前に立ち、クラスメイトの拍手を一身に受けながら、ゆうきはわけが分からなかった。

 ともあれ、だ。

「が、がんばろうね、大埜さん」

「ええ、そうね。王野さん」

 隣に立っている大埜めぐみの手前、焦る顔も満足に出来ないゆうきだった。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:15:49.39 ID:3zYuh2uB0

 時間は少し遡って、ほんの数分前のこと。

 始まりは、となりでゆうきと同じように、しかし大して気負う様子もなく拍手を浴びている大埜めぐみが学級委員に選ばれたことだった。

 始業式が終わり、新しいクラスでの初めてのHRが始まってすぐ、クラスの代表である学級委員2人を決める運びとなったのだ。

『――先生、去年もやっていたし、学級委員は大埜さんがいいと思います!』

 新しいクラスの担任である、若くて美人な誉田(ほんだ)華(はな)先生にそう進言したのは誰だっただろうか。おそらく、去年めぐみと同じクラスだった誰か、だろう。

『……と、いうことだけど、大埜さんはどう? 学級委員、やってくれる?』

『構いません』

 ここでまず一度目の拍手が起こった。学級委員を引き受けてくれためぐみに対する拍手だ。

『じゃあ、もうひとり、誰がいいかしら?』

『はいはいはーい!』

 問題はここからだ。そう、ユキナが手をあげた時点で、どこかいやな予感はしていたのだ。

『もうひとりの学級委員は、王野ゆうきさんがいいと思いまーす!』

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

『はぁ!?』

『えへへー、ゆうきは大埜さんのことが気になってるみたいだったから』

 余計なことを言う。基本的に、ユキナは空気を読まない。

『えへへー、“おーのコンビ” なんつってー』

『王野さん? どうかしら? やってくれる?』

 誉田先生の優しい笑顔。自分の方をややクールに見つめるめぐみ。自分の考えた語呂合わせにご満悦のユキナ。ぐるぐる色んなものが巡り巡って、ゆうきはいつの間にか頷いていた。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:17:04.90 ID:3zYuh2uB0

 そして、教室中から拍手を受けるこの状況だ。

「……はぁ」

「…………」

 ゆうきは気づかなかった。すぐ横のめぐみが、ふしぎそうな顔で、自分の横顔を見つめていたことに。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:18:31.99 ID:3zYuh2uB0

「“おーのコンビ” って何よ?」

「あははは……ちょっと勢いで」

「まったく……」

 HR後の休憩中に問いつめてみれば、やはりユキナはユキナで、何も考えていなかったようだ。

「まったくもう……今日の放課後、早速仕事をもらっちゃったよ」

「げっ、マジ?」

「マジもマジ、大マジだよ」

 ゆうきが現実的な被害を被っていると分かったからだろう。ユキナは途端に申し訳なさそうな顔をした。

「ごめんねぇ、ゆうき。推薦なんてしちゃって……」

「いいよ。誰かがやらなくちゃいけないもん」

 もちろん、ゆうきにユキナを責める気など毛頭ない。

「ただ、今日はちょっと早く帰らなくちゃなんだよね……」

「? どうして?」

「お母さんが帰ってくるのが遅くてね。わたしが晩ご飯つくらなくちゃなの」

「えっ」

「晩ご飯何にするかも考えなくちゃだし……」

「…………」

「買い物にも行かなくちゃだし……」

「…………」

「……? ユキナ?」

 訝しむ。騒がしいちびっ子、ユキナからの応答がない。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:19:59.11 ID:3zYuh2uB0
 と、

「……ごめんねぇ、ゆうきぃ……」

 大きなクリクリの目いっぱいに涙を溜めていた。

「ちょっ、大げさだよユキナ! 大丈夫だから! 気にしてないから!」

 今まさに泣き出しそうになっていたユキナに、ゆうきも手慣れたもので、あやすように背中をなでる。この友達は、良くも悪くも純粋で、感受性が豊かだ。

「お手伝いなんてすぐに終わらせるから。心配しないで」

「うん……あ、そうだ! ねぇゆうき!」

「? なに?」

「今日はあたしがゆうきの代わりに先生のお手伝いするよ! そうすれば――」

「――それは、ダメ」

「えっ……?」

 ユキナの提案に、ゆうきは間髪入れずに首を振った。

「で、でも……」

「これは、わたしの学級委員のお仕事だもん。それをいきなり他の人に任せるなんて、そんなの勝手はしたくないんだ」

「……そっか。そうだね」 ユキナは納得したように笑った。「ゆうきは責任感が強いもんね」

「そんなんじゃないけど……でも、ありがと、ユキナ」

「ううん」

 友達同士、通じ合うものがある。だからそれだけで十分だ。にっこり笑って、お互いの思っていることが伝えられたら、それだけで、十分だ。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:21:22.73 ID:3zYuh2uB0

「あ、あの……ゆうき……」

「?」

 HRが終わって、今日はこれで放課だ。プリント類しかない荷物を鞄に詰めていた折、後ろから話しかけられた。

「あきら! 今年は同じクラスになれてよかったねー!」

「あ……う、うん。わたしも、嬉しい……かも」

 美旗(みはた)あきら。公園デビューの頃からの幼なじみ。少し引っ込み思案なゆうきの親友だ。去年はお互い違うクラスになってしまったが、今年から同じクラスで過ごすことができる。

「あの、ゆうき。一緒に、帰らない?」

「あー……」

 あきらの誘いは嬉しかった。けれど、

「ごめん、あきら。わたし、これから学級委員のお仕事があるんだ」

「えっ……? 早速?」

「うん。資料室の整理だって。だから、ごめんね」

「……王野さん、」

 噂をすれば影。鞄を持っためぐみが傍らに立っていた。

「学級委員のお仕事、いきましょう」

「あ、うん。じゃあ、あきら、ごめんね。また明日」

「う、うん……また、明日……」

 望んでなったわけでないからといって、投げ出していいわけがない。ゆうきは残念そうなあきらに別れを告げて、めぐみと一緒に資料室に向かった。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:22:40.14 ID:3zYuh2uB0

………………


「ねえ、“弱虫ブレイ” 。これからどうするニコ?」

「…………」

「ちょっと! 聞いてるニコ!」

「……聞こえてるグリ。ひとついいグリ?」

「何ニコ」

「その、“弱虫” っていうの、やめてほしいグリ」

「どうしてニコ?」

「どうしてって! ブレイは “未来へ導く勇気の王子” グリ! 弱虫なんて言われたら嫌グリ!」

「……ふん。弱虫のくせに、プライドだけは一人前ニコ! 弱虫のくせに!」

「なっ……! それを言うなら、フレンは優しくないグリ! “未来を守る優しさの王女” のくせに!」

「っ……! “弱虫ブレイ” のくせに!!」

「うるさいグリ! 弱虫って言うくらいならついてくるなグリ!」

「う、うるさいのはそっちニコ! このフレン様がついてあげてるんだから、感謝しなさいニコ!」

「あーもう頭きたグリ! フレンなんか知らないグリ! ラブリみたいにどこかに行っちゃえグリ! パーシーはブレイひとりで探すグリ!」

「勇気の国の王子のくせに、ムキになっちゃって、男らしくないニコ」

「…………」

「ち、ちょっとブレイ! なんとか言いなさいニコ!」

「…………」

「あ、待ちなさいニコ! 弱虫には、この優しいフレン様がついててあげなきゃいけないんだからニコ!」

「…………」

「せめて口答えくらいはするニコ!!」

 ロイヤリティは欲望に飲まれ、闇に包まれた。事態は一刻を争う事態となっている。しかし、彼らはバラバラだ。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:23:18.67 ID:3zYuh2uB0

………………

「……ラブリひとりで十分レプ」

 だから彼女もまたひとり。

「ラブリが伝説の戦士を見つけだし……ロイヤリティを救うレプ。ラブリならできるレプ。ラブリにしかできないレプ」

 ひとりっきりだった。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:23:55.30 ID:3zYuh2uB0

………………

「……感じる。この “優しさのエスカッシャン” が、優しさの波動を伝えている」

 そこに、闇に付け入る隙ができる。

「優しさの王女……まずは貴様を見つけだし、優しさの紋章を奪い取る……! このアンリミテッドの戦士、ゴーダーツの名にかけてな!」

 残された希望へと、闇が着実にその魔の手を伸ばしていた。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:25:11.36 ID:3zYuh2uB0

………………

「どうかしたの?」

「えっ?」

 資料室。誉田先生に頼まれたのは、結構な量の資料整理だった。

「眠いの?」

 訝しげな顔で自分を見つめるめぐみの顔に、ゆうきはなんと返したらいいものか分からなかった。

 いらなくなった書類をファイルから取り出し、束ね、ファイルは回収箱に放り込む。その単純作業の繰り返し。眠くなるような作業だとは思ったが、まだ昼間。さすがに眠くはない。

 と、いうより、自分はそんなにも眠たげな顔をしていたのだろうか。

「えっと……ごめん、ちょっとボーッとしてた」

「そう。気をつけてね」

「あ、うん。ごめんなさい」

 ゆうきは手先があまり器用ではない。ファイリングされた資料の中にはかなり古いものもあって、なかなか取り外せないこともしばしばあった。

 それに比べて、めぐみはどんな書類もすいすいファイルから外していた。捨てる書類が、めぐみの傍らにこれでもかというほど整然と積み上がっている。

「……はぁ」

 作業を再開しためぐみのキリリと整った横顔を見つめつつ思う。すごいなぁ、と。学級委員が決まり、他の役員決めの段になった折、ゆうきはめぐみの本領を見せつけられたような気分だった。

 HRを仕切る能力とでもいうのだろうか、みんなをまとめ、クラスメイトをどんどん係や委員に配置していく。

 HR後、わざわざ誉田先生が褒めたくらい、めぐみの学級委員ぶりはすさまじかった。それに比べて自分は、と、また暗澹たる気持ちになる。

「……あっ」

 そんな詮無いことを考えていたからだろう。もしくは、またボーッとしていたのだろう。回収箱に放ったファイルが、めぐみの積み上げていた書類の山にぶつかった。しまった、と思ったときにはもう遅い。積み上げられた書類の山は、音を立てて崩れ落ちた。

「あ、あわわわわ……」

「…………」

 混乱するゆうきをよそに、めぐみはさして慌てる様子もなく崩れた書類を直しはじめた。それを見て、ゆうきもようやく我に返り、焦ってそれに手を貸そうとする。

 それもいけなかった。

「わっ……わわっ」

「…………」

 めぐみの視線と沈黙が痛い。

 ゆうきは慌てて立ち上がろうとした拍子に、自分の書類の山も倒してしまったのだ。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:26:45.55 ID:3zYuh2uB0

「……王野さんって、ほんと話に聞いてた通りね」

 ぴくりとも笑わないまま、めぐみが口を開いた。

「えっ……聞いていた通りって……」

「天然でときどきドジの連鎖をやらかす」

「うっ……」

 自分では否定しているが、常々ユキナや有紗から言われていることだ。

『ゆうきって天然でときどきドジだよね』

 それはゆうきの親しみやすさを表すための言葉なのだが、本人にとってはそれだけではない。とくに、ゆうきのようにそれをコンプレックスに感じていれば、なおさら。

「……帰りなさい」

「えっ?」

 悔しさに奥歯を噛みしめていると、そんな声が聞こえた。

「何か気にしてることがあるんでしょう? 帰ったら? これくらいだったら、私ひとりで大丈夫だから」

「だっ、だめだよそんなの! わたしも学級委員なんだから、わたしも一緒にやるよ!」

「でも、なりたくてなったわけじゃないでしょう?」

「そ、そりゃあ……そうだけど、でも……」

 気になること。夕ご飯のおかず。スーパーのタイムセール。反抗期の妹のこと。目の前の大埜めぐみ。そして、天然でドジな自分。言うまでもなくたくさんある。

「……一緒にやるよ。大埜さんだけにやらせるわけにはいかないから」

「そう」

 めぐみは一息つくと、もう一度ゆうきを向いた。

「じゃあ、邪魔だから帰りなさい、って言えば、あなたは帰ってくれるのかしら」

「へ……?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。何を言われたかを理解しても、それを認めたくなかった。

「だから、そういう風に言えば、あなたは帰ってくれるの?」

 そんなゆうきの心情など考慮に入れる意味もないとばかりに、めぐみが追い打ちをかけるように続けた。

「なに、それ……」

「言ったとおりよ。いいから帰りなさい」

 ゆうきは温厚で、天然で、心優しく、素直な、そんな女の子だ。だからそんなことを言われたくらいで怒ったりはしない。

 ただ、怖かった。

 平然と自分に対して悪意を発露するめぐみのことが、純粋におそろしかった。

「わたし、だって……がんばって、お仕事、やってるのに……」

「? それがどうかしたの?」

 決定的だった。きっと、めぐみに悪意はないのだろう。がんばってやっていたところで「それがどうしたの?」。一生懸命やっていたって「邪魔だから」。とどのつまり、ドジで余計な仕事を増やすゆうきが邪魔だからいなくなってほしい、ということだろう。

「……ごめんなさい。わたし、帰るね」

「ええ」

 めぐみはなんでもないかのような表情で、顔を上げた。そんなめぐみの視線にあてられてから、ゆうきもようやく気づく。



 ああ、自分は泣いている。



「王野さん……?」

「っ……!」

 ゆうきは自分の鞄をひっつかむと資料室から飛び出した。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:27:54.73 ID:3zYuh2uB0
………………

 泣かせるつもりなどなかった。

「うそ……」

 ちょっとした、照れ隠しだったのだ。


 ―― 「お母さんが帰ってくるのが遅くてね。わたしが晩ご飯つくらなくちゃなの」


 今朝から、妙に気になっていたあのクラスメイト。王野ゆうき。自分と名字がよく似ている女の子。学級委員のパートナー。

 怒らせるつもりなんてなかった。ただ、早く帰ってほしかっただけなのだ。

「あーもう! 私のバカ! 私のバカ! 私のバカバカバカバカ!!」

 なんでこうなのだろう。いつもいつも、口を開けば相手を怒らせたり泣かせたりしてばかりな気がする。

 違うのに。本当は、優しくしたかっただけなのに。

 仲良くなりたかっただけなのに。

「……どうして素直に言えないのよ、バカ」

 項垂れたくもなる。何がどうしてこうなって、始業式の日からこう勘違いをさせてしまうのだろう。

「邪魔なんて思ってなかったのに……ただ、「用事があるなら帰ってもいいよ?」って言うだけでよかったのに……」

 何が「邪魔だから」だ。我ながら、照れ隠しにしても尋常ではない。数分前の自分を思いきり張り倒してやりたいくらいだ。

 けれど、項垂れて頭を抱えて、うだうだと言っていても時間は巻き戻らない。泣いて出て行ったゆうきも戻ってきてはくれない。

 めぐみの “本当” は、伝わらない。

「…………」

 昔から、「優しくない」と言われ、育った。

「どうして素直になれないの?」と不思議がられ、我がことながら損な人生を歩んでいるという自覚があった。

 変えたいと思ったのだ。

 素直になりたい。空回りしてばかりの優しさを相手に伝えたい。そう、思ったのに。

 また変わらない? 中学二年生になっても、ずっとこのまま? 大人になっても?

「……そんなの、やだ」

 崩れたままの書類の山が気になった。

 仕事を途中で放り出していくのも気が引けた。

 けれど。

「泣かせちゃったんだから、謝らなきゃ」

 まだ遠くには行っていないだろう。めぐみは資料室を飛び出した。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:29:09.69 ID:3zYuh2uB0

………………

「……ねぇ、ブレイ」

「グリ?」

「覚えてるニコ? 奴らがロイヤリティに現れたときのこと……」

「…………」

 しばしの沈黙。彼が何を考えているのか、なんとなくだが分かる。自分も同じだから。

 あの日のことを思い出しているのだろう。

「……そりゃあ、もちろんグリ。覚えてるグリ」

 先を歩く彼の表情はうかがえない。

「……何がいけなかったニコ。フレンたち、やっぱりおかしかったのニコ?」

「…………」

「どうして、“エスカッシャン” が奪われてしまったニコ……」

「そんなの……!」

 彼が立ち止まった。怒気をはらんだ声色に、思わず身体がすくむ。

「アイツらが悪いグリ……アイツらが、無理矢理に奪ったグリ! そして、ロイヤリティは、ブレイたち四人と紋章以外、すべて……っ」

 あの日、あのとき、あの瞬間。エスカッシャンが “奴ら” に奪われ、ロイヤリティから光が消えたあのとき。

 光の世界ロイヤリティ、その4つの王国、そして、臣民たちは皆、欲望の闇に飲み込まれたのだ。

「だからなんとかしないといけないグリ……ブレイたちが、なんとかしないと……」

「……そうニコね。フレンたちにしか、できないこと――」




「――それは違うな」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:29:53.06 ID:3zYuh2uB0

「ニコっ……!?」

 その男の声は、背後から聞こえた。

「お前たちにしかできないのではない。お前たち “には” できないのだ」

「こんなところまで追ってくるなんて……!」

 振り返った先、悠然と立つ中肉中背の男。

「ど、どどど、どうして、ブレイたちの居場所が分かったグリ……?」

 すぐ後ろでそんな声が聞こえた。震えて震えて聞き取るのがやっとといった、情けない声。

 先ほどまでの怒気をはらんだ声はどこへやら。彼が情けなく縮こまり、声を出しているのだ。

「簡単なことだ。お前たちが持つ紋章が、俺の持つエスカッシャンと反応しているというだけのこと」

「そんな……じゃあ、どこへ逃げても……」

「ああ。必ず見つけ出し、捕らえる。お前たちだけではない。残りの2匹も、だ」

「グリっ……」

 背後からがたがたと震える音がする。

 情けない。本当に情けない。これで勇気の国の王子だというのだから笑わせる。

「あーもう! いつまでも震えてないで、逃げるニコ! “弱虫ブレイ” !」

「よ、よよよ、弱虫って言うなグリぃ」

 彼女は弱虫と呼んだ彼の手を取り、よたよたと走り出した。もちろん自分の紋章を奪われるわけにはいかないが、弱虫の持つ紋章をみすみす奪わせるわけにもいかないからだ。

「……ふん。無駄なあがきを」

 よたよたと小さい足取りで、彼と彼女が曲がり角で消えていく。しかし男は余裕の笑みのまま、ゆっくりと歩き出した。

「お前たちは必ず捕まえる。そして、紋章を奪い取る……それが、我ら “アンリミテッド” の欲望だからな」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:30:31.28 ID:3zYuh2uB0
………………

 まさか泣いてしまうなんて自分でも思っていなかった。

「っ……」

 だらしなく制服の袖口で涙をぬぐいながら、ゆうきはただ走っていた。無心になりたかった。何も考えたくなかった。

 けれど脳裏に浮かぶ。めぐみのこと。めぐみの言葉。自分のこと。だめだめな自分のこと。逃げ出した自分のこと。

 それはもちろん、精一杯やった結果が、めぐみより仕事が遅く、めぐみの仕事を妨げ、自分の足下さえすくうというものなのだから、ひどいといえばひどいだろう。

 邪魔だと言われても仕方ないかもしれない。

 なのに、逃げ出した。書類の山だって倒したままだ。めぐみは今ごろ、ゆうきに呆れながら作業を続けていることだろう。

「……弱虫だ、わたし」

 ゆうきが弱虫だから。ゆうきが弱いから。だからめぐみの言葉が怖くなって、逃げ出した。

 もう中学2年生だというのに、泣き出して、それを見られまいと逃げ出した。

 きっとめぐみには泣いた顔を見られただろう。めぐみは今ごろ笑っているかもしれない。

「わたし、本当にだめだ……なんでこんなに弱いんだろ……――」



「――追いつかれちゃうニコ! 早くするニコ! “弱虫”」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:31:22.90 ID:3zYuh2uB0

「へ?」

 頭上から降りかかってきた声に反応する。“弱虫” という言葉が自然と耳に響いたのだ。

「ち、ちょっと待つグリ、フレン……こんなとこ、飛び降りるグリ……?」

 遅れて聞こえてきた、いかにも弱そうな声。ゆうきが少しだけおもしろいと思ってしまったことに、ヒステリックに “弱虫” と叫んだ声は小さな女の子のもので、弱そうな声は小さな男の子のものだった。

 声が聞こえてきたのは民家の屋根の上。ゆうきの位置からでは、声の主をうかがい知ることはできない。

「ああ、もう! 仕方ないニコね! 手を繋いであげるから、いっせーのーせ、で飛び降りるニコ!」

 いや、ちょっと待て。飛び降りる? ゆうきはほほえましい気持ちを振り払い、我に返る。よくよく考え直してみれば、小さな男女の声ではあるが、みょうに切羽詰まった声色ではなかったか?

「ちょっと! 飛び降りるって、危な――」

「――いっせーの、せ、ニコ!!」

「ぐっ……グリぃいいいいいいいいい!!」

 甲高い男の子の悲鳴に驚き、のけぞり、そしてゆうきは、ようやく彼らを認めることができた。

 屋根の上から落ちてくる、まるまるとした柔らかそうな物体。

 それには大きな目と口がついていて、小動物のように見えた。



 ――手を繋いだ二体のぬいぐるみが、頭上から落ちてくる。



 それも悲鳴つきで、だ。

「ひっ……!」

 情けない悲鳴をあげてはしまったが、ほとんど条件反射、ゆうきは丸々とした二体を両手で受け止めていた。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:32:38.39 ID:3zYuh2uB0

「な、なに……? なんなの?」

 小動物、だろう。ただし見たこともないような、不思議な動物だ。

 片方は、少し茶色っぽい。ふるふると震えるごむまりのような身体に、小さい手足が二本ずつ。ずんぐりむっくりした体型だが、偉そうに首もとにたてがみのようなものをはやしている。

 もう片方は、ほんのり青くて、おでこに豆粒のような角をはやしている。やはりごむまりのようにぷにぷに柔らかいが、震えてはいない。否、よく見てみれば、つぶらな瞳で、ゆうきを見返しているではないか。

「あんた、誰ニコ?」

「えっ……? わ、わたし?」

 青いぬいぐるみから放たれたのは、先の女の子の声だ。そのひどく端的な物言いに、驚くタイミングすら逸してしまった。

「わたしは……ゆうき。王野ゆうき。あなたのお名前は?」

「ふん、このフレンに名を名乗れだなんて、不遜もいいところニコね」 丸い身体で、ゆうきの左手の上で、偉そうにふんぞり返る青い方。「特別に教えてあげるニコ。フレンは、ロイヤリティの “未来を守る優しさの王女”フレン、ニコ」

「へ? へ? へ? 王女様?」

「ニコ。本当ならあんたみたいな一般庶民に名乗ることなんてありえないニコ! 感謝するニコ!」

「あ……そ、それは、どうも……ありがとう?」

 お礼を言っている場合ではない。

「いやいやいやそうじゃないでしょ!? なんでぬいぐるみが喋ってるの!?」

「ニコ!? 失礼ニコ! フレンはぬいぐるみじゃないニコ!」

 いやどう見てもぬいぐるみだ。ぬいぐるみが喋っているようにしか見えない。

「あ、頭混乱してきた……」 ふと気づく。もう片方、茶色い方はまだ震えている。「えっと……あなたは?」

「……?」

 涙目の茶色いぬいぐるみが、ゆうきの目を見つめた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:33:06.61 ID:3zYuh2uB0

「ブレイ、は…… “未来へ導く勇気の王子”ブレイ、グリ」

「ああ……あなたは男の子なのね」

「グリ……」

 フレンに比べると幾分も穏やかな目だ。その目に浮かぶのは、ありありとした恐怖だ。

「ニコ! こんなことしてる場合じゃないニコ! アイツが来ちゃうニコ!」

 と、フレンがいきなり騒ぎ出す。

「え? アイツ?」

「ちょうどいいニコ! あんた!」

「ゆうきだよ」

「ゆうき! フレンたちをつれて逃げるニコ!」

「え? え?」

「あー、もう! とろいニコね! 逃げろって言ってるニコ!」

 逃げろと言われても、どこに逃げろというのだろう。しかし、フレンの様子を見る限り、相当に切羽詰まっているようだった。

「いいから早くするニコ! アイツが来ちゃうニコ!」

「わ、分かったよ。あんまり大声出さないで」

 喋るぬいぐるみを持っているところを誰かに見られたりしたら、なんて言われるかわかったものじゃない。ゆうきはいそいそとバッグのジッパーを開き、そこにブレイとフレンを入れた。ひょこっと顔だけ出すような様子になってかわいらしい。

「どう? 痛くない?」

「ふん。庶民にしては悪くない乗り物ニコね」

「乗り物じゃないんだけどね……」

 言っても仕方ない。ふたりのサイズなら、ゆうきが持つバッグは立派な乗り物だ。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:34:16.15 ID:3zYuh2uB0

「それで? どこに逃げたらいいの?」

「そうニコね……どうしたらいいニコ、ブレイ」

「そ、そんなの分からないグリ……」

 震えは収まったようだが、ブレイはまだ伏し目がちだ。

「でも……あ、あの、ゆうき? ひとつだけ聞きたいことがあるグリ」

「なぁに?」

「ブレイは、勇気がある人を探しているグリ。心当たり、ないグリ?」

「勇気のある人?」

 勇気。よく知っている言葉だが、実際に使うとなると話は別だ。ゆうきは平和な女子中学生。勇気なんて言葉、日常で聞くことすら希だ。

「うーん……よく分からないけど……」

 少なくともわたしは当てはまらないね、と。先ほどの事を思い出しての自虐は、心の中でだけにする。

「勇気のあるひとを見つけて、どうするの?」

「それはもちろん、ロイヤリティを救ってもらうグリ!」

「ロイヤリティ?」

 そういえば、さっきもフレンがそんな言葉を使っていたような気がする。

「うん……ブレイたちの住んでいた世界のことグリ。ロイヤリティ、光溢れる、ブレイたちの楽園グリ……」

「住んでいた? それって……」

「……滅ぼされたニコ」

 ブレイの言葉を継ぐように、フレンが口を開いた。

「奴らの、手によって……」

「奴ら……?」

 ――噂をすれば影がさす。

「っあ……」

 ゾワリ、と。身体の中の何かがずれたような、得たいの知れない感覚がゆうきを襲った。

 何かが、来る。



「そんなところに隠れていたか、勇気の王子、そして優しさの王女」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:35:07.97 ID:3zYuh2uB0

 それは何の変哲もない男の声。けれど何か異質で、何か恐ろしくて、何か妙だった。

 振り返ってはいけないと心が警告を発していた。けれど、ゆうきは振り返らずにはいられなかった。

「人間の手を借りるか。ロイヤリティの王族も落ちたものだな」

 それは普通の男性のように見えた。けれど視界に入れた瞬間、ゆうきには何となくわかった。

 これはいけない。これはダメだ。あれは、正常な存在ではない。

「さて、お嬢さん。その2匹を渡してもらおうか」

「あ、なたは……誰? 何者、なの?」

「うん? 姿は君たち人間と同じにしてあるはずだが、どこかおかしいだろうか?」

「ゆうき、逃げるニコ! アイツに言葉なんて届かないニコ!」

「ふん。亡国の姫がよく吠える。いいだろう」

 春の陽気だというのに、どこか心が薄ら寒い。身体中から冷や汗が流れて止まらない。

(なに? 何これ? 何なの……?)

 男が天に向け腕を大きく掲げた。そして、大空へ向かい声高らかに叫んだ。



「出でよ! ウバイトール!!」



 青空が闇に沈む。視界が暗いモノクロに支配される。

 まるで、世界から色という価値を根こそぎ奪い取るように。

「な、何!? 何が起きてるの!?」

 天が割れる。ぽかぽかと暖かい太陽もきれいな青空もふかふかと柔らかそうな雲も、すべてまとめて。

 そしてその割れ目から、“何か” が現れる。

「何……あれ?」

 それはとてもおそろしいものだと、ゆうきには何となく分かった。黒々とした何か。それはまるでヘドロのように汚らしく大地に落ち、そしてヤドリギのように電柱にくるくると絡みついていく。

「邪悪なものが生まれるニコ……欲望に満ちた、とても邪悪なものニコ……」

「ダメ……だめグリ。また、ロイヤリティみたいに……この世界も、奴らの闇の欲望に、飲み込まれてしまうグリ……」

 そして、生まれる。



『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:36:10.16 ID:3zYuh2uB0

 それは、闇の産声。

 この世界のすべてを欲する、雄叫び。

 邪悪な存在の、誕生だ。

「……さぁ、これで減らず口も叩けまい。おとなしく来てもらおうか、王子、王女」

 電柱ほどの大きさもある怪物。それはあまりにも陳腐で、ステレオタイプな化け物だった。

「……っ!」

 覚悟を決めるために、2秒。

 決断するのに、もう1秒。

 最後に、実行するのに、ほんの少し。

「ブレイ! フレン! しっかり掴まっててね!!」

 怖かった。けれど、そうしなければならないと思った。

 だからゆうきは、男と怪物に背を向け、全速力で走り出した。

「なにっ……」 背後から、男の声が響いた。「追え、ウバイトール! 王子と王女以外は潰してしまって構わん!」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 地響きがした。振り返らずとも分かる。あの怪物が、他でもない自分を追ってきているのだ。

「ゆうき……?」

「逃げるって、アイツらからだね?」

「そ、そうグリ。けど……」

「ば、ばか! これ以上関係ないあんたを巻き込むわけにはいかないニコ! 早くフレンたちを置いて逃げるニコ!」

「やだよ」

「ニコ!?」

 ゆうきのにべもない言葉に、フレンが素っ頓狂な声を上げる。

「バカなのニコ!? ううん、あんた本物の馬鹿ニコ!」

「はは、そうだね。でも、あなたたちを置いていくのはいやなんだ。なんとなく、あなたたちを助けてあげたいって思ったから」

「なんとなくって……意味わかんないニコ!」

 そんなのフレンに分かるわけもないだろう。なんせ、ゆうき本人にだって分からないのだから。

 けれどそんな決意をしたところで、ゆうきの身体が強くなるわけではない。だんだん息が上がってくる。

「あっ……あそこに隠れるよ!」

 道路の横に現れた児童公園。ゆうきは半ば頭から突っ込むように、その生け垣に飛び込んだ。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:37:52.74 ID:3zYuh2uB0

「ふぅ……なんとか隠れられた、かな?」

「……でも、アイツは、優しさのエスカッシャンを持ってるニコ。隠れても、きっと居場所がばれてしまうニコ……」

「エスカッシャン?」

「宝物みたいなものニコ」

 どこかよそよそしくそう言うと、フレンはピョンとひと飛び、ゆうきのバッグから飛び降りた。

「フレン? どうしたの?」

「……ふん、庶民にこんなこと頼むのは癪だけど、ブレイのことをお願いするニコ」

「えっ……? ち、ちょっとまって。それって、どういう……」

「あの男はフレンの居場所が分かるニコ。だから、ひとまずフレンだけ捕まれば、ブレイとあんたは逃げられるニコ」

「!? フレン……何を言い出すグリ!」

 ブレイも鞄から飛び降りた。フレンと違って、鈍くさくごむまりのように地面に弾む。

「ブレイにフレンを売って逃げろっていうグリ!?」

「ニコ? 敵の前じゃ震えて動くことすらできない “弱虫” のくせに、よくそんな口が叩けるニコね」

「グリ……そ、それは……」

「フレンが捕まれば、ひとまず満足してアイツは去るニコ。癪だけど、あんたはその間に見つけるニコ…… “伝説の戦士” を」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:38:45.77 ID:3zYuh2uB0

「で、でも!」

「うるさいニコね! “弱虫ブレイ” のくせに口答えするなニコ!」

 フレンは必死になっていた。ブレイのことを馬鹿にしてでも、嫌われてでも、ブレイを助けたいと思っているのだろう。

 けれど、

「――ああそうグリ! ブレイは弱虫グリ! “弱虫ブレイ” グリ!」

「!」

 ブレイの言葉に、フレンが身を震わせる。

「フレンに弱虫って呼ばれるのが嫌だったグリ。勇気の国の王子のくせに、いつもいつも情けなくて、とてもとても嫌だったんだグリ」

「…………」

「でも、だから変わりたいグリ! ブレイは! 本当の……本物の、“未来へ導く勇気の王子” になりたいグリ!」

「っ……だったら! だったら、今は逃げて、伝説の戦士を見つけるニコ! そうすれば――」



「――フレンを置いて逃げて! それのどこに勇気があるグリ!」



 ブレイがフレンの手をつかんだ。

「絶対に離さないグリ! それでも捕まりたいっていうんなら、ブレイも一緒に捕まってやるグリ!」

「……っ、ばか! ブレイのバカ! 馬鹿ブレイ! 大馬鹿ブレイ!」

 どうやら一件落着したようだ。フレンは大声でブレイを罵りながら、けれどどこか嬉しそうだ。

 しかしまだ脅威が去ったわけではない、ゆうきは生け垣の隙間から道路の様子をうかがった。

 幸いにしてまだ電柱の怪物は見えない。しかし、代わりにとんでもないものが見えた。

「うそ……!?」

 驚いたなんてものじゃない。世界の意地悪! と叫んでしまいたいくらいだった。


 道路には、何かを探すように周りを見回す、めぐみの姿が見えたのだ。


 もう、何を考えている暇もなかった。

「ブレイ! フレン! あなたたちは先に逃げていて!」

 ふたりにそう告げると、ゆうきは生け垣から飛び出した。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:39:59.21 ID:3zYuh2uB0

………………

「何……? 昼間なのに、暗い……?」

 それは唐突に訪れた異変だった。曇っているわけではない。現に青空は見えている。

 けれどその青空そのものが薄暗く、まるで作り物の空のようだった。

 考えてみれば人もいない。昼間の住宅街に人は少ないが、それでもこんなに閑散としているのは異常に思えた。

「……早く、王野さんを見つけて、謝らなくちゃ」

 ふと、身体に振動を感じた。地震にしては小さい。工事にしては、そんな音は聞こえない。単純な、ずしんずしんという衝撃。それはまるで、何か巨大なものが歩いているような音。

「……何?」

 嫌な予感がする。ぞくりと、背筋に冷たいものが走る。



『――ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』



「きゃっ!?」

 ズドン! と。大きな衝撃がめぐみを襲った。

 目を閉じて頭を抱え、そして腕の隙間から、薄目を開けた。

「電柱……?」

 しかし、薄目ではよくわからない。恐怖と好奇心が戦って、好奇心が勝利した。めぐみはおそるおそる、目を開いた。

 道路の真ん中に、電柱が立っていた。

 地面に突き刺さっているのではない。電柱が手足を出して、立っていたのだ。

「ひっ……!?」

「ふん、妙だな。ただの人間がこの位相に迷い込んだか」

「だ、誰……!?」

 本音を言えば、怪物でなければ誰でもいいという心境だった。すがるような思いで声がした方を向くと、何の変哲もない黒衣の男が立っていた。

 けれど、一目でわかる。その男は、決して良い存在ではない。

「まぁいい。邪魔なだけだな。潰せ、ウバイトール」

『ウバイトォォォオオオオオオオオオル!!』

 身体が動かない。電柱の怪物が細長い腕を振り上げる。

(あ、だめ、これ、私、)

 そして、勢いよく振り下ろされ――――



「――――大埜さん!!」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:41:27.23 ID:3zYuh2uB0

 身体に衝撃が走った。それはけれど、どこか優しく、自分をいたわるような……守ってくれたような、そんな感じがした。

 何が起きたのかはまったく分からなかった。気づけば、めぐみは何かにのしかかられながら、アスファルトに倒れていた。

「えっ……王野さん!?」

「よ、かった……間に合ったぁ……」

 めぐみは頭の回転が速い。倒れる自分を抱き抱えるようにのしかかるゆうき。それを見ただけで、何が起こったのかを瞬時に理解したのだ。

「あなた……私を突き飛ばして、助けてくれたの?」

 つまり、あの怪物に身体がすくみ動けなかった自分を助けるために、無理矢理突き飛ばしてくれたのだろう。

 この、王野ゆうきというクラスメイトが。

「はは……ごめんね。痛かったでしょ?」

「そ、そんなことない!」

「そっか……よかった……痛っ」

 ゆうきが苦悶に顔を歪ませた。足を押さえている。

「王野さん!? その傷……!」

「はは……わたしって、ドジだからさ。やっぱりカッコ良く助けるなんてできないね」

「な、何を言ってるの! こんな、私なんかを助けるために、怪我するなんて……」

 胸の奥に熱いものがこみ上げてきた。喋ることすらままならない。気づけば、視界すら揺らめいていた。

「なんで、こんな……!」

「はは……ごめんね、大埜さん」

 自分を突き飛ばすときに思い切りアスファルトにこすりつけたのだろう。ふくらはぎが真っ赤になっていた。

「謝らないでよ! 王野さんは何も悪くないんだから……何で、こんなムチャをしたの……」

「……なんか、助けなくちゃって思ったんだ」

 ゆうきは、何でもないことのように笑って。

「さっきは、逃げ出しちゃってごめんね。わたし、臆病だから、逃げちゃったんだ」

「ちがう……謝るのは私。私、あなたが今日、おうちの用事があるって知ってたの。休み時間の話、聞いてたから……。だから、早く帰ってもいいよって、ただそれだけ、あなたに伝えたかった……なのに、私、優しくないことばかり言っちゃって、あなたを傷つけた。ごめんなさい……」

「……そっか、そうだったんだ。優しいね、大埜さんは」

「王野さんこそ、勇敢だわ。こんな怪我をしてまで、私を助けてくたんだから」

 めぐみは立ち上がり、ゆうきに手を差し出した。ゆうきは小さくうなずくと、その手を取った。



 ――――その瞬間、つないだ手から小さな光が生まれた。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 10:42:33.58 ID:3zYuh2uB0

「な……何……?」

 困惑もするというものだ。光は瞬く間に身体中に行き渡り、今や全身からまばゆいばかりの光が発せられているのだから。

「これは、一体……」

 心地良い。まるで身体中が優しい何かに包まれるような、そんな感覚。

 お日様のようにぽかぽかと、しかし照明のように鮮烈に、ふたりの身体を包み込んでいく。

「見つけたグリ……!」

 傍らで声が聞こえた。ブレイがやってきたのだ。

「ブレイ!? こ、こら! 先に逃げてって言ったでしょ!?」

「そんなこと言ってる場合じゃないグリ! やっと、見つけたグリ! 勇気ある、伝説の戦士を!」

「フレンも、やっと見つけたニコ!」

 ブレイに続いて、フレンも生け垣から飛び出してやってくる。

「優しさある、伝説の戦士を!」

「な、なに!? なにこのぬいぐるみ!? 喋ってる!?」

「話は後ニコ! あんたの名前を教えるニコ!」

「わ、私? 私は……めぐみ。大埜めぐみ」

「ニコ。なかなか良い名前ニコね」 混乱するめぐみをよそに、フレンは悠然と続ける。「フレンの名前はフレン。優しさの国の王女ニコ!」

「は、はぁ……?」

「……そこにいたか、王子、王女」

 話の途中だったが、わざわざそれを待つような相手ではない。欲望の戦士はウバイトールの横からブレイとフレンを嘲笑する。

「臆病な勇気の王子と冷血な優しさの王女のことだ。てっきり、その人間を囮にして逃げたのかと思ったが」
1111.54 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)