佐藤心「アホ毛?」小日向美穂「『ドリーミン・アーチ』ですっ」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/08(金) 23:51:50.65 ID:hThW4423o
モバマスSSです。60レスくらい、地の文多め。

本作の小日向美穂には初期状態でアホ毛がありません。

登場人物:小日向美穂、佐藤心、ほか


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1512744710
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/08(金) 23:52:35.29 ID:hThW4423o

――――――

「『アホ毛ができるコンディショナー』?」

 小日向美穂が雑貨屋で目にしたのは、そんな文言だった。

 棚に並べられたボトルについた、なんとも間抜けなフレーズ。

 しかし彼女はそれに心奪われていた。

 棚の傍らには鏡が据え付けられている。

 美穂はそこに映った自分を見て、思う。

(私にもアホ毛があったら……あの人みたいに堂々と立っていられるのかな)

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/08(金) 23:53:31.46 ID:hThW4423o

――――――
――――

 小日向美穂は悩んでいた。


 彼女は憧れを抱いて熊本から上京し、ある芸能事務所が運営するタレント養成所に籍を置いているアイドル候補生だ。

 日々のレッスンは苦しくも楽しい。

 時折、小さなイベントのダンサーやドラマのエキストラとして駆り出されたりすると、期待されている気がして嬉しかった。


 だが、そんなささやかな自己満足をあざ笑うかのように、現実を突きつけられることがある。

 例えば、他の候補生がデビューを勝ち取り、養成所から卒業した時。


 うらやましいのはもちろんだが、何もそればかりではない。

 デビューできることは単純にすごいと思うし、養成所に通っていることは間違いじゃない、と励みにもなる。

 ただ、どうしようもなく、焦りが募った。

(もう、高校二年生なのに……私はまだ、ここにいる)

 一般人なら、卒業後の進路も視野に入れなければならない。

 このままデビューできないのなら、先のことは両親とも話し合って考えなければならないだろう。

 猶予がどれくらいあるか、考えたくない。そして、考えるまでもなく、それほど残っていないのは分かっていた。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/08(金) 23:54:16.75 ID:hThW4423o

(私がデビューするには、何が足りないんだろう?)

 鏡の前で自分と向き合ってみる。

 見た目は決して悪くない……と、思う。

 童顔だが整った顔立ちで、癖のない黒髪のショートボブには清潔感がある。

 スタイルは可もなく不可もなし、といったところ。

 確かに見た目は悪くない、が、何かが抜群に優れているわけでもなかった。


 一方、真面目な性格であるため、レッスンを気分で休むようなことはしたことがない。

 ダンスも歌も、それなりにやれるようになったつもりだった。演技や表情の作り方だって、養成所の先生に誉められることがある。

 小さな仕事であっても、やってみないかと言われるからには、相応の実力はついているはずだった。


 ……実はそれもまた、考えるまでもなかった。

 彼女はとっくに知っていた。

 全ての原因は、自分の心にあることを。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/08(金) 23:55:24.05 ID:hThW4423o

 端的に言えば、美穂は恥ずかしがり屋であがり症なのである。多くの視線に晒されると途端に動きに精彩を欠くのだ。

 体はこわばり、顔は真っ赤になって引きつって。

 レッスンのたまものか致命的なミスこそしなかったが、本番と名の付く場で褒められたパフォーマンスはできていなかった。


 自信がないから、恥ずかしくなるのか。

 恥ずかしいから、自信が持てないのか。

 どちらにせよ悪循環である。


 だから、小日向美穂はいまだにアイドルになれなかった。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/08(金) 23:56:15.06 ID:hThW4423o

 そもそも美穂が養成所に通っているのは、アイドルになりたいというよりはあがり症をどうにかしたいというのが発端だった。

 しかし、なかなか症状は改善されず、養成所の期待にも応えられていない。

 そのくせ、場数を踏むほどにアイドルになりたいという欲は膨らんでいく。


 注目を集めると羞恥と緊張が前面に出てしまうが、根っこの部分には気の強さが潜んでいる。

 なんとも難儀な性分だが、そうでなければ親元を離れてこんな無謀を続けているわけもなく。


 ――とはいえ、いつまでも悠長に夢を見ているわけにもいかないのだ。

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/08(金) 23:57:13.71 ID:hThW4423o

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「小日向さん、ライブのバックダンサー、やれそう?」

 ある日のレッスン後、美穂はダンスの先生から声をかけられた。

「は、はいっ、ぜひ」


 美穂はたびたびこうして指名を受け、イベントなどに出演している。そこで関係者の目に留まることが、美穂にとってはデビューの可能性が最も高いはずだった。

 何しろ、彼女はオーディションがてんで苦手だからである。

 そういう場で口を開けば、どもったり噛んだり声が裏返ったり、歌を歌えば歌詞が飛んだり。

 それに比べれば、声を発しないダンサーやエキストラの方がまだ実力を発揮しやすかろうというわけだ。

 そんな配慮をしてまで目をかけてくれる養成所に、なんとか結果で報いたいと思ってはいるのだが。


「よかった。じゃあ打ち合わせの日時が決まったら教えるから……それと、これ。紛失注意」

 美穂は事務所の名前が刷られた封筒を受け取った。

「直近の映像ね。こんな大きなステージじゃないけど」

「あ、あのっ、それで、メインはどなたなんでしょう?」

「ああ、言い忘れてた。佐藤心、知ってる? 『しゅがーはぁと』」

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/08(金) 23:59:14.22 ID:hThW4423o

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 映像の内容は、事務所主催のアイドルフェスだった。


『いぇーい♪ みんなのハートをシュガシュガスウィート☆ ここからはスウィーティーなはぁとのステージだよぉ☆ こらそこ寝んな☆』

 イントロとともにステージ袖から登場したのは、ファンシーとかメルヘンチックとかとひと言で表現するのは難しい、独特のポップさがある衣装に身を包んだアイドル。

『しゅがーはぁと』こと佐藤心である。

『初っ端からフルパワーフルシュガーでいくからマジで見逃しちゃダメだぞー☆ こちとら命燃やしてんだからな!』

 二十代半ばにしてボリュームあるツインテールを振り乱しながら歌い踊る姿は、見た目のぶりっ子感からは想像もつかない、パワフルなものだった。


 続けざまに二曲歌い終わると、MCの時間だ。

 ポーズなのか本気なのか、膝に手をつき肩で息をする佐藤心。

 観客から応援の声が飛ぶ。

『っはー……フェスだからって張り切りすぎちゃった☆』

 顔を上げてまっすぐ立った姿を見た時、美穂はそこに自分にないもの全てがあると感じた。

 派手な衣装がよく似合う、長身とメリハリのあるスタイル。

 明るい色のロングヘアをツインテールにし、頭頂部からは愛嬌のあるアホ毛が飛び出していて。

 そして見る者を魅了する、とびきりの笑顔。

 何もかもが見られることを意識し、魅せるために仕上げた作品のようだった。

(私も、こんなアイドルになれたら)
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 00:01:33.70 ID:Exyht1QWo

『みんなぁ、気分はどーお?』

 スウィーティー、と怒号のようなレスポンス。

『ありがとー☆ はぁとも、ちょースウィーティーだぞ♪』

 堂々とした立ち居振る舞いで、流れるようにトークが進んでいく。

『――はぁとってデビューが遅かったから、こーゆーフェスとかで十代の子と一緒に出ると浮いちゃうかもって思ったりもするんだけどー……おい今どこでも浮いてるって思っただろ☆』

 さっきはバテたように見せていながら、喋るとなれば息切れを感じさせないし、もちろん緊張で震えてもいない。

 自分だったらきっと、頭が真っ白になってまるで話せないだろう、と美穂は思った。何しろ、映像に映る観客の姿を見ているだけで手汗がにじんでいるのだから。

『――でもなんだかんだ言って、アイドルになれなかったのより、一億倍は幸せだし? 一億人にスウィーティーお届けしてるし! 返品不可だしーっ!』

 その場のノリだけで意味が無いような話でも、ひと言ずつに歓声が上がり、会場のボルテージも上がっていく。

 それも才能なのだろう。照れや恥じらいがあっては――自分では、きっとこうはいかない、と美穂は思う。

 勢いのまま最後の曲を歌いきり、喝采を浴びながらステージをあとにする佐藤心。

 しばらく拍手と歓声が止まないまま、映像はそこで終わった。


 それでも、美穂の拍手はまだ続いていた。

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 00:04:02.45 ID:Exyht1QWo

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 日曜日、美穂は事務所を訪れていた。

 ミニライブのスタッフの顔合わせが行われたのだ。そしてそのまま、各々の打ち合わせに入っていた。


 美穂達バックダンサーも、ダンストレーナーと打ち合わせをしている。

 バックダンサーは美穂を含め四人。中にはすでにデビューが決定している子もいた。


 佐藤心は来ていない。彼女のプロデューサーだという男性の説明によれば、グラビア撮影が入っているため、顔合わせには来られないということだった。

 ライブは四週間後の日曜日。昼夜二回の公演だ。


 スケジュールをメモしていると、出入口のドアをノックする音が聞こえた。視線が集中する。

「みんな、やってるー? しゅがーはぁとのお出ましだぞ☆」

 入ってきたのは、佐藤心だった。

 少女達は、誰ともなしに「わあっ」と声を上げた。

「佐藤、もう撮影終わったのか?」

「プロデューサー、現場じゃはぁとって呼べよ☆ アイドルのモチベ維持も仕事だろ☆」

「はいはい、で、どうだった」

「いや〜、今日は冴えてたわ、マジで☆ カメラマンさんとの呼吸バッチリ、時間巻きまくり♪」

「それは素晴らしい。でも来るなら事前に連絡してほしかったんだが。もし行き違いになってたら――」

 佐藤心は、プロデューサーの苦言を知らんぷりして美穂達に目を留めた。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 00:05:02.31 ID:Exyht1QWo

「あなた達が一緒に踊ってくれるの?」

「は、はいっ!」

「まったく……佐藤、今日はそろそろ解散するつもりだったけど、せっかくだからその子達にひと言頼むよ」

 佐藤心はプロデューサーをひと睨みしつつも、美穂達には笑顔で、持っていたトートバッグを掲げて見せた。

「ふっふーん♪ じ・つ・は、はぁとからみんなにプレゼントを用意してるの☆」

 彼女は面食らったままの少女達に笑いかけると、一番端にいた美穂の前に立った。

「名前、聞かせてくれる?」

「ひゃいっ」

 心臓が飛び出そうだった。今まで、もっと有名なタレントにだって挨拶したこともあるが、それとは別種の緊張感である。

「こ、こひっ、小日向美穂ですっ」

「美穂ちゃんね、ヨロシク☆ んー、きれいな黒髪してるから、これなんてどうよ?」

 佐藤心は、バッグから何かを取り出した。

 それは、ピンク色を基調にリボンをあしらったカチューシャだった。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 00:06:06.04 ID:Exyht1QWo

「ちょっと失礼……☆」

 佐藤心は動悸が収まらないでいる美穂の頭に、手ずからカチューシャを着けてくれた。

 ほのかに甘い香りがして、美穂の頬がさらに紅潮する。

「おっけー、とってもスウィーティーだよ、美穂ちゃん♪」

 美穂は、コンパクトの鏡に映った自分に思わず見とれてしまった。

「これ、本番でも着けてね☆ そしたらもう、はぁとと一心同体だからさ♪」

「い、いいんですか?」

「むしろ頼むよ、マジで☆ せっかくはぁとがアレンジしたんだからさ☆」

「え、ええっ」

 美穂は感激のあまり悲鳴じみた声を上げてしまった。

「佐藤、そんな暇あったのか?」

「こないだからちょこちょこ、ね☆ こちとら支えてもらってナンボっすから☆」

「腰を?」

「蹴るぞコラ☆」

 佐藤心はプロデューサーと気の置けないやり取りをしつつ、他のバックダンサーにもリボンやシュシュなどをプレゼントした。


「――ってーワケであらためて、これから本番までヨロシクね♪」

「よろしくお願いします!」

 美穂は、ますます佐藤心の虜になった。この人のために全力を尽くしたい、その気持ちでいっぱいだった。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 00:07:36.81 ID:Exyht1QWo

――――――

 養成所の、スタッフの、そして何より佐藤心の期待に応えたい。

 そんな情熱が美穂の中に渦巻いていたが、あいにくレッスンルームに空きがないため、この日はそのまま解散せざるを得なかった。

 美穂は気持ちを持て余して、帰り道も上の空だった。

 自分に何ができるのか、何をすればいいのか、そんなことをつらつらと考え――

(とにかくこのカチューシャに少しでも見合う私にならなくちゃ。でないと、自信持ってあの人の後ろに立てないもの)


 共演する他の女の子達は、みな私服のセンスや化粧の腕が自分よりずっと優れているように思えた。

 ステージ上では同じ衣装とメイクとはいえ、オシャレに関して未熟ということは、いくら飾ってもらっても見せ方がわからないということになりかねない。

 それでは、みんなに比べて見劣りしてしまうだろう。そうならないよう、一歩進んだ自分にならなくては――そんな結論に達していた。

(それはそれで、目立っちゃってもっと緊張しちゃうかもしれないけど、なんてね)

 そんな、葛藤というのもおこがましいような美穂の思考に、ふっと何かが割り込んだ。

「……?」

 立ち止まって辺りを見回すと、一軒の店が目に入った。

 それは、『ファッション&インテリア』を看板に掲げる雑貨屋だった。

(最近できたお店なのかな?)

 何度か通ったことのある道のはずだが、こんな店があるとは知らなかった。

 しかし、芸能事務所の近くにあるなら、そのセンスも信頼できそうな気がする。

 美穂はその店に入ってみることにした。

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/09(土) 00:08:46.65 ID:Exyht1QWo

――――――

 ドアを開けると、爽やかな香りのする空気が美穂の顔をなでていった。

 やはり若い女の子向けの店のようで、内装も商品も全体的に明るくファンシーな傾向だ。

 美穂は雑貨屋でいつもするように、可愛いクマがデザインされた小物でもないかと物色し始めた。


 そうして幾つかの棚を巡っていると、今度ははっきりと感じた。

 店内全体のものとは違う、ほのかに甘い香り――さっき道端で、さらにその前に佐藤心から感じたものと同じような。

 フラフラとその源を探って歩くうちにたどり着いたのは、シャンプー類が陳列された棚だった。

「いらっしゃいませ」

 不意に背後から声をかけられ、美穂は白昼夢から覚めたようにビクッとした。

「何かお探しですか?」

 振り向くと、パステルカラーのエプロンを着けた店員が、にこにこしながら美穂を見つめている。

 柔和そうな女性の様子を見て、美穂はほっと緊張を解いた。

「い、いえ、あの……いい香りがするなーって思ったんです、けど」

「あら、どんな香りでした?」

「ええっと」

 その時、ひときわはっきりと香りを感じて、視線が吸い寄せられるようにそちらへ向いた。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/09(土) 00:09:53.96 ID:Exyht1QWo

 棚に飾ってあったのは、ヘアコンディショナーのボトルだった。

 そう、確かにそれは『飾ってあった』。

 店内の雰囲気にそぐわないくらいに過剰なポップやパンフレットが周囲を彩り、いやでも目を引くようになっていたのだ。

「……『アホ毛ができるコンディショナー』?」

 一番目立つフレーズを、自然と読み上げていた。

「そちら、気になりますか?」

「え、あ、あのっ……」

 美穂は独り言を聞かれてあわてたが、店員は気にしたふうでもなく続けた。

「そちらのコンディショナー、『Dreamin' Arch(ドリーミン・アーチ)』というんですが、使い続けると一部の髪の毛に跳ね上がるような癖がつくという、一風変わった商品なんです」

 何の意味があるんだろう、と思いかけたが、店員の次の言葉にその疑問は吹き飛んだ。

「アイドルの佐藤心さん――『しゅがーはぁと』って言った方が通じます? 彼女もこちらの愛用者なんですよ」

 店員は驚く美穂にパンフを見せた。

『あのしゅがーはぁとも愛用!』のコピーとともに、アホ毛が目立つ角度の佐藤心の写真が何枚か掲載されている。

(あの人が……これを?)
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/09(土) 00:13:05.94 ID:Exyht1QWo

「アホ毛を作ることでわかりやすいチャームポイントができるというのが主なメリットなんですが、他にも視線を誘導することで人に直視されにくくなった、という声もあるみたいですね」

「視線を誘導?」

「はい。アホ毛と言っても一本二本とかでなく、束になって出来上がるので、結構目を引くんですよ」

 確かに、と美穂はパンフの写真を見ながらつぶやいた。

「それに、頭の動きにつられて揺れるのがまた可愛くて、見てる人はつい目で追っちゃうんですよね。だから、他人の視線が気になる方やあがり症の方などにも愛用していただいてるんですよ」

「こ、これであがり症を克服できるんですか?」

 美穂が思わず食いつくと、店員は苦笑した。

「私は専門家ではありませんが……克服はともかく、真っ向から視線が合わないというだけでだいぶ気が楽になるみたいですね」


 理解できない話ではなかった。

 過去にも美穂は、着ぐるみを着るイベントであまり緊張しなかった覚えがある。

 その時は、主に小さな子を相手にしていたから大丈夫だったのかと思っていたが、直接自分を見ているわけじゃないということこそが重要だったのかもしれない。


 美穂は、棚の傍らに据え付けてある鏡に目をやった。

 そこに映った自分を見て、思う。

(私にもアホ毛があったら……あの人みたいに堂々と立っていられるのかな)

 カバンから、佐藤心にもらったカチューシャを取り出し、あてがってみる。

「あら、可愛いカチューシャですね」

「こ、これにアホ毛って、似合うでしょうか?」

「ええ、とっても」

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/09(土) 00:14:19.98 ID:Exyht1QWo
とりあえず一区切りです。続きは後日。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/09(土) 04:43:38.29 ID:NdQfu33ko
こんな秘密があったのか
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 09:45:05.69 ID:gS2CPF6DO
さくらんぼの(ry
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/12(火) 00:23:50.09 ID:OVqY+9yEo
再開します。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/12(火) 00:24:32.59 ID:OVqY+9yEo

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 ボトル一本で、ショートヘアなら二ヶ月分。アホ毛は二週間ほどででき始め、一ヶ月ほどで完成する――『ドリーミン・アーチ』のパンフレットにはそう記してあった。

 つまり、しゅがーはぁとのライブの頃には、ほぼできあがっているということになる。

 美穂は期待と不安を胸に、その晩から新品のコンディショナーを使い始めた。


 果たしてきっちり十五日目の朝に、変化は起こった。

(あ、寝癖ついてる)

 頭のてっぺんにほど近い部分の髪の毛が、根元から少し持ち上がっていた。

 ブラシを通すと他の髪に紛れたのでそのまま学校に行ったが、翌朝になるとまた同じ癖がついていた――しかも、心なしか昨日より大きく。

(これ、やっぱりあのコンディショナーの効果だよね? ……うう、なんだかほんとに目立つかも)

 触った感じは、癖がついただけの普通の髪の毛である。

 しかし昨日と違って、いくらブラシを通しても水で濡らしても、いつの間にか元通りになっていた。

 観念してそのまま学校に行ったが、友人に一度指摘されたきり、特に目を引くことはなかった。

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/12(火) 00:25:10.56 ID:OVqY+9yEo

――――――

 さらに数日、アホ毛はその束を太くし、角度も上がり、ますます立派になっていた。

「美穂ちゃん、また髪ハネてるよ」

 友人が美穂の頭を指差す。

「あ、あはは……」

 美穂はいつものように曖昧な笑顔だけで返事する――ところが。

「ヘアピン貸そっか?」

「う、ううん、大丈夫……実は、わざとなの」

 言うはずのなかった言葉が口をついて出た。

「『しゅがーはぁと』のミニライブにバックダンサーで出るの。だから、お揃いにしてみようかなって」

「えっ、すごいね! おめでとう」

 美穂は内心焦った。

 自分がタレント養成所に通っていることは、(上京した理由でもあるので)学校でも一部の教師や友人は知っているが、具体的な話となると恥ずかしくて、はぐらかしてばかりだった。

 なのに、問わず語りに自慢じみたことをするなんて――美穂は自分で自分が信じられなかった。


 そんな経験をいくつか重ね、美穂は自分の心持ちが前向きに変化しつつあるのを感じていた。

 アホ毛に注目されたり、あまつさえ面と向かって指摘されたりしたら、結局は恥ずかしさで動転してしまうのではと心配していた。

 しかし、覚悟ができていたのだろうか、逆に気が楽だったくらいだ。

 自慢めいた軽口で受け流したりするし、うまく視線が誘導された時には、してやったりと感じる余裕まである。

 雑貨屋で聞いた通り、気の持ちようが変わったことで少し強くなれたのかもしれない。

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/12(火) 00:25:44.46 ID:OVqY+9yEo

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 週に一度、ライブに向けたレッスン日が設けられている。

 しかしこれまで一度も佐藤心は来られず、全員で合わせるのは本番前日からになってしまった。

 佐藤心にアホ毛を見てもらえないのは残念だったが、まだ未熟なダンスを見せるのも恥ずかしい。美穂は邪心を忘れてレッスンに打ち込んでいた。


「――じゃあサビの前から、もう一回やってみようか」

「はいっ」

 トレーナーのひと声で、つかの間の休憩を終えた美穂達バックダンサーは立ち位置へつく。センターには、佐藤心の代わりとしてもうひとりのトレーナーが立った。

 これから練習するところには、決まった振り付けがない、いわゆるフリーパートが含まれている。間奏中、自由に踊りながらステージ上を歩き回ることになっているのだ。

 もちろん自由とは言っても、佐藤心はじめ他のメンバーの動きに気を配らなければならない。

(ステージを広く使って、振りも大きくして……お客さんに笑顔を向けるのも忘れない)

 美穂は頭の中で要点を復唱した。どれもこれも、周りに注意を払うあまりおろそかになりがちなのだ。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/12(火) 00:27:11.95 ID:OVqY+9yEo

 トレーナーの手拍子に合わせて踊り始める。

 フリーパートに入った。動き出しだけは決めている。まずは上手側に――


<下手側に向かうんだ!>


 不意に、頭の中に声が響いた。

 美穂は、それが何だと思う余裕もなく、その言葉通りに一歩を踏み出した。

 すると、佐藤心役のトレーナーも、同じく下手側に歩き出していた。


<その距離感をキープだ。ほら、腕をもっと伸ばして!>


 誰のものとも知れない声が、矢継ぎ早に指示を出す。

 それは、美穂に戸惑いもためらいを抱かせず、反射的に彼女の体を動かし続ける。


<今だ、一緒にアピール!>


 トレーナーと美穂は、同時に客席側に向かってポーズを決めた。

(わっ、き、決まった! 私、調子いいのかなっ)

 美穂の中で満足感があふれ、思考が止まる。

 だから、トレーナーが踵を返すのが目に入らなかった。

 だが。


<呆けないで、すぐ上手側に!>


 はっと我に返ったときには、すでに指示に従っていた。

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/12(火) 00:28:24.79 ID:OVqY+9yEo

「はい、そこまで!」

 区切りのいい所まで踊り終えると、さっそくトレーナーからの講評だ。

「――すれ違う時、ぶつかりそうだからと露骨に避けたのは良くないな。早めにスペースを意識して移動していれば余裕があったはずだ」

「はいっ」

 ひとりずつ、あれやこれやと指摘されていくのを見るたび、トレーナーさんには目がいくつあるのだろうと美穂は思わず感心してしまう。

「表情は良かったな。楽しげな雰囲気が伝わるようになった」

「ありがとうございますっ」

 そして、必ずどこかは褒めてくれる。もっとも、褒めようがないほど実力のない者はそもそもこの場にいないのだろうが。

「次、小日向」

「はいっ」

「最初にセンターに付いていくのは面白かったな。本番で佐藤に合わせるのはまず無理だろうが、その調子で周りをよく見て、素早く判断して動ければ問題ない」

「……はいっ!」

 まさか、何ひとつ注意されずに終わるとは思わなかった。こんなことは初めてだ。

 美穂は心の中でガッツポーズをした。

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/12(火) 00:29:32.67 ID:OVqY+9yEo

――――――

(でも……あの声はなんだったんだろう?)

 レッスン後、美穂はさっきの不思議な体験を振り返っていた。

 声――今にして思えば、それは音としての声ではなく、頭の中に閃光が走って、一瞬のうちに脳に直接刻みつけられたかのようだった。

 そのためか、疑ったり逆らったりという考えも起きず、さも自分の考えであるかのように自然に動いていた。

 けれど、落ち着いた今になると、あれは自分にはとうてい不可能な判断だった、と美穂は思う。

 周りをよく見ている、と評価してもらえたが、とんでもない。

 あの声は、センターの動きを完全に先読みしていたのだから。


 ……とはいえ、考えても答えなど出てこない。

(とにかく、上手くいったのは確かなんだから、思い切ってやれたあの感覚を忘れないようにしなきゃ)


 そしてこの日から、美穂の頭の中に謎の声が響くようになり――



 ライブ当日を迎えた。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/12(火) 00:30:25.41 ID:OVqY+9yEo
今回はここまで。次回はライブ本番です。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/12(火) 08:16:25.37 ID:G32yrAhDO
でんぱでおっけー、じゅしんでおっけー、しゅがみんしゅがみんしゅがしゅがみん
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/13(水) 00:15:29.53 ID:k8ZTSDt0o
再開します。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/13(水) 00:16:19.47 ID:k8ZTSDt0o

――――
――――――

 昼公演の開幕を目前に控え、美穂は化粧室の鏡の前に立っていた。

(昨日はみんなバタバタしてて、ゆっくりお話もできなかったなあ)

 打ち合わせ、ダンス合わせ、また打ち合わせ、衣装合わせしてダンス合わせ。

 それでいて、顔を突き合わせる暇は無し。

 とてもじゃないが、「はぁとさんの真似してアホ毛作ってきました☆」などとのんきに言える雰囲気ではなかった。

 そもそも、美穂自身の精神的にそんな余裕はなかった。いくら気合が入っているとはいえ、緊張しないわけがない。

 それでも、こうして鏡に映る自分の姿――というより頭のアホ毛――を見ると、少しだけ肩のこわばりが取れる。

 さらに、佐藤心からもらったカチューシャを着けることで、自分が並み居るアイドルにも引けを取らないビジュアルになったような気さえした。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/13(水) 00:17:25.77 ID:k8ZTSDt0o

『ドリーミン・アーチ』を使い続けて四週間。

 頭頂部の辺りから跳ねたアホ毛は、もう誰が見てもそういうヘアースタイルなのだろうとわかるくらい、まとまったひと束が放物線を描いていた。

 そして、アホ毛が形になるにつれ、頭に響くあの声も頻繁になっていた。

 声は、美穂が戸惑ったり混乱したりすると唐突に聞こえてきた。それは一方的なアドバイスの時もあれば、親しげに会話を始めることさえあった。

 美穂は、その声にレッスン時のみならず日常においてもたびたび助けられてきたのだった。

 その現象は、アホ毛が意思を持って話しかけてくる――なんて突飛な妄想が現実になったのだとしか考えられなかったし、美穂自身もまた、それでいいと思っていた。


 アホ毛はあこがれの佐藤心の象徴だ。

 だから美穂はその声を、自分が佐藤心に近づけるように導いてくれているのだと――夢へと届く架け橋として受け入れていた。

(本番、がんばるよ。だから今日もよろしくね、私の『プロデューサーくん』)

 美穂はいつしかアホ毛にそんな名前を付けて可愛がるようになっていた。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/13(水) 00:18:40.70 ID:k8ZTSDt0o

(よし、そろそろ控室に戻らないと)

 そう思った矢先、トイレの個室から不意に声が上がった。

「――っしゃあ、やるかあっ」

 誰かいると知らなかった美穂が驚いて動けずにいると、個室のドアを開けて佐藤心が現れた。

「さーてと……って、美穂ちゃんいたんだ? 変なトコ見られちった☆」

「は、はぁとさん」

「おっ、緊張してんの? だいじょぶだいじょぶ、はぁとの背中についてきな、つってな☆」

 佐藤心は美穂の肩を叩こうとして……「おっと失礼☆」と、手を洗った。

「――そういえばさ、昨日から気になってたんだけど、そのアホ毛、どうしたの?」

「あ、あの、私、フェスの映像を観てから、はぁとさんのファンになってっ、だから、少しでもあやかりたくて、真似してみたん、ですけど……」

 佐藤心は、美穂のつたない言葉にも嬉しそうに顔をほころばせた。

「はぁともね、やっぱり本番前はこう……胃がキリキリするわけよ、なんせいつでも崖っぷちのつもりだからさ☆」

 そう言って、自分の胸を軽く叩いた。

「でも、今日はもう平気みたい☆ たった今、あったかいハート受け取ったからね♪」

「はぁとさん……」

(もしかしたら、私と同じようにあがり症を軽くしたくてあのコンディショナーを……?)

 場違いだとわかっているが、佐藤心に少し近づけた気がして嬉しかった。

「よっしゃ、そろそろ行くぞ! 絶対いいステージにするからな☆」

「はいっ!」

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/13(水) 00:20:45.03 ID:k8ZTSDt0o

――――――

 幕が上がった。

 オールスタンディング、キャパ1000人ほどのライブハウスは満員だ。その熱気でステージ袖に待機している美穂達も息苦しいほどである。


 最初の曲は佐藤心ひとりのパフォーマンスだ。ステージを縦横無尽に駆け回って観客を煽っていく。

 もちろん、待ってましたとばかりに熱狂的な反応が返ってきた。


(すごい盛り上がり……い、いけない。息の仕方もわからなくなりそう)

 呼吸と鼓動のリズムがかみ合わなくて、否が応でも緊張する。


 ステージでは、自己紹介を兼ねたMCが終わろうとしていた。いよいよバックダンサーが投入される。

 暗転。スタッフに背中を叩かれたのを合図に飛び出す。

 地に足が着いていないような感覚。もがくような足取りは、無様でとても人に見せられない。

 それでも、レッスンを積み重ねてきた成果が、美穂を正確な立ち位置とポーズに導いた。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/13(水) 00:22:21.92 ID:k8ZTSDt0o

 これからほんのわずかののち、1000人の視線に一斉に見つめられることになる――うっかりそんな想像をしてしまうのが、美穂の悪い癖だった。

 そうなるともうダメだった。どんな決意も気合も、本能が怯えてしまっては役に立たない。

 心臓が押しつぶされそう。手足に力が入らない。頭が真っ白になる。そのくせ顔は火照って熱いのがわかる。

 いつも本番のたびにそうなって、残念な結果に終わるのだ。


 しかし、今回は違った。


<何を怖がってるんだ? 誰も君をじっくり見やしないって>


 その声は、美穂の意識の真ん中にすっと入り込んだ。


<それとも、わざわざ失敗して悪目立ちするつもりなのか?>


(し、失敗なんかしない、したくないよ。私……ううん、みんな今までがんばってきたものっ)

 からかうような『プロデューサーくん』の声に反射的に返事したことで、美穂は自意識過剰の檻から抜け出せた。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/13(水) 00:23:25.74 ID:k8ZTSDt0o

 イントロが始まり、ステージが照らされると、美穂からも観客の姿が見て取れるようになった。

 しかし、もう恐怖はなかった。

(ホントだ……お客さんって、私のことなんて見てないんだ)

 かと言って、美穂のアホ毛を見ているわけでもない。

 当然のことながら、その視線の大半は主役の『しゅがーはぁと』に向けられている。


 当然のことなのだ。

 客は主役を見に来ている。バックダンサーは演出の一部であり、常に注目を浴びるものではない。

 そんなこと、理屈ではとっくにわかっていたはずなのに、本能が納得するのを拒んでいただけ。

 今までまったく無駄な緊張をしてきたことを自覚して、肩から力が抜けた。


 踊り始めた美穂の表情に気負いはない。そばに佐藤心がいることも心強かった。

(はぁとさんは、私よりずっと大きなプレッシャーと戦いながらそこに立っている……なのに私が自分勝手に震えてるなんて情けないことは、できない)

 尊敬するアイドルの姿は、一歩踏み出せば手が届くところにある。

 その背を支えるために、美穂はここにいる。

(いいステージにするぞって言われたんだから。はぁとさんの想いを叶えるのが、私の役目なんだからっ)
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/12/13(水) 00:25:56.10 ID:k8ZTSDt0o

 ライブは順調に進み、終盤。

 例の、間奏にフリーパートがある曲に差し掛かっていた。


 思えば、この曲のレッスンの時に初めて『プロデューサーくん』の声を聞いたのだった。

 あれから何かと声をかけてくれて、どんなに救われたことか、と美穂は思う。

 そのおかげで、こんなに眩しいステージの上で、こんなに楽しい気持ちで踊れている。

 それが、美穂はたまらなく嬉しかった。


 いよいよ間奏に入る。

(今の私なら、アドリブも上手くやれるはずっ)

 あれこれ考えるのは逆に足かせになる。

 美穂はフリーパートを、自分の中に満ちている情動に任せて乗り切ることに決めた。

 直後。

 くるり、と目の前で佐藤心が振り向いた。

 その瞳が美穂を捉える。

 振り向いた勢いのまま、手が差し伸べられていた。


<行け、美穂!>

(行きます、はぁとさんっ!)
 

 美穂は迷わずそれをつかんだ。

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