【ミリマス】女王閣下をプロデュース

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 20:56:03.52 ID:BdHnp9Da0
===

前世の記憶、隠された姿、人智超越の魔性の力。幾度となく繰り返されて来たその行為は、
ともすれば封印されし真の自己を、覚醒させようとする本能の一種だったのかもしれない。

「危ない! 春香さんっ!!」

「きゃーっ!!」

今日も今日とて765プロに天海春香の"どんがらがっしゃん"が鳴り響く。
だが、しかし、今回ばかりは違っていた。

一体なにが違っていたのかと問われれば、倒れた彼女が頭から、事務所の壁に突っ込んで行ったと言う点だ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1512561363
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 20:59:49.17 ID:BdHnp9Da0

普段なら、だ。急にバランスを崩したとて、キチンとその両手でショックを和らげたり、
お尻から床に倒れて事なきを得る春香なのに。

今回、その手は荷物で塞がって、前のめりに倒れた彼女のお尻は地面から十数センチも浮いていた。

となると、自然、初めに地面と接するのは彼女の顔になるワケだ。

顔はアイドルの命である。

例え春香が可愛さや美人さや鼻の高さや切れ長の知的な瞳であるだとか、リンゴのように赤い頬とか、太陽の如く輝くおでこだとか、
そう言った売りの一つもない極めて朴とつ平々凡々な顔立ちのアイドルだったとて……顔はアイドルの命である。

そして幸か不幸か彼女の転んだその先には事務所の平らな壁があった。

ゴチン! と周りの者が心配になる程の音が響き、頭を押さえてうずくまる春香。
だが喜べ! その顔は綺麗なままであり、青あざの一つもできちゃいない。
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:01:11.44 ID:BdHnp9Da0

「春香、だ、大丈夫か?」

そんな彼女にいの一番。声をかけたのは担当するプロデューサーであった。
男はしゃがみ込んだ春香に駆け寄ると、その立ち上がりを助けるために手を差し出す。

さらに彼の後ろから心配そうな視線を送るのは、同じアイドル仲間の七尾百合子。

「す、凄い音がしましたけど、救急箱とかいりますかねっ!?」

「いや、顔を擦ったりはしてないな。……しかし、頭を強く打ったから――」

その時である。不安そうに答える男の手を春香がぎゅっと握りしめた。

プロデューサーも百合子へと向けていた顔を眼下の少女へサッと戻す。

春香がゆっくりと立ち上がり、胸に抱えていたイベント用の衣装を男の胸へと押し付ける。

「は、春香……?」

少女の名前を口にした男はどことなく戸惑っているようであった。

何がとハッキリは言えないが、どんがら以前と以後において、
目の間に立つ彼女の雰囲気が別人のように違って見える。

そんな男の視線を受けながら、春香は無言で乱れた服装を正すと静かに百合子の名を呼んだ。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:03:04.51 ID:BdHnp9Da0

「七尾百合子」

「は、はい?」

「貴様、どうして我を受け止めぬか! お陰で頭がすこぶる痛む……! 罰として、しばしの間お前の"文字"を奪ってやろうっ!!」

プロデューサーたちが呆気に取られるその中で、
唐突に妙なことを口走った春香が百合子に向けてスッと右手を伸ばして見せ――次の瞬間、百合子の視界から文字が消えた。

それは余りに一瞬の出来事で、初め、本人はなにをされたか理解することさえできなかったが……。

「……あれ? あれっ!? あれれれれれれっ!!?」

突然素っ頓狂な声と共に、驚愕の表情を浮かべた百合子が手近にあった時計を掴む。
それはデジタル表記の置時計であり、今が朝の『9:02』であることをしっかりと表示していたのだが。

「プロデューサーさん、今、何時です!? 時計が、時計が……!」

「なに? 時計? 時計ならその手にあるじゃないか」

「あるのは分かります! 見えてますけど! 見えてますけどっ!! ……これ、ちゃんと数字を映してます!?」
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:05:33.79 ID:BdHnp9Da0

悲鳴にも近い声を上げると百合子は部屋の中をしきりに見回した。

尋常ではない取り乱しようである。

鬼気迫る表情を崩さぬ彼女のその姿に、
男もようやく何か"異常"な事態が百合子の身に降りかかったのだと理解する。

「壁掛け時計の文字盤も、テレビに映ってるテロップも……ああそんな! ホワイトボードまで真っ白け!!」

「暇が多くて悪かったな!」

「おまけに私の持ってる本……嘘! 嘘嘘嘘嘘嘘っ!? 捲っても捲っても捲っても、どのページも全部真っ白だ!!」

そしてとうとう百合子は崩れ落ちた。
床に力なく座り込み、その膝の上にはページの開かれたハードカバーの本が一冊。

しかし、あまりにも奇妙である。

なぜならば、プロデューサーにはその本に記された数百と言う文字が目にできた。

本だけでない。壁掛け時計の文字盤も、テレビニュースのテロップも、
さらには仕事の予定を書き記しているホワイトボードの文字だって(まぁ実際のトコロ空白が、隙間は目立っていたのだが)ちゃーんとその目に見えていた。

にもかかわらず、だ。百合子は項垂れたまま本を捲り「真っ白、真っ白、真っ白け……」とぶつぶつ呟いているのである。

彼女が嘘つきでないとすれば、誰の目にも何が起きたかは実に明らか。
つまり、七尾百合子は今現在、"文字という文字を認識できなくなっている"!

「んな馬鹿な」

 思わず男の口を突いて出た言葉に春香が笑ってこう答えた。

「信じられぬか? ではお主にも同じことをしてやろう――特別にな」
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:06:15.53 ID:BdHnp9Da0






7 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:06:50.54 ID:BdHnp9Da0










8 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:08:00.08 ID:BdHnp9Da0






いの途中である百合子の隣に正座すると、今の今まで文字を認識できないという恐ろしい経験をした男は恐る恐ると口を開く。

「つまり、にわかには信じられんが今の春香が本物の――」

「春香?」

「い、いや! 春香さん、春香さま……お、お嬢さま?」

疑問符を浮かべた男に向け、百合子が慌てて耳打ちする。

「プロデューサーさん、女王閣下です、じょうおうかっか!」

「なら、えぇっと……春閣下か?」

「……ふむ、まぁ、それでよいぞ」

「では、改めまして春閣下様。……その、先の説明を聞く限り、壁に頭をぶつけたせいで本来の自分を取り戻したと」

「だな」

「それで不思議な力も使えると……」

「"不思議"なではなく悪の力だ。……全く、物分かりの悪い下僕の為に今一度だけ名乗ってやるとしよう」
9 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:09:39.81 ID:BdHnp9Da0

そうして春香はくっくと笑い、プロデューサーが普段仕事で使っている椅子から立ち上がると。

「……我は混沌と恐怖と悪の化身、その名も女王天海春香!!」

実に、実に普通である。彼女の現在の服装がゴスロリやパンクでないにしても、
その辺を歩いている同年代の女の子と比べて数段地味な恰好だと言うことを差し引いても平凡過ぎる名のりである。

さらには悪の女王と言う割に、どことなくコケティッシュな
雰囲気を醸し出しているのも違和感に拍車をかけていた。

「くっくっく……。まあ、すぐに理解できぬのも仕方あるまい。
なにせこの我自身、己にかけた暗示が強すぎたせいで覚醒が遅れていたのだからな」

しかも、少しお間抜けな性格はそのままだ。
10 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:10:55.23 ID:BdHnp9Da0

「とはいえ、こうして我の意識は目覚めたのだ。これで兼ねてよりの大願であった世界征服の野望を心置きなく進められるわ!」

「せ、世界征服だって!?」

少女の大胆な発言に男が思わず聞き返す。世界征服……今日びアニメや漫画の悪役でさえ掲げることの少ないその野望。
だが、目の前の女王閣下は本気である。その証拠に彼女は不敵な笑いを浮かべると。

「そうとも人間よ。我は悪の力で地上を制し、混沌と恐怖で人を支配! そして!! 大願成就の暁には――」

「あ、暁には……?」

「一体、何をするつもりなんですか!?」

乗りの良い聴衆二人に向けて手をかざし、得意満面に言い放った!

「知れたこと! 人間どもは支配の前に跪き、その従属の証としてお菓子を私に捧げるのだ!!」

刹那、プロデューサーと百合子に電流走る!! 
そうして二人は高らかな笑いを披露する春香におずおずといった様子で尋ねたのだ。
11 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:11:44.30 ID:BdHnp9Da0

「お菓子……ですか?」

「命じゃなくて?」

すると春香は心底呆れたように肩をすくめ。

「命? ……そんな物捧げられてもどうするのだ? 我の力の源は血では無いし、なにより食べられぬ物に興味は無い」

キッパリ答えられた二人が思わず顔を見合わせる。

「な、なんだか、このまま放っておいてもあんまり害はないような……」

「同感だな。……今は元に戻るかも分からんし、しばらくは話を合わせよう」

そこまで言うと二人は同時に頷いた。なぜなら春香の持っている悪の力。
その力だけは正真正銘疑う余地も無く本物の力だったからだ。
12 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/06(水) 21:13:07.60 ID:BdHnp9Da0
とりあえずここまで。ヴィランズキッチン、行きたいなぁ……
13 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2017/12/06(水) 21:19:25.28 ID:O/ULH9Oe0
凄くミリオンライブらしいイベントぶっこんで来たよね……
一旦乙です

>>1
天海春香(17)Vo/Pr
http://i.imgur.com/KD0zysY.jpg
http://i.imgur.com/DSTHiCz.jpg

>>3
七尾百合子(15)Vi/Pr
http://i.imgur.com/oNaYKxk.jpg
http://i.imgur.com/j8rnCXI.jpg
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 22:33:29.36 ID:MHZex6sV0
orz
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 15:27:23.36 ID:8vr9f6G6O
そうか、俺達が字が読めないのも閣下のせいだったか…
ところで6と7が読めないの俺だけ?
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 19:13:46.82 ID:hWjtafrE0
字が読めなくされたのを表現してるのでは?
17 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/08(金) 06:26:25.03 ID:zsqJ1R27o

さて、女王春香は自らの力を愚かなる者たちに見せつけると事務所の中を見回した。

現在、この事務所内には春香たち三人しかいない。
社長は外出しているし、事務員である音無小鳥は765プロ劇場へとお使いに出ているところである。

ちなみにプロデューサーと百合子の二人は相変わらず冷たい床の上に正座させられているままであり、
蓄積する足の痺れに加えて体温を徐々に奪われるという地獄の責め苦に耐えていた。

このままでは二人ともトイレが近くなってしまう。と、言うより百合子は既に限界だ。
そうしてさらなる余談だが、事務所には男女兼用のトイレが一つしかない。

つまり彼女より先にプロデューサーが手を上げて、「閣下、トイレ」などと小学生のような宣言しようものならば。

「春閣下、トイレ――」

「我はトイレではないっ!!」

刹那、春香の放った怒りの衝撃波により挙手した恰好のまま後方へと吹き飛ばされていくプロデューサー。

彼が派手な音を鳴らして応接エリアを囲んでいるパーテーションを
ボウリングのピンもよろしく弾き飛ばしたのを目で追うと、百合子も今がチャンスとばかりにその手を上げ。

「はっ、春香さま! トイレ――」

「……百合子、貴様もか?」

「い゛っ、いえいえいえいえいえいえいえ!! "私"、トイレに行きたいです!」

手の平が見えるよう両手を相手に突き出して、否定の為に高速で首を横に振る。

そうして次弾を放つ構えを見せた春閣下様にへりくだると、
百合子は今まで味わったことがないほどのプレッシャーの中で息を飲みながら返事を待つ。
100.38 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)