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ムーディ勝山に受け流されたものたちが暮らしている街
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67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/11(月) 23:52:05.73 ID:0EiW2Qh10
***
「さて、村長。
初日の宿題を果たしにきましたよ」
街の中心部にある、小さな公園。
そこにあるベンチに彼と私は腰掛けている。
「思い出したら名前を教える。
それがあなたとの約束だった」
「待ちくたびれたよ」と村長が言う。
「周りの登場人物を見てみなよ。
こんなにヒント旺盛なのにさ」
「そこに少々ひっかかってしまってまして」
私は照れ隠しに頭を掻く。
「始めは、私自身がムーディ勝山なのだと
思ったんですよ」
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 00:09:24.32 ID:03tJKpl60
続けて、と村長が言う。
「ムーディ勝山自身が、ムーディ勝山を受け流して、
この街に送り込んだのだと。
そのムーディ勝山の抜け殻が私なのだと。
最初はそう考えてしまいました。
しかし、それにはどうしても違和感があった。
単なる直観に過ぎないのですけれど。
この街が、自分の正しい居場所なのではない、という直観があったのです」
続けて、と村長が言う。
「何故ここが私の居場所ではないのか、
それは、私が受け流されてここに来たからなのではなく、
私自身が望んでここにきたからでした。
私は自分の意思で、ここに来た」
「それでは教えてくれ」と村長が言う。
私は答える。
「私は梶剛。
勝山梶の梶剛であり、ムーディ勝山の相方だ」
そして私は村長に告げる。
「ムーディ勝山。
私はあなたを、この街から連れ出しに来たんだ」
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 07:39:37.32 ID:/5+drQqUO
マジかよ!すいまめーんより知らねーぞ!!
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 08:26:20.39 ID:f43DZz1uO
な…なんだってー!?
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 09:16:17.84 ID:j4kYOHzZo
やっぱり相方だったか
影薄いよね。というか名前知らなかったし
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 17:58:33.39 ID:Z48EkBv+o
そういやコンビだったね……
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/13(水) 21:33:53.26 ID:heOFNSiD0
あやふやだった村長の容姿が次第に確かな形を取っていく。
白いスーツ、蝶ネクタイ、口ひげ、そして右手には、マイク。
「やっと思い出してくれたか」と、村長改めムーディ勝山は言う。
「冷たいじゃないか、昔の相方をこんなに長い間忘れたまんまにしておくなんて」
「すまないな」と私は謝る。
「だが、許して欲しい。
結果的には、ちゃんと君に辿り着くことができたのだから」
さあ、帰るぞ。
私はそう言って、右手を差し出す。
ムーディ勝山は私の右手をじっと見つめる。
「お断りだ。
もし、僕がそう言ったら?
この街で平穏に包まれたまま、皆に忘れ去られて、眠るように朽ちていく。
そうすることが望みなんだと、僕がそう本心で願っていたとしたら?」
「ぶん殴ってでも連れていくさ」
私は答える。
「その言葉は嘘なんだと、私は知っている。
忘れ去られていくことを望む芸人なぞいるものか。
ウケなくても、目立たなくても、芽が出なくても、
かつての観衆を沸かすことができなくなってしまっても、
それでも、一瞬の笑いを求めて、あがき続ける。
私たちはそんな生き方をしてきたんじゃないか」
私は一呼吸おいて、叫ぶ。
この街中に聞こえるように願って。
この街の外にも届くように祈って。
「私たちは、芸人だ!
忘れ去られてなど、やるものか!」
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/13(水) 21:42:27.66 ID:heOFNSiD0
ムーディ勝山は、私の右手を取る。
「僕は、まだやれるかな」
「まだまだやれるさ」
「僕のことを、まだ覚えていてくれているのかな」
「もう一度思い出させてやればいい」
「僕は、もう誰にも忘れられたくないんだ」
「大丈夫。私がいる。
お前のかつての相方の、私がお前を覚えている。
私が大声で叫んでやる。
ここにムーディ勝山がいるんだ、
ここに私たちがいるんだ、って」
ムーディ勝山の頬を一筋の涙が伝う。
「君が初めてこの街に来たとき、
村長だった僕は、やたらと笑っていただろう?
嬉しかったんだ。僕は。
君が迎えに来てくれたことが、本当に」
行こう、と私たちは頷き合う。
そして走り始める。
右へ。
右へ。
受け流されるものに逆らって、
ただひたすら、右へ、右へ、
私たちは走り続ける。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/13(水) 21:51:00.18 ID:heOFNSiD0
これは悪あがきだ。
容赦なく過ぎ去る時間に対する、
ささやかな抵抗だ。
儚く移ろいゆく時代に向けた、
ちっぽけな反逆だ。
忘れっぽい一般人たちへの、
なけなしの反撃だ。
無様で、滑稽で、みっともなくて、
それでも私たちは必死で走り続ける。
時代に置いていかれないために。
受け流されたもののままで終わらないために。
私たちはここにいる。
聞こえるか?
私たちはここにいる。
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/13(水) 21:55:36.87 ID:heOFNSiD0
***
その男は舞台袖で、緊張した面持ちで
出番を待っている。
私はその背中を、ポンと軽く叩く。
大丈夫だ、行ってこい。
彼は頷き、背筋を伸ばして、
真っすぐに舞台中央を目指して歩き始める。
スポットライトが男を照らす。
広い舞台の上でただ一人立つ彼の、
右手にあるマイクは小さく震えている。
少し息を吸い、深く吐く。
震えが収まる。
まばらな観客席を見つめる。
それから彼は、凛とした声でこう言い放つ。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/13(水) 21:56:15.71 ID:heOFNSiD0
「ミュージック、スタート!!」
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/13(水) 21:58:00.31 ID:heOFNSiD0
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体とは一切関係ございません。
上記ご了承の上、右から左へ受け流してください。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/13(水) 21:59:27.55 ID:WLtS36jH0
よーし、受け流そ受け流そ
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/13(水) 22:13:28.88 ID:WLQezN4D0
マスター以外は分かったがマスターがわからん
誰なんだあんた一体
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/13(水) 22:18:34.90 ID:2zIZ15xdo
>>80
>>66
>「それがきっと、一番、間違いない」
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/13(水) 22:20:27.25 ID:9vzk6BJz0
長井か
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/13(水) 22:32:08.13 ID:qik7MfuQo
相方はいまや地方局のレギュラー多数でMC番組も多いんだっけか
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/13(水) 22:39:43.27 ID:vHpRT3yAo
長居はいま創価に喧嘩売って狙われてフィリピンに雲隠れしてるじゃん
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/13(水) 23:49:30.77 ID:3djfTmCfo
ここにまた一つ名作が生まれた…
懐かしいメンバーばかりで切ない気持ちになったわ
あとまちゃまちゃの名前が出なくてもう昔になったんだなーと思った
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 00:22:59.18 ID:iLx9sMcr0
いい雰囲気だった 乙
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 03:10:32.40 ID:r2YjeXzD0
乙…当時エンタとか見てた記憶が蘇ってきたわ…童心に帰ったとは違うけど不思議な気分
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 03:35:10.17 ID:L7J4Hz0jo
乙
昔を思いだすいいssだわ
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 04:17:45.88 ID:uCQ0/mXjo
乙
懐かしい雰囲気がよかったよ
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 04:44:46.19 ID:zhtzsQsTo
乙 名作だった
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 08:33:56.74 ID:apMKP4v3O
懐かしいなぁ
乙
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 08:58:47.45 ID:eTtG5uXDO
乙
次場らしい作品でした
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 10:20:02.35 ID:XkJYAxdgO
乙
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/31(日) 10:47:00.96 ID:zq1eyf0Jo
おつかーれ
何となく村上春樹を思い出したな。味のある話だった
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