青空坂上 〜卒業するまで、しゃっぽーしようね!〜

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1 :羽衣真砂改め中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:40:34.99 ID:LYe2U+Pd0
直通電車 -Direct to the Ground-
の改題書き直し版
ストーリーが大幅に変わっておりますのでご了承ください。

第一次投下 http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1343/13439/1343918455.html
第二次投下 http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1347/13479/1347926098.html
第三次投下 http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1363/13635/1363596450.html
最終次投下 このスレ

小説家になろう版(https://ncode.syosetu.com/n6047ek/)が正式版です。

あらすじ
第三高校1年、青木さくら。八幡高校2年、幸ヶ谷瑞穂。この2人は、かつて中学の同級生で、友達だった。
高校入学と同時に仲違いし、音信不通になった2人が、共通の友人である高島遥を介して再び出会い、仲直りするまでのお話。

目 次

始発 八幡高校出身、青木さくらです
1条1丁目 新友会の新メンバー
1条2丁目 周縁世界の思い出
1条3丁目 昔の友達と、今の友達
1条4丁目 もう一度、約束しよう
終着 卒業するまで、しゃっぽーしようね!


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1512394834
2 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:41:14.79 ID:LYe2U+Pd0
登場人物紹介

新本郷第三(しんほんごうだいさん)高校
大野 弘和 おおの ひろかず (おおのん)      1年
高島  遥 たかしま はるか (たかはる)      1年
青木さくら あおき さくら  (サッキー/さくらん) 1年

八幡(はちまん)高校
幸ヶ谷瑞穂 こうがや みずほ (ミズホン/こーやん) 2年
桐畑 香織 きりばたけ かおり(キリカ)       2年

設定資料 本鉄バス路線図
https://img1.mitemin.net/9q/eq/mefz6tgkf5qwbbfldmcp5dmbdejx_p7r_u1_i3_2wik.jpg
3 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:41:40.07 ID:LYe2U+Pd0
始 発 八幡高校出身、青木さくらです

 [side-OHNO]

 出席番号、氏名、出身の「中学」。他に言いたいことがあれば色々。

 入学式が終わると、大体の学校では、クラスに戻って自己紹介をする。本郷(ほんごう)市立新本郷第三(しんほんごうだいさん)高校1年A組でも、それは変わらない。
 何を言うかは学校やクラスによって様々だが、1年A組では、「出席番号、氏名、出身の中学、他に言いたいことがあれば色々」ということになっていた。
 約1名を除いて。

「出席番号1番、八幡(はちまん)高校出身、青木(あおき)さくらです。よろしくお願いします」

 高校1年生でありながら出身の「高校」を言ったのは、この学校でただ一人である。
4 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:42:17.95 ID:LYe2U+Pd0
1条1丁目 新友会の新メンバー

 [side-OHNO]

 入学式から約1週間。つまり、青木さんの例の挨拶から約1週間。
 そろそろ昼休みに弁当を食べるメンバーも固まってきた頃だ。

 俺の席は左から2列目先頭。左隣が青木さくら。
「しゃっぽー」
 2列隣の高島遥(たかしまはるか)が、意味の分からない挨拶とともに近づいてくる。中学時代からの友達だ。
 ていうか、その挨拶は何なの?
「何でもいいじゃんwwミズホンが教えてくれたんだよww」
 遥はネト廃……というほどではないが、それなりにSNSにのめり込んでいる。そのため時々よく分からない言葉遣いをするのである。wwwwとか文字にしないとうまく表現できない。
「あ……えっと……しゃっぽー……」
 そして、最近友達(?)になった、青木さくら。さらに大野弘和(おおのひろかず)(俺)を加えた3人が、1年1組左端先頭で弁当を食べるグループである。

 第三高校の制服は、男子が黒色の学ラン、女子が濃紺ブレザーという、よくある服装である。
 それを特に着崩すこともなく、白いワイシャツの上に着る。そこに一般的な女子の顔を付け、茶髪セミロングの髪の毛を被せたら、それが高島遥。
 正直、一般的すぎて書くことがない。
「そんなに書くことない?」
 いや実際、茶髪セミロングくらいしか書くことないぞ。
 ちなみに、茶髪セミロングを黒髪ショートに変えたものが青木さくらである。
「……」
「短っwwww私より特徴ないよww」
 三点リーダは青木さん、wwwwは遥である。もう少し喋ろうよ。
「いいじゃん別にwwエースチャンネルならこのくらい普通だよww」
 エースチャンネルの説明は面倒くさいから後にするとして、とりあえずここはネットではない。ネットの喋り方は通用しないって学習してくれ。

 一方の俺。ワイシャツに学ラン、黒髪ショート。これが大野弘和。
「人のこと言えないじゃんww」
 実は俺は、隠れ元ヤンだったりする……とかだったらまだ面白いんだが。釘バットを常に持ち歩いてて、今も膝の上に置いてるとかだったら。
「おおのんが釘バットとかww絶対あり得ないってww」
「うん……多分ないと思う……」
 まあ、ないんだけどね。
5 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:42:46.46 ID:LYe2U+Pd0
 ところで、このグループは、ただ弁当を食べるだけのグループではない。
「そういえばさ、今度の新友会、どうしよっか?」
 確か、野球部の春季大会があったはずだ。
「場所はどこだっけ?」
 第二野球場。
 俺と遥の2人は、毎週末に「新友会(しんゆうかい)」と称して、スポーツ観戦を行っている。去年までは同じ中学の鶴屋康之(つるややすゆき)もいたんだが、康之は高校進学と同時に引っ越したので今は付き合いがない。
 元々は、休日に家から一歩も出なかった遥を、強引にでも外に出そうとして始まったものである。しかし、今ではスポーツ観戦自体が趣味になっており、俺も遥も、今週は何を見に行こうかと悩んでいたりする。
 ちなみに最近の遥は、観戦と同じくらい、行き帰りの電車も好きになっていたりするようだ。
「そんなことないってww」
 いや、そんなことある。80条線は乗ったことないから地味にちょっと楽しみwwとか言ってたのは誰だ。
「確かに言ってたけどさww」
 ちなみに、青木さんの喋り方はどうなのかと言うと、一言も発していないので分からない。
「あ、えっと、その、なんかごめん」
 こちらこそ変なこと言ってごめんなさい。
6 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:43:14.57 ID:LYe2U+Pd0
「ところで今度の新友会来る?」
「えっと……」
 遥のコミュ力は高い。先週初めて会ったばかりの青木さんを、さっそく新友会に誘える程度には。
「私たち、中学の頃から毎週スポーツ観戦行ってるんだ。今週は日曜に野球部の試合あるから、それ行こう思ってるんだけど、もしよかったら青木さんも来ない?」
「え、えっと」
 とにかく友達になりたいと思った人には徹底的に話しかけるのが遥スタンダード。俺は慣れてるけど、初めての人にはちょっときついかもしれない。
「新本郷からは出ないから大丈夫だよ!」
「……それなら」
 それが決め手となったのか、青木さんが応じた。
「それじゃ、10時に第二野球場に集合!」
 高校最初の新友会は、3人で行くことになった。
「ところで、第二野球場ってどこ?」
「知らないの?」
「うん……」
 青木さんは新本郷の地理に弱いのか……と思ったが、実は俺も知らない。
 会場の場所は、しっかり確認しないとな。というわけで、以下、地理マスター高島遥による解説。
「本郷市立第二野球場、場所は24条1丁目。私が住んでいる26条51丁目(第十六小学校前)からなら、51丁目線北行に乗って、24条51丁目(中央合同庁舎前)で24条線西行に乗り換えて、24条1丁目(地上線入口)で下車。
 おおのんは24条51丁目(中央合同庁舎前)だから、24条線西行1本で行けるよ。
 青木さんは1条40丁目だよね?1条線西行からの外郭線(がいかくせん)内回りで、24条1丁目(地上線入口)で降りればOK。40丁目線でも行けるけど、外郭線の方が本数多いよ」
「……」
 青木さん、絶賛呆然中。
 新友会は、元々遥を家の外に出すために始めた。遥にアウトドア系の趣味ができればいいと思ってたんだが、行き帰りの交通手段を色々調べていくうちに、遥が新本郷の地理にものすごく詳しくなるという副次作用があった。
 対照的に俺は新本郷の地理にものすごく弱いので、自宅と学校の往復以外は、遥がいないとどこにも行けない。
「自宅と学校の往復って……」
 青木さんがか細い声で聞いてくる。自宅は24条51丁目、第三高校は49丁目だから……。
「200m?」
 はい。俺が遥のサポート無しで移動できる範囲は、200mです。

 多摩丘陵の中央に位置する東京都本郷市。その地下に建設された新本郷地区は、片道10km四方、高さ40mの巨大地下空間である。自動車の乗り入れは禁止され、交通手段は市電のみ。自転車すら存在しない。その代わり市電は縦横無尽に走っていて、大体200〜400mくらいの間隔で電停がある。
 俺が住んでいるのは、24条51丁目。北から数えて24番目の道路と、西から数えて51番目の道路が交わるところである。このあたりが新本郷の中心部で、市役所の支所なんかもある。遥は26条51丁目だから、俺の家から南へ道路2本分、つまり200mの位置である。青木さんは1条40丁目、新本郷の北の端、24条51丁目からは230m……で合ってる?
「北へ230m、西へ110m、合わせて340m。直線距離だと……200mくらい?」
 √(230^2+110^2)m=√65000m≒254.95mです。遥は新本郷の地理には強いが、それ以外はそんなに強くない。むしろ俺のほうが強い。
 ちなみに目的地の第二野球場は、24条1丁目、新本郷の西の端。もう距離とか言わなくていいぞ。
7 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:43:50.81 ID:LYe2U+Pd0
 [side-AOKI]

 お弁当を食べ終えると、みんな自分の席に戻る。
 座席は出席番号順に並んでいる。出席番号1番の私は、左端の列の先頭。7番の大野くんは私の右隣。この二人は、机を前向きに戻すだけ。
 19番の高島さんは、大野くんの2列右。お弁当を食べる時は、私の後ろ、石崎(いしざき)さんの席を使っている。食べ終えると、机を元に戻し、弁当箱を回収して、自分の席に戻る。
 この3人は、私が新本郷に引っ越して、初めてできた友達。
 こーやんと絶縁してから、初めてできた友達。

 こーやんのときみたいに、1日で終わることは、とりあえず無いみたい。
 どのくらい続くかは、ちょっと様子見かな。
8 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:44:18.79 ID:LYe2U+Pd0
 [side-OHNO]

 4月第2土曜日。
 世間ではただの土曜日だが、新友会にとっては記念すべき日である。
 すなわち、青木さんがこのグループに入ってから、初めての新友会。

 24条51丁目西行の白いポールで電車を待っていると、北行の赤いポールから遥が走ってきた。
「しゃっぽー」
「おう」
 なんかよく分からない挨拶を交わした後、
「周縁世界(しゅうえんせかい)って話したっけ?」
 さっそく都市伝説の話である。
 遥が新本郷の地理に詳しくなったのは、新友会を始めた中学の頃。以前はこれだけだったから良かったが、中3あたりから都市伝説にも詳しくなった。SNSで知り合った人に色々教えてもらって、それで興味を持つようになったらしい。
 ちなみにこのSNSというのが、この間出ていたエースチャンネルというやつだ。チャットとか日記とか色々備えてるらしいが、ネットに疎い俺には分からない。
 で、周縁世界って何?何回か出た話だけど、一応聞いてみる。
「今私たちがいる世界は、実は巨大な別の世界の一部なんだって。それで、外の世界からこっちを監視してる組織があって、その名前が八幡高校」
 なんか増えてる。監視してる組織とか初めて出てきただろ。八幡高校も初登場。ちなみにこの間は本郷市役所のサーバーが初登場だった。
 そうこうしているうちに電車が到着。24丁目線西行に乗る。降車電停は24条1丁目(地上線入口)。
 ところで、「地上線入口」というのは24条1丁目電停の副名称なのだが、地上線というのが何のことなのか俺はよく知らない。遥は知っているのだろうか。
「ごめん、私も知らない。今度ミズホンに聞いてみるねww」
 なぜ笑ったのかは謎だが、とりあえず遥は知らないらしい。あとミズホンって誰?
9 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:44:44.72 ID:LYe2U+Pd0
「ご乗車ありがとうございました24条1丁目地上線入口です桜十字路方面はお乗り換えですお忘れ物の無いようご注意ください」
 本郷市電では方向別にイメージカラーが設定されており、西行が白、東行が緑、北行が赤、南行が青。方向幕の表示や電停などに使われている。
 24条1丁目、西行を示す白色のポールに降りる。ここは地下都市新本郷の西の端。当然西側は壁なので、野球場があるのは東側。厳密にいえば南東側。24条通り……いや1丁目通りか?1丁目通りを横断し、第二野球場へ向かう。
 それと前後して、南行を示す青のポールに電車が到着。中から出てきたのは青木さんだった。
「しゃっぽー」
「え?えっと……」
 青木さん、挨拶くらいしたら?
「え……あれ挨拶なの……?」
 しゃっぽーは遥流の挨拶だからな。
「……」
 なぜか顔を俯ける青木さん。しゃっぽーにいやな思い出でもあるのか?
「あ……いや…………えっと……………………」
 かれこれ5分くらい、青木さんはずっと顔を俯けていた。
 青いポールに電車がさらに2本到着したところで、遥が声を掛けた。
「青木さん!試合始まっちゃうよ!」
 若干下を向いたまま、歩き出す青木さん。
 入場口に着くと、先頭でチケット売り場に向かったのは青木さんだった。
「えっと……高校生3枚……お願いします……」
 そういうのは言えるのか。単純に遥を嫌っているのか、それとも本当に「しゃっぽー」にいやな思い出があるのか。
「その……ごめんなさい」
 よくわからないが、とりあえず、中に入ろうか。
10 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:45:12.36 ID:LYe2U+Pd0
 [side-TAKASHIMA]

 試合は1−0で三高の勝ち。三高は6回に二塁打と送りバントと犠牲フライで1点を獲得。相手の六高は8回に二死三塁の好機を作ったけど、あと1本が出なかった。
 試合後、青木さんに感想を聞いてみると、
「ごめん……よく分かんなかった……」
って言ってた。「でも勝ったのは嬉しいでしょ?」と畳みかけたんだけど、
「え……三高勝ったの……?引き分けだよね……?」
 まさかそのレベルだとは思わなかった。スコアボード見てww
「スコアボード……数字がいっぱい書いてあって……どこ見ればいいのか分かんなかった……」
 ごめんwwそれは想定してなかったww
 今度野球のルール教えてあげようか?
「お願いします……」
 

 それで、青木さん。
 来週からも、一緒に来る?
「私でよければ……」
 ありがとう、じゃあ来週からもよろしくね☆ミ
 ……なんか隣にいるおおのんが、こっちをずーっと見てるんだけど。何考えてんの?
「やっぱり遥のコミュ力は凄いな」
 そんな凄くないよ?
「SNSだけだと思ってた」
 SNSだけってww
 そんなこんなで、高校に入って1回目の新友会は終了した。
11 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:45:41.43 ID:LYe2U+Pd0
エースチャンネル チャットNo.5069
http://www.acechannel.jpn/chat/?roomno=5069/

たかはる:しゃっぽー
瑞穂(みずほ):おはようございます。
たかはる:しゃっぽーって言って
瑞穂:お断りします。
たかはる:なんで?
瑞穂:恥ずかしいじゃないですか。
たかはる:別に恥ずかしくないよ?
瑞穂:たかはるさんはそうかもしれませんが、私は恥ずかしいのです。
たかはる:なんで?
瑞穂:なんでもです。
瑞穂:それより、今日はどうされたのですか?
瑞穂:朝食を終えてすぐにチャットとは珍しいですね。
たかはる:新本郷水没計画対策会議
たかはる:冗談だよ
たかはる:ミズホーン?
たかはる:返事してー!!
瑞穂:ごめんなさい、うっかり無視してしまいました。
瑞穂:ちょうどバスが到着しましたので。
たかはる:そっか
瑞穂:それで、新本郷水没計画とは何ですか?
たかはる:冗談だからww忘れてwwww
瑞穂:了解しました。
瑞穂:話題を変えましょう。
瑞穂:新しい学校はいかがですか?
たかはる:まだ入ったばっかりだからよく分かんないけど
たかはる:なんか新しい友達ができそうな予感!
瑞穂:それはよかったですね。
瑞穂:どんな方なのでしょう?
たかはる:うーん……周縁世界のスパイみたいな人かな?
瑞穂:周縁世界のスパイとはどんな方なのでしょうか。
たかはる:冗談ww普通にいい人だよ
たかはる:ちょっとコミュ力低いっぽいけど
瑞穂:それなら安心しました。
瑞穂:ちなみに通称は決まったのですか?
たかはる:通称?
瑞穂:たかはるさん、誰にでも通称を付けたがるじゃないですか。
瑞穂:おおのんさんとか、ツルヤスさんとか。
たかはる:ミズホンもミズホンだもんね
瑞穂:初対面でミズホンと呼ばれたときは驚きました。
たかはる:青木さんじゃだめ?
瑞穂:青木さんとおっしゃるのですか?
たかはる:うん
瑞穂:下の名前は?
たかはる:さすがにフルネームは言いたくないな
瑞穂:ごめんなさい。
たかはる:ちょっと考えてる
たかはる:サッキーでどう?
瑞穂:本名を知らないので何とも言えませんが。
瑞穂:サキさんとおっしゃるのですか?
たかはる:違うけどww
瑞穂:違うのですか。
たかはる:でもそのまんまだとつまんないし
たかはる:サッキーでいいんじゃないかな
瑞穂:了解しました。
12 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:46:32.63 ID:LYe2U+Pd0
 [side-OHNO]

 青木さんが入って最初の新友会を終え、翌週の月曜日。
 24条51丁目。副名称は中央合同庁舎前。
 西行の白いポールで電車を待っていると、北行の赤いポールから遥が走ってきた。
「しゃっぽー」
「おす」
 携帯を手に持ったまま。さてはお前、電車内でずっとエースチャンネル見てたろ。
「電車内だけじゃないよ、家出た時からずっと」
 余計駄目だろ。そのうち乗り過ごすぞ。
「大丈夫だよ200mだし」
 本当に大丈夫か?
「本当に大丈夫だよ!」

 エースチャンネルは、日本で最大手のSNS。遥は中学の頃に登録して以来、かなりの頻度で利用しているらしい。
 瑞穂とかいう友達とよくチャットしているらしいが、詳細は知らない。ハンドルネームは「瑞穂」なのだが、遥が勝手にミズホンという通称を付けてしまった。
 そういや、俺もなぜか「おおのん」って呼ばれてるし、自分のハンドルネームも「たかはる」だし。遥は通称を付けるのが好きだ。
 通称がないのは青木さんだけか。
「青木さんも通称決まったよ?」
 そうですか。
「さっき決まった。通称はサッキーです」
 ちなみに名前の由来は?
「下の名前がさくらちゃんだから、もじってサッキー。なんとなく語呂がいいからサッキーにした」
 さくらをどうもじったらサッキーになるのか謎だが、遥がサッキーと言うならサッキーなんだろう。



 第三高校は8階建て。1階に職員室や校長室など諸々、2階と3階が音楽室などの特別教室、4階から6階が普通教室、7階に格技場、8階に体育館、屋上がグラウンドという構成になっている。
 エレベーターで4階へ上り、1年1組の教室のドアを開ける。
「しゃっぽー」
 とりあえず全体に向けて挨拶する遥。応答はない。
「サッキーもしゃっぽー」
「……」
 多分自分のことだと気付かなかったんだろう。青木さんは無反応。
「あ、青木さんしゃっぽー」
「あ……おはよう……」
 改めて挨拶をする。今度は反応があった。
「青木さん、サッキーって呼んでいい?」
「え……なんで……?」
「だって青木さんだと友達感ないじゃんww」
 友達感って何だ。
「うん……まあ……別にいいけど……」
 本人の同意が取れたところで、チャイムが鳴った。
13 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:47:01.02 ID:LYe2U+Pd0
 昼休み。
 三高には学食や購買部の類はないので、必ず弁当を持参する。
 入学式の日からずっと、俺たちは3人で弁当を食べている。俺、遥、青木さんの3人。
「新友会って、本当に毎週やってるの?」
「毎週だよ!土曜か日曜かはそのときによるけど、風邪ひかない限りは毎週行くよ?」
「そんなに大会やってたっけ……?」
「大会じゃなくても、練習試合とかあるし、三高はそういうの結構入れるっぽいし」
 さっそく仲良くなった遥と青木さん。もしくはたかはるとサッキー。この調子なら友達になれそうだな。
「あ、そうだサッキー、ちょっと聞きたいことあるんだけど」
 と思っていた矢先だった。

「八幡高校って、どこにあるの?」
「あ…………」

 それだけは、触れてはならない領域だったらしい。

 思い出してみよう。青木さんは自己紹介の時、「八幡高校出身」と言っていた。
 新本郷にある高校は、本郷市立新本郷第一、新本郷第二、新本郷第三、新本郷第四、新本郷第五、新本郷第六、新本郷第七、新本郷第八、新本郷第九、新本郷第十、新本郷第十一、新本郷第十二の各高校。「新本郷」という地名に、数字を付けたものである。
 高校だけではない。警察署も消防署も病院も郵便局も、その他ありとあらゆる公共施設の名前は、「新本郷」に数字を付けたものである。警視庁新本郷第五警察署、本郷市消防局新本郷第十六消防署、本郷市立新本郷第二十病院といった具合だ。新本郷には「新本郷」以外の地名が存在しないので、このような名前になったのである。例外は、本郷市新本郷中央合同庁舎と、その中にある本郷市役所新本郷支所。これらは新本郷にひとつしか存在しないため、数字を付けなかったのである。
 高校という、新本郷に12もある施設で、「八幡高校」などという名前は絶対にあり得ないのだが。
「もしかして、周縁世界の出身とか?」
「……」
 そこまで来ると、青木さんも耐えられなかったらしく。
「ごめんなさい!」
 弁当を片付けて、どこかへ行ってしまった。
14 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:47:29.58 ID:LYe2U+Pd0
 15時10分、授業終了。
「サッキー、一緒に帰ろ」
 4列目から遥が左端まで走ってきて、青木さんに声をかける。
「え……一緒に……?」
「うん!一緒に帰ろ」
「あ……その……ごめんなさい……」
 遥、玉砕。
 八幡高校の件、まだ尾を引いているらしい。
「ごめんね……また明日……」
 そのまま青木さんは帰ってしまった。

「サッキー……何かあったのかな……?」
 いや、どう考えても、八幡高校の件だと思うぞ。
 冷静に考えてみろ。高校の入学式で、出身の「高校」を言うような人が、普通の経歴を持っているわけがない。何かしら特殊な事情を抱えているはずだ。
 たとえば、去年まで別の高校に通っていて、退学して三高に来たとか。
「そだね、今度聞いてみる」
 だから聞くな。特殊な事情があるんだから、そっとしておくのがベストだろう。
15 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:47:55.23 ID:LYe2U+Pd0
 [side-AOKI]

 24条49丁目、第三高校前。北行の赤いポール。
 私の家は、1条40丁目。ここから3.2kmの距離。
 高島さん達を教室に残して、先に出てきてしまった。

 周縁世界の出身。間違ってないのが凄い……。
 誰にも言ってないんだけど、実は私、地上世界の出身なんだ。高島さんが言う「周縁世界」。
 東京都本郷市上洲町16番4号。
 それが、去年までの私の住所。

 去年の4月。市立上洲(かみす)中学校を卒業した私は、親友のこーやんこと幸ヶ谷瑞穂(こうがやみずほ)さんの勧めもあって、八幡高校に入学。
 でも、いろいろあってすぐに退学。
 その数か月後に新本郷に引っ越し、今年の4月に三高に入学。

 退学した理由……ごめん、今度話すね。
 今はまだ、心の整理ができてないから。

「あ、サッキー!」
 高島さんに見つかっちゃった。
 タイミングよく北行の電車が来たから、急いで乗っちゃうね。

「サッキー、また明日!」

 高島さんの声は、聞こえなかったことにしよう。
16 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:48:33.32 ID:LYe2U+Pd0
エースチャンネル チャットNo.5069
http://www.acechannel.jpn/chat/?roomno=5069

たかはる:しゃっぽー
瑞穂:その挨拶好きですね。
たかはる:ミズホンが言い出したんだよ?
瑞穂:そうでしたか?
たかはる:そうだよー
瑞穂:失礼しました。
瑞穂:今日も朝早くからチャットですか。
たかはる:その言葉そのままお返ししますww
瑞穂:それで、サッキーさんとはいかがですか?
たかはる:いい感じ!
たかはる:多分
瑞穂:多分?
たかはる:もしかしたら嫌われちゃったかも
瑞穂:何をしてしまったのですか。
瑞穂:出会って1週間で嫌われるというのは、普通ではありえないと思いますよ。
たかはる:うーん……多分あれだと思う
瑞穂:何ですか?
たかはる:もしかして周縁世界の出身とか?
たかはる:って言っちゃった
瑞穂:それを言ってしまったのですか。
たかはる:ごめんサッキー……
瑞穂:私に謝っても意味ありませんよ。
瑞穂:サッキーさんに謝ってください。
たかはる:そだね、あとで謝っとく
17 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:49:05.54 ID:LYe2U+Pd0
 [side-KOGAYA]

 上洲中学校前バス停。私が乗るのは市大経由川合津(かわいづ)駅行き、八幡坂下(はちまんさかした)行き、あるいは東本郷(ひがしほんごう)駅行き。岸田町(きしだちょう)経由の川合津駅行きと、松林(まつばやし)経由東本郷駅行きはスルーだな。
 エースチャンネルでたかはると会話しながら、バスを待っていた。

 バス停に立っているのは私だけ。
 1年前は、隣にもう一人いたんだけどな……。

 青木さくら。通称「さくらん」。
 上洲中学の同級生で、よく一緒に遊んでた、私の初めての友達。
 さくらんにとっても、私が唯一の友達だった。

 さくらんが私と同じ高校に行きたいと言って、二人で八幡高校に入学。
 毎日このバス停で待ち合わせして、一緒に登校していた。
 ……いや、登校するはずだった。

 実際には、一緒に登校したのは1日だけ。
 入学式の次の日から、さくらんは不登校になった。
 家に見舞いに行っても入れてくれなかった。
 そのままさくらんは、6月に八幡高校を退学。9月頃引っ越したらしいんだが、どこに行ったかは知らない。

 新本郷に行ったっていう噂もあるにはあるんだが……。

 そんなことを考えていたら、電話がかかってきた。
「もしもし、幸ヶ谷さんですか?」
 相手はキリカ、本名桐畑香織(きりばたけかおり)。
 八幡高校に入ってから知り合った、私の2人目の友達。
「そんなことはいいですから、時計を見てください」
 言われて腕時計を見る。
 8時35分。

 ……20分もこんなことを考えていたのか、私は。

 ちなみにこの20分の間に、川合津駅行きが3本、八幡坂下行きが2本到着していたのだが、なぜ私は気付かなかったのだ!
「そんなことは知りませんよ」
 まあとにかく、このままでは遅刻だ。というか絶対に遅刻だ。
 とりあえず次のバスで行くから、先行っといてくれ。
「私は既に到着しているのですが……」
 そうだな。キリカ真面目だから、遅刻なんかしないよな……。
18 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:49:33.86 ID:LYe2U+Pd0
 八幡高校に着いたのは9時20分。1限の授業はとっくに始まっている。
「今月4回目ですよ。大丈夫ですか?」
 前の席のキリカが声を掛けてくる。
 そういや、最初に知り合ったときもこんな感じだったな。
「そんなことを言っている場合ではありません。授業を受ける準備をしてください」
 はいはい。分かってますよ。

 1限の授業が終わった休み時間。
「ところで、20分も何を考えていたのですか?」
 キリカから当然の突っ込みが出た。
 えっと、キリカはさくらんのこと覚えてるか?
「さくらんさん……青木さんのことでしょうか」
 そうだ。本名は青木さくら。覚えてたのか。
「あなたが頻繁に口にするので覚えてしまいました」
 そんなに頻繁に口にしてたか?
「それで、青木さんがどうかしたのですか?」
 どうかしたってわけじゃないんだけど、今頃どうしてるかなって。
「青木さんに未練でもあるのですか?」
 未練ってわけでもないけど、なんか寂しいじゃん。
「そうですか……いい加減に諦めたらどうですか?」
 諦められたらとっくに諦めてるよ!

 ……と大声で叫んだところで、2限開始のチャイムが鳴った。
19 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:50:01.28 ID:LYe2U+Pd0
 放課後。
「幸ヶ谷さん、一緒に帰りましょう」
 キリカが声を掛けてくる。入学式の日から続く、私たちの習慣。

 私とキリカが初めて会ったのは、入学式当日。
 私の名前は幸ヶ谷瑞穂。座席は左から2列目、前から4番目。五十音順で1つ前だった桐畑香織は、席順も一つ前だった。
 左の列の先頭にいた青木さくらとは、3つほど離れていた。

 入学式、ホームルームが終わり、放課が宣言された時。

「こーやん、一緒に帰……」
「幸ヶ谷さん……でしたか?」
 近づいてくるさくらんにポジション取りで勝っていたキリカが、一歩早く私に接触してきたんだ。

「一緒に帰りましょう」

 あとから聞いた話だと、キリカは私が一人でいるのを見て、友達がいないと思い込んだらしい。学級委員に立候補するくらい正義感が強い人だ。「友達がいない人がいたら、私が友達になる」とか考えてたんだって。

 キリカにとっては正義。
 でも、唯一の友達を取られたさくらんにとっては……どうだったんだろうな?

 この次の日から、さくらんは学校に来なくなった。そしてそのまま6月に退学……。
 その後のさくらんの行方を知る人は、少なくとも八高にはいない。
20 :中村千歳 ◆hsUAEn/JO/Q. [saga]:2017/12/04(月) 22:50:27.44 ID:LYe2U+Pd0
1条2丁目 周縁世界の思い出

 [side-AOKI]

 今年度2回目の新友会。
 高島さん達にとっては、新メンバーが加入して2回目。
 私にとっては、新しい世界に飛び込んでから2回目。

 1丁目線南行。外郭線内回りっていう言い方もある。
 24条1丁目(地上線入口)、南行の青いポールに着くと、西側から高島さんが走ってきた。
「サッキーしゃっぽー」
 いつの間にか私に付いていたあだ名は「サッキー」。さくらんじゃなくて良かった……って思ってたんだけど、その後の挨拶がちょっと。
 しゃっぽーって、私とこーやんが使ってた挨拶だよね。なんで高島さんが……?
「サッキーどしたの?」
 あ、ごめん何でもない。先行ってていいよ。
「分かった……ごめんね」
 なぜか顔を俯けて、走っていってしまった。何か悪いことしちゃったのかな……?

 そこまで考えて、「あれ?」って思った。
 大野くんは一緒じゃないの?高島さんと大野くん、いつも一緒なのに……。
 高島さんが降りた白いポールは、地上線トンネルの中。トンネルの先は、地上世界。
 何か嫌な予感がして、私は高島さんを追いかけて走っていった。

 高島さん!
「サッキー?」
 大野くんはいないの?
「おおのん?」
 高島さんは周りを見回して、
「そういえばいないね……」
 今気づいたみたいな顔だね。一緒じゃなかったの?
「乗ったときは一緒だったんだけど……」
 乗ったとき一緒だったのに、なんで途中ではぐれるんだろう……。
「あ、多分降りたときじゃない?ちょっと居眠りしてたし」
 高島さんの話だと、大野くんは立ったままうとうとしてて、終点に着いてもそのまんまだったらしい。24条線は新本郷で一番混んでる路線。高島さんも気づかないまま降りちゃったんだって。
 24条1丁目だから、普通なら折り返して24条線101丁目行になる。そのときに運転手さんが気づいて起こしてくれるんだけど、
 もし高島さん達が乗った電車が、24条1丁目止まりじゃなくて、地上線直通の桜十字路(さくらじゅうじろ)行だったら……。
 大野くんは今、地上世界にいるかもしれない。
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