勇者「よーし、いっちょ叛乱でもするか!」

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1 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2017/12/01(金) 08:42:21.38 ID:xQeGs0RqO
切株の上に立てた薪を、斧で勢いよく断ち割った。乳色の朝靄に包まれた森に、澄み切った音が鳴り響く。平和。この二文字に尽きる。
木こりは額に浮かんだ汗を拭いながら、竹筒の甘い水を飲み干した。以前なら、こんな悠長に休むことなどできなかった。常に背後に魔物の殺気を感じつつ、斧を振るったものだ。

木こり「先代の勇者さまさまだな」

数年前、先代の勇者が魔王を倒した。世界中に蔓延る魔物は王の消滅と共に自裁を選び、魔物という種族そのものが消え失せたのである。
アルマリクの王は先代勇者に姉妹都市であるバルフを治めるバルフ候の爵位を与え、街道の整備や税制の見直しに着手したのだった。

木こり「さてと、そろそろ帰るとするべ」

割った薪を専用の一輪車に乗せて運んでいく。昨夜は雨だったらしい。ところどころ、ぬかるんだ道で足を取られた。丸太小屋に着くと薪を下ろし、乾燥したツルでひとまとめにした。

???「……なんです! ……ださい!」

木こり「ん? 何やら小屋の中から揉めている声がする。なんだ、坊主がやらかしたんか」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1512085341
2 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2017/12/01(金) 08:43:32.95 ID:xQeGs0RqO
妻と兵卒が激しく口論し合っていた。と言っても、兵卒が一方的にまくし立てているだけなのだが。鈍色の魚鱗鎧を見るに、アルマリクから派遣されてきた下級将校だろう。

木こり「あっしが主人です。将校様、税なら規定通り納めておりますだよ」

下級将校「規定通りだと? ははは、こは異なことをいふものかな。この紙を見るがいい」

下級将校が差し出した紙には、地方にある橋の改築作業を行うため、増税する旨がつらつらと書いてあった。
これまでの税制度に加え、人頭税、森林税から挙げ句の果てには排泄税や食事税、呼吸税などトチ狂った税が上がっている。

木こり「あ、ありえねぇ。嘘だろ……?」

下級将校「アルマリクは魔王との戦で多額の財を失った。歴史的建造物も、交通のための道路や橋も、修理するための人員もな」

下級将校「それゆえ、増税を余儀なくされたのだ。国家事業への投資。どうだ、これ以上に納得できる理由などあるまい」

木こり「ですが……あっしらの食い扶持が無くなってしまいます」

下級将校「やかましい。賄賂も無しに無駄口を叩くでない。そうだ、税を納めぬ不届者として貴様ら夫婦二人を打ちのめしてくれよう」

木こり「やめてくだせぇ! あっしはどうなっても構わねぇ。妻だけは打たないでくだせぇ!」

下級将校「ン〜、そう言われるとますます女を打ち据えたくなってきたぞ。よく見たら中々の美人ではないか。嬲りがいがありそうだ」

木こり「そ、そんなぁ……」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/01(金) 09:01:35.64 ID:5IdXUmaMo
期待
4 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2017/12/01(金) 09:41:30.36 ID:xQeGs0RqO
ーバルフの街ー

妹「……っていう導入はどうかな? この後、木こりのお嫁さんが陵辱されながらも女の喜びに目覚めていくシーンなんだけど」

兄「いいと思うぜ。官能小説の書き出しにしては、ちょいと固すぎる感じもするがな」

妹「増税は本当の話だよ。先代勇者様が魔王を倒してから、急に税を上げ始めたんだ。そのせいで、街のみんなが苦しんでる」

兄「世に問う作品か。あんま過激な描写を入れると検閲に引っかかんぞ」

妹「大丈夫。いざとなったら、魔法学校の魔女先生に頼れば良いんだもんね」

妹は官能小説という名目で、王の政治を批判する風刺小説を書いていた。まだ十に満たない歳ながら、はっきりと国の問題を見据えている。
加えて難しい熟語や官能表現は、全て魔女先生から教えてもらったのだという。妹が尊敬する魔女先生とはどのような人間か、兄は実際に会って話をしてみたくなった。

妹「あ、お兄ちゃん。外に出るなら、魔女先生にこの原稿を届けてくれない?」

兄「はいはい」

妹「ごめん、あと昼ごはんも買ってきて。いつものベーコンレタスサンドイッチ。トッピングはブラックペッパーがいいな」

兄「了解。ちょっと待ってな」

虫喰いだらけの扉を開くと、陽の光が全身を優しく包み込んだ。石畳の街道を行き交う人々。その両側に並び立つ露店。饅頭を蒸す時の炊煙が雲ひとつない青空にたなびいている。
一見すると、長閑な田舎町のように思える。しかし、水面下で事は進んでいる。亡国への秒読みが始まっている。
兄は魔法学校への道を急いだ。
5 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2017/12/01(金) 18:17:58.94 ID:xQeGs0RqO
魔法学校では好きな講義を自由に取ることができる。決められた単位を取得すれば、上の学年に進級可能なのだ。それゆえ、飛び級する秀才童子がいたり、反対にいつまでも下級生のままの大人もいる。妹は前者だった。
昼休みの魔法学校は閑散としていた。各自、食事は自宅か外で食べるのである。玄関口で魔法軽減効果を持つスリッパに履き替える。

兄「変な靴が置いてあるな……。ひょっとして、魔女先生の靴か?」

地味目の靴が揃う中、ひとつだけ白く光り輝く靴があった。氷の塊を削って作った、アイスハイヒールだ。触ってみると、指が痺れるほど冷たい。謎の輝きは冷気によるものだった。
ホコリの舞う廊下を歩いてゆく。突き当りが魔女の魔術研究室だ。

兄「失礼します」

ドアを二回ノックしてから、兄は引き戸を開けようとした。しかし、開かない。鍵が掛かっているわけではない。何故だか不思議な力が働き、引き戸を動かなくしているのだ。
いつからいたのか、横合いから少女が顔を突き出してきた。

少女「魔女先生なら留守よ」

兄「留守?」

少女「そう、夕方なら空いてるわ」

兄「裸足で外出したわけじゃないよな」

少女「何言ってるの、当たり前でしょ。先生はアイスハイヒールを特に気に入ってらっしゃるのよ」

兄「そのアイスハイヒール、玄関に置いてあったぞ」

少女「え」

パチン。風船が弾け飛ぶような音と共に、少女の身体は霧となった。引き戸にかかっている謎の魔法も効力が消え去ったようだ。

兄「居留守かよ……。失礼します、魔女先生はいらっしゃいますか!」
6 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2017/12/01(金) 20:43:32.23 ID:xQeGs0RqO
白かった。髪も顔も服も、全てが新雪のように白かった。部屋の中央に深緑色のソファがあり、魔女はソファにもたれて眠っていた。
右の本棚も左の本棚も、怪しげな古文書や魔導書がぎっしり詰まっている。仄暗い研究室なだけに、魔女の輝きが異質な物のように思える。

魔女「うう……うーん……」

魔女が手探りでつばの広い帽子を取り、頭にかぶった。魔女帽も白い。

魔女「こんにちは、ボクを起こしたお馬鹿さん。一体何をしに来たのかな?」

頭から爪先まで、電撃のように快感がほとばしった。甘過ぎる声。脳がとろけそうだ。サキュバスが人間に化けているのではないのか。

魔女「ふーん。魔法かけておいたのに、入ってこれたんだ。まぁ、下級魔法だから継続時間も短いし、仕方がないか」

兄「魔女先生、妹に頼まれて原稿をお持ちしました」

魔女「ああ、キミがお兄さんね! よく話を聞いてるよ。新作できたんだね。楽しみ〜」

魔女は手を合わせて嬉しそうにぴょんぴょん跳ね上がった。跳ねるたびに、短いスカートが舞い上がる。なるほど、彼女の授業を希望する学生が多いわけだ。

魔女「あ、そうそう。キミね、先生なんてつけなくていいよ。敬語もよそう。お互いタメ口で……ねっ?」

兄「いいんですか? でも、どうして……」

魔女「なんとなく。この先、キミとはとて〜も深い仲になりそうだと思ってさ」

兄「あなたは不思議な人ですね」

魔女「よく言われる。逆にどこかしら不思議なところがないと、沢山の魔法は扱えないんじゃないかな」

話が頭に入ってこない。ガラスのごとく透き通った白い肌に、つい目が奪われてしまう。
魔女が小首を傾げた。その絶妙な角度! 微笑みも相まって、聖母が降臨したのかと奇妙な錯覚すら覚える。柔らかそうな胸に顔をうずめたくなる。良い香りがするに違いない。

魔女「どうしたの? 妹さんの原稿を届けてくれたんじゃないのかい? ボク、彼女の小説がとっても好きなんだ。早く読ませておくれよ」

兄「すみません、考えごとをしてました」

魔女「だから敬語はいいって」
7 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2017/12/02(土) 21:01:19.18 ID:vAzM7c8Y0
魔女に分厚い原稿を手渡した。官能小説の推敲を教師に任せるなど、世界のどこへ行っても耳にしない話だろう。
学校へ行く途中に自分もサッと目を通してみたが、当たり障りのないただの官能小説だった。
現在の国家体制を痛烈に風刺したと本人は息巻いていたが、言われなければ分からない。筆力が足りないのか、逆にそれとなく見せるほどの技巧なのか。

魔女「ふむふむ、なるほどね。やっぱりそうだ。ボクと妹さんの考えは完全に一致してる。怖いくらいに」

兄「考え?」

魔女「うん、教えてあげてもいいけどね……約束してほしいんだ」

魔女「ボクと一緒に、最期まで駆け抜けてくれるって」

兄「どういうことです」

そこで、魔女は深呼吸をした。目を開く。紫色の瞳が決意の光を帯びる。
思わず数歩、後ずさった。後ずさらずにはいられなかった。

魔女「アルマリクの王を、亡き者にする。そして、君主制ではない新たな国家を打ち立てる」

兄「叛乱、じゃないですか」

魔女「叛乱じゃない、革命と呼んでほしいね」

魔女「いいかい? アルマリクは根本から腐っている。賄賂、麻薬密売、人身売買なんてザラ。役人は民から搾り取った血税で宴に明け暮れ、上級貴族に気に入られようと媚びへつらう始末。キミは世の中をよく見たことはあるか? 確かに賑わっている街もあるよ。けれど、それは 一部だけ。田舎へ行けば木の根で飢えを凌ぎ、病の治療もロクに受けられない貧者がいる」

魔女「この国は、とっくに崩壊しているんだよ」

兄「俺にどうしろっていうんですか」

魔女「まだ頭の中が整理できてない感じだね……。よし、分かった。落ち着いたら、またボクの研究室へおいで。キミには考える時間が必要みたいだ」


8 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2017/12/02(土) 21:34:09.73 ID:vAzM7c8Y0
国に叛旗を翻す。勝手にやってくれとしか言いようがなかった。
魔女との約束。叛乱の計画に加わってほしい、という意味だったのかもしれない。
自分は争いを好まないし、妹を養っていかねばならない。

兄「そうだ、サンドイッチを買っていかないとな」

父母は魔王との決戦で死んだ。戦いに参加したわけではない。魔王の巻き上げた瓦礫に当たって死んだのだ。
バルフが戦場になっていなければ、勇者と魔王がいなければ、そもそも戦争がなければ両親を失わずに済んだ。
もし叛乱を起こせば、自分と同じように大切な人を失う子供が生まれるだろう。
重税を課す王は許せない、しかし立ち向かえば死者が大勢出る。

兄「17にもなって物事ひとつ自分で決められない、情けない男だよ。俺は」

露店でサンドイッチを二つ買い、家路を急いだ。
何やら騒がしい。野次馬が集まっているようだ。将校の魚鱗鎧も見える。
兵が来ているのか。

兄「何があったんです」

野次馬の一人に声をかけると、いきなり腕を掴まれて円の中央に引き出された。
妹が倒れている。彼女の手足には鉄の枷が嵌められていた。

兄「あんたら、どういう理由で俺の妹に乱暴しやがった!」

下級将校「貴様の妹を奴隷として隣国に売り飛ばす。税の滞納が長引いていたからな」

兄「税の滞納? 俺はちゃんと納めているぞ、何かの間違いだ!」

下級将校「ちゃんと納めている? ははは、嘘をつけ。この紙を見るがいい」

下級将校が差し出した紙には、地方にある砦の改築作業を行うため、増税する旨がつらつらと書いてあった。
これまでの税制度に加え、人頭税、森林税から挙げ句の果てには排泄税や食事税、呼吸税などトチ狂った税が上がっている。

兄「あ、ありえねぇ。嘘だろ……? 聞いてねぇぞ!」

下級将校「アルマリクは魔王との戦で多額の財を失った。歴史的建造物も、交通のための道路や橋も、修理するための人員もな」

下級将校「それゆえ、増税を余儀なくされたのだ。国家事業への投資。どうだ、これ以上に納得できる理由などあるまい」

兄「ふざけんなよ、クソ……!」
9 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2017/12/02(土) 22:09:27.48 ID:vAzM7c8Y0
下級将校「さて、お嬢さん。こっちに来てもらおうかな」

妹「いや! お兄ちゃん、助けて……!」

将校は妹を無理やり引き立たせると、鎖を強く引っ張った。

(連れていかれる。妹が連れていかれてしまう。取り戻すべきではないのか)

(斬るな、将校を斬れば大事になる。自分も妹もただではすまない。斬ってはいけない。今は耐えろ)

激情と理性、二つの感情がせめぎ合う。短剣の柄を握りしめたまま、固まっていた。
魔女の言葉が渦巻く。この国は腐っている。王も貴族も軍も全てが腐敗に満ちている。

妹「お兄ちゃん! やめて! ううう、うあああああん!」

下級将校「うるさいガキだ、口を閉じろッ!」ゴスッ

殴られたらしい。
妹の泣き叫ぶ声が、兄を呼ぶ声が聞こえなくなった。
それだけで十分だった。

兄「おい……お前」

下級将校「ん? まだ文句あるのか貴さ」ブシュッ

地を蹴り、将校の右目に短剣を突き立てる。噴き出す赤黒い血。痛みに転げまわる将校。
ついにやってしまった。野次馬にも見られた。もうこれまでのような暮らしは送れないだろう。
だが、不思議と肩の荷が下りたような気がした。胸の内にわだかまっていた不満が、綺麗さっぱり洗い落とされていく。

兄「こっちだ! 魔法学校へ行くぞ!」

妹「お兄ちゃん!」

妹の手を取り、昼下がりの路地裏を駆け出す。
自分が本当に望んでいたこと。

兄(魔女、あんたの話に乗っかるぜ。たった一人の家族を守るために!)
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