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相葉夕美「秋風の運ぶ追憶」
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1 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:21:16.31 ID:zAtNppxH0
――ねぇ、教えて。
あの時のあなたは。あの時の私は。
あの時の二人は、今どこへ行ってしまったの?
その時、二人の間を透きとおる秋風が吹き抜けた。
儚く散った紅葉はふわりと舞い上がり、夕陽と共に秋の夕暮れを茜色に染め上げた。
去りゆく彼女の胸元で夕陽にきらめく銀色のイルカたちが、ひとひらの涙を零したように見えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1512033676
2 :
◆m5V2DnGtwU
[sage saga]:2017/11/30(木) 18:25:20.31 ID:zAtNppxH0
アイドルマスターシンデレラガールズ「相葉夕美」のSSとなります。
原作から数年後の設定になりますので、好まない方はブラウザバック推薦です。
3 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:28:03.18 ID:zAtNppxH0
いよいよ本格的に秋めいてきた夜空の下、私はいつも通り仕事を終えて自宅へと向かっていた。
最近朝晩はめっきり冷えるようになったけど、それにしても今日は一段と寒い日だった。
女優業に転身して早一年弱。
初めのうちは、アイドル時代と勝手が違う慣れない仕事に苦労したけど、最近になってようやく上手くこなせるようになってきた。
アイドル時代の話題性だけで売れてる――なんて最初は言われてたけど、その声も今では段々と小さくなってきたような気がする。
元来負けず嫌いな性格の私は、そうやって言われるれるのが悔しかった。
だからこそそれを跳ね除けるために頑張れたし、その経験のおかげで今の私があるのかな、なんて。今考えればそう思える。
4 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:31:28.28 ID:zAtNppxH0
あまりの寒さに私は一旦足を止め、かじかんだ手でマフラーをなんとか巻きなおして、駅へと再び歩き始めた。
するとその時、無造作にコートのポケットの中に放り込んでいたスマホが振動した。
ちょうど踏切で足止めされてしまったので、暇を持て余した私はその場でスマホを確認することにした。
ロックを解いてメッセージアプリを開くと、一番上には久しく連絡を取っていなかったあの人の名前があった。
それを見た私は、胸がきゅっと締め付けられるような、体が火照るような奇妙な感覚に襲われた。
それと同時に、私は少しの嫌悪感を覚えていた。
あの人からの連絡ひとつで、こんなにも心が浮き立ってしまう私自身に。
こんなにも時間が経ったのに。もう割り切ったつもりだったのに。
「あぁ、やっぱり。私は今でもあの人のことが――」
冷たい北風で我に返った私は、再度下りてしまった踏切の遮断機が上がるのを待ち、再び駅へと歩き始めた。
電車に乗り込むと、窓の外ではぽつぽつと冷たい雨が降り始めた。車内はまどろみを誘うように暖かく、疲れきっていた私の意識は間もなく静かな闇の中に溶けていった。
5 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:34:39.55 ID:zAtNppxH0
From:Pさん
本文:
久しぶり。なかなか連絡出来なくてごめん。
元気にしてたか?
こっちまで活躍、伝わってきてるぞ。嬉しいよ。
さて、本題なんだが、仕事が一段落して今こっちに帰ってきてるんだ。
もしそちらの都合が良ければ、久々に会えないか?
突然で申し訳ないと思ってる。色々思う所はあると思うけど、あの時の事も含めて一度ゆっくり二人で話がしたいんだ。
もちろん気が進まなければ断ってくれても構わない。一週間後にはまたあちらへ帰るから、それまでに連絡を貰えると嬉しいです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
6 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:47:55.35 ID:zAtNppxH0
時は数年前に遡る。あの人――Pさんにスカウトされた私は、アイドルとして充実した生活を送っていた。
大変な事や辛い事もあったけれど、仲間達にも恵まれて、互いに支え合って一緒に乗り越えてゆけた。
ただ、そんな中でも一つだけ問題があった。
――私はPさんに恋をしていたのだ。
きっかけは、分からない。初めのうちは、指先でつつけばパチンと消えてしまいそうなシャボン玉のような。自分でもそのキモチの正体が分からないような。そんなあいまいな感情だったような気がする。
その正体に気がついたのは、ほんの些細な出来事がきっかけだった。
7 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:50:15.24 ID:zAtNppxH0
ある日、自然公園での撮影が終わった後、私のわがままでPさんと二人で園内を散策していた。
移動中とか仕事中には何度かあったけど、プライベートで二人きりになるのは初めてで。いつもは特に気にする事もなかったのに、その時はなぜだか妙にそわそわして。
しばらくの間は、この気持ちの正体が分からないままだった。
やけにPさんの事が気になって、辺り一面に広がる花々の事さえ、ろくに考える余裕も無かった。
今考えると、少し鈍感過ぎたかな。
もし、あの時素直に気持ちを伝えられていたら――
ちょっと話がそれちゃったね。話を戻そっか。
8 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:51:57.50 ID:zAtNppxH0
ふと、その時。少し前にライブで披露した歌の事が思い出された。女の子の純真な恋心を、シャボン玉になぞらえて描いた歌。
あなただけの一番に
なりたいからちょっとだけ背伸び
ほら こんな私かわいいでしょ?
他の誰にも見せたくない 私がいるんだよ
ちゃんと見つけてください 胸に咲く花を
ここまで来て、ようやく。私は、私自身が抱くこの気持ちの正体に気づいたのであった。
太陽に向かって燦然と咲き誇るヒマワリも、ひとつひとつが悠然と、色とりどりに咲くコスモスも綺麗だけど。
今、あなたの隣にいる私のことも――私の胸に咲く花のことも、ちゃんと見て欲しいなっ。
本やドラマに出てくるヒロインではなく、紛れない私自身が。あなたに抱くこの気持ちは――
あと数センチの距離を
もっと もっと 近くに感じたくて
そうか 私、恋してるんだ
9 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:57:21.00 ID:zAtNppxH0
でも、アイドルという仕事柄、恋愛というのはあまりよろしいものではなくて。事務所から禁止されているとか、そういう訳じゃないけれど。
暗黙の了解というか、なんというか。
ファンのみんなは私の事に興味を持ってくれて、私の事を信じて、ファンになってくれた訳で――少なくとも私はそう思っている。
だからこそ、「好きな人が出来ました。今まで応援してくれてありがとう。」では済まされないのは重々承知だし、そんなファンの皆の気持ちを裏切るようなことはしたくない。
アイドルとしての私と、一人の女の子としての私。
二律背反な気持ちになかなか折り合いがつかないまま、アイドルを続けていたある日の事だった。
10 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 18:59:12.48 ID:zAtNppxH0
Pさんの海外への配置転換――それを聞いた時、私は胸を突かれるような衝撃を受けた。
会社の人事について、私がどうこうできるわけも無く。その準備は、日々着々と進んでいった。
346プロダクションの海外進出において、様々な要素――実績、信頼性、語学能力、家庭の有無など...を考慮した結果、私を担当するプロデューサーに白羽の矢が立った。というのが、私になされた説明だった。
だが、もう一つの理由――私が知るべきでは無かった理由がある事を、私は知ってしまっていた。
もしそれを知らなかったら...なんて、今でもたまに思うけど、人生にたらればは無いよね。
11 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 19:01:18.80 ID:zAtNppxH0
そして別れの日、事務所のみんなでお別れ会をした後に、二人で海辺の公園に行った。
その公園は、私が何かに迷ったり悩んだりした時によく来た場所だった。一人で来ることもあれば、アイドルの仲間と来ることもあったし、Pさんと来ることもあった。
今考えると、あまりに自然な流れで二人きりになったような気もする。
もしかすると、事務所のみんなにも私の気持ちを見抜かれてて、気を使ってくれてたのかな...。
最後は泣かないって決めてたのに、結局泣いちゃったのはここだけの話。
あの日以来もしばらくの間はときどき連絡を取っていたけど、お互いに仕事で忙しく段々と疎遠になっていってしまっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
12 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 19:03:21.27 ID:zAtNppxH0
ベッドで寝転びながら返信を考えていると、気づいたら日付を跨いでしまっていた。
ようやく打ち終わった文章を送信すると、明日の早い朝に向けて眠りについた。窓の外の冷たい雨は、その後もしばらくの間静かに降り続いていた。
To:Pさん
本文:
久しぶりっ。こっちこそごめんね。
アイドルを引退してすぐは色々大変だったけど、今はだいぶ落ち着いてきたよ。
プロデューサーさんこそ元気にやってた?
海外事業の話は事務所でたまに小耳に挟んだりするけど、そっちは順調そうなのかな?笑
せっかく戻って来てるなら、私も久々に会いたいなっ。
今週の日曜日なら大丈夫そうなんだけど、その日で良さそうかな?
13 :
◆m5V2DnGtwU
[saga]:2017/11/30(木) 19:11:03.17 ID:zAtNppxH0
ベッドで寝転びながら返信を考えていると、気づいたら日付を跨いでしまっていた。
ようやく打ち終わった文章を送信すると、明日の早い朝に向けて眠りについた。窓の外の冷たい雨は、その後もしばらくの間静かに降り続いていた。
To:Pさん
本文:
久しぶりっ。こっちこそごめんね。
アイドルを引退してすぐは色々大変だったけど、今はだいぶ落ち着いてきたよ。
Pさんこそ元気にやってた?
海外事業の話は事務所でたまに小耳に挟んだりするけど、そっちは順調そうなのかな?笑
せっかく戻って来てるなら、私も久々に会いたいなっ。
今週の日曜日なら大丈夫そうなんだけど、その日で良さそうかな?
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