古畑任三郎「魔王さんを殺したのは……勇者さん、あなたですね」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:00:18.88 ID:2Ro3e5Mlo

……

古畑「え〜……今回、私はある異世界にお邪魔しています」

古畑「いわゆる剣と魔法のファンタジー世界、というやつです」

古畑「もしも魔法があったらさぞかし便利でしょうねえ」

古畑「通勤は魔法でひとっ飛び、料理だって魔法でできちゃいます。そして、殺人も……」

古畑「しかし、かくいう私も一つだけ魔法を使うことができます」

古畑「完全犯罪を見破る、という魔法を」

……


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1511182807
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:03:19.17 ID:2Ro3e5Mlo
― 城内・応接室 ―

魔法使い「なるほど、妙な本を開いたら、この世界に迷い込んでしまったと」

古畑「そうなんです」

古畑「私の部下が最近魔術に凝ってるなんていって、変な本を開いてしまって」

今泉「ひ、ひどいなぁ〜。開け開けって急かしたの古畑さんじゃないですかぁ〜」

魔法使い「ハハハ、よくあるんですよ。そういうことって」

魔法使い「本に秘められていた魔力が、あなたたち二人をここに連れ込んだということでしょうね」

古畑「ですが、こちらのような言葉の通じる世界に飛ばされたのは不幸中の幸いでした」

今泉「こ、こういう奇跡ってあるんですねえ!」

魔法使い「その本に秘められてた力が、そうさせてるのかもしれませんね」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/20(月) 22:04:49.61 ID:oKFZc8l5o
期待
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/20(月) 22:05:14.61 ID:zQxZ4sRYO
脳内BGMがやばい
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:06:31.77 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「最初は夢かなにかだと思っていたのですが、やはりこれは現実だと思い直しまして」

今泉「この人、何度僕のほっぺたをつねったことか! ホントムチャクチャすんだから!」

古畑「それで、三日ほどこちらの世界をさまよってたわけですが」

古畑「町の人からこういうことはお城にいる魔法使いさんに相談した方がいいと伺いまして」

今泉「僕たち、帰れるんでしょうかぁ!?」

今泉「帰れないと、僕、ホームシックになっちゃいますよぉ〜」

魔法使い「そうですねえ……」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:09:14.95 ID:2Ro3e5Mlo
応接室に一人の男が入ってきた。

ガチャッ

勇者「おい、魔法使い」

魔法使い「なんでしょう?」

勇者「あ、失礼……まだ来客中だったか。しかし、変わった格好をしているが……」

古畑「はじめまして、古畑と申します」

今泉「今泉です!」

勇者「はじめまして、勇者です」

魔法使い「異世界からこの世界に迷い込んでしまった方々なんですよ」

勇者「ああ、なるほど……どうりで」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:12:26.18 ID:2Ro3e5Mlo
勇者「魔法使い、パーティーの準備ができた。遅れず出席するように」

魔法使い「分かりました」

勇者「では失礼」

バタン…

今泉「今のが勇者ですか! す、すごいなぁ〜、かっこよかったなぁ〜、サインもらえばよかった!」

魔法使い「なにしろ彼は我が国の英雄ですから」

魔法使い「これまで何度も魔王の侵攻を阻止してきたんですよ」

古畑「ん〜ふふふ、私もこの数日間で多少この世界のことを勉強いたしました」

古畑「なんでもこの世界では人と魔族がずっと対立しているとか……」

古畑「その中で特に活躍してこられたのが、あの勇者さんというわけですね?」

魔法使い「その通りです」

古畑「しかし、なにかバタバタされていたようですが? それにパーティーとは?」

魔法使い「実は今日、魔王がこの城に来てるんですよ」

今泉「えええええ〜っ!? ラスボスがこの城来ちゃってるんですかぁ〜!?」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:15:30.71 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「魔王というのは、ん〜、たしか魔族側のリーダーでしたね」

古畑「それがいったいなぜ?」

魔法使い「魔王直々に、人間側に話したいことがあるということで」

古畑「どんな話を?」

魔法使い「おそらくは停戦の申し出、でしょうね」

魔法使い「やっと人と魔族の完全和解に向けて、一歩前進といったところでしょう」

魔法使い「なので、我が国もパーティーを開いて魔王を歓迎しようと準備に追われているのです」

魔法使い「もうまもなく、城の中庭でパーティーが始まりますよ」

古畑「んふふ、それは結構なことです。おめでとうございます」

今泉「古畑さん、パーティーですって! パーティー!」

古畑「さっきからうるさいよ、今泉君」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:18:28.58 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「ところで、私達の件は?」

魔法使い「ああ、お二人を帰還させることは可能ですよ」

古畑「ホントですか! よかったぁ〜……」

古畑「一生ここで暮らすことになったら、どうしようかと思いました」

魔法使い「ただし、あなた方を元の世界に帰す術式は、複雑な手順を要するのです」

魔法使い「私も王国の魔法使いとして、パーティーには出席せねばなりませんので」

魔法使い「あなた方を元の世界に帰すのはそれから、ということでよろしいですか?」

古畑「もちろんです」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:22:10.04 ID:2Ro3e5Mlo
今泉「古畑さん、せっかくだからパーティーに参加させてもらいましょうよ! ねえ?」

古畑「図々しいよ」

魔法使い「いえ、かまいませんよ」

今泉「いやったーっ!」

古畑「すみません、ご迷惑をおかけして」

魔法使い「いいんですよ。それではパーティーが開かれる中庭まで一緒に参りましょう」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:25:23.73 ID:2Ro3e5Mlo
― 城内・小部屋 ―

二人きりで対峙する勇者と魔王。

魔王「ふん、人間どももケチなものよ」

魔王「俺が直々にやってきたというのに、こんな古びた石板一枚置いてあるだけの部屋しか用意せんとは」

勇者「城内で普段使われてない部屋というのはそうないんだ。仕方ないだろう」

勇者「そちらこそ、黒いマントにタキシードとは少々悪趣味なのではないかな」

魔王「せっかくの歴史的瞬間なんだ。これぐらいのおめかしはさせろ」バサッ

魔王「で、俺になんの用だ?」

勇者「念のため、鍵を閉めておく。誰かに聞かれたらまずいからな」ガチャッ

勇者「魔王……今日は何を話しにきた?」

魔王「決まってるだろう……人間と魔族の“完全和解”を提案しにきたのだ」ニヤッ

勇者「…………」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:28:12.63 ID:2Ro3e5Mlo
勇者「やめとけ、和解などお互いのためにならん」

魔王「お互いのため? お前のためにならない、の間違いだろう?」

勇者「!」

魔王「人と魔族が和解してしまったら、お前は国から今までのような厚遇は受けられなくなる」

魔王「それどころか、用済み扱いされてしまう可能性も高い」

魔王「だからこそ、お前は俺に、幾度となくこの国を攻撃させたのだからな」

魔王「最初の数回の侵攻は確かに俺自身の意志だが、あとはお前との裏取引によるものだ」

魔王「適当に攻め、頃合いを見計らって撤退という、大した被害も出ない馴れ合いの戦いを繰り返した」

勇者「…………」

魔王「おかげでお前はこの国の大英雄になれたわけだ」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:30:24.55 ID:2Ro3e5Mlo
勇者「お前にもそれ相応の金品は渡してきたはずだが?」

魔王「そうだな。おかげさまで俺もずいぶん潤った」

魔王「だからもう、八百長のような戦いをする必要はない」

魔王「これからは人と魔族が入り乱れた世界で大いに楽しんでやる」

魔王「パーティー会場で洗いざらい全部ブチまけてやるよ。そうなればお前は破滅だ」

魔王「ここにあるこの石板には『魔王を倒した勇者は……』などという一文が書いてあるが」

魔王「実際には勇者は魔王に倒されることになったわけだ!」

魔王「しかも、俺のこの鋭い爪ではなく、口によってな!」

魔王「アッハッハッハッハッハ……!」

勇者「…………」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:33:12.13 ID:2Ro3e5Mlo
勇者「……考え直すことはできないのか?」

魔王「いくら金を積まれても、無理だなぁ」

勇者「なら仕方ない」スッ…

魔王「そうそう、人間諦めが肝心――」



ザシュッ!!!



一瞬で首を斬られる魔王。

魔王「がっ……!?」

ドサッ…

勇者「…………」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:36:03.94 ID:2Ro3e5Mlo
うつ伏せに横たわる魔王の手に、剣を持たせる勇者。

勇者「この石板を倒して、と」ググッ…

ズシンッ

勇者「……これでよし」

勇者「鍵はこいつが持っている。あとはテレポートで部屋を脱出すれば……」



………………

…………

……
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:39:06.31 ID:2Ro3e5Mlo
― 城の中庭・パーティー会場 ―

会場は城の人間が集まり、大いに盛り上がっていた。

ワイワイ… ガヤガヤ…

今泉「古畑さん、ここの食事うまいっすね!」モグモグ

古畑「よく食うね〜、君は」

今泉「パーティーが終わったらといわず、しばらくこの世界にいるのもいいんじゃないですか!?」

古畑「じゃ、君一人だけそうしなさい。私は一人で帰るから」

今泉「ひ、ひどいなぁ〜」

魔法使い「古畑さん、今泉さん」

古畑「なんでしょうか、魔法使いさん?」

魔法使い「あなた方のことを紹介したら、陛下がぜひお会いしたいというので。こちらへどうぞ」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:42:05.34 ID:2Ro3e5Mlo
国王「おお、そなたたちが異世界からの来客か」

古畑「古畑と申します」

今泉「今泉です!」

国王「特別な計らいは出来ぬが、せめてパーティーを楽しんでいってくれたまえ」

古畑「ありがとうございます」

今泉「あの、王様!」シュビッ

国王「なんだね?」

今泉「王様はレストランには行かれますか?」

国王「うむ、たまには」

今泉「これがホントの『王様のレストラン』……なんちて」

国王「は?」

古畑「君は黙ってなさい」ペシッ

今泉「いてっ!」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:45:04.77 ID:2Ro3e5Mlo
勇者「陛下、ご機嫌うるわしゅう」ザッ

国王「おお、勇者よ」

国王「魔王は単独で我が国に乗り込んできたが、一体何を話すと思う?」

勇者「一時的な停戦の申し出、というのが濃厚でしょう」

国王「停戦か……和解の申し出ということはないだろうか?」

勇者「完全な和解には、まだ段階を経なければならないでしょう」

国王「そうか……残念だ」

勇者「焦ってはなりません。真の平和とは、一歩ずつ成し遂げるものなのですから」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:48:27.69 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「んふふふ、こんにちは〜、勇者さん」

勇者「先ほどはどうも。古畑さん、でしたね?」

古畑「この国の大英雄にお会いできて、光栄です」

今泉「あ、僕も握手して下さい!」

勇者「かまいませんよ」

勇者「あ、そうだ。古畑さん達は元いた世界では何を?」

古畑「私たち……刑事をやっておりまして」

勇者「刑事?」

今泉「簡単にいえば、悪い奴を捕まえる仕事です!」

勇者「……ほう」

国王「なるほど、つまり君たちも勇者というわけだな」

古畑「いえいえ、とんでもない! 国を救ってらっしゃる勇者さんと並ぶなんて、とてもとても」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:51:39.34 ID:2Ro3e5Mlo
勇者「もうまもなく魔王も来ると思いますし、パーティーを楽しんでいって下さい」

古畑「ありがとうございます」



すると――



タタタタタッ

兵士A「大変です!」

勇者「どうした?」

兵士A「魔王がいる部屋をノックしてるんですが、まったく反応がないんです!」

勇者「鍵は?」

兵士A「部屋に案内する時、魔王に渡しているので、魔王が開けない限り中には入れません!」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:54:10.96 ID:2Ro3e5Mlo
国王「勇者よ、様子を見に行ってくれぬか」

勇者「かしこまりました」

魔法使い「私も参りましょう」

古畑「何かあったようですねぇ〜。我々もついていってよろしいですか?」

勇者「どうぞ。ただしくれぐれもお気をつけ下さい」

勇者、魔法使い、古畑、今泉、兵士が魔王のいる小部屋へ向かう。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 22:57:31.09 ID:2Ro3e5Mlo
一行が部屋の前にたどり着く。

兵士B「返事して下さい!」ドンドンドン

勇者「どうだ?」

兵士B「ドアには鍵がかかってるし、返事もないんです」

魔法使い「私が中にテレポートしましょうか?」

勇者「いや、テレポートは魔力を大量に消費するから、むやみに使うべきではない」

勇者「ここは爆破呪文でムリヤリこじ開けてしまおう」

勇者「我が魔力よ、障害物を粉砕せよ!」



ボゥンッ!!!



勇者の魔法でドアが破壊された。

古畑「んん〜……! これが魔法……!」

今泉「うわぁぁぁっ! すっげぇ〜!」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:00:21.75 ID:2Ro3e5Mlo
― 城内・小部屋 ―

一行が中に入ると――

勇者「これは……!」

魔法使い「魔王が……!」

古畑「…………!」

今泉「ふ、古畑さぁん!」



石板に押し潰された形で、うつ伏せに横たわる魔王の姿があった。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:03:33.14 ID:2Ro3e5Mlo
勇者「ま、まさか、今の魔法で石板が倒れて……!? 私が魔王を殺してしまったのか!?」

勇者「悪いが、すぐあの石板をどけて、どこかに運び出してくれ!」

兵士AB「はっ!」

古畑「今泉君、君も手伝って」

今泉「ぼ、僕もですかぁ!?」

兵士AB「うんしょ、うんしょ」

今泉「重い〜!」

まもなく石板は運び去られ、魔王の姿がより明らかになった。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:07:00.42 ID:2Ro3e5Mlo
魔法使い「やはり、魔王はもう死んでいますね」

勇者「くっ……なんてことだ……! 爆破呪文など使わねば……!」

魔法使い「いや、これは……魔王は石板に押し潰されて死んだのではなさそうですよ」

勇者「え?」

魔法使い「見て下さい。魔王の手には剣が握られています」

魔法使い「魔王の首からは出血もあります。この出血量、相当前から死んでいたようです」

魔法使い「しかも、この部屋の鍵は魔王が持っていた。誰もこの部屋には入れなかったのです」

勇者「つまり、これは……」

魔法使い「ええ、自殺ですよ」

勇者「これ以上我々と戦っても勝ち目は薄いから、せめてもの抵抗としてこの城で自殺、か」

勇者「なるほど、十分考えられるな」

古畑「――と決めつけるのはまだ早いのでは?」

魔法使い「え」

勇者「……なぜです?」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:11:04.68 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「この死体、色々と不自然な点があります」

魔法使い「不自然? どこがですか?」

古畑「えぇ〜……魔王さんの手には、まるで猛獣のような立派な爪が備わっています」

古畑「魔王さん、こんな爪を持ってるのに、どうしてわざわざ剣で自殺したんでしょう?」

魔法使い「!」

勇者「!」

古畑「それに、普通人が刃物で自殺する時は、首や心臓を“刺す”ものですが」

古畑「この首は明らかに横に斬られてます。スパッと」

古畑「んん〜……そこがどうも引っかかるんですよねえ」

魔法使い「あのう、そんな細かいことはどうでもいいじゃないですか」

魔法使い「だいたい、あなたはよその世界の人間で――」

勇者「いやいや、我々とはちがう見識を持つ人の意見も聞いてみようじゃないか」

勇者「古畑さん、続けて下さい」

古畑「はい」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:15:18.97 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「私も、刑事として人を自殺に見せかけて殺す、という事件に何度か出会ったことがあります」

古畑「もしかしたら、この事件もその類の可能性があるのでは、と」

勇者「ほう」

古畑「つまりですね。自殺か他殺かを結論付けるのはもう少し調べてからでも遅くはないのでは?」

魔法使い「調べるといっても……何を?」

古畑「たとえば……魔王さんが握っている剣に残っている指紋とか」

魔法使い「指紋? なんですかそれ?」

古畑「んん〜……指紋をご存じない?」

古畑「人の指の跡はひとりひとり違うことを利用して、事件を捜査する手法なのですが……」

魔法使い「いや……聞いたことがないですね」

勇者「そういった技術は我が国には……」

古畑「んん〜、そうですかぁ〜」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:18:07.72 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「他には……そうですねえ、この世界には魔法があります」

古畑「たとえば、魔王さんを殺した犯人が魔法でビューンと脱出するなんてことは出来ないでしょうか?」

古畑「これなら、この部屋に鍵がかかったまま逃げることができます」

魔法使い「ああ、なるほど。それなら考えられますね」

勇者「うむ」

魔法使い「では一応、“魔力の痕跡”の調査を行いますか」

勇者「よろしく頼む。私は陛下に、この事件のことを報告してくる」

古畑「お聞き入れ下さり、ありがとうございます」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:20:18.18 ID:2Ro3e5Mlo
やがて、部屋に今泉が戻ってきた。

今泉「あれ、何をしてるんですか?」

古畑「現場検証中。魔法使いさんの邪魔しちゃダメだよ」

古畑「しかし、大変ですねぇ〜、魔法使いさん」

魔法使い「何がです?」

古畑「この世界には魔法がありますから」

古畑「魔法があれば、どんな犯罪もやりたい放題じゃないですか」

古畑「魔法で相手を殺して魔法で逃げてしまえば、絶対に捕まりません」

今泉「迷宮入り事件だらけになっちゃいますねえ〜。怖いなぁ〜」

魔法使い「残念ながら、魔法はそんなに便利なものではないですよ」

古畑「おや、そうなんですか?」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:23:06.58 ID:2Ro3e5Mlo
魔法使い「たとえば、今ここで私が古畑さんを炎の魔法で焼き殺したとしましょう」

古畑「私は焼かれるのはごめんだなぁ。今泉君、頼むよ」

今泉「えぇ〜、なんでですかぁ!?」

魔法使い「じゃあ今泉さんを地獄の業火で消し炭にしたとしましょう」

今泉「ちょ、ちょっとぉ!」

魔法使い「私はその日のうちに捕まるでしょうね」

古畑「なぜです?」

魔法使い「今泉さんの灰に私の“魔力の痕跡”がバッチリ残っているでしょうから」

古畑「ほぉ〜、なるほど……痕跡が残るんですか。指紋のように……」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:26:47.79 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「では、こういうのはどうでしょう」

古畑「魔法使いさん、さっきあなたテレポートで鍵のかかった部屋に入ろうとおっしゃいましたね」

魔法使い「はい」

古畑「テレポートがどこかに瞬間移動する術だというのは、私にも察しがつきます」

古畑「これでどこまでも逃げてしまえばいいのでは?」

魔法使い「残念ながら、それは無理ですね」

魔法使い「テレポートはそう遠くまでは行けませんし、非常に魔力を消費します」

魔法使い「使えて“一日一回”ですから、どこまでも逃げることはできません」

古畑「魔力の痕跡は?」

魔法使い「もちろん床に残りますよ。調べればどこに飛んだのかまで特定できます」

古畑「それを消し去ったりする術は?」

魔法使い「ないですね。時が経つのを待つしかありません」

古畑「魔力の痕跡を残さず魔法を使う方法は?」

魔法使い「もしそんなのがあったら、私はとっくに魔法を犯罪に使ってますよ」

古畑「んふふふ、ごもっとも」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:29:39.16 ID:2Ro3e5Mlo
魔法使い「これでお分かりでしょう?」

魔法使い「ある程度魔法を使える者ならば、魔法を犯罪に使うなんてことはまずしません」

古畑「とてもよく分かりました……しかし、念のため調査はお願いします」

魔法使い「分かりました」

古畑「今泉を残しておきますから、好きにこき使って下さい」

今泉「えええ!? そんなぁ!」

魔法使い「じゃあ今泉さん、魔王の死体をちょっとどかして下さい」

今泉「ぼ、僕が!?」

魔法使い「そこの床も調査したいんで」

今泉「えぇ〜、生き返ったりしないだろうなぁ」ズル…

今泉「わっ、マントの下にタキシード着てるよぉ、この魔王!」

古畑「それじゃ頼んだよ」

現場の調査は二人に任せ、古畑はパーティー会場へと向かった。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:32:06.70 ID:2Ro3e5Mlo
― 城の中庭・パーティー会場 ―

すでに魔王の死は伝わり、パーティーは中止となっていた。

ザワザワ… ドヨドヨ…

国王「そうか……魔王は死んでしまっていたか」

勇者「残念です……」

古畑「失礼いたします、国王陛下、勇者さん」

国王「おお、古畑殿」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:35:18.57 ID:2Ro3e5Mlo
国王「申し訳ない。異世界からの来客を、こんなことに巻き込んでしまって」

古畑「とんでもない。こちらこそ、大したお手伝いもできず申し訳ありません」

国王「今のところ、魔王は我が国への当てつけに自殺したというのが濃厚だと聞いておる」

国王「それにしても、魔王がこんな死に方をしてしまうとは……」

国王「これで魔族も、おそらく新たな魔王を立てて、人間達に牙をむくだろう」

国王「人と魔族の和解……全ては振り出しに戻ってしまったということか」

勇者「…………」ホッ

古畑「…………」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:37:25.88 ID:2Ro3e5Mlo
国王「ところで、古畑殿は元の世界に戻らなくてよろしいのかな?」

勇者「なんでしたら、魔法使い以外の術者を用意しましょうか?」

古畑「いえ、私はまだ気になることが残っているので……」

国王「今のこの状況ではとてもおもてなしは出来ぬが、くつろいでいってくれ」

古畑「お気遣い下さり、ありがとうございます」

勇者「…………」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:40:22.57 ID:2Ro3e5Mlo
― 城内・通路 ―

古畑「勇者さん、あの〜……ちょっとよろしいですか?」

勇者「なんですか?」

古畑「このたびは魔王さんがお亡くなりになり、本当に残念でした」

勇者「ええ、これで人と魔族の和解への道は遠ざかってしまいました。悔しいです」

古畑「お察しします」

勇者「こうなった以上、いつ魔族がこの国を襲うか分かりません」

勇者「あなたも今泉さんを連れて、すぐに退散した方がいい」

古畑「これはこれは、ご忠告ありがとうございます」

勇者「で、話というのはそれだけですか?」

古畑「あ、すみません。どうしても伺いたいことがございまして」

勇者「なんでしょう?」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:43:36.19 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「勇者さん、パーティーが始まるまでは何をなさってました?」

古畑「たとえば、あの応接室で私どもと顔を合わせた後、とか……」

勇者「どうしてそんなことを聞くんです?」

勇者「……まさか私が魔王を殺したと疑ってらっしゃるのでは?」

勇者「魔王の死因は倒れた石板によるものではない、というのははっきりしたでしょう」

古畑「いえいえいえいえ、とんでもない! あくまで形式上のことです」

勇者「……まぁ、いいでしょう」

勇者「城内を適当にうろついてましたね」

古畑「魔王さんにお会いには?」

勇者「今まで何度も戦った間柄ですが、今日は一度も会ってません」

古畑「一度も?」

勇者「はい」

古畑「そうですか、ありがとうございます」

勇者「じゃあ私はこれで」

古畑「あ、すみません、もう一つだけ」

勇者「……なんです?」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:46:31.70 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「先ほど魔法使いさんがテレポートで、魔王さんのいる部屋に入ろうとした時」

古畑「あなた止めましたよね? なぜです?」

古畑「ドアを爆破するより、その方がよっぽどスマートだった気がしますが……」

勇者「あなたは知らないでしょうが、テレポートというのは非常に魔力を消費するんです」

勇者「それに、あの時の私は魔王が死んでるなんてことは知らなかった」

勇者「そんな中に魔法使い一人で飛び込むのは危険だと考えるのは当然だと思いますが?」

古畑「おっしゃる通り」

古畑「さすが勇者さん、英雄らしい賢明な判断です」

勇者「…………」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:49:19.68 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「そういえば、さっき魔法使いさんはテレポートは一日一回が限度、とおっしゃってました」

勇者「ハハ、あなたも人が悪い。知ってたんじゃないですか」

古畑「一日一回というのは、勇者さん、あなたも?」

勇者「はい」

古畑「よろしければ、今テレポートを見せて下さいませんか? 私どうしても見たいんです」

勇者「……断る」

古畑「なぜ?」

勇者「なぜって、決まってるでしょう」

勇者「非常に疲れる魔法を、ただ見せるためだけに使うなんてバカバカしいじゃないですか」

古畑「そうですかぁ〜、たしかにその通りです」

古畑「私、バカな頼みを申し上げてしまいました。本当にごめんなさい」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:52:09.28 ID:2Ro3e5Mlo
古畑「私てっきり、今の勇者さんは“テレポートを使わない”ではなく」

古畑「もしかして“テレポートを使えない”のかなぁ〜、とふと思ってしまったもので」

勇者「…………」

古畑「どっちなんでしょう?」

勇者「あなたに話す義務はないな」

古畑「それはそうです。んふふふ、申し訳ありません」

勇者「…………」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/20(月) 23:55:53.25 ID:2Ro3e5Mlo
タタタタタッ

今泉「古畑さぁん!」

古畑「遅いじゃないかぁ〜、何やってたの」

今泉「何やってたのって、魔法使いさんを手伝ってたんですよ!」

今泉「あの人も穏やかそうな顔つきで、人使い荒すぎなんですもぉん!」

今泉「肩揉めだの、面白い話しろだの、疲れたから紅茶入れてこいだの……」

古畑「で、結果は?」

今泉「部屋の隅々まで調べましたが“魔力の痕跡”はどこにもありませんでした!」

古畑「……そう」

勇者「…………」ホッ

勇者「どうやら、自殺と断定して間違いなさそうですね」

勇者「さ、もう行っていいですか? 私は忙しいんだ」

古畑「あ、どうぞ、結構です。お引き止めして、申し訳ありませんでした」

古畑「…………」
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