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三船美優「純情な想いに酔わせていただけませんか……?」
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1 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/11/08(水) 17:13:21.21 ID:+HK+5YK6O
これはモバマスssです
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1510128801
2 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/11/08(水) 17:14:43.61 ID:+HK+5YK6O
初めての出会いは、とある歩道橋だった。
失敗続きのスカウトに嫌気がさし、一人寂しくビールを煽った帰り道。
次に失敗したら、本当に俺は向いてなかったんだと諦めようなんて思っていて。
もういっそのこと空から美人が降ってきたり何処かに落ちてたりしないかな、なんてアホな事を考え始めていた時。
歩道橋を登り、寒い夜道に恨みを飛ばしていたところで……
「……はぁ」
俺は、彼女と出会った。
「……大丈夫ですか?飲み過ぎですか?」
「……えっ?あ、いえ……」
蹲った彼女は、俺の声に反応して此方を向く。
何となく声を掛けてみたが、とんでもない美人だった。
落ちてるもんだな、美人なんて失礼な事を考えてしまう。
それくらいタイミングが良くて、なんだか運命的な出会いだな、なんて柄にもない事を考えてしまって。
「買ったばかりのヒールが折れてしまって……散々です。本当に……散々で……」
明るい栗色の長い髪を揺らし、彼女は首を振った。
「慣れない靴を履いて、背伸びしたくらいでは……人は、変われないんですね。靴を変えた事も、誰にも気付いて貰えなくて……」
わかるー、と軽く返せそうな雰囲気ではなかった。
思ったよりも良く話す女性なのかもしれない。
「……そんな事、分かってるくらい大人だったつもりなのに……」
「……諦めを学ぶ事が大人になるって事ではないと思いますよ」
……?
俺は何を言っているんだろう。
3 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/11/08(水) 17:15:30.49 ID:+HK+5YK6O
彼女は、変わりたかったのだろうか。
誰かに、気付いて貰いたかったのだろうか。
大人に、なりたかったのだろうか。
子供に、憧れているのだろうか。
「……すみません、もう大丈夫ですから……これ以上、構わないで下さい」
そういうわけにもいかないだろう。
見捨てるには気分が悪い。
それに、せっかく出会ったのだ。
少しくらいこっちの話をしたってバチは当たらないだろう。
「お名前、聞いても大丈夫ですか?」
「あ……ええと、三船、美優です……」
三船美優さん、か。
さて……若干酔いは残ってるけど、きちんと届くかどうか。
4 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/11/08(水) 17:16:23.68 ID:+HK+5YK6O
「三船さん。アイドルに興味はありませんか?」
「……え?アイドルって、あの……若い女の子が、歌って踊る……?」
「はい。俺、とある事務所でプロデューサーの様なものをやってまして。此方が名刺になります」
すっと、彼女に名刺を渡す。
えっ?という表情をされたと言うことは、彼女もうちのプロダクションは知っていたのかもしれない。
「ありがたいですけど……私には、向いてないと思います。もう20代の真ん中ですし、ただのOLにそんな事……」
「そんなことはありません!」
つい、大声をあげてしまった。
「貴女は変化を求めていた、慣れない事をしようとしていた、誰かに気付いて貰いたかった、背伸びをしようとした……その全てを叶えられる場所なんです!遅いも早いもありません!」
かなり熱が入ってしまった。
なるほど、自分で思っている以上に俺はこの仕事に誇りを持っていたようだ。
そして、目の前で諦めようとしている女性を諦める事が出来なかったらしい。
5 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/11/08(水) 17:17:12.18 ID:+HK+5YK6O
「もういっそ、そういう運命なんだと思って……アイドル、やってみませんか?」
こんな小っ恥ずかしい事を言えたのは、確実にお酒の産物だろう。
しばらくの沈黙。
流石にクサすぎただろうか。
「……ふふっ、変わった人ですね」
「かもしれません。どうせなら、貴女も変わってみませんか?」
手を差し伸べる。
彼女はそれを、恐る恐るだが力強く握ってくれて。
「……信頼……しても、いいんですか?」
「貴女が放そうとしない限り、俺は絶対にこの手を放しませんから」
ちょっとお酒の力を使いながらも。
俺は最高の原石をスカウトすることに成功した。
6 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/11/08(水) 17:17:49.79 ID:+HK+5YK6O
それから、色々な事があった。
レッスンをして、オーディションを受け、小さなステージに立ったり、ドラマのエキストラとして出演したり。
時にはかなりしんどい状況もあったと思うが、それでも二人で支えあって進んできた。
最初はずっと自信なさそうにしていた彼女も、少しずつだか、笑顔で仕事に臨めるようになった。
最初は人付き合いが苦手だった彼女も、今では自分から人に話しかけてゆくようになった。
最近はあまりマイナスな事を言わなくなった。
それはきっと、彼女の心が強くなったからだろう。
それはきっと、彼女が自分に自信を持ち始めたからだろう。
それが、一緒に進んできたプロデューサーとして堪らなく嬉しかった。
「……私が変われたのは。私が、アイドルに変われたのは……プロデューサーさん。貴方のおかげです」
そう言う彼女の目は輝いていた。
笑顔で『変われた』と言う彼女の言葉は力強い。
初めて歩道橋で出会ったときの諦めなんて、どこにもなくて。
俺もまた、彼女に感謝した。
「……あの日、貴方が言った……運命って言葉。私は、信じていますから」
そう言えば確かに、そんな小っ恥ずかしい言葉を言った気がする。
彼女も、信じてくれていたのか。
ライブに出演し、ドラマでメインを張り、CDもリリースし。
彼女はどんどんと売れていった。
テレビをつければ目にしない日はないくらいに。
1年が経った頃には、うちの事務所の稼ぎ頭レベルになっていて。
そして、久しぶりに二人でお酒を飲んだ翌日。
そこから、このお話は始まる。
7 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/11/08(水) 17:18:43.44 ID:+HK+5YK6O
「うーん……」
飲み過ぎた。
久しぶりに三船さんと飲みながら話しているうちに、かなりペースアップしてしまったらしい。
どうやって帰ってきたのか覚えてないが、人の帰巣本能のは凄いものだ。
なんやかんやタクシーでも使ったのだろうか。
そう言えば、三船さんもちゃんと帰れたのかな。
大丈夫だとは思うが、一応連絡を入れておこう。
今日はお互い休みだし、寝てるなら寝てるでそれで良い。
枕元のスマホを手探りで拾い、三船さんの番号に電話を掛けた。
ぷるるるる、ぷるるるる
何度かのコール音。
それと同時に、ぶーん、ぶーんと何かが振動する音。
俺の携帯ではない。
俺の頭の上から、それは聞こえてきている。
なんだろう。
枕元の震源を探る。
そしてようやく姿を現したそれは、スマートフォンの形状をしていた。
いやもろスマートフォンだった。
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