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男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】
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75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 02:12:29.28 ID:1Dyq91YXo
乙〜
年齢は28くらいのイメージ
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 07:35:57.63 ID:bGcy+nyJ0
乙
30代前半ぐらい。20代後半にしてちょっと…
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 08:16:04.65 ID:8y5v+uAQo
お兄さんよりむしろおじさんと言われた方が違和感の無い年齢
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 11:21:13.61 ID:QK323oLm0
Wの翔太郎みたいなイメージだった
ハーフボイルドっぽいところもあるし
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 11:25:45.73 ID:6Lu7LXaSo
前職あると考えてギリギリ29か8
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/11/11(土) 17:29:02.28 ID:zGnqo7znO
イメージは野々村病院の人々の海原 琢磨呂
海原琢磨呂探偵事務所の所長にして、事務所で唯一の私立探偵。32歳。数々の難事件を解決した手腕がありながら、女好きの性格のために悪名が高く、捜査依頼はさっぱりの閑古鳥であった。ある日、涼子とのふとした出会いが元で足を骨折し、搬送された野々村病院で亜希子から捜査を依頼される。
かなりのヘビースモーカーでもあり、何かにつけては紫煙を燻らせる。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 17:57:36.25 ID:Nl6ZjZqs0
とりあえず髭面ではない三十路を想定してた
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 21:33:29.47 ID:0EtV53xmO
三十路手前のアラサー優男、ついでに髪は野暮ったく伸ばしてる感じ
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/12(日) 11:33:48.78 ID:LoDib1WAo
乙
すごくこういうの好み
年齢は28くらい
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/12(日) 21:02:59.93 ID:s+xF8aIN0
年齢に関するレス等ありがとうございます。 書き連ねる上での参考にさせて頂きます。
放映されている某怪獣映画を観終えた後にのんびり書き始めるので、夜半お時間ある方は覗いてみてくださいな。
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/12(日) 23:50:49.06 ID:s+xF8aIN0
何だかんだでダラダラと過ごしていると、気づけばもう九時を回ろうとしていた。
仕事中は一秒が体感三分にも感じられるのに、朝の時間はどうして過ぎるのが早いのか。
既に出かける準備は済ませておいたので、サンディに外出するよと声をかけて事務所を後にする。
玄関を出てから対面側の敷地にある月極駐車場。
そこには先代所長から受け継いだビビットピンクのハスラーが駐車されている。
結婚適齢期を迎えた年頃として、引き継いだ当時は乗り回すのを中々に恥ずかしがったりもしたが、流石にもう慣れたものだ。
当時の所長が「可愛いからハードボイルドだな」という謎すぎる理論のもとに購入していたのを思い出す。
「可愛い車ですね」
とはこれから助手席に乗り込もうとしているサンディ談。
それが気遣いから出た言葉ならば花マルを差し上げたい。
だが、どうやら彼女は本心で告げていたらしく、この車に乗る際にウキウキしている様が目にとれた。お気に召したようで何より。
まずは銀行でお金を引き落として、それから洋服を買い、そして動物園。
良い一日になりますようにと少しだけ願いつつ、僕は車のエンジンを起動させた。
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/12(日) 23:59:31.85 ID:XEYTZQK50
おまかわ
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 00:03:55.02 ID:grI1dH9y0
車のカーステレオから流れているラジオは今日の天気を教えてくれた。
どうやら秋晴れが続くらしく、ここ一週間は出かけるのにうってつけの日取りだとか。
雨が降らないだけでも有難いのに、晴れ間にも恵まれているのは上出来だろう。
フロントガラスの先に見えるのは鼻歌でも歌いたくなるような青空だ。
季節柄だろうが日射しも強すぎず、日向ぼっこのような心地よい温かさが上半身を包んでくれる。
ふと横のサンディを見ると、シートベルトの根本に寄りかかるようにして目を閉じていた。
耳をすませば聞こえてくるのは穏やかな寝息。
よく考えるとやたら朝早く目覚めて、朝食を取り、この気候で車に乗っている。眠くなるのも頷ける。
普段よりも加速と減速に気を使い、今まさに育っている寝る子を起こさないよう早めに銀行の用事を済ませておこう。
しかし何だろうか。
助手席で心地良く眠られると、こちらもなんだか睡魔に肩を掴まれているような錯覚に陥る。
朝に補充したコーヒーのカフェインをゴリゴリ消費するようなイメージで戦わねばなるまい。
くわぁ、と生欠伸を一つ。
うん、良い天気だ。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 00:24:13.16 ID:grI1dH9y0
銀行からぼちぼちの金額を引き落とし、そこから走ること更に十五分。
目的地の一つである場所に到着した。
そこは全国でチェーン店が展開されている洋服屋の一つで、様々なジャンルの服を取り扱っている。
店内を少し見渡すだけでもキッズ用の衣類は散見されており、これなら色々と見繕えるだろう。
彼女の気に入る服はあるかなと思い、ふと横をみるとサンディがいない。
慌てて探すと入ってすぐのドアで口をあんぐりさせていた。
店の広さになのか、それとも服の種類の多さにだろうか。
「お、大きいですね……」
「そうだね。君の好きな服が見つかるといいな」
「でも、私なんかがこんな贅沢をしていいのでしょうか、ご主人様……」
僕はサンディの鼻先を傷つけない程度に優しくちょこんと指先で弾く。
「サンディ、僕はご主人様じゃなくて?」
「は、はい、そうでした……」
何やらもじもじしている。恥ずかしがっている様子だ。
「お、……おにい、さん……!」
頬を真っ赤にしながら、彼女は告げる。これから口にするべき僕の呼称を。
そう言ってくれたサンディの手を軽く握る。手を繋いでいれば、なんとなく年の離れた兄妹に見えてくれるだろうか。
彼女は俯き加減の姿勢になり、表情が見えなくなってしまった。
長い髪から覗く耳の赤さと、僕の右手に伝わる体温の温かさが気になるところだが、まぁ今は置いておこう。
入口から動かす意味合いと、好きな洋服を選んでほしいという気持ちで、僕らは手を繋いで売り場に向かうことにした。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 00:39:14.76 ID:grI1dH9y0
ファッションには疎いうえに、さらに子ども用の服なんてコーディネートした事も無く。
果たして一体どれがサンディに似合うのだろうか。さっぱり分からない。
まぁこの子は傍から見ても美形だ。目鼻立ちもくっきりしており、小顔で華奢ときた。
将来は美人になるのが容易に想像できる。
そんな彼女だからきっと何を着ても似合うのだろうが、それはそれとしてだ。
餅は餅屋というし、こういうのはショップの方に相談するのが一番だろう。
辺りを見回すと、手透きの女性店員を一人見つけた。早速声掛けしてみよう。
「すみません、この子に服を何点か見繕ってほしいのですが」
「はい、畏まりました。 こちらのお子さんですね。 ……あら、綺麗な子! お名前は何ていうの?」
店員は腰を屈ませて、自分の視点をサンディと同じ高さに持って行った。
当の彼女は急に大人に話しかけられてしどろもどろになっている。
「え、あ、うぅ……その……」
この子はサンディって言うんですよ、と軽く助け船。
素敵な名前ですね、と微笑みながら店員は言う。嫌味もなく、感じが良くて素晴らしい。
店員自体も綺麗な方だし、洋服はこの方に任せても大丈夫そうだ。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 00:53:36.29 ID:grI1dH9y0
「じゃあ僕は適当にレジ前のベンチにいるから、外出用と部屋着の洋服を最低三点ずつ選んだら教えてね」
「は、はい!承知しました!」
そういってサンディの頭を軽く撫でて、店員にお願いしますと声をかける。
そして少しだけ補足事項を伝えておいた。
「私はこの子の保護者ですが、あの子は過去の経験で古傷がありまして……露出の高い服は控えてくださると幸いです……」
「……畏まりました」
おおよそ察してくれたのか、深々とお辞儀をして僕に頭を下げてきた。色々な意図が見受けられるお辞儀だ。
きっとこの人は良い人なのだろう。
頭を上げてからすぐに女性店員はサンディに向かって声色高めに話しかける。
「さぁサンディちゃん! お兄ちゃんからOK貰ったから、いっぱい可愛い服を着ましょうね!!」
「え、え、えぇ……!?」
戸惑うサンディの肩を掴んで、キッズ用のラインナップが並ぶ棚に連れて行ってくれた。
うん、あとはのんびり待つことにしよう。
何となく子を持った親の気分だ。いや、親戚の子と遊んでるような感じが近いのか。
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 01:07:01.74 ID:grI1dH9y0
それから一時間ほど後に、店員とサンディが手を繋いで歩いてきた。
いつの間にそんなに仲良くなっていたんだ……。
店員を見ると、なんだか目元の化粧がちょっと厚くなっている。気になる点が増えてしまった。
「お待たせ致しました。それぞれ日常用とレジャー用で着回しも出来る服を持って参りました」
「有難うございます、ファッションに疎いんで助かりました」
「いえいえ、お気になさらないでください。あ、あとこちらもどうぞ〜」
そういって手渡されたのは、数枚の割引券。
受け取っていいものかどうか考えていると、今日の新聞の折り込みに入っているので皆さんも使われてますよとの事。
そうであれば有り難く好意を頂こうとその券を貰い、そのまま精算する事に。
レジの前には人が列になっており、自分は五番目に位置している。
財布の確認をしていると、サンディがぽつりと零す。
「あのお姉さん、いいひとです」
そうだね、良い人っぽいね。
そう僕が言うと、いいえ、いいひとです、と彼女は言い切る。
「服を試着する際に上着を脱いだとき、背中の傷を見られました。
そしたら……お姉さん、泣いてしまいました」
「そして、ゴメンなさい。ほんの少しだけ、お兄さんの所にいる経緯を話してしまいました」
ああ、なるほど。目元の化粧が濃くなったのと、割引券をくれた理由がなんとなくわかった。
「お姉さんも、お兄さんも、良い人です」
そう言ってくれるサンディに、僕は返事の代わりに繋いだ手をほんの少しだけ強く握り返してみた。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 01:21:23.65 ID:grI1dH9y0
割引券と店員のチョイスのおかげで、自分が想像していた額の倍ほど安く買い物は済んだ。
会計を済ませて店を出る前に、ふと思い立つ。
「ねぇ、サンディ。せっかくなら買った服を着て動物園に行かないかい?」
「宜しいのですか……?」
「うん、試着室もあるし、いいんじゃないかな」
「で、では、袖を通すのが勿体なくも感じますが、着てみます!」
購入した服が入った袋を抱きしめて、そのまま試着室に駆け出していく。
服のタグはレジで取ってもらっているので大丈夫だろう。
それからしばらく、試着室の奥から聞こえてくるのは「えーと、うーんと、これと……これと……」というサンディの声。
お洒落を楽しんでいるのか、声が弾んでいるのが分かる。可愛い。
それからしばらく後、カーテンの端からぴょこんと顔を出してきた。
「その、……着てみました」
「どんな服になったのか、楽しみにしてるよ」
僕がそう言うと、意を決したようにカーテンをシャッと勢いよく開けた。
彼女が選んだのは、フランネルチェックのシャツに、ガウチョパンツ。アウターに白いセーター。
清楚に納めてきたファッションだ。とてもよく似合っている。
「サンディ」
「は、はい」
「似合ってる、可愛いよ」
それを聞いた瞬間、勢いよくカーテンが閉まる。
そして奥から聞こえてくるのは「ふぅぅぅぅう〜〜……ふぅぅぅぅぅぅう〜〜!」と悶えるような声。
「だ、大丈夫!?」
「はい!大丈夫です! 大丈夫ですが、息ができないので少しだけお待ちください!」
「いやそれ大丈夫じゃないでしょ!」
「大丈夫です!!」
「は、はい……」
思わず押し切られてしまった。本当に大丈夫なのだろうか……。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 01:36:14.95 ID:grI1dH9y0
待つこと数分、未だぜぇぜぇ息を切らすサンディが試着室から出てきた。
「お、お待たせしました……」
「お、おぅ……」
謎の圧を感じながらも、改めて彼女の手を取り、歩き出す。
出口方面ではなく、店内に。
最初は不思議な顔をしたサンディもすぐに察し、辺りをキョロキョロ見回していた。
そして、
「ご主人様、あれ」
「こら」
「す、すいません。お兄さん、あれを」
サンディが指さした先には、お世話になった店員がいた。
接客中でも棚の整理中というわけでもなさそうだったので、声をかけてみる。
「すみません、お世話になりました」
「あら、お兄さんとサンディちゃん!!」
店員は軽く屈んでサンディをハグする。当の本人はわたわたと両手をバタバタさせていた。照れ隠しだろう。
それからふと彼女の恰好を見て気づく。自分が見立てた服を着ていることに。
「あら、これはさっき一緒に試着室で着た……」
「改めて、有難うございます。おかげさまで良い買い物ができました。お忙しいところ失礼いたしました」
「いえいえ、とんでもないです」
「それとついでに、お気遣いのほど、有難うございました。それを伝えたくて」
僕が言い終えると同時に、サンディは軽くガウチョパンツの裾をつまんで優雅に一礼する。
「ありがとうございました。素敵なおねえさん。わたしは、あなたのような優しい大人になりたい」
店員の目に涙が溜まるのが分かる。それを誤魔化すような素振りで、こちらに向けて再度深々と頭を下げてくる。
「こちらの方こそ、少しでもお役立ちできて光栄です。またのご来店、お待ちしております」
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 01:57:36.38 ID:grI1dH9y0
店を出てから、車を郊外方面に走らせる事おおよそ四十分。
その間に途中でドライブスルーに寄って昼食を車内で食べたりもした。
ハンバーガーを物珍しそうにもっきゅもっきゅと頬張って食べる助手席の小動物の可愛さに心奪われながらも
今回の第二の目的地である動物園に到着した。
そこは正確には動植物園と呼ばれるような施設であり、名前の通り動物園の施設が半分、植物園の施設が半分になっている。
車を動物園側の駐車場に停めて、無料入園券のチケットを準備し、いざ中に入ってみた。
大人二枚と子ども一枚ですね、と係員からの問い掛けにイエスと答える。
お連れ様が小学生以下の場合は風船のサービスがあるという。
……そういえばサンディって何歳なんだ?
「ねぇ、サンディ。君って今いくつだい?」
「確か十一歳か十二歳だったと思います」
「うん、ありがとう」
十一歳か十二歳、か……。
係員に十一歳と伝えて、手持ち風船を貰う事に。
それを彼女の右手に渡して、空いた片方は僕が握ってみた。
手を繋ぐ際は相変わらず照れる彼女に、つられて僕も照れてしまう。
僕が照れるのは、きっとこういう柄じゃないからだろう、きっと。
今日は休日という事もあったので親子連れがちらほら散見され、まぁまぁ活気を感じられる程度には人の気配があった。
動物園なんて何年ぶりだろうか、などと昔を思い返していると、僕の右手がきゅっと締まった。
横のサンディを見ると、まるで夢でも見ているかのように惚けたような目をしている。
「サンディ、どこから回ろうか?」
「えっと、キリンさん、見たいです!」
ノータイムで答える辺り、本当に見たいのだろうという気持ちがこれでもかというほど伝わってくる。
パンフレットを確認し、まずはキリンのコーナーから見ていく事にした。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 02:21:51.08 ID:grI1dH9y0
パンフレットを眺めて思った事がある。
ここの動植物園はかなり広く、それぞれの施設を回るだけで半日が潰れそうだ。
どちらも楽しもうと思うなら、それこそ丸一日は使わないと周り切れ無さそうではある。
今回はまず動物を堪能して、また別の機会に植物園の方を周ることにしておこう。
さてさてキリンのコーナーは、と。
なるほど端の方か。縮尺から考えて、大人の足でここから十分ほど。思ったより少々歩かなければならない。
ただ、サンディは服を選ぶことで気疲れしてそうではある。
さて、一体どうするべきか検討してみよう。
1:背中におんぶして向かう
2:肩車をして向かう
3:このまま手を繋いで向かう
【
>>97
】
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 03:19:24.32 ID:0SAAm99u0
踏み台
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 03:27:52.99 ID:V0rYhPwY0
1
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 03:54:48.61 ID:grI1dH9y0
>>97
おもむろにサンディの前で屈んでみた。案の定、彼女は意図が分からぬようで。
頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのが想起される。
「キリンの所までちょっと距離があるから、背中に乗っかっておいで」
「ふぇっっっ!?」
目を丸くして驚いている。まぁ今までの傾向から、すぐすぐ乗らないであろう事は予想していた。
「はい、じゅーう、きゅーう、はーち……」
「あ、あわわ……!」
謎のカウントダウンをしてみる。もちろんゼロになっても何も起こる筈など無い。
だが急に始まった事によりサンディはあわあわと焦っている。
残りカウントが五秒を切ったところで、意を決したような声が後ろから聞こえてきた。
「えいっ!」
という掛け声と共に、背中に筋張った感触を覚える。
首元に締まる細い手、後頭部に感じる顔の輪郭骨。
彼女が勢いよく飛び乗ってきたようだ。バランスを崩さなかった自分を少しだけ褒めたい。
立ち上がってみると本当に何か背負っているのか疑わしいほど負担もなく。有り体に言って軽すぎる。
冬の身支度で先日押入れから引っ張ってきた羽毛布団のほうがよほど手ごたえがあった。
背中でサンディが狼狽しているのが分かる。腕に抱えた足元がバタバタしているから。
「あ、す、すいません……。 重いですよね、重いですよね!! すぐ降りますから、調子に乗ってすいません!」
「サンディ、そのまましっかり掴まっててね」
「へ?」
足を腕にかっちり挟んで固定したまま、それいけと言わんばかりに馬になった気持ちで僕は走り出す。
うひゃぁ、と可愛い悲鳴を聞きながら、そのままキリンが見物できるコーナーを目標に駆け出していた。
年端もいかない子を背中に抱えたアラサー男子。
傍から見たらどんな絵面になっているだろうか。
犯罪の香りだけはしませんように。
何と言われようと今くらいは彼女の為に只のお兄さんになってやる。
動物園にいる間くらい、普段の渋くてダンディを纏うハードボイルドな自分は休憩しておくことにした。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 04:08:49.20 ID:grI1dH9y0
普段から鍛えている事が功を奏し、息を切らす事無く目的地に到着。
背中からサンディを降ろしてみれば、なんだか嬉しそうな顔をしていたのに気づく。
どうしたの、と訊ねてみると。
「お兄さん、すごい。しゅぱぱぱぱ、って、まるで飛んでるみたいでした」
「足の速さをそこまで喜んでくれるのは予想外だよ」
幼い子は足が速い男子が好きとはいうが。サンディも例に漏れないということか。
それよりほら、と前を指さしてみた。
「わぁ…………!!」
実際に目の当たりにしたキリンに感嘆の声を上げた。
サンディの大きな目が目映くキラキラ光っているような錯覚を覚える。
「大きいですね」
「うん」
「首が長いです」
「うん」
「目がぱっちりしてて、かわいいです」
「そうだね」
「かわいい……かわいいなぁ……」
嬉しそうにサンディはキリンを見つめている。
そんな彼女の気持ちなど何処吹く風で、キリンはマイペースにエサを食んでいる。
むっしゃむっしゃと食べるその様までたまらないようで、僕の服の裾をくいくいと引っ張ってくる。
「キリンがエサを食べてます」
「うん、食べてるねぇ」
「可愛いです」
「うん、可愛いね」
「あ、こっち見ました。可愛いです」
「そうだね」
「あ、かわいいです」
「うんうん」
当初会った頃から日本語が堪能だと思っていた彼女だが、どうやらキリンを見ていると語彙力が低下していく事が分かった。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 04:24:03.27 ID:grI1dH9y0
サンディは僕の服の裾を掴んでいる事にも気づかずに、夢中でキリンを凝視している。
そしてキリンを見始めてしばらく時間が経過した。
どれくらい過ぎたのかというと、僕は目蓋を閉じても黄色と茶色のまだら模様が浮かぶくらいずっとそこにいた。
それから更に時間が経ち、園内のチャイムから本日の業務時間がもうすぐ終わる放送が流れて来た。
僕はそこで意識をようやく取り戻す。
隣のサンディはまだずっとキリンの様子を目で追っていた。
「サンディ、もうすぐ動物園が閉まるんだって」
「…………」
「サンディ、サンディさん」
「…………」
「おーい、さーんでぃー」
「……はっ! す、すいません!キリンさんを見るのに集中していました!」
頭をびくんと縦に振ってサンディは僕を見つめてくる。
そして、ようやく自分が服の裾をがっしり掴んでいた事に気付いたようだ。頬を真っ赤にして慌てて手を放した。
なんとも微笑ましい。
「よし、じゃあ帰ろうか」
「は、はい……」
彼女は頷くものの名残惜しそうにキリンに何度か視線を送っている。
別に悪い事をしていないのだが、なんだか申し訳ない気持ちが沸き起こる。
そこで一つ妙案が浮かんだ。
「帰る前に寄りたいところがあるんだけれど、いいかい?」
「もちろんです。何処までもお供します」
軽くガウチョパンツの端をつまんで、恭しく一礼。
奴隷の頃にメイドの立ち振る舞いでも訓練していたのだろうか。
堂に入ったその動きは長い間培ってきた何某を思わせる。
彼女が辛かったであろう頃の面影が脳裏をよぎったので軽く頭を振り、
僕はサンディを動物園の売店まで連れて行く事にした。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 04:40:09.68 ID:grI1dH9y0
サンディを店の入り口で待機させて、僕は閉店の準備で忙しそうな売店に滑り込む。
店員に心の中で謝りつつも目当ての品を探してみた。
お土産コーナーの一角にそれを見つけ、プレゼント用に包んでもらう。
これ以上手数をかけないようお店を足早に後にして、外で待ってくれたサンディに駆け寄る。
「何か探していたものは買えましたか?」
「うん、どうにかね」
「それは何よりです」
「サンディ、手を出して」
「?」
疑問には思っただろうが、大人しく彼女は右手を差し出してくる。
その手の平に僕はラッピングされたものを置いてみた。彼女の手に包まるくらいの小さなサイズだ。
「これは?」
「まぁ、ラッピング破って開けてみてほしい」
言われたように彼女は丁寧にラッピングを解いていく。
そして、その全貌が分かったとき、息を飲んだ。
「これ、は……」
「キリンのキーホルダー。安物だけれど、今日の記念って事でさ」
「これ、わたしに……?」
「僕が使えるにはちょっと年を取り過ぎたからね」
あまりこういうのを誰かにしたことが無い身なので、照れ隠しに頬を軽く搔いてしまう。
好みかどうか分からないし、勝手に買ってしまった物だから受け取って困ってなければいいな、と心配ばかりが浮かんでくる。
「…………私の、生涯の、宝物が、………出来ました」
キーホルダーを両手に包んで、それを胸の真ん中に添えて、彼女は言う。
瞳からは感情が零れている。ぽろぽろと、ぽたぽたと。
感情は数値化されないから分からない。様子でだけしか判断できない曖昧なものだけれど。
サンディは、喜んでくれた。そうだと思う。
彼女の心に少しでも届いたのなれば、そうであれば、僕も嬉しい。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 04:52:49.95 ID:grI1dH9y0
閉園時間のギリギリで僕らは動物園を後にした。
一日ずっと歩き詰めになるかと思ったが、サンディがあそこまでキリンが好きとは思わなかった。
おかげでそんなに動かずに済んだ。
まだ暮らし始めて二日目だが、今日で好きな動物が一つ分かった。
こうやって、少しずつ、互いに互いを知っていけたらいいと思う。
サンディが幸せになりますように。
出会って間もなく、知り合ってすぐではあるけれど、僕は切に思っている。
今こうして車に乗って帰路に着くなか、無表情に街のネオンをずっと見つめる彼女にふと問いかけてみた。
「ところでさ、サンディ」
「どうされました?」
「キリン、好きなの?」
「はい」
「どの辺が?」
「……強いて言うなら、耳ですね」
「……マニアックだね」
僕らの二日目は、こうして緩く終わっていく。
別れの日まで、約三百六十二日。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 05:03:27.81 ID:grI1dH9y0
一旦休憩。安価協力に感謝をば。
今後の二人の動向等を安価で検討してまして、その際にも助力を頂けると有り難い限り。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 06:05:24.94 ID:grI1dH9y0
【連れて行きたい場所】
>>105
【視点:男 or サンディ】
>>107
【二人の寝床:一緒 or 別々】
>>109
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 07:25:27.02 ID:+6uoFwsAo
ケーキバイキング
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 08:41:28.83 ID:rRg8hJyA0
サンディ
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 08:47:02.44 ID:RXltBsd90
サンディ視点
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 08:51:48.24 ID:11Jw7LYl0
乙
kskst
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 08:53:09.63 ID:rRg8hJyA0
一緒
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/11/13(月) 09:19:11.21 ID:4CIw6SJTO
wktk
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 12:06:41.48 ID:grI1dH9y0
【連れて行きたい場所】
ケーキバイキング
【視点:男 or サンディ】
サンディ視点
【二人の寝床:一緒 or 別々】
一緒
承知しました。ケーキバイキング、良いですね。
時間を空けてから再開しますので少々お待ちを。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/11/13(月) 20:18:53.28 ID:HN4dMpxeo
>大人二枚と子ども一枚ですね
店員のお姉さんついて来ちゃったかな?
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 21:17:27.55 ID:VwXDTvtEO
ww
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 21:57:09.80 ID:grI1dH9y0
>>112
お分かりいただけただろうか……。
すいません、言われて初めて気が付きました。推敲も無しに投下して申し訳ない。
こんな感じの文章ポロポロあると思いますが、即興で書くライブ感ゆえの弊害と捉えてもらえると幸いです……。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 22:14:12.39 ID:jF03+OFUO
分かってたけどスルーするのがマナー
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 06:10:40.98 ID:OiSFZpw30
私の名前はサンディ。名前だけしか持たない奴隷。
遠い昔にどこかの港町で母と暮らしていたような気がする。
以前の記憶は曖昧で、全ての事柄に薄ぼんやりとした霧がかかっているみたいだが、
私自身としては振り返るつもりが毛頭ない。
どこで、何をして、どんな事をされてきたのか、
思い出しそうになると凄まじい嘔吐感を覚え、腕の皮膚を搔きむしりたくなってくる。
だから昔は思い出さない事にした。
綺麗だった母の顔も、もしかしたら居たかも知れない友人も、あの懐かしい磯の香りも。
それはきっと。
逃げる事すら許されなかった私の脳内で生まれた、愚かな幻。
きっと実際は暗い橋の下あたりで拾われて今に至るのだろう。
一番鮮明な記憶は、鞭を振るわれた背中の痛み。
人生で残せてきたのは、体に刻まれた醜い傷跡だけ。
幸せの意味さえよく分からないまま、ずっと長いあいだ虐げられてきた。
日本へ売り飛ばされる際に乗ってきた船で、あの人に出会うまでは。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 06:25:43.02 ID:OiSFZpw30
私は夢を見ない。
恐ろしい夜が早く過ぎ去りますようにと願いながら目を瞑り、そのまま気づけば朝になっている。
夢で起こる事柄はどれもひどいものばかりで、いっそ見なくなればいいと思ってから随分経った。
私はいつも夜に電源が落ちて、朝に電源が勝手に点く機械のようなものだ。
何某かの夢を見ているのかも知れないが、思い出すつもりもない。
ちゅんちゅん、と鳥の囀りがどこか遠くから聞こえてくる。
目蓋の重さをこじ開けるように見開き、朦朧とした意識が徐々に温まってきた。
掛け布団の重さに未だ違和感を覚えながらも、そのままむくり、と目が覚める。
時刻を見ると朝の六時四十分。
七時までに起きてくれば朝ごはんの準備をするよ、とはお兄さんの言伝。
ふかふかのベッドから身を起こして、先日購入してもらった部屋着に着替える。
部屋の出口にある姿見に映るのは、煤や垢まみれのみすぼらしい姿な自分ではなく、
きちんとした身なりで、まるで人並みの生活を過ごせているかのような私。
そのまま右の頬をむにゅ、と摘まんでみた。姿見の自分の滑稽な顔が見える。
そして少し力を入れてみると。
良かった、痛い。
私は夢を見ない。
ただ、今のこの現状は、まるで夢を見ているようで。
どうしようもなく胸がいっぱいになる。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 06:35:52.28 ID:OiSFZpw30
事務所に繋がる扉を開けると、鼻腔を何やら良い匂いがくすぐってくる。
この香りはいつもお兄さんが飲んでいるコーヒーというものの匂いらしい。
鼻先だけで苦みを覚えてしまいそうなのに、それが無骨に心をほぐしてくれる。
香りの出処は、ソファで新聞を広げている人物からだった。
その方は私が起床してきた事に気が付くと、新聞を置いて、ふわりとたわむような優しい顔を見せてくれる。
「おはよう、サンディ」
この笑顔を朝から見ると一瞬で目が覚める。それと同時に、何故だか胸の動悸まで起こしてくれる。
おはようございます、と敬意を込めて一礼を交わす。
そのまま目線をずらして暦を見ると、今日の日付は十一月二十五日。
お兄さんの下にお世話になり始めてから二週間が経過していた。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 06:55:31.28 ID:OiSFZpw30
お兄さんはコーヒーを軽く啜り、再び新聞に目を通し始める。
前にちょっとだけ飲ませてもらった時はとっても苦かったけれど、
私用に改めてコーヒーを淹れ直して、それにミルクと砂糖を混ぜてくれたら
驚くほど美味しい飲み物に変わったのを覚えている。
でもお兄さんはコーヒーを真っ黒いまま飲めている。不思議だ。
「それ、黒いままでも美味しいんですか?」
なんとなく聞いてみる。お兄さんは困った顔をしながら答えてくれた。
「あんまり美味しくないね。僕は甘党だから、本当はミルクと砂糖があった方が好き」
「では何故に入れないのですか?」
「ハードボイルドのコーヒーはブラックと相場が決まっているんだ」
お兄さんは、ふふん、と鼻を鳴らすようなポーズでまたコーヒーに口をつけた。
ハードボイルド。その単語は聞いた事がないので辞書でめくってみた事がある。
卵の固ゆでが語源になった、冷静だったり冷酷だったりする人を現すらしい。
現状だとほぼ間違いなく正反対だと思う。
物腰も柔らかくて穏やか。誰かのために涙を流せる人。
お兄さんは、ソフトマイルドの方がしっくり来るような気がする。
そして、それを言ったら何となくお兄さんががっかりしそうなので、私はグッと胸に秘めておくことにした。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 07:12:26.25 ID:OiSFZpw30
新聞を読み終わったら徐に立ち上がってキッチンに向かうお兄さん。
私はカルガモのように後ろをとてとてとついて行く。
振り返って嬉しそうな顔をしながら私の頭を撫でて、今日の朝ごはんのリクエストを訊ねてきた。
私如きがご飯を食べるなんて滅相もない、というとお兄さんはとっても悲しそうな顔をするので、
その言葉を飲み込みながら伝える。
なんでもいいです。なんでも嬉しいです、と。
それが一番難しいなぁ、と顔をふにゃっとさせながらお兄さんは戸棚からフライパンを取り出した。
私も早く料理が出来るようになりたい。切にそう思う。
そのままお兄さんが朝食を作り、私がお皿を並べる。
これが朝食前の風景になり始めた。心の芯が温かい。また泣きそうになってしまう。
それから少々時間が経つと、部屋に美味しそうな匂いが充満してきた。
「では、サンディ。号令よろしく!」
「はい、では僭越ながら……いただきます」
「いただきます!」
いただきます。とっても良い言葉だと思う。
知識として前々から知ってはいたが、いざこうして自分が使う方の立場になるなんて思わなかった。
毎日三食のご飯を食べる事が出来ているのは今までの自分の人生では考えられない奇跡だ。
本当は日本に着いたときの船で起こった銃撃戦で既に私は死んでいて、日本でいう鬼籍に入ったのかも知れない。
それならそれでも構わない。
神様と一緒に過ごせているという事に変わりはないのだから。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 07:37:24.67 ID:OiSFZpw30
食事を終えてからのひととき。
緑茶の淹れ方は先日覚えたので、お兄さんに新茶の一杯を持っていく。
ソファで新聞に挟まれていたチラシを整理していたので、手元から少し遠ざけて置いてみた。
ありがとう、と一言が返ってくる。
たったこれだけで心の柔らかい所がグッと掴まれたような錯覚を感じる。
この感覚の正体をようやく最近思い出した。
うん、嬉しいのだ。純粋に。
お気になさらず、とお兄さんに返しつつも、私はキッチンに駆け込んだ。
感情の処理の仕方が分からないので、そのまま衝動に任せてぴょんぴょん跳ねてみる。
そして二度三度ほど跳ねたら急に気恥ずかしくなった。控えよう。
持って行ったお盆で口を隠すようにして、少し呼吸を落ち着ける。
これから何かお兄さんの役に立てるような仕事はないかと探していると、
お兄さんが私を呼んでいる声が聞こえてきた。
今行きます、と返事をして、また駆け足で向かう。ペタペタと音を立てるスリッパがもどかしい。
そして彼の元まで向かうと、折り込みチラシを読みながら訊ねてきた。
「サンディ、今日はケーキバイキングに行かないか?」
私は首をかしげた。ケーキは分かる。砂糖が宝石の形になる食べ物だ。
ただ、バイキングが分からない。大男の作るケーキという事なのだろうか……。
詳細の程はよく分からないが、お兄さんの嬉しそうな笑顔を見ると、体が自動的に首を縦に振っていた。
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 07:49:06.92 ID:OiSFZpw30
車内にてバイキングがどういうものかを教えてもらった。
色んな食べ物をお皿にとって好きなだけ食べてもいいものだ、と。
信じられない。今までの食生活を鑑みれば眉唾ものだ。
だが、お兄さんが言うのならば嘘ではないのだろう。
いや、本当にそのような話があるのだろうか。
奴隷として飼われていた頃にそのような食事をするというのは
暗に最後の晩餐だと言わんばかりの事柄だから、何となく身がこわばってしまう。
元々死んでいるような身なので、もし今日がそれならば、せめてお兄さんの役に立ってから死のう。
そんな覚悟を決めて、“死地(ケーキバイキング)”へと歩みを進める事に。
そして目的地に着いたとき、桃源郷の意味を知った。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 08:08:40.47 ID:OiSFZpw30
「ふわぁ…………!」
思わず声が漏れる。
これでもかと言わんばかりに並ぶ、古今東西の様々なケーキ。
一口サイズのものから、ピース型、ホールごと丸々置いていたりと形もそれぞれ。
カットフルーツの傍にはチョコレートの噴水が湧き出ている。
ボタンを押すと温かいバニラの飲み物まであるようだ。
昔、遠い昔、絵本を読んでくれた人がいた頃、そこに描かれていたときの世界。
童話の中に迷い込んでしまったのだろうか。
取り皿を持ってみたものの、どれから取ろうかと悩んでしまう。
私が取ってもいいのかな。
首輪で繋がれていたような、畜生の扱いしかされていなかったような、浅ましい私でも。
わたしがさわっても、きたないっていわないかな……?
心にモヤがかかり、俯いてケーキの群れから背を向けようとしたら、
手元の取り皿にふと重みを覚えた。
そこには、一口サイズのショートケーキが置かれている。
「サンディ、なに食べる?」
朗らかな声で、お兄さんが笑いながらケーキを一欠片、取ってくれたのだ。
私の暗い気持ちなど素知らぬように。知っていても見ないフリをしてくれているかのように。
「これだけあったら迷うよね。僕もどれにしようかずっと考えてて、結局こうなっちゃった」
そして私に見せてくれたのは、取り皿にてんこ盛りのケーキの山。
所狭しと並んでいるどころか、三段くらい詰まれたそれは、見栄えなんか考えていませんと体現しているかの如く。
こんな量が食べられるのだろうか。周りの人もなんかヒソヒソお兄さんの方を見ながら言ってるような……。
大人なのに妙に愛らしい。まるで無邪気な子どものようだ。
「ぷっ……ふふ、ふふふ………あははは、あはははは!」
気付けば、私は笑っていた。笑ってしまった。
とても素直に笑えていた。
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 08:20:17.28 ID:OiSFZpw30
「おいおい、急に笑うなんてどうしたのさ?」
「だ、だってお兄さん……ケーキ、取りすぎ……ふふ、うふふ……!」
「そ、そうかな? 甘党だったらこれくらい普通じゃないかな?」
お兄さんは困ったように頬を軽く掻いている。
本人が食べられるといってる分には問題ないのだろう。
「サンディ、君も気にしないで好きなだけ取ればいいよ」
「はい、お兄さん。いっぱいとって来ますね!」
「よしよし。じゃあ、先に席を確保しておくから、ゆっくり選んできてね」
「あ、ありがとうございます!」
お兄さんは手をひらひらと振って、そのまま飲み物コーナーに向かっていった。
私は軽く頭を下げる。そして、目の前に沢山ある宝石箱へ向かい合った。
軽くほっぺを摘まんでみると、ちゃんと痛かった。
夢じゃない。 嘘みたいだが、夢じゃない。
私もお兄さんを見習って、いっぱい、いっぱい、食べてみよう。
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 08:23:09.34 ID:OiSFZpw30
「……」
「……」
「……サンディ」
「……はい」
「……食べ過ぎたね」
「……はい」
顔色が悪くなるまで食べた結果、帰りの車でグロッキーになっている二人がいた。
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 08:36:33.25 ID:OiSFZpw30
帰りの車内でも甘い匂いが充満していたので、やたらと酔いそうになりながらも無事に帰宅した。
確かに食べ過ぎた節もあるが、ケーキそのものは美味しかった。本当に美味しかった。幸せだった。
折り込みチラシに入っていた「ケーキバイキング半額デー」には感謝してもしきれない。
ただ、お兄さんは食べ過ぎたのを非常に後悔していた。
どうやら私がちょっぴり具合が悪くなったのを気に病んでいたらしい。
こちらとしては、私を幸せにしてくれる人が縮こまってしまうと萎縮してしまう。
いつものソフトマイルド、もといハードボイルドに早く戻ってほしいものだ。
「ゴメンね、サンディ……」
「いえ、素敵な時間でした。今日みたいな光景を夢で見てみたいです」
「とりあえずお茶でも淹れるけれどさ、何か僕に出来る事ある?」
「何か、ですか?」
「うん、なんでも聞くよ」
「なんでも……」
なんでも、というのは難しい。
ご飯のリクエストでお兄さんが困っていた理由が今更ながら理解できた。
では、一つだけ。いつも思っていた事を言ってみようか。
叶うかどうか分からないし、とても恥ずかしい事だから、躊躇いはあるけれど。
「では、お兄さん」
「うん」
「そのですね」
「うん」
「あの、そのですね……その………」
「うん」
「夜は寂しいから……私と一緒に寝てください……」
「いいよ」
即決だった。
照れていた自分が今一番恥ずかしい。
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 08:48:10.82 ID:OiSFZpw30
その日の夜。
私一人では広すぎるベッドが、有効に活用されるようになった。
「ん、そっちは狭くない?」
「は、はい……」
私の横にお兄さんが寝ている。
お風呂上りで石鹸の香りがする。
なんだか妙にそわそわして、顔がまともに見れない。
思わず掛け布団の中に頭まで埋まってみる。
「顔ださないと苦しくなっちゃうよ」
「あ、す、すいません……」
お兄さんから引きずり出された。
確かに少しだけ息苦しくなったので、ぷはっ、と声が出てしまう。
これは諦めるしかないのだろう。
「お、もう良い時間だね、そろそろ寝よっか。電気消すよ」
「分かりました」
お兄さんが手元のリモコンで消灯ボタンを押すと、部屋がオレンジ色の豆球で薄暗くなった。
顔が見えなくなる分、気恥ずかしさは緩くなるので有難い。
ふと頭に手の平の感触を覚えた。お兄さんが撫でてくれている。
「サンディ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
私は夢を見ない。
恐ろしい夜が早く過ぎ去りますようにと願いながら目を瞑り、そのまま気づけば朝になっている。
夢で起こる事柄はどれもひどいものばかりで、いっそ見なくなればいいと思ってから随分経った。
私はいつも夜に電源が落ちて、朝に電源が勝手に点く機械のようなものだ。
何某かの夢を見ているのかも知れないが、思い出すつもりもない。
でも今日は。
今日みたいな幸せな日は。
夢をみたいな、と生まれて初めて思った。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 08:52:21.04 ID:OiSFZpw30
一旦お休み。読んでくださって感謝。
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 08:57:08.09 ID:tTrBmxFXo
乙でした
いつも楽しく読んでます
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 09:43:39.27 ID:AL7IqYuz0
乙
にやにや止まらん
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 12:39:41.75 ID:+KcW2uB70
サンディ幸せになってくれ……
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 12:51:46.28 ID:v+lZZYj+O
乙ー!
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 18:02:14.37 ID:OiSFZpw30
有難うございます、皆様からのレスは活力&小話設定の糧になっております
後ほど安価を検討していますので、お手透きの方はご協力してくださると嬉しい限り
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 18:47:15.05 ID:OiSFZpw30
【連れて行きたい場所】
>>136
【視点:男 or サンディ】(多数決)
>>137-141
【サンディの料理の腕前】
01〜40:簡素な料理を覚えた程度。
41〜85:レシピ本を見るとあらかた作れる程度。
86〜00:抜群の味付け。料理に関する才能有。
>>143
のコンマ数
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 18:48:04.07 ID:KliB+dOg0
男
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 18:50:54.24 ID:w72GMjrYo
知り合いの喫茶店
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 18:53:34.18 ID:2bvROhc00
サンディ
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 18:53:51.33 ID:W1f83SPn0
男
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 18:54:37.06 ID:GC+jg2eho
男
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 18:58:23.62 ID:seKLy8xxO
m
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 19:08:44.93 ID:Si1TE8Qz0
サンディで
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 19:18:25.26 ID:lhpon9pfo
かそく
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 19:20:21.08 ID:5HHRZcqDO
あ
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 19:21:32.36 ID:2bvROhc00
コンマは仕方がないとしても
>>140
はどっちかな?
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 19:24:25.02 ID:seKLy8xxO
ごめん範囲外だと勘違いしてた…
男で
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/14(火) 19:25:46.63 ID:lhpon9pfo
こ、これから上手くなってけばいいさ
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 19:26:47.62 ID:OiSFZpw30
ご協力サンクスです。下記が安価結果になっております。
【連れて行きたい場所】
知り合いの喫茶店
【視点:男 or サンディ】(多数決)
男 ※m→manで解釈
【サンディの料理の腕前】
>>143
:簡素な料理を覚えた程度。
これから上達していく模様。
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/14(火) 19:38:50.09 ID:OiSFZpw30
これから外出するので、帰宅後にまた少しずつ書いていきます。夜半過ぎると思われ。
お茶でも片手にまったり読んでもらえたら幸甚です。
【男が車内で聞いてそうなイメージ曲】
https://www.youtube.com/watch?v=55Qv-CuDl-4
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/15(水) 01:59:01.46 ID:PX2kAcV30
今帰宅。早速書こうと思いましましたが、
いかんせん頭が回らないので、恐縮ですが今宵はこのまま眠ることにします。
目覚めてからちょこっとだけ書いてみます。
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/15(水) 09:12:05.99 ID:Z+1dAgG50
待ってる
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/15(水) 22:41:00.65 ID:PX2kAcV30
ハードボイルドの朝は穏やかだ。
外に広がる曇天の空模様は、太陽を隠すことで夜を長く見せてくれているのだろう。
未だ少し寝惚けた頭を覚ますために、空気の入れ替えがてら窓を開ける。
仄かに香っていた金木犀はなりを潜め、今は凛と澄んだ冬のアトモスフィアが呼吸を心地よく満たしてくれた。
そのまま軽く背伸びをして、腰を左右に一捻り、肩をぐるぐる回して、メンテナンスのように体を動かしてみる。
痛みや重さは感じる事無く体調は普段通りの模様。
ふと、奥のキッチンから何やら香ばしい匂いが漂ってきた。
今日はサンディが朝食の準備に挑戦している。
以前に「私も料理を覚えたい」という事を告げられ、
いくつか簡単なレシピを教えてみたら割とすんなり覚えてくれたのだ。
昨晩眠る前に、今日は卵焼きに挑戦してみると意気込んでいたから
この油とバターの香りはきっとそれなのだろう。
まだ教えていない料理ではあるが、お兄さんの横でずっと見てたから上手くいくと思います、とはサンディの言葉。
出来上がるのが実に楽しみである。
それまでに時間もかかるだろうから、どれタバコでも吸おうかと先端に火を点けた辺りで、
< うひゃぁっ!?
と可愛らしい悲鳴がキッチンから聞こえてきた。
次の瞬間には、煙を一吸いすることなくタバコを急いで揉み消して彼女の元へ駆け出した自分がいた。
ハードボイルドの朝は穏やかだ。
たまに賑やかな事もある、というのを注釈しておこう。
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/15(水) 22:54:06.96 ID:PX2kAcV30
今日の朝食は、トースト、サラダ、こんがりベーコン、スクランブルエッグ。
最後の一品に関しては、スクランブルというかエマージェンシーな焦げ具合になっている。
たぶん強火にあてすぎた事と、卵を巻くタイミングが分からずに戸惑ってしまったのが要因か。
これはこれで食べごたえがあって良いものだ。
当のサンディは、肩をしょんぼりと落としている。
美味しいよと素直に伝えてみるが、俯いて何度も溜め息をついていた。
「私、本当にダメな奴隷で……申し訳ありません……」
「自分を奴隷だと思っているのはダメな点だけれど、それ以外は最高だよ」
「あ、申し訳ありません……」
またしてもサンディは肩を落とす。ずーん、という効果音が聞こえてきそうだ。
さてはきっと元卵焼き、もといスクランブルエッグを味見してないなこの子。
味付けそのものは本当に美味しいのだ。
だからこそ多少カリカリでも食べ甲斐が出てくる。
僕はスプーンで少量を掬って、彼女が火傷しないように軽く息を吹きかけて覚ましてみる。
「ほれ、サンディ」
「え?」
「あーん」
「…………え!?」
彼女の頬がみるみるうちに真っ赤になっていく。色合い的には秋の紅葉と良い勝負をしているかも知れない。
やってはみたものの、かくいう僕も実は結構恥ずかしかったりする。
気障(きざ)だと思うなかれ、ハードボイルドなら当たり前の所業なのだ、と自身に言い聞かせた。
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/15(水) 23:14:13.99 ID:PX2kAcV30
「あーん」
「……」
「あーん」
「……」
「ほら、口開けてみて」
「……ぅ、……うぅ」
匙を出してしまった手前、もはや後には引けない僕の心境。
ごり押し気味にでも食べさせてやろうという気概すら生まれてきた。
サンディは落としていた肩をきゅっと縮こまらせて、手元をもじもじさせている。
何かを躊躇っているようだ。
何を躊躇うことがある、さぁ、ぱくっと、パクッと来るんだ。
セクハラじゃありませんように。
そう願うクールな自分を尻目に、彼女の口元にスプーンを差し出してから大よそ三十秒。
意を決したような顔つきを一瞬見せて、サンディは目を瞑ったまま、はむっとスプーンを咥えた。
「あ……、美味しい……」
「でしょ? 味付けが満点なんだから、気にしなくていいよ。これからもっと上手になるよ」
「は、はい!」
そして朝食は再開した。サンディは美味しそうにパンを齧りながら、ベーコンと卵を胃に詰めていく。
もっきゅ、もっきゅ。本当に美味しそうに食べている。
彼女の表情筋が一番動くのは、もしかするとご飯のときなのかも知れないな。微笑ましい。
そう思いながら、僕はサンディが淹れてくれたコーヒーをごくりと飲む。凄まじいエグ味が舌を襲う。
そして盛大に吹き出した。
「サンディ、なにこれ」
「お兄さんはコーヒーには砂糖を入れないみたいなので、代わりに塩を入れてみました」
屈託のない顔でそう言われたら、有難うとしか言えない弱気な自分が大好きだ。
だがこれは後でやんわりと訂正しておかねばなるまい……。
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/15(水) 23:30:34.47 ID:PX2kAcV30
朝食が片付き、今度は何も混入されていないブラックのコーヒーを食後の一杯で飲んでいる。
サンディはホットミルクだ。砂糖とハチミツを入れてまろやかに仕上げてみた。
ほぅっ、とした穏やかな顔でそれを飲む彼女は、実に年相応だ。
あの子の心に負った様々なものが、僕との暮らしで少しでも削がれてくれたのなら嬉しい。
美味しいかい、とつい聞きたくなってしまう。
はい、と首を二度ほど軽く縦に振ってサンディは綻んだ顔で答えてくれた。
二人で暮らし始めてから一か月ほど経ったが、
住み始めた当初と比べると笑顔の数が少しずつ増えてきているような気がする。
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/15(水) 23:38:34.56 ID:PX2kAcV30
彼女はまだ、治っていない。
時折フラッシュバックで体がガチガチに硬直したり、滝のような脂汗を流しながら青ざめた顔をする事もままある。
ぶるぶると震える彼女は、嫌でも昔を思い出しているのか、「ゆるしてください、ごめんなさい」と虚に唱えてしまう。
その都度「大丈夫だよ」と軽く抱きしめ、頭を優しく撫でてみる。何度も、何度も。
容体が落ち着いたら、組織から二週間ごとに投函される薬の中の一種にある安定剤を飲ませている。
そも簡単に治るのならばトラウマなどという言葉は生まれない。
医療機関で診断させろと組織に言いたいが、連絡手法もなく、向こうから一方的に封筒が届くだけ。
戸籍のない少女を病院に連れて行けば別所の輩に目を付けられますと事前に釘をさされている事もある。
僕が最善の治療薬になっている、とはたまに送られてくる封筒に添付された汚い字の文面に書かれているが、本当だろうか。
そうとしか信じるものもないのが現状だ。
とかく、サンディを一所懸命に守ってあげたい。
優しいこの子が幸せになりますように、と祈りながら護るのだ。
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/15(水) 23:53:48.99 ID:PX2kAcV30
「お兄さん、どうされましたか?」
ふと気づき、意識が再びサンディに向けられる。
ぼんやり考え事としていたのが顔に出ていたのか、対面に座る彼女から不安な目線を送られる。
大丈夫、気にしないで。そう伝えて、誤魔化すようにコーヒーを一啜り。
それなら良かったです、とサンディも僕を真似るように手元のホットミルクに口づける。
飲む仕草の際に、長い前髪がぱさりと垂れて、彼女の表情を隠してくる。
改めて彼女をまじまじと眺めてみた。
うん、やはり気のせいじゃないな。
「サンディ」
「はい?」
「髪、伸びたねぇ……」
「そうでしょうか?」
「どのくらい切ってないの?」
「日本に来るときに切られて以来なので、だいたい二ヶ月くらいです」
出会った当初は無造作に切られていた印象の強いボサボサの髪の毛だったが、
それゆえ現状は変な部分が長かったり、ボリュームが出過ぎてサイドがもっさりしている。
それに何よりも前髪だ。
目隠れ、という昨今で流行しているヘアスタイルのジャンルを聞いた事はあるが
流石に前髪が鼻先についた状態だと日々の生活でも邪魔になってしまうだろう。
綺麗な顔なのに隠れているのも勿体ない。
これは近いうちに美容室にでも連れて行ってあげなくちゃいけないな。
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 00:04:41.19 ID:qrdjbAqX0
「サンディ、今度髪でも切りにいこうか」
「……」
「ん、どうしたの?」
「……」
ホットミルクの入ったカップを見つめながら、何やら黙考している様子。
それから少し間を空けて、彼女は僕に告げてきた。
「お兄さん、一つ質問を宜しいでしょうか」
「う、うん。どうぞ」
「お兄さんは……お兄さんは……」
「うん」
「どういう髪型の人が好きですか!?」
これは流石に予想外の質問だった。思わず面食らってしまう。
鼻息がちょっと荒めになっているサンディは、ふんす、と興味深そうな眼差しを向けてくる。
僕の好みを教えたところでどうなる事でもないが、サンディも変なところに食いつくなぁと思う。
まぁお洒落に目線が向くのはいい事だし、あくまで僕の好みだけを簡素に伝えてみよう。
「うーん、そうだね……」
【好きな髪の長さ】
・ショート
・ミディアム
・ロング
>>158-164
のレスにて多数決
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/16(木) 00:05:09.81 ID:tfDomImpo
ロング
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/16(木) 00:12:35.01 ID:bP+7k7PbO
ミディアム
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/16(木) 00:15:53.93 ID:MJBkpOdd0
ミディアム
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/16(木) 00:18:18.20 ID:P5V49ZMDO
ロング
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/16(木) 00:32:06.98 ID:AhqYazNYO
ミディアム
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/16(木) 00:35:34.82 ID:79BKvuaIo
ロング
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 00:44:03.22 ID:859mnUBi0
ロング
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 01:02:00.37 ID:qrdjbAqX0
「ミディアム寄りのロング、かな……」
少し考えてみたが、こう、前はぼちぼち長い程度、後ろは肩甲骨にかかるくらい辺りか。
セミロングとはまた違うというか何というか。
「ど、どのくらいの長さなのでしょうか?」
サンディはいまいちピンと来ていないようで、食い気味に訊ねてくる。
これは僕の説明が不足しているのが悪い。
だが、これを語り始めたらフェチの話になって恥ずかしいんだよなぁ。
「まぁ、髪はどちらかというと長い方が好きかな」
と、曖昧に濁しつつも回答する。
ふむふむ、とサンディは何度か頷いた。何某かの参考になったのならば幸いだ。
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 01:18:19.57 ID:qrdjbAqX0
そんな事を話しながらものんびりとした時間を過ごしていると、気づけばお昼の準備が必要な頃合いになってきた。
天候は曇り。今日の気温的にも外はさほど寒くない。
どこか食べに出てもいいかも知れないと思いながら、
そういえば最近顔を出していない店があった事をふと思い出す。
「よっし、そろそろお昼の時間だね。今日はどこかに出かけようか」
「はい。お供いたします」
微笑みながらサンディは立ち上がって、玄関口に駆け出した。
入口の靴箱の上に置いていた、サンディ用のこの家の合鍵を持ってきたのだ。
その鍵には動物園で買ったキリンのキーホルダーが付けられている。
最近は出かける際にサンディが家の戸締りを確認し、扉のロックまでしてくれるのは有り難い。
彼女なりにここを我が家と感じてくれているんだろうか。
意図は分からないけれど、家の鍵を閉める際になんだか得意げな顔をするのが可愛らしいので
施錠の確認はそのまま彼女に任せている。
窓よし、裏口よし、玄関よし。指差し呼称までばっちりだ。可愛い。
そしていつもの駐車場まで手を繋いで歩き、ハスラーに乗っていざ出発。
「ところで、今日はどちらに向かうのですか?」
車の中でサンディが問いかけてくる。
運転中なのでよそ見はできないが、視界の端で首をかしげた様子が伺えた。
「今日はね、喫茶店でご飯を食べようか」
「喫茶店、ですか」
「そう。そこの料理は美味しいんだよ」
「楽しみです……♪」
声が弾む調子が分かる。僕も久々にあの喫茶店の料理が味わえるのが楽しみだ。
「ところで、そこのお店は何が美味しいのですか?」
「スクランブルエッグかな」
くっくっ、と笑いながら冗談を喋ってみる。
むぅ、と膨れたサンディが可愛いので、軽く頭を撫でてみた。
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 01:41:13.43 ID:qrdjbAqX0
車で十五分。平日という事もあり、さほど混み合う事無くスムーズに到着した。
住宅街の一角にあるその喫茶店は、周りにツタが生い茂っており、外から伺える店内は観葉植物が散見されている。
相変わらずロハスな雰囲気の喫茶店だ。
一つ惜しい所を挙げるとすれば、店の中の七割が花と観葉植物で覆いつくされているところか。良し悪しな部分だ。
季節ごとに花や植物が変わっているので、夏頃に来たらジャングルでコーヒーを飲んでいる気分になった事がある。
今は冬の花に染まっているようで、
外に咲く山茶花が僕らを出迎えてくれる。
カランコロンと入口のベルを鳴らすと、そこに見えるのは緑を基調とした観葉植物たち。
それに混ざるカランコエの橙色が良いアクセントになっていた。
今年の冬場はセンスが良いじゃないか、マスター。そんな事を独り言ちる。
「良い香りのするお店ですね」
サンディは花の匂いを楽しんでいる。お気に召してくれたようで何よりだ。
僕はおもむろにカウンターに座り、奥でコーヒーの豆を挽いている店主に声をかける。
「マスター、久しぶり」
「……おぅ」
横にいたサンディが、振り返った彼を見てびくりと身をすくませる。
痩せぎすの長身、無骨な顔立ち、そして頬に十字傷。どこの剣客かと。
いや、良い人なんだけれど、確かに初見だとカタギには見えないよなぁ……。
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 01:58:46.38 ID:qrdjbAqX0
マスターがお冷を二杯、カウンターごしに渡してくる。
僕はそれを手に取って少し喉を潤した。
不敵な笑顔が対面に見える。笑いかた一つとっても迫力ある人だ。
「えらく久しぶりじゃねぇか、一年ぶりくらいだな」
「ちょっと長丁場な事件を請け負っちゃってね。ここが潰れてなくて安心したよ」
「ふっ、ぬかせ。常連のマダムたちがいる限りは安泰よ」
僕らが軽口を交わすなか、サンディは未だ気後れしているのか下を向いてテーブルをじっと見つめている。
マスターは彼女をちらりと見て、それから僕に目線を向けた。
それからくるりと踵を返して、ご注文は、と催促してくる。
空気の読める人だ。あまり詮索しないからこそ、ここは居心地がいい。
「じゃあ、オムライス。サンディは?」
「わ、私も同じもので……」
あいよ、と返事が一つ。
久々に絶品のオムライスが楽しめるのを心待ちにしつつ、隣のサンディに話しかける。
「ああいう見た目だけれど、凄くいい人だよ」
「そ、そうですね。見た目で判断しちゃいけませんよね」
「そうそう。パッと見だとお勤め上がりの極道さんだけれど、あの人って花と絵本が大好きだから」
「!?」
サンディが驚いた表情を見せる。そして厨房から、
「おい聞こえてんぞ、情報漏えいで訴えるぞポンコツ探偵」
と野次が聞こえてきた。
ハードボイルド私立探偵をポンコツ呼ばわりとは失礼な。
だがポンコツと呼ばれる事は身に覚えは幾つかあるので、そっと押し黙ることにした。
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 02:13:38.96 ID:qrdjbAqX0
それからしばらく。
僕は持参の小説を読みつつ、サンディは店内に置いてある絵本を読みながら料理の出来を待っていた。
お互い手元の本をあらかた読み終えた頃に、お待ちどうさん、とタイミングよくオムライスが運ばれてきた。
産地直送のものをふんだんに使用したふわとろ仕上げの包み玉子、たっぷりの自家製デミグラスソース。
マスターがこだわり抜いて作成したチキンライス。
相も変わらず絶品だ。
オムライスに限らず、ここの料理は全品当たりでどれも美味しい。
サンディもうっとりした顔で舌鼓をうっている。
連れて来た甲斐があったというものだ。
あっという間に平らげて、胃が落ち着いた頃に食後のコーヒーが運ばれてきた。
サンディは食後の飲み物はアップルジュースにした模様。
ここのコーヒーは美味しい。僕がブラックで飲めるようになったのは、マスターの影響が大きいだろう。
そんな事を思っていると、彼の大きな手が一皿なにかを持ってきた。そのお皿をサンディの前に置く。
そこに乗っていたのは、苺のタルトケーキ。彼のお手製だ。
注文していないデザートが届いて、サンディは狼狽している。
「ああ、こりゃ余っちまったから勿体無くてな。お嬢さん、食べてくれるかい」
「よ、宜しいのですか?」
彼は返事の代わりに薄く微笑んだ。僕よりほんのちょっぴりハードボイルドみを感じてしまう。
サンディは何度も頭をペコペコ下げて、お礼の意を表している。
よせやい、早く食えと言わんばかりに手をしっしっとマスターは振った。相変わらず不器用な人だ。
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 02:18:09.21 ID:qrdjbAqX0
タルトを一齧りしたサンディの目がキラキラ輝いた。
目は口程に物を言うというのはこの事か。なんて分かり易いんだろう。
うん、人のものが欲しくなるというのは、大人として流石にそれはない。
ただ、少しばかりタルトが美味しそうなので、もしかしたら僕にも取っておいてあるんじゃないかとも思ってしまう。
一縷の望みを抱きつつ、訊ねてみた。
「マスター、僕の分は?」
「520円だ」
「ですよね」
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 02:33:23.37 ID:qrdjbAqX0
サンディがタルトを食べ終えるまでの間に、コーヒーをおかわりしてみた。
手慣れた手付きで彼はモカマタリを注いでくれる。
ふと、ポツリと僕だけに聞こえるように訊ねてきた。
「まだ、見つかんねぇのか」
「うん」
「そうか、早く手がかりが掴めればいいな」
「ありがとう」
そう言って、僕は手元のモカを一啜り。深みのあるコクがたまらない。
マスターは僕らに背中を向けて、食器洗いと仕込みの作業に戻った。
ふとテーブル奥にある時計に目を向けると、割といい時間になっていた。つい長居をしてしまったようだ。
サンディもタルトを食べ終えて、ホッと一息ついている。
もう少し味わいたかったが、そろそろ腰をあげるとするか。
まだ冷め切っていないコーヒーを飲み干して、勘定を済ませる事に。
「また来いよ」
帰り際、彼のバリトンボイスが耳に響く。
これからも二人でちょくちょく来るよ、と返事を返す。彼は破顔一笑、いつでも来いと言ってくれた。
サンディも強面には慣れたらしく、ドアから出る前に彼へ手を振っていた。
また美味しいものが食べたくなったり、落ち着きたくなったら、この喫茶店に通うことになるだろう。
マスター、今後ともご贔屓にさせてもらいます。ご健勝で。
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 02:36:45.80 ID:qrdjbAqX0
今宵はここまで。お目通し、安価協力に感謝を。
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/16(木) 03:27:28.75 ID:qrdjbAqX0
【連れて行きたい場所】
>>174
【視点:男 or サンディ】(多数決)
>>175-179
【サンディのクリスマスの願い事】
>>181
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/11/16(木) 05:24:07.75 ID:5lbcQn2Ko
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