男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 01:20:42.45 ID:V0xcROtO0
保守
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 15:32:02.67 ID:Jku2EmAH0
今更だけど保守いらんぞここ
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 00:21:23.56 ID:iDaniB1b0
保守
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 17:13:27.12 ID:IrgpWKrk0
月日が経つのは早いもので。年が明けたと思っていたら、いつの間やら年度末。
企業戦士リーマンが忙殺される頃であり、漏れなく私もその屍の一部になっておりまして。
この時期の慌ただしさは毎年の事ながら未だ慣れません。
只々「楽がしたい」という雑念と煩悩に塗れて日々を過ごしている昨今です。
探偵と元奴隷の小話は今しばらくお待ちをば。
保守に関して調べてみましたが、二ヶ月ルールなるものがあるようで特に無くとも大丈夫のようです。
落ちないようにレスして下さった方々のお気持ちに感謝を。
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/20(火) 06:45:11.64 ID:S1KcoW/4O
生存報告来てて安心。のんびり待ってますので、余裕ができて気が向いたら書いてくだちぃ。
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/27(火) 00:45:08.17 ID:R+LLoqif0
生きてたぁ!
よかったぁ…前の肺炎で体調悪化されたのかと…
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 23:00:19.09 ID:iSeL06nIo
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/16(金) 23:46:06.96 ID:zXRklIi+0
久しぶりに読み直した。
あーすばらしい(語彙力)
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/17(土) 13:23:13.59 ID:yaP+5VPlO
定期的に読み返したくなるクオリティ
のんびり待ってますので、どうか無理をなさらぬように
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/01(日) 23:40:05.39 ID:DDWde19wo
まだ待ってます
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/02(月) 05:33:08.83 ID:nA3eOcSSO
まだまだ待てますよー。
それじゃあ読み返してくるか……。
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 01:30:22.83 ID:Da7jFV5NO
行間まで読みこんで隅々まで考察した結果…
サンディが尊い…その他に言葉はいらぬ…
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/08(日) 22:59:43.41 ID:RgvwPJJBO
4月だし今まで以上に忙しいんだろうなぁ……のんびり待ってますので頑張ってください。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/19(木) 06:24:20.05 ID:DE8J+aTm0
新年度を迎えて繁忙期も治まるかと思いきや、何故か慌ただしさは増すばかり。
自身の時間の使い方を見直す機会なのやも知れない……。
今週末は久々に連休が取れそうなので、その際に投下できれば良いかと。
お手透きの方はお目通し頂けると幸いです。
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 10:51:49.69 ID:Culsvb3oo
待ってましたぁ!無理しないで頑張ってくだせぇ
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/19(木) 12:28:51.50 ID:jfaifRPVO
待ってるぜええええ
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/21(土) 22:55:23.72 ID:aP2GD9YT0


蝉の声が遠くで聞こえてくる。

本格的な時雨の音が鳴り始めるほどではない。

しかし夏の暦を捲るには充分だろう。

照りつける日射しの強さが肌を焦がしていくような錯覚を感じた。

無意識に手を上に掲げて影を作る。

日除けにもならないが、まぁ幾分はマシだろう。

群青色のクリアスカイ。暑い季節は苦手だが、この空の色合いは割と好ましい。

深い藍をした空に白い線が一本引かれていた。

飛行機雲だ。これもまた夏の空の風物詩。

ただ、これが見えるのは天候が崩れる兆候でもある。

早めに切り上げるべきかどうかの良い判断材料になってくれるだろう。

それは何の事かって?


子どもの尾行に決まっているじゃないか。


……文字面だけだと、やたら業が深くなるなぁ。

 
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/21(土) 23:12:21.36 ID:aP2GD9YT0

とあるキッカケで一緒に住んでいる同居人のサンディ。

昔過ごしていた環境の影響からか塞ぎがちな子だったが、最近は朗らかな笑顔を見せてくれるようになった。

そんな彼女の趣味、もとい修行の一環は猫の観察。

一体どういう風に観察対象をチェックしているのか、実は前々から気になっていた。

観察ノートを見せてほしいと言ったら「恥ずかしいので……ちょっと……」と濁されたので

以来僕からはあまりその事に触れないようにしていたのだ。

まぁ、保護者として遠目から成長を見守ってみたいという気持ちは父性に似たサムシングだろう。


そんな僕は今現在、アロハシャツに身を包みサングラスをかけて電柱の陰に潜んでいる。

視線の先には空き地の土管を見つめる同居人の姿。

正確には土管ではなくその上に鎮座している三毛猫だろう。

なるほど、あの猫が観察対象か。

ふと目線を右に逸らしてみると、電柱の付近に立つカーブミラーに映るぐぅの音も出ない変質者と目が合った、気がした。

その格好はアロハシャツにサングラス。紛う事なく自分の姿だった。

ハードボイルドは今日だけ家に置いてきた事にしておこう。
 
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/21(土) 23:17:28.19 ID:aP2GD9YT0

彼女が今いるのは近所の空き地。

そこに長らく放置されている土管の上に、猫が数匹ほど座っている。

人慣れしているのか逃げる様子も特に無い。

その中心にいる三毛猫の首には鈴が付いていた。飼い猫だろうか。

くしくしと手で顔を掻いたり、大きい欠伸をしていた。

ふとサンディの方を見てみる。

顔でも痒いのだろうか。右手の甲で何度か頬をさするような仕草をしていた。

もう少しだけ注視してみる。

サンディは一生懸命に猫を見ながら口を大きく開けた。

くあぁぁ、と欠伸をするような吐息を漏らすが、顔は真剣そのもの。

これはまさか……猫の真似をしているのだろうか。

更にもう少し観察を続けてみる。

猫が伸びをする姿勢をすると、彼女もまた同じポージングをしていた。

うむ、確定だ。猫の素振りを真似ているぞこの子。

 
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/21(土) 23:18:16.19 ID:aP2GD9YT0

謎の感情に心臓がキュッとなる。うっ、と思わず声が出そうになった。

それと同時に自分が隠れている電柱とは対面にそびえている電柱の陰で、

黒いスーツに身を包んだ女性が胸の中心を抑えつつ悶えている様子が見えた。

うっ、と声を上げてそうな素振りをしている。

変質者発見。いや違う、向こうから見たら僕もそんな感じだった。

対面側の彼女はあれか、組織から派遣されたサンディの護衛の人か。

不意打ちでこんなの見せられたらそうなる気持ちは重々理解できるので今回は不問にしておこう。

 
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/21(土) 23:34:21.12 ID:aP2GD9YT0

悶えるのを耐え続ける怪しげな大人たちに囲まれている。

そんな小さな地獄絵図を露知らず、サンディは猫の観察を続けている。

猫の挙動や仕草を真似つつ、ノートに何某かをカリカリと綴っていた。

書いている内容に全く想像がつかないのがまた何とも言えない。

ふと、あの子のいる空き地が薄暗くなった。

よくよく見たら空き地だけではなく、自身のいる辺り全体がどんよりとしている。

空を見上げると厚い雲が太陽を遮っている。

すん、と鼻腔をくすぐるのは仄かな梅雨の香り。夕立の顔(かんばせ)が上から覗き込んでいる。

それに感化されたかのように、遠雷がゴロゴロと重い音を響かせた。

雨が降り出すのはそう遠くないだろう。

サンディもそれに気づいたのか、ポシェットにノートをしまいこみ、帰宅の準備を始めている。

僕と対面側の女性もそそくさと帰り支度を整え、その場を後にした。

帰路に着く自身の脳裏には、先ほどの空き地で過ごしていたサンディの情景。

彼女の無邪気なその様に、しとど濡れるアスファルト以上に僕の心は潤っていた。

なんだか小さな世界に蔓延る幸せが彼女を包んでくれているようで。


 
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/21(土) 23:58:43.19 ID:aP2GD9YT0


「ただいま、帰りました」


おかえり、と僕は言葉を返す。少しだけ肩で息をしながら。

急いでアロハシャツから着替えて出迎えたのが要因だ。

彼女は訝しむ様子もなく、洗面所で手洗いうがいを終えて、

冷蔵庫にしまってある冷えた麦茶を取りに向かった。

台所の奥から声が聞こえてくる。お兄さんも麦茶を飲みませんか、と。

一杯もらおうかなと返事をしつつ、自分の手元にある小型カメラに目線を下ろす。

そこに写るのは先ほどの空き地にいたサンディの一部始終。

撮ってはみたものの、これは多分バレたら怒られるだろうな……。

そっと削除にカーソルを合わせて決定ボタンを押してみた。

可愛らしい様子であったが、写真を撮る際はやはり本人に許可を取ってなんぼというもの。

少しだけ勿体ない気もしたけれど、これでいいのだ。

軽くため息をついたところでペタペタと台所の方からスリッパの音が近づいてくる。


「はい、お麦茶です」


サンディはそう言いながら、そっと優しく麦茶を僕の前に差し出してくれた。

謎の丁寧語が妙に可愛らしくてついぞ口元が綻んでしまう。

 
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/04/22(日) 00:11:22.19 ID:L18Uo7f10

お盆を胸の前に添えてにこやかな笑顔を向けてくれる彼女。

いい表情をするようになったなぁ、と何だか嬉しくなってしまう。

ふと思い立ち、カメラを起動した。


「サンディ、一枚撮らせて」

「はい?」


パシャリ、と一枚。

カメラの中には無防備な笑顔のサンディが映し出されていた。

急に撮られて驚いたのか、あわあわと狼狽する彼女が愛くるしい。

顔の熱さを誤魔化すように手をパタパタさせて、その後にサッサッと前髪を整えている。

不意打ちみたいに許可を取ってみたが、これはもう一枚くらい良さそうかな。

僕は彼女を自分に軽く抱き寄せて、自撮りのような様でファインダーを降ろしてみる。

真っ赤な顔をした少女とハードボイルド探偵の様子が一枚増えた。

何気ない僕らの只の日常の一ページ、積み重ねていきたい幸せの名残。

今度連れて行く予定の夏祭りで、更に枚数が増やせたらいいなと思ってしまうのだ。


 
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 00:13:12.05 ID:L18Uo7f10
少しだけ投下させて貰いました。
読んでくれるのなら、それだけで有難い。
肝心の夏祭りは次の投下時にでも。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 00:26:54.05 ID:2Fob7RNIo
おつおつ
こんなん不審者量産されちまう
来週からも頑張ろう
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 01:57:18.95 ID:LdAz9hcmo
良い……
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 05:19:15.87 ID:0MyZ8VqAo
お疲れ様です
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 07:34:31.38 ID:riq/95pMo
嗚呼尊い
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/23(月) 19:07:04.98 ID:JilGHsPSO
癒されました・・・
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 07:07:35.96 ID:OFor3nMTO
乙かれ様です
ニャンディ…
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/26(木) 07:03:00.60 ID:kGaOfU7hO
更新されてるぅううううう!!!???
気づくのが遅くなってしまった……更新お疲れさまでした。とても尊い……。
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/05(土) 03:26:17.31 ID:E8sYXJhQ0
語彙が来い(しゅき)
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/15(火) 02:41:49.95 ID:cZXKolcGO
>>376お前が語彙にナルンダヨォ!
ニャンディはそういえばお魚さんが好きだったね。
懐かしい食事として今度は回るお寿司連れて行ってあげたい想像したかわいいやばいしぬ
378 :sage :2018/06/01(金) 02:59:52.22 ID:ud9NdqNj0
夏祭り編は夏に投下するのかな
乙だね
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 23:29:02.09 ID:kHWgRYZzO
まだ期待して待ってますよー!
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/06(水) 08:41:05.35 ID:CLNIGgDD0
久々に半休が取れて、特に予定も無し。
小話書くなら今のうちということで、今日の夕方頃に少しだけ投下します。
夏祭りになるか幕間になるかは検討中。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 10:40:00.17 ID:BHQxpnkQO
ありがとうございます!
お忙しい中お疲れ様です
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 13:04:04.96 ID:/Vv2tK3YO
可愛さに癒やされながら追いついた

元奴隷という共通点からかサンディが某同人ゲームの娘で再生されてしまう
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 18:48:06.70 ID:CLNIGgDD0
思った以上に時間がかかって申し訳ありません。
本日夕方までに書き上げられるのは難しかったです……。
近日中には必ず投下しますので、気が向いた際にお目通し頂ければ幸いです。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 19:09:19.02 ID:q9UdEIMG0
ところで思ってたんだけど酉つけないの?
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:16:08.60 ID:JHw0RtO20


夜明けの空に蛍が哭いた。

時刻は午前四時を少し過ぎた頃。

薄い青を纏う空は雲一つ無い。淑やかな景色だ。

窓を開けると、白みがかった月の横に寄り添うような星が見える。

それと同時に、人肌程度のぬるい湿気を重ね着した風が部屋に忍び込む。

香水のように仄かに鼻腔をくすぐる朝露の香り。

季節が巡る。

彼女と過ごす初めての夏は、いつの間にか本格的に始まっていた。

 
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:19:14.38 ID:JHw0RtO20

早起きをしたので寝室の窓際で夏の朝を噛みしめていると、

ベッドの方から「うぅん……」と声が聞こえてきた。

そちらの方に振り返って音の出処を確認してみると、

同居人のサンディから発せられていた声だったようだ。

寝汗で冷えているかも知れない。

近づいて軽く頬を撫でてみるが、特に汗をかいたような形跡はなかった。

頬を撫でた際、寝ている彼女は軽く微笑んだ。

起こさない程度に冗談半分で顎の下を少し擦ってみると、

嬉しそうな、くすぐったそうな顔をしてむにゃむにゃ声を上げている。

日々の修行の成果か、徐々に猫の魂がインストールされているのかも知れないな。
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:21:43.91 ID:JHw0RtO20

それにしても、幸せそうな寝顔をしてくれるなぁ。

ここに来た時は毎夜の如く魘されていて、ひどい歯ぎしりをしていた彼女が

今はこうして穏やかな眠りを享受できている。

本当に喜ばしいことだ。

きっと彼女を怖がらせるような外敵がいないという、安心した環境下がそうさせてくれるのだろう。

そこに少しでも僕が介添え出来ているのなら、それだけで良い。

いつか僕の元を離れて、それから先の世界を生きる彼女。

今のように安寧で過ごしてくれるよう、少しずつ整えていかなければならない。


サンディと過ごし始めてから早九ヶ月。

当初の予定だった一年契約は、今のところ相手先からの変更は無し。

季節が巡る。時の流れは寄せては返す波のように。

出会いの季節に近づいて、別れの季節へ還っていく。

388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:23:14.30 ID:JHw0RtO20


「おはようございます、お兄さん」

「おはよう、サンディ」


目を爛々と輝かせたサンディは元気よく挨拶をしてくれる。

よく眠れた証拠だろう。

彼女は颯爽と台所に向かい、朝ごはんの準備を始めた。

料理の楽しさを知ったのか、居候なりの気遣いか。はたまた両方か。

もはや我が家の朝食に関してはサンディの領分と成っていた。

僕としては非常に有り難い限り。

まぁ任せっぱなしも何なので、洗い物くらいは担わせてもらってはいるが。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:26:12.38 ID:JHw0RtO20

コトコトとお味噌汁がうっすら噴きそうな、美味しそうな音が聞こえてくる。

エプロンを着けたサンディは慣れた手つきでコンロを止めて、お玉で軽く中身を一掬い。

ふーっ、ふーっ、と息を吹きかけて熱を冷まし、ずずっと啜る。

次の瞬間には花が咲くような目映い笑顔。どうやら美味しく出汁が取れたようだ。

やたら素敵な表情をするので、ちょっとだけ味見をしたくなる。


「サンディ、サンディ。僕もちょっと味見がしたいな」

「はい、勿論です。味の濃さは如何でしょうか?」


そう言いながら同居人は再びお玉に汁を掬い、

またしてもふーふーしながら一所懸命に冷ましてくれる。

これは何とも至れり尽くせり。

息を吹きかけるサンディに、からかいがてら擽るように告げてみた。


「なんだか新婚さんみたいだね」

「ふーーーーーーーーーーーー!!!???」


サンディの吐く息の量が凄まじい事になり、お玉の中身は全てキッチンの排水溝に吸い込まれた。

390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:33:59.42 ID:JHw0RtO20

目線は宙を浮き、握ったお玉を剣道の竹刀の構えのように僕に向けてきた。

しどろもどろの擬人化、とは今の彼女を指すのかも知れない。


「いや、え、あの、その、そ、そんなつもりでは……その……!!」

「いやゴメンゴメン、驚かせちゃったね」


耳まで真っ赤にしている彼女が何とも可愛らしい。

僕がカラカラ笑うと、サンディはもうっと言いながら改めて一口分だけお味噌汁を掬う。


「はいお兄さん。ご自身でふーふーしてくださいね」


どうやらちょっぴり拗ねてしまったようだ。それすらも愛おしい。

391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:38:16.71 ID:JHw0RtO20

僕は自分で軽く二息ほど吹きかけ温度を覚まし、さっそく味見をしてみる。

うん、良い出汁が出ている。これは随分と料理上手になったもんだ。

年齢的にはまだ幼いという言葉が当て嵌まるのに、本当に君はしっかりしている。

思わずサンディの頭に手を置いて、くしゃくしゃと軽く撫でてみた。

彼女はうひゃっ、と声を上げて驚いてはいたものの、少し俯きがちに僕の手を享受してくれた。


「うん、美味しい。サンディは良いお嫁さんになるよ」

「ほ、本当ですか!!」


とても嬉しそうな顔で喜んでくれるサンディ。

良いお嫁さんになるのは本心だ。確定事項と言ってもいい。

まだまだ小さいけれど、もう数年もすれば

世の男性が放ってはおけない素敵なレディになるだろう。

あとは悪い虫が寄って来ないよう、撃退方法を伝えておくのが僕の役目か。
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:43:03.39 ID:JHw0RtO20


サンディはもじもじしながら、僕に一つ質問を投げかけた。


「お、お兄さんは、私のそういう姿を見たいとか、思いますか……?」

「勿論だよ。君のウェディングドレスを見る事を、僕の人生目標にでもしようかなぁ」


なんて冗談交じりに言ってみる。

するとサンディは大きい目をキラキラさせたかと思うと、とたん僕の胸に飛び込んできた。

顔を胸元に埋められて後頭部しか見えないゆえ、どういう表情をしているのか読み取る事はできない。

うずまってきた胸の内側で彼女は言葉を紡いだ。


「じゃあ、いちばんちかくで、みてくださいね……!!」

393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:43:55.58 ID:JHw0RtO20


バージンロードを歩く父の代役という意味だろうか。

とりあえず、うんと答える。

すると彼女はうずめた顔を僕の胸にぐりぐり摺り寄せてきた。

僕の後ろに回されている手もギュっと力が入って、抱きしめられているような感じになっている。

ここまでサンディが表現するのは珍しい。嬉しいのだろうか。

とりあえず頭を再び撫でながら僕は言う。


「とりあえず、朝ごはんの準備しよっか」

「…………は、はいっ!」

394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:44:46.40 ID:JHw0RtO20


和食で彩られた朝食。今日も彼女の料理の上達具合を味と共に楽しめた。

僕は食器洗い、サンディは食後のお茶の準備をこなし、穏やかな朝の時間が始まる。

テレビを点けると朝のニュースが流れている。

サンディは食い入るようにゴシップに見入っていた。君って割とそういうネタ好きだよね……。

その合間に僕はポストから朝刊を取る事に。

ポストの中には新聞に紛れて、町内会のチラシが投函されていた。

内容は「夏祭りにおける道路規制について」。

そういえば今日は夕方からお祭りだったな、と思い出す。
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:47:03.75 ID:JHw0RtO20

お祭りは特に花火に気合を入れていて、近くの湖に面したところで打ち上げる事になっている。

割と規模の大きい打ち上げ花火が見られるから、近隣住人における夏の風物詩にもなっているのだ。

そのチラシを片手に事務所へ戻り、

芸能人の飲酒問題に興味津々のサンディさんの背中に向かって問いかける。


「サンディ、今日はお祭りに行かないかい?」

「……はい?」


お祭りが何たるかいまいちピンと来ていないのだろうか。

首を傾げる動作がキュートで愛らしい。

後ほど祭りの活気と花火の綺麗さを軽くレクチャーする必要がありそうだ。



僕と君はいつか離れる事になっている。

それまでに、うつくしいものを一つでも、君に差し上げたいんだ。

396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 00:49:17.97 ID:JHw0RtO20
今宵はここまで。今回は幕間がてらの二人の近況の話。
次回こそ夏祭り編。
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 03:04:14.85 ID:/FOcTVXeo
おつ
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 08:28:06.16 ID:DKEQHvuzO
>夜明けの空に蛍が哭いた

すごい美文だとおもいました(小並感)
次更新も楽しみにしてます
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 09:42:58.60 ID:rvzZOGDi0
おつです
次回も待ってます!
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 15:25:12.42 ID:LNB86qPLO
見てあげてほしいですね"誰より"も近くで。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 17:46:44.89 ID:9leKWHIwo
これは間違いなく勘違いのパターン…
後から修羅場になるんだろうなぁ…
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/11(月) 04:23:11.97 ID:sy8ph5kK0
アッアッアッほぶぁぁぁあ尊い死ぬ(語彙)
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 00:43:30.77 ID:y4MdAdNyO
大人の女性になる近道は恋と嫉妬と勘違い
サンディはきっと素敵なレディになるだろう
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/02(月) 22:05:49.76 ID:tv3J+4f90
もうほんと…浄化される…
いつもありがとうございます
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 02:15:14.49 ID:DNR4q8jP0


【番外編〜未来はミルクで作られる〜】


ここは喫茶店、リーブル・ド・イマージュ。

フランス語で絵本という意味らしい。

僕は今この店のカウンター席に座り、注文したエスプレッソを堪能している。

飲み慣れたこの味は、目を閉じても香りだけで酒類を当てられる自信がある。

苦みの強い筈なのに、不思議とそれが心を解きほぐす要因となっているようだ。

暦の頃は二月上旬。冬の冷え込みとしては最後の時期。

カウンターから外を眺めると、ちらちらと粉雪が舞っていた。

店内の穏やかな温度とは裏腹な景色がガラス一枚を隔てた向こうに広がる。

そんな風景を横目にして、ずずっと音を立てコーヒーを体に浸透させてみた。

じんわり広がる温かさ。仄かな幸せを舌先から感じる。

うん、やはりマスターの淹れるコーヒーは美味しい。

 
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 02:19:50.38 ID:DNR4q8jP0

彼はいま僕を背にして、コーヒーミルを使い自身の手で豆を挽いていた。

マスターの無骨な背中には哀愁を覚えてしまう。

何の歌詞だったか。男には自分の世界がある、と。

背中で謳う男の物語。

奥深さを醸し出し、それを感じ取る僕もまた男だから。

共鳴にも似たハードボイルド同士の性(さが)だというものか。

多くを交えず、ただ黙さず。

ごりごりと豆を荒く擦る音だけが店に響く。
 
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 02:23:57.90 ID:DNR4q8jP0

僕が手元の飲み物を半分ほど飲み終えた頃。

ふと、彼が手を止めて僕に語りかけてきた。


「気付いていたか?」


僕は飲んでいたコーヒーカップをソーサ―に置き、渋めの声を意識して答える。


「もちろん」


マスターは、ふっと軽く肩をすくめながら笑う。

彼には見えていないだろうが僕は口角を軽く上げて答える。

再びミルで豆を挽きながら彼は告げる。


「すまん注文間違えてた。
 お前に出したコーヒーな、コロンビアだったわ」


僕は答えずに手元のコーヒーを再び啜る。

やっぱりコロンビアだったか。

気付いていたけどね。ほんとほんと。

408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 02:39:52.10 ID:DNR4q8jP0


芳醇な香りのコロンビアはやはり良いものだ。

エスプレッソとはまた一味違ってくる。味も苦くてなんとなく似ているなぁ。

心に芽生えた羞恥を誤魔化すように、僕は言葉を紡いだ。


「それにしても、今日も今日とて閑古鳥が鳴いてるね」

「お前が来るといっつも客が去っていくんだよな。ホント貧乏神かってんだ」


彼は手作業を止めて僕に向き合ったかと思うと、

しっしっと追い払うように仕草を見せてくる。

慣れ切った僕は、受け流すように笑みだけ浮かべておくことにした。

まぁこういうのは、堅苦しい客と店員の会話よりも心地よかったりするから不思議なものだ。

 
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 02:40:50.97 ID:DNR4q8jP0

やれやれ、という表情のマスターは続けて言う。


「そういえば今日はあのお嬢さんはどうした?」

「ああ。ここの店のすぐ傍に出来た本屋さんにいるよ」

「一人にしてもいいのか?」

「あんまり僕がべったりなのも息苦しいのかなって。
 本を買ったらこの店に来るように伝えているよ」

「なんだ、少しは何某かを考えてるんだな」

「まぁね。一応保護者だし」


鼻垂れ小僧がえらくなったもんだ、と何故だかマスターは少し嬉しそうだ。

そんなに昔からの知り合いじゃないでしょ、と突っ込んでみると

会ったときからずっと鼻垂れ小僧だよ阿呆、と返された。

貴方には頭が上がらないから、そりゃぐぅの音も出ないときたもんだ。

410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 02:51:29.99 ID:DNR4q8jP0

マスターは意地の悪い笑顔を浮かべて僕に向き合う。


「そういやお前、気に入った子がいると昔よくここに連れてきてたな」

「いやまぁそんな事もあったような無かったような……」

「『ここ雰囲気が良いところでしょ?隠れ家なんだ』が店に入ってからの毎度の切り出しでよ」

「どうだったかなぁ……」

「一緒に来るのは決まって胸のでかい年上ばかり」

「おいやめろ馬鹿店主、情報漏洩で訴えるぞ」


かっかっか、と実に楽しそうなマスターの笑顔が憎たらしい。

僕は照れ隠しを込めて一気にコロンビアを飲み干して、マスターに告げる。


「そもそもね、胸の大きい子が嫌いな男子はいないでしょ」

「視線が尻にいかねぇ辺りはヒヨッコよ」

「いや尻もいいけれど今は胸の話だから。大は小を兼ねるのさ」

「大は小をねぇ……」


このマスターは胸の大きい子の素晴らしさを分かってないな。

ここは一つハードボイルドに熱く語ってみるか。

411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 03:02:03.94 ID:DNR4q8jP0

店の入口に備えられていた鈴の音を背中に受け、それを合図に僕はまくしたててみた。


「いいですか?そもそも胸が大きい子は良いんですよ」

「ほぅ」

「あのたわわな感じで、両の手にギリギリ収まらない辺りがベストですかね」

「ほほぅ」

「弾力性があり、先端の部位すらも神々しく思えるようなお椀形で
 水着に着替えたらはちきれんばかりのグラマラスさがたまらないと思わないんですか!?」

「お前のタイプは胸の大きい子ってわけでいいんだな?」

「いやそれだけがタイプじゃないですが、大きかったら最高のオプションですね」

「んじゃ、胸の小さい子はどうすんだよ?」

「そりゃ牛乳でも飲んで育ててもらうほか無いでしょう!?」


「だってよ、お嬢ちゃん」

「………………は?」


マスターは僕の後ろに向けて言葉をかける。

僕は間髪入れずに振り返って、その言葉の方向を見る。


そこには、玄関付近に本屋の紙袋を抱えたサンディがいた。

412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 03:10:36.21 ID:DNR4q8jP0

い、いつの間に店内に!?

まさかあの時の鈴の音は来客を知らせるための……!?

いやしかし、割と距離もあるし、僕とマスターの会話って意外と聞こえてないのでは。

俯きがちで前髪がぱさりと垂れたサンディの表情は分からない。


「さ、サーンディ。こっちおいで。欲しい本は買えたかい?」

「……はい」


そのまま僕の横に空いている席にちょこん、と座る。

おいおい謎の空気の重さですよ奥さん。

ハードボイルド力を高めていないと到底耐えられないぞ。


「ま、マスター。コロンビアのおかわり一つ」

「あいよ。そこのお嬢さんは何か飲むもの決まったかい?」


一瞬の静寂。そして紡がれた言葉は。


「…………………ミルク、お願いします」


か細い声でミルクを注文しおったわ。

これ絶対さっきの会話聞かれてますやん。

413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 03:16:39.49 ID:DNR4q8jP0


この喫茶店での一件以来、サンディの日課が一つ増えた。


<コップ一杯の牛乳を毎日飲むこと>


うんうん、健康的で大変よろしい。

僕は僕で、あそこで喋った事柄を早めに忘れなければならないだろう……。



414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 03:19:40.24 ID:DNR4q8jP0
この手の番外編たくさん作っておりまして。昨今長くお待たせしているゆえ投下する事こそが大事。
もちろん本筋も大事にしております。
こうして未だに見てくださる方々に感謝をば。感想レス本当に嬉しいです。
これからも緩く続いていければと思うので、たまに見に来てくれると幸いです。
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 04:08:36.10 ID:IFXF04iLo
お疲れ様です

頑張れ豊かな胸を目指して
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 19:38:24.32 ID:mPKtNRVtO

コーヒー飲んでるのに酒?と思ったら種類か…
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/06(金) 01:55:33.91 ID:ytdShLoP0
はーもう、好き!!!(大声)
清らかな気持ちを思い出すわ
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 20:34:59.29 ID:pkUJ8PXm0
あーーー、かっわいいなぁ!!!!サンディさんよぉ!!!!!
めっちゃゆるゆると待ってます、がんばってください…癒される…
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/14(土) 00:31:15.42 ID:nEf2QhjR0
はい尊いーーマジ無理ーー好きーーー
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/14(土) 22:10:30.83 ID:vPPy4PT50
萌えエネルギーが足りないぞ!
もっとくれ(´・ω・`)バンバン
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/03(金) 11:39:36.77 ID:JiZBB5bX0
保守
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 01:31:29.74 ID:MBIdpBwTO
夏休みだしアメリカの孤児院に住んでる子がホームステイ(?)に来たらサンディ慌てそうだな
と、夏休み編きぼんぬ
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/10(金) 02:21:32.68 ID:rJ5jODG8o
待ってるよー
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 19:33:15.34 ID:qIEG0TPV0
机バンバン三c⌒っ.ω.)っ シューッ
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/22(水) 08:07:04.86 ID:i8Hk4PN/o
まだかなー?
426 :terra [sage]:2018/09/02(日) 19:55:57.16 ID:mgJVcrdA0
まだ!私は!尊み成分が足りてない!お願いします!夏祭りを!!!
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/03(月) 07:27:41.81 ID:jf1cxdO+0
【若者のすべて】
https://www.youtube.com/watch?v=IPBXepn5jTA
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 20:48:30.43 ID:4uI/TZsD0


耳に届くは夏の風物詩。

遠くから太鼓の音が聞こえてきた。

実際に叩いてはおらず、どうやら町内放送用の

大きいスピーカーで流しているようだが、

それだけでも祭りの雰囲気をこれでもかというほど増幅してくれる。

湖畔の傍にある公園のベンチで、僕はのんびりと空を仰いでいた。

薄橙色の黄昏だったカーテンはゆっくりと黒を纏い始めている。

夕暮れ頃に浮かんでいた入道雲も夜に染められているようで、

今は蝉の声と共に鳴りを潜めているようだ。

 
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 20:50:04.96 ID:4uI/TZsD0
 
周りを見渡せば人の波が視界に飛び込んでくる。

中々に壮観な混雑具合で、人混みが苦手は僕としては

この中に後から飛び込むのかと考えると少しだけ肩が重い。

只、がやがやとしているが、その実なぜだか妙に心地良い。

祭りの賑わい故だろうか。

下駄足が奏でるカランカランという音と共に、

耳に入ってくるのは笑い声を基調とした穏やかな喧騒。

家族か、友人か、或いは想い人か。

様々な人間模様が目の前をゆっくりと通り過ぎていく。

 
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 20:53:56.36 ID:4uI/TZsD0

ふと、下駄の音が背後から自分に近づいてくるのを感じた。

振り返ってみると、そこには一人の女の子。


「お兄さん、お待たせしました」


和装の定番とも言える浴衣に身を包んだサンディがそこにいた。

日焼けした褐色の肌、烏の濡羽色を想起する黒艶な髪からのぞかせる、ほんのり紅潮した頬。

何やら少しもじもじしているのは、着慣れない服装に戸惑っているのかもしれない。

そんなしおらしい動作も兼ね揃えていて、奥ゆかしい大和撫子を体現しているようだ。

 
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 20:55:31.94 ID:4uI/TZsD0
 
濃紺の藍色を基調とした浴衣に身を包んだサンディ。

それを見た僕は率直な感想を告げてみた。


「うん、綺麗だね」

「………………っ!!!」


彼女はぼっと顔を更に真っ赤にして、しゅんしゅんと肩を縮こませるような素振りをする。

俯きがちに口元をもにょもにょさせる仕草もこれまた愛らしいというか何というか。

お祭りのために慌てて浴衣の買い出しにいったのは、どうやら正解だったか。

 
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 20:59:36.47 ID:4uI/TZsD0

サンディの分だけ買うと彼女は気後れするだろうから、

いちおう僕も大人用のそれを購入して、いま実際に着ていたりする。

和の心を形だけでもと整えてはみたが、こうして実際に袖を通してみると

なかなかどうして粋なものだ。


「お兄さんも、とっても似合ってます……」

「え、本当!? 似合ってる?」

「ほ、本当です! すっごく、すっごく格好いいです!!」


両手をグーの形にして胸元に構え、ふんすと鼻息を荒げつつサンディは褒めてくれる。

なんだが言わせちゃったみたいで申し訳ないなぁと、頭を軽くかいてみる。

そのまま余った方の手をサンディの頭に添えて、整えられた髪を乱さない程度に少し撫でてみた。

ふふ、と少しくすぐったそうに顔をほころばせてくれる。

困ったことに、どうにも可愛い以外の言葉が出てこない。

彼女の微笑みは、見た人の語彙力を無くす効力でもあるのだろうか。

 
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:02:24.39 ID:4uI/TZsD0

「そ、それにしても思ったより時間がかかって申し訳ありません」

「気にしないで。少しは下駄に慣れたかい?」

「む、難しいところです……」


彼女は浴衣用の下駄を初めて履くものだから、

玄関を出た先の足取りなんてそれはもう覚束なくて危なっかしい。

なので近隣にある公園の周りを少し歩いて練習してくるとの事で遅くなっていた。

僕は祭りのために備え付けられていた公共用ベンチから腰を上げ、

さてどこから屋台を周ろうかなと思案をしながら一歩二歩と歩みを進める。

すると後ろから「うわっと、とと……」とこけないよう慌てるような声と共に

不規則なリズムの下駄音が聞こえて来た。

サンディはやはり歩き慣れていないようで、少しフラフラしながらも

カルガモの赤ちゃんみたいに一所懸命ついてくる。

靴擦れ防止のため、鼻緒が当たる指間にはバンドエイドを貼ってはいるものの、

それでもこすれて痛まないように歩く歩幅には気をつけておきたいところ。

 
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:04:51.81 ID:4uI/TZsD0

目線を下にして足元を注視しながらも、わたわた歩きをするサンディは実に可愛い。

だがそれ以上にハラハラしてしまう……。

折角の楽しい場でケガをさせてしまうのは保護者失格。

浴衣と下駄を見立てたのは僕だし、そこはしっかり責任を持たねば。

支えになるため、彼女の左手を優しく握ってみた。

手が触れた驚きからか、下を向いていたサンディは顔を上げ、

まん丸になった彼女の目が僕の視線とぶつかる。

すると途端にまた俯いて、ぽつりと呟いた。


「あ、ありがとう、ございます……」


身長差も相まって彼女の表情は見えないが、耳元がこれでもかというほど赤くなっている。

一足早い秋の訪れか。まるで紅葉のようだった。

 
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:12:59.53 ID:4uI/TZsD0

まぁ、おじさんに片足を踏み込んだような僕と手を繋ぐのは恥ずかしいのだろう。

中々に慣れてくれないから何だかこっちも妙に照れ臭くなってしまうのは困りもの。


「ゴメンね、嫌だったら離してもいいからね」


そういうとサンディは首を勢いよくブンブンと振って、

繋がっている手を少し強く握り返してくれた。


僕らは人込みの中にゆっくりと歩みを進めていく。

今日はお祭り。荘厳な意味合いではなく、人の笑顔で包まれる賑やかな世界。

美味しいものでも食べながら、ぶらりと歩いてこの空気を堪能してみよう。

その中で、一秒でも長く彼女の笑顔が続くよう

喧騒が好きな神様へ向けて少しだけ祈ってみた。

 
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 21:20:03.24 ID:cWIBgpyuO
更新お疲れ様です
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 21:21:02.76 ID:Nerc9FuGo
お疲れ様です
あー、かわいいかわいいかわいすぎる
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:30:12.58 ID:4uI/TZsD0

ちんとんしゃん、と祭りの雰囲気を色濃く醸し出してくれるBGMが聞こえてくる。

そんな中でダラダラ歩みを進めていると、くぅぅと横から可愛らしいお腹の音が聞こえて来た。

発信源になった子は、それはもう恥ずかしさでいたたまれないような表情をしている。

そういえば夕飯を済ませていなかった事を思い出し、

僕とサンディは屋台の並んだ通りを歩くことに。

当の彼女はチョコバナナ、綿菓子、林檎飴と見慣れない食べ物に非常に興味をそそられており、

おのぼりさんの様に首を忙しなく左右に振っていた。

 
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:33:04.35 ID:4uI/TZsD0


「お兄さん、あれはなんですか?」

「あれはヒーローを催したお面だよ」

「食べられるんですか?」

「食べられないよ」

「え、でもアンパン〇ンのお面があります……」

「彼は稀に食べられない顔を持っているからね」


「あ、ではあれは何をしているんですか?」

「あれは型抜きだよ。くりとった型の出来で賞金や商品がもらえるよ」

「食べられますか?」

「素材的に食べられなくはないけれど、たぶん止めといた方がいいよ」


「じゃあ、あれは何ですか?」

「金魚すくいだね。掬った金魚を持って帰って育てたりできるよ」

「食べられますか?」

「お刺身の文化はあるけれど、あれは食べられないよ」


今日のサンディさんは突然の腹ペコ属性を手に入れてしまったようだ。

このままでは射的の屋台を見ても食べ物の可否判定をしそうな勢いじゃないか。
 
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:36:41.52 ID:4uI/TZsD0

「へい、サンディ」

「な、なんでしょうか?」

「お好み焼きとタコ焼き、どっちが好き?」

「ど、どちらも好きですが……強いて言えば、たこ焼きです」

「よっしゃ任せて、どっちも買ってくる」

「え、お兄さん!? お兄さん!?」


何故に一回泳がせる質問をしてしまったのか、それはきっと祭りの魔力。

ハードボイルドらしからぬ言動だが、そこはそっと目を瞑ってほしい。

たぶん僕も空気にあてられ、少し浮かれているのだろう。

お祭りとは得てしてそういうものか。童心をふっと思い出してしまうのも已む無し已む無し。

 
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:44:36.17 ID:4uI/TZsD0

少し離れた屋台にて双方の食べ物を購入し、サンディの所へ戻ろうと振り返ってみると。

遠目だと分からないが、どうやら浴衣姿の女性と話し込んでいるようだ。

知り合いなのだろうか? 屈託のない笑顔を浴衣の女性に向けていた。

例の事件のこともあるし、心内で少しだけ警戒レベルを上げながら元居た場所に歩みを進める。

だが、近づくにつれて自分の心配が杞憂なのが分かった。

サンディと話し込んでいるのは、よく買い物に行く洋服屋の店員だった。

確かサンディと初めて会った頃、動物園に向かう前に寄ってからあの店は贔屓させてもらっている。

当然僕も顔なじみになり始めていたので、まぁ互いに見知った仲ではある。

浴衣姿の店員がこちらに気付いて手を振ってくれた。

少し気恥ずかしさを覚えながら、食べ物の入った袋を片手に一任し、空いた手で手を振り返してみた。


その時にふと、気がつく。

その店員の背中に隠れるように、サンディと同年代の子どもがいる事に。

 
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:53:37.90 ID:4uI/TZsD0

「あら、お兄さん。偶然ですね!」

「いや本当に。店員さん、浴衣姿も似合っていますね」

「本当ですか!? いやー、イケメンから言われると悪い気はしませんね!!」


はっはっは、と互いに笑いながらも邂逅する。

こちらとしては偽りなく褒めているつもりだが、まぁ向こうの返しは社交辞令だろう。

アパレル系の方は何かとお上手なものだ。

ふと何やらピリッとした視線を感じる。

店員の後ろから発せられるそれは、子どもから生じていたものだった。

なんだか敵意のようなものを向けられているような気がする。

知らぬ間に嫌われるようなムーヴを見せてしまっていたのだろうか……。

 
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 21:56:46.59 ID:4uI/TZsD0

大きな目、クリっとした癖毛、中世的な顔立ち。

例えがあまり思い浮かばないが、芸能人の有名子役と言われても違和感のない子だ。

まぁ、うちの子も負けてはいないが。

背丈と雰囲気から察するに年齢はサンディと近いと予想する。

……ただ、この子は男の子か?女の子か? 一体どっちだ?

とりあえず質問してみることに。


「あの、後ろの子はご家族ですか?」


店員はからから笑って答える。


「この子は従弟ですよ。年の離れているのもあって可愛いのなんのって」

「そ、そうですか……」


男の子であったか。

うむ、探偵としてのカンが男の子と告げていたからね。やっぱりか。

などと誰にも聞こえない謎の強がりもとい勝利宣言を頭の中だけで考えていた。

 
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/15(月) 22:07:46.52 ID:4uI/TZsD0

そういえばサンディは、日本に同じ年頃の子の友人が今の所いなかったのを思い出す。

もしこの子が友人になってくれたら、きっと彼女は喜ぶだろう。

いつの間にやら僕の背中に隠れるように収まっていたサンディの頭を軽く撫で、

そっと背中を押して前に出す。


「ほら、自己紹介」

「あ、え、あ……、さ、サンディです。 こ、こちらのお兄さんにお世話になっています」


よく言えました、と褒美のように手元のたこ焼きを手渡しする。

えへへ、と笑顔を見せる彼女は可愛い。

何でこんなに可愛いのかよ、と孫を歌う某演歌の歌詞の一部が想起されてしまう。


負けじと店員さんも、背中にいた子をグイグイ押し出してきた。


「ほら!あんな可愛い子が挨拶してきたんだから、アンタも自己紹介しなさいな」

「……みなせ、まお、です。真っすぐ生きるって、書きます」


なるほど、真生(まお)君か。良い名前だな。

確か中国の猫も、マオと呼ぶんだったか。そちらの意味も妙にしっくりくる。

サンディにとって、こっちでの初めての友達になってくれたら嬉しいけれど、

まぁそこまで干渉するのは庇護が過ぎるか。

両人でどこか気が合う所があればいいのだけれど、などと思ってしまう。

 
293.11 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)