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盗賊「勇者様!もう勘弁なりません!」
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136 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:51:59.06 ID:NbpFE6EO0
――――――
商人「」
賢者「ほらほら、元気出してください。決して口外したりはしませんから」
遊び人「賢者先輩、そんな阿呆に付き合ってる暇はありませんことよ。私たちには大事な業務があるのですから」
騎士「それも、手詰まり感あるんだけどね・・・さて今日は、何に取り組もうか」
137 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:52:24.89 ID:NbpFE6EO0
――――――
勇者「よし、いくぞみんな!俺たちは、これから真の英雄となる!最後までついてきてくれるか!?」
戦士「ああ、もちろんだ勇者」
魔法使い「何をいまさら、地獄の果てまでついていくわよ」
僧侶「ああ、遂に私たちの旅も終わるのですね!ゴールイン、これからは勇者様との安らかで落ち着いた日々が待っている・・・」
138 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:52:50.99 ID:NbpFE6EO0
――――――
九つの鐘が鳴る
人々を労働に導く鐘だ
多くの店が扉を開け、喜び勇んで客を招き入れる
王国城内にある大議場の重い扉も開かれる
しかし招かれるのは、喜ばしい客だけとは限らない
鐘は鳴る
まるで物語のファンファーレを告げるかのように
厳かに、そして盛大に、その音を都中に響かせた
139 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:53:24.11 ID:NbpFE6EO0
――――――
王国城内には、その広さを利用し
国政に関わる多くの組織が居を構えている
王国議会の全ての審議が執り行われる会議場も、かつてダンスホールとして使われていたホールを改装したものである
その広さは城内でも随一で、中央ホールにはその広さを贅沢に使い壇上が置かれ
壇上を取り囲むように議員たちの席が設けられている
この日、全ての議員席が埋まっていた
大臣の招集に基づき、王都に在する議員は馬を走らせ、遠方の議員は召喚魔法によって呼び出されたためである
ホールの二階、バルコニーの一部は解放され、多くの国民が議会の進行を眺められるように配慮されている
そのバルコニーの一角、壁で仕切られ驕奢な椅子が置かれた区画に王はいた
王国の新たな時代を見据えて、ただ黙って議会を見守っている
貴族院議長「貴族院及び、衆民院議員のみなさま、おはようございます」
貴族院議長「本日は、大臣の緊急の申し入れに基づき両院合同での緊急議会を開催いたします」
貴族院議長「事の重要性から、陛下にもご参列いただいていることを付け加えて申し上げておきます」
貴族院議長「それでは、大臣より今会議の重要議題についてご説明いただきます」
大臣が壇上に立ち、声を張り上げた
大臣「みなさま。この忙しい年の暮れに、緊急にお集まりいただき申し訳ございません」
大臣「しかしこの度、看過できぬ事態が王城内にて起きております。議会及び、行政府ともに立ち向かわなくては、この国の根幹すら及ぼしかねない事態です」
大臣「慣例にそぐわずに、陛下にご列席頂いておりますのも、その故でございます」
王「・・・」
大臣「いえ、この際はっきりと申し上げましょう。この国難の事態にあって、その中心にあるのが陛下ご自身なのでございます」
「だ、大臣は何を言っているんだ?」
「陛下自身が国難だと!?」
大臣「先日、王城内の宝物庫に賊が侵入し王家ゆかりの品々を盗難されました」
大臣「私は、行政府の庁として部下に捜査を命じ。とあるものを発見したとの報せを受けたものでございます」
大臣「こちらをご覧いただきたい」
大臣が右手を掲げる、その人差し指には赤く気高い光を放つ指輪がつけられていた
大臣「いま、我が手に収まっている指輪。これは、陛下が紛失されたとされる王家の指輪にございます」
「なぜおまえが指輪を付けている!不敬だぞ!」
「それがどう、国の緊急事態に結び付くのだ!むしろ紛失されていた指輪が見つかって喜ばしいではないか!」
議員たちからの声も、大臣は意に介さず続ける
140 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:54:03.81 ID:NbpFE6EO0
大臣「わたくしの部下が、この指輪を宝物庫内にて発見いたしました。この指輪は、宝物庫内のとても意外なところにあったそうです」
大臣「そう、宝物庫内には姿かたちが陛下と寸分たがわない遺体があり。そしてこの指輪は、その遺体の指にはめられていたのです!」
大臣「わたくしは常々思っておりました。陛下は、いえここは敢えて兄と呼ばせていただきましょう」
大臣「およそ30年前、兄王は私利私欲に溺れる愚かな人間でした、しかしある日を境に政治に関心を持ち、民を愛し、国に献身を捧げる真人間と変わりました」
大臣「私は、何事が起ったのか理解できませんでした。しかし、変わられた兄王によって政治制度の改革の推進を命じられ、その繁忙さから違和感に目を背けざるを得ませんでした」
大臣「しかしここにきて、現れた陛下の遺体が全てを語ってくれているのです!陛下、お尋ねいたします!」
大臣「かの遺体は、いったい何者なのですか!いえ、それ以上に貴方は誰なのですか!?」
王「・・・」
大臣「お答えください!」
大臣「 陛下!陛下!陛下!!!! 」
王「・・・」
大臣「お答えいただけないようですね!納得のいく説明があれば、とホンの少しだけ期待したのですが・・・致し方ありません」
大臣「それでは、これより緊急動議を発しさせていただきます!」
大臣「私は、王の退陣を要求し政治制度の転換を要求する!」
大臣「いま、私たちの目の前にいるものは誰とも知れぬ偽りの王である。正当な王家の血を持たずして、我らを欺き国を支配してきた」
大臣「何物やもしれぬ存在を、私たちは奉ってきたのだ!これは、王家への侮辱に他ならない!」
大臣「兄王には子がなかった、今現在、正当な王家の血筋は私にのみ流れている。よって王の退陣ののちは私が王の座へと座ろう」
大臣「そして、この偽の王が生み出したものもまた淘汰されなくてはならない。なぜならば、偽王がどういった意図をもって政治改革を断行したかがわからないからだ」
大臣「国民のためになっている、政治体制まで変える必要はないと人々はのたまうであろう。しかし、しかしだ」
大臣「偽王がその意図を語らない以上、いや語ったとしてもその真偽が確かめられない以上、私たちは一度原点に立ち返り」
大臣「私たち自身の手によって、新たな政治体制を作り出す必要があるのだ」
大臣「具体的には、王権の復古、そして衆民院の解散!」
141 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:54:31.07 ID:NbpFE6EO0
「衆民院議会を解散するというのか!横暴だ!」
「ふざけるな、国民を馬鹿にするな!」
大臣「はやまるでないぞ、これは後退ではない!」
大臣「王家の政党後継者である私によって、この国は改めて生まれ変わるのだ!」
大臣「これは私の政治生命をかけた動議である。賛同を得られないなら、私は潔く政治の世界から去ろう」
大臣「しかし忘れるな、それはすなわち偽りの王と歩みを同じとすることだ!」
大臣「審議の時間など必要ない!いまここで!議員の皆さんには各々の信念にそって、投票願いたい!」
大臣のむき出しの権力欲に、盗賊は表情を歪ませる
しかし、それに抗う術を盗賊はもっていない
例え持っていたとしても、勇者補助係の仲間をこの政争から救い出すには、大臣に身を寄せるしかない盗賊に為す術はなかった
大臣はほくそ笑む
政治生命をかけるという重い言葉を発しながら、大臣の心は安心感につつまれていた
なぜならば、衆民院議会の台頭に快く思わない貴族院議員に
更には、贈賄によって一部衆民院議員すら飼いならし動議の通過は確実であったからだ
大臣「議長!すみやかに投票に移っていただきたい!」
がああああああああああああああああん!
大きな音をたて、議場の扉が開かれる
扉の向こう側から陽光が漏れ、それを背に人影が現れた
逆光のせいで、その表情のみならず体格もはっきりとしないが
ただ、その纏ったオーラから只者ではないことがうかがい知れた
142 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:54:58.07 ID:NbpFE6EO0
???「失礼!」
声の主と共に、複数の人間が議場内に足を踏み入れる
扉が閉じられ、議員たちの目が男の容姿をとらえた
そこには、聖なる装備を身にまとい
伝説の剣を携えた一人の男
勇者であった
大臣「勇者!やはり、伝説の転移魔法を覚えていたのか」
大臣「しかし、このタイミングを邪魔されるわけにはいかん!」
大臣「盗賊!」
控えていた盗賊が、大臣に耳打ちをする
盗賊「残念ですが王国軍は裏切り者の勇者討伐の為、昨日出立いたしております」
盗賊「伝令を走らせてありますが、戻るまでにはまだ時間がかかるかと」
大臣「くっ・・・ならば致し方ない。気奴らの力を借りるのは癪だが・・・!」
大臣「神聖なる議場に、武装して乗り込むとは!勇者よ乱心したか!?近衛兵、狼藉者を捕らえよ!」
近衛兵長は考えを巡らす
近衛兵長(これは、全てをうやむやにするチャンスか・・・!?)
近衛兵長(いや、陛下の正体が知られたら勇者が何をしでかすかもわからん!)
近衛兵長(ここは大臣の言葉に乗って、まずは勇者にご退場願うとしよう)
近衛兵長「全近衛兵に命ずる!勇者をとらえよ!」
近衛兵長の言葉に、議場内の近衛兵たちが反応する
また同時に、王城内に控えている全ての近衛兵に伝令するべく一人の兵が議場から走り出した
城内の全兵力をもってあたらなければ、勇者を捕えることなど不可能
近衛兵長の指示に基づいての行動である
盗賊(近衛兵長の命令・・・!おそらく、城内の全ての近衛兵につたわるはず!)
盗賊(大臣の動議が通れば、たぶん宝物庫の皆を助け出すことができる・・・でも通らなかったら・・・?)
盗賊(城内の近衛兵がここに集中する今なら!宝物庫内の皆を出してあげることができるかも!)
伝令に追随する形で盗賊が走りだした
その素早さは風のごとく、あっさりと伝令を追い抜き議場を抜け出した
143 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:55:24.15 ID:NbpFE6EO0
議場内を一瞥し、脇を駆け抜けていく兵を意にも介さず勇者が歩を進める
しかし、それを許さない近衛兵が勇者に迫り、取り囲むように陣形を組む
歩を止めた、勇者が近衛兵をけん制してか声を上げた
勇者「勇者でござい!そうじょおおおおおおおおおう!勇者のそうじょうにございます!お控え為すって!」
戦士(なんかちがうぞ勇者、時代錯誤もいいところだ!!)
魔法使い(いったい、どこであんな言葉を学んだのかしら)
僧侶(勇者様ったら、おちゃめ///)
勇者の言葉を無視し、近衛兵長が勇者の背後から忍び寄る
勇者「おおっと!近衛兵長、俺が気づいていないとでも思ったか?剣を修め、そこで止まるんだ!」
近衛兵長「ちっ・・・」
勇者「わたしがこれから行うのは、陛下への奏上にござる!法律によれば奏上は何人たりとも邪魔できんのだよな!」
王(法律ではなく、慣例なのじゃが・・・)
勇者「ほら、近衛兵長下がれ!奏上が始まるから、もっと下がれ!」
近衛兵長「いらん知恵をつけやがって・・・」
勇者「あんたの仕事は王の警護だろ!王の下へ帰った帰った!」
近衛兵長は剣を収め、王の下へと素早く戻った
勇者「それでは、みなさんご清聴ください!これから、わたくしの奏上がはじまります!」
144 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:56:15.09 ID:NbpFE6EO0
――――――
「ぐぎゃ!」
宝物庫の固く閉じられた扉の向こうから
悲鳴ともとれぬ声が聞こえた
商人「お?なんだなんだ?」
賢者「外からですね、近衛兵の声のようですが」
何事かと扉に近づいた商人に、聞きなれた声が投げかけられた
盗賊「みなさん!助けに着ました!」
騎士「盗賊さん!」
遊び人「あら、いったい何事ですの。というか、近衛兵さんは大丈夫ですの?」
盗賊「少し眠ってもらっただけです。みなさん、それより急いでください!」
盗賊「いまなら、宝物庫内から逃げ出せます!ひとまず、城内から出て身を潜めてください」
賢者「お急ぎの用ですね、とりあえず盗賊さんに従いましょうか?」
商人「だめだ。状況が分らなすぎる。盗賊ちゃん、昔教えたこと覚えてるか?」
盗賊「なんのことですか!私を信じて、ついてきてください!お願いします!」
商人「報告は、詳細にかつ正確に・・・教えたよな」
盗賊「・・・わかりました」
盗賊「本日、城内の大議場にて両議院を集めた大臣が陛下の退陣を求めて議会を開きました!そこに、勇者が現れ奏上を始めました!」
盗賊「近衛兵長は勇者を止めるべく、城内の近衛兵に召集をかけました!逃げるなら今です!」
遊び人「あらあら、大臣が緊急動議をするって話は聞いていましたが。そんなことになっているとは」
商人「えっ!俺聞いてないんだけど!」
賢者「君が言い出した作戦でしょうに」
商人「?」
145 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:56:41.74 ID:NbpFE6EO0
賢者「たらふく飲んで厠へ行って、盗賊ちゃんと接触しよう作戦ですよ。君が、眠っちゃった後。目覚めた遊び人ちゃんに実行してもらったんですよ」
賢者「ちなみに、私がやろうとしましたが監視ががっつりついて失敗しました」
盗賊「とにかく、報告は以上です!わかったら、私についてきてください!」
商人「だ、そうです。どうしましょうか騎士さん」
騎士「まず、みんなの意見を聞きたいかな」
賢者「城外に逃げるのは反対ですね。職務放棄ととられかねない」
賢者「大臣の執務室に行きましょう。あそこなら近衛兵も手出しが容易ではないうえに、私たちは大臣の部下、勝手に部屋に入ったとしても問題ないはずです」
遊び人「いえ、私たちの処遇は議会の結末にあるとみました。それに私たちの見たものが、この国の行く末を左右することにもなるでしょう」
遊び人「この国の事を思うなら、議場に向かうべきです」
盗賊「先が分らない以上、陛下と大臣の両方から身をひそめるべきです!」
盗賊「仮に大臣が政争に勝利したとしても、大臣は・・・信用成らない人です。勇者裏切りの件もありますし、みなさんの安全のほうが優先です!」
遊び人「勇者の裏切り!?」
賢者「ああ、言ってませんでしたね。端的に言うと、勇者が魔王に懐柔されました」
遊び人「あんのクソガキ!」
賢者「こ、言葉遣いは丁寧に」
騎士「・・・まったく、何もかも急すぎて困ってしまうなあ。さて商人君、君はどう思う?」
商人「盗賊ちゃん・・・勇者が戻ってきてるんだよな?」
盗賊「・・・はい」
商人「だったら、俺がやりたいことは一つです」
商人「・・・勇者に一発ゲンコツをたたき込みに行きましょうや」
146 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:57:08.23 ID:NbpFE6EO0
盗賊「な、なにを!」
賢者「へえ・・・」
賢者「なるほど、それは楽しそうだ」
遊び人「ああ、いいですわね。ちょっと、締め上げて勇者の何たるかを教授してさしあげなくてわ」
遊び人「しかも、世界最強に殴り込みですって?血沸き肉踊る提案ですこと」
騎士「うん、決まりだな」
騎士「それでいこうか!」
盗賊「ま、待ってください!みなさん、何を考えてるんですか!?」
商人「賢者!」
賢者「お任せください、ご説明いたしましょう遊び人ちゃん!」
賢者「現在の私たちの仕事は、宝物庫内の捜査です。勇者は、その最重要容疑者。ちょうど捜査にも行き詰まり、容疑者からの聴取を行いたいと思っていた矢先に」
賢者「なんと、向こうから王城内に飛び込んできてくれたというわけです。これは、私たちとしては黙って見過ごすわけにはいきません」
盗賊「し、しかし、勇者様は今は奏上中です!何人たりとも、勇者の奏上は妨げられないんじゃ!?」
騎士「いや、私たち勇者課勇者補助係のの本来の仕事は勇者の管理指導。彼がやらかした際は、その後始末をする」
騎士「そして彼が何かやらかさないように、指導するのが私たちの仕事だ。つまり」
遊び人「勇者の行動を制限する権限を、わたくしたちは持っている。ということですわね」
盗賊「で、でも、いまは仕事なんてしてる場合じゃ!皆さんの身の安全のほうが!」
商人「それだけじゃあないさ」
盗賊「・・・」
商人「この一年間、俺たちが勇者の野郎から受けた仕打ち。そして、やつが宝物庫を荒らしたことで政争に巻き込まれた事実」
商人「なにより、あんな阿呆が英雄とたたえられている現状が俺は気に食わねえ!」
商人「それこそ、ゲンコツ一発いれるぐらいじゃ収まらねえんだ!」
賢者「公私混同甚だしいですねえ」
147 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:57:54.64 ID:NbpFE6EO0
盗賊「勇者様は強いですよ・・・それでもですか?」
商人「なあに、今の俺にはこれがある」
商人の手から、光のオーラが零れる
盗賊「な、なんですかそれ?」
商人「俺が、長年探し求めていた伝説の一品」
商人「正義のそろばん」
騎士「あっ!駄目だよ商人君!そんなもの持ち出して!」
遊び人「まあまあ、騎士さん。保管簿に乗ってないものですし、どうとでも誤魔化しきれますわ」
騎士「そういう問題じゃないよ!道義上問題あるって言ってるの!」
頑なな態度をとる騎士に、賢者が諭すように語り掛ける
賢者「・・・昨晩、開けた酒瓶」
騎士「・・・ん?」
賢者「止める前に、騎士さんが手を出してしまったので黙ってましたが・・・最初の一本以外の酒ですが」
賢者「全部、保管簿に記載されている王家秘蔵のお酒でしたよ・・・」
騎士「!」
遊び人「あらあら・・・」
盗賊「つまり、業務上横領・・・」
賢者「左遷・・・」
遊び人「減給・・・」
商人「・・・解雇」
騎士の肩がプルプルと震え出す
騎士の内面では、騎士のモラルの権化である正義の心と保身の権化である悪の心が刃を散らしているのだ
148 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:58:21.22 ID:NbpFE6EO0
騎士「・・・ゆ、勇者許すまじ」
騎士「 勇者許すまじ! 」
騎士「魔王討伐のための武具ならいざしらず!王家秘蔵の酒にまで手を出すとは!」
軍配は悪の心にあがったようである
商人「えっと騎士さん、このソロバンなんですけど・・・」
騎士「この忙しい時になんだ!保管簿に記載されていない物など、私はあずかり知らん!」
賢者「と、いうわけですが」
盗賊「もう・・・わかりましたよ!皆さんだけでは心配ですから、私もお手伝いします!」
遊び人「それは、心強いですわ」
商人「憧れの勇者様に、盗賊ちゃんが一発入れれるかなあ・・・?」
盗賊「私より弱い人は黙っていてください!」
商人たちは決戦の場へと、走り出した
149 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:58:47.45 ID:NbpFE6EO0
――――――
議場中央の演台に、勇者が立つ
その眼には、熱い使命感と高揚感がやどっている
勇者「私、勇者はおよそ一年前主命を以てして魔王討伐の旅えと赴きました」
勇者「そして先日、遂に魔王城に到達、魔族の長にして魔王城の城主である魔王に対峙致しまして候」
勇者「我ら勇者一行は、意気軒高その戦意高くして魔王との一戦を願い出るも魔王からは対話の申し出があり」
勇者「最期の言葉、陛下にお伝えすることもあらんと申し出を受け入れたところでございます」
勇者「然れども、まことに残念なことに魔王から語られた事実はわたくし共が把握していた事態とは大いに齟齬がございました」
勇者「その結果、悪しき者討たんとする我ら勇者一行の戦意は大いにそがれることととなりまして候」
勇者「まず、この国の北部及び東部における魔族と地方都市との戦況におかれましては、敵軍の指示系統に魔王軍が関与していない事実がございました」
勇者「魔王軍は、我ら人類と同等程度の知識を有しており軍事組織としての体を十分に為すものでございます」
勇者「されど地方都市における魔族による侵略の様相をきくに、戦略性乏しく、とても知性あるものの戦い方ではございませんでした」
勇者「また、こちらにおわす議員の皆様方もご存知の通り、我が王都において魔族は一労働力として受け入れがなされており」
勇者「その危険性の低さは、すでに王都内にて認識がなされていることは事実でございましょう」
勇者「そのような認識を我らに知らせることなく魔王討伐の主命を下された事実、甚だ遺憾にて候」
勇者「我ら勇者一行は、軍隊に非ず。暗殺者に非ず。人々の希望となるべき、一筋の光にございます」
勇者「なれば我ら勇者が為すべきことは、人民に広まる魔族に対する認識を改め。知性ある者同士、友誼を交わしたることと信じ」
勇者「我ら、魔王と和解するに至ったところにございます」
「なんと、あれが噂の勇者様か・・・」
「地方での戦闘が、魔王軍の指示ではないだと・・・?王国の利益のために、隠蔽されていたということか」
「あの勇者様の凛々しく、堂々とした様を見てみろ。あれこそが人類の希望か」
戦士(おおっ、議員たちが勇者の言葉に耳を傾けているぞ)
僧侶(あたりまえです。あれこそが真の勇者様の姿!)
魔法使い(本当に奏上文を暗記できていたのね)
150 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:59:13.81 ID:NbpFE6EO0
バアンっ!
大きな破裂音が、議場内に響いた
勇者が拳を振り下ろし、演台を平手で叩いたのだ
その衝撃で、演台に置かれていた水差しが倒れ勇者の手のひらにかかる
勇者「皆様、奏上中にございます!お静かに願います!」
議員たちの反応は、勇者の予想以上に良いものであった
いままで、魔族との戦いで人々の注目を浴びてきた勇者にとって
剣を抜くことなく、弁論を以てしての称賛は初めての事である
勇者(ああ、普段偉そうにしている議員連中がこんなにも畏まってる・・・)
勇者(こんなに気持ちの良いことは初めてだ!)
勇者は、これまで感じることが無かった優越感に浸り
奏上を続けるべく、その拳に書き込まれたカンペをみつめた
勇者「」
そこに奏上文は無く、代わりに滲んだインクがまるで汗のようにヒラリと流れ落ちた
151 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 18:59:40.39 ID:NbpFE6EO0
――――――
側近「勇者さん、大丈夫ですかね」
魔王「不安か?」
側近「思ってた以上に、頭が残念な子でしたからね。脳筋バカってのは、ああいうのを言うんだろうなあ」
魔王「人前で、そういうことを言うなよ。あれは、いまや我ら魔王軍の一配下なのだ」
魔王「それに、あの奏上文は勇者にも理解できるよう我らが力を尽くしたではないか」
側近「そうですけど。不安だなあ・・・」
――――――
152 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:01:23.37 ID:NbpFE6EO0
――――――
「どうしたんだ、勇者様?突然黙り込んで」
「奏上は終わったのか?結論として、何が言いたかったんだ?」
勇者「・・・」
勇者「ああ!しゃらくせえ!」
戦士「お、おいどうした・・・?」
勇者「違う!こんなものは俺の言葉じゃねえ、魔王が作った文章が議員たちに響くわけがねえ!」
魔法使い「えっ、えっ何がどうしたの?」
勇者「すまねえ議員の皆、それに陛下!こっからは俺の魂の言葉だ!こっからが真の奏上のはじまりだ!」
僧侶「流石勇者様・・・」
勇者「俺はなあ、この一年間国中を走り回って戦ってきた。なのに何だお前らは!こんな暖かい所でぬくぬくしやがって」
勇者「俺も昔、議会を傍聴したことがあるから知ってるが!あんたら、小難しい言葉ばかり使って!」
勇者「そうやって国民を欺いているんだろう!俺には、議会がまっとうに話し合いをしているとは到底思えないね!」
勇者「そのくせ政治家ってやつは、いつも偉そうにしやがって!」
大臣(何か急にレベルが落ちたな・・・)
勇者「それに国のためにとか、きれいな言葉を抜かしている割に全然国はよくならねえじゃねえか」
勇者「誰の税金で食ってると思ってるんだ!」
勇者「そうだ、税金だってそうだ。新しい道路を作るだの、新しい施設を建てるだのに使ってばっかで国民のためには全然使ってねえじゃねえか」
王(いや、国家予算の大半は福祉関係に使ってるけど・・・)
153 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:02:01.80 ID:NbpFE6EO0
勇者「俺を馬鹿だと思うなよ!知ってるんだぞ、役人たちだってそうだ!」
勇者「すぐに窓口を閉めやがって!あんなに早く窓口閉めやがって!人の税金で食ってるくせに、国民を馬鹿にしてるんじゃないのか!」
近衛兵長(窓口閉めてからが忙しいんだが・・・)
勇者「あのーそれに、あれだ!実家の近所に済んでる婆ちゃんも言ってたぞ、昔はよかったって!」
勇者「これって、国が年々悪くなってるってことだろ!あんたら政治家の怠慢のせいじゃないか!」
勇者「高い給料もらってるくせに、国はどんどん悪くなっていってるんじゃねえか!」
勇者「あんたらはもっと国民の声に耳を傾けるべきだ!」
大臣(これはひどい)
近衛兵長「・・・」
王「あれが勇者か・・・多少馬鹿でも真っすぐな信念を持った男だと思っていたが・・・」
勇者「政治家たちの給料を減らすべきだと思うね!あと役人どもの給料も!」
勇者「というか国の為を思うならタダでやるべきじゃないのか!そうだ、そうすれば税金の無駄だって減らせるじゃないか!」
王「ただの阿呆ではないか・・・」
王「ああもう・・・誰か、あの阿呆を止めてくれ。あれを倒した奴は、新しい勇者に指名してやっても良いぞ・・・」
勇者に過大な期待をしていたせいか、その感情をただ垂れ流し、理論も根拠もない言葉に
王は怒りすら覚えることなく、ただ呆れるばかりであった
そんな王の口から、ぽつりとこぼれ出た言葉に何処からか答えが返ってきた
「そいつはマジすか・・・?陛下」
返事などあるはずもない独り言に、応じる声に近衛兵長が一瞬で抜刀し王を庇う
近衛兵長「だ、だれだ!?」
騎士「失礼しました。勇者課の者です」
近衛兵長「大臣の手の者か、何用だ!」
賢者「いえ、用があるのは勇者の方にです」
遊び人「それより陛下、先ほどの言葉確かですね」
王「遊び人ではないか・・・ああ、もし勇者を止めれるなら勇者にでも何でもしてやるさ」
「よっしゃあ!」
商人「 俄然やる気が出てきたぜ! 」
154 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:02:28.35 ID:NbpFE6EO0
――――――
勇者「だから、そのーあのー、つまりはだ!役人たちは窓口を夜まで開けて・・・」
商人「どおりゃああああああああああ!」
二階のバルコニーからの商人の強襲
世界一の硬度を誇るオリハルコン製のソロバンに、商人の全体重をのせた渾身の一撃である
しかし、勇者は滑らかに剣を抜き一見緩やかに受け流してしまう
軌道をそらされた商人の一撃は、勇者正面にあった演台を砕いた
勇者「なんだてめえ。いまは、勇者の奏上中だぞ!奏上は誰も邪魔しちゃいけないんだぞ!」
商人「残念ながら、その理屈は俺には通用しないんだなこれが、それ次いくぞ」
どっせいと言う気の抜けた掛け声とともに
砕かれた演台の木片を勇者に向かって投げつける
さながら散弾となったそれに、勇者は両腕をクロスさせ急所をかばった
勇者「くっ・・・お前は誰だ!勇者の奏上を止めるのは法律違反だぞ!」
商人「そんな法律はねえよ、法律と慣例の区別もつかない阿呆だとはな」
商人「それに俺は、お前の同僚さ。悲しいな、この一年間ともに頑張ってきたじゃねえか」
勇者「お前の事なんぞ知らんわ」
戦士「勇者!いまいく!」
勇者に駆け寄ろうとした戦士の喉に、騎士のレイピアが一直線に伸びる
戦士は身をよじり回避する
騎士「おっと、君の相手は私だ」
155 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:02:59.47 ID:NbpFE6EO0
避けはしたが、その剣の鋭さに戦士は表情を強張らせ
そして宝飾の散りばめられた、美しい剣を鞘から抜いた
騎士「あ・・・王者の剣、ああ・・・やっぱり君たちの仕業か」
戦士「俺の剣を知っているのか、おっさん」
騎士「まあ仕事だからね。えっと君は確か、国一番の剣士だったな。よし、ここは一手ご指南いただこう!」
魔法使い「どいて戦士、そいつの狙いは時間稼ぎよ。私たちに勇者の援護をさせないつもりだわ」
魔法使い「そうはさせない、焼き尽くせ!炎魔法 ファイアー!」
賢者「氷魔法 アイシクル」
魔法使いの生み出す炎が、氷の壁によって遮られる
氷の壁はみるみる大きくなり、議員席と中央ホールの間に巨大な壁を築き上げた
魔法使い「へえ、まるでコロシアムね」
僧侶「時間稼ぎしたところで、あんなみすぼらしい男が勇者を倒せるわけないでしょうに!」
遊び人「はいはい、貴方はこちらで一緒に遊びましょうね。封印魔法 サイレント!」
遊び人が軽やかに舞い、僧侶の耳元で囁いた
それと同時に、僧侶の金切り声が封じられる
僧侶「むぐぐ!」
賢者「魔法使えるんですね・・・」
遊び人「あはは、もちろんですわ」
仮初の闘技場に勇者パーティー4人と勇者補助係の4人が対峙する
その光景を見て、近衛兵長は湧き上がる衝動を抑えられずバルコニーから身を乗り出した
近衛兵長「だめだ・・・彼らだけでは!」
156 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:03:26.16 ID:NbpFE6EO0
王「行くな近衛兵長」
近衛兵長「しかし!手練れには見えるが彼らだけでは、とても勇者一行を捕えきれない!」
近衛兵長「俺が、助けなければ!」
王が立ち上がり近衛兵長を制する
王「彼らは、筋を通している。今お前が手を出すのは野暮ってもんだろ」
王「それに見てみろ、強大な敵に立ち向かう彼らの姿を。実に楽しい、ラストシーンにはもってこいではないか」
近衛兵長「下手したら、彼らが死ぬぞ・・・それでもいいのか?」
王「そうはならんさ」
勇者の必殺の一閃を商人がソロバンで受け止める
ソロバンの珠から火花が散った
勇者「見たところ、冒険商人のようだな。たかが商人が、この俺を、世界中をたった4人で旅したこの俺たちを止められると思っているのか!?」
勇者「俺の姿を見てみろ、この鎧を、この兜を、この剣を!知らないだろうから教えてやるが、これらはすべて伝説級の装備だ!」
勇者「対してお前の武器、なんだそれは。俺の剣を受け止めるところタダのソロバンじゃないようだが、そんなもので俺と戦えるわけがないだろ」
商人「お前のつけている装備はよく知ってるさ!だがなあ、伝説級の装備を持っているのはてめえだけじゃあないんだぜ!」
商人の魔力がソロバンに流れる
ソロバンが、光を放ち梁がぐんぐんと巨大化していく
その大きさは勇者の身長をも凌駕し、その圧倒的質量で勇者の剣をはじき返した
商人「だありゃあ!」
商人の追撃に、勇者はタイミングをあわせカウンターを放つ
かろうじて避けた商人は大きく、体勢をくずした
勇者「いっちょうあがりだ!少しの間眠ってな!」
157 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:03:53.69 ID:NbpFE6EO0
勇者が剣を上段に構えると、どこからか風を切る音と共にナイフが飛んできた
ナイフは鎧の隙間を縫い、勇者の右上腕へと突き刺さった
勇者「ってええなあ!まだいやがるのか!」
姿も、殺気もみえない中、声だけが勇者に届く
「勇者様、お命ちょうだいします」
その声に、慌てた商人が声を荒げた
商人「な!なにやってるんだ!お前は、もう勇者課じゃねえんだぞ!」
商人「サポートに徹するならまだしも、直接手を出すのはダメだろうが!」
「大臣、お受け取り下さい!」
今度は大臣の頬をナイフがかすめ、壁へと突き刺さった
ナイフにはメモが括りつけられており、大臣はすばやくメモに目を落とす
メモ紙には殴り書きで「転属願ひ」としたためられていた
大臣「許す!たった今、この時をもって貴様は勇者課に再異動だ!」
盗賊「ありがとうございます!」
感謝の言葉と共に、盗賊が姿を勇者の目の前に現れた
勇者の剣が横薙ぎに盗賊を払うが、すでに盗賊の姿はそこにはなく残像だけがゆらめいている
再び気配を消した盗賊が、勇者の隙を伺い
先ほどとは違い、ナイフに渾身の殺気をのせて勇者へと放つ
勇者は簡単にナイフあしらうが、何処からともなく発せられる殺気に集中力を乱されてしまう
勇者「ああもう!!うっとうしいぞ!お前はハエか!」
盗賊「そうかもしれません!では勇者様はさしずめ、ハエに集られるうん子です!」
勇者「うがああああああああああああああああ!」
商人「俺の事を忘れてくれるなよ!どっせい!」
158 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:04:20.48 ID:NbpFE6EO0
――――――
戦士「どうしたどうした!あんたの剣はそんなものか!?」
騎士「ちょっ・・・す、少しはおじさんを労わって!」
戦士「だったらさっさと剣を収めろ!さもなくば倒れろ!俺の仕事は勇者のサポート、早く勇者の下に行かせてくれ!」
騎士「い、いや、でも、お、おじさんの仕事はまず君たちを拘束することだから」
戦士「ほら、これで終わりだ!くらえ!火炎斬り!」
遊び人「ほいっと、防御魔法シールド!」
戦士の目前数寸のところに、突然遊び人が現れその剣を魔法で防いだ
戦士が顔を赤らめ、騎士達から距離をとる
戦士「な!?てめえ僧侶の相手をしていたはずじゃ!」
遊び人「あらあら、頬をそめちゃって。かわいいですわね」
遊び人がひらりと舞う
すると、遊び人が居た場所に僧侶のスタックが降りおろされた
スタックは床を砕き、その衝撃が騎士のところまで届いた
僧侶「・・・むう!」
遊び人「さすが勇者一行の僧侶、魔法を封じられてなお戦力となりますのね」
軽やかにステップを踏み、遊び人は戦士の周囲をくるくると舞う
まるで酒場の踊り子のような様な姿に、僧侶が苛立ちを隠さず、歯をむき出しに遊び人を追いかけた
僧侶のスタックがまた振り下ろされる、しかし今度はそれだけにとどまらない
僧侶の背に隠れ戦士の突きが遊び人を襲ったのだ
しかしそれすらも遊び人は、「知っていました」とでも言わんばかりに悠々と避けてみせた
159 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:05:02.36 ID:NbpFE6EO0
遊び人「あらあら、せっかちですこと。そんなことだと乙女に嫌われますわよ」
騎士「さすが年の功・・・」
遊び人「はい・・・?」
遊び人の殺気が騎士に飛ぶ
騎士「し失礼しました・・・」
騎士「よ、よおし戦士くん!私のことも忘れてもらっては困るよ!私の奥義受けてみろ!」
場を誤魔化すような騎士の叫びに、戦士が剣を正眼に構え応じた
騎士「 王国騎士団秘技 !」
騎士「 騎士団召喚! 」
騎士「ほら、後ろをみてみろ戦士くん!君の相手は、私たちだけではない!国を守るべく鍛えられた300の騎士達だ!」
戦士「なんだと!?」
その言葉に、戦士が振り返る
しかし、そこには氷の壁越しに勇者たちの戦いを見つめる議員たちの驚嘆の表情しかなかった
戦士「 うそじゃねえかああああ! 」
ほんの一瞬の隙
それを見逃さず、遊び人と騎士が同時に動いていた
遊び人が、怒りに一歩踏み出した戦士の足を引っかける
よろめいた戦士のあごに、騎士の必殺の肘うちがあたった
騎士「ごめんね・・・おじさん、体力限界だったから。嘘ついちゃった」
僧侶(いけない!戦士さん!回復魔法!)
白目をむき、ゆっくりと前のめりに倒れる戦士に向け
僧侶が手を向ける
ほぼ条件反射的に、戦士の回復を図ろうとしたのだ
しかし、僧侶の魔法は封じられており回復魔法の光が発せられることは無かった
僧侶(しまった・・・!)
気づいたときには、遊び人の拳が僧侶のみぞおちへと突きささっていた
遊び人「ふう・・・二鳥あがりですわ」
160 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:05:30.98 ID:NbpFE6EO0
――――――
魔法使い「ああもう!しゃらくさいわねえ!光魔法 シャイニング!」
賢者「闇魔法 ダークネス」
魔法使い「もう!さっきから私の魔法を打ち消してばかりじゃないの!時間稼ぎ以外はするつもりはないってこと!?」
賢者「いやあ、時間稼ぎというか職業病ですね」
賢者「この一年、問題の事後処理ばかりでしたので先手の打ち方を忘れてしまったんですよ」
魔法使い「そんな話聞いてないわよ!」
魔法使い「睡眠魔法 スリ―プ!」
賢者「・・・」
魔法使い「あら?これは打ち消さないのね、というか効いてない・・・?」
賢者「あなた方のおかげで徹夜仕事にも慣れてますのでね、睡魔には耐性がついちゃったんですよ」
魔法使い「私たちのおかげ?さっきから、わけのわからないことを言って私を惑わすつもりね!」
魔法使い「水魔法 ウォータースプラッシュ!」
賢者「雷魔法 サンダーランス」
水の奔流と、雷の槍が交錯し
一帯が蒸気に包まれる
魔法使い「へえ、雷って高温なのね・・・私の水魔法を蒸発させるとは」
魔法使い「でもね、こんな魔法の応酬もそう長くは通じないわよ!」
賢者「え?なぜです?」
魔法使い「だって、あなたと私じゃ魔力量に絶対的な差があるもの!こう見えても、私たちはたった4人で魔王城に到達した猛者よ!」
魔法使い「王都でぬくぬくと研究している学者連中とは、レベルが段違いってわけよ!」
賢者「私とあなたとは、そうレベル差があるとは思えませんけどねえ」
魔法使い「だったら、試してみる!?さあ、ちょっと魔法のレベルをあげるわよ!」
161 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:06:29.06 ID:NbpFE6EO0
魔法使い「大火炎魔法 ファイアーバード!」
魔法使いの手から生まれた小さな炎が、徐々に大きく燃え上がり巨大な炎の玉ができあがる
そして、その大きさに限界を迎えたのか今度はみるみると形をかえ、遂には大きな巨鳥となって羽ばたいた
賢者「あらら、もう幕引きですか。極大封印魔法 ビッグシールド!」
賢者の結界が、賢者を覆う
魔法使い「あら流石に、この魔法を打ち消すのは貴方でも無理だったのかしら?」
魔法使いの問いかけに、賢者は答えない
それどころか、さらに呪文を重ねる
すると賢者を覆っていた緑色に光る結界の一部が、うねうねと動き出し魔法使いに迫る
殺気の込められていない魔力に、魔法使いは怪訝に思いながらもそれを受け入れた
例え、知らない攻撃魔法であったとしても対応しきれる自信があったからだ
しかし意外にも光る緑色は、優しく魔法使いを包み込んだ
魔法使いは困惑する
なぜならそれは、本来なら仲間に向けられるはずのただのサポート魔法であったからだ
魔法使い「これは・・・なんのつもりかしら?」
賢者「いえ、貴方も結界で守らないと。貴方が死にかねないので」
魔法使い「馬鹿にしているの!?いきなさいファイアーバード!」
162 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:06:56.61 ID:NbpFE6EO0
巨鳥がキエエッと泣き声をあげ賢者へと突進する
しかし、巨鳥は魔法使いの手から離れた瞬間に
どおおおおおん!
轟音と共に弾けさり
その衝撃に、魔法使いは目を回しひっくり返ってしまった
魔法使い「きゅう・・・」
賢者「魔法以外の知識はからっきしのようですね、先ほどの水魔法は高温で蒸発したわけではありません」
賢者「電気分解により、この周囲には水素と酸素が充満していました。火を扱えば、こうなることは自明の理です」
賢者「まあ、大した量じゃないので派手な音を出す程度ですが」
魔法使い「うぐぐ、純粋な魔法勝負なら・・・私が勝ってた・・・」
ひっくり返って、頭に大きなタンコブをつくった魔法使いが
かろうじて意識を保ちながら、負け惜しみを吐き出す
賢者「無知は罪ですね、貴方は知らなすぎる」
魔法使い「・・・なによ」
賢者「そうですね。まずは、自然科学を学ぶといいでしょう」
賢者「理学の応用は、貴方に更なる力を授けるでしょう」
賢者「それともうひとつ、魔力量でも私は貴方に負けていませんよ」
賢者「たった4人で魔王城に到達した猛者は、あなた方だけでは無いということです」
163 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/29(金) 19:08:13.76 ID:NbpFE6EO0
今日はここまでです
一件訂正がございます。文中「スタック」と出てきますが「スタッフ」の誤りです。
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/29(金) 19:27:01.91 ID:MTc0e9Mt0
一体何時になったら補助係は、今回の勇者に特権どころか子供の小遣い程度の金しか与えられてない事に気付くのだろうか?
正直、勘違いしたまま勇者叩いてるから滑稽にしか見えないんだよな。
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/29(金) 23:01:57.09 ID:sIkAAPL20
読みやすい文章でいつも楽しく読ませていただいております
そしてまさかの作中も年末進行
次回もお待ちしております
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/31(日) 11:59:02.54 ID:DoF7+nn1O
いくらなんでも勇者PTと実力差がなささぎる
どんだけ勇者達弱いんだって商人とか瞬殺されないといけないだろ
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/31(日) 13:27:24.32 ID:aNelLzlNo
確かに
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/31(日) 15:11:06.58 ID:f0Jr0uTXo
よく考えたら勇者一行も勇者課も被害者なのに可哀想
169 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/31(日) 15:40:34.51 ID:bGx85dA80
議場には、剣とソロバン、そしてナイフがぶつかり合う音に満たされている
議員たちは誰一人として席を立とうとせず、3人の戦いを見つめている
その緊張感に耐えられなくなったのか、一人の議員が呟いた
議員「何故だ、何故渡り合えているんだ・・・」
その一言に、周囲の議員たちも同調する
「彼らは一体何者なのだ?勇者パーティーと実力差が無いなんておかしいじゃないか!」
「あんな冒険商人、勇者様なら瞬殺だろ!何故なんだ!」
「た、たしかに・・・」
「勇者様は、神託を受けたこの国の切り札だぞ。あの冒険商人は、それほどの腕なのか・・・!?」
屈強な議員「その疑問お答えしよう・・・」
「な・・・!あんた、彼らの強さがわかるのか!?」
屈強議員「ああ、私はかつて格闘家として大陸中を回った者だ。今、彼らに起こっている状況を私なりに説明できるだろう」
屈強な議員の頬に、一筋の汗が流れ落ちた
歴戦の強者風の屈強な議員
その男すら緊張を隠しきれない様相に、周りの議員は目の前で繰り広げられている戦いの
レベルの高さを、改めて認識した
屈強な議員は、戦いから目をそらすことなく静かに語り出した
屈強議員「まず勇者一行の強さからいこう。彼らは膂力のみならず集中力、魔力そして対応力、戦闘において必要な全てを高いレベルで習得している」
「ではなぜ勝てないんだ?」
170 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/31(日) 15:41:00.64 ID:bGx85dA80
屈強議員「勇者一行に足りない物、それは経験だ」
「そんなわけがあるか、勇者様達はこの一年、各地の魔物を倒してきたんだぞ」
屈強議員「そう、勇者殿たちがこの一年相手にしてきたのは魔物達ばかりということだ」
「つ、つまり対人戦闘における経験値がないということか?」
「いや勇者様は旅立つ前に剣の訓練を積んでいると聞く、それにかの戦士だって王都一の道場に勤める者だぞ」
屈強議員「対人経験値が無いとは言わんさ、だが短期間での訓練では、その経験値も骨身にまで染み込まないものさ」
屈強議員「戦士殿だってそうさ、道場剣術など実戦の経験値に比べれば屁にも劣る。そのうえ、まる一年も知性無き獣とばかり戦っていたら腕だって訛るさ」
屈強議員「先ほどの戦士殿の戦いぶりがまさにそれを物語っている」
「と、いうと?」
屈強議員「言葉で惑わされ戦闘中に相手から目をそらす、そんな過ちはそこらの兵士ですら犯さんよ」
「しかし、それだけのことで勇者様が、どこの馬の骨と知れぬやつに手こずるなど」
「そ、そうだ!例え剣で遅れたとしても、勇者様には魔法があるだろう!」
屈強議員「それについては私たちが原因だ」
「な、なぜだ?私たちが原因だと」
屈強議員「周りを見てみろ、議員たちが誰一人として逃げ出そうとせず戦いの行方に魅入られている」
屈強議員「勇者殿の魔法は、天を穿ち、地を裂くと聞く」
屈強議員「議員たちに被害を出さないために、勇者殿は魔法が繰り出せないのだ」
「なるほどお・・・」
171 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/31(日) 15:41:27.06 ID:bGx85dA80
――――――
勇者は焦っていた
奏上を邪魔されただけではなく、たかが冒険商人に手こずる自身の姿を
多くの目に晒してしまっている恥辱の心が、そうさせるのだ
勇者(くそっ!剣の稽古は、旅立ったあとも戦士との稽古で散々積んできた!)
勇者(どんな奴にだって負ける気がしねえ!だが・・・)
勇者(ソロバンとの戦い方なんて俺は習っちゃいねえぞ!)
事実、勇者は現時点において人類最強の剣士と言って差支えがないであろう
しかし、勇者の目の前にいる男が握っている物は巨大なソロバンであり
更に言えば、魔力を込めることによって伸縮する間合いが定かにならない変則的な武器であった
勇者(だが、それだけなら問題ねえ。大振りで振り回したり、勢い余ってよろついたりと隙だらけだ・・・)
勇者(そのうえ、間合いをとって魔法でぶっとばせば一発で決着は済む・・・だが)
勇者の頭上を、巨大なソロバンが素通りする
商人の横薙ぎを、危なげなく勇者が身を低くして躱したのだ
勇者(胴ががら空きじゃねえか・・・)
勇者が剣を地面と水平に構え、突きの姿勢をとった
その瞬間、何処からともなくナイフが飛んでくる
勇者(これだ・・・!商人の隙を突こうとしたり、魔法の詠唱をしようとすると、すぐにコイツが飛んでくるっ!)
勇者(俺の最大の敵は、目の前の糞ザコ商人なんかじゃねえ!サポートに徹して姿を見せねえ陰気野郎だ!)
――――――
172 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/31(日) 15:42:15.94 ID:bGx85dA80
今年はこれで失礼します。
皆さん良いお年をお迎えください。
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/31(日) 16:19:46.13 ID:H6yz4YHd0
更新乙です
読者の疑問にきちんと作中で答える作者の鏡
作者様も良いお年を
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/31(日) 17:38:33.84 ID:aNelLzlNo
仕事が早いな、お役所仕事とは思えんぐらいにw
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/31(日) 22:13:01.47 ID:KEO2xZFNO
まさかの大晦日更新乙
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/01(月) 04:32:35.87 ID:6LrzzisDO
乙&あけおめ
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/01(月) 08:51:45.78 ID:0rbKc0LLO
乙
とはいえ、流石に苦しい言い訳になってるな。
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/01(月) 09:07:08.34 ID:n2JxLFGKo
よく読んだら屈強な議員の解説、何一つあってなくてワロタ
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/01(月) 15:01:08.99 ID:4Ny0G205O
いやぁそれでも無理ありすぎるだろ…
人間と魔物との戦闘の経験だろうがなんだろうが勇者達の速度や動きに付いていけてる時点でさそれに王様達を倒す側にいるのに周りの大臣とか気にする必要ないだろ
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/01(月) 18:55:47.54 ID:FyyjHuFIo
主人公補正だから
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/01(月) 21:04:29.84 ID:xu+ULndxo
まあ、これまで勇者の強さの描写がなかったし、後付けで何とでも言えるよなあ
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/02(火) 02:40:16.49 ID:er1/LovoO
さすがにどんな動きしてくるかわからない魔物相手に戦ってきたのに人間相手に苦労するわけないよなぁ簡単にアドリブってか対応できると思うんだが
急になんか下手こいたssになってしまったこのシリーズ好きなのに
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/02(火) 18:25:13.20 ID:TZmAnHcj0
後付けで取り繕うとか見苦しいにもほどがある
100%善意で言うけど、もうやめたら?
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/02(火) 18:45:55.23 ID:OSCbBdHxo
勇者信者ワラワラで草
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/02(火) 23:24:57.05 ID:dXeVFjiLO
勇者的に器物破損はセーフなんだろうけど、無関係の人間を傷つけるのはNGなんでしょ
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/03(水) 15:14:11.37 ID:rIJdgHlLO
いい感じに上がってきたじゃないの。自分の期待した展開にならなかったくらいで癇癪起こしてるクソガキなんぞほっとけよ
187 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:51:47.82 ID:stzXCINl0
――――――
賢者「回復魔法キュア、防御魔法シールド、肉体強化ストロング」
遊び人「魔法防御マジディフェンド、瞬発強化アキレス」
商人「おぉ、力が溢れてくる!」
勇者「くそっ、補助魔法か!?」
商人の体から、光のオーブが淀みなく溢れ、その体を包み込んでいく
明らかに増した力を確かめるように、商人は拳を握りなおす
やれる
これだけの力があれば、勇者だって倒せる
戦士「・・・あんた達の負けだよ」
騎士によって縛り上げられながら、戦士が恨めしそうに呟いた
騎士が訝し気な表情を見せた
騎士「逆でしょう?商人君は二人掛かりとはいえ、勇者くんと渡り合えていたんだ」
騎士「補助魔法もかけてもらって、更に4人がかりなら猶更だよ」
騎士「まあ、私も君を縛り上げたら参戦するから5人がかりになるけどね」
戦士「いや、それでもお前たちの負けだ」
騎士「負け惜しみかい?君らしくもない・・・抵抗はしないでくれよ君たちにケガをさせたくない」
戦士「・・・それはこちらも同じだ。俺たちだって彼にも勇者一行だ」
戦士「魔王側に寝返ったからといって、この国の国民であるお前らにケガは負わせたくなかった」
戦士「だが、それももう敵わない」
騎士「?」
戦士「あんた家族はいるのか?」
騎士「・・・ああ、嫁に娘が一人いるけど」
戦士「へえ、俺と同じだな」
騎士「意外だなあ、てっきり独身かと思っていたよ」
戦士「・・・同じ子持ちのよしみで忠告してやる。五体満足でいたいなら、ここで戦いの行方を見ることだ」
188 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:52:13.95 ID:stzXCINl0
――――――
勇者「補助魔法の重ね掛けか・・・そうか・・・」
商人「お、どうした?降参するか?」
勇者「それなら死ぬことは無いだろう。こちらも本気でやらせてもらおう!」
勇者「降参するなら早めに言え」
勇者「 カミナリ !!! 」
勇者が叫ぶと同時に、剣先を天に向ける
一瞬の静けさの後、ゴロゴロと低く響く音に議場が包まれる
どおおおおおおおおおおおおん
轟音とともに、議場のドーム状の天井を突き破り雷が現れ
勇者に直撃した
商人「か、雷魔法の撃ちそこないか!?何やってるんだ勇者は」
盗賊「・・・きます」
勇者「死んでくれるなよ、冒険商人!」
商人が慌ててソロバンに魔力を込める
しかし、勇者の正拳を防ぐには至らなかった
勇者の拳は、商人の腹部に大きなへこみを作りながらも、なお止まること無く振りぬけられる
商人は、その勢いで賢者の作り上げた氷壁まで飛ばされ打ち付けられてしまった
商人「あ・・・がっ・・・」
賢者「補助魔法越しで、あの威力ですか!?回復魔法キュア」
遊び人「お手伝いします、回復魔法」
騎士「あれはなんだ、勇者の体が雷を纏っているぞ」
戦士「対魔王用に勇者が習得した身体強化魔法だ・・・雷を自らに落とし、その力を自分のものとす」
勇者「そう、今の俺は、剣の一振りで山をも切り崩す!」
勇者「まさに『神に成る』魔法だ!」
遊び人「ひどいセンス」
盗賊「・・・同感です」
勇者「」
189 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:52:43.65 ID:stzXCINl0
――――――
何が起こったか理解できなかった
ただ唯一確かなことは、勇者が勇者と呼ばれる所以
その圧倒的な武力の前に、自身の力が如何に非力であるか
その一点においてのみであった
商人(だ、だめだ・・・さっきの一撃で体中がたがただぜ)
商人(というか、素手で殴られてこのザマかよ・・・勇者強すぎじゃね)
勇者「まだ意識があるのか、タフな野郎だ」
勇者が商人へと歩を進める
当の商人は、賢者と遊び人からの回復魔法を受けてもなお立ち上がることができないでいた
商人(回復魔法が追い付いてねえ・・・時間を稼がないと)
商人「・・・お、おいおい、勇者様よ」
商人「いくら婚約者の前だからって張り切りすぎじゃあねえか・・・?」
勇者「・・・婚約者だと?」
商人(食いついた・・・)
商人「おっと、お前はまだ知らなかったけな」
勇者の肩が震え出す
目じりが上がり、歯を食いしばり、人類の救世主とは思えぬ鬼の形相を浮かべている
勇者は、地獄の底から湧き出すような声を絞り出して答えた
勇者「しししし」
勇者「知っているぞ、このボケカス!!!」
勇者「この俺を!人類の希望と祭り上げておきながら、裏では年増の婆と政略結婚させやがって!」
勇者「ぜぜぜぜったいに許さんぞ国王!」
商人「国王・・・?」
商人「おっと、残念ながらそれは恨む相手が違うわな・・・」
勇者「なに?」
商人「その結婚、画策したのはこの俺さ」
勇者「なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
勇者「こおおおおおろおおおおおおすううううう」
190 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:54:30.25 ID:stzXCINl0
勇者が床を踏み抜くほどの力を込めて、一歩を踏み出す
商人「お、おいおいおい、落ち着け落ち着け」
商人「・・・怒り狂うのは、自分の婚約者を見届けてからにしたらどうだ?」
勇者「うが?」
商人「ほら、そこにいるだろうが」
商人が勇者の後方を指さした
勇者は躊躇したものも、動けない商人を一瞥し
油断なく振り返った
遊び人「お初にお目に掛かります勇者様。わたくしが侯爵家娘。貴方のフィアンセですわ」
商人の意図を察した遊び人が
勇者の気を引くべく、勇者にウインクを飛ばす
勇者「」
遊び人「あら、どうなされましたの?」
遊び人が首をかしげる
そのかわいらしい仕草からは、齢50という年齢は感じられず
まるで野に咲く一凛の百合の花のように、白く、澄んだ美しい娘が佇んでいた
勇者「うが・・・」
勇者「・・・」
そのあまりの可愛らしさに
勇者の目じりは下がり、口元もほころぶ
肩の力は抜け、腰も抜けそうになるが、そこは勇者としての意地か
なんとか持ちこたえることができていた
191 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:54:58.86 ID:stzXCINl0
勇者「あーえー・・・俺を騙そうと・・・?」
遊び人「あら、心外ですこと。何なら、陛下にお尋ねになっては如何でしょうか」
勇者「・・・」
議場二階のテラスから事の行方を見守っていた王が声を張る
王「その者の申す事、事実である!」
王「例え、貴様が魔王側に寝返ったとしても侯爵家との約束違えるつもりはないぞ」
勇者「!」
耐えきれなくなった勇者が遂に片膝をつき
右の手のひらで、自身の顔を包み隠した
僧侶「あれ・・・勇者様?」
勇者(ま、まじか///え、まじ?これ?)
勇者(えーまじでー///めっちゃ可愛いやん・・・///)
勇者(あーまじか、まじか、まじか)
勇者「ゆゆゆ、許そう!侯爵家娘との結婚については、俺に何の憂慮もない!」
魔法使い「あ・・・最低」
僧侶「」
勇者「え、いやいやいや、陛下もああ言ってるし・・・陛下には恩もあるし・・・」
勇者「とととというか、嘘じゃないよね。まじで?」
遊び人「まじです」
賢者「・・・初々しい反応ですね」
192 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:55:26.32 ID:stzXCINl0
――――――
商人(よし・・・体は回復した、あとは隙さえあれば)
勇者は、自身の婚約者に見惚れてか
体をくねらせ、見悶えている
商人(ありゃあ童貞だな・・・)
商人の見立てに誤りはなかった
勇者は若く、女に耐性が無かった
しかしそれは男なら、誰もが通る道
だからこそ、こと女性がらみにおいては何を考えているか読みやすい
しかし、勇者には年頃の男の子と違えることが一つだけあった
それは、その使命感とそれを達成するために自らを制する力を
勇者は人並み以上に備えていたのである
勇者「・・・」
その誤算が、徐々に表に出てくる
旅のさ中で貯めに溜め込んだリビドー、この時勇者はそれを再び手中に収めつつあった
勇者「よし、この話はここまでだ。俺は、侯爵家の娘さんと結婚する!」
勇者「だが、これ以上、奏上を邪魔されてはたまらん。冒険商人とその仲間たち、そこに侯爵家の御令嬢も含めたとしてもだ」
勇者「申し訳ないが、少し間眠っていてもらうぞ」
193 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:56:01.30 ID:stzXCINl0
しかし商人は、それを許さない
彼が見抜いた、勇者の思考回路、羞恥心、プライド
全てを考慮した作戦を、このわずかな時間に練り上げた
商人「王者の剣!」
勇者「ん?」
突然の大声に、勇者が立ち止まる
商人「狂信者の錫杖」」
勇者「それが何だ?」
商人「運命の杖、奇跡の鎧!」
勇者「だから、それが何だって聞いてるんだよ!?」
賢者「・・・貴方たち勇者一行が、城内の宝物庫より盗み出した品ですよ」
勇者「盗み出したわけじゃない、平和のために使わせてもらっているだけだ!」
勇者の反応を意に介さず、商人は続ける
商人「世界樹の葉、大賢人のポーション、力の豆」
勇者「なんだ、何が言いたい」
騎士「王家秘蔵のワイン!それにブランデー!」
勇者「それは記憶にないぞ!」
賢者(流石、騎士さん強引に紛れ込ませた・・・)
商人「・・・」
勇者「気が済んだか?」
勇者「それじゃあ、終わりにしようか、冒険商人」
商人「『サルでもわかる 女の堕とし方講座 下巻』」
勇者「!」
僧侶「勇者様、どういうことですか!?」
白目をむいていた僧侶が、商人の声に呼応するかの如く
跳ね起き、そして勇者に問いかける
194 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:57:03.15 ID:stzXCINl0
魔法使い「いつのまに・・・勇者最低・・・」
勇者「ち、違う、あれは戦士が」
戦士「・・・い、いや、その」
勇者、戦士、その両方の目が泳いでいる
心当たりがあるのは誰の目にも明らかであった
商人「そして」
商人「 『名画 裸婦画集 上下巻』 」
遊び人「あらまあ///」
僧侶「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!」
魔法使い「 最低! 最低! 最低! 」
勇者「ちょちちちち違う!それは本当に知らないマジで知らない!」
勇者「俺じゃない俺じゃないんだ!・・・そうだ」
勇者「戦士、お前だろ!正直に言ってくれ!」
戦士「・・・」
勇者「戦士!」
騎士「・・・勇者くん、待ちなさい」
195 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:57:56.71 ID:stzXCINl0
勇者「いやだから、違うって!戦士、正直に言ってくれよ!」
騎士「なにも恥ずかしがることはない、若い男の子ならその衝動を抑えられない時もあるさ」
戦士「!?」
勇者「ち、違う・・・違うんだ・・・」
騎士「それに、戦士くんはこう見えて奥さんも子供もいる既婚者だ」
戦士「 !!!??? 」
騎士「家庭を持ち落ち着いた戦士くん、まだ若くリビドーを持て余している勇者くん」
騎士「誰の目からも、犯人は明らかじゃないかな?」
勇者「た、ただの決めつけじゃないか!証拠は何もない!」
勇者「おい、戦士答えろ!答えてくれ戦士!」
戦士「・・・」
戦士「勇者がやりました」
勇者「 せんしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!! 」
商人「はい、隙あり」
ごおおおおおん
まるで戦いの終結を歓迎する鐘のような音が議場に響く
商人の魔力を吸って巨大化したソロバンが、勇者の脳天に直撃した音だ
商人「よくなる頭だな、中身空っぽなんじゃねえの?」
勇者「」
戦士「すまない勇者・・・お前が人類を守ることを宿命づけられたのと同様に」
戦士「俺は、どんな手段を使おうと幸せな家庭を守らなくてはならないんだ・・・」
戦士「他ならともかく・・・エロ本万引きはまずい・・・」
戦士の心からの懺悔である
しかし、その言葉は勇者には届かなかった
196 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:58:48.56 ID:stzXCINl0
――――――
商人「さあて、一仕事終わりだな」
王「その戦いぶり、久方ぶりに魅せられたぞ勇者補助係の諸君!」
騎士「へ、陛下・・・過分なお言葉にございます」
王「そう畏まるではない騎士よ・・・そういえば、約束であったの」
王「勇者を打倒した商人。貴君のその働きぶり、実に見事であった」
王「ゆえに貴君には、新たなる勇者の称号を与えよう」
商人「あ、ありがとうございます」
騎士「いやあ、思えぬ報酬貰っちゃったなあ」
賢者「陛下は退陣を要求されているんですよ、その称号もいつまで保つものか・・・」
商人「わかってるよ、ちょっとは浸らせてくれよ」
盗賊「納得いきません・・・勇者の称号は、商人さんには相応しくありません・・・」
商人「残念でしたー。物言いがあるなら、陛下に直接言うんだな」
騎士「さて、しかし大変なことになったねえ商人くん」
商人「何がです?」
騎士「いやあ、仕事の話だよ。今や君は、新しい勇者だ」
騎士「つまり補助係の業務と、勇者としての業務を兼務しなくてはいけないわけだ」
盗賊「兼務・・・仕事が増えるってことですか?」
197 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:59:15.66 ID:stzXCINl0
賢者「名誉職で、実務はないのでは」
遊び人「何を馬鹿なことを、勇者は大変な激務ですよ」
遊び人「なぜなら、勇者は世界に平和をもたらすのが仕事なんですから」
商人「なんだ、そんなもんか」
遊び人「そんなもんだ、とは何ですか!」
商人「なあに」
商人「それなら、これまでもやってきたことさ」
商人がシニカルに笑う
遊び人「はあ?」
遊び人「・・・なら、そうですね。うん」
遊び人「それでは早速、手始めに世界に平和をもたらしていただきましょうか」
商人「う、うん?」
198 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 15:59:50.92 ID:stzXCINl0
――――――
大臣「何をごちゃごちゃ言っている。騎士よ、貴様の仕事はまだ終わっていないぞ!」
大臣「早く勇者一行を議場から連れ出して、聴取にうつれ」
大臣「勇者の乱入で、どれだけ審議が遅れたことか。時間の浪費は、国民の血税の浪費に他ならないのだぞ!」
大臣「議長。審議の時間など必要ない、さっさと採決にうつれ!」
議長「最低限の審議は行わなくては、国民の理解が得られませぬぞ?」
大臣「それは、衆民院の理屈であろう。いまこの国が、どれだけの危機に瀕しているか」
大臣「短時間とは言え、それを理解できないものどもが審議などしたところで何になる」
大臣「だが、知識豊かな貴族院議員の皆と一部賢しい衆民院議員の一定の理解は得られよう。いまはそれで充分なのだ」
議長「しかし議会の運営は、議会によって・・・」
大臣「わからぬ男であるな、審議の時間がとれないのは私にとっても不利なことなのだ。だがそれを差し引いても、この動議を早急に通す必要があると言っている」
大臣「構わぬから採決にうつれ。偽の王を引きずりおろし、この国をあるべき姿に変えるのだ!」
遊び人「 おまちくださああああああああああああああああい 」
議長「 あ!? 」
大臣「邪魔をするな遊び人。貴様も議事進行を遅らすというなら牢屋にぶち込むぞ!」
遊び人「新勇者様の奏上にございます!」
大臣「は!?」
商人「え!?」
遊び人「議場に御集りの皆々様、お聞きください」
199 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:00:18.02 ID:stzXCINl0
遊び人「いま、この場には多くの疑問があるにも関わらず、拙速な議会進行を行うことはこの国のためになりましょうや」
遊び人「陛下の正体、前勇者が奏上を行ってまで私たちに伝えようとした何か、そして大臣が拙速な議会進行を求める理由」
賢者(あ、大臣を無理やり巻き込んだ感・・・)
遊び人「これらの真実をすべて明らかにするのは、この王国議会において他なりません!」
遊び人「そして新たな勇者の力は、その真実を明らかにする一助となることでしょう」
盗賊(もういっそ、遊び人さんがそのまま続ければいいのに)
遊び人「それでは、新勇者様!どうぞこちらに!」
商人(こんのロリばばああああああああああ)
商人(何さらしてくれとるんじゃわれえええええええええ)
遊び人(ほら勇者としての初仕事ですよ、手始めにこの国の未来を明るいものにしてみてください)
遊び人(なあに、これまでもやってきたんでしょう?これぐらい簡単ですよ)
商人(ぐぬぬ・・・)
商人の脳裏に、先ほどまで行われていた勇者の奏上が駆け巡る
商人(あんな無様な姿を晒すぐらいなら死んだほうがましだ)
だが一方で、社会人として、うまく立ち回り遂には勇者と言う地位にまでたどり着き
また、これまであらゆる局面をほぼ思いつきに近いアイディアで乗り越えてきた経験が商人を鼓舞する
商人(俺ならうまくやれる・・・俺は勇者とは違う)
不安と自信、二つの異なる心が商人の中で激しくぶつかり合う
商人(陛下にも大臣にもいい顔をしつつ、この動乱をうまく収めるような提言をする・・・?)
商人(俺なら、やれるか・・・いやでも・・・)
盗賊「商人さん!」
盗賊が心配そうに、声を投げかけてきた
「やめとけ」
盗賊の目が、商人にそう訴えかる
しかし後輩からの、それも社会人になって1年目の新人からの思いは逆効果であった
商人「なめんなよ新人如きが!やってやろうじゃあねえかあ!!」
200 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:00:45.99 ID:stzXCINl0
――――――
商人「皆様、まずは議場内をお騒がせして申し訳ありません。私は、勇者課勇者保護係の商人と申します」
商人「私共、勇者補助係の主要業務は、勇者の管理指導。その職責を以て議事進行を妨げる勇者の軽挙を止めさせていただきました」
商人「しかしながら、私もまた先ほど陛下の任命により勇者の名を冠するに至った者」
商人「ならば勇者としての責務を果たすことになんら躊躇はございません」
商人「この国に平和を導く一人の国民、いえ勇者として、陛下に申し上げたいことがございます」
王「ふふふ・・・面白い展開ではないか。なあ近衛兵長」
近衛兵長「・・・」
王「許す、好きに申してみるがよい!」
商人「ありがとうございます」
商人「まずは、陛下。先ほどの勇者の奏上、私共の指導不足もありその論点定まらず」
商人「結果として、見苦しい姿をお見せすることになりました。しかし、かの者もまたこの国の未来を憂う者」
商人「僅か4名で、各地の魔族を討伐し遂には魔王城まで到達したほどの男です」
商人「これまでの国への献身を考慮し、勇者の主張を今一度、確認したく思いますが如何でしょうか」
王「よろしい、許す」
商人「勇者よ、陛下のお許しが出た。お前の主張を端的に申し上げろ」
大臣(なんだこれは・・・これは奏上なんて物ではない・・・)
大臣(審議の真似事をするつもりか・・・?しかし、奏上と言われては止める術はない・・・)
奏上とは、本来であれば法律によって明文化された手続きに則って執り行われ
読み上げられる奏上文は、王家付きの奏上文官によって厳しく精査される
また奏上を行うことができる立場、役職も決められている
それは、かつて王が最大権力者であった時代、奏上が政治闘争の場として利用されることを防ぐために定められた法であった
先代の勇者の奏上は、それら一切の手続きを省いたものであり本来であれば大罪人として処断されてしかるものである
しかし、それを王自身が許してしまったが故に勇者の奏上は法に則らない
それこそ、制限のないものとなってしまっていた
201 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:01:13.55 ID:stzXCINl0
商人(だからこそ、なんでもやれる!本来の奏上とはかけ離れても、うまいこと回して乗り切ってみせる!)
大臣(商人の目的は何なんだ?何故この期に及んで、奏上なんかを始めてしまったのだ・・・)
大臣(いや、奴は賢しい。自身が誰の部下であるかは、忘れていまい・・・)
勇者「・・・」
商人によって一度は昏倒されたものも、勇者はすぐに目覚めていた
戦士たち同様に、縛り上げられこそしていたが、勇者の膂力をもってすれば縄を引きちぎることも容易であった
しかし、それをしなかったのは勇者が冷静さを取り戻しつつあったからである
勇者(俺は何で、あんなに興奮してしまっていたのだろう・・・奏上も台無しにされてしまった)
勇者(魔王から引き受けた仕事も半端のままじゃないか・・・)
その思いが故に、勇者は商人の問いかけに落ち着いて答えることができた
勇者「俺は・・・」
勇者「俺は、魔王との対話で魔族にも知性と礼節を持つ者があることを知った」
勇者「そして、王国内で魔族が安い給料で働かされていることもだ」
勇者「王都内の魔族は俺と同じだ。僅かな資金で、労働を強いられている」
勇者「ろくに資金も与えられず魔王討伐に送り出された俺と同じなんだ」
勇者「その姿に同情した。だから、彼らを救おうと思った・・・」
商人「ろくな資金も与えられず?」
勇者「俺たちが、旅立つ前に与えられた資金は僅か50Gだ」
大臣「・・・っち」
商人「はあ?それで、どうやって旅を、あの強行軍を成し遂げたというんだ?」
202 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:01:46.64 ID:stzXCINl0
勇者「野宿と、食料の現地調達で凌いだ」
商人(・・・まじかよ)
王都にまで届く勇者の冒険譚
その物語とは、大きくかけ離れた勇者の旅の真実に
商人のみならず議場に居る全ての人間が絶句していた
商人「み、みなさんお聞きになられましたとおり、勇者は困難な旅を成し遂げました」
商人「それでもなお、魔族の境遇に憐憫の情を抱く。とても優しい男なのです!」
商人「ぜひ、その寛大な心で勇者の申し上げたことに幾何かの心を傾けていただきたい」
商人「陛下!陛下は、魔族の低賃金労働について如何に思われますか?」
王「ふむ、残念ながら商人よ。魔族の賃金については、我が国の外交局通商部が魔王との合意の下で算定しておる」
王「行政府の管轄で、私には何ら権限は無い」
勇者「な、なんだって!じゃあ俺は何のために帰ってきたんだ!あの奏上は一体何だったんだ!」
魔法使い(あ、やっぱりわかってない)
戦士(奏上の名を借りて、議員たちに問題を認識してもらうって筋書きだったのを全く理解してない・・・)
王「まあ、その上で儂の意見を申すならば・・・」
王「『なんら問題は無い』である」
勇者「はあ!?」
王「魔王との合意は文書にもしてある。魔王も一度は合意したことなのだ」
王「それをいまさら、自身の都合で変えようなど外交を馬鹿にしている」
203 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:02:30.98 ID:stzXCINl0
王「それに加え、儂は王。この国の王である。寄り添うのは国民の利益にこそある」
王「何故いまさら、魔族に利することに加担せねばならんのだ」
勇者「くそっ、何が王だ!他人に思いやりの心を持たない、そのやり口!」
勇者「それこそ魔王の所業ではないか!」
王「・・・・ふふっ、魔王か。勇者よ、儂が魔王であると申すか」
近衛兵長「不敬であるぞ!勇者!」
商人(まずいまずいまずい、勇者にしゃべらせすぎた!これじゃあ、俺までとばっちりが及びかねん!)
商人「陛下の仰ること、尤もにございます!」
商人「ただ幾何か、かつて国を思い旅立ち、各地にて無法の魔族を討伐して歩いた彼に幾何かの温情をご期待申し上げるものにございます」
商人の顔は青ざめていた
口上が思いつかず、時間を稼ぐべく勇者に話をふったものの
勇者の不敬罪に問われかねない言動、それを導いた責任を指摘されかねないと思ったからだ
商人(勇者に話をふったのは失敗だった!話を逸らさなくては!)
商人はフルスピードで思考をかき回し、遂には勇者の言葉から次の話題を導き出すことに成功した
商人「しかしながら、先ほどの勇者の口上において。一つ不可解な点がございました」
商人「大臣、勇者が旅の支度金僅か50Gで旅立ったというのは事実でございますか?」
大臣「・・・貴様の質問に答える義務はない」
王「大臣。答えてやれ」
大臣「くっ・・・」
204 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:03:02.10 ID:stzXCINl0
大臣は、想像だにしていなかった
古来より勇者には、僅かな資金と頼りない装備を支給するのが慣例となっていた
それは、決して支出をケチっているわけではなく、勇者の旅の道中での成長を促す思いから生まれたものである
それ故に、勇者関連事業に巨額の予算がつくとは考えもしなかったのである
かねてより、自らが王座につきかつての王政の復古を目論んでいた大臣は一つの策を思いついた
多くの権力を議会や行政府に委譲した昨今でも、勇者の任命権は、王がもつ数少ない特権の一つである
例えその業務の執行を行政府が担ったとしても、王の任命責任は免れようがないほど重いものであった
勇者の失敗は、それすなわち王の失敗
大臣は、最初から勇者の旅の失敗を目論んでいたのである
そして保険として、行政府が勇者関連事業に誠実に取り組んでいることを見せるために
勇者の出立後に、僅か4名(内1名は新人)から成る勇者課勇者補助係が立ち上げられたのであった
更に言えば、古来よりの慣例であることを理由にすれば
勇者からの不平を封じ、慣例に不慣れな衆民院議員の関心も忌避できる
誰からも、関心を持たれなければ問題が発覚することはまずありえない
不明瞭な予算の執行を指摘されずに乗り切れる自信が大臣にはあった
そして、本来勇者関連事業に使われるべきであった巨額の資金は
王側に近い衆民院議員の切り崩しのためにばらまかれたのである
すなわち王の力をそぎ、自らの力をます一石二鳥の一計であった
大臣「・・・」
大臣「申し訳ないが、急に質問されても困るのだ商人よ・・・」
大臣「財務局に問い合わせ、どのように予算管理がなされていたかを確認しないことには正確な答弁はできん」
大臣「ただ私の記憶だと、勇者はかねてより僅かな資金で国を立つという慣例があったと記憶している」
勇者「魔王ならわかる!俺は、俺たちにわたるはずの金がどこかに流れてるって話を魔王から聞いたんだ!」
大臣「愚か者が!魔王なんぞに籠絡されおって、そんな何の根拠もない話を貴様は鵜呑みにしたのか!?」
勇者「魔王なら!魔王なら・・・わかるんだ!」
王「ふむ、では呼んでみるか」
大臣「陛下、一体何を仰るのですか・・・!?」
王が錫杖を構え、議場中央の壇上に向けて呪文を唱える
王「 召喚魔法 」
王「 魔の者よ我が召喚に応じよ !」
演壇を中心とした魔法陣が、光を放つ
205 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:03:29.27 ID:stzXCINl0
――――――
魔王「側近ー、今日の晩御飯はアレがいいな」
側近「はいはいハンバーグですね、料理長に申し付けておきます」
大臣「は」
商人「へ」
魔王「ん・・・?」
側近「え、え、え、あれ?ここどこ?」
王「・・・魔王だけを呼んだつもりだったが、余計なものまで付いてきおったわ」
魔王「あ、ああああああああああああああ!」
魔王「国王!それに大臣!お前ら、よくも儂に暗殺者なんかよこしやがったな!」
王「・・・あ、ああ、その話はあとじゃ」
壇上に突如現れた魔王に、多くの議員が戸惑う中
勇者が、芋虫のように体をよじらせ魔王の傍まで這いずっていく
勇者「魔王!俺たちの金が、勝手に使われてるって話を証明してくれ!」
魔王「おお、勇者ではないか。なんで縛られているんだ・・・いや、それよりも奏上は終わったのか?」
勇者「ああ、魔族の労働問題についてはちゃんと王に伝えた。それより魔王!」
魔王「わかったわかった、何となくではあるが状況は理解した。」
魔王「よし、側近出してやれ」
206 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:03:56.23 ID:stzXCINl0
側近「はい、召喚魔法 出でよ魔法のキャビネット」
演壇脇に、王の作り出したものより遥かに小さい魔法陣が形成され
光り輝く陣の中から、キャビネットが浮かび上がる
側近がキャビネットに近づき、引き出しをあけいくつかの書類を取り出した
側近「えーはい、こちらですね。魔王様」
魔王「うむ・・・よおく聞け人間ども、今我が手に握られている紙は王国の補正予算案」
魔王「それも勇者関連事業に関するものである!」
魔王「ここには勇者関連事業に5000万Gもの巨額の予算が組まれていることが書かれている!」
魔王「そしてこちらの用紙には、その決済の領収書がとりまとめてある!」
大臣「な!?何故貴様がそのようなものを持って居る!?」
魔王「領収を精査したところ、その予算の大部分が大臣所縁の商会に支払われているな、それも使途が曖昧で領収の体を為していない!」
大臣「わ、わかったぞ!貴様、何かしらの違法行為に手を染めたな!」
大臣「どのような改竄が為されているかも知れぬ!そんなもの証拠にはならんぞ」
側近「いえ、普通に窓口で資料請求したらもらえました」
大臣「この国の情報公開制度はどうなっているのだ!?情報出しすぎだろ!」
勇者「大臣!答えろ!俺たちの金、何に使った!」
大臣「くっ・・・私は知らん、何も知らんぞ!担当部署に問い合わせろ!」
商人(うわあ、藪蛇じゃねえか・・・これじゃあ大臣からも恨まれかねないぞ、というか絶対恨まれるだろこれ)
商人(いや、この調子だと大臣も失脚か・・・いやいやいや、大臣の政治力なら乗り切る可能性も捨てきれない!)
商人(よし!話を逸らしたうえで、バランスをとろう!)
207 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:04:24.00 ID:stzXCINl0
商人「みなさま!私の奏上は、まだ半ばにございます!」
魔王「え、誰だあいつ?」
勇者「新しい勇者だ・・・」
魔王「はあ?」
商人「奏上中ですぞ、お静かに願います!」
魔王「む・・・すまぬ」
商人「それでは勇者関連予算の使途不明金については、以後精査がなされることを期待するものにございます!」
商人「最期に陛下御自身にお尋ねしたいことがございます」
王「・・・続けよ」
商人「私は先日、魔王城より召喚魔法により王城に帰還し。宝物庫内の調査において、陛下のお姿に相違ない遺体を発見いたしました」
商人「お答えいただきたい!彼の者は、何者でありましょうや!?」
王「・・・」
しばしの沈黙の後、王は口を開く
王「彼の者は、かつてこの国を治めていた王」
王「そう自身の懐を温めることにのみ注力していた愚王その者である」
商人「で、では!?陛下は、神話の時代よりこの国を治めてきた血族に連なるものでは無いのですか!?」
王「そうだ」
商人の問いかけに、王の口角が上がっていく
その表情は、笑顔を通り越し諧謔みすら帯びたものへと変わっていく
王「ふふふ・・・ふひっ」
王「 ふはははははははははははは !」
208 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:04:51.74 ID:stzXCINl0
王「我が名は『魔王』。かつては魔族を治めし者だ」
大臣「!?」
魔王「!?」
王「ふふふ笑えるではないか、そこに縛り上げられた勇者が何気なしに吐き出した戯言」
王「先ほど、私の事を魔王と呼んだな」
王「ふははははははは、つまり勇者ただ一人が、真実にたどり着いていたというわけだ」
勇者「・・・お前が、真の魔王だと!?」
王「いかんいかん、この言い方では語弊があるな。今や私は息子に職を譲った身、言うなれば元魔王」
魔王「ち、父上なのですか?」
魔王「そのお姿はいったい!?」
側近「先代勇者によって倒されたのでは!?」
魔王「それよりも父上!貴方は魔の者でありながら、魔族を虐げるようなマネをしていたということですか!?」
王「ははははは、悪く思うなよ魔王よ。いまや儂は人類の味方、魔族すら恐怖に陥れる儂は言わば『大魔王』である!」
魔王「あ、あくまめ!」
王「いや、悪魔じゃし」
王「よろしい、せっかく役者もそろっておる。皆に真実を聞かせてやろう」
209 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:05:19.36 ID:stzXCINl0
〜〜〜〜〜〜
魔王「人の営みは面白い、できればずっと眺めていたい」
勇者「ならなぜ、魔族は人々に害をなす?人と寄り添う道だってあろう!」
魔王「我々は人とのコミュニケーションの取り方を知らなかったんだ」
魔王「魔族とは互いの力をぶつけ合うことで、お互いを知り信頼を得る」
魔王「人のように言語を使用しての接触を会得していないのだ」
魔王「言語を解する私は、魔族からしてみれば突然変異なのだよ」
勇者「よくそれで魔族の統治ができていたものだな」
魔王「統治など、ほとんどできておらぬ。この強大な魔力をもって無駄な争いが起きぬようコントロールするのがやっとだ」
魔王「まあ、それでも。貴様ら人間には多大な迷惑をかけているようだがな」
魔王「だが、一部魔族には知性と呼ぶべきものが生まれつつある」
魔王「今後は、そのような新世代の魔物達がぞくぞくと生まれてくるであろう」
魔王「そうなれば、人と魔族との調和の兆しが見えてくるかもしれぬ」
勇者「・・・」
魔王「どうした?私を打倒すのではないの?」
勇者「気が変わった、お前は魔族にとって必要な存在だ。殺すわけには行かない」
勇者「お前なら、魔族を新しい道に導けるかもしれない」
魔王「ふむ、残念だが。それは断る」
魔王「私も、もう疲れたのだ。そろそろ隠居したいと思っていた」
210 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:05:54.78 ID:stzXCINl0
勇者「だめだ。王無くして、国は統治できない。魔族には魔王が必要だ」
魔王「魔王の座は、我が息子に譲る」
魔王「我が息子は、新世代の中でも特出して言語の習得が早い。それに人間の文化に非常に興味を抱いておるから、人間に対して悪いようにはせんだろう」
魔王「それに奴は、私に匹敵するほどの魔力を有しておる。魔族共をうまく抑えることもできるであろう」
勇者「貴様の息子、信頼してもいいのか?」
魔王「奴は私以上に人間よりだよ。私には、いまだ旧世代の魔族の血が流れている。時折な、何もかも破壊してしまえと血が騒ぐのだよ」
魔王「しかし、我が息子であれば大丈夫だろう」
勇者「だが、若き王では旧世代の魔族をコントロールしきれないのでは?それで人類に被害が及ぶなら、俺は勇者として見過ごせない」
魔王「なれば、力の強い魔族、それこそ人々の集落を攻め滅ぼすほどの力を持つ者たちを魔王城に集めよう」
魔王「そのうえで、魔王城ごと封印するのだ」
魔王「いつかは破られるであろうが、まあ時間は稼げるだろう」
魔王「その間に、魔族は大いに学ぶであろうよ。貴様ら人間の事を」
勇者「それで、貴様はどうする?」
魔王「言ったろう隠居すると。人の街に居を構え、人の営みを眺めながら余生を過ごすさ」
魔王「だが、貴様の立場上それを許すわけにもいくまい?」
勇者「人に危害を加えないというのなら、手を下す必要はないが?」
魔王「国王の命を受けてここにきているのだろう。ならば貴様は何らかの成果を国に示さなくてはならない」
魔王「我が首持っていくがよい」
勇者「・・・人の話を聞いていなかったのか」
魔王「安心しろ、私が作り出した精巧な分身の首だ」
勇者「死んだふりか・・・だが、王国を欺くことは難しいぞ」
魔王「なれば、徹底して隠匿を図ろう」
勇者「具体的には?」
魔王「王国だけではなく、我が魔族たちをも欺くのだ」
勇者「息子にも黙って行くつもりか・・・」
魔王「なに、魔族の寿命は長い。いつかはまた、会えるであろうよ」
211 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:06:22.87 ID:stzXCINl0
〜〜〜〜〜〜
勇者「魔王、魔王はいるか?」
魔王「おお、勇者ではないか久しいな。我が新居を見てみろ、人の作った調度品を揃えてみた。なかなかに洒落ておるであろう」
勇者「む・・・俺は、そういうのはよくわからん」
魔王「残念な奴だな。で、何か用が会ってきたのではないのか?」
勇者「お前に相談したいことがある・・・」
魔王「話してみろ」
勇者「俺が、お前を倒す為に旅をしている間に国王が崩御した」
勇者「いまは、新しい王が国を治めているが・・・あまり良い王ではない」
魔王「ふむ・・・噂は聞いている。税が増え、国民が飢えているらしいではないか」
勇者「俺は、いまから国王に苦言を呈しに行く。だがあの王の事だ、聞き入れてはもらえないであろう」
勇者「俺は勇者だ、人々の安寧を守る責任がある。なのに俺は、その術を持たない・・・」
勇者「俺が持っているのは圧倒的武力ぐらい・・・頼む魔王、知恵を貸してくれ」
魔王「それだけ人の世を思うなら、貴様が王になればよい」
勇者「馬鹿を言うな・・・王は神話の時代より続く正統な血筋でなければ勤まらん」
勇者「血筋だけの問題ではない、俺には人々を統べる力はない」
魔王「血筋か・・・人間どもは何とも下らないものに縛られておるな」
勇者「いや、おまえんちも息子が魔王やってるじゃないか」
魔王「まあ、そうなんだけど」
212 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:06:54.76 ID:stzXCINl0
魔王「そうだな・・・では王になりすますか」
勇者「なりすます?」
魔王「つまり、王を殺し・・・入れ替わる・・・」
勇者「・・・」
魔王「ほお、闘争を嫌う貴様なら怒り狂うと思ったが・・・それほどに酷い王なのか」
勇者「魔王・・・魔族を治めていたお前なら、この国を治めることも・・・」
魔王「私は、隠居した身なのだが」
勇者「頼む!対価はいくらでも支払う!」
魔王「そこまで信頼されても困るな。私は人の統治などしたことないからな」
魔王「それに、旧世代の魔族の血が突然騒いで大問題を引き起こすやもしれんぞ?」
勇者「俺が、付き添おう。俺を側においてくれれば、可能な限りサポートをする」
魔王「万が一ばれるたら国に大混乱をもたらすぞ」
魔王「勇者が、それに加担したとなればなおさらだ」
勇者「ならば俺も顔を変えよう・・・元には戻れなくなるが、究極の変化魔法を使えば可能だ」
魔王「家族や友人を捨てるつもりか?」
勇者「この国の現状を思えば、芥程の後悔もない」
魔王「ふむ、それほどの覚悟か・・・よかろう、長い余生だ。人間の王ぐらいやってやろう」
魔王「・・・対価はいくらでも支払うと言ったな」
勇者「ああ、俺が払える限りでだが」
魔王「ならば、貴様には私の余生に付き合ってもらおう。互いに家族や友を捨てた身、新たな友を得るのは良いことであろう」
勇者「・・・ああ!それぐらいなんてことはない!」
魔王「ふむ、しかし人間の寿命は短すぎる・・・お前の体、すこしいじらせてもらうぞ」
勇者「?」
魔王「なに、魔族寄りの体に改造して。ちいっとだけ寿命を延ばすのさ」
〜〜〜〜〜〜
213 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:07:21.46 ID:stzXCINl0
――――――
大臣「大魔王!貴様が兄王を殺した張本人か!」
王「ははははは、その通りだ大臣」
王「正体を明かした以上、取り繕う必要は無いか」
王の体が、闇のオーラに包まれ
角が生え、羽根が生え、肌の色は浅黒く染まり
その姿はみるみるうちに、魔族のそれへと変貌を遂げていく
大魔王「さあ人間どもよ、我が名は大魔王。人間の王を暗殺せし者よ!」
大臣「こ、殺せ!近衛兵長!大魔王を殺すのだ!」
近衛兵長「友は殺せぬ」
大臣「何を言っている!やつは王殺しの男ぞ!」
近衛兵長「我が真の名は勇者。大魔王と友情を交わし、共に王を殺したものだ!」
大臣「先代勇者か!陛下の怒りを買い姿を隠したとばかり思っていたが、こんなところに隠れていようとは!」
魔王「大魔王!息子である私すら殺そうとしたのか、そうなのだな!」
大魔王「あははははは、なあに現に貴様は生きているではないか」
魔王「許さぬ、もう父とは思わんぞ!極大闇魔法 ダークネス」
近衛兵長「極大光魔法 シャイニング!」
214 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:07:47.73 ID:stzXCINl0
商人「ほら、勇者御一行様。お前らも行ってこい」
商人が勇者の縄をほどく
勇者「俺たちの拘束を解いてもいいのか・・・?」
商人「お前たち以外の誰が、あの化け物同士の戦いを止められるというんだ?」
商人「悪いが、俺に期待されても困るぜ。もうお前との戦いで体力もすっからかんだ」
勇者「そうか、そうだな・・・俺ももっと暴れたい気分だったんだ」
勇者「魔王と大魔王の戦いを止めるか・・・!面白そうじゃねえか!」
勇者「おい、みんな準備は良いか!?」
騎士達によって、拘束を解かれた戦士、魔法使い、僧侶が勇者に駆け寄る
戦士「もちろんだ、勇者!」
魔法使い「大魔王と戦うなんて、ようやく勇者一行らしい仕事じゃない」
僧侶「あんなやつぶん殴ってやりましょう!」
勇者「よし!いくぞ!」
勇者「大臣!かくごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
戦士「ば、ばか!そっちじゃねえ!!」
215 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:08:46.01 ID:stzXCINl0
極大魔法の応酬に、加えて勇者の乱入は賢者の形成した氷壁すらあっさりと打ち砕き
魔力同士のぶつかり合いから生じる衝撃によって議場内に強風が吹き荒れる、議員たちは我一番と席を立ち
もはや、議場は正常に機能せず大混乱に陥ってしまった
大魔王「ふはははははは、せっかくの余生だ。殺されてはたまらぬ!逃げるぞ先代勇者!」
魔王「ほざけ、そんなの許すわけが無かろう。冥途に送ってくれるわ!」
近衛兵長「大臣、貴様は前から気に食わなかったんだ!最後に一発だけぶん殴らせろ!」
大臣「こっちの台詞じゃ、先代勇者!」
勇者「戦士!さっきはよくも裏切ってくれたな!」
戦士「お、俺にだって家族がいるんだ!それより大魔王をどうにかしろ!」
僧侶「勇者様!私と言うものがありながら、遊び人なんかに籠絡されて!この浮気者!」
魔法使い「ちょっと、あんた達いい加減にしなさい!敵は大魔王でしょう!」
議長「閉会!ひとまず議会を閉会とする!議員諸君は、早急に退避!へいかあああああああああああああああああああああああい!」
216 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:09:12.87 ID:stzXCINl0
騎士「ありゃりゃ、これじゃあ大臣の緊急動議もご破算だなあ」
賢者「もしかして、これを最初から計算していたんですか?」
商人「まさか・・・成り行きに身を任せただけさ」
盗賊「・・・どういうことです?」
遊び人「結果として、商人さんは大臣の不正、国王の正体を明らかにし。そのうえ、国民の政治参加の要である衆民院議会を守ったということですわ」
遊び人「私としては、奏上を使ってうまくまとめ上げてほしかったのですけど・・・」
商人「無茶言うなよ、あんな急に振られてそんな真似できるか。こっちは恥を晒さないようやるのだけで必死だったんだ」
賢者「まあ、この大混乱じゃあ商人君の奏上なんてみんな忘れてしまうでしょうしねえ・・・ん、ああこれも計算ずくですか」
盗賊「まさか、勇者の拘束をといて混乱を加速させたのも・・・この大混乱を引き起こすため?」
商人「さあ、どうだろうな」
商人「で、どうよ遊び人ちゃん、盗賊ちゃん。君たち憧れの新しい勇者様の初仕事は?」
盗賊「ぎりぎり可」
遊び人「落第点」
商人「そっかあ・・・」
商人「勇者になるってのは、難しいなあ・・・」
217 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:09:39.47 ID:stzXCINl0
――――――
あれから半年
この国は、一時大混乱に陥ったものの
少しずつ平静を取り戻しつつあります
勇者様と魔王の力をもってしても、大魔王と先代勇者様のタッグは強力で
その逃亡を阻止することは敵いませんでした
ただあの日の言いぶりから考えると、どうも王都に姿をかえて潜んでいるような気がしてなりません
まあ、極悪非道の人たちというわけでもなさそうですし、のんびりと人々の生活を並べて将棋でも指しているんじゃないでしょうか
大臣は、逃れようのない証拠が揃っていたため
あっさりと罷免されたうえに、業務上横領、贈賄の罪で起訴
同時に、自身に権力を集中しようとした緊急動議は審議不十分のままお蔵入りとなりました
ただ噂だと、王国の政治改革に尽力した功績を背景に特赦を求める貴族院議員が多く
実際、大臣がどうなるかは未だわからないいう話だそうです
きっとあの人の事だから、また政治的工作を企むだろうけど
裁判と言えば、勇者様一行は、やはり背任の罪で起訴されました
ただ、宿屋も借りられず、野草を食べて飢えをしのいでいたりとその凄惨な旅路に絶句した裁判所が
情状酌量の余地ありと言うことで、勇者の名をはく奪されたうえで猶予付きの判決になるそうです
それに、その絶大な力を野に放つわけには行かないということで
全員、然るべき行政部署にて雇い入れることが決まりました
一部、貴族院議員の中から犯罪者を雇い入れるのかという声もありましたが
役人や政治家から嫌われているのとは裏腹に、各地で魔族を遊撃して回っていた勇者様は民から絶大の人気を得ており
衆民院からの後押しで、事なきを得ました
218 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:10:08.51 ID:stzXCINl0
あ、ちなみに私の実父
義賊は、案の定脱獄を果たしていました
王城警護の近衛兵が、議場に集まったあの日に決行したようです
相変わらず悪運の強い人です
国王の座は、いまだ空席のままです
暗殺された愚王、収監されている大臣共に、子を持たず王家の血筋が途絶えてしまったからです
そのため現在、議会によって王政廃止の手続きが進められています
とはいっても、大魔王によって王の特権のほとんどは既に議会や行政府に委譲されていたため
国政の在り方が、大きく変わるということにはならないようです
新しい行政府長、すなわち大臣は
名門貴族である侯爵家の力と
あと言いにくいですけど・・・・年功序列的に最適だろうという運びになり
なんと、遊び人さんが
議会の信任を得る形でに就任されました
ただ遊び人さんとしては、さっさと引退したいらしく
今は、超法規的に行われたこの議会の信任による大臣の選出を前例にし
以後も同様の手続きがとれるよう、法整備を進めています
私たち勇者課勇者補助係はというと
組織図的に大臣直轄の唯一の組織と言う理由で、遊び人さんにこきつかわれています
賢者さんは相変わらず有能で、大臣付き次官に任命され大臣をサポートしています
騎士さんは、元部下である賢者さんに追い越されたことですこし複雑な心境のようです
ただ賢者さんも負い目からか、騎士さんへは特に気を回してくれていて
結果として仕事がスムーズに進んでいます
219 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:10:35.45 ID:stzXCINl0
そして
新しく勇者となった商人さんは・・・
商人「ぐえー、頭痛が痛いいいいいいい」
盗賊「まったく、始業時間ギリギリですよ。なにやってるんですか!」
商人「んなこと言ったって、勇者ってのは彼方此方に御呼ばれするんだよおお」
商人「昨日も、遊び人と一緒に北の商会のパーティーで笑顔を振りまいてきたんだぞ」
騎士「まあ、それも勇者の仕事と思ってあきらめなさい」
商人「騎士さんー、午前中だけでも休ませてもらえないでしょうか・・・」
騎士「だめ。事務仕事も溜まっているんだ、これだって立派な勇者の仕事だ」
商人「勇者になっても、事務仕事からは逃れられないのか・・・」
賢者「ただ酒がたらふく飲めると思って耐えてください」
商人さんは、偽りの王からの拝命ということで
一度は勇者の称号を取り消されたものの
結果として、議会の進行を妨げた前勇者を抑え
不正を行った大臣を退陣に追いやり、偽りの王の自白を引き出した功績から
議会によって新設された『勇者叙勲』を受け
一役人でありながら、勇者の名を冠するに至りました
220 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:12:18.54 ID:stzXCINl0
商人「あれ・・・そういえば遊び人は?」
騎士「商人君、ちゃんと敬意を以て大臣と呼びなさい。彼女は今や私たちの上司なんだから」
商人「へーい」
遊び人「みなさん、おはようございまーす」
盗賊「あ、大臣!もう始業時間過ぎていますよ!何考えているんですか!?」
遊び人「申し訳ありません。昨晩、ちょっと盛り上がりすぎちゃって・・・つい、朝まで」
賢者「まったく、自分の立場を弁えてください」
商人「というか、約束通り勇者と結婚してさっさと寿退職してしまえばよかったのに」
騎士「こらこら、いま大臣にやめられたら私たちが困るんだからね」
遊び人「だれが、あんなへなちょこ勇者と結婚するものですか。あんな婚約、破棄ですわ破棄!」
商人「そんなこと言ってると、売れ残りますよ。いや、年齢的に既に売れ残りか」
商人「あ・・・」
盗賊「・・・」
賢者「・・・」
騎士「・・・」
遊び人「・・・」
遊び人「そういえば、商人さん・・・」
商人「は、はい・・・」
遊び人「昨晩は、お互い楽しみましたわね!」
商人「な!?いやいやいや誤解を招く!その言い方は誤解を招きます大臣閣下!」
盗賊「」
賢者「うわあ・・・」
騎士「く、くわばらくわばら」
盗賊「こんの、はれんちおとこめええええええええええええええええ!!!」
221 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:13:02.65 ID:stzXCINl0
「 勇者様!もう勘弁なりません! 」
222 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:13:29.92 ID:stzXCINl0
――――――
おわり
223 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/09(火) 16:14:18.69 ID:stzXCINl0
ご指摘いただいた点は、今後のSSに生かしていきます
ご意見ご感想お待ちしております
224 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/09(火) 17:37:57.14 ID:HwnVh/pIO
乙姫
225 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/09(火) 19:06:52.83 ID:FFCiimAl0
見事な大団円
意見なんか下手に入れて面白くなくなっても嫌だわ
このまま一直線にお進み下さい、楽しめました
シリアス場面の誤字で思わず吹いてしまったのは内緒
226 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/09(火) 20:38:49.94 ID:B1N5bcJq0
乙
話の焦点が散らかってたのを、こじつけとキャラsageで無理矢理纏めた形になったのは残念かな。
とはいえ、話を引き延ばして、個々の要素を一つずつ丁寧に片付けるだけでもっと良くなると思う。
次回作に期待。
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/10(水) 16:38:19.69 ID:Nh6x0rARO
アニメ見てるかのようなテンポの良さだったし、何も文句はない。最後まで小気味良く楽しませてもらったので満足です。
228 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/10(水) 18:44:22.31 ID:+kVb4sEDO
乙乙乙
すごく面白かった
次回作も楽しみにしてます!
229 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2018/01/12(金) 21:33:39.55 ID:mM0X3jO10
ご感想ありがとうございます。
某所でぼっこぼこにされておりますが、次は皆を唸らせられるよう励みます。
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/12(金) 21:40:04.60 ID:4CCLSpn50
上がってたのでなんとなく開いたけど
某所ってエレ速でしょ?ww
あそこは初めの1〜2コメが批判しだしたら全員で批判しだす変な所だから気にしたら負け
マウントとりたいだけの連中しかいないから
自分はほんと、楽しくよめたし落語の方も楽しませていただいたので
やりたいようにやられて下さい、次回作もお待ちしてます
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/13(土) 01:22:02.99 ID:VhEFpckA0
不満言ってる人に満足いくラスト聞いたら唸ってくれるよ
232 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/13(土) 07:30:40.86 ID:msW7jUE0o
まとめで暴れてる奴らなんてどうせ「作品叩く俺かっけー」なキッズなんだろ
そんなバカは何やっても文句しか言わないんだから無視でおk
233 :
◆CItYBDS.l2
[sage]:2018/01/13(土) 22:12:38.96 ID:L15V/dgJ0
一つ学んだことは、展開ありきで話をつくるとキャラが定まらないということですね。
単発ならそれでも問題ないですけど、話が長くなると齟齬が出てしまう。
次は、キャラクターを練ってからやってみます。
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/19(金) 04:06:19.43 ID:6Hu9E19e0
完結おつです!
前作同士の繋がりがすごくて読んでて楽しかったです!
次回作も楽しみに待ってます!
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/21(日) 22:48:42.30 ID:oMMLrsvoO
誰が何と言おうと面白かった、ありがとう
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