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盗賊「勇者様!もう勘弁なりません!」
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12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/05(日) 23:12:59.70 ID:TL58rE9NO
一番の問題は国家そのものだったと彼らが気付く日は来るのか、期待
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/11/06(月) 01:17:27.48 ID:fsPfWJWf0
>>11
特権なんぞ与えたら、それを行使した勇者一行に批判が集中する。それを回避して押し付けるためのクッション課がこいつらなんだよ。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 08:11:47.20 ID:fhVrAcSp0
査問と、サモンが架かってんのかw
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 17:08:55.37 ID:n+OEwMurO
>>13
民衆とか勇者とかに特権の存在を隠しときゃ良くね?
伝説の剣なんて王命使ってでも勇者に渡さないといけない代物だし。
結局は上の杜撰さが原因というね。
16 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:52:41.91 ID:1/6b/enLo
――――――
第一章
騎士「縁故採用はほどほどに!」
――――――
17 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:53:08.14 ID:1/6b/enLo
光が収まり、4人に視界が戻る
大臣「よくぞ、戻った諸君」
高く、筋の通った鼻、あご一杯に蓄えられた白いひげ
齢60を超えてなお、年齢を感じさせられない力強い声
行政府の長にして、4人の直属の上司である大臣そのひとである
騎士「ひぃっ!だだだだ大臣!ご機嫌麗しゅうごごごご」
盗賊「え?ここは、王城・・・?どういうことですか?何が起こったんですか?」
賢者「召喚魔法ですよ盗賊ちゃん」
商人「召喚魔法?なんじゃそりゃ」
賢者「貴方も知らないんですか。まあ、召喚魔法が行使される機会なんて滅多にないですし、知らなくて当然か」
賢者「召喚魔法は、その名の通り支配下にあるものを強制的に召喚する魔法です」
騎士「し、召喚魔法は王国議会か行政の長である大臣の承認がないと使えない・・・つまり」
商人「俺たちは大臣に呼び戻されたってわけか」
大臣は4人のやり取りを、黙ってみていた
もともと厳格な人間ではあるが、そこには普段以上の剣呑な雰囲気を漂わせている
大臣「お勉強は、それぐらいでよろしいかな君たち」
18 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:53:34.48 ID:1/6b/enLo
騎士「はっ!し、失礼しました」
大臣「さて、早速だが要件を伝えよう」
商人(勇者の離反の件だよな・・・ばれるの早すぎじゃないか?)
賢者(そうとは限りません・・・ま、まずは、話を聞いてみましょう)
大臣「実はな、昨晩、城内にある宝物庫が荒らされているのが見つかった」
大臣は続ける
大臣「昨晩と言ったが・・・実のところ賊が、いつ城内に侵入したのか不明なのだ」
賢者「つまり、発覚したのは昨晩ですが、犯行は更に以前に行われていたと・・・」
騎士は、大臣の様子から、勇者離反の件の叱責を受けることを予想していた
結果、思い過ごしであったことから、少し余裕を取り戻していた
騎士「それは城内を警備している近衛兵団も面目丸つぶれですね」
大臣「ふん、近衛兵団の無能共め。王の直属だからと言って調子に乗っていたんだろう」
盗賊(うわあ、辛辣・・・)
大臣「まあ、多少は考慮すべき事情もあるがな」
19 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:54:00.91 ID:1/6b/enLo
騎士「それで、その事件と私たちが呼び出されたのは関係があるんですか?」
大臣「うむ、それなのだ」
大臣「とにかく時間との勝負でな、詳細については省かせてもらうが、どうもこの事件」
大臣「勇者の関与が疑われる」
商人「ははあ、どおりで勇者の後始末部隊の俺たちが呼び出されるわけだ」
大臣「事態は急を要する。諸君らには、早速だが現場を抑えてもらう」
盗賊「そ、その前に大臣!ご報告したいことがあります!」
大臣「ん?」
商人(うわあああああ!こいつ!この良い子ちゃんっ!!!!勇者の件、ちくる気だ!!)
騎士(あ・・・終わった・・・妻よ、娘よすまない・・・お父さん無職になっちゃった・・・)
賢者(させませんっ!沈黙魔法 サイレントっ!)
盗賊「むっ・・・むぐぐ」グギギギギギギ
沈黙魔法、言葉の通り相手に沈黙を強いる魔法である
抵抗もむなしく、一言も声を発することができなくなった盗賊は商人を睨みつけている
保身のために、勇者の裏切りを隠蔽しようとする3人への怒り
その矛先は、ほぼすべて商人に向かったのだ
20 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:54:29.89 ID:1/6b/enLo
商人(うわあ!こっち睨んでる!魔法をかけたの俺じゃねえよ!ちょっと考えればわかるだろ!)
騎士「大臣、私から申し上げましょう!」
何が起こっているのか、ただ一人理解していない大臣は
その不審さに疑問を抱きながらも、騎士に答えた
大臣「こちらも急いでいる、手短に頼む・・・」
騎士「現在、勇者一行は魔王城内に侵入したことを確認しております!おそらく、魔王との最終決戦となっているでしょう」
騎士「我ら勇者補助係としても、すぐにでも勇者の援護に向かいたいと思います!」
大臣「そうであったか。そちらの、現状を把握していなかったのは申し訳ない」
大臣「だが、残念なことに呼び出してしまった以上、諸君らを魔王城に送り返す術は無い」
大臣「それこそ、伝説の勇者が用いたという転移魔法でも使わない限りはな」
大臣「仮に転移魔法が使えたとしても、今回の事件は最重要案件だ。最優先で取り掛かってもらう」
賢者(勇者と魔王の決戦、人類と魔族の頂上決戦以上に優先されることなんてあるんですか・・・?)
賢者の疑問を察してか、騎士が大臣に問いかけた
21 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:54:55.93 ID:1/6b/enLo
騎士「・・・理由をお聞かせ頂けますか?」
大臣「『ただただ職務に忠実たれ』、騎士である君が忘れたとは思わないが・・・?」
騎士がその教育の過程で、みっちり仕込まれる騎士三訓のひとつ
『ただただ職務に忠実たれ』
大臣が、騎士の疑問に答える必要はないという意思の表れであった
騎士「・・・なるほど、わかりました。では仕方ありませんね」
騎士「こちらの仕事を片付けてから再度、魔王城へ向けて出立します」
大臣「そうしてくれ」
騎士「とりあえず、現場に向かいますけど。仕事はどこですれば?できればデスクが欲しいんですけど・・・?」
勇者補助係は、発足以来このかた一つ所に留まることなく職責を果たしてきた
それゆえに、彼らは王城内に机を持っていなかったのだ
大臣「当然だな、よし現場の宝物庫にデスクを運び込ませよう」
商人「はい?宝物庫の中で仕事しろって言ってるんですか?」
大臣「説明している暇はない、必要なものはすべて用意する」
22 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:55:21.64 ID:1/6b/enLo
大臣「盗賊、君には私と騎士君たちの連絡役になってもらう」
大臣「辞令だ、現時点を持って大臣付き秘書官に任命する」
盗賊「え、あ、はい」
盗賊(あ、いつのまにか、魔法解けてた・・・)
騎士「ちょ、ちょっと大臣!タダでさえ人手不足なのに、いま盗賊さんを引き抜かれたら!」
常にオーバーワークに晒されてきていた騎士の必死の懇願である
しかし、その願いは大臣には届かない
むしろ話を遮られたことによって、大臣の顔がみるみる赤く赤く染まっていく
大臣「いい加減にしろ騎士っ!先ほどから、自身の立場も忘れ!口をはさみおって!」
大臣「時間がないと、何度言ったらわかるのだ!」
大臣「必要なものは全て用意すると言ったろう!人員は随時、補充する!」
上司の突然の叱責に、4人は圧倒され唖然としてしまっていた
その様子を感じ取った大臣は、再度、檄が飛ぶ
大臣「いつまで、だらだらしている!さっさと自分の仕事に取り掛からんかぁっ!」
騎士「はっはいっ!!!」
ひとり盗賊を残して、3人は回れ右で、場所も知らぬ宝物庫へと歩を進めた
賢者は、その明晰な頭脳で大臣の不審な態度について考えをめぐらせ
同様に商人は、その明晰ではない頭脳で事態の分析をはかろうとして
明晰ではないながらも自らの限界を悟り
とりあえず、考えることをやめた
23 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:55:50.30 ID:1/6b/enLo
――――――
騎士「ここが、そうなのか?」
近衛兵「・・・はい」
近衛兵の案内によって、3人は迷路のように入り組んだ王城の廊下を進み
遂に、宝物庫へとたどり着くことができた
赤く巨大な扉に閉ざされた、その部屋は
いかにも、大事なものが閉まってありますと自己主張するかの如く様相であった
商人「うむ、案内御苦労!というか、俺は宝物庫の場所は知ってたんだけどな」
賢者「酒保勤めだった商人君が、なんでまた宝物庫の場所なんて?」
商人「賢者、知らないのか?この宝物庫な王城で唯一、魔法で封印された部屋なんだぜ」
賢者「魔法で?それは、また厳重ですね」
商人「ああ、なんでも専用の魔法の鍵でしか開くことができないそうだ」
賢者「へえ、それはすごい」
商人「なんでも、王家に伝わる伝説の装備の数々が保管してあるとか」
24 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:56:17.51 ID:1/6b/enLo
商人「俺も噂で聞きつけてな、一回見学に来たことがあるんだよ」
賢者の知らないことを自身が知っていたせいか、商人は自慢げである
賢者「しかし、そうなると疑問ですね」
商人「なにがだ?」
賢者「だって、専用の魔法の鍵でしか開かないわけでしょ?」
賢者「当然、そのカギは担当部署もしくは、王自身が持っているわけですよね」
賢者「しかし、結果として宝物庫は暴かれてしまった」
賢者「まっさきに疑われるのは、鍵を持っていた人物では?」
商人「まあ、ここからは噂をもとに当時の俺が調べたことだ」
商人「この宝物庫を唯一開ける、魔法の鍵な」
商人「実は、数十年前から行方がわからなくなってるらしい」
賢者「あらら」
商人「というわけで、この大事な大事な宝物庫は王城の中でその名の通り開かずの間となっていた」
25 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:56:43.79 ID:1/6b/enLo
商人「というわけだ」
騎士「つまり、だれが魔法の鍵を持っていてもおかしくないってことだね」
賢者「へえ・・・そうだったんですか」
賢者「しかし、商人君。やけに詳しいですねえ・・・?噂をもとにそこまで調べ上げたんですか?」
騎士「まさか、忍び込もうなんて考えたわけじゃないよね?」
商人「ままま、まさか!興味本位ですよ騎士さん」
商人の狼狽ぶりは、その言葉とは裏腹に真実を雄弁に語っていた
賢者「なるほど。合点がいきました」
騎士「なにがだい?」
賢者「事件の発覚が遅れた理由ですよ。魔法で封印されているなら、常に近衛兵を配置する必要もないですからね」
騎士「なるほど、大臣の言っていた考慮すべき事項というのは、そのことか。近衛兵団も災難だったねえ」
近衛兵「では、我々は部屋の外におりますので」
賢者「ところで、中には誰もいないようですが?捜査は進んでいないのですか?」
26 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:57:10.39 ID:1/6b/enLo
近衛兵「はい・・・宝物庫の中に近衛兵が入ることは禁じられています」
商人「それまたどうして?」
近衛兵「城内に賊の侵入を許し、あまつさえそれに昨日まで気づかなかった我々に行政府は不信感を抱いています」
賢者(行政府が不信感・・・大臣がお怒りってことですね)
近衛兵の言葉に、騎士は大臣の叱責の様相を思い出し、近衛兵への同情を深めた
近衛兵「故に、この事件の捜査については行政府直轄の者を充てると・・・大臣からの要請で」
騎士「なるほど、本来ならばあなた方の管轄に我々が呼ばれたのは、そうした理由からか」
騎士「心中お察しする」
近衛兵「・・・」
騎士の同情からの言葉に、近衛兵は沈黙で答えた
賢者(勇者の関与については、大臣管轄の行政府で内々に処理したいということでしょうか?)
騎士(うーん、それはちょっと早計かな)
商人「では、失礼しまーす」
27 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:57:36.71 ID:1/6b/enLo
商人「さて、まずは何から始めましょうか」
騎士「まずは、現場をあらためよう」
賢者「・・・結構、広いですねここ。水道に、かまど、クローゼットにベッドまで置いてある・・・とても宝物庫とは思えない」
賢者の言葉通り、部屋には宝物庫とは思えないほど設備が充実している
騎士「いざというときには、王族のシェルターとして使う予定があったのかもな」
商人「お、宝箱はっけーん」
商人「・・・ま、当然カラか」
賢者「元から、カラだったのかもしれませんよ」
騎士「うん、もともと何が保管してあったのか知る必要があるね」
賢者「近衛兵さんに管理簿を持ってきてもらいましょうか」
騎士「そうだね、我々の最初の仕事は管理簿と現状を照らし合わせることから始めよう」
騎士「何が盗まれたかわからないと、仕事にならないしね」
近衛兵に声をかけようと、騎士が後ろを振り返える
しかし、そこにはあるはずの近衛兵の姿はない
あるのは、真っ赤な巨大な扉だけであった
いつの間に閉めたんだろう、疑問に思いながら騎士は扉に近づいた
商人「ん、どうしました騎士さん?」
騎士「宝物庫の扉が、開かない」
28 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:58:03.03 ID:1/6b/enLo
――――――
え?私が考える理想の勇者像かい?
そりゃあ何より、常に冷静で理性的にあることだな
勇者の伝説は、国民のほぼすべて老若男女が知っている
だから、どうしてもその一挙手一投足のすべてを人々は目で追ってしまう
まあ、言ってしまえば勇者にはプライベートってものがないわけだ
ちょっと同情しちゃうね
でも、そこは勇者だから致し方ない事さ
勇者には特権も一杯あるんだから、それぐらいは我慢してもらわないとね
おっと話がずれそうだ
そうそう、人々は常に勇者を見ている
もちろん、見ているだけじゃあ済まない
子供たちは、強く優しく何物も等しく救う勇者に憧れ
大人たちは、何物にも縛られず正義を貫く勇者の姿に自分自身を正す
つまり、人々は勇者の模範的な正義を
自らに取り込むことによって、更なる善性を得
そうして、できあがった社会倫理は親から子へ、子から孫へと受け継がれ
後の世をさらに良くしていく
いわば、正義のスパイラルさ
29 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:58:32.59 ID:1/6b/enLo
だからこそ、今代の勇者には怒りすら覚える
確かに、彼は彼なりの正義に基づいて行動している
しかしその、正義の執行の仕方がよくない
私たち、4人が、勇者補助係の私たちが
この一年で、どんな酷い目にあったことか
私の胃は、この一年間で酷く痛めつけられたんだよ
彼は、国を出て最初の関所でいきなり大問題を引き起こした
信じられるか?勇者は、たった子供二人を通す為に、関所の扉を魔法で打ち破ってしまったんだ
もちろん、然るべき理由があったことは推測できる
でもね、やり方が手荒すぎる
ちゃんと関所の人間と話し合って、お互い理解したうえで関所を超えるべきなんだ
たとえ、それに多少の時間がかかったとしてもだ
だけど、彼はそうしなかった
ただ感情的に、関所の人間と口論して
挙句の果てに、門を破った
それじゃあ、だめだ
人々の模範には成り得ない
だってそうだろ?
勇者のやり方を子供たちが覚えたら
自分のわがままを押し通す為に、暴力に頼ることになってしまう
うん、だからこそ私は思うんだ
勇者は常に理性的でなくちゃ
30 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:59:13.19 ID:1/6b/enLo
――――――
商人「・・・おらっ!どりゃあああああ!ごんがああああああ!・・・・開かない!」
商人「おいっ!近衛兵!扉の後ろにいるんだろっ!わかってるんだぞ!」
商人「おいおいおい!冗談で済むうちに、さっさと開けろ阿呆!」
商人の怒りようは尋常ではなかった
商人「そうか!開けないか!わかった!てめえ、覚えていやがれ!」
商人「俺が外に出た暁には!てめえの鼻に口に耳にへそに、けつの穴まで含めた全ての穴を栓でふたしてやるからな!」
賢者が扉に駆け寄り、扉の外にいるであろう近衛兵に呼びかける
賢者「おーい!近衛兵さーん!ちょっと外に出たいんですけど!」
返事はない
しかし、賢者は扉の後ろに人の気配があることを感じ取っていた
賢者は、扉の前であらゆる悪態を吐き出す商人を押しどけ、二度ほど扉を押してみる
そしてふと思いついたかのように、扉の隙間から外の様子をうかがった
賢者「いや・・・これ、外から閂がされてますよ・・・開かないわけだ」
商人「なんだと?おい!こら近衛兵っ!いい大人がイタズラか!?」
商人の悪態に根負けしたかのように、扉の外から声が届いた
31 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 18:59:41.13 ID:1/6b/enLo
近衛兵「・・・皆さんを、外に出すわけには参りません」
商人「はいー???」
近衛兵「陛下からの勅令です。宝物庫より何物も持ち出すことなかれ、と」
商人「馬鹿言ってんじゃねえぞ!俺たちは何も、くすねちゃいねえよ!」
宝物庫から何物も持ち出すことなかれ
賢者は、一瞬でその答えを導き出す
賢者「いや、そうではないです」
賢者「宝物庫から何物も、ということは宝物庫に入った私たちも・・・出すわけにはいかない、と」
商人「な?そんな理屈が通るか!」
騎士「近衛兵さん!冗談はよしてくれ!このままじゃ、仕事が進まないじゃないか!」
苛立ちからか、騎士の言葉も荒くなる
しかし、近衛兵からの返答は無かった
賢者「対話する気は無いようですね・・・」
商人「まじかよ」
騎士「・・・どうも、我々のあずかり知らぬ所で何か大きな事が起こっているようだね」
商人「くそっ・・・厄介なことになってきやがった」
商人は、まるで己が子をなでるがごとく、少し張ったお腹を優しくさする
そして、僅かではあるものの、しかし確かにそこにある便意を感じながら
自らに訪れるであろう少し先の不幸を慮ることしかできなかった
32 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 19:33:51.32 ID:1/6b/enLo
――――――
一方、大臣と盗賊の二人は長い長い廊下をゆっくりと歩いていた
盗賊「大臣、どちらに向かっているんですか?執務室とは逆方向ですが」
大臣「うむ、盗賊よ。貴様、隠していることがあるな?」
盗賊「・・・」
思い当たることはあった、勇者の裏切りの件である
先ほどは、大臣にまっさきに報告すべきと思ったものの
いざ大臣と二人きりになってしまうと、まるで告げ口をするような罪悪感に苛まれてしまっていた
大臣「答えぬか」
大臣は大仰にため息をついたものの、そこに怒りは感じられない
盗賊は察する。この人は全てを知ったうえで問いかけているのだ
自らが試されているということを
盗賊「・・・勇者が魔王軍に寝返りました」
大臣の頬がゆるむ
大臣「であるか。ふむ、盗賊よ貴様の忠誠心は未だ残っているようだな」
大臣「てっきり、自らの実父が囚われていることを忘れたのかと思うたぞ」
33 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 19:34:17.09 ID:1/6b/enLo
盗賊の父は、長きにわたって、その名に恥じぬ働きをしてきた
すなわち、盗人稼業に精を出してきたのである
しかし、年のためか遂には官憲によって捕まり王城地下牢獄に囚われるに至った
盗賊が、大臣のもとで粉骨砕身職務に励むのも、その父への恩赦を願っての事だった
盗賊「ご存知とは思いませなんだ」
大臣「勇者の監視役は、貴様だけではないということだ盗賊」
大臣「なに、隠す必要は無いのだ」
盗賊「・・・?」
大臣「今より、陛下に謁見し、貴様が見た勇者の顛末を語ってもらう」
盗賊「勇者の裏切りを・・・?陛下に直接ですか」
大臣「ああ、その通りだ。ただ一つ、注意してもらいたいことがあってな」
大臣「そこで、貴様の忠誠心をはからせてもらった」
盗賊「・・・何を隠して、何を伝えればよろしいですか」
大臣「ほお、察しが良くて助かる。一年間、き奴らに良い指導を受けたと見える」
大臣「よい役人になったではないか、盗賊よ」
盗賊「お褒めいただき光栄です」
大臣「言葉遣いも良い。陛下の前にも十分に出せそうだな」
大臣「話して良いのは、事の顛末だけだ。勇者が裏切った事実のみを伝えろ」
大臣「私ら・・・いや貴様らの仕事ぶりについては黙っていろ」
盗賊「わかりました。」
盗賊「ところで・・・」
一瞬、盗賊の目に殺気がやどる
大臣は、それを察しながらも意にも返さず答える
大臣「案ずるでない。もう少しなのだ、この件が片付けば必ず約束は守る」
34 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:50:34.07 ID:1/6b/enLo
――――――
王「そうか勇者が・・・」
王「まあ奴には奴なりの正義があるのだろう、致し方ないことだ」
盗賊の報告に、王は意外なほど冷静であった
大臣「勇者一行は、魔王軍の協力を得、王都に戻ってくるでしょう」
大臣「勇者が戻ってきたら最後、彼はその特権である陛下への奏上を行うことが予想されます」
勇者には、世界を平和へと導く行ううえで様々な特権が与えられている
王への奏上は、その最たるものの一つである
ひとたび、勇者の奏上が始まれば
何人たりとも、それを妨げることができない
この特権は、かつて己が財産を増やすことに邁進し政治を疎かにした王に
時の勇者が、その武力を誇示することなく対話により王を諫め
勇者の言葉に心打たれた王が、改心したことに由来する
大臣「勇者は、魔族の賃金是正を訴えることでしょう」
大臣「もし、奏上の内容が国民にしれれば・・・」
大臣「勇者の名声を鑑みるに、国民が勇者の考えに同調する可能性もございます」
大臣「そうなれば、民によって構成される衆民院の議員共も黙ってはいないでしょう」
王「魔族の賃金是正か・・・そもそもの今回の魔王討伐の発端はこれであったな」
大臣「魔王が悪いのです。もともと、この国の制度に基づいて労働力を提供を申し出たくせに」
大臣「それが、相場より安いと分かった途端。賃金是正の交渉を行うなど、言語道断でございます」
35 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:50:59.46 ID:1/6b/enLo
その言葉に、盗賊は耳を疑った
なぜならば、盗賊を含めた多くの国民は魔王を悪の根源と認識し
それを勇者が打倒すことで、平和が訪れると信じていたからである
大臣の言葉は、魔王にも魔族なりの道理があることを示唆していた
つまり、盗賊が信じていた勇者による平和のための戦いは
実のところ国家間の利益の奪い合い、すなわち戦争であったのだ
王「魔族すら救うか、傲慢ではあるが聞こえは良い。さもあらん」
大臣「ですので、陛下に置かれましては勇者を即刻、その任から解いていただきたく」
王「ふむ・・・」
王の歯切れの悪さに、大臣は明らかに苛立ちを見せていた
大臣「何を悩まれるのです!勇者が王国へ戻ってくるまで、半年もかかりますまい!」
大臣「陛下、いまのうちに先手を打ちましょう。勇者から、その奏上の権利を奪うのです!」
近衛兵長「大臣、口がすぎるぞ!いま貴様の目の前に、おわすは王陛下なるぞ!」
王の間の脇に控えていた、近衛兵長が敵意をまるだしに大臣へと歩み寄った
6尺にも及ぶ長身の近衛兵長が詰め寄るも、大臣は物怖じもせず続けた
大臣「なにを逡巡されているのですか、陛下!?」
王「のう、大臣よ」
36 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:51:26.53 ID:1/6b/enLo
王「儂は、国民がそう願うのなら身を引く覚悟はできておるのだ」
王「この国は儂がおらずとも回るよう儂自身の手によって作り替えた、そのための行政府や議会なのだ」
王「国民が勇者の志に供にし儂に退陣を求めるならば、それはこの国の国民が真に自立したことを意味する」
王「それは、儂も望むところなのだよ、大臣」
大臣「し、しかし陛下!私や陛下が居なくては国は回りませぬ」
近衛兵長「傲慢であるぞ!控えろ大臣よ!」
大臣「近衛風情が、口をはさむな!」
近衛兵長「ふん、陛下に異議を唱えるならば貴様自身の手で勇者を罷免すればよい!」
大臣「勇者の指名が陛下の専任事項であることは貴様も知っておろう!その解任もまた同様だ!」
近衛兵長「わかっている!だから口を出すなと言っているのだ!」
二人の応酬から、盗賊はそこにある確執を感じ取っていた
王直属である近衛兵団、行政の長である大臣、仕事を行ううえで
これまでも幾度となく両者はぶつかり合ってきたのであろう
しかし、それは両者の間に留まるだけのものであろうかと、盗賊はふと疑問に思った
近衛兵長は、王に最も近しい人物と目されている
その近衛兵長と大臣の対立は、言い換えれば陛下と大臣の対立に置き換えられるのではないだろうか
だとしたら、今の自分はどうなのだ
大臣の部下である、私や勇者補助係の皆は?
身の振り方を考えようにも、父の存在が、盗賊にそれを思いとどまらせるのであった
37 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:51:52.38 ID:1/6b/enLo
王「はっはっは、そのへんにしておけ二人とも」
王「勇者の件については、先に述べたとおりだ。これ以上の議論は必要あるまい」
大臣が苦虫を噛み潰したように顔をしかめる
大臣「承知いたしました。陛下・・・」
大臣「しかし、勇者が王都に嵐を巻き起こすことは必至。私は私の権限において、それを防ぐ手立てを講じます」
近衛兵長「何をする気だ?」
大臣「しれたこと。魔王軍に寝返った勇者を、王都にたどり着く前に迎撃する」
王「よいよい、好きにせい。軍の運用は行政府の管轄、儂に物言う権利はないは」
近衛兵団「しかし、勇者の力は人間による軍程度で止められるとは思えんがな」
大臣「ほう。ならば、王国でも勇者に劣らぬとされる貴様の兵を貸してくれても構わんのだぞ近衛兵長」
近衛兵長「ならぬな。我ら近衛兵団は、王の下を離れ職責を果たすことなどできぬ」
大臣「わかっておるさ。だから、口を出すなと言っておる」
先ほどの、近衛兵長の言葉を真似て大臣は逆襲を果たす
今度は、近衛兵長が苦虫を噛み潰す番となったようだ
大臣の顔には、少しの満足感が浮いて出ていた
38 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:52:20.79 ID:1/6b/enLo
王「ところで大臣、そこにおる盗賊は勇者課の一員であったな?今は、勇者課を離れ大臣付きの秘書官と聞いたが?」
突然の指名に、盗賊は驚き顔をあげた
大臣「はい、さようでございますが・・・?」
大臣(なんだ?なぜ盗賊に興味を抱く、何の意図をがあるんだ?)
王「ふむ、ということは勇者課に欠員がでたわけであるな?」
大臣(狙いは盗賊ではなく、勇者補助係のほうか・・・!)
大臣「はい、しかしすぐに人員を補充・・・」
大臣の言葉を遮り、王は続けた
王「実はな、かねてより我が友人の娘の就職先を頼まれておってな」
王「勇者課に欠員ができたなら、ぜひ、そこに置いてやってほしいのだ」
大臣「し、しかし、勇者課の仕事には専門的な知識と経験が必要になります!」
王「安心せい。優秀な娘であることは間違いない。儂のお墨付きだ、問題なかろう」
大臣「陛下!なにより勇者課は、行政府でも最たる過酷な仕事量を持っております!とても陛下のご友人のご息女を置くような場所では!」
大臣「別の部署にも空きはございます!是非、そちらに!」
王「いやいや、その娘はな、勇者に憧れと言うか、恋というか、そういった類のものを抱いておってな」
39 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:52:48.01 ID:1/6b/enLo
王「書類上だけでも、勇者に触れる機会がある場所に勤めたいと言うのだよ」
大臣「し、しかし!」
大臣の必死の抵抗に、王は業を煮やし、一気にまくし立てた
王「大臣、儂はその権力を行政府や議会に委譲したがな、それでも人事権の一部を行使する程度の力は残っておるのだよ」
王「だが、権力の乱用と言うのはどうも儂は苦手でのう」
王「まあ、大臣が駄目だと言うなら仕方ない。どれ、久方ぶりに権力を押し通してみるのも良いかと思うのだが、どう思う?」
大臣「・・・っ!畏まりました!陛下の仰る通りに・・・」
王「ははは、すまんな」
この日、盗賊は多くの役人がその経験から学ぶ一つの事柄を
僅かな時間から習得するにいたった
盗賊(権力者って恐ろしい・・・)
そう、権力者とは恐ろしいものなのである
40 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:53:14.61 ID:1/6b/enLo
――――――
近衛兵「皆さん、お届け物です」
商人「普通にドア開けるやがったな近衛兵・・・あんだけ開けろって言っても無視しやがったのに」
開かれた扉の向こうには、近衛兵が5名
いずれも屈強な肉体であることが、見て取れる
そして彼らは、部屋には一歩も入ろうとしない
近衛兵「出ることは叶わんが、入れる分には問題がない」
賢者「お届け物だと言いましたね?何を持ってきたんですか」
近衛兵「盗賊と言う娘が持ってきた。頼まれていた仕事机と、宝物庫の管理帳簿、それとメモだそうだ」
商人が扉に近寄り
部屋から出ることなく、近衛兵からメモを奪い取った
商人「どれどれ」
みなさんお疲れ様です!
先ほど頼まれた机と、あと必要だと思って宝物庫の管理簿もさらってきました
みなさんの状況は、近衛兵さんに伺いました。大臣にどうにかならないか相談してみます。
商人の横からメモを覗き込んでいた賢者がためいきをついた
賢者「さすが盗賊ちゃんですね、察しもいいし、何より仕事も早い」
商人「まったくの同意見だな」
騎士「ん、商人君。裏にも続いているぞ」
41 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:53:40.57 ID:1/6b/enLo
追伸
ひとつ忘れていました!追加の人員もお連れしましたので、仲良くしてあげてください!
騎士「・・・いくらなんでも仕事が早すぎないか」
賢者「大臣の手回しでしょ?さすがに、そこまでは盗賊ちゃんでも無理でしょう」
商人「で、追加の人員はどこに?」
商人の問いかけに、近衛兵の脇から一人の少女が飛び出し答えた
???「ここにいますわ!みなさん、初めまして!遊び人と申しますの!」
遊び人「よろしくお願いしますわ!」
騎士「」
商人「」
賢者「」
遊び人「あ、あれ?皆さん、どうしました?」
42 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/08(水) 22:54:06.93 ID:1/6b/enLo
――――――
第一章 騎士「縁故採用はほどほどに!」 完
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 22:29:52.77 ID:Kn+V4KdA0
バニーかな?
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/12(日) 02:03:37.07 ID:kQ+HlO3DO
乙
45 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:51:25.99 ID:A5nbTyvS0
――――――
第二章
賢者「し、死んでる・・・!」
――――――
46 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:51:55.91 ID:A5nbTyvS0
大臣「陛下の勅命で、宝物庫を閉鎖だと!?」
大臣の怒りの籠った声が、執務室に響いた
盗賊「はい、中にいる補助係の皆さんとは面会することすらできませんでした」
大臣「近衛兵を締め出し、なんとか直属の補助係で現場を抑えたというのに」
大臣「肝心の、宝物庫内部の情報を持ち出せないとは」
大臣「何が国民が望めば退陣するだ!しっかり隠蔽工作図ってるではないか、あの狸おやじめ!」
盗賊「・・・大臣、よろしければ。現在の状況を教えていただけないでしょうか」
大臣は、盗賊の言葉に一時怒りを忘れ頭を働かせ始める
以前より、大臣は信頼のおける部下というものを持たなかった
それは、彼が非常に優秀であり。そして完璧主義者であったからだ
部下にやらせるぐらいなら、自身でやったほうが質の高い仕事ができる
その自信は彼を周囲から孤立させるものとなったが、彼が意に介すことは無かった
しかし、ここにきて手駒の少なさを大臣は痛感する
信頼のおける仲間、志を同じくする者、情報の漏洩、裏切り
ありとあらゆる可能性を、目まぐるしく計算し
そして大臣は一つの答えを弾き出した
大臣「よかろう。貴様には、しっかり働いてもらわなねば困る。事の次第を知っていた方が、動きやすかろう」
大臣「ただし、貴様の父のこと忘れるでないぞ。これは、貴様のこれまでの仕事ぶりを信頼してのものだと知れ」
大臣の結論は、『脅して使う』
盗賊を信頼してのものでは無いことは、明らかであった
47 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:52:23.77 ID:A5nbTyvS0
――――――
〜少し前
「陛下!おられますか!?」
王の書斎に、一人の男が飛び込んできた
ろうそくの明かりに照らされた男の顔には、びっしりと汗が浮かんでいる
その表情が、由々しき事態が起きていることを物語っている
王「そのように声を張らずともよい近衛兵長、儂はここにおる」
王「一体、どうしたというのだ?酷い汗だぞ」
近衛兵長「あの開かずの間の宝物庫が・・・暴かれた」
王は、ゆっくりと目を閉じ
大きく息を吐いた
王「・・・犯人はわかっておるのか?」
近衛兵長「まだだ・・・だが、ひとまず部屋は封鎖しておいた」
近衛兵長「一般兵に中を調べられたらまずい、俺の兵にも俺が行くまで決して部屋に入らぬよう厳命した」
近衛兵は、まるで知己と話すがごとく口ぶりである
しかし、王がそれを咎めることはない
48 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:52:50.86 ID:A5nbTyvS0
王「そうか・・・鍵が失われて幾十年。いつかは来るものと覚悟はしていた」
王「王家終焉の時が・・・遂に来たか」
近衛兵長「まだだ!まだ終わりではない!」
王の言葉に、近衛兵長は強く反発した
近衛兵長「この国には、まだアンタが必要だ!終わらすわけにはいかない!」
近衛兵長「捜査は、俺が直々に行う!必ず、犯人を捕らえてみせる!」
「・・・しばし待て近衛兵長よ」
近衛兵長はギョッとして、声の先を探る
声の主である大臣は、書斎の扉を押して部屋の中に入ってきた
近衛兵長「大臣!?貴様いつからそこに!?」
王「・・・聞いておったのか」
大臣「申し訳ありません陛下!」
大臣「血相を変えた近衛兵長の姿を見たものですから。何事かと、馳せ参じた次第」
49 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:53:23.04 ID:A5nbTyvS0
近衛兵長「それで、私たちの話を立ち聞きしていたと申すか!?貴様は礼儀も知らんのか!」
大臣「礼儀ね・・・よくぞそのような言葉が吐けるな」
大臣「近衛兵如きが、陛下に対してあの口の利きよう。如何に信厚き者と言え許されることではないぞ!」
近衛兵長「ぐ・・・」
大臣「ところで、宝物庫が暴かれたそうですな。それは一体、いつのことですかな近衛兵長?」
近衛兵長が視線を王に向ける
王「構わん、申せ」
近衛兵長「・・・まだわかってはおらん」
大臣「なるほど、この王城の警備は貴公ら近衛兵団の仕事であったな」
近衛兵長「あぁ・・・」
大臣「怠慢であるとは思わんか?宝物庫を暴かれただけでなく、その日時もいつかわからんと申すか」
近衛兵長「・・・!だからこそ、汚辱は自らの手で晴らして見せる!」
近衛兵長「必ずや、犯人の首を陛下の御前に!」
50 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:53:50.27 ID:A5nbTyvS0
大臣「陛下、捜査は我が部下にお任せください」
近衛兵長「な、なにを申すか大臣!」
大臣「いや、先ほどはああ申したが。私は近衛兵団の精強さを以前から評価していたのだ」
大臣「近衛兵団の一兵卒ですら、かの勇者に届き得る力を持つとすら考えている」
突然の賛辞に、近衛兵長は困惑した
大臣「その近衛兵団を出し抜くほどの賊、そうありましょうか?」
王「まるで、賊に心当たりがあるかの言いようだが・・・?」
大臣「その様なことができる者は、この国にただ一人・・・勇者にございます」
近衛兵長「なっ!?」
王「なるほど・・・」
大臣「勇者のしでかした事件の後始末は、私直属の勇者補助係の主要業務」
大臣「彼らは、この一年勇者を追い続けておりました。現状において、勇者に最も詳しい者どもでございます」
大臣「捜査も迅速に行うことが可能です」
51 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:54:18.07 ID:A5nbTyvS0
大臣「それに加えて、私直属であるがゆえに情報の機密性は非常に高い」
王「わが懐を探るつもりか・・・」
大臣「そのような気は毛頭ございません!」
大臣「陛下には、いえ王家には何やら重大な秘密がある様子」
大臣「しかし、私もまた国を守る者。どのような事実があれど、口外するようなことは誓ってありませぬ」
近衛兵長「王っ!捜査は我々にお任せください!」
近衛兵長が、大臣を押しやり王に縋りつき声を荒げた
もはや論理の欠片もない、それは懇願としか言いようのない叫びであった
大臣「なりませぬ!近衛兵団は一度とはいえ失態を犯しました!故に、この捜査に近衛兵が関わるようなことがあってはなりません」
王「・・・なるほどな。一理ある」
近衛兵長「陛下っ!」
王「よい、まずは犯人を特定する。それが先決だ」
王「大臣、お主に任せることとしよう」
52 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:54:45.52 ID:A5nbTyvS0
――――――
ギィ、、、バタンと扉が大きな音を立てて閉まる
騎士と賢者の2人は、その音に正気を取り戻した
騎士「はっ!・・・いやあ、すまなかったね。まさか新人が、君のように可愛い女の子だとは思っていなかったものだからさ」
賢者「つ、ついつい驚いちゃいましたよ。いやあ、まいったなあ」
商人「」
遊び人「あらあら、見かけほどは若くはありませんわよ?」
ウフフと笑いかけながら、少女は商人へと近づき
大きく振りかぶって、商人の背中を平手で叩いた
遊び人「先輩!起きてくださいまし!今は、業務時間内ですよ!」
商人「はっ!・・・おっと、これは新人の前でダラシナイところを見せちゃったなあ、はっはっは」
正気を取り戻したものの、商人の目に生気は宿っていない
期待した新人が遊び人と知れた今、それも致し方のないことであった
騎士「じ、じゃあ、新人教育は賢者くんに任せようかな」
賢者「よおし!お兄ちゃんがビシビシ鍛えるからね!」
取り繕った二人の言葉に、遊び人は大きな大きなため息をついた
53 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:55:12.92 ID:A5nbTyvS0
遊び人「・・・まあいいでしょう、お手柔らかにお願いいたします」
商人は、その様子を見て新人の太々しさに不安を募らせる
賢者「で・・・とりあえず、どうします?」
遊び人「はい?早速、業務に取り掛からないのですか?」
騎士「そうだった!」
騎士「遊び人さん、この部屋は近衛兵によって完全に封鎖されているんだ!」
騎士「うかつだった!遊び人さんが部屋に入るのは、なんとしても阻止しなくちゃならなかったのに・・・私としたことが」
遊び人の表情には、まだ少女特有のあどけなさが見て取れる
幼い子をもつ騎士であるが故の、遊び人への気遣いであった
遊び人「あらあら、私も侮られたものですね」
商人「おいおい、遊び人ちゃん。ちょっと上司への口の利き方がおかしかないか?」
騎士の好意を、まるで気にも留めない遊び人の答えに
商人が、苛立ちを抑えることなど出来るはずも無かった
いつになく険しい、その表情に遊び人はたじろいだ
遊び人「あっ!これは、失礼しました。なにぶん、まだ慣れていないものでして・・・」
遊び人「失礼いたしましたわ。騎士様」
先ほどの佇まいとは打って変わって、その姿に見合った裏表のない返しに
遊び人の正直さがにじみ出ていた
54 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:55:40.16 ID:A5nbTyvS0
騎士「・・・構わないよ。それより『侮られた』と言ったね?」
遊び人「はい騎士様。新人として、皆様の置かれている状況は事前に勉強してきましたのよ」
遊び人は自慢げに答える
賢者「部屋に入ったら、出られないということは知っていたと?」
遊び人「その通りですわ、先輩」
商人「おいおい、本当に状況を分かっているのか?」
遊び人「社会には往々にして、こういったことがあると聞いております」
商人(・・・そ、そうなのか?)
賢者(少なくとも、私は初めてですけど)
遊び人「仕事が終わるまで帰れない。つまりこれは!一般社会で言うところの『缶詰』というものですわ!」
商人「遊び人ちゃんは、一体どこで社会について勉強してきたんだ・・・?」
賢者「さて・・話が一巡したようですね。で、どうしましょうか」
騎士「・・・仕事しようか」
55 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:56:06.09 ID:A5nbTyvS0
商人「えー、まじすか」
騎士「外からの情報も得られない、こちらの情報も持ち出せない」
騎士「つまり、私たちに現状を打開する手段はないということだ」
騎士「ならば、やることは一つ『仕事』だ」
遊び人「業務時間内ですしね!社会人は仕事してナンボです!」
商人「遊び人が社会人を語るのか・・・」
賢者「騎士さんの仰る通りですね」
賢者「では、さっそく盗賊ちゃんが持ってきてくれた資料と部屋の状況を照らし合わせてみましょうか」
遊び人「応っ!」
騎士「・・・賢者くん」
賢者「・・・言葉使いは、仕事しながら覚えてもらうこととしましょう」
遊び人「あら・・・///私、また言葉遣いを間違いました?」
56 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:56:33.31 ID:A5nbTyvS0
――――――
知性。勇者に求められるものは、それに尽きますね
そう、現勇者が持ち得ていないものです
だからと言って彼が勇者の資質を持ち得ていないとは思えません
足りない部分は、パーティーメンバーで補えばいい
しかし残念ながら、現勇者パーティーには武闘派しかいない
会ったことはありませんが、この一年間彼らの行動を追ってそう感じました
言ってしまえば、脳筋パーティーですね
とある砂漠の国で、勇者が王家の墓地から勝手に聖剣を持ち出してしまったことがありました
あの時、私たちが事後処理を怠っていたらどうなったでしょうか
旧砂の王家である侯爵家と、中央政府の対立軸が生まれていた可能性すらあります
偏った力の使い方をすると、どうしても世界に歪みが生まれます
そして、その歪みはは正さねばならない
つまるところ私たちのような別パーティーで、バランスをとる必要があるということです
勇者が勇者足り得ているのは、私たちのおかげと言っても過言ではない
私たちのサポートなしでは、勇者は各所で軋轢を生む害悪となっていたでしょうから
もし勇者パーティーに、勇者の暴走を抑えるブレーキ役が一人でもいれば
私たちは必要なかったことでしょう
まあ武力が必要と言うのもわかります。魔族と戦うのに口ばかりでは、どうにもなりませんからね
しかし、現勇者には是非とも知性を身に着けていただきたい
もしそれが無理なのであれば、次代の勇者に期待することとしましょう
57 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:57:00.50 ID:A5nbTyvS0
――――――
騎士「それじゃあ、管理簿を読み上げるから。保管庫の現状と照らし合わせてね」
騎士「えーまずは・・・何だこれ?」
賢者「ちょっと見せてもらえますか?」
騎士から管理簿を受け取り、目を落とす
「ん?」声にもならない、音が喉から漏れる
終いには首を傾げ、ため息まで漏れた
賢者「これは、旧字で書かれていますね・・・」
騎士「旧字かあ・・・この管理簿も、相当古いものだし当然か」
騎士「じゃあ、悪いけど賢者くんに読み上げてもらおうかな」
賢者「えっと、期待してもらって申し訳ありませんが・・・旧字はちょっと」
騎士「ええっ!?賢者くん旧字読めないのかい!」
賢者「すみません・・・読めないことは無いんですが、ちょっと時間がかかりそうです」
騎士「いや、謝る必要は無いよ。読めないのは私も同じだ」
騎士がチラリと商人に目をやった
それに気づき、商人が胸を張って答えた
商人「ふふん、当然私も読めません」
騎士「だろうね・・・」
58 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:57:36.67 ID:A5nbTyvS0
遊び人「では、僭越ながら私が読み上げましょう」
商人「ん、よろしく!」
商人「ってなるかボケ!」
賢者「遊び人ちゃん・・・旧字を読めるんですか?」
遊び人「ええ、わたくし詩歌も嗜むものですから。旧字も扱えますのよ」
商人「あ、遊び人のくせに?」
賢者「ちょっと気になっていたのですが、遊び人さん言葉遣いがちょっとアレですよね」
遊び人「あら、ごめんあそばし」
賢者「もしかして、どこかの貴族の御子弟なのでは?」
遊び人「・・・まあ、そうです」
遊び人の表情が陰る。探られたくない腹であることは明らかであった
騎士は、その表情を見逃さない
急な人員の削減、にもかかわらず同日中に補充される人員
幼い容姿に、その仰々しい言葉遣い、そして役人にあるまじき遊び人の採用
全てが、遊び人の採用が縁故によるものだと物語っていた
なれば、世渡りに長けた騎士のとる手段は一つであった
それは、『藪はつつかない』ことである
59 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:58:04.03 ID:A5nbTyvS0
騎士「け、賢者くん親族に関する詮索は失礼だよ」
騎士の思惑を察知し、賢者も同調する
賢者「これは、私としたことが。失礼しました」
商人「しかし貴族の娘が、遊び人とはなあ。厳格な教育に反発して、グレちゃった感じか?」
空気を読まない商人に、賢者は顔をしかめた
しかし、遊び人の表情から陰はとれていた
「バレたら、もうしかたない」の心境なのだろう
遊び人「定職に就かず、遊び惚けている者は世間一般に遊び人でしょう?」
遊び人「私は詩歌を詠んだり、あとは花を生けたり、茶を嗜んだりして日々を過ごしてきました」
遊び人「まさに遊び人ではございませんか!」
騎士&賢者&商人(み、雅な遊び人だーっ!)
60 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:58:30.40 ID:A5nbTyvS0
――――――
大臣「遊び人か・・・どう思う、盗賊よ」
盗賊「申し訳ありません。探ってみましたが、彼女に関する情報は一切出てきませんでした」
盗賊「少なくとも、ここ10年は王都付近に住んでいたとは思えません」
大臣「そうであるか、だが・・・私は彼女に会ったことがあるような気がするのだ」
大臣は、記憶を探るように頭を掻いた
会ったことがあるなら思い出せ。盗賊は強く念じるが
その思いは届かなかった
大臣「いや、忘れてくれ」
大臣「王の友人の娘とは言っていたが、王の間者と見るのが筋であろうな」
盗賊「ではどうして、彼女が勇者補助係に加わることをお許しになったのですか?」
大臣「断っても、王が捻じ込んだであろうよ」
大臣「なれば、無理をする必要はない。いまはまだ、陛下との対立が表面化するのは避けたいのだ」
盗賊「大臣は・・・陛下をどうされるおつもりなのですか?」
大臣の鋭い眼差しが、盗賊に突き刺さる
61 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:58:56.63 ID:A5nbTyvS0
盗賊(あまり調子にのるなよ・・・ってとこかな)
盗賊の沈黙に気をよくしたのか、大臣は雄弁に語り出した
大臣「陛下は、衆民議会の設置による権力の分散や、行政府を設け官僚制を導入する等、国の政治構造の改革に力を注いできた」
大臣「確かに、権力の分散は一人の愚かな権力者を抑制し、官僚制の導入は合理的な行政を我々にもたらした」
大臣「しかし、弊害もある」
大臣「議会では日々終わらぬ権力闘争が行われ、官僚共は規則に縛られることに快感を覚えたのか、その志を失った」
大臣「いまや国政の滞りは著しいものなのだ」
大臣「国政の滞り、それはすなわち国にとっての大きな損失だ。損失は常に回避すべきであると、私は考える」
大臣「あの宝物庫にはな、この国の政治体制を変える大きな大きな火種が眠っているのだよ」
盗賊「つまり、陛下の弱みを握って傀儡と・・・?」
大臣「私を、侮るなよ盗賊」
大臣「権力が、行政府や議会に分散している昨今。陛下を傀儡と化したところで何になる」
大臣「仮に意のままに陛下を操る術を手に入れたとしても、何のメリットもない」
62 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 07:59:30.37 ID:A5nbTyvS0
盗賊「しかし、陛下の発言は議会にも強い影響を持つと聞いております」
大臣「まあ、半分正解だ。陛下がその影響力を発揮できるのは、議会の内の衆民院においてのみだ」
大臣「陛下がこれまで行ってきた改革は、臣民の意見をより多く取り入れるもの。当然、衆民院からの支持を得られるのも当然だ」
大臣「だが一方で、権力構造の変革を望まない貴族たちにとっては陛下は疎ましい存在なのだよ」
盗賊「つまるところ、大臣は何を為すおつもりなのですか?」
大臣「私は、ただな。ただ、この国をより良くしたいだけなのだ。」
大臣「私自身の手によってな」
はぐらかされたか、滑らかになった舌から何か真意が出てこないものか
盗賊の淡い期待は、あっさりと裏切られた
実のところ、自身の父親のことは気にもかけていない
盗賊(父さんなら、そのうち飽きたら牢を破って逃げ出すだろう)
彼女に盗賊のスキルを授けた、張本人である父を信頼してのことである
では、彼女は何故大臣の手駒に甘んじているのか
それは、宝物庫に閉じ込められた勇者補助係の仲間を思っての事であった
盗賊「宝物庫には、一体何が隠されているのですか・・・?」
大臣「それはまだわからん。だが、王家が終焉を迎えるほどの何かがあったことは確かなのだ」
大臣「そして、その手掛かりは今、我が配下である勇者補助係によって押さえられている!」
大臣は再び、盗賊へと眼差しを向ける
その目には、炎のように熱く強い意志がメラメラと宿っていた
大臣「盗賊よ!何としても、中と連絡をとる手段を考えるのだ!」
63 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:00:03.09 ID:A5nbTyvS0
――――――
遊び人「次はA−301棚ですね。宝箱が三つあると思いますが」
賢者「ああ、これですね。全部開けられています」
遊び人「そこには、王国金貨300枚と魔力回復剤、あと王者の剣があったようです」
賢者「あちゃー根こそぎですね」
遊び人「次は、書架に行きましょうか」
商人「そちらは調べておいたぜ。どの本も、埃を被ったままだ」
商人「勇者が手を付けた様子はない」
遊び人「あら、それを確認するための読み合わせでは?先輩」
騎士「もっともだな、面倒だが商人君。書架も照らし合わせてくれ」
商人「えーまじすか」
遊び人「ほら先輩、子供みたいに駄々をこねない!いい男が台無しですよ!」
商人「へえーい・・・」
64 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:00:30.48 ID:A5nbTyvS0
賢者「・・・いいですね彼女」
騎士「まったくだ。どうやら我々は、二年連続で当たり新人を引いたらしいな」
賢者「商人君の扱いにも手馴れてます、とても少女とは思えませんよ」
騎士「お母さん気質なのかもなあ。どことなく盗賊ちゃんを彷彿させるよ」
賢者「ところで、騎士さん。宝箱を調べてわかったことですが・・・」
騎士「ほとんどの箱が荒らされている中で、手が付けられていない物がいくつかあったようだね」
賢者「黄金のツメ、聖者の短剣、黒檀のブーメラン・・・」
騎士「勇者パーティーは、勇者、戦士、魔法使い、僧侶の4人だったね」
賢者「いずれも、彼らには装備できない物ばかりです」
賢者「対して、剣や錫杖、大杖、その他消耗品は一切合切持っていかれています」
騎士「まあ、断定はできないけど、人の者を黙って勝手に持っていく感じは勇者そのものだね」
遊び人「はい、次の棚です『サルでもわかる 女の堕とし方講座 上中下巻』」
商人「あっ!遊び人ちゃん!下巻だけ無くなってる!」
65 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:01:00.07 ID:A5nbTyvS0
遊び人「あらあら、犯人は助平に違いありませんわ」
遊び人「次は、『名画 裸婦画集 上下巻』」
商人「ぐへへ・・・って!函だけ残して上下巻ともに中身が抜かれてる!!」
賢者「・・・」
騎士「・・・まあ、勇者も年頃だし」
賢者「盗賊ちゃんには黙っておきましょう」
騎士「そうしよう・・・」
遊び人「黙っておくも何も、連絡手段がないですけど」
商人「あ、腹案ありまーす」
66 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:01:26.60 ID:A5nbTyvS0
――――――
『うわああああああ!もう駄目だ!もう駄目だああああああ!』
宝物庫を中心に、王城全てに響き渡らんほどの叫び声が広がった
長時間の番を強いられ、意識がとびかけていた近衛兵は一瞬で臨戦態勢へと切り替わった
『お、落ち着いてください!商人くん!』
『何かちょうど良いものは無いのか!あ!これなんてどうだ!空の宝箱!』
『商人先輩!これです!これに出してください!』
『い、いやだあああああ!みんなの前で、うんこ垂れるなんてプライドが許さねええええ!』
『ほら!尻に魔法かけますから!沈黙魔法サイレント!はい!これで、音は漏れません!!』
『そういう問題じゃねえええええ!!!・・・・あっ』
『商人くん!?どうした!返事をしろ!』
一転して、沈黙が降りる
『し、死んでる・・・』
67 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:02:01.40 ID:A5nbTyvS0
近衛兵「」
ほぼ丸一日閉ざされていた、宝物庫の大きな扉が
近衛兵の手によって開かれた
近衛兵「お、おい!一体何をしてるんだ!」
遊び人「あ!近衛兵さん!助けてください!商人さんが商人さんが!!」
商人「も、もう駄目だあ・・・近衛兵が勅命を守らねえわけがねえ・・・」
商人「おれたちは・・・一生この中で暮らすんだ、おれのうんことともに・・・」
遊び人「いやああああああああ!」
商人「いっそ、殺してくれえ・・・」
近衛兵「わ、わかった!しばし待て!近衛兵長に相談してくる!」
開かれた扉を、力強く締め
念入りに閂を差し込み
近衛兵は、自身の上司への相談へと走り出した
商人「・・・行ったか?」
賢者「そのようですね」
68 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:02:28.30 ID:A5nbTyvS0
商人「おい!盗賊ちゃん居るんだろ!?」
商人「まどろっこしいのは抜きだ!機会は今しかない!」
商人は扉の向こうに、わずかながら気配を感じ取った
盗賊「・・・まだ漏らしてませんよね?」
商人「演技だよ!いや!このままが続けば演技じゃなくなるが!」
盗賊の登場に、一堂に安堵の息が漏れた
しかし、職長としての責任感故か騎士には焦りが見えた
騎士「盗賊さん!情報をくれ!一体、外はどうなってるんだ!?」
盗賊「ちょっと手短には話せそうにないです。こちらの状況は、なんとかお知らせする方法を考えます」
盗賊「先に中の情報をもらえますか?」
賢者「・・・帳簿と照らし合わせた結果、持ち出された品々から犯人が勇者である可能性は高いです」
盗賊「それだけですか?えっと・・・宝物庫の中に帳簿に載ってない品々なんかは、ありませんでしたか?」
盗賊の物言いに、商人の頭に疑問符が浮かぶ
69 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:02:54.68 ID:A5nbTyvS0
騎士「いや、今のところはそれだけだ」
盗賊「わかりました。引き続き、調査をお願いします」
盗賊「ところで、遊び人さんは居ますか?」
遊び人が扉へと一歩近づき答えた
遊び人「お話は伺っております。貴方が盗賊さんですね」
盗賊「・・・貴方がどのような方かは存じ上げませんが、仲間を裏切るような真似だけは為さらないように」
騎士「・・・?」
遊び人「あらあら、見くびられたものですね」
盗賊「それと、商人さんには気を付けてください。何かされたら、すぐに大声を出すんですよ」
商人「どういう意味だ!失礼だぞ!」
遊び人「ふふふ、気を付けるのは商人さんの方かも知れませんわよ」
商人「えっ・・・///」
70 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:03:23.06 ID:A5nbTyvS0
賢者「頬を染めないでください。気持ち悪い」
騎士「盗賊さん、私や賢者くんも居るから安心しなさい」
盗賊「ふふっ、そちらは楽しそうでいいですね・・・」
騎士「それはどう言う・・・?」
盗賊「おっと、近衛兵が戻ってきたみたいです」
盗賊「これにて失礼、にんにん!」
扉の向こうから、盗賊の気配が消えた
賢者「どうも様子がおかしいですね・・・」
騎士「無理をしているようだね・・・」
商人「たく、これだから真面目ちゃんは。手の抜き方も教えておくべきだったな・・・」
騎士の眉が、片方だけすこし吊り上がったところで
再び、扉の外に人の気配が現れた
近衛兵長「おい!まだ漏らしてないよな!?」
71 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:03:53.82 ID:A5nbTyvS0
賢者「・・・」
商人「・・・」
賢者と商人が、視線をあわせ
そしてうなずいた
商人「あああああああああ!ああああああああ!」
賢者「ああ・・・プライドと便意の狭間で揺れているのですね商人くん・・・っ!」
近衛兵長「すぐに厠に連れて行ってやる!ただし、外部と接触など許さんからな!」
近衛兵長「逃げ出そうともするなよ!近衛兵を甘く見るなよ!」
商人「ああ!ありがとう!ありがとうごじゃいますううううううう!」
72 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:04:20.60 ID:A5nbTyvS0
――――――
商人「ふう・・・今回は、まじでやばかったな」
商人「危うく、人としての尊厳を失うところだった」
用を足しながら、商人は頭を回す
外には監視役、さすがに垂れてるところは見られてないが)
ついでに盗賊ちゃんと接触できたら良いと思ったが、そう甘くはないか
いやいやいや、糞垂れてる最中に接触なんてできるか・・・
そう思いなおし、紙に手をのばしたところで商人は気が付いた
紙にはびっしりと小さい文字がしたためられていた
それは盗賊からの手紙であった
そこにはことの経緯と、大臣の不穏な様子
そして遊び人のことが書かれていた
商人「へ、ヘビィな話になってんなあ」
誰にも届かぬほどの小さい子で、商人はつぶやいた
73 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:04:47.10 ID:A5nbTyvS0
――――――
商人「たーだーいまーっと」
賢者「・・・」
騎士「・・・」
遊び人「・・・あ、お帰りなさいませ」
明らかに空気が重い
3人は宝物庫に一つ置かれていたキングサイズのベッドを取り囲んでいる
商人「おいおい、みんな辛気臭い顔してどうしたんだ?」
賢者「これを・・・見つけてしまいました」
商人「お、犯人の尻尾でも捕まえたのか?遂に勇者も年貢の納め時だな」
おどけた商人が、賢者の肩越しにベッドを覗き込んだ
商人「って、なんじゃこりゃあああああああ!」
ベッドには、既に事切れた男が一人
紛れもない、国王その人であった
74 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/11/19(日) 08:05:53.94 ID:A5nbTyvS0
――――――
第二章 賢者「し、死んでる・・・!」 完
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/19(日) 13:51:12.83 ID:YsHLIzW20
!?
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/19(日) 15:25:08.01 ID:ZBYdMcUA0
そっちかーい!
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/20(月) 12:14:33.07 ID:1TGd1Mf20
宝物庫を開けるのに魔法の鍵が必要で
開いてた宝物庫を近衛が閉めて再度開けれるってことは近衛が鍵もってるの?
それとも封印そのものは一回といてしまうと魔法をかけなおさない限り宝物庫はあきっぱってことなのかしら?
頭が悪くて申し訳ない
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/20(月) 12:51:22.00 ID:G/jqcYpa0
近衛兵は鍵がないので、閂で扉を閉じています
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/28(火) 20:26:11.70 ID:hItoX4V0o
地の文が、会話のテンポを邪魔してる気がする
80 :
◆CItYBDS.l2
[sage]:2017/11/29(水) 16:34:09.86 ID:zwiWKevq0
前向きに検討させていただきます
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/29(水) 17:11:39.24 ID:yxf4viMDO
地の文は無いほうが私もいいかな?
テンポで言えばだけど
ただ書き手がどっちがいいか変更しようか迷っててアンケとってるわけじゃないし好きなように書けばいいさ
82 :
◆CItYBDS.l2
[sage]:2017/11/29(水) 17:16:53.27 ID:zwiWKevq0
善処します
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/29(水) 17:58:51.98 ID:mvNf94BDO
俺は地の文有っても全く気にならないから今まで通りで良いです
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/29(水) 18:14:24.09 ID:kTgnaRRuO
今までどおりでよい
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/29(水) 22:40:34.11 ID:y+MDKrcA0
気にならないから今まで通りで良い
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/30(木) 11:25:30.25 ID:odQaOUANo
全く聞く気なくてワロタ
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/05(火) 12:11:17.45 ID:t+pyETLQO
読者の意見を適度に聞き流す作者の鑑
88 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 16:59:22.52 ID:Pdh78Mjj0
戦士「首尾はどうだ勇者・・・?」
勇者「ああ、上々だ」
魔法使い「こんな短期間で、陛下への奏上原稿を暗記するなんて信じられない・・・」
僧侶「ほ、本当に勇者様なんですか?人が変わったようです」
勇者「・・・魔王軍に入隊して変わったのさ。俺はもう、かつての馬鹿な冒険者なんかじゃない」
勇者「職務を遂行し給与をもらう。今の俺は一端の社会人さ」
戦士「成長したな勇者」
魔法使い「見違えたわ・・・」
僧侶「やっと私たちの将来のことを考えてくださったんですね・・・」
勇者「さあ行こう皆!目指すは王都、俺たちの旅が始まった地へ!」
勇者が、虚空を払いその右腕を高く高く掲げる
まるで一枚の絵画のごとき、その美しき姿勢に3人の目はくぎ付けとなった
しかし、その握られた拳に奏上原稿の全文が、びっしりと書き込まれていることには
誰一人として気づきはしなかった
89 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 16:59:53.17 ID:Pdh78Mjj0
――――――
第三章
商人「今晩はお楽しみといきましょう!」
――――――
90 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:00:22.37 ID:Pdh78Mjj0
――――――
宝物庫の片隅に、そのベッドは置かれていた
天蓋とカーテンで仕切られたそれは、まるで一つの部屋のようであった
王の遺体は、ベッドに深く沈み込んでいる
上質な羽毛で作られているのであろう、柔らかさと温かさが約束されているはずのその中で
王の体温は冷めきっていた
商人「し、死んでんのか・・・?」
賢者「確認しました。脈もありません、瞳孔も開いています」
商人「なんで、今まで見つからなかったんだ・・・」
賢者「マットに埋もれていた上に、幾重にもブランケットが重ねられていました・・・まさか、人がいるとは」
遊び人「陛下・・・一体なぜこのようなことに?」
商人の疑いの眼差しが、遊び人へと向けられる
騎士「ととととりあえず、落ち着こう。このままじゃまずい、まずは死体を布団の中に隠そう」
賢者「そそそうですね、このままじゃ私たちが疑われかねない」
商人「いやいやいや、ちょっとまて。事件発覚直後から、この部屋は陛下直属の近衛兵が封鎖してたんだろ」
商人「俺たちが、いつ陛下を部屋に連れ込んで殺害するって言うんだ」
商人「どう考えても、勇者の仕業だろう!」
91 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:00:57.22 ID:Pdh78Mjj0
騎士「いや、そもそも陛下は殺害されたのか?病気や事故って線は」
遊び人「賢者先輩、陛下をお隠しになるのをお待ちください。もう一度、ご遺体を確認してみましょう」
賢者「・・・そうですね」
――――――
賢者「結論から言うと、他殺で間違いないですね。何者かと争った形跡があります」
賢者「首に致命傷がありました。死因はこれでしょう、つまり失血死です」
騎士「勇者と争ったと考えるのが妥当か・・・しかし、武器も持たない相手をあの勇者くんが殺せるかなあ?」
商人「正義のそろばん」
遊び人「?」
商人「陛下の右手に握られている物だ・・・あれは時に盾、時に矛となる最強の装備のひとつだ」
賢者「これが、そうなんですか?ただの大きなそろばんに見えますけど」
騎士「つまり、陛下は素手ではなかったと・・・」
商人「俺は長年、こいつを探し求めてきたんだ。ああ・・・こんな所で、相まみえることになろうとは」
商人は、王の右手からソロバンを持ち上げると滑らかに自らの懐へと運んだ
しかし、百科事典ほどの大きさがあるソロバンが懐に収まりきれるはずもなく
その半分以上が、顔を出している
遊び人「横領はだめですよ!」
92 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:01:30.86 ID:Pdh78Mjj0
商人「なっ!違うわい!これは横領なんかじゃない!」
騎士「・・・」
商人「いやだって!保管簿にもソロバンなんて記載はなかったじゃないですか!ということは、これは国有財産とは呼べない!」
商人「だから、横領ではない!」
賢者「記載がないのは、陛下の装備品だったからでしょうに・・・その場合だと、横領ではなくても窃盗になりますね?」
遊び人「王家所縁の品を窃盗ですか、ただじゃすまないでしょうね」
商人「ぐぬぬ」
商人は、しぶしぶ王の懐へとソロバンを差し込むも
やはり収まりきれず半分顔を出しているソロバンから視線が外れることは無かった
騎士「・・・勝手に持ち出したらクビだからね」
商人の羨望の眼差しを見逃さなかった騎士がくぎを刺し、ようやく商人はソロバンから視線を離した
賢者「・・・話を戻しましょう。陛下は正義のそろばんで、何物かと戦い、そして負けた」
騎士「争った現場は、ここではないだろうね。あの傷の深さだ、相当な量の血が流れただろう」
騎士「しかし、ここには血痕が見られない。つまり、陛下は息の無い状態でこの部屋に運び込まれた」
遊び人「犯行時刻はどうでしょうか?賢者先輩、陛下は亡くならられてからどれくらい経っていますか?」
賢者「・・・それが、さっぱりわかりません。体温は既になく、瞳孔も濁り切っていることから一日以上が経過していることは間違いありません」
賢者「それなのに、腐敗が進んでいる様子が一切ない。まるで防腐剤でも使っているみたいに・・・」
93 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:01:58.38 ID:Pdh78Mjj0
騎士「ちょっと考えづらいな・・・陛下が一日以上、姿を見せなくて近衛兵が黙っているわけがない」
商人「確かに妙ですね」
遊び人「すみません賢者先輩。私どうしても死後一日以上という見立ては間違いだと思いますの」
賢者「確かに私は医者ではありませんが、見立ては間違ってないと思いますけど・・・何故です?」
遊び人「今朝」
商人「ん?」
遊び人「私・・・陛下に、初出勤の御挨拶申し上げましたの」
商人「・・・死体に?」
賢者「面白くも無い冗談ですね」
賢者「さて・・・参りましたね」
賢者「遊び人ちゃんの言葉が事実なら、一つの仮説が成り立ちます」
賢者「陛下は二人いた・・・」
遊び人「・・・今朝、私が会った陛下と」
商人「いま俺たちの目の前にいる陛下ってわけか」
賢者「仮に、目の前の陛下が本物だとした場合」
賢者「遊び人ちゃんが今朝会った陛下」
賢者「いったい何処のどなた何でしょう?」
94 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:02:24.27 ID:Pdh78Mjj0
――――――
王の書斎
机に向かう王に、近衛兵長が背後から声をかける
近衛兵長「お前は、一体何を考えているんだ?」
近衛兵長の問いかけに、王は振り向くことなく答えた
王「勇者の件か?それとも、あの封じられた魔法の部屋の件か?」
近衛兵長「その両方だ!」
近衛兵長「勇者の件に関しては大臣も言った通りだ。魔族に寝返った勇者の帰還はこの都に大きな災いをもたらすぞ」
王「ほう?勇者が災いをもたらすか・・・まるで魔王の所業だな」
近衛兵長「冗談を言っている場合か!保管庫の件だってそうだ」
近衛兵長「なぜ、大臣の部下が部屋に入るのを許した!?」
近衛兵長「俺が勅命だと偽って部屋を封鎖していなければ、全てが白日の下に晒されていたんだぞ!」
王「隠したところで、部屋に侵入した犯人からいつかは情報が漏れただろうよ」
近衛兵長「そ、そうかもしれんが!」
95 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:02:52.59 ID:Pdh78Mjj0
王「まったく余計なことをしてくれたものだな、せっかく大臣に嘯いたものを台無しにしおって」
ため息をひとつ吐き出した王は、姿勢を改め近衛兵長へと向き直った
その顔は真剣そのものであり、近衛兵長も釣られて姿勢を正す
王「・・・儂はな、もうそろそろ王を退きたかったのだよ」
近衛兵長「だったら退けばいい、穏便に退位を申し出ればよかったじゃないか」
王「ふふっ、どうせ退くのなら派手にやりたいと思ってな」
近衛兵長「くそったれ・・・せめてあの時、30年前に奴が死んだ時に証拠を全て燃やしてしまえばよかったものを」
近衛兵長「お前が部屋の鍵を無くしてさえいなければ・・・」
自身の言葉に違和感を覚えたのか、近衛兵長は言葉に詰まる
近衛兵長「いや違う・・・そうじゃない。この危機を作り出したのは、お前自身・・・」
近衛兵長「・・・今のこの状況に至るために・・・お前、もしかして故意に証拠を残したのか?」
王「ま、その通りじゃ。鍵も実は無くしてはおらん、とある場所に隠しておいた」
王「いつか、儂達のやらかしたことが露見することを期待してな」
打って変わって、にこやかな笑顔を見せた王に
近衛兵長は呆れながらも、怒る気にはなれなかった
96 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:03:19.35 ID:Pdh78Mjj0
近衛兵長「なら、犯人にも検討がついているんじゃないのか?」
王「まあ、勇者であろうな。あの部屋の鍵を見つけられるとしたら勇者ぐらいしかおらん」
近衛兵長「・・・ったく、昔から破滅願望の強いやつだとは思っていたが。ここまでとはな」
王「なんじゃ、長い付き合いなのに未だ儂の好みを理解していなかったのか」
近衛兵長「長い付き合いか、そうだな」
王「初めて会ったとき、儂が望んだことを覚えておるか」
近衛兵長「・・・『人の営みは面白い、できればずっと眺めていたい』だったな」
王「そこまで正確に覚えておられると、逆に引くわ」
近衛兵長「・・・殺すぞ」
王「すまんすまん」
王「そう、儂の願いは人々の生活を、営みを傍目から眺め続けること。しかし今の儂はどうじゃ?」
王「人間たちの王。儂の立ち位置は本来ここではないのだ」
近衛兵長「そうか・・・俺は、お前に甘えていたのだな」
97 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:03:46.29 ID:Pdh78Mjj0
近衛兵長「だが、あの頃、あの悲惨な世界を救う知識を持っていたのはお前だけだったんだ。俺はお前を頼るしかなかった」
王「なら、もう良いじゃろう?儂の役目は、もう終わった。好きなようにやらせてもらうだけじゃ」
近衛兵長「そうだな・・・今まで、ありがとう陛下」
王「それで、お前はどうする?」
近衛兵長「うーん、そうだなあ」
近衛兵長「・・・まあ、今までお前に力を借りてきたわけだし。今度は、お前の望みを叶えるために尽力してみようかな」
王「・・・うん?できれば一人気ままにして欲しいんじゃが」
近衛兵長「何言ってんだ?このままだと、お前ギロチン台まで一直線だぞ」
王「む・・・老いたとは言え、そこらの連中に後れを取るとは思えんが」
近衛兵長「俺の近衛兵団だって敵に回るかもしれんぞ?この俺が丹精込めて育て上げた兵たちだ、勇者にだって引けはとらねえ」
王「お前の部下だろうに、どうにか宥められんのか?」
近衛兵長「残念だったな、奴らが真に忠誠を誓っているのは俺やお前じゃない。この国自身だ」
近衛兵長「俺達のやらかしたことがばれたら、容赦なしに殺しにくるだろうよ」
王「む、むう・・・」
近衛兵長「それに、当代の勇者だって帰ってくる。噂通りの男なら、そうとう手ごわいぞ」
王「・・・儂を守ってください。よろしくお願いします」
近衛兵長「よし!任された!」
98 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:04:13.00 ID:Pdh78Mjj0
――――――
遊び人「遺体を調べていて、もうひとつ気づいたことがありますの」
賢者「どうぞ」
遊び人「この遺体の陛下、仮に『遺体王』としましょう」
商人「酷いネーミングセンスだな」
遊び人「この遺体王ですが、『生存王』より大分若く見えませんか?」
商人「生存王どっからでてきた。いや何となくわかるけども」
賢者「うーん、あまり陛下に拝謁できる立場ではありませんからねえ。騎士さんにはどう見えます?」
騎士「私も似たようなものだよ。直接お会いしたことはほとんどない、が確かに若く見える」
商人「実の弟説に一票」
騎士「そんな話は聞いたことはないなあ、陛下の実弟は大臣一人だし」
商人「大臣が陛下の実の弟!?」
商人「初耳なんですけど!」
99 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:04:40.53 ID:Pdh78Mjj0
賢者「あまり知られてないですけど、そうですよ。陛下は御子が居られないので、大臣は王位継承権1位の王族です」
商人「じゃあ、遺体王影武者説に一票」
賢者「悪いですけど、この遺体の正体を探る意味はないと思いますよ。何にせよ生存王が、偽物である可能性が高いですから」
商人「なんでだよ?遺体王が偽物って可能性は否定できないだろ」
賢者「それなら、遺体を隠す必要がありませんからね。隠すということは後ろめたいことがあるからでしょう?」
商人「何か特異な事情があるとか」
賢者「そこまで考えていたら先が見えませんよ?」
商人「それもそうか」
騎士「現在の王が偽物だと仮定すると、犯行時刻は極めて膨大になるなあ」
遊び人「そうでしょうか?死体が腐っていない以上、それほどは日にちが経っていないのでは?」
騎士「さっき保管物を一通り調べた際に、ひとつ思い至ったことがある」
騎士「ここの保管物の状態はすこぶる良い、いや良すぎると言っていい」
騎士「ここの物がいつからあったかは知らないが、手入れがされることも無く最低でも30年近く部屋は閉ざされていたことになる」
100 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:05:07.69 ID:Pdh78Mjj0
騎士「にも関わらず、この状態の良さ。まるで時間が経過してないみたいじゃないか」
商人「たしかに、いくら密閉されていたとはいえ30年前の消耗品がそのまま使えるわけないか」
商人「勇者たちが、劣化した薬品を盗んでいくとも思えないし・・・」
賢者「・・・なるほど、保管庫自体に保管物の状態を維持する魔法が張ってあった可能性は否定できませんね」
騎士「そう、だとするならば。部屋が最後に閉ざされた30幾年前から、死体はここにあったと考えてもおかしくないわけだ」
商人「・・・その魔法って、まだ効いてるんですかね」
賢者「!」
騎士「・・・どうだろう?」
遊び人「死体の状況を経過観察できれば分かると思いますけど・・・」
商人「ばっかやろう!それじゃ遅すぎる!腐った死体と同じ部屋に居続けるなんて俺には無理だぞ!」
賢者「氷魔法 フリーズ!」
賢者「と、とりあえずこれで凌ぎましょう」
商人「だいたいさぁ、遊び人ちゃん。この遺体のこと、何か知ってるんじゃないの?」
101 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:05:34.30 ID:Pdh78Mjj0
遊び人「どういう意味ですの?」
商人「さっき便所に行った時、盗賊ちゃんから情報を受け取ったんだ」
商人「遊び人ちゃん、陛下側の人間なんだろ?」
騎士「陛下側・・・?」
商人「俺たちが閉じ込められている、この状況」
商人「どうやら俺たちは、この部屋にある何かを見つけたい大臣と、それを隠したい陛下側の政争に巻き込まれているみたいです」
騎士「ああ、やっと合点がいったよ・・・しかし、なんで一役人の私たちが政争に巻き込まれるかなあ・・・」
賢者「私たち、大臣の直轄部署ですからね。陛下側からしたら、私たちも大臣の犬に見えてるんでしょう」
騎士「えええ・・・大臣も、そういうことなら信頼のおける自分の手駒を使えばいいのに」
賢者「孤独な方ですから、動かせる手駒が少ないんでしょう。もしくは私たちは捨て駒なのかも」
騎士「勘弁してくれよぉ・・・」
商人「そういうわけで、遊び人ちゃん。入ったら出られないこの部屋に何の躊躇もなく入ってきたのは」
商人「君が、陛下側の人間で近衛兵と通じているから何じゃないかな?」
遊び人「なるほど、そういう疑いが私には掛かっているのですね。では質問にお答えしましょう」
遊び人「残念ながら、私は何も知りません」
遊び人「陛下の遺体の件はもちろんのこと、その政争云々の事も全くです」
102 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:06:01.24 ID:Pdh78Mjj0
――――――
「私の一族は、王国内でも最たる歴史をもつ名家の一つですの」
「当然、私は幼いころより貴族としての教育を受けてきました」
「今でこそ、遊び人と呼ばれますが」
「当時は、神童と称されるほどでしたのよ」
「本当ですよ?」
「私は、長い年月を自身の研鑽に費やしました」
「そして、数多の家庭教師からお墨付きをもらうどころか」
「彼らを遥かに上回る知識と礼節を身に着けるに至りましたの」
「自他共に一人前と認められてからは、当主である父の手伝いを任されました」
「非常にやりがいがある仕事でしたわ」
「父のスケジュール管理から、社交界への参加、対外折衝と」
「私が、身に着けた全てを十全に活用いたしました」
「そして、20年ほど前に父が亡くなりましたの」
「新しい当主には、年の離れた私の弟が就くことになりました」
「弟は、昔はお姉ちゃん子だったのですが当主となってからは男振りを上げまして」
「私が仕事を手伝おうとすると、嫌がるようになりました」
「弟曰く『姉さんは、これまで十分すぎるほど働いたんだ。困ったときは相談するから、しばらく遊んでいると良いよ』ですの」
「生まれてこのかた、学問と仕事に囲まれてきた私にとって」
「初めて与えられた余暇でした」
103 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:06:35.23 ID:Pdh78Mjj0
「正直、生活に張り合いが無くなってしまいましたわ」
「まだまだ体は若いのに、生き甲斐であった仕事を奪われてしまったのですもの」
「かと言って、独り立ちした弟の邪魔はしたくありませんでしたので仕事に復帰したいとも言い出しにくくて」
「そんな退屈な生活を送っていたある日」
「戯れに、勇者の絵巻物を手にしたのです」
「そう、あの伝説の先代勇者様の絵巻物です」
「ただただ人々の平穏を願い、その為なら自身すら犠牲にするその姿に」
「平和のためなら、あらゆるしがらみを超えるその破天荒さに」
「生まれて30幾年、初めての恋でした」
「当時はまだ、先代の勇者様も健在で」
「魔王を討ち果たした後は、王城にて剣術の指南役を務めていました」
「私は、あらゆる人脈を使って先代勇者様にお会いしようと努めましたわ」
「しかし結果として、その願いは敵いませんでした」
「若き国王の、民を顧みぬ悪政に憤怒した勇者が」
「その奏上を以て、王を諫め改心を促した」
「この逸話を、皆さんもご存知かと思います」
104 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:07:05.92 ID:Pdh78Mjj0
「知らない?勉強不足ですね商人先輩」
「でも良かった。これでまた一つお利口になりましたね」
「ええ、それで実は、その奏上を行った日以降」
「先代の勇者様の姿を見たものは、誰一人としていないのです」
「王への無礼を諫められ秘密裏に暗殺されたとか、故郷に帰り隠居したとか」
「噂は様々ですが、真偽はわかりません」
「ま、ありていに言って。私は失恋いたしましたの」
「それからは、また退屈な日々に逆戻り」
「名家の娘と言うこともあって、男どもが群がってきたりもしましたが」
「勇者様以上のお方は居ないと、全てお断りしていました」
「ただ昨年、新たな勇者が魔王を打倒すべく旅立ったと聞いたときは久々に心が躍りましたわ」
「勘違いしてもらっては困りますが、若き勇者に恋心を抱いたわけではありませんわよ」
「新たな勇者が生み出すであろう冒険譚、かつて私を湧き上がらた伝説の続編に期待を膨らましましたの」
105 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:07:33.05 ID:Pdh78Mjj0
「そうしたらまあ、私が住んでいた領内に勇者が来たというではありませんか」
「そのうえ、我が一族の先祖が眠る墓を荒らして伝説の剣を持って言ったとか」
「更には、どういうわけか私に勇者との縁談話まで舞い込んできて」
「先代の勇者様には、あんなに努力しても会うことすら敵わなかったというのに」
「まあ、私もいい年して独り身を貫いてきましたし」
「弟に、あまり心配をかけるのも悪いかと縁談を了承しましたの」
「恋心を抱いたわけではないと、先ほど申しましたが」
「いざ、結婚するとなると現代の勇者様は一体どのような方なのか?」
「その人となりに興味が湧いてきましたの」
「なれば、勇者様に近しい方々から話を伺おうと」
「弟から陛下に口添えを頼み込み、素性を隠してこの勇者補助係に参ったというわけです」
遊び人「というわけで」
遊び人「勇者に恋焦がれて、コネを駆使し勇者課に配属された世間知らずのお嬢様」
遊び人「それが私の正体ですわ」
106 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:07:59.96 ID:Pdh78Mjj0
――――――
騎士「ん?」
商人の口が、あんぐりと開きっぱなしになり
賢者が首を傾げ、騎士が頭の上に疑問符を浮かべた
商人「いやいあいやいやいや!おかしいぞ!なんか話がおかしいぞ!」
口火を切ったのは商人であった
賢者「ああああの、遊び人ちゃん・・・じ女性に、こんなことを聞くのは失礼と知りながら申し上げます」
賢者「貴方は一体幾つなんですか!?」
遊び人「あらあら、本当に失礼な殿方ですこと」
遊び人「そうですわね。生まれて半世紀ほど経っていることは間違いありませんわ」
賢者「そ、そうか!変化魔法で若作り・・・」
遊び人「怒りますわよ!決して変化魔法なんて使っておりませんわ!」
遊び人「・・・我が侯爵家には、時より私のような超常の者が生まれると聞きます」
騎士「不老不死なのかい?」
107 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:08:26.97 ID:Pdh78Mjj0
遊び人「いえ、それほどのものではありません。エルフ並みの長寿と考えていただければよいかと」
商人「てことは、てことはだよ?話を整理すると、もしかして遊び人ちゃんって・・・侯爵家の?」
遊び人「いかにも、あなた方が勇者様に了承をとることなく婚姻関係を結ばせた」
遊び人「侯爵家娘とは私の事ですわ」
騎士「」
商人「・・・本当に?」
遊び人「もちろん」
賢者「い、いや、遊び人ちゃんが自身の疑いを誤魔化す為に大ぼらを吹いている可能性も否定できません」
商人「ま、まあそうだな。だいたい、知り合って半日そこらの俺たちに自分の来歴をこうペラペラ話すわけがない!」
遊び人「まあ!聞いたのは商人先輩ではありませんでした!?」
商人「そうだけども!・・・い、いや、そうですけども!」
遊び人「あら、言葉遣いは変えていただかなくて結構ですのよ。この職場では、貴方の方が先輩なのですから」
賢者「先ほどの言葉に嘘偽りはないと証明できますか?」
遊び人「証明は出来ませんが、誓って真実ですわ」
騎士「二人ともそこまでだ」
108 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:08:54.56 ID:Pdh78Mjj0
遊び人「騎士様・・・」
賢者「しかし、騎士さん」
騎士「そこまでだと言ったはずだよ賢者くん」
騎士「素性がどうであれ、君たちは私の部下だ」
騎士「そうである以上、私たちは一つのパーティーとして一致団結して事に臨んでもらう」
騎士「そうでなければ、とてもこの困難な仕事を打開できるとは思えない」
騎士「だいたい、寄ってたかって新人をいびるなんて社会人としてどうかしていると思わないのかい」
賢者「ま、まあ仰る通りですね・・・」
商人「そうだな、揉めてる場合じゃないか」
遊び人「あら、意外と素直」
商人「社会人として、上司に逆らうのはどうかと思うしな」
遊び人「前言撤回ですわ、素直でない方。まるで、思春期の男の子みたいで可愛いですね」
商人「な、なにおう!」
賢者「遊び人さん、言葉遣い!」
遊び人「あら、失礼いたしましたわ」
109 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:09:22.09 ID:Pdh78Mjj0
騎士が手のひらをパンパンと二回鳴らした
騎士が一日の締めに入ったのを察し商人と賢者が姿勢を正した
騎士「さて、そろそろ就業時間だね」
騎士「今日一日、本当にみんなお疲れさまでした」
騎士「たった一日で、これだけ懸案事項が増えることなんて滅多にないよ」
遊び人(あることはあるんですのね・・・)
商人(いや、ねえだろ)
賢者「残業はよろしいので?」
騎士「情報は出尽くした感もあるからね、今日はここまでにしよう」
騎士「ただ明日からは、一気に処理していくよ!」
商人「お!遂に、俺たちの逆襲が始まるわけですね!」
賢者「へえ、商人君がこんなに仕事に意欲的なのは初めて見ましたよ」
遊び人「なんだか、わくわくしてきましたわね」
賢者「それで、何か策はあるんですか騎士さん?」
騎士「う、うん」
騎士「ど、どうしようか・・・みんな?」
遊び人(台無しですわ・・・)
皆の白い目に晒され、騎士の額から青い汗がにじみ出した
騎士「し、商人君・・・なんか良いアイディアある?」
商人「もちろんです!と言いたいところですが、明日にしましょう」
賢者「何故です?」
商人「もう、五時です。アフターファイブと行きましょうや!」
声を上げた商人の右腕には、どこから取り出したか蒸留酒が握られていた
110 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:09:52.93 ID:Pdh78Mjj0
――――――
盗賊「大臣、補助係と二回目の接触に成功しました」
大臣「手際が良いな、あの厳重な警備をどうやって掻い潜っているのだ」
盗賊「一回目の接触と同様に、厠で手紙のやり取りを行いました」
大臣「二度、同じ手が通じたのか・・・近衛兵も大したものではないな」
盗賊「同じ手は通じませんでした。厠にて賢者と接触を図ろうとしましたが、近衛兵の監視の目が離れず失敗しました」
大臣「なれば?」
盗賊「今回接触に成功したのは、接触者が遊び人だったからです」
大臣「・・・そういうことか」
大臣「自らの手の者なら、監視する必要すらないであろうからな」
盗賊「と言うより、女性の厠までは流石に近衛兵も着いてきませんでした」
大臣「しかし、情報元が遊び人となると意図的に情報が捻じ曲げられている可能性も・・・」
大臣「まあいい・・・何か新しい情報はあったか?」
盗賊「お耳を」
盗賊(保管庫の中に、陛下の御遺体が隠されていたそうです)
111 :
◆CItYBDS.l2
[saga]:2017/12/05(火) 17:10:20.27 ID:Pdh78Mjj0
大臣「!」
大臣「なにか、証明できるものは受け取っていないのか・・・?」
盗賊「ここに」
大臣「よく部屋から持ち出せたものだな」
盗賊「あら大臣、御存じないのですか?女性には体の至る所にポケットが付いているんですよ」
大臣「貴様も冗談を言うのだな。それで?物を見せてみろ」
大臣「王家の指輪!」
大臣「・・・そうか、そういうことだったのか!」
盗賊「?」
大臣「兄王は既に天に召されておった!ならば、私がやることは一つだ!」
盗賊(兄王・・・?)
大臣「盗賊よ!貴族院議長及び衆民院議長の下へ走れ、行政府令に基づいて緊急に両議会を開く」
盗賊「こんな時間にですか?」
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