盗賊「勇者様!もう勘弁なりません!」

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1 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:29:33.93 ID:G6b6DZ3fo
――――――


何を考えているんだ!どうしてそうなるの!?くたばれ勇者!勘弁してください!
勇者を追う旅を続けて早一年
俺たちは、幾度この言葉を吐き出したことか


俺は、『勇者課勇者補助係』の一員、まあいわゆる公僕ってやつだ
虚飾を一切排した、実にお役所的で素敵な部署名だろ
お役所のネーミングセンスってのは、世間一般とちょいとずれている
一言で言うならば名は体を表すの極致ってやつだ


この部署、名結構気に入っているんだ
何故かって?
そりゃあ、『勇者』って言葉が入ってるからさ
だれだって、幼いころは英雄に憧れたことがあるだろう?
俺だってそうさ、今でこそ木っ端役人だがな
この俺が可愛い幼子だった頃、いや嘘だ、すまない
俺に、そんな時期は無かったな
正しくは「憎たらしい糞ガキだった頃は」だ
鼻水たらしながら、正義の味方になることを目指したもんさ


そんな俺がさ、仮にも勇者の名が入った部署にいるんだ
まるで俺も勇者パーティーの一員みたいじゃないか
ちょっとだけ、誇りを持つぐらい許されて然るべきだろ


まあ、素敵な部署名のことはさて置き、残念なことが一つある
『勇者』という素敵な響きと比べて、実際の業務内容は家畜の糞尿にも劣るってことだ
糞にも劣るもんなんて、俺は知らねえが、つまりは想像を絶するってことだ
お役所的に言えば、俺たちの仕事は『勇者の管理及び指導』
これじゃあ、ちょっとわかりにくいよな

勇者が魔王討伐の旅のさ中に、やらかした、しでかした物事を
適切な行政手続きに則り、解決に導く
要は、勇者の後始末部隊というわけだ
これが、実に憎々しい


この一年、俺たちは勇者にフルスイングで振り回され続けた
奴は手加減と言うものを知らないし、社会常識を知らないし、俺らの苦労も知らねえ
常に全力、常にクリティカルヒット、そして行き着く暇もなく次の問題を巻き起こす
しかも、無意識にだ


おかげで俺たち勇者補助係の目は、ぐるんぐるんに回っており
酔い覚ましに熱い蒸留酒をかっ込み、ゲロと勇者の悪態を吐き出す装置と化してしまった



ただ一人、最初からに勇者に心酔しきっている盗賊ちゃんを除いては

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1509874173
2 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:30:19.51 ID:G6b6DZ3fo

――――――

プロローグ

商人「勇者が、魔王に寝返りやがった!」

――――――
3 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:30:47.81 ID:G6b6DZ3fo


商人「おいおいおい!勇者は、魔王と和睦したって話だったじゃねえか!」


商人の怒気を含んだ声が辺りに響き渡る
魔王城を臨む小高い丘、索敵は既に済ましてあり
更に賢者によって張られた結界により、その声が魔物に届く心配はない

それを知ってか知らずか、商人は自身の感情をストレートに声にのせる


商人「勇者が魔王に寝返った!?俺たちを裏切ったってことか!?一体、どうなってるんだよ!」


商人「勇者め!世界を救うって約束したじゃないか!俺たちを要職に押し上げてくれるって約束したじゃないか!」


騎士「落ち着きなさい、商人くん。私たちは、そんな約束を勇者とした覚えは一切ないし」


騎士「なにより出世は、自力で頑張るものだよ?」


ひときわ大人びた声で、まるで子供を諭すかのように商人を諫めるのは騎士
頑強な肉体と、ガラスの心を一つの器に宿す最年長者にして勇者補助係の係長、言い換えれば現場責任者だ
その内ポケットには、彼のストレスとの戦う術
彼の精神を体現したかのような、繊細な胃を癒す薬が無数に蓄えられている


騎士「とりあえず詳細を聞こう、盗賊さん頼むよ」


盗賊「はい。魔王城は警備も固く、盗み聞きできたのはホンの一部ですけど」


盗賊の仕事は、情報収集だ
彼女は、義賊であった父親から数多の盗賊スキルを伝授されるものの
盗みを働いたことは無く、彼女の持つ盗みや殺しの技術は日々の生活に全くの不要で
あまつさえ、持て余していたほどだ 
その宝の持ち腐れという盗賊にとっては何とも皮肉めいた状況を、ひっくり返したのが大臣である
彼女のスキルを見出した大臣は、あろうことか囚われた彼女の父親、義賊の開放を条件に
その忠誠を得、果たして盗賊は穏やかな生活を飛び出し勇者補助係の一員となった
4 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:31:15.27 ID:G6b6DZ3fo


盗賊「はい。魔王城は警備も固く、盗み聞きできたのはホンの一部ですけど」


商人「魔王城に忍び込むだけでも、相当なものだよ」


盗賊「鍛えてますから」


盗賊「―――勇者様ですが、どうも王国への不信感を魔王にケシカケられちゃったみたいです」


盗賊「結論を言うと、魔王軍に勇者一行全員が参入する形になっちゃいました」


騎士「王国への不信感か・・・あちゃー、心当たりが多すぎて何の反論もできないなあ」


商人「は?心当たりなんて何もないんですけど。王国への不信感ですって?あのバカ勇者が、そんな人並みな考え持てるわけないでしょう」


商人「魔王が、実は可愛い幼女で、幼女趣味の変態勇者が一目惚れちまったってのほうが、まだ納得できるぜ」


盗賊「かぁ!!!!!」キッ


威嚇の声と同時に盗賊の目がカッと見開かれ、瞳孔が大きく広がる
手はカタカタと小刻みに震えながら、少しずつ腰の小刀へと伸びていく
勇者を冒涜した商人への殺意と同時に、一年を共にした商人への仲間意識、その二つのせめぎ合い
盗賊の葛藤が、その震える手からうかがえる

幸いにもその異常な姿は、商人に勇者への暴言を思いとどませるに至った


商人「ひぃ!すみません!言いすぎました!」


盗賊の勇者への心酔
彼女のそれは、既に信仰の域に達していた
5 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:31:45.10 ID:G6b6DZ3fo


賢者「―――商人君、心当たりが無いって言いました?貴方も一枚どころか二枚も三枚も噛んでるんですよ?」


商人「・・・?はっきり言ってくれ、どういうことだ?」


この旅の中、勇者の行動が要因となって起こった事件や、問題は
商人の悪知恵、突飛なアイディアによって打開されてきた
では、勇者補助係のエースは商人であるか?そう問われると、疑問である

なぜならば、商人ひねり出すアイディアは手続きの隙間、法の穴に針を通すものであり
これらを実現できたのは、あらゆる行政手続きを修め、その偉業をもって称される
勇者補助係の頭脳、賢者の力が大きかったからである


賢者「では、はっきり申し上げましょう」


賢者「平和のために邁進する勇者に、奴隷承認の肩書を押し付けたり」


騎士「あ・・・」


賢者「妙齢?の侯爵家の娘さんと、勇者を本人の同意なく結婚させちゃったり」


商人「う・・・」


賢者「挙句の果てには、本来ならば勇者に追いつき共に魔王に立ち向かうべき立場にありながら


賢者「職務放棄して合流を拒否しちゃったり」


盗賊「んむぅ・・・」


賢者の言葉が、皆に旅の思い出を想起させた
勇者に起因したとは言え、勇者を貶めかねない解決方法をとってしまったことへの罪悪感が
彼らから、反論の言葉を奪っていた
6 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:32:40.53 ID:G6b6DZ3fo


賢者「私たちの数々の悪行が、勇者に不信感を与えた。そんなところじゃないですかね?」


商人「さ、最後のはスピーディーに世界の平和を実現するために必要だったんだから不可抗力だ!」


賢者「不可抗力の意味はきちがえてますけど、まあ勇者からしたらそういうことでしょう?」


騎士「ぐうの音も出ないねえ」


盗賊「ぐぅ」


騎士「しかし―――まずいことになってしまったな」


騎士が空を仰ぐ、手にはロケットが握られている
その中には王国に残してきた、妻と娘の肖像画が入っていることを皆は知っていた


賢者「そうですね。非常にまずい」


盗賊「ああ・・・人類の救世主である勇者様が魔王に寝返ったなんて国に知れたら」


盗賊「多くの人々が希望を失ってしまうことは明らかですもんね・・・」


商人「いや、そうじゃあねえな盗賊ちゃん、ちょいとズレてるぜ」


商人の言葉に、盗賊が首をかしげる
7 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:33:06.75 ID:G6b6DZ3fo


盗賊「どういうことですか?」


騎士「私たちの仕事の結果が、勇者離反を招いたと大臣に知れたら・・・」


賢者「私たちは希望どころか、職を失いかねませんね」


商人「ああ、なんてことだ・・・。この仕事が終わったら、それなりの褒賞がもらえると思ってたのに・・・」


盗賊「み、皆さんはこの期に及んで、まだそんな保身のこと考えているんですか!」


盗賊「もっとほら、こう!あるでしょ!いろいろと考えることがっ!」


商人「大事な話だぞ、俺たちの生活が懸かってるんだ」


賢者「私たち独り身は、まだマシですよ。子持ち妻持ちの騎士さんを見てごらんなさい」


騎士「アワアアアアア」


盗賊「・・・むぅ」


騎士の狼狽ぶりに、盗賊が口を噤んだとき
その声は、4人に等しく届いた
8 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:33:33.05 ID:G6b6DZ3fo



『 政令207号に基づき 』



賢者「ん?商人くん何か言いました?」


商人「いや、俺は何も・・・」


騎士「こ、ここここれは・・・・」


盗賊「この声・・・」


抑揚が抑えられ、録音された機械音声のような無感情なそれは
対照的に、騎士と盗賊に多大な緊張感を与えた
二人は、声の主に心当たりがあった
かつて、職場でよく聞いた声



『 勇者課勇者補助係4名に速やかな出頭を要請する 』



商人「なんだ!今の声!頭の中に直接っ・・・!」


盗賊「あれ!?なんか光が!体中から光の粒が出てきてます!」


賢者「これは、召喚魔法!?」


騎士の顔から、赤みが消える
あらゆるところから、汗が吹き出し、涙がこぼれ、目は泳ぎ、足は震え、口は開き
遂には、職長足らんとするプライドまで放棄され、心の底から張り裂けんばかりの叫びが飛び出た


騎士「うわああぁぁああああ査問だ!ばれたんだ!勇者の件が、ばれてたんだあああああ!」




『 召喚魔法 サモン !! 』




瞬間、溢れた光の粒が最高潮に達し
魔王城を臨む小高い丘から、騎士の叫びと共に、4人の姿は忽然と消えた
9 : ◆CItYBDS.l2 [saga]:2017/11/05(日) 18:36:09.47 ID:G6b6DZ3fo
盗賊♀「ゆ、勇者様!もう勘弁してくださいっ///」

魔王「もし儂の味方になれば、有給をやろう」 勇者「ゆうきゅう」

上記SSの続きです。ゆっくり頑張ります。
今日はこれにて、失礼します。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/05(日) 20:01:20.47 ID:HAenH3rN0

勇者一行より補助係一行のほうが勇者してるように見える不思議
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