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【艦これ】提督「クソッタレな世界を」長門「生き残るために抗おう」【安価スレ】
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1 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:51:39.42 ID:5kjN12kv0
このSSは、なんやかんやあって深海棲艦化した艦娘(深海棲艦含む)と仲良く過ごしていくスレです。
>>1
は、16夏から先のことはよく分からないのでその辺りをご了承ください。
安価を出すところまでは書き溜めておりますので少々お待ちください。ウォスパ可愛い。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1509259899
2 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:52:31.20 ID:5kjN12kv0
「――全軍に、告ぐ。未来のため、に、命を棄てて、くれ」
声が震える。だが、それでも言わなければならない。
後ろには、下卑た笑みを浮かべる海軍大将と、銃をこちらへと向けている憲兵が。
軍の規律を守るための憲兵が個人と癒着しているなど破綻している。そう心の中で愚痴るが、何も変わらない。
玉砕命令が出されたことで、無線からは困惑の声が聞こえてくる。
――無理もない。突然『死ね』と命令されて『はいそうですか』となるわけがない。
いくら造られた存在の艦娘だとしても、心はある。彼女らは機械では、兵器ではないのだ。
だが、そう思っているのは自分だけ。他の人は道具としか思っていない。
どうしようもない事実がそこにある。
「――それは貴方の意志で出す命令か?」
胸を突き刺す冷たい声――我が鎮守府の艦娘の総括を務める旗艦『長門』のものだ――が無線から届く。
――怖い。
今まで苦楽を共にしてきた仲間から拒絶されるのが。
――だが、今自分がやったことが『それ』と同じことだ。
だから受け止めなくてはならない。
「どうした?提督」
「――ああ、俺自身の意志で出す命令だ」
――国のために、死んでくれ――。
3 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:53:34.78 ID:5kjN12kv0
言い切った。言ってしまった。
涙が止まらない。こんな命令を出す自分が惨めで。
死を恐れるあまり、仲間を切り捨ててしまった自分が愚かで。
「――了解。私たちが暁の水平線に勝利を刻む礎となろう」
優しく返された長門の声を最後に、無線から聞こえる音はノイズ一色となった。
心が壊れた音がした。
立つことすらままならず、地面に崩れ落ち、泣いた。ただひたすらに。
邪悪な笑い声が後ろから聞こえる。
――こんな世界、壊れてしまえばいい。
そして今世界を、自分を、呪った。
4 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:54:37.39 ID:5kjN12kv0
軍が所有する島への航路中。提督は甲板でただぼうっと突っ立っているだけだ。
「災難だったなぁ。部下が皆おっちんじまうなんて」
憲兵が近づいてきて嘲る。心底楽しそうな笑みを浮かべて。
「黙れ」
「あんたが悪いんだよ。深海棲艦の生態調査と嘯いて治療なんかしてさ」
「黙れ」
「大将の言う通りにしてればこんなことにはならなかったのになぁ!」
憲兵に腹を蹴り飛ばされる。もう暴力による痛みなど感じなくなった。
これは自分に対する罰。長門たちを死なせておいて、のうのうと生きている自分への。
「ほら立てよ。軍人ならシャキッとするべきだろ?」
言葉に従い立ち上がろうとする。同時に、空に暗雲が立ち込めてきた。
「はぁ。時化ってくるとかふざけんなよなぁ」
「そんな予報は無かったな」
「こりゃ揺れるな。あと少しで到着だったのに…ったく」
表向きには、天皇陛下から受け賜った艦隊を喪った罰として流刑されていることになっている。
――実際には、ただ秘密裏に行われる処刑でしかないのだが。
「ん?通信か。はいこちら警備部隊。…は?電探に感アリ?」
刹那、船体が大きく揺れる。
「つっ!」
「え…?あぁ…うわああぁぁぁあ!」
提督は衝撃に耐えられず甲板を転げ、憲兵は海へと投げ出された。
その後、砲撃が憲兵の落下地点に落ち、紅く染まる。
「深海棲艦か…!」
深海棲艦が現れる時、一定範囲の海域が時化るのだ。
このタイミングで出現したということは、当然だろうがこの船の撃沈だ。
どう足掻いても、ここで死ぬ。
人類では、艦娘に勝つことすら出来ないというのに、個々の性能で艦娘に数段勝っている深海棲艦に勝てるはずがない。
そして船に数発の魚雷が直撃、輸送船は爆沈した。
5 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:55:29.78 ID:5kjN12kv0
水底へと沈む体。肺の酸素が、次第に増していく水圧で押し出される。
歪んだ視界が捉えた幾重もの光。そのどれもが蒼い輝きを放っていた。
――予定よりは早く死ぬな。まぁ、自業自得ではあるか。
提督は嘗ての行いを振り返り自嘲する。『部下殺し』を犯した自分は死んで当然だ。
自分を信じて戦ってくれていた部下を見殺しに、いや『死ね』という命令を下した。
自分の命が惜しかった。ただそれだけで。
――何級だか知らないが、殺すならサクッと頭を潰してくれ。
然るべき報いが来ることを内心歓喜しながら、ニヤリと笑う。
――俺は痛いのが苦手でね。
意識が保てない。既に、脳への酸素の供給は止まっていた。このまま放っておいても、自然に命を落とすだろう。
――ドザエモンにする気とはえげつないな。苦しいじゃないか。
化けて出てやる、と死の間際に冗談を言い、意識を手放した。
――眼前にいた、白髪の女性に妙な既視感を覚えて。
6 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:56:58.17 ID:5kjN12kv0
――思えば、昔から自分は駄目な人間だった。
病弱な母の手助けもせず、部屋で本を読んでばかり。
学校では誰とも話をすることがなく、いつも図書室の片隅で本を読んで隠れていた。
気に掛けてくれた先生を避け、学校から逃げ出すこともあった。
本を読んで、勉強も怠ってはいなかったのに、秀才と言われるほどの頭も無かった。
そう、自分はどんなに頑張ろうと凡才でしかなかった。
実際には凡才以下だったのだろうが。
そして、無意義に過ごしていたある日、大本営から『赤紙』が送られてきた。
今まで迷惑を掛けた罪滅ぼしに、と軍属を選ぼうとする自分を母は必死に止めた。
だが、そんな母を振り払って海軍へと進んだ。その時の泣きじゃくる母の顔は、今でも忘れることができない。
どうしてその時母は泣いていたのか、今なら分かる気がする。
きっと母は、寂しかったのだ。
――今の自分ですら、寂しいのだから。
ただでさえ病弱で、夫はいなかった。そして、唯一の子供である自分が外に出ていく。
病弱なせいで心細かったであろう母に対する最低な親不孝だろう。
今、親不孝を重ねているのだが。
親より早く死ぬなど、それこそ最低だ。殉職手当で補えるものではない。
――どうしようもない息子でごめん。
それが、自分の言える懺悔の言葉だった。
7 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:58:05.22 ID:5kjN12kv0
海軍兵学校に入学して、一番に驚いたのは、艦船に乗って戦うのではなく、『艦娘』という船の魂――船魂という――を宿した少女たちを率いて戦うことだった。
実際に鎮守府に派遣され、眼にした少女はあまりにも非力に見えた。
その数瞬後にはバーベルのように持ち上げられていたが。
必死に采配を考え、引き際を見極め、何とか艦隊を維持してきた。
何度目かの大規模作戦の後。静かな夜に合わせるかのように、それは流れてきた。
「ウ…ァ…」
白い髪をした女性が砂浜に倒れていた。デスクワークの気晴らしに、と歩いていた時に、それと出会った。
「グゥ…!」
女性は立ち上がり、よろめきながらもこちらを睨む。しかし、また地面に倒れ伏す。
素人目に見ても酷い傷をしていた。頬には深い切り傷があり、全身の四割ほどが煤けていた。
恐らく戦闘で負った傷なのだろう。そして、態度からして彼女が敵だということはよく分かる。
「ウ…ウゥ…」
何度立ち上がろうとしても、手、足に力が入らないのか震えてばかりの女性。
敵なら助ける道理はない。だが、見捨てたら人として終わってしまう気がした。
「立てるか?…無理、だよな」
「触ル…ナ…」
この傷でよく意識があるな、と感心しながら、女性を背負う。
「っつつ…。文系にはしんどいな」
「ヤ…メ…」
体をもぞもぞと動かして、細やかな抵抗をする女性。
だが、傷ついた体では満足な抵抗も出来なかった。
「…辛いんだろう。だから助けるだけだ」
「これは、俺個人の意志で行うことだから。大丈夫、酷いことはしないよ」
「ウ…」
提督がそう言うと、抵抗を止める女性。無駄だと判断したのだろう。
満月の浮かぶ空を見て呟く。
――今日のことは一生忘れないだろうな。
8 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:58:44.15 ID:5kjN12kv0
眼が覚めると眼前には綺麗な天井が映っていた。
――ここはどこ?
女性――空母ヲ級――は思考する。
提督と思しき男性に背負われたところまでは憶えている。しかし、その記憶と今の状況が結び付かなかった。
――牢屋には見えない。恰好もおかしい。
清潔な白一色に染められた部屋。右腕には点滴の針が刺さっており、捕虜の恰好とは思えない。
ここは医療施設だ。まさか、あの男が――。
思考は、扉の開かれた音で中断された。
「…良かった。起きてたんだな」
ヲ級は訝しむ。男の手の上にあるトレーの中身は何なのか推察する。普通のオートミールなのか、それとも毒入りのものなのか。
「…警戒して当然か。ちょっと待ってて」
男――提督――は、その考えを見透かしているかのように行動する。
一口、そのオートミールを口にする。
「毒入りじゃない、と理解してくれればいいんだけど、な…」
自分よりも体の弱い男が食べたのだ。毒は無い。そう判断してヲ級は受け取る。
「…行動デ示シテクレテアリガトウ」
男は驚いたような顔をするが、すぐに微笑み答える。
「どういたしまして」
――彼なら信じてもいい。
些か早計だ、と心の片隅では思っていながらも、目の前の男が嘘を吐けるほど出来た人間ではない、と考える。
――なら、今はその好意に甘えよう。
口にしたオートミールは優しい味わいで、とても美味しかった。
9 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 15:59:33.38 ID:5kjN12kv0
「ドウシテ貴方ハ提督ニナッタノ?」
それは素朴な疑問。
提督は、ばつが悪い顔で答える。
「――逃げたかったんだろうな。きっと」
「逃ゲタカッタ?」
ヲ級はもう一度問う。しかし、返答は無かった。
「…ゴメン」
「君が気にすることじゃないよ」
提督は頭を撫でる。ぎこちなくはあったが、そのぎこちなさが心地良い。
「体は大丈夫か?」
ヲ級は首を横に振る。
「そうか…」
提督の顔が険しくなる。無理もない。今の彼は敵を匿っている反逆者だ。大本営にバレてしまえば銃殺刑は免れない。
「モシモノ時ハ、私ヲ殺セバイイ」
どうせまた生き返る、と言おうとしたところで、遮られた。
「殺すとか殺されるとかは嫌なんだ…。それに、君とこうして話が出来ているんだ…。なら、きっと他の人とも…」
――ああ、彼は優しすぎる。
ヲ級は思った。優しいが故に、非情になり切れないのだと。厳しく出来ないのだと。
「貴方ハ優シイネ。デモ、ソレガ貴方ノイイトコロ。無クサナイデネ」
貴方のそういうところが私は好きだから、と続けたら、提督は涙を流した。
「そんなことを言ったのは…。君と長門だけだよ…」
それは嬉し涙ではなく、虚しさから来る涙だったことをヲ級は知らない。
10 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:00:44.32 ID:5kjN12kv0
ヲ級との対話を終え、部屋を出る提督。すぐ傍の壁には、長門が寄りかかって立っていた。
「…すまない長門。このことは内密に…」
対する長門は平然と言い放つ。
「はて、何のことやら。私が見たのは、怪我をした民間人の手当てをする優しい提督だけなのだがな」
「え…?」
「ほら、食器は私が洗っておくから提督は休むんだ。彼女のことが気になって碌に寝てないだろう?」
――これが、連合艦隊旗艦の、日本を背負っていた艦の器の大きさか。
伊達ではない、と内心感嘆しながら、謝辞をする。
「ありがとう…。このお礼は今度必ず…」
「ふふふ。それなら今度酒でも共に嗜もうか」
「それくらいならお安い御用だよ」
手を振り給湯室へと歩いていく長門を見送る。
――やっぱり、長門には敵わないな。
11 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:02:09.05 ID:5kjN12kv0
――懐かしい記憶だ。
これが俗に言う走馬燈なるものなのだろう。きっと目を開けば閻魔大王とご対面だ。
さあ、どんな地獄を宛がわれるのか楽しみだ。
目を開くとそこには――。
――苔生した岩が見えた。
理解が追い付かない。たしかにあの時死んだはず――。
――意識を失っただけか?
だとすればここはいったい。
纏まらない思考を纏めようとするが、余計に悪化していく。
しかし、すぐ傍にいた『それ』を見た瞬間、思考が全て止まった。
「…ふふふ…。目が覚めて良かったよ」
「長…門…!?」
間違えたのかと思った。だが、間違っていなかった。あの時既視感を覚えた『それ』は、長門だったのだ。
「その…恰好は…」
綺麗だった長い黒髪は真っ白に。その亜麻色の瞳は朱色へと変わっていた。
「既に私『たち』は艦娘から離れた存在でね。深海棲艦に近い存在なのさ」
「――おれの所為か」
「原因としてはある。だがそれはきっかけでしかないよ」
これは私『たち』の意志だ。長門ははっきりとそう答えた。
「俺が悪いんだろう!憎いんだろう!ならば殺せ!それでお前たちが救われるなら喜んで…」
「――私『たち』は恨んではいないよ。寧ろ、貴方を救いにきたんだ」
「――」
「む…。頭がパンクしてしまったか?なら、一つ一つ教えていこうか」
12 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:03:01.10 ID:5kjN12kv0
「――まず、提督が無理していたのは全員にバレていたよ」
やっぱりか、と提督は落ち込む。あれほど声が震えていたのだから、当然かもしれないが。
「いや、寧ろバレて正解だったさ。もし、貴方自身が出した玉砕命令だと判断したなら、私たちは純粋な深海棲艦になっていたよ」
理解が追い付かない。大本営のデータベースには『沈んだ艦娘は全て深海棲艦と化す』と記されていたのだから。
「あながち間違いではないな。厳密には、憎悪や虚無感といった負の感情を抱いたまま沈めば『そうなる』のさ」
「私たちの心にあったのは『貴方を救いたい』という想い。それだけだ」
「…俺を救う理由なんて無いだろう…」
提督は、消え入りそうな声で呟く。その心は、もう壊れていた。
たとえ、信頼している人に再会しても、彼女らを裏切った自分の罪は消えない。
寧ろ、そんな愚かな自分を許容する彼女らを見て、どれほど愚かな存在だったのかを痛感させられている。
「…なら、なぜ貴方は泣いていたんだ?」
「それは――」
言いたくても言えなかった。男としてのプライドという、醜いものがそれを許さない。
「そんな顔をするな。抱きしめたくなってしまうよ」
クス、と女の子のような笑みを浮かべる長門を見た、提督の心は限界を迎えた。
「抱きしめろ。そして、そのまま縊り殺してくれ」
もう生きたくない、辛い思いをしたくない。提督はそうはっきりと言った。
「――生きるということは、苦しさの連続だよ。艦としての記憶が殆どの私が言うのも何だがな」
長門。日本を背負い、いや、背負ったが為に戦うこと――兵器としての使命を果たすこと――が出来なかった。そして、最期は水爆の標的艦にされ、水底で眠りについた。
そんな彼女が言う苦しさは、常人の考えられるそれではない。だが、提督の心は悲鳴を上げる。
「貴方は、私たち『兵器』を『人間』として見てくれた。『人間』として生きることの歓びを教えてくれた」
「私たちにとってはそれで充分なのさ。救う理由なんて、な」
壊れたはずの心が軋む。彼女らの想いを踏み躙ってもいいのか、と。
「…意味が分からないんだよ…!どうして俺を救おうだなんて…!」
提督の中では、彼女の言っていたことと、自分を救うことが結びついていなかった。
13 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:03:44.51 ID:5kjN12kv0
「なに、単純な推理さ。提督が出すような命令ではなかったからな。脅迫されている、と考えれば、あの行動にも納得がいく」
「態々全滅させるんだ。貴方を殺すための口実作り、といったところだろう」
淡々と進めていく長門。しかしその目は、真っ直ぐに提督を見つめていた。
「私は、貴方が殺されることなどあってはならない、と思っているからな。それに――」
――彼女たってのお願いだ、断れんよ。
と続けた。すると、岩陰から顔を出す女性が一人。
「君は――」
そこにいたのは――。
「わ…私のこと…。憶えて…る…?」
――間違いない。この頬の傷痕を持つ女性など一人しか知らない。
「ヲ…級…!?」
14 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:04:20.38 ID:5kjN12kv0
「私の名前ってそっちだとヲ級なんだ…。私に名前なんか無いんだけどね」
でも憶えてくれてて良かった、と微笑むヲ級。
「まぁ、敵として戦っていた以上、識別する必要があるからな」
そこに、提督が『ヲ級』と呼んだ理由を説明する長門。
ヲ級は納得したようで、本題を切り出す。
「私、あそこを逃げ出してからずっと提督を見てたの」
「もし、命に危険が及んだ時に助けてあげられるように」
「そして、長門たちが沈んだから提案したの」
――私たちと一緒に提督を助けよう、って。
ヲ級は、はっきりとそう言った。
15 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:05:11.69 ID:5kjN12kv0
対する提督は未だに理解出来ないでいた。
「何で君まで俺を助けようとするんだ!」
――理解は出来ている。だが、納得したくないのだ。
どうしようもないほど愚かな自分を助けようとする人がいることを。
「私は言ったよ。貴方の優しさが好きって」
「私は貴方の優しさに救われたから。だから、今度は私が助ける番なんだ」
「――」
もう嫌だ。彼女らに自分の存在が肯定される度に、自分を否定したくなってしまう。
「…まったく、世話の焼ける方だな」
呆然と立ち尽くす提督を、抱きしめる長門。慈愛に満ちた声で、優しく囁く。
「たとえ姿が変わっても、私は私だ。貴方を慕い、貴方を愛し、貴方のために戦う、長門型一番艦。連合艦隊旗艦の長門だ」
「それでも、貴方が私たちを拒むのならそれでいいよ。だけど――」
――自分を否定するのだけはやめてくれ。
言った。言い切った。一切の隠し事をせず、本心を伝えた。
提督は、それを拒もうとした自分に嫌悪感を抱いて、泣いた。
「ごめんな…。ごめんな…!長門…皆――」
――情けない提督でごめんな。
長門は微笑み、答える――。
――情けなくなどない、人間らしくていいじゃないか。
「うあぁ…。ああぁぁぁあ…」
枯れたと思っていた涙が、また目から流れていく。
壊れていた提督の心が、少しだけ癒えた。
16 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:05:56.13 ID:5kjN12kv0
涙は止まり、心は落ち着いた。冷静になった提督は、話を切り出す。
「…俺を助けた理由は分かったよ。だけど、目的が分からないんだ」
「目的は、提督と共に生きることさ。後は貴方の指示に従うだけだ」
即答する長門を見て、提督は苦笑する。
「欲を出してくれた方が嬉しいんだがな。俺は君たちに償いがしたいんだから」
「それなら、私たちと一緒にいると約束してくれ。別れるのは辛いからな」
またもや即答。
「…それ前提での話なんだが」
提督は頭を抱える。話が一向に進まないのだ。
「そうだ。私の仲間を紹介するね」
突然、手を叩いたヲ級がそう言った。
「仲間…って深海棲艦の方たちか?」
「うん」
ヲ級は当然のように頷いて肯定するが、提督の心には不安がよぎる。
「…深海棲艦化した長門たちはまだいい。完全に敵の立場の俺は排斥されるんじゃないか?」
提督の疑問はもっともだ。現時点で、提督が味方だと証明できるものはない。
元艦娘の娘らが証言することで、証明することは不可能ではないだろうが、失敗する確率が高い。
だが、ヲ級はその考えを否定する。
「私が逃げた時に助けてくれた仲間だから大丈夫。怖がらないで」
提督の顔を胸に沈める、ハグのおまけつきで。
「分かった。分かったから離してくれ」
必死にもがいて抵抗する提督。その光景を見ている長門はただ、微笑んでいた。
17 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:06:33.79 ID:5kjN12kv0
「…君が言うことなら、信用するしかないな」
「ありがとう」
解放され、手で顔を隠しながら提督は言う。それに対して、ヲ級は平然と答える。
「しかし…。これからどうすればいいんだろうな…」
ため息を吐き、岩の隙間から見える水中を眺める。
この場所は異常だと理解できた。少なくとも、水面から射す光量から見て数百m以上の水深の場所に、ここは位置している。
眼前の光景から、ここが水中にあることも理解できるが、水が入ってこないことが疑問だ。
「水が入らない理由は、空気の膜で隔絶しているからさ」
「ナチュラルに心を読まないでくれ」
長年の付き合いだ、と言う長門を見て頭を抱える。考えが読まれるって辛い。
「この場所は、鎮守府の施設を再現してる場所だよ。もう鎮守府と呼んでいいと思う」
そうか、と返し、この後どうするかを考える。
海水でベタベタになっていると思った体は、綺麗になっている。
おそらく、誰かが風呂に入れたか、体をタオルで拭いたりしたのだろう。
――迷惑を掛けたな。
そう心の中で謝罪し、行動を考えるがなかなか纏まらない。
出来の悪い頭が恨めしく感じた。
どうする?ナニする?↓2
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 16:08:00.62 ID:hly1S63Ro
長門以外の艦にあえないか?
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 16:14:04.58 ID:8vzxwIhD0
上で
20 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:18:01.43 ID:5kjN12kv0
誰に会いたい、とかのリクエストがあれば直下にどうぞ。無ければ自分の鎮守府から何人かピックアップします。
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 16:22:44.78 ID:DpZn0rmUo
陽炎
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 16:23:34.78 ID:zbGFGW6ao
羽黒
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 16:23:37.99 ID:hly1S63Ro
お任せします
24 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 16:49:02.68 ID:5kjN12kv0
十分ほど考えて、ようやく思いついたのが他の艦娘と会うことだ。
だが、まだ長門とヲ級しか見ていない提督としては、他の娘の安否を確認したいのだ。
提督は立ち上がり部屋を出ようとするが、ここがどこなのかすら分からない。
立ち上がった提督を見て、長門とヲ級は部屋を後にする。
その時に長門がアイコンタクトをする。
――貴方に会いたい娘がいるから、待っていてくれ。
提督は首を傾げながらも、了解の意を示す。
椅子に座って、見慣れない天井を見上げる。お世辞にもいい光景とは言えない。
しばらくすると、ドアの付いていない入口から、大きな黄色いリボンが首を出す。
そして、ひょこっと顔を出し、笑顔を浮かべる。
例によって、髪色や瞳の色が変わっていたが、明るい雰囲気から誰かは理解できた。
「司令〜!やっぱり無事だったのね!」
小走りで近寄ってくる陽炎。
その目尻には涙が溜まっており、今にも零れだしそうだった。
「陽炎か…。あの時は済まなかった…」
提督は誠心誠意、深々と頭を下げる。
それを見た陽炎は、提督の頭を掴み、上を向かせた。
「別に私は怒ってないわよ。怒ってるのは…浦風ね。後で顔合わせしてあげなさい」
提督の表情が曇る。普段温厚な浦風が怒っているのだから、よっぽどのことだと思ったからだ。
しかし、浦風もここにいることが分かって内心、安堵していた。
25 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 17:17:20.31 ID:5kjN12kv0
「まったく…。司令の置かれていた状況を知っちゃったら、私は怒ったりできないわよ」
蒼白い瞳が、真っ直ぐに提督を射抜く。その視線に耐えかねて、提督は目を背ける。
「はぁ…。そんな後ろ向きな司令は好きじゃないわ」
陽炎は手を離し、踵を返す。そして、再度口を開く。
「早くいつもの司令に戻って。いつもの司令と楽しく話すのが、私は一番好きなのよ」
ばーい、と手を振り部屋を後にした陽炎。先ほどまで手が添えられていた頬に手を当て、提督は下を向く。
「情けないな…。何もしてあげられない自分が…」
陽炎の手が震えていた。心に深い傷を負っていたはずの陽炎に、励まされた。
しかし、自分はそんな陽炎に何もしてあげられなかった。
そんな自分が、情けなかった。
「…俺が生きてる意味は、あるのかな」
何も出来ない自分が恨めしい。
そんな気持ちを表す言葉が、無意識のうちに口から出ていた。
「…駄目だ。こんなことを言っていたら。前向きにならないと」
顔を数回殴り、思考をリセットする。
「…痛いな。憲兵に殴られた時は何も感じなかったのに。なんでだろうな」
心が少しだけ癒え、痛みを痛みと認識出来るようになった体が、危険信号を脳へと伝えた。
「どうすればいいのかな…。皆に許してもらえるには…」
赤くなった手を見て呟く。その言葉を、陽炎は聞き逃さなかった。
「司令が思い詰めることは無いでしょ…!悪いのは大将たちなんだから…!」
蒼白い瞳は光を帯び、海中へと向けられる。
「司令をここまで追い詰めた責任…。いつか償って貰うわよ…」
陽炎は音を立てず、部屋へと戻った。
Hey提督!次やることを教えてくだサーイ!↓2
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 17:20:04.92 ID:ON/HAjfF0
味方の人数と拠点の確認
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 17:32:01.37 ID:9XHi10X2O
↑
28 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 17:33:22.89 ID:5kjN12kv0
拠点はどこにしますでしょーか。サーバー、地名、好きなものを直下にお願いします。
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 17:36:39.65 ID:ULEweRtK0
リンガ
30 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 18:02:57.93 ID:5kjN12kv0
※元々居た鎮守府は
>>1
のを流用します。
提督は、未だ深い闇に包まれている外を見る。
僅かな光が照らしているそこは、本でしか見たことがない神秘的な景色。
だが、自分一人ではそこには行けない。入った直後に水圧でお陀仏だ。
先ほどの陽炎の顔を思い出す。喜んでいるようで、悲しんでいるようにも見える表情を。
そんな表情をさせてしまった自分に嫌悪感を抱きながら、これからどうするべきか考える。
「色々と知らないとな…。ここのことも、皆のことも」
現時点の状況を理解しなければ、行動を起こすことが出来ない。
そう判断した提督は、長門を捜しに行く。
部屋を出て、廊下を歩く。上も下も、全てが苔生した岩で構成されている。
左を見れば、辺り一面に海があり、右を見れば岩がある――。
――見れば見るほど不思議な場所だ。
そんな思いを抱きながら、あてもなく捜し続ける。が、後ろから声を掛けられてそれは中断された。
「話は終わったようだな。どうだった?」
いつものように、余裕を持った表情を浮かべる長門とは対称に、提督の表情は険しい。
「…前向きになれ、と言われたよ」
長門は顎に手を当てて微笑む。
「当然だな。もっと前向きに考えるべきだ。貴方は」
その言葉を聞いて、提督の表情は曇る。
「忘れてしまったよ…。前向きに考えるのがどんな感じだったか」
「…言い方が悪かった。いつものように振舞ってくれたらいい、ということさ」
「…頑張るよ」
長門は提督の手を握り、先導する。その間に、長門は一言呟いた――。
――私たちの期待が、存在が重みになっているなら、哀れだよ。私たちも。
31 :
◆k5OCMHkyEc
[saga]:2017/10/29(日) 18:20:48.42 ID:5kjN12kv0
長門に手を引かれて辿り着いた部屋には、妙に小綺麗な机と箪笥があった。
「出来る限り、執務室を再現してみたんだ。どうだろうか」
周りを見渡すが、壁が岩であること以外は元鎮守府のそれと変わらない。
「…凄いな。ここまで再現出来るのは」
「駆逐艦の娘たちが張り切ったからな。褒めてあげてくれ」
そうする、と返事をし、机の引き出しを開ける――。
――元鎮守府ではそこに名簿が入っていたはずだ。
その考えは当たっていた。そこには、綺麗に整頓された艦船名簿が入っていた。
パラパラと流し見ていくが、変わっているところは写真以外にはない。
いや、深海棲艦の者が増えてるところは大きく変わっている。
「人数は…結構増えてるな。場所も、ここはリンガ付近か。だいぶ遠くまで運んだんだな」
「追撃から逃れるためさ。仕方ない」
元鎮守府はラバウル。激戦区として名高かったエリアだ。
「ん…?」
気になるページがあったので、少しだけ戻る。
そこには、給糧艦である間宮や伊良湖の書類まであった。
「…どうして彼女たちもいるんだ」
その疑問はもっともだ。給糧艦は、その性質上戦闘には出れない。即ち、轟沈しない。
沈むことがない彼女たちがいるのはおかしかった。
「元鎮守府からスカウトしてきたのさ。一人でも欠けているのは嫌だろう?」
「…本気過ぎて怖いよ」
ここまでキッチリと準備していることが何より怖かった。
――もし、ここで自分が断っていたら。
そう考えたら身震いする。
「…ますます引くわけにはいかなくなったな」
頭を抱え、ため息を吐く。そして、腹を括った。
照らす月の下で安価です!↓2
本日は一旦終了します。続きは夜11時頃です。
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 18:28:26.69 ID:ET6Fn7UI0
旦乙
安価下
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 18:35:00.44 ID:n8BAt1O0o
深海の子達ともコミュニケーション取っておかないとね
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 20:20:22.90 ID:Zu6b0YhQ0
一旦乙
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/29(日) 21:50:04.31 ID:qBLoBvVFo
どうする?的な安価で進むってことは安価の取り方次第でクーデターを起こす戦闘スレにも単なるイチャイチャスレにもなるってことかな?手広いな
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