【艦これ】吹雪「吹雪と吹雪」

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5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/25(水) 17:10:30.84 ID:i+LYJHVb0

摩耶「あったりめーだろ!てか私以外もみんなそんな感じだぞ?よく見てみろ」

そう言われて私はシートベルトを外し、マイクロバスの車内を見渡す。

不眠症の川内さんは耳栓とアイマスクをつけ眠っている。その隣で夕立ちゃんと同じ様に外の景色をみている神通さんが目に映る。

後ろを見た。一番奥の後部座席では榛名さんを除く三姉妹がポッキーゲームをして盛り上がっていた。

赤城さんはいつもどおり黙々と何かを食べている。

榛名さんはというと、一番前の席で提督と楽しそうにお喋りをしていた。

結構盛り上がっていたみたいだった。

私は座席に座りなおし、シートベルトを締める。

瑞鶴「さっきから吹雪静かじゃない。体調悪いの?」

前の席から瑞鶴さんが顔を出し、心配そうにこっちを見た。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/25(水) 17:11:06.06 ID:i+LYJHVb0
瑞鶴「慣れないバスで酔った?」

吹雪「いえ!全然大丈夫です!」

瑞鶴さんの隣からもう一つ顔が現れ、私を無表情で見つめた。でもほんの少しだけ、瑞鶴さんと同じ様に心配そうにしているのがわかった。

加賀「酔い止め、あるから飲みなさい吹雪」

背もたれから腕を出す。その手には猫の顔があるポーチがあって、加賀さんは中を確認しながら取り出した白い錠剤を二つ私に渡した。

瑞鶴「さっすが加賀えもん!ほんとよく持ってるわね、そういうの」

加賀「備えあれば憂いなしです。あとロキソニン、胃痛薬もあるから痛くなったら言いなさい」

そう言って無表情で親指を立てる。笑っていいのかな
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/25(水) 17:12:35.65 ID:i+LYJHVb0

瑞鶴「吹雪飲み物ないわね。私の緑茶あげるから飲みなさい」

ペットボトルの緑茶を渡される。

加賀「緑茶はカフェインとタンニンが含まれているから飲み合わせが悪いわ。私の水を飲みなさい」

ペットボトルの水を渡される。

摩耶「んだよ、ジジイ臭えな。吹雪は大人だからな、コーヒーで飲むんだよ」

缶コーヒーを渡された。

それを見た加賀さんはため息をつき、眉間を抑える。

加賀「摩耶。あなた私の説明聞いてたのかしら?カフェインは厳禁...」

摩耶「そんなもん大して変わらねぇよ。あんま神経質すぎると、返って体に悪いぜ?」

瑞鶴「てか加賀さん吹雪にいいとこ見せようと必死すぎじゃない?なーんか癪なんだけど」

加賀「事実だから仕方ないじゃない」

吹雪「そもそも私飲むなんて言ってないんですけど....」

神通「吹雪さん、飲んでおきなさい」

いびきをかいて眠っている川内さんの奥から神通さんが顔を出してそう言った。うるさくてたまらない。そんな風に見えた。さっさと飲まして静かにしたいんだろう。

神通「あなた酔いやすいんだから。初めて海に出た時、ろくに滑れないからすぐ酔って吐いていたじゃないですか。バスも同じことです。酔わないうちに、飲んでおきなさい」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/25(水) 17:13:51.33 ID:i+LYJHVb0

それもそうだ。私は初めて海に立った時、まともに立てず、しまいには一歩も歩くことができなかった。おまけに揺れ続ける海の上で吐いた。

大人しく私は酔い止め飲むことにする。口に錠剤を入れ、渡された三つの飲み物を太ももの上に置き、どれで飲むか考える。妙に視線を感じるのは我慢して。

瑞鶴「その薬って食後?食前?」

瑞鶴さんがふと呟いた。

加賀「大抵の薬は食後ね」

瑞鶴「吹雪、さっきから何にも食べてないよね」

摩耶「チョコしか食ってないな」

加賀「摩耶」

摩耶「がってん!」

後ろでがさごそと物を漁る音が鳴り響き、少し収まってからすぐに、目の前にたくさんのお菓子が現れた。チョコやポテチ、飴にガムになんでも揃っている。

加賀「さあ、錠剤を吐き出して。まずはどれでもいいから食べなさい」

吹雪「もう飲みたいんですけど...」

瑞鶴「にしてもよくこんなにお菓子持ってるわね摩耶」

摩耶「休日のドン・キホーテは私の縄張りだからな!」

加賀「ガムとチョコはダメよ。体に悪いから」

口に色々と突っ込まれる。そして瑞鶴さんも面白そうに袋を開けると私の口に突っ込んでいく。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/25(水) 17:14:45.80 ID:i+LYJHVb0

金剛「Hey!!摩耶!duet time!!are you ok!?」

バス全体に金剛さんのテンションの高い声が響いた。それと共に歓声が上がり、大きな拍手の音も響く。

摩耶「おーけーい!!」

天井にあるテレビに映像が映し出され、大音量で音楽が流れ始めると、カラオケ大会が始まった。音楽が古い、私でも知ってる軍歌だ。

神通「まったく、うるさい人たちですねもう...」

相変わらず眠っている川内さんの隣で神通さんは呆れ顔をして、眠り始めた。

加賀「次は赤城さん、一緒に歌いましょうか」

ふと私は思い出す。こういう時一番楽しんで、盛り上げてくれる夕立ちゃんを。

ずっと静かな隣を見た。さっきと変わらず、夕立ちゃんは憂鬱そうな顔をして、外の景色を眺めていた。

それからずっと。目的の鎮守府につくまで、ずっとだった。

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10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/25(水) 17:16:05.18 ID:i+LYJHVb0
今日はおしまいです。またがんばります。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/25(水) 17:23:23.31 ID:i+LYJHVb0
すみません。摩耶さんは私じゃなくてアタシでした。間違えました、すみません。気をつけます
12 :全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる [sage saga]:2017/10/25(水) 18:22:36.69 ID:g2Bz3iFc0
風潮被害実は吹雪が艦これでダブる現象の意味で有る

決して死亡した某ラノベ作家のネタの苺大福バイトで出た元ネタはもっとエグイ

キミキス黒歴史編が無ければ人気が出なかった大和と武蔵の嫉妬作家が描いたボディビル系女子ではない
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/27(金) 18:19:02.96 ID:t7Ac5PzT0

冷たい潮風。11月の風は夏場の涼しいと感じる風なんかじゃなくて、身に染みる、どこか痛さを感じる。

私達は目的の鎮守府に到着すると、すぐに大広間に移された。ここを共同に使って寝てほしいっていっていた。

その後司令官から明日から演習を始めると説明を受け、演習でやってきた艦娘と証明するカードを渡された。

肌身離さず持つようにと司令官は釘を刺したので、私はそれをポケットにしまう。

そして榛名さんと司令官はすぐに他の偉い人たちに挨拶回りをしに出ていった。

そしてみんな思い思いのことを始めた。枕投げを始めた人もいれば、相変わらず寝る人。

甘いものが苦手な事を隠し、無理して食べたせいで、気分を悪くしてトイレに駆け込む人。

私は少し酔ったから外の風をあたりに行こうと思い、今日一日中ずっと静かだった夕立ちゃんを誘った。

けど布団に伸びたまま手を振り、断られた。仕方ないから一人で回ることにした。

それにしても寒い。北海道の留萌ってところにある私達の鎮守府だけど、オホーツク海から流れてくる風の冷たさは、一段と違う。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/27(金) 18:19:55.34 ID:t7Ac5PzT0

私は手に白い息を吹きかけながら散策する。海岸沿いを歩き回り、防波堤へ。

そして戻っては色んな施設を見て回る。でもどれもこれも似たような建物ばっかりでつまらない。それに中に入れるわけじゃないから、なおさらつまらない。

そうこうしてフラフラと歩き回ると、私は人影を見つけた。たくさんいる、五人だ。少し近づいて、その人影が誰なのかを確認する。

加賀さんがいた。その後ろには北上さんと大井さん。そして疲れて苦しそうにしている朝潮ちゃん。あともう一人は、倒れ込んでいるからわからない。青色のセーラ服を着ているのを見ると、私と同じ吹雪型の駆逐艦なんだろう。

私は挨拶をしようと思って近づいた。

吹雪「あの、こんにちわ。出撃から帰ってきたんですか?」

それを聞いて吹雪型の人以外、みんな私の方を見た。

目が合った瞬間、私は背筋がぞっとした。何でかはわからない。

でも、嫌な汗が背中にまとわりついて離れない。まるで幽霊を見たみたいだ。そう感じた。

加賀「....あなた所属は?任務時間外は外出禁止なのは知っていますね」

そう言いながら私に詰め寄る。私の知っている加賀さんとは違う。

そりゃそうだ。この加賀さんは、私がよく知る加賀さんじゃない。見た目は全部おんなじなのに、まったくの他人。

鎮守府を出発する時、私は神通さんにこう注意された。

いくらよく知った艦娘がいても、中身はまったくの別物と考えなさい、と。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/27(金) 18:20:34.94 ID:t7Ac5PzT0

その意味が今はっきりわかった気がした。この加賀さんは、私の知ってる無表情で変なことをする優しい加賀さんなんかじゃない。

こうして近寄ってくるだけで寒気がして、息苦しくなる。怖くて目も合わせられない。

私は急いでこの鎮守府の艦娘じゃないことを伝える。

吹雪「あ、えっ、えっと。私は留萌の鎮守府から遠征で来た、吹雪です」

そう言って私は提督に渡されたカードがあることを思い出し、ポケットからそれを取り出して、この加賀さんに見せた。

私の持っていたカードを加賀さんは受けとる。そして。

加賀「疑ってごめんなさい。どうも最近は艦娘の入れ替えが激しくて、誰がうちの艦娘なのかよくわからないの」

相変わらず私はこの加賀さんと目を合わすことができない。加賀さんの手にあるカードだけをずっと見ていた。

吹雪「いえ、こちらこそすみませんでした...。勝手に歩き回って」

加賀「そうですね。別に悪事を働いたわけではないと思いますが、ふらふらと歩き回られるのは、あまりよろしくないですよ。混ざってしまったら、危ない。それにこちらの面目が立ちませんので」

吹雪「すみませんでした...。すぐに部屋に戻ります」

加賀「ええ、そうしてください」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/27(金) 18:22:19.31 ID:t7Ac5PzT0

私はちらっと倒れ込んでいる艦娘を見た。相変わらず顔は見えない。でもそんなことよりも気になったことがある。

ぼろぼろだ。セーラー服は大きく引き裂かれ、髪の毛が焦げた、嫌な匂いがする。それにセーラー服の白い部分には、ところどころ血が滲み斑点模様になっている。呼吸も少し浅い。

吹雪「あの、そこの艦娘の人は....」

私はカードを受け取るとつい質問してしまった。

加賀「あぁこれですか。いえ、お気遣いなく。気にしなくて結構ですよ」

大井「ねぇ、そろそろ休憩入りたいんですけど」

そう苛立った声が聞こえた。その冷ややかな声に私はまたどきりとして、萎縮する。

加賀「...そうですね。では二十分の休息をとります。指名されている艦娘は、各自補給と入渠をすませたのち、ここに集合してください。では吹雪さん。私たちはこれで失礼しますね」

そう言って加賀さん達は立ち去っていった。ここで死にかけた艦娘一人だけを残して。その時、誰一人も見向きしなかったのが、私は気になった。

吹雪「あの、大丈夫ですか....?」

私はすぐに駆け寄って艦娘に触れた。冷たい、全然体温を感じないほど冷え切っている。本当に、今にも死んでしまいそうだ。

いえ、大丈夫です。そう苦しそうに言った艦娘は、その時初めておもてをあげた。

吹雪「えっ....」

私たちは多分二人揃って同じことを口にしたはず。

瓜二つの顔。鏡を見ると必ず現れる、その顔。同じ身長、同じ体重。同じ髪型をした私。

倒れていたのは、吹雪。私だった。

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17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/27(金) 18:22:53.97 ID:t7Ac5PzT0
今日はおしまいです。誰も見てないと思いますがちまちま頑張ります。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga!inaba_res sage]:2017/10/27(金) 20:22:48.67 ID:/qMScH1SO
><
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 00:20:58.29 ID:sV+M7FER0
勃起してきた
いいぞいいぞもっとだもっとよこせ
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 07:48:53.48 ID:GbtdiYky0
吹雪「はい、水買ってきたから飲んで」

吹雪「あ、ありがとうごさいます」

私はこの吹雪さんに肩を貸し、なんとかベンチにたどり着き、水を買いに行った。そしてそれを吹雪さんに渡すと、無理やり喉に流し込みはじめた。

なんだか不思議な気持ちだ。私が目の前にいる。そして話している。

テレビでたまに見る、世にも奇妙な物語を演じているみたいだった、

ひとしきり水を飲み干した吹雪さんはベンチにぐったりとして、大きく深呼吸をした。

吹雪「ねぇあなたは補給しないの?他のみんなはしに行ったよ?」

残りの水を飲み干し、ペットボトルの蓋を閉めた。そして私を見る。

何を考えたのかわからないけど少し間、私と目が合い続けた。そしてこう答えた。

吹雪「私の分は、ないよ」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 07:49:33.86 ID:GbtdiYky0

そう言って寂しそうに笑う。乾いた笑い。あの加賀さん達と同じ、幽霊みたいな、表情。

吹雪「どうして?鎮守府に帰ってきたら補給と入渠するのが当たり前じゃないの?」

鎮守府に帰ってきたら当然入渠をして傷を治し、補給をとって艤装に完璧にする。

そうでもしないと、そのまんまの姿で日常生活を送ることになる。

それは不便に決まってる。なにより、いつまでもそのまんまだと、死んでしまう。

当たり前か、そう吹雪さんは小さく呟いた気がした。

吹雪「ねぇ、あなたは他の鎮守府からきたんでしょ?よかったら、その鎮守府の話をしてくれない?」

吹雪「え、う、うん。いいよ」

急に話題を変えられた気がした。でも私はそんなことよりも、この吹雪さんが苦しそうにしているのをどうにか和らげてあげたいと思い、色々と話すことにした。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 07:50:40.20 ID:GbtdiYky0

私の鎮守府では、みんな仲良しだ。

私の鎮守府では、よく喧嘩が起こるけどすぐ仲直りする。

私の鎮守府では、みんなが支え合って助けあって戦っている。私の鎮守府では。

色んな話をした。新しい話になるたび、吹雪さんの表情はどんどん明るくなっていく。

だから私も必死になって喋った。私は口下手だから上手く伝わってないのかもしれない。でも、目を輝かせて真剣に聞いて驚き笑う。

そんな吹雪さんを見るかぎり、伝わっていたんだと思う。

でもその時間はすぐに過ぎた。私たちに与えられていた時間はたったの二十分だけだから。

楽しそうに聞いていた吹雪さんは私に時間を聞く。そしてもうすぐ集合時間になるんだと知った。

吹雪「ありがとうございます。おかげで楽しかったです」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 07:51:20.15 ID:GbtdiYky0

立ち上がった吹雪さんは私に頭を下げてお礼を言い。それを見た私も立ち上がり。

吹雪「ねぇ、本当にそのまんまで行くの?」

吹雪「はい。でも吹雪さんのおかげで、少しだけ楽になりました」

それじゃ行かないと。吹雪さんはそう言うと歩いていく。

私は思った。このまま行かせちゃいけない。

絶対に、吹雪さんは死んでしまう。そう思うと私の体を無意識に吹雪さんの腕を掴んでいた。

吹雪「....なんですか?」

またその幽霊みたいな顔。まだ生きているのに、死んだような顔。

そんな顔を見たら、何とかしてでも、なんとかしなくちゃいけない。

なにか、なにか手段があるはず。考えろ、考えなくちゃ、吹雪さんは出撃して死んでしまうはず。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 07:52:39.87 ID:GbtdiYky0

吹雪「私、あの加賀さんに頼んで出撃やめさせてもらえるよう頼んでみるよ」

吹雪「無理だよ。あの人はそんな人じゃないから」

そんなわけない。私の知っている加賀さんは厳しいけど、絶対に優しい人だ。

私が困った時、自分の損なんか考えないで力を貸してくれて、私を強くしてくれた人だ。

神通さんは別人と考えろっていったけど、艦娘はみんな同じはず。

たとえ少し違っても、心のどこかには、私の知っているその人がいるはずなんだ。

吹雪「無理なんかじゃない!」

吹雪「無理だって」

吹雪「無理なんかじゃない!絶対!」

吹雪「だから無理だって!!」

吹雪「だってそのまんま出撃したら絶対死んじゃうんだよ!!そんなの、私だったら嫌だ。あなたは私だからわかる。死にたくない、そう思ってる」

吹雪「そんなに言うんだったら!!」

声を荒げて、私の腕を振り放った吹雪さんは一瞬躊躇いを見せたけど、こう言った。

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 07:53:29.04 ID:GbtdiYky0

私と入れ替わってよ。と。

入れ替わる。そうだ、その手があった。そうすれば吹雪さんは死なない。

吹雪「一回だけ、私と出撃を入れ替わってよ。そうしたら私は入渠もできるし、補給もできる」

私が吹雪さんの代わりに出撃する。その間に補給と入渠を済まして、また入れ替わる。

そうすれば誰も死なないですむ。私の返事は決まり切っていた。

ポケットに手を突っ込む。そして留萌の鎮守府に所属する艦娘だと証明になるカードを吹雪さんの手に握らせる。

その時吹雪さんは一度抵抗したけど無理矢理握らせる。そしてその体温が少しだけ戻った手をしっかりと包み込んだ私は。

吹雪「いい?絶対に入渠すること、それと補給もしっかりすること。約束だよ」

そう言って私は、吹雪さんの集合時間に向かった。

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26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 07:55:54.77 ID:GbtdiYky0
今日はここまでです。どの吹雪さんが話しているのかわかりにくいと思いますが、あえてそうやっています。理由は話を進めていくと何となくわかると思います。また頑張ります。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/28(土) 19:02:46.60 ID:sV+M7FER0
作劇上の仕掛けは先にしゃべらないほうがいいぞ!
ハードル上がるし、予告した展開がきても驚けなくなるしで、作者読者の両方とも損だ

それはそれとして次回もたのしみなのでがんばってほしい
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/29(日) 00:10:26.92 ID:Qy+Egz3KO
いいね
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 05:52:27.87 ID:7BsYpsOPO
あぁこれ裏切るパターンや……
証明カード渡したらあかんで
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 08:11:22.65 ID:sjUqQf7v0

瑞鶴「おかえり吹雪〜。ってなんでそんなにボロボロなの」

笑顔で現れたのは瑞鶴さんだった。初めてみる、笑顔だった。

出撃する前に廊下ですれ違った「瑞鶴」さんはそんな顔をしてなかった。

ここの鎮守府のみんなと同じ、どす黒く淀んだ死んだ瞳をしていた。

そしてすぐに私を心配するよりも先に何か疑ったようだから、私は咄嗟に嘘をつく。

吹雪「あ、えっと。転んで...」

瑞鶴「転んで...?」

眉をひそめて私を見る。あぁダメだ。完全にバレた。

そう私は思ったけど、なぜか瑞鶴さんはすぐにお腹を抱えて笑い転げた。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 08:15:43.85 ID:sjUqQf7v0

瑞鶴「またそんなにボロボロになったの!?毎回毎回何したらそんな風になるのよ!?」

加賀「瑞鶴?どうかしたの?」

奥から加賀さんが現れた。私は無意識に後ずさってしまった。

真っ先浮かんだ、あの加賀さん。私をろくに見ないで、六人いた艦隊の一人が沈んでも、私が死にかけても先に進み続けた。

そのついさっきまでの記憶が鮮明に浮かび上がったからだ。

私を頭からつま先を確認し、ただでさえ怖くてたまらないその無表情にひとつ、私を疑う視線を飛ばした。そしてすぐに瑞鶴さんの方へ向くと。

加賀「瑞鶴?これは一体どういうこと?」

そう聞こえた私は下を向いた。もし、ここでバレたら私はどうなるんだろう。

加賀さんが知らない私が、あの吹雪さんと入れわかったことを知ったら、本気で怒るんだろう。

怒った加賀さんは、一体私をどうするんだろう。そう考えると、私はもう白状した方がいいと思い始めた。

瑞鶴「ま〜た転んだんだってさ!もうほんとドジよね!」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 08:17:50.21 ID:sjUqQf7v0

そう言って笑いながら加賀さんの背中を叩いた。それを聞いた加賀さんは呆れ顔をして、私に、こんな言葉を使った。

加賀「はぁ...。またですか。まったく、大丈夫ですか?」

吹雪「は、はい?」

私に、そんな言葉を使うんだ、この加賀さんは。

そんなの、一生ないと思ってた。短い一生。一日生きるだけの期間の間に、そんな言葉を掛けてくれる人がいることに、私は驚いた。

加賀「ほら、歩けますか?....そうですね、どうせだったら私がおぶってあげます」

そう言って座り込み、私に背を向けた。

私はこの優しさにまだ甘えることしてしまった。

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33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 08:18:52.90 ID:sjUqQf7v0

加賀「敵艦隊発見。数四、戦闘準備」

つらい、苦しい、痛い。

見たことない敵。みんなの動きについていけない。

大井「北上さん左お願い」

北上「はいよー」

加賀「朝潮はそこにいなさい」

朝潮「はい」

おかしい。何がおかしい。

加賀「あなたは、いつも通りよ。朝潮に付き添って、飛んできた弾を受け止めなさい」

私は、何をしている。いや、この人達は一体何を考えているんだろう。

私は加賀さんに命令されたとおり、朝潮ちゃんの元に行く。

この時点で私の艤装はすでにボロボロだ。さっきの吹雪さんと同じように、セーラー服の白には血が滲んでいて、艤装の砲塔はへし折れている。ろくに戦える状態じゃない。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 08:20:28.55 ID:sjUqQf7v0

私は気になって朝潮ちゃんを見た。この状況で、どう見たって足がすくんでいる、新人なんだろう朝潮ちゃんは、私をどう見ているのか、気になったからだ。

私を見てはないかった。その瞳は私たちの先にある北上さんと大井さん、加賀さんが織りなしている戦闘を必死に見ていた。私には一切気にかけていない。

私は目線を朝潮ちゃんからすぐ戻す。そして前を見た。

不自然に一本、海上に短い軌跡を描いた何かが、私達の元に向けていたのが見えた。

酸素魚雷だ。何度もみたあの気泡の航跡。魚雷のタンクに注入された圧縮空気の痕跡だ。

深海棲艦が発射する魚雷に似た何かは、不自然なほど、私達が使う酸素魚雷に似ている。そのおかげで、訓練の時には酸素魚雷を使って練習できるのだけど。

いつも通り私の体が無意識に回避運動を取り始めた瞬間、私は朝潮ちゃんは酸素魚雷に気がついているのかどうか、心配になった。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 08:21:46.05 ID:sjUqQf7v0

私の右隣にいる朝潮ちゃんは、まだ加賀さん達の動きに集中していて、私の回避運動にすら気がついていなかった。

残された時間が少ない中、私は判断を急ぐ。そもそもここで酸素魚雷を教えたとしても、放射状に発射された四つの魚雷を朝潮ちゃんは回避できるのか。

私にはそれが疑問だった。朝潮ちゃんはどう見たって新米だから。

私は朝潮ちゃんに抱きついて、その場から避難することを選んだ。

一本当たることを覚悟をしたけど、運良く、すんでのところで回避できた。

吹雪「大丈夫?」

何があったのかわからない。朝潮ちゃんはそんな顔をしていたけど、私が魚雷が来てたんだよと教えると。

朝潮「だ、大丈夫です。ありがとうごさいます....」

そう言ってすぐに立ち上がる。そしてまた艦隊の最前線に真剣に見つめ始めた。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 08:23:29.55 ID:sjUqQf7v0

この時、私は朝潮ちゃんを勘違いしていたことに気がついた。

朝潮ちゃんは私を見ていないんじゃなくて、見ないふりをしていたんだと思った。

朝潮ちゃんは辛い現実から必死に逃げようとしている。恐いんだ、今の現実を受け入れることが。

受け入れば、今すぐに泣いて叫んでしまいそうな恐怖に、耐えているんだ。

私は加賀さんに鍛えられた。だから普通に出撃して、当たり前のように帰ってこれる自信があったから、吹雪さんと入れ替わった。

確かに見たこともない深海棲艦はたくさん出てくるし、何より強い。

だけど「いつも通り」ならなんとかなるはずだった。みんなで助け合って戦う、いつも通りなら。

でも、ここはおかしい。私は本当にこの艦隊の一員なのか、そうは思えなくなってきた。

私は手のひらに爪を立てて覚悟を決める。何がなんでも生きなくちゃいけない。

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37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 08:25:10.62 ID:sjUqQf7v0
今日はおしまいです。土日なんで連投してますけど平日は不定期になりそうです。ちなみにこの話の七割くらいは完成しているので、途切れないよう頑張ります。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 10:12:37.85 ID:Ud7EdRrIO
おつ
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/29(日) 17:42:11.33 ID:Chfb/N6s0
次回もたのしみにしています
わくわくするなー!
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 07:35:37.05 ID:QQB6mLIfo
怖い…
ブラックエンドやバッドエンドは怖いなぁ
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 00:53:26.45 ID:LwRMUjjB0

加賀「吹雪、痒いところはない?」

吹雪「はい、ないです」

私は今加賀さんに頭を洗ってもらっている。吹雪さんに言われたとおり、入渠をしている最中だ。

ほんの少し、この加賀さんに対する警戒心は無くなった、気がする。

でもまだ頭の中にいるあの加賀さんを思い出すと、どうしても受け入れにくい。

加賀「....吹雪。あなたさっきからどうしてそんなに緊張してるの?」

吹雪「え?そんな風に見えますか...?」

加賀「ええ、肩の筋肉のの硬直がいつもよりあるわ」

加賀さんは私の肩を優しくなぞる。

摩耶「そりゃ、今日お前ずっと吹雪にべったりだから、身の危険を感じてるんだよ」

鏡に映った摩耶さんは、加賀さんの後ろに立つと頭にお湯を思いっきり落とした。

赤城「ええ今日はなんだかべったりですね。たまには、私にもその好意を向けてもいいのに」

コンディショナーを丁寧に塗っている赤城さんは少し意地の悪い表情で加賀さんにそう言った。

加賀「....そんなにべったりしてましたか?」

瑞鶴「そりゃそうよっと。ほら加賀さん髪の毛洗うから少し前かがみ、前かがみ」

ぺちぺちと背中を叩いた音がする。

摩耶「お!なんだかいいなそれ。じゃああたしは瑞鶴の髪の毛洗ってやるよ」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 00:55:43.39 ID:LwRMUjjB0

瑞鶴さんの後ろにイスを置き足でシャンプーを取ろうとして思っ切りずり落ちた。

それを見た瑞鶴さんは少し笑い手に取ったシャンプーを渡す。

瑞鶴「洗うのはいいけど、適当にやらないでよ。長髪は手入れが大変なんだから」

摩耶「わかったよ...。おい金剛!風呂で伸びてるなら私の頭洗えよ」

金剛「自分で洗えばいいじゃないデスか...」

摩耶「お前バカか?瑞鶴の頭洗ってるのにどう洗えってんだよ?」

金剛「Leg」

摩耶「はぁ?エッグ?何馬鹿なこと言ってんだ?」

金剛「おーのー。はぁ...ok〜やりますよ〜」

おかしな人たちだな、本当に。なんでこんなに楽しそうに生きているんだろう。辛いことが多い現実の中で、こうやって笑えるのはなんでだろう。

ほんとうに、羨ましい。どうしてこの居場所が私じゃなくて、あの吹雪さんなんだろう。

私とあの人、何もかもが同じなのに、どこが一体違うんだろう。

でも吹雪さんが帰ってきたら、この居場所は返さなくちゃいけない。

それが約束だから。約束、だから。

私の脳裏に一瞬だけ最低なことが思いついた。頭を振って忘れようとするけど、どうしても、離れない。そんなこと、考えちゃいけないのに。

加賀「動かないで、洗いにくいですからね」

神通「......」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 00:57:21.64 ID:LwRMUjjB0

朝潮ちゃんが震える右手を抑えて深海棲艦に砲を向けている。目にはいっぱいの涙を蓄え、足は竦んで、今にも倒れてしまいそうだ。

砲を向けられた深海棲艦はもう虫の息だ。体を覆う黒々とした皮膚からは、私たちと同じ、赤い中身が見える。

真っ赤に充血したその大きな瞳は、朝潮ちゃんだけをじっと見つめ続けている。まるでここにいるみんなの生き写しを見ているみたいだ。

死にかけた、幽霊みたいな、あの顔。

朝潮「無理です、できません...」

そう言って砲を下ろした。でもすぐにその砲はもう一度深海棲艦に向けられる。加賀さんの手が朝潮ちゃんの手を掴み、無理矢理狙わせたからだ。

加賀「やりなさい朝潮。できないとは、言わせません」

朝潮「もう嫌です!私は何回死にかけの深海棲艦を殺せばいいんですか!!」

何度も何度も。小さく引きつった声のささやきに、私は思わず目を逸らしてしまった。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 01:00:10.87 ID:LwRMUjjB0

吐き気がした。すごく気分が悪い。

でも私は、ふと思った。

私は死にかけた深海棲艦を倒していなくても、いつも深海棲艦を倒しているじゃないか。

それとこれ、一体何が違うっていうんだろう。

私は目の前で、大切な友達を一人、深海棲艦に殺された。

一緒に鎮守府に入ったその子はいつも明るくて、私が海の上を走るのに苦戦して、心が折れそうになった時、いつもアドバイスをして、助けてくれた。

今でも覚えている。血だらけで、下半身が無くなったその子は痛い痛い、提督にクソ提督なんて言ったことを謝りたいって、何度も何度も繰り返して、しまいには沈んでしまった、あの最後。

それから、私は誰よりも強くなって、みんなを守るためにもっと強くなって、一体でも多く深海棲艦を倒すんだって、そう決めた。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 01:01:50.62 ID:LwRMUjjB0

その憎くてたまらない深海棲艦の最後に、どうして目を背けた。

死にかけの深海棲艦を沈めることに生理的嫌悪があるから、なのかと思うと、私は目を背けることをやめた。

それはあんまりにも卑怯だと思ったからだ。

加賀「なら結構です」

加賀さんは朝潮ちゃんの手から離れた。それに驚いた朝潮ちゃんは加賀さんの方に向く。ほんの少しだけ、光が戻った気がした。

加賀「別に構いませんよ。殺しても殺さなくとも。私には何の関係もありませんから。私はただ、提督の指示でこうしているだけですからね」

でも朝潮、一つだけ忠告しておきます。

そう、顔色一つ変えず言うと、不意に私に視線を向け、ずっと蚊帳の外だった私を見た。つられて朝潮ちゃんも私を見た。

加賀「もし提督の命令を破れば、朝潮もああなってしまうんでしょうね。....提督はあなたに気をかけ、育て上げようとしている。でも選ばれたといえ、驕ってはいけませんよ。あなたの代わりにはいくらでもいるのですから。ただ偶々あなたが選ばれた、それを重々理解してください」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 01:04:17.84 ID:LwRMUjjB0

加賀さんは朝潮ちゃんの肩を優しく叩く。それとは裏腹に朝潮ちゃんは加賀さんに触れられると、思い出したように体が震え始めた。

そしてもう一度深海棲艦の方へ向き直す。一度深く深呼吸をし、深海棲艦を眺めるような顔で砲を向けると、死にかけた深海棲艦を撃ち始めた。

どうやっても逃げられないと、朝潮ちゃんは分かったんだろう。

加賀「まずは、深海棲艦を殺すことに慣れなくては。大丈夫、みんな通ってきた道です。乗り越えれば提督に認められ、幾分か楽になりますよ」

大井「はぁ、ほんとくっだらない。なに深海棲艦に同情してるのよ。撃てばはいお終い。それだけでしょ」

この加賀さんは提督に認められれば楽になるっていった。

でも、何が楽になるんだろう、それがわからない。

私には、心を殺して撃ち終え呆然とした朝潮ちゃんが、可哀想でしかたない。

加賀「終わりましたか。では次にいきましょう。進路変更せず、全艦、前進原速」

天気が変わってきた。空は雲行きを悪くして、今にも降り出しそうだ。

まるでこの艦隊を表しているようで、私は、なんだか、嫌だ。

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47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 01:06:14.86 ID:LwRMUjjB0
ブラック企業の有り様に驚く吹雪さんでした。かなり順調に話が進んでいるので、もしかしたら明日もまた更新するかもしれません。またがんばります。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 01:11:21.18 ID:LwRMUjjB0
まったく関係ないですけど、軍艦の歴史とか大戦時の勉強ができる本とかマンガって何かないですか?手をつけようにも、何から手を出せばいいのかわからないので、ありましたら教えてもらえると嬉しいです。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 05:37:30.11 ID:For6EEUOO
普通に昔の戦争漫画読めばいいんや
復刻されたりしてるやんコンビニとかで
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 22:09:48.97 ID:tzQrqPrr0

入渠を終えた私達は浴衣に着替え、大広間に移動した。

移動中、この鎮守府にいる艦娘とは一人もすれ違わなかった。

大広間に移動すると昼食が用意されていた。

料理の名前がわからない私だけど、用意された料理はどれもこれもとても美味しそうだった。

私は席に着き、おぼつかない箸さばきで唯一知っているご飯を食べた。美味しい、これはこんなに温かくて、甘いものだったんだ。

夕立「ねぇ吹雪ちゃん、さっきまでこの鎮守府見て回ってたよね」

机のコップにオレンジジュースっていう黄色い飲み物を注ぎながら、夕立さんは言った。

私が知ってる夕立さんとは違って、どこか大人びて見える。私が知っている夕立さんは、さっき海に沈んでいった、私と同じくらいの小さい人だった。

ありがとうと言って私はオレンジジュースっていうものを飲んだ。甘くて、美味しかった。私の知らない味だった。

吹雪「う、うん。見て回ったよ」

夕立「ふーん....」

そう言って夕立さんもオレンジジュースを飲み、背もたれにもたれて、天井を向いた。そして飲み終えるとこう言った。

夕立「ここの鎮守府って、すごく評判悪いけど、何かわかったっぽい?」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 22:14:40.84 ID:tzQrqPrr0

評判が悪い、か。その通りだよ。さっき夕立さんは海に出てすぐに沈んだ。砲身を深海棲艦に向けることもなく、艦娘として役割を果たす前に、呆気なく沈んだ。それが普通と思ってたけど、どうやら違うみたい。

吹雪「うん。夕立ちゃんの言うとおりだよ」

私は無意識に言葉が強くなって言ってしまったことに気がついた。でもどうしてだろう、言葉は止まらなかった。

吹雪「歩いてたらね、私ここの艦隊にあったんだよ」

夕立「そういえばここの鎮守府の艦娘には誰にもあってないね。それで?どんな雰囲気だった?」

夕立さんはきつね色で、片方が赤い太い棒みたいなのを食べ始めた。

美味しそうだな、次はそれを食べようと思い、私は思い出を探る。

吹雪「ひどい人達だったよ。だって」

夕立「だって?」

私は心の中で私と入れ替わってくれた吹雪さんに謝る。

本当は入れ替わる前に言わなくちゃいけないことだったのに、言えなかった。私にさっさとカードを渡して行ったからだ。

いや違う。言えなかった。言ってしまえば、吹雪さんは私と交代してくれなかったはずだから。だって。

吹雪「ここの鎮守府、「捨て艦」やってるんだよ」

夕立「....やっぱり」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 22:15:58.92 ID:tzQrqPrr0

箸を置いた夕立さんは胡座をかいて、床を見続けた。何を考えているのか知らない。

吹雪「やっぱりってことは、知ってたの?」

夕立「知らなかったけど、評判が悪い鎮守府なんて、大体想像できるよ。それで、捨て艦の子は、誰だった?」

そう言うと夕立は顔だけをあげて私を見た。じっと見つめるその赤い目に、私は見透かされているような気がして、心臓がばくばくした。

吹雪「....ごめん。そこまではわからなかったよ」

私は嘘をつく。知っている。同じ吹雪型一番艦の吹雪だった。

その吹雪は、身も心も凍えきって、倒れ込んでいた。この世界に生まれたことを恨みながら。私はどうしてまだ生きてるんだろうと、自分に何度も問いかけて、次は死ぬんだろうと思っていた。

その時、吹雪さんが現れた。そしてこうして入れ替わり、私は今、こう考えている。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/31(火) 22:17:11.82 ID:tzQrqPrr0

帰ってこなければいいのに。このまま、吹雪さんは沈んで、私がこの鎮守府の吹雪になる。

そうなれたら、私はずっと幸せになれる。最低だってことはわかっている。でも戻りたくない、戻りたくない。

戻れば、私はこの幸せになる機会を失って、もう一度あんな目にあう。そんなのは嫌だ。

この気持ちは、あの吹雪さんだってわかってくれるはず。私とあの人は同じ「吹雪」なんだから。

夕立「そっか....。よかったよ」

吹雪「え、何がよかったの?」

夕立「だってもしその倒れてる艦娘が吹雪ちゃんだったら、吹雪ちゃん優しいから、入れ替わると思ってたから」

まぁいいや。そう言って夕立ちゃんはまた食べ始めた。

私も、何も考えないでこの美味しいものを食べることにした。

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54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/31(火) 22:20:36.18 ID:tzQrqPrr0
今日はここまでです。本を教えてくださった方、ありがとうございます。明日から買い漁ります。他にも知っている方がいましたら、いつでも教えてくれると嬉しいです。またがんばります。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 23:41:34.38 ID:PcLPb1Ui0


続き待ってます
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/02(木) 22:41:02.65 ID:qSuKHKiS0

吹雪「ねぇ大丈夫?」

私は朝潮ちゃんに話しかけた。この状況が怖くて、ずっと影に隠れて一度も話しかけなかったけど、あんなの儀式みたいなものを見せられたら、心配になって話しかけてしまった。

朝潮「.....」

朝潮ちゃんは反応しなかった。ただ前方を滑る加賀さん達の背中を見ている。

私はそんな朝潮ちゃんを見ると、なおさら話しかけてしまった。

聞こえなかったわけはないと思うけど、近づいて、肩にも触れてもう一度確認する。

吹雪「ねぇあんまり辛かったら私に話してくれても....」

朝潮「やめてください」

肩にかけた私の手を払いのけそう言った。もちろん私を見ないで。

さっきまで朝潮ちゃんは機会があれば私に反応した。反応してくれたけど、今回はさっきまでと全く違う。はっきりと、私を拒絶した。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/02(木) 22:43:15.34 ID:qSuKHKiS0

朝潮「話しかけないでください」

吹雪「どうして?」

わかってるよ。朝潮ちゃんがどうして私を見ないのか。見ていても、見ないふりをしたのか、

朝潮「どうしてってッ!だってあなたは捨て艦だからよ!」

そう、私は捨て艦の艦娘の子と入れ替わっているんだ。

最初は気がつかなかった。でも、この艦隊に付いて行き、何回か戦闘をして気がついたんだ。

私は、最初からこの艦隊の頭数にも入ってないって。

朝潮ちゃんは立ち止まったけど加賀さん達はそれに気がつかないで、そのまま先に進んでしまった。

私と朝潮ちゃん、やっと二人っきりになった。朝潮ちゃんもそれに気がついたみたいで、ついに我慢していた涙を零してしまった。

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/02(木) 22:45:07.74 ID:qSuKHKiS0

吹雪「知ってるよ、私が捨て艦ってことは」

朝潮「じゃあなんでそんなに平気なのよ!あなた死ぬのよ!?休憩前まではそんな素振り一度も見せなかったくせに、どうしてそんなに余裕があるのよ!?」

吹雪「だって私には帰る場所があるから」

朝潮「....あなたまさか留萌の吹雪さん?もしかして、入れ替わったの?」

信じられないという表情をした。私は頷いた。

朝潮「正気なの!?他の鎮守府の艦娘と入れ替わるなんて....」

吹雪「捨て艦なんて知らなかったからね。それに、あんなにぼろぼろな私を見たら、見て見ぬふりなんてできなかった」

朝潮「あなた....自分どんなことをしたのか、わかってないのね」

自分が何をした。私はただ吹雪さんと入れ替わっただけだ。

そんな私を見透かしたように朝潮ちゃんはこう言った。

朝潮「他の鎮守府の艦娘と入れ替わるっていうのは、どれほどやっちゃいけないことか、あなた知らないのね。これは自分だけの問題じゃないのよ。この問題が明るみになったら、それぞれの司令官の監督責任になるし、なにより沈めたってなると、もっと話が複雑になるのよ?あなたがそれを知っても知らなくても、結果は同じなのよ?」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/02(木) 22:46:43.68 ID:qSuKHKiS0

私はそこまで考えてなかった。ただ入れ替わって、終わったら、私は自分の居場所に、帰る。

帰る、私は、帰れるのかな。不意に今自分が置かれている現実に寒気がした。

私がもしも捨て艦だったら。あの時、倒れ込んでいた吹雪が、私で、もし入れ替わってもらえたら、なんて考えるだろう。

こんな人を物以下で考える艦隊に戻りたいって、そう考えるのか。

そんなわけない。自分を必要としている所にいる方が、ずっとずっと普通だ。

私、「吹雪」がそう思ったのなら、吹雪さんは同じことを考えているはず。だってわたしだから。

朝潮「さすがにマズイわね...。そうだ、カード。カード、持ってるわよね?」

吹雪さんに渡した、留萌の艦娘と証明できるカードのことを言ってるんだろう。でもそれは。

吹雪「渡しちゃった....」

朝潮「どうして思いつきで、手の込んだ自殺できのかしら、あなたは....」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/02(木) 22:51:47.89 ID:qSuKHKiS0

そして、怒りを通り越して呆れ返り、涙も枯れた朝潮ちゃんはこう言った。もう諦めなさいと。

私には、留萌の吹雪と証明できる物が何もない。それを持っているのは入れ替わった吹雪さんだ。

もしも私が生き残って帰れたとしても、証明できないなのなら、私の帰る場所は、ここになる。

加賀さんごめんなさい。瑞鶴さんごめんなさい。摩耶さん、金剛さん榛名さん、夕立ちゃん、みんな、ごめんなさい。私は、取り返しのつかないことをしてしまいました。

朝潮「私は、この事を聞かなかったことにするわ。卑怯だと思わないで。さっきも言ったみたいに、明るみになったらかなり面倒なの。わかってちょうだい。それと、加賀さん達に入れ替わったって言っても無駄よ。あなたは今は捨て艦、そんな事言っても、死にたくない口実でしかないって言われるのが関の山よ」

私の逃げ道は完全に塞がれた。

ぽつり、ぽつりと、雨が降ってきた。まるで私をバカにしているみたいだ。

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61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/02(木) 22:52:49.64 ID:qSuKHKiS0
今日はここまです。またがんばります。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/02(木) 22:58:30.01 ID:h/5DsDFfO
つらい
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 12:16:21.80 ID:hFc9WFwVO
悪潮ちゃん………
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 14:00:04.11 ID:vC5mt74bO
シリアスと胸糞は違う…どっちに転がるんだろ
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/05(日) 23:17:55.70 ID:XOQ8peLM0

金剛「雨、降ってきましたネ」

摩耶「そうだな...。まっ、元々外に出るつもりなんてないけどよ」

摩耶さんは早めに敷いた布団に大の字になる。雨が少し降ってきたとはいえ、まだお昼が終わってすぐだ。

私はまだ寝るのは早いんじゃないかなと思い、周りを見たけど、みんなやる事はやり尽くしたみたいで、持ってきた本を読んだり、お菓子を食べたりして暇を潰している。

赤城さんがおせんべいの袋を片手に窓を覗いた。

赤城「この雨、通り雨みたいですね。じきに晴れますよ」

比叡「あーあ、にしてもほんっとうに暇ですね。これなら、晴れてるうちに外歩き回ればよかったですよ。もう枕投げも終わっちゃいましたし、霧島は読書モードだし....」

神通「みなさん、少しいいですか?」

部屋の隅で正座をして、瞑想なのか、考え事を終えたのかはわからないけど、ずっと静かにしていた神通さんは急に立ち上がりそう言った。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/05(日) 23:19:19.91 ID:XOQ8peLM0

神通「時間が余ったようですし、ここで一つ、私が考えたゲームをしませんか?」

摩耶「珍しいな、神通がゲームなんて。いつもそういうの乗ってくるたちじゃないだろ?」

ええまぁ、と素直に答えた神通さんは部屋の中心に移動した。

まだ寝てる川内さんを除き、暇で仕方ないみんなは、神通さんの周りに集まった。私も行く。

神通「簡単なゲームです。名前は、そう、ですね...。教えあおうみんなのことゲームです」

難しい顔をしてそう言った。

金剛「神通はネーミングセンスがいつも硬いですネェ」

加賀「硬い、というか小学校のレクリエーションの題名みたいですね」

神通「な、なら何かいい名前があるんですか!?」

恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、少しだけ声を大きくした神通さんは、その後顔を下にした。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/05(日) 23:20:12.03 ID:XOQ8peLM0

赤城「それで、内容は?」

神通「....内容は題名どおりです。まず誰でもいいです、一人指名します。そして、その指名した艦娘の知らないこと、知りたいことを質問して、それに答え、質問された艦娘は次に誰かに質問ふる、という簡単なゲームです。まだ入隊してから日が浅い吹雪さんが、もっとみんなを知るいい機会になると思います」

そう言い終わると、横目で私を見た。なぜか、その目つきに少しだけ背筋がぞくりとした。

金剛「名前は見掛け倒しですネ....。やっぱコミニュケーションを重視した硬い内容デス....」

摩耶「ま、いいんじゃねぇの?どうせ暇だし」

部屋の中心に集まったみんなは円を組み座る。私は夕立ちゃんと加賀さんの間に挟まれた。

瑞鶴「加賀さんそこ変わろっか」

加賀「嫌です」

瑞鶴「じゃあジャンケン」

隣でジャンケンが始まった。私は夕立ちゃんを見た。眠たそうに目をこすっている。

瑞鶴「吹雪、隣座るわよ〜」

吹雪「あれ、加賀さんは?」

加賀「負けました」

瑞鶴さんの向こうから手を振っている。準備はできましたね、と神通さんが言うと、順番を決めることにした。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 23:20:28.85 ID:YDGGbRPw0
>>63
ヴァルシオンちゃん?(空耳)
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/05(日) 23:21:30.07 ID:XOQ8peLM0

神通「では、まずはわたし....」

金剛「Hey!赤城!Question ok!?」

神通さんを遮ってまず最初に質問したのは金剛さんだった。不満そうに頬を膨らました神通さんは、静かに退いた。

赤城「どうぞ」

おせんべいの全て一人で食べきった赤城さんは、次の食べ物に手を出した所で止まり、冷静に答えた。

金剛「なんで赤城はいつも食べてばっかなんデスカ?」

霧島「確かに、見るといつも何か食べてますね」

そういえば私が見てる間ずっと食べっぱなしだ。赤城さんはみんなより大きめのバッグを持ってきているけど、あのぱんぱんに膨れた中からはお菓子の袋がたくさん見える。

赤城「私がいつも食べている理由ですか。簡単ですよ、空腹が恐いからです。....昔、作戦時間中の補給で痛い目を見ましたからね...。それ以来空腹にならないよう気をつけているんです」

金剛「...ソーリー。聞いちゃいけないこと聞いてしまったみたいデスネ...」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/05(日) 23:22:19.81 ID:XOQ8peLM0

赤城「気にしなくてもいいですよ。いい経験になりましたからね」

それにおかげでここにいれますから。そう呟いた。

赤城「じゃあ次は私の番ですね。摩耶さん、よろしいですか?」

摩耶「お、あたしか。なんでもいいぜ?」

赤城さんは一つチョコレートクランチを摩耶さんに投げると、意地悪そうに笑った。

摩耶「うへぇ...もう甘いのはいらないっての...」

赤城「どうぞ、食べてくださいね」

渋々口にチョコレートクランチを摩耶さんは突っ込んだ。

赤城「それで私からの質問は、あまり接点のなさそうな金剛さんと摩耶さんが、なぜそこまで仲が良いかです」

摩耶「なんでってそりゃ、似た者同士、マブダチだからだよ」

金剛「一緒にされたくないデスネ〜....」

71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/05(日) 23:24:41.57 ID:XOQ8peLM0

摩耶さんは隣に座るっている金剛さんの肩に手を置く。すると金剛さんは鬱陶しそうな顔をし、少しだけ体が逸れた。

それを見た赤城さんと、夕立ちゃんと私を除いたみんなはなぜか笑った。

比叡「そういえば、赤城さんはあの時まだいませんでしたもんね。知らなくても無理もないです」

赤城「似た者同士、とは?」

比叡「金剛お姉さまの反抗期ですよ!反抗期!」

摩耶「それだといつも私が反抗期みたいに思われるだろ....」

霧島「金剛お姉さまは初めから留萌にいるわけじゃないんですよ。まぁ元を辿ると川内さんと神通さんを除く私達は、みんな異動でやってきたわけですけど」

赤城「ええ、この鎮守府はそういう所ですから」

そういう所、私は何がそういう所なのか知らなけど、少しだけ引っかかった。

摩耶さんはあぐらをかき、腕を組むと、昔話をするように話し始めました。

摩耶「こいつ昔はかなりグレてたぜ。今こんな風にお淑やか気取ってるけどよ、初めて提督に会ってすぐに、あんたの事は信用しないからって言ったんだぞ」

金剛「気取ってないデスヨ....。素デス、素。吹雪も夕立も赤城も、勘違いしないでくださいネ...。まぁそう言ったのは事実デスけど...」

最後に口籠もりそう言った金剛さんは、大きく手を振り始め話の先を遮る。

金剛「あぁもう辛気くさいデス!next question!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/05(日) 23:27:44.42 ID:XOQ8peLM0
今日はここまでです。金剛さんのお話はいずれやると思います。かなり長い話になると思います。赤城さんのお話もやると思います。たぶん初めてのクロスの話になると思います。またがんばります。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/06(月) 01:08:27.71 ID:ZuNxrMH6o
おつなの
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 22:26:50.35 ID:FvAL3MrG0

ぽつりぽつりと振り始めた雨脚が、だいぶ強くなってきた。

旗艦の加賀さんはこの雨を通り雨と判断したから、一時休憩を挟んで、雨が止むのを待つことにした。

どちらにせよ、加賀さんの艦載機の発艦ができないから、進むのは無理だ。

みんなカッパを着込んだ。そして段々と激しくなる波に飲み込まれないよう、バランスをとり、待機している。

雨は土砂降りに変わった。そんな中、捨て艦の私には元々カッパなんて物は用意されてないから、雨に打ちのめされながら、朦朧とした頭の中で色々と考えていた。

今頃、みんなは何をしているんだろう。

私は、もういつもの鎮守府に帰れないんだろう。

傷口に雨が染み込んでひりひりとして痛い。なんだか意識が朦朧とする。

とりとめの無い考え事が次々浮かび上がってくる。どれもこれも、これっぽっちもいいことなんか考えられなくて、ただ目の前の現実に打ちのめされる。

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 22:28:31.28 ID:FvAL3MrG0

私は頭だけ後ろを振り返った。誰も私を見ない。事情を知っている朝潮ちゃんも下を向いて、何も無かったことにしている。

加賀さんは目を瞑り、じっと時間が経つのを待っている。

その光景に、私は、恥ずかしくなった。

吹雪「....みなさんは、恥ずかしくはないんですか?」

雨脚はより強くなっているけど、負けないよう、しっかりと言う。だけど誰一人耳を貸さないみたいだ。だから私は続ける。

吹雪「そうやって何も見ないふりをして、嫌なものは見ないつもりなんですか?」

私の知っている加賀さんは、こんな事はしない。大井さんだって、北上さんだって、朝潮ちゃんだって、違う。

私は信じていた。いくら全く違うって言われてても、同じ艦娘だから、根の部分は同じで、みんな私の知っている優しい人達だって、そう信じていた。

だから恥ずかしくなった。私の知っているみんなと、ここの人達を比べたことを
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 22:29:27.73 ID:FvAL3MrG0

吹雪「みなさんは、弱いです。ただ言われるがままの操り人形で、捨てられるのを怖がっている。私にはそう見えます」

捨て艦なんてのが当たり前に起きているこの鎮守府。いくらでもいる自分の代わりに、自分の居場所をとられ、用済みになる事を怖がってる。

だから司令官に認められるため、なんて都合のいい口実を並べて、司令官の、都合のいいただの操り人形になっている。

だから私には、この人達がこう見える。

吹雪「だから、みなさんは捨て艦と変わらないんじゃないですか?」

捨て艦は、都合よく使われる艦娘のことなんだ。

捨て艦は一度だけの出撃で終わってしまう艦娘のことを言うんじゃなくて、二度三度、もっとだ。

使い物にならなくなるまで使い潰される、これからの艦娘も当てはまるんだ。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 22:54:40.81 ID:FvAL3MrG0

大井「ねぇうざいんだけど」

ずっと爪いじりをしていた大井さんは立ち上がると、私の方へ向かって歩いてきた。

大井「なに?捨て艦のくせして私達に説教するの?あんたこれから死ぬのよ。私達の心配する前に、自分の心配したらどうなの?」

大井さんは私の近くまで来ると睨みつけたきた。でも私は怖くなかった。だってこの大井さんは私の知ってる大井さんなんかよりも、ずっと心が弱くて、強がっているって知ったから。怖くなんかない。

私は今にも落ちてしまいそうな意識を集中させる。

吹雪「絶対に沈みません、私は」

大井「何言ってるのよ。あんたもう意識が薄れて、今にも倒れる寸前なんでしょ。何体もあんたみたいな艦娘見てきたから分かるわよ」

北上「大井っちもうやめなよ〜。どうせもう死んじゃうだから、最後ぐらい好きに言わせてあげたら」

にやにやとした笑顔で大井さんに近づきそう言うと、私を見る。それもそうねと大井さんは納得すると。

大井「はぁ、いいわよ。どうせ今日の吹雪と会うのは最後なんだから。戯言くらいで流してあげるわよ」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 22:56:06.17 ID:FvAL3MrG0

北上「大井っちは優しいなぁ〜。よかったね、大井っち怒ると怖いから」

腕を組み身を震わせた北上さんは、寒い寒いと言うと、興味を無くしたように後ろに下がっていった。

大井「それで、あんたさっき恥ずかしくないのかって、私達に言ったわね」

吹雪「そうです。捨て艦から目を背けて、見て見ぬふりをするのが恥ずかしくないんですか?ただ言いなりになって、立ち向かう勇気もないなんて。私はそんなの嫌です。絶対に」

大井さんは笑った。小馬鹿にするような笑いなんかじゃなくて、お腹を抱え、面白おかしくてしかたないように見える。そして目頭に溜まった涙を拭うと、私にこう言った。

大井「あんた青いわね。まぁしかたない、か。だってあんたは今日生まれたばかりで、何も知らないただの子供と変わらないものね。別に恥ずかしくないわよ」

吹雪「恥ずかしくない?」

恥ずかしくない、そんなわけない。自分が捨て艦になって、こんな扱いをされたことがないからそう言えるんだ。この人は。

大井「恥ずかしくないわよ。囮、犠牲、捨て駒、そんなのざらよ。だって今は戦時中だから。強いのが生き残って、弱いのは死んでいく。いい、冥土の土産で教えてあげるわ。弱い人はね、強い人の犠牲になるの。強い人を守る為に弱い人がいるの。じゃあここで一つ問題よ」

人差し指を立て私を試すような顔をした。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 23:12:09.29 ID:FvAL3MrG0

大井「絶対に負けてはいけない戦いに出ます。その時、指揮官のあなたは、その戦いにどれだけの戦力を投じようと考えますか?」

吹雪「.....戦える人はみんな出撃させます」

大井「....弱い人もですか?」

吹雪「出しません。弱い人を出しても死んじゃうだけですから、そんなの可哀想です」

大井「絶対に負けてはいけない戦いに、必要最低限の戦力を投じるんですか?保険も何もかけないで、私情を挟んだ作戦でその作戦が完遂できると思っているんですか?」

そう言われた私は口籠る。絶対に負けられない戦いに必要最低の戦力で立ち向かうのは、確かに不安だ。

保険をかける、そのもしもに備えて、盾や予備の人員を用意する。もし負けてしまうことを考えると、使える人は使ってしまいたい

でもそれはよくないことだ。弱い人を出せば、死んでしまうのは分かりきっている。死んでしまうのはよくないことなんだから。

私は言葉を出せなくなってしまう。言い返せないからだ。

大井さんが言うのは、間違えじゃない。でも間違っている。その矛盾がどうしても飲み込めない。

大井「....ほらどうしたのよ?何か言ってみなさいよ。感情論を剥き出しにして、それでも可哀想、間違ってるって言ってみなさいよ。何もわかってない子供みたいに」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 23:14:37.25 ID:FvAL3MrG0

吹雪「じゃあ!大井さんはどうなんですか!?自分が捨て艦に選ばれたら、同じことを言えるんですか!?」

大井「捨て艦に選ばれないよう頑張っているのよ?私が必要にならないなんて思われないよう、強くなっているから、私はこうして生きてるの。手段と目的を履き違えないでくれないかしら?」

吹雪「そんな根拠なんてないじゃないですか!さっき加賀さんは自分の代わりにいくらでもいるって言っていました。大井さんだって同じはずです!」

大井「私は自分が死んでいくのを何回も見たわ。その度に確信するの。私は必要とされてるって。だからって慢心して努力は怠らないわよ。あんたの言うとおり、いつだって捨て艦になる可能性はあるもの」

突然私の世界が崩れた。大井さんの姿は歪み、声が引き伸ばされて何処までも続いていく。そして私の視界が真っ黒に染まった。それに体に力が入らない。

さっきまで寒くてしょうがなかったのに、体が熱くて堪らない。そして私は倒れたんだと知ったのは、誰かの足が見えたからだった。

捨て艦を恨むなら、弱い自分を恨みなさい。ふわふわとした意識の中、大井さんの声が耳に響いた。

大井「ねぇ、あんまここでもう死んだら。深海棲艦に殺されるくらいなら、名誉の死を遂げたほうがいいでしょ?ここであんたを殺した後、私を恨んだって構わないけど、次にあんたが私を殺しにやってきた時は、こうは優しくはできないから」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 23:21:44.75 ID:FvAL3MrG0

加賀「大井、あなた何をしようとしてるの」

大井さんが今、私に何をしているのかは見えないからわからない。でも確実にまずい状況になっているのは、感覚でわかる。

私に向けられている、意識。私が深海棲艦に向ける意識と、深海棲艦が私に向ける意識。それと同じ。

大井「見てのとおりですよ。それに、どうせ捨て艦なんですから、過程は違えど結果は同じです。どちらにせよもう保たないでしょうし、辛いだけですから、私が楽にしてあげるつもりです」

加賀「...わかりました。ですが、私は何も見ていません。北上も朝潮も、いいですね。あなた達は何も見ていない」

北上「はいよー」

朝潮「わかりました」

私は声を出そうと必死に息を吸う。でも吸った空気は喉に突き刺さり、吐き出そうとすれば、まるで返しがついたみたいに喉をえぐる。

嫌だ、そんなの嫌だ、まだ死にたくなんかない。私は帰るんだ、元の鎮守府に。

だせ、声を出せ。動け、指先一つでも。そのどれか一つができれば、嫌だっていう意思表示ができるんだ。だから動いて。

大井「じゃあね吹雪。今度から、吹雪を見た時はあなたのことを毎回思い出してあげる。でもまぁ、数が多かったら、いつか忘れそうだけど。その時はごめんなさいね」

激しい雨音に混じり、重く鈍い鉄の音が聞こえた。聞き覚えのある音だ。これは砲弾が装填される音。

そして私の五感の全てが何も感じなくなる。暗闇が延々と続き、その時を否応なく待つ。

大きな爆発音が一つ、周りに響いた。そのまま、私の意識はぷつりと切れる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/10(金) 23:37:20.31 ID:FvAL3MrG0
今日はここまでです。大井さんにひどいことを言わせてしまいましたけど、前作の大井さんと対比してほしくて喋らせました。私とあなたがこのお話の主題ですので、気分悪くされたらすみませんでした。またがんばります。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/14(火) 15:57:42.64 ID:Aob3MQugo
おつ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 09:04:53.40 ID:h0gxlCJ20
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/26(日) 01:11:43.13 ID:SKJ6bGqU0

榛名さんは、眼鏡を集めるのが趣味らしい。

最近はアンダーリムの眼鏡が流行りで、色違いをいくつも集めていて、それを一生懸命手入れする姿が理解できないと、霧島さんは言った。

それに榛名さんの視力は眼鏡なんかつけなくても問題ないらしい。

加賀さんは夜中になると、いつのまにか部屋にいないらしく、何をしているのかと聞かれた。

自分でも知らないらしい。そもそも初耳だと言ったら、神通さんが加賀さんは夜中に夜勤の方と被らないように食堂に行き、ご飯を食べてましたよと言った。

夢遊病が疑われ、渋々本当は知っていますと白状した。

みんな私の知らない事だらけだった。意外な一面があったり、ああやっぱりなと、発見が沢山あった。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:13:43.59 ID:SKJ6bGqU0

しとしとと、雨音がする外を見た。ふと頭の片隅に、たぶん、いくら吹雪さんが強くても、もう助からないだろうと、思いうかんでしまった。

だから、仕方ない。帰ってこれないなら、私はこのまま吹雪さんを演じて、私がここの吹雪にならないといけない。

ひどいことをしてるっていうのは、わかってる。私がそんな事されたら嫌だから。

でも私が演じるしかないと考えるなら、あの吹雪さんだって、この状況が逆だったら同じことを考えるはず。

だって私と同じ「吹雪」だから、考えることは同じはず。

私は視線を戻して、わいわいと楽しく盛り上がってるみんなを見た。

加賀さんは顔が青ざめている。それを見てすごく笑っている瑞鶴さんに摩耶さん、比叡さん、そして金剛さん。

赤城さんは霧島さんと夕立ちゃんにお菓子を渡していた。

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:14:19.41 ID:SKJ6bGqU0

私は神通さんと目があった。そして私は特に何もなかったようにして、今度の話題に耳を傾ける。

でも、なぜかもやもやした。私はみんなが笑っている雰囲気を利用して笑い、あくまでも自然に周りを確認した。

そして、もう一度神通さんと目があった。

摩耶「じゃあ次は誰を餌食にしてやろうかなぁ?」

この質問大会を始めたのは神通さんだ。みんな楽しそうにしているのに、なぜか発案者の神通さんは笑っていなかった。真剣に、何かを見定めていた。

たぶん神通さんは、私をずっと見ていた。私が気がつかなかっただけで、片時も私から目を離さずにいたんだ。だって今も私を監視する意識は途切れていないから。

私は急に怖くなった。もしかして本当はばれているんじゃないのか、いや最初から気がついていたのかもしれない。知っていたから、こんな楽しそうに、こんな事が。

こんなこと。そうだ私は今何をしてる。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:15:16.65 ID:SKJ6bGqU0

摩耶「じゃあ次はふ、」

吹雪「あの?と、トイレ行ってもいいですか?」

私はできるだけ小さく手を挙げた。今すぐにでもここから逃げだして、この質問大会が終わるまでトイレに逃げ込まないといけない。そう思ったからだ。

私は今、自分が置かれている現実に寒気がした。

神通さんは、たぶん私に気がついてる。そうでもないと、こんなことは始めないから。

一体いつからだろう。私だって用心して、下手なことは喋らないようにしていた。

少しでもこの艦隊の関係について話し、答えに矛盾があれば、疑いの目を向けられるのはわかっていたからだ。

名前の呼び方は簡単だ。私だったらこの人をこう呼ぶ、って思いついたのが正解なのだから。

神通「では吹雪さんが戻ってくるまで中断にしましょうか」

今まで一言も喋らなかった神通さんは、その時初めて、小さく呟いた。私は立ち上がった所で青ざめ、急いで遠慮する。

吹雪「いえ!そんな私になんか気にしないで続けていてください」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:16:14.77 ID:SKJ6bGqU0

神通「いいえ。これはまだ配属されて間もない吹雪さん達の為に催した企画ですから、当事者がいないのに進行するのは、意に反します。どうぞ、ゆっくりトイレに行ってきてください」

そう私を見据えて、きっぱり断った神通にみんな納得したようようで、一時中断してしまった。

私は緊張とストレスでぐるぐるになった頭を巡ぐらせる。

神通さんがいつから気がついていたのか。いや、そんなことよりも今どうこの場を切り抜け、企画を終わらせるか、それを考えないと。

瑞鶴「どうしたの吹雪?なんだか顔色悪いわよ?」

隣にいる瑞鶴さんは、私の顔を覗き込むと心配そうに見つめた。

その優しい表情が今の私には、どうしても裏があるんじゃないかと思えてくる。

本当は初めから私の正体を知っていて、弄んでいる。そんな風に思えて、しょうがない。

だからって表に出すわけにいかない。私は笑顔を無理やり取り繕う。

吹雪「....いえ、大丈夫、です」

私はもう一度座り直すと、深く深呼吸をした。

神通「トイレはいいのですか?」

そう言われて私はトイレに行こうとしていたのを思い出した。

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:17:28.32 ID:SKJ6bGqU0

吹雪「あ!えっと、大丈夫です。心配しなくても、いいですよ?」

加賀「神通。一つ質問してもいいかしら」

私を心配して静まった空気の中、加賀さんの無機質で冷たい、私がさっきまで抱いていた加賀さんのイメージに近い、あの声が一つ響いた。

神通「ええどうぞ」

加賀「私は神通を思慮深い艦娘と考えています。だから改めてお互いのことをよく知るために催しを開いた、そう言いましたが、真意は他にあると今確信しました。それを私は聞きたいのです」

神通「そうですね。茶番はもう終わりにしましょうか。では残り二つの質問で終わりとします。最後までルールに沿って切りよく終わらせましょうか。ちょうど、大富豪のテーブルゲームのように」

大富豪のゲームっていうのが私にはよくわからないけど、加賀さんは神通さんの一言に納得したようで、一度頷くと静かに目を閉じた。

でも何かに納得したのは加賀さんだけみたいで、それ以外の人たちはさっぱりわからない、そんな顔つきをしている。

腕を組み、難しい顔をして話を聞いていた摩耶さんは声を出した。

摩耶「あたしは神通に質問する」

神通「えぇどうぞ」

摩耶「どうしてこれを始めた?」

簡単ですよ、と、流れるように素っ気なく答える。少しも眉を動かさず、顔色一つも変えないで。そして何度も、よく見た、死人のような瞳が私を捉えた。

神通「そこの吹雪さんが、私たちのよく知る吹雪さんではないと思い、暴くため、これを始めました」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:19:10.50 ID:SKJ6bGqU0

静まり、凍りついていた雰囲気が、さらに温度を下げる。そう感じたのは、私の正体が見透かされたと同時に走る悪寒と、冷や汗のせいだと、そう信じたい。

私に向けられる眼差しは、案じから、疑惑に変わったような気がしたからだ。

摩耶「....吹雪?それはほんとか?」

でもいくら私は疑われていても、それを覆すことができるんだ。

切り札、文字通りカードがある。それは吹雪さんから渡された、留萌の吹雪と証明できるカード。

私は疑いを晴らすため、ポケットに手を入れ、それを取り出し、床の上に置いた。

吹雪「....私は、吹雪ですよ。なんで、疑うんですか?」

神通「私たちのよく知る吹雪さんはお人好しで、馬鹿正直です。だから留萌の艦娘と物的に証明できても、あの吹雪さんなら、相手に入れ込んでしまい、カードを渡してしまうはずです」

もっと強く釘を刺しておくべきでした、と神通さんはこめかみを抑えながらそう言った。

でもいくら神通さんがそう言ったって、同じ吹雪なんだから、見分けることはできないはず。だからここまで馴染むことができたんだ。

吹雪「神通さん?なんで、信じてくれないんですか?」

まるで追い討ちをかけているみたいだ。絶対にバレないとわかっている安心感から、そう言ったんだと、私は今思いついた。そして、こうとも直感した。私は留萌の吹雪さんになろうとしている。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:20:29.75 ID:SKJ6bGqU0

何を今更、私はずっと吹雪さんになろうとしていた。

いいやなりたかったんだ。吹雪が、吹雪さんを演じているっていう違和感を捨てて、本当に吹雪さんになりたかったんだ。

私と吹雪さんは何もかもが同じなんだ。身長も体重も、頭から足の先まで、考えることだって、多分同じはず。

それなのに、どうして私の居場所はここじゃないんだ。羨ましい、妬ましい、イライラする。

だからもう少し、後少しで、私は吹雪さんになれる。

ここで全部バレて、水の泡となるのだけは、ごめんだ。防げるためだったら、なんだってやれる。

神通「私は吹雪さんの元教育係ですから、よく吹雪さんのことは見ていました。だから断言します。あなたは吹雪さんではないですね」

吹雪「そんなわけ、ないです。私は、私は!吹雪なんです!!」

神通「なら私はあなたに質問します」

あなたが初めて海上に立ち上がった時、どうなりました。そしてその後、あなたはどうなりました。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:23:11.46 ID:SKJ6bGqU0

そんな簡単な質問なんだと、私は拍子抜けした。だって答えは一つしかない。

吹雪「普通に立ち上がって、海を滑りました」

生まれてまもない私は普通に海の上に立てた。それは軍艦だった頃の体感が、魂に残っていているからだ。

海の上に浮かぶ、その艦娘でいう、歩くと何も変わらない動作の一環。

それは私と同じ捨て艦で、今はもう一度暗い水底で眠っている夕立ちゃんも、それは同じだった。

だからはっきり言える。嘘も何も必要ない、艦娘ならできて当然のことのはず。

神通「....やっぱりですか。あのお人好しは....」

今まで目を伏せていた加賀さんは急に立ち上がった。そして瑞鶴さんの方を向くと淡々と話し始めた。

加賀「瑞鶴私と来なさい。今からこの鎮守府の出撃記録を調べに行きます」

瑞鶴「わかりました」

瑞鶴さんも立ち上がると急いで部屋を出て行く支度を始めた。

金剛「加賀、いつでも出撃できるよう海辺で待機してますね。どこに出撃したか判明したら連絡をください。比叡、霧島。外に向かいます」

摩耶「あたしもいく。いいだろ」

金剛「ええ一人でも仲間が多い方が助かります」

赤城「では私は提督と榛名さんを抑えておきます。公になったら面倒ですからね」

吹雪「ちょっ!ちょっと待ってください!」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:24:54.06 ID:SKJ6bGqU0

私は、何も間違えていない。艦娘ならできて当たり前のことなのに、何を間違えたっていうんだ。

そんなの、艦娘としておかしい。海の上を進むことができない船なんて、欠陥品もいいところじゃないか。

神通「黙っててもらえませんか。今の私は虫の居所が悪くてしかたありません。それ以上喋られると、私はあなたを殺してしまいそうです。だから黙ってなさい」

身震いしそうなくらい冷ややかな声。私を見てはいないのに、言葉の刃物を喉元に突き立てられているような錯覚を感じた。

赤城「この雨は、通り雨ですから、今は小雨でも、いつやんでしまうかわかりませんね。でも幸いなことに、空母の艦娘が一体でもいれば行軍は中断して、今は雨が止むまで待機しているはずです。それにかけましょう」

赤城さんのどこか他人行儀な声が聞こえ、私はそっちを向いた。

窓辺で雨の様子を伺っていた赤城さんは、私の視線に気がつくと、少しだけ私を見つめ、そしてすぐに興味を失くしたようで、さっさと自分のするべきことを果たしに行った。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:26:15.13 ID:SKJ6bGqU0

怖い、怖い。私はどうなるんだろう。

もしも吹雪さんが戻ってきたら、私はどうなるんだろう。

もしも吹雪さんは戻ってこなかった、私はどうなるんだろう。

二つに一つじゃなくて、両方とも、私にこの後突きつけられる現実は非情なものに違いないはず。だから怖い。

ねぇ、と私のすぐ近くで声がした。その声は私の右隣からしていて、そこに座っていたのはは夕立ちゃんだったはず。

案の定、私をじっと見つめている夕立ちゃんがいた。

吹雪「....なんですか」

夕立「入れ替わってたんだね」

吹雪「そうですよ?だからなんですか?」

どうせ夕立ちゃんは、私のことを卑怯な奴だって思っているはず。

私は捨て艦の吹雪の話をした。だから夕立ちゃんは、今吹雪さんがどんな状況下で戦っていて、ひどい目にあっているってことを知っているはず。

そこまで知っていて、私のことを卑怯者だって言わない人なんていない。

夕立「私の秘密教えてあげようと思ってさ。実はね、私、前の鎮守府で捨て艦だったんだよ。だから、痛いほどよくわかるの。あなたの気持ち」

雨、これから強くなるっぽい。私もこんな天気だった時に壊れたから、よくわかるの。

そう言って夕立ちゃんは雨脚が強くなってきた外の景色を見て、窓を滴る水滴と同じように、涙が頬を伝ってゆく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:29:47.10 ID:SKJ6bGqU0
今日は終了です。また明日更新するかもしれませんし、しないかもしれません。またがんばります。それとあまり関係ないような気もしますが、今でも2ヶ月書き込みがないスレって落ちますか?2ヶ月経った後に更新したお話があって、見つからなくなったので、気になってます。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/26(日) 01:35:11.58 ID:wZu3o2+1o

最近は管理されてないみたいだから2ヶ月過ぎても落ちない気がするけど原則は>>1の書き込みが2ヶ月もしくは1ヶ月一切書込みがなければ落ちる
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/26(日) 01:42:06.74 ID:SKJ6bGqU0
>>97
ウェブ検索だと出てくるんですけど、スマホのアプリだと出てこないんで落ちたと思ってました。宣伝臭くてすみませんでした。またがんばります。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/26(日) 03:50:47.58 ID:ZBUTRpLlo
おもしろい
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/26(日) 06:23:36.49 ID:/mYT511Do
棄て艦当たり前にする提督しかこのスレにはいないがな
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/26(日) 06:47:31.80 ID:8OZ9heUxO
バイト艦はよくやるが捨て艦はやらないなあ
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/27(月) 01:33:56.95 ID:iHUuAjmu0

目を瞑ると現れる、壁のようにのっぺりと広がる暗闇とは違う、右も左も、後ろも前も、果てしなく続く、広大な闇の海原。

目を開くと現れたのそれだった。私は手を伸ばした、そんなような気がする。

どうして、ような気がしたのか。理由は手を伸ばしたはずなのに、闇に覆い隠されて、見当たらないから。

こんな真っ暗中に、私は立っているのか、寝そべっているのか、はたまた浮かんでいるのか沈んでいるのか、にっちもさっちもわからないけど、怖くないのが不思議でたまらない。

私は腕を体の隣に戻した。そして目を瞑り果てしない暗闇を遮って、耳をすました。静かに流れる水の音がする。

あぁ思い出した。ここが一体どこなのか。そうだ、私の体全てを覆い尽くすこの闇は、深海だ。

ソロモン諸島とフロリダ諸島に挟まれた海域。鉄塔海峡、アイアンボトムサウンドから少し離れたサボ島付近の海域。

ばらばらになったたくさんの私と、広がる鉄くずの墓場。水深5100メートルの海底。私の墓場だ。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/27(月) 01:34:55.26 ID:iHUuAjmu0

流れる水の音に乗って、誰かの声が聞こえた。その声は泣いていて、すごく悲しそうだった。

どうして泣いているのか気になった私は、ばらばらになっている私を辿り、その声の元へと向かう。

すると私の胸の奥が、その悲しみに共鳴するように張り裂けそうに鼓動を始めた。

だれかがいた。私の記憶にはない、そのだれかの後ろ姿は、真っ白な髪の毛と、ワンピースでぽつりと闇の中に現れた。

ねぇどうしてないてるの。私はそうきいた。

すすり泣く声がやんで、その人はこういった。私は、いつまでここに、とりのこされているの。と。

いつまでもはないよ。いつかはここをぬけられる。だって私がそうだから。

おもしろいこというんだね。どうして作り物の吹雪が、そんなことをいえるの。そう自虐する笑い声といっしょに吐き出しされたことば。反論する。

どうしてって、わたしはあなただから、わたしがここをぬけだせたのなら、あなただって、いつかはわたしとおなじようになれるはず。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/27(月) 01:36:30.00 ID:iHUuAjmu0

この姿でもそう言えるの。目の前の私は立ち上がった。

そうして全身が明らかになると、私はやっと気がついた。真っ白なのは、何も髪の毛と服だけじゃないと。

腕も脚も、全身が死人のように真っ白で、服だと思っていたワンピースは、まるで体と同化しているみたいに、くびれた曲線を描いていた。

でもそんな些細なことよりも、左腕の方に目が移った。

黒くてごつごつとした、魚の尾に水かきが広がったような腕。

そして体内の抑えきれない絶望は、内側から黒々とした皮膚に亀裂を生じさせていて、その絶え間なく広がる裂傷を塞ぐためにできた、まだ赤く、新しいケロイドが脈々と盛り上がっていた。

ゆっくりと、目の前の私は振り返った。

そしてその顔は、瓜二つの顔。鏡を見ると必ず現れる、その顔。同じ身長、同じ体重。同じ髪型をした私だった。

でも明らかに違うのは、おでこに生えた二つの角だった。

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