狩人「スライムの巣に落ちた時の話」

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103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:24:22.96 ID:xKrYj/gN0
先ほどの声は、アカの物だろうか。

だとしたら、もう喋れるという事になる。

少し、会話してみようか。

脱出の為、というのもあるけど。

単純にアカと意思疎通してみたいという気持ちのほうが強かった。

前を向いたまま、後ろのアカに話しかける。



狩人「アカ、私の言葉がわかる?」

アカ「……うん」

狩人「もう、喋れるようになったんだね、クロと比べて、ずいぶん早い気がするけど」

アカ「……うん」

狩人「アカの顔、見てもいい?」

アカ「……いや」

狩人「そっか、残念」

アカ「……」

狩人「……」

アカ「……ママは、おこるかも」

狩人「どうして?」

アカ「……アカは、ママ以外のヒトをしらない」

狩人「うん」

アカ「……クロから、ヒトの姿になれって言われても、わからない」

アカ「……だから」



ヒトの外見に関する情報が少ないから、私を模した形になったってことかな。

納得できる話だ。



けど、それじゃあクロの外見は、何なのだろう。

私とは似ていない。

私の夢に出てきた幼馴染を模した……という訳でもない。

あれは、誰の外見なのだろう。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:24:59.22 ID:xKrYj/gN0
アカ「……ママ、やっぱりおこってる?」

狩人「私の外見を模したこと?そんな事では怒らないよ」

アカ「……そう」

アカ「……よかった」

狩人「じゃ、見ていい?」

アカ「……やだ」

狩人「残念」



まあ、アカの姿をちゃんと見る機会は、そのうち生まれてくるだろう。

この洞窟は狭く、時間はまだたくさん有るのだから。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:26:00.54 ID:xKrYj/gN0
アカ「……ママは」

狩人「うん」

アカ「……お外に、出たいの?」

狩人「……そうだね、出たいよ」

狩人「ずっと、そう思ってる」

アカ「……アカ達の事が、いや?」

狩人「違うよ、そうじゃない、そうじゃないんだ」

狩人「私はね、アカ、約束をしたんだ、あるヒトと」

狩人「けど、洞窟に落ちちゃったことで、その約束を破ってしまった」

狩人「ずっと、破り続けてる」

狩人「それが、嫌なんだよ」

アカ「……」

狩人「アカ?」

アカ「……アカは、ママと離れたくない」



その言葉に反して、暖かい感触が背中から離れた。

ううん、話の仕方を間違えちゃったのかな。

こんな時、幼馴染だったらどうするんだろう。

どうしたら、いいんだろう。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:45:46.02 ID:xKrYj/gN0
〜同日〜

〜夜〜



クロ「お母さん、アカから聞きましたよ、まだ外に出たがっているのですか」

狩人「そりゃあ、出たいよ」

クロ「もう、仕方のないお母さんですね……仕方ありません」

狩人「手伝ってくれるの?」

クロ「はい、勿論です、お母さん」



クロは、機嫌良くそう答えた。

良かった、問題が一気に解決した。

もしかしたら前の時は機嫌が悪くてあんな返答をしたのかもしれない。

けど、クロは普段はとても理知的だし、一族の中で一番かしこいって話だ。

きっと、私の為に考えを変えてくれたんだな。

ありがとう、クロ。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:46:49.24 ID:xKrYj/gN0
クロ「ヒトである以上、その欲求があるのは当然のことです」

クロ「私が生誕してからずっとお母さんを観察してきましたが、一度もその行為をしたことはありませんでした」

クロ「きっと、私達を育てるのに気をとられて、自分の欲求は後回しにされていたのですね」

クロ「尊い」

クロ「けど、大丈夫、これからは私がいます」

クロ「そりゃあ私はスライムですから、最初はちょっと失敗とかするかもしれませんが」

クロ「時間は沢山あります、最終的にはお母さんの満足行く結果を導く出せると保障します」

狩人「……何の話をしてるの?」

クロ「性的欲求の話ですよね?」

狩人「え?」

クロ「外に出て相手を探さなくても、私達で対処できますよ、それくらい」

クロ「私以外の姉妹も、決してお母さんの性的欲求を拒む事はありません」

クロ「体液を摂取する事で性別や種族を無視して子を作ることが出来ます」

クロ「きっと、お母さんを満足させてあげられますよ」

狩人「……」

クロ「さあ、服を脱ぎましょうね、お母さん」



クロが、私の身体に纏わりついてくる。

掴んで押しのけようとしても、軟体であるが故にすり抜けられる。

……あれ、これ、洞窟に落ちて以降で一番のピンチなんじゃないかな。

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 11:07:29.14 ID:xKrYj/gN0
クロの冷たい手が私の身体に触れる。

肌の上を軟体の何かが這うような感触。

まるで複数の指で触られているかのような。



「クロ、止めて」

「遠慮しなくても大丈夫です、怖くないですから、痛くしませんから」



うん、聞こえていないなコレ。

私はそのまま押し倒された。

グチュリ、と私の上にクロの身体が乗って来る。



手足は既に拘束されており、逃げられそうにない。

仮に手が使えたとしても……悪意が感じられないクロを傷つけるのは躊躇しただろうけど。



半ば諦めていた私の視界を、青い何かが横切る。

それと同時に、ザプンっと音がしてクロの上半身が消し飛んだ。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 11:26:24.49 ID:xKrYj/gN0
私を拘束していたクロの身体が、ベチョリと崩れる。

何とか動けるようになった。

そんな私を見下ろし、手を差し伸べてくる青い人影。



「母さま、だいじょうぶ?」



アオだ。

ヒトの形へと変体を遂げたアオが、助けてくれたのだ。



「アオ、どういうつもりですか、お母さんの性的欲求解消を妨害するなんて」

「母さまは嫌がってた、ボクは母さまの言葉を信じただけ」

「嫌よ嫌よも好きのうちという言葉があるのです、照れによる拒絶を本気にしてどうするのです」

「なにそれ、意味わかんない」



吹き飛ばされたクロの上半身と、私の上から零れ落ちた残りの粘液が合流する。

何事も無かったかのように、クロは復活を果たした。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 11:32:30.40 ID:xKrYj/gN0
「これだからお子様は始末に終えません、判らないなら下がっていなさい、これは系譜最先端である私からの命令です」

「ボクの方がお姉ちゃんだけど」

「一番最初の生誕しただけでしょう、後に生まれる個体の方が優秀であるのは自明の理」

「ボクの方が母さまと良く遊んだ」

「私がヒトの形になる為に自己改造していた隙をついて遊んでいただけでしょう!誰のお陰でその形になれたと思って!?」

「母さまは、ボクが捕った魚を見ていつもほめてくれる」

「ガボガボガボガボガボガボ!」


喧々囂々。

どうやら、スライム達も一枚岩ではないらしい。

アオは、クロよりも私を尊重してくれているようだ。



この日、私はクロとの子を作らずに済んだ。

けど、クロは諦めてないように思える。

ちょっと、怖いなあ。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 11:50:26.50 ID:ulNajlRpo
この板がR-18許されていないのが残念だ……
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 12:57:52.91 ID:xKrYj/gN0
〜66日目〜



アオの身体は、やはり私を模した物だった。

アカと明確に違うのは、髪に類似した部位を纏めて後ろで垂らしている点。

彼女達は個体差を守ろうとする意志がある。

同じ「私と似た外見」であるが故に、意識して差異をつけたのだろう。



アオ「母さま、あれとって」

狩人「うん、いいよ」



アオに請われて、私は指笛を吹く。

驚き飛び交う蝙蝠に、礫を当てる。

アオは大喜びでそれをキャッチ。

楽しそうなその様子を見て、何故か私も嬉しくなる。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 12:59:20.60 ID:xKrYj/gN0
狩人「アオは、水の中とかも好きだよね」

アオ「ちがうよ、母さま、ボクは魚をとるのがすきなの」

狩人「そっか」

アオ「石で遊ぶのも好き、母さまみたいに石投げしたい」

狩人「……アオは、性質的にも私と似ているのかな」

アオ「ボクも母さまみたいになれる?」

狩人「どうだろう、他人にやり方を教えたことは無いけど」



ふと、子供の頃を思い出す。

父とは母、私の教育にとても熱心だった。

ヒトとしての有り方を教えるよりも、狩人としての生き方を優先して教えてくれた。

その知識は、まだ私の中に残っている。

根付いている、と言ったほうがいい。

なら、私にも、両親のように出来るのかもしれない。



狩人「……そうだね、まずは弓の使い方を覚えないと」

アオ「ゆみ?」

狩人「そう、私が一番得意な得物、石なんかよりももっと速く遠くまで飛ぶ」

アオ「すごい!見せて見せて!」

狩人「ううん、それは難しいかなあ」

アオ「どうして?」

狩人「ここに落ちてくる時、無くしちゃった」

アオ「ここに……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 13:00:00.74 ID:xKrYj/gN0
アオは、天井の穴から外を眺めた。

何か、考えているようだ。



アオ「……ここの、外には、何があるの?」

狩人「色々あるよ、森とか、村とか」

アオ「それだけ?」

狩人「……もう少し南にいくと、帝国領がある、その向こうはまた別の国があって」

アオ「くに?」

狩人「沢山のヒトや、ケモノが住んでいる所だよ」

アオ「どれくらい沢山?」

狩人「数えられないくらい」

アオ「そんなに?」

狩人「うん」

アオ「ふーん……」



途中から、予感があった。

アオは、活発で好奇心が旺盛なのだ。

この小さな洞窟だけで、満足が出来るはずはない。

だから。



アオ「母さま、ボク、外に出てみたい」

アオ「連れて行って」



こうなる事は、半ば必然だった。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 13:16:51.38 ID:SSq3R5Kqo
ああ冒頭の状況まで残り20日切った
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 13:40:59.44 ID:HxhS0gAko
尊い
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:30:42.31 ID:xKrYj/gN0
〜69日目〜


アオが協力してくれる。

それは、とても心強い申し出だった。

今の彼女の知能であれば、洞窟から出て蔦を見つけて来る事は容易いだろう。

けど。



「そのまま、あっさりとは脱出させてくれないだろうなあ」



クロとアカは、私の脱出に対して否定的だ。

私が蔦を登っているのを見たら、当然邪魔をしに来るだろう。

アオ1人で、それを阻止できるかどうかは微妙だ。

最悪、私はもう一度地面に叩きつけられる事になるかもしれない。

なるべくなら、それは避けたい。

もう少し、作戦を練る必要があるかな。



「そういうのは、得意では無いのだけどね」



ピチャン、ピチャンと音がする。

天井の穴から、雫が入り込んでいるのだ。

今夜は、久々に雨である。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:31:10.67 ID:xKrYj/gN0
雨音に混じって、妙な音が聞こえた。

口笛?

いや、もっと綺麗で鋭い音色だ。

前に幼馴染が聞かせてくれた、横笛の音に似ている気がする。



音は、壁際に座っている緑色の人影から聞こえる。

ミドリだ。



彼女の変体も、既に数日前に完了していた。

アオやアカと同様、私の外見を模している。

2人と明確に違う点は、髪の長さ。

姉妹で一番大きかったミドリの体積は、その殆どが髪に長さに費やされている。



「ミドリ、今、口笛吹いていた?」

「……」



無表情。

返事は無い。

クロの言葉が確かなら、ミドリは音に対して親和性が高いとの事。

つまり「喋れないから返事が無い」という状況では無いと思うんだけど。

前から、読めない所がある子だったからなあ。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:31:41.86 ID:xKrYj/gN0
「……」

「とても、綺麗な音だったね」

「……」

「風鳴の音だったのかな」

「……」



再び、音がする。

高く、低く、遅く、長く。

ミドリの口は、閉じられている。

だが、それは確かにミドリから聞こえていた。



その音の連なりには、何故か聞き覚えがあった。

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:32:12.90 ID:xKrYj/gN0
それは、私が何度かミドリに聞かせてあげた、あの歌。

あの歌が、音の連なりとして流れているのだ。

どうやっているのかは、不明だけど。

きっと、これはミドリが奏でてくれているのだろう。

そっか、ミドリはあの歌が好きだったからな。

なら。



「さあ眼を開けて」

「私の大切な可愛いあなた」

「生まれてくれてありがとう」

「私と一緒に生きましょう」

「暗いときも明るいときも」

「私達が共に歩めますように」

「最後に眼を閉じるその時まで」

「共に歩めますように」



私の声と、ミドリの音色が重なる。


私は、この歌が好きだった。

幼馴染が歌ってくれた、この歌が好きだった。


そして、今日。

私はこの歌の事を、もっと好きになった。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:32:43.82 ID:xKrYj/gN0
歌が終わった時、満足感があった。

ミドリは何も言わないけど、きっと同じ気持ちなんだと思う。

共鳴として、それが感じられる。



「ミドリは、どうやってさっきの音を出していたの?」

「まるで、楽器みたいだったけど」



ミドリは私を見て、次に自分の髪を見た。

髪といってもスライムの身体が変形して作られたものだ。

どちらかというと、陶器のような滑らかさがある。

その髪には、小さな穴がいくつも開いていた。



「そっか、空気がこの小さな穴を通るときに、音が出るのか」



笛と同じ仕組みなのだろう。

最も、大きさと穴の数から考えると、ミドリの髪の方がもっと複雑なんだろうけど。

もしかしたら、ミドリが喋らないのは、この仕組みが関係しているのかも。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:33:32.06 ID:xKrYj/gN0
「ミドリは、歌が好き?」

「……」コクン

「そっか、じゃあ、もっと歌を聞かせてあげたいけど」

「……」

「ごめんね、私が知ってる歌は、これだけなんだ」

「……」フルフル

「幼馴染なら、もっと沢山の歌を知ってるんだろうけど」

「……」

「もし、私が外に出られたら、幼馴染から、歌を教えてもらうよ」

「……」

「いっぱい、いっぱい教えてもらうから」

「……」

「それを、ミドリにも聞かせてあげるね」

「……」コクン



その時、ミドリは笑った。

控えめにだが、とても可愛く笑った。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:34:09.95 ID:xKrYj/gN0
〜73日目〜


「雨は嫌いです、過剰湿度のお陰で、眠くなります」


確かにクロの動きは鈍かった。

鈍いというか、半分寝ぼけていた。

アカやミドリにも、若干その傾向がある。

皆が寝そべる、けだるい時間。


その隙に、アオには洞窟の外に出る練習をしてもらった。

具体的に言うと、雨水の流れる壁面を登ってもらったのだ。

水中で活動することが出来るアオは、雨水にも負けず、天井の穴まで登ることが出来た。

更に言うと、ほんの少しだけど外に出る事に成功したのだ。


まあ、怖くなってすぐに戻ってきちゃったんだけどね。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:34:35.60 ID:xKrYj/gN0
〜77日目〜


雨はまだ止まない。

降り続いている。

洞窟の中にも水は入り込んできたから、私達は少し高い岩場の上に避難していた。



アカが私に寄り添って、身体を暖めてくれている。

だから、風邪を引く心配は無いのだけど。

完全にアカから監視されている状態になっているから、身動きが取れない。



良かった事といえば、アカの姿をちゃんと見れたことだ。

何となく、アオやミドリと比べて幼い顔つきのような気がする。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:35:08.60 ID:xKrYj/gN0
〜80日目〜


「晴れです、晴れ、久しぶりに晴れましたよ、お母さん!」

「見てください、お母さんに抱きついてもこびり付いたりしません!」

「ちょうど良い湿度、ちょうど良い温度、ちょうど良いスキンシップ!」

「ゴボゴボゴボゴボゴボ!」



クロの機嫌はとても良い。

良すぎる。

離れない。



性的なことをされる様子は無いのだけど。

私は再び、身動きが取れなくなる。

まあ、けど、クロだって一時的に興奮状態になっているだけなのだ。

多分、数日もすれば落ち着いてくれるだろう。



それまで、我慢、我慢。



私は我慢した。

けど、我慢できなかった子が居た。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:38:09.80 ID:xKrYj/gN0

〜83日目〜



「母さまは、ボクと一緒に外に行くんだから、邪魔しないで」


この日、彼女達姉妹は正面衝突した。

私と一緒に外へ行くと約束していたアオの我慢が頂点に達したからだ。

もう少し気をつけておくべきだった。

アオは行動的な分「先延ばしにされる事」が苦手だったのだ。



アオの言葉を聴いたクロは、途端に不機嫌になった。
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 16:18:41.31 ID:xKrYj/gN0
クロ「外に?一緒に?貴女が?お母さんと?」

アオ「そう、ボクと母さまが」

アオ「……ママ、いっちやうの?」

クロ「行きません、そもそも何時そんな話になったのですか、誰の許可を得て?」

アオ「しばらく前に、母さまは良いよって言ってくれた」

クロ「お母さん、言ったんですか?」

アカ「……ママ?」

アオ「母さま、言ってくれたよね?」

ミドリ「……」


蜂の巣を突いたかのような騒ぎになった。

もう少し、穏便に事を進めたかったんだけどな。


まあ、けど成ってしまった事は仕方ない。

あとは最善を尽くすだけだ。
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 16:19:22.98 ID:xKrYj/gN0
狩人「言ったよ、アオに、一緒に外に出ようって」

狩人「アオは、それを希望していたからね」

狩人「私も同じ事を希望してるんだし、協力し合うのは当然のことだよね」

狩人「私は前から」

クロ「……」

狩人「外に出たいって言って……」

アカ「……」

狩人「たと、思うんだけど……」

ミドリ「……」

狩人「……」

アオ「……」





空気が凍った気がした。

アオが爆発した時とは、また別の雰囲気だ。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 16:21:41.43 ID:xKrYj/gN0
クロ「わた……ちに……」

狩人「え?」

クロ「私達に黙って、外に出ようとしたのですか」

狩人「いや、黙ってというか」

クロ「私達に黙って、行くつもりだったんですか」

狩人「クロ、話を」

クロ「私達に黙って、黙って、黙って、黙って」

クロ「それで、終わるつもりだったんですか」

クロ「私達を、私達を、捨て、捨て、捨て、捨ててて」

アカ「……やだ」

アカ「やだ、やだ、やだよぉ、ママ、いっちゃうの、やだ」

アカ「アカ、悪いことしちゃったの?アカが悪いの?」

アカ「悪いの悪いの悪いの悪いの悪いの悪悪悪悪悪」



頭痛と、吐き気がした。

眩暈がする、立っていられない。

クロの声が、頭に響く。

頭の中に入り込み大切な部分を壊そうとする。



それと同時に、熱風を感じた。

アカの声に呼応して、洞窟内の温度が上昇する。

眼が開けていられない。

肌が痛い。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 21:21:47.54 ID:iXtMPv7I0
あっ
ついに冒頭に・・・・
更新お疲れ様です
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 22:23:16.22 ID:wQuD9WS8O
早々に展開が読めた俺は読解力のないレスしてるアホ共、後の展開見たらどう思うんだろうなぁーってのを主軸にして見てるわ
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 22:49:16.20 ID:5GvdWgVVO
ボクっ子スライム尊い……
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 23:00:49.61 ID:lqKwB+fIo
>>131
いきなり何の話してるの君?
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 23:52:47.63 ID:K6dWXlRDO
触るな
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/12(日) 00:07:06.65 ID:sxgqIMcA0
冒頭で逃げてた狩人が仮に捕まったら強制孕ませボテ腹展開だからみんなでクロ応援しようぜってことだろ?
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/12(日) 02:31:14.84 ID:2+h01fkLo
ヤンデレズライムとかいう新ジャンル
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/12(日) 09:33:53.93 ID:hrQg2lpW0
ヤンデレと鈍感の相乗効果乙
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/12(日) 22:11:20.56 ID:Le2r5GTA0
クロはともかくアカには「みんなで一緒に外に出ようね」って刷り込んどけば問題無かったかもな
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/14(火) 17:57:27.04 ID:T00XNCc00
彼女達に、殺意は無いと思う。

ただ、状況に適応できず過剰反応を起こしているだけだ。

彼女達は、まだ生まれたばかりの赤子なのだから。

ストレスに対する耐性が無いのだ。



どうしよう。

このままだと、文字通り話にならない。

どうしたら。



ふと、クロの言葉が頭に浮かんだ。



「このような事は改めて言う必要もない、当たり前のことなのですが」

「それでも、私はヒトが行う、言葉のやり取りを尊重したいと思います」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/14(火) 17:59:03.23 ID:T00XNCc00
結局のところ、足りなかったのは交渉でも説明でもなく。

コレなのかなと思う。



私は、彼女達から母と呼ばれている。

それは、私自身が選択した行動の結果だ。

けど、決定的な言葉を、私は口にしていない。

ずっと前から、心の中に浮かんでいたのに。

何故か、決して言葉にはしなかった。



多分、彼女達は、蝙蝠肉なんかよりも、この言葉を欲していたのだろう。

今まで具体的な形として与えられていなかったから、不安だったのだろう。

それが今回のような形になって、爆発したのだ。



私が、両親からずっと与えてもらっていた言葉。

私が、彼女に与えることが出来る言葉。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 07:57:32.52 ID:0+XFa7tR0
おっ、改善なるか…?
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 08:51:48.19 ID:+9EHKWR90
「いい子にしないとおやつ抜きにするよ!」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:02:46.04 ID:io/ozYfw0
 



「クロ、アカ、そしてアオとミドリも」

「私はね、みんなを」

「みんなを」

「愛してるよ」




 
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:03:20.10 ID:io/ozYfw0
荒れ狂っていたクロの動きが、止まった。

悲しんでいたアカの動きが、止まった。

クロに襲い掛かろうとしていたアオの動きが、止まった。

1人静観していたミドリが、私のほうを見た。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:04:02.19 ID:io/ozYfw0
「最初はね、私の中の感情が何なのか、判らなかった」

「けど、今はわかるよ、これはきっと、愛情だ」



「ちょっと思い込みが激しくて、けど誰よりも努力家なクロ」

「照れ屋だけど、何時も私を気遣って、暖めてくれるアカ」

「好奇心旺盛で、私や姉妹の為に魚を取って来てくれるアオ」

「私と一緒に歌を歌ってくれる、ミドリ」



「ここで生まれ育ったスライム達」

「私の傍で育っていった大切なスライム達」

「その良い部分も、悪い部分も」

「今の私にとっては、凄く大切に感じられるんだ」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:04:39.37 ID:io/ozYfw0
「勿論、私達は種族が違う」

「考え方も、当然違うだろう」

「けど、けどね」

「クロ達が私に歩み寄ってくれたように」

「私も、クロ達に色んなものを与えてあげたいんだ」

「私がどんな場所で過ごしてきたか」

「どんなヒトと過ごしてきたか」

「どんな約束をしたのか」

「何処へ行こうとしているのか」

「そんな、私の全てを」

「皆にも、知ってもらいたと思ってる」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:05:08.35 ID:io/ozYfw0
クロ「……」

アカ「……」

アオ「……」

ミドリ「……」

狩人「うん、確かにクロが言ってたとおりだ」

狩人「多分、これは直接口に出して伝えないと自覚できなかった事だと思う」

狩人「少し、すっきりもしたかも」

アカ「……ママ」

狩人「うん」

アカ「……本当に、アカのことが好き?」

狩人「うん、大好き」

アカ「……う、うん、アカも、ママのことだいすき」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:05:36.83 ID:io/ozYfw0
アオ「母さま!母さま!ボクは!?ボクの事は!?」

狩人「うん、アオも好きだよ、大好き」

アカ「……ママ、もう一回言って」

狩人「アカが大好きだよ」

ミドリ「……」

狩人「うんうん、ミドリの事も、勿論好きだよ」

アカ「母さま!母さま!」

アカ「ママ!ママ!」



大騒ぎになった。

そんな中、クロだけが沈黙していた。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:06:03.34 ID:io/ozYfw0
狩人「クロ?」

クロ「……」

狩人「……外を怖がるのは理解できるよ」

狩人「けどね、私はずっとそこで生きてきたんだ」

狩人「それを捨てるなんて、簡単には出来ない」

狩人「私は外に戻るよ」

クロ「……」

狩人「だから、出来れば、クロ達にもついてきて欲しい」

クロ「……」

狩人「もし怖い眼にあっても、大丈夫だよ、だって……」



「森以外で暮すのが怖い?」

「大丈夫よ、だって……」



狩人「……だって、私が一緒にいてあげるから」

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:06:29.73 ID:io/ozYfw0
クロ「……」ブツブツ

狩人「クロ?」

クロ「……」ブツブツ

狩人「おーい?」

クロ「……」ブツブツ

狩人「何か呟いて……?」




「愛してるって言ってくれましたお母さんがお母さんがお母さんが私の事を」

「愛してるってお母さんが愛してるって愛を与えてくれるってそもそも愛って」

「愛って何でしょうかそれは全面的な肯定の言葉ですつまり私はお母さんに」

「全面的に肯定された私の行為が思想が身体が全て全てお母さんに受け入れられた」

「嬉しい嬉しい嬉しいです凄く満足で気持ちいいです私もお母さんが大好きです」

「だから」

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:07:05.35 ID:io/ozYfw0
クロ「そうです、お母さん、気持ちいい事をしましょう」

狩人「え?」

クロ「先日は有耶無耶になりましたが、お互いの愛情を確認しあえたのですから」

クロ「性的欲求を解消しあうのは当然のことです」

クロ「好きです、好きです、大好きです、私も愛してます、愛してます」

狩人「いや、私の愛情は家族に対するものだと思うんだけど」

クロ「いいじゃないですか!家族で性的な事をしても!」

狩人「クロだけ何か反応が違う……」



その日、高ぶるクロに襲われかけたけど。

アオとアカとミドリが助けてくれた。



ああ、家族同士助け合うのって、いいなあ。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:17:57.39 ID:io/ozYfw0
〜85日目〜


あれから、私達は細かい話し合いをした。

私が外に出たいこと。

希望するスライム達を、連れて行ってあげたいこと。



アカやアオ、そして無言のミドリは私の意見を肯定してくれた。

クロだけは少し渋った。



クロ「ですから、外は恐ろしいものが一杯なのです」

クロ「その点、ここは本当に理想郷で……」

アオ「母さま、外に出たら弓の使い方教えてね」

アカ「……ゆみって?」

アオ「母さまが得意な道具だよ、きっと格好良いんだろうなあ」

アカ「……アカも、やってみたい」

狩人「うん、いいよ、アカにも教えてあげる」

アカ「……やった」

アオ「母さまと、私達3人でやる狩り、きっと楽しいよね」

クロ「……まちなさい、その三人というのは誰と誰と誰なんですか?」

アオ「え?ボクと、アカと、ミドリだけど」

クロ「な、何でそうなるんですか!私はどうなるのです!」

アオ「だってクロは理想郷に残るんだよね?」

クロ「ガボガボガボガボガボガボ……」



結局、最後はクロも折れてくれた。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:29:40.97 ID:io/ozYfw0
その後は早かった。

クロ達は即座に洞窟から離脱し、蔦を収集。

それを編み上げて簡易の吊り上げ具を作成。

洞窟の下と上から補佐を受けた私は、実にあっさりと。



洞窟から脱出することが出来た。



凡そ、85日ぶりに地上へ戻ることが出来たのだ。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 14:35:12.59 ID:PTQAhIzA0
いよいよ85日目か…
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:40:18.42 ID:io/ozYfw0
狩人「やっぱり、洞窟の中とは空気が違うね、湿度も軽いし」

アオ「母さま、この後どうするの?」

狩人「そうだね……まず、村に行こうと思うんだけど」

狩人「……いきなり皆で村に押しかけると、凄い騒ぎになる気がするなあ」

クロ「まあ、そうでしょうね、村って言うのはヒトの住む所ですから」

ミドリ「……」コクコク

狩人「だから、まずは私だけで村に行こうと思う」

狩人「クロ達は、もう少し洞窟で待ってて」

アオ「ええー、ボクも行きたい……」

狩人「ちょっとの間だけだから、ね?」

アオ「……うん」

アカ「アカは、待てるよ」

狩人「そっか、アカは偉いね」ナデナデ

アカ「……えへへ」

狩人「じゃあ、そういう訳だから、私が村に言ってる間、皆の事をお願いね、クロ」

クロ「……」

狩人「クロ?」



クロは、私の手を掴むと、こう言った。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/15(水) 14:41:11.43 ID:io/ozYfw0
 



「本当に、戻ってきてくださいね」

「もし、戻ってこなかったら」

「多分、酷い事になると思いますから」



 
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:50:40.50 ID:io/ozYfw0
洞窟を出て少し離れた所に、弓と矢筒が落ちていた。

弦は外れているが、特に損傷は無いようだ。



洞窟に落ちた時に瓦礫に潰されたのかと思ってたけど。

地上に取り残されてたんだね。



良かった。

この弓は、割と気に入ってたんだ。



弦を付け直し、指で弾いてみる。

ビンっと音がした。



久しぶりに聞く音だ。

とても、気持ちがいい。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 14:59:39.05 ID:io/ozYfw0
山を降りて、森に足を踏み入れる。



深い木々の匂い。

動物や虫の匂い。

湿度を孕んだ土の匂い。

緑色。

土色。

水色。

草の音。

川の音。

虫の声。



それらが、私の五感に染み渡ってくる。



ああ、帰ってきたんだ。

私は、ここに、故郷に。



心が躍る。

気持ちが高ぶる。

走り出したくなる。

そう、そうだ、ここは私の住処なのだ。

ずっと、そうだったのだ。

私は、ここで生まれて。

ここで、暮らして。

ここで……。



……。

……。

……いや、落ち着こう。

まずは、村に行かないと。

幼馴染が、待っているのだから。



私は、村へ向かう最短経路を走り始めた。

天候は晴れ。

昼頃には到着できるだろう。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 15:06:46.87 ID:io/ozYfw0
走り始めて10分後。

周囲に気配を感じた。



何者かが、私を追跡している。

ケモノかな。

数は……1、2、3、4。

4体。



集団で狩りをするケモノ、狼だろうか。

……いや、狼は吼える事で連携し、獲物を狩場まで誘導する。

私を追跡している連中は、まったく吼えていない。

それどころか、移動音すら殆ど立てていない。

にも関わらず、きっちりと連携して私を追跡してくる。



本当なら足を止めて観察したいけど、今は村へ急ぎたい。

だから……。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 15:48:50.04 ID:io/ozYfw0
そのまま速度を緩めず疾走する。

獲物たちも、離れずに追跡してくる。



獲物の姿は視認出来ない、つまり私の死角。

獲物の匂いは確認できない、つまり風下。

獲物の移動音は鈍い、つまり音が出にくい経路。



周辺地形は湿地に差し掛かる。

獲物が選択できる移動経路は極端に少なくなる。



ここであれば、どの場所に足を掛けて移動しているのか、容易に予想がつく。



一歩進む間に、私は四本の矢を放った。

二歩進む間に、その矢は獲物達が通ると予想される地点に、落下する。

三歩進む間に、獲物に矢が食い込んだ。



一匹目、命中。

二匹目、命中。

三匹目、命中。

四匹目……弾かれた?



硬い殻に覆われた動物だろうか。

その割には、他の三体はあっさりと倒れた。

複数の種族の動物が群れになっている?

まあ、例が無いわけじゃないけど。


……。

……。

……。


このままだと、村まで着いてきちゃうか。

よし、ここで仕留めよう。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 15:56:42.37 ID:io/ozYfw0
急制動。

それと同時に、矢を番う。



獲物も急停止したが、止まりきれなかったのか木々の死角から姿を現す。



それは、巨大な猪だった。

凄い、こんな身体で私を追跡してたのか。

いや、そんな事よりも気になる点がある。



「全身鉄に覆われた猪なんて、見たこと無いんだけど」



猪は、私の姿を確認すると、再び移動を開始した。

いや、それは移動ではなく「攻撃」だった。

凄まじい速度で、私に向けて突撃を掛けてくる。



仮に、猪を覆っている鉄が本物なのだとしたら。

その重量は凄まじいことになる。

そんな重量の突撃を受ければ、私は忽ち死んでしまうだろう。



何より、鉄には、矢が通らない。
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 16:02:16.78 ID:io/ozYfw0
ここで復習をしよう。

ごく簡単な、職業の復習。



狩人は、対人戦闘では戦士に劣る。

集団戦闘では、騎士に劣る。

射程では狙撃手に劣る。

器用さでは盗賊に劣り、速度では無手の武闘家に劣る。

魔法使いのように火炎を起こすことも、僧侶のように人を癒すことも出来ない。

死霊術師のように、シビトを操ることは出来ない。

通訳者のように、多種族の言葉を操ることは出来ない。

では、狩人は、何に秀でているのか。



狩人は、ケモノを狩ることが出来る。



人類がまだ国という概念を持たぬ、古い時代。

言語体系さえ確立されていない時代から、彼らはケモノの狩り方を研鑽し始めた。

その技術を磨き続けた。

視線を読み、匂いを嗅ぎ、音を聞く。

空気の流れを読み、湿度を嗅ぎ別け、鼓動を聞分ける。

移動範囲を予想し、空間を把握し、ケモノの意識の死角を突く。



長く継承され続けた「経験」がそれを可能にする。

人類最古の戦闘職、狩人。



その系譜の最先端が、彼女である。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 16:26:35.69 ID:io/ozYfw0
猪が突撃を開始した次の瞬間、鉄に覆われていない部分に矢が殺到した。



相手を視認すのに必要な軟体構造、眼。

呼吸時に粘液が必要な、鼻腔。

運動時に可動性が必要な五つの間接部。



射線が通る範囲の急所全てに矢が突き刺さる。

その数、合計12本。



それでも、猪は止まらなかった。

眼が潰れているにもかかわらず、まるで狩人が見えているかのように。

突撃し、牙を突きたてようとする。



その牙が、狩人に届く直前。



13本目の矢が、再び猪の目に突き刺さり。

そのまま貫通し、体内を蹂躙、背中からボシュッと突き出た。



そこまでして、猪はやっと息絶えた。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 16:39:21.59 ID:io/ozYfw0
「何なんだろうね、この猪」

「どう見ても普通じゃないんだけど」

「突然変異?」

「いや、けど……」



何故か、クロ達の姿が頭を過ぎった。

そうだ、私は最初、彼女達を突然変異で巨大化したスライムだと思って……。



「……ううん、判んないや」

「ねえ、貴方なら判る?」

「そこに、隠れてずっと見てるよね?」



100m程先の大木。

その陰から、ヒトの匂いがする。

害はなさそうだから放置してたけど。

流石に、この状況だと、少し気になる。



「出てこないようなら、もう行くけど」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 16:57:26.68 ID:io/ozYfw0
「ま、ま、待ってくだ、さいっ!」



大木から姿を現したのは、黒い髪の女性だった。

あれ、私、このヒトと……会ったことがある?

けど、名前も何も思い出せない。

おかしいな、確かに、見覚えが……。



「う、うふふふ、わ、悪気は無かったんです、ちょっと、ちょっとだけ」

「迷いの森の狩人さんの力を、た、た、確かめたかっただけで」

「も、も、も、勿論、殺す気なんてなかったんですよ」

「だって、だって、うふふふ、わ、私は、迷いの森の狩人さんの、ファンですし」



女性は、私に視線を合わせないまま会話を続けた。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 17:20:57.48 ID:io/ozYfw0
「そう、そうです、私、私、ファンなんです!」

「見ました、私、見ました、あの時、大会会場に居たんです」

「100年に一度行われる、帝国主催の狩猟大会!」

「高名な弓師や帝国の騎士達を押しのけて、優勝を果たした貴女の姿を!」

「凄かったです、ほ、本当に!特に凄かったのは終盤に行われた竜種狩り!」

「か、感動したんです!ヒトの力で竜を狩れるなんて!」

「うえへへへ、す、すごいなあ、話しちゃった、私、迷いの森の狩人さんと話しちゃった!」



一度、幼馴染と一緒に帝国を訪れて狩猟大会に参加したことがある。

あの時も、森から離れた影響で体調悪くして幼馴染に介抱された。

まあ、大会会場が帝国領内の大き目の森だったので、体調は戻ったけど。



森じゃなかったら、私はかなり序半に脱落してたんじゃないかなあ。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 17:44:54.78 ID:io/ozYfw0
「それで、貴女は何者なの?」

「この猪は、貴女が飼育していたの?」



話が逸れそうなので、修正してみる。

本当ならさっさと村に向かいたいが、何故か、この女性のことが気にかかる。



「あ、す、すみません、そう、そうです」

「その猪は、私が作ったもので、えっと、その」

「わ、私は、合成術師なんです、そう、今風の言い方をすると」

「キマイラマイスター、って感じです、えへへへ」



そっか、気になる理由かわかった。

イライラするからだ。

何故か、このヒトが喋っているのを聞くと。

心が騒ぐ。

何でだろう。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 18:00:15.84 ID:io/ozYfw0
「じ、実はですね、私は探し物をしてるんです」

「私が作った合成生物なんですけど、ずっと前に逃げ出しちゃいまして」

「この近くに、隠れてるって事は判るんです」

「最後に魔力反応が途絶えたのは、この『迷いの森』の近辺でしたから」

「きっと、きっとこの森に入ったから、魔力反応が途絶えたんだと思うんです」

「こ、この森の中は、魔力が濃すぎて、探知魔法とか通りませんから」

「だから、こ、こ、困ってたんです」

「……そんな時、思い出したんですよ、迷いの森には」

「狩人さんが居るって」




「ふ、ふふふ、狩人さんに手伝ってもらえたら、きっと探し物もすぐに見つかります」

「ああ、私は運がいいなあ、うふふふふふ……」

「けど、誤算でした」

「近くの村を訪れて聞いたら、三ヶ月近く前から狩人さんが消息不明だって言われましたから」

「きっともう死んでるんだろうって、あの村長は言ってましたから」

「がっかりです」

「けど」

「けど、村長の娘から、聞いたんです」

「アイツは、きっと戻ってくるって」




「そう、そうですよね!」

「ヒトの可能性を凝縮したような狩人さんが」

「自分のテリトリーの中であっさり命を落とすはずがありませんから!」

「きっと、きっと何か特殊な事態に巻き込まれて帰ってこれないだけなんです!」

「私はそう信じて!」

「信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて信じて」

「待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って」

「探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して」




「そして、今日、狩人さんを見つけたんです」

「めでたし、めでたし」

「ところで、狩人さん」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 18:05:19.17 ID:io/ozYfw0
「どうして、今まで戻ってこなかったんですか」

「ひょっとして、何か変な物に遭遇したりしませんでしたか」

「具体的に言うと、純白の魔物とか」

「だって、それくらいじゃないと説明がつかない」

「貴女のような優秀な狩人が行方不明になる理由が」

「思いつかないんですよ」

「ねえ、狩人さん」



そいつは、何時の間にか私の目の前にまで迫っていた。



ああ、私がどうしてイライラしているのか判った。

こいつの顔は。

クロと似ているからだ。

髪形が違うので、すぐには気付かなかったけど。



きっと、クロはこいつの顔を模している。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 18:13:59.48 ID:Z+1dAgG50
面白い!
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 18:42:24.11 ID:koN2T0VA0
クロと顔が似てるだけでどうしてイライラするんですかね?
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 18:51:37.19 ID:EzLgpPo/O
仮にクロと関係があるとしたら色々繋がるだろう
読み返せばよーわかる
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 18:55:29.25 ID:mk1c+I67O
つまりガチレズ
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 21:21:28.34 ID:PpY8T/LP0
自分の子供4匹の内、3匹は自分に似てるのに1匹だけ似ていない
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 08:26:40.97 ID:Z9tur5d3o
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 18:43:22.73 ID:yAPY+12f0
また危ないやつが出たなあ
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 10:37:11.61 ID:gbcG53qB0
クロが何故、コイツと同じ顔をしているのかは判らない。

恐らく純白のスライムだった頃に何か因縁があったのだろう。



けど。

クロは、こう言っていたのだ。



「外は、辛いばかりでした、怖かったという記憶しかありません」



コイツが探している合成生物というのは、きっとクロ達だ。

コイツをあの子達に、会わせてはならない。

絶対に。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 10:37:42.41 ID:gbcG53qB0

「……私は狩りで遠出してていただけ」

「別の用事もあるから、貴女の手伝いをしてる余裕は無い」



幸い、コイツはクロ達が森の中にいると思い込んでいる。

だが実際は、森の外……山の洞窟にいるのだ。

恐らく、発見する事は出来ないだろう。


けど、コイツは頭がよさそうだ。

私が思いつかない策を練る可能性もある。

だから、ここは頭が良いヒト。

幼馴染に、相談してみよう。

それまでの時間を稼げれば……。



「う、うそ!協力してもらえないんですか!?」

「そ、そ、そんなぁ……折角待ってたのに……」

「てっきり協力してもらえるものと思って、準備進めちゃったのに……」



コイツは、酷くガッカリした顔を見せた。

クロと同じ顔だから、少し罪悪感が湧く。



「準備って?」

「ご、合成生物です……あ、キマイラって言ったほうが判りやすいですかね?」

「この周辺にですね、30体ほど待機させていたんです……」

「その子達に、今から仕事だからご飯食べていいよーって指令をさっき送っちゃいまして……」

「ううう、あの子達、燃費が悪いからなあ……稼働時間、延ばせないかなあ……」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 10:38:30.82 ID:gbcG53qB0
食事は確かに大切だ。

30体ともなれば、かなりの量を食べるのだろう。

けど。

……。

……。

何だろう、何か悪い予感が。



「……そのキマイラ達って、何を食べるの?」

「勿論、人間です」
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 10:39:14.72 ID:gbcG53qB0
「幸い、この近くには手頃な村があります」

「しかも、あの村の連中は狩人さんのワルクチばかり言ってました」

「聞いていて、イライラしました」

「まあ、1人だけ狩人さんを庇ってる子もいましたが、1人だけなんでただの誤差です」

「という訳で、あんな村、無くなっちゃったっていいんです」

「狩人さんだって、そう思いますよね?」 

「無くなっちゃったほうが、清々しま」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 10:40:04.33 ID:gbcG53qB0

ソイツが言葉を最後まで言い切る前に、額を矢で貫いた。

倒れるのを待たず、転進し村へ向かう。



仮にキマイラ達があの猪と同程度の存在だとすると、恐らく村は数刻と持たない。

いや、けど、幼馴染は聡い。

勝てないと判れば恐らく何処かに避難するはずだ。



だから、きっと間に合うだろう。

間に合ってくれるだろう。

間に合って欲しい。



ああ、けど。
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 10:40:59.58 ID:gbcG53qB0
疾走を再開して42分後。

私は荒れ果てた村の中で、幼馴染の死体を発見した。




間に合いはしなかったのだ。

間に合うはずがなかったのだ。
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 10:51:59.01 ID:gbcG53qB0
村には、既にキマイラ達は残っていない。

合成術師を殺した事で、統制が解除され方々へ散ったのだろうか。



思っていたより村人の死体は少なかった。

きっと、一部は村長や幼馴染が避難させたのだろう。

その結果、自身が逃げ送れてキマイラ達に包囲された。

恐らく、そんな所なのだろう。



大きな裂傷が三箇所。

骨折が十箇所。

細かい傷を挙げればキリが無いけど。

不思議と、顔だけは綺麗だった。



意外なことに、ショックは大きくない。

ただ「ああ、そうか、残念だな」と思うだけだ。



村人達が言っていたように、私にはやはり心という物が無いのだろうか。

森でケモノ達を狩るうちに、私もケモノのようになってしまったのだろうか。



グルルルル



背後から、何かの唸り声がした。
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 10:55:59.70 ID:gbcG53qB0
今からでは、到底回避が間に合わない。

そこまで接近されていたのに、どうして気付かなかったのだろう。



ここが、森ではなく村だからかな。

それとも、やっぱり幼馴染の死がショックだったからかな。



後者だと、いいなあ。

そのほうが、私は嬉しい。



致命傷を避ける為に、首だけは右手で守った。

その右手は容易く噛み千切られた。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 11:06:19.22 ID:gbcG53qB0
右手が食いちぎられたと同時に、左手の親指をケモノの眼に突き立てる。

だが、親指が眼に突き刺さる直前、ケモノの前肢で弾かれた。

こいつ、私の動きを読んでる?




体重では到底勝てそうに無い。

私はそのまま押し倒された。

反撃の手を探るが、文字通り手は無い。

右手は床に転がっているし、左手も前肢で押さえられている。



そのまま、ケモノの大きな顎が私の首筋に
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 11:16:08.31 ID:gbcG53qB0
「す、ストップ!駄目駄目!食べちゃ駄目!」



その声で、ケモノの動きはピタリと止まった。

聞き覚えが有る声だった。

クロ?

いや、違うか。



ケモノの背後に、アイツが立っていた。

おかしいな、ちゃんと額を貫いたと思ったんだけど。



呼吸が速くなってきた。

それと同時に、体温が下がってきている。

きっと、血が足りないんだろう。

当然だ。

今もまだ、右手の断面からは血が流れ続けているのだから。



「す、すみません、こんな事になるなんて……」

「わ、私はただ足止めしてって命令しただけなのに」

「こら!駄目でしょちゃんと言う事聞かなきゃ!」

「この子は知性も戦闘力も高いんですけど、制御がしにくいんですよね」

「因みに、この子、何か見覚えありませんか?」

「そう!狩人さんが倒した竜種の身体が組み込まれてるんです!」

「竜種って、攻撃力は高いんですけど、何か大雑把なんですよね」

「隠密行動とか、潜入行動にはまったく向いてませんし」

「その点、竜種とケモノを組み合わせたこの子は違います」

「竜種の戦闘力と、ケモノの隠密性を兼ね備えてるんです!」

「サイズも凄くコンパクト!」

「内臓が駄目になるんで多用は出来ませんけど、なんとブレスだって吐けちゃうんですよ!」

「凄いですよね!」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 11:20:38.02 ID:gbcG53qB0
顔を上げると、アイツの顔がすぐ近くにあった。

額には僅かに傷跡が残っている。

私の矢が刺さった場所かな。



それにしても……。

ああ、本当にイライラする顔だなあ。



「大丈夫ですか?お話できます?」

「えっとね、私、本当の事を知りたいんです」

「狩人さん、森の中で純白のスライムに会いましたよね?」

「それ、どこで会いました?」

「あ、勿論、その傷で案内しろなんていいません」

「ただ、どの辺かだけでも教えてもらえたらなって……」



うん、意識がある間に、応えてしまおう。



「しらない」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 11:23:58.02 ID:gbcG53qB0
「え、えっと、その、何か勘違いしてませんか?」

「私には、貴女を害する気なんて無いんです」

「その傷だって、ちゃんと治してあげます」

「ですから、その、強情張らないで欲しいんです」

「お願いします、狩人さん!」



薄れてくる意識の中で、私は再び応えた。



「あなたには、なにも」

「おしえてあげない」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 11:25:26.09 ID:gbcG53qB0
「そう、ですか……」

「残念です……けど、仕方ないですよね」

「手間がかかりますけど、自力で探そうと思います……」




































「殺せ」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 11:32:20.14 ID:gbcG53qB0
アイツの声を聞いたケモノの牙が、私の首に食い込む。



「くひゅ」



自分でも意識しない奇妙な声が出る。

噛み千切られた箇所が、とても熱い。




死ぬのは、嫌だ。

けど、怖くはない。

だって、それは当たり前の事なのだ。



ずっと、ずっとそうだったのだ。

古い時代。

原初の狩人が居た時代から。



どんな優秀な狩人であろうと。

どんな技術を持つ狩人であろうと。

どんな最先端の狩人であろうと。

狩人である限り、絶対に覆せない事柄がある。



『最後は、狩るべくケモノに食い殺されて、終わる』



父もそうだった。

母もそうだった。



だから、私がそうなるのも。

当たり前のことだ。



それが、私が最初に狩人として教わった事。



事実、私は十数秒後に息絶える。

その僅かな間に、私は夢を見た。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/17(金) 11:41:59.84 ID:gbcG53qB0
「ねえ見た!アイツらの顔!」

「滅茶苦茶驚いてたわ!」

「そりゃそうよね、アンタが帝国狩猟大会で優勝するなんて、誰も思ってなかったでしょうから!」

「あー!凄くすっきりした!」

「これで普段からアンタを馬鹿にしてた連中も、少しは見直すでしょうよ」

「大会の報酬も半分は村に引き渡したし、私とアンタを育ててくれた恩も返したから」

「後は、まあ、自由にやっていいんじゃない?」

「それで、その、ね」

「ちょっと相談なんだけどさ」

「私、もうすぐ誕生日よね」

「うん、18歳の」

「村ではさ、18歳になったら成人したと看做されて、色々な権利がもらえるの」

「仕事の権利と、住む場所の権利を自由に選べるのよ」

「だからね」



それは、とても大切な約束を交わした時の夢だった。

もう既に、居なくなってしまった相手との。

大切な約束の。
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/17(金) 12:33:25.72 ID:nqMzJnArO
はよはよ
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/17(金) 12:34:15.41 ID:Voz7GAsr0
  バン   はよ
バン (∩`・ω・) バン はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/17(金) 12:36:33.68 ID:GtSE5tyA0
おまえら落ちつけ!

はよはよ
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/18(土) 08:56:45.51 ID:cSbK6Shm0
ぬおおおお
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/19(日) 04:15:00.39 ID:VhB1aNzu0
「もう、何よ、森以外で暮らすのが怖い?」

「大丈夫よ、だって……」

「私が一緒にいてあげるんだから」

「そうと決まれば、準備をしないとね」

「私の誕生日なんて、すぐに来ちゃうんだから」

「ほら、笑ってないで、アンタも考えるのよ」

「2人の事なんだからさ」

「ね」



≪これは驚きました、世代交代したのですか≫

≪道理で私の魔力感知に引っかからないはずです≫

≪しかも、増殖しただけでなく、ヒトの形を模している≫

≪素晴らしい結果です!ああ、解体したい!調べたい!≫



ああ、もう。

うるさいなあ。

いま、とても。

よいゆめを。

みているのに。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/19(日) 04:15:52.58 ID:VhB1aNzu0
         「私以外とはあんまり喋らないし」

「アンタって狩人の癖にボーっとしてて」

      「ねえ、聞こえてるの?返事くらいしたら?」

                 「アンタ、どうして寝込んでるの?」

  「はい、水を持ってきてあげたわよ」

          「私が一緒に」

  「うぷぷぷぷ」

                  「笑わないし」

       「ちょっと水鳥を」

                    「18歳の」

     「だからね」

                 「お母さん」

           「自由に」

      「お母さん」



ああ、この夢が。

ずっと、続けば。



      「お母さん」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/19(日) 04:17:01.47 ID:VhB1aNzu0
「お母さん、聞こえますか」

「大丈夫です、大丈夫ですよ、お母さん」



あれ。

このこえは。

クロの。



≪強制制御術式も解除されていますか≫

≪ええ、いいでしょう、では力づくで≫



ああ、ほんとうに。

うるさい。

なあ。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/19(日) 04:17:37.46 ID:VhB1aNzu0
「聞く必要はありません、お母さん、私だけを」

「私だけを見ていてください」

「私の声だけを聞いてください」

「間に合いました、間に合ったんです」

「ミドリが、お母さんの声を聞いてたんです」

「不測の事態だと言うのは即座に判りましたから」

「その段階で私達は洞窟から出ました」

「だから」

「ああ、良かった、間に合った」

「命の火が消えてしまったら、幾ら私達でも蘇生させる事は出来なかった」

「けど」

「けど、間に合ったんです」

「私達の、私達の大本である純白のスライムの能力は」

「再生です」

「私達の力を合わせれば、物理的な傷なんて、忽ち再生させる事が出来るんです」

「ほら、見てください、もう手も首もお腹も再生されています」

「だから、大丈夫です」

「あとは、あとは再生しつつある身体に脳が同調すれば」

「多少身体に障害は出るかもしれませんが」

「生き残れるんです」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/19(日) 04:18:08.87 ID:VhB1aNzu0
「ですから」

「楽しい事を考えてください」

「同調する前に脳が死んでしまわないように」

「生き続ける事を考えてください」

「そうすれば」


楽しい。

ことを。

生きつづける。

ことを。


「……身体のうごきがにぶくなっら、もう狩りはできないかな」

「平気ですよ、もう狩人なんてやらなくてもいいです」

「私が」

「私達が、養ってあげますから」

「だから、私達のお母さんでいてください」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/19(日) 04:18:54.55 ID:VhB1aNzu0
私の頭の中に、素晴らしい光景が広がる。



深い森の中。



アオとアカが狩りをしている。

アオは予想通り、狩りが上手だ。

けど、アカは上手く獲物を捕る事が出来ない。



ミドリは相変わらずマイペースで。

遠巻きに座って歌を歌っている。

その声で、獲物が逃げてしまい、アオとアカが怒っている。



私のそばには、クロが座っていて。

何かと私の世話を焼いてくれる。



狩人でなくった私。

そう、そうんな未来が。

あっても、いいのかもしれないね。



ふと、足元に花が生えているのを見つけた。

綺麗な花だ。

そうだ。

彼女に持って帰ってあげよう。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/19(日) 04:19:42.45 ID:VhB1aNzu0
私は、村へ向かい。

彼女を探した。



けど、見つからない。

村中探したけど、見つからない。

見つからない。

何処にも居ない。




ああ。

そうだ。

そうなんだ。




もう。

彼女は絶対に見つからない。

生き返っても。

その世界に、彼女はいないのだ。

私が手に持っていた花は、何時の間にかなくなってしまっていた。
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