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盗賊と終わりの勇者
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 20:39:58.48 ID:J0GKUmh+O
勇者とくれば
思い浮かべるのは魔王だろう。
数え切れない怪物を従えて、人の世を支配しようと目論む恐ろしき魔の王。
それに立ち向かうのは勇者、神に選ばれた人の子だ。
そこらの酒場でゴツい戦士と年寄り魔法使いを仲間にしたら、長い長い旅の始まりさ。
勇者は仲間と共に数々の困難を乗り越えて、旅を通して絆を深めてゆく。
まあ、話しによっちゃあ勇者が女だったり戦士が女だったり……
無口無骨な騎士が鎧を脱げば絶世の美女だったり……
高慢で世間知らずの魔法使いは素性を隠していたお姫様だったりもする。
勿論、全員が可愛らしく美しい。
そうでなけりゃあ誰も見ないからな。
勇者以外は女ってのも、今ではちっとも珍しい話じゃないんだぜ?
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1507462798
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 20:42:20.57 ID:J0GKUmh+O
ああ、そうそう
何と魔王が美女だったりもするんだぜ!? 果ては勇者と恋するときたもんだ!!
まったく、今時のは良く分からんね。理解に苦しむよ。
他には主人公が別の奴で、勇者が敵になったり憎まれ役になるやつもあったっけな。
中には勇者が魔王だった!なんてのもあるくらいだ。
ま、出尽くした今なら何でもありさ。 節操も何もあったもんじゃあない。
あぁ、悪い。話しが逸れたな……
勇者は苦難の果てに魔王の城に辿り着き、死闘の末に魔王を打ち倒す。
人の身でありながら強大な魔を討ち、世界に安寧と平和が訪れる。
中には悲劇的な結末を迎えるやつもあるみたいだがな。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 20:44:44.90 ID:J0GKUmh+O
まあ、大体こんな感じだな。
ただ、今回の勇者の物語はちょっとだけ違う。
いや、俺が知らないってだけで、こんな話は既にあるのかもしれない。
何百年、何千何万回と繰り返されてる演目だけに、こんな物語があってもおかしくないからな。
それはともかく
この劇場都市で、終わることのなかった勇者の物語は遂に終わりを迎える。
勇者が勇者を終わらせるべく、劇場都市に反発し、長い長い物語に終止符を打つのさ。
台本なんざ無視!勇者が脚本家に牙を剥く!
劇の為に死んでいった役者達の命を背負い、真の勇者が立ち上がる!
勇者は脚本家を打ち倒し
人々は台本から解放されて初めての自由を得る。
斯くして、劇場都市は幕を閉じる……
とまあ、今回の劇はそんな『シナリオ』さ。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 20:48:06.88 ID:J0GKUmh+O
>>>>
盗賊「ふ〜ん、じゃあ此処はずっと演劇を続けてきた都市ってわけか」
盗賊「で、あんたもこのデカイ舞台の役者なのかい?」
マスター「いやいや、俺はただの酒場の店主だよ。正真正銘の一般人さ」
盗賊「今のもセリフってことはねえよな?」
盗賊「この劇場都市丸ごと使って劇をするなんて聞いた後じゃあ信用出来ないぜ?」
マスター「ま、そりゃあそだろうな……あぁ、ところであんた」
盗賊「ん?」
マスター「此処には何しに来たんだ? 劇を見に来ただけってわけじゃあなさそうだ」
盗賊「見に来たって言えば見に来たんだけどさ、他にも色々と目的があってね」
マスター「……何が狙いか分からんが気を付けた方がいいぞ」
マスター「この劇場都市でシナリオを乱そうとする奴は、人生という名の舞台から下ろされる」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 20:51:13.30 ID:J0GKUmh+O
盗賊「……なるほどね。憶えとくよ」
マスター「それともう一つ」
盗賊「何だい?」
マスター「劇は、既に始まってる」
バンッ!
盗賊「わっ!?」
勇者「悪名高き盗賊がいるのはこの酒場か!」
マスター「ほーら、おいでなすった」
盗賊「……はぁ、やっぱりあんたも役者だったのかよ。いい演技だったぜ」
マスター「そりゃどうも」ニコリ
盗賊「(既に演劇が始まってるってことは、今酒場に入って来たのが勇者役の役者か?)」
パチッ…
盗賊「(お〜、こりゃ凄いな。照明が切り替わって夜になった。流石は劇場都市……)」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 21:05:54.05 ID:J0GKUmh+O
勇者「……そこか」
盗賊「(しかし、こんなに間近で主役の演技を見れるなんてツイてるな)」
勇者「………」ツカツカ
盗賊「(凄いな。視線の運び、歩き方から何まで計算してるみたいだ)」
勇者「おい」
盗賊「いきなり何だよ…って、えっ!?」
勇者「貴様が盗賊だな?」
盗賊「い、いやいやいや!! 確かにオレは盗賊だけど、あんたの捜してる盗賊じゃないぜ?」
勇者「嘘を吐くな!!」
盗賊「えぇ……」
勇者「金の為ならば命をも奪う極悪人め。私が成敗してやる!!」チャキ
盗賊「ちょっ、ちょっと待てよ!! あんたは何か勘違いして……」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 21:08:54.88 ID:J0GKUmh+O
勇者「問答無用!!」
ガキンッ…
盗賊「(あ、危ねえ……この剣、本物じゃねえか。リアリティの追求ってやつか?)」
>>お見事お見事!いやぁ、素晴らしいですなぁ!
>>これぞ迫真の演技、遠路はるばる来た甲斐がありましたよ
>>パチパチパチ…
盗賊「ったく危ねえなぁ、少しは聞く耳持てよ。つーか、何で拍手?」
勇者「……ちょっと」ボソッ
盗賊「ん?」
勇者「ん? じゃないわよ。次のセリフはあなたでしょ?」ボソッ
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 21:11:42.23 ID:J0GKUmh+O
盗賊「だからオレは盗賊役じゃ……」
『シナリオを乱そうとする奴は、人生という舞台から下ろされる』
盗賊「……次はどうすりゃいい?」ボソッ
勇者「あなた、舞台に上がると頭が真っ白になるタイプね?」
>>おぉ、緊迫したシーンですな
>>睨み合い一つでも迫力がありますねえ
盗賊「いいから、早く教えろ」
勇者「(はぁ、こんな駄目役者が私の相棒だなんて……)」
盗賊「は・や・く・し・ろ」
勇者「ちょっと抵抗してから私にやられる」
勇者「それから悔い改めて人々の為に尽くすことを誓うの。分かった?」ボソッ
盗賊「……やられ役にして下僕ですか。ったく、散々な役だな」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 21:14:55.86 ID:J0GKUmh+O
勇者「分かった? それじゃあ行くわよ?」
盗賊「(まっ、なるようになんだろ)」
勇者「せいっ!!」グッ
盗賊「(競り合いからの蹴りか。これで吹っ飛べばいいのか?)」
ドガッ…ズダンッ…
盗賊「(……本気で蹴ってきやがった。芝居に手加減無しってわけか)」
勇者「盗賊、貴様はその短剣で幾つの命を奪ってきた!!」ヒュッ
盗賊「(危ねっ!!)」サッ
ガギィン…カランッ…
盗賊「(役者なのに動きは本物、おまけに剣も本物。何か妙な感じだ、動きが良すぎる)」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 21:17:46.47 ID:J0GKUmh+O
勇者「(セ・リ・フ)」
盗賊「(くっ、こうなりゃヤケだ。主役ならどうにかしてくれんだろ)」
盗賊「……オレは確かに許されない罪を犯した。しかし、全ては母の為だ」
勇者「(アドリブ!? こいつ……いいわ乗ってあげる)」
勇者「母の為に人を殺したと言うのか!! それが母の為になると!?」
盗賊「……母は重い病を患ってな。所謂、不治の病というやつさ……」
盗賊「女手一つ、苦労なんて一切見せずに育ててくれた。強く優しい母だった……」
勇者「……だった?」
盗賊「悪事に手を染めた報いってやつさ。母は……死んだよ……」
>>むぅ、彼も中々良い味を出していますな
>>ど、どうなるんでしょう
>>しっ…お静かに……
勇者「………」
盗賊「少しでも楽にしてやりたかった。だから金になることなら何でもやった!!」
盗賊「それが例え人殺しの依頼であってもだ!! オレは母を救いたかった!!」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 21:26:54.93 ID:J0GKUmh+O
>>母への愛か……
>>あの若さで母への想いをストレートに表現出来るのは素晴らしいですな
盗賊「(好評でなにより。つーか、母ちゃんかぁ……)」
勇者「(へえ、中々やるじゃないの)」
盗賊「殺せ、オレにはもう何もない。母の下へ送ってくれ」
勇者「……罪に塗れたその魂が母の下へ行けると思うのか?」
盗賊「ならどうすればいい。教えてくれ(本当に分かんねえから)」
勇者「この劇場都市には、劇と称して命を奪い続ける存在がいる」
盗賊「?」
勇者「悲劇を生むには仮初めの死ではなく本物の死が必要だ。命は終わりの時こそ一際輝く。などと言ってな……」
盗賊「………(これ、演技だよな?)」
勇者「私は劇場都市を終わらせる。劇の度に起きる真実の悲劇を終わらせる為にな」
勇者「……盗賊。母の下へ逝くのは降り掛かる悲劇から人々を救ってからにしろ」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/08(日) 21:28:33.39 ID:M7RwPTHco
期待
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 21:38:36.86 ID:J0GKUmh+O
盗賊「どういう意味だ……」
勇者「今のままでは確実に地獄行きだ。母に会いたければ私と共に来い」
勇者「貴様の犯した罪は消えないが、悔い改めることは出来る」
勇者「これからは奪うのではなく、救う為に生きろ」
盗賊「……分かった。オレの命は人々を救う為にあると誓おう」
>>おお、これは素晴らしい
>>まったくです、これを間近で見られたのは幸運ですよ
>>二人とも良い役者だ。暗がりながら表情が輝いて見える
>>互いに決意した瞬間というわけですね
盗賊「(はぁ、やっと一段落か。さっさと退場してえけど、そうもいかねえだろうな)」
勇者「……」ツカツカ
盗賊「?」
勇者「ここは二人とも無言で酒場を出るの。もしかして、まだあがってる? ほら、立って」ボソッ
盗賊「えっ……ああ、悪りぃな」スッ
勇者「(さっきのアドリブは大したものだけど、先が思いやられるわね)」
ギィィ…バタンッ
>>パチパチパチ……
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 21:45:01.49 ID:J0GKUmh+O
>>>>
脚本家「……役者変更にアドリブか。まったく、好き勝手やってくれる」
脚本家「その分シナリオに沿っていると言えるが、これは少々やり過ぎだな」
脚本家「このシナリオでなければ消えてもらう所だが、彼の観客受けは実に良い」
脚本家「しばらくは好きに泳がせておいた方が此方も面白いというものだ」
ペラッ…
脚本家「ふむ、次は魔法使いとの出会いか……ん?」
ヒラリ…ヒラリ…
脚本家「これは……ふっ、はははっ!」
脚本家「これはいい、ますます面白くなりそうじゃないか!」
ーーー終わりなき
勇者の物語り
ーーー神の脚本
その結末
ーーー舞台の上より
頂戴します
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/08(日) 21:52:05.14 ID:+1jkCrBt0
これは期待するしかない
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/08(日) 21:53:17.32 ID:U4kkSOum0
なんやこれ
名作のにおいがぷんぷんする
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 22:00:04.29 ID:J0GKUmh+O
>>>>
勇者「……」ツカツカ
盗賊「(酒場を出てから一言もなし。今んとこセリフは必要ねえってことか)」
盗賊「(この後に何があるのか訊きたいとこだけど、そこら中に観客の目があるからなぁ……)」
勇者「………」
盗賊「(しかし、流石は勇者サマだな。歩く姿も堂々たるもんだ)」
盗賊「(視線が自分に集中してるってのに、気にする素振りなんて微塵も見せねえ)」
盗賊「(これが本物の役者ってやつか。いや、まあ、そのくらいじゃねえと劇場都市の主役に選ばれねえか)」
勇者「観客の目が邪魔だ。盗賊、裏道に入るぞ」
盗賊「ん? ああ、分かった(これもセリフか?)」
劇場都市のど真ん中、劇場大通り。
そこからわき道へ抜け、勇者はどんどん人気のない道を進んでいく。
いつの間にやら、ドーム型の天井は星のきらめく夜空へと変わっていた。
此処では朝も夜も取り替え放題。正に、演劇の為だけに生きる都市。
盗賊「(本当に人気がなくなってきたな。後を付けてた観客の姿もねえ)」
盗賊「(何だか解放された気分だ。しかしなぁ、まさかこんな形で舞台に立つとは思いもしなかったぜ)」
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 22:07:00.47 ID:J0GKUmh+O
勇者「……」ピタッ
盗賊「?」
勇者「ふ〜っ、やっと撒いたわね。さ、座りましょ?」
盗賊「え〜っと、これは休憩?」
勇者「ま、そんなところね……」
盗賊「はぁ〜、すっげえ疲れた」ストン
勇者「ねえ、一ついいかしら?」
盗賊「ど〜ぞ」
勇者「あなた、役者じゃないでしょ?」
盗賊「最初に違うって言ったろ? 大体、こんな素人がオーディションに受かると思うのかい?」
勇者「……随分、あっさりと認めるのね」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 22:11:04.28 ID:J0GKUmh+O
盗賊「演技は下手なんだ。それに、一流の役者に嘘は通じないだろ?」
勇者「当たり前でしょ? あなた、顔はいいんだけど他はまるで駄目よ」
盗賊「は、はぁ……すいません」
勇者「酒場のアドリブは良かったけど、外に出た途端に気を抜いたでしょ?」
勇者「立ち姿もなってないし歩き方もなってない。丸っきり素人ね、素人」
盗賊「素人なりに頑張ったんですけどね……」
勇者「はぁ…あなた、夜間照明に助けられたようなものよ?」
勇者「歩いてる時もやたら観客の視線を気にして落ち着かない顔しているし」
盗賊「それは本業が盗賊だからさ、クセみたいなもんだよ」
勇者「盗賊? 本物の?」
盗賊「酒場でそう言っただろ? オレは盗賊だってさ」
勇者「……そう、そうだったのね。だから間違えたのね」
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 22:19:27.04 ID:J0GKUmh+O
盗賊「ん?」
勇者「私、てっきり役に入りきってると思っていたのよ」
勇者「あなたが本物の盗賊だなんて知らずに、この人が『盗賊役』だってね」
勇者「本物がいたら勝てるわけないわ……盗賊役の人には申し訳ないことをしたわね」
盗賊「まあまあ、そんなに落ち込むなよ。過ぎたことを考えても仕方ないさ」
勇者「……はぁ、このミスがどれだけのことか分かってるの?」
盗賊「勿論分かってるさ。でも、オレには心強い味方がいる」
勇者「味方? 盗賊仲間ってことかしら?」
盗賊「違う違う、味方ってのはキミだよ」
勇者「私?」
盗賊「そう、オレには勇者サマがついてる。例えオレがド下手な演技をしようが、どんなヘマをしようが……」
盗賊「一流の役者が何とかしてくれる。そうだろ?」ニコッ
勇者「……何だか気分が悪くなってきたわ」
盗賊「はははっ、オレは大船……いや、豪華客船に乗ってる気分だけどな」
勇者「……私は泥船漕いでる気分よ」
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 22:31:05.28 ID:J0GKUmh+O
盗賊「あのさ」
勇者「何よ? お金ならあげないわよ」
盗賊「そのつもりなら、もうとっくに盗んでるよ。聞きたいことがあるんだ」
勇者「何かしら」
盗賊「この劇の結末は勇者役の勝利、脚本家役の敗北なんだろ?」
勇者「……ええ、そうよ。あくまでも劇中での出来事だもの」
盗賊「オレはそれを本当にしたいんだけど、どうかな?」
勇者「!!」
盗賊「キミが酒場で叫んだセリフは演技なんかじゃない。あれは本心だ。違う?」
勇者「何を根拠にそんなことを……」
盗賊「さっき言ってたろ? 本物には勝てないってさ」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 22:33:30.68 ID:J0GKUmh+O
勇者「……ええ、言ったわね」
盗賊「あの時の表情は本物だった。芝居に関しちゃ素人だけど、それくらいは分かる」
勇者「………」
盗賊「答えたくないなら別にいい、オレがそうしたいだけだから」
勇者「あなた、一体何が目的なの……」
盗賊「う〜ん、何だと思う?」
勇者「っ、ふざけないで! 真面目に答えなさい」
盗賊「物語に囚われ続ける終わりなき勇者……の、終わり」
勇者「……えっ?」
盗賊「オレの目的は囚われの勇者に自由を与えること……麗しき君の自由さ」
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 22:46:17.54 ID:J0GKUmh+O
勇者「………」
盗賊「どうした?」
勇者「別に何でもないわ。よくもまあそんなセリフを言えるものだと思っただけよ」
勇者「ま、今の演技は良い線いってるんじゃないの? 素人にしては、だけどね」
盗賊「演技なんかじゃない、今のは本気だよ」
勇者「………」フイッ
盗賊「大体、女に戦わせるってのが気に入らないんだよなぁ」
盗賊「マスターの言ってた通り、最近の脚本家の考えることはさっぱり分かんねえ」
勇者「………」
盗賊「あ、ところでさ、これからどうするんだ?」
勇者「(こんなにも素直で正直な人が劇場都市にいるなんて、何とも皮肉な話ね)」
盗賊「お〜い」
勇者「(この人は演技が下手なんじゃない。きっと、演技が出来ない人)」
勇者「(ねえ、みんな。この人になら話してもいいのかな……)」
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 22:57:26.52 ID:J0GKUmh+O
盗賊「なあ、聞いてるか?」
勇者「えっ、ええ。なにかしら?」
盗賊「だから、これからどうするんだ?」
勇者「これから? えっと、この後は劇場大通りへ戻って魔法使いと会うことになってるわ」
盗賊「いいのか?」
勇者「えっ?」
盗賊「一緒に行っていいのか? オレは本物の盗賊なんだぜ?」
盗賊「それに、オレは目的を言ったけど、まだキミの気持ちを聞いてない」
勇者「……ごめんなさい。少し、考えさせて」
盗賊「あ〜、そんな顔しないでくれ。話したいときに話してくれればいい。いきなり話せって方が無理だしさ」
盗賊「それにほら、誰にだって秘密はあるもんだろ? 女性なら特にね」
勇者「……あなたには? あなたに秘密はないの?」
盗賊「それは秘密で」ニコッ
勇者「(この笑みは何だろう。何の含みもない普通の笑顔なのに、何だか眩しく見える)」
勇者「(……ああ、そうか)」
勇者「(これは、私には出来ない笑顔なんだ。演技や作り物じゃない、本物の笑顔だから眩しく見えるんだ)」
盗賊「?」
勇者「(……彼を見ていると自分が勇者であることを、役者であることを忘れてしまいそうになる)」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 23:08:50.82 ID:J0GKUmh+O
盗賊「うっし。じゃあ休憩は終わりだな。行こうぜ」
勇者「待ちなさい。照明が夜から昼、朝へ変わる前に言っておくわ」
勇者「明るくなれば表情や仕草は誤魔化せなくなる。良くも悪くもあなたは目を引くから」
盗賊「えっ、急にそんなこと言われてもな……どうすりゃいい?」
勇者「別に? 何もしなくていいわ」
盗賊「は?」
勇者「あなたは自然体でいいの、下手に演じようとしない方がいいわ」
盗賊「えっ、何で?」
勇者「だって、あなたは本物でしょ?」
盗賊「……なるほど」
勇者「分かったのなら良いわ……盗賊、行くぞ」
盗賊「は、はい(一瞬で雰囲気が変わった。役者って凄えな)」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 23:23:04.54 ID:J0GKUmh+O
※※※※
今の職業に不満があるそこの貴方!
是非是非、劇場都市へお越し下さい!
子供の頃に思い描いた数々の夢、劇場都市なら叶えられます!
芸術家、詩人、歌手……
バーのマスターから魔法使いまで……
劇場都市なら、どんな職種も思うがまま!!
偽りの自分を脱ぎ捨てたいのなら、劇場都市にお越し下さい!!
なりたい貴方に、貴方が望む貴方に、本当の貴方に必ずなれます!!
迷っているなら劇場都市へ行こう!
夢が欲しいなら劇場都市へ行こう!
変わりたいなら劇場都市へ行こう!
注・演劇とはいえ、起こる出来事は全て本物です。
あなたの喜劇、あなたの悲劇は本物なのです。
職種演技指導はこちらで行いますので、どうぞご安心下さい。
年齢や性別は一切問いません。
職種は何度でも変更可能(その際、別途料金が発生します)
ーー夢見る貴方の劇場都市より抜粋
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 23:47:24.50 ID:J0GKUmh+O
>>>>
勇者「警戒を怠るな。姿はなくとも、脚本家は常に我々を見ている」
盗賊「ああ……(さっきとはまるで違う。軽々しく話そうものなら何されるか分かんねえな)」
>>おっ、出てきたぞ!
>>あれが勇者か。何と美しく、何と凛々しい
>>とっても綺麗。私もあんな風になりたいな……
>>きゃー、盗賊さ〜ん!こっち見て〜!
>>騒々しい、顔でしか判断出来んのか。これだから女の客は……
>>おや、盗賊の彼、観客である我々にも警戒しているようですね
>>ええ、あの目が素敵なのよ。彼の演技はとっても新鮮だわ
盗賊「(なるほどね、自然体でいいってのはこういうことか)」
勇者「盗賊、あれを見ろ」
盗賊「?」
勇者「この延々と続く劇場大通りの先だ。あそこに塔があるのが分かるか?」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/08(日) 23:49:58.57 ID:J0GKUmh+O
盗賊「……ああ、薄ぼんやりとだけど見える」
勇者「あれは神の塔と呼ばれている」
盗賊「神の塔……」
勇者「この劇場都市では脚本家が神と言っても過言ではない」
勇者「紡がれる物語の創造主にして、この都市の破壊者でもある」
盗賊「破壊者?」
勇者「奴は劇の為に命を奪い、都市をも破壊する。奴こそが私の、勇者の打ち倒すべき最大の敵なのだ」
盗賊「……それは本気なのか?」
勇者「ああ、私は奴を討つ。奴がいる限り、勇者の物語は終わらない」
勇者「これまで劇中で失われた数多の命、奴の演出した悲劇……それら全てを、私が終わらせる!」
>>長年見てきたが、今までの勇者役とは格が違うな
>>これは歴史に残るシーンかもしれん
>>は〜、いやはや、これは凄い。声が出ませんでしたよ
>>異色作って言うから悩んでいたんだが、見に来て正解だったな……
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 00:03:43.67 ID:kSuyebEbO
盗賊「(今のセリフがさっきの答えってことでいいのか? それとも、ただのセリフなのか?)」
ザッザッ…
盗賊「なあ、あいつは誰だ? こっちに来るぜ?」ボソッ
勇者「きっと魔法使いよ、痺れを切らして来ちゃったみたいね」ボソッ
魔法使い「やあ、遅いから迎えに来たよ。おや、彼は誰かな?」
勇者「彼は盗賊。きっと頼りになるだろう」
魔法使い「へえ、盗賊……盗賊だって!? 金の為なら命を奪う人殺し!大悪党じゃないか!!」
盗賊「(ひでえ言われようだな……まっ、ここは勇者サマに任せるか)」
勇者「彼はこの都市の人々を救うと誓った。問題はない」
魔法使い「そんな安い誓いがあるものか、信用出来るはずがない!」
魔法使い「勇者、考え直すんだ。いつ背中を刺されるか分かったもんじゃない」
>>なにアイツ、盗賊様に向かって……
>>まあ、当然の流れだな
>>盗賊か、確かにいけ好かない奴だ
>>男の嫉妬は醜いわよ
>>けっ、うるせえ。あんなの顔がいいだけじゃねえか
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 00:06:39.07 ID:kSuyebEbO
勇者「私は彼を信じる。魔法使い、彼を信じた私を信じてくれ」
魔法使い「悪と手を組むとは、何と愚かな……」
勇者「私のことも信用出来ないと言うのか? ならばどうする?」
魔法使い「簡単なことだよ」ガチャ
盗賊「勇者、下がれ!!」
勇者「っ!!」
ゴウッ…ボォォォッ!
盗賊「……何しやがる」
魔法使い「あら、避けられちゃったか。今の魔法で二人とも燃やすつもりだったんだけどな……」
盗賊「何が魔法だ。火炎放射器じゃねえか」
魔法使い「やれやれ。この劇場都市でそんな夢のないこと言わないでくれるかな」
勇者「魔法使い、まさか……」
魔法使い「想像通りだよ。脚本家がもっと盛り上げたいらしくてね。シナリオ変更というやつだ」
魔法使い「私としても、こんな見せ場を貰えたのはラッキーだ。ここから先は即興だがね」
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 00:18:58.26 ID:kSuyebEbO
盗賊「……なあ、これもシナリオの内か?」
勇者「いえ、こんなの知らないわ」
魔法使い「さて、観客も沢山いることだ。待っているようだし、そろそろ始めよう」ガチャ
勇者「……魔法使い、止めろ。今なら間に合う」
魔法使い「断る。やっとのことで掴み取った役だ。今更手放すわけにはいかない」
魔法使い「そして、裏切り者とは悲劇を起こす存在。例え、やられ役だとしてもね……」
>>お、おい、こっちに向けてるぞ?
>>演出だろ?
勇者「止めろっ!!」
魔法使い「煩いな。これは私の見せ場なんだ、邪魔をしないでくれないか?」
盗賊「っ、おい、何見てんだ!さっさと逃げろ!」
>>これも演出なんでしょ?
>>少し離れれば大丈夫だろ
>>おぉ、熱気がここまで伝わってくる
>>凄い迫力だな、持つのも大変そうだ……
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 00:42:21.71 ID:kSuyebEbO
魔法使い「……燃えろ」
勇者「よせっ、止めるんだ!!」
魔法使い「全ては劇だ。痛みも悲しみも、その全ては現実だがね」ガチャッ
トントン…
魔法使い「!!」ビクッ
盗賊「ちょっと落ち着けよ。役者が観客を殺すなんてちっとも笑えないぜ?」
魔法使い「(こいつ、いつの間に……)」
盗賊「それにオレは、悲劇を止めると誓ったんでね。麗しき勇者様に」
勇者「……盗賊…」
魔法使い「っ、燃えろ!!」
ゴウッッ…ボォォォッ!
勇者「盗賊っ!!」
魔法使い「はははっ、燃えろ燃えろ!骨まで燃えろ!」
勇者「……魔法使い、貴様っ!!」ダッ
魔法使い「おっと、それ以上近付くなよ」ガチャ
勇者「くっ…」
魔法使い「剣で魔法に勝てるとでも思っているのか? 短慮で愚かな奴だ」
コツンッ!
魔法使い「だ、誰だ!?」
盗賊「オレだよ。そんな炎じゃちっとも燃えやしないぜ。火葬するには火力が足りないんじゃないか?」
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 00:44:35.20 ID:kSuyebEbO
魔法使い「何処だ!?」
盗賊「さて、どこでしょう?」
>>きゃ〜、盗賊さま〜!
>>ふぅ、本当に燃えちゃったのかと思った
>>彼はスタントも出来るのか、凄いな……
魔法使い「ど、どこに……」
盗賊「ここだよ、放火魔法使い」
>>おいっ、あそこだ。パン屋の屋根の上!
>>あの一瞬でどうやって……
>>あんな役者はこれまで見たことがないな
魔法使い「私は放火魔じゃない! 魔法使いだ!!」
盗賊「はははっ、そっかそっか。なら、これ使えよ」ポイッ
魔法使い「……箒?」
盗賊「どうした? さっさと来いよ、魔法使いなら箒に跨がって空飛べんだろ?」
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 01:09:19.68 ID:kSuyebEbO
魔法使い「馬鹿にするな!!」ボキッ
盗賊「どうした魔法使い、顔が真っ赤だぜ? 顔から火を噴くつもりか?」
魔法使い「っ!!」
>>あっという間に彼のペースだな
>>さっきまでの雰囲気が嘘みたい……
魔法使い「なら、最大火力で燃やしてやる」
勇者「いつまで下らない会話を続けるつもりだ?」
魔法使い「しまっ…」
勇者「まさか主役の存在を忘れたわけではないだろうな?」
ザンッ!
魔法使い「がはっ…」ガクン
勇者「舞台から下りろ。然もなくば……殺す」
魔法使い「……私は役者だぞ。舞台を下りるくらいなら、死を選ぶ……」カチッ
勇者「っ、自爆するつもり!?」
ズダンッ!
盗賊「幾ら何でもやり過ぎだ。あんまりシナリオ乱すと舞台から下ろされるぜ?」ガシッ
魔法使い「!?」
盗賊「すぐ戻るから待っててくれ」グイッ
勇者「あれはワイヤーロープ? ちょっと待って、何を……」
盗賊「大丈夫さ、悲劇は起こらない」
勇者「えっ…」
ギュララララ…
盗賊「お〜、凄え勢いだな。まるで飛んでるみたいだ」
魔法使い「……どうするつもりだ」
盗賊「彼女、劇の度に生まれる悲劇はもう沢山なんだってさ」
魔法使い「……私は役者だ。舞台の上で死ねるなら本望だ。離してくれ」
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 01:17:59.47 ID:kSuyebEbO
盗賊「嫌だね」
魔法使い「このままではお前も死ぬぞ」
盗賊「あんたは生きたくないのか?」
盗賊「こんな劇が最後の舞台でいいのか?それがあんたの本望だってのか?」
魔法使い「………」
盗賊「舞台なんて世界中にあるんだ、あんたは自分で舞台を狭くしてるだけさ」
盗賊「あんたならきっとなれるよ。今の魔法使いよりもずっと素敵な魔法使いに」
魔法使い「!!」
盗賊「さあどうする? 背中の燃料と腕の噴射機、あんたが外せば生きられるぜ?」
ドガンッ!
>>な、何だ?爆発!?
>>あいつ、本当に自爆するつもりだったのか?
>>ま、まさか、これも演出だろ?
>>いや、こんな危険な演出はあるはずがない
>>じ、じゃあさっきのは全部本当だったってことか?
>>では彼は? 彼はどうなった? まさか我々を助ける為に……
ズダンッ!
盗賊「皆様方、花火はお気に召しましたか?」ニコッ
>>キャーッ!!
>>ワアァァァッ!!
>>いいぞー!!
勇者「はぁ……まったく、シナリオなんてとっくに滅茶苦茶じゃない……」
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 02:08:24.29 ID:kSuyebEbO
>>パチパチパチ!!!
盗賊「ふ〜っ、何とかなったな」
勇者「そうね、もう誰が主役か分かったもんじゃないわ」
盗賊「怒ってる?」
勇者「……怒ってなんかないわよ。ただ悔しいだけ」
盗賊「悔しい? 何で?」
勇者「この都市に響き渡る拍手を一身に受けるあなたが羨ましいの!」
盗賊「ははっ、そりゃ悪いことしたな。でも、今なら大声で話してもバレねえし良かったろ?」
勇者「まあ、そうね。でも私、舞台の上でこんな風に話したのは初めてだわ。台詞じゃなくて、自分の言葉で……」
盗賊「………」
勇者「もしかしたら、観客の皆がこんなに喜んでいるのも初めてかもしれない」
盗賊「いやいや、それは流石に言い過ぎだろ」
勇者「本当よ? きっと、観客の皆はこれが見たかったのね……」
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 02:09:43.48 ID:kSuyebEbO
盗賊「見たかったって何を?」
勇者「作られた物語や演劇なんかじゃなくて、人間が生み出す本物の感動や驚きよ」
盗賊「演劇に飽きてるってことか?」
勇者「そう、皆はもう偽物では満足出来ないのよ。皆は気付いてないでしょうけどね」
>>パチパチパチ!!!
>>ワアアァァァッッ!!
勇者「この拍手と熱狂を見れば一目瞭然よ」
盗賊「へえ、オレには楽しんでるようにしか見えないけどな」
勇者「はぁ……今更だけど言っておくわ」
盗賊「なに?」
勇者「素人のくせに目立ち過ぎ、あなたの所為でシナリオはめちゃくちゃよ」
盗賊「う〜ん、もういいんじゃないかな?」
勇者「えっ?」
盗賊「だって勇者の……いや、キミの物語はそういうシナリオだろ?」
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 02:12:58.76 ID:kSuyebEbO
勇者「それはそうだけど……まあいいわ……」
勇者「それより魔法使いはどうしたのよ? 派手に爆発してたけど彼は無事なの?」
盗賊「勿論、今頃は劇場都市を出て新しい舞台を捜してるはずさ」
勇者「……そう、良かった。じゃあ私達も行きましょう。今なら群衆に紛れて身を隠せるわ」
勇者「それに、あなたに話しておきたいこともあるから……」
盗賊「……分かった。じゃあ行こうぜ」
>>飲め飲め!
>>踊れ踊れ!
盗賊「凄い盛り上がりだな。これじゃあ、まるで祭りだ」
勇者「私達なんて要らないみたいね。あれだけ騒いでるんだもの」
盗賊「何言ってんだよ、キミ主役だろ?」
勇者「ふふっ、そうね。そうだったわね……ねえ……」
盗賊「うん?」
勇者「……花火、綺麗だった」
盗賊「また見せてやるよ。次はあんな危なっかしいやつじゃなくて、安心して見られる綺麗なやつをさ」
勇者「……ありがとう、楽しみに待ってるわ」
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 02:43:06.05 ID:kSuyebEbO
>>>>
街灯もない裏道の裏道を進む。
劇場大通りの熱気と歓声も、此処にはほんの囁き程度にしか届いてこない。
奥へ奥へと進むうちに音は追って来られなくなり、あるのは靴音のみだ。
音も光も遠いこの場所にあっても、劇場都市の織りなす偽物の星空は異様な輝きを放っている。
星明かりは勇者の存在をより一層際立たせ、闇に紛れていた盗賊の存在を浮き彫りにした。
さらさらと揺れる勇者の金色の髪は、角度によって様々な輝きを見せた。
その輝きを前に、作られた星空は心なしか悔しそうにしているようだった。
やがて、星空は涙した。
この涙は、観客の熱気を冷ます為に脚本家が流ささせたのかもしれない。
雨音は次第に激しさを増していき、今にも劇場都市を包み込もうとしている。
遂には熱気も歓声も歌声も、裏道に響いていた二人の靴音さえも掻き消した。
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 02:47:53.41 ID:kSuyebEbO
星空も突然姿を眩ませ、代わりに暗闇が現れた。
変幻自在の劇場都市が作り出す、偽りの暗闇。
ふと勇者は立ち止まり、古ぼけた家を指した。
どうやら此処が目的地だったらしい。
当然明かりはなく、家の中は暗闇。
盗賊の眼が暗闇に慣れた時、勇者は既に暖炉の火を灯していた。
おそらく、古くからこの場所を知っているのだろう。
何処に何があるのかを把握していなければ出来ない、そんな所作だった。
外観こそ古いものの内装などは比較的新しく、家具に埃もない。
勇者は盗賊を気にする素振りも見せず服を脱ぎ、着替えを始めた。
盗賊も大して驚くこともなく、渡されたタオルで髪を乾かす。
二人は無言のまま暖炉の前に座り、そっと身を寄せ合った。しばしの沈黙ののち、勇者が語り始めた。
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/09(月) 09:36:34.83 ID:752rOB3m0
おつ
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 11:35:54.32 ID:3ySS4aXSO
>>>>
パチッ…パチパチッ
勇者「今は裏道だけど、昔はこの辺りにも沢山の人が住んでたの」
勇者「けど、劇の為に燃やされたわ。随分昔のことだけど今でも憶えてる……」
勇者「勇者は助けてくれなかった。助けようとさえしなかったわ」
勇者「燃え盛る炎と、焼け落ちていく家を見つめてただけだった」
勇者「膝を突いて、顔を伏せながら『済まない』なんてぽつぽつと呟くだけ……」
盗賊「……それも、演出なのか」
勇者「ええ、勿論演出よ。観客はその『シーン』で泣いていたわ。私とは違う色の涙を流しながらね」
勇者「おかしいでしょ? 目の前で人が死んでるのに感動しているのよ?」
勇者「観客にとっては私達の涙も、泣き叫ぶ声も、演出の一つに過ぎなかったんでしょうね」
盗賊「………」
勇者「……私達は何も知らされてなかったわ。当然よね? 知らされていたら逃げるもの」
勇者「此処に住んでいた人達は、勇者の悲しみを演出する為だけに家族を失った。大勢が死んだわ」
勇者「きっと、私の他にも沢山いるでしょうね。感動を生み出す為に犠牲になった人達が……」
勇者「でも、誰も劇場都市から出ようとしない。夢から醒めようとしないのよ」
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 11:40:26.38 ID:3ySS4aXSO
勇者「皆、夢を見てるのよ……」
勇者「全ては現実で起きているの出来事なのに、夢の中に生きてると錯覚してる」
勇者「自由を望んでいる人なんて、本当はいないのかもしれない」
勇者「そもそも劇場都市に疑問を持ってる人がいるかどうかも分からない」
勇者「寝心地の良い、夢見る都で、私だけがおかしいのかもしれないわね……」
盗賊「……何で勇者に?」
勇者「復讐よ。私を、私達をこんな目に合わせた脚本家にこの剣を突き立ててやるの」
勇者「私はその為に生きてきたわ。だから演技も剣術稽古も頑張れた。つらくても堪えられた」
勇者「……この『終わりの勇者』は、私にとって復讐を果たす絶好の機会だった」
勇者「あの時は必死だったわ」
勇者「厳しいオークションを何度も勝ち抜いて、やっとの思いで勇者役を掴んだの」
盗賊「……役者のことは把握してるはずだ。脚本家はキミの身元を調査しなかったのか?」
勇者「勿論知ってるでしょうね。それを分かった上で、脚本家は私を選んだのよ」
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 11:47:11.73 ID:3ySS4aXSO
勇者「皆、夢を見てるのよ……」
勇者「全ては現実で起きているの出来事なのに、夢の中に生きてると錯覚してる」
勇者「自由を望んでいる人なんて、本当はいないのかもしれない」
勇者「そもそも劇場都市に疑問を持ってる人がいるかどうかも分からない」
勇者「寝心地の良い、夢見る都で、私だけがおかしいのかもしれないわね……」
盗賊「……何で勇者に?」
勇者「復讐よ。私を、私達をこんな目に合わせた脚本家にこの剣を突き立ててやるの」
勇者「私はその為に生きてきたわ。だから演技も剣術稽古も頑張れた。つらくても堪えられた」
勇者「……この『終わりの勇者』は、私にとって復讐を果たす絶好の機会だった」
勇者「あの時は必死だったわ」
勇者「厳しいオーディションを何度も勝ち抜いて、やっとの思いで勇者役を掴んだの」
盗賊「……役者のことは把握してるはずだ。脚本家はキミの身元を調査しなかったのか?」
勇者「勿論知ってるでしょうね。それを分かった上で、脚本家は私を選んだのよ」
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 11:50:27.76 ID:3ySS4aXSO
盗賊「何で、そんなことを……」
勇者「全ては演劇を成功させる為よ」
勇者「今回のテーマは劇場都市への復讐。恨みを抱く私が演じた方がリアリティがあるから……ね?」ニコッ
盗賊「無理して笑わなくていい。そんな笑顔は心を痛めるだけだ」
勇者「……あなたには私が見えるのね。これまで、誰にも見透かされたことなんてなかったのに……」
ギュッ…
勇者「……離して。このままだと、私……」
盗賊「泣きたい時は泣いけばいい。此処に観客はいない、勇者を演じる必要なんてないんだ」
勇者「……無理よ。今更、自分なんて取り戻せない」
盗賊「そんなことないさ。だから、復讐の為だけに生きてきたなんて寂しいこと言うな」
勇者「っ、それ以外に何があるって言うのよ!? 勇者が終われば、私も終わるわ……」
盗賊「違う。勇者の終わりがキミの始まりになるんだ。キミの終わりなんて、オレは認めない」
勇者「フフッ、何よ、それ……何も、何も知らないくせにっ……あなたって本当に……グスッ…」
ギュッ…
盗賊「泣き顔は、誰にも見られたくないだろ?」
勇者「…………バカ」
パチッ…パチパチッ
盗賊「この雨が止んだら塔に行こう。脚本家が何かを仕掛けてくる前に」
勇者「……そうね。きっと、私達を捜しているわ」
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 12:47:10.88 ID:3ySS4aXSO
>>>>
『これ以上の遅延は許されない!一刻も早く捜し出せ!』
この声は脚本家か、相変わらず騒がしい男だ。
脚本家という役を与えられたに過ぎない空虚な存在が、今やこの都市の神を気取っている。
役に呑まれたか、役に酔っているのか。どちらにせよ、虚しくも滑稽な男だ。
『この雨が止んだら塔に行こう。脚本家が何かを仕掛けてくる前に』
『……そうね。きっと、私達を捜しているわ』
ああ、スサナ。この雨音も、彼女と聴いた音色の一つだったね。
雨宿りしたのは何処だったろう?
あの時は確か、空き家に忍び入って暖をとったのではなかっただろうか。
暖炉の前で寄り添い、互いの夢を語る内に、瞬く間に夜が明けた。
『……あなたは、何で盗賊になったの?』
『この世界が輝くに満ちてるから、かな』
『フフッ、何それ』
『上手く言えないけど、それに触れたいんだ。触れ得ぬものに、その輝きに……』
『……雲を掴むような話ね。でも、そんなものがあるなら、私も触れてみたいわ』
そう、ちょうど、今の彼等と同じように……
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 12:50:06.90 ID:3ySS4aXSO
記憶とは何と残酷な存在だろうか。
瞼を閉じれば彼女の笑顔が浮かび、耳を澄ませば笑い声さえも容易く再生される。
彼女は誰よりも自由で、世界に愛されているような女性だった。
しかし、彼女は世界から消えた。以来、私は動けなくなってしまった。
涙など一晩で涸れ果てた。
何度恨み言を吐いただろう。何度世界を呪っただろう。
あの日以降、私の時は動いていない。
今でも疑問なのは、自ら命を断たなかったことだ。
私が取った行動は、彼女を捜すというものだった。
彼女なら、ひょっこり現れてもおかしくないと思えたからだ。
狂ったわけでも何でもなく、本当にそう信じていた。
当然だが、彼女を見付けることは叶わなかった。そしてある時、私は一つの結論に行き着いた。
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 12:53:44.82 ID:3ySS4aXSO
進めぬのなら、戻れぬのなら、繰り返せば良いのだ。
輝かしいあの日々を、彼女との日々を、何度も何度も繰り返せば良いのだ。
私はその為に舞台を作り上げ、彼女の為に脚本を描き続けた。
在りし日の彼女をレコードのように、繰り返し繰り返し再生する為に……
そんなことを続けている内に、此処は劇場都市と呼ばれるようになっていた。
この都市は彼女の夢を見る為だけに作ったというのに、人々は私の夢に群がってきた。
こうして此処は、戻ることも進むこともない、夢を見続ける都市となった。
それ以降も、私は脚本を書き続けた。
彼女を主人公に、数多くの作品を作り出した。
役者が男であっても、似通った部分が一つでもあれば採用し、主人公にした。
それが勇者、名は一つでありながら無限の物語に生きる存在。
触れ得ぬ虚像であっても、その内側に彼女の姿を垣間見られるのならばそれでいい。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 13:07:37.53 ID:3ySS4aXSO
それで十分だ。そう思っていた。諦めていた。
『ねえ』
『…すぅ…すぅ……』
『寝てる……緊張感の欠片もないわね。ふふっ、まあいいわ。暫くは止みそうにないし』
だというのに、彼女は蘇った。あの頃のままの姿で劇場都市に蘇った。
彼女が彼女ではないことは分かっているが、私にとっては、紛れもなく彼女そのものだった。
彼女の現れと共に、長らく止まっていた時は動き出し、私はペンを走らせた。
こうして完成したのが、終わりの勇者だ。
以前から構想はあったが、最後にしようと決めていた物語。やるはずのなかった演目だ。
私は劇の為に悲劇を生み出し、命さえも感動の材料にした悪党だ。
悪は裁かれなければならない。そして、私を裁くのは彼女以外に有り得ない。
私の作り出した最後の勇者が、私を裁くのだ。
そうすることで彼女は勇者から解放され、私は彼女の手によって解放される。
夢に生きる憐れな夢遊病者の目覚め。
それこそが私の結末、この都市の終焉に相応しい。
私はやっと、彼女の下へと逝ける。
他ならぬ、彼女の手によって……
あの小僧にも、小賢しい脚本家にも、この結末だけは絶対に変えさせはしない。
如何なる物語にも、終わりはあるのだ。
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 18:51:57.75 ID:nXRrcqs7O
>>>>
勇者の衣装と盗賊の服が乾いた頃
あれだけ激しく降っていた勇者の涙も、何者かによって操作されていた星の涙も止んでいた。
劇場都市の熱気はすっかり冷めて、本物の静けさが訪れていた。
しかし、この都市でただ一人、勇者の熱だけは冷めることはなかった。
二人は暖炉の前で寄り添い、寝転んだまま。
盗賊はと言うと、勇者を抱き締めながら眠ってしまったようだ。
その腕の中で勇者は顔を赤らめ、時折上目で、ちらりちらりと盗賊の寝顔を覗き込んでいた。
子供のように無邪気で、吹き抜ける風のように自由で、空を漂う雲のように掴み所のない男。
演技の何たるかも知らないというのに、観客の心を一瞬で鷲掴みにした素人。
更には燃え上がる復讐心を和らげ、長らく閉ざしていた心にするりと入り込んできた。
「……きっと、女性の扱いを心得ているのね。もしかして女誑し?」
「…すぅ…すぅ……」
「これも寝たふりとかじゃないでしょうね?」
じっと見つめる内に彼女の方が耐えきれなくなったのか、再び彼の胸に顔を埋める。
胸の内はとても穏やかなのに、心音は高鳴るばかりで落ち着きがない。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 18:54:18.47 ID:nXRrcqs7O
けれど、彼女にはそれが嬉しかった。
それが何なのか理解した瞬間に身体が驚いただけで、心は喜んで受け入れている。
勇者である内は恋心が芽生えることなどないだろう。彼女はそう考えていた。
しかし結果はどうだ。こんなにも心を動かされ、緊張と動揺で身動きを取れずにいる。
そして気付けば、誰よりも自分の中心に近い場所にいる。無防備な寝姿を晒して。
「警戒心ってものがないのかしら」
しかし、喜びと同様に寂しさもあった。
彼の寝顔も、抱き締めて離さない腕も、いつかは離れてしまうだろう。
この劇が終えた時、彼はきっと遠い遠い場所へと飛び立つだろう。
自由な翼で何処までも何処までも、気の向くままに羽ばたいていくのだろう。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 18:57:09.48 ID:nXRrcqs7O
そう考えると、彼女の胸は酷く痛んだ。
彼と共にいられるのは今この時だけなのだと、彼女は直感的に理解していた。
「お願い、何処へも行かないで……」
これは彼女にとって一度も経験したことのない、人生という舞台において初めてのシーン。
それはぎこちなく、初々しく、愛らしさに満ち溢れていた。
彼女は彼の寝顔に優しく微笑んで、頬と唇に、そっとくちづけた。
すると、彼の瞼がぴくりと動いた。どうやら彼女のくちづけで目覚めたようだ。
彼女は悟られぬように素早く動き、顔を伏せた。
「ん、あれっ?」
「やっと起きたわね」
幸いにも気付かれてはいないようで、彼女はほっと胸を撫で下ろし平静を装った。
「……これってさ、本物の朝?」
「そうみたいね。本物の朝日なんて久し振りに見た気がするわ」
いつの間にか夜は退場していて、窓から差し込む眩い光が二人を照らしていた。
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 19:08:27.86 ID:nXRrcqs7O
>>>>
盗賊「……寝てた?」
勇者「ええ、気持ち良さそうに寝てたわ」
盗賊「ん〜っ、いい朝だ。涙の雨も止んだみたいだな」
勇者「バカ言ってないで起きなさい。面倒なことになる前に塔へ行くんでしょ?」
盗賊「あ、そうだったな。ん〜っ!」ノビー
盗賊「うっしゃ、で? また大通りに戻ってから塔へ行くのか?」
勇者「ええ、敢えてシナリオ通りにね」
盗賊「なるほどね。でも、大丈夫なのか?」
勇者「何が起きるか分からないのは何処を通っても同じよ」
勇者「迂回して行くことも考えてみたけど、大通りの方が比較的安全だと思うわ」
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 19:10:11.65 ID:nXRrcqs7O
盗賊「あ〜、観客がいるから?」
勇者「そう。でも、魔法使いの件もあるから絶対に安全だとは言えないわね」
盗賊「観客にまで危険が及ぶ可能性があるな」
勇者「そうなってもおかしくないと思う。大体、劇の途中でシナリオ変更なんて初めてだもの」
盗賊「……まっ、なるようになるさ。何が出て来ても勇者は進む、そうだろ?」
勇者「ふふっ、そうね」
盗賊「……へ〜」
勇者「な、なによ? じっと見て」
盗賊「いや、そっち方がいいと思ってさ」
勇者「?」
盗賊「昨日の寂しい笑顔より、今の方がずっと良い。演技も凄えけどさ、普通に笑った方がいいんじゃないか?」
勇者「っ、バカ!もう目は覚めたでしょ! さっさと行くわよ!」
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 23:24:09.25 ID:nXRrcqs7O
>>>>
盗賊「あれ、人が少ないな。つーか劇場大通りってこんなに広かったのか……」
勇者「広く感じるのも無理ないわね」
勇者「昨日は通りを埋め尽くすくらいの大入りだったし、本当に凄い盛り上がりだったもの」
盗賊「それにしても少ないな。二日酔い?」
勇者「そうかもしれないわね。昨日は誰かさんのお陰でかなり盛り上がってたから」
盗賊「だとしたらちょっとマズいんじゃねえか? こんなにがら空きなら、どこから何が出て来てもおかしくないぜ?」
勇者「そんなに心配しなくても大丈夫よ。観客ならすぐに集まるから」
盗賊「……通りを見る限り、そんな気配はないけどな」
勇者「ま、すぐに分かるわ。取り敢えず進みましょ? このまま止まっていても始まらないわ」
盗賊「そうだな。あっ、そうだ」
勇者「?」
盗賊「歩きながらで良いからさ、この先のシナリオを教えてくれないかな」
勇者「えっ? それは別に構わないけど、何の役にも立たないと思うわよ?」
勇者「私が盗賊役を間違えた時から、シナリオは大幅に変更されているだろうし」
盗賊「あ、そっか。じゃあ、他の登場人物は? 仲間は盗賊と魔法使いだけ?」
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 23:26:07.54 ID:nXRrcqs7O
勇者「他にもいたわよ?」
勇者「勇者と同じ境遇にある荒くれ者の戦士とか、荒んだ戦士を支える幼馴染みの僧侶とかね」
盗賊「同じ境遇……」
勇者「あっ、違う違う。あくまで、そういう設定ってだけよ」
盗賊「……設定ね。でも、そうなると結構長い話になりそうだな」
勇者「それはそうよ」
勇者「各自に見せ場を作らないと面白味に欠けるし、登場人物を掘り下げないと愛着も何も湧かないでしょ?」
盗賊「なるほど、ちなみに戦士と僧侶はどうなる予定だったんだ?」
勇者「戦士は脚本家を前に冷静さを失って、私の制止を振り切って斬り掛かる。で、脚本家が隠し持っていた銃で撃たれるの」
勇者「盗賊が脚本家にナイフを投げようとするけど間に合わず、戦士に止めの一発が放たれるんだけど……」
盗賊「僧侶が身を挺して戦士を守る」
勇者「半分正解。僧侶は戦士に想いを伝えて、結構長い間喋った後に息絶えるの」
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/09(月) 23:48:21.70 ID:nXRrcqs7O
盗賊「で、観客は号泣?」
勇者「そういう予定だったんじゃない?」
勇者「脚本家と対決する前に二人の擦れ違いとか色々なやり取りがあるから、観客には受けたんじゃないかしら」
盗賊「へ〜、じゃあ盗賊は?」
勇者「最後の最後に金に目を眩ませて裏切って、怒りの頂点に達した私に斬られて退場」
盗賊「……ろくでもない役だな。この劇の盗賊って悪役なのか?」
勇者「そうね。実は最初から脚本家と繋がってて、勇者一行の情報を流して金を貰ってたって感じだったわ」
盗賊「うわぁ、そんなのやりたくねえなぁ。観客に何されるか分かったもんじゃない」
勇者「そういう役も必要なのよ。決して好かれはしないでしょうけど記憶には残る」
盗賊「そりゃあそうだろうけど、そんな役は御免被るよ。出来れば目立ちたいし」
勇者「目立ってたじゃない。あんなにも熱狂させた役者なんて数えるくらいしかいないわよ?」
盗賊「へ〜、そいつは光栄だな。役者になりたい奴の気持ちが分かった気がするよ」
勇者「あなたはそのままだから良いのよ。あなたが役者だったら、ああはならなかったでしょうね」
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/10(火) 00:16:37.66 ID:hnAf9rldO
盗賊「そうかな?」
勇者「そうよ。あなたが本物だからこそ、観客はあんなにも熱狂したんだと思うわ」
盗賊「ふ〜ん。よく分かんねえけど、そんなもんなのかな」
勇者「ふふっ、そんなものよ。誰かを演じるということは、その人物になりきること」
勇者「でも、どんなに研究してどんなに稽古しても、違う人物になるなんて不可能なのよ」
勇者「本物であるあなたにはそれが必要なかった。観客の皆はそこに魅せられたんだと思う」
勇者「本物の輝きってやつにね」
盗賊「本物か……」
勇者「どうしたの?」
盗賊「……勇者は? 勇者はどうなるんだ?」
勇者「私? 私は脚本家を倒した後に……」
>>観客の皆様、大変長らくお待たせ致しました。
>>ただ今より第二部が開幕します。場所は劇場大通り。劇場大通り。
>>急がず、焦らず、慌てずに行動して下さい。
>>演劇の妨げになる行為、役者への接触は厳禁です。
>>報告、注意喚起は以上です。
>>観客の皆様、引き続き、終わりの勇者をお楽しみ下さい。
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/10(火) 09:31:16.82 ID:RyzkN5I/0
劇場都市に既視感があるんだけど前にも似たようなの建ててた?
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/10(火) 10:03:25.56 ID:/Qoyw9bfO
>>1
です
>>59
はい、これは何年か前に書いたSSを書き直したものです
そう長いものではないので、もうすぐ終わると思います
レスしてくれた方、ありがとうございます。最後まで見てくれると嬉しいです
61 :
◆IULkuZ.Noal.
[sage]:2017/10/10(火) 10:10:29.67 ID:/Qoyw9bfO
酉つけておきます
見直し次第更新します
62 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/10(火) 23:57:21.12 ID:6NeS7m28O
>>おっ、いたいた。早起きした甲斐があったぜ。
>>いや〜、昨日は凄い盛り上がりだったな!
>>今日は昨日以上に盛り上がるぞ。何たって最終日だからな。
>>いや〜、どんな結末になるのか楽しみですな。
>>ええ、これまでとは毛色の違う物語ですからね。予想も付きませんよ。
>>勇者様〜! 頑張って〜!
>>ちょっと、もっと前に行きなさいよ!彼の顔が見えないじゃない!
盗賊「……こいつは凄いな。あっと言う間に観客が集まって来た」
勇者「ね、だから言ったでしょ?」
盗賊「さっき言ってたのはこういうことだったのか。しかし、今更だけど本当に凄い設備だな」
盗賊「空を映し出す天井のパネル、朝夜自在の照明。天候操作に、さっきのアナウンス……」
63 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/10(火) 23:59:12.50 ID:6NeS7m28O
勇者「それだけじゃないわよ?」
勇者「劇をやる時期になると、観客が何処にいても見られるようにモニターが設置されるの」
盗賊「……何か、監視されてるみたいで嫌だな。いやまあ、凄い技術だとは思うけどね」
勇者「でも、所詮は作り物よ。どんなに精巧でも、いつかは必ず壊れる時が来る」
勇者「……ねえ、あなたはこの都市の外観を見た時、どう思った?」
盗賊「う〜ん。なんつーか、でっかいタマゴ?」
勇者「そう、この劇場都市は卵なのよ。夢という名の殻に覆われた、偽りの世界……」
勇者「私はその殻を破りたい。脚本家を倒して、これまで繰り返されてきた悲劇を終わらせたいの」
盗賊「それは勇者の台詞? それともキミの声?」
勇者「分からない……」
勇者「でも、終わりの勇者も、脚本家と都市そのものを憎む自分も、きっと同じことを望んでる」
64 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 00:02:20.27 ID:pZVR2a0WO
盗賊「望むものって、復讐?」
勇者「そうね。結果的にはそうなるかもしれない。だけど、それだけじゃない……」キュッ
盗賊「どうした?」
勇者「ねえ、聞いて欲しいことがあるの……」
盗賊「ん?」
勇者「私が望むのは、夢の束縛から解放されること。夢の終わりと、その先にある自由」
勇者「……私はあなたと出会って、あなたを見て、それに触れてみたいと思ったの」
勇者「とても短い時間の中で、あなたは多くのものを私に与えてくれたわ」
盗賊「………」
勇者「それから昨日の晩、あなたは私に自由を与えるとも言った」
勇者「あの時はとっても嬉しかった。でもね、これは自分で掴み取らなきゃいけないと思うの」
盗賊「……そっか。でもまあ、確かに与えられるもんじゃないよな、自由ってさ」
勇者「っ、だけど、きっと一人じゃ無理だから……その……私と一緒に、来てくれる?」
盗賊「勿論さ、そんなの当たり前だろ? キミがそう望むなら喜んでお手伝いするよ」
65 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 00:20:08.88 ID:pZVR2a0WO
勇者「……ありがとう」
盗賊「いいっていいって!」
勇者「(きっと大丈夫。彼と一緒なら、きっと……)」
盗賊「じゃっ、行くか。夢見がちなタマゴの主が、殻に閉じこもって待ってるだろうからさ」
勇者「そうね、行きましょうか」ニコッ
>>何というか、勇者役の彼女、雰囲気が変わりましたね。
>>そう感じるのも無理はない。昨日は笑顔なんて一度も見せなかったからね。
>>彼女、あんな風に笑うんだな……
>>たは〜、今の笑顔はやばかった。可愛すぎる。
>>昨日はずっとキリッとしてたからな、余計にそう感じるんだろう。
>>勇者に徹しても、中身は年頃の女の子か。そりゃそうだよな。
>>ここで勇者の心情吐露か、やっぱり復讐の物語になるのか?
>>どうだろう。脚本家と対決するのは間違いなさそうだが、どうなることやら……
66 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 00:24:12.50 ID:pZVR2a0WO
>>勇者と盗賊がくっついたら見るの止める。
>>何で? 別にいいじゃないか。
>>ああいう男って嫌いなんだよ。勇者にはきっちりした男と結ばれて欲しい。
>>きゃ〜! 君がそう望むなら、だって!
>>はぁ〜、私もあんなセリフ言われてみたいなぁ……
>>ああいう役だから許されるけど、現実で言われたら寒気がするわよ?
>>分かってる。あ〜あ、勇者役の人が羨ましいよ。
>>盗賊役の彼、やっぱり素敵ね。
>>これが初舞台なんですってね。きっと凄い役者になるわよ。
>>彼、とても澄んだ眼をしているのね。あんな風に真っ直ぐに見つめられたら、ねえ?
>>ええ、こっちまでドキッとしたわ。
>>彼女の演技も素晴らしかったわね。素直になれない感じが焦れったくて、若さよねぇ……
盗賊「ですってよ、勇者様」コソッ
勇者「う、うるさいっ。さっさと行くぞ!」
67 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 00:28:20.68 ID:pZVR2a0WO
>>>>>
脚本家「くそっ、どうすればいいんだ!」
脚本家「何とか再開したものの、シナリオは奴の所為で取り返しの付かないほど滅茶苦茶だ」
脚本家「此処へ辿り着くまでにはまだまだ時間がある。幾つかのドラマを作らなければならない」
脚本家「このままでは観客が飽きてしまう。そうなる前に手を打たなければ……」
脚本家「………」
脚本家「そうだ!戦士役を出して、もう一度アクションシーンを……っ、駄目だ。それでは魔法使いと被る」
脚本家「なら僧侶役を仲間に……これも駄目だ。今更仲間を増やしたところで観客は受け入れないだろう」
脚本家「今や二人を主軸としてストーリーが展開しているんだ。邪魔にしかならない」
脚本家「観客が求めているのは二人の物語だ」
脚本家「これまで復讐に生きてきた勇者が恋心に目覚め、直隠しにしていた本心を露わに……そうだ」
脚本家「先程のやり取りは男女通して受けが良かった。二人の絡みを増やすべきだろう」
脚本家「手っ取り早いのは敵役を出すことだが、アクションは駄目だ。敵役、敵役、恋敵……」
68 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 00:31:39.44 ID:pZVR2a0WO
脚本家「僧侶役を盗賊の幼馴染みとして出す」
脚本家「そして、二人の関係にやきもきする勇者。これなら受けるだろう」
脚本家「……しかし、ヒロインを二人にしてしまうと後が面倒だ。盗賊が二人の間をふらふらしては女性客が幻滅する」
脚本家「っ、そもそも奴は役者ではないんだ。そんな対応力を期待してどうする!」
脚本家「そ、そうだ。いっそラブストーリーにするのはどうだ? いや、それでは物語の根幹が揺らぐ」
脚本家「勇者の目的はあくまで私への復讐だ。対決なくして観客は納得しない……」
ガチャッ…
脚本家「おお! 詩人、良く来てくれた!」
詩人「その名で呼ぶなと何度言ったら分かるんだね。私は劇作家、戯曲家だ」
脚本家「そんなことはどうでもいいだろう。何か良い案はないか? 君なら何とか出来るだろう?」
詩人「座ってもいいかね?」
脚本家「ああ、勿論だとも」
ギシッ…
詩人「扉から溢れ出てくる君の案を聞いていたが、どれもお粗末なものだったな。溜め息すら出て来ないよ」
69 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 00:40:14.08 ID:pZVR2a0WO
脚本家「だ、誰に向かって口を聞いている! 私は脚本家だぞ!」
詩人「そんなことは分かっている。君を脚本家役に選んだのは私だからね」
脚本家「…………何だって?」
詩人「私が選んだと言ったんだ。劇場都市とは、私そのものだ」
詩人「これまで行われた演劇の戯曲家であり演出家……」
詩人「加えて舞台装置や照明、音楽や音響。それら全てを操作しているのも、この私だ」
脚本家「な、何を馬鹿なことを……」
詩人「ところで、君はどんな景色が好きかね? 私は特に夕焼けが好きでね」スッ
パチッ
脚本家「(な、何で空が、こんな指示は出していないぞ……)」
詩人「どうだね? とても美しいだろう?」
詩人「この夕焼けを再現するのはとても大変だったよ。これだけの為にどれだけ歳月を費やしたか分からない」
70 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 00:45:31.08 ID:pZVR2a0WO
脚本家「……だ、誰なんだ貴様は?」
詩人「つい先程も言ったが、劇場都市そのものだ。劇場都市を造った者でもある」
詩人「私はこれまでに何人もの脚本家役をサポート、監視してきたが、君は脚本家役失格だ」
詩人「このトラブルをどう乗り切るか見ていたが、あのような発想しか出来ないとはな」
詩人「残念だが、私が此処に来たのは君を助ける為ではない。解雇を言い渡しに来たのだ。今すぐ劇場都市から去りたまえ」
脚本家「ふ、ふざけるな! 私がどれだけ劇場都市に貢献してきたと思っている!」
詩人「貢献? 君は何か勘違いをしていないか? 君は脚本家ではなく、脚本家役だ」
詩人「君は、私の書いた脚本と私の考えた演出を指示通りに実行していただけに過ぎない」
詩人「だというのに、あたかも自分が作ったかのように振る舞い始めたことには実に驚かされたよ」
脚本家「それはっ……」
詩人「君は特に秀でた才能もない凡人だがプライドは高い。脚本家役を与えたのは単に扱い易い人間だからだ」
詩人「前任者達は君のように傲慢ではなく謙虚だった。私が正体を告げた時も礼節を欠くような言動はしなかった」
脚本家「ッ、黙れ!黙れ黙れ黙れ!」カチャ
パンッパンッパンッ!
脚本家「はぁ、はぁ、はぁ……そうだ、失ってたまるか。私は、私はこの都市の支配者なんだ……」
71 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 01:26:47.49 ID:pZVR2a0WO
脚本家「……才能がないだと、ふざけるな」
脚本家「私には才能がある。だから今までやってこられたんだ。そうだろう?」
脚本家「大体、こんな奴がいなくても何とでもなる。私は脚本家なんだ。出来ないはずがない」
パンッ!
脚本家「……えっ?」ドサッ
詩人「まさか、ここまで愚かだとは思わなかったよ。私に刃向かった脚本家は君が初めてだ」
詩人「何とも憐れな男だ。生きてさえいれば、再び夢を見られたというのに」
脚本家「な、なんで……」
詩人「何で撃たれたのに生きているのか? この体を見て分からないのか? 血の一滴も流れていないだろう?」
脚本家「……まさか」
詩人「私は既に人ではない。歴代の脚本家役は、創設者と名乗った時点で察したんだが……」
詩人「それより私は、君がこの劇場都市の創設者の名前さえも知らないことに驚きだよ」
詩人「……さて、そろそろ目覚めの時間だ。私の夢から退場願おうか」カチリ
脚本家「や、止めてくれ」
詩人「私はチャンスをやったぞ。君がそれを無碍にしたのだ。残念だが、二度目は無い」
パンッ!
詩人「何、寂しがることはないさ。もうじき、私もこの夢から退場する。彼女と共にね……」
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/11(水) 11:59:31.37 ID:WcOHOUaEo
あー、覚えあると思ったらリメイクだったか
盗賊で何作か書いてなかったっけ
73 :
◆IULkuZ.Noal.
:2017/10/11(水) 23:11:52.66 ID:aXj/X5cKO
>>72
二つ書きました。
この他に書いた盗賊は、盗賊と不思議な宝石というSSだけです。
74 :
◆IULkuZ.Noal.
[saga]:2017/10/11(水) 23:14:11.09 ID:aXj/X5cKO
詩人「そう、夢は終わる。夜が明けるように」
詩人「役に呑まれた脚本家。君の場合は、目覚めの鐘が死だったというだけのことだ」
詩人「では、ここから先は私が引き継ぐとしよう。元々、その役は私のものだったからね」
詩人「君が犯した最大のミスは、自らが舞台に上がろうとしなかったことだ」
詩人「どうも君には、アドリブやインプロビゼーションの能力、役者としての才能が欠片もないらしい」
詩人「脚本家とは勇者の倒すべき敵だ」
詩人「であるならば、脚本家は観客に対して明確に示さなければならない」
詩人「最大の敵がどんな存在であるのか。手短に、分かり易く、それでいて印象に残る演出をしなければならないのだよ」
詩人「まあ、今の君には私の声など届くはずもないだろうが、憶えておきたまえ。さて……」
ギシッ…
詩人「……あの頃は夢にも思わなかった。まさか、私がこの椅子に座る日が来ようとは……」
詩人「さて、始めようか」
詩人「先程の映像を劇場都市全てのモニターに転送、再生。音声は場内アナウンスを通してして再生」
詩人「3、2、1……」スッ
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