横山奈緒「夕焼けのシャッターチャンス」

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8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:05:37.46 ID:ZNhdxt+t0
お手洗い行ってきますね、と亜利沙が言って席を離れてしまった。
私の視線の目的地は行方不明で、なんとなくテーブルの上の大きいアルバムを突き刺す。

「ありさの秘蔵アルバム第二十二章、とか言うてたか」

その言葉を真に受ければ少なくともこのサイズのアルバムが二十個以上あるってことなんやけど、まあ、本当なんやろうな。
先ほどの口争いが時間を経て、なんとなく「冗談やから」の一言を引き出しにくくなった頃。雰囲気の悪さをどうにかしようと亜利沙がカバンから取り出したのがこのアルバム。
分厚いページには一枚一枚、良い表情をしたアイドルを収めた写真が敷き詰められていた。

「この未来、髪ボサボサやん……。こっちの志保は珍しいなぁ、事務所で居眠りしとる」

と、独り言。
ぺらぺらとページをめくりながらな。……それにしても私の写真見つからんな。やっぱり複雑……あっ、この美奈子可愛い。
となんだかんだ楽しみながらアルバムを覗いていた。さっきまでは……亜利沙の前だとなんとなく写真を見てもはしゃげなくてな。
だって、複雑な気持ちだったから。別に恋人を趣味より絶対に優先しろ、なんて私は口が裂けても言わない。だけどその趣味が他の女についてやと、なんかなぁ。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:06:20.44 ID:ZNhdxt+t0
「嫉妬……いや、寂しいというか。うーん」

こうやって人間関係に頭を悩ませるなんて初めてかもしれん。いや、言うなら……。
こんな気持ちが私の中に眠っていたなんて思っていなかった。
亜利沙に出会えたことでいろいろな楽しかったり、胸焦がれるような思いをして。でもこんな胸がぐるぐるするような思いを抱えるなんて思わなかった。

「罪な女やなぁ。亜利沙も」

だから好きになったんかもな、と心の中で呟いて。私は亜利沙のアルバムを閉じる。ついでに亜利沙のカバンにしまっておいてやることにしよう。
これをいつも仕舞ったら通りにふるまって、雲行きが怪しいこの休日をハッピーなものにしたるからな、亜利沙。
重いアルバムをチャックを開いた亜利沙のカバンに詰め込んで……なかなか上手いこと入ってくれない。どうしたもんやろうか、とりあえず他の中身を取り出してみよう。
手をつっこんで、何か大きいものを見つけて「ふんっ」と、取り出して。

「うん……? アルバム、二つ目か? なんか雰囲気違うけど」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:07:11.96 ID:ZNhdxt+t0
さっきのアルバムに比べて格段に薄い。デザインはさっきのアルバムに比べて綺麗で、リボンのレースなどで彩られている表紙が印象的だった。
タイトルも書いてあるけど、読めんな……。筆記体、苦手やねん。
そんな風に秘密めいていたんやから、それを私が開いてしまうのも無理はない。関西人やからな。言うて未来とか環も同じことするやろ?
好奇心に背中を強く押されて、私はそのアルバムを開いた。
そして、すぐに気づく。

「……って、これ」
「奈緒ちゃん、ただいまです――――ってああ!」

遠くから亜利沙の声が聞こえたけど、目線を向ける余裕はとてもなかった。
それも、怒っているからとかそういう理由じゃなくて。

「私の写真、って言うか私の写真しかないやん」
「うぅ、なんでばれちゃうんですか……」

適当に開いた見開き一ページ。それを埋めていたのは私の写真、だけ。
どれも余りにもいい笑顔をしていて……気恥ずかしかった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:07:37.99 ID:ZNhdxt+t0
「…………」
「…………」

カフェを出て帰り道を歩く。
夕焼けの中、画になりそうな情景なのに会話も特にない。
いつも通りに二人並んで歩いているのに、げんこつ一つ分もない距離が今日は遠い。
私と亜利沙を隔てているのはカフェでも味わった沈黙。だけどそれとは全くの別物で、ふとすると心地いいなんて思ってみたり。
だけどこの帰り道はずっと続くものじゃなくて、そしてこのまま解散なんて、いかんやろな。
ふぅ、と一つ息を吐きだして立ち止まり、亜利沙に向き合う。
振り向いた亜利沙の顔は……照れ、やな。私もそうかもしれん。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:08:11.29 ID:ZNhdxt+t0
「あ、亜利沙」
「ひゃ、はい」

注意したのに喉から洩れた声はみっともなかった。亜利沙もやな。気が合うなあ、私たち。
そんなことを思うと、ちょっと面白くなって笑ってしまう。くくっ、と抑えようとしても止まらない。

「奈緒ちゃん?」
「くくくっ、んふふ。いや、そうやな」

なかなか収まらない笑い。だけど面白いものがあるというより、あれや。亜利沙の前やと気が緩むというか、そんな感じ。
つまり、そう。

「ああ――。私、亜利沙のこと大好きなんやな」
「んえ、な、な」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:08:40.30 ID:ZNhdxt+t0
さっきまでのどろどろとした予感を押しのけて、私はそんなまっすぐな感情が生まれるのを感じていた。
自分の彼女が他の女に注目してれば嫌な気持ちになって、自分を見てくれれば喜ぶなんて単純やな、我ながら。
十分笑って、気持ちも吐き出して。
そんなさわやかな気分で亜利沙に向き合ってみる。

「ごめんな、亜利沙。今日の私性格悪かったわ」
「え、ええ。あっ、いえ。ありさこそごめんなさい」

くだらないことで嫉妬、やな。そう、嫉妬して。亜利沙を困らせた私はダメな娘。
だけど、私の知らない亜利沙のことを知れたから悪くなかったかも、なんて思ってみたり。

「それでな。亜利沙の趣味やけど、まああんまりやりすぎるとあれやけど……そうやってほかの娘を見た分、私のことを見てな?」

自分で言っておいて恥ずかしいセリフやな……。でも、亜利沙の前やったら自然に出てきてくれた。それはやっぱり、私が亜利沙のことを好きだからなんやろな。
好きな人の前だからこそ、甘えたりできる。亜利沙にとって私もそうだとええんやけど。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:09:16.63 ID:ZNhdxt+t0
「あっ、はい。じゃあ、ありさ。いっぱい奈緒ちゃんの写真を――」

そう言うと素早くカメラを取り出す亜利沙。はやっ、流石亜利沙やな。
そして流れるような動作で私は落とさないようにそれをひったくった。高そうで、使い方も複雑やけど亜利沙が使ってるのをよく見たから大丈夫やろ。
片手でそのカメラを操作して、上手いこと私たちをレンズに収める。
開いた方の腕で亜利沙を逃がさないように、肩へ手をまわした。
ひゃん、と声を上げる亜利沙が可愛いなぁ、なんて。

「二冊のアルバムのどれにも亜利沙は写ってなかったやろ。寂しいわ、だからな」

そう、カフェで見たあのアルバムには……当たり前やけど、カメラマン自身である亜利沙の姿は全然写っていなかった。
亜利沙的にはそれで良いのかもしれんけど、私にはそれが気にいらへん。
だから、
私はシャッターを切る。パシャリと、亜利沙を連想させる心地いい音がした。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:09:58.17 ID:ZNhdxt+t0
「こうやって一緒に、な?」
「――――奈緒ちゃんは、ずるいですよ」

カメラの液晶をのぞき込む。……自分でも意外なほど、嬉しそうな顔をしていた自分と、それと亜利沙がそこには収まっていた。
カメラを受け取る亜利沙は、満足そうな顔をしていて、きっと私も同じ表情をしているんやろな。
ああ――。なんだかんだ、良い休日やったなぁ。
緊張みたいなものから解き放たれて、腕を伸ばしてみると倦怠感がどこかへ飛んで行った。歩き出すと、夕日がさっきよりずっと綺麗に見えた。

「奈緒ちゃん」
「うん?」

そんな私を呼び止める亜利沙。
帰る素振りを見せたけれど、亜利沙が呼び止めてくれるのは分かっていた気がする。亜利沙なら、こうするやろな、って。
私を見つめる亜利沙の表情は、今日一番の表情で。カメラが今手にあれば写真にしてしまいたいくらいで。
それが出来ない私は自分の網膜に消えないように焼き付けることにした。

「ありさも、奈緒ちゃんのこと大好きですっ」

そう言われて、私は駆け出して――抱きついた。
可愛い声を上げる亜利沙を感じながら、私は思った。
私は幸せ者や、ってな。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 23:10:23.49 ID:ZNhdxt+t0
おしり
17 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2017/09/11(月) 02:16:14.98 ID:siaoQqYm0
なおありええなあ
乙です

>>1
松田亜利沙(16) Vo/Pr
http://i.imgur.com/N7EyoGm.jpg
http://i.imgur.com/eP8uDL1.jpg

横山奈緒(17) Da/Pr
http://i.imgur.com/43dnkaI.jpg
http://i.imgur.com/Nh7PoEx.jpg

>>7
白石紬(16) Fa
http://i.imgur.com/Gr28eIH.png
http://i.imgur.com/mWVrTMQ.jpg
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/11(月) 09:00:45.06 ID:62f8l/mY0
乙なおあり!
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