他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
梨子 「ひぐらしのなく頃に」
Check
Tweet
102 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:28:13.21 ID:dLHNu4/I0
曜 「建設現場で次々と狂人化事件が起きて、真っ先に千歌ちゃんの家が怪しまれた」
曜 「私、見てられなかった。千歌ちゃんが周りから追い詰められて、どんどん人間不信になってくのは、見てる私でさえ辛かった」
梨子 「だから、千歌ちゃんから疑いの目を逸らすために…」
曜 「うん、作ったんだ。呪いの逸話を」
梨子 「そんな…」
曜 「でも、無意味だった。呪いの話が広まっても、結局その呪いを裏から操っているのは高海家だとか言われて…」
梨子 「……。」
103 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:28:53.90 ID:dLHNu4/I0
曜 「そして余計、千歌ちゃん達に非難が浴びせられた。狂人化事件の被害者とか、その遺族とかからね」
扉が突然、大きな音を立てて揺れる。
千歌ちゃんが向こう側から、扉を力任せに叩き続けている。
曜ちゃんはドアノブに手をかけ、鍵をゆっくりと回し始めた。
梨子 「……! 曜ちゃん、ダメぇっ!」
曜 「梨子ちゃん、お願いがあるんだ。この馬鹿げた呪いを…狂人化を引き起こしてる犯人を、探してほしい」
梨子 「そんな…私なんかに…」
曜 「できる。梨子ちゃんなら出来るよ。だって…」
104 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:29:31.53 ID:dLHNu4/I0
曜 「梨子ちゃんは、人を信じる天才だもん」
梨子 「……っ!!」
曜ちゃんが勢いよく扉を開けると、外にいた千歌ちゃんが驚き仰け反る。千歌ちゃんが体制を崩したところで、曜ちゃんが体を押さえつける。
梨子 「曜ちゃん…っ!」
曜 「梨子ちゃん、早く!!」
梨子 「曜ちゃん…! 曜ちゃんっっ!!」
曜 「……信じてるよ、梨子ちゃん」
梨子 「ううっ…うわぁぁぁっ!!!」ダッ!!
105 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:30:02.25 ID:dLHNu4/I0
走った。
ただひたすらに、走った。
後ろから聞こえる、曜ちゃんのだんだん小さくなっていく声と、千歌ちゃんの叫び声に耳を塞ぎながら。
梨子 「ごめんなさい…! ごめんなさい!」
梨子 「私がちゃんと、千歌ちゃんに気持ちを伝えられていれば!」
梨子 「もう絶対に失敗しない…! 絶対にっ!!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
106 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:30:33.98 ID:dLHNu4/I0
〜その頃 果南宅〜
果南 「くそっ…! 治まれ…治まれってばぁっ!」
自分の頬を何度も殴りつける。
少し油断すると、理性が完全に失われてしまいそうになる。狂人化まであと1歩なのだろうと、自分でもわかるくらいの状態だ。
果南 「なんで…! 私はまだこんなとこで…倒れるわけにはいかないのにっ!!」
果南 「鞠莉…守れなくてごめん。ダイヤ、裏切ってごめん」
ふと机に目をやると、持って帰ったまま結局手をつけていなかったみかんが一つ、置かれていた。
果南 「……私、最低だ。幼馴染みのことすら、信じてあげられなかったなんて」
107 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:31:00.76 ID:dLHNu4/I0
皮を丁寧に剥き、みかんを1片口に放り込む。
果南 「……おいしぃ…お…いし…ぃよ…!」
果南 「千歌…疑ってごめん。こんなに美味しいみかん、捨てちゃってごめん…」
果南 「………ごめんなさい、みんな」
みかんが床に叩きつけられる音をきっかけに、私の意識は完全に闇の中へと消えていった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
108 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:31:36.87 ID:dLHNu4/I0
〜夜道〜
地獄…今、沼津が完全にその状態にある。
千歌ちゃんだけじゃなかった。街の人々のほとんどが、狂人化している。
梨子 (なんで…なんでこんなことにっ!?)
正気を保っている私を狙って、街の人々が襲いかかってくる。千歌ちゃんからだけならまだしも、この人数相手では流石になす術がない。
撒いてもまいても、次から次へと狂人化した人が湧き出てくる。
……ついに囲まれた。
梨子 (ここまで……なの? 曜ちゃん、私…!)
109 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:32:14.72 ID:dLHNu4/I0
頭に鈍い感覚を覚えた。
頭を触ると、掌にベットリと血がついていた。
地面の冷たさを直に感じながら、決意する。
もし、もう1度チャンスが貰えるなら。
もしもう一度、みんなを救える機会が得られるのなら。
絶対に失敗したりしない。
必ずみんなを…
そして、必ず呪いの原因を…
梨子 (……絶対に、突き止める…!!)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
110 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:32:51.41 ID:dLHNu4/I0
ひぐらしのなく頃に
【嘘話し編 ―完―】
111 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:33:41.71 ID:dLHNu4/I0
本日はここまでとさせていただきます
読んでいただきありがとうございました。第3編に続きます
112 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:48:28.34 ID:dLHNu4/I0
【神隠し編】
113 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:49:01.82 ID:dLHNu4/I0
〜バス 車内〜
千歌 「私、実は知ってるんだ」
果南さんの家へと向かうことになった私たち3人は、バスの最後尾に並んで座っていた。
千歌ちゃんはみかんが沢山入った紙袋を両腕の中に抱きながら呟いた。
梨子 「知ってるって、何を?」
千歌 「果南ちゃん、私が持っていったみかん、毎回食べずに捨ててるの」
梨子 「そ、そんな…!?」
114 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:50:12.08 ID:dLHNu4/I0
千歌 「あっ、勘違いしないでね!? 果南ちゃんはそんな悪い人じゃないの! ちゃんと訳があって…!」
梨子 「訳…?」
千歌 「ほら、私色々と疑われてる立場だからさ。果南ちゃんも疑心暗鬼になってるんだよ」
梨子 「だからって、捨てることないじゃない…」
千歌 「でももし私が呪いを引き起こしている犯人とかだったら、みかんに毒を盛るくらいは平気ですると思うよ」
梨子 「……まさか、本当に毒を?」
千歌 「そんな訳ないじゃん! 入れてないよ!」
曜 「そうそう。それに千歌ちゃんにそんな器用なことは出来ないよ」
115 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:51:07.04 ID:dLHNu4/I0
曜ちゃんは紙袋からみかんを一つ取り出し、皮をむいて1片口の中に放り込んだ。
千歌 「むー、失礼な」
梨子 「曜ちゃんは千歌ちゃんのこと、本当に信頼してるんだね」
曜 「勿論。親友は信じるものでしょ」
千歌 「よ、曜ちゃん…!」
梨子 「でも幾ら何でも、 呪いなんて根も葉もない噂を広めるのはちょっと…」
曜 「そ、それは千歌ちゃんのためだもん!」
千歌 「全く役に立たなかったけどね」
曜 「ち、千歌ちゃんまで…」
千歌 「あはは、冗談だってば」
116 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:51:36.25 ID:dLHNu4/I0
千歌ちゃんは曜ちゃんの持っていたみかんを2片ちぎりとると、自分と私の口にそのみかんを押し込んだ。
千歌 「でもね、私嬉しかったよ。疑いこそ晴れなかったけど、自分のためにそこまでしてくれる人がいるってだけで、十分支えになったよ」
曜 「千歌ちゃん…」
梨子 「…みかん、おいしいね」
千歌 「よかったら幾つか持って帰って?」
梨子 「うん、ありがとう」
117 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:52:12.64 ID:dLHNu4/I0
曜 「…でも、本当に原因はなんなんだろうね」
梨子 「呪いが作り話となると、しっかりとした原因があることになるよね」
千歌 「一時期、ウイルス性の感染症が原因って噂されたことあったんだよ」
梨子 「そうなの?」
曜 「そうそう。みんな対策に必死になってね。ほら、ここら辺ってどこに行っても大体空気清浄機が置いてあるでしょ?」
梨子 「そういえば学校にも置いてあったね」
曜 「それがその時の名残でね。確か黒澤家が、みんなに空気清浄機を買うように呼びかけたんだよ」
118 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:53:04.12 ID:dLHNu4/I0
千歌 「学校には市から提供されたんだよね。本当、黒澤家の力って凄いよ…」
梨子 「で、結局それは効果あったの?」
曜 「うーん…微妙かな。そもそもウイルスっていうのも噂に過ぎなかった訳で、それが本当に意味があったのか分からない」
千歌 「現に、設置後でも狂人化は起きてたもんね…。確かに数は激減したけど」
梨子 「……なにか、別の原因があるのかも」
思考を巡らせていると、目的地であるバス停の名前がアナウンスされた。
慌ててボタンを押し、バスから降りる。
みかんを数個入れただけなのに、鞄が随分重くなったように感じた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
119 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:54:20.96 ID:dLHNu4/I0
〜果南宅〜
果南 「はい、これお返し」
千歌 「また干物ー!?」
果南 「文句は母さんに言ってよ」
果南さんは洗剤で赤く荒れてしまっていた手にハンドクリームを塗りながら、千歌ちゃん達と談笑していた。
こうして見ると、この2人が疑い疑われている関係とは到底思えない。
千歌 「…じゃ、そろそろ帰ろっか」
果南 「今日は早いね。なんか用事でもあるの?」
120 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:54:50.60 ID:dLHNu4/I0
曜 「駅前で待ち合わせてる人がいるんだ。だからそろそろ行かないと」
果南 「そっか、じゃあ急がないと」
梨子 「お邪魔しました、果南さん」
千歌 「お邪魔しましたー」
果南 「……うん、ばいばい」
121 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:55:26.80 ID:dLHNu4/I0
曜 「…果南ちゃん、今回は食べてくれるかな」
千歌 「どうだろう。…多分無理じゃないかな」
梨子 「……あっ、ごめん! 私、果南さんの家に忘れ物しちゃったみたい…」
曜 「本当に? じゃあ戻ろう」
梨子 「あっ、いいよいいよ。先に駅行ってて」
千歌 「…分かった。じゃあ待ってるね」
梨子 「うん、ごめんね」
曜 「ねぇ千歌ちゃん。梨子ちゃんもしかして…」
千歌 「…うん、多分」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
122 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:56:28.23 ID:dLHNu4/I0
〜果南宅〜
梨子 「…果南さん」
果南 「…っ!? り、梨子!?」
果南さんの手に持たれていたゴミ袋に目をやる。…何十個ものみかんが、中に入れられていた。
果南 「駅前に向かってたんじゃ…」
梨子 「…気になったんです。そのみかんのこと」
果南 「バレちゃったか、食べてないこと」
123 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:57:00.63 ID:dLHNu4/I0
梨子 「千歌ちゃんがせっかく持ってきてくれたんですよ?」
果南 「そんなことは分かってる…! でも仕方ないじゃんか。もう私は…」
梨子 「信じられないですか? 幼馴染を」
果南 「幼馴染みだとか、そうじゃないとか関係ない。…もう私は誰も信じられないんだよ」
梨子 「…街の人たちから受けた仕打ちのせいですか?」
果南 「……。」
果南さんはゴミ袋を傍らに置き、髪をそっとかきあげる。
124 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:57:32.53 ID:dLHNu4/I0
果南 「私が必死に消してたあの落書き…実は誰がやったのかだいたい検討はついてる」
梨子 「そうだったんですか?」
果南 「その人たちはお父さんとも仲良くしてて…時々一緒にご飯を食べに行ったりもした。だけど…」
梨子 「狂人化事件が起きてから、周りの態度が変わった…ですよね?」
果南 「厳密には違うかな。お父さんが小原家と提携して、事業を始めるってことが周囲に伝わった時点で、周りの対応は冷たくなった」
果南 「…人の友情とか信頼とか、こんな簡単に崩れるんだなって知った」
125 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:58:25.44 ID:dLHNu4/I0
果南 「そもそも目に見えもしないものを信じていた私が馬鹿だったんだよ」
梨子 「果南さん…」
果南 「千歌だって、私がこんなことしてるって知ったら、きっとすぐに私のことなんて嫌いになる」
梨子 「そんなこと…!」
―その時、果南さんの目が突然大きく見開かれた。信じられないものを見た、そんな風に。
後ろを振り返ると、そこには千歌ちゃんの姿があった
果南 「千歌…!」
梨子 「千歌ちゃん!? それに曜ちゃんも…駅に行ったんじゃ」
126 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:59:17.74 ID:dLHNu4/I0
千歌 「だめだよ梨子ちゃん、嘘なんかついちゃ。忘れ物なんてしてなかったくせに」
梨子 「……ごめん」
千歌ちゃんはゴミ袋に目をやる。
捨てられたみかんを見て「やっぱり」と呟き、悲しげに微笑んだ。
果南 「千歌…! 違う、これは…!」
千歌 「いいよ果南ちゃん。私知ってたんだ、いつもみかんが食べられてないって」
果南 「そんな…」
曜 「千歌ちゃん、知ってていつも果南ちゃんにみかんを私続けてたんだよ。いつか自分を信じて、食べてくれる日が来るって」
127 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:59:47.52 ID:dLHNu4/I0
梨子 「…本当に美味しいんですよ、このみかん」
自分の鞄からみかんを取り出し、果南さんに見せる。
果南 「そのみかん…千歌のやつ?」
梨子 「はい。いくつか貰ってたんです」
皮をむき、みかんを1片食べてみせる。
…うん、やっぱりおいしい。
梨子 「果南さん、みんなに信じてもらえなくなって、いつしか果南さん自身も誰も信じられなくなっちゃったんですよね」
果南 「あ、あんたに何が分かるのさ!」
128 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:00:15.50 ID:dLHNu4/I0
梨子 「…何となくですけど、分かる気がするんです。微かですけど残ってるんです。人を信じることが出来なかったから起きてしまった惨劇を」
曜 「梨子ちゃん…」
梨子 「…これも、誰から聞いたか忘れちゃったんですけど」
『まずはあなたが、みんなを信じてみたら?』
梨子 「人から信じられるためには、まずは自分がみんなを信じてみようって、そう思うんです」
手に持っていたみかんを1片ちぎり、果南さんに渡す。
129 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:00:55.54 ID:dLHNu4/I0
果南 「まずは…自分が…?」
千歌 「果南ちゃん、私ね…!」
千歌 「私、果南ちゃんがみかんを捨ててるって知った後でも、果南ちゃんを嫌いになんてなったこと一度もなかったよ」
果南 「どうして…」
千歌 「だって私、果南ちゃんのこと大好きなんだもん!」
果南 「……っ!」
130 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:01:31.41 ID:dLHNu4/I0
曜 「…果南ちゃん、これが千歌ちゃんの本当の気持ちだよ」
梨子 「この言葉なら私、信じてもいいと思います」
果南 「……。」
果南さんは手のひらの上のみかんをじっと見つめ、次第にその目に涙を浮かべ始めた。
果南 「…後輩に諭されるなんて、私もまだまだだなぁ…」パクッ!
千歌 「…! 果南ちゃん!」
梨子 「食べて…くれた!」
131 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:02:29.23 ID:dLHNu4/I0
果南 「……すっぱい」
千歌 「あはは…果南ちゃんがなかなか食べてくれないから、旬が過ぎちゃったんだよ」
果南 「…冬に持ってくるの、待ってるよ」
千歌 「……! うんっ!!」
132 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:02:59.58 ID:dLHNu4/I0
曜 「…ありがとう、梨子ちゃん」
梨子 「そんな、私は何も…」
曜 「ううん。梨子ちゃんのお陰だよ。私は何も出来なかったから」
梨子 「…私は人を信じることしか出来ないから」
曜 「なんか、懐かしいフレーズだなぁ、それ」
梨子 「それはそうよ、だって…」
梨子 「曜ちゃんが言ってくれたんだもん。私は人を信じる天才だって」
曜 「…?」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
133 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:16:14.36 ID:dLHNu4/I0
〜駅前〜
千歌 「ルビィちゃーん! お待たせー!」
ルビィ 「あっ、千歌さん! …どうしたんですか? なんか目の周りが赤いような…」
曜 「あぁ、さっき果南ちゃんちで泣い…」
千歌 「なんでもないなんでもないから!」
梨子 「恥ずかしがることないのに…」
曜 「…で、どうしたの? 急に呼び出したりなんかして」
ルビィ 「それが実は!」
134 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:16:52.09 ID:dLHNu4/I0
梨子 「呪いの正体が分かった!?」
ルビィ 「多分…ですけど」
曜 「やっぱり、人為的なものだったってこと?」
ルビィ 「詳しい話は、花丸ちゃんから…」
千歌 「花丸…ちゃん?」
花丸 「お待たせずらー!」
梨子 「あぁ…あの子が花丸ちゃん?」
135 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:17:36.54 ID:dLHNu4/I0
花丸 「はじめまして。国木田花丸、1年生です」
ルビィ 「花丸ちゃん、色んな本とか読んで、呪いについて調べてたんです」
千歌 「で!? 原因ってなんだったの!?」
花丸 「まだ確定ではないんですけど…」
花丸ちゃんは淡島神社に祀られていたと言う、とある神具の話をしてくれた。
どうやらその神具を使うと、人の感情のありったけを引き出し、その後無気力症に陥らせると言う。
曜 「…話を聞く限り、内浦の怒りと一致してるね」
梨子 「てことは、その神具が使われたってこと?」
花丸 「まだそれは分かりません。でもそう考えていいと思います」
136 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:18:05.58 ID:dLHNu4/I0
千歌 「もうすぐ分かるかもしれないんだね、この呪いを引き起こした犯人が」
花丸 「取り敢えずオラは、この神具について調べを進めるずら」
梨子 「私達も、神具のことを知ってる人がいないか調べてみるね」
ルビィ 「…いよいよ、なんですね」
曜 「あれっ、そういえばルビィちゃん、こんなことして大丈夫なの?」
梨子 「どういうこと? 曜ちゃん」
137 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:18:44.03 ID:dLHNu4/I0
曜 「いや、これでもルビィちゃん黒澤家の娘だし」
ルビィ 「これでもって…」
曜 「ダイヤさんとかはなるべく呪いの詳しい話について、関わらないようにしてたイメージがあるから」
ルビィ 「……。」
梨子 「黒澤家も色々疑われてるみたいだからね…」
ルビィ 「…ルビィは大丈夫なんです」
138 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:19:20.70 ID:dLHNu4/I0
千歌 「大丈夫…ってどういうこと?」
ルビィ 「確かに、黒澤家内では極力呪いに関する発言をしないようにと言われてます」
曜 「じゃあ…」
ルビィ 「でもルビィはいいんです。だって…」
ルビィ 「ルビィはもう、黒澤家の人間じゃないんです」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
139 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:21:16.78 ID:dLHNu4/I0
〜2年前〜
ルビィ 「お母様…今なんて?」
黒澤母 「習い事を全てやめて良いと言ったのです。近頃やる気も無かったでしょう?」
ルビィ 「でも、今まで何が何でも続けさせようとしてたのに、どうして…!」
黒澤母 「あなたをおもってのことですよ、ルビィ」
ルビィ 「ルビィのことを…?」
140 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:22:06.42 ID:dLHNu4/I0
黒澤母 「……それと、上京したいということでしたが、大学は東京の大学を受けなさい」
ルビィ 「で、でも! 大学はここからでも通える所にしなさいって!」
黒澤母 「確かに、黒澤家の血を継ぐものとして、本来はこの地にとどまるべきです」
ルビィ 「なら、ルビィもお姉ちゃんみたいに…」
黒澤母 「ルビィッ!!」
ルビィ 「ぴぎっ…!?」
141 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:22:48.62 ID:dLHNu4/I0
黒澤母 「あなたは一度、黒澤家という呪縛から開放されるべきです。今のままの環境では、あなたのためにはなりません」
ルビィ 「そんな…ルビィは…! 黒澤家の者として誇りを持って、毎日毎日…!」
黒澤母 「ルビィ、あなたは自由になれるのですよ? 私は、あなたの可能性に期待しているのです」
ルビィ 「……そういう、ことなんですね」
黒澤母 「ルビィ…?」
142 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:23:18.66 ID:dLHNu4/I0
ルビィ 「…習い事、辞めます。大学は東京に行こうと思います」
黒澤母 「…えぇ。あなたはそれで良いのですよ」
ルビィ 「私は、黒澤家の者として未熟でした。ご期待に応えられず、申し訳ありませんでした」
ルビィ 「……“お母さん”」
――私は、黒澤家から捨てられた。
私はお姉ちゃんみたいにはなれなかった。
私が、未熟だったから。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
143 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:23:56.79 ID:dLHNu4/I0
梨子 「…そんなことが」
ルビィ 「ルビィが悪いんです! お母さんの望むように育つことが出来なかったから…」
花丸 「ルビィちゃん、そんなこと…」
曜 「でもだったら、見返してやらなきゃ!」
ルビィ 「見返す…?」
千歌 「そうだよ! 呪いの原因を解明して、黒澤家の疑いを晴らせば!」
梨子 「うん、きっとお母さんも認めてくれるよ」
ルビィ 「……本当ですか?」
144 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:24:25.98 ID:dLHNu4/I0
花丸 「ルビィちゃん、一緒に頑張るずら!」
ルビィ 「…うん! ありがとう花丸ちゃん! じゃあさっそく調べに行こう!」
花丸 「あっ、ルビィちゃん!? 待ってよー!」
梨子 「…行っちゃった」
千歌 「ルビィちゃん、相当嬉しかったんだろうね」
145 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:25:03.95 ID:dLHNu4/I0
曜 「…ルビィちゃん、優しい子なんだ。だから、ダイヤさんみたいにはなれなかったんだ」
梨子 「…黒澤家の器じゃなかったってこと?」
千歌 「ひどいよ! だからって娘をそんなふうに扱うなんて!」
曜 「…ルビィちゃんのためにも、早く呪いの謎を解かないと!」
千歌 「そうだね…私たちがやらないと!」
梨子 「…黒澤家なら、何か知ってるんじゃないかな」
146 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:25:40.50 ID:dLHNu4/I0
曜 「神具のこと?」
梨子 「うん…。この街のトップなら、この街のことなんでも知ってるんじゃないかなって」
千歌 「でも危険だよ! もしかしたら、闇の中に葬られたり…!」
曜 「ドラマの見すぎだよ千歌ちゃん」
梨子 「でも、何もないとは言いきれない」
曜 「…行くんなら、用心しなくちゃね」
147 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:26:14.11 ID:dLHNu4/I0
梨子 「それに私、ルビィちゃんのことも聞きたい。どうしてルビィちゃんを捨てるようなことをしたのか」
曜 「それは私も気になる。…結局、最終的に黒澤家に行くことになるのは避けられなさそうだね」
千歌 「…問題は、いつ行くかだね」
梨子 「出来ればルビィちゃんが家にいない時がいいよね。…となると」
曜 「じゃあ今度の土曜日、私がルビィちゃんを呼び出すよ。その間に2人で行くって感じでどうかな」
千歌 「…うん! それでいこう」
148 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:27:06.40 ID:dLHNu4/I0
梨子 「じゃあ3日後…千歌ちゃんの家に集合で」
千歌 「うん。…じゃあ行こっか」
千歌 「パフェ食べに!」
曜 「忘れてなかったんだ…」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
149 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:27:41.59 ID:dLHNu4/I0
本日はここまでとさせていただきます。
神隠し編、続きます
150 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 21:58:34.75 ID:GPWsP05p0
〜3日後 果南宅〜
果南 「…さすがに毎日みかん食べると飽きるよ。こんなに食べられるかな…」
みかん、確かに美味しいんだけど。
飽きたとは口にしながらも、不思議なことに食べる手は止まらない。
果南 「…あっ、ダイヤからメールだ。珍しいな」
果南 「……。……嘘」
果南 「大変っ…千歌達にも早く伝えないと…!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
151 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 21:59:26.21 ID:GPWsP05p0
〜その頃 黒澤家前〜
千歌 「携帯…切った方がいいよね。会話中に携帯とか鳴らしたら日本刀で斬られるかも…!」
梨子 「千歌ちゃんは黒澤家をなんだと思ってるの…?」
千歌 「まぁ冗談はこのくらいにして…」
梨子 「半分本気だったでしょ」
千歌 「…ルビィちゃんはいないよね?」
梨子 「朝には外出したって。多分そろそろ曜ちゃんと合流する頃だと思うよ」
千歌 「すごいなぁ…私なんて待ち合わせのギリギリに家出るのに」
152 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:00:15.85 ID:GPWsP05p0
梨子 「千歌ちゃんは時間にルーズすぎ。…さて、そろそろ行こっか」
千歌 「うん…。緊張するなぁ…」
梨子 「昔は協力関係だったんでしょ。その時の感覚で行けば大丈夫よ」
千歌 「うん、頑張る!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
153 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:00:50.74 ID:GPWsP05p0
〜黒澤家 客間〜
黒澤母 「…………。」
ダイヤ 「…………。」
千歌 「…………。」
梨子 「…………。」
千歌 (ほ、ほら梨子ちゃん! なにか話してよ!)
梨子 (えぇっ!? 無理よ、こんな空気で話を切り出すなんて…)
千歌 (私だって無理だってぇ…)
黒澤母 「……あの」
千歌 「ひゃいっ!?」
154 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:01:33.56 ID:GPWsP05p0
黒澤母 「なにか御用があったのではないですか? 高海さんがどうしてもと仰るので、こちらも予定をあけたのですが…」
千歌 「ご、ごめんなさい! 用事はちゃんとあって、その…」
ダイヤ 「……はぁ。あなた方2人で来られたということは、あの話でしょう?」
梨子 「……はい。内浦の怒りについて、ダイヤさんが知っていることを教えて欲しいんです」
黒澤母 「申し訳ありませんが、黒澤家の敷地内でそのような話は…」
梨子 「お願いしますっ! どうしても、この呪いの原因を突き止めなくちゃいけないんです!」
155 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:02:09.06 ID:GPWsP05p0
黒澤母 「…あなた、過去に何かありまして?」
梨子 「えっ…?」
黒澤母 「この街に越してきて1ヶ月程と聞きます。それなのにそれほどのお覚悟…過去に何か呪いによる被害を受けたように感じます」
千歌 「梨子ちゃん…」
ダイヤ 「あなたの目は、まるで狂人化事件の被害者の目と同じです。この呪いに対して、確かな恨みがあるような…」
黒澤母 「ダイヤさん」
ダイヤ 「…失礼しました、お母様」
156 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:02:51.11 ID:GPWsP05p0
黒澤母 「…私共とて、呪いの原因究明を諦めた訳ではありません。しかし、ウイルス性の感染症などという根も葉もない噂を信じ、市民に警告をするような有様」
ダイヤ 「私共も、もうお手上げの状態なのです」
千歌 「…梨子ちゃん、どう思う?」
梨子 「…嘘をついてるようには思えない。問題は、神具のことを認知しているかどうか」
ダイヤ 「神具…? 神社などに祀られているものですか?」
梨子 「淡島神社…かつてあの神社に、とある神具が祀られていたことをご存知ですか?」
157 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:03:21.90 ID:GPWsP05p0
黒澤母 「淡島神社のことは存じておりますが、神具のことは今初めて…」
千歌 「黒澤家でも、知らないことはあるんですね」
梨子 「ちょっ…千歌ちゃん!」
黒澤母 「ふふっ、黒澤家とて、街のことを隅から隅まで把握出来ている訳ではありません。もし全てを知っていたら、そもそもこんな呪いにこの街を蝕ませたりするものですか」
当主様は自虐的に笑って見せた。
…なんだか、必要以上に緊張していたことが、馬鹿らしく思えた。
黒澤母 「…それで? その神具とやらがこの呪いに関係しているとでも?」
158 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:04:20.80 ID:GPWsP05p0
梨子 「はい。実はその神具は人に使うと、その者のありったけの感情を引き出し、その後に無気力症に陥れるらしいんです」
ダイヤ 「…話を聞く限り、内浦の怒りと一致していますわね」
黒澤母 「淡島神社のことの資料でしたら、書庫に幾らかあるかも知れません。すぐに探させます」
当主様は使いに書庫から淡島神社の資料を探すよう命じ、手元にあったお茶を上品に飲み干した。
ダイヤ 「…では、本が見つかりましたら私からお伝えします」
黒澤母 「よろしくお願いします、ダイヤさん。…では、私はこれで」
梨子 「待ってください! …もう一つ聞きたいことが」
159 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:04:52.10 ID:GPWsP05p0
ダイヤ 「聞きたいこと?」
千歌 「……。」
梨子 「はい。ダイヤさんの妹…黒澤ルビィちゃんのことです」
黒澤母 「…っ! あなた…!」
梨子 「…その反応、やっぱり何もないとは思えませんね」
梨子 「単刀直入にお聞きします。どうして実の娘を捨てるような真似をしたんですか?」
黒澤母 「……? 捨てる?」
160 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:05:40.95 ID:GPWsP05p0
梨子 「ルビィちゃんから直接聞きました。私が未熟だったから、黒澤家に見捨てられた…と」
ダイヤ 「ルビィ、そんなことを…」
黒澤母 「…私は、ルビィを捨てるようなことはしていません」
梨子 「でも、ルビィちゃんが確かに…!」
ダイヤ 「ルビィは勘違いしているのです。おそらく私達の意図を汲み取れていないのですわ」
梨子 「……それって、どういう…」
言い終わる前に、私の携帯に電話がきた。
この場の空気を一掃するかのように鳴り響いた着信音によって、私たちの会話は遮られてしまった。
161 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:06:39.47 ID:GPWsP05p0
梨子 「…電話? 曜ちゃんからだ」
千歌 「ちょっ…ちょっと梨子ちゃん! 斬られるよ!」
梨子 「まだ言ってたの…」
黒澤母 「お友達からですか? …どうぞ、出てください」
梨子 「すいません、少し失礼致します」
通話ボタンを押し、客間を後にする。
廊下に出てから携帯を耳にあてると曜ちゃんに突然大きな声を出され、思わず「きゃぁっ!?」と声が漏れる。
曜 「た、助けて梨子ちゃん!!」
梨子 「どど、どうしたの曜ちゃん…そんなに慌てて」
162 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:07:19.04 ID:GPWsP05p0
曜 「大変なんだよ…街の人が! 街の人がぁっ!」
梨子 「よ、曜ちゃん。少し落ち着いて…」
ダイヤ 「梨子さん! 少しよろしいですか?」
梨子 「ダイヤさん…?」
ダイヤ 「電話先のお相手…もしや外におられるのですか?」
梨子 「えっ、はい。曜ちゃんが駅前に」
ダイヤ 「すいません、少し貸してください!」
私の返事を待たず、ダイヤさんは私の携帯を無理やり奪い取った。
163 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:08:03.02 ID:GPWsP05p0
ダイヤ 「もしもし曜さん!? そちらの現状を教えてください!」
曜 「ダイヤさん!? いやその…街の人達が一斉に狂人化しちゃって…!」
梨子 「嘘…!」
曜 「私みたいにずっと外にいた人とかは大丈夫なんですけど、室内にいた人はみんな…!」
ダイヤ 「一斉に狂人化…? そんなことがあるわけないでしょう!」
曜 「でも本当なんです! とにかく街が今大混乱で…!」
ダイヤ 「……っ! お母様!」
ダイヤさんは私に携帯を乱暴に返し、客間へと戻って行った。私もダイヤさんに続き、部屋に戻る。
164 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:08:30.90 ID:GPWsP05p0
千歌 「梨子ちゃん…! 大変なんだよ、今沼津中で狂人化が!」
梨子 「うん。今曜ちゃんから聞いたとこ。でもどうして…」
ダイヤ 「こんな時にルビィは一体どこへ…」
梨子 「…! ルビィちゃんなら多分…。もしもし曜ちゃん?」
曜 「それが…ルビィちゃんがまだ来てないんだ。約束の時間から1時間は経ってるのに!」
ダイヤ 「そんなことありえません! ルビィは誰よりも時間に律儀です!」
165 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:09:32.94 ID:GPWsP05p0
大混乱、まさにその状態。
沼津中で狂人化が起こり、曜ちゃんは今必死で逃げ回っている。
ルビィちゃんは行方不明…もう私達は、何から手をつけたら良いのか分からなくなっていた。
梨子 「ダイヤさん…一体どうすれば…!」
ダイヤ 「そんな、こんな状況私には! お母様、一体私達は何をすれば…!」
黒澤母 「…………。」
ダイヤ 「……お母様?」
当主様は、一向に黙り込んでいた。
…やっと口を開いたと思えば、ボソボソと何かを呟きながら、客間から出ていってしまった。
166 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:10:23.62 ID:GPWsP05p0
千歌 「…? 当主さん?」
2.3分経っただろうか。
突然客間の障子が、勢いよく蹴り飛ばされた。
そこにいたのは、日本刀を携える当主様だった。
ダイヤ 「お、お母様…!?」
千歌 「や、やっぱり日本刀持ってたんじゃん!」
梨子 「当主様…!? お願いします、落ち着いて!」
私たちの言葉は届く気配すらなかった。
もう私達は、逃げることしか出来なかった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
167 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:11:10.29 ID:GPWsP05p0
梨子 「あれも狂人化ですか!?」
ダイヤ 「…おそらく。お母様は突然あのような行動をとるお方ではありません」
…必死で走っている内に街へ出た。
そこに広がっていた光景は、地獄だった。
千歌 「あれ……もしかして…死体…?」
ダイヤ 「あっ……あぁぁぁ…あぁぁ!!!」
梨子 「酷い…」
おそらく狂人化した人にやられたのだろう。
体は刃物で何回も刺されたのか、傷だらけの死体が目に見える範囲だけでも3体はあった。
168 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:12:10.11 ID:GPWsP05p0
梨子 「どうして…どうしてこんなことに…っ!」
――体に電撃が走った、そんな感覚がした。
左腕が自由に動かない。
……違う。左腕が“無い”んだ。
千歌 「…………!」
ダイヤ 「梨子さんっ!!!」
169 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:13:02.93 ID:GPWsP05p0
最後の気力を振り絞り、後ろを振り向く。
日本刀を構えた当主様がそこにいた。
私めがけて日本刀を再び振りかぶる。
梨子 (……ここまでなんだ、私)
救えなかった。
また、この街を救えなかった。
170 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:13:48.16 ID:GPWsP05p0
…………“また”?
自分の頭の中によぎったこの言葉に、とてつもない違和感を覚えた。
この言い方ではまるで、私が以前にもこの街を救えなかった経験があったみたいではないか。
梨子 「……私は、何を…」
……ひぐらしのなく声が、微かに聞こえる。
今の時期では、少し季節外れだろうか。
確か、ここに越してきた時もひぐらしが鳴いていたっけ。
171 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:14:45.51 ID:GPWsP05p0
……私はあの時、人を信じることが得意ではなかった。だから、一番信じるべき人間を疑ってしまった。あれは私の失態。
その失態が招いた惨劇…千歌ちゃんの狂人化。
そして次は…思いを口にすることが出来なかった。しっかり相手を信じていたのに、それを相手に伝えきれなかった。
その結果引き起こった惨劇…この街の終わり。
梨子 (……そっか、全部思い出した)
172 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:15:30.04 ID:GPWsP05p0
私がこの街に越してきたのは、もう3度目。
そして3回とも惨劇を食い止められなかった。
…前回私言ってたっけ。「絶対に失敗しない」って。馬鹿みたい。
梨子 (…………。)
ふと、自分の携帯が光っていることに気付く。
1時間ほど前に、果南さんからメールがあったみたいだ。
173 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:16:23.32 ID:GPWsP05p0
ダイヤ 「うぐぅっ……!」
千歌 「ダイヤさんっ!」
ダイヤさんが私を庇い、体を斬られる。
梨子 (ごめんなさい…ダイヤさん。私のせいです…わたしが何も覚えてなかったから…!)
174 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:16:58.41 ID:GPWsP05p0
――自分でも不思議だ。
私の体は、まだ諦めようとしていないらしい。
携帯を開き、果南さんのメールを確認する。
……せめて、今回がダメだとしても、“次”にヒントが残せれば。
梨子 (……ダイヤさんがくれた時間、無駄にしません!)
175 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:17:25.41 ID:GPWsP05p0
9/14 (土)15:30
From : 松浦 果南
宛先 : 高海 千歌 渡辺 曜 桜内 梨子
件名 : 気をつけて
ーー
ダイヤからメールがあったんだけど、狂人化を引き起こすウイルスが、今日突然活性化してるって噂が広がってるみたい。
情報源がわからないんだけど、用心するに越したことはないね。今日はできるだけ外に出ない方がいいかも。
あと空気清浄機はちゃんと付けておいてってダイヤが言ってたよ。
気をつけてね
176 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:17:52.18 ID:GPWsP05p0
梨子 (ウイルス…。本当にこれは、ウイルスによるものなのかな)
梨子 (なにかもっと別の…大切なことを見落としている気がしてならない…)
梨子 (でもありがとう、果南さん。)
梨子 (次の沼津は、必ず救って見せます…! だから今回は…)
梨子 (許して…ください)
最後の一撃を喰らい、私の意識は完全に闇の中へと溶け込んでいった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
177 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:18:49.08 ID:GPWsP05p0
ひぐらしのなく頃に
【神隠し編 ―完―】
178 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:19:54.40 ID:GPWsP05p0
本日はここまでとさせていただきます。
次回、最終編(回答編)です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。ぜひ最後までお付き合い下さい
179 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:06:50.02 ID:FbcA272X0
【訂正】
>>175
のメールですが、届いた時刻に誤りがありました
誤)15:30
正)17:30
180 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:12:56.12 ID:FbcA272X0
一度目なら、今度こそはと私も思う。
避けられなかった惨劇に。
二度目なら、またもかと私は呆れる。
避けられなかった惨劇に。
三度目なら、呆れを超えて苦痛となる。
そして苦痛は決意に変わる。
この街に越してくるのは、これが最後だと。
181 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:13:54.52 ID:FbcA272X0
【解き明かし編】
182 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:14:44.27 ID:FbcA272X0
〜8月26日(月)桜内家新居〜
梨子母 「梨子ー! 荷物運ぶの手伝いなさいよ!
ほとんどあなたの本でしょー!?」
梨子 「分かってるー」
ここ内浦に越してくるのは“4度目”だが、ひぐらしの声が煩く響いているのは変わらない。
荷物を運んでいると、隣家から出てきた千歌ちゃんと目が合う。…まだ向こうは私を知らないから、会釈程度でその時の挨拶は終わった。
梨子 「千歌ちゃん…」
…よし、覚えてる。全部覚えてる。
この街で過ごした3度の夏。最後に力を振り絞って見た、果南さんからのメールも。
183 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:15:27.94 ID:FbcA272X0
…ふと部屋のピアノを目にした時、狂人化した時の記憶がフラッシュバックした。
千歌 『……ぃ たぃ…ょ 梨 ……こ ちゃ……ん』
梨子 「……っ!」
梨子 「…ごめんさい、千歌ちゃん」
梨子 「今度は絶対に…失敗しないから!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
184 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:16:16.61 ID:FbcA272X0
〜8月31日(土)〜
鞠莉 「一ヶ月しか離れてなかったのに、なんだかすごく懐かしく感じるね」
ダイヤ 「はぁ…感謝してくださいよ? こんなに長い間あなたを匿っていたんですから」
鞠莉 「勿論! Thank you ダイヤ!」ギュッ!
ダイヤ 「うぅ…暑い…」
果南 「ほら鞠莉、まだ暑いんだから離れなって……ん?」
梨子 「…………。」
185 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:16:54.61 ID:FbcA272X0
鞠莉 「What? 君、何か用?」
梨子 「あっ、こんに…はじめまして」
ダイヤ 「あなた確か…夏休み明けから転入してくる」
梨子 「桜内梨子です。実はお話があって…」
果南 「話?」
梨子 「はい、私…」
梨子 「この街の呪いを解き明かしたいんです!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
186 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:17:46.89 ID:FbcA272X0
〜鞠莉の部屋〜
果南 「……本気で言ってる? それ」
梨子 「はい、本気です」
ダイヤ 「ではつまり、再来週の土曜日…街で狂人化が大量発生すると?」
梨子 「信じられないこと言ってるのは重々承知です! でも本当なんです!」
鞠莉 「ふーむ…じゃあ君は、どうしてそのことを知ってるのかな?」
梨子 「…実際に経験したから」
187 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:18:41.82 ID:FbcA272X0
果南 「経験した…? 街が滅ぶのを?」
果南さんの問いかけに、私は黙って頷く。
ダイヤ 「あなた、ふざけるのもいい加減に…!」
鞠莉 「待って、ダイヤ。もうちょっと聞いてみようよ」
ダイヤ 「鞠莉さん…?」
鞠莉 「よかったら教えてくれない? あなたが経験してきたこと」
梨子 「…もちろんです」
私は全てを話した。
この夏…3度経験した、ここ沼津での生活を。
188 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:19:09.92 ID:FbcA272X0
果南 「なんで…私のみかんのことまで知ってるの」
鞠莉 「ダイヤの妹さんのことも当たってるんでしょ? ダイヤ」
ダイヤ 「はい…そのことは門外不出であるはずなのですが」
梨子 「…私が知ってるのはここまでです」
果南 「いや、十分すぎるんじゃないかな…」
189 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:20:55.42 ID:FbcA272X0
梨子 「まだ、犯人に繋がる確たる証拠が掴めてないんです。お願いします…私に、協力していただけませんか!?」
ダイヤ 「協力…と言いましても」
果南 「私たちは何をすればいいの?」
梨子 「情報源です。ウイルスのことや、その活性化の噂を流した人を知りたいんです」
ダイヤ 「なるほど…。再来週ウイルス活性化の噂を流す人物を特定すればよろしいのですね?」
果南 「ダイヤ…協力するの?」
ダイヤ 「…私もそろそろ、内浦の怒りに振り回されるのには飽き飽きしていました。真相を知りたいのは、私も同じです」
190 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:21:33.91 ID:FbcA272X0
鞠莉 「…決まりね。私も協力するよ、梨子」
果南 「2人とも…なんでそんな簡単に」
鞠莉 「野暮なこと聞いちゃNoだよ果南」
ダイヤ 「自分を信じて欲しければ、まず相手を信じる…鞠莉さんがいつも仰っているでしょう?」
果南 「…分かったよ。私も色々調べとく」
梨子 「みなさん…ありがとうございます!」
……これで残る課題はあと2つだ。
犯人、そして神具の正体を突き止めなければ。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
191 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:22:39.40 ID:FbcA272X0
〜9月11日(水)沼津駅前〜
曜 「…でもよかった。果南ちゃんと千歌ちゃんが仲直りしてくれて」
千歌 「うん。全部梨子ちゃんのお陰だよ」
梨子 「ううん、千歌ちゃんがちゃんと自分の気持ちを伝えたからだよ」
千歌 「いやぁ…えへへぇ」
…結局、大した進展のないままこの日を迎えてしまった。タイムリミットである土曜まであと3日。
しかし今日が一番の勝負時だ。今日は、“あの子達”に会う日だから。
千歌 「…あっ、ルビィちゃん! おーい!」
ルビィ 「あれっ、千歌さん、曜さん! それと…」
192 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:23:16.86 ID:FbcA272X0
梨子 「はじめまして、桜内梨子です」
ルビィ 「あっ、お姉ちゃんから聞いてます! なんでも呪いを解き明かそうとしてるとか…」
千歌 「そうなんだよ! 私達も頑張ってるんだけど…」
曜 「神具のこととか、資料がほとんど残ってなくて…。早くも行き詰まったって感じかな」
花丸 「…あ! 梨子さーん!」
梨子 「花丸ちゃん、こんにちは」
193 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:23:51.64 ID:FbcA272X0
梨子 「花丸ちゃん、どうかな?」
花丸 「いや…それが全然。オラのとこでも資料がまだ見つからなくて」
梨子 「そっか…」
善子 「ずら丸ー? この前の話だけど…」
梨子 「…? あなたは?」
善子 「あっ…はじめまして。津島善子です」
花丸 「あれっ、ヨハネって言わないずら?」
善子 「流石に先輩相手は…」
194 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:24:33.44 ID:FbcA272X0
花丸 「善子ちゃん、オラの幼馴染みなんです。神具のことについて一緒に調べてもらってて」
梨子 「そうだったんだ。ありがとう」
善子 「いえそんな…」
花丸 「なんかここまで謙虚な善子ちゃんは違和感しかないずら」
善子 「うっ、うるさいわね!」
195 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:25:09.38 ID:FbcA272X0
千歌 「梨子ちゃーん、そろそろ行くよー?」
梨子 「あっ、うん。じゃあ二人とも、引き続き調べてもらってもいいかな? 私も色々調べるから」
花丸 「はい、任せてください!」
善子 「ふっ…これも堕天使としての運命」
梨子 「…?」
花丸 「あっ、いつものことです」
梨子 「そ、そう…」
196 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:25:37.96 ID:FbcA272X0
梨子 「じゃあ、よろしくね」
花丸 「はい、さようなら」
曜 「じゃーねー!」
ルビィ 「……あっ」
花丸 「どうしたずら? ルビィちゃん」
ルビィ 「…飴、渡しそびれたなぁって」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
197 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:26:07.94 ID:FbcA272X0
〜9月13日(金)梨子宅〜
明日…またあの日が来る。
一週間の疲れを取るため仮眠を取ろうとしたが、その考えが頭にまとわりつき、なかなか眠ることが出来ない。
そんな状態から一気に目を覚まさせてくれたのは、ある一通のメールだった。
花丸 『神具の正体がわりました! 今から私の家に来れますか!?』
梨子 「……っ!」ガバッ!
慌てて飛び出てから気付く。
花丸ちゃんの家ってどこだっけ…?
ーーーーーー
ーーーー
ーー
198 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:26:40.83 ID:FbcA272X0
〜国木田家 客間〜
梨子 「…水?」
花丸 「はい、神具の正体は水でした。通称“狂信水”」
善子 「この水を使うと、使われた人間は一時的狂気に陥り、その後無気力化する…らしいです」
梨子 「やっぱり、ウイルスなんかじゃなかった。…でもこれを犯人はどう使ったんだろう」
善子 「もし梨子さんが言う通り、街の人を全員狂人化させるとなると、全員に水を飲ませることになる」
花丸 「流石にそれは…」
199 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:27:11.80 ID:FbcA272X0
……思考を巡らせる。
1度目。私はおそらく狂人化していた。
あの時、私はそれらしき水を体に含んだだろうか? …いや、そんな記憶はない。
2度目。千歌ちゃんが狂人化したあの時。
私は狂人化しなかった。つまり1度目と変わったところに、狂人化のヒントがあはずだ。
それに、ずっと部屋にいた曜ちゃんも狂人化していなかった。その時の私と曜ちゃんの共通点は…?
3度目。当主様が狂人化した時。
駅前でルビィちゃんと待ち合わせをしていた曜ちゃんは、狂人化しなかった。だが室内にいた人々は揃って狂人化した。
200 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:27:40.49 ID:FbcA272X0
梨子 「…その水って、どのくらい摂取すると狂人化するの?」
花丸 「詳しくは書かれてないんですけど…極めて微量でも狂人化は起きるみたいです」
梨子 「……。」
曜 『私みたいにずっと外にいた人とかは大丈夫なんですけど、室内にいた人はみんな…!』
梨子 「…もし、“飲む”以外でも発症するとしたら…?」
善子 「えっ? でも水なんですから、飲む以外に摂取する方法なんて…」
201 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:28:27.46 ID:FbcA272X0
花丸 「……もしかして」
梨子 「気付いた? 花丸ちゃん」
花丸 「空気清浄機…?」
梨子 「そう。この街でよく見かける空気清浄機、あれはほとんど水式だった」
善子 「…もし、気化した狂信水を吸い込んだだけでもアウトだとしたら」
梨子 「…説明がつく。でも、それをするためには」
花丸 「前もってここら辺一体に水を供給している水道か、配水池に狂信水を混ぜ込む必要があるずら」
202 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:29:14.84 ID:FbcA272X0
梨子 「…明日の朝、一緒に出れる?」
花丸 「えっ、はい!」
善子 「どこに行くんですか?」
その時、微かな振動を体に感じた。
梨子 (ダイヤさんからのメール…やっぱり)
梨子 「…内浦の怒りを、終わらせに行くのよ」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
203 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:30:19.21 ID:FbcA272X0
〜9月14日(土)配水池〜
まだ日が昇って間もない頃。
千歌ちゃんと曜ちゃんも連れ、私たちは沼津の水道に繋がる配水池にやって来た。
…沼津一体に水が届く時間から逆算すれば、おそらくこの時間だろう。
梨子 「……やっぱり」
花丸 「…………嘘…ずら」
千歌 「なんで、ここにいるの…?」
「「「「「ルビィちゃんっ!!」」」」」
ルビィ 「…皆さん勢揃いでどうしたんですか?」
204 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:30:45.79 ID:FbcA272X0
梨子 「…ルビィちゃんは何をしてるの? こんな所で」
ルビィ 「ちょっとした散歩ですよ」
梨子 「その手に持ってる水は何?」
ルビィ 「……水分補給は大切でしょう?」
梨子 「でもそれ、ルビィちゃんは飲むつもりないよね?」
ルビィ 「…やっぱりあの時、飴渡しとくんでした」
205 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:31:26.54 ID:FbcA272X0
千歌 「ねぇ…どういうことなの梨子ちゃん。ルビィちゃんは一体…!」
梨子 「見た通りよ。内浦の怒り…その全ての原因は、ルビィちゃんよ」
曜 「嘘だよ…絶対嘘!」
梨子 「…ルビィちゃんは今日のこの時のために、色々準備をしていたんだよ。そうでしょ?」
ルビィ 「…梨子さんはどこまで知ってるんですか?」
206 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:31:53.41 ID:FbcA272X0
梨子 「まず街全体を狂人化させるためには、全員が一斉に水を摂取する必要がある。でもそれはあまりに現実的じゃない」
千歌 「じゃあウイルスの仕業って噂を広めたのって…!」
梨子 「そう、ルビィちゃんよ。みんなに空気清浄機を持たせるためにね」
ルビィ 「……。」
梨子 「そして今日…いや、正確には昨日ね」
携帯を開き、昨日ダイヤさんから受け取ったメールを開く。
207 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:32:24.42 ID:FbcA272X0
9/13 (金)18:27
From : 黒澤 ダイヤ
宛先 : 桜内 梨子
件名 : ウイルスについて
ーー
梨子さんの仰ったとおりでしたわ。
明日、狂人化ウイルスが活性化するという噂が広がっているようです。情報源は不明ですが、これだけ信用されてるとなると、地位の高い者か、専門知識のある方によるものでしょう。
お母様曰く、外出はなるべく避け、空気清浄機をつけておくようにと呼びかけるようです。
208 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:32:52.94 ID:FbcA272X0
梨子 「この噂広めたの…ルビィちゃんだよね」
善子 「確かに、黒澤家の娘の言うことなら、みんな信じるかもね」
梨子 「この話を聞いた市民は全員、空気清浄機を付けようとする。そして室内にとどまり、確実に気化した狂信水を吸い込む」
梨子 (そしてきっと…私の狂人化は)
209 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:34:02.00 ID:FbcA272X0
1度目の狂人化。
あれは恐らく、予め狂信水が塗りこまれていた飴が原因だろう。同じく飴を食べた千歌ちゃんもほぼ同タイミングで発症したことも頷ける。
2度目。
千歌ちゃんは飴によって発症。
曜ちゃんはずっと部屋にいたおかげで、空気清浄機から出る空気を吸わずに済んだのだろう。
3度目。
恐らく狂人化する早さには個人差がある。
当主様が先に発症しただけで、あの後千歌ちゃん達も同じく発症したかもしれない。
……どれにおいても、ルビィちゃんが犯人なら全ての説明がつく。
曜ちゃんとの待ち合わせに来なかったことも。
210 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:34:49.86 ID:FbcA272X0
梨子 「……ルビィちゃん、なんだよね」
ルビィ 「流石にこの現場を見られて、言い逃れはしません」
曜 「ルビィちゃん…どうして?」
鞠莉 「そんなに小原家が気に入らなかったの?」
梨子 「鞠莉さん!? それに果南さんも…」
果南 「鞠莉に呼ばれて、急いで来たんだ。千歌達が揃って出かけたから、何か怪しいって」
梨子 「ダイヤさんは…?」
鞠莉 「呼ばない方が良かったでしょ?」
梨子 「……はい」
211 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:35:23.60 ID:FbcA272X0
ルビィ 「…別に、小原家が憎かったわけじゃないです。ただルビィは、黒澤家としての役目を果たせればそれでよかったんです…!」
梨子 「黒澤家としての役目?」
ルビィ 「……ルビィは、黒澤家から捨てられたんです。ルビィが未熟だったから」
知っている…とは言わなかった。
本人の口から全て語られるのを待った。その方が、みんなにも伝わるだろうから。
ルビィ 「…ルビィは、見捨てられたんです」
千歌 「ルビィちゃん…そんなことが」
212 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:35:51.90 ID:FbcA272X0
ルビィ 「だからルビィは、黒澤家の人間として、しっかりとやるべきことをやれると証明したかったんです!」
ルビィちゃんは涙を流しながら、自分のしてきた事をすべて告白し始めた。
ルビィ 「ホテルが建ったりしたら、黒澤家は威厳を失う! お姉ちゃんもお母さんも困ってた! だから…だからぁっ!!」
梨子 「汚れ役を引き受けた…?」
ルビィ 「…建設員の人に差し入れですって…狂信水を混ぜ込んだお茶を差し出したら、怪しむ様子もなく受け取ってくれました」
213 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:36:42.85 ID:FbcA272X0
ルビィ 「事件が起きて確信しました。狂信水は本物だって…」
梨子 「狂信水は、神社で?」
ルビィ 「お姉ちゃん達の反対運動が成功しますようにって、毎日お参りに行ってたんです」
花丸 「……。」
ルビィ 「毎日通っているうちに、淡島神社についてもっと知りたくなったんだ。それで狂信水のことについて知ったんだ」
ルビィ 「本来ならすぐバレるはずでした。それでルビィだけがお咎めをくらって…でも黒澤家は威厳を保つことが出来る。それで良かったはずなのに!」
千歌 「一向に事件は解決せず、疑いは黒澤家全体に及んだ…。私のところにも」
214 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:37:11.31 ID:FbcA272X0
ルビィ 「訳の分からない呪いなんかの話まで出始めて…お姉ちゃん達が疑われて! 耐えられなかった…!」
曜 「……。」
ルビィ 「ホテル建設が中止になっても、足がつくようにわざと狂人化を起こし続けた。それでもルビィが捕まることはありませんでした」
ルビィ 「それで思ったんです。黒澤家は、本当にこんな街を守る必要があるのかなって」
ルビィ 「こんなにわかりやすい犯行を繰り返してるのに、私にたどり着かないってことは、街の人たちは本気で街のことを心配してないってことですよね?」
215 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:37:37.83 ID:FbcA272X0
ルビィ 「何も生みやしないいじめや嫌がらせだけを続ける人たちに嫌気が差したんです。だから、すべて終わらせようと…」
梨子 「…そうだよね、確かにそうかも」
千歌 「梨子ちゃん?」
梨子 「人は誰だって完璧じゃないし、失敗だってするよ。絶対に次は大丈夫って思ってもダメなときだってある」
ルビィ 「じゃあ…!」
梨子 「でもね、だから学べることもあるの」
216 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:38:24.15 ID:FbcA272X0
鞠莉 「…私はね、いじめを受けて分かった。この街の人は、本当にこの街が好きなんだなって」
ルビィ 「鞠莉さん…」
鞠莉 「今まで反対を押し切って開発を進めたことは何度かあったけど…こんなに熱いハートを感じたのは初めてだったよ」
果南 「…私も、梨子のお陰で人を信じることの大切さを学べたんだ」
梨子 「果南さん…」
217 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:39:13.74 ID:FbcA272X0
梨子 「ルビィちゃん、もうちょっとだけ、みんなを信じてみない?」
ルビィ 「信じる…ですか…?」
梨子 「うん、きっとみんな、まだ学んでる途中なんだよ」
花丸 「……帰ろ、ルビィちゃん」
花丸ちゃんがルビィちゃんに手を差し出す。
ルビィちゃんの目はいつの間にか、狂気的なものから、いつもの可愛らしい目に戻っていた。
ルビィ 「でもルビィ…帰るところなんて」
「それは違いますわっ!!!」
218 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:40:02.40 ID:FbcA272X0
果南 「……ダイヤ?」
鞠莉 「どうして、ここが…?」
ダイヤ 「私に隠し事など10年早いですわ、みなさん」
ルビィ 「お姉ちゃん…」
ダイヤ 「ルビィ…さっきの話、すべて聞いてましたよ」
ルビィ 「お姉ちゃん…。 ルビィ、頑張ったんだよ? 私も黒澤家の1人だってことを…」
ダイヤ 「ぶっぶーーーっ!!! ですわっ!!」
ルビィ 「ぴぎぃっ!?」
219 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:40:44.63 ID:FbcA272X0
ダイヤ 「何を言っているのですかっ! ルビィはれっきとした、黒澤家の一員です!!」
ルビィ 「でっ…でも…っ!」
ダイヤ 「…黒澤家に疑いが向いた時、あなた相当思いつめていたでしょう?」
ルビィ 「だって…元々私のせいなのに…!」
ダイヤ 「お母様はそんなあなたを見て、一度黒澤家という肩書きを外してあげようと提案したのです」
ルビィ 「えっ…それって…」
220 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:41:24.91 ID:FbcA272X0
ダイヤ 「あなたに責任を、欠片でも背負わせたくなかったのです。ですからお母様は、ルビィを1度自由にさせようとしたのです」
ルビィ 「でも…ルビィは…!」
ダイヤ 「本当のことを言っても、あなたは拒否するでしょう? …ルビィは、優しい子ですから」
ルビィ 「お姉ちゃん…」
ダイヤ 「ルビィ、あなたがしたことは間違っています。ですが…またやり直せばいいんです。次からはみんなを、信じられるように」
221 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:42:24.69 ID:FbcA272X0
ダイヤ 「…帰りましょう、ルビィ」
ルビィ 「お姉ちゃん…私…帰って……いいの?」
ダイヤ 「自分の家に帰って、文句を言う人がどこにいますか?」
ルビィちゃんは目を潤わせ、私たちに目をやる。私たちはそっと微笑むことしか出来なかった。……でも、それで十分だった。
ルビィ 「お姉ちゃん…ひぐぅっ…! お姉ちゃぁぁんっっ!!!」
ダイヤさんに泣きながら抱きつく。
ルビィちゃんの落とした容器から狂信水が漏れ、土へと染み込んでいく。
朝日の光が、私たちを眩しく照らし続けていた
ーーーーーー
ーーーー
ーー
222 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:43:16.79 ID:FbcA272X0
〜翌日〜
昨日の活性化で、ウイルスはその効力を失い消滅…狂人化が起きることはもう無い。
この噂が広まるのに、そう時間はかからなかった。時期黒澤家当主までもがその噂を広めているとなれば、至極当然のことであった。
千歌 「一件落着…なのかなぁ」
梨子 「多分…ね。私たちが人を信じていられる限りは大丈夫」
曜 「……気がかりなのは鞠莉さんと果南ちゃんだね。狂人化がもう起きないとは言え、いじめはそうそう無くならないだろうし」
梨子 「ダイヤさんもこれからは積極的に介入していくみたい。取締も強化するって」
223 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:43:43.75 ID:FbcA272X0
千歌 「そうだ! 鞠莉さんや果南ちゃんがみんなに見直されるようなことをすればいいんだよ!」
曜 「……というと?」
千歌 「部活だよ! 一緒に協力してなにか功績を残せば、きっとみんなも…」
梨子 「何をやるか決まってるの?」
千歌 「まだ!」
梨子 「そんなことだろうと思った…」
224 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:44:09.69 ID:FbcA272X0
曜 「…でも、私も協力するよ!」
梨子 「もちろん私も。一緒に頑張ろ?」
千歌 「うん! じゃあ色々調べよ!」
千歌ちゃんは張り切ってパソコンを弄り出す。
今日からの日々を生きるのは私も初めて…これから何が起こるのか分からないが、きっといい方向に行くだろう。
225 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:44:48.94 ID:FbcA272X0
ひぐらしのなく声は、もう聞こえない。
来年…またひぐらしのなく頃。私達は一体、どんな人生を送っているのだろうか。
…きっと、いい未来が待ってるよね。
今の私たちなら、きっと。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
226 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:45:33.85 ID:FbcA272X0
ひぐらしのなく頃に
【解き明かし編 ―完―】
227 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:48:06.60 ID:FbcA272X0
これにて 梨子 「ひぐらしのなく頃に」
完結となります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
【過去作】
ことり 「私の来世!?」
真姫 「歌に捧ぐ、私の未来」
鞠莉 「殺人鬼 果南」
善子 「私たち、友達よね?」 曜 「こんなの友達じゃないッ!」
228 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/13(水) 22:48:47.67 ID:FbcA272X0
トリップキーは【#うみねこ】です。
名前欄に #うみねこ と入力することで書き込みができるようになります。
感想などございましたら、是非宜しくお願いします
229 :
◆bx6hWDVQmQ
[sage]:2017/09/13(水) 22:49:53.82 ID:B293ZUQFO
えっ?これで終わりとか言わないよな?
230 :
◆bx6hWDVQmQ
[sage]:2017/09/13(水) 22:51:34.34 ID:AA0Uz7in0
面白かったわ
ただ描写薄かったせいか推理ができんかったかな
231 :
◆bx6hWDVQmQ
[sage]:2017/09/13(水) 22:53:21.01 ID:2fFVJD3FO
ルビィにどうやってたどり着けるんだろう 証拠が皆無
というか飴を舐めてから発症までの時間、空気清浄機のスイッチを入れてからの発症の時間
その辺が曖昧で何とも言えない
232 :
◆bx6hWDVQmQ
[sage]:2017/09/13(水) 22:54:20.63 ID:RyP9bY9K0
また書いて
233 :
◆bx6hWDVQmQ
[sage]:2017/09/13(水) 23:09:04.76 ID:6NJK96nu0
世奇妙の人だったのか
乙
234 :
◆bx6hWDVQmQ
[sage]:2017/09/14(木) 01:12:40.92 ID:RcfUbAUSO
暇潰し編はよ
235 :
◆bx6hWDVQmQ
[sage]:2017/09/14(木) 23:33:26.26 ID:lD57l4r8O
>>1
グロ
死ぬだけじゃない
236 :
◆bx6hWDVQmQ
[sage]:2017/10/24(火) 02:54:10.73 ID:I04mK6Igo
ルビィの処置が甘すぎないか
108.11 KB
Speed:0
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
新着レスを表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)