晩夏にほどける

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1 : ◆K5gei8GTyk [saga]:2017/08/24(木) 22:05:11.62 ID:fLR/Lwcb0
一次創作です。
方言を多用しています。わからなければ適宜聞いてやってください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1503579911
2 : ◆K5gei8GTyk [saga]:2017/08/24(木) 22:06:09.86 ID:fLR/Lwcb0
 八月も暮れだというのに、路地には不快なほどの熱気が立ち込めている。

 夕方に降った雨が湿らせた裏通りを歩く彼女は、その後ろ姿だけでも絵になる雰囲気を備えている。
 うんざりとする暑気の中でさえ、むしろ涼やかな感があった。

 相当なうわばみだということを知ってはいる。
 しかし、ついさっきまで居酒屋であれだけ飲んでいたにも関わらず、酔った気配をまるで見せていないことには驚かされた。
 たとえそれが、毎度のこととはいえ。

 なんとはなしに、彼女の歩調に合わさって長い黒髪が滑らかに揺れているのを眺めていると、急に彼女が立ち止まった。右に倣っておれも足を止める。
3 : ◆K5gei8GTyk [saga]:2017/08/24(木) 22:06:42.53 ID:fLR/Lwcb0
「そや、夏目君」

 彼女が振り返って、のびやかな声音でおれの名前を呼ぶ。

「なんでしょう」

「きみ、ご実家は京都やったと?」

「そうですけど、それがどないかしはったんですか?」


「別にどないもしまへんよう」

 おれの口調を真似て、薄く微笑む。

「お盆は帰省しよる?」
4 : ◆K5gei8GTyk [saga]:2017/08/24(木) 22:08:13.13 ID:fLR/Lwcb0
 街灯や店先の乏しい光の下では、彼女の表情の委細までたしかめることはできない。
 でも彼女のその立ち姿は心なしか儚げに見えた。

「いや、今年はやめとこかなって思ってます」

「ふうん」

「先輩は帰らはるんですか?」

 彼女の名を千夏さんという。同じサークルに所属している先輩で、一つ歳上だった。
 いつも落ち着いていて、あまり前に出るようなタイプではないけど、優しい人だった。
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