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恭介「来ヶ谷を見つけたぞ」理樹「……」
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24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/31(木) 22:17:26.17 ID:gJVaJKol0
理樹(来ヶ谷さんが案内してくれたのはひと家族は住める一軒家だった。東京だとマンションでも高いと聞くがこんな家だといったいいくらするんだろう?僕が目を大きくしているとそれを見た来ヶ谷さんが心を読んだように言った)
来ヶ谷「うちの両親は過保護なんだ。ここまで広いとむしろ孤独を煽るようなものだが。さあ、入りたまえ」
理樹(中は恭介と違って綺麗に整頓されていた。玄関の先の廊下はピカピカで覗き込むと僕の顔が映るんじゃないかというほどだった。居間に入ると、60インチくらいのテレビの横の棚にずらりと映画の名作が並んでおり、キッチンの冷蔵庫なんかは僕の部屋の半分を占めるんじゃないかってほど大きかった。他にもふかふかのソファーやオシャレなインテリアなど、僕を驚嘆させるものばかりがそこにはあった)
理樹「なんだか至れりつくせりって感じだ」
理樹(思わず声に出てしまった)
来ヶ谷「これも君らが買ったチケットのお陰だよ。まあ、中には実家から引っ張ってきたのも多いがね」
理樹「ふうん……」
来ヶ谷「先にシャワーを浴びさせてもらうよ」
理樹「うん……あっ」
理樹(彼女がシャワールームに行ってからやっと気付いたことがある。携帯の電源を入れ直すことだ。ホールで静かにするためずっと消していたのをすっかり忘れていた。画面が映ると、案の定、着信履歴とメールが大量に届いていた。誰からかは見るまでもない。恐る恐る最後のメールの内容を見てみた)
『今たった一人で自宅にいる。もしまだ外のどこかにいるなら連絡をくれ。一時間探し回った足を引きずって急いでそこに向かう』
理樹「……………」
理樹(急いで名前を伏せて人の家に泊まっていることと心配させたことを謝る旨を返信すると、その数秒後に返事が来た)
『そういうことか!ならしょうがねえな!じゃ、お邪魔虫はこれくらいにしておくぜ☆』
理樹「ば、バレてる……」
理樹(あまり知られたくはなかったが恭介の察しが良すぎるお陰で機嫌も治ってくれたようだ。そうこうしているうちに来ヶ谷さんが浴衣姿で出てきた)
来ヶ谷「着替えは父の物だが浴衣を用意してあるよ」
理樹「……ありがとう」
理樹(理由は分からないが何故かその言葉に凄く安堵を覚えた)
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/31(木) 22:36:19.67 ID:gJVaJKol0
理樹(熱いシャワーを浴びてから居間に戻ると、綺麗な音が流れていた。来ヶ谷さんがソファに座ってテレビで自分がピアノを弾いている姿を見ていたのだ)
理樹「これいつの?」
来ヶ谷「初めて東京で開いた公演だ。この時の事はよく覚えてるよ」
理科「相変わらず素敵だね」
来ヶ谷「……ありがとう」
理樹「この時もリトルバスターズの誰にも言わなかったの?」
来ヶ谷「まあな」
理樹「誘ったら絶対言ったのに」
理樹(その時、初めて来ヶ谷が僕の方に向き直った)
来ヶ谷「君が私だったら?」
理樹「えっ……」
来ヶ谷「その時、君が私だったら誘ったか?」
理樹「…………」
理樹「……いや、誘わなかったと思う」
理樹(来ヶ谷さんはまたテレビに顔を戻した)
来ヶ谷「リトルバスターズの誰か一人でも誘ったら、その誰かは必ず気を利かせて君に言っただろう。となれば君を直接誘うのと同じだ。……まだそんな気分になれなかったのさ」
理樹「ごめん」
来ヶ谷「謝らなくていい。あくまでその時の話、もう昔のことだよ。さあ隣に座りたまえ」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/31(木) 23:12:31.67 ID:gJVaJKol0
理樹(その来ヶ谷さんのピアノは今日のとは少し違って、全体的に大人しいイメージだったが、決して飽きさせず聴く人の一番良い思い出を蘇らせるような気分にさせる演奏だった)
来ヶ谷「どうせなら全員の予定が空いた日にまた招待しよう」
理樹「いいねそれ」
理樹(場面が変わり、来ヶ谷さんともう一人の演奏者が並んで挨拶するところで彼女は僕に近づき画面に指差した)
来ヶ谷「あの私の隣にいる人は今でも交流があってね。とても人間的に尊敬するところが多い人だよ」
理樹(そのまた乾ききっていない髪が僕の肩に触った時、彼女の良い匂いが鼻をくすぐった。そしてつい、ここに来るまでずっと忘れようとしていた”彼女に恋していた”という過去を完全に思い出してしまった)
理樹「…………」
来ヶ谷「……どうした?」
理樹(ぎゅっと目を瞑って冷静になろうとしても到底それは叶わず、心臓の鼓動がどんどん激しくなってきた。むしろ良くここまで持ったというべきか)
理樹「来ヶ谷さん。なんだって僕は馬鹿なんだろう。こんな気持ちを最初から思い出せたなら……」
理樹(完全に来ヶ谷さんの不意をついた。自分でまったく考えずに行動したのだから当たり前だ。僕は彼女にキスをした。とても長く、抱擁しながら。そこまでしてやっと自分がやってる事を自覚した。でも、撤回するには遅すぎる)
来ヶ谷「………っ」
理樹(来ヶ谷さんは抵抗しなかった。かといって僕と同じ気持ちかどうかは分からないが。しかし、未熟な僕はそこからもう止まることは出来なかった。最後まで)
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/31(木) 23:40:24.05 ID:gJVaJKol0
・・・
理樹(朝、起きあがって部屋を見渡して少しづつ昨日のことを思い出した。すると横で寝ていた来ヶ谷さんも起こしてしまったようで、寝返りを打ち、僕を見つめた)
理樹「……来ヶ谷さん。もし、君が良かったらまた……」
理樹(その言葉の続きは次の言葉で遮られた)
来ヶ谷「さっき、昔の夢を見た。花を摘んで持ち帰ったが、すぐに枯れてボロボロになった時のことだ。とても後悔したのを覚えている。……もう行ってくれ。昨日の夜は我々のちょっとした夢なんだ。もう君の求める物はここにはないよ」
理樹「で、でも……」
来ヶ谷「”恋はまことに影法師、いくら追っても逃げていく。こちらが逃げれば追ってきて、こちらが追えば逃げていく”」
理樹「…………」
理樹「……そうか、最初からその気はないってことだね」
理樹(昨日の事は僕のわがままに乗ってくれただけなんだ。そのことに気がつくとふっと力が抜けた。昨夜、キスしたあの時から暴走していたのは僕一人だった)
来ヶ谷「………」
理樹「……もう行くよ」
来ヶ谷「ああ……」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:35:26.13 ID:YoTKRd/f0
・・・
理樹(あれから1年と半分が過ぎた。冬が到来し、そろそろ本気で働く先を見つけなきゃいけない。それ以外に変わったことはほとんどなく、唯一あるとすれば来ヶ谷さんと交代するように皆との交友をあまりしなくなったことだろうか。あれから恭介や鈴もたまに来ヶ谷さんのコンサートに行っているらしい。恭介は気を使ってか、最初の方に比べてあまり誘おうとはしなくなった。それが今はとてもありがたい)
理樹(テレビを付けた。今はちょうど番組が変わる間だからくだらないCMばかりが写っていた。いや、CMどころか今の僕に対して興味のあるものなんてないのかもしれない。単位を落とさない程度に出席し、予算を考えてスーパーで買い物して洗濯物を洗う毎日。全てが灰色に見えた。昔を懐かしがるほど歳をとった訳でもないはずなのに高校の頃の僕が凄く羨ましく感じる)
理樹(その時、チャイムが鳴った。もし、そのドアの前にリトルバスターズの誰かが立っていたなら……そう願ったが、実際は大家さんが家賃の催促に来ただけだった。支払いを済ませ、ベッドに横たわった。壁の汚れを見つめながら、これから自分は何をすれば良い人生になるのか考えた。色々思いつくものを心の中で出し尽くしたが、結局それらは全部付け焼き刃にしかなりそうにない。人はそういう時、決まって一つの事を言うが、今の僕にそれは難しい。まさに万事休すといったところか)
理樹(このまま人生の末路を考えつく前に、なんとしてでも気分転換をしなければならなかった。重い身体を起こし、ゲーム機を取り出したが、電源を入れてすぐに消した。もうやり尽くしたことをすっかり忘れていた)
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:47:19.25 ID:YoTKRd/f0
理樹(外に出て散歩をしてみたが、この街の風景もすっかり見飽きてしまった。なにか嫌ことがあるたび普段行かないところまで冒険したものだが、それにはこの町は少し狭過ぎた。とりあえずコンビニで立ち読みして家に帰ったが、いかんせんなにもする事がない。まさか長期休暇がここまで苦痛になるとは思わなかった)
理樹「…………」
理樹(このままつまらない人生で終わるかと思うと、一層気分が沈んだ。この現状を誰かのせいに出来ればまだましだったかもしれないが、生憎すべて自分の行いが原因だった。せめて憂さ晴らしになればと友達が遊びに来た時、残していった酒を冷蔵庫から取り出した。下戸なのは承知だが、無理矢理にでも酔いたい。そう思って蓋を開けた時、消し忘れていたテレビからピアノの音が聞こえた)
『〜〜〜♪』
理樹「…………」
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 01:09:58.65 ID:YoTKRd/f0
理樹(彼女の音だった。繊細でいて、時に聴くものを引っ張りあげるほど情熱な旋律。だが、僕の気を引いたのはそれだけじゃなかった。引いている曲だった。その曲は僕自身、一度も聴いたことがなかった。しかし、ずっと昔に聴いた感覚だけはある。既知感だとかそういう類のものではない。僕はこれを確かに一度聴いたことがある)
『♪…………』
理樹「……………」
理樹(画面では確かに来ヶ谷さんが弾いていた。どうやら何かの番組の企画で弾いているようだった。その演奏が終わると、テレビでたまに見る顔の司会者が来ヶ谷さんにマイクを向けた)
『いや〜美しい曲でしたねぇ!これを弾くのはテレビ初だとか?』
来ヶ谷『ええ。夢の中では一度だけ友人にむかって弾きましたがね』
理樹「!」
『あはは!そりゃなかなかロマンチックなエピソードですね。さあ、それでは続きまして……』
理樹(これからも来ヶ谷さんのシーンは回ってくるだろう。だけど、それを聴いている暇はなかった。全てを思い出したからだ。僕と彼女が恋した”本当”に最初のきっかけを)
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 01:26:07.21 ID:YoTKRd/f0
理樹(我に帰った時にはまた東京にいた。何も用意せず、ポケットには財布だけ。ここまでほぼ無意識のうちに行動するなんて普通ならあり得ないが、僕はそれほどまでに、ただ彼女に会いたかった。とても彼女を愛しているんだ)
理樹(うろ覚えの記憶を必死に辿り、来ヶ谷さんの家に向かった。もしかしたら行ったところで彼女の事だしもう引っ越していたりするかもしれない。そこに住んでいたとしてまだ帰ってないかもしれない。でも、頭の中には行く以外、選択肢はなかった)
理樹(バスで周辺に着き、タクシーで地図を塗りつぶすように回り、遂に見覚えのある場所を見つけた。そしてとうとう来ヶ谷さんに案内された家の前に着いた。表札には確かに来ヶ谷の文字があった。ドアの前に立った。ここまでフリスビーを追いかける犬のように来た僕もチャイムを押すのには少し躊躇した。そして勇気を振り絞り手を上げたその時、向こうからドアが開いた)
来ヶ谷「…………」
理樹「あ………」
来ヶ谷「………来たか、理樹君」
理樹(来ヶ谷さんはニコリと笑った。会いたいとは思ったが、会ってから彼女になんと言うかは考えていなかった。しかし結局考えていたところで何も言えなかっただろう。その腕に抱えられた赤ん坊を見てしまっていたなら)
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 01:44:27.41 ID:YoTKRd/f0
来ヶ谷「久しぶりだな」
理樹「………ああ、うん……」
理樹(なんとか息を整えて次の言葉を発しようとしていると、玄関の方から20代半ば程度の男の人が現れた)
「あ、お知り合いかな?」
来ヶ谷「そうだ。紹介しよう。こちらは直枝理樹、学生の頃からの友人だ」
「よろしく直枝君」
理樹「……よろしくお願いします」
「ははっ、そんな気を使わなくていいよ!」
来ヶ谷「で、こっちが……」
理樹(来ヶ谷さんが名前を言いかけた時、後ろからパタパタと走る音が聞こえた)
「ごめんなさーい!遅れちゃったわ!もう行かないとまずいわよね!?」
理樹(来ヶ谷さんの後ろから長髪の女性が飛び出してきた)
「おっと、もうそんな時間か!?すまない、紹介はまた今度にしてくれ」
来ヶ谷「おや、そうか?ではこちらのお姫様はそろそろ返す時が来たようだな」
「うふふっ、ごめんなさいね三日も預けて。今度絶対に埋め合わせするから!」
理樹(そう言って来ヶ谷さんは大事そうに抱えていた赤ん坊をその女性の腕に慎重に載せた)
来ヶ谷「構わんさ。それじゃまた週末に会おう」
「そうだな。それじゃさようなら二人とも」
「またね〜!」
理樹(そのまま名も知らぬ二人と赤ん坊は側に止めてあった車に乗って急いで去っていった)
理樹「………今のは?」
来ヶ谷「ああ。二人ともどうしても避けられない仕事が重なってな。ちょうど暇になっていた私があの赤ちゃんの世話をしていたと言うことだ」
理樹「……ああ……」
理樹(僕は最もらしいという風に頭を振った)
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 02:04:11.43 ID:YoTKRd/f0
来ヶ谷「……ふふ。本当に久しぶりだな」
理樹「うん。あの時以来だ」
来ヶ谷「ところで、そんなに息を切らせて何の用で来たんだ?」
理樹(今度こそ何と言うのかちゃんと考える時だった。しかし、思いの外その言葉はスッと出てきた。きっと三日三晩くらい考えても同じ言葉になっただろう)
理樹「僕と結婚してください」
来ヶ谷「………」
理樹「………」
来ヶ谷「ふっふっふっ……」
理樹「………」
来ヶ谷「………本当のことを言うと、あの曲を弾いた時、君が聴いているかどうか不安だった。でもやっぱり君は来た。おそらくその曲を弾いている私を見て」
理樹「………」
来ヶ谷「あの時、私が君にあんなことを言ったのは同じ事を繰り返すのが嫌だったからだ。だから君を試したんだ。もう二度と来るなと言うほど拒絶して、それでもまだここに来るようなら……ってね。どこかのお偉いさんならあと一度は断るが、しょうがないから私は今回で折れておこう」
来ヶ谷「私でよければ是非、よろしくお願いします」
理樹(全身に力がこみ上がってきた。それまで灰色だった僕の全てが突然、雲ひとつない大空のように透き通った輝きを放った。それと同時に血流が激しくなりすぎて手が異常なほど痺れてきた。それが、とても幸せを実感させた)
来ヶ谷「ふふっ、何を突っ立ってるんだ?外は寒い。とりあえず中に入りたまえ」
終わり(∵)
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 02:08:41.21 ID:YoTKRd/f0
気がつけばもう5日も経ってたのか!?申し訳ねえ!
>>23
まだそんなこと覚えてくれてるのかよ!
一応日記みたいなのはあるけど細かいこと覚えてないからなー
またどこか行った時に描くわ
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/01(金) 10:25:42.67 ID:Ns9wVihgo
来ヶ谷視点とか読んでみたい。交流してなかった期間とかも
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/02(土) 00:26:24.16 ID:jnHRti3u0
それは想像に任せる
次は久々にただの安価スレやるか
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/02(土) 01:23:03.85 ID:qGuFC8Geo
残念だ……
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クオリティの高いサービスを貴方に
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