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少女「17の誕生日に死ぬ計画を立てたの」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 03:54:56.24 ID:xJmjbfjE0
死にたがりの少女と、
生きたがりの老人のお話
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1503082495
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 03:58:28.13 ID:xJmjbfjE0
コンコン
老人「どうぞ」
少女「失礼します」
少女「……あら?」
少女「あなた、‟オールド?」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 04:04:06.44 ID:xJmjbfjE0
老人「確かにそうだが、それをいきなり聞いてきたぶしつけな奴は初めてだな」
老人「さて、当施設にようこそ。俺はここの管理人だ。用務員といってもいい。とにかくここの雑用役全般を住み込みで受け持っている」
老人「知っての通り、ここは自逝を希望した人が来る場所だ」
老人「自逝を実施するには、この施設で一週間の静養と自己省察のあと......」
少女「そんなこと分かってるから、さっさと部屋の鍵頂戴よ」
老人「決まりだ。聞きなさい」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 04:12:59.90 ID:xJmjbfjE0
老人「……自己省察の後、自逝を行うかの判断をすることができる」
老人「自逝は国に保証された個人の権利であり、自逝を希望する者は国の施設において無償で安楽死のサポートを受けることができる」
老人「この自逝権については数十年前に開発された不老処置技術に並行して提唱されたものであり、」
老人「老衰死がなくなり、病死や事故死の率も不老処置によって下がり、平均寿命が格段に延びた今、」
老人「各個人により自由な人生設計を可能にするために実現された権利だ」
少女「分かってるってそんなこと。要は体のいい口減らしでしょ?」
老人「黙って聞きなさい。これを説明するまであんたに自由行動をさせられんのだから」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 04:39:54.42 ID:xJmjbfjE0
老人「で、だ。あらゆる国民には自逝を行う権利がある。未成年の場合は保護者の同意を得た場合に限り」
老人「ただし、自逝を希望したものは国指定の施設で、一週間の生活が義務付けられる」
老人「サナトリウムとか、療養所とか呼ばれている施設のことだな」
少女「あと墓場とかインスタント天国とかも呼ばれてるね」
老人「……自逝希望者は一週間の静養のあと、実際に自逝するかどうかを決定するわけだ」
老人「この施設には専門の医者やカウンセラーが揃っているし、気晴らしのアクティビティにも事欠かない」
老人「図書や音楽、映画もそろっているし、テニスもハイキングもゴルフも水泳もできる」
老人「医師との面談時間や食事時間、あと医師から禁止された事項を除けば、基本的に何をやっても自由だ」
老人「よほど目に余る場合にはこちらから口を出すこともあるかもしれんが」
老人「以上で説明は終了。あとは一旦部屋に荷物を置いてから、医師とカウンセラーの面談に向かうこと」
老人「何か質問はあるか?」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 04:45:46.40 ID:xJmjbfjE0
少女「質問があります」
老人「なんだ」」
少女「あなた、どうして"オールド"なの?」
老人「質問は当施設に関することに限る」
少女「あなたが若いころにはもう不老処置は実用化されてたでしょ? どうして受けなかったの? そういうポリシー?」
老人「しつこいなあんた」
少女「分からないのよ。老いって、つまり自分の性能や価値が日々目減りしていくことだと思うんだけど、そんなのを思い知らされるのはどんな気持ちなの?」
老人「鍵、渡さんぞ」
少女「ちぇ」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 04:52:00.04 ID:xJmjbfjE0
老人「はい、部屋の鍵。晩飯は18時から、風呂は大浴場がいつでも入れる。あとは医師の指示に従うこと」
少女「了解しました」
老人「じゃあ部屋に行きなさい。お疲れさま」
少女「ありがとうございます。……」
老人「どうかしたか?」
少女「管理人さん、また後で話聞かせてね!」
老人「断る。それに話すことはないよ。俺はただの管理人だからな」
少女「いけずー」
老人「早く部屋に行きなさい」
少女「はーい」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 04:57:32.64 ID:xJmjbfjE0
老人「変な娘だな」
老人「溌剌としている。生気に溢れている。生活に疲れてもないし、何かに絶望したようにも見えん」
老人「あんな子が自逝したがるのか。いよいよ世間がおかしくなってきてるんじゃないのか?」
老人「俺には分からん。生きているだけでも儲けものだろうに」
老人「……」
老人「まったく、どいつもこいつも馬鹿なんじゃないか」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 09:33:01.90 ID:xJmjbfjE0
〜二日目〜
少女「こんにちは、管理人さん!」
老人「……」
少女「なにされてるんですか?」
老人「何をしている様に見える」
少女「花壇の手入れ?」
老人「その通りだ」
少女「ねね、昨日も聞いたけど、なんで不老処置を受けなかったの?」
老人「答える義理はない」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 09:37:31.44 ID:xJmjbfjE0
少女「そこをなんとか、カウンセリングの一種だと思って!」
老人「俺はカウンセラーじゃない」
少女「あなたが老いの、成熟の素晴らしさを私に教えてくれれば、未来ある若者の命を一つ救えるかもしれないよ?」
老人「…………」
少女「もしかして怒ってる?」
老人「多少な」
老人「命をドブに捨てようとしてる馬鹿なガキの相手なんぞ、俺はしたくないんだ」
老人「特にお前みたいなふざけた小娘の相手はな」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 09:42:51.96 ID:xJmjbfjE0
少女「わかりました、いきなりプライベートな事情に踏み込んでしまって申し訳ありません」
少女「まずは、私のプライベートな事情を話すところから始めましょう」
老人「そういう問題じゃない」
少女「私はね、本当に老いたくないんです」
少女「だからね、17の誕生日に死ぬ計画を立てたの」
少女「若くて美しいまま、私は終わるの」
少女「それが五日後。この施設に来てちょうど一週間になる日」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 09:48:19.38 ID:xJmjbfjE0
老人「不老処置があるだろう。17じゃ駄目だが、20歳になれば受けられる」
老人「17歳から20歳への時間経過は老いではない、成長だ」
老人「20歳なら十分に若い」
老人「それにお前は、きっと20歳になった時の方が美人になっている」
少女「あら嬉しい、お世辞を言ってくださるなんて」
少女「でもね、嫌なの」
少女「私の嫌なのは、肉体の老いじゃなくて、心の老いの方なの」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 09:54:55.44 ID:xJmjbfjE0
老人「はあ」
少女「そうじゃない? 誰も彼も、若いのは見た目だけ。中身は潤いを失ってる」
少女「うちの親なんて特にそうだったの」
少女「いつも忙しそうにせかせかせかせか、気にするのは世間体ばかり」
少女「とうの昔に失くしちゃってるのよ。例えば夕陽を見て泣きたくなるような瞬間を」
少女「立派な大人になるために、感性を鈍らせていかなきゃならないのなら」
少女「私は大人になるなんてごめんだわ」
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 10:00:54.74 ID:xJmjbfjE0
老人「大層立派なお考えだ」
少女「あなたには分からないでしょうね、心が渇ききっているように見えるもの」
少女「ねえ、どうなの? 年を取って、失うものよりも多く、何かを得た?」
少女「経験とか知識とか人脈とかは私は要らないわ、興味がないもの」
老人「……俺には特に嫌いな人間が三種類いる」
老人「一つはたいした理由もなく死にたがるやつ」
老人「もう一つは、訳知り顔でご高説を垂れるやつ」
老人「最後に、ガキだ」
少女「……」
老人「三連勝だ、おめでとう」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 10:07:26.10 ID:xJmjbfjE0
老人「俺が"オールド"になった理由を教えてやる」
老人「刑務所に入っていたからだ」
老人「強盗、傷害、それから殺人」
少女「…………それは、どうして」
老人「俺がそういう人間だからだよ」
老人「失せろ。自逝よりも早くあの世に送ってやろうか」
少女「……わかった。失礼します」
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 10:08:57.00 ID:xJmjbfjE0
老人「…………」
老人「クソッ。なんなんだあのガキは!」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2017/08/19(土) 10:14:49.68 ID:xJmjbfjE0
〜三日目〜
老人(窓吹き)
老人(この階を終わるので午前いっぱいかかりそうだな)
老人(残りの二階一階は明日に回すか、かったるい)
老人(……おや、あの小娘)
老人(散歩中か。あんな何にもない裏山の方法を)
老人(いや、一つだけ建物があったか)
老人(あそこ、鍵を開けていたっけな)
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/19(土) 10:19:53.36 ID:xJmjbfjE0
少女(図書館にこもって適当に本を漁るのにも飽きたし)
少女(適当にぶらついてみたら、なにかしらこの厳かで奇妙な建物は)
少女「教会というか、お寺というか」
老人「慰霊堂だ」
少女「わっ!!」
老人「和風とも洋風とも取れるような設計にした結果、こんな中途半端なデザインになったそうだ」
少女「……管理人さん」
老人「待ってろ、今鍵を開ける」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 10:26:39.48 ID:xJmjbfjE0
少女「……すごく埃っぽい」
老人「長らく誰も入らなかったからな」
老人「自分が死のうかどうかという時期に、先の自逝者を悼む奴なんていない」
老人「だからずっと閉鎖しっぱなしだった」
少女(横長の椅子が2列並んでいる。内装は教会のように見える。そして一番奥に祭壇がある)
少女(祭壇の両隣にずらりと飾られているのは)
少女「一輪挿し?」
少女「しかも、あんなにいっぱい」
老人「造花だ」
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 10:30:46.28 ID:xJmjbfjE0
少女「ねえ、ここ、自逝者のための慰霊堂って言ったわよね?」
老人「ああ」
少女「よし」
少女「決めました」
少女「残りの日数で、私はここをピカピカにしましょう」
老人「はあ?」
少女「だってそうでしょ? 死者のための神聖な場所は、ちゃんとキレイじゃないと」
老人「そうかな」
少女「そうです」
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 10:36:11.37 ID:xJmjbfjE0
少女「そうと決まれば、管理人さん、掃除道具を貸してください」
老人「俺が言うのもなんだが、お前、そんな過ごし方で良いのか?」
少女「もちろん。暇で暇で仕方ないから、何か社会に貢献したいのです」
少女「私の魂もいずれここで眠るのだから、自分のためもなって一石二鳥」
少女「あ、今のちょっとしたブラックジョークっぽくない?」
老人「あまり笑えんな」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/19(土) 10:40:35.92 ID:xJmjbfjE0
少女「さ、管理人さん、はやく掃除道具を」
老人「まさかとは思うが」
少女「もちろん手伝ってください」
老人「俺には他の仕事もあるんだがな」
少女「施設の掃除だって、仕事の一環でしょ?」
老人「そうだが」
少女「だがだが言ってないで、早く」
老人「お前な」
少女「ごめんなさい、お願いします」
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