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【ミリマス】海岸戦線異状なし
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1 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage]:2017/08/15(火) 09:08:51.96 ID:vWXpS0ty0
===1.
「おっとマズい」
その見慣れた三人組を見つけるなり、思わず悪態をついていた。
765劇場本館と、別館を繋ぐための渡り廊下。
そこに面した関係者用の駐車場で、男は夏の日差しの下、
まるで風景に焼き付いた影法師のようにぽつねんと立っていたのである。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1502755731
2 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage]:2017/08/15(火) 09:12:47.46 ID:vWXpS0ty0
劇場を待ち合わせ場所にしようと提案した、いつかの自分が恨めしい。
ここならすれ違いやらなにやらの、
トラブルにはなりにくいだろうと考えたうえでの決定だったと言うのにだ。
「あっ、プロデューサーさーんっ!」
三人の中でいち早く、男を見つけた春日未来がいの一番に走って来る。
そんな彼女の後に続くのは、最上静香に伊吹翼。
勢い余った未来の体を受け止めた彼に二人が言う。
「プロデューサー。今日はお休みのハズなのに、こんなところで一体なにを?」
「それに、いつもよりオシャレなスーツを着てますね〜。……誰かを待ってるんですかぁ?」
3 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage]:2017/08/15(火) 09:13:17.40 ID:vWXpS0ty0
向けられる眼差しに好奇心。
こういう時の翼の勘の鋭さには、毎回ヒヤリとさせられる。
男は「おはよう、未来に静香に翼。今日も三人仲良しだな」
なんて当たり障りの無い挨拶を返しつつ、動揺は笑顔でカモフラージュ。
やって来た少女たちは三人とも、お揃いの半袖半ズボン。
それは見た目涼し気な服装であったものの――正味、ただのトレーニングウェアだが――
健康的に露出された腕や脚にはじんわりと汗が浮かんでいた。
しかしまぁ、それも仕方のないことだと言える。
何せ今日は(人によれば今日も)暑い、暑いのだ。
夏真っ盛りの太陽が、照りつけられたアスファルトが、そしてぬるい空気をかき混ぜるだけの風たちが、
この劇場だけにとどまらず、全国に猛暑を運び込んでいたのだから。
4 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage]:2017/08/15(火) 09:16:45.06 ID:vWXpS0ty0
なので今、未来たち三人の娘は汗で張り付いたウェアを肌から離したり、うなじにかかる髪を
鬱陶しそうにかき上げたり、パタパタとシャツの裾を扇ぐようにして、服の中に風を送り込んだりしていたのだ。
……眼福。
だがそんな暑がっている三人の姿を見てしまうと、
なおさらこの出会いが失敗だったと思われる。
なぜならそれは、男がココにいる理由(ワケ)が――。
「ぐ、偶然だなぁ。……三人は、これからレッスンか?」
――目のやり場に困りつつ、男が話題を逸らすためにそう訊いた。
わざとらしさが隠せないのは、実のところ彼女たちの予定など最初から把握している為である。
なんたって男はプロデューサー。
少女たちの仕事も悩みもレッスンも、管理するのは最低限の務めだった。
5 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage]:2017/08/15(火) 09:19:59.06 ID:vWXpS0ty0
……すると未来が眉根を寄せ、訴えるようにこう答えた。
「そうなんです! でも劇場のレッスンルームって、エアコン壊れてるじゃないですか」
「窓全開でも涼しくないのに、ダンスレッスンとかサイアク〜」
しけた顔をして不満を述べる未来と翼を、「二人とも、だらけたことばかり言わないの」と静香が叱る。
それから彼女は男の方に向き直ると、「さっきからずっとこの調子で……」なんて困ったように腕を組んだ。
それはつまり、「プロデューサーからもビシッと一言、二人に言ってやってください」と彼女が彼に求めている
……そういうワケに、なるのだが。
「あ、ああそうだな。……未来、翼、いくらレッスンルームが暑くてもな――」
男が腰に手をやって、説教を始めようとしたその時だ。
「プロデューサー、お待たせしました!」
彼の小言を遮る形で、爽やかな挨拶が駐車場全体に響き渡る。
話の腰を折られた男が声のした方へと振り向けば、そこには二人の少女の姿があり。
「集合時間はキチンと厳守! ……美希をここまで連れて来るのに、ちょっと手間取りはしましたけど」
新たに現れた二人組の一人。菊地真がそう言って、二カッと元気に笑って見せる。
その隣には星井美希が、シラを切るようにそっぽを向いて立っていた。
二人とも上はノースリーブ、下はハーフパンツといった出で立ちで、
いかにもこれから「遊びに行きます!」といった楽し気な雰囲気に満ち溢れている。
6 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage]:2017/08/15(火) 09:24:07.19 ID:vWXpS0ty0
「あれ? 美希ちゃんに真さん……」
「二人とも今日はオフですよね?」
そんな二人の登場に、未来たちが喰いつかないハズも無く。
顔にハテナマークを浮かべる未来と翼の呟きに、男の笑顔が固まった。
訝しむ静香の視線も受けて、石化はさらに加速する。
「プロデューサー? これは一体……」
静香が口を開いたのと、駆け出した美希が男に抱き着いたのはほぼ同時。
強烈なタックルをその身に受けて、倒れそうになった体を彼がなんとかかんとか支えきる。
「美希、お前ってヤツは毎度毎度……!」
男が美希を引き剥がそうと、少女の両肩へ手を伸ばした。
が、彼女は器用に体を捻ると逆に腕へと絡みついて、
その豊満な胸を押し付けながら彼を見上げて訊いたのだ。
「ハニー、もしかしてミキたちが一番乗り?」
「いや、い、一番乗りは紗代子だな」
彼女の瞳にはハートマーク。
体感温度も五割増し、急速にのぼせそうになる頭で男が美希にそう答える。
「紗代子が? ……ドコです?」
駐車場の周りをキョロキョロ見回し、真が不思議そうに聞き返した。
すると男は近くに停めてあったバン――基本的には六人乗りの、頼れる事務所の社用車だ――を指でさすと。
「あの中。ナビの準備を万全にしたいって聞かなくてな」
「うぇっ!? こ、この暑さの中でずっとですか!?」
「窓は開けてるから平気だって……」
「熱中症になっちゃいますよ! さ、紗代子っ、大丈夫!?」
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