千歌「海の声」

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1 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:12:22.88 ID:vZV9VMeXo
(問題文)

われは海の声を愛す。
潮青かるが見ゆるもよし見えざるもまたあしからじ、
遠くちかく、断えみ断えずみ、
その無限の声の不安おほきわが胸にかよふとき、
われはげに云いがたき、悲哀と慰藉とを覚えずんばあらず。

* * *

これは沼津にゆかりのある歌人、若山牧水の処女歌集「海の声」の序文からの引用です。
古文に由来する表現に注意しながら、現代語に訳してください。

(解答欄)

海の声ってマジでエモいよね。


2年1組 出席番号○○番 高海千歌

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1502122342
2 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:13:05.15 ID:vZV9VMeXo
―――――

曜「千歌ちゃん、この前の国語の小テスト、どうだった?」

千歌「わろし」

曜「そっか……うん、それは残念だ」

千歌「点数聞きたい?」

曜「うーん、あんまり聞きたくないかな」

千歌「0点」

曜「マジか」
3 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:13:57.41 ID:vZV9VMeXo
千歌「私は一生懸命考えて、私なりに現代の若者にもビビッとくる訳にチャレンジしたんだよ」

曜「そうだね。千歌ちゃんなりに頑張ったんだよね」

千歌「しかし先生は私のチャレンジングな態度を評価してはくれないのです」

曜「それはひどい話だね。うん、千歌ちゃんの悔しい気持ちはよくわかるよ」

千歌「それもこれも日本の教育制度が悪いのだ」

曜「急に話が大きくなったね」

千歌「こんな学校……」

曜「どうする? やめる?」

千歌「やめない!」
4 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:14:38.93 ID:vZV9VMeXo
曜「そうだよね。だって……」

千歌「私、この学校のこと愛してるから。トゥルー・ラヴだから」

曜「テストの点数だけ見ると片思いだけどね」

千歌「それでもいいんだ、愛さえあれば大丈夫なのだ」

曜「エモいなあ。知らんけど」

千歌「確かに何かこう、よくわかんないからエモいとしか言いようがないなー」

曜「HAHAHAHAHA!」

千歌「HAHAHAHAHA!」
5 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:15:15.59 ID:vZV9VMeXo
曜「そうだ、千歌ちゃん、みかん食べる?」

千歌「うん食べる!」

曜「はい、あーん」

千歌「あーん!」

曜「どう、おいしい?」

千歌「おいしい!」

曜「幸せ?」

千歌「幸せ!」

曜「HAHAHAHAHA!」

千歌「HAHAHAHAHA!」
6 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:16:02.71 ID:vZV9VMeXo
私の名前は高海千歌、浦の星女学院に通う高校二年生です。
アタマはあんまりよろしくありませんが、学校のことは大好きです。
言葉でうまく表すのが難しいのですが、ここからは、海の声が聞こえる気がするのです。
もしかしたら、若山何たらという人も、どこかで同じような海の声を聴いていたのかもしれません。知らんけど。
7 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:16:44.99 ID:vZV9VMeXo
【夕方、自宅にて】

千歌「ただいまー」

美渡「おかえり、かわいいバカチカ」

千歌「バカチカってゆうな! 泣くぞ!」

私にはお姉ちゃんが二人います。
みと姉は私のことをバカだと言います。バカチカと呼ぶこともあります。
ひどい話です。この21世紀の文明の世において、かくのごとき野蛮がまかりとおってよいのでしょうか。私はよくないと思います。
8 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:18:23.73 ID:vZV9VMeXo
志満「ふふふ、美渡、千歌を泣かせたらダメよ」

千歌「そうだそうだ、ダメなものはダメなのだ!」

志満「ところで千歌、最近、学校の成績のほうはどうなの?」

千歌「うん、それはその、あの、わるくはない気がせずんばあらず」

志満「お母さんが心配してたわよ」

しま姉は優しいので、そこまでアケッピロゲなことは言いません。
しかしながら、少なくとも私がかしこいとは思っていないようです。
残念な話です。私は褒められて伸びるタイプなので、お姉ちゃんたちは私のことをもっと可愛がるべきではないでしょうか。私はそう思うのです。
9 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:19:25.66 ID:vZV9VMeXo
千歌「大丈夫、千歌は、やればできる子だから」

美渡「やれよ、じゃあ」

千歌「うるせーコノヤロー、泣かすぞ! ほんでもって私も泣くぞ!」

美渡「出た、千歌の逆ギレからのマジ泣きだ!」

志満「ふふふ、二人とも、ケンカしたらダメよ」

千歌「ふん、いいもん。私、散歩してくる」

志満「また海を見に行くの?」

千歌「そ」

美渡「毎日見に行って、飽きないの?」

千歌「飽きないよ。毎日、違う声が聞こえてくるから」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 01:19:37.11 ID:JoUOpfOSO
エモーい
11 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:20:41.79 ID:vZV9VMeXo
私は、海の声を愛しています。
どこからともなく聞こえてくる海の声に耳を澄ませていると、色んな思いが浮かんできます。

海に比べれば自分はチッポケだとも思って、そわそわすることもあります。
そんなときは、海の彼方から、悲しげな歌が聞こえてきます。

海の向こうにはどこまでも世界が広がってると思って、どきどきすることもあります。
そんなときは、海の彼方から、楽しげな歌が聞こえてきます。

そんな私の思いを、海は、ぜんぶ受け入れてくれる気がするのです。
いろんなふうに変わる海の声は、すべて、私の心の声の反響なのかもしれません。
だから海の声を歌にすれば、私の心の中にあるものが、そっくりそのまま伝えられるのかもしれません。
12 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:22:44.61 ID:vZV9VMeXo
若山何たらという人も、そういうことがしたくて、海の声についての歌を作ったのだと思います。
その人がどこの海のを見たのかは知りませんが、私にとっての海は、この内浦の海です。
私みたいな普通怪獣には、ざんねんながら、上手な歌を作ることはできません。
でも、へたな歌でよければ、歌うことはできるのですよ。
13 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:24:09.99 ID:vZV9VMeXo
―――――

まこと、われらがうら若き胸の海ほど世にも清らにまた時おかず波うてるものはあらざるべし

――若山牧水『海の声』「序」より

―――――
14 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:25:13.00 ID:vZV9VMeXo
千歌(さてそんなわけで、今日も元気に海の声を聞きに来たのだ)

千歌(あ、桟橋に先客がいる! めずらしいこともあるもんだ)

千歌(しかも見慣れない桜色のワンピースの、大人っぽいお姉さん)

千歌(目を閉じて波の音に耳を澄ませている)

千歌(絵になるなあ、私とは大違いだ)

千歌(あっ、おもむろに釣竿を取り出した。釣りをしに来たのかな?)

千歌(ん? でも釣竿の先に付けてるの……楽譜だ)

千歌(そのまま、楽譜を海の中に浸した)

千歌(え? なにあの人、危ない人なの?)

千歌(放っておくと何を始めるか分からないタイプの人だ、心配だから話しかけてみよう)
15 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:26:04.68 ID:vZV9VMeXo
千歌「ちょっとすいません」

??「えっ」

千歌「何をしてらっしゃるんですか」

??「海の声」

千歌「海の声?」

??「そうです。海の声を何とか音楽にしたいと思って」

千歌「それで楽譜を海の中に浸してるんですか?」

??「そうです。楽譜といっても、まだ何にも書いてない真っ白い五線譜ですけどね」
16 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:26:43.02 ID:vZV9VMeXo
千歌「うーん、まだよく分かりません、あなたが何をしたいのか」

??「最初は海に飛び込もうと思ったんです」

千歌「ええ!?」

??「でも四月の海はとても冷たいから、さすがにそれは危ないかなって思ったんです」

千歌「まあそうですよね」

??「だから私、思ったんです。直に海中で海の歌を聴くことが叶わないなら、五線譜を海水に浸せばいいんだと」

千歌「はあ」

??「ほら、そしたら海の声のメロディーが、五線譜に転写されるかもしれないでしょ」

千歌「ははあ」

??「ふふふ、どうしてこんな簡単なこと、今まで誰も実行に移さなかったのかな」

千歌「無理だと思ったから、やらなかっただけだと思うんだけどなあ」

??「どうしてそう言えるの? やってみなければわからないでしょ? レッツチャレンジだよ!」

千歌「……素敵! 熱いハート!」
17 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:27:20.85 ID:vZV9VMeXo
??「芸術と海を愛する心があれば、不可能なことなど何もない。私はそう思うの」

千歌「正直なところ初めは何言ってんだこいつと思ってましたけど、話を聞いてたら、チカもだんだんそう思えてきたよ!」

??「あら、あなたはチカさんっていうの?」

千歌「はいそうです! 私の名前は高海千歌といいます!」

??「よろしくね、千歌さん」
18 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:28:16.40 ID:vZV9VMeXo
千歌「お姉さんは……見たところ女子大生さんみたいに見えますが、お名前は何ておっしゃるんですか?」

??「名前は……そうね、仮に、アクア桜内とでもしておきましょう」

千歌「アクア?」

アクア桜内「水と桜内のハーフなの。ニンフみたいなものね」

千歌「わー、何言ってるのかサッパリ分からないけど、でもなんかカッコいい!」

アクア桜内「えへへ」

千歌「水と人間のハーフだから海を愛してやまないのですね!」

アクア桜内「うん、そうなの。あなた、とてもかしこいのね」

千歌「ホントですか!? 私、かしこいって言われたの12年ぶりくらいです!」

アクア桜内「大丈夫よ、あなたは聡明だし、それに、海を愛する素敵な心をもってる」

千歌「ということは、もしかして私も水と高海のハーフだったのでしょうか」

アクア桜内「そうね、きっとあなたはアクア高海なのよ」

アクア高海「カッコいい……感無量です! 私今日からそう名乗ります!」
19 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:28:55.80 ID:vZV9VMeXo
アクア桜内「それじゃあ一緒に海の声を奏でましょうか」

アクア高海「今日の海の声は、胸が高鳴るデュエットになりそうですね!」

アクア桜内「ふふふ、そうね」

アクア高海「どんなメロディーになるでしょうか?」

アクア桜内「ちょっと待っててね。そろそろ今日の海のメロディーが五線譜に転写される頃だと思うから」

アクア高海「早く、早く釣り上げてください!」

アクア桜内「ふふふ、焦らなくても大丈夫だよ。そーれ!」

アクア高海「わああ! 変な海藻ついてる!」

アクア桜内「わああ! 紙がカピカピになってる!」

アクア高海「ところで、五線譜真っ白なんですけど、アクア桜内さん」

アクア桜内「……カモメみたいなものね、海の青に染まらない」
20 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:30:21.38 ID:vZV9VMeXo
―――――

白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

海の声そらにまよへり春の日のその声のなかに白鳥の浮く

牧水

―――――
21 : ◆hxGgtPv0f. [sage]:2017/08/08(火) 01:31:27.83 ID:vZV9VMeXo
【翌日、学校にて】

曜「それで、その女子大生の……えーと、アクア内さん?」

千歌「アクア桜内さん、だよ。曜ちゃん」

曜「失敬。そのアクア桜内さんと一緒に、五線譜の塩漬けを作ったんだね」

千歌「まあそういうふうに言ってしまうとアレだけどね。でもロマンチックな体験だったんだよ」

曜「そのアクア桜内さんは、ご近所さんじゃないの?」

千歌「うん。初めて見たひとだから、きっと都会からの観光客さんだと思う。何かシックなワンピース着てたし」

曜「へー、シックってどういう感じ?」

千歌「よく知らんけど、大人っぽいっていう感じだね。最近覚えた言葉だから使ってみたくて」

曜「なるほど、よく知らんけど、大人の女性との出会いだったんだねー。いいなあ、千歌ちゃん」
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